説明

垂直磁気記録媒体用基板及び磁気記録媒体

【課題】適切な指標を用いて行う評価により検査された垂直磁気記録媒体用基板を提供する。
【解決手段】垂直磁気記録媒体用基板であって、主表面が研磨された円盤状の基板の主表面の断面形状を測定し、測定した断面形状の波形をフーリエ変換することにより、主表面の断面形状の波形を波長と強度との関係に変換して、フーリエ変換により得られた波長と強度との関係に基づき、測定された全範囲の波長の範囲について強度を積分した値である全範囲積分値と、予め設定された波長の範囲について強度を積分した値である設定範囲積分値とを算出した場合に、全範囲積分値に対する設定範囲積分値の比が、0.3以下であり、全範囲の波長は、4nm以上、125nm未満の範囲の波長であり、設定範囲積分値を算出する波長の範囲は、8〜24nmの波長範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体用基板の検査方法、垂直磁気記録媒体用基板の製造方法、及び垂直磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のHDD(ハードディスクドライブ)に代表される磁気記録装置では、2.5インチ径磁気ディスクにして、1枚辺り80GBを超える情報記憶容量が求められるようになってきた。HDD用の磁気記録媒体である磁気ディスクにおいて、これらの所要に応えるためには、1平方インチ辺り100Gビット(100Gbit/inch)を超える情報記憶密度を実現することが求められている。このような高記録密度で安定した記録再生を行うには磁気記録再生方式として垂直磁気記録方式を採用することが望ましいと考えられている。垂直磁気記録方式で用いられる垂直磁気記録媒体では、例えば、軟磁性層及び磁気記録層等の磁性層が基板上に形成される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
垂直磁気記録媒体において、電磁変換特性を高めるためには、磁性層に含まれる磁性粒子の磁気的異方性を制御する必要がある。例えば、基板の主表面と平行な面内において、基板の円周方向の磁気的異方性を磁性粒子に付与することは、ノイズの原因となるため、好ましくない。また、例えば、軟磁性層において、磁気的異方性が円周方向を向くことはノイズの原因となるため、好ましくない。
【0004】
ここで、磁性層の磁性粒子の磁気的異方性は、基板表面における微細構造の影響を受けると考えられる。そのため、面内方向における磁気的異方性を低減するためには、基板表面の微細構造を適切に制御することが望まれる。また、基板表面の微細構造を制御するためには、基板の表面形状を適切な指標を用いて評価する必要がある。
【0005】
従来、長手記録方式用で磁気記録を行う磁気記録媒体用基板の表面形状に対し、線密度あるいはラインデンシティと呼ばれる指標(以下、LDという)を用いて評価を行う方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。LDは、例えば、AFM(原子間力顕微鏡)で基板主表面を測定することによって得られる基板の半径方向一深さ方向の断面図において、1μmあたりに存在するテクスチャの山の数(あるいは谷の数)、又は基準線と交差する回数の半分等として定義される。長手記録方式用で磁気記録を行う磁気記録媒体において、基板のLDは、高いほど電磁変換特性がよいと考えられている。
【0006】
しかし、LDによる評価は、磁気記録媒体用基板の主表面に、テクスチャと呼ばれる無数の微小な溝を形成する場合に用いられるものである。このテクスチャは、溝に沿った結晶成長を促すことにより、磁性粒子の磁化容易軸を円周方向に配向させやすくするものである。
【0007】
これに対し、面内方向における磁気的異方性を低減することが望ましい垂直磁気記録媒体において、基板にテクスチャを形成することは必ずしも必要ではない。そのため、指標としてLDを用いた場合、垂直磁気記録媒体用基板の評価を適切に行うことはできないおそれがある。
【0008】
また、基板の表面の断面は、単純な山と谷で構成されてはおらず、高さ深さや幅が不揃いである。そのため、どの程度の高さ、深さ、又は幅を有する形状を山又は谷と判断するかによって、LDの値が変化してしまう。従って、LDは、定義自体が曖昧さを含んでいるとも言える。また、定義の取り方によってLDの値自体が変化してしまうとすれば、絶対的な指標としては使いにくい。
【0009】
そのため、垂直磁気記録媒体用基板の表面形状の評価を、より適切な指標を用いて行うことが望まれている。また、適切な指標を用いて行う評価により検査された垂直磁気記録媒体用基板や垂直磁気記録媒体を提供することが望まれている。本発明は、上記の課題を解決できる垂直磁気記録媒体用基板の検査方法、垂直磁気記録媒体用基板の製造方法、及び垂直磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、鋭意研究により、磁性粒子の磁気的異方性に影響を与える基板表面の微細構造としては、基板表面における山や谷の数又は密度だけだはなく、山や谷の幅が重要であることを見出した。そして、山や谷の幅を反映した指標として、基板の断面形状の波形をフーリエ変換した指標を用いることが有効であることを見出した。そして、これらの知見に基づき、本発明に至った。本発明は、以下の構成を有する。
【0011】
(構成1)垂直磁気記録方式で情報を記録する垂直磁気記録媒体の製造に用いられる垂直磁気記録媒体用基板の形状を検査する垂直磁気記録媒体用基板の検査方法であって、主表面が研磨された円盤状の基板の断面形状を測定する断面形状測定段階と、断面形状測定段階で測定された断面形状の波形をフーリエ変換することにより、断面形状の波形を波長と強度との関係に変換するフーリエ変換段階と、フーリエ変換段階で得られた波長と強度との関係に基づいて基板の合否を判定する判定段階とを備える。フーリエ変換段階は、例えば、断面形状の波形に対して乗じる必要に応じた窓関数を用いて、フーリエ変換を行う。
【0012】
窓関数とは、ある有限区間以外で0となる関数である。他の関数や信号(データ)に窓関数が掛け合わせられると、区間外は0になり、有限区間内だけが残るので、数値解析が容易になる。構成1において、窓関数としては、例えば矩形窓又はハミング窓の関数を用いることができる。
【0013】
このようにした場合、フーリエ変換によって得られた波長と強度との関係において、波長は、例えば、断面形状測定段階で測定した断面形状に含まれる山や谷の幅を反映する。また、強度は、それぞれの波長に対応する幅の山や谷の数を反映する。そのため、例えば、幅が小さな山や谷が多い場合、小さな波長領域の強度が大きくなる。また、幅が大きな山や谷が多い場合、大きな波長領域の強度が大きくなる。
【0014】
これにより、例えば、基板表面の微細構造として、山や谷の数や密度だけだはなく、特定の幅の山や谷の数や密度を把握できる。また、判定段階において、特定の幅の山や谷の数や密度に基づく評価を行うことができる。
【0015】
従って、構成1のようにすれば、基板表面の山や谷の幅や、特定の幅の山や谷の数や密度を反映した、より適切な指標により、垂直磁気記録媒体用基板の表面形状の評価を行うことができる。そして、例えばこの評価に基づく検査を行うことにより、例えば、面内方向における磁気的異方性が小さな磁気記録層を有する垂直磁気記録媒体を適切に製造できる。また、これにより、磁気記録層の電磁変換特性を適切に高めることができる。
【0016】
尚、断面形状測定段階は、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)により断面形状を測定する。この測定は、1μmあたり256点以上のサンプリング点を含む測定精度で行うことが好ましい。測定に必要な解像度は、磁気記録層の磁性粒子の結晶粒径によるが、このような精度で測定すれば、測定に必要なコストを上げることなく、十分な精度で測定を行うことができる。
【0017】
測定された全範囲の波長とは、例えば、測定可能範囲の下限値以上、測定上意味がある上限値以下の範囲である。断面形状測定段階においてAFMを用いて測定を行う場合、測定上意味がある上限値とは、例えば、断面形状測定段階における測定の長さの1/4の波長である。これは、AFMによる測定において、測定の長さの1/4以上の波長成分は、平坦度補正等の要素によって変化し、真の表面形状を反映しないためである。
【0018】
また、測定された全範囲の波長は、例えば、磁性層あるいは軟磁性層に含まれる磁性粒子の平均粒径の0.6〜120倍であってもよい。このようにした場合も、例えば磁性粒子の磁気的異方性に影響を与える可能性が高い基板表面の形状を適切に評価できる。磁性粒子の平均粒径は、例えば、200万倍で撮影したTEM写真から任意の50nm×50nmの領域を選び、領域内に含まれる個々の磁性粒子を抽出し、それぞれの長径・短径の平均値を算出することにより、求めることができる。領域内に含まれる個々の磁性粒子とは、例えば、粒子全体が単結晶になっている磁性結晶粒子である。
【0019】
磁性粒子の平均粒径は、基板上に形成される磁性層において算出されると考えられる予測値であってよい。この予測値は、例えば、基板上に磁性層を形成した試料を予め作成して上記の算出を行うことにより、得ることができる。
【0020】
(構成2)フーリエ変換段階で得られた波長と強度との関係に基づき、測定された全範囲の波長の範囲について強度を積分した値である全範囲積分値と、予め設定された波長の範囲について強度を積分した値である設定範囲積分値とを算出する積分段階を更に備え、判定段階は、全範囲積分値に対する設定範囲積分値の比に基づき、基板の合否を判定する。
【0021】
このようにした場合、設定範囲積分値は、例えば、特定の範囲の幅の山や谷の数を反映した値となる。また、全範囲積分値に対する設定範囲積分値の比は、例えば、測定領域内の山や谷の総数に対する特定の範囲の幅の山や谷の数の割合を反映した値となる。
【0022】
磁性粒子の磁気的異方性(配向性)への影響は、基板表面における山や谷の幅が一定範囲の場合に特に大きくなると考えられる。例えば、山や谷の幅が一定範囲より小さい場合、その上で成長する磁性粒子の数が少なくなるため、磁性粒子の磁気的異方性の制御に対する寄与が小さくなると考えられる。また、山や谷の幅が一定範囲より大きい場合、その山や谷は、磁性粒子にとって平坦な領域に近くなり、磁性粒子の磁気的異方性を制御する機能を発揮しにくくなると考えられる。
【0023】
そのため、このようにすれば、磁性粒子の磁気的異方性への影響が大きい山や谷の割合を適切に評価できる。また、これにより、垂直磁気記録媒体用基板の表面形状の評価を、より適切に行うことができる。
【0024】
尚、磁性粒子の磁気的異方性への影響は、例えば、山や谷の幅が磁性粒子の平均粒径の1〜3倍の場合に特に大きくなると考えられる。そのため、積分段階は、磁性粒子の平均粒径の1〜3倍に対応する波長の範囲について、設定範囲積分値を算出することが好ましい。判定段階は、例えば、全範囲積分値に対するこの設定範囲積分値の比が予め設定した値以下の場合に、基板が合格であると判定する。
【0025】
また、断面形状測定段階は、基板の半径方向に沿った断面形状を測定することが好ましい。このようにすれば、基板の円周方向の磁気的異方性に対する影響が大きな山や谷の形状を適切に評価できる。また、これにより、基板の円周方向の磁気的異方性を適切に低減できる。
【0026】
(構成3)垂直磁気記録方式で情報を記録する垂直磁気記録媒体に用いられる垂直磁気記録媒体用基板の製造方法であって、主表面が研磨された円盤状の基板を準備する準備工程と、構成1又は2に記載の垂直磁気記録媒体用基板の検査方法により、準備工程で準備される基板を検査する検査工程とを備える。このようにすれば、例えば、構成1又は2と同様の効果を得ることができる。また、主表面上に形成される磁性層において面内方向の磁気的異方性が生じにくい垂直磁気記録媒体用基板を適切に製造できる。
【0027】
尚、検査工程は、必ずしも全数の基板に対して検査を行う工程でなくてもよい。例えば、検査工程は、一定数の基板毎に一部の基板を検査する抜き取り検査や、品質を保持するために一定期間毎に行う検査の工程であってもよい。
【0028】
(構成4)垂直磁気記録方式で情報を記録する垂直磁気記録媒体の製造方法であって、構成3に記載の垂直磁気記録媒体用基板の製造方法で製造される垂直磁気記録媒体用基板上に、少なくとも磁気記録層を形成する。このようにすれば、面内方向における磁気的異方性が小さな垂直磁気記録媒体を適切に製造できる。また、これにより、磁気記録層の電磁変換特性を適切に高めることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、例えば、垂直磁気記録媒体用基板の表面形状の評価を、より適切な指標を用いて行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る垂直磁気記録媒体10の構成の一例を示す断面図である。垂直磁気記録媒体10は、垂直磁気記録方式のHDDに用いられる磁気ディスクであり、基板12、軟磁性層14、及び磁気記録層16を備える。基板12は、中心に円孔を有する円盤状のガラス基板である。このガラス基板は、例えばアルミノシリケートのアモルファスガラス基板である。また、基板12の主表面及び内外周の端面は、所定の表面粗さに研磨されている。
【0031】
軟磁性層14及び磁気記録層16は、基板12上に形成される磁性層である。軟磁性層14は、磁気記録層16を介してHDDの磁気ヘッドとの間に磁気回路を形成する層であり、例えば、平均粒径が7.5〜8.5nmの磁性粒子を含む。磁気記録層16は、CoCrPt等の硬磁性の磁性粒子を含む層である。磁気記録層16は、TiO2等の酸化物のマトリクス中に磁性粒子が分散するグラニュラ構造の層であってよい。また、磁気記録層16は、例えば、平均粒径が7.5〜8.5nmの磁性粒子を含む。
【0032】
尚、上記では説明を簡単にするために省略したが、垂直磁気記録媒体10は、基板12と軟磁性層14との間、軟磁性層14と磁気記録層16との間、又は磁気記録層16上に、更に他の層を備えてもよい。例えば、垂直磁気記録媒体10は、軟磁性層14と磁気記録層16との間に、磁気記録層16の結晶配向を制御する配向制御層等を更に備えてもよい。また、磁気記録層16上に、例えば保護層や潤滑層等を更に備えてもよい。また、軟磁性層14はアモルファスであってもよい。
【0033】
図2は、基板12の製造方法の一例を示すフローチャートである。本例において、この製造方法は、最初に、主表面及び内外周の端面が所定の表面粗さに研磨された円盤状の基板を準備する(準備工程S102)。
【0034】
続いて、準備工程S102で準備された基板の形状の検査を行う(検査工程S104)。本例において、検査工程S104は、最初に、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)により、半径方向に沿った基板12の断面形状を測定する(断面形状測定段階S202)。
【0035】
尚、AFMを用いた場合、例えばJIS B0601の規定に従って、各走査線毎の粗さ曲線を求めることができる。そのため、AFMを用いれば、基板12の断面形状を適切かつ高い精度で測定できる。この測定は、1μmあたり256点以上のサンプリング点を含む測定精度で行うことが好ましい。このような精度で測定すれば、測定に必要なコストを上げることなく、十分な精度で測定を行うことができる。
【0036】
断面形状の測定は、基板12の主表面の一部の領域について行う測定であってよい。断面形状測定段階S202は、例えば、基板12の半径方向に延びる500nmの測定領域に対して、断面形状の測定を行う。
【0037】
次に、測定された断面形状の波形をフーリエ変換することにより、断面形状の波形を波長と強度との関係に変換する(フーリエ変換段階S204)。フーリエ変換段階S204は、例えば高速フーリエ変換(FFT)により、フーリエ変換を行う。高速フーリエ変換とは、離散フーリエ変換(DFT)を計算機上で高速に計算するアルゴリズムである。フーリエ変換の窓関数としては、例えば矩形窓又はハミング窓の関数を用いる。
【0038】
次に、得られた波長と強度との関係について、強度を波長で積分する演算を行う(積分段階S206)。本例において、積分段階S206は、測定された全範囲の波長の範囲について強度を積分した値である全範囲積分値と、予め設定された波長の範囲について強度を積分した値である設定範囲積分値とを算出する。
【0039】
次に、全範囲積分値に対する設定範囲積分値の比を算出することにより設定範囲積分値を規格化する。そして、規格化された設定範囲積分値に基づき、基板12の合否を判定する(判定段階S208)。本例によれば、例えば、磁性粒子の磁気的異方性(配向性)への影響が大きい山や谷の割合を考慮して、基板12の形状を適切に評価できる。これにより、基板12の表面形状の評価を、適切な指標を用いて行うことができる。
【0040】
尚、本例において、積分段階S206は、設定範囲積分値を求めるための波長の範囲として、基板12上に形成されるべき軟磁性層14に含まれる磁性粒子の平均粒径の1〜3倍の波長の範囲を用いる。この平均粒径は、例えば、基板12上に軟磁性層14を形成した試料を予め作成することにより、平均粒径の予測値として算出できる。軟磁性層14がアモルファスである場合は、磁気記録層16に含まれる磁性粒子の平均粒径の1〜3倍の波長の範囲を用いることができる。
【0041】
このような波長の範囲を用いた場合、全範囲積分値に対する設定範囲積分値の比は、軟磁性層14および磁気記録層16の磁性粒子に磁気的異方性を与えやすい幅の山や谷の割合を示すと考えられる。例えば、この比が大きい場合、磁性粒子に磁気的異方性を与えやすい幅の山や谷の割合が大きいと考えられる。
【0042】
そのため、本例において、判定段階S208は、例えば、全範囲積分値に対する設定範囲積分値の比が予め設定した基準値以下の場合に、基板12が合格であると判定する。この基準値は、例えば0.3である。このようにすれば、例えば、磁性粒子に磁気的異方性を与えやすい幅の山や谷の割合が大きな基板12を不合格にできる。また、これにより、例えば、基板12の形状を適切に制御して、軟磁性層の磁気的異方性が半径方向に配向した状態を維持できる。
【0043】
(実施例)
以下、基板12の表面形状の評価を行う方法の一例を、実施例により、更に詳しく説明する。実施例1に係る基板12として、アルミノシリケートのアモルファスガラス基板を準備した。基板12は、2.5インチ型磁気ディスク用基板であり、直径は65mm、内径は20mm、ディスク厚は0.635mmである。そして、AFMにより、基板12の半径方向に延びる500nmの測定領域に対して、256点/1μmの測定精度で行った。また、この測定により得られた断面形状の波形に対し、窓関数としてハミング関数を用いて、フーリエ変換を行った。
【0044】
図3は、実施例1に係る基板12に対するフーリエ変換の結果を示すグラフである。この結果を、例えば予め用意した判定基準と比較することにより、基板12の表面の山や谷の幅を考慮して、基板12の表面形状の評価を行うことができる。例えば図2を用いて説明した積分段階S206及び判定段階S208を行うことにより、基板12の検査を行うことができる。
【0045】
尚、実施例1において、積分段階S206において全範囲積分値を算出する場合、測定された全範囲の波長範囲について、下限の波長は、256点/1μmの測定精度におけるサンプリング点間の距離(3.9nm)に合わせて4nmとする。また、上限の波長は、測定領域の長さ500nmの1/4である125nm(125nmは除外)とする。これは、AFMの測定において、測定の長さの1/4以上の波長成分は、測定時の平坦度補正等の要素によって変化し、真の表面形状を反映しないためである。そのため、全範囲積分値の算出は、4nm以上125nm未満の波長範囲に対して行うことが好ましい。
【0046】
また、設定範囲積分値を算出する場合、基板12上に形成されるべき軟磁性層14に含まれる磁性粒子の平均粒径の1〜3倍の波長範囲を用いる。例えば、軟磁性層14に含まれる磁性粒子の平均半径が8nmと予測できる場合、設定範囲積分値を算出する波長範囲として、8〜24nmの波長範囲を用いる。このようにすれば、基板12の表面の微細構造のうち、磁性粒子の磁気的異方性への影響が大きい山や谷の割合を適切に考慮できる。
【0047】
上記の波長範囲において積分を行ったところ、実施例1において、全範囲積分値は、4.14、設定範囲積分値は、1.07となった。また、その結果、全範囲積分値に対する設定範囲積分値の比は、0.26となった。
【0048】
判定段階S208においては、この比を基準値(例えば0.3)と比較することにより、基板12の合否を判定する。これにより、主表面上に形成される磁性層において基板の円周方向の磁気的異方性が生じにくい基板12を適切に判定できる。そのため、実施例1によれば、基板12の表面形状の評価を適切に行うことができる。
【0049】
また、実施例1の基板12上に軟磁性層14を形成して、軟磁性層の磁気的異方性を測定したところ、半径方向に配向していた。そのため、判定段階S208で合格と判定された基板12を用いることにより、基板の円周方向の磁気的異方性を適切に制御できることも確認できた。
【0050】
以上、本発明を実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、例えば垂直磁気記録媒体用基板に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態に係る垂直磁気記録媒体10の構成の一例を示す断面図である。
【図2】基板12の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】実施例1に係る基板12に対するフーリエ変換の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
10・・・垂直磁気記録媒体、12・・・基板、14・・・軟磁性層、16・・・磁気記録層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直磁気記録方式で情報を記録する垂直磁気記録媒体の製造に用いられる垂直磁気記録媒体用基板であって、
主表面が研磨された円盤状の基板であって、
前記基板の主表面の断面形状を測定し、測定した前記断面形状の波形をフーリエ変換することにより、前記主表面の断面形状の波形を波長と強度との関係に変換して、フーリエ変換により得られた前記波長と強度との関係に基づき、測定された全範囲の波長の範囲について前記強度を積分した値である全範囲積分値と、予め設定された波長の範囲について前記強度を積分した値である設定範囲積分値とを算出した場合に、前記全範囲積分値に対する前記設定範囲積分値の比が、0.3以下であり、
前記全範囲の波長は、4nm以上、125nm未満の範囲の波長であり、
前記設定範囲積分値を算出する前記波長の範囲は、8〜24nmの波長範囲であることを特徴とする垂直磁気記録媒体用基板。
【請求項2】
主表面にテクスチャが形成されていないことを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体用基板。
【請求項3】
軟磁性層を有する垂直磁気記録媒体の製造に用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体用基板。
【請求項4】
前記基板の材料はガラスであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体用基板。
【請求項5】
前記ガラスは、アモルファスのアルミノシリケートガラスであることを特徴とする請求項4に記載の垂直磁気記録媒体用基板。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体用基板上に、少なくとも磁性層を形成したことを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−248279(P2012−248279A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−207827(P2012−207827)
【出願日】平成24年9月21日(2012.9.21)
【分割の表示】特願2007−253314(P2007−253314)の分割
【原出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】