垂直磁気記録媒体及び磁気記憶装置
【課題】室温で大きな垂直磁気異方性エネルギーや高い保磁力を有し、かつキュリー温度が低く、低パワーでも垂直磁気異方性エネルギーや保磁力を低下して記録出来る媒体を得る。
【解決手段】基板101上に設けられた下地層102及び中間層103と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層104を有し、エネルギー照射により磁気記録層の垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体。中間層はRu及び/又はPdからなり、磁気記録層は、Coを主成分とする強磁性金属層108とPdを主成分とする非磁性金属層109との積層体であり、強磁性金属層は膜厚が0.15nm以上0.25nm以下であり、非磁性金属層は膜厚が0.45nm以上0.8nm以下であり、強磁性金属層と非磁性金属層の膜厚比は2以上4以下であり、エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差は8kOe以上ある。
【解決手段】基板101上に設けられた下地層102及び中間層103と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層104を有し、エネルギー照射により磁気記録層の垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体。中間層はRu及び/又はPdからなり、磁気記録層は、Coを主成分とする強磁性金属層108とPdを主成分とする非磁性金属層109との積層体であり、強磁性金属層は膜厚が0.15nm以上0.25nm以下であり、非磁性金属層は膜厚が0.45nm以上0.8nm以下であり、強磁性金属層と非磁性金属層の膜厚比は2以上4以下であり、エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差は8kOe以上ある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギーアシスト型垂直磁気記録媒体及び磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2008年現在、磁気ディスク装置(HDD)の面記録密度は数百Gbit/inch2以上となり、高密度化に伴い、面内磁気記録方式から垂直磁気記録方式へ記録方式が変化してきた。この方式では、高密度記録を行った際に、隣接ビットからの漏洩磁束が磁化を安定化させる方向に働くため、面内磁気記録と比べて、高密度化に有効であることがわかっている。しかしながら、1Tbit/inch2以上に高密度化するためには、ビットを小さくした場合でも環境温度に対する安定性つまり熱減磁現象の問題を解決する必要がある。
【0003】
この問題を解決するには、室温でさらに大きな垂直磁気異方性エネルギーや保磁力を有する記録層を適用する必要があるが、高保磁力の記録層に記録を行うことが出来るような、巨大な磁界を発生する記録磁気ヘッドの実現は非常に困難である。そこで、光照射により熱を発生させる等のエネルギーアシストにより、記録時のみ垂直磁気異方性エネルギーや保磁力を低下させて磁化反転を起こして記録を行い、それ以外のときには垂直磁気異方性エネルギーや保磁力を高いままにする、という画期的な記録方式が検討され始めた。中でも、近接場光を用いてエネルギーアシストする方式は、レーザ光をレンズ等で絞り光スポットを形成する方式に比べ、光スポットを波長以下の極めて小さいサイズに出来る。このためエネルギーアシストにより加熱される領域の直径が数+nm以下と非常に狭い範囲に局所的にエネルギー照射出来、1Tbit/inch2以上の高録密度記録に適していると考えられる(非特許文献1)。
【0004】
【非特許文献1】Optics Letters, Vol.31, Issue 2, pp.259-261(2006).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、近接場光を用いたエネルギーアシスト方式では、近接場光の強度が光源からの距離に対して急激に低下する特性を持つため、光源から離れた距離に記録層が存在する場合は、記録層に照射される光強度が低くなり、記録層を実用上十分に加熱することができないという課題が生じている。また、光源に記録層を近づけて磁気スペーシングを小さくした場合にはヘッドの浮上特性が安定しない。さらに、室温で大きな垂直磁気異方性エネルギーや保磁力を有する記録層は、キュリー温度が高く、記録温度まで多数回のエネルギー照射を行うと、保護層、記録層等に不可逆的な劣化が生じるため、多数回の記録が困難である。キュリー温度が低い記録層では、垂直磁気異方性エネルギーや保磁力が小さすぎるという課題がある。
【0006】
このように、大きな垂直磁気異方性エネルギーや保磁力を有し、キュリー温度が低く、磁気スペーシングが小さくても浮上特性が良い、近接場光を用いたエネルギーアシストによる磁気記録が行なえる垂直磁気記録媒体を得ることは困難であった。
【0007】
前述したように、高密度のエネルギーアシスト型垂直磁気記録を実現するには、次に述べるような種々の課題を網羅的に克服する必要がある。第1に、近接場光を用いたエネルギーアシスト用に記録層を実用上十分に加熱することができない。第2に、室温で大きな垂直磁気異方性エネルギーや高い保磁力を有し、かつキュリー温度が低い媒体を得ることが困難である。第3に、磁気スペーシングが小さい場合に、浮上特性が良い媒体を得ることが困難である。
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決して、高密度のエネルギーアシスト型垂直磁気記録を実現する垂直磁気記録媒体及び磁気記憶装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述課題を解決するための手段として、以下の手段を用いた。
(1)基板と、基板上に設けられた下地層及び中間層と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層と保護層を有し、エネルギー照射(アシスト)により磁気記録層の垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体であって、中間層がRu及び/又はPdからなり、磁気記録層は、Coを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体であり、強磁性金属層の膜厚が0.15以上0.25nm以下であり、非磁性金属層の膜厚が0.45以上0.8nm以下であり、強磁性金属層と非磁性金属層の膜厚比が2以上4以下であり、エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差が8kOe以上あることを特徴とした。
これにより、エネルギー照射(アシスト)により高密度の垂直磁気記録が可能となる。
【0010】
(2)基板と、基板上に設けられた下地層及び中間層と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層とキャップ層と保護層を有し、エネルギー照射により磁気記録層の垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体であって、中間層がRu及び/又はPduからなり、磁気記録層は、Coを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体であり、キャップ層がCoを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体からなり、強磁性金属層が0.15以上0.25nm以下であり、非磁性金属層が0.45以上0.8nm以下であり、強磁性金属層と非磁性金属層の膜厚比が2以上4以下であり、エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差が8kOe以上あることを特徴とした。
これにより、(1)に記載の垂直磁気記録媒体の浮上特性をさらに良好にすることが可能となる。
【0011】
(3)前記(1)又は(2)に記載の垂直磁気記録媒体において、磁気記録層のキュリー温度が220℃以上400℃以下であることを特徴とした。
これにより、(1)又は(2)に記載の垂直磁気記録媒体の浮上特性をさらに良好にすることが可能となる。
【0012】
(4)前記(1)又は(2)に記載の垂直磁気記録媒体において、磁気記録層中の平均酸素濃度が5原子%以上15原子%以下であることを特徴とした。
これにより、面内方向の磁気相互作用を小さくし、記録ノイズを低くすることが可能となる。
【0013】
(5)前記(1)又は(2)に記載の垂直磁気記録媒体において、強磁性金属層中の平均硼素濃度が5原子%以上15原子%以下であることを特徴とした。
これにより、面内方向の粒径を小さくし、再生ノイズを低くすることが可能となる。
【0014】
(6)前記(1)又は(2)に記載の垂直磁気記録媒体において、磁気記録層の膜厚が6nm以上15nm以下であることを特徴とした。
これにより、前記磁気記録層の記録時の膜厚方向の温度分布を小さくし、安定なドメインを記録することが可能となる。
【0015】
(7)前記(2)に記載の垂直磁気記録媒体において、キャップ層中の平均酸素濃度が磁気記録層の平均酸素濃度より低いことを特徴とした。
これにより、潤滑層の平坦性が向上し、浮上特性が良好な媒体を得ることが可能となる。
【0016】
(8)前記(2)に記載の垂直磁気記録媒体において、キャップ層の膜厚が1nm以上4nm以下であることを特徴とした。
これにより、浮上特性と磁気特性の両方が良好な媒体を得ることが可能となる。
【0017】
(9)前記(1)又は(2)に記載の中間層がPdからなることを特徴とした。
これにより、製膜時間が短縮され、生産性が向上した。
【0018】
(10)前記(1)又は(2)に記載の中間層がRuからなることを特徴とした。
これにより、表面のラフネスが小さくなり、浮上特性が向上した。
【0019】
(11)前記(1)又は(2)に記載の中間層がRuとPdからなることを特徴とした。
これにより、生産性と浮上特性が少しずつ向上した。
【0020】
(12)基板と、基板上に設けられた下地層及び中間層と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層と保護層を有し、エネルギー照射により前記磁気記録層の垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体と、近接場光を用いたエネルギー照射機能を有する磁気記録用ヘッドと信号再生用ヘッドとを有する磁気ヘッドと備えた磁気記憶装置であって、垂直磁気記録媒体は、中間層がRu及び/又はPdからなり、磁気記録層は、Coを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体であり、強磁性金属層の膜厚が0.15nm以上0.25nm以下であり、非磁性金属層の膜厚が0.45nm以上0.8nm以下であり、強磁性金属層と非磁性金属層の膜厚比が2以上4以下であり、エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差が8kOe以上あり、記録時に磁気ヘッドのエネルギー照射源から垂直磁気記録媒体の磁気記録層表面までの距離が8nm以下であることを特徴とした。
これにより、高密度の磁気記憶装置が得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高密度の熱アシスト記録に適した、熱アシストによる昇温で記録が可能、かつ室温では高保磁力を有する垂直磁気記録媒体及び磁気記憶装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
[実施例1]
本発明の一つの実施例として、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層を有し、エネルギー照射(アシスト)により垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体を説明する。ここでは、近接場光を用いてエネルギーアシストを行った。これにより、媒体中の加熱される領域の直径が数+nm以下と非常に狭い範囲に局所的にエネルギー照射出来る。エネルギーの照射量は、媒体の温度がキュリー点の約70%以上になるように最適化して評価を行った。
【0023】
図1(a)は、本発明の一つの実施例として強磁性金属層108と非磁性金属層109の多層膜からなる記録層104を有する垂直磁気記録媒体の断面構造を模式的に示したものである。基板101上に、下地層102として約30nmのNi63Ta38層と約7nmのNi94W6層、中間層103として約16nmのRu層、約12nmの記録層104、保護層106として約3nmのCN層を順次形成した。製膜は、それぞれDCスパッタリングにて行った。その後、CN層の上に、約1nmの潤滑材107を塗布した。図1(b)は、記録層104を拡大した概念図である。記録層104には、強磁性金属層108にはCo90B10、非磁性金属層109にはPdを用いた。多層膜の形成は、基板を固定し、回転型のカソードを用い、Co90B10のターゲットとPdターゲットを回転させながら、両層を交互に形成し、合計約12nm製膜した。図1(b)では簡略化されているが、記録層104中は、各構成層として強磁性金属層108を0.2nm、非磁性金属層109を0.6nm、交互に15回積層されている。多層膜の場合の垂直磁気異方性の起源は、主に界面であるため、両者の層が交互に積層されて界面が形成されることが重要であり、強磁性金属層と非磁性金属層のどちらが先に製膜されていてもよい。ターゲットを固定し、基板を回転させても同様の多層膜が形成できる。各構成層の膜厚は、各ターゲットに投入するパワーを変えることにより、変化させた。また、多層記録層に粒界構造を形成するため、製膜時に微量の酸素を添加した。
【0024】
中間層103は、図2に示すように、低ガス圧(1.4Pa)で第1中間層201としてRuを8nm形成した後、高ガス圧(5Pa)で第2中間層202としてRuを8nm形成した。このように、低ガス圧で平坦な膜を製膜して結晶性を整え、その上に高ガス圧で製膜して凹凸形状を形成(図2(a))することにより、お椀型の粒が分離した形状の上に垂直方向に結晶配向性の良い多層記録層104が形成できる(図2(b))。強磁性金属層108と非磁性金属層109の多層膜は主に結晶粒203中に形成されている(図2(c))。中間層製膜時のガス圧の範囲としては、低ガス圧は1〜2Pa、高ガス圧は4〜10Paにした場合、凹凸形状を形成し、記録層の分離促進と結晶配向性を良好にする効果が得られた。
【0025】
まず、記録層について調べた。非磁性金属層の膜厚を0.6nmと一定にし、強磁性金属層の浮上特性と飽和磁化の膜厚依存性を調べた。その結果を、図3及び表1に示す。
【0026】
表1
強磁性金属層の膜厚(nm) 浮上特性(mV) 飽和磁化(emu/cc)
0.05 31.3 −
0.1 31.3 212
0.15 31.3 301
0.17 31.3 320
0.2 31.3 336
0.23 31.4 359
0.25 31.5 −
0.3 31.8 403
0.4 32.7 413
【0027】
この場合、構成層の積層数は18から12回となるが、磁気モーメントは記録層膜厚に比例するため、記録層の総膜厚を約12nmと一定として比較を行った。浮上特性は、専用のピエゾ電気センサー端子をヘッドに取り付けた磁気ヘッドを有するテスタにて、ヘッド浮上時のピエゾ端子振動の出力をプロットして測定した。媒体の潤滑材表面が平坦でヘッドが媒体に衝突することなく安定に浮上しているほど、振動は少ないため、出力は小さくなる。安定に浮上している場合、ピエゾ出力は31.5mV以下となり、掠ったり、衝突したりするなど浮上が不安定になるほど振動が大きくなるため、出力は大きくなる。実用的に媒体が使用されるためには、ヘッドの衝突等が生じてはならないため、ピエゾ出力は31.5mV以下であることが重要である。さらに、31.4mV以下は、外部振動などの外乱が生じても、媒体とヘッドとが衝突しないレベルであり、より好ましい。飽和磁化は、媒体を小片に切断した後、振動磁気磁針計(VSM)を用いて測定を行った。本明細書中で特に温度の記載がない評価に関しては全て室温で行った。飽和磁化が小さいと、ビットが記録された際の信号レベルが低くなり、SNRが低くなってしまい正しく記録された情報を再生することが出来ない。このため、飽和磁化が290emu/cc以上であることが重要となる。
【0028】
図3及び表1より、強磁性金属層の膜厚が薄いほどヘッド浮上時のピエゾ出力が小さく浮上特性が良好になり、厚いほど飽和磁化が大きくなることがわかる。強磁性金属層の膜厚が0.15nm以上0.25nm以下の場合に、ピエゾ出力が31.5mV以下、飽和磁化が290emu/cc以上と、浮上特性及び磁気特性の両者が良好な結果が得られた。さらに、強磁性金属層の膜厚が0.17nm以上0.23nm以下の場合に、ピエゾ出力が31.4mV以下、飽和磁化が310emu/cc以上と、浮上特性及び磁気特性の両者がより良好な結果が得られた。
【0029】
強磁性金属層の膜厚を0.2nmと一定にし、温度特性と飽和磁化の、非磁性金属層の膜厚依存性を調べた。結果を図4及び表2に示す。
【0030】
表2
非磁性金属層の膜厚(nm) 飽和磁化(emu/cc) キュリー温度(℃)
1.0 210 150
0.8 296 220
0.7 310 280
0.6 336 320
0.5 ― 370
0.45 385 400
0.4 405 420
0.3 425 −
【0031】
この場合、構成層の積層数は10から24回となるが、磁気モーメントは記録層膜厚に比例するため、記録層の総膜厚を約12nmと一定として比較を行った。温度特性は、媒体を小片に切断した後、ヒーターにて加熱を行いながら、各温度における飽和磁化を測定して求め、飽和磁化が20emu/cc以下と十分小さくなった温度をキュリー温度とした。エネルギー照射により、垂直磁気異方性を低下させて記録を行う方式では、温度特性も重要な物性の一つである。キュリー温度が低すぎる場合は、少量のエネルギー照射で飽和磁化が低下してしまうため、エネルギー照射量の制御が困難となる。そこで、室温から十分離れた温度にする必要があり、キュリー温度220℃以上が好ましい。一方で、キュリー温度が高い場合、記録のために記録層をより高温にする必要があるが、記録層が400℃以上になると、保護層や潤滑材の熱劣化が生じてしまう。保護層等が劣化すると、記録層が大気に曝され磁気特性が劣化したり、保護層や潤滑材表面に凹凸が生じ浮上特性が劣化したりする。そのため、キュリー温度は400℃以下が好ましい。
【0032】
図4及び表2より、非磁性金属層の膜厚が薄いほど飽和磁化が大きくなり、厚いほどキュリー温度が低くなることがわかる。非磁性金属層の膜厚が0.45nm以上0.8nm以下の場合に、キュリー温度が400℃以下、飽和磁化が290emu/cc以上と、温度特性及び磁気特性の両者が良好な結果が得られた。さらに、非磁性金属層の膜厚が0.5nm以上0.7nm以下の場合に、キュリー温度が370℃以下、飽和磁化が310emu/cc以上と、温度特性及び磁気特性の両者がより良好な結果が得られた。
【0033】
図5及び表3に、非磁性金属層と強磁性金属層の膜厚比をかえながら、磁気特性を調べた結果を示す。
【0034】
表3
強磁性金属層の膜厚 非磁性金属層の膜厚 膜厚比 保磁力
(nm) (nm) (kOe)
0.9 0.15 6 7.1
0.75 0.15 5 8.0
0.8 0.2 4 9.1
0.7 0.2 3.5 10.5
0.6 0.2 3 11.7
0.5 0.2 2.5 10.5
0.5 0.25 2 9.4
0.45 0.3 1.5 7.2
【0035】
ここでは、カー効果測定装置を用い、保磁力を調べた。保磁力が低いと記録された領域のうち不安定な領域が、ヘッド磁界やヘッド周辺温度上昇等により消滅してしまうため、室温における保磁力はヘッド磁界約6kOeから50%以上大きい9kOe以上が好ましい。図5及び表3より、非磁性金属層と強磁性金属層の膜厚比が適当な範囲で保磁力が大きくなることがわかる。非磁性金属層と強磁性金属層の膜厚比が2以上4以下の場合に、保磁力9kOe以上と良好な結果が得られた。さらに、非磁性金属層と強磁性金属層の膜厚比が2.5以上3.5以下の場合に、保磁力10.5kOe以上とより良好な結果が得られた。
【0036】
表4には、膜厚比を一定にして、磁性金属層と強磁性金属層の膜厚が上記良好な範囲内に入っている場合と範囲外の場合を比較した結果を示す。
【0037】
表4
番号 強磁性金属層の膜厚 非磁性金属層の膜厚 膜厚比 保磁力
(nm) (nm) (kOe)
41 0.4 1.2 3 7.1
42 0.2 0.6 3 11.7
43 0.1 0.3 3 3.5
44 0.08 0.24 3 2.7
【0038】
これより、非磁性金属層と強磁性金属層の膜厚比が適当な範囲であっても、構成層の膜厚が適当な範囲から外れた際(番号41,43,44)、つまりここでは強磁性金属層の膜厚が0.4,0.1,0.08nmの場合には、保磁力が9kOeより小さい。以上をまとめると、各構成層の膜厚及び膜厚比全てが良好な範囲にある場合にのみ、浮上特性、磁気特性、温度特性の良好な結果を得ることが出来た。
【0039】
図6及び表5に、エネルギー照射時と非照射時の保磁力差と信号劣化量の関係を調べた結果を示す。
【0040】
表5
保磁力 保磁力差 信号劣化量
(kOe) (kOe) (dB)
4.7 3.7 5
7.1 6.1 1
9.0 8.0 0.2
10.5 9.5 0
11.7 10.7 0
【0041】
記録時のエネルギー光源波長は780nm、エネルギー光源の出射パワーは100mW、エネルギー照射時間は2ns、記録磁界は約6kOe、媒体は上記図1に記載の構造を用いた。測定は、次のような手順で行った。エネルギーアシストにより、線記録密度1500fciで記録を行った後、信号レベルを測定した。次に、両隣のトラックに線記録密度1000fciで記録を行い、最初に記録しておいた信号のレベルを再度測定した。両脇のトラックに記録する際に、既に記録したトラックも隣接トラックから洩れたヘッド磁界や温度上昇にさらされる。このため、保磁力差が低く不十分な媒体では、記録ビット領域内の一部が消滅してしまい、信号劣化が生じる。信号劣化量は、最初に記録した場合と、両脇に記録を行った場合の信号レベルの差を信号劣化量として算出した。
【0042】
信号劣化が1%以上生じると、エラーコレクションで劣化信号を救うことが難しくなる。また、エラーコレクションを行うには、エラーコレクション用の余分のコードを記録することが必要になるため、劣化信号が少ないほど記録密度の低下が抑制でき、信号劣化が0%だとより好ましい。図6及び表5より、保磁力差が大きいほど信号劣化が生じないことがわかる。エネルギー照射時と非照射時の保磁力差が8kOe以上の場合に、信号劣化量は0.2dB以下に抑えられ、良好な結果が得られた。さらに、エネルギー照射時と非照射時の保磁力差が9.5kOe以上の場合に、信号劣化量は0dBに抑えられ、より良好な結果が得られた。
【0043】
次に、中間層材料依存性を調べた。強磁性金属層の膜厚を0.2nm、非磁性金属層の膜厚を0.6nm、記録層の総膜厚を12nmと一定にし、中間層材料及び製膜プロセスの組合せを変えながら、保磁力を調べた。中間層を前記のように低ガス圧と高ガス圧の製膜プロセスにて形成した場合と、単一製膜プロセスにて形成した場合についても比較を行った。表6にその結果をまとめた。
【0044】
表6
番号 中間層 保磁力(kOe)
61 Pd(低ガス圧、8nm)/Pd(高ガス圧、8nm) 13.5
62 Ru(低ガス圧、8nm)/Pd(高ガス圧、8nm) 12.2
63 Ru(低ガス圧、8nm)/Ru(高ガス圧、8nm) 11.7
64 Pd(低ガス圧、8nm)/Ru(高ガス圧、8nm) 11.5
65 Pd(低ガス圧、16nm) 11.1
66 Ru(低ガス圧、16nm) 10.6
67 なし 6.4
68 Co(低ガス圧、16nm) 4.4
69 Co(低ガス圧、8nm)/Pd(高ガス圧、8nm) 4.1
【0045】
このように、中間層材料がRu及び/又はPdの場合、9kOeの大きな保磁力が得られた。しかし、記録層の構成が良好な組成にもかかわらず、中間層材料がRu,Pd以外の場合、又は中間層を形成しなかった場合は、保磁力が4〜6kOeと小さかった。また、中間層が単層の場合に保磁力が低めなのは、結晶粒の分離が不十分なためと考えられる。中間層材料として、Ruが良好な特性を示しているのは、hcp構造の結晶によりCo層のc軸又はPd層の(111)配向性を向上させたのに加えて凹凸形状を形成し、記録層の垂直磁気異方性を形成しやすいためと考えられる。同じhcp構造のCoは、凹凸形状の形成が少なく良好な保磁力が得られなかった。Pdは、fcc構造であるが、凹凸形状が大きく、結晶粒の分離が促進されたため、保磁力が大きくなったと考えられる。また、Pdは製膜レートが早いため、高ガス圧での製膜にPdを用いると量産性が向上できる。しかしながら、表面ラフネスは大きく、番号61のラフネスは番号63の1.5倍、番号62は番号63の1.3倍であった。
【0046】
以上より、基板と、基板上に設けられた下地層及び中間層と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層と保護層を有し、エネルギー照射により垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体において、中間層をRu及び/又はPdから形成し、磁気記録層を、Coを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体とし、強磁性金属層の膜厚を0.15nm以上0.25nm以下とし、非磁性金属層の膜厚を0.45nm以上0.8nm以下とし、強磁性金属層と非磁性金属層の膜厚比を2以上4以下とし、エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差を8kOe以上とすることにより、良好な記録再生特性を有する、エネルギーアシスト型垂直磁気記録媒体を得ることが可能となる。
【0047】
この他、基板101には、直径2.5インチ、厚さ0.6mm、表面ラフネスRaが0.3nm以下の強化ガラスを用いたが、直径が3.5インチ、5インチや1.8インチ等、厚さが1mm、0.8mm、0.5mm等、別のサイズの基板を用いてもよい。基板の材質は、強化ガラス以外でも良いが、Si、アルミなど表面が500℃程度にさらされても変形・変質しない材料が好ましい。
【0048】
下地層102にはNi63Ta38層とNi94W6層を用いたが、基板、中間層との密着性や平坦性を確保できれば、このほかの材料や膜厚でも良い。保護層106についても、記録層との密着性、熱アシスト光源の波長における透明性、表面の平坦性が確保できれば、組成比が異なっていてもよく、この他の材料でもよい。
【0049】
また、強磁性金属層の膜厚を0.2nm、非磁性金属層の膜厚を0.6nm、記録層の総膜厚を12nmとして、製膜中のArガスへの酸素添加量を変えながら製膜し、膜中の酸素量及び記録層の結晶配向及び結晶の粒界幅の関係を調べたところ、図7及び表7に示す結果が得られた。
【0050】
表7
番号 酸素量(原子%) 結晶配向(°) 結晶粒界幅(nm)
71 0 3.19 0
72 5 3.21 0.3
73 8 3.25 0.4
74 10 3.28 0.5
75 13 3.3 0.55
76 15 3.32 0.6
77 19 3.43 0.8
【0051】
酸素量の分析は、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)にて行った。結晶配向性は、X線回折装置を用いて調べた。結晶配向性が良いほど、結晶ごとの磁気特性が均一になる。結晶配向性が劣化すると、磁気特性の分散が大きくなり、ノイズの原因となるため、結晶配向は3.35゜以下が好ましい。結晶粒界幅は、透過型電子顕微鏡(TEM)により、100個の粒子の粒及び粒界の観察を行い、粒界の平均値を求めた。結晶粒界幅が大きいほど、隣接粒子の磁気的な影響を受けなくなる。つまり、磁気的な相関距離が小さくなり、記録エラー率が減少する。そのため、結晶粒界は大きいことが必要で、少なくとも0.3nm以上が好ましい。結晶粒界が形成されない場合、磁気的な相関距離が大きすぎ、ビット長25nmといった、高密度のビットは形成できない。
【0052】
図7及び表7より、酸素量が増加するほど、結晶配向性は悪化し、結晶粒界幅は大きくなることがわかる。記録層中の酸素量が5原子%以上15原子%以下の場合に、結晶配向は3.35°以下、結晶粒界幅は0.3nm以上に出来、良好な結果が得られた。さらに、記録層中の酸素量が8原子%以上13原子%以下の場合に、結晶配向は3.3°以下、結晶粒界幅は0.4nm以上に出来、より良好な結果が得られた。
【0053】
さらに、強磁性金属層中へB(硼素)を添加することで、結晶粒径を小さくすることが可能となった。結晶粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により、100個の粒子の観察を行い、粒径の平均値及び分散を求めた。結晶粒径が小さくなると、記録時のノイズが低減できる。最短で25nmのビット長の記録を行う場合、最短ビット長の半分である12.5nm以上の結晶粒が存在すると、記録時のノイズが急激に増加する。このため、結晶粒径の分散が約20%であるから、平均粒径は11.4nm以下であることが好ましい。また、Bを添加しすぎると加熱時に記録層の劣化が生じる。実際に記録を行う際の媒体の加熱時間は数nsであるが、加速試験として400℃で1h加熱した際の飽和磁化の劣化を調べた。劣化量が大きいと、書換え可能回数が少なくなるため、200emu/cc以下であることが好ましい。強磁性金属層中の硼素(B)量が異なるターゲットを用意し、強磁性金属層の膜厚を0.2nm、非磁性金属層の膜厚を0.6nm、記録層の総膜厚を12nmとして、強磁性金属層中のB添加量の異なる記録層を製膜し、膜中の硼素量と結晶粒径及び加速試験時の飽和磁化劣化量を調べたところ、図8及び表8に示すような結果が得られた。
【0054】
表8
番号 硼素量 飽和磁化劣化量 結晶粒径
(原子%) (emu/cc) (nm)
81 0 20 12.5
82 5 20 11.0
83 8 30 10.8
84 10 50 10.6
85 13 100 10.5
86 15 180 10・3
87 19 250 10.2
【0055】
これより、強磁性金属層中の硼素量が増加するほど、飽和磁化劣化量は大きく、結晶粒径は小さくなることがわかる。強磁性金属層中の硼素量が5原子%以上15原子%以下の場合に、飽和磁化劣化量は200emu/cc以下、結晶粒径は11nm以下に出来、良好な結果が得られた。さらに、硼素量が8原子%以上13原子%以下の場合に、飽和磁化劣化量は100emu/cc以下、結晶粒径は10.8nm以下に出来、より良好な結果が得られた。
【0056】
次に、記録層のキュリー温度と浮上特性、記録特性の関係を調べた。浮上特性は、加速試験とし、媒体にファーフィールドのレーザ光(波長780nm、スポット径1μm)を10ns、1000回照射した後、前記グライドテスタで浮上時にグライドヘッドがヒットする回数を調べた。記録特性は、近接場光でビット長50nmで記録を行い、記録ドメイン100個を磁気顕微鏡(MFM)で観察し、ビット長分散を求めた。記録パワーを変えながら測定を各媒体の最適パワーでの分散を比較した。表9に結果を纏めた。
【0057】
表9
番号 キュリー温度(℃) ヘッドのヒット数(回) ビット長分散(%)
91 200 0 25
92 220 0 14
93 240 0 10
94 300 1 8
95 370 2 6
96 400 5 6
97 450 10 6
【0058】
これより、記録層のキュリー温度が高くなるほど、ヘッドのヒット数が増えることがわかる。これは、キュリー温度が高いため、記録時に記録層の温度を高くしないと記録が出来ず、この際の熱で保護層や潤滑材が熱劣化したためである。表面に凹凸が形成され、浮上特性が劣化、ヒットの回数が増加していると考えられる。また、記録層のキュリー温度が低くなるほど、ビット長分散が大きくなる。これは、記録時の温度が低い、つまり出射パワーが低く室温との差が小さくなるため、温度制御のばらつきが増加しているためである。記録層キュリー温度が220℃以上400℃以下の場合に、ヘッドのヒット数は5回以下と少なく、ビット長分散が15%以下の、良好な結果が得られた。さらに、記録層キュリー温度が250℃以上370℃以下の場合に、ヘッドのヒット数は2回以下ときわめて少なく、ビット長分散が10%以下の、より良好な結果が得られた。
【0059】
記録層の膜厚と温度特性、磁気特性の関係を調べた。結果を表10に示す。温度特性は、記録層のエネルギー入射側(上面)とその反対の基板側(下面)の温度の差を調べた。温度差が大きいと、記録のために記録層がエネルギー照射された際に、上面だけ加熱により垂直磁気異方性が低下し磁化反転するが、下面は温度が低く垂直磁気異方性が高いままのため磁化反転せず、記録ビットが形成されない割合が増加する。従って、記録層上下間の温度差は記録温度に対して十分小さい125℃以下であることが好ましい。磁気特性としては、磁気モーメントの大きさをノミナルの記録層12nmを1としてその比で示した。磁気モーメントが低くなると、信号強度が劣化するため、磁気モーメントの大きさはノミナルの0.5以上が必要である。
【0060】
表10
番号 記録層膜厚 記録層上下間の温度差 磁気モーメント
(nm) (℃)
101 4 5 0.3
102 6 20 0.5
103 8.4 45 0.7
104 12 90 1
105 13 105 1.1
106 15 125 1.25
107 18 153 1.5
【0061】
表10より、記録層膜厚が厚くなるほど、記録層上下間の温度差が広がることがわかる。これは、近接場光が光源からはなれたところでは、光強度が低下するためであり。また、記録層膜厚が薄くなるほど、磁気モーメントが小さくなる。これは、記録層の磁化とその体積に関係しているためである。記録層膜厚が6nm以上15nm以下の場合に、記録層上下間の温度差は125℃、磁気モーメント0.5以上の、良好な結果が得られた。さらに、記録層膜厚が8.4nm以上13nm以下の場合に、記録層上下間の温度差は105℃、磁気モーメント0.7以上の、より良好な結果が得られた。
【0062】
[実施例2]
実施例2では、本発明の一つの実施例として、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層とキャップ層を有し、エネルギー照射(アシスト)により垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体を説明する。
【0063】
図9(a)は、本発明の一実施例として、強磁性金属層108と非磁性金属層109の多層膜からなる記録層104と、キャップ層用強磁性金属層901とキャップ層用非磁性金属層902の多層膜からなるキャップ層105を有する垂直磁気記録媒体の断面構造を模式的に示したものである。基板101上に、下地層102として約30nmのNi63Ta38層と約7nmのNi94W6層、中間層103として約16nmのRu層、約12nmの記録層104、約3nmのキャップ層105、保護層106として約3nmのCN層を順次形成した。製膜は、それぞれDCスパッタリングにて行った。その後、CN層の上に、約1nmの潤滑材107を塗布した。
【0064】
記録層104は、強磁性金属層108にはCo90B10を0.2nm、非磁性金属層109にはPdを0.6nmを用いて積層し、微量の酸素を添加した。詳細は実施例1に記載の通りである。図9(b)は、キャップ層105を拡大したものである。キャップ層105は、キャップ層用強磁性金属層901にはCoを0.2nm、キャップ層用非磁性金属層902にはPdを0.6nmを用いて積層した。積層数はキャップ層3nmの場合、約4回である。多層膜構造のキャップ層の形成は、基板を固定し、CoのターゲットとPdターゲットを回転させながら、両層を交互に形成して行った。ターゲットを固定し、基板を回転させても同様の多層膜が形成できる。各構成層の膜厚は、各ターゲットに投入するパワーを変えることにより、変化させた。キャップ層製膜時のガス圧は5Paにした。
【0065】
比較例には、上記キャップ層の組成と構造のみ異なる媒体を作製し、浮上特性及び磁気特性の比較を行った。キャップ層に、Co65Cr15Pt12B8組成を用いて、比較した。
【0066】
まず、多層膜構造のキャップ層及び比較のキャップ層を有する媒体を形成し、垂直磁気記録媒体の浮上特性を調べ、表11にて比較した。ここでは、浮上特性が良好な媒体が得られる歩留まりを調べた。歩留まりは、同様の構成の媒体を20枚作製し、前記ピエゾ出力が31.3mV以下のものをA級品、31.4から31.5mVのものをB級品、31.6mV以上のものをNGとしてカウントして、各割合を調べた。
【0067】
表11
番号 キャップ層種類 キャップ層膜厚 A級品 B級品 NG 保磁力劣化量
(nm) (%) (%) (%) (kOe)
111 Co/Pd多層膜 5 100 0 0 2.1
112 Co/Pd多層膜 4 100 0 0 1.5
113 Co/Pd多層膜 3 100 0 0 1.2
114 Co/Pd多層膜 2 95 5 0 0.8
115 Co/Pd多層膜 1 90 10 0 0.5
116 Co/Pd多層膜 0 80 20 0 0
117 CoCrPtB膜 5 100 0 0 5.5
118 CoCrPtB膜 4 100 0 0 5.0
119 CoCrPtB膜 3 100 0 0 4.1
11a CoCrPtB膜 2 95 5 0 3.2
11b CoCrPtB膜 1 90 10 0 2.1
11c CoCrPtB膜 0 80 20 0 0
【0068】
表11より、キャップ層が厚いほど歩留まりが増加することがわかる。キャップ層厚さ1nm以上の場合に、A級品歩留まりは90%と、良好な結果が得られた。さらに、キャップ層厚さ2nm以上の場合に、A級品歩留まりは95%に向上し、より良好な結果が得られた。浮上特性の向上は、多層膜キャップ層でも比較例のキャップ層でも同様に向上した。浮上特性が向上した理由は、図10に示されるように、記録層表面に結晶粒形成により形成された凹凸をキャップ層105の形成により滑らかに出来たためと考えられる。
【0069】
次に、磁気特性の比較を行った。各媒体の保磁力を測定し、キャップ層形成による保磁力の劣化量を調べた。本発明と比較例にそれぞれキャップ層を形成した場合の磁気特性を、図11及び表11で比較した。多層化されていない、Co65Cr15Pt12B8組成のキャップ層を有する比較例では、保磁力劣化が極めて大きく、1nm形成しただけでも2kOe以上という大きな劣化を示した。これは、保磁力の大きな記録層上に保磁力の小さなキャップ層が形成されたため、媒体全体の磁気特性が劣化したためである。一方、本発明の多層膜キャップ層付媒体では、浮上特性を向上するためにキャップ層を形成しても磁気特性の劣化はきわめて小さく、4nmキャップ層を形成しても1.5kOeと劣化が小さいことがわかる。これは、キャップ層も多層膜構造とすることで保磁力の大きな層を重ねた構成にしたためと考えられる。このように、高い垂直磁気異方性を持つ記録層にキャップ層用強磁性金属層とキャップ層用非磁性金属層からなる多層膜構造のキャップ層を設けることで、磁気特性の劣化を防ぎかつ、浮上特性を極めて良好にすることが可能となった。
【0070】
さらに、記録層等の条件を一定にしたまま、多層膜キャップ層の組成、プロセス依存性を調べ、表12に示した。キャップ層用強磁性金属層901にはCo90B10を0.2nm、キャップ層用非磁性金属層902にはPdを0.6nmを用いて積層した媒体を作製した(番号121)。キャップ層の厚さは2nmとした。このようにBを添加した場合、A級品の歩留まりは85%に低下した。これより、キャップ層にはBを添加しない方が良いことがわかった。
【0071】
キャップ層用強磁性金属層901にはCoを0.2nm、キャップ層用非磁性金属層902にはPdを0.6nmを用いて積層した媒体を作製した。ここでは記録層同様、微量の酸素添加を行った。酸素添加をした場合、キャップ層中のO量が10原子%のとき(番号122)、A級品の歩留まりは80%に低下した。キャップ層中のO量が5原子%のとき(番号123)、A級品の歩留まりは85%であった。これより、キャップ層中の酸素量は少ないほうが良いことがわかった。
【0072】
キャップ層用強磁性金属層901にはCo90B10を0.1nm、キャップ層用非磁性金属層902にはPdを0.6nmを用いて積層した媒体(番号124)を作製した。キャップ層の厚さは2nmとした。このような強磁性金属層を記録層より薄くした場合、A級品の歩留まりは95%のままで保磁力の劣化が低減できることがわかった。
【0073】
キャップ層用強磁性金属層901にはCoを0.1nm、キャップ層用非磁性金属層902にはPdを0.6nmを用いて積層した媒体(番号125)を作製した。キャップ層の厚さは2nmとした。このように強磁性金属層にBを入れず、さらに構成層を記録層より薄くした場合、A級品の歩留まりは97%に向上し、さらに保磁力の劣化が低減できることがわかった。
【0074】
キャップ層用強磁性金属層901にはCo90B10を0.2nm、キャップ層用非磁性金属層902にはPdを0.6nmを用いて、スパッタリングガス圧を3.5Paで積層した媒体(番号126)を作製した。キャップ層の厚さは2nmとした。このようにガス圧を下げると、製膜レートが高くなり量産性が向上する。A級品の歩留まりも95%のままで、保磁力の劣化は少し大きくなった。
【0075】
キャップ層用強磁性金属層901にはCoを0.2nm、キャップ層用非磁性金属層902にはPdを0.6nmを用いて、スパッタリングガス圧を3.5Paで積層した媒体(番号127)を作製した。キャップ層の厚さは2nmとした。このようにガス圧を下げると、製膜レートが高くなり量産性が向上する。A級品の歩留まりは97%に向上した。保磁力の劣化は少し大きくなった。
【0076】
表12
番号 A級品(%) 保磁力劣化量(kOe)
114 95 0.8
121 85 0.8
122 80 0.8
123 85 0.8
124 95 0.6
125 97 0.6
126 95 0.9
127 97 0.9
【0077】
なお、本実施例に記載していない層構成、製造方法、材料、評価方法等は実施例1と同様にした。
【0078】
[実施例3]
本発明の一実施例である磁気記憶装置の概略を図12に示した。(a)は平面模式図、(b)はそのA−A’断面図である。(c)はヘッドの概略図、(d)はヘッド主要部の側面からみた概略図である。
【0079】
この装置は、垂直磁気記録媒体1501、これを駆動する駆動部1502、磁気ヘッド用浮上スライダ1503及び磁気ヘッドの駆動手段1504、磁気ヘッドの記録再生信号処理手段1505を有する。磁気ヘッドは、磁気ヘッドスライダ上に形成された記録再生分離型の磁気ヘッドであり、記録ヘッドには磁界を形成する手段1507及び近接場光を用いたエネルギー照射手段1506が設けられている。さらに磁気ヘッドには、再生電流用検出手段(再生ヘッド)1508が設けられ、記録されたビットの再生を行う。近接場光は、サスペンション1201上に形成された光導波路1202を通して、近接場光を用いたエネルギー照射手段1506に供給される。浮上スライダ1503は、位置決め精度を向上させるため、フレクシャー1203を介してサスペンションに取り付けられている。
【0080】
次に、記録時の熱や磁気特性について調べた。光源波長は780nmであり、垂直磁気記録媒体1501には図1に記載の構造を用いた。図13に、エネルギー照射源である近接場光源から記録層表面までの距離(磁気スペーシング)と垂直磁気記録媒体におけるエネルギー吸収率の関係を調べた。これは、近接場光の強度とその波長における媒体の吸収率から算出し、当該距離が4nmの場合を1とし規格化した。これより、当該距離が小さいほど媒体の吸収率が大きいことがわかる。吸収率が小さい場合、近接場光では十分媒体を加熱することが出来ず、記録が行えないため、吸収率は25%以上が好ましい。エネルギー照射源から記録層表面までの距離が8nm以下の場合に、吸収率が25%以上と良好な結果が得られた。さらに、エネルギー照射源から記録層表面までの距離が7nm以下の場合に、吸収率が32%以上とより良好な結果が得られた。
【0081】
さらに、実施例1に記載した媒体を上記磁気記憶装置に組み込んで、ヘッド浮上量4nmで安定にヘッドが浮上することを確認したのち、上記近接場光を用いたエネルギー照射手段を搭載したヘッドを用いて記録を行った。MFMにてドメインを評価したところ、線密度方向は約25nm、トラック幅方向は50nmのドメインが形成できたことがわかった。
【0082】
以上から、基板と、基板上に設けられた下地層及び中間層と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層と保護層を有し、エネルギー照射により垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体として、中間層をRu及び/又はPdで形成し、磁気記録層を、Coを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体で構成し、強磁性金属層の膜厚を0.15nm以上0.25nm以下とし、非磁性金属層の膜厚を0.45nm以上0.8nm以下とし、強磁性金属層と非磁性金属層の膜厚比を2以上4以下とし、エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差を8kOe以上とした垂直磁気記録媒体を備え、更に近接場光を用いたエネルギー照射機能を有する磁気記録用ヘッドと信号再生用ヘッドとを備え、記録時のエネルギー照射源から磁気記録層表面までの距離を8nm以下とすることにより、良好な記録再生特性を有するエネルギーアシスト型磁気記憶装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の垂直磁気記録媒体の断面構造例を示す図であり、(a)は全体層構成図、(b)は記録層の拡大図。
【図2】本発明の垂直磁気記録媒体の中間層及び記録層の詳細断面構造を示す図で有り、(a)中間層まで積層された状態を示す図、(b)は中間層上に記録層が積層された状態を示す図、(c)は記録層の拡大図。
【図3】本発明の垂直磁気記録媒体における、強磁性金属層膜厚と浮上特性、磁気特性の関係を示す図。
【図4】本発明の垂直磁気記録媒体における、非磁性金属層膜厚と温度特性、磁気特性の関係を示す図。
【図5】本発明の垂直磁気記録媒体における、非磁性金属層と強磁性金属層の膜厚比と磁気特性の関係を示す図。
【図6】本発明の垂直磁気記録媒体の保磁力差と信号劣化量の関係を示す図。
【図7】本発明の垂直磁気記録媒体における、記録層中の酸素量と結晶化特性の関係を示す図。
【図8】本発明の垂直磁気記録媒体における、強磁性金属層中の硼素量と磁気特性、結晶粒径の関係を示す図。
【図9】本発明のキャップ層を有する垂直磁気記録媒体の断面構造を示す図であり、(a)は全体層構成を示す図、(b)はキャップ層の拡大図。
【図10】本発明のキャップ層を有する垂直磁気記録媒体の詳細断面構造を示す図。
【図11】本発明のキャップ層を有する垂直磁気記録媒体と比較例の媒体における磁気特性を示す図。
【図12】本発明の磁気記憶装置の構成例を示す図。
【図13】本発明の磁気記憶装置における、エネルギー源から記録層表面までの距離と吸収率の関係を示す図。
【符号の説明】
【0084】
101:基板、102:下地層、103:中間層、104:記録層、105:キャップ層、106:保護層、107:潤滑材、108:強磁性金属層、109:非磁性金属層、201:第1中間層、202:第2中間層、203:結晶粒、204:粒界、901:キャップ層用強磁性金属層、902:キャップ層用非磁性金属層、1201 サスペンション, 1202 光導波路、1203 フレクシャー、1501:垂直磁気記録媒体、1502:媒体駆動部、1503:浮上スライダ、1504:磁気ヘッド駆動手段、1505:記録再生信号処理手段、1506:近接場光を用いたエネルギー照射手段、1507:磁界を形成する手段、1508再生ヘッド。
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギーアシスト型垂直磁気記録媒体及び磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2008年現在、磁気ディスク装置(HDD)の面記録密度は数百Gbit/inch2以上となり、高密度化に伴い、面内磁気記録方式から垂直磁気記録方式へ記録方式が変化してきた。この方式では、高密度記録を行った際に、隣接ビットからの漏洩磁束が磁化を安定化させる方向に働くため、面内磁気記録と比べて、高密度化に有効であることがわかっている。しかしながら、1Tbit/inch2以上に高密度化するためには、ビットを小さくした場合でも環境温度に対する安定性つまり熱減磁現象の問題を解決する必要がある。
【0003】
この問題を解決するには、室温でさらに大きな垂直磁気異方性エネルギーや保磁力を有する記録層を適用する必要があるが、高保磁力の記録層に記録を行うことが出来るような、巨大な磁界を発生する記録磁気ヘッドの実現は非常に困難である。そこで、光照射により熱を発生させる等のエネルギーアシストにより、記録時のみ垂直磁気異方性エネルギーや保磁力を低下させて磁化反転を起こして記録を行い、それ以外のときには垂直磁気異方性エネルギーや保磁力を高いままにする、という画期的な記録方式が検討され始めた。中でも、近接場光を用いてエネルギーアシストする方式は、レーザ光をレンズ等で絞り光スポットを形成する方式に比べ、光スポットを波長以下の極めて小さいサイズに出来る。このためエネルギーアシストにより加熱される領域の直径が数+nm以下と非常に狭い範囲に局所的にエネルギー照射出来、1Tbit/inch2以上の高録密度記録に適していると考えられる(非特許文献1)。
【0004】
【非特許文献1】Optics Letters, Vol.31, Issue 2, pp.259-261(2006).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、近接場光を用いたエネルギーアシスト方式では、近接場光の強度が光源からの距離に対して急激に低下する特性を持つため、光源から離れた距離に記録層が存在する場合は、記録層に照射される光強度が低くなり、記録層を実用上十分に加熱することができないという課題が生じている。また、光源に記録層を近づけて磁気スペーシングを小さくした場合にはヘッドの浮上特性が安定しない。さらに、室温で大きな垂直磁気異方性エネルギーや保磁力を有する記録層は、キュリー温度が高く、記録温度まで多数回のエネルギー照射を行うと、保護層、記録層等に不可逆的な劣化が生じるため、多数回の記録が困難である。キュリー温度が低い記録層では、垂直磁気異方性エネルギーや保磁力が小さすぎるという課題がある。
【0006】
このように、大きな垂直磁気異方性エネルギーや保磁力を有し、キュリー温度が低く、磁気スペーシングが小さくても浮上特性が良い、近接場光を用いたエネルギーアシストによる磁気記録が行なえる垂直磁気記録媒体を得ることは困難であった。
【0007】
前述したように、高密度のエネルギーアシスト型垂直磁気記録を実現するには、次に述べるような種々の課題を網羅的に克服する必要がある。第1に、近接場光を用いたエネルギーアシスト用に記録層を実用上十分に加熱することができない。第2に、室温で大きな垂直磁気異方性エネルギーや高い保磁力を有し、かつキュリー温度が低い媒体を得ることが困難である。第3に、磁気スペーシングが小さい場合に、浮上特性が良い媒体を得ることが困難である。
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決して、高密度のエネルギーアシスト型垂直磁気記録を実現する垂直磁気記録媒体及び磁気記憶装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述課題を解決するための手段として、以下の手段を用いた。
(1)基板と、基板上に設けられた下地層及び中間層と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層と保護層を有し、エネルギー照射(アシスト)により磁気記録層の垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体であって、中間層がRu及び/又はPdからなり、磁気記録層は、Coを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体であり、強磁性金属層の膜厚が0.15以上0.25nm以下であり、非磁性金属層の膜厚が0.45以上0.8nm以下であり、強磁性金属層と非磁性金属層の膜厚比が2以上4以下であり、エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差が8kOe以上あることを特徴とした。
これにより、エネルギー照射(アシスト)により高密度の垂直磁気記録が可能となる。
【0010】
(2)基板と、基板上に設けられた下地層及び中間層と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層とキャップ層と保護層を有し、エネルギー照射により磁気記録層の垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体であって、中間層がRu及び/又はPduからなり、磁気記録層は、Coを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体であり、キャップ層がCoを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体からなり、強磁性金属層が0.15以上0.25nm以下であり、非磁性金属層が0.45以上0.8nm以下であり、強磁性金属層と非磁性金属層の膜厚比が2以上4以下であり、エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差が8kOe以上あることを特徴とした。
これにより、(1)に記載の垂直磁気記録媒体の浮上特性をさらに良好にすることが可能となる。
【0011】
(3)前記(1)又は(2)に記載の垂直磁気記録媒体において、磁気記録層のキュリー温度が220℃以上400℃以下であることを特徴とした。
これにより、(1)又は(2)に記載の垂直磁気記録媒体の浮上特性をさらに良好にすることが可能となる。
【0012】
(4)前記(1)又は(2)に記載の垂直磁気記録媒体において、磁気記録層中の平均酸素濃度が5原子%以上15原子%以下であることを特徴とした。
これにより、面内方向の磁気相互作用を小さくし、記録ノイズを低くすることが可能となる。
【0013】
(5)前記(1)又は(2)に記載の垂直磁気記録媒体において、強磁性金属層中の平均硼素濃度が5原子%以上15原子%以下であることを特徴とした。
これにより、面内方向の粒径を小さくし、再生ノイズを低くすることが可能となる。
【0014】
(6)前記(1)又は(2)に記載の垂直磁気記録媒体において、磁気記録層の膜厚が6nm以上15nm以下であることを特徴とした。
これにより、前記磁気記録層の記録時の膜厚方向の温度分布を小さくし、安定なドメインを記録することが可能となる。
【0015】
(7)前記(2)に記載の垂直磁気記録媒体において、キャップ層中の平均酸素濃度が磁気記録層の平均酸素濃度より低いことを特徴とした。
これにより、潤滑層の平坦性が向上し、浮上特性が良好な媒体を得ることが可能となる。
【0016】
(8)前記(2)に記載の垂直磁気記録媒体において、キャップ層の膜厚が1nm以上4nm以下であることを特徴とした。
これにより、浮上特性と磁気特性の両方が良好な媒体を得ることが可能となる。
【0017】
(9)前記(1)又は(2)に記載の中間層がPdからなることを特徴とした。
これにより、製膜時間が短縮され、生産性が向上した。
【0018】
(10)前記(1)又は(2)に記載の中間層がRuからなることを特徴とした。
これにより、表面のラフネスが小さくなり、浮上特性が向上した。
【0019】
(11)前記(1)又は(2)に記載の中間層がRuとPdからなることを特徴とした。
これにより、生産性と浮上特性が少しずつ向上した。
【0020】
(12)基板と、基板上に設けられた下地層及び中間層と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層と保護層を有し、エネルギー照射により前記磁気記録層の垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体と、近接場光を用いたエネルギー照射機能を有する磁気記録用ヘッドと信号再生用ヘッドとを有する磁気ヘッドと備えた磁気記憶装置であって、垂直磁気記録媒体は、中間層がRu及び/又はPdからなり、磁気記録層は、Coを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体であり、強磁性金属層の膜厚が0.15nm以上0.25nm以下であり、非磁性金属層の膜厚が0.45nm以上0.8nm以下であり、強磁性金属層と非磁性金属層の膜厚比が2以上4以下であり、エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差が8kOe以上あり、記録時に磁気ヘッドのエネルギー照射源から垂直磁気記録媒体の磁気記録層表面までの距離が8nm以下であることを特徴とした。
これにより、高密度の磁気記憶装置が得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高密度の熱アシスト記録に適した、熱アシストによる昇温で記録が可能、かつ室温では高保磁力を有する垂直磁気記録媒体及び磁気記憶装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
[実施例1]
本発明の一つの実施例として、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層を有し、エネルギー照射(アシスト)により垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体を説明する。ここでは、近接場光を用いてエネルギーアシストを行った。これにより、媒体中の加熱される領域の直径が数+nm以下と非常に狭い範囲に局所的にエネルギー照射出来る。エネルギーの照射量は、媒体の温度がキュリー点の約70%以上になるように最適化して評価を行った。
【0023】
図1(a)は、本発明の一つの実施例として強磁性金属層108と非磁性金属層109の多層膜からなる記録層104を有する垂直磁気記録媒体の断面構造を模式的に示したものである。基板101上に、下地層102として約30nmのNi63Ta38層と約7nmのNi94W6層、中間層103として約16nmのRu層、約12nmの記録層104、保護層106として約3nmのCN層を順次形成した。製膜は、それぞれDCスパッタリングにて行った。その後、CN層の上に、約1nmの潤滑材107を塗布した。図1(b)は、記録層104を拡大した概念図である。記録層104には、強磁性金属層108にはCo90B10、非磁性金属層109にはPdを用いた。多層膜の形成は、基板を固定し、回転型のカソードを用い、Co90B10のターゲットとPdターゲットを回転させながら、両層を交互に形成し、合計約12nm製膜した。図1(b)では簡略化されているが、記録層104中は、各構成層として強磁性金属層108を0.2nm、非磁性金属層109を0.6nm、交互に15回積層されている。多層膜の場合の垂直磁気異方性の起源は、主に界面であるため、両者の層が交互に積層されて界面が形成されることが重要であり、強磁性金属層と非磁性金属層のどちらが先に製膜されていてもよい。ターゲットを固定し、基板を回転させても同様の多層膜が形成できる。各構成層の膜厚は、各ターゲットに投入するパワーを変えることにより、変化させた。また、多層記録層に粒界構造を形成するため、製膜時に微量の酸素を添加した。
【0024】
中間層103は、図2に示すように、低ガス圧(1.4Pa)で第1中間層201としてRuを8nm形成した後、高ガス圧(5Pa)で第2中間層202としてRuを8nm形成した。このように、低ガス圧で平坦な膜を製膜して結晶性を整え、その上に高ガス圧で製膜して凹凸形状を形成(図2(a))することにより、お椀型の粒が分離した形状の上に垂直方向に結晶配向性の良い多層記録層104が形成できる(図2(b))。強磁性金属層108と非磁性金属層109の多層膜は主に結晶粒203中に形成されている(図2(c))。中間層製膜時のガス圧の範囲としては、低ガス圧は1〜2Pa、高ガス圧は4〜10Paにした場合、凹凸形状を形成し、記録層の分離促進と結晶配向性を良好にする効果が得られた。
【0025】
まず、記録層について調べた。非磁性金属層の膜厚を0.6nmと一定にし、強磁性金属層の浮上特性と飽和磁化の膜厚依存性を調べた。その結果を、図3及び表1に示す。
【0026】
表1
強磁性金属層の膜厚(nm) 浮上特性(mV) 飽和磁化(emu/cc)
0.05 31.3 −
0.1 31.3 212
0.15 31.3 301
0.17 31.3 320
0.2 31.3 336
0.23 31.4 359
0.25 31.5 −
0.3 31.8 403
0.4 32.7 413
【0027】
この場合、構成層の積層数は18から12回となるが、磁気モーメントは記録層膜厚に比例するため、記録層の総膜厚を約12nmと一定として比較を行った。浮上特性は、専用のピエゾ電気センサー端子をヘッドに取り付けた磁気ヘッドを有するテスタにて、ヘッド浮上時のピエゾ端子振動の出力をプロットして測定した。媒体の潤滑材表面が平坦でヘッドが媒体に衝突することなく安定に浮上しているほど、振動は少ないため、出力は小さくなる。安定に浮上している場合、ピエゾ出力は31.5mV以下となり、掠ったり、衝突したりするなど浮上が不安定になるほど振動が大きくなるため、出力は大きくなる。実用的に媒体が使用されるためには、ヘッドの衝突等が生じてはならないため、ピエゾ出力は31.5mV以下であることが重要である。さらに、31.4mV以下は、外部振動などの外乱が生じても、媒体とヘッドとが衝突しないレベルであり、より好ましい。飽和磁化は、媒体を小片に切断した後、振動磁気磁針計(VSM)を用いて測定を行った。本明細書中で特に温度の記載がない評価に関しては全て室温で行った。飽和磁化が小さいと、ビットが記録された際の信号レベルが低くなり、SNRが低くなってしまい正しく記録された情報を再生することが出来ない。このため、飽和磁化が290emu/cc以上であることが重要となる。
【0028】
図3及び表1より、強磁性金属層の膜厚が薄いほどヘッド浮上時のピエゾ出力が小さく浮上特性が良好になり、厚いほど飽和磁化が大きくなることがわかる。強磁性金属層の膜厚が0.15nm以上0.25nm以下の場合に、ピエゾ出力が31.5mV以下、飽和磁化が290emu/cc以上と、浮上特性及び磁気特性の両者が良好な結果が得られた。さらに、強磁性金属層の膜厚が0.17nm以上0.23nm以下の場合に、ピエゾ出力が31.4mV以下、飽和磁化が310emu/cc以上と、浮上特性及び磁気特性の両者がより良好な結果が得られた。
【0029】
強磁性金属層の膜厚を0.2nmと一定にし、温度特性と飽和磁化の、非磁性金属層の膜厚依存性を調べた。結果を図4及び表2に示す。
【0030】
表2
非磁性金属層の膜厚(nm) 飽和磁化(emu/cc) キュリー温度(℃)
1.0 210 150
0.8 296 220
0.7 310 280
0.6 336 320
0.5 ― 370
0.45 385 400
0.4 405 420
0.3 425 −
【0031】
この場合、構成層の積層数は10から24回となるが、磁気モーメントは記録層膜厚に比例するため、記録層の総膜厚を約12nmと一定として比較を行った。温度特性は、媒体を小片に切断した後、ヒーターにて加熱を行いながら、各温度における飽和磁化を測定して求め、飽和磁化が20emu/cc以下と十分小さくなった温度をキュリー温度とした。エネルギー照射により、垂直磁気異方性を低下させて記録を行う方式では、温度特性も重要な物性の一つである。キュリー温度が低すぎる場合は、少量のエネルギー照射で飽和磁化が低下してしまうため、エネルギー照射量の制御が困難となる。そこで、室温から十分離れた温度にする必要があり、キュリー温度220℃以上が好ましい。一方で、キュリー温度が高い場合、記録のために記録層をより高温にする必要があるが、記録層が400℃以上になると、保護層や潤滑材の熱劣化が生じてしまう。保護層等が劣化すると、記録層が大気に曝され磁気特性が劣化したり、保護層や潤滑材表面に凹凸が生じ浮上特性が劣化したりする。そのため、キュリー温度は400℃以下が好ましい。
【0032】
図4及び表2より、非磁性金属層の膜厚が薄いほど飽和磁化が大きくなり、厚いほどキュリー温度が低くなることがわかる。非磁性金属層の膜厚が0.45nm以上0.8nm以下の場合に、キュリー温度が400℃以下、飽和磁化が290emu/cc以上と、温度特性及び磁気特性の両者が良好な結果が得られた。さらに、非磁性金属層の膜厚が0.5nm以上0.7nm以下の場合に、キュリー温度が370℃以下、飽和磁化が310emu/cc以上と、温度特性及び磁気特性の両者がより良好な結果が得られた。
【0033】
図5及び表3に、非磁性金属層と強磁性金属層の膜厚比をかえながら、磁気特性を調べた結果を示す。
【0034】
表3
強磁性金属層の膜厚 非磁性金属層の膜厚 膜厚比 保磁力
(nm) (nm) (kOe)
0.9 0.15 6 7.1
0.75 0.15 5 8.0
0.8 0.2 4 9.1
0.7 0.2 3.5 10.5
0.6 0.2 3 11.7
0.5 0.2 2.5 10.5
0.5 0.25 2 9.4
0.45 0.3 1.5 7.2
【0035】
ここでは、カー効果測定装置を用い、保磁力を調べた。保磁力が低いと記録された領域のうち不安定な領域が、ヘッド磁界やヘッド周辺温度上昇等により消滅してしまうため、室温における保磁力はヘッド磁界約6kOeから50%以上大きい9kOe以上が好ましい。図5及び表3より、非磁性金属層と強磁性金属層の膜厚比が適当な範囲で保磁力が大きくなることがわかる。非磁性金属層と強磁性金属層の膜厚比が2以上4以下の場合に、保磁力9kOe以上と良好な結果が得られた。さらに、非磁性金属層と強磁性金属層の膜厚比が2.5以上3.5以下の場合に、保磁力10.5kOe以上とより良好な結果が得られた。
【0036】
表4には、膜厚比を一定にして、磁性金属層と強磁性金属層の膜厚が上記良好な範囲内に入っている場合と範囲外の場合を比較した結果を示す。
【0037】
表4
番号 強磁性金属層の膜厚 非磁性金属層の膜厚 膜厚比 保磁力
(nm) (nm) (kOe)
41 0.4 1.2 3 7.1
42 0.2 0.6 3 11.7
43 0.1 0.3 3 3.5
44 0.08 0.24 3 2.7
【0038】
これより、非磁性金属層と強磁性金属層の膜厚比が適当な範囲であっても、構成層の膜厚が適当な範囲から外れた際(番号41,43,44)、つまりここでは強磁性金属層の膜厚が0.4,0.1,0.08nmの場合には、保磁力が9kOeより小さい。以上をまとめると、各構成層の膜厚及び膜厚比全てが良好な範囲にある場合にのみ、浮上特性、磁気特性、温度特性の良好な結果を得ることが出来た。
【0039】
図6及び表5に、エネルギー照射時と非照射時の保磁力差と信号劣化量の関係を調べた結果を示す。
【0040】
表5
保磁力 保磁力差 信号劣化量
(kOe) (kOe) (dB)
4.7 3.7 5
7.1 6.1 1
9.0 8.0 0.2
10.5 9.5 0
11.7 10.7 0
【0041】
記録時のエネルギー光源波長は780nm、エネルギー光源の出射パワーは100mW、エネルギー照射時間は2ns、記録磁界は約6kOe、媒体は上記図1に記載の構造を用いた。測定は、次のような手順で行った。エネルギーアシストにより、線記録密度1500fciで記録を行った後、信号レベルを測定した。次に、両隣のトラックに線記録密度1000fciで記録を行い、最初に記録しておいた信号のレベルを再度測定した。両脇のトラックに記録する際に、既に記録したトラックも隣接トラックから洩れたヘッド磁界や温度上昇にさらされる。このため、保磁力差が低く不十分な媒体では、記録ビット領域内の一部が消滅してしまい、信号劣化が生じる。信号劣化量は、最初に記録した場合と、両脇に記録を行った場合の信号レベルの差を信号劣化量として算出した。
【0042】
信号劣化が1%以上生じると、エラーコレクションで劣化信号を救うことが難しくなる。また、エラーコレクションを行うには、エラーコレクション用の余分のコードを記録することが必要になるため、劣化信号が少ないほど記録密度の低下が抑制でき、信号劣化が0%だとより好ましい。図6及び表5より、保磁力差が大きいほど信号劣化が生じないことがわかる。エネルギー照射時と非照射時の保磁力差が8kOe以上の場合に、信号劣化量は0.2dB以下に抑えられ、良好な結果が得られた。さらに、エネルギー照射時と非照射時の保磁力差が9.5kOe以上の場合に、信号劣化量は0dBに抑えられ、より良好な結果が得られた。
【0043】
次に、中間層材料依存性を調べた。強磁性金属層の膜厚を0.2nm、非磁性金属層の膜厚を0.6nm、記録層の総膜厚を12nmと一定にし、中間層材料及び製膜プロセスの組合せを変えながら、保磁力を調べた。中間層を前記のように低ガス圧と高ガス圧の製膜プロセスにて形成した場合と、単一製膜プロセスにて形成した場合についても比較を行った。表6にその結果をまとめた。
【0044】
表6
番号 中間層 保磁力(kOe)
61 Pd(低ガス圧、8nm)/Pd(高ガス圧、8nm) 13.5
62 Ru(低ガス圧、8nm)/Pd(高ガス圧、8nm) 12.2
63 Ru(低ガス圧、8nm)/Ru(高ガス圧、8nm) 11.7
64 Pd(低ガス圧、8nm)/Ru(高ガス圧、8nm) 11.5
65 Pd(低ガス圧、16nm) 11.1
66 Ru(低ガス圧、16nm) 10.6
67 なし 6.4
68 Co(低ガス圧、16nm) 4.4
69 Co(低ガス圧、8nm)/Pd(高ガス圧、8nm) 4.1
【0045】
このように、中間層材料がRu及び/又はPdの場合、9kOeの大きな保磁力が得られた。しかし、記録層の構成が良好な組成にもかかわらず、中間層材料がRu,Pd以外の場合、又は中間層を形成しなかった場合は、保磁力が4〜6kOeと小さかった。また、中間層が単層の場合に保磁力が低めなのは、結晶粒の分離が不十分なためと考えられる。中間層材料として、Ruが良好な特性を示しているのは、hcp構造の結晶によりCo層のc軸又はPd層の(111)配向性を向上させたのに加えて凹凸形状を形成し、記録層の垂直磁気異方性を形成しやすいためと考えられる。同じhcp構造のCoは、凹凸形状の形成が少なく良好な保磁力が得られなかった。Pdは、fcc構造であるが、凹凸形状が大きく、結晶粒の分離が促進されたため、保磁力が大きくなったと考えられる。また、Pdは製膜レートが早いため、高ガス圧での製膜にPdを用いると量産性が向上できる。しかしながら、表面ラフネスは大きく、番号61のラフネスは番号63の1.5倍、番号62は番号63の1.3倍であった。
【0046】
以上より、基板と、基板上に設けられた下地層及び中間層と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層と保護層を有し、エネルギー照射により垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体において、中間層をRu及び/又はPdから形成し、磁気記録層を、Coを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体とし、強磁性金属層の膜厚を0.15nm以上0.25nm以下とし、非磁性金属層の膜厚を0.45nm以上0.8nm以下とし、強磁性金属層と非磁性金属層の膜厚比を2以上4以下とし、エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差を8kOe以上とすることにより、良好な記録再生特性を有する、エネルギーアシスト型垂直磁気記録媒体を得ることが可能となる。
【0047】
この他、基板101には、直径2.5インチ、厚さ0.6mm、表面ラフネスRaが0.3nm以下の強化ガラスを用いたが、直径が3.5インチ、5インチや1.8インチ等、厚さが1mm、0.8mm、0.5mm等、別のサイズの基板を用いてもよい。基板の材質は、強化ガラス以外でも良いが、Si、アルミなど表面が500℃程度にさらされても変形・変質しない材料が好ましい。
【0048】
下地層102にはNi63Ta38層とNi94W6層を用いたが、基板、中間層との密着性や平坦性を確保できれば、このほかの材料や膜厚でも良い。保護層106についても、記録層との密着性、熱アシスト光源の波長における透明性、表面の平坦性が確保できれば、組成比が異なっていてもよく、この他の材料でもよい。
【0049】
また、強磁性金属層の膜厚を0.2nm、非磁性金属層の膜厚を0.6nm、記録層の総膜厚を12nmとして、製膜中のArガスへの酸素添加量を変えながら製膜し、膜中の酸素量及び記録層の結晶配向及び結晶の粒界幅の関係を調べたところ、図7及び表7に示す結果が得られた。
【0050】
表7
番号 酸素量(原子%) 結晶配向(°) 結晶粒界幅(nm)
71 0 3.19 0
72 5 3.21 0.3
73 8 3.25 0.4
74 10 3.28 0.5
75 13 3.3 0.55
76 15 3.32 0.6
77 19 3.43 0.8
【0051】
酸素量の分析は、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)にて行った。結晶配向性は、X線回折装置を用いて調べた。結晶配向性が良いほど、結晶ごとの磁気特性が均一になる。結晶配向性が劣化すると、磁気特性の分散が大きくなり、ノイズの原因となるため、結晶配向は3.35゜以下が好ましい。結晶粒界幅は、透過型電子顕微鏡(TEM)により、100個の粒子の粒及び粒界の観察を行い、粒界の平均値を求めた。結晶粒界幅が大きいほど、隣接粒子の磁気的な影響を受けなくなる。つまり、磁気的な相関距離が小さくなり、記録エラー率が減少する。そのため、結晶粒界は大きいことが必要で、少なくとも0.3nm以上が好ましい。結晶粒界が形成されない場合、磁気的な相関距離が大きすぎ、ビット長25nmといった、高密度のビットは形成できない。
【0052】
図7及び表7より、酸素量が増加するほど、結晶配向性は悪化し、結晶粒界幅は大きくなることがわかる。記録層中の酸素量が5原子%以上15原子%以下の場合に、結晶配向は3.35°以下、結晶粒界幅は0.3nm以上に出来、良好な結果が得られた。さらに、記録層中の酸素量が8原子%以上13原子%以下の場合に、結晶配向は3.3°以下、結晶粒界幅は0.4nm以上に出来、より良好な結果が得られた。
【0053】
さらに、強磁性金属層中へB(硼素)を添加することで、結晶粒径を小さくすることが可能となった。結晶粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により、100個の粒子の観察を行い、粒径の平均値及び分散を求めた。結晶粒径が小さくなると、記録時のノイズが低減できる。最短で25nmのビット長の記録を行う場合、最短ビット長の半分である12.5nm以上の結晶粒が存在すると、記録時のノイズが急激に増加する。このため、結晶粒径の分散が約20%であるから、平均粒径は11.4nm以下であることが好ましい。また、Bを添加しすぎると加熱時に記録層の劣化が生じる。実際に記録を行う際の媒体の加熱時間は数nsであるが、加速試験として400℃で1h加熱した際の飽和磁化の劣化を調べた。劣化量が大きいと、書換え可能回数が少なくなるため、200emu/cc以下であることが好ましい。強磁性金属層中の硼素(B)量が異なるターゲットを用意し、強磁性金属層の膜厚を0.2nm、非磁性金属層の膜厚を0.6nm、記録層の総膜厚を12nmとして、強磁性金属層中のB添加量の異なる記録層を製膜し、膜中の硼素量と結晶粒径及び加速試験時の飽和磁化劣化量を調べたところ、図8及び表8に示すような結果が得られた。
【0054】
表8
番号 硼素量 飽和磁化劣化量 結晶粒径
(原子%) (emu/cc) (nm)
81 0 20 12.5
82 5 20 11.0
83 8 30 10.8
84 10 50 10.6
85 13 100 10.5
86 15 180 10・3
87 19 250 10.2
【0055】
これより、強磁性金属層中の硼素量が増加するほど、飽和磁化劣化量は大きく、結晶粒径は小さくなることがわかる。強磁性金属層中の硼素量が5原子%以上15原子%以下の場合に、飽和磁化劣化量は200emu/cc以下、結晶粒径は11nm以下に出来、良好な結果が得られた。さらに、硼素量が8原子%以上13原子%以下の場合に、飽和磁化劣化量は100emu/cc以下、結晶粒径は10.8nm以下に出来、より良好な結果が得られた。
【0056】
次に、記録層のキュリー温度と浮上特性、記録特性の関係を調べた。浮上特性は、加速試験とし、媒体にファーフィールドのレーザ光(波長780nm、スポット径1μm)を10ns、1000回照射した後、前記グライドテスタで浮上時にグライドヘッドがヒットする回数を調べた。記録特性は、近接場光でビット長50nmで記録を行い、記録ドメイン100個を磁気顕微鏡(MFM)で観察し、ビット長分散を求めた。記録パワーを変えながら測定を各媒体の最適パワーでの分散を比較した。表9に結果を纏めた。
【0057】
表9
番号 キュリー温度(℃) ヘッドのヒット数(回) ビット長分散(%)
91 200 0 25
92 220 0 14
93 240 0 10
94 300 1 8
95 370 2 6
96 400 5 6
97 450 10 6
【0058】
これより、記録層のキュリー温度が高くなるほど、ヘッドのヒット数が増えることがわかる。これは、キュリー温度が高いため、記録時に記録層の温度を高くしないと記録が出来ず、この際の熱で保護層や潤滑材が熱劣化したためである。表面に凹凸が形成され、浮上特性が劣化、ヒットの回数が増加していると考えられる。また、記録層のキュリー温度が低くなるほど、ビット長分散が大きくなる。これは、記録時の温度が低い、つまり出射パワーが低く室温との差が小さくなるため、温度制御のばらつきが増加しているためである。記録層キュリー温度が220℃以上400℃以下の場合に、ヘッドのヒット数は5回以下と少なく、ビット長分散が15%以下の、良好な結果が得られた。さらに、記録層キュリー温度が250℃以上370℃以下の場合に、ヘッドのヒット数は2回以下ときわめて少なく、ビット長分散が10%以下の、より良好な結果が得られた。
【0059】
記録層の膜厚と温度特性、磁気特性の関係を調べた。結果を表10に示す。温度特性は、記録層のエネルギー入射側(上面)とその反対の基板側(下面)の温度の差を調べた。温度差が大きいと、記録のために記録層がエネルギー照射された際に、上面だけ加熱により垂直磁気異方性が低下し磁化反転するが、下面は温度が低く垂直磁気異方性が高いままのため磁化反転せず、記録ビットが形成されない割合が増加する。従って、記録層上下間の温度差は記録温度に対して十分小さい125℃以下であることが好ましい。磁気特性としては、磁気モーメントの大きさをノミナルの記録層12nmを1としてその比で示した。磁気モーメントが低くなると、信号強度が劣化するため、磁気モーメントの大きさはノミナルの0.5以上が必要である。
【0060】
表10
番号 記録層膜厚 記録層上下間の温度差 磁気モーメント
(nm) (℃)
101 4 5 0.3
102 6 20 0.5
103 8.4 45 0.7
104 12 90 1
105 13 105 1.1
106 15 125 1.25
107 18 153 1.5
【0061】
表10より、記録層膜厚が厚くなるほど、記録層上下間の温度差が広がることがわかる。これは、近接場光が光源からはなれたところでは、光強度が低下するためであり。また、記録層膜厚が薄くなるほど、磁気モーメントが小さくなる。これは、記録層の磁化とその体積に関係しているためである。記録層膜厚が6nm以上15nm以下の場合に、記録層上下間の温度差は125℃、磁気モーメント0.5以上の、良好な結果が得られた。さらに、記録層膜厚が8.4nm以上13nm以下の場合に、記録層上下間の温度差は105℃、磁気モーメント0.7以上の、より良好な結果が得られた。
【0062】
[実施例2]
実施例2では、本発明の一つの実施例として、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層とキャップ層を有し、エネルギー照射(アシスト)により垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体を説明する。
【0063】
図9(a)は、本発明の一実施例として、強磁性金属層108と非磁性金属層109の多層膜からなる記録層104と、キャップ層用強磁性金属層901とキャップ層用非磁性金属層902の多層膜からなるキャップ層105を有する垂直磁気記録媒体の断面構造を模式的に示したものである。基板101上に、下地層102として約30nmのNi63Ta38層と約7nmのNi94W6層、中間層103として約16nmのRu層、約12nmの記録層104、約3nmのキャップ層105、保護層106として約3nmのCN層を順次形成した。製膜は、それぞれDCスパッタリングにて行った。その後、CN層の上に、約1nmの潤滑材107を塗布した。
【0064】
記録層104は、強磁性金属層108にはCo90B10を0.2nm、非磁性金属層109にはPdを0.6nmを用いて積層し、微量の酸素を添加した。詳細は実施例1に記載の通りである。図9(b)は、キャップ層105を拡大したものである。キャップ層105は、キャップ層用強磁性金属層901にはCoを0.2nm、キャップ層用非磁性金属層902にはPdを0.6nmを用いて積層した。積層数はキャップ層3nmの場合、約4回である。多層膜構造のキャップ層の形成は、基板を固定し、CoのターゲットとPdターゲットを回転させながら、両層を交互に形成して行った。ターゲットを固定し、基板を回転させても同様の多層膜が形成できる。各構成層の膜厚は、各ターゲットに投入するパワーを変えることにより、変化させた。キャップ層製膜時のガス圧は5Paにした。
【0065】
比較例には、上記キャップ層の組成と構造のみ異なる媒体を作製し、浮上特性及び磁気特性の比較を行った。キャップ層に、Co65Cr15Pt12B8組成を用いて、比較した。
【0066】
まず、多層膜構造のキャップ層及び比較のキャップ層を有する媒体を形成し、垂直磁気記録媒体の浮上特性を調べ、表11にて比較した。ここでは、浮上特性が良好な媒体が得られる歩留まりを調べた。歩留まりは、同様の構成の媒体を20枚作製し、前記ピエゾ出力が31.3mV以下のものをA級品、31.4から31.5mVのものをB級品、31.6mV以上のものをNGとしてカウントして、各割合を調べた。
【0067】
表11
番号 キャップ層種類 キャップ層膜厚 A級品 B級品 NG 保磁力劣化量
(nm) (%) (%) (%) (kOe)
111 Co/Pd多層膜 5 100 0 0 2.1
112 Co/Pd多層膜 4 100 0 0 1.5
113 Co/Pd多層膜 3 100 0 0 1.2
114 Co/Pd多層膜 2 95 5 0 0.8
115 Co/Pd多層膜 1 90 10 0 0.5
116 Co/Pd多層膜 0 80 20 0 0
117 CoCrPtB膜 5 100 0 0 5.5
118 CoCrPtB膜 4 100 0 0 5.0
119 CoCrPtB膜 3 100 0 0 4.1
11a CoCrPtB膜 2 95 5 0 3.2
11b CoCrPtB膜 1 90 10 0 2.1
11c CoCrPtB膜 0 80 20 0 0
【0068】
表11より、キャップ層が厚いほど歩留まりが増加することがわかる。キャップ層厚さ1nm以上の場合に、A級品歩留まりは90%と、良好な結果が得られた。さらに、キャップ層厚さ2nm以上の場合に、A級品歩留まりは95%に向上し、より良好な結果が得られた。浮上特性の向上は、多層膜キャップ層でも比較例のキャップ層でも同様に向上した。浮上特性が向上した理由は、図10に示されるように、記録層表面に結晶粒形成により形成された凹凸をキャップ層105の形成により滑らかに出来たためと考えられる。
【0069】
次に、磁気特性の比較を行った。各媒体の保磁力を測定し、キャップ層形成による保磁力の劣化量を調べた。本発明と比較例にそれぞれキャップ層を形成した場合の磁気特性を、図11及び表11で比較した。多層化されていない、Co65Cr15Pt12B8組成のキャップ層を有する比較例では、保磁力劣化が極めて大きく、1nm形成しただけでも2kOe以上という大きな劣化を示した。これは、保磁力の大きな記録層上に保磁力の小さなキャップ層が形成されたため、媒体全体の磁気特性が劣化したためである。一方、本発明の多層膜キャップ層付媒体では、浮上特性を向上するためにキャップ層を形成しても磁気特性の劣化はきわめて小さく、4nmキャップ層を形成しても1.5kOeと劣化が小さいことがわかる。これは、キャップ層も多層膜構造とすることで保磁力の大きな層を重ねた構成にしたためと考えられる。このように、高い垂直磁気異方性を持つ記録層にキャップ層用強磁性金属層とキャップ層用非磁性金属層からなる多層膜構造のキャップ層を設けることで、磁気特性の劣化を防ぎかつ、浮上特性を極めて良好にすることが可能となった。
【0070】
さらに、記録層等の条件を一定にしたまま、多層膜キャップ層の組成、プロセス依存性を調べ、表12に示した。キャップ層用強磁性金属層901にはCo90B10を0.2nm、キャップ層用非磁性金属層902にはPdを0.6nmを用いて積層した媒体を作製した(番号121)。キャップ層の厚さは2nmとした。このようにBを添加した場合、A級品の歩留まりは85%に低下した。これより、キャップ層にはBを添加しない方が良いことがわかった。
【0071】
キャップ層用強磁性金属層901にはCoを0.2nm、キャップ層用非磁性金属層902にはPdを0.6nmを用いて積層した媒体を作製した。ここでは記録層同様、微量の酸素添加を行った。酸素添加をした場合、キャップ層中のO量が10原子%のとき(番号122)、A級品の歩留まりは80%に低下した。キャップ層中のO量が5原子%のとき(番号123)、A級品の歩留まりは85%であった。これより、キャップ層中の酸素量は少ないほうが良いことがわかった。
【0072】
キャップ層用強磁性金属層901にはCo90B10を0.1nm、キャップ層用非磁性金属層902にはPdを0.6nmを用いて積層した媒体(番号124)を作製した。キャップ層の厚さは2nmとした。このような強磁性金属層を記録層より薄くした場合、A級品の歩留まりは95%のままで保磁力の劣化が低減できることがわかった。
【0073】
キャップ層用強磁性金属層901にはCoを0.1nm、キャップ層用非磁性金属層902にはPdを0.6nmを用いて積層した媒体(番号125)を作製した。キャップ層の厚さは2nmとした。このように強磁性金属層にBを入れず、さらに構成層を記録層より薄くした場合、A級品の歩留まりは97%に向上し、さらに保磁力の劣化が低減できることがわかった。
【0074】
キャップ層用強磁性金属層901にはCo90B10を0.2nm、キャップ層用非磁性金属層902にはPdを0.6nmを用いて、スパッタリングガス圧を3.5Paで積層した媒体(番号126)を作製した。キャップ層の厚さは2nmとした。このようにガス圧を下げると、製膜レートが高くなり量産性が向上する。A級品の歩留まりも95%のままで、保磁力の劣化は少し大きくなった。
【0075】
キャップ層用強磁性金属層901にはCoを0.2nm、キャップ層用非磁性金属層902にはPdを0.6nmを用いて、スパッタリングガス圧を3.5Paで積層した媒体(番号127)を作製した。キャップ層の厚さは2nmとした。このようにガス圧を下げると、製膜レートが高くなり量産性が向上する。A級品の歩留まりは97%に向上した。保磁力の劣化は少し大きくなった。
【0076】
表12
番号 A級品(%) 保磁力劣化量(kOe)
114 95 0.8
121 85 0.8
122 80 0.8
123 85 0.8
124 95 0.6
125 97 0.6
126 95 0.9
127 97 0.9
【0077】
なお、本実施例に記載していない層構成、製造方法、材料、評価方法等は実施例1と同様にした。
【0078】
[実施例3]
本発明の一実施例である磁気記憶装置の概略を図12に示した。(a)は平面模式図、(b)はそのA−A’断面図である。(c)はヘッドの概略図、(d)はヘッド主要部の側面からみた概略図である。
【0079】
この装置は、垂直磁気記録媒体1501、これを駆動する駆動部1502、磁気ヘッド用浮上スライダ1503及び磁気ヘッドの駆動手段1504、磁気ヘッドの記録再生信号処理手段1505を有する。磁気ヘッドは、磁気ヘッドスライダ上に形成された記録再生分離型の磁気ヘッドであり、記録ヘッドには磁界を形成する手段1507及び近接場光を用いたエネルギー照射手段1506が設けられている。さらに磁気ヘッドには、再生電流用検出手段(再生ヘッド)1508が設けられ、記録されたビットの再生を行う。近接場光は、サスペンション1201上に形成された光導波路1202を通して、近接場光を用いたエネルギー照射手段1506に供給される。浮上スライダ1503は、位置決め精度を向上させるため、フレクシャー1203を介してサスペンションに取り付けられている。
【0080】
次に、記録時の熱や磁気特性について調べた。光源波長は780nmであり、垂直磁気記録媒体1501には図1に記載の構造を用いた。図13に、エネルギー照射源である近接場光源から記録層表面までの距離(磁気スペーシング)と垂直磁気記録媒体におけるエネルギー吸収率の関係を調べた。これは、近接場光の強度とその波長における媒体の吸収率から算出し、当該距離が4nmの場合を1とし規格化した。これより、当該距離が小さいほど媒体の吸収率が大きいことがわかる。吸収率が小さい場合、近接場光では十分媒体を加熱することが出来ず、記録が行えないため、吸収率は25%以上が好ましい。エネルギー照射源から記録層表面までの距離が8nm以下の場合に、吸収率が25%以上と良好な結果が得られた。さらに、エネルギー照射源から記録層表面までの距離が7nm以下の場合に、吸収率が32%以上とより良好な結果が得られた。
【0081】
さらに、実施例1に記載した媒体を上記磁気記憶装置に組み込んで、ヘッド浮上量4nmで安定にヘッドが浮上することを確認したのち、上記近接場光を用いたエネルギー照射手段を搭載したヘッドを用いて記録を行った。MFMにてドメインを評価したところ、線密度方向は約25nm、トラック幅方向は50nmのドメインが形成できたことがわかった。
【0082】
以上から、基板と、基板上に設けられた下地層及び中間層と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層と保護層を有し、エネルギー照射により垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体として、中間層をRu及び/又はPdで形成し、磁気記録層を、Coを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体で構成し、強磁性金属層の膜厚を0.15nm以上0.25nm以下とし、非磁性金属層の膜厚を0.45nm以上0.8nm以下とし、強磁性金属層と非磁性金属層の膜厚比を2以上4以下とし、エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差を8kOe以上とした垂直磁気記録媒体を備え、更に近接場光を用いたエネルギー照射機能を有する磁気記録用ヘッドと信号再生用ヘッドとを備え、記録時のエネルギー照射源から磁気記録層表面までの距離を8nm以下とすることにより、良好な記録再生特性を有するエネルギーアシスト型磁気記憶装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の垂直磁気記録媒体の断面構造例を示す図であり、(a)は全体層構成図、(b)は記録層の拡大図。
【図2】本発明の垂直磁気記録媒体の中間層及び記録層の詳細断面構造を示す図で有り、(a)中間層まで積層された状態を示す図、(b)は中間層上に記録層が積層された状態を示す図、(c)は記録層の拡大図。
【図3】本発明の垂直磁気記録媒体における、強磁性金属層膜厚と浮上特性、磁気特性の関係を示す図。
【図4】本発明の垂直磁気記録媒体における、非磁性金属層膜厚と温度特性、磁気特性の関係を示す図。
【図5】本発明の垂直磁気記録媒体における、非磁性金属層と強磁性金属層の膜厚比と磁気特性の関係を示す図。
【図6】本発明の垂直磁気記録媒体の保磁力差と信号劣化量の関係を示す図。
【図7】本発明の垂直磁気記録媒体における、記録層中の酸素量と結晶化特性の関係を示す図。
【図8】本発明の垂直磁気記録媒体における、強磁性金属層中の硼素量と磁気特性、結晶粒径の関係を示す図。
【図9】本発明のキャップ層を有する垂直磁気記録媒体の断面構造を示す図であり、(a)は全体層構成を示す図、(b)はキャップ層の拡大図。
【図10】本発明のキャップ層を有する垂直磁気記録媒体の詳細断面構造を示す図。
【図11】本発明のキャップ層を有する垂直磁気記録媒体と比較例の媒体における磁気特性を示す図。
【図12】本発明の磁気記憶装置の構成例を示す図。
【図13】本発明の磁気記憶装置における、エネルギー源から記録層表面までの距離と吸収率の関係を示す図。
【符号の説明】
【0084】
101:基板、102:下地層、103:中間層、104:記録層、105:キャップ層、106:保護層、107:潤滑材、108:強磁性金属層、109:非磁性金属層、201:第1中間層、202:第2中間層、203:結晶粒、204:粒界、901:キャップ層用強磁性金属層、902:キャップ層用非磁性金属層、1201 サスペンション, 1202 光導波路、1203 フレクシャー、1501:垂直磁気記録媒体、1502:媒体駆動部、1503:浮上スライダ、1504:磁気ヘッド駆動手段、1505:記録再生信号処理手段、1506:近接場光を用いたエネルギー照射手段、1507:磁界を形成する手段、1508再生ヘッド。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に設けられた下地層及び中間層と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層と保護層を有し、エネルギー照射により前記磁気記録層の垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体であって、
前記中間層がRu及び/又はPdからなり、
前記磁気記録層は、Coを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体であり、
前記強磁性金属層の膜厚が0.15nm以上0.25nm以下であり、
前記非磁性金属層の膜厚が0.45nm以上0.8nm以下であり、
前記強磁性金属層と前記非磁性金属層の膜厚比が2以上4以下であり、
前記エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差が8kOe以上あることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
基板と、該基板上に設けられた下地層及び中間層と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層とキャップ層と保護層を有し、エネルギー照射により前記磁気記録層の垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体であって、
前記中間層がRu及び/又はPdからなり、
前記磁気記録層は、Coを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体であり、
前記キャップ層がCoを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体からなり、
前記強磁性金属層の膜厚が0.15nm以上0.25nm以下であり、
前記非磁性金属層の膜厚が0.45nm以上0.8nm以下であり、
前記強磁性金属層と前記非磁性金属層の膜厚比が2以上4以下であり、
前記エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差が8kOe以上あることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁気記録層のキュリー温度が220℃以上400℃以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁気記録層中の平均酸素濃度が5原子%以上15原子%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
前記強磁性金属層中の平均硼素濃度が5原子%以上15原子%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
前記磁気記録層の膜厚が6nm以上15nm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
前記キャップ層中の平均酸素濃度が前記磁気記録層の平均酸素濃度より低いことを特徴とする、請求項2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項8】
前記キャップ層の膜厚が1nm以上4nm以下であることを特徴とする、請求項2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項9】
前記中間層がPdからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項10】
前記中間層がRuからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項11】
前記中間層がRuとPdからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項12】
基板と、該基板上に設けられた下地層及び中間層と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層と保護層を有し、エネルギー照射により前記磁気記録層の垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体と、
近接場光を用いたエネルギー照射機能を有する磁気記録用ヘッドと信号再生用ヘッドとを有する磁気ヘッドと備え、
前記垂直磁気記録媒体は、前記中間層がRu及び/又はPdからなり、前記磁気記録層は、Coを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体であり、前記強磁性金属層の膜厚が0.15nm以上0.25nm以下であり、前記非磁性金属層の膜厚が0.45nm以上0.8nm以下であり、前記強磁性金属層と非磁性金属層の膜厚比が2以上4以下であり、前記エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差が8kOe以上あり、
記録時に前記磁気ヘッドの前記エネルギー照射源から前記垂直磁気記録媒体の前記磁気記録層表面までの距離が8nm以下であることを特徴とする磁気記憶装置。
【請求項1】
基板と、該基板上に設けられた下地層及び中間層と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層と保護層を有し、エネルギー照射により前記磁気記録層の垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体であって、
前記中間層がRu及び/又はPdからなり、
前記磁気記録層は、Coを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体であり、
前記強磁性金属層の膜厚が0.15nm以上0.25nm以下であり、
前記非磁性金属層の膜厚が0.45nm以上0.8nm以下であり、
前記強磁性金属層と前記非磁性金属層の膜厚比が2以上4以下であり、
前記エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差が8kOe以上あることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
基板と、該基板上に設けられた下地層及び中間層と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層とキャップ層と保護層を有し、エネルギー照射により前記磁気記録層の垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体であって、
前記中間層がRu及び/又はPdからなり、
前記磁気記録層は、Coを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体であり、
前記キャップ層がCoを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体からなり、
前記強磁性金属層の膜厚が0.15nm以上0.25nm以下であり、
前記非磁性金属層の膜厚が0.45nm以上0.8nm以下であり、
前記強磁性金属層と前記非磁性金属層の膜厚比が2以上4以下であり、
前記エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差が8kOe以上あることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記磁気記録層のキュリー温度が220℃以上400℃以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁気記録層中の平均酸素濃度が5原子%以上15原子%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
前記強磁性金属層中の平均硼素濃度が5原子%以上15原子%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
前記磁気記録層の膜厚が6nm以上15nm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
前記キャップ層中の平均酸素濃度が前記磁気記録層の平均酸素濃度より低いことを特徴とする、請求項2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項8】
前記キャップ層の膜厚が1nm以上4nm以下であることを特徴とする、請求項2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項9】
前記中間層がPdからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項10】
前記中間層がRuからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項11】
前記中間層がRuとPdからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項12】
基板と、該基板上に設けられた下地層及び中間層と、室温で垂直磁気異方性を有する磁気記録層と保護層を有し、エネルギー照射により前記磁気記録層の垂直磁気異方性を低下させた状態で記録を行う垂直磁気記録媒体と、
近接場光を用いたエネルギー照射機能を有する磁気記録用ヘッドと信号再生用ヘッドとを有する磁気ヘッドと備え、
前記垂直磁気記録媒体は、前記中間層がRu及び/又はPdからなり、前記磁気記録層は、Coを主成分とする強磁性金属層とPdを主成分とする非磁性金属層との積層体であり、前記強磁性金属層の膜厚が0.15nm以上0.25nm以下であり、前記非磁性金属層の膜厚が0.45nm以上0.8nm以下であり、前記強磁性金属層と非磁性金属層の膜厚比が2以上4以下であり、前記エネルギー照射時と非照射時の保磁力の差が8kOe以上あり、
記録時に前記磁気ヘッドの前記エネルギー照射源から前記垂直磁気記録媒体の前記磁気記録層表面までの距離が8nm以下であることを特徴とする磁気記憶装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−113763(P2010−113763A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285772(P2008−285772)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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