説明

埋設管用継手における引抜阻止部材及びその製造方法

【課題】従来の引抜阻止部材は、ボールが環状部材に固定されていたため、摩擦力によって充分な伸縮性や可撓性が得られなかった。
【解決手段】合成樹脂で形成され、片面に複数のボール保持部を等間隔に有する一対のリング半割体を一体不可分に接合してリング部材とし、金属製のボールを当該リング部材の内周面側に向かって一部突出させて上記ボール保持部に回動自在に挟持すると共に、上記リング部材の両端面に等間隔で交互に切り割り部を設けて引抜阻止部材とする。その製造方法は、片面に複数のボール保持部を等間隔に有する一対のリング半割体を合成樹脂で一体成型する工程と、二つのリング半割体のボール保持部に金属製のボールを回動自在に挟持する工程と、リング半割体の接合面を一体不可分に接合してリング部材を形成する工程と、該リング部材の両端面に等間隔で交互に切り割り部を形成する工程とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主に埋設管の継手に用いられるリング状の引抜阻止部材に関するもので、その構成と製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地中に埋設される水道管の継ぎ目には伸縮可撓式の継手が使用されている。この種の継手は、水密性を保持し、かつ内部の部品により管の引抜阻止力を与えるとともに、外力による管の軸方向の変動(伸縮)や横方向の変動(たわみ)を吸収する構造を備えている。例えば、特許文献1や特許文献2に開示された継手がある。
【0003】
これらの伸縮可撓式の継手において、管を保持しつつその引き抜きを阻止する部材として、内径が拡縮可能なリング状部材の内周面に複数のボールを埋設してなる部材が用いられている。例えば、特許文献1では同公報の図2〜図4に示される管把持部材が使用され、特許文献2では、同公報の図1、図2に示される喰込部材が使用されている。かかる部材は、ボールが、把持する管の端部近傍に周設された凹溝に嵌入して管の引き抜きが防止されると共に、その接触点により伸縮性や可撓性を得るものである。
【0004】
【特許文献1】登録実用新案第3000711号公報
【特許文献2】特開平9−242914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば特許文献1に開示された管把持部材は、合成樹脂材からなり円周の一部にスリ割り部を形成したボールガイドの内周側に複数個のボールを突出させて一体に保持したものであって、ボール自体は回動しないものであった。そのため、ボールと凹溝が点接触しているとしても、該部に大きな摩擦力が働き、可撓性の維持に影響を与えるものであった。また、スリ割り部があるため、ナットの締付時に均等な縮径が出来ないため、管の引き抜き阻止力にばらつきが生じていた。
【0006】
また、特許文献2に開示された喰込部材は、環状のボールリテーナの両端部より交互に切込部を設けているので、均等な縮径を得られるものであったが、内周面にボールを一体に埋設しているため、上記同様にボールが回動しない構造であったから、摩擦力による問題点がなお残されていた。
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、拡縮可能な環状の部材にボールを回動自在に保持するようにして摩擦力の発生を防止し、上述の諸問題を解決すると共に、その好ましい製造方法についても提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、合成樹脂で形成され、片面に複数のボール保持部を等間隔に有する一対のリング半割体と、金属製のボールとで構成される部材であって、二つのリング半割体を一体不可分に接合してリング部材とし、上記ボールを当該リング部材の内周面側に向かって一部突出させて上記ボール保持部に回動自在に挟持すると共に、上記リング部材の両端面に等間隔で交互に切り割り部を設けるという手段を採用した。
【0009】
また、上記リング部材は、リング半割体の片面に交互に複数の嵌合突起と嵌合凹部を形成し、二つのリング半割体の嵌合突起と嵌合凹部を互いに嵌合させて接合すると共に、その接合面を超音波溶着して一体不可分としたものであるという手段を採用した。
【0010】
一方、かかる引抜阻止部材の製造方法として、片面に複数のボール保持部を等間隔に有する一対のリング半割体を合成樹脂で一体成型する工程と、二つのリング半割体のボール保持部に金属製のボールを回動自在に挟持する工程と、リング半割体の接合面を一体不可分に接合してリング部材を形成する工程と、該リング部材の両端面に等間隔で交互に切り割り部を形成する工程とからなるという手段を採用した。
【0011】
このとき、リング半割体の接合は、リング半割体の片面に交互に複数の嵌合突起と嵌合凹部を形成し、二つのリング半割体の嵌合突起と嵌合凹部を互いに嵌合させて接合すると共に、その接合面を超音波溶着して一体不可分としたものであるという手段を採用した。
【0012】
また、リング半割体のボール保持部の両側には、片方に凹部を、他方に接続部と切込みとを設け、リング半割体を接合した後、上記接続部を切断して上記凹部と切込みとを連通させることで切り割り部を形成するようにするという手段を採用した。
【発明の効果】
【0013】
上記構成にかかる埋設管用継手における引抜阻止部材は、一対のリング半割体の間にボールを回動自在に挟持したものであるから、従来と同様に、被接続管の引き抜きが有効に阻止できると共に、地中において軸方向の伸縮力や横方向のたわみが作用した場合にも、被接続管とボールとの摩擦力がほとんど生じないので、その力を有効に吸収し、十分な伸縮可撓性を発揮するものである。
【0014】
また、ボールが均等に配置され、且つ、回動可能であるので、袋ナットの締付時に摩擦がなく、低トルクで締め付け作業が出来る。そのとき、均等に縮径されるので、引抜阻止力が平均して安定したものとなる。
【0015】
さらに、リング半割体の接合を嵌合突起と嵌合凹部の嵌合によって接合すると共に、超音波溶着によって溶着したので、位置ずれを起こすことなく接合が確実なものとなる。
【0016】
一方、上記製造方法によれば、上述した作用効果を有する引抜阻止部材を、簡単かつ確実な手段によって製造することができ、安定した供給が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る引抜阻止部材の好ましい実施形態を図面に従って説明する。図1において、(A)は引抜阻止部材の平面図、(B)は正面図、(C)は図(A)のA−A線断面図である。
【0018】
図1において、1は無端に形成されるリング部材であって、片面に複数のボール保持部1cを等間隔に形成したリング半割体1aと1bを互いに接合して一体に形成したものである。1d・・・はリング部材1の両端面に等間隔で交互に形成した切り割り部であり、この切り割り部1dによってリング部材1の内径が拡縮可能となっている。このリング部材のリング半割体1a、1bは合成樹脂材を一体成型して得られるもので、互いの接合部は、熱溶着、超音波溶着、接着剤等による接着など、公知の接合手段によって接合される。2は金属製のボールであり、上記リング半割体1a、1bの接合時に形成されるボール保持部1cに回動可能に挟持されたものである。このボール2は、リング部材1の内周面側及び外周面側に表面の一部を突出して挟持されている。但し、外周面においては必ずしも突出させる必要はない。なお、リング半割体1a、1bの具体的な好ましい実施形態については、図2、図3に従って後述する。
【0019】
図4は、上記構成の引抜阻止部材を使用した継手の例を示す部分断面図である。図において、11は被接続管で、端部近傍の外周面に凹溝11aが形成されている。12は伸縮可撓式継手で、外周面に雄ねじ部13aを有する継手本体13に袋ナット14を螺合して締め付けるものである。継手本体13の内周面にはパッキン15が装着され、さらに座金16が装着される。また、袋ナット14の内側にはOリング17を装着すると共に、内側テーパ面14aに本発明の引抜阻止部材18が、ボール18aを上記凹溝11aに嵌入させて装着されている。この状態で袋ナット14を緊締すると、内側テーパ面14aで引抜阻止部材18が押圧されて径縮され、被接続管11の引き抜きを防止すると共に、回動可能なボール18aが凹溝11aに嵌入しているので、伸縮方向及びたわみ方向の力を吸収する。この場合、均等間隔に配した切り割り部の存在で径縮が均等に行われるので、管の引抜阻止力及び可撓性が安定したものとなる。また、袋ナット14の緊締時に摩擦が少なく、従来品に比べて低トルクで緊締作業が可能である。
【0020】
次に、上記構成の引抜阻止部材の製造方法を図2に従って説明する。図2は、本発明に係る製造方法の工程を概念的に示すもので、(a)から(e)に従って進行する。即ち、まず(a)に示すように、合成樹脂を一体成型して環状のリング半割体21を得る。このリング半割体21は、上端面円周方向に均等間隔で複数のボール保持部21a(図では10カ所)を凹設している。また、該ボール保持部21aに隣接して交互に嵌合突部21bと嵌合凹部21cを形成している(図3参照)。さらに、隣接するボール保持部21aの両側には片方に凹部21dを設け、他方には接続部21eと切込み21fを設けている。この接続部21eは、後述するように、接合前のリング半割体21の形状維持のために必要で、このリング半割体21を重ね合わせて接合してリング部材とした後、接続部21eを切り離すと、凹部21dと切込み21fは連続して切り割り部24を形成することになる。
【0021】
次に、(b)に示すように、各ボール保持部21aに金属製のボール22を嵌入させる。このボール22は、その直径が、重なったボール保持部21aが形成する球状の空部の内径より僅かに小さいものとし、ボール保持部21a内でボール22が自由に回動出来るようにする。また、ボール22の表面の一部は、リング半割体21の内周面側から突出して嵌装される。
【0022】
続いて、(c)に示すように、同型のリング半割体21を上記ボール22を挟持するように重ね合わせる。このとき、重なり合う端面に設けた嵌合突部21bと嵌合凹部21cが互いに嵌合し、端面同士が位置ずれを起こすことなく完全に密着すると共に、凹部21dと切込み21fが接続部21eを介して接続され、(d)に示す状態になる。
【0023】
(d)の状態で、互いに接合した端面を超音波溶着して一体不可分のリング部材23とする。このとき、上述したように、ボール22は両リング半割体21、21間に回動自在に挟持されている。最後に、各接続部21eを切り離す。これにより、(e)に示すように、凹部21dと切込み21fが連通して、部材の両端面に交互に切り割り部24を形成し、部材全体が均一に拡縮可能となる。
【0024】
上記工程を経過して製造された引抜阻止部材は、リング部材23の内周面側にボール22を一部突出させて回動自在に保持し、かつ、切り割り部24によって径が拡縮自在なものとなっている。
【0025】
なお、上記製造工程において、嵌合突起21bと嵌合凹部21cの嵌合は、リング半割体21の互いの接合を確実にすると共に、位置ずれを起こさないようにするものであり、かかる作用を奏するものであれば、他の構成を採用することもある。また、リング半割体21の相互の接合は、超音波溶着に限定するものではなく、他の溶着手段や、接着剤等による接合など、公知の接合手段を採用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る引抜阻止部材の一実施形態を示すもので、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は図(A)のA−A線断面図である。
【図2】引抜阻止部材の製造工程の説明図である。
【図3】リング半割体の構成の一例の説明図である。
【図4】引抜阻止部材を使用した継手の例を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 リング部材
1a、1b リング半割体
1c ボール保持部
1d 切り割り部
2 ボール
21 リング半割体
21a ボール保持部
21b 嵌合突部
21c 嵌合凹部
21d 凹部
21e 接続部
21f 切込み
22 ボール
23 リング部材
24 切り割り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂で形成され、片面に複数のボール保持部を等間隔に有する一対のリング半割体と、金属製のボールとで構成される部材であって、二つのリング半割体を一体不可分に接合してリング部材とし、上記ボールを当該リング部材の内周面側に向かって一部突出させて上記ボール保持部に回動自在に挟持すると共に、上記リング部材の両端面に等間隔で交互に切り割り部を設けることを特徴とする埋設管用継手における引抜阻止部材。
【請求項2】
リング部材は、リング半割体の片面に交互に複数の嵌合突起と嵌合凹部を形成し、二つのリング半割体の嵌合突起と嵌合凹部を互いに嵌合させて接合すると共に、その接合面を超音波溶着して一体不可分としたものである請求項1記載の埋設管用継手における引抜阻止部材。
【請求項3】
片面に複数のボール保持部を等間隔に有する一対のリング半割体を合成樹脂で一体成型する工程と、二つのリング半割体のボール保持部に金属製のボールを回動自在に挟持する工程と、リング半割体の接合面を一体不可分に接合してリング部材を形成する工程と、該リング部材の両端面に等間隔で交互に切り割り部を形成する工程とからなることを特徴とする引抜阻止部材の製造方法。
【請求項4】
リング半割体の接合は、リング半割体の片面に交互に複数の嵌合突起と嵌合凹部を形成し、二つのリング半割体の嵌合突起と嵌合凹部を互いに嵌合させて接合すると共に、その接合面を超音波溶着して一体不可分としたものである請求項3記載の引抜阻止部材の製造方法。
【請求項5】
リング半割体のボール保持部の両側には、片方に凹部を、他方に接続部と切込みとを設け、リング半割体を接合した後、上記接続部を切断して上記凹部と切込みとを連通させることで切り割り部を形成するようにした請求項3または請求項4記載の引抜阻止部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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