説明

培養細胞シート包装体及びシート挟持部材

【課題】 培養細胞シートが運搬時にズレたり欠損したり劣化したりするのを防止する。
【解決手段】 培養細胞シート包装体50では、細胞シート内包キャリア18とトレイ窪み部22の底面との間に介在しているネット45が細胞シート内包キャリア18に略線接触すると共にトレイ窪み部22の底面表側にも略線接触し、また、細胞シート内包キャリア18とリッド窪み部32の底面との間に介在しているネット46が細胞シート内包キャリア18に略線接触すると共にリッド窪み部32の底面裏側にも略線接触することにより、密閉空間Sに空気を略完全に排除した状態で充填された培地内に細胞シート内包キャリア18を保持している。したがって、運搬時に揺れたとしても、培地が波立ったりすることはなく、細胞シート内包キャリア18に内包されている培養上皮細胞シートがズレたりするおそれがない。また、空気による劣化のおそれもない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養細胞シート包装体及びシート挟持部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞や組織をインビトロ(生体外)で培養し、再び生体に適用することで治療を行う組織工学や再生医療が注目されている。殊に、患者本人やドナーの皮膚あるいは口腔粘膜等の一部を採取し、シート状に培養してから生体に適用する技術に関しては、実用化の段階に至っている。例えば、皮膚の場合、母斑、潰瘍、熱傷、刺青等の治療や、移植用皮膚を採取した採皮部等に、培養上皮(表皮)細胞シートの移植が試みられている。また、口腔粘膜の場合、歯周病や悪性腫瘍などの口腔内疾患による歯肉および粘膜組織の創傷・欠損に対する治療として、口腔粘膜上皮細胞を用いた培養細胞シートの移植が試みられている。これらの培養細胞シートは組織工学の手法を用いて作製され、上皮(表皮)細胞が5〜10層に重層化した薄いシート状の構造となるように培養フラスコ内で培養した後、培養フラスコから剥離して移植に供されている。しかし、このような培養細胞シートの作製は培養操作が繁雑であり普通の医療機関で容易にできるわけではない。そのため、十分な培養設備が揃い、熟練した培養技術を有した大学病院などの専門施設でのみ、この培養細胞の移植治療が実施されているに過ぎない。また、培養フラスコによる輸送の場合、培養細胞シートの剥離作業を医療機関で行うことになるので、手術前に余分な手間が必要となり、術者の負担となる。
【0003】
このことから、専門施設で作製された培養細胞シートが適切に包装されて安定に輸送することができれば、一般的な手術設備がある多くの医療機関で容易に適用することが可能となり、大勢の患者が培養細胞の移植治療を享受することができる。この種の培養細胞シートの包装体としては、例えば特許文献1に開示されているように、基質シートにクリップ止めした培養上皮細胞シートをトレイの窪み部の底面上に載せ、このトレイの窪み部に培養培地を入れたあとシート状のリッドによってトレイを密封したものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2733800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の培養細胞シートの包装体では、包装時に内部に空気が残っているおそれがある。内部に空気が残存していると、運搬時の揺れ等によって培養培地が波立ったり培養培地中を気泡が移動したりして培養上皮細胞シートがズレたり欠損したりすることが懸念されるし、培養上皮細胞シートが空気に接触して劣化することも懸念される。また、基板シートにクリップ止めされた培養上皮細胞シートとリッドとの間に隙間が空いているため、運搬時に培養細胞シート包装体が揺れると培養上皮細胞シートとリッドとが衝突し、培養上皮細胞シートが損傷するおそれも懸念される。
【0006】
本発明はこのような問題点を解決することを課題とするものであり、培養細胞シートが運搬時にズレたり欠損したり劣化したりするのを防止する培養細胞シート包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の培養細胞シート包装体は、上述した目的を達成するために以下の手段を採用した。
【0008】
即ち、本発明の培養細胞シート包装体は、
気密且つ液密な材質で構成されたトレイと、
気密且つ液密な材質で構成されたリッドと、
前記トレイと前記リッドとによって囲まれた密閉空間に空気を略完全に排除した状態で充填された液体培地と、
前記密閉空間内で前記液体培地に浸漬された培養細胞シートと
を備えたものである。
【0009】
この培養細胞シート包装体では、密閉空間に充填された液体培地は空気を略完全に排除されているため、液体培地に浸漬された培養細胞シートは空気によって劣化するおそれがない。また、運搬時に培養細胞シート包装体が揺れたとしても液体培地が波立ったり液体培地中を気泡が移動したりすることがないため、培養上皮細胞シートがズレたり欠損したりするおそれもない。なお、「空気を略完全に排除した状態で充填された液体培地」における「空気を略完全に排除」とは、これらの効果を奏する程度に空気を排除しておくという意であり、完全に空気を排除する場合のほか、空気が小気泡として僅かに残存している場合も含む。
【0010】
本発明の培養細胞シート包装体は、
前記培養細胞シートと前記トレイとの間にて前記トレイと接触すると共に前記培養細胞シートと部分的に接触する第1介在部材と、
前記培養細胞シートと前記リッドとの間にて前記リッドと接触すると共に前記培養細胞シートと部分的に接触する第2介在部材と
を備えていてもよい。
【0011】
この培養細胞シート包装体では、培養細胞シートは第1介在部材と第2介在部材とによって液体培地内で保持されている。このため、運搬時に培養細胞シート包装体が揺れたとしても、培養細胞シートは容易に移動することはなく、培養細胞シートがリッドやトレイと衝突して損傷するというおそれがない。また、培養細胞シートと第1及び第2介在部材とは全面的に接触しているのではなく部分的に接触しているに過ぎないため、培養細胞シートが第1及び第2介在部材によってダメージを受けることもほとんどない。したがって、この培養細胞シート包装体によれば、トレイやリッドと培養細胞シートとの衝突を防止することにより、培養細胞シートを損傷なく運搬することができる。
【0012】
本発明における「培養細胞シート」とは、[従来の技術]の欄で述べたような、細胞のみによって構成される単層または複数層(重層化)の培養上皮(表皮)細胞シートだけでなく、上皮(表皮)細胞がコラーゲンゲルやフィブリンゲルなどで構成されるシート状のスキャホールド(Scaffold)上で培養されたものも含む。また、コラーゲンスポンジやヒアルロン酸スポンジ等の多孔質体をスキャホールドとして線維芽細胞を播種・培養した培養真皮や、この培養真皮上に上皮(表皮)細胞層を形成した複合型培養皮膚など、シート状の細胞組込み型移植物を含む。
【0013】
「トレイ」、「リッド」、「第1介在部材」、「第2介在部材」の材質は、液体培地や培養細胞シートに対して不活性なものであれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、テフロン(登録商標)等の合成樹脂、ヒドロキシアパタイトセラミックス、アルミナセラミックス、ガラス等から構成されたものが好適に使用される。また、「第1介在部材」や「第2介在部材」については、培養細胞シートにダメージを与えない柔軟性のあるものが好ましく、例えば前出の合成樹脂のほかシリコーンゴムなどの弾性材が使用される。
【0014】
本発明の培養細胞シート包装体において、前記培養細胞シートは、平面状の支持体に支持された状態で前記第1介在部材及び前記第2介在部材に接触していてもよい。こうすれば、培養細胞シートは平面状の支持体によって補強されるため、培養細胞シートが十分な強度を有していなくても取り扱い時に破損するの防止できるうえ広げた状態で支持できるので取り扱いが容易となる。ここで、培養細胞シートを平面状の支持体に支持するにあたっては、1つの支持体の片面と培養細胞シートとを重ね合わせて支持してもよいし、1つの支持体を培養細胞シートで包み込んでもよいし、1つの支持体を折り畳みその間に培養細胞シートを包み込んでもよいし、2つの支持体の間に培養細胞シートを挟み込んでもよいし、その他にどのような方法を採用してもよい。
【0015】
このように支持体に支持された培養細胞シートを用いる場合、前記支持体は創傷被覆材で形成されていてもよい。創傷被覆材で形成した支持体は培養細胞シートを支持するのに適するうえ、培養細胞シートを使用するときに支持体の支持を解く際の作業性がよい。ここで、創傷被覆材としては、例えば滅菌ガーゼ、ベスキチン(登録商標)などの生体成分被覆材、ソーブサン(登録商標)などのアルギニン酸塩被覆材、デュオアクティブ(登録商標)などのハイドロコロイドドレッシング、バイオクルーシブ(登録商標)などのポリウレタンフィルムドレッシングなどが挙げられる。このような創傷被覆材を培養細胞シートの片面を支持する支持体とした際には、移植部位に適用した後、そのまま創傷被覆材として適用することが可能である。なお、支持体は、これに限らず、培養細胞シートにダメージを与えない柔軟性のある高分子材料(例えばシリコーンゴム)で形成されていてもよい。また、コラーゲンゲル、フィブリンゲル、ゼラチン、寒天培地等をシート状にしたものや、滅菌和紙、滅菌不織布などを利用することも可能である。
【0016】
また、このように支持体に支持された培養細胞シートを用いる場合、前記支持体は第1支持シートと第2支持シートとからなり、前記第1支持シートはその片面が前記培養細胞シートと重ね合わされて一体となり、前記第2支持シートは前記第1支持シートと一体化された前記培養細胞シートを包み込んだ状態で支持していてもよい。こうすれば、培養細胞シートは第1支持体によって補強されるため、培養細胞シートが十分な強度を有していなくても取り扱い時に破損するの防止できるうえ広げた状態で支持できるので取り扱いが容易となる。また、移植時の取り扱いを容易にすることを考慮すると、培養細胞シートの移植適用面(移植部位と接触する面)の反対側を第1支持シートで支持することが好ましい。この場合、培養細胞シートの移植適用面は、第1支持シートによっては被覆されないが第2支持シートにより包み込まれて被覆されるため確実に保護される。特に培養上皮(表皮)細胞シートの場合、移植適用面の細胞増殖能を有する基底層を確実に保護することができる。さらに、第2支持シートの開封部をリッド側に設けることが好ましい。この場合、第2支持シートをトレイ内に残したまま、第1シートに支持された培養細胞シートを容易に取り出すことができる。
【0017】
本発明の培養細胞シート包装体において、前記第1介在部材が前記培養細胞シートに接触する位置と前記第2介在部材が前記培養細胞シートに接触する位置とは互いに対向せずずれていてもよい。両位置が対向しているとトレイ又はリッドが変形した際に培養細胞シートがその位置で挟み込まれて過大な圧力がかかるおそれがあるのに対して、両位置が対向せずずれているとトレイ又はリッドが変形したとしても培養細胞シートが挟み込まれることはなく過大な圧力がかかるおそれがないので好ましい。
【0018】
本発明の培養細胞シート包装体において、前記第1介在部材は、前記トレイとは別体に成形されたものであるか又は前記トレイに一体成形されたものであり、前記第2介在部材は、前記リッドとは別体に成形されたものであるか又は前記リッドに一体成形されたものであってもよい。第1介在部材や第2介在部材がトレイやリッドに一体成形されている場合には両介在部材を個別に扱う必要がないため、包装時や包装解除時の操作性に優れている。一方、第1介在部材や第2介在部材がトレイやリッドとは別体に成形されている場合には既存のトレイとリッドを利用して本発明の効果を得ることができる。具体的には、(1)第1介在部材がトレイに一体成形され、第2介在部材がリッドに一体成形されていてもよいし、(2)第1介在部材がトレイに一体成形され、第2介在部材がリッドとは別体に成形されていてもよいし、(3)第1介在部材がトレイとは別体に成形され、第2介在部材がリッドに一体成形されていてもよいし、(4)第1介在部材がトレイとは別体に成形され、第2介在部材がリッドとは別体に成形されていてもよい。
【0019】
本発明の培養細胞シート包装体において、前記第1介在部材は、格子状の線部材であるか又は複数の突部材であり、前記第2介在部材は、格子状の線部材であるか又は複数の突部材であってもよい。線部材を採用したときには培養細胞シートとの接触が略線接触となり、突部材を採用したときには培養細胞シートとの接触が略点接触となるため、いずれにしても培養細胞シートに負担がかかりにくい。具体的には、(1)第1介在部材及び第2介在部材とも格子状の線部材であってもよいし、(2)第1介在部材及び第2介在部材とも複数の突部材であってもよいし、(3)第1介在部材が格子状の線部材で第2介在部材が複数の突部材であってもよいし、(4)第1介在部材が複数の突部材で第2介在部材が格子状の線部材であってもよい。
【0020】
ここで、前記第1介在部材は、前記トレイとは別体のネットであるか又は前記トレイに一体成形された複数の突部材であり、前記第2介在部材は、前記リッドとは別体のネットであるか又は前記リッドに一体成形された複数の突部材であってもよい。
【0021】
本発明の培養細胞シート包装体において、前記第1介在部材及び前記第2介在部材は、両部材によって前記培養細胞シートが損傷を受けることのない押圧力でもって前記培養細胞シートに接触していることが好ましい。こうすれば、培養細胞シート包装体に包装された培養細胞シートが両介在部材によってダメージを受けるのを確実に防止できる。例えば、密閉空間の高さから第1介在部材の高さと第2介在部材との高さの和を引いた値が培養細胞シート(支持体に支持されているときには支持体も含む)の厚みと略一致するか培養細胞シートの厚みよりも若干小さくなるようにしてもよい。
【0022】
本発明の培養細胞シート包装体は、用途として前記培養細胞シートの運搬時に使用されてもよい。培養細胞シートは専門施設で作製されたあと医療機関へ運搬される時に培養細胞シートを損傷しないようにする必要があるが、本発明の培養細胞シート包装体によれば医療現場で取り扱い易い剥離した状態の培養細胞シートを輸送する場合であってもその要望を満足することができる。
【0023】
本発明の細胞培養シート包装体は、前記トレイの略中央に設けられたトレイ窪み部と、前記リッドの略中央に設けられたリッド窪み部とを備え、前記トレイと前記リッドとによって囲まれた前記密閉空間は前記トレイ窪み部と前記リッド窪み部とに挟まれた空間であってもよい。こうすることで、リッド開封時に密閉空間に充填された液体培地がトレイから零れたり、溢れたりすることを防止することができる。また、培養細胞シート包装体では密閉空間内に空気が残留することは好ましくないため、包装時に密閉空間から空気を排除する作業が必要となるが、トレイおよびリッドが共に窪み部を有することによって、液体培地を密閉空間に充填する量よりも多くトレイに注入し、リッドで密封する際に若干の液体培地と共に空気を排除することによって、容易に密閉空間から空気を除外することができる。なお、各窪み部は、培養細胞シートより広い底面積(第1支持体を用いたときには第1支持体より広い面積、第2支持体を用いたときには第2支持体より広い面積)を有していることが好ましい。
【0024】
このようにトレイ窪み部及びリッド窪み部を備えた培養細胞シート包装体は、前記トレイのうち前記トレイ窪み部の外周に設けられたトレイ土手部と、前記トレイのうち前記トレイ土手部の外周に設けられたトレイ溝部と、前記リッドのうち前記リッド窪み部の外周に設けられたリッド土手部と、前記リッドのうち前記リッド土手部の外周に設けられたリッド溝部とを備え、前記トレイと前記リッドとによって前記密閉空間を形成したとき前記トレイ土手部と前記リッド土手部とが密着し前記トレイ溝部と前記リッド溝部とが密着するようにしてもよい。こうすれば、リッド開封時に密閉空間に充填された液体培地がトレイから零れたり、溢れたりすることを確実に防止することができる。また、一層容易に密閉空間から空気を排除することができる。
【0025】
このとき、前記トレイ溝部及び前記リッド溝部の少なくとも一方には孔が穿設されていてもよい。こうすれば、密封時において密閉空間から排除されてきた少量の液体培地と空気がトレイ土手部とリッド土手部との隙間を通過した後、トレイ溝部又はリッド溝部に設けた孔から外部へ排出されるため、より一層容易に密閉空間から空気を排除することができる。なお、トレイ土手部やリッド土手部にも同様の機能を有する孔を穿設してもよい。
【0026】
本発明の培養細胞シート包装体において、前記トレイ及び前記リッドはそれぞれトレイ鍔部及びリッド鍔部を有し、前記トレイ及び前記リッドとは異なる材質のシール材を両鍔部にまたがるように貼り付けることにより前記トレイ及び前記リッドを密封していてもよい。こうすれば、シール材を剥がすとき、シール材はトレイとリッドとは異なる材質であるため剥がしやすい。
【0027】
本発明のシート挟持部材は、トレイとリッドとによって囲まれた密閉空間に略完全に空気が排除された状態で充填された液体培地に培養細胞シートが浸漬された培養細胞シート包装体に使用されるシート挟持部材であって、前記培養細胞シートと前記トレイとの間にて前記培養細胞シートと部分的に接触し前記トレイとは別体に成形された第1挟持部材と、前記培養細胞シートと前記リッドとの間にて前記培養細胞シートと部分的に接触し前記リッドとは別体に成形された第2挟持部材と、前記第1挟持部材と第2挟持部材を実質的に一体的に係合する係合手段とを備えたことを特徴とする。こうすることで、培養シート包装体を開封した後、第1及び第2挟持部材によって確実に保持された培養細胞シートを容易に取り出すことができる。また、支持体で包み込まれていない培養細胞シートを第1及び第2挟持部材で挟持する場合には、その状態で培養細胞シートを容易に洗浄することができる。一方、係合手段は、第1挟持部材と第2挟持部材とを係合したあと容易に分離できる手段であることが好ましい。例えば、係合手段として凸部と凹部とをそれぞれの挟持部材に設け、培養細胞シートを挟持する際には凹部と凸部とを係合し、培養細胞シートを取り出す際には係合している凹部と凸部とを分離するようにしてもよい。また、係合手段により係合したときの第1挟持部材と第2挟持部材との隙間が、挟持する培養細胞シートの厚さあるいは培養細胞シートと支持体の厚さと同等又は僅かに大きくなるように設計することが好ましい。また、第1挟持部材の一辺と第2挟持部材の一辺とが共通な辺となるように両部材を連ねて形成し、この共通な辺を折り目にして折りたたんで培養細胞シート(あるいは培養細胞シートと支持体)を挟み込むようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】細胞シート内包キャリアの作製フローである。
【図2】培養細胞シート包装体の組立斜視図である。
【図3】培養細胞シート包装体の断面図(左半分)である。
【図4】培養細胞シート包装体の組立斜視図である。
【図5】培養細胞シート包装体の断面図(左半分)である。
【図6】ネットの嵌合部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
1.培養上皮細胞シートの作製
インフォームド・コンセントを行った患者から約1cm2の皮膚組織を採取した。採取した皮膚組織は上皮剥離用培地で処理を行うことにより、真皮層と上皮層とに分離し、この上皮層をトリプシン処理することで上皮細胞懸濁液を作製した。次いで、培養フラスコの底面にフィーダ細胞を敷設した後、上皮細胞懸濁液を播種した。フィーダ細胞としては、マイトマイシンCにより増殖能を抑制したマウス線維芽細胞を使用した。細胞播種後、5v/v%FBS(ウシ胎児血清)−DMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)を培養用培地として注入し、フィーダ細胞の存在下で上皮細胞を培養した。上皮細胞のコロニー形成が確認された後、継続的に培養することにより、コンフルエント状態を経て重層化(シート化)し、培養上皮細胞シートが形成された。また、培養上皮細胞シートが形成される頃には、フィーダ細胞のほとんどは培養系から排除されていた。
【0030】
2.細胞シート内包キャリアの作製
細胞シート内包キャリアの作製方法について、図1に基づいて説明する。培養上皮細胞シート10が培養されている培養フラスコ12に剥離用培地(400PU/mLディスパーゼ培地)を加え、CO2インキュベータ(37℃、10%CO2)で30分間インキュベートした。その後、培養フラスコ12がピール・オフ・フラスコの場合には上面のシール部材を剥離し、通常の培養フラスコの場合には上面部分をホットナイフで切断した。続いて、ピンセットを用いて培養上皮細胞シート10の周囲の一部が培養フラスコ12から剥離することを確かめた後、培地を抜き去り、PBS(リン酸緩衝液)で2回洗浄した。洗浄後、ピンセットを用いて培養上皮細胞シート10の周囲をこそげた後、PBSを少量残して抜き去った(図1(a)参照)。一方、培養上皮細胞シート10の全面積よりもやや小さな面積を持つ滅菌不織布を第1キャリア(第1支持体)14として用意し、この第1キャリア14を培養フラスコ12内の培養上皮細胞シート10の上に重ね合わせ(図1(b)参照)、培養上皮細胞シート10のうち第1キャリア14の周囲からはみ出た部分を第1キャリア14に折り返し、培養上皮細胞シート10と第1キャリア14とを一体化した(図1(c)参照)。培養フラスコ12内では培養上皮細胞シート10は移植適用面である基底層が下を向いているため、第1キャリア14は移植適用面とは反対側の面を被覆することになる。一方、図示しない滅菌トレイに少量の液体培地(輸送用培地)を入れ、第1キャリア14の約2.5倍の面積を持つ滅菌不織布を第2キャリア(第2支持体)16として用意し、この第2キャリア16を滅菌トレイ内に敷いた。そして、第1キャリア14と一体化した培養上皮細胞シート10を懸架し、移植適用面が上を向くように滅菌トレイ内の第2キャリア16の上に載せ、第2キャリア16で包み込み(図1(d)参照)、細胞シート内包キャリア18とした(図1(e)参照)。つまり、細胞シート内包キャリア18は、培養上皮細胞シート10を第1キャリア14及び第2キャリア16で包み込んだものである。なお、このときの第2キャリア16の開封部は上方に設けた。
【0031】
3.培養細胞シート包装体の作製−その1
図2は、培養細胞シート包装体の組立斜視図である。包装容器20は、トレイ21、リッド31及びシール41から構成されている。トレイ21は、材質がポリプロピレンであり、液体培地を貯留可能なトレイ窪み部22と、このトレイ窪み部22の周囲に設けられたトレイ土手部23と、このトレイ土手部23の外周に沿って設けられたトレイ溝部24と、このトレイ溝部24の外周に沿って設けられたトレイ鍔部25とを備えている。また、トレイ鍔部25の内周側には環状段差26が設けられ、トレイ鍔部25の四隅のうちの一角には三角形状段差27が設けられている。一方、リッド31は、材質がポリプロピレンであり、トレイ窪み部22の深さよりも浅いリッド窪み部32と、このリッド窪み部32の周囲に設けられたリッド土手部33と、このリッド土手部33の外周に沿って設けられたリッド溝部34と、このリッド溝部34の外周に沿って設けられたリッド鍔部35とを備えている。そして、トレイ窪み部22にリッド窪み部32を嵌め込み、トレイ土手部23とリッド土手部33とを一致させ、トレイ溝部24とリッド溝部34とを一致させ、トレイ鍔部25にリッド鍔部35を重ね合わせると、リッド鍔部35はトレイ鍔部25の環状段差26と一致した状態となり、これにシール41を被せてトレイ鍔部25とリッド鍔部35とシール41とを熱溶着すると、トレイ窪み部22とリッド窪み部32とによって囲まれた密閉空間Sが形成される。但し、シール41を剥がすときに三角形状段差27から剥がすことができるように、シール41と三角形状段差27とは熱溶着されない。なお、シール41の材質はトレイ21及びリッド31とは異なる材質が好ましい。こうすることで、開封時にシール41をトレイ21及びリッド31から容易に剥がすことができる。
【0032】
さて、トレイ21のトレイ窪み部22に輸送用培地(抗生物質含有DMEM)を入れ、前記2.で作製した細胞シート内包キャリア18を上下からネット45,46で緩く挟み込み、それを輸送用培地に浸漬した。ネット45,46としては、材質がポリプロピレンであり、太さ2mmの線部材が所定間隔(例えば1cm)で縦横に張り巡らされたものを用いた。この線部材は、培養細胞シートの大きさ等によって太さや所定間隔が決定されるが、培養上皮細胞シート10を確実に保持できる最小限の接触面積となるように太さや間隔を決定することが培養上皮細胞シート10へのダメージを抑制する上で好ましい。その後、トレイ窪み部22にリッド窪み部32を嵌め込み、密閉空間Sに空気が残留しないようにトレイ土手部23とリッド土手部33とを一致させ、トレイ溝部24とリッド溝部34とを一致させ、トレイ鍔部25にリッド鍔部35を重ね合わせると、リッド鍔部35はトレイ鍔部25の環状段差26と一致した状態となり、これにシール41を被せてトレイ鍔部25とリッド鍔部35とシール41とを熱溶着した。この結果、トレイ窪み部22とリッド窪み部32とによって囲まれた密閉空間Sは輸送用培地で満たされ、その輸送用培地内に細胞シート内包キャリア18がネット45,46によって保持された状態となり、培養細胞シート包装体50が完成した。この培養細胞シート包装体50の断面図(左半分)を図3に示す。なお、以上の操作は無菌室内で行った。また、包装容器20およびネット45,46は予め滅菌処理をしたものを用いた。
【0033】
この培養細胞シート包装体50では、細胞シート内包キャリア18とトレイ窪み部22の底面との間に介在しているネット45が細胞シート内包キャリア18に略線接触すると共にトレイ窪み部22の底面表側にも略線接触し、また、細胞シート内包キャリア18とリッド窪み部32の底面との間に介在しているネット46が細胞シート内包キャリア18に略線接触すると共にリッド窪み部32の底面裏側にも略線接触することにより、輸送用培地内に細胞シート内包キャリア18を保持している。また、トレイ窪み部22の底面表側からリッド窪み部32の底面裏側までの距離(つまり密閉空間Sの高さ)からネット45の厚みとネット46の厚みとを差し引いた値が、細胞シート内包キャリア18の厚みと略一致するか細胞シート内包キャリア18の厚みよりも若干小さくなるように設計されている。このため、ネット45,46が細胞シート内包キャリア18を押圧する力は僅かである。
【0034】
以上詳述した培養細胞シート包装体50によれば、密閉空間Sに充填された液体培地は空気を略完全に排除されているため、液体培地に浸漬された培養細胞シートは空気によって劣化するおそれがない。また、運搬時に培養細胞シート包装体50が揺れたとしても、液体培地が波立ったり液体培地中を気泡が移動したりすることがないため培養上皮細胞シートがズレたり欠損したりするおそれがないし、細胞シート内包キャリア18は容易に移動したり解けたりすることはなく、細胞シート内包キャリア18に内包されている培養上皮細胞シート10がトレイ21やリッド31と衝突して損傷するというおそれもない。また、細胞シート内包キャリア18とネット45,46とは全面的に接触しているのではなく略線接触しているに過ぎず、しかもネット45,46が細胞シート内包キャリア18を押圧する力は僅かなため、細胞シート内包キャリア18に内包されている培養上皮細胞シート10がネット45,46によってダメージを受けることもほとんどない。したがって、培養上皮細胞シート10(特に培養上皮細胞シート10の生着・治癒に重要な基底層)を損傷なく運搬することができる。
【0035】
また、使用時においては、トレイ21およびリッド31の各窪み部22、32で密閉空間Sを構成したことによって、リッド31の開封の際に密閉空間Sに充填された液体培地の零れを防止できる。さらに、細胞シート内包キャリア18を構成する第2キャリア16の開封部をリッド側としたことで、リッド31を開け、ネット46を取除いた後、第2キャリア16を開封することで第1キャリア14に懸架された培養上皮細胞シート10が曝露し、容易に取り出すことができる。
【0036】
また、ネット45,46はトレイ21やリッド31とは別体に成形されているため、既存のトレイ21やリッド31を利用して本実施例の効果を得ることができる。更に、密閉空間Sの高さからネット45,46の厚みの和を引いた値が細胞シート内包キャリア18の厚みと略一致するか細胞シート内包キャリア18の厚みよりも若干小さくなるようにすることにより、ネット45,46は培養上皮細胞シート10が損傷を受けることのない押圧力でもって細胞シート内包キャリア18に小さな接触面積で接触していることになり、細胞シート内包キャリア18を確実に保持するとともに、培養細胞シート包装体50に包装された培養上皮細胞シート10がネット45,46によってダメージを受けるのを確実に防止できる。
【0037】
更にまた、培養上皮細胞シート10は創傷被覆材で形成した第1キャリア14によって補強されているため、培養上皮細胞シート10が十分な強度を有していなくても取り扱い時に破損するのを有効に防止できるうえ広げた状態で支持できるので取り扱いが容易になり、しかも、第1キャリア14に支持された培養上皮細胞シート10を第2キャリア16で包み込むため確実に培養上皮細胞シート10を保護でき、特に細胞増殖能を有する培養上皮細胞シート10の基底層を確実に保護できる。そしてまた、第1キャリア14は創傷被覆材で形成されているため、培養上皮細胞シート10を使用する際に第1キャリア14の支持を解く作業を容易に行うことができる。
【0038】
なお、図2及び図3では、細胞シート内包キャリア18を挟み込むネット45とネット46とは格子が一致するように配置したが、格子が一致しないようにずらして配置してもよい。また、トレイ21やリッド31とは別体のネット45,46を用いる代わりに、トレイ窪み部22の底面表側にネット45と類似の格子状の線部材を一体成形により設けたり、リッド窪み部32の底面裏側にネット46と類似の格子状の線部材を一体成形により設けたりしてもよい。
【0039】
4.培養細胞シート包装体の作製−その2
図4は、培養細胞シート包装体の組立斜視図である。包装容器60は、トレイ61、リッド71及び環状シール81から構成されている。トレイ61は、材質がポリプロピレンであり、液体培地を貯留可能なトレイ窪み部62と、このトレイ窪み部62の周囲に設けられたトレイ土手部63と、このトレイ土手部63の外周に沿って設けられたトレイ溝部64と、このトレイ溝部64の外周に沿って設けられたトレイ鍔部65と、トレイ窪み部62の底面表側にて所定間隔(例えば1cm)おきに縦横に立設された複数の三角錐状の突起68とを備えている。この突起68は、培養上皮胞シート10の大きさ等によって個数、所定間隔や突起形状が決定されるが、培養上皮細胞シート10を確実に保持できる最小限の接触面積となるように個数、間隔、突起形状を決定することが培養上皮細胞シート10へのダメージを抑制する上で好ましい。また、頂点は尖っていてもよいが丸味をおびている方が好ましい。また、トレイ鍔部65の内周側には環状段差66が設けられ、トレイ鍔部65の四隅のうちの一角には三角形状段差67が設けられている。一方、リッド71は、材質がポリプロピレンであり、トレイ窪み部62の深さよりも浅いリッド窪み部72と、このリッド窪み部72の周囲に設けられたリッド土手部73と、このリッド土手部73の外周に沿って設けられたリッド溝部74と、このリッド溝部74の外周に沿って設けられたリッド鍔部75と、リッド窪み部72の底面裏側にて所定間隔(例えば1cm)おきに縦横に立設された複数の三角錐状の突起78とを備えている。そして、トレイ窪み部62にリッド窪み部72を嵌め込み、トレイ土手部63とリッド土手部73とを一致させ、トレイ溝部64とリッド溝部74とを一致させ、トレイ鍔部65にリッド鍔部75を重ね合わせると、リッド鍔部75はトレイ鍔部65の環状段差66と一致した状態となり、これに環状シール81を被せてトレイ鍔部65とリッド鍔部75と環状シール81とを熱溶着すると、トレイ窪み部62とリッド窪み部72とによって囲まれた密閉空間Sが形成される。但し、環状シール81を剥がすときに三角形状段差67から剥がすことができるように、環状シール81と三角形状段差67とは熱溶着されない。
【0040】
さて、トレイ61のトレイ窪み部62に輸送用培地(抗生物質含有DMEM)を入れ、前記2.で作製した細胞シート内包キャリア18をトレイ窪み部62の底面表側に立設された複数の突起68の上に載置した。その後、トレイ窪み部62にリッド窪み部72を嵌め込み、密閉空間Sに空気が残留しないようにトレイ土手部63とリッド土手部73とを一致させ、トレイ溝部64とリッド溝部74とを一致させ、トレイ鍔部65にリッド鍔部75を重ね合わせると、リッド鍔部75はトレイ鍔部65の環状段差66と一致した状態となり、これに環状シール81を被せてトレイ鍔部65とリッド鍔部75と環状シール81とを熱溶着した。この結果、トレイ窪み部62とリッド窪み部72とによって囲まれた密閉空間Sは輸送用培地で満たされ、その輸送用培地内に細胞シート内包キャリア18が突起68,78によって保持された状態となり、培養細胞シート包装体90が完成した。この培養細胞シート包装体90の断面図(左半分)を図5に示す。なお、以上の操作は無菌室内で行った。また、包装容器60は予め滅菌処理をしたものを用いた。
【0041】
この培養細胞シート包装体90では、トレイ窪み部62の底面表側に一体成形された突起68が細胞シート内包キャリア18に略点接触し、また、リッド窪み部72の底面裏側に一体成形された突起78が細胞シート内包キャリア18に略点接触することにより、輸送用培地内に細胞シート内包キャリア18を保持している。また、突起68の先端から突起78の先端までの距離が、細胞シート内包キャリア18の厚みと略一致するか細胞シート内包キャリア18の厚みよりも若干小さくなるように設計されている。このため、突起68,78が細胞シート内包キャリア18を押圧する力は僅かである。
【0042】
以上詳述した培養細胞シート包装体90によれば、密閉空間Sに充填された液体培地は空気を略完全に排除されているため、液体培地に浸漬された培養細胞シートは空気によって劣化するおそれがない。また、運搬時に培養細胞シート包装体90が揺れたとしても、液体培地が波立ったり液体培地中を気泡が移動したりすることがないため培養上皮細胞シートがズレたり欠損したりするおそれがないし、細胞シート内包キャリア18は容易に移動したり解けたりすることはなく、細胞シート内包キャリア18に内包されている培養上皮細胞シート10がトレイ61やリッド71と衝突して損傷するというおそれがない。また、細胞シート内包キャリア18と突起68,78とは全面的に接触しているのではなく略点接触しているに過ぎず、しかも突起68,78が細胞シート内包キャリア18を押圧する力は僅かなため、細胞シート内包キャリア18に内包されている培養上皮細胞シート10が突起68,78によってダメージを受けることもほとんどない。したがって、培養上皮細胞シート10(特に培養上皮細胞シート10の生着・治癒に重要な基底層)を損傷なく運搬することができる。
【0043】
また、図5に示すように突起68が細胞シート内包キャリア18に接触する位置と突起78が細胞シート内包キャリア18に接触する位置とは互いに対向せずずれているため、成形誤差や輸送時における歪みが生じたとしても細胞シート内包キャリア18に過大な圧力がかかるおそれがない。更に、突起68,78はトレイ61やリッド71と一体成形されているため、別体の場合に比べて包装時や包装解除時の操作性に優れている。更にまた、密閉空間Sの高さから突起68,78の高さの和を引いた値が細胞シート内包キャリア18の厚みと略一致するか細胞シート内包キャリア18の厚みよりも若干小さくなるようにすることにより、細胞シート内包キャリア18を確実に保持するとともに、突起68,78は培養上皮細胞シート10が損傷を受けることのない押圧力でもって細胞シート内包キャリア18に小さな接触面積で接触していることになり、培養細胞シート包装体90に包装された培養上皮細胞シート10が突起68,78によってダメージを受けるのを確実に防止できる。第1キャリア14及び第2キャリア16による効果は前記3.の培養細胞シート包装体50と同様である。
【0044】
さらに、環状シール81によってトレイ鍔部65とリッド鍔部75を熱溶着しているので、培養細胞シート包装体90を安定して積み重ねることができ、複数の培養細胞シートを容易に輸送することができる。この場合、リッド土手部33を橋架けする大きさの板材をリッド土手部33上に敷設した後、別の培養細胞シート包装体90を載せるようにすれば、培養細胞シート10が保持される密閉空間Sに圧力が加わることなく、複数の培養細胞シート包装体90を安定して積み重ねることができるので好ましい。なお、このような板材を予めトレイ窪み部22の下部に付着させ、一体化させていてもよい。また、密閉空間Sを構成する壁面を斜めにすることによって、同様の効果を得ることもできる。
【0045】
さらにまた、環状シール81を採用したため、リッド71を透明部材で形成すれば、培養細胞シート包装体90を開封することなく密閉空間S内の状態を観察することができ、輸送によるキャリアの解けや培養細胞シートの破損等の不具合を予め確認できる。もちろん、シール41とリッド31を共に透明部材とした際も同様の効果が得られる。
【0046】
なお、トレイ61やリッド71と一体成形された突起68,78を用いる代わりに、トレイ61やリッド71とは別体の平面板に同様の突起を設けて、前記3.のネット45,46と同様にしてこれらの平面板で細胞シート内包キャリア18を挟み込んでもよい。
【0047】
本発明は、上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることはいうまでもない。例えば、前記3.又は4.では、第1キャリア14及び第2キャリア16を用いて培養上皮細胞シート10を支持したが、第2キャリア16を用いず第1キャリア14だけ用いてもよいし、第1キャリア14を用いず第2キャリア16だけ用いてもよいし、両キャリア14,16を用いずに培養上皮細胞シート10を直接ネット45,46(又は突起68,78)で挟み込んでもよい。また、前記3.においてトレイ21はトレイ土手部23やトレイ溝部24を有さずトレイ窪み部22の外周に直接トレイ鍔部25が形成されていてもよく、リッド31もリッド土手部33やリッド溝部34を有さずリッド窪み部32の外周に直接リッド鍔部35が形成されていてもよい(前記4.についても同様)。さらに、前述の特許文献1にあるように、トレイ窪み部22の外周に直接トレイ鍔部25が形成されていて、リッドとしてシール41が直接熱溶着されていてもよい。
【0048】
また、リッド溝部34,74に複数個の孔を設けておいてもよい。こうすることで、密封時において密閉空間Sから排除されてきた少量の液体培地と空気がトレイ土手部23,63とリッド土手部33,73の隙間を通過した後、孔からリッド溝部34,74の上方に排出され、リッド鍔部35,75とトレイ鍔部25,65の内周側の環状段差26,66を汚染することがない。したがって、容易かつ確実にシール41,81を熱溶着することができ、密閉空間Sから空気を略完全に排除して液体培地を充填する作業を容易に行うことができる。
【0049】
更に、上述した実施例では、トレイ鍔部25とリッド鍔部35とシール41とを熱溶着したり、トレイ鍔部65とリッド鍔部75と環状シール81とを熱溶着したりしたが、熱溶着の代わりに接着剤等で接着してもよい。
【0050】
更にまた、ネット45,46の4隅に図6に示すような凹部と凸部(係合手段)を設けて両者を嵌合してもよく、この場合には、細胞シート内包キャリア18はネット45,46間で確実に保持されるので、ネット45,46とトレイ21又はリッド31との間に若干の隙間が生じたとしても、キャリア16の解け等を抑制することができる。このようにネット45,46の4隅に凹部と凸部を設けた場合には、第2キャリア16(又は第1及び第2キャリア14,16の両方)を用いずに培養上皮細胞シート10をネット45,46で挟み込み凹部と凸部とを係合することにより、トレイ21からネット45,46と共に培養上皮細胞シート10を取り出したあとも培養上皮細胞シート10を確実にネット45,46間で保持することができ、ネット45,46間に保持したままの状態で培養上皮細胞シート10を洗浄することができる。
【符号の説明】
【0051】
10 培養上皮細胞シート、12 培養フラスコ、14 第1キャリア、16 第2キャリア、18 細胞シート内包キャリア、20 包装容器、21 トレイ、22 トレイ窪み部、23 トレイ土手部、24 トレイ溝部、25 トレイ鍔部、26 環状段差、27 三角形状段差、31 リッド、32 リッド窪み部、33 リッド鍔部、33 リッド土手部、34 リッド溝部、35 リッド鍔部、41 シール、45,46 ネット、50 培養細胞シート包装体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気密且つ液密な材質で構成されたトレイと、
気密且つ液密な材質で構成されたリッドと、
前記トレイと前記リッドとによって囲まれた密閉空間に空気を略完全に排除した状態で充填された液体培地と、
前記密閉空間内で前記液体培地に浸漬された培養細胞シートと
を備えた培養細胞シート包装体。
【請求項2】
請求項1に記載の培養細胞シート包装体であって、
前記培養細胞シートと前記トレイとの間にて前記トレイと接触すると共に前記培養細胞シートと部分的に接触する第1介在部材と、
前記培養細胞シートと前記リッドとの間にて前記リッドと接触すると共に前記培養細胞シートと部分的に接触する第2介在部材と
を備えた培養細胞シート包装体。
【請求項3】
前記培養細胞シートは、平面状の支持体に支持された状態で前記第1介在部材及び前記第2介在部材に接触している
請求項2に記載の培養細胞シート包装体。
【請求項4】
前記支持体はシート状の創傷被覆材で形成されている
請求項3に記載の培養細胞シート包装体。
【請求項5】
前記支持体は第1支持シートと第2支持シートとからなり、前記第1支持シートはその片面が前記培養細胞シートと重ね合わされて一体となり、前記第2支持シートは前記第1支持シートと一体化された前記培養細胞シートを包み込んだ状態で支持している
請求項3又は4に記載の培養細胞シート包装体。
【請求項6】
前記第1介在部材が前記培養細胞シートに接触する位置と前記第2介在部材が前記培養細胞シートに接触する位置とは互いに対向せずずれている
請求項2〜5のいずれかに記載の培養細胞シート包装体。
【請求項7】
前記第1介在部材は、前記トレイとは別体に成形されたものであるか又は前記トレイに一体成形されたものであり、
前記第2介在部材は、前記リッドとは別体に成形されたものであるか又は前記リッドに一体成形されたものである
請求項2〜6のいずれかに記載の培養細胞シート包装体。
【請求項8】
前記第1介在部材は、格子状の線部材であるか又は複数の突部材であり、
前記第2介在部材は、格子状の線部材であるか又は複数の突部材である
請求項2〜7のいずれかに記載の培養細胞シート包装体。
【請求項9】
前記第1介在部材は、前記トレイとは別体のネットであるか又は前記トレイに一体成形された複数の突部材であり、
前記第2介在部材は、前記リッドとは別体のネットであるか又は前記リッドに一体成形された複数の突部材である
請求項8に記載の培養細胞シート包装体。
【請求項10】
前記第1介在部材及び前記第2介在部材は、両部材によって前記培養細胞シートが損傷を受けることのない押圧力でもって前記培養細胞シートに接触している
請求項2〜9のいずれかに記載の培養細胞シート包装体。
【請求項11】
前記培養細胞シートの運搬時に使用される
請求項1〜10のいずれかに記載の培養細胞シート包装体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の培養細胞シート包装体であって、
前記トレイの略中央に設けられたトレイ窪み部と、
前記リッドの略中央に設けられたリッド窪み部と
を備え、
前記トレイと前記リッドとによって囲まれた前記密閉空間は前記トレイ窪み部と前記リッド窪み部とに挟まれた空間である
培養細胞シート包装体。
【請求項13】
請求項12に記載の培養細胞シート包装体であって、
前記トレイのうち前記トレイ窪み部の外周に設けられたトレイ土手部と、
前記トレイのうち前記トレイ土手部の外周に設けられたトレイ溝部と、
前記リッドのうち前記リッド窪み部の外周に設けられたリッド土手部と、
前記リッドのうち前記リッド土手部の外周に設けられたリッド溝部と
を備え、
前記トレイと前記リッドとによって前記密閉空間を形成したとき前記トレイ土手部と前記リッド土手部とが密着し前記トレイ溝部と前記リッド溝部とが密着する
培養細胞シート包装体。
【請求項14】
前記トレイ溝部及び前記リッド溝部の少なくとも一方には孔が穿設されている
請求項13に記載の培養細胞シート包装体。
【請求項15】
前記トレイ及び前記リッドはそれぞれトレイ鍔部及びリッド鍔部を有し、前記トレイ及び前記リッドとは異なる材質のシール材を両鍔部にまたがるように貼り付けることにより前記トレイ及び前記リッドを密封している
請求項1〜14のいずれかに記載の培養細胞シート包装体。
【請求項16】
トレイとリッドとによって囲まれた密閉空間に略完全に空気が排除された状態で充填された液体培地に培養細胞シートが浸漬された培養細胞シート包装体に使用されるシート挟持部材であって、
前記培養細胞シートと前記トレイとの間にて前記培養細胞シートと部分的に接触し前記トレイとは別体に成形された第1挟持部材と、
前記培養細胞シートと前記リッドとの間にて前記培養細胞シートと部分的に接触し前記リッドとは別体に成形された第2挟持部材と、
前記第1挟持部材と第2挟持部材を実質的に一体的に係合する係合手段と
を備えたシート挟持部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−89715(P2009−89715A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3118(P2009−3118)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【分割の表示】特願2002−356402(P2002−356402)の分割
【原出願日】平成14年12月9日(2002.12.9)
【出願人】(399051858)株式会社 ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング (21)
【Fターム(参考)】