説明

均一耐候性コーティングを付与する方法

比較的均一な厚みを有する耐候性コーティングシステムをプラスティックパネルにフローコーティング、ディップコーティングまたはカーテンコーティングする方法が提供される。さらに詳細には、この方法はコーティングされた部品の頂上部近くで測定された厚みと底部近くで測定された厚みとの差異を最低にするために、後続のコーティング層の適用間において、プラスティックパネルを回転させる工程を包含する。コーティングは予め定められたコーティング角度(ψ)でプラスティックパネルに適用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(分野)
本発明は、コーティングがフローコーティング法、ディップコーティング法またはカーテンコーティング法によって適用される塗被部品、例えば自動車部品に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
プラスティック部品、例えば自動車窓ガラス用のポリカーボネート窓(window)へのプライマーおよび耐候性シリコーンハードコートの適用は典型的には、フローコーティング法を用いて行なわれる。常用されているフローコーティング法において、コーティングは第一貯蔵槽からホースおよびノズルを経てポンプで供給され、次いで部品の頂上部(top)近くの位置で部品表面に適用される。コーティングはその運搬手段として重力を用い、そこから部品の面を覆って降下流動する。過剰のコーティングはいずれも、窓の底部を離れ、浅い第二貯蔵槽中に排出される。この第二貯蔵槽中の過剰コーティングは次いで、濾過され、溶剤比が測定され、次いで蒸発により生じた損失が調整され、その後第一貯蔵槽に戻され、別の部品に適用される。この方式の方法は大型の平坦ではない部品、例えば成型ポリカーボネート窓などのコーティングを可能にする。
【0003】
しかしながら、フローコーティングは均質コーティング厚み様相での適用ができないという欠点を有する。この現象は「ウエッジ効果」(wedge effect)と称される現象によるものである。このウエッジ効果は、コーティングの重力による部品表面における降下流動、コーティング中の溶剤の蒸発速度およびコーティングが示す流動学的流動性によって生じる。類似の効果がまた、ディップコーティング法またはカーテンコーティング法のどちらかを用いるコーティングの適用においても見出される。この効果によって、コーティング厚みは部品の頂上部分と底部部分との間で広範な変動を示すことがある。この変動は、その上のコーティング流動が長くなる部品表面の長さに応じて増大する。コーティング厚みにかかわるこのような変動の最終的結果として塗被部品が示す性質は変動する。一例として、分散UVA分子を含有するフローコーティングされた耐候性コーティングはその下の部品に対しコーティング中のUVAの量に基づく耐候性を付与する。この場合、コーティング層が厚いほど部品の表面上に存在するUVAの量は多くなり、これにより高い度合いの防護がもたらされる。従って、部品の頂上部部分(薄いコーティング層)が示す耐候性の程度は、部品の底部部分(厚いコーティング層)に比較して弱い。
【0004】
均一な厚みのコーティングを適用するために知られている多くの別種のコーティング技術、例えばスプレイコーティングまたはスピンコーティングは多くの種類のコーティングを用いて使用することはできない。一例として、シリコーンハードコートの化学的性質は、これらを実質的な欠損、例えばゆず肌および表面曇りなどを伴うことなく容易に噴霧適用することを不可能にする。別種の技術、例えばスピンコーティングは別の種類の欠損、例えば光学的に透明な平坦でない部品(例えば、窓)に対し流れすじおよびコーティング流れなどの欠陥を生じさせる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、部品がその塗被表面領域全体にわたり類似の性質を示すことができるように、部品表面に均一なコーティング厚みを付与するフローコーティング法、ディップコーティング法またはカーテンコーティング法の開発が本産業界で求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(要旨)
常用されているフローコーティング法またはディップコーティング法を用いるプラスティックパネルに対するコーティングの適用にかかわる欠点および限界を克服するために、比較的均一厚みを有する耐候性コーティングシステムを備えたプラスティックパネル用フローコーティング法が提供される。本コーティング法は、プラスティックパネルを地面に対し予め定められたコーティング角度(ψ)で配置する;第一末端から第二末端まで、プラスティックパネルの少なくとも一方の面上に第一コーティング層を適用する;この第一コーティング層をプラスティックパネル上で部分的に蒸発分離または乾燥させる;このプラスティックパネルを約180度回転させる;第一コーティング層の頂上部分に第二末端から第一末端まで、プラスティックパネルの少なくとも一方の面上に第二コーティング層を適用する;この第二コーティング層をプラスティックパネル上で部分的に蒸発分離または乾燥させる;次いでプラスティックパネル上の第一コーティング層および第二コーティング層を硬化させる;ことを包含する。
【0007】
本発明の一態様において、第一コーティング層と第二コーティング層とは組成が相違するか、または組成が類似である(similar)ことができる。相違する組成のコーティング層の例には、これらに制限されないものとして、アクリル系プライマーとシリコーンハードコートとを包含する。
【0008】
本発明のもう一つの態様において、フローコーティング法は自動式方法である。このような自動式方法の例には、ディップコーティングおよびカーテンコーティングがある。
【0009】
本発明のもう一つの態様において、部品を回転させる前および第二コーティング層を適用する前に第一コーティング層を硬化させる。第一コーティング層および第二コーティング層は熱的加熱、照射線への暴露またはその組合せによって硬化させることができる。
【0010】
本発明のさらにもう一つの態様において、予め定められたコーティング角度(ψ)は約170度〜約90度である。第一コーティング層および第二コーティング層はプラスティックパネルの両面に適用することができる。
【0011】
本発明のさらにもう一つの態様において、この方法は少なくとも1種の追加の保護コーティング層を塗被部品の表面上に適用する追加の工程を包含する。この追加の保護コーティング層は真空蒸着技術、例えば中でも、膨張性熱プラズマ(expanding thermal plasma)PECVDによって適用することができる。
【0012】
本発明の追加の分野については、本明細書に与えられている記載から明白になるであろう。説明および特定の例は、例示の目的のみのものであって、本明細書の範囲を制限しようとするものではないものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
(図面の簡単な説明)
本明細書に記載されている図面は、例示の目的のみのものであって、本明細書の範囲をいかなる点でも制限しようとするものではない。
【0014】
【図1】図面1は本発明の一態様に従うプラスティック部品用フローコーティング法の図解図である。
【図2A】図面2Aは図1からA−Aに沿って描写されている常用されているフローコーティングによって得られたコーティングの様相を示す横断面図である。
【図2B】図面2Bは図1からB−Bに沿って描写されている本発明の一態様に従い得られたコーティングの様相を示す横断面図である。
【図3】図3は位置(頂上部から底部まで)の関数としてグラフに描かれている常用されているフローコーティング法を用いて塗被された部品について予測される成形寿命を示すグラフである。
【図4】図4は位置(頂上部から底部まで)の関数としてグラフに描かれている本発明の一態様に従うフローコーティング法を用いて塗被された部品について予測される成形寿命を示すグラフである。
【図5A】図5Aは約90度のコーティング角度(ψ)を示すフローコーティングステーションの図解図である。
【図5B】図5Bは約150度のコーティング角度(ψ)を示すフローコーティングステーションの図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(詳細な説明)
下記記載は全体として単なる例示であり、本明細書の記載あるいはその適用または使用をいかなる点でも制限しようとするものではない。本明細書および図面全体を通し、相当する参照番号は類似または対応する部分および特徴を示すものと理解されるべきである。
【0016】
図1を参照するに、頂上部12および底部13を有するプラスティック部品11は、本発明の一態様に従う複数の処理ステーションを経て部品11を輸送する手段上に設置されている。部品11はプラスティック部品11の頂上部12近くに位置する保持用タブまたは数種の別の把握用具を介し保持することができる。プラスティック部品11はフローコーティングステーション15に移動し、ここでコーティング18はノズル17を通りプラスティック部品11上を流動させる。コーティング18は部品11の頂上部12から部品11の底部13に流動される。部品11に適用されるに従い、コーティング18は次いで、蒸発分離帯域20において部分的に「乾燥」させる。この期間中に、溶剤はコーティング18から蒸発し、コーティングは固化し、部品11に付着する。部品11上のコーティング18を硬化工程25に付し、ここで残留する溶剤の全部を蒸発させ、コーティング18をさらに架橋させる。これにより、その機械的性質および化学的性質が増強され、またその部品11への付着が強化される。場合により、硬化工程は迂回することができ、コーティングを「乾燥」させるのみにすることができ、その後、部品の回転および第二コーティング層の適用を行うことができる。
【0017】
硬化工程25の完了後、塗被部品は約180度回転30させ、次いで第二フローコーティングステーション35に移動させる。このステーション35において、コーティング38はノズル37を経て部品11上に適用されている硬化されたコーティング18上を流動させる。コーティング38は部品11の底部13から部品11の頂上部12に流動される。このコーティング38は部品11上にすでに適用されているコーティング18の表面上に適用し、次いで蒸発分離帯域40において部分的に「乾燥」させる。この期間中に、溶剤はコーティング38から蒸発され、コーティングは固化され、その下に存在するコーティング18の表面上に付着される。次いで、このコーティング38を硬化工程45に付し、ここで残留する溶剤の全部を蒸発させ、コーティング38をさらに架橋させる。これにより、その機械的性質および化学的性質が増強され、また部品11上のその下塗りコーティング18への付着が強化される。コーティング18の硬化が上記のとおりに迂回される場合、コーティング38の硬化がまた、コーティング18を硬化させることができる。
【0018】
ディップコーティング法またはカーテンコーティング法を使用し、同様の処理を行うことができる。カーテンコーティングは本質的に、フローコーティングの自動式変法であり、この場合、部品を落下しているカーテン状コーティング中に移動させるか、または落下するカーテン状コーティング中を通過させる。部品から流れ出る過剰のコーティングはトラフに収集し、落下するカーテン状コーティング中にもう一度流動する地点までポンプで押し戻す。ディップコーティングはコーティングを含有するタンク中への部品の浸漬を包含する。浸漬タンクから部品を引き上げる際、フローコーティング法およびカーテンコーティング法で見出されるものと類似する「ウエッジ効果」が生じる。
【0019】
ここで図2Aを参照するに、コーティング18がフローコーティングされた後のプラスティック部品11の横断面が図1のラインA−Aに沿って示されている。この横断面は、部品へのフローコーティング技法を用いるコーティングの適用の場合に通常的に見出されるものと類似するコーティング厚み様相を示している。コーティングにかかわる当業者は、ディップコーティングおよびカーテンコーティングによって適用されたコーティングと類似の厚み様相が見出されることを認識するであろう。部品12の頂上部におけるコーティング18の厚みはDで示されている。フローコーティング適用期間中、コーティングのウエッジが生成され、この結果として、部品11の底部13におけるコーティング18の厚みは部品11の頂上部におけるコーティング18の厚みよりも厚くなる。この部品底部13におけるコーティング18の厚みはDで示されている。換言すれば、DはDよりも厚い。厚み勾配が部品頂上部近くの最も薄いコーティングから部品底部近くの最も厚いコーティングとして見出される。第二コーティング層が常用されているフローコーティング法に従い部品11上にフローコーティングされる場合、部品の頂上部近くに適用されたコーティングと底部近くに適用されたコーティングとの総合的厚み変動はより大きくなる。この現象の最終的な結果は、その部位(例えば、部品の頂上部に近いか、底部に近いかに関して)の影響によって生じる、コーティング性能の顕著な変動の潜在的な原因となる。
【0020】
一方図2Bを参照するに、本発明の一態様に従いコーティング18およびコーティング38の両方がフローコーティングされた後のプラスティック部品11の横断面が図1のラインB−Bに沿って示されている。部品13の底部におけるコーティング18およびコーティング38の厚みはDで示されている。フローコーティング適用期間中、コーティング38のウエッジがまた生成される。しかしながら、部品11は約180度回転されていることから、部品11の底部13におけるコーティング38の厚みは部品11の頂上部におけるコーティング38の厚みよりも薄い。この部品12の頂上部におけるコーティング18およびコーティング38の総合厚みはDで示されている。換言すれば、DをDに類似するものとすることができる。この態様は部品11の頂上部12から底部13まで実質的に均一のコーティング厚み(D3〜D4)を有する塗被部品を生成することができることを証明している。しかしながら、顕著に向上した性能を示すコーティングを得るためにはDとDとがほぼ等しくなくてもよいことは当業者に認識されることである。本発明のフローコーティング法を用いることによって得られる頂上部近くのコーティングと底部近くのコーティングとの間の厚み変動にかかわる減少は、常用されているフローコーティング法を用いてコーティングされた部品が示す性能における改良を示す。第一フローコーティングが部品の底部から頂上部まで適用され、さらに第二フローコーティングが部品の頂上部から底部まで適用されている場合、ならびに2種以上のコーティングまたはコーティング層が適用されている場合、類似の効果が見出されることは当業者がまた認識できることである。
【0021】
場合により、本発明のフローコーティング法、ディップコーティング法およびカーテンコーティング法はコーティング層の厚みを増すための別の手段と組合わせることができる。このような別の手段は、これらに制限されないものとして、(a)部品に適用されるコーティングの固体含有量を増加する;(b)コーティングを流動適用する際および/またはコーティングを乾燥または蒸発分離させる期間全体にわたり、部品の地面に対する角度を90度よりも小さく設定する;(c)コーティングされる部品の頂上部に犠牲的プラスティックタブを用意する;または(d)多層適用法でコーティングを付与する;手段を包含する。
【0022】
プラスティック部品11は、あらゆる熱可塑性または熱硬化性プラスティック樹脂であることができる。このようなポリマー樹脂は、これらに制限されないものとして、ポリカーボネート、アクリル系、ポリアリーレートポリエステル、ポリスルホン、ポリウレタン、シリコーン、エポキシ、ポリアミド、ポリアルキレン、およびアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、ならびにそのコポリマー、ブレンドおよび混合物を包含する。プラスティック部品11は当業者にとって公知のあらゆる技術、例えば成型、熱成形または押出し技術を用いて形成することができる。
【0023】
もう一つの態様において、部品11は射出成形された自動車用プラスティック窓またはパネルである。典型的には、プラスティック窓は実質的に、透明な領域から構成されているが、不透明な領域、例えばこれらに制限されないが、不透明な枠または縁を含むことができる。窓の形成に使用するのに好適な透明熱可塑性樹脂は、これらに制限されないものとして、ポリカーボネート、アクリル系、ポリアリーレート、ポリエステル、およびポリスルホン、ならびにそのコポリマーおよび混合物を包含する。
【0024】
本発明によるフローコーティング法、ディップコーティング法またはカーテンコーティング法により適用されるコーティング18およびコーティング38は、これらに制限されないものとして、シリコーン、ポリウレタン、アクリル系、ポリエステル、ポリウレタン−アクリレート、およびエポキシ、ならびにその混合物またはコポリマーを含むことができる。これらのコーティングは好ましくは、紫外線(UV)吸収分子、例えば中でもヒドロキシフェニルトリアジン、ヒドロキシベンゾフェノン、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール、ヒドロキシフェニルトリアジン類、ポリアロイルレゾルシノール、2−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,6−ジベンゾイルレゾルシノール)(SDBR)、4,6−ジベンゾイルレゾルシノール(DBR)、およびシアノアクリレートを包含する。
【0025】
コーティング18およびコーティング38は、単一のコーティング組成を得るために、または相違する組成を有する相違する層をもたらす相違する組成を得るために同一または類似していることができる。後者の場合、相違する層はプライマーコーティング18およびトップコート38を包含することができる。プライマーコーティング18はトップコート38のプラスティック部品11への付着を高めることができる。プライマーコーティングの例は、これらに制限されないものとして、アクリル系、ポリエステル、エポキシおよびそのコポリマーおよび混合物を包含することができる。トップコート38は、これらに制限されないものとして、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルフルオライド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、シリコーン、ポリメタアクリレート、ポリアクリレート、ポリビニリデンフルオライド、シリコーンハードコート、およびその混合物またはコポリマーを包含することができる。相違するコーティング層を含むコーティングシステムの特定の例の一つは、アクリル系プライマー(SHP401またはSHP470、Momentive Performance Materials、Waterford、NY)とシリコーンハードコート(AS4000またはAS4700、Momentive Performance Materials)との組合せを包含する。
【0026】
プライマーコーティング18およびトップコート38のいずれか、または両方に、種々の添加剤、例えば中でも、着色剤(彩色剤)、レオロジー制御剤、離型剤、酸化防止剤、およびIR吸収性または反射性顔料を添加することができる。このような添加剤の種類および各添加剤の量はいずれか選択された用途、例えば自動車用窓における使用にかかわる仕様および要件に適合させるために、プラスティック部品に要求される性能によって決定される。
【0027】
硬化されたコーティング18およびコーティング38のそれぞれの厚みは、1マイクロメーターよりも薄い厚みから約75マイクロメーターよりも厚い厚みまでの範囲であることができる。これらのコーティングは熱的加熱、UV照射、またはその混合または組合せによって硬化させることができる。総合的コーティング厚みにおける最小の変動が、コーティング18およびコーティング38のそれぞれの平均厚みがほぼ均等である場合にも生じる。この場合、各コーティング18およびコーティング38中における添加剤の量を類似するようにすると、部品の塗被表面全体(頂上部から底部まで)の領域で均一の性質を示す部品が得られる。
【0028】
本発明のもう一つの態様において、2層のコーティング組成が類似している場合、最初に適用された層の硬化工程を省略することができる。蒸発分離または「乾燥」期間は、「乾燥されている」第一層を顕著に再溶解させることなく第二層の適用を可能にするのに充分な期間であることができる。第一層を第二層の適用前に充分に硬化させた場合、これら2種の層は相互に適切に付着することができないことがある。
【0029】
場合により、フローコーティング法、ディップコーティング法およびカーテンコーティング法により適用され、次いで実質的に硬化されたコーティング18およびコーティング38は、磨耗耐性薄膜を沈着させることにより上塗りすることができる。この磨耗耐性薄膜は一層または種々の組成を有する複数の内部層の組合せのどちらかを含んでいる。磨耗耐性薄膜は、これらに制限されないものとして、プラズマ−強化化学蒸着(plasma−enhanced chemical vapor deposition)(PECVD)、エクスパンション熱プラズマ(expanding thermal plasma)PECVD、プラズマ重合、光化学蒸着、イオンビーム沈着、イオンメッキ沈着、カソードアーク沈着、スパッタリング、蒸発、中空カソード活性化沈着、マグネトロン活性化沈着、活性化反応性蒸発、熱化学的蒸着、およびいずれか全ての公知ゾル−ゲルコーティング法を包含する当業者に公知のあらゆる真空蒸着技術により適用することができる。
【0030】
本発明の一態様において、磨耗耐性薄膜の沈着に使用される特定の形式のPECVD法としてはエクスパンション熱プラズマPECVD反応器を含む特定の方法が好適である。この特定の方法(以下の記載において、エクスパンション熱プラズマPECVD法と称する)は、米国特許出願10/881,949(06/28/2004出願)および米国特許出願11/075,343(03/08/2005出願)に詳細に記載されている。エクスパンション熱プラズマPECVD法において、プラズマは不活性気体雰囲気中で対応するアノードプレートにアークするカソードに対し直流(DC)電圧を適用することによって発生させる。カソード近くの圧力は典型的には、約150Torrよりも高く、例えば大気圧近くにし、他方で、アノード近くの圧力は約20mTorr〜約100mTorrのプラズマ処理室内に確立されている処理圧力近くにする。この大気圧近くの熱プラズマを次いで、プラズマ処理室中で超音波により膨張させる。
【0031】
エクスパンション熱プラズマPECVD法用の反応剤は、例えばオクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、ビニル−D4またはその他の揮発性有機ケイ素化合物を含むことができる。この有機ケイ素化合物はアークプラズマ沈着装置内で、典型的には酸素および不活性気体、例えばアルゴンの存在下に酸化され、分解され、次いで重合され、磨耗耐性薄膜を形成する。
【0032】
磨耗耐性薄膜は酸化アルミニウム、フッ化バリウム、窒化ホウ素、酸化ハフニウム、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化スカンジウム、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、ケイ素オキシ−カーバイド、水素添加ケイ素オキシ−カーバイド、炭化ケイ素、酸化タンタリウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化スズインジウム、酸化イットリウム、酸化アエン、セレン化アエン、硫化アエン、酸化ジルコニウム、チタン酸ジルコニウム、またはその混合物または配合物を含むことができる。好ましくは、磨耗耐性薄膜は沈着した薄膜に残る炭素原子および水素原子の量に応じてSiOからSiOまでの範囲の組成から構成される。
【実施例】
【0033】
下記の特定の例は本発明を例示するために示すものであり、本発明の範囲を制限するものと考えられるべきではない。
【0034】
例1−常用されているフローコーティング
ポリカーボネートパネルに常用されている方法によって、機能性紫外線吸収剤(UVA)をほぼ含有していないアクリル系プライマー(例えば、SHP−9X、Exatec,llc,Wixom,Michigan)をフローコーティングし、次いで蒸発および硬化させた後、このプライマーの上に充分のUVAを含有するシリコーンハードコート(例えば、SHX、Exatec,LLC)を上塗りし、10年間耐候性コーティングを形成する。このフローコーティングの基本的性質によって、部品には部品頂上部上のコーティングが部品底部のコーティングよりも薄い、いわゆる「ウエッジ効果」が存在する。シリコーンハードコートを長さ730mmx幅730mmx厚み4mmのポリカーボネートパネル上にフローコーティングした場合、そのコーティング厚みは窓ガラスの頂上部から25.4mm下がった地点で測定し、約2マイクロメーターであり、またこの部品の底部から25.4mm上の地点で測定し、約9マイクロメーターである。このシリコーンハードコートは0.05吸光/MJの安定性を伴い0.2吸光/マイクロメーターのUV指数を有する。フローコーティングにより適用されたプライマーについて測定された厚み変動はほぼ、部品の頂上部で約0.15マイクロメーターおよび部品の底部で約0.50マイクロメーターの程度である。
【0035】
当該コーティングにかかわる公知UV指数に従い測定された厚み値を当業者に周知の風化モデルに当てはめた場合、コーティングは6.5マイクロメーター以下であるものと計算することができ、世界基準に基づき10年寿命を示す部品は得られない。事実として、図3に示されているように、この部品の頂上部分は部品の底部部分より迅速に風化する。この部品の頂上部は約6年に過ぎない程度の寿命を有し、他方で、部品の底部は約25年にわたり耐候性を保有することが予測される。風化モデルのさらに詳細な説明は、J.E.Pickettによる論文“UV Absorber Permanence and Coating Lifetimes”、Journal of Testing and Evaluation、32(3),240−245(2004)を包含する文献に見出すことができる。
【0036】
プライマーコーティング中のUVAの溶解限界および「ウエッジ効果」の発生によって、プライマー中のUVAの濃度の単なる増加は10年間耐候性の達成には充分ではない(図3参照)。当該プライマーにかかわるUV指数は約2吸光/マイクロメーター(0.8吸光/0.4ミクロン)であることが報告されているが、部品頂上部におけるプライマーの厚みは、10年性能を有するには到底及ばない厚さでしかない。
【0037】
例2−本発明との比較
10年間耐候性を達成するためには、本発明の一態様に従うフローコーティング法を用いる例1で使用されたものと同一のコーティングが必要である。プライマー(UVA含有)を一方方向(例えば、底部から頂上部)で部品上にフローコーティングし、次いで蒸発およびオーブン硬化させた後、この部品上に頂上部から底部までシリコーンハードコートをフローコーティングした場合、生成する塗被された部品は、図2に示されているように、部品の塗被表面全体(例えば、頂上部から底部まで)にわたり10年性能寿命を達成する。本発明の一態様に従いフローコーティングされた部品の頂上部は10年の寿命を示し、および部品の底部は約21年の寿命を示すものと予想される。従って、当該窓の頂上部近くで予想される寿命は6年(常用されているフローコーティング−例1)から10年に増大され、他方で、当該窓の底部近くの寿命予想は約25年(例1)から21年に僅かに減少するのみである。
【0038】
本例は、自動車窓ガラスまたはプラスティック窓にかかわる10年耐候性目標が本発明によるフローコーティング法に従い塗被された窓によって達成可能であること、他方で、同一コーティングを使用する常用されているフローコーティングでは目標には到達できないことを証明している。
【0039】
例3−同一組成のコーティング
本例において、約0.40マイクロメーターの平均厚みを有するアクリル系プライマー(SHP−9X、Exatec LLC,Wixom,MI)が上塗りされているポリカーボネート窓に、2層のシリコーンハードコートを適用した。常用されているフローコーティング法と本発明の一態様に従うフローコーティング法との比較を行なった。シリコーンハードコート(SHX、Exatec LLC,Wixom,MI)の第一層を当該部品の頂上部近くに適用し、このコーティングは部品上を下方に向けて流動させた。このコーティングを12分かけて蒸発分離または「乾燥」させた。次いで、(a)常用されているフローコーティング法に従いおよび(b)本発明の一態様に従い同一シリコーンハードコートとして第二層を適用した。常用されているフローコーティング法において、シリコーンハードコートの第二層は第一コーティング層が施された方法と類似の様相で部品の頂上部近くに適用した。本発明によるフローコーティング法の場合、窓を180度回転させ、次いで第二コーティング層を窓の底部近くに適用し、次いでこのコーティングを窓の頂上方向に向かって流動させた。この第二コーティング層を蒸発分離または「乾燥」させた後、塗被された窓を熱加熱し、当該コーティングを充分に硬化させた。このシリコーンハードコートの総厚みを測定し、表1に示されている結果を得た。
【0040】
本例は、本発明によるフローコーティング法を使用すると、窓の頂上部近くのコーティング厚みが増加されることを証明している。この場合、窓頂上部における厚みは約3.0マイクロメーターから約6.5マイクロメーターに増加することが見出された。これに対し、常用されているフローコーティング法に従うシリコーンハードコートの第二層は窓の頂上部近くのシリコーンハードコートの厚みを3.0マイクロメーターから4.1マイクロメーターに若干増加させることができるのみであった。
【表1】

【0041】
例4−コーティング角度の調整
本例において、29%の固形物含有量を有するシリコーンハードコートを、薄いアクリル系プライマー(平均厚み約0.4マイクロメーター)を有するポリカーボネート窓に適用した。第一シリコーンハードコート層を、図5Aに示されているように、その上にコーティングが適用されている表面(頂上部から底部まで)が地面から約90度の角度(ψ)で通常の様式で保持されている一枚の窓に適用した。第一シリコーンハードコート層をまた、図5Bに示されているように、窓の表面(頂上部から底部まで)上にコーティングが地面から約150度の角度(ψ)で流動するように保持されている一枚の窓に適用した。それぞれの場合、第一コーティング層は窓の頂上部近くに適用し、コーティングは窓の底部に向かって流動させた。各窓上の第一コーティングを次いで、約8分かけて蒸発分離または「乾燥」させた。次いで、これらの窓を90度または150度のコーティング角度(ψ)が対応する窓のそれぞれについて維持されるようにして、180度回転させた。各窓に、シリコーンハードコートの第二層を適用し、次いで蒸発分離させた後、各窓を充分に硬化させた。各窓上の総シリコーンハードコートコーティングの厚みを最終的に測定し、表2に示す結果を得た。
【表2】

【0042】
本例は、コーティング層間における窓の回転に加えて、コーティングを流動させる角度を変更する手段を使用することによって、部品に適用される全コーティングの厚みを増加させることができることを証明している。かなりの相違するコーティング角度(ψ)がコーティング層に望まれる厚みに応じて使用することができることは当業者が実現できることである。
【0043】
当業者は、下記特許請求の範囲に規定されている本発明の範囲から逸脱することなく本発明に対し修正および変更をなすことができることを前記記載から認識することができる。当業者はまた、記載されている耐候性およびコーティング厚み測定値が種々の相違する試験方法によって得ることができる標準測定値であることを認識することができる。例に記載されている試験方法は必要な測定値をそれぞれ得るために利用することができる方法の一つを示すものにすぎない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比較的均一な厚みを有する耐候性コーティングシステムを備えたプラスティックパネルのフローコーティング方法であって、
プラスティックパネル11を地面に対して予め定められたコーティング角度(ψ)で設置する10;
プラスティックパネル11の少なくとも一方の面上に第一末端から第二末端まで第一コーティング層18を適用する15;
第一コーティング層をプラスティックパネル11上で部分的に蒸発分離または乾燥させる20;
プラスティックパネル11を約180度回転させる30;
プラスティックパネル11の少なくとも一方の面上に第二末端から第一末端まで、第一コーティング層18の頂上部から第二コーティング層38を適用する35;
第二コーティング層38を第一コーティング層18上で部分的に蒸発分離または乾燥させる40;次いで、
プラスティックパネル11上の第一コーティング層18および第二コーティング層38を硬化させる45;
ことを含む方法。
【請求項2】
プラスティックパネル11を回転させ30、次いで第二コーティング層38を適用する35前に、第一コーティング層18を硬化させる工程25をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第一コーティング層18を熱的加熱、照射線への暴露またはその組合せによって硬化させる25、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第一コーティング層18および第二コーティング層38が相違する組成を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
第一コーティング層18がアクリル系プライマーであり、および第二コーティング層38がシリコーンハードコートである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
プラスティックパネル11が第一コーティング層18との付着を促進するプライマー層を包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
プライマー層がアクリル系プライマーである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
第一コーティング層18および第二コーティング層38が類似の組成を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第一コーティング層18および第二コーティング層38がシリコーンハードコートである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第一コーティング層18および第二コーティング層38がシリコーン、ポリウレタン、アクリル系、ポリエステル、ポリウレタン−アクリレート、エポキシ、およびその混合物またはコポリマーの群からの1種として選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
プラスティックパネル11の第一末端が当該パネルの頂上部である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
プラスティックパネル11の第二末端が当該パネルの底部である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
プラスティックパネルのフローコーティング法が自動式方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
自動式方法がディップコーティングまたはカーテンコーティングである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
第一コーティング層18を約5分間より長い期間かけて蒸発分離または乾燥させる20、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
第二コーティング層38を、熱的加熱、照射線への暴露またはその組合せにより硬化させる45、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
プラスティックパネル11の両面に第一コーティング層18を塗被する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
プラスティックパネル11の両面に第二コーティング層38を塗被する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
予め定められたコーティング角度(ψ)が約170度〜約90度である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
予め定められたコーティング角度(ψ)が約90度である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
塗被された部品の表面上への少なくとも1種の追加の保護コーティング層の適用をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも1種の追加の保護コーティング層を、プラズマ−強化化学蒸着(PECVD)、エクスパンション熱プラズマPECVD、プラズマ重合、光化学蒸着、イオンビーム沈着、イオンメッキ沈着、カソードアーク沈着、スパッタリング、蒸発、中空カソード活性化沈着、マグネトロン活性化沈着、活性化反応性蒸発、熱化学的蒸着、またはあらゆる全ての公知ゾル−ゲルコーティング法の1種として選択される真空蒸着技術によって適用する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
真空蒸着技術がエクスパンション熱プラズマPECVDである、請求項22に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2010−525939(P2010−525939A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506633(P2010−506633)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際出願番号】PCT/US2008/062170
【国際公開番号】WO2008/134768
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(505365404)エクスアテック、エル.エル.シー. (51)
【Fターム(参考)】