均一な表面抵抗率を有する複合材料部材
【課題】良好で均一な電導性を有する射出成形品を容易に得る。
【解決手段】マトリックス中にフィラーとして炭素繊維が分散されている複合材料であり,該複合部材表面において該炭素繊維の数密度が深さ方向に均一で極端な流動方向への配向が起こっていない炭素繊維含有複合部材である.炭素繊維としては,カーボンナノチューブまたは気相成長炭素繊維が好適である.例えば,フィラーとマトリックスを含む成形用材料を金型に流入させる際に,流動先端部自由表面におけるファウンテンフロー現象を他の樹脂で覆いながら成形することにより樹脂中の炭素繊維の配向と密度を制御することにより得られる。
【解決手段】マトリックス中にフィラーとして炭素繊維が分散されている複合材料であり,該複合部材表面において該炭素繊維の数密度が深さ方向に均一で極端な流動方向への配向が起こっていない炭素繊維含有複合部材である.炭素繊維としては,カーボンナノチューブまたは気相成長炭素繊維が好適である.例えば,フィラーとマトリックスを含む成形用材料を金型に流入させる際に,流動先端部自由表面におけるファウンテンフロー現象を他の樹脂で覆いながら成形することにより樹脂中の炭素繊維の配向と密度を制御することにより得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ炭素繊維を含有する複合材料およびこれを用いる部材に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の複合材料は、所定の特性(例えば、導電性、熱伝導性、機械的強度、等)が必要とされる技術分野に、特に制限なく使用可能であるが、ここでは説明の便宜のため、主に半導体の分野において必要とされる「導電性」に関する背景技術について述べる。
【0003】
従来より、半導体製造業界など静電気放電等による電子機器への障害を防ぐ目的で、樹脂に導電性物質を混ぜた導電性物質−樹脂の複合材料からなる運搬容器が使用されている。現在、このような複合材料を与える目的で、導電性物質として、金属粉やカーボンブラック、炭素繊維などを混ぜた複合材料が使用されている。
【0004】
特に、導電性物質として、ナノ炭素繊維を混合した複合材料は、繊維がナノサイズであるため、少量の質量で導電性を持たせることができ、且つ、微細であるため成形品の微細な形状の細部にまで行き渡り、さらにフィラーの微細形状による成形品からの発塵性が低いため、クリーンルーム等での使用に適する複合材料を与える特徴を有するため、注目を集めている。
【0005】
しかしながら、これらのナノ炭素繊維含有複合材料を射出成形して得られた静電防止材は、成形用材料そのものの抵抗率より2〜3桁ほどおおきくなってしまい、さらに成形品内において静電防止効果に重要な影響を与える表面抵抗率が不均一になり、静電気をうまく除去できず、電子機器に影響を及ぼすという問題があった。すなわち、ナノ炭素繊維含有複合材料の射出成形によって作製された成形品は、該成形品個体内で表面抵抗率が場所によって不均一であるという欠点を有していた。
【0006】
この抵抗率の増加および不均一になる問題は射出成形時の成形条件に大きく依存し、特に成形時の材料流動速度が高くなると、表面抵抗率が高くなってしまう傾向にある。今後部材の軽量化への要求が高まるにつれ部材の厚さが薄くなり、射出速度を上げないと成形できなくなる。それに伴い、これらの問題が大きくなることが予想される。
熱可塑性樹脂と微細炭素繊維の複合材料を射出成形して高導電性成形品を作製する技術は既に報告されている(特許文献2)が、当該技術は成形時にガラス転移温度から30℃以上の温度で10秒間以上保持する必要があるため、生産性が低下することが問題である。
(特許文献1)については、成形品を2層構造にして電気抵抗を制御する技術はすでに報告されているが、当該特許はラッピング成形により成形されるため先行して射出される表層部を形成する樹脂も流動を伴うため、フィラーが不均一になっている可能性がある。
【0007】
【特許文献1】特許公開2005−81827号公報
【特許文献2】特許公開2004−35826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点を解消し、良好な導電性を有する複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意研究の結果、フィラーの無秩序な移動を抑制することにより、樹脂中のフィラー濃度を制御できることを見出した。
【0010】
本発明の複合材料は上記知見に基づくものであり、より詳しくは、マトリックスと、該中にマトリックス中に分散されたフィラー(例えば0.05〜50wt.%)とを少なくとも含む複合材料であって;該複合材料の表面から深さ5μm以下までの領域(a領域)のフィラー濃度(数密度)をFaとし、該表面から深さ20μm以上の領域(b領域)のフィラー濃度をFbとした際の、それらの比(Fa/Fb)が、0.7以上であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明において、上記のような効果が得られる理由は、本発明者によれば、以下の理由によると推定される。
【0012】
一般に、成形品の表面抵抗率は、成形条件により大きく変化する。例えば、103Ω/sqの表面抵抗率を有するナノ炭素繊維複合材料を射出成形した場合、キャビティ内の樹脂流速が変化すると成形品表面におけるフィラーの表面抵抗率は103〜107Ω/sqの範囲で変化する。キャビティ形状が複雑な形状を取る場合、樹脂が充填される際にキャビティ内において樹脂流速にばらつきが起こる。その結果、表面抵抗率にも樹脂流速に基づくバラツキが生じる等の問題がある。
【0013】
本発明では、キャビティに流入する樹脂の流動先端部で生じるファウンテン・フロー現象を抑えることにより、成形品個体内において均一な表面抵抗率を有する成形品の作製が可能となる。
【0014】
本発明においては、成形品の表面抵抗率が変化する要因として、成形品表層部近傍に存在する炭素繊維の流動方向への配向現象と表層部における数密度が低い層が存在することを成形品の観察より明らかとなった。炭素繊維が流動方向へ一様に配向すると、フィラー同士の接触点が激減し抵抗が大きくなる傾向がある。また、成形品表層部におけるフィラーの数密度が変化すると、フィラー同士の接触点が激減し、抵抗が大きくなる傾向がある。
【0015】
本発明においては、これら成形品表層部におけるフィラーの配向現象と数密度低下現象を射出成形時に抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
上述したように本発明によれば、導電性の均一性に優れ、少ない微細炭素繊維添加量で良好な導電性を有する運搬容器などの静電防止材を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
【0018】
(複合材料)
本発明の複合材料は、マトリックスと、該中にマトリックス中に分散されたフィラーとを少なくとも含む。本発明の複合材料においては、該複合材料の表面から深さ5μm以下までの領域(a領域)のフィラー濃度(数密度)をFaとし、該表面から深さ20μm以上の領域(b領域)のフィラー濃度をFbとした際の、それらの比(Fa/Fb)が特徴である。すなわち、表面抵抗率の測定点付近における、無作為に選んだ1点以上の地点から深さ方向へのフィラーの数密度が、0.7以上であることが特徴である。この(Fa/Fb)の比は、0.8以上であることが好ましく、更には0.9以上であることが好ましい。
【0019】
(通常の射出成形)
通常の射出成形により得られた同様の複合材料においては、(Fa/Fb)の比は、通常0.5以下程度(例えば、0.1〜0.5程度)である。
【0020】
(Fa/Fbの測定方法)
後述する実施例に記載の測定方法に従って、(Fa/Fb)の比を得ることができる。
【0021】
すなわち、この方法は、以下のようなステップを含む。
(1)流動方向に沿って凍結波断させる。
(2)10nmほど観察面に金コーティングを行う。
(3)得られた断面を、電子顕微鏡を用いて5000倍まで拡大する。
(4)樹脂から引き抜けているフィラーを、幅15μm×深さ方向5μmごとに本数を測定する。
【0022】
(5)得られた測定結果を、断面積(15×5μmm2)で平均化したものを、横軸に深さ方向、縦軸にフィラー濃度(数密度)としてグラフ化する。
【0023】
上記測定により、本発明の複合材料(ないし複合部材)中においては、マトリックス中にフィラーが分散されており、該複合材料表面において該フィラーの数密度が深さ方向に均一であること(更には、例えば、流動方向への配向が抑制されていること)が、確認可能である。
【0024】
(フィラー)
本発明において使用可能なフィラーは、本発明の趣旨に反しない限り、特に制限されない。機械的特性の向上および低発塵性の点からは、該フィラーは、繊維状の形状を有するものであることが好ましい。
【0025】
(炭素繊維)
機械的特性の向上・導電性の付与および向上・熱伝導性の付与および向上の点からは、上記フィラーとしては、炭素繊維が特に好適に使用可能である。中でも、少ない添加量で上述の特性を発現させる点からは、カーボンナノチューブ(CNT)または気相成長炭素繊維であることが好ましい。
【0026】
該炭素繊維としては、0.1mm以下の細い炭素繊維であるカーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維などが好適であるが、溶融紡糸もしくは遠心紡糸の後に焼成して得られるPAN系もしくはピッチ系炭素繊維も使用可能である。炭素繊維の長さは、射出成形機に負担をかけない程度の長繊維から短繊維までのいずれも、目的により使用できる。
【0027】
(マトリックス)
本発明の複合材料において、マトリックスとしては、射出成形に適する樹脂を選択することが好ましい。このような樹脂としては、熱可塑性樹脂、導電性樹脂が好適である。より具体的には、例えば、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリアセチレン、ポリプロピレンなどの汎用樹脂も挙げられる。
【0028】
<熱可塑性樹脂>
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、例えばポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ABS樹脂、AS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルスルホン、ポリスチレン、熱可塑性ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂、液晶性ポリエステル等の熱可塑性樹脂或いはこれらの混合物が挙げられ、これらは、成形品の使用目的に応じて機械的強度、成形性等の特性から適宜選択することができる。
【0029】
これらのうち、非結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、変性ポリオキシメチレン、ABS樹脂、AS樹脂、ポリスチレン、脂環式ポリオレフィンなどが挙げられる。
【0030】
また、結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、シンジオタクティック(結晶性)ポリスチレンなどが挙げられる。
【0031】
その他、液晶性ポリエステルなどの液晶性樹脂を使用することもできる。
【0032】
特に、燃料電池セパレータとして使用する場合には、耐水性、耐酸性、耐熱性が要求されるため、上記結晶性熱可塑性の中でもポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン、シンジオタクティック(結晶性)ポリスチレンなどを使用することが好ましい。また、液晶樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、又はポリエーテルスルホンなどの耐熱性、耐加水分解性に優れた非結晶性樹脂を使用することも好ましい。
【0033】
(配向角度)
本発明の複合材料は、好適には、フィラー(例えば、炭素繊維)の配向角度が流動方向を0°として上下15°以上程度であることが好ましい。この配向角度は、更には上下30°以上程度、特に上下45°以上程度であることが好ましい。このフィラー(例えば、炭素繊維)は、数密度として1.2〜1.4/μm−2程度であることが好ましい。
【0034】
(フィラーの配向)
フィラー(例えば、炭素繊維)の流動方向への配向、キャビティ内に樹脂が充填される際にフィラーが流動樹脂から受けるせん断ひずみによって起こることを、本発明者は見出している。また、フィラーの数密度低下現象は、キャビティ内に樹脂が充填時における流動先端部においてファンテン・フローによって起こることが、本発明者らの研究において明らかになった。本発明においては、本発明者らの知見によれば、充填中の樹脂の流動先端部自由表面でおこるファウンテン・フローを抑制することによって、本発明においては、フィラーの配向現象と数密度低下現象を抑制すること(更には、良電導性で均一な表面抵抗率を有する成形品を得ること)が容易となる。
【0035】
後述するように、本発明においては、複合材料としてポリカーボネートに多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を5wt.%の割合で溶融混練したものを射出成形した際に、通常の射出成形法で作製した成形品の場合には、その表面抵抗率が107〜106Ω/sqであった。他方、同じ複合材料の系で、本発明を適用した場合には、同じ射出成形条件において表面抵抗率が103〜104Ω/sq程度に改善された。後述するように、このような実験により得られた成形品内部を走査型電子顕微鏡で観察すると、成形品表層部近傍の炭素繊維の流動方向への配向は緩和され、均一な数密度を保っていることが確認された。
【0036】
(電磁シールド)
本発明は、電磁シールドにも応用することが可能である。この電磁シールドの分野に関しては、電気的特性は表面抵抗率ではなく体積抵抗率で評価されるものが多く、通常、10−1〜数Ω・cm程度の導電性が求められることが多い。
【0037】
この電磁シールドに関しては、半導体やハードディスクの急激な高性能化により、製造工程内でのデバイスのESD破壊が大きいが大きい問題となりつつある。これまでは、ESD破壊を回避するために、イオナイザーを使用し、表面抵抗率105Q/sq以下の導電性プラスチックを使用することで対応してきたが、ここ数年において、半導体やハードディスク業界において、デバイスと接する材料に、表面抵抗率が106〜1010Ω/sqの範囲で厳密に制御され、かつ、クリーン度が高い材料の要求が高まっている。106〜1010Ω/sqの表面抵抗率が求められるのは、主に、以下の理由による。
【0038】
すなわち2つの帯電レベルの異なる導電物質が接触した場合、瞬時に電荷の移動が起こり、帯電レベルが等しくなるとともに、電流が流れる。デバイスのESD破壊は、この電荷の移動に伴い発生する電流が原因で起こると考えられる。従って、デバイスをESD破壊から守るためには、この電荷の移動速度を制御し、発生する電流レベルを抑えることが必要である。言い換えれば、デバイスを接する材料に電荷移動速度が比較的遅く、且つ帯電しない材料を使用することで、ESD破壊を回避できる。電荷移動速度は材料の表面抵抗に依存し、一般的にESD対応材料に求められる表面抵抗率は106〜1010Ω/sqとされる。材料の表面抵抗率が1011Ω/sqより高い場合、摩擦による帯電ばかりでなく、帯電することによるゴミ、塵等の吸着により、他の問題も引き起こす傾向が強まる。
【0039】
(他の配合剤)
本発明において使用可能な他の配合剤は、以下の通りである。
(1)難燃配合剤
火災に対する安全性を確保するために使用される。
例えば、水酸化アルミニウムの場合、その原理は、水酸化アルミニウムが300℃〜350℃脱水して、酸化アルミニウムになる際の吸熱作用を利用して、樹脂の温度上昇や着火を抑制し、燃焼を遅延、阻止するというものである。
【0040】
無機系配合剤として、例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムが挙げられる。ハロゲン系配合剤として、例えば臭素系化合物、塩素系化合物が挙げられる。りん系配合剤として、例えばりん酸化合物が挙げられる。
【0041】
抗菌性配合剤としては、種々の有機化合物、食品添加物、無機化合物が挙げられる。これは、主に、銀、銅、亜鉛等の抗菌機能を持つ金属イオンを各種化合物に結合させたものである(参考:http://www.aichi-inst.jp/htmJ/news/news98/news98084.html)。
【0042】
高比重材料向け配合剤としては、タングステン系等の高比重配合剤が挙げられる。
【0043】
高比重のため、振動吸収性が良く、遮音性に優れる。更に、金属なので、導電性もある。
【0044】
(流動先端部表層部のフィラー低下現象)
本発明者の知見によれば、流動樹脂内部のせん断速度に起因するものではなく、流動先端部におけるファウンテンフローを伴う樹脂流動が、フィラーであるナノ炭素繊維の濃度低下を促す主な因子として挙げられる。また、数値解析によると流動先端部において、樹脂流動速度購買の小さい領域が存在し、溶融樹脂が滞留するような現象が起こっていることが予測される。ここで、流動先端自由表面部において起きている現象について考察したところ、流動先端頭頂部から金型壁面にかけての樹脂流動とは関係のない引張応力がかかっていることが予想される。この引張応力により自由表面が極度に緊張することによって、フィラーがより緊張力の低い内側に移動することによって、フィラー濃度定価減少が引き起こされるのではないかという仮説を立てた。
【0045】
(ラッピング成形)
射出成形を行う場合には、成形材料はファウンテンフローを伴いながら金型内を進んでゆくため、流動先端部に自由表面が出現する現象は必ず生じることになる。
ファウンテンフローを伴わない流れとしては、プラグフローと呼ばれる現象があるが、これは金型壁面と溶融樹脂との界面ですべりが生じることにより発現するため、成形品表面に傷がついたりすることがあり、通常プラグフローによる成形は避ける傾向にある。
【0046】
そこで、流動先端部にファウンテンフローを伴う樹脂の自由表面の生成を防ぐために、流動先端部を同種または異種の材料で覆うことで自由表面の露出を抑制することを考えた。この方法をラッピング成形と呼ぶことにする。具体的には、通常の射出成形機のノズルと金型の樹脂注入口の間に溶融した材料樹脂を溜める装置を挟むことにより簡単に実行できる。
この方法によれば、表層部を形成する材料はファウンテンフローを伴わず、内部を形成する材料に伸ばされながら成形品表層部を形成するので、成形品表層部のフィラー濃度低下現象が生じない。
【0047】
本発明におけるラッピング成形法を行うにあたり、表層部と内部で同種の材料を用いる場合には、表層部材料溜まりには同種の材料が自動的に補充されるため生産性の面でも連続的に生産が可能となる。
【0048】
表層部を形成する材料の成形後の厚みはa領域で示される5μm以上あることが望ましい。
【0049】
本発明においては表層部材料にナノ繊維含有複合材料を内部材料に同種材料もしくは透明なポリカーボネート(PC)を用いて、ラッピング成形を行い、ファウンテンフローの影響を受けない複合材料部材内のフィラー濃度の変化を観察する。射出条件としては、特に表面抵抗率に大きな変化を与えた射出速度を変化させ、キャビティ内流速を変化させた。
【0050】
この成形法をもちいれば、ペレットとほぼ同等の表面抵抗率の成形品が得られるため、必要に応じた表面抵抗率を有するペレットを表面層材料に使用すればよい。
【0051】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0052】
実施例A−1
気相成長させた多層カーボンナノチューブ(Multi Walled Carbon Nanotube:MWCNT)(径 80 nm、長さ15〜20μm)を充填材としてポリカーボネート樹脂に5wt.%の割合で含有させたものをペレット(市販)とし、射出成形することにより板厚1 mmの成形品を得た。
【0053】
射出成形によって成形した試験片内の充填材が配向しているのかどうかを確認するため走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)によって観察を行った。射出圧力 45 MPa、板厚1.0 mm、樹脂温度300℃、金型温度100℃、キャビティ内速度325 mm/s で作製された試験片の板厚方向表層部のSEM写真を図1に示す。このSEMでの樹脂内部の観察によって射出成形法によって成形した試験片内部の充填材は成形時の樹脂流動方向に配向していることが確認できた。
【0054】
図2(a)に示すように試験片表層部近傍の深さ0〜15μmの領域で充填材の数密度が極端に70%程低下していることが確認できた。
【0055】
射出成形によって成形した試験片表層部近傍で充填材の数密度が低下する現象は、樹脂がキャビティ内への充填過程中の流動先端部において起こるかどうか確認するために走査型電子顕微鏡によって観察を行った。流動途中の流動先端部を観察するために金型を、液体窒素などを用いて極低温に保持して射出成形を行い、ショート・ショット成形不良品を作成した。射出圧力〜数MPa、金型温度−150℃、樹脂温度300℃で作製された試験片の流動先端部自由表面上を拡大したSEM写真を図3に示す。これから、流動先端部自由表面から深さ方向0〜15μmにおいて充填材の数密度が極度に低い領域が存在していることが確認された。
【0056】
以上から、炭素繊維含有複合材料を射出成形した場合、流動先端部自由表面において充填材である炭素繊維の数密度が低下し、また樹脂の流速差分に起因するせん断ひずみにより流動方向への配向が発生する。これらの現象を抑制するためには、流動先端部における樹脂流動の影響を成形品表層部に到達させないようにする必要がある。その方法として、流動先端部自由表面部を選択的に固化することにより成形品表層部への樹脂流動による影響を制御することが考えられる。
【0057】
実施例A−2
本実験では、選択的に流動先端部自由表面を固化するために、キャビティ内に流れる樹脂をコア層とスキン層に分離させる方法をとり、縦型射出成形機とキャビティの中間に図4に示すAのような樹脂を加熱して溶融できる機能を有する器(スキン層用溶融器)を設計し、製作を行った。
【0058】
スキン層用溶融器(図4中の符号A)は、ヒーターにより370℃まで加熱することができる。この器で、スキン材となる炭素繊維含有複合材料を入れて射出条件まで加熱・溶融する。そして、上部から射出成形機のシリンダーによってコア材を射出することにより、炭素繊維含有複合材料はキャビティ内にはスキン層とコア層を形成しながら充填されていく。この時、充填材に配向や数密度へ影響を及ぼす樹脂流動はコア材に限定される。
【0059】
以下に、スキン/コア成形を行った際の成形条件を記す。
【0060】
【表1】
(表1)
【0061】
成形後の試験片中を走査型電子顕微鏡で観察し、充填材の成形品表面から深さ方向への数密度の測定と配向角度について測定を行った。試験片表層部内における深さ方向0〜15μmの領域においても充填材の数密度は低下していないことが確認された(図2(a))。また、流動方向への配向については、通常の射出成形よりも緩和されていることが確認された(図5)。
【0062】
この試験片の表面抵抗率は103〜104 Ω/sqであり、通常の射出成形法によって同じ成形条件により作製される試験片の100分の1程の値を確認した(図6)。
【0063】
実施例B−1
(ラッピング成形)
図1の装置を用いて、ラッピング成形を行った。
(1)供試材料ポリカーボネート(PC)
本実験ではラッピング成形におけるコア材として、ポリカーボネートを用いた。帝人化成株式会社製のパンライトL−1225Y用いた。スキン材の複合材料のマトリクス樹脂と同じものを使用しているので、サンドイッチ構造に成りやすいという利点がある。
【0064】
(2)樹脂基CNT複合材料(PCcArr)
実施例では、ポリカーボネートをマトリクス樹脂として、MWCNTをフィラーとして5wt.%添加したMWCNT/PCコンポジットのペレットを使用した。
【0065】
(3)実験装置
本来ラッピング成形法はスキン材とコア材それぞれを溶融・射出を行うシリンダーを2本備えた装置を用意する必要がある。しかし、本実験では前述した通常の縦型射出成形機に新たな装置を追加設計・作製の改造を施しラッピング成形を可能とした。
【0066】
本実験装置のスキン材溶融部からキャビティまでの概要を図7に示す。本実験装置は縦型射出成形機・加熱皿・キャビティの3つのユニットから構成される。
【0067】
まず通常の縦型射出成形機のスプルーブッシュとシリンダーの間に、少量の樹脂を溶融温度まで加熱することができる皿状の装置を設置する(図7中のA)。これを加熱皿と呼称する。次に、スプルーの下部には、圧力センサを二つ内蔵した試験片成形用キャビティを持つ金型を設置する(図7中のB)。
【0068】
(4)加熱皿
加熱皿はカートリッジヒーターにより360℃まで加熱することが可能であり、この加熱皿のポケット部(図7のpocket of composite matrixの領域)にスキン材となる樹脂を少量だけ投入後、射出温度まで加熱させ溶融させる。その上から、シリンダーで溶融された、コア材となる樹脂を射出することにより、ラッピング成形機と同様の機能を発現することができる。
【0069】
(5)圧力センサ
本実験では、新しく金型を作製する際に、圧力センサを間接式金型内圧力センサーISA446−2.25C(Dynisco製)へ変更した。従来の試験片作成用の金型装置では溶融樹脂がキャビティ内を流れる際に、圧力測定素子(直径6mm)の形状が成形品に転写され、またキャビティ内の流動状態に影響を及ぼす等の問題があった。そこで、圧力素子痕を極力小さくするべく、直径1.5mmのイジェクターピンを介して圧力を測定する手法を採用した。キャビティ内を流れる溶融樹脂がピンの上を溶融樹脂が通過し圧力が発生すると、荷重がインジェクターピンを介してロードセルにかかり、電圧がロガー(PCD−300:株式会社共和電業製)へ出力される。これにより金型内圧力を間接的に測定する。
【0070】
(6)金型
本実験では、流動樹脂の不必要な外乱を避けるため、キャビティ形状をシリンダー・スプルー・キャビティが一直線になるように設計した。キャビティ内には、25mmの間隔をあけて、¢1.5mmのピンが内蔵されており、それぞれS3、S4とする。これは前述した圧力測定用のインターフェイスであり、キャビティ内の圧力を測定すると共に、この2点間における圧力の立ち上がりの時間差からキャビティ内の樹脂流速を算出する。
【0071】
上記第1の金型に、もう一つの試験片作製用キャビティを持つ金型を合わせて図11の様に設置する。キャビティの形状は、サンドイッチ形状が成立しやすい様に、¢5×60mmの円筒形状とした。成形品形状が円筒形状であるため、キャビティブロックを設けて、射出後の成形品を取り出しやすくするために分解式とした。金型Aにキャビティブロックを合わせてMoldAにはめ込み、前述の圧力センサ内臓金型と合わせることで、キャビティとして実験装置に組み込む。
【0072】
これに、図中のようにカートリッジ型ヒーターとプレート型ヒーターを用いて射出温度条件まで加熱する。
【0073】
(7)射出条件
今回使用する樹脂は、マトリクスは同じポリカーボネートであるが、CNTをフィラーとして用いることにより熱伝導率が向上している。そのためスキン材とコア材の熱物性と粘度が異なる。スキン材は熱伝導率が高いために、金型に熱を奪われやすいことから粘度が上昇しやすく、ショート・ショットが起こりやすい。そこで、本実験ではスキン材の温度をコア材の射出温度よりも50℃程高く設定しスキン材の粘度を低くすることで、ショート・ショットを防止した。
【0074】
また図金型温度に関しても同様に、通常の成形条件と比べ高めの設定とした。成形条件を表2に示す。
【0075】
【表2】
(表2)
【0076】
(断面観察)
(射出成形)
図9にキャビティ内流速とS3とS4で測定された圧力波形の関係を示す。キャビティ内流速とともに測定される圧力の最大値は増加した。これは、キャビティ内樹脂流速が大きくなるにつれて流動樹脂の持つエネルギーが大きくなるためと考えれられる。また、前述の実験で用いたキャビティ内Sl、S2で測定された2点間の圧力低下よりも若干小さいことがわかる。キャビティ形状が、T型形状から、直線形状に設計変更されたために、流動樹脂が受ける圧力損失が小さくなったためだと考えられる。
【0077】
(光学顕微鏡観察)
それぞれ試験片をゲート付近から10mmごとに軸方向に垂直に切断し、断面を光学顕微鏡で観察した。図9、図10に、ゲート付近から20mm付近と50mm付近の光学顕微鏡写真を示す。これらより、複合材料(写真中:黒い層)とPC(写真中:白い層)が層状構造を形成していることから、ラッピング成形が成立していることが分かる。また図9の中心部の影は、射出過程において気泡が混ざったものである。
【0078】
またゲート付近では最外層に複合材料、内側層にPCが観察されラッピング成形が成立していることが伺えるが、ゲートから50mm離れた地点では複合材料のさらに外側にPCの層が形成されていることがわかる。これはキャビティ内に充填される際に、スキン層となる複合材料の量が少なく、または、一部コア層流動先端付近において局所的にスキン層が薄くなった箇所から、コア材となるPCが最外層に流れ出し、複合材料のさらに先端部にPCのスキン層を形成したものと考えられる。これを一般的にブレイク・スルーと呼ぶ。
【0079】
これらの観察結果よりキャビティ内流速が速い成形条件の場合、よりゲートから遠い地点でブレイク・スルーが起こることがわかる。またどちらの結果もスキン層の厚さに変化が無いことから、キャビティ内流速が違うことによる影響は、スキン層の厚さへ寄与しないことが伺える。以上のことから、射出流速の違いは流動先端部における自由表面層の厚さには影響しないと考えられる。
【0080】
実施例B−2
(フィラー濃度低下現象モデルの提案)
以上の実験からは、流動先端部で起こると考えられる。そこで、最後に圧力について考察する。
【0081】
YK.Shenらは、流動先端部のフアウンテン・フロー現象の数値解析を行い、圧力分布を求めている。彼らは、流動先端部内側の圧力は、周囲に比べて低い値をとると述べている。
【0082】
圧力低下によるフィラーの移動モデルにおいてキャビティ内中央部から流動先端部に移動してきた溶融樹脂は自由表面へ向かって膨張するような状態になる。そしてその後金型壁面方向へ移動する際に、溶融された樹脂の流路が狭くなり樹脂流速が相対的に速くなる。その結果ベルヌーイの定理に従って溶融樹脂の流線に沿って圧力が若干下がり、樹脂内部のフィラーが内部圧力の低い方向へ引っ張られることによって、流動先端部自由表面のフィラー濃度が極端に下がる。また、高温状態の溶融樹脂が長い時間その低い圧力にさらされることでフィラーが自由表面部から内側への移動を促進していることが考えられる。
【0083】
実施例C−3
(アニーリングによる配向緩和法)
通常の射出成形された成形品内部のフィラーは、溶融した樹脂が金型壁面に冷却されながら流動していく際に、大きなせん断ひずみを受けることにより、強制的に流動方向へ配向されていると考えられる。
【0084】
そこで、射出成形により得られた試験片をガラス転位点以上の温度まで加熱し、樹脂がフィラーを拘束する影響を弱める処理を行い、成形品内のフィラーが成形時に流動方向へ配向された状態を解除させることにより、表面抵抗率を低下させることを目的とする。
【0085】
(1)供試材料
本実施例では、これまでの成形実験と同様にポリカーボネートをマトリクス樹脂として、MWCNTをフィラーとして5wt.%添加したMWCNT/PCの複合材料ペレット(PCcNT)を使用した。
【0086】
(2)アニーリング処理
表面抵抗率が既知の成形品を、各条件の高温炉に入れてアニーリングを行った。成形品の成形条件とアニーリングする各条件を表4に示す。ポリカーボネートのガラス転移点以上の温度を目安に設定した。
【0087】
【表3】
(表3)
【0088】
(電気的特性の評価)
260℃の炉で60分間アニーリングした試験片(サンプルNo.8)の、アニーリング前後の表面抵抗率の変化を図11に示す。第二章と同様に、測定点をゲートから10mm、25mm、40mmの点としてそれぞれA、B、C点とした。その結果アニーリングをすることにより試験片の表面抵抗率を100分の1〜1000分の1程度低下させることができた。これは、このPCcArrが持つ物性値に近い値である。これは以下のような現象が起こったと考えられる。
【0089】
マトリクス樹脂のガラス転移点以上の温度まで加熱されたことにより、マトリクス樹脂内の粘度低下に伴いフィラーへの拘束力が緩和する。そして成形品内での配向が解除されフィラーがランダムな方向へ向きを変えたため、フィラー同士の接触点が増えた。その結果成形品内におけるフィラーを介した導電パスが形成され、表面抵抗率が低下したと考えられるこれをNegativeTemperatureCoefhcient(NTC)効果という。
【0090】
図23に、各条件それぞれアニーリングを行った前後の表面抵抗率の変化を、縦軸に表面抵抗率を、横軸にアニーリング時間として示す。
【0091】
これによるとアニーリング温度が280℃且つアニーリング時間が15分のサンプルNo.10とNo.11の試験片は、表面抵抗率が103Ω/sq程度まで低下した。しかしその他のアニーリング条件のサンプルの表面抵抗率は低下せずに増加するものも見られた。特に射出速度が遅い条件で作製されたサンプルの表面抵抗率は104Ω/sqと低い値だったが、サンプルN0.2とN0.9は107Ω/sqまで増加する結果となった。
【0092】
これは温度上昇によりマトリクスが膨張し、フィラーを介した導電パスが切れることによって抵抗率が上昇するPositiveTemperatureCoefhcient(PTC)現象が起きたためと考えられる。
【0093】
これはマトリクス樹脂のガラス転移点よりも高い温度でアニーリングを行っても成形品内のフィラーの拘束が緩和されなかったことを示している。先ほどの実験の様に、表面抵抗率の改善が見られるのは、280℃の高温で15分間アニーリングを行った場合のみとなった。またこれら全てのアニーリング条件において試験後のサンプルは、熱により大きく変形してしまい、成形品としての形状をとどめているものはなかった。このことから、アニーリング手法を工業的応用を視野に入れた場合、射出成形された成形品をアニーリングする工程は成形品に対して甚大なダメージを与えることになる。
【0094】
(成形品の断面観察試験片の作製)
次に、アニーリング前後の成形品を断面観察することにより成形品表層部近傍におけるフィラーの配向性と濃度について比較を行う。表面抵抗率が低下する要因を検討することが目的である。
【0095】
通常の射出成形によって得られた、10×50×1mmの成形品を用意した。この成形品の成形条件は射出速度が90%であり、その他の成形条件は表3に示したものと同じものとした。表面抵抗率は〜107Ω/sq程度である。
【0096】
この成形品から切り出した二つの試験片のうち、一方を260度の炉で20分間アニーリングを行った。アニーリングを行うことにより、若干試験片の表面が光沢を持ち、微小な変形をしていることが伺える。
【0097】
その後、それぞれの試験片を流動方向に凍結破断してその断面を観察した。図13、図14にアニーリング前後の試験片断面のSEM画像を示す。アニーリングを行う前は、フィラーは直線性が強く、流動方向へ配向している。しかし、アニーリングを行った後の成形品内部のフィラーは、直線性は弱く、マトリクス樹脂から解放されることで、本来CNTが持っていたと思われる曲線性によりそれぞれがランダムな方向へ向いたと考えられる。
【0098】
また、それぞれの試験片の断面から成形品表層部からのフィラー濃度分布を図15に示す。この結果から、流動方向(0°付近)へ強く配向していたフィラーがアニーリング処理を施されることでバラバラの方向へ向くことが示された。これにより成形品内のフィラー同士の接点が増えることで導電パスが形成されたと考えられる。
【0099】
また成形品表層部近傍のフィラー濃度についてアニーリングを行うと、成形品表層部のフィラー濃度が若干上昇している。これは、樹脂が加熱されて樹脂の粘度が低下することによりフィラーであるCNTがフィラー密度の低い、成形品表層部へ向かって移動したものと考えられる。
【0100】
ここで加熱・粘度低下によりマトリクス樹脂の拘束から解放されたCNTが配向性を失い、また表層部へ移動するという現象が起こることから、射出成形品内のフィラーには成形時に蓄積されたせん断ひずみからくる残留応力がかかっていたものと推測される。
【0101】
前述してきたように、射出成形された樹脂基CNT複合材料は、成形品個体内において、フィラーの配向・濃度低下などの存在状態により不均一な表面抵抗率を持つという問題があった。しかしこれらの結果からアニーリングというごく簡単な手法を用いることにより、成形品表面全体のフィラーの配向・濃度低下を緩和させ、表面抵抗率を均一にすることができることが示された。
【0102】
(ラッピング成形法による表面抵抗率低減処理)
ここ数年、ラッピング成形法(Co-idection molding:コ・インジェクション法)に対する関心が高まっており、この手法を応用する研究が多くなされ、プラスチック産業からの期待が高まっている。
【0103】
この技術に対する主な関心として、スキン層とコア層の異なった物性や化学的特性を併せ持った製品を作り出すことができる点である。例えば、コア材に繊維強化樹脂を、スキン材に通常の樹脂をある程度のアスペクト比をもって使用することにより、機械的特性を持ちつつ、装飾性の高い特性を維持することができる。
【0104】
また、ラッピング成形法は、安価なリサイクル樹脂をコア材を、スキン材に適切な未使用の樹脂を使用することにより、良好な機械的強度を保ちつつコストダウンを図れることから、通常の単発射出成形法にとって替わる重要な手段になるとされている。
【0105】
上述した実施例において、成形品の表面抵抗率は成形品表層部近傍に存在するフィラーの配向度と濃度によって決定されることを明らかにした。またその配向度は射出過程におけるキャビティ内の金型近傍において樹脂が受ける総せん断ひずみ量により説明することが可能であり、また成形品表層部近傍でフィラーの濃度低下が局所的に起こることにより成形品の表面抵抗率が個体内で不均一になることを明らかにした。R.S.Bay[79、80]らは、それらは金型に充填される過程の樹脂のフアウンテン・フロー現象により引き起こされると述べている。彼らによれば流動先端部の条件においてフアウンテン・フロー現象の有無と、自由表面から離れたところにフアウンテン・フロー現象が起きた場合の、成形品内のフィラーの配向について数値解析を行っている。縦軸は流動方向への配向度を、横軸は成形品中央部から表層部への無次元数を表している。これによると、フアウンテン・フロー現象が自由表面よりもある程度後方で起こる状態で金型に充填されると、表層部近傍においてフィラーの配向度の低いスキン層が形成されると述べている。
【0106】
この知見と先に述べたフィラー濃度低下現象とフアウンテン・フローの関係を踏まえると、これまでのフィラー濃度低下現象による表面抵抗率不均一問題・フィラーの配向による表面抵抗率の増加等の問題を解決する手段として流動先端部において、フアウンテン・フローと自由表面を分離させることができるラッピング成形法を応用できる。これにより樹脂基CNT複合材料を用いて高品質の静電防止材(この場合、表面抵抗率が成形品内で均一、且つ高い導電性を持つ)を作製することが可能であると考えられる。
【0107】
(1)供試材料VGCF150
気相成長炭素繊維(Vapor Grown CarbonFiber:VG150)を用いた。VG150は気相成長法により合成された高結晶性のカーボンナノファイバーである。VGCFは1100℃に加熱した還元性雰囲気の反応器中で、金属の超微粒子を触媒として炭化水素を気相分解させ、金属粒子を核として長さ数百μmまで成長させた繊維状炭素である。核となる金属粒子の大きさにより、50mm〜1μmの直径を有する。このうち、直径50nm〜200nmのものを特に気相成長炭素ナノ繊維(VGCNF)と呼ぶ。これらの観察より、直径80〜200mm(平均直径150μm)であることがわかる。
【0108】
(成形品の表面抵抗率改善に関する検討)
(ポリカーボネート)
上記したもの
(PC/MWCNT複合材料)
これまでの研究で用いてきたPCcArrを用いる。
(PC/VG150複合材料(PCvg150)
本実験では、コア材の流動状態を把握することを目的にPCcNTと区別するためにMWCNTとは異なる短炭素繊維をPCに混ぜ、新たに複合材料を作製した。マトリクス樹脂にPC、フィラーにVG150を用いた。これらを混練機により溶融混練を行って作製した。これをPCvg150とする。
【0109】
(混練)
本実験では共試材料のPCvg150は新たに混練することにより用意した。
通常射出成形する際、射出成形機のスクリューによりフィラーとマトリクス樹脂が混ざり合う効果が発現するが、短繊維含有樹脂を射出成形する場合、この効果のみでフィラーをマトリクス樹脂中へ一様に分散させることは困難である。そのため、ラボブラストミルによってフィラーとマトリクス樹脂を溶融混練してペレット化した後に射出成形を行った。
【0110】
本実施例では、マトリクス樹脂中にフィラーを一様に分散させるために株式会社東洋精機製作所のラボブラストミル(50C150)を使用した。この装置は加熱されたミキサー部に投入されたフィラーとマトリクス樹脂を定速回転する二本のスクリュー間及びスクリューとミキサー内壁の間で溶融混練するものである。
【0111】
(混練条件)
混練条件はこれまでの本研究室で行ってきた混練条件を参考に定めた。
【0112】
(射出成形)
本実験では、上述したラッピング成形装置を用いて実験を行った。
【0113】
(1)金型
これまでの試験片では、キャビティ内中央部付近でコア材がスキン材よりも前に先行してしまうブレイク・スルー現象が起こるために、完全なサンドイッチ構造を作製することはできなかった。表面抵抗率測定用試験片の作製の際にはこのような現象を抑制し、サンドイッチ構造を得やすくするため、新たに試験片用金型を設計・製作を行った。
【0114】
試験片の全長を16×20×1と従来の試験片に比べてアスペクト比を低くすることにより、ブレイク・スルーが起こる可能性を少なくした。また、スプルーからキャビティ内へのゲート部の絞りを排除し、サンドイッチ構造成立への障害となりうる要素を除外した。
【0115】
図16に試験片の概要を示す。またこの金型で得られたラッピング成形表面抵抗率測定用試験片の成形品の例(PC/PCcNT)を図17に示す。この場合、ゲート付近から10mmほどはスキン層に透明なPC層・コア層に黒い複合材料が形成されラッピング成形が成立しているが、成形品の端の方はブレイク・スルーが起こりスキン層よりも外側に複合材料が表層部を形成している。
【0116】
(ラッピング成形法による表面抵抗率低減処理)
本実験ではPC・PCCNT・PCvg150の3種類の材料について、複数のスキン層/コア層を組み合わせて行った。
【0117】
表4に、試験片番号と、スキン層・コア層の組合せをまとめたものを示す。
【0118】
【表4】
(表4)
【0119】
まずコア層とスキン層にPC/PCNTを用いてラッピング成形を行い、表面抵抗率を評価する(PC/PCNT及び、PCNT/PC)。またスキン層とコア層の両方にPCNTを充填する組合せを試みた(PCNT/PCNT)。そしてPCNTを同じ金型に通常射出したもの(PCNT)を圧力を20kg/cm2と90kg/cm2の二通りの条件を設定し、PCNT/PCNTと表面抵抗率の比較を行った。
【0120】
表5に成形条件を示す。
【0121】
【表5】
(表5)
【0122】
コア層にPCを充填する際には、PCの粘度はPCNTに比べて低いのでスキン層とコア層の粘度を揃える目的として、PCの樹脂温度を成形温度限界の270℃とした。また条件・PCCNT及びPCの場合、金型温度を通常の射出条件に合わせる目的で100℃としている。
【0123】
(電気的特性の評価)
図18に、各条件により成形された試験片の表面抵抗率を示す。このときPC/PCCNT及びPCCNT/PCとPCの3種類の試験片に関しては、表面抵抗率が測定器の測定範囲(〜107Ω/sq)を超える値を示したため、PC/PCNT及びPCNTPCは測定不能と記し、PCに関してはスペックからの参考値を掲載する。PC/PCNT及びPCNTPCが測定値を超えてしまった理由としてPCの表面抵抗率が〜1016Ω/sqと非常に高いために、成形品表層部で形成された極薄い膜によって絶縁されていると考えられる。
【0124】
PCCNT単独の射出成形品の表面抵抗率の値は、前述で計測した値と同様の傾向を示している。射出圧力が高ければ、フィラー密度が高くなり、結果として表面抵抗率が下がったとみられる。
【0125】
また、同じPCCNT同士をラッピング成形したものの試験片の表面抵抗率は、同じ成形条件で行ったPCCNT単独の射出成形品に比べて、100分の1ほどの値を示している(図18)。これは、PCCNTが本来持つ抵抗率とほぼ同等の値である。これは、ラッピング成形法を利用してキャビティ内流れの流動先端部においてフアウンテン・フロー現象と、スキン層形成過程を分離したことにより、成形品表層部近傍におけるフィラーの配向と濃度低下現象が起こらなかったためだと考えられる。
【0126】
(成形品の断面観察)
次にPCNT/PCNT、PCNT及びPC/PCNTの断面観察を行った。それぞれの試験片を流動方向へ凍結破断法により破断させたものを電子顕微鏡で観察し、成形品表層部近傍から深さ方向へのフィラーの配向角の分布とフィラー濃度について測定を行った。
【0127】
また図19に成形品表面から深さ方向へ向かってフィラー濃度を測定したものを示す。表面抵抗率を測定した近傍を3点ほど抽出して測定を行い、その平均値を検討する。
【0128】
PCCNTを単独で射出成形を行った成形品内では、これまでの断面観察と同じように深さ0〜10μmの領域において、フィラー濃度が著しく低下している様子が観察できた。
【0129】
一方、PCCNT/PCCNTの成形品内では、深さ0〜10μmの領域においてフィラー濃度の低下現象はほとんど観察されなかった。この結果から、前述したようにラッピング成形では成形品表層部近傍におけるフィラー濃度低下現象を抑制できることが示された。
【0130】
また、図20および図21に、それぞれの成形品において表面から深さごとに存在するフィラーの配向角を示す。これからラッピング成形を行った成形品は、単独射出成形で成形したものと比べて0°付近への配向が弱い。特に、表面抵抗率に大きな影響を及ぼすと考えられる深さ0〜15μmの領域において、通常の射出成形によって成形されたものが−5〜5°の間にフィラー角度が集中し、流動方向に強い配向を示しているが、一方のラッピング成形により成形されたもののフィラー角度は、−45〜45°辺りに分散している。これらの違いにより、フィラー同士の接触点が増加したと考えられ、結果的に導電パスが形成されたことにより表面抵抗率が低下した。
【0131】
図22、図23に、それぞれの断面SEM写真を示す。
通常射出成形を行った成形品内のフィラー存在角度は低い分散値をとっている。これは、フィラーが0°付近に集中していることに起因している。それに対してPCNT/PCNTやPCNTPCなどのラッピング成形された成形品は高い分散を示している。これは、フィラーが流動方向(0°付近)に配向せずに配向がランダムになっているためだと考えられ、ラッピング成形法がフィラーの配向抑制に有効であることが示された。
【0132】
(ラッピング成形品でのコア層内のフィラー状態)
またコア層にPCvg150を用いた場合成形品の表面抵抗率は測定範囲(〜107Ω/sq)を超えてしまったため測定できなかった。これは5wt.%でVG150を混ぜたPCvg150ではスキン材であるPCCNTに比べて粘度が低く、早い段階でコア層がスキン層を突き破って成形が進むブレイク・スルーが起こったことが考えらる。それに加えてフィラーのかさ密度が小さいために成形品内でのフィラー同士が十分に接触点を持てず導電パスを形成されないためにパーコレーションが起こらない状態にある。そのため、抵抗率が高くなったと推測される。
【0133】
ここで、コア材内のフィラーの存在状態を調べることよってラッピング成形内での樹脂の挙動を推測する。PCCNT/PCvg150の成形品についてコア層内のフィラーの状態を調べるために断面観察を行った。
【0134】
スキン層に存在するフィラーはMWCNT、コア層に存在するフィラーはVG150である。両フィラーは太さが違うので一目瞭然であるが、かさ密度の小さいVG150はマトリクス内での数密度はMWCNTのそれと比べて極めて低い。またフィラー自身の長さがVG150は数卜皿とMWCNTに比べて短いのでフィラー同士の接触が少なく、導電パスを形成できていないことが伺える。
【0135】
無作為に3点を選んで測定したものに加えて3点の平均値の結果からコア材側のスキン層とコア層の境界でコア層側のフィラー濃度が低下していることがわかる。通常、ラッピング成形においてコア材はスキン層の中をフアウンテン・フロー現象を伴って進むと考えられている。フアウンテン・フロー現象が起こることによりスキン層とコア層の境界でフィラー濃度低下現象が起きていると考えられる。よってフアウンテン・フロー現象が成形品表層部近傍でのフィラー濃度低下現象に深い影響を及ぼしていることをさらに裏付ける結果となった。
【0136】
(ラッピング成形によるフィラーの配向・濃度低下抑制モデル)
以上の研究から、ラッピング成形法によりフィラーの配向及び、成形品表面近傍における濃度低下現象を抑制することができることがわかった。
【0137】
これまでの知見を総合して、ラッピング成形によるフィラーの配向・濃度低下抑制モデルを以下に示す。
【0138】
まず、キャビティ内に先行して射出されたスキン材は、金型によって冷却され粘度が上昇する。そして、後方から射出されるコア材はスキン材の中をフアウンテン・フローを伴って進行する。この間、スキン材とコア材の境界は混ざり合うことなくスキン層とコア層が形成されていく。
【0139】
スキン材は流動先端部において内側からコア材に押されるように膨張していく。スキン材内部では、フアウンテン・フロー現象は起こらず、金型壁面近傍ではキャビティ内流速と金型壁面との相対的な速度から引張応力がかかることによりスキン層は単純に引き伸ばされていく。
【0140】
この時キャビティ内流速の際が引張応力の大小に影響し、スキン層のフィラー密度が変化する)。例えば、キャビティ内流速が速ければ引張応力が大きくなり、スキン層が強く引き伸ばされる。その結果マトリクスが膨張し単位体積辺りに含まれるフィラーが減少し、フィラー密度が低下する。しかし、前述のキャビティ内流速と表面抵抗率の関係を見ると、この現象による密度低下は表面抵抗率には影響しないと思われる。
【0141】
また、引き伸ばされる際に内部には流速差分によるせん断速度は生じないため、フィラーの配向現象が起こりづらい。その際、フィラーは配向せずにスキン層へ形成されるので、成形品表面近傍においてフィラーの流動方向への配向は起こらないと考えられる(図42)。
【0142】
また、成形品表面近傍における極端なフィラー濃度低下現象が前で述したモデルにおいて起こると仮定すると、フアウンテン・フロー現象を伴って流動・進展してきたコア材は、樹脂流速の変化に起因する圧力低下が内部で起こる.その際、フィラーは圧力の低い方へ移動することによって、スキン層とコア層の境界付近で極端なフィラー濃度低下現象が起こる。
【0143】
また、スキン層においては、前述したようにフアウンテン・フロー現象は起こらないので、樹脂内部の圧力低下が起こらないと推測される。そのため、スキン層表層部近傍のフィラーは移動することなく成形品表層部を形成するため、成形品表層部近傍では極端なフィラー濃度低下現象が起こらない。また、それに加えて前述のアニーリングで得られた知見より、先に射出されたスキン材は、比較的長い時間を流動先端部に存在し続ける。すると、流動先端部自由表面は、アニーリングされているのと同じような状態になり、フィラー濃度の均一化、フィラーの配向緩和が促進される。
【0144】
これらの要因の結果、ラッピング成形法を行うと、成形品表層部近傍のフィラー濃度が均一で、流動方向へのフィラー配向が抑えられた、表面抵抗率が各成形品内で均一な静電防止材が作製できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】実施例A−1で得られた試験片の板厚方向表層部のSEM写真である。
【図2】図3(a)は、図2に示す試験片表層部近傍の深さ0〜60μmの領域における充填材の数密度を示すグラフである。図3(b)は、本発明により得られた試験片表層部近傍の深さ0〜60μmの領域における充填材の数密度を示すグラフである。
【図3】ショート・ショット成形不良品の試験片の流動先端部自由表面上を拡大したSEM写真である。
【図4】スキン層用溶融器の構成を示す模式断面図である。
【図5】充填材の成形品表面から深さ方向への配向角度を示すグラフである。
【図6】通常の射出成形と、スキン/コア成形の表面抵抗率の比較を示すグラフである。
【図7】実施例で用いた実験装置の概要を示す模式断面図である。
【図8】キャビティ内流速と、圧力センサで測定された圧力波形の関係の一例を示すグラフである。
【図9】図15(a)は、キャビティ内流速125mm/sの条件下の成形により得られた成形品の、ゲートから20mmの面における光学顕微鏡写真である。図15(b)は、ゲートから50mmの面における光学顕微鏡写真である。
【図10】図16(a)は、キャビティ内流速625mm/sの条件下の成形により得られた成形品の、ゲートから20mmの面における光学顕微鏡写真である。図16(b)は、ゲートから50mmの面における光学顕微鏡写真である。
【図11】アニーリング前後における表面抵抗率変化の一例を示すグラフである。
【図12】各アニーリング条件における表面抵抗率変化の一例を示すグラフである。
【図13】アニーリング前の試験片の流動方向断面を示すSEM写真である。
【図14】アニーリング後の試験片の流動方向断面を示すSEM写真である。
【図15】アニーリング前後における成形品表層部近傍フィラー濃度変化の一例を示すグラフである。
【図16】ラッピング成形品の表面抵抗率測定用試験片の概要を示す模式図である。
【図17】PC/PCCNT成形品の一例を示す写真である。
【図18】図33(a)は、スキン/コアの組合せと表面抵抗率の関係の一例を示すグラフである。図33(b)は、PCCNT/PCCNTとPCCNTとの表面抵抗率の比較の一例を示すグラフである。
【図19】図34(a)は、PCCNTにおける成形品表面からの深さとフィラー濃度との関係の一例を示すグラフである。図34(b)は、PCCNT/PCCNTにおける成形品表面からの深さとフィラー濃度との関係の一例を示すグラフである。図34(c)は、PCCNT/PCにおける成形品表面からの深さとフィラー濃度との関係の一例を示すグラフである。
【図20】成形品表面からの深さ、フィラーの配向角および存在割合の関係の一例を示すグラフである。(a)は深さ0〜5μm、(b)は深さ5〜10μm、(c)は深さ10〜15μm、(d)は深さ15〜20μmの各条件におけるグラフである。
【図21】成形品表面からの深さ、フィラーの配向角および存在割合の関係の一例を示すグラフである。(e)は深さ20〜25μm、(f)は深さ25〜30μm、(g)は深さ30〜35μm、(h)は深さ35〜40μmの各条件におけるグラフである。
【図22】PCCNTの断面を示すSEM写真である。
【図23】PCCNT/PCCNTの断面を示すSEM写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ炭素繊維を含有する複合材料およびこれを用いる部材に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の複合材料は、所定の特性(例えば、導電性、熱伝導性、機械的強度、等)が必要とされる技術分野に、特に制限なく使用可能であるが、ここでは説明の便宜のため、主に半導体の分野において必要とされる「導電性」に関する背景技術について述べる。
【0003】
従来より、半導体製造業界など静電気放電等による電子機器への障害を防ぐ目的で、樹脂に導電性物質を混ぜた導電性物質−樹脂の複合材料からなる運搬容器が使用されている。現在、このような複合材料を与える目的で、導電性物質として、金属粉やカーボンブラック、炭素繊維などを混ぜた複合材料が使用されている。
【0004】
特に、導電性物質として、ナノ炭素繊維を混合した複合材料は、繊維がナノサイズであるため、少量の質量で導電性を持たせることができ、且つ、微細であるため成形品の微細な形状の細部にまで行き渡り、さらにフィラーの微細形状による成形品からの発塵性が低いため、クリーンルーム等での使用に適する複合材料を与える特徴を有するため、注目を集めている。
【0005】
しかしながら、これらのナノ炭素繊維含有複合材料を射出成形して得られた静電防止材は、成形用材料そのものの抵抗率より2〜3桁ほどおおきくなってしまい、さらに成形品内において静電防止効果に重要な影響を与える表面抵抗率が不均一になり、静電気をうまく除去できず、電子機器に影響を及ぼすという問題があった。すなわち、ナノ炭素繊維含有複合材料の射出成形によって作製された成形品は、該成形品個体内で表面抵抗率が場所によって不均一であるという欠点を有していた。
【0006】
この抵抗率の増加および不均一になる問題は射出成形時の成形条件に大きく依存し、特に成形時の材料流動速度が高くなると、表面抵抗率が高くなってしまう傾向にある。今後部材の軽量化への要求が高まるにつれ部材の厚さが薄くなり、射出速度を上げないと成形できなくなる。それに伴い、これらの問題が大きくなることが予想される。
熱可塑性樹脂と微細炭素繊維の複合材料を射出成形して高導電性成形品を作製する技術は既に報告されている(特許文献2)が、当該技術は成形時にガラス転移温度から30℃以上の温度で10秒間以上保持する必要があるため、生産性が低下することが問題である。
(特許文献1)については、成形品を2層構造にして電気抵抗を制御する技術はすでに報告されているが、当該特許はラッピング成形により成形されるため先行して射出される表層部を形成する樹脂も流動を伴うため、フィラーが不均一になっている可能性がある。
【0007】
【特許文献1】特許公開2005−81827号公報
【特許文献2】特許公開2004−35826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点を解消し、良好な導電性を有する複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意研究の結果、フィラーの無秩序な移動を抑制することにより、樹脂中のフィラー濃度を制御できることを見出した。
【0010】
本発明の複合材料は上記知見に基づくものであり、より詳しくは、マトリックスと、該中にマトリックス中に分散されたフィラー(例えば0.05〜50wt.%)とを少なくとも含む複合材料であって;該複合材料の表面から深さ5μm以下までの領域(a領域)のフィラー濃度(数密度)をFaとし、該表面から深さ20μm以上の領域(b領域)のフィラー濃度をFbとした際の、それらの比(Fa/Fb)が、0.7以上であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明において、上記のような効果が得られる理由は、本発明者によれば、以下の理由によると推定される。
【0012】
一般に、成形品の表面抵抗率は、成形条件により大きく変化する。例えば、103Ω/sqの表面抵抗率を有するナノ炭素繊維複合材料を射出成形した場合、キャビティ内の樹脂流速が変化すると成形品表面におけるフィラーの表面抵抗率は103〜107Ω/sqの範囲で変化する。キャビティ形状が複雑な形状を取る場合、樹脂が充填される際にキャビティ内において樹脂流速にばらつきが起こる。その結果、表面抵抗率にも樹脂流速に基づくバラツキが生じる等の問題がある。
【0013】
本発明では、キャビティに流入する樹脂の流動先端部で生じるファウンテン・フロー現象を抑えることにより、成形品個体内において均一な表面抵抗率を有する成形品の作製が可能となる。
【0014】
本発明においては、成形品の表面抵抗率が変化する要因として、成形品表層部近傍に存在する炭素繊維の流動方向への配向現象と表層部における数密度が低い層が存在することを成形品の観察より明らかとなった。炭素繊維が流動方向へ一様に配向すると、フィラー同士の接触点が激減し抵抗が大きくなる傾向がある。また、成形品表層部におけるフィラーの数密度が変化すると、フィラー同士の接触点が激減し、抵抗が大きくなる傾向がある。
【0015】
本発明においては、これら成形品表層部におけるフィラーの配向現象と数密度低下現象を射出成形時に抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
上述したように本発明によれば、導電性の均一性に優れ、少ない微細炭素繊維添加量で良好な導電性を有する運搬容器などの静電防止材を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
【0018】
(複合材料)
本発明の複合材料は、マトリックスと、該中にマトリックス中に分散されたフィラーとを少なくとも含む。本発明の複合材料においては、該複合材料の表面から深さ5μm以下までの領域(a領域)のフィラー濃度(数密度)をFaとし、該表面から深さ20μm以上の領域(b領域)のフィラー濃度をFbとした際の、それらの比(Fa/Fb)が特徴である。すなわち、表面抵抗率の測定点付近における、無作為に選んだ1点以上の地点から深さ方向へのフィラーの数密度が、0.7以上であることが特徴である。この(Fa/Fb)の比は、0.8以上であることが好ましく、更には0.9以上であることが好ましい。
【0019】
(通常の射出成形)
通常の射出成形により得られた同様の複合材料においては、(Fa/Fb)の比は、通常0.5以下程度(例えば、0.1〜0.5程度)である。
【0020】
(Fa/Fbの測定方法)
後述する実施例に記載の測定方法に従って、(Fa/Fb)の比を得ることができる。
【0021】
すなわち、この方法は、以下のようなステップを含む。
(1)流動方向に沿って凍結波断させる。
(2)10nmほど観察面に金コーティングを行う。
(3)得られた断面を、電子顕微鏡を用いて5000倍まで拡大する。
(4)樹脂から引き抜けているフィラーを、幅15μm×深さ方向5μmごとに本数を測定する。
【0022】
(5)得られた測定結果を、断面積(15×5μmm2)で平均化したものを、横軸に深さ方向、縦軸にフィラー濃度(数密度)としてグラフ化する。
【0023】
上記測定により、本発明の複合材料(ないし複合部材)中においては、マトリックス中にフィラーが分散されており、該複合材料表面において該フィラーの数密度が深さ方向に均一であること(更には、例えば、流動方向への配向が抑制されていること)が、確認可能である。
【0024】
(フィラー)
本発明において使用可能なフィラーは、本発明の趣旨に反しない限り、特に制限されない。機械的特性の向上および低発塵性の点からは、該フィラーは、繊維状の形状を有するものであることが好ましい。
【0025】
(炭素繊維)
機械的特性の向上・導電性の付与および向上・熱伝導性の付与および向上の点からは、上記フィラーとしては、炭素繊維が特に好適に使用可能である。中でも、少ない添加量で上述の特性を発現させる点からは、カーボンナノチューブ(CNT)または気相成長炭素繊維であることが好ましい。
【0026】
該炭素繊維としては、0.1mm以下の細い炭素繊維であるカーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維などが好適であるが、溶融紡糸もしくは遠心紡糸の後に焼成して得られるPAN系もしくはピッチ系炭素繊維も使用可能である。炭素繊維の長さは、射出成形機に負担をかけない程度の長繊維から短繊維までのいずれも、目的により使用できる。
【0027】
(マトリックス)
本発明の複合材料において、マトリックスとしては、射出成形に適する樹脂を選択することが好ましい。このような樹脂としては、熱可塑性樹脂、導電性樹脂が好適である。より具体的には、例えば、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリアセチレン、ポリプロピレンなどの汎用樹脂も挙げられる。
【0028】
<熱可塑性樹脂>
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、例えばポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ABS樹脂、AS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルスルホン、ポリスチレン、熱可塑性ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂、液晶性ポリエステル等の熱可塑性樹脂或いはこれらの混合物が挙げられ、これらは、成形品の使用目的に応じて機械的強度、成形性等の特性から適宜選択することができる。
【0029】
これらのうち、非結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、変性ポリオキシメチレン、ABS樹脂、AS樹脂、ポリスチレン、脂環式ポリオレフィンなどが挙げられる。
【0030】
また、結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、シンジオタクティック(結晶性)ポリスチレンなどが挙げられる。
【0031】
その他、液晶性ポリエステルなどの液晶性樹脂を使用することもできる。
【0032】
特に、燃料電池セパレータとして使用する場合には、耐水性、耐酸性、耐熱性が要求されるため、上記結晶性熱可塑性の中でもポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン、シンジオタクティック(結晶性)ポリスチレンなどを使用することが好ましい。また、液晶樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、又はポリエーテルスルホンなどの耐熱性、耐加水分解性に優れた非結晶性樹脂を使用することも好ましい。
【0033】
(配向角度)
本発明の複合材料は、好適には、フィラー(例えば、炭素繊維)の配向角度が流動方向を0°として上下15°以上程度であることが好ましい。この配向角度は、更には上下30°以上程度、特に上下45°以上程度であることが好ましい。このフィラー(例えば、炭素繊維)は、数密度として1.2〜1.4/μm−2程度であることが好ましい。
【0034】
(フィラーの配向)
フィラー(例えば、炭素繊維)の流動方向への配向、キャビティ内に樹脂が充填される際にフィラーが流動樹脂から受けるせん断ひずみによって起こることを、本発明者は見出している。また、フィラーの数密度低下現象は、キャビティ内に樹脂が充填時における流動先端部においてファンテン・フローによって起こることが、本発明者らの研究において明らかになった。本発明においては、本発明者らの知見によれば、充填中の樹脂の流動先端部自由表面でおこるファウンテン・フローを抑制することによって、本発明においては、フィラーの配向現象と数密度低下現象を抑制すること(更には、良電導性で均一な表面抵抗率を有する成形品を得ること)が容易となる。
【0035】
後述するように、本発明においては、複合材料としてポリカーボネートに多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を5wt.%の割合で溶融混練したものを射出成形した際に、通常の射出成形法で作製した成形品の場合には、その表面抵抗率が107〜106Ω/sqであった。他方、同じ複合材料の系で、本発明を適用した場合には、同じ射出成形条件において表面抵抗率が103〜104Ω/sq程度に改善された。後述するように、このような実験により得られた成形品内部を走査型電子顕微鏡で観察すると、成形品表層部近傍の炭素繊維の流動方向への配向は緩和され、均一な数密度を保っていることが確認された。
【0036】
(電磁シールド)
本発明は、電磁シールドにも応用することが可能である。この電磁シールドの分野に関しては、電気的特性は表面抵抗率ではなく体積抵抗率で評価されるものが多く、通常、10−1〜数Ω・cm程度の導電性が求められることが多い。
【0037】
この電磁シールドに関しては、半導体やハードディスクの急激な高性能化により、製造工程内でのデバイスのESD破壊が大きいが大きい問題となりつつある。これまでは、ESD破壊を回避するために、イオナイザーを使用し、表面抵抗率105Q/sq以下の導電性プラスチックを使用することで対応してきたが、ここ数年において、半導体やハードディスク業界において、デバイスと接する材料に、表面抵抗率が106〜1010Ω/sqの範囲で厳密に制御され、かつ、クリーン度が高い材料の要求が高まっている。106〜1010Ω/sqの表面抵抗率が求められるのは、主に、以下の理由による。
【0038】
すなわち2つの帯電レベルの異なる導電物質が接触した場合、瞬時に電荷の移動が起こり、帯電レベルが等しくなるとともに、電流が流れる。デバイスのESD破壊は、この電荷の移動に伴い発生する電流が原因で起こると考えられる。従って、デバイスをESD破壊から守るためには、この電荷の移動速度を制御し、発生する電流レベルを抑えることが必要である。言い換えれば、デバイスを接する材料に電荷移動速度が比較的遅く、且つ帯電しない材料を使用することで、ESD破壊を回避できる。電荷移動速度は材料の表面抵抗に依存し、一般的にESD対応材料に求められる表面抵抗率は106〜1010Ω/sqとされる。材料の表面抵抗率が1011Ω/sqより高い場合、摩擦による帯電ばかりでなく、帯電することによるゴミ、塵等の吸着により、他の問題も引き起こす傾向が強まる。
【0039】
(他の配合剤)
本発明において使用可能な他の配合剤は、以下の通りである。
(1)難燃配合剤
火災に対する安全性を確保するために使用される。
例えば、水酸化アルミニウムの場合、その原理は、水酸化アルミニウムが300℃〜350℃脱水して、酸化アルミニウムになる際の吸熱作用を利用して、樹脂の温度上昇や着火を抑制し、燃焼を遅延、阻止するというものである。
【0040】
無機系配合剤として、例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムが挙げられる。ハロゲン系配合剤として、例えば臭素系化合物、塩素系化合物が挙げられる。りん系配合剤として、例えばりん酸化合物が挙げられる。
【0041】
抗菌性配合剤としては、種々の有機化合物、食品添加物、無機化合物が挙げられる。これは、主に、銀、銅、亜鉛等の抗菌機能を持つ金属イオンを各種化合物に結合させたものである(参考:http://www.aichi-inst.jp/htmJ/news/news98/news98084.html)。
【0042】
高比重材料向け配合剤としては、タングステン系等の高比重配合剤が挙げられる。
【0043】
高比重のため、振動吸収性が良く、遮音性に優れる。更に、金属なので、導電性もある。
【0044】
(流動先端部表層部のフィラー低下現象)
本発明者の知見によれば、流動樹脂内部のせん断速度に起因するものではなく、流動先端部におけるファウンテンフローを伴う樹脂流動が、フィラーであるナノ炭素繊維の濃度低下を促す主な因子として挙げられる。また、数値解析によると流動先端部において、樹脂流動速度購買の小さい領域が存在し、溶融樹脂が滞留するような現象が起こっていることが予測される。ここで、流動先端自由表面部において起きている現象について考察したところ、流動先端頭頂部から金型壁面にかけての樹脂流動とは関係のない引張応力がかかっていることが予想される。この引張応力により自由表面が極度に緊張することによって、フィラーがより緊張力の低い内側に移動することによって、フィラー濃度定価減少が引き起こされるのではないかという仮説を立てた。
【0045】
(ラッピング成形)
射出成形を行う場合には、成形材料はファウンテンフローを伴いながら金型内を進んでゆくため、流動先端部に自由表面が出現する現象は必ず生じることになる。
ファウンテンフローを伴わない流れとしては、プラグフローと呼ばれる現象があるが、これは金型壁面と溶融樹脂との界面ですべりが生じることにより発現するため、成形品表面に傷がついたりすることがあり、通常プラグフローによる成形は避ける傾向にある。
【0046】
そこで、流動先端部にファウンテンフローを伴う樹脂の自由表面の生成を防ぐために、流動先端部を同種または異種の材料で覆うことで自由表面の露出を抑制することを考えた。この方法をラッピング成形と呼ぶことにする。具体的には、通常の射出成形機のノズルと金型の樹脂注入口の間に溶融した材料樹脂を溜める装置を挟むことにより簡単に実行できる。
この方法によれば、表層部を形成する材料はファウンテンフローを伴わず、内部を形成する材料に伸ばされながら成形品表層部を形成するので、成形品表層部のフィラー濃度低下現象が生じない。
【0047】
本発明におけるラッピング成形法を行うにあたり、表層部と内部で同種の材料を用いる場合には、表層部材料溜まりには同種の材料が自動的に補充されるため生産性の面でも連続的に生産が可能となる。
【0048】
表層部を形成する材料の成形後の厚みはa領域で示される5μm以上あることが望ましい。
【0049】
本発明においては表層部材料にナノ繊維含有複合材料を内部材料に同種材料もしくは透明なポリカーボネート(PC)を用いて、ラッピング成形を行い、ファウンテンフローの影響を受けない複合材料部材内のフィラー濃度の変化を観察する。射出条件としては、特に表面抵抗率に大きな変化を与えた射出速度を変化させ、キャビティ内流速を変化させた。
【0050】
この成形法をもちいれば、ペレットとほぼ同等の表面抵抗率の成形品が得られるため、必要に応じた表面抵抗率を有するペレットを表面層材料に使用すればよい。
【0051】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0052】
実施例A−1
気相成長させた多層カーボンナノチューブ(Multi Walled Carbon Nanotube:MWCNT)(径 80 nm、長さ15〜20μm)を充填材としてポリカーボネート樹脂に5wt.%の割合で含有させたものをペレット(市販)とし、射出成形することにより板厚1 mmの成形品を得た。
【0053】
射出成形によって成形した試験片内の充填材が配向しているのかどうかを確認するため走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)によって観察を行った。射出圧力 45 MPa、板厚1.0 mm、樹脂温度300℃、金型温度100℃、キャビティ内速度325 mm/s で作製された試験片の板厚方向表層部のSEM写真を図1に示す。このSEMでの樹脂内部の観察によって射出成形法によって成形した試験片内部の充填材は成形時の樹脂流動方向に配向していることが確認できた。
【0054】
図2(a)に示すように試験片表層部近傍の深さ0〜15μmの領域で充填材の数密度が極端に70%程低下していることが確認できた。
【0055】
射出成形によって成形した試験片表層部近傍で充填材の数密度が低下する現象は、樹脂がキャビティ内への充填過程中の流動先端部において起こるかどうか確認するために走査型電子顕微鏡によって観察を行った。流動途中の流動先端部を観察するために金型を、液体窒素などを用いて極低温に保持して射出成形を行い、ショート・ショット成形不良品を作成した。射出圧力〜数MPa、金型温度−150℃、樹脂温度300℃で作製された試験片の流動先端部自由表面上を拡大したSEM写真を図3に示す。これから、流動先端部自由表面から深さ方向0〜15μmにおいて充填材の数密度が極度に低い領域が存在していることが確認された。
【0056】
以上から、炭素繊維含有複合材料を射出成形した場合、流動先端部自由表面において充填材である炭素繊維の数密度が低下し、また樹脂の流速差分に起因するせん断ひずみにより流動方向への配向が発生する。これらの現象を抑制するためには、流動先端部における樹脂流動の影響を成形品表層部に到達させないようにする必要がある。その方法として、流動先端部自由表面部を選択的に固化することにより成形品表層部への樹脂流動による影響を制御することが考えられる。
【0057】
実施例A−2
本実験では、選択的に流動先端部自由表面を固化するために、キャビティ内に流れる樹脂をコア層とスキン層に分離させる方法をとり、縦型射出成形機とキャビティの中間に図4に示すAのような樹脂を加熱して溶融できる機能を有する器(スキン層用溶融器)を設計し、製作を行った。
【0058】
スキン層用溶融器(図4中の符号A)は、ヒーターにより370℃まで加熱することができる。この器で、スキン材となる炭素繊維含有複合材料を入れて射出条件まで加熱・溶融する。そして、上部から射出成形機のシリンダーによってコア材を射出することにより、炭素繊維含有複合材料はキャビティ内にはスキン層とコア層を形成しながら充填されていく。この時、充填材に配向や数密度へ影響を及ぼす樹脂流動はコア材に限定される。
【0059】
以下に、スキン/コア成形を行った際の成形条件を記す。
【0060】
【表1】
(表1)
【0061】
成形後の試験片中を走査型電子顕微鏡で観察し、充填材の成形品表面から深さ方向への数密度の測定と配向角度について測定を行った。試験片表層部内における深さ方向0〜15μmの領域においても充填材の数密度は低下していないことが確認された(図2(a))。また、流動方向への配向については、通常の射出成形よりも緩和されていることが確認された(図5)。
【0062】
この試験片の表面抵抗率は103〜104 Ω/sqであり、通常の射出成形法によって同じ成形条件により作製される試験片の100分の1程の値を確認した(図6)。
【0063】
実施例B−1
(ラッピング成形)
図1の装置を用いて、ラッピング成形を行った。
(1)供試材料ポリカーボネート(PC)
本実験ではラッピング成形におけるコア材として、ポリカーボネートを用いた。帝人化成株式会社製のパンライトL−1225Y用いた。スキン材の複合材料のマトリクス樹脂と同じものを使用しているので、サンドイッチ構造に成りやすいという利点がある。
【0064】
(2)樹脂基CNT複合材料(PCcArr)
実施例では、ポリカーボネートをマトリクス樹脂として、MWCNTをフィラーとして5wt.%添加したMWCNT/PCコンポジットのペレットを使用した。
【0065】
(3)実験装置
本来ラッピング成形法はスキン材とコア材それぞれを溶融・射出を行うシリンダーを2本備えた装置を用意する必要がある。しかし、本実験では前述した通常の縦型射出成形機に新たな装置を追加設計・作製の改造を施しラッピング成形を可能とした。
【0066】
本実験装置のスキン材溶融部からキャビティまでの概要を図7に示す。本実験装置は縦型射出成形機・加熱皿・キャビティの3つのユニットから構成される。
【0067】
まず通常の縦型射出成形機のスプルーブッシュとシリンダーの間に、少量の樹脂を溶融温度まで加熱することができる皿状の装置を設置する(図7中のA)。これを加熱皿と呼称する。次に、スプルーの下部には、圧力センサを二つ内蔵した試験片成形用キャビティを持つ金型を設置する(図7中のB)。
【0068】
(4)加熱皿
加熱皿はカートリッジヒーターにより360℃まで加熱することが可能であり、この加熱皿のポケット部(図7のpocket of composite matrixの領域)にスキン材となる樹脂を少量だけ投入後、射出温度まで加熱させ溶融させる。その上から、シリンダーで溶融された、コア材となる樹脂を射出することにより、ラッピング成形機と同様の機能を発現することができる。
【0069】
(5)圧力センサ
本実験では、新しく金型を作製する際に、圧力センサを間接式金型内圧力センサーISA446−2.25C(Dynisco製)へ変更した。従来の試験片作成用の金型装置では溶融樹脂がキャビティ内を流れる際に、圧力測定素子(直径6mm)の形状が成形品に転写され、またキャビティ内の流動状態に影響を及ぼす等の問題があった。そこで、圧力素子痕を極力小さくするべく、直径1.5mmのイジェクターピンを介して圧力を測定する手法を採用した。キャビティ内を流れる溶融樹脂がピンの上を溶融樹脂が通過し圧力が発生すると、荷重がインジェクターピンを介してロードセルにかかり、電圧がロガー(PCD−300:株式会社共和電業製)へ出力される。これにより金型内圧力を間接的に測定する。
【0070】
(6)金型
本実験では、流動樹脂の不必要な外乱を避けるため、キャビティ形状をシリンダー・スプルー・キャビティが一直線になるように設計した。キャビティ内には、25mmの間隔をあけて、¢1.5mmのピンが内蔵されており、それぞれS3、S4とする。これは前述した圧力測定用のインターフェイスであり、キャビティ内の圧力を測定すると共に、この2点間における圧力の立ち上がりの時間差からキャビティ内の樹脂流速を算出する。
【0071】
上記第1の金型に、もう一つの試験片作製用キャビティを持つ金型を合わせて図11の様に設置する。キャビティの形状は、サンドイッチ形状が成立しやすい様に、¢5×60mmの円筒形状とした。成形品形状が円筒形状であるため、キャビティブロックを設けて、射出後の成形品を取り出しやすくするために分解式とした。金型Aにキャビティブロックを合わせてMoldAにはめ込み、前述の圧力センサ内臓金型と合わせることで、キャビティとして実験装置に組み込む。
【0072】
これに、図中のようにカートリッジ型ヒーターとプレート型ヒーターを用いて射出温度条件まで加熱する。
【0073】
(7)射出条件
今回使用する樹脂は、マトリクスは同じポリカーボネートであるが、CNTをフィラーとして用いることにより熱伝導率が向上している。そのためスキン材とコア材の熱物性と粘度が異なる。スキン材は熱伝導率が高いために、金型に熱を奪われやすいことから粘度が上昇しやすく、ショート・ショットが起こりやすい。そこで、本実験ではスキン材の温度をコア材の射出温度よりも50℃程高く設定しスキン材の粘度を低くすることで、ショート・ショットを防止した。
【0074】
また図金型温度に関しても同様に、通常の成形条件と比べ高めの設定とした。成形条件を表2に示す。
【0075】
【表2】
(表2)
【0076】
(断面観察)
(射出成形)
図9にキャビティ内流速とS3とS4で測定された圧力波形の関係を示す。キャビティ内流速とともに測定される圧力の最大値は増加した。これは、キャビティ内樹脂流速が大きくなるにつれて流動樹脂の持つエネルギーが大きくなるためと考えれられる。また、前述の実験で用いたキャビティ内Sl、S2で測定された2点間の圧力低下よりも若干小さいことがわかる。キャビティ形状が、T型形状から、直線形状に設計変更されたために、流動樹脂が受ける圧力損失が小さくなったためだと考えられる。
【0077】
(光学顕微鏡観察)
それぞれ試験片をゲート付近から10mmごとに軸方向に垂直に切断し、断面を光学顕微鏡で観察した。図9、図10に、ゲート付近から20mm付近と50mm付近の光学顕微鏡写真を示す。これらより、複合材料(写真中:黒い層)とPC(写真中:白い層)が層状構造を形成していることから、ラッピング成形が成立していることが分かる。また図9の中心部の影は、射出過程において気泡が混ざったものである。
【0078】
またゲート付近では最外層に複合材料、内側層にPCが観察されラッピング成形が成立していることが伺えるが、ゲートから50mm離れた地点では複合材料のさらに外側にPCの層が形成されていることがわかる。これはキャビティ内に充填される際に、スキン層となる複合材料の量が少なく、または、一部コア層流動先端付近において局所的にスキン層が薄くなった箇所から、コア材となるPCが最外層に流れ出し、複合材料のさらに先端部にPCのスキン層を形成したものと考えられる。これを一般的にブレイク・スルーと呼ぶ。
【0079】
これらの観察結果よりキャビティ内流速が速い成形条件の場合、よりゲートから遠い地点でブレイク・スルーが起こることがわかる。またどちらの結果もスキン層の厚さに変化が無いことから、キャビティ内流速が違うことによる影響は、スキン層の厚さへ寄与しないことが伺える。以上のことから、射出流速の違いは流動先端部における自由表面層の厚さには影響しないと考えられる。
【0080】
実施例B−2
(フィラー濃度低下現象モデルの提案)
以上の実験からは、流動先端部で起こると考えられる。そこで、最後に圧力について考察する。
【0081】
YK.Shenらは、流動先端部のフアウンテン・フロー現象の数値解析を行い、圧力分布を求めている。彼らは、流動先端部内側の圧力は、周囲に比べて低い値をとると述べている。
【0082】
圧力低下によるフィラーの移動モデルにおいてキャビティ内中央部から流動先端部に移動してきた溶融樹脂は自由表面へ向かって膨張するような状態になる。そしてその後金型壁面方向へ移動する際に、溶融された樹脂の流路が狭くなり樹脂流速が相対的に速くなる。その結果ベルヌーイの定理に従って溶融樹脂の流線に沿って圧力が若干下がり、樹脂内部のフィラーが内部圧力の低い方向へ引っ張られることによって、流動先端部自由表面のフィラー濃度が極端に下がる。また、高温状態の溶融樹脂が長い時間その低い圧力にさらされることでフィラーが自由表面部から内側への移動を促進していることが考えられる。
【0083】
実施例C−3
(アニーリングによる配向緩和法)
通常の射出成形された成形品内部のフィラーは、溶融した樹脂が金型壁面に冷却されながら流動していく際に、大きなせん断ひずみを受けることにより、強制的に流動方向へ配向されていると考えられる。
【0084】
そこで、射出成形により得られた試験片をガラス転位点以上の温度まで加熱し、樹脂がフィラーを拘束する影響を弱める処理を行い、成形品内のフィラーが成形時に流動方向へ配向された状態を解除させることにより、表面抵抗率を低下させることを目的とする。
【0085】
(1)供試材料
本実施例では、これまでの成形実験と同様にポリカーボネートをマトリクス樹脂として、MWCNTをフィラーとして5wt.%添加したMWCNT/PCの複合材料ペレット(PCcNT)を使用した。
【0086】
(2)アニーリング処理
表面抵抗率が既知の成形品を、各条件の高温炉に入れてアニーリングを行った。成形品の成形条件とアニーリングする各条件を表4に示す。ポリカーボネートのガラス転移点以上の温度を目安に設定した。
【0087】
【表3】
(表3)
【0088】
(電気的特性の評価)
260℃の炉で60分間アニーリングした試験片(サンプルNo.8)の、アニーリング前後の表面抵抗率の変化を図11に示す。第二章と同様に、測定点をゲートから10mm、25mm、40mmの点としてそれぞれA、B、C点とした。その結果アニーリングをすることにより試験片の表面抵抗率を100分の1〜1000分の1程度低下させることができた。これは、このPCcArrが持つ物性値に近い値である。これは以下のような現象が起こったと考えられる。
【0089】
マトリクス樹脂のガラス転移点以上の温度まで加熱されたことにより、マトリクス樹脂内の粘度低下に伴いフィラーへの拘束力が緩和する。そして成形品内での配向が解除されフィラーがランダムな方向へ向きを変えたため、フィラー同士の接触点が増えた。その結果成形品内におけるフィラーを介した導電パスが形成され、表面抵抗率が低下したと考えられるこれをNegativeTemperatureCoefhcient(NTC)効果という。
【0090】
図23に、各条件それぞれアニーリングを行った前後の表面抵抗率の変化を、縦軸に表面抵抗率を、横軸にアニーリング時間として示す。
【0091】
これによるとアニーリング温度が280℃且つアニーリング時間が15分のサンプルNo.10とNo.11の試験片は、表面抵抗率が103Ω/sq程度まで低下した。しかしその他のアニーリング条件のサンプルの表面抵抗率は低下せずに増加するものも見られた。特に射出速度が遅い条件で作製されたサンプルの表面抵抗率は104Ω/sqと低い値だったが、サンプルN0.2とN0.9は107Ω/sqまで増加する結果となった。
【0092】
これは温度上昇によりマトリクスが膨張し、フィラーを介した導電パスが切れることによって抵抗率が上昇するPositiveTemperatureCoefhcient(PTC)現象が起きたためと考えられる。
【0093】
これはマトリクス樹脂のガラス転移点よりも高い温度でアニーリングを行っても成形品内のフィラーの拘束が緩和されなかったことを示している。先ほどの実験の様に、表面抵抗率の改善が見られるのは、280℃の高温で15分間アニーリングを行った場合のみとなった。またこれら全てのアニーリング条件において試験後のサンプルは、熱により大きく変形してしまい、成形品としての形状をとどめているものはなかった。このことから、アニーリング手法を工業的応用を視野に入れた場合、射出成形された成形品をアニーリングする工程は成形品に対して甚大なダメージを与えることになる。
【0094】
(成形品の断面観察試験片の作製)
次に、アニーリング前後の成形品を断面観察することにより成形品表層部近傍におけるフィラーの配向性と濃度について比較を行う。表面抵抗率が低下する要因を検討することが目的である。
【0095】
通常の射出成形によって得られた、10×50×1mmの成形品を用意した。この成形品の成形条件は射出速度が90%であり、その他の成形条件は表3に示したものと同じものとした。表面抵抗率は〜107Ω/sq程度である。
【0096】
この成形品から切り出した二つの試験片のうち、一方を260度の炉で20分間アニーリングを行った。アニーリングを行うことにより、若干試験片の表面が光沢を持ち、微小な変形をしていることが伺える。
【0097】
その後、それぞれの試験片を流動方向に凍結破断してその断面を観察した。図13、図14にアニーリング前後の試験片断面のSEM画像を示す。アニーリングを行う前は、フィラーは直線性が強く、流動方向へ配向している。しかし、アニーリングを行った後の成形品内部のフィラーは、直線性は弱く、マトリクス樹脂から解放されることで、本来CNTが持っていたと思われる曲線性によりそれぞれがランダムな方向へ向いたと考えられる。
【0098】
また、それぞれの試験片の断面から成形品表層部からのフィラー濃度分布を図15に示す。この結果から、流動方向(0°付近)へ強く配向していたフィラーがアニーリング処理を施されることでバラバラの方向へ向くことが示された。これにより成形品内のフィラー同士の接点が増えることで導電パスが形成されたと考えられる。
【0099】
また成形品表層部近傍のフィラー濃度についてアニーリングを行うと、成形品表層部のフィラー濃度が若干上昇している。これは、樹脂が加熱されて樹脂の粘度が低下することによりフィラーであるCNTがフィラー密度の低い、成形品表層部へ向かって移動したものと考えられる。
【0100】
ここで加熱・粘度低下によりマトリクス樹脂の拘束から解放されたCNTが配向性を失い、また表層部へ移動するという現象が起こることから、射出成形品内のフィラーには成形時に蓄積されたせん断ひずみからくる残留応力がかかっていたものと推測される。
【0101】
前述してきたように、射出成形された樹脂基CNT複合材料は、成形品個体内において、フィラーの配向・濃度低下などの存在状態により不均一な表面抵抗率を持つという問題があった。しかしこれらの結果からアニーリングというごく簡単な手法を用いることにより、成形品表面全体のフィラーの配向・濃度低下を緩和させ、表面抵抗率を均一にすることができることが示された。
【0102】
(ラッピング成形法による表面抵抗率低減処理)
ここ数年、ラッピング成形法(Co-idection molding:コ・インジェクション法)に対する関心が高まっており、この手法を応用する研究が多くなされ、プラスチック産業からの期待が高まっている。
【0103】
この技術に対する主な関心として、スキン層とコア層の異なった物性や化学的特性を併せ持った製品を作り出すことができる点である。例えば、コア材に繊維強化樹脂を、スキン材に通常の樹脂をある程度のアスペクト比をもって使用することにより、機械的特性を持ちつつ、装飾性の高い特性を維持することができる。
【0104】
また、ラッピング成形法は、安価なリサイクル樹脂をコア材を、スキン材に適切な未使用の樹脂を使用することにより、良好な機械的強度を保ちつつコストダウンを図れることから、通常の単発射出成形法にとって替わる重要な手段になるとされている。
【0105】
上述した実施例において、成形品の表面抵抗率は成形品表層部近傍に存在するフィラーの配向度と濃度によって決定されることを明らかにした。またその配向度は射出過程におけるキャビティ内の金型近傍において樹脂が受ける総せん断ひずみ量により説明することが可能であり、また成形品表層部近傍でフィラーの濃度低下が局所的に起こることにより成形品の表面抵抗率が個体内で不均一になることを明らかにした。R.S.Bay[79、80]らは、それらは金型に充填される過程の樹脂のフアウンテン・フロー現象により引き起こされると述べている。彼らによれば流動先端部の条件においてフアウンテン・フロー現象の有無と、自由表面から離れたところにフアウンテン・フロー現象が起きた場合の、成形品内のフィラーの配向について数値解析を行っている。縦軸は流動方向への配向度を、横軸は成形品中央部から表層部への無次元数を表している。これによると、フアウンテン・フロー現象が自由表面よりもある程度後方で起こる状態で金型に充填されると、表層部近傍においてフィラーの配向度の低いスキン層が形成されると述べている。
【0106】
この知見と先に述べたフィラー濃度低下現象とフアウンテン・フローの関係を踏まえると、これまでのフィラー濃度低下現象による表面抵抗率不均一問題・フィラーの配向による表面抵抗率の増加等の問題を解決する手段として流動先端部において、フアウンテン・フローと自由表面を分離させることができるラッピング成形法を応用できる。これにより樹脂基CNT複合材料を用いて高品質の静電防止材(この場合、表面抵抗率が成形品内で均一、且つ高い導電性を持つ)を作製することが可能であると考えられる。
【0107】
(1)供試材料VGCF150
気相成長炭素繊維(Vapor Grown CarbonFiber:VG150)を用いた。VG150は気相成長法により合成された高結晶性のカーボンナノファイバーである。VGCFは1100℃に加熱した還元性雰囲気の反応器中で、金属の超微粒子を触媒として炭化水素を気相分解させ、金属粒子を核として長さ数百μmまで成長させた繊維状炭素である。核となる金属粒子の大きさにより、50mm〜1μmの直径を有する。このうち、直径50nm〜200nmのものを特に気相成長炭素ナノ繊維(VGCNF)と呼ぶ。これらの観察より、直径80〜200mm(平均直径150μm)であることがわかる。
【0108】
(成形品の表面抵抗率改善に関する検討)
(ポリカーボネート)
上記したもの
(PC/MWCNT複合材料)
これまでの研究で用いてきたPCcArrを用いる。
(PC/VG150複合材料(PCvg150)
本実験では、コア材の流動状態を把握することを目的にPCcNTと区別するためにMWCNTとは異なる短炭素繊維をPCに混ぜ、新たに複合材料を作製した。マトリクス樹脂にPC、フィラーにVG150を用いた。これらを混練機により溶融混練を行って作製した。これをPCvg150とする。
【0109】
(混練)
本実験では共試材料のPCvg150は新たに混練することにより用意した。
通常射出成形する際、射出成形機のスクリューによりフィラーとマトリクス樹脂が混ざり合う効果が発現するが、短繊維含有樹脂を射出成形する場合、この効果のみでフィラーをマトリクス樹脂中へ一様に分散させることは困難である。そのため、ラボブラストミルによってフィラーとマトリクス樹脂を溶融混練してペレット化した後に射出成形を行った。
【0110】
本実施例では、マトリクス樹脂中にフィラーを一様に分散させるために株式会社東洋精機製作所のラボブラストミル(50C150)を使用した。この装置は加熱されたミキサー部に投入されたフィラーとマトリクス樹脂を定速回転する二本のスクリュー間及びスクリューとミキサー内壁の間で溶融混練するものである。
【0111】
(混練条件)
混練条件はこれまでの本研究室で行ってきた混練条件を参考に定めた。
【0112】
(射出成形)
本実験では、上述したラッピング成形装置を用いて実験を行った。
【0113】
(1)金型
これまでの試験片では、キャビティ内中央部付近でコア材がスキン材よりも前に先行してしまうブレイク・スルー現象が起こるために、完全なサンドイッチ構造を作製することはできなかった。表面抵抗率測定用試験片の作製の際にはこのような現象を抑制し、サンドイッチ構造を得やすくするため、新たに試験片用金型を設計・製作を行った。
【0114】
試験片の全長を16×20×1と従来の試験片に比べてアスペクト比を低くすることにより、ブレイク・スルーが起こる可能性を少なくした。また、スプルーからキャビティ内へのゲート部の絞りを排除し、サンドイッチ構造成立への障害となりうる要素を除外した。
【0115】
図16に試験片の概要を示す。またこの金型で得られたラッピング成形表面抵抗率測定用試験片の成形品の例(PC/PCcNT)を図17に示す。この場合、ゲート付近から10mmほどはスキン層に透明なPC層・コア層に黒い複合材料が形成されラッピング成形が成立しているが、成形品の端の方はブレイク・スルーが起こりスキン層よりも外側に複合材料が表層部を形成している。
【0116】
(ラッピング成形法による表面抵抗率低減処理)
本実験ではPC・PCCNT・PCvg150の3種類の材料について、複数のスキン層/コア層を組み合わせて行った。
【0117】
表4に、試験片番号と、スキン層・コア層の組合せをまとめたものを示す。
【0118】
【表4】
(表4)
【0119】
まずコア層とスキン層にPC/PCNTを用いてラッピング成形を行い、表面抵抗率を評価する(PC/PCNT及び、PCNT/PC)。またスキン層とコア層の両方にPCNTを充填する組合せを試みた(PCNT/PCNT)。そしてPCNTを同じ金型に通常射出したもの(PCNT)を圧力を20kg/cm2と90kg/cm2の二通りの条件を設定し、PCNT/PCNTと表面抵抗率の比較を行った。
【0120】
表5に成形条件を示す。
【0121】
【表5】
(表5)
【0122】
コア層にPCを充填する際には、PCの粘度はPCNTに比べて低いのでスキン層とコア層の粘度を揃える目的として、PCの樹脂温度を成形温度限界の270℃とした。また条件・PCCNT及びPCの場合、金型温度を通常の射出条件に合わせる目的で100℃としている。
【0123】
(電気的特性の評価)
図18に、各条件により成形された試験片の表面抵抗率を示す。このときPC/PCCNT及びPCCNT/PCとPCの3種類の試験片に関しては、表面抵抗率が測定器の測定範囲(〜107Ω/sq)を超える値を示したため、PC/PCNT及びPCNTPCは測定不能と記し、PCに関してはスペックからの参考値を掲載する。PC/PCNT及びPCNTPCが測定値を超えてしまった理由としてPCの表面抵抗率が〜1016Ω/sqと非常に高いために、成形品表層部で形成された極薄い膜によって絶縁されていると考えられる。
【0124】
PCCNT単独の射出成形品の表面抵抗率の値は、前述で計測した値と同様の傾向を示している。射出圧力が高ければ、フィラー密度が高くなり、結果として表面抵抗率が下がったとみられる。
【0125】
また、同じPCCNT同士をラッピング成形したものの試験片の表面抵抗率は、同じ成形条件で行ったPCCNT単独の射出成形品に比べて、100分の1ほどの値を示している(図18)。これは、PCCNTが本来持つ抵抗率とほぼ同等の値である。これは、ラッピング成形法を利用してキャビティ内流れの流動先端部においてフアウンテン・フロー現象と、スキン層形成過程を分離したことにより、成形品表層部近傍におけるフィラーの配向と濃度低下現象が起こらなかったためだと考えられる。
【0126】
(成形品の断面観察)
次にPCNT/PCNT、PCNT及びPC/PCNTの断面観察を行った。それぞれの試験片を流動方向へ凍結破断法により破断させたものを電子顕微鏡で観察し、成形品表層部近傍から深さ方向へのフィラーの配向角の分布とフィラー濃度について測定を行った。
【0127】
また図19に成形品表面から深さ方向へ向かってフィラー濃度を測定したものを示す。表面抵抗率を測定した近傍を3点ほど抽出して測定を行い、その平均値を検討する。
【0128】
PCCNTを単独で射出成形を行った成形品内では、これまでの断面観察と同じように深さ0〜10μmの領域において、フィラー濃度が著しく低下している様子が観察できた。
【0129】
一方、PCCNT/PCCNTの成形品内では、深さ0〜10μmの領域においてフィラー濃度の低下現象はほとんど観察されなかった。この結果から、前述したようにラッピング成形では成形品表層部近傍におけるフィラー濃度低下現象を抑制できることが示された。
【0130】
また、図20および図21に、それぞれの成形品において表面から深さごとに存在するフィラーの配向角を示す。これからラッピング成形を行った成形品は、単独射出成形で成形したものと比べて0°付近への配向が弱い。特に、表面抵抗率に大きな影響を及ぼすと考えられる深さ0〜15μmの領域において、通常の射出成形によって成形されたものが−5〜5°の間にフィラー角度が集中し、流動方向に強い配向を示しているが、一方のラッピング成形により成形されたもののフィラー角度は、−45〜45°辺りに分散している。これらの違いにより、フィラー同士の接触点が増加したと考えられ、結果的に導電パスが形成されたことにより表面抵抗率が低下した。
【0131】
図22、図23に、それぞれの断面SEM写真を示す。
通常射出成形を行った成形品内のフィラー存在角度は低い分散値をとっている。これは、フィラーが0°付近に集中していることに起因している。それに対してPCNT/PCNTやPCNTPCなどのラッピング成形された成形品は高い分散を示している。これは、フィラーが流動方向(0°付近)に配向せずに配向がランダムになっているためだと考えられ、ラッピング成形法がフィラーの配向抑制に有効であることが示された。
【0132】
(ラッピング成形品でのコア層内のフィラー状態)
またコア層にPCvg150を用いた場合成形品の表面抵抗率は測定範囲(〜107Ω/sq)を超えてしまったため測定できなかった。これは5wt.%でVG150を混ぜたPCvg150ではスキン材であるPCCNTに比べて粘度が低く、早い段階でコア層がスキン層を突き破って成形が進むブレイク・スルーが起こったことが考えらる。それに加えてフィラーのかさ密度が小さいために成形品内でのフィラー同士が十分に接触点を持てず導電パスを形成されないためにパーコレーションが起こらない状態にある。そのため、抵抗率が高くなったと推測される。
【0133】
ここで、コア材内のフィラーの存在状態を調べることよってラッピング成形内での樹脂の挙動を推測する。PCCNT/PCvg150の成形品についてコア層内のフィラーの状態を調べるために断面観察を行った。
【0134】
スキン層に存在するフィラーはMWCNT、コア層に存在するフィラーはVG150である。両フィラーは太さが違うので一目瞭然であるが、かさ密度の小さいVG150はマトリクス内での数密度はMWCNTのそれと比べて極めて低い。またフィラー自身の長さがVG150は数卜皿とMWCNTに比べて短いのでフィラー同士の接触が少なく、導電パスを形成できていないことが伺える。
【0135】
無作為に3点を選んで測定したものに加えて3点の平均値の結果からコア材側のスキン層とコア層の境界でコア層側のフィラー濃度が低下していることがわかる。通常、ラッピング成形においてコア材はスキン層の中をフアウンテン・フロー現象を伴って進むと考えられている。フアウンテン・フロー現象が起こることによりスキン層とコア層の境界でフィラー濃度低下現象が起きていると考えられる。よってフアウンテン・フロー現象が成形品表層部近傍でのフィラー濃度低下現象に深い影響を及ぼしていることをさらに裏付ける結果となった。
【0136】
(ラッピング成形によるフィラーの配向・濃度低下抑制モデル)
以上の研究から、ラッピング成形法によりフィラーの配向及び、成形品表面近傍における濃度低下現象を抑制することができることがわかった。
【0137】
これまでの知見を総合して、ラッピング成形によるフィラーの配向・濃度低下抑制モデルを以下に示す。
【0138】
まず、キャビティ内に先行して射出されたスキン材は、金型によって冷却され粘度が上昇する。そして、後方から射出されるコア材はスキン材の中をフアウンテン・フローを伴って進行する。この間、スキン材とコア材の境界は混ざり合うことなくスキン層とコア層が形成されていく。
【0139】
スキン材は流動先端部において内側からコア材に押されるように膨張していく。スキン材内部では、フアウンテン・フロー現象は起こらず、金型壁面近傍ではキャビティ内流速と金型壁面との相対的な速度から引張応力がかかることによりスキン層は単純に引き伸ばされていく。
【0140】
この時キャビティ内流速の際が引張応力の大小に影響し、スキン層のフィラー密度が変化する)。例えば、キャビティ内流速が速ければ引張応力が大きくなり、スキン層が強く引き伸ばされる。その結果マトリクスが膨張し単位体積辺りに含まれるフィラーが減少し、フィラー密度が低下する。しかし、前述のキャビティ内流速と表面抵抗率の関係を見ると、この現象による密度低下は表面抵抗率には影響しないと思われる。
【0141】
また、引き伸ばされる際に内部には流速差分によるせん断速度は生じないため、フィラーの配向現象が起こりづらい。その際、フィラーは配向せずにスキン層へ形成されるので、成形品表面近傍においてフィラーの流動方向への配向は起こらないと考えられる(図42)。
【0142】
また、成形品表面近傍における極端なフィラー濃度低下現象が前で述したモデルにおいて起こると仮定すると、フアウンテン・フロー現象を伴って流動・進展してきたコア材は、樹脂流速の変化に起因する圧力低下が内部で起こる.その際、フィラーは圧力の低い方へ移動することによって、スキン層とコア層の境界付近で極端なフィラー濃度低下現象が起こる。
【0143】
また、スキン層においては、前述したようにフアウンテン・フロー現象は起こらないので、樹脂内部の圧力低下が起こらないと推測される。そのため、スキン層表層部近傍のフィラーは移動することなく成形品表層部を形成するため、成形品表層部近傍では極端なフィラー濃度低下現象が起こらない。また、それに加えて前述のアニーリングで得られた知見より、先に射出されたスキン材は、比較的長い時間を流動先端部に存在し続ける。すると、流動先端部自由表面は、アニーリングされているのと同じような状態になり、フィラー濃度の均一化、フィラーの配向緩和が促進される。
【0144】
これらの要因の結果、ラッピング成形法を行うと、成形品表層部近傍のフィラー濃度が均一で、流動方向へのフィラー配向が抑えられた、表面抵抗率が各成形品内で均一な静電防止材が作製できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】実施例A−1で得られた試験片の板厚方向表層部のSEM写真である。
【図2】図3(a)は、図2に示す試験片表層部近傍の深さ0〜60μmの領域における充填材の数密度を示すグラフである。図3(b)は、本発明により得られた試験片表層部近傍の深さ0〜60μmの領域における充填材の数密度を示すグラフである。
【図3】ショート・ショット成形不良品の試験片の流動先端部自由表面上を拡大したSEM写真である。
【図4】スキン層用溶融器の構成を示す模式断面図である。
【図5】充填材の成形品表面から深さ方向への配向角度を示すグラフである。
【図6】通常の射出成形と、スキン/コア成形の表面抵抗率の比較を示すグラフである。
【図7】実施例で用いた実験装置の概要を示す模式断面図である。
【図8】キャビティ内流速と、圧力センサで測定された圧力波形の関係の一例を示すグラフである。
【図9】図15(a)は、キャビティ内流速125mm/sの条件下の成形により得られた成形品の、ゲートから20mmの面における光学顕微鏡写真である。図15(b)は、ゲートから50mmの面における光学顕微鏡写真である。
【図10】図16(a)は、キャビティ内流速625mm/sの条件下の成形により得られた成形品の、ゲートから20mmの面における光学顕微鏡写真である。図16(b)は、ゲートから50mmの面における光学顕微鏡写真である。
【図11】アニーリング前後における表面抵抗率変化の一例を示すグラフである。
【図12】各アニーリング条件における表面抵抗率変化の一例を示すグラフである。
【図13】アニーリング前の試験片の流動方向断面を示すSEM写真である。
【図14】アニーリング後の試験片の流動方向断面を示すSEM写真である。
【図15】アニーリング前後における成形品表層部近傍フィラー濃度変化の一例を示すグラフである。
【図16】ラッピング成形品の表面抵抗率測定用試験片の概要を示す模式図である。
【図17】PC/PCCNT成形品の一例を示す写真である。
【図18】図33(a)は、スキン/コアの組合せと表面抵抗率の関係の一例を示すグラフである。図33(b)は、PCCNT/PCCNTとPCCNTとの表面抵抗率の比較の一例を示すグラフである。
【図19】図34(a)は、PCCNTにおける成形品表面からの深さとフィラー濃度との関係の一例を示すグラフである。図34(b)は、PCCNT/PCCNTにおける成形品表面からの深さとフィラー濃度との関係の一例を示すグラフである。図34(c)は、PCCNT/PCにおける成形品表面からの深さとフィラー濃度との関係の一例を示すグラフである。
【図20】成形品表面からの深さ、フィラーの配向角および存在割合の関係の一例を示すグラフである。(a)は深さ0〜5μm、(b)は深さ5〜10μm、(c)は深さ10〜15μm、(d)は深さ15〜20μmの各条件におけるグラフである。
【図21】成形品表面からの深さ、フィラーの配向角および存在割合の関係の一例を示すグラフである。(e)は深さ20〜25μm、(f)は深さ25〜30μm、(g)は深さ30〜35μm、(h)は深さ35〜40μmの各条件におけるグラフである。
【図22】PCCNTの断面を示すSEM写真である。
【図23】PCCNT/PCCNTの断面を示すSEM写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスと、該中にマトリックス中に分散されたフィラーとを少なくとも含む複合材料であって;
該複合材料の表面から深さ5μm以下までの領域(a領域)のフィラー濃度(数密度)をFaとし、該表面から深さ20μm以上の領域(b領域)のフィラー濃度をFbとした際の、それらの比(Fa/Fb)が、0.7以上であることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記フィラーが、繊維状の形状を有する請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記フィラーが、炭素繊維である請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記炭素繊維が、カーボンナノチューブ(CNT)または気相成長炭素繊維である請求項3に記載の複合材料。
【請求項5】
複合部材の形状を有する請求項1〜4のいずれかに記載の複合材料。
【請求項6】
フィラーとマトリックスを含む成形用材料を金型に流入させる際に,流動先端部自由表面におけるフィラーの無秩序な移動を抑制および金型壁面とのせん断応力を低減することにより,樹脂中のフィラー濃度およびフィラーの配向を制御することを特徴とする複合材部材の製造方法。
【請求項1】
マトリックスと、該中にマトリックス中に分散されたフィラーとを少なくとも含む複合材料であって;
該複合材料の表面から深さ5μm以下までの領域(a領域)のフィラー濃度(数密度)をFaとし、該表面から深さ20μm以上の領域(b領域)のフィラー濃度をFbとした際の、それらの比(Fa/Fb)が、0.7以上であることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記フィラーが、繊維状の形状を有する請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記フィラーが、炭素繊維である請求項2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記炭素繊維が、カーボンナノチューブ(CNT)または気相成長炭素繊維である請求項3に記載の複合材料。
【請求項5】
複合部材の形状を有する請求項1〜4のいずれかに記載の複合材料。
【請求項6】
フィラーとマトリックスを含む成形用材料を金型に流入させる際に,流動先端部自由表面におけるフィラーの無秩序な移動を抑制および金型壁面とのせん断応力を低減することにより,樹脂中のフィラー濃度およびフィラーの配向を制御することを特徴とする複合材部材の製造方法。
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図1】
【図3】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図17】
【図22】
【図23】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図1】
【図3】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図17】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2009−280746(P2009−280746A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136012(P2008−136012)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
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