説明

垂直磁気記録媒体、垂直磁気記録媒体の製造方法、カーボン保護層の密度測定方法、およびカーボン保護層の耐食性評価方法

【課題】垂直磁気記録媒体の加熱温度Tと、その結果得られるカーボン保護層の密度dとの関係を明らかにすることにより、所望の密度のカーボン保護層が得られる加熱温度の範囲を求める。
【解決手段】垂直磁気記録媒体の磁気記録層を形成する工程と、垂直磁気記録媒体を加熱する工程と、カーボン保護層を形成する工程とを含み、加熱する工程では195≦T≦370℃に加熱し、XRR法によって測定したカーボン保護層の膜厚をtとし、XRF法によって測定するカーボン保護層の範囲の面積をwとし、XRF法によって測定したカーボン保護層に含まれるカーボン原子の数をnとし、カーボン保護層の密度をdとしたとき、d=n×12×10−6/(w×t×6.02×1023)(g/cm)で表される密度が、d≧1.65であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体、垂直磁気記録媒体の製造方法、カーボン保護層の密度測定方法、およびカーボン保護層の耐食性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDD(ハードディスクドライブ)の面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径磁気ディスクにして、1枚あたり100GBを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような要請にこたえるためには1平方インチあたり150Gビットを超える情報記録密度を実現することが求められる。
【0003】
HDD等に用いられる磁気ディスクにおいて高記録密度を達成するためには、情報信号の記録を担う磁気記録層を構成する磁性結晶粒子を微細化すると共に、その層厚を低減していく必要があった。ところが、従来から商業化されている面内磁気記録方式(長手磁気記録方式、水平磁気記録方式とも呼称される)の磁気ディスクの場合、磁性結晶粒子の微細化が進展した結果、超常磁性現象により記録信号の熱的安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう、いわゆる熱揺らぎ現象が発生するようになり、磁気ディスクの高記録密度化への阻害要因となっていた。この阻害要因を解決するために、近年、垂直磁気記録方式の磁気ディスクが提案されている。
【0004】
垂直磁気記録方式は、面内磁気記録方式の場合とは異なり、磁気記録層の磁化容易軸は基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は面内記録方式に比べて、熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。
【0005】
また垂直磁気記録方式では、磁気ヘッドがヒットした際に磁気記録層を保護し、表面にキズが残ることを防止するために、カーボン保護層(COC:カーボンオーバーコート)が設けられる。カーボン保護層には、特許文献1に記載のように、硬いダイヤモンドライク結合と、柔らかいグラファイト結合とが混在しており、ダイヤモンドライク結合が多いほどに高硬度な被膜が形成される。
【0006】
特許文献2には、かかるダイヤモンドライクカーボン保護膜を、CVD法によって製造する技術が開示されている。
【0007】
ところで、磁気メディアに従来から存在していた問題の1つにコロージョンがある。コロージョンは、典型的にはコバルト(Co)などの金属が下層から析出し、垂直磁気記録媒体の表面に酸化物を形成する現象である。
【0008】
コロージョンが発生すると、その位置に記録されたデータが消失してしまうほか、磁気ヘッドの低浮上量化もあいまってクラッシュ障害が発生し、ディスクドライブの故障に発展するおそれがある。
【0009】
一方、垂直磁気記録媒体の耐食性(コロージョンに対する耐性)等の信頼性を高めるには、磁気記録層の上に成膜される水素化カーボンを主成分とするカーボン保護層の、ラマンスペクトルによる分光比Dh/Ghを高めることが有効であることが知られている。媒体保護層のDh/Ghを高めるには、磁気記録層が成膜されたディスク基体を、媒体保護層成膜時に加熱することが有効であることが知られている(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特開平10−11734号公報
【特許文献2】特開2006−114182号公報
【特許文献3】特開2005−149553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、カーナビゲーション用の記録装置として、容量が大きいHDDの搭載が要求されている。このような車載用のHDDには、車自体に求められる過酷な環境と同様に、過酷な温度条件、湿度条件が求められている。それの条件は以前の条件以上の温度条件、湿度条件となっている。これにより、従来の温湿度範囲では発生していなかったコロージョンが発生するようになり、かかる温湿度範囲でもコロージョンが発生しない磁気メディアを開発する必要に迫られている。
【0011】
しかし、特許文献1には、コロージョンを防止する技術については特に言及されていない。特許文献2には、保護層をCVD法で製造することによって耐食性を向上させることが記載されているものの、これは保護層の成膜方法そのものであり、さらに保護層に何らかの処理を施して耐食性を向上させるものではない。
【0012】
また、特許文献3に記載のラマンスペクトルによって得られたカーボン保護層のDh/Ghが所定の閾値より高く、合格品と判定された垂直磁気記録媒体であっても、良品とは限らない。合格品と判定されたものに、例えばロードアンロード試験などのドライブ試験をすると、クラッシュ障害を生じるからである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために発明者らが鋭意検討したところ、コロージョンを防止する、すなわち耐食性を向上させる1つの手段として、カーボン保護層の皮膜を緻密にすることにより、CoやFeの析出を阻止できることがわかった。一方、カーボン保護層を形成する前に基板を高温に加熱することによって、耐食性や耐摩耗性が向上することが知られている。
【0014】
そこで発明者らは、基板の加熱温度と、カーボン保護層の緻密度との間には相関があり、その相関を明らかにし、加熱温度を調節することによって、所望の緻密度、すなわち所望の耐食性が得られることを突き止めた。本発明はこの知見を基礎としてさらに研究を重ねることにより、完成するに到ったものである。
【0015】
上述の課題を解決するため、本発明の代表的な構成では、基板上に磁気記録層とカーボン保護層とを備える垂直磁気記録媒体において、XRR(X-Ray Reflectivity)法によって測定したカーボン保護層の膜厚をtとし、XRF(X-Ray Fluorescence)法によって測定するカーボン保護層の範囲の面積をwとし、XRF法によって測定したカーボン保護層に含まれるカーボン原子の数をnとし、カーボン保護層の密度をdとしたとき、d=n×12×10−6/(w×t×6.02×1023)(g/cm)で表される密度が、d≧1.65であることを特徴とする。
【0016】
上記の構成によれば、試料である垂直磁気記録媒体のうち、カーボン保護層の測定範囲には、n/6.02×1023(mol)のカーボンが含まれ、これに12を乗じた値が測定範囲を構成するカーボンの質量であり、これを測定範囲の体積w×t×10−6(cm)で除算することにより、密度が求められる。
【0017】
カーボン保護層の膜厚tは、XRR法によって求める。XRR法によれば、カーボン保護層の表面で反射したX線と、その下の磁気記録層との界面で反射したX線との間の行路差から生じるX線反射率の干渉振動の周期により、カーボン保護層の膜厚tを計算可能である。X線を利用することにより、多層膜で形成される、垂直磁気記録媒体の各層の膜厚を、膜質に左右されずに測定可能であるし、非破壊で測定ができる。
【0018】
カーボン保護層に含まれるカーボン原子の数nは、XRF法によって求める。XRF法によれば、X線管より発生したX線を試料である垂直磁気記録媒体に照射し、そこから発生した蛍光X線(固有X線)を分光結晶により分光する。回折角度は各元素特有のもので、回折角度より定性、強度より定量分析を行う。XRF法を用いれば、分析が迅速であり、XRR法と同様に、非破壊分析が可能である。
【0019】
本発明の他の構成では、垂直磁気記録媒体の製造方法において、磁気記録層を形成する工程と、垂直磁気記録媒体を加熱する工程と、カーボン保護層を形成する工程とを含み、加熱する工程では195≦T≦370℃に加熱し、XRR法によって測定したカーボン保護層の膜厚をtとし、XRF法によって測定するカーボン保護層の範囲の面積をwとし、XRF法によって測定したカーボン保護層に含まれるカーボン原子の数をnとし、カーボン保護層の密度をdとしたとき、d=n×12×10−6/(w×t×6.02×1023)(g/cm)で表される密度が、d≧1.65であることを特徴とする。
【0020】
上述の構成によれば、垂直磁気記録媒体の加熱温度と、カーボン保護層の密度dとの関係が明らかになり、所望の密度のカーボン保護層が得られる加熱温度の範囲を求めることができる。
【0021】
本発明の他の構成では、基板上に形成されたカーボン保護層の密度測定方法において、XRR法によってカーボン保護層の膜厚tを測定する工程と、XRF法によって面積wの範囲に含まれるカーボン原子の数nを測定する工程と、カーボン保護層の密度d=n×12×10−6/(w×t×6.02×1023)(g/cm)を算出する工程とを含むことを特徴とする。
【0022】
本発明の他の構成では、基板上に磁気記録層とカーボン保護層とを備える垂直磁気記録媒体において、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope; TEM)によって測定したカーボン保護層の膜厚をTとし、XRF法によって測定されるカーボン保護層の範囲の面積をwとし、上記の範囲に含まれるカーボン元素の数に対応する、XRF法によって得られるX線ピーク強度をNとし、カーボン保護層の緻密度を表す指標D=N/(w×T)が8.9E−5以上であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の他の構成では、垂直磁気記録媒体の製造方法において、磁気記録層を形成する工程と、垂直磁気記録媒体を加熱する工程と、カーボン保護層を形成する工程とを含み、加熱する工程では195≦T≦370℃に加熱し、透過型電子顕微鏡によって測定したカーボン保護層の膜厚をTとし、XRF法によって測定されるカーボン保護層の範囲の面積をwとし、上記の範囲に含まれるカーボン元素の数に対応する、XRF法によって得られるX線ピーク強度をNとしたとき、カーボン保護層の緻密度を表す指標D=N/(w×T)が8.9E−5以上であることを特徴とする。
【0024】
さらに本発明の他の構成では、基板上に形成されたカーボン保護層の耐食性評価方法において、透過型電子顕微鏡によって測定したカーボン保護層の膜厚をTとし、XRF法によって測定されるカーボン保護層の範囲の面積をwとし、上記の範囲に含まれるカーボン元素の数に対応する、XRF法によって得られるX線ピーク強度をNとし、カーボン保護層の緻密度を表す指標D=N/(w×T)を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、カーボン保護層の密度dによって、垂直磁気記録媒体の耐食性を評価可能である。また、垂直磁気記録媒体の加熱温度と、その結果得られるカーボン保護層の密度dとの関係を明らかにすることにより、所望の密度を有するカーボン保護層を得るための加熱温度の範囲を求めることが可能である。
【0026】
また、ラマンスペクトルによる分光比Dh/Ghとは異なる方法でカーボン保護層の緻密度を評価することが可能となり、耐食性をより信頼性の高い方法で評価できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に添付図面を参照して本発明による垂直磁気記録媒体、垂直磁気記録媒体の製造方法、およびカーボン保護層の密度測定方法の実施形態を詳細に説明する。図中、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。また、同様の要素は同一の参照符号によって表示する。なお、以下の実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
【0028】
図1は、本実施形態にかかる垂直磁気記録ディスクの構成を説明する図である。
【0029】
図1に示す垂直磁気記録ディスク100は、ディスク基体10、付着層12、第一軟磁性層14a、スペーサ層14b、第二軟磁性層14c、配向制御層16、第一下地層18a、第二下地層18b、オンセット層20、第一磁気記録層22a、第二磁気記録層22b、補助記録層24、カーボン保護層26、潤滑層28で構成されている。なお第一軟磁性層14a、スペーサ層14b、第二軟磁性層14cは、あわせて軟磁性層14を構成する。第一下地層18aと第二下地層18bはあわせて下地層18を構成する。第一磁気記録層22aと第二磁気記録層22bとはあわせて磁気記録層22を構成する。
【0030】
まず、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円盤状に成型し、ガラスディスクを作成した。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性のディスク基体10を得た。
【0031】
得られたディスク基体10上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、Ar雰囲気中でDCマグネトロンスパッタリング法にて、付着層12から補助記録層24まで順次成膜を行い、カーボン保護層26はCVD法により成膜した。この後、潤滑層28をディップコート法により形成した。なお、均一な成膜が可能であるという点で、インライン型成膜方法を用いることも好ましい。
【0032】
本実施形態の主たる特徴は、カーボン保護層26の密度を測定することにあるが、それについては後述することとし、まず、各層の構成および製造方法について、以下に説明する。
【0033】
付着層12は10nmのTi合金層となるように、Ti合金ターゲットを用いて成膜した。付着層12を形成することにより、ディスク基体10と軟磁性層14との間の付着性を向上させることができるので、軟磁性層14の剥離を防止することができる。付着層12の材料としては、例えばCrTi合金を用いることができる。実用上の観点からは付着層の膜厚は、1nm〜50nmとすることが好ましい。
【0034】
軟磁性層14は、第一軟磁性層14aと第二軟磁性層14cの間に非磁性のスペーサ層14bを介在させることによって、AFC(Antiferro-magnetic exchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成した。これにより軟磁性層14の磁化方向を高い精度で磁路(磁気回路)に沿って整列させることができ、軟磁性層14から生じるノイズを低減することができる。具体的には、第一軟磁性層14a、第二軟磁性層14cの組成はCoCrFeBとし、スペーサ層14bの組成はRu(ルテニウム)とした。
【0035】
制御層16は、軟磁性層14を防護する作用と、下地層18の結晶粒の配向の整列を促進する作用を備える。
【0036】
下地層18は、Ruからなる2層構造となっている。上層側の第二下地層18bを形成する際に、下層側の第一下地層18aを形成するときよりもArのガス圧を高くすることにより、結晶配向性を改善することができる。
【0037】
オンセット層20は非磁性のグラニュラー層である。下地層18のhcp結晶構造の上に非磁性のグラニュラー層を形成し、この上に第一磁気記録層22aのグラニュラー層を成長させることにより、磁性のグラニュラー層を初期段階(立ち上がり)から分離させる作用を有している。オンセット層20の組成は非磁性のCoCr−SiOとした。
【0038】
磁気記録層22は、膜厚の薄い第一磁気記録層22aと、膜厚の厚い第二磁気記録層22bとから構成されている。
【0039】
第一磁気記録層22aは、非磁性物質の例としての酸化クロム(Cr)を含有するCoCrPtからなる硬磁性体のターゲットを用いて、2nmのCoCrPt−Crのhcp結晶構造を形成した。非磁性物質は磁性物質の周囲に偏析して粒界を形成し、磁性粒(磁性グレイン)は柱状のグラニュラー構造を形成した。この磁性粒は、オンセット層のグラニュラー構造から継続してエピタキシャル成長した。
【0040】
第二磁気記録層22bは、非磁性物質の例としての酸化チタン(TiO)を含有するCoCrPtからなる硬磁性体のターゲットを用いて、10nmのCoCrPt−TiOのhcp結晶構造を形成した。第二磁気記録層22bにおいても磁性粒はグラニュラー構造を形成した。
【0041】
補助記録層24はグラニュラー磁性層の上に高い垂直磁気異方性を示す薄膜(連続層)を形成し、CGC構造(Coupled Granular Continuous)を構成するものである。これによりグラニュラー層の高密度記録性と低ノイズ性に加えて、連続膜の高熱ゆらぎ耐性を付け加えることができる。補助記録層24の組成は、CoCrPtBとした。
【0042】
カーボン保護層26は、真空を保ったままカーボンをCVD法により成膜して形成した。カーボン保護層26は、磁気ヘッドの衝撃から垂直磁気記録層を防護するための保護層である。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタ法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に垂直磁気記録層を防護することができる。
【0043】
本実施形態では、XRR法によってカーボン保護層26の膜厚tを測定する。図2は本実施形態で用いるXRR法の原理を示す模式図である。図2では、図解の簡略化のため、測定対象であるカーボン保護層と、その下にある補助記録層以外の層は、図示を省略している。XRR法によれば、X線管200から照射され、カーボン保護層26の表面で反射したX線210と、その下の補助記録層24との界面で反射したX線220とを検出器230で受け、それらX線210、220の間の行路差から生じるX線反射率の干渉振動の周期により、カーボン保護層26の膜厚tを計算可能である。X線を利用することにより、多層膜で形成される、垂直磁気記録ディスク100の各層の膜厚を、膜質に左右されずに測定可能であるし、非破壊で測定ができる。
【0044】
一方、カーボン保護層における一定の面積wを有する測定範囲に含まれるカーボン原子の数nは、XRF法によって測定する。図3は本実施形態で用いるXRF法の原理を示す模式図である。XRF法によれば、X線管300より発生したX線310を試料である垂直磁気記録ディスク100に照射し、そこから発生した蛍光X線(固有X線)から、ソーラースリット330(薄板を0.1mm程度の間隔で平行に並べたもの)を通すことで、ほぼ平行な成分のみを取り出し、分光結晶340により分光する。回折角度は各元素に特有のものであり、検出器350において、回折角度よりカーボン元素の存在が確認でき、強度より定量分析、すなわち元素数が測定可能である。XRF法を用いれば、分析が迅速であり、XRR法と同様に、非破壊分析が可能である。
【0045】
本実施形態では、XRF法による測定範囲の面積をwとし、カーボン保護層に含まれるカーボン原子の数をnとし、カーボン保護層の密度をdとしたとき、d=n×12×10−6/(w×t×6.02×1023)(g/cm)で表される密度が、d≧1.65であることを特徴とする。
【0046】
上記の構成によれば、試料である垂直磁気記録ディスク100のうち、カーボン保護層26の測定範囲には、n/6.02×1023(mol)のカーボンが含まれ、これに12を乗じた値が測定範囲を構成するカーボンの質量であり、これを測定範囲の体積w×t×10−6(cm)で除算することにより、密度dが求められる。
【0047】
また、本実施形態による垂直磁気記録ディスク100の製造方法は、磁気記録層22を形成する工程と、垂直磁気記録ディスク100を加熱する工程と、カーボン保護層26を形成する工程とを含み、加熱する工程では195≦T≦370℃に加熱し、上述のようにXRR法およびXRF法によって測定したカーボン保護層の密度dとの関係を求める。
【0048】
上述の構成によれば、垂直磁気記録ディスク100の加熱温度と、カーボン保護層の密度dとの関係により、所望の密度を有するカーボン保護層26を得るための加熱温度の範囲を求めることができる。
【0049】
潤滑層28は、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により成膜した。潤滑層28の膜厚は約1nmである。
【0050】
以上の製造工程により、垂直磁気記録ディスク100が得られた。以下に実施例を用いて、本発明の有効性について説明する。
【0051】
(実施例)
図4は本実施例の測定結果を示す図である。垂直磁気記録ディスクの加熱温度Tと、XRR法およびXRF法によって測定したカーボン保護層の密度(膜密度)dとの関係を示すデータ(図4(a))および当該データをプロットしたグラフ(図4(b))である。
【0052】
図4に示すように、加熱温度Tが高くなると、カーボン保護層の密度dは高くなり、ピークを迎え、下がる。
【0053】
そして、図4に示すカーボン保護層の密度dがd≧1.65の範囲である垂直記録ディスクを4日間、90%95℃の温湿度環境下に置いたのち、ロードアンロード試験を行った結果、コロージョンを原因とするヘッドクラッシュは認められなかった。
【0054】
そして、加熱温度を予め195≦T≦370℃に設定すれば、上述の密度d≧1.65を有する、従来より高い温湿度環境下でもコロージョンを生じない、耐食性に優れた垂直磁気記録ディスクが得られる。
【0055】
図5はXRF法によって得られる、カーボン保護層の測定範囲に含まれるカーボン元素の数に対応した、X線ピーク強度Nを概念的に示すグラフである。図3に示した波長分散型のXRF法を用いる場合、ピークの出現する回折角度を読みとり、ブラッグの法則よりその波長を決める。各元素の蛍光X線の波長は既知であるため、どのピークがいずれの元素に帰属するかが分かる。本実施例の場合、カーボンの元素のピーク強度(図5のC Peak)を用いる。
【0056】
なお、図示しないが、エネルギー分散型のXRF法を用いてもよい。この場合、図5の横軸はエネルギー軸となる。
【0057】
図6は、ラマンスペクトルのイメージを説明するための説明図である。ここでは、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザ光により前記媒体保護層を励起して得られる波数900cm−1〜波数1800cm−1におけるラマンスペクトルから蛍光を除いたスペクトルの1350cm−1付近に現れるDピークDhと1520cm−1付近に現れるGピークGhとをガウス関数により波形分離したときのピーク比Dh/Ghを求めた。
【0058】
図7は、本実施例の他の評価結果を示す表であり、垂直磁気記録ディスクについて、ラマンスペクトルのピーク比Dh/Ghとその良否判定結果、カーボン保護層の緻密度を表す指標Dとその良否判定結果、および、ロードアンロード試験の結果を示す。
【0059】
カーボン保護層の緻密度を表す指標Dは、透過型電子顕微鏡によって測定したカーボン保護層の膜厚をTとし、XRF法によって測定されるカーボン保護層の範囲の面積をwとし、範囲に含まれるカーボン元素の数に対応する、XRF法によって得られるX線ピーク強度をNとしたとき、D=N/(w×T)で算出される。
【0060】
図7に示すように、カーボン保護層の緻密度を表す指標Dが8.9E−5以上であるとき、良品と判定する。指標Dによって良品と判定された垂直磁気記録ディスクを4日間、90%95℃の温湿度環境化に置いたのち、ロードアンロード試験を行った結果、コロージョンを原因とするヘッドクラッシュは認められなかった。
【0061】
一方、ラマンスペクトルの分光比Dh/Ghだけで良品と判定して場合には、分光比が0.58〜0.95のものを良品と判定していたが、良品と判定されても、ディスクNo.2のように、上記と同様のロードアンロード試験を行った結果、ヘッドクラッシュが生じる場合があった。その反面、ディスクNo.7のように、Dh/Ghを用いた結果、不良品と判定されたものであっても、ロードアンロード試験を行った結果、ヘッドクラッシュが生じないものもあった。このように、分光比Dh/Ghを用いた場合、必ずしも、耐食性の評価は正確ではなかったが、指標Dを用いた評価はドライブ試験の結果とも一致している。
【0062】
以上のように、本実施例では、ラマンスペクトルの分光比Dh/Ghとは異なる、カーボン保護層の緻密度を表す指標Dを用いて垂直磁気記録ディスクの耐食性を評価することにより、耐食性をより信頼性の高い方法で評価できることとなった。
【0063】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態および実施例について、垂直磁気記録ディスクを用いて説明したが、本発明は係る例に限定されず、広く垂直磁気記録媒体に使用可能であることは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)などに搭載される垂直磁気記録媒体として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施形態にかかる垂直磁気記録媒体の構成を説明する図である。
【図2】本実施形態で用いるXRR法の原理を示す模式図である。
【図3】本実施形態で用いるXRF法の原理を示す模式図である。
【図4】本実施例の測定結果を示す図である。
【図5】XRF法を適用して得られる、カーボン保護層の測定範囲に含まれるカーボン元素の数に対応した、X線ピーク強度を概念的に示すグラフである。
【図6】ラマンスペクトルのイメージを説明するための説明図である。
【図7】本実施例の他の評価結果を示す表である。
【符号の説明】
【0066】
10 …ディスク基体
12 …付着層
14 …軟磁性層
14a …第一軟磁性層
14b …スペーサ層
14c …第二軟磁性層
16 …配向制御層
18 …下地層
18a …第一下地層
18b …第二下地層
20 …オンセット層
22 …磁気記録層
22a …第一磁気記録層
22b …第二磁気記録層
24 …補助記録層
26 …カーボン保護層
28 …潤滑層
100 …垂直磁気記録ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に磁気記録層とカーボン保護層とを備える垂直磁気記録媒体において、
XRR(X-Ray Reflectivity; X線反射率)法によって測定したカーボン保護層の膜厚をtとし、
XRF(X-Ray Fluorescence Analysis; 蛍光X線分析)法によって測定するカーボン保護層の範囲の面積をwとし、
前記XRF法によって測定した前記カーボン保護層に含まれるカーボン原子の数をnとし、
前記カーボン保護層の密度をdとしたとき、
d=n×12×10−6/(w×t×6.02×1023)(g/cm
で表される密度が、d≧1.65であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
垂直磁気記録媒体の製造方法において、
磁気記録層を形成する工程と、
該垂直磁気記録媒体を加熱する工程と、
カーボン保護層を形成する工程とを含み、
前記加熱する工程では195≦T≦370℃に加熱し、
XRR法によって測定したカーボン保護層の膜厚をtとし、XRF法によって測定するカーボン保護層の範囲の面積をwとし、前記XRF法によって測定した前記カーボン保護層に含まれるカーボン原子の数をnとし、前記カーボン保護層の密度をdとしたとき、
d=n×12×10−6/(w×t×6.02×1023)(g/cm
で表される密度が、d≧1.65であることを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
基板上に形成されたカーボン保護層の密度測定方法において、
XRR法によってカーボン保護層の膜厚tを測定する工程と、
XRF法によって面積wの範囲に含まれるカーボン原子の数nを測定する工程と、
前記カーボン保護層の密度d=n×12×10−6/(w×t×6.02×1023)(g/cm)を算出する工程とを含むことを特徴とするカーボン保護層の密度測定方法。
【請求項4】
基板上に磁気記録層とカーボン保護層とを備える垂直磁気記録媒体において、
透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope; TEM)によって測定したカーボン保護層の膜厚をT(cm)とし、
XRF法によって測定されるカーボン保護層の範囲の面積をw(cm)とし、
前記範囲に含まれるカーボン元素の数に対応する、XRF法によって得られるX線ピーク強度をN(個)とし、
前記カーボン保護層の緻密度を表す指標D=N/(w×T)
が8.9E−5以上であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
垂直磁気記録媒体の製造方法において、
磁気記録層を形成する工程と、
該垂直磁気記録媒体を加熱する工程と、
カーボン保護層を形成する工程とを含み、
前記加熱する工程では195≦T≦370℃に加熱し、
透過型電子顕微鏡によって測定したカーボン保護層の膜厚をTとし、
XRF法によって測定されるカーボン保護層の範囲の面積をwとし、前記範囲に含まれるカーボン元素の数に対応する、XRF法によって得られるX線ピーク強度をNとしたとき、前記カーボン保護層の緻密度を表す指標
D=N/(w×T)
が8.9E−5以上であることを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
基板上に形成されたカーボン保護層の耐食性評価方法において、
透過型電子顕微鏡によって測定したカーボン保護層の膜厚をTとし、
XRF法によって測定されるカーボン保護層の範囲の面積をwとし、
前記範囲に含まれるカーボン元素の数に対応する、XRF法によって得られるX線ピーク強度をNとし、
前記カーボン保護層の緻密度を表す指標D=N/(w×T)
を算出することを特徴とするカーボン保護層の耐食性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−276917(P2008−276917A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88529(P2008−88529)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(501259732)ホーヤ マグネティクス シンガポール プライベートリミテッド (124)
【Fターム(参考)】