説明

埋め込み磁石型回転電機用回転子と埋め込み磁石型回転電機、該回転電機を用いた車両・昇降機・流体機械・加工機

【課題】低負荷・高速回転時の効率を高くすることができる、埋め込み磁石型同期電動機を提供する。
【解決手段】半径方向に磁束を流すことができる第1の永久磁石3と、第1の永久磁石3が作る磁束と電気角で90度直交する向きに磁束を流すことができる第2の永久磁石4を、回転子コア2に埋設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋め込み磁石型回転電機の高効率化が可能な回転子を有する埋め込み磁石型回転電機用回転子と埋め込み磁石型回転電機、該回転電機を用いた車両・昇降機・流体機械・加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、埋め込み磁石型回転電機の高効率化が可能な回転子を有し、特にファンやポンプ駆動用の動力源として用いられる、埋め込み磁石型同期電動機は次のように構成されている。
図4において、100が固定子、101が回転子である。
固定子100は、電磁鋼板をスロットとティースおよび固定子ヨークを金型にて打ち抜いた後に所定の積厚となるまで積層すると同時に、カシメ等により固着して固定子コアを構成し、さらに固定子コアのスロットに電気装荷手段となる巻線を巻回して構成している。
また、回転子101は、電磁鋼板を固定子100の内周面と所定のギャップを確保するように、固定子100の内周面より若干小さめの径となる外周面を有し、永久磁石を挿入するための磁石挿入穴を金型にて打ち抜いた後に、所定の積厚となるまで積層すると同時に、カシメなどにより固着して回転子コア102を構成する。
回転子コア102の磁石挿入穴に磁気装荷手段となる永久磁石を挿入しており、永久磁石の配置は、回転子の各極毎に、永久磁石をV字状に組み合わせた第1の永久磁石103をV字の頂点を回転子軸芯側に向けて埋設するとともに、平板状の永久磁石からなる第2の永久磁石104を回転子コア102の外周部にその外周にほぼ沿うように埋設し、第1の永久磁石103を構成する一対の平板状の永久磁石103aおよび103bが回転子の中心とV字の頂点とを結ぶ半径方向線に対し左右対称に埋設されると共に、第2の永久磁石104が半径方向線に対し垂直方向かつその中央位置が半径方向線上にあるように埋設され、構成されている(例えば、特許文献1参照)。
埋め込み磁石型同期電動機では、永久磁石の作る磁束の方向をd軸といい、このd軸と電気角で90゜ずれた位置をq軸という。
固定子巻線に流れる電流による磁束が回転子101内部を通り抜ける磁路には、第1と第2の永久磁石103と104を貫通して通り抜けるd軸方向の磁路と、主として第1の永久磁石103と第2の永久磁石104との間を通ってd軸と電気角が直交する方向に回転子コア102を通り抜けるq軸方向の磁路とがある。
また、永久磁石の作る磁束は、永久磁石から発生し、回転子コア102を通りギャップを介して対向する固定子100のティースからヨークへと流れ、電気角で180度の位置にある永久磁石へと流れる磁路を構成する。
固定子のd軸に位置する巻線に電流を流すと共に、q軸に位置する巻線にd軸に位置する巻線に流す電流と逆向きの電流を流すことにより、リラクタンストルクを発生する(例えば、特許文献2参照)。
このように、従来の埋め込み磁石型同期電動機では、この磁石トルクとリラクタンストルクとの和が回転力となり、シャフトを通じて例えばファンやポンプを駆動している。
【特許文献1】特許第3605475号(第7頁、図1)
【特許文献2】特開2003―134706号(第4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の埋め込み磁石型同期電動機は、回転子の各極毎に埋設された永久磁石が作る磁束により鉄損が発生し、低負荷・高速回転時には、鉄損が全損失に占める割合が大きくなり効率が悪くなる、という問題があった。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、q軸を流れる磁束を、第2の永久磁石が作る磁束によりにより減少させ、鉄損を減らし、低負荷・高速回転時における効率を高くすることができる埋め込み磁石型回転電機用回転子と埋め込み磁石型回転電機、該回転電機を用いた車両・昇降機・流体機械・加工機
を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
請求項1記載の埋め込み磁石型回転電機用回転子の発明は、回転子コアと、前記回転子コア内に埋設された永久磁石と、から成る埋め込み磁石型回転電機用回転子において、前記永久磁石を第1の永久磁石と第2の永久磁石とで構成し、前記第1の永久磁石は各極毎に回転子の中心側を頂点として磁化方向を径方向とするV字形に埋設され、前記第2の永久磁石は前記第1の永久磁石による磁束と電気角で90度直交する向きに磁束が向くように埋設されたことを特徴とする。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の埋め込み磁石型回転電機用回転子において、前記第1の永久磁石が回転子の中心とV字の頂点とを結ぶ半径方向線に対し線対称に埋設されると共に、前記第2の永久磁石が半径方向線上に沿って埋設されていることを特徴とする。
請求項3記載の発明は、請求項2記載の埋め込み磁石型回転電機用回転子において、前記第2の永久磁石は、前記第1の永久磁石よりも回転子の径方向の外側に埋設されていることを特徴とする。
請求項4記載の発明は、請求項1記載の埋め込み磁石型回転電機用回転子において、前記第2の永久磁石は、前記第1の永久磁石よりも保磁力が高いことを特徴とする。
請求項5記載の発明は、請求項4記載の埋め込み磁石型回転電機用回転子において、前記第1の永久磁石の磁化方向厚みをt1としたとき、前記第2の永久磁石の磁化方向厚みt2が、t2 ≦ 0.8 × t1、となることを特徴とする。
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項記載の埋め込み磁石型回転電機用回転子において、前記第2の永久磁石が、回転子の中心と外周部を結ぶ直線で分割された複数個の磁石群で構成されていることを特徴とする。
請求項7記載の埋め込み磁石型回転電機の発明は、埋め込み磁石型回転電機用回転子と、前記埋め込み磁石型回転電機用回転子を内部空間内に軸受を介して支持し自己のスロット内にコイルを巻回した固定子と、から成る埋め込み磁石型回転電機において、前記埋め込み磁石型回転電機用回転子として請求項1〜6のいずれか1項記載の回転子を用いたことを特徴とする。
請求項8記載の発明は、請求項7記載の埋め込み磁石型回転電機において、前記埋め込み磁石型回転電機が低負荷・高速回転用のものであることを特徴とする。
請求項9記載の車両の発明は、請求項7記載の埋め込み磁石型回転電機を、車両を駆動するための駆動用モータもしくは発電機として用いたことを特徴とする。
請求項10記載の昇降機の発明は、請求項7記載の埋め込み磁石型回転電機を、駆動用モータとして用いたことを特徴とする。
請求項11記載の流体機械の発明は、請求項7記載の埋め込み磁石型回転電機を、駆動用モータとして用いたことを特徴とする。
請求項12記載の加工機の発明は、請求項7記載の埋め込み磁石型回転電機を、駆動用モータとして用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
請求項1記載の発明によると、低負荷・高速回転時にq軸方向に流れる磁束を第2の永久磁石が作る磁束により減少させるので、固定子ティース部の磁気飽和を緩和することとなり、したがって鉄損を低減でき、効率を改善することができる。
請求項2記載の発明によると、第1の永久磁石を回転子の中心とV字の頂点とを結ぶ半径方向線に対し線対称に埋設し、第2の永久磁石を半径方向線上に沿って埋設することで、低負荷・高速回転時にq軸方向に流れる磁束を第2の永久磁石が作る磁束により効率よく減少させるので、固定子ティース部の磁気飽和を緩和することとなり、したがって鉄損を低減でき、効率を改善することができる。
また、請求項3記載の発明によると、第1の永久磁石の量を大きくすることができるので、磁石トルクを高めることができる。
また、請求項4記載の発明によると、第2の永久磁石に保持力が高い磁石を用いることで、高負荷時に電機子巻線が作る磁束による第2の永久磁石に起こる永久減磁を小さくすることができる。
また、請求項5記載の発明によると、d軸の磁路への影響を小さくすることができるため、第2の永久磁石による第1の永久磁石による磁石トルクの減少を小さくすることができ、電動機の出力トルクを高めることができる。
また、請求項6記載の発明によると、分割された永久磁石の間に磁路ができるためd軸の磁路への影響を小さくすることができるので、磁石トルクを高めることができる。
また、請求項7記載の発明によると、埋め込み磁石型回転電機用回転子として請求項1〜6のいずれか1項記載の回転子を用いるので、上記の回転子の効果を備えた埋め込み磁石型回転電機が得られる。
また、請求項8記載の発明によると、低負荷・高速回転用に用いることで、特に大きな効果が得られるようになる。
また、請求項9〜12記載の発明によると、請求項7記載の埋め込み磁石型回転電機を、低損失で、高速回転可能な駆動用モータもしくは発電機として用いることにより、車両・昇降機・流体機械・加工機におけるエネルギー消費量や効率の改善を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0007】
図1は、本発明の実施例1に係る埋め込み磁石型同期電動機の正断面図である。
図1において、1は回転子であり、2は電磁鋼板を積層して構成された回転子コアである。3は回転子コア2内に各極毎に埋設されたV字状の第1の永久磁石、4は回転子コア2内に各極毎に埋設された第2の永久磁石である。また、11は固定子であり、12は電磁鋼板を積層して構成された固定子コア、13はティース、14はヨークである。
第1の永久磁石3は、そのV字の頂点Pを回転子コア2の軸芯側に向けて埋設されている。そして、第1の永久磁石3が回転子1の中心CとV字の頂点Pとを結ぶ半径方向線Rに対し線対称に埋設されると共に、第2の永久磁石4が半径方向線R上に埋設されている。
【0008】
実施例1の回転子(図1)が従来技術の回転子(図4)と異なる部分は、第1の永久磁石による磁束と電気角で90度直交する向きに磁束を流すことができる第2の永久磁石4を備えた部分である。すなわち、第1の永久磁石3が作る磁束は、第1の永久磁石3から発生してd軸方向に流れ(図1のイ)、回転子コア2を通りギャップGを介して対向する固定子11のティース13から(ロ)、ヨーク12へと流れ(ハ→ニ)、電気角で180度の位置にある永久磁石へと流れる(ホ)磁路15を形成する。
また、第2の永久磁石4が作る磁束は、第2の永久磁石4から発生して第1の永久磁石が作る磁束と電気角で90度ずれた方向(すなわちq軸方向)に流れ(図1のa)、回転子コア2を通りギャップを介して対向する固定子内を流れ(b→c→d)、磁路16を形成する。なお、(イ)〜(ホ)の磁路の内、(a)〜(d)の磁路内の永久磁石と隣り合う永久磁石の一部にも、その磁石が作る磁束の流れを示している。
実施例1(図1)で第2の永久磁石4そのN−Sが半径方向に向くようにしたことにより、特に、低負荷・高速回転時にはq軸方向の磁束を第2の永久磁石が作る磁束により打ち消すことで、磁路16を流れる磁束を減少させ、鉄損を減らし効率を高めることができる。
【0009】
回転時には、第1の永久磁石3による磁束が磁路15を流れることで鉄損が発生する。高負荷・低速回転時には鉄損が全損失に占める割合は小さいが、低負荷・高速回転時には鉄損が全損失に占める割合が非常に大きくなり、効率を押し下げる大きな要因となったので、実施例1によって、低負荷・高速回転時に電機子コイルに流れる電流が作るq軸方向の磁束を、第2の永久磁石が作る磁束により、打ち消すことで、磁路16を流れる磁束を減少させ、鉄損を減らし効率を高めることができる。
【0010】
また、図2は第1の永久磁石の磁化方向厚みに対する第2の永久磁石の磁化方向厚みが電動機の出力トルクに与える影響を示した図である。
横軸は、第1の永久磁石の磁化方向厚みt1と第2の永久磁石の磁化方向厚みt2の比(t2/t1)を示し、縦軸はt2/t1が0.8のときの電動機の出力トルクを1.0としたときの、出力トルクを示している。
t2/t1が0.8よりも大きくなると、出力トルクが減少してしまうため、本発明では、t2/t1を0.8とした。
【実施例2】
【0011】
図3は実施例2に係る埋め込み磁石型同期電動機の正断面図である。
図3において、5は第2の永久磁石である。なお、実施例1(図1)と同一の構成要素については同一参照符号を付けて説明を省略する。
実施例2では、第2の永久磁石5が、回転子1の半径方向線で分割された複数個の永久磁石51、52・・・5nから構成される磁石群である。
実施例1の永久磁石2(図1)を回転子1の半径方向線で分割することで、分割された永久磁石51と永久磁石52との間に磁路ができ、また分割された永久磁石52と永久磁石53との間に磁路ができる(以下、同様)。
実施例1の永久磁石2の外周に沿って迂回していた実施例1の磁路と比べて、実施例2では分割された永久磁石と隣の永久磁石との間に磁路が多数できるので、永久磁石1が作るd軸磁束に与える影響を小さくできるため、電動機の最大出力トルクを高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明の埋め込み磁石型回転電機は、第2の永久磁石により、固定子ティース部の磁束飽和を緩和することで、高速回転時に鉄損を減少することができるので、風水力用のコンプレッサやブロワ、ポンプ等の流体機械のほかに、高速回転を必要とする工作機主軸を主とする加工機、もしくはハイブリッド自動車や燃料電池自動車、電気自動車などの駆動用モータや発電機、鉄道車両用の駆動用モータや発電機、無停電電源用発電機車に用いる発電機、さらには、エレベータ、立体駐車場等の昇降機などの、一般産業用機械の駆動用モータの用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1に係る埋め込み磁石型同期電動機の正断面図である。
【図2】実施例1に係る第1の永久磁石の磁化方向厚みに対する第2の永久磁石の磁化方向厚みが電動機の出力トルクに与える影響を示した線図である。
【図3】実施例2に係る埋め込み磁石型同期電動機の正断面図である。
【図4】従来の埋め込み磁石型同期電動機の正断面図である。
【符号の説明】
【0014】
1 回転子
2 回転子コア
3 第1の永久磁石
4 実施例1に係る第2の永久磁石
5 実施例2に係る第2の永久磁石
11 固定子
12 固定子コア
13 ティース
14 ヨーク
15 第1の永久磁石1が作る磁束により形成される磁路
16 第2の永久磁石2が作る磁束により形成される磁路
100 固定子
101 回転子
102 回転子コア
103 第1の永久磁石
104 第2の永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子コアと、前記回転子コア内に埋設された永久磁石と、から成る埋め込み磁石型回転電機用回転子において、
前記永久磁石を第1の永久磁石と第2の永久磁石とで構成し、前記第1の永久磁石は各極毎に回転子の中心側を頂点として磁化方向を径方向とするV字形に埋設され、前記第2の永久磁石は前記第1の永久磁石による磁束と電気角で90度直交する向きに磁束が向くように埋設されたことを特徴とする埋め込み磁石型回転電機用回転子。
【請求項2】
前記第1の永久磁石が回転子の中心とV字の頂点とを結ぶ半径方向線に対し線対称に埋設されると共に、前記第2の永久磁石が半径方向線上に沿って埋設されていることを特徴とする請求項1記載の埋め込み磁石型回転電機用回転子。
【請求項3】
前記第2の永久磁石は、前記第1の永久磁石よりも回転子の径方向の外側に埋設されていることを特徴とする請求項2記載の埋め込み磁石型回転電機用回転子。
【請求項4】
前記第2の永久磁石は、前記第1の永久磁石よりも保磁力が高いことを特徴とする請求項1記載の埋め込み磁石型回転電機用回転子。
【請求項5】
前記第1の永久磁石の磁化方向厚みをt1としたとき、
前記第2の永久磁石の磁化方向厚みt2は
t2 ≦ 0.8 × t1
となることを特徴とする請求項4記載の埋め込み磁石型回転電機用回転子。
【請求項6】
前記第2の永久磁石は、回転子の中心と外周部を結ぶ直線で分割された複数個の磁石群で構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の埋め込み磁石型回転電機用回転子。
【請求項7】
埋め込み磁石型回転電機用回転子と、前記埋め込み磁石型回転電機用回転子を内部空間内に軸受を介して支持し自己のスロット内にコイルを巻回した固定子と、から成る埋め込み磁石型回転電機において、
前記埋め込み磁石型回転電機用回転子として請求項1〜6のいずれか1項記載の回転子を用いたことを特徴とする埋め込み磁石型回転電機。
【請求項8】
前記埋め込み磁石型回転電機は低負荷・高速回転用のものであることを特徴とする請求項7記載の埋め込み磁石型回転電機。
【請求項9】
請求項7記載の埋め込み磁石型回転電機を、車両を駆動するための駆動用モータもしくは発電機として用いたことを特徴とする車両。
【請求項10】
請求項7記載の埋め込み磁石型回転電機を、駆動用モータとして用いたことを特徴とする昇降機。
【請求項11】
請求項7記載の埋め込み磁石型回転電機を、駆動用モータとして用いたことを特徴とする流体機械。
【請求項12】
請求項7記載の埋め込み磁石型回転電機を、駆動用モータとして用いたことを特徴とする加工機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−153332(P2009−153332A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330741(P2007−330741)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】