説明

埋設金属パイプラインのカソード防食方法及びカソード防食システム

【課題】鋼管と鋳鉄管のような異種金属管が混在したパイプラインにおいて、両管を適正にカソード防食するシステムを提供する。
【解決手段】第1金属管P1に流電陽極1を接続し、第1金属管と第2金属管P2との間を流れるボンド電流を生じさせるボンド電流回路3を絶縁継手IJと並列に接続し、ボンド電流回路には、ボンド電流調整手段30とボンド電流回路をオン・オフする回路遮断手段31とが直列に接続され、流電陽極の発生電流を定電流制御した状態で、回路遮断手段によってボンド電流回路をオフにすることで、第2金属管のインスタントオフ電位を計測し、第2金属管の自然電位とインスタントオフ電位との差が基準値以上になるように、ボンド電流調整手段の起動電圧と流電陽極の発生電流の一方又は両方を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋設金属パイプラインのカソード防食方法及びその方法を実行するためのカソード防食システムに関するものであり、特に、鋼管と鋳鉄管のような異種金属管が混在したパイプラインにおけるカソード防食方法及びカソード防食システムに関する。
【背景技術】
【0002】
埋設金属パイプラインには、既設の鋳鉄管に鋼管を接続する場合のように、異種金属の管が混在する埋設パイプライン系が存在する。この場合、互いに接続された一方の管(例えば鋼管)が歴青質塗覆装又はプラスチック被覆の施された管であり、他方の管(例えば鋳鉄管)が塗覆装の無い、いわゆる裸管の場合がある。
【0003】
カソード防食を施すべき埋設された異種金属の管は絶縁継手で接合されることが前提となる。例えば、仮に鋼管と鋳鉄管を導通継手で接合すると、自然腐食状態において、異種金属接触による腐食電池が形成されて鋼管側がアノードになって腐食することになる。また、鋼管と鋳鉄管を導通継手で接合した状態で両管をカソード防食すると、鋳鉄管が裸管であるために大きなカソード防食電流が必要になり、他の埋設金属構造物の直流干渉リスクが高くなる。このように、自然腐食状態であろうがカソード防食状態であろうが、鋼管と鋳鉄管のような異種金属管は絶縁継手で接続されることが必須となる。
【0004】
一方、絶縁継手を介してパイプライン間を接続した場合には、雷害や電力事故等によるサージ(高電圧)によって、絶縁継手の焼損や感電、火花発生などが起きないようにすることが必要になる。そのためには、絶縁継手を介して接続される両管に対して、ダイオードを双方向に並列接続したものを絶縁継手と並列に接続することが知られている(下記非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】電気学会電食防止研究委員会編「新版 電食・土壌腐食ハンドブック」電気学会,1977年5月,p.263〜264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、塗覆装又は被覆が施された鋼管と塗覆装が施されていない鋳鉄管が絶縁継手を介して接続されている埋設パイプラインにおいて、ダイオードを双方向に並列接続した接続回路を絶縁継手と並列に接続すると、両管の間の電位差がある程度大きくなった場合に接続回路を介して両管の間に電流が流れる。
【0007】
このような異種金属管の埋設パイプラインをカソード防食すると、塗覆装が施されていない鋳鉄管は塗覆装又は被覆が施された鋼管より接地抵抗が低いのでカソード防食電流の大半が鋳鉄管側に流入して、鋳鉄管の管対地電位をマイナス側にシフトさせる。しかしながら、この状態でも鋳鉄管の管対地電位は、鋼管の管対地電位よりプラス側の値であるため、ダイオードが起動し、鋳鉄管側から鋼管側に接続回路を経由して電流が流れる。このような状態が継続することで鋳鉄管側をカソード防食状態にすることはできるが、カソード防食電流の大半が鋳鉄管側に流入している状況下でカソード防食電流を如何に設定するかの指標がないため、鋼管と鋳鉄管の両管を適正にカソード防食しているか否かが把握できない問題があった。
【0008】
仮に、両管の管対地電位を計測して、両管がカソード防食電位を満たすようにカソード防食電流を制御したとすると、塗覆装の無い鋳鉄管がカソード防食電位を満たすためには多大なカソード防食電流が必要になり、他の埋設金属構造物の直流干渉リスクを高める問題や、鋼管側の過防食が問題になる。
【0009】
一方、塗覆装のない埋設構造物等のカソード防食状態を把握する基準として、最小100mVカソード分極を指標としたカソード防食基準が知られている。これは、埋設構造物に対するカソード電流の印加によるカソード分極量を計測して、計測されたカソード分極量が100mV以上であればカソード防食基準に合格していると判断するものである。この基準は、金属が最小100mVカソード分極した状態における腐食速度が、自然腐食速度より一桁小さくなるという、電気化学理論から導き出される根拠に基づくものである。
【0010】
この最小100mVカソード分極を指標としたカソード防食基準を採用するには、防食対象物に流入するカソード電流の発生を一時的に停止して、防食対象物のインスタントオフ電位を計測し、計測されたインスタントオフ電位と自然電位との差が100mV以上であるか否かを評価することが必要になる。しかしながら、このカソード防食基準を、絶縁継手を介して鋼管に接続された鋳鉄管の防食状態把握に適用しようとすると、カソード防食電流の発生を停止した時点であっても、前述した接続回路を経由して鋳鉄管側から鋼管側に流れる電流がしばらく続くことになるので、その間鋳鉄管のカソード分極が続くことになり、カソード電流印加による鋳鉄管のカソード分極量を正確に計測できない問題があった。また、鋳鉄管のインスタントオフ電位を計測するために、カソード電流の発生を停止すると、その間、鋳鉄管に接続された鋼管側が無防食になってしまう不具合が生じる。
【0011】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、絶縁継手を介して接合された鋼管と鋳鉄管のような異種金属管に対して、両管を如何にして適正にカソード防食するか、カソード防食電流の一部を鋳鉄管側に流し、その残りの一部で鋼管側をカソード防食するに際して、両管の防食状態を如何に把握するか、また、両管の防食状態が適正になるようにカソード防食システムの条件を如何に設定するか、両管をカソード防食するに際して、カソード防食電流を必要且つ十分な大きさに設定して、両管の過防食防止や他埋設金属構造物の直流干渉リスクを低減することができること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するために、本発明は、以下の構成を少なくとも具備するものである。
【0013】
塗覆装又は被覆が施された第1金属管と塗覆装が施されていない第2金属管とが絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインのカソード防食方法であって、前記第1金属管に流電陽極を接続し、前記第1金属管と前記第2金属管との間を流れるボンド電流を生じさせるボンド電流回路を前記絶縁継手と並列に接続し、前記ボンド電流回路には、前記ボンド電流が発生する起動電圧を調整可能なボンド電流調整手段と、前記ボンド電流回路をオン・オフする回路遮断手段とが直列に接続され、前記流電陽極の発生電流を定電流制御した状態で、前記回路遮断手段によって前記ボンド電流回路をオフにすることで、前記第2金属管のインスタントオフ電位を計測し、前記第2金属管の自然電位と前記インスタントオフ電位との差が基準値以上になるように、前記ボンド電流調整手段の起動電圧と前記流電陽極の発生電流の一方又は両方を設定することを特徴とする埋設金属パイプラインのカソード防食方法。
【0014】
塗覆装又は被覆が施された第1金属管と塗覆装が施されていない第2金属管とが絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインのカソード防食システムであって、前記第1金属管に定電流制御手段を介して接続される流電陽極と、前記絶縁継手と並列に接続され、前記第1金属管と前記第2金属管との間を流れるボンド電流を生じさせるボンド電流回路と、前記ボンド電流回路に接続され、前記ボンド電流が発生する起動電圧を調整可能なボンド電流調整手段と、前記ボンド電流調整手段と直列に前記ボンド電流回路に接続され、前記ボンド電流回路をオン・オフする回路遮断手段と、前記第2金属管のインスタントオフ電位を計測するインスタントオフ電位計測手段とを備え、前記第2金属管の自然電位と前記インスタントオフ電位との差が基準電値以上になるように、前記ボンド電流調整手段の起動電圧と前記流電陽極の発生電流の一方又は両方が設定されていることを特徴とする埋設金属パイプラインのカソード防食システム。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、塗覆装又は被覆が施された第1金属管と塗覆装が施されていない第2金属管とが絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインをカソード防食するに際して、第1金属管に接続された流電陽極の発生電流を定電流制御した状態で、回路遮断手段によってボンド電流回路をオフにすることで、第2金属管のインスタントオフ電位を計測する。これにより、第1金属管と第2金属管との間のボンド電流を完全に遮断した状態で前記第2金属管のインスタントオフ電位を計測することができ、第2金属管の流電陽極発生電流によるカソード分極量を正確に計測することが可能になる。このように計測された第2金属管のカソード分極量が基準値(最小100mVカソード分極)以上になるように、ボンド電流調整手段の起動電圧と流電陽極の発生電流を設定することで、第2金属管が適正な基準に合格した防食状態になるように必要且つ十分なカソード防食電流を設定することが可能になる。
【0016】
これにより、塗覆装又は被覆が施された第1金属管と塗覆装が施されていない第2金属管とが絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインをカソード防食するに際して、必要且つ十分なカソード防食電流を設定することができるので、他の埋設金属構造物の直流干渉リスクを高める問題や、過防食の問題を回避することができると共に、流電陽極や定電流発生電源の寿命を延ばしてシステムのランニングコストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るカソード防食方法又はカソード防食システムを説明する説明図である。
【図2】第2金属管におけるインスタントオフ電位の計測方法を説明する説明図である。
【図3】本発明の実施形態におけるカソード防食システムのシステム条件を設定するフローを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の実施形態に係るカソード防食方法又はカソード防食システムを説明する説明図である。本発明の実施形態に係るカソード防食方法又はカソード防食システムの対象は、絶縁継手IJを介して接続された異種金属管からなる埋設金属パイプラインである。ここでは、絶縁継手IJを介して接続された一方の管を第1金属管P1といい、他方の管を第2金属管P2という。第1金属管P1は塗覆装又は被覆が施された金属管であって、例えば歴青質塗覆装が施された鋼管である。第2金属管P2は塗覆装が施されていない金属管であって、例えば塗覆装無しの鋳鉄管である。以下の説明は、第1金属管P1を歴青質塗覆装が施された鋼管とし、第2金属管P2を塗覆装無しの鋳鉄管として説明するが、本発明の実施形態は特にこれに限定されるものではない。
【0019】
このような埋設金属パイプラインに対して設置されるカソード防食システムの構成を説明する。このカソード防食システムは、一つのカソード防食電流発生源によって、絶縁継手IJを介して接続された第1金属管P1と第2金属管P2の両方をカソード防食することができるシステムである。また、このカソード防食システムは、第1金属管P1と第2金属管P2のカソード防食状態を共に定量的に評価することができ、第1金属管P1と第2金属管P2の防食状態が適正になり、カソード防食電流を必要且つ十分な大きさに設定できるように、システム条件を設定調整することができるシステムである。
【0020】
このカソード防食システムにおけるカソード防食電流の発生源としては、流電陽極1が用いられる。流電陽極1はより接地抵抗の高い第1金属管(鋼管)P1に接続されている。流電陽極1をより接地抵抗の高い第1金属管P1側に接続することで、流電陽極1から発生するカソード防食電流を低く抑えることができる。第1金属管P1が鋼管の場合には、流電陽極1としてMg陽極が適する。第1金属管P1と流電陽極1とを接続する接続線10には、流電陽極1からの発生電流を定電流制御する定電流制御手段2が接続され、この定電流制御手段2を介して流電陽極1は第1金属管P1に接続されている。定電流制御手段2は、流電陽極1からの発生電流を定電流制御できるものであればよく、例えば、直流電池(乾電池)と迷走電流が第1金属管P1に流入するのを防止するダイオード(ショットキー・バリア・ダイオード)とを直列接続した乾電池外電が簡易に設置可能な設備として好ましい。
【0021】
このカソード防食システムでは、カソード防食電流発生源として流電陽極(Mg陽極)1を用いているので、カソード防食電流発生源と防食対象である第1金属管P1,第2金属管P2との距離は比較的短く設定される。これによって、流電陽極1と防食対象である第1金属管P1,第2金属管P2との間に他の埋設金属構造物が存在する可能性は少なくなり、流電陽極1から発生するカソード防食電流が他の埋設金属構造物に干渉するリスクは少なくなる。
【0022】
第1金属管P1と第2金属管P2はボンド電流回路3で接続されている。ボンド電流回路3は、絶縁継手IJと並列に接続されて第1金属管P1と第2金属管P2との間を流れるボンド電流を生じさせる回路である。ボンド電流回路3には、ボンド電流が発生する起動電圧を調整可能なボンド電流調整手段(ボンド電流調整器)30とボンド電流回路をオン・オフする回路遮断手段31が直列に接続されている。また、ボンド電流回路3には、シャント抵抗からなるボンド電流計測手段32がボンド電流調整手段30及び回路遮断手段31に対して直列に接続されている。
【0023】
ボンド電流調整手段30は、双方向に並列接続されたダイオード30Aを含み、必要に応じて、雷等のサージ対策として、ダイオード30Aと直列に複数のコイル30Bとヒューズ30Eが接続され、ダイオード30Aと並列に電源用保安器30Cとバリスタ30Dが接続されている。ボンド電流調整手段30は、ダイオード30Aの特性を選択して、その立ち上がり特性を調整することでボンド電流が発生する起動電圧を調整することができる。
【0024】
回路遮断手段31は、ボンド電流回路3のオン状態(通電状態)とオフ状態(遮断状態)を切り替えることができるスイッチ手段であり、常時はボンド電流回路3をオン状態(通電状態)にしておき、必要時(インスタントオフ電位の計測時)のみボンド電流回路3をオフ状態にする。回路遮断手段31は、機械的なスイッチ手段によって構成することができるが、動作の安定性を確保するために非接触型のスイッチ素子(例えば、非接触型半導体リレー)を用いることが好ましい。非接触型のスイッチ素子を用いることで、インスタントオフ電位計測時にボンド電流回路3をオン・オフする際の機械的な接点不良を回避することができ、安定した電位計測を行うことが可能になる。
【0025】
そして、本発明の実施形態に係るカソード防食システムは、第2金属管P2のインスタントオフ電位を計測するためのインスタントオフ電位計測手段4を備える。インスタントオフ電位計測手段4は、基本的には第2金属管P2の管対地電位を計測することができればよいが、詳しいシステム構成としては、地上に設置した照合電極(例えば、飽和硫酸銅電極)41と第2金属管P2を接続する接続線40に電圧計42を接続している。この電圧計42は、ISO15589-1を満足する入力インピーダンスと計測レンジを備えている。
【0026】
また、本発明の実施形態に係るカソード防食システムは、第1金属管P1の管対地電位を計測する管対地電位計測手段5を備える。管対地電位計測手段5は、基本的には第1金属管P1の管対地電位を計測することができればよいが、詳しいシステム構成としては、地上に設置した照合電極(例えば、飽和硫酸銅電極)51と第1金属管P1を接続する接続線50に電圧計52を接続している。この電圧計52は、ISO15589-1を満足する入力インピーダンスと計測レンジを備えている。
【0027】
このようなシステム構成を備えたカソード防食システムを用いたカソード防食方法、或いは前述したカソード防食システムにおけるシステム条件の設定方法について以下に説明する。
【0028】
第1金属管P1に接続された流電陽極(Mg陽極)1の発生電流を定電流制御手段2によって定電流制御した状態でボンド電流回路3をオン状態にすると、流電陽極1から発生する電流(カソード防食電流)は、その一部が第2金属管(鋳鉄管)P2に流入し、その残りが第1金属管(鋼管)に流入する。この際、流電陽極1から発生する電流のうち、どの程度が第2金属管P2に流入し(どの程度が第1金属管P1に流入し)、第1金属管P1と第2金属管P2のカソード防食状態がどのようになっているかを把握することが、両管を適正にカソード防食する上で必要になる。
【0029】
本発明の実施形態に係るカソード防食方法では、第2金属管P2のインスタントオフ電位を計測し、第2金属管P2の自然電位と計測されたインスタントオフ電位との差が基準値以上であるか否かで、第2金属管P2のカソード防食状態を把握する。第2金属管P2の自然電位と計測されたインスタントオフ電位との差は、流電陽極1の発生電流が第2金属管P2に流入したことによる第2金属管P2のカソード分極量になるから、このカソード分極量が基準値以上であることが分かれば、第2金属管P2のカソード防食状態を把握することができる。ここでの基準としては、最小100mVカソード分極を指標としたカソード防食基準を採用する。すなわち、第2金属管P2の自然電位と計測されたインスタントオフ電位との差が100mV以上であるか否かで、第2金属管P2のカソード防食状態が適正であるか否かを判断する。第2金属管P2の自然電位と計測されたインスタントオフ電位との差が100mV以上であるということは、第2金属管P2の腐食速度が自然腐食速度よりも一桁小さくなっていることを指す。
【0030】
本発明の実施形態におけるカソード防食システムは、流電陽極1の発生電流を定電流制御した状態で、回路遮断手段31によってボンド電流回路3をオフにすることで、第2金属管P2のインスタントオフ電位を計測していることに一つの特徴を有している。前述したシステム構成において、ボンド電流回路3をオフ状態にすると、流電陽極1の発生電流を定電流に保ち、第1金属管P1へのカソード防食電流の流入を継続させながら、第2金属管P2に流入するカソード防食電流を遮断させることができる。すなわち、第1金属管P1へのカソード防食を継続させながら、第2金属管P2へのカソード防食を一時的に停止させることができる。
【0031】
仮に、第2金属管P2のインスタントオフ電位を計測するに際して、流電陽極1と第1金属管P1との接続を遮断して、流電陽極1からの発生電流自体を停止させたとすると、これによって第1金属管P1のカソード防食が妨げられることになり、また、ボンド電流回路3がオン状態(通電状態)でボンド電流が継続している状態では、第2金属管P2のインスタントオフ電位を適正に計測することができない。本発明の実施形態に係るカソード防食システムでは、これらの問題を解消して、第1金属管P1へのカソード防食を継続させながら、第2金属管P2のインスタントオフ電位を適正に計測することを可能にしている。
【0032】
図2は、第2金属管P2におけるインスタントオフ電位の計測方法を説明する説明図である。同図は、縦軸が第2金属管P2の管対地電位を示し、横軸が経過時間を示したグラフであって、第2金属管P2の管対地電位の経時的な変化を示している。図において、Aの電位は第2金属管P2がカソード防食されていない状態の電位(自然電位)、Bの電位は、前述したカソード防食システムを構築して、時間T1にボンド電流回路3をオン状態にした直後の電位、Cの電位はボンド電流回路3をオン状態にした後十分にカソード分極が進んだ状態の電位、Dの電位はCの電位状態で時間T2にボンド電流回路3をオフにした直後の電位をそれぞれ示している。
【0033】
図示のAの電位からBの電位に至る電位差或いはCの電位からDの電位に至る電位差は、照合電極を地上に設置して埋設管の管対地電位を計測していることによって生じるIRドロップであり、カソード防食電流Iと土壌抵抗Rの積からなる電位差である。インスタントオフ電位は、カソード分極が十分に進んだ状態の管対地電位(Cの電位)からIRドロップを差し引いた電位(Dの電位)として定義することができる。図示のBの電位からCの電位に至る電位差がカソード防食電流による第2金属管P2のカソード分極量であるが、IRドロップを計測すること無しに第2金属管P2のカソード分極量を求めるために、十分にカソード分極が進んだCの状態でボンド電流回路P2をオフにして、Dの電位で示されるインスタントオフ電位を計測し、既知のAの電位(自然電位)と計測されたDの電位(インスタントオフ電位)との差によって、第2金属管P2のカソード分極量を求めている。
【0034】
第2金属管P2のインスタントオフ電位を計測するには、カソード分極が十分に進んだ状態で、回路遮断手段31の動作に対応して第2金属管P2の管対地電位を経時的にデジタル計測し、この経時的なデジタル計測によって得られる電位波形からインスタントオフ電位を求める。一例を示すと、デジタル計測のサンプリング間隔を0.1msecとし、計測時間tmを数sec程度とすることが好ましい。
【0035】
インスタントオフ電位は、回路遮断手段31をオフにして第2金属管P2に流入するカソード防食電流を遮断することで、第2金属管P2の管対地電位からIRドロップに当たる電位差を消失させ、第2金属管P2の復極が始まる時点の電位によって特定することができる。図2において、計測時間tmで得られる電位波形は、IRドロップの消失が管対地電位のプラス側への急峻な変化によって示され、その後の第2金属管P2の復極が緩やかな管対地電位のプラス側への変化によって示される。回路遮断手段31をオフにした後に生じる第2金属管P2の管対地電位の変化には、ボンド電流回路3に含まれる一次遅れ要素(ロー・パス・フィルタのコンデンサ等)や回路遮断手段31を半導体リレーによって構成した場合に生じる動作遅れの影響などが含まれるので、どの時点での第2金属管P2の管対地電位をインスタントオフ電位に当てるかを決めるのが困難な場合がある。本発明の実施形態では、計測時間tmで得られる電位波形の変化によって第2金属管P2の復極が始まる時点の電位を把握することで、第2金属管P2のインスタントオフ電位を明確に特定することができる。
【0036】
一方、第1金属管P1のカソード防食状態を把握するには、従来公知のように、管対地電位計測手段5によって第1金属管P1の管対地電位を計測する。そして、第1金属管P1の管対地電位がカソード防食電位よりマイナス側であるか否かで、第1金属管P1が適正なカソード防食状態にあるか否かを判断する。この際、第1金属管P1の管対地電位の計測は、ボンド電流回路3がオン状態のときに行う。ボンド電流回路3のオフ時には、ボンド電流回路3がオン状態のときに第2金属管P2に流入していた電流が第1金属管P1側に流れ込むことになるので、通常のカソード防食状態より防食電流が増加状態になっている。通常のカソード防食状態の適否を判断するには、このように防食電流が増加状態を避けて、ボンド電流回路3のオン状態で第1金属管P1の管対地電位を計測することが必要になる。
【0037】
図3は、本発明の実施形態におけるカソード防食システムのシステム条件を設定するフローを示した説明図である。前述したカソード防食システムの条件設定を行うには、先ず、定電流制御手段2の定電流値とボンド電流調整手段30の起動電圧を初期設定した状態で、ボンド電流回路3をオン状態にして、第1金属管P1と第2金属管P2に対してカソード防食を行う。第1金属管P1と第2金属管P2に対して所定時間カソード防食を行った後、ボンド電流回路3のオン状態を維持して、管対地電位計測手段5によって第1金属管P1の管対地電位を計測する(S1)。そして、計測した第1金属管P1の管対地電位がカソード防食基準に合格しているか否かを確認する(S2)。
【0038】
第1金属管P1の管対地電位がカソード防食基準に合格していることは、当初のシステム設計の大前提であるが、計測した第1金属管P1の管対地電位がカソード防食基準に合格していない場合は(S2;NO)、流電陽極1の発生電流の設定やボンド電流調整手段の起動電圧の設定等を含めた基本設定変更を行って、第1金属管P1の管対地電位がカソード防食基準に合格するような対策を講じる(S3)。
【0039】
第1金属管P1の管対地電位がカソード防食基準に合格していること確認した後(S2;YES)、回路遮断手段31を動作させてボンド電流回路3をオフ状態にすることで、第2金属管P2のインスタントオフ電位を計測する(S4)。そして、第2金属管P2の自然電位と計測した第2金属管P2のインスタントオフ電位との差によって求められる第2金属管P2のカソード分極量が、基準値(100mV)以上で有るか否かを確認する(S5)。第2金属管P2の自然電位は既知の値として予め演算手段に登録しておくことができる。
【0040】
第2金属管P2のカソード分極量が基準値(100mV)以上でない場合には(S5;NO)、システム条件の設定変更が必要になり、ボンド電流調整手段の起動電圧と流電陽極1の発生電流の一方又は両方の再設定を行う(S6,S7)。そして、再び、第2金属管P2のインスタントオフ電位を計測して(S4)、第2金属管P2のカソード分極量が基準値(100mV)以上で有るか否かを確認する(S5)。第2金属管P2のカソード分極量が基準値(100mV)以上である場合には(S5;YES)、システム条件の設定を完了し、その設定された条件で第1金属管P1及び第2金属管P2に対するカソード防食を継続する(S8)。
【0041】
このようなカソード防食方法によると、第1金属管P1と第2金属管P2のカソード防食状況を設定期間毎に点検することができる。設定期間毎の点検時には、第1金属管P1の管対地電位を計測すると共に、第2金属管P2のインスタントオフ電位を計測し、第1金属管P1の管対地電位がカソード防食基準に合格しているか否か、第2金属管P2のカソード分極量が基準値(100mV)以上であるか否かを確認する。第1金属管P1と第2金属管P2のカソード防食状態が基準に適合していない場合は、図3に示したフローに従ってシステム条件の設定変更を行い、カソード防食状態を適正な状態にするための対策を講じる。
【0042】
また、設定期間毎の点検で、第2金属管P2のインスタントオフ電位を計測した場合に、第2金属管P2の自然電位と計測したインスタントオフ電位との差、すなわち、第2金属管P2のカソード分極量が基準値(100mV)以上になっている場合には、カソード分極量の大きさを考慮して流電陽極1の発生電流を低下させる。このように流電陽極1の発生電流を必要最小限に抑制することで、流電陽極1や定電流制御手段2の直流電池(乾電池)の寿命を延ばすことができると共に、流電陽極1の周囲に存在する他の埋設金属構造物に対する直流干渉のリスクや第1金属管P1及び第2金属管P2に対する過防食のリスクを低減することができる。設定期間毎の点検で流電陽極1の発生電流を見直し、必要且つ十分な発生電流に設定することが好ましい。
【0043】
更に、設定期間毎の点検では、ボンド電流回路3に直列接続されているボンド電流計測手段32によってボンド電流回路3を流れる電流(ボンド電流)を計測することで、より詳細なカソード防食の状態を把握することができる。ボンド電流計測手段32によって計測されたボンド電流は、流電陽極1から発生しているカソード防食電流の中で第2金属管P2に流入したカソード防食電流の値を示している。また、流電陽極1において定電流値に設定されている発生電流の値からボンド電流計測手段32によって計測されたボンド電流の値を差し引いた値が、第1金属管P1に向けられるカソード防食電流の値を示している。したがって、ボンド電流計測手段32によって計測されたボンド電流を把握することで、流電陽極1から発生するカソード防食電流の何%が第2金属管P2に流入し、残りの何%が第1金属管P1に振り分けられるかを把握することができ、第1金属管P1と第2金属管P2がどのような状態でカソード防食されているかを詳細に把握することができる。ボンド電流計測手段32のシャント抵抗の大きさは、その大きさによって第2金属管P2に流入するカソード防食電流の大きさが決まるので、できるだけ小さくする方が好ましい。一例としては、シャント抵抗を0.1Ωに設定する。
【0044】
以上説明したような本発明の実施形態に係るカソード防食方法又はカソード防食システムによると、鋼管と鋳鉄管のような異種金属管が接続された埋設金属パイプラインに対して、一つのカソード防食電流発生源によって効果的にカソード防食を行うことができ、絶縁継手IJを介して接続される第1金属管P1(例えば歴青質塗覆装鋼管)と第2金属管P2(例えば塗覆装無しの鋳鉄管)をそれぞれ適正なカソード防食基準の下で管理することができる。
【0045】
第1金属管P1と第2金属管P2のそれぞれに適正なカソード防食基準を適用して、接地抵抗がより高い第1金属に接続した流電陽極1によって両管をカソード防食するので、流電陽極1から発生するカソード防食電流を必要且つ十分に設定することが可能になる。これによって、第1金属管P1と第2金属管P2に対する過防食を防止することができるだけでなく、流電陽極1や定電流制御手段(乾電池外電)2の寿命を延ばすことができ、更には、周辺の埋設金属構造物に対する直流干渉リスクを低減することができる。
【0046】
カソード防食電流発生源として流電陽極(Mg陽極)1を用いているので、第1金属管P1と第2金属管P2から近い位置でカソード防食電流を発生させることができる。これによって、流電陽極1から塗覆装のない第2金属管P2に多くのカソード防食電流が流入している状況下であっても、流電陽極1と第2金属管P2との間に他の埋設金属構造物が存在することがなく、これによっても他の埋設金属構造物に対する直流干渉リスクを低減することができる。
【0047】
本発明の実施形態によると、絶縁継手IJを介して接続される第1金属管P1と第2金属管P2に対して、絶縁継手IJの近くにカソード防食システムを設置することができる。これにより、第2金属管P2は、絶縁継手IJの近傍における管対地電位が絶縁継手IJから離れたところでの管対地電位よりマイナス側の値になって絶縁継手IJ側に向かう管内電流を発生させる。この管内電流によって第2金属管P2の絶縁継手IJから離れたところから電解質に流出する電流を排除でき、第2金属管P2全体の腐食リスクを防止することができる。そして、第2金属管P2からボンド電流回路3を介して第1金属管P1に流入した電流は、絶縁継手IJの近くに接続された流電陽極1から流出することになるので、第1金属管P1から電解質に流出する電流を排除でき、第1金属管P1全体の腐食リスクも併せて低減することができる。
【符号の説明】
【0048】
1:流電陽極(Mg陽極),10:接続線,
2:定電流制御手段(乾電池外電)
3:ボンド電流回路,
30:ボンド電流調整手段,30A:ダイオード,30B:コイル,
30C:電源用保安器,30D:バリスタ,
31:回路遮断手段,
32:ボンド電流計測手段(シャント抵抗),
4:インスタントオフ電位計測手段,
40:接続線,41:照合電極(飽和硫酸銅電極),42:電圧計,
5:管対地電位計測手段,
50:接続線,51:照合電極(飽和硫酸銅電極),52:電圧計,
P1:第1金属管(鋼管),P2:第2金属管(鋳鉄管)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗覆装又は被覆が施された第1金属管と塗覆装が施されていない第2金属管とが絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインのカソード防食方法であって、
前記第1金属管に流電陽極を接続し、
前記第1金属管と前記第2金属管との間を流れるボンド電流を生じさせるボンド電流回路を前記絶縁継手と並列に接続し、
前記ボンド電流回路には、前記ボンド電流が発生する起動電圧を調整可能なボンド電流調整手段と、前記ボンド電流回路をオン・オフする回路遮断手段とが直列に接続され、
前記流電陽極の発生電流を定電流制御した状態で、前記回路遮断手段によって前記ボンド電流回路をオフにすることで、前記第2金属管のインスタントオフ電位を計測し、
前記第2金属管の自然電位と前記インスタントオフ電位との差が基準値以上になるように、前記ボンド電流調整手段の起動電圧と前記流電陽極の発生電流の一方又は両方を設定することを特徴とする埋設金属パイプラインのカソード防食方法。
【請求項2】
前記基準値を100mVとすることを特徴とする請求項1記載に記載された埋設金属パイプラインのカソード防食方法。
【請求項3】
前記ボンド電流回路がオンの状態で前記第1金属管の管対地電位を計測し、前記第1金属管の管対地電位がカソード防食基準に合格するように、前記ボンド電流調整手段の起動電圧と前記流電陽極の発生電流の一方又は両方を設定することを特徴とする請求項2に記載された埋設金属パイプラインのカソード防食方法。
【請求項4】
前記インスタントオフ電位の計測は、前記回路遮断手段の動作に対応して前記第2金属管の管対地電位を経時的にデジタル計測し、この経時的なデジタル計測によって得られる電位波形から前記インスタントオフ電位を求めることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された埋設金属パイプラインのカソード防食方法。
【請求項5】
前記インスタントオフ電位の計測を設定期間毎に行い、前記第2金属管の自然電位と前記インスタントオフ電位との差が基準値以上になっている場合は、前記流電陽極の発生電流を低下させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載された埋設金属パイプラインのカソード防食方法。
【請求項6】
前記第1金属管は歴青質塗覆装又はプラスチック被覆が施された鋼管であり、前記第2金属管が塗覆装のない鋳鉄管であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載された埋設金属パイプラインのカソード防食方法。
【請求項7】
前記ボンド電流回路を流れる電流値を計測し、該電流値によって前記鋳鉄管に流入するカソード防食電流を把握し、定電流制御された前記流電陽極の発生電流値から前記電流値を差し引いた値によって、前記鋼管に流入するカソード防食電流を把握することを特徴とする請求項6に記載された埋設金属パイプラインのカソード防食方法。
【請求項8】
塗覆装又は被覆が施された第1金属管と塗覆装が施されていない第2金属管とが絶縁継手を介して接続された埋設金属パイプラインのカソード防食システムであって、
前記第1金属管に定電流制御手段を介して接続される流電陽極と、
前記絶縁継手と並列に接続され、前記第1金属管と前記第2金属管との間を流れるボンド電流を生じさせるボンド電流回路と、
前記ボンド電流回路に接続され、前記ボンド電流が発生する起動電圧を調整可能なボンド電流調整手段と、
前記ボンド電流調整手段と直列に前記ボンド電流回路に接続され、前記ボンド電流回路をオン・オフする回路遮断手段と、
前記第2金属管のインスタントオフ電位を計測するインスタントオフ電位計測手段とを備え、
前記第2金属管の自然電位と前記インスタントオフ電位との差が基準値以上になるように、前記ボンド電流調整手段の起動電圧と前記流電陽極の発生電流の一方又は両方が設定されていることを特徴とする埋設金属パイプラインのカソード防食システム。
【請求項9】
前記基準値を100mVとすることを特徴とする請求項8記載に記載された埋設金属パイプラインのカソード防食システム。
【請求項10】
前記第1金属管の管対地電位を計測する管対地電位計測手段を備えることを特徴とする請求項8又は9に記載された埋設金属パイプラインのカソード防食システム。
【請求項11】
前記定電流制御手段は前記第1金属管と前記流電陽極との間に接続される乾電池外電であることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載された埋設金属パイプラインのカソード防食システム。
【請求項12】
前記ボンド電流調整手段は、双方向に並列接続されたダイオードを含むことを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載された埋設金属パイプラインのカソード防食システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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