説明

培養装置及び培養方法

【課題】培養中の細胞の状態を把握し、細胞の状態に合った添加培地を添加して目的生産物を優れた収率で生産する。
【解決手段】培養対象の細胞を培養する培養槽と、上記培養槽で培養している培養細胞又は培養液に含まれる成分を測定する測定手段と、上記測定手段により測定した測定値により判定する培養細胞の状態に基づいて、組成比の異なる2種類以上の添加培地のなかから上記培養槽に添加する添加培地を選択する制御手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、医薬品等の主原料となる物質を生産する細胞を培養する際に適用される培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体医薬をはじめとする医薬品のなかには、細胞が産生する物質を主成分として含有しているものがある。このような物質は、例えば動物細胞により分泌生産されるため、動物細胞を培養し、培養液中に分泌された目的物質を分離精製することで得ることができる。細胞を培養する工程では、細胞は分裂を繰り返すことにより増殖するが、培養環境が悪化すると細胞死を起こす細胞が増大し、環境の悪化が持続すると最終的にはすべての細胞が死滅する。培養環境の悪化の要因には、攪拌による力学的な破砕、栄養素の枯渇、細胞によって分泌されるアンモニア、乳酸の蓄積等が挙げられる。
【0003】
細胞の培養方法には、回分培養、連続培養(灌流培養)、流加培養(半回分培養)に分類される。回分培養は、一回毎に新たな培地を用意し、そこへ株を植えて収穫まで培地を加えない方法である。個々の培養の品質はバラつくが、コンタミネーションのリスクを分散・低減できる。連続培養は、一定の速度で培養系に培地を供給し、同時に同量の培養液を抜き取る培養法である。培養環境を常に一定に保ちやすく、生産性が安定するという特徴がある。その反面、一度コンタミネーションが起きると汚染も持続するのが欠点である。流加培養は、培養中に、培地自体や培地中の特定の成分を添加し、培養終了時までその生成物を抜き取らない培養方法である。流加培養は、細胞密度を調節することによって増殖性を最適化し、培養中に蓄積した有害物質を希釈して生産性を維持するなどの目的で行われる。
【0004】
流加培養や連続培養では、添加培地の流加方法を工夫することにより、栄養源の枯渇がなく、また、エネルギー源の一つである炭素源(グルコース)の利用と主として乳酸代謝からTCAサイクルによる完全酸化によりシフトさせ、エネルギー源を効率的に利用させることにより、有害代謝産物の蓄積を防いで高密度を達成させる流加方策が開発され、高細胞濃度が達成可能となっている。例えば、特許文献1には、所定時間経過後における培養液中のグルコース及びグルタミンの消費量を推定し、これに基づいてグルタミン濃度を所定の範囲に維持する細胞培養法が開示されている。また、特許文献2には、炭素源及びアミノ酸を含有する添加培地を細胞増殖の減衰期まで継続して添加する細胞培養方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2007-244341号公報
【特許文献2】特表昭62-503146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したような如何なる培養方法においても、栄養枯渇によるアポトーシス等の細胞死や、過剰栄養濃度における非効率な代謝によるアンモニア、乳酸の蓄積を増大が生じ、生産効率を下げるといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、培養中の細胞の状態を把握すること、細胞の状態に合った添加培地を添加して目的生産物を優れた収率で生産することができる培養装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成した本発明に係る培養装置は、培養対象の細胞を培養する培養槽と、上記培養槽で培養している培養細胞又は培養液に含まれる成分を測定する測定手段と、上記測定手段により測定した測定値により判定する培養細胞の状態に基づいて、組成比の異なる2種類以上の添加培地のなかから上記培養槽に添加する添加培地を選択する制御手段とを備えている。
【0009】
本発明に係る培養装置によれば、培養している細胞の状態に合わせて添加培地を選択して添加することができる。すなわち、本発明に係る培養装置においては、上記制御手段により培養細胞の状態毎に添加培地を2種以上設計することで栄養バランスの崩れを抑制することを可能にしている。
【0010】
本発明に係る培養装置において、上記制御手段は、上記測定手段で測定した培養液に含まれる成分から培養細胞の代謝変化を上記培養細胞の状態として分析することができる。また上記制御手段は、細胞内代謝流束解析を利用して培養細胞の代謝変化を分析することが好ましい。上記細胞内代謝流束解析としてはElementary Metabolite Unit(EMU)を用いた解析方法を適用することが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る培養装置において、上記制御手段は生細胞数から培養細胞の比増殖速度を上記培養細胞の状態として分析することできる。例えば、上記測定手段は培養液中のグルコース濃度及び乳酸濃度を測定し、上記制御手段はグルコース及び乳酸の濃度変化を指標として生細胞数を推定することが好ましい。
【0012】
さらに、本発明に係る培養装置において、上記制御手段は、上記測定手段で測定した培養液に含まれる成分から培養細胞のアポトーシスを上記培養細胞の状態として分析するこができる。上記制御手段は、アポトーシス分析の結果、死滅細胞の割合が10%以上である場合に培養液中の栄養濃度を高めるように添加培地を選択することが好ましい。上記培養液に含まれる成分としては、例えば、カスパーゼ分解物及び/又はカスパーゼを測定し、培養細胞のアポトーシスを上記培養細胞の状態として分析することができる。上記測定手段は、上記カスパーゼ分解物を免疫酵素反応法により検出することが好ましい。
【0013】
さらにまた、本発明に係る培養装置において、上記2種類以上の添加培地としては、炭素源及び窒素源の組成比が互いに異なる添加培地を挙げることができる。ここで、炭素源の一例としてはグルコースを挙げることができ、窒素源の一例としてはグルタミン酸を挙げることができる。上記2種類以上の添加培地の組成は、代謝流束分布によって設計することができる。また、上記2種類以上の添加培地の組成は、細胞内代謝流束解析を基に設計することができる。
【0014】
さらにまた、本発明に係る培養装置において、上記測定手段が測定する成分としては、例えば、グルコース、グルタミン酸、乳酸及びアンモニアから選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。ここで、上記測定手段は、オンラインでモニタリングすることが好ましい。また、モニタリングは、細胞を取り除いた培養液を成分分析の対象とすることが好ましい。より具体的には、培養液に含まれる細胞を分離するにはフィルタを使用することが好ましい。フィルタとしては、回転フィルタを使用することが好ましい。特にフィルタとしては逆洗できるフィルタであることが好ましい。
【0015】
さらにまた、上記測定手段は、マイクロ反応場であってもよい。すなわち、マイクロ反応場によって、例えば、培地中のグルコースや乳酸成分を定量的に測定することができ、また、上記カスパーゼ分解物及び/又はカスパーゼを定量的に測定することができる。マイクロ反応場としては、カスパーゼ分解物及び/又はカスパーゼを特異的に結合する一次抗体(抗サイトケラチン18抗体;M5抗体)をマイクロ流路内に固定したものを使用することができる。このように構成されたマイクロ反応場によれば、M30抗体を結合させたビオチンと、ホースラディッシュペルオキシダーゼを結合させたストレプトアビジンと、当該ホースラディッシュペルオキシダーゼの発色基質であるTMB(3,3', 5,5'-tetramethyl-benzidene)とを用いて、アポトーシスに起因して生ずるカスパーゼ分解物を定量的に測定することができる。このとき、ホースラディッシュペルオキシダーゼとTMBとの反応後、酸性溶液を混合し、その後、吸光度を測定する。すなわち、マイクロ反応場には、酸性溶液を混合するための酸性溶液流路が、上記一次抗体を固定したマイクロ流路に接続するように形成されている。酸性溶液と反応基質との混合については、反応基質と酸性溶液の混合をT<τを満たすように硫酸を送液する(τ:停止溶液拡散によりpHが下がるまでの時間)ことが好ましい。また、反応用のマイクロ流路と酸性溶液流路との間にマイクロ弁を設けることが好ましい。また、反応用のマイクロ流路と酸性溶液流路との間に気体を供給するための流路を設けることが好ましい。また、反応用のマイクロ流路と酸性溶液流路との間に高低差を設けることが好ましい。以上のように構成することによって、反応用のマイクロ流路に酸性溶液が流れ込む(拡散による流入も含む)ことを防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る培養装置によれば、細胞の状態に最適な環境を維持することで、品質の高い目的生産物を優れた収率で生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る培養装置を、図面を参照して詳細に説明する。本発明に係る培養装置は、医薬品等の主原料となる物質を生産する細胞の培養に適用することができる。本発明において、生産対象の物質としては、例えば抗体や酵素等のタンパク質、低分子化合物及び高分子化合物等の生理活性物質を挙げることができる。また、培養対象の細胞としては、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、細菌、酵母、真菌及び藻類等を挙げることができる。特に、抗体や酵素等のタンパク質を生産する動物細胞を培養対象とすることが好ましい。
【0018】
本発明に係る培養装置は、図1に示すように、培養槽1、複数の添加培地槽2、無菌サンプリング装置3、分析装置4、解析装置5及び制御装置6より構成される。本発明に係る培養装置においては、培養槽1より好ましくは無菌的に培養液をサンプリングし、培養液成分等を測定する。測定結果よりその時点での細胞の状態を解析する。本発明に係る培養装置において制御装置6は、細胞の状態に基づき最適な添加培地を選択し、添加量を決定し、バルブ7及びポンプ8等を作動させることで、複数の添加培地槽2から添加する添加培地の選択を制御する。添加培地を細胞の状態に併せて選択することで、細胞の産生する目的物質等の生産性を大幅に向上させることができる。
【0019】
ここで、複数の添加培地槽2に充填される複数の添加培地としては、通常の流加培養に使用される添加培地のうち炭素源及び/又は窒素源の組成が互いに異なるように設計されたものを挙げることができる。炭素源としては、グルコース、シュークロース等を挙げることができ、窒素源としてはグルタミン酸等のアミノ酸を挙げることができる。一例として、炭素源濃度が一定であり窒素源濃度が段階的に異なるように設計された複数の添加培地を挙げることができる。あるいは、窒素源濃度が一定であり炭素源濃度が段階的に異なるように設計された複数の添加培地を挙げることができる。若しくは、炭素源及び窒素源濃度がそれぞれ段階的に異なるように設計された複数の添加培地を挙げることができる。
【0020】
実際、IFN-gammaを産生するCHO細胞においてグルタミンの濃度とグルコース濃度を独立に制御することで一定に維持して培養すると産生抗体量が増加する報告がある(Chee Furng Wong D, et al., Biotechnol Bioeng. 2005, Jan. 20; 89(2): 164-177.)。さらに、培養液中のグルタミン濃度もしくはグルタミン濃度とグルコース濃度の比が変わると抗体の活性に影響を与える糖鎖付加のパターンが変わることが知られている。具体的に、上記文献によれば、IFN-gammaを産生するCHO細胞においてグルタミン濃度をそれぞれ0.1mM、0.3mM、0.5mMに維持して培養した場合、及びグルタミン濃度を0.3mMに維持し、グルコースの濃度をそれぞれ0.35mM、0.7mMに維持して培養した場合で糖鎖付加のパターンが変わると報告されている。したがって、培養液中の栄養バランスが崩れることによって、生産される抗体がロットごと不均一な品質となることがある。この問題を解決するためには、グルタミン及びグルコースの濃度をそれぞれ±0.1mM及び±0.18mMの範囲内で制御することが好ましい。なお、上記文献によれば、ハイブリドーマ細胞を従来法で流加培養を行うと、図2に示すように、経時的にグルコース、グルタミンの消費速度の比が大きく変わり、培養の全過程において上記に示した範囲で制御できないことがわかる。
【0021】
最適に制御を行うためには、(I)培養状態の把握するための解析、(II)添加培地成分の最適化設計、(III)アポトーシス抑制制御、(IV)成分分析方法、(V)無菌サンプリングの決定それぞれにおいて適切な方法をとる必要がある。本発明では、(I)から(V)のそれぞれにおいて最適と考えられる方法をとることで最良の形態をとるが、これらの方法の組み合わせに限定されるものではなく、これらの方法の少なくとも1つ適用しても効果を上げることができる。以下、それぞれの項目において最適な方法を挙げる。
【0022】
(I)培養状態の把握するための解析
培養状態を分類する方法を特に限定するわけではないが、細胞内の代謝を解析する代謝流束解析を用いることが望ましい。従来の細胞内代謝流束解析の手法は細胞内の代謝状況がアミノ酸の標識情報に反映されるまで細胞の状態を一定に保持する必要があるため、細胞内代謝流束分布の経時変化を評価できなかった。そこで、以下の2つの方法のいずれかで実験により測定すれば細胞内代謝流束分布の経時変化を測定することができる。
【0023】
(1)タンパク質を構成するアミノ酸に比べてプールサイズが小さく、代謝の変化が標識パターンに迅速に反映される中間代謝物に着目し、それぞれの標識情報から代謝流束分布を推定することで、細胞内流束の経時変化を測定する。細胞内中間代謝物の標識情報を直接測定する手法として、CE-TOFMS(キャピラリー電気泳動時間飛行型質量分析)を利用できる。CE-TOFMSは、煩雑な前処理を必要とせず、微量のサンプルから多数のイオン性の低分子化合物を一斉に測定し、代謝流束分布を推定することができる。
【0024】
(2)同位体標識をしたグルコースを培養に取り込ませ、NMR、HPLC、GC/MSを用いグルコース、グリセロール、アセテート、シトレート、ピルビン酸等の分析を行う。分析データをElementary Metabolite Unit (EMU)システムを用いて非定常での細胞内代謝流束分布を解析する(Antoniewicz MR, et al., Metab. Eng. 2007, Jan.;9(1): 68-86)。
【0025】
代謝流束解析を用いて培養細胞の栄養濃度の経時変化を解析し、その結果を培養状態の分類に適用した一例を示す。図3はグルコース、グルタミンの消費速度と比増殖速度との関係を示す。この場合、図中に示すように3つの状態に分類することができ、培養中の増殖速度を測定することで培養状態を分類し、それぞれに適した培地を添加する。本発明では、比増殖速度を指標として培養の状態を分類できることを示したが、他の指標を用いて分類しても構わない。
【0026】
(II)添加培地成分の最適化設計
培養の状態に適した添加培地の設計では、上記(I)培養状態の把握するための解析で利用した非定常での代謝流束解析に従って設計することが効果的であり、望ましい。
【0027】
(I)で記載した方法で非定常での代謝流束分布を求めると、各培養細胞の状態でのアミノ酸等の代謝速度を求めることができる。この代謝速度は細胞が生命を維持し増殖するのに必要最小限の消費量であり、それ以上の栄養の量は不要な分泌物の増加を招く。この代謝速度を細胞が消費すべき消費量とすることで細胞の増殖に最適な栄養環境となる。従来法でも代謝流束分布(全培養過程を平均した値)から添加培地組成比を求めており(Xie L and Wang DI 1994, Cytotechnology 15(1-3): 17-29)、本最適化設計では、各培養状態(各培養時刻)の代謝流束分布に対して同様の手法をとることで各培養状態での各アミノ酸等の代謝速度が求まり、添加培地成分を各栄養代謝速度の比とすることで、各培養細胞の状態に適した添加培地が設計できる。
【0028】
非定常での代謝流束解析による代謝流束分布の経時変化の解析は、大腸菌において誤差10%の精度であると報告されている(Antoniewicz MR et al., Metab Eng 2007 May; 9(3) 277-292.)。よって、本培地設計においても10%の誤差で設計できる。通常流加培養制御においてグルタミン、グルコース濃度を0.3mM、0.4mMに維持して培養することが多く、誤差の範囲はそれぞれ0.03mM、0.04mMとなる。それゆえ、課題となっているグルタミン、グルコース濃度をそれぞれ±0.1mM、±0.18mMで制御することは可能となる。
【0029】
添加培地に関しては、上記の添加培地に限定されることはなく、例えば、アンモニア、乳酸分泌を抑制するために有効なグルコース、乳酸を独立に設計して、培養の状態にあわせて独立して添加する制御を行ってもよい。
【0030】
(III)アポトーシス抑制制御
図4に示すようにアンモニアの蓄積を抑えるため、アミノ酸等の栄養濃度を低く維持しながら培養を行う。ところが、細胞による栄養消費により一部の栄養成分の濃度が不十分になるとアポトーシスが誘導される。栄養不足によるアポトーシスを生じ難さ(アポトーシス耐性)は同種細胞でもばらつきがあり、この耐性は細胞内のミトコンドリア膜電位に依存する報告もなされている。栄養不足によるアポトーシスはまずアポトーシス耐性の低いものから誘導され、次いで耐性の高いものへと増える。そこで、培養工程中、アポトーシスをモニタリングしておき、アポトーシスを検出した時点で栄養濃度の制御値の設定を高める制御を行う。
【0031】
(IV)成分分析方法及び装置
添加培地の供給制御を行うにあたり、モニタリングする必要のある指標は、生細胞数、アポトーシス細胞数を挙げることができる。細胞を含まない培養液から培養状態を把握するために、以下の検出方法を適用することができる。
【0032】
生細胞数
培養液中のグルコース量及び乳酸量を測定することで生細胞数を推定する方法を用いることができる。図5に示すようにグルコース消費量と乳酸消費量の和は生細胞数の時間積分値に線形関係にある。この関係式を検量線として事前に測定しておくことで、培養過程における生細胞数をグルコース消費量と乳酸消費量の和を測定により求めることで推定することができる。この方法で推定した生細胞数と従来法であるトリパンブルー染色により測定した生細胞数を比較すると図6のようになり、よく一致していることがわかる。この結果より、本方式で生細胞数を測定できる。
【0033】
アポトーシス
細胞内に発現しているサイトケラチン18タンパクがアポトーシスによるカスパーゼ3によって切断されM30認識部位をもった分解物(M30分解物)を分泌するため、培養液中に分泌された分解物をM30抗体を用いたELISAにより検出する方法を採用することができる(図7)。96ウェルプレートによるELISA法にてアポトーシスを測定した例を以下に記す。
【0034】
まず、M30抗体を用いたELISA法について説明する。96ウェルプレートに抗サイトケラチン18抗体(M5抗体;ロシュ・ダイアグノスティックス)を結合させる。次にスキムミルクでブロッキングを行った後、培養液を添加し、37℃、1時間インキュベーションを行う。3回の洗浄の後、ビオチンラベルされたM30抗体溶液(ロシュ・ダイアグノスティックス)を添加し、37℃、1時間インキュベーションを行う。3回の洗浄の後、HRPラベルされたストレプトアビジンを添加し、37℃、1時間インキュベーションを行う。3回の洗浄の後、TMB基質溶液を添加し、室温で20分インキュベーションを行い、その後、硫酸を添加し、450nmの吸光度を測定する。
【0035】
具体例として、CRL-1606細胞を1L培養槽にて流加培養した培養液を用いてアポトーシスを測定した。培養条件は37℃、60%飽和溶存酸素濃度にて攪拌培養を行った。12時間に1度、無菌的に細胞を含んだ培養液を5mLサンプリングし、そのうちの1mLを生細胞数計ViCell(ベックマンコールター)を用いて総細胞数及び生細胞数を計測した。残りの培養液は遠心器(800rpm、5分)によって細胞を沈殿させ、上澄み液を凍結保存した。培養終了後、上述のようにM30分解物の検出を行った。
【0036】
1L培養槽での培養液中のM30分解物の経時変化と総細胞数及び生細胞数の経時変化のグラフを図8に示す。生細胞数の減少、すなわち死細胞数の増加に伴い、M30分解物の量が増加していくことがわかる。本アポトーシス検出法を用いることで、培養液からアポトーシスの検出を行うことが可能であることがわかる。
【0037】
上記方法により培養液から生細胞数、アポトーシスを測定することは可能であるが、さらに短時間、高感度で測定するためにマイクロ反応場を用いてアポトーシスを測定してもよい。マイクロ反応場を有する培養装置は、図9に示すような構成をしている。すなわち、培養装置は、培養槽101と、培養槽101内の培養液に含まれる細胞を分離するためのフィルタ102と、フィルタ102を介して細胞を含有しない培養液に含まれるM30分解物を検出するアポトーシス検出装置113と、アポトーシス検出装置113で検出したM30分解物に起因する計測値を記録する記録装置114と、記録装置114に記録された計測値に基づいてアポトーシスを解析する解析装置115と、解析装置115において解析された結果に基づいて複数の添加培地槽(図示せず)から培養槽101に添加する培地を選択する制御装置116とを備えている。また、アポトーシス検出装置113は、以下で述べる各成分分析に必要な試薬を送液するためのポンプ103と、当該試薬を収容したシリンジ104と、M30分解物を検出するためのマイクロ流路105と、マイクロ流路105が形成されたチップ106と、吸光度計107と、廃液タンク112とを備えている。また、吸光度計107は、ディテクター108とセル109と波長フィルタ110とが、光源111からの光軸上に配置されるような構成となっている。
【0038】
以上のように構成された培養装置においては、マイクロ流路105内に1次抗体(抗サイトケラチン18抗体;M5抗体)を結合させておく。培養槽101から細胞が混入しないようにフィルタ102を通した培養液を、図示しないポンプを用いてアポトーシス検出装置113内に送液する。細胞死がアポトーシスであると培養液中にはM30分解物が存在し、このM30分解物が上記1次抗体に結合する。次に、ビオチンを結合させたM30抗体をマイクロシリンジを用いて送液する。洗浄液を送液した後、アルカリフォスファターゼを結合させたストレプトアビジンを送液する。洗浄液を送液した後、NBT(nitro-blue tetrazolium chloride)基質を送液し、吸光度計107により405nmでの吸光度を測定することで、アポトーシスの有無及び量を測定する。測定終了後、酸性溶液もしくはアルカリ溶液を流路に送液することで、1次抗体を除くタンパクを洗い流すことができる。洗浄液を流し、ブロッキング液を送液することで、同一チップ106で再度アポトーシスの測定を行うことが可能となる。これらの測定結果を記録装置114に記録しておき、解析装置115にて解析し、適切な制御となるように解析を行った後、制御装置116により図示しない複数の添加培地槽を制御することで、細胞にとって適切な環境下で培養ができ、生産性も向上する。また、記録装置114に保存したデータは品質管理の1つの指標として用いることもできる。
【0039】
上記ではアルカリフォスファターゼを結合させたストレプトアビジンを用いたが、ホースラディッシュペルオキシダーゼを結合させたストレプトアビジンを用いてもよい。その際には発色基質にはTMB(3,3',5,5'-tetramethylbenzidine)を用い、反応後、硫酸と混合した後450nmの吸光度を測定する。この場合、マイクロ反応場としては、例えば図10に示すように、AQ間で示される抗体反応部分と、BP間で示される硫酸送液用流路と、PRで示され有反応後のTMBと硫酸を混合する混合流路とから構成される。抗体反応においてTMBをAQ間に満たした後、反応時間を十分にとるために送液をとめる。十分反応させた後、送液を再開し、硫酸と混合する。その際、硫酸送液用流路から硫酸が反応場に流れ込む(拡散による流入も含む)ことがある。このように、混合流路が酸性条件下となると、タンパク同士の物理結合が切れ正確な測定ができなくなる虞がある。その改善のため流路構造は、以下のいずれかの構造を挙げることができる。
【0040】
(1)図10に示すように、T<τPQを満たすように硫酸を送液する(τPQ:停止溶液拡散によりQ点でのpHが下がるまでの時間)。
(2)図11に示すように、マイクロ流路と硫酸溶液用流路との間にマイクロ弁を設け、反応時にはマイクロ弁を閉じ、反応停止液流路と分離し、検出時にはマイクロ弁を開け、反応停止液と混合する。
(3)図12に示すように、マイクロ流路と硫酸送液用流路との間に気体を供給するための流路を設け、空気を入れることにより、反応停止液と分離し、反応液を分離する。
(4)図13に示すように、マイクロ流路と硫酸送液用流路との間に高低差を設け、反応停止液流路と反応液を分離する。
以上の(1)〜(4)のように構成することによって、反応用のマイクロ流路に硫酸が流れ込む(拡散による流入も含む)ことを防止することができる。
【0041】
また、1次抗体を結合したチップ106は、流路内壁にアミノ基処理を施してある。その流路に、まずグルタルアルデヒド溶液を送液し、アミノ基を活性化し、純水による洗浄の後、M5抗体を送液することで、M5抗体を流路内壁に共有結合させることができる。洗浄の後、ブロッキング液を送液し、乾燥しないように流路口を閉じることで4℃で保存することが可能となる。培養槽を運転する前にアポトーシス検出装置に設置すれば、再利用可能であるので運転終了までチップの交換は必要ない。抗体のチップ流路への共有結合の方法は、カルボキシル基を用いた結合でも構わない。また、共有結合を用いた結合はチップを再利用する際に望ましい方法であるが、再利用の必要性のない場合などは疎水結合を用いた結合でも構わない。
【0042】
そして、上述したマイクロ反応場を適用した培養装置での実験結果を以下に述べる。グルコース濃度と発色量の関係を図14に示す。本法では、グルコース濃度が600mg/lまでは線形関係にあることがわかる。乳酸濃度と発色量の関係を図15に示す。本法では乳酸濃度が135mg/lまでは線形関係にあることがわかる。アポトーシスと発色量との関係を図16に示す。マイクロ反応場を用いることにより96ウェルプレートによる測定より高感度に測定できることがわかる。
【0043】
なお、グルコースの検出には、グルコースをグルコースオキシダーゼの酵素反応で酸化する際に生じる過酸化水素を生じさせ、次いで過酸化水素とp-ヒドロキシ安息香酸アミノとアミノアンチピリンをペルオキシダーゼの酵素反応により赤色のキノンイミン化合物を生成させる発色定量法を用いた。マイクロチップを用いる通液混合反応での発色試薬と試料液の混合比率は9:1とした。シリンジポンプで発色試薬を90μl/min及び試料液10μl/minの速度でチップに注入し、チップ内で両液を混合したあと分光光度計で波長510nmでの吸光度を計測した。この吸光度とあらかじめ発色液のみで計測しておいた発色液吸光度との差をとることにより発色反応による吸光度を求めた。
【0044】
また、乳酸の検出には、乳酸を酵素反応で酸化する際に生じる過酸化水素を利用する発色定量法を用いた。マイクロチップを用いる通液混合反応での発色試薬と試料液の混合比率は9:1とした。シリンジポンプで発色試薬を90μl/min及び試料液10μl/minの速度でチップに注入し、チップ内で両液を混合したあと分光光度計で波長510nmでの吸光度を計測した。この吸光度とあらかじめ発色液のみで計測しておいた発色液吸光度との差をとることにより発色反応による吸光度を求めた。
【0045】
(V)無菌サンプリング
上記成分分析方法を用いるためには、細胞を取り除いた培養液の無菌サンプリングが望ましい。そのための培養液の無菌サンプリング装置の一例を以下に挙げる。
図17は、本発明で適用した無菌サンプリング装置の1実施例の動作を示すフロー図である。本サンプリング装置は,外周面に細胞の通過を阻止するフィルタ202を設けた回転フィルタ201、該回転フィルタ201を収容するフィルタ収容容器204、フィルタを回転させるためのフィルタ駆動モータ205、回転フィルタ201の内部の圧力を検出する圧力計206、フィルタ収容容器の圧力を検出する圧力計207、逆洗液貯槽208、該逆洗液貯槽208内部の圧力を検出する圧力計209及び該逆洗液貯槽208内部の圧力を調整する圧力調整弁210を備えている。
【0046】
フィルタ収容容器204には培養槽との間に培養液循環管路220及び221が設けられており、ポンプ等の送液手段によって培養液の循環を行なわせる。なお、培養槽及び送液手段は図17中への記載を省略した。これにより、フィルタ収容容器204内部の培養液は常に更新されることになり、ろ過によってろ過液が抜き出されることによる細胞の部分的な高密度化や長時間滞留による環境の悪化で生じる培養への悪影響を抑えることができる。
【0047】
フィルタ収容容器204には内部の培養液の流出を防ぐことと外部からの雑菌等の侵入を防ぐ機能が不可欠である。このため、フィルタ収容容器204にはメカニカルシールを使用した軸シール215が設けられている。メカニカルシールは、回転軸213に固定されて回転する摺動部材と軸シール215に固定された摺動部材とを密着させて摺動させることにより気体や液体の漏洩を阻止するものである。本実施例においては、フィルタ収容容器204内の培養液の流出を防ぐためのメカニカルシール216aと、外部からの侵入を防止するためのメカニカルシール216bの二つのメカニカルシールを用いている。メカニカルシール216aとメカニカルシール216bの間にはシール室217が形成され、回転フィルタ201の内部と外部とを連結する流路となる。なお、本発明においてはメカニカルシールとして特に限定するものではなく、通常の培養装置に使用されるメカニカルシールやドライタイプのメカニカルシールなど気密性を保持できるものであれば用いることができる。また、メカニカルシールの使用方法及び配置等についても本実施例に限定するものではない。
【0048】
回転軸213は両端が封止された中空構造となっており、一端をシール室217に開口させ、他の一端を後述する円筒203に設けられたろ過液流路212に連通するよう開口させることによって軸流路214を形成している。軸シール215には、シール室217の位置する部分に連通ノズル218が設けられており、ろ過液や逆洗液の出し入れに使用される。
【0049】
回転フィルタ201は、回転軸213に円筒203とフィルタ202をとりつけ、上端と下端を封止部材で封じた構造となっており、フィルタ内部の圧力を外部より低くすることによってろ過が行なわれ,フィルタの細孔を通過したろ過液が得られる。ろ過に際しては、回転フィルタ201をフィルタ収容容器204内部で回転させるとフィルタ202表面に平行な培養液の流れが生じ、いわゆる直交流ろ過の状態となる。フィルタ収容容器204の内壁面とフィルタ202表面との間隔を小さくして流れを乱流状態とすれば、ろ過液が抜き出されることによって形成される細胞や微細粒子の高密度化層を拡散させることができる。これによって、フィルタの目詰りを抑制でき、より高速でより多量のろ過液を得ることが可能となる。回転フィルタの回転速度は、培養する生体の細胞の物理的な外力に対する耐性と、分離装置の形状とによって決定される。
【0050】
フィルタ202を通過したろ過液は円筒203とフィルタ202の間に形成されている円筒状間隙211を通り、円筒203に設けられたろ過液流路212及び回転軸213に設けられた軸流路214を経て軸シール215のシール室217に導かれ、連通ノズル218に接続された連通流路によって弁240及び241を経て逆洗液貯槽208に移送される。
【0051】
本装置に使用するフィルタとしては一般的に用いられるろ布、メンブランフィルタなど細胞の通過を阻止できるものであれば特に限定するものではない。特に、回転フィルタ内部に蒸気を吹き込んでの殺菌や洗浄の際の洗浄液注入に耐えられる機械的強度と耐熱性及び耐腐食性を有するものを選定することが好ましい。また、培養液中には死んだ細胞が崩壊して生じる微細な細胞断片が多数存在することから、健全な細胞の通過を阻止し、微細な細胞断片を通過させるろ過特性を有するフィルタが特に好ましい。本実施例ではステンレス細線を所定の間隔をあけて円筒状に巻きつけてスリット状の開口部を形成させた金属フィルタを使用した。通常のフィルタでは、阻止しようとする粒子径よりも小さな細孔が多数存在しており、微細な細胞断片をも阻止することによって目詰りの原因となっていた。本フィルタには形成させたスリット以外の細孔は実質的に存在しない。これにより、本フィルタではスリット幅より大きい細胞についてのみ通過を阻止し、スリット幅より小さい細胞断片等の微細な粒子は通過させることができる。スリット幅は培養する細胞の大きさによって決定されるものであり、通常は5〜30μmとする。
逆洗液貯槽208は、液面の位置を計測するための液面レベル計219を内部に収容しており、内部の圧力を検出する圧力計209及び該逆洗液貯槽内部の圧力を調整する圧力調整弁210を備えている。逆洗液貯槽208は、弁240及び241を開放することによって連通ノズル218と、弁241及び244を開放することによって分析装置内のタンク234と、及び弁242を開放することによって培地槽とそれぞれ接続され、液の移動が可能となる。なお、分析装置内のタンク234と培地槽の図17中の記載は省略した。
【0052】
逆洗液貯槽208の内部の圧力の調整は、弁243を開閉しておこなう空気の吹き込み量調節と圧力調整弁210の開閉による排気量の調節により行なわれる。なお、逆洗液貯槽208の内部圧力は本発明においては常に大気圧より高く保持する。圧力の調整用に使用される空気はあらかじめ細菌等の微粒子を除去した無菌空気を使用する。
【0053】
液面レベル計219としては特に限定するものではないが、回転フィルタ内部に蒸気を吹き込んでの殺菌や洗浄の際の洗浄液注入に耐えられる機械的強度と耐熱性及び耐腐食性を有するものを選定することが好ましい。また、培養液中には細胞や細胞が崩壊して生じた微細な細胞断片が多数存在し、液面には泡沫が滞留する恐れがあることから、センサの汚れによって誤動作を起こす恐れないものを選定することが好ましい。本実施例では静電容量式のレベルセンサを使用した。
【0054】
以下、本実施例での生体細胞の分離手法について詳しく説明する。
(1)ろ過工程
フィルタ収容容器204に培養液を循環させ、回転フィルタ201をフィルタ駆動モータ205で回転させる。圧力計207でフィルタ収容容器の圧力、及び圧力計209で逆洗液貯槽208内部の圧力を計測する。フィルタ収容容器の圧力は培養槽の圧力と同一であり、通常は0.01〜0.05MPaに加圧されている。逆洗液貯槽208内部の圧力がフィルタ収容容器の圧力よりわずかに低くなるよう、圧力調整弁210で調整する。ついで、弁241及び弁240を順次あけると、フィルタ202でろ過が行なわれ、ろ過液が逆洗液貯槽208に流入する。液面レベル計219によってろ過液の液面位置を計測し、所定位置になった時点で弁240及び弁241を順次閉じ、ろ過工程を終了する。ろ過操作においては、大きなろ過差圧をかけて急速に行うことは目詰まりを促進させるため、好ましくない。本実施例ではフィルタ収容容器204と逆洗液貯槽208の圧力差すなわちろ過差圧を0.04MPa以下とする。ろ過速度の調節はフィルタ収容容器204と逆洗液貯槽208の圧力差を調節することにより行なう。ろ過速度より低く抑える必要がある場合には、弁240の開閉を断続的に行い、開放時間の長さを調節することにより行なう。
【0055】
(2)ろ過液排出工程
弁243を開けて逆洗液貯槽208の内圧を分析装置内のタンク234の内圧より高く設定する。そののち、弁241及び弁244を順次あけることによってろ過液は分析装置内のタンク234に移送される。液面レベル計219によってろ過液の液面位置を計測し、所定位置になった時点で弁244及び弁241を順次閉じ、ろ過液排出工程を終了する。なお圧力の設定に当たっては、分析装置内のタンク234と逆洗液貯槽208の液面高さについて考慮する必要がある。すなわち、分析装置内のタンク234の液面位置が逆洗液貯槽208の液面位置より高い場合には逆流を起こさないよう圧力を高くする必要がある。分析装置内のタンク234の液面位置が逆洗液貯槽208の液面位置より低い場合には、ろ過液の流出によって逆洗液貯槽208の内部圧力が大気圧より低くならないよう、空気の注入を行なう。
【0056】
(3)培地移送工程
圧力調整弁210により逆洗液貯槽208の内圧を培地槽の内圧より低く調節する。そののち、弁242をあけることによって培地は逆洗液貯槽208に流入する。液面レベル計219によって培地の液面位置を計測し、所定位置になった時点で弁242を閉じ、培地の供給を終了する。なお圧力の設定に当たっては、培地槽と逆洗液貯槽208の液面高さについて考慮する必要がある。すなわち、培地槽の液面位置が逆洗液貯槽208の液面位置より高い場合には培地の移送速度が大きくならないように圧力差を小さくする必要がある。培地槽の液面位置が逆洗液貯槽208の液面位置より低い場合には、培地が移送されるように圧力差を大きくする。培地の移送速度を調節する必要がある場合には、弁242の開閉を断続的に行い、開放時間の長さを調節することにより行なう。
【0057】
(4)逆洗工程
弁243を開けて逆洗液貯槽208の内圧をフィルタ収容容器204の内圧より高く設定する。回転フィルタ201の回転数をろ過工程での回転数より大きくする。そののち、弁241及び弁240を順次あけることによって培地は回転フィルタ201に注入され、フィルタ202の細孔をろ過工程とは逆方向に通過してフィルタ収容容器204に流入し、培養液循環管路221によって培養槽に供給される。すなわち、培地は培養槽に供給される際に、フィルタ202の逆洗液としての役割を果たす。
【0058】
液面レベル計219によって培地の液面位置を計測して所定位置になった時点の逆洗工程終末期に、逆洗液貯槽208の内圧をフィルタ収容容器204の内圧より高く、かつフィルタ収容容器204の内圧にフィルタ202のバブルポイント圧力を加算した圧力より小さくなるように圧力調整弁210により調節する。次いであらかじめ設定された時間が経過した後に弁244及び弁241を順次閉じ、回転フィルタ201の回転数をろ過工程での回転数に戻して逆洗工程を終了する。
【0059】
回転フィルタ201を高速で回転させる中で逆洗を行なうことにより、フィルタ202内面全面に逆洗液を均一に行き渡らせることができる。また、回転によって生じる遠心力による洗浄作用も加わることによってより大きな逆洗効果が得られる。逆洗液貯槽208の内圧をフィルタ収容容器204の内圧より高く、かつフィルタ収容容器204の内圧にフィルタ202のバブルポイント圧力を加算した圧力より小さくなるように調節することにより、円筒状間隙211やろ過液流路212、軸流路214及び連通流路内の培地をすべてフィルタ収容容器204に排出できる。すなわち、高価な培地を無駄にすることなくそのすべてを培養に供することが可能となる。
【0060】
フィルタのバブルポイント圧力は、回転フィルタ1を培地中に沈め、これに空気を注入してフィルタ表面から気泡が放出され始めた時点の圧力を測定して求めた。
【0061】
本発明になる本実施例では、上記の(1)〜(4)の操作を繰り返すことによって生体細胞の分離操作を継続することが可能となる。
【0062】
図18は、本発明の実施の形態による培養装置の一実施例の動作を説明するフロー図である。本培養装置は、培養槽231、細胞分離装置232、添加培地をため込んだ培地槽233及び分析装置内のタンク234とで構成されている。図18には図示を省略しているが、培養装置は、複数の培地槽233を備えている。また、細胞分離装置232としては、図17に示した本発明を適用した生体の細胞の分離装置を用いている。なお、図18中には図示していないが、培養設備には不可欠であるところの、空気、酸素、窒素及び炭酸ガス等のガス供給設備、温水冷水供給設備、蒸気供給設備及び給排水設備を具備している。
【0063】
培養槽231は断面で表わしている。培養槽231内に張り込まれた培養液222は、駆動用モータ235により駆動される攪拌機236で撹拌され、均一に混合される。培養に必要な酸素は、酸素含有ガスを槽底部に配置された散気手段237から液中に供給する液中通気法と槽上部気相部に通気する上面通気法の二つの方法により供給される。
【0064】
培養槽231は、培養液222の性状を計測する計測手段238を具備しており、溶存酸素濃度、溶存炭酸ガス濃度、pH、温度、アンモニア濃度、乳酸濃度、グルコース濃度、グルタミン濃度及びガスパーゼ若しくはガスパーゼ分解物濃度の計測値239を得る。なお、計測手段238については、実装置では検出項目毎又は制御項目毎に1つの検出手段が用いているが、図18中には簡略化のため1つのみ記載した。計測値239は、図示しない制御装置に入力され、上述したように複数の培地槽233からの添加培地の選択のための情報として利用される。
【0065】
液中及び上面への通気系統はそれぞれの供給ガスを制御する個別操作手段250a及び250bを具備している。また、個別操作手段250a及び250bはそれぞれに空気、酸素、炭酸ガスの各ガスについての流量制御機能と供給量計測機能を具備している。上面への通気は、供給ガスを制御する個別操作手段250aによりその組成及び通気量を制御する。本実施形態では空気を一定量で通気し、培養液のpHに対応して炭酸ガスを混合した。炭酸ガス濃度の制御はpHを制御量とし、炭酸ガス流量を操作因子とする通常の比例制御で実施した。散気手段237より培養液中への通気は、供給ガスを制御する個別操作手段250bによりその組成及び通気量を制御する。本実施形態では培養液の溶存酸素濃度を制御量とし、酸素通気量を操作因子とした。
【0066】
培養槽231は圧力計251の計測結果をもとに、圧力調整弁252によって一定の圧力に保持されている。通常は外部からの細菌等の侵入を防ぐため、0.01〜0.05MPaに加圧されている。
【0067】
培養槽231には細胞分離装置232との間に培養液循環管路220及び221が設けられており、ポンプ248によって培養液222の循環を行なわせる。培養液循環管路220及び221には弁245、弁246、及び弁247が設けられており、培養液循環の停止、細胞分離装置232からの培養液の抜き取りなどの際に必要に応じて開閉される。
【0068】
培養槽231と逆洗液貯槽208の間には、それぞれの気相部同士を連通せしめる連通管路253及び弁254が設けられている。弁254を開放することにより、培養槽231と逆洗液貯槽208の内部の圧力を容易に同一なものとすることができる。これは、ろ過工程を開始するにあたって逆洗液貯槽208の内圧を培養槽231の内圧よりわずかに低く調整する際に特に有効である。
【0069】
培地槽233は培養槽231に供給する添加培地を保管するタンクであり、撹拌機255、撹拌機駆動用モータ256、内部の圧力を検出する圧力計257、圧力調整弁258及び空気供給用の弁259を備えている。培地槽233は、弁242、弁260及び連通管路によって逆洗液貯槽208に接続されており、添加培地の逆洗液貯槽208への移送が可能となる。培地槽233は圧力計257の計測結果をもとに、圧力調整弁258によって一定の圧力に保持される。通常は外部からの細菌等の侵入を防ぐため、0.01〜0.05MPaに加圧されている。また、培地の保管中の変質を防ぐため、5℃〜10℃に冷却している。
【0070】
分析装置内のタンク234は、細胞分離装置232で分離した生産目的とした物質を溶解しているろ過液を保管するタンクであり、撹拌機261、撹拌機駆動用モータ262、内部の圧力を検出する圧力計263、圧力調整弁264及び空気供給用の弁265を備えている。分析装置内のタンク234は、弁241、弁244及び連通管路によって逆洗液貯槽208に接続されており、逆洗液貯槽208のろ過液の受け入れが可能である。分析装置内のタンク234は圧力計263の計測結果をもとに、圧力調整弁264によって一定の圧力に保持される。通常は外部からの細菌等の侵入を防ぐため、0.01〜0.05MPaに加圧されている。また、保管中に目的物質が変質するのを防ぐため、5℃〜10℃に冷却している。
【0071】
本培養装置で連続培養は、前記の生体細胞の分離手法である、(1)ろ過工程、(2)ろ過液排出工程、(3)培地移送工程、(4)逆洗工程の4工程を繰り返し反復することによって行なわれる。これにより、複数の培地槽233にため込まれた、互いに組成の異なる複数の選択培地を、細胞の状態に基づいて選択して培養槽231に供給することができ、目的生産物を高品質且つ高収率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明を適用した培養装置を模式的に示す概略構成図である。
【図2】グルコース、グルタミンの消費速度と培養日数との関係を示す図である。
【図3】グルコース、グルタミンの消費速度と比増殖速度との関係を示す図である。
【図4】アンモニア抑制制御を示すための概念図である。
【図5】グルコース消費量と乳酸消費量の和と生細胞数の時間積分値との関係を示す図である。
【図6】グルコース、乳酸の測定より推定した生細胞数とトリパンブルー染色法により測定した生細胞数とを比較した図である。
【図7】M30抗体を用いたアポトーシス検出法の概念図である。
【図8】流加培養における細胞数とアポトーシス量との関係を示す図である。
【図9】マイクロ反応場を利用した分析装置を模式的に示す概略構成図である。
【図10】マイクロ反応場の一例を模式的に示す概略構成図である。
【図11】マイクロ反応場の他の例を模式的に示す概略構成図である。
【図12】マイクロ反応場の更に他の例を模式的に示す概略構成図である。
【図13】マイクロ反応場の更に他の例を模式的に示す概略構成図である。
【図14】マイクロ反応場を利用した分析装置によるグルコースの検量線を示す図である。
【図15】マイクロ反応場を利用した分析装置による乳酸の検量線を示す図である。
【図16】マイクロ反応場を利用した分析装置によるアポトーシスの検量線を示す図である。
【図17】無菌サンプリング装置の一実施例を示すフロー図である。
【図18】図17に示す無菌サンプリング装置を備える培養装置の一実施例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0073】
1…培養槽、2…添加培地槽、3…無菌サンプリング装置、4…分析装置、5…解析装置、6…制御装置、7…バルブ、8…ポンプ、101…培養槽、102…フィルタ、103…ポンプ、104…シリンジ、105…マイクロ流路、106…チップ、107…吸光度計、108…ディテクター、109…セル、110…波長フィルタ、111…光源、112…廃液タンク、113…アポトーシス検出装置、114…記録装置、115…解析装置、116…制御装置、201…回転フィルタ、202…フィルタ、203…円筒、204…フィルタ収容容器、205…フィルタ駆動モータ、206…圧力計、207…圧力計、208…逆洗液貯槽、209…圧力計、210…圧力調整弁、211…円筒状間隙、212…ろ過液流路、213…回転軸、214…軸流路、215…軸シール、216a…メカニカルシール、216b…メカニカルシール、217…シール室、218…連通ノズル、219…液面レベル計、220…培養液循環管路、221…培養液循環管路、222…培養液、231…培養槽、232…細胞分離装置、233…培地槽、234…分析装置内のタンク、235…駆動用モータ、236…攪拌機、237…散気手段、238…計測手段、239…計測値、240…弁、241…弁、242…弁、243…弁、244…弁、245…弁、246…弁、247…弁、248…ポンプ、250a…供給ガスを制御する個別操作手段、250b…供給ガスを制御する個別操作手段、251…圧力計、252…圧力調整弁、253…連通管路、254…弁、255…撹拌機、256…撹拌機駆動用モータ、257…圧力計、258…圧力調整弁、259…空気供給用の弁、260…弁、261…撹拌機、262…撹拌機駆動用モータ、263…圧力計、264…圧力調整弁、265…空気供給用の弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養対象の細胞を培養する培養槽と、
上記培養槽で培養している培養細胞又は培養液に含まれる成分を測定する測定手段と、
上記測定手段により測定した測定値により判定する培養細胞の状態に基づいて、組成比の異なる2種類以上の添加培地のなかから上記培養槽に添加する添加培地を選択する制御手段と、を備える培養装置。
【請求項2】
上記制御手段は、上記測定手段で測定した培養液に含まれる成分から培養細胞の代謝変化を上記培養細胞の状態として分析することを特徴とする請求項1記載の培養装置。
【請求項3】
上記制御手段は、細胞内代謝流束解析を利用して培養細胞の代謝変化を分析することを特徴とする請求項2記載の培養装置。
【請求項4】
上記細胞内代謝流束解析がElementary Metabolite Unit(EMU)を用いた解析方法であることを特徴とする請求項3記載の培養装置。
【請求項5】
上記制御手段は生細胞数から培養細胞の比増殖速度を上記培養細胞の状態として分析することを特徴とする請求項1記載の培養装置。
【請求項6】
上記測定手段は培養液中のグルコース濃度及び乳酸濃度を測定し、上記制御手段はグルコース及び乳酸の濃度変化を指標として生細胞数を推定することを特徴とする請求項5記載の培養装置。
【請求項7】
上記制御手段は、上記測定手段で測定した培養液に含まれる成分から培養細胞のアポトーシスを上記培養細胞の状態として分析することを特徴とする請求項1記載の培養装置。
【請求項8】
上記制御手段は、アポトーシス分析の結果、死滅細胞の割合が10%以上である場合に培養液中の栄養濃度を高めるように添加培地を選択することを特徴とする請求項7記載の培養装置。
【請求項9】
上記培養液に含まれる成分としてカスパーゼ分解物及び/又はカスパーゼを測定し、培養細胞のアポトーシスを上記培養細胞の状態として分析することを特徴とする請求項7記載の培養装置。
【請求項10】
上記測定手段は、上記カスパーゼ分解物を免疫酵素反応法により検出することを特徴とする請求項9記載の培養装置。
【請求項11】
上記2種類以上の添加培地は、炭素源及び窒素源の組成比が互いに異なることを特徴とする請求項1記載の培養装置。
【請求項12】
上記培養液の成分として、グルコース、グルタミン酸、乳酸及びアンモニアから選ばれる少なくとも1種を測定することを特徴とする請求項1記載の培養装置。
【請求項13】
上記測定手段は、マイクロ反応場であることを特徴とする請求項1記載の培養装置。
【請求項14】
培養液中にて培養対象の細胞を培養する工程と、
培養している培養細胞又は培養液に含まれる成分を測定する工程と、
上記測定する工程により測定した測定値により判定する培養細胞の状態に基づいて、組成比の異なる2種類以上の添加培地のなかから添加培地を選択して上記培養液に添加する工程とを含む、培養方法。
【請求項15】
上記培養液に含まれる成分から培養細胞の代謝変化を上記培養細胞の状態として分析することを特徴とする請求項14記載の培養方法。
【請求項16】
細胞内代謝流束解析を利用して培養細胞の代謝変化を分析することを特徴とする請求項15記載の培養方法。
【請求項17】
上記細胞内代謝流束解析がElementary Metabolite Unit(EMU)を用いた解析方法であることを特徴とする請求項16記載の培養方法。
【請求項18】
生細胞数から培養細胞の比増殖速度を上記培養細胞の状態として分析することを特徴とする請求項14記載の培養方法。
【請求項19】
上記培養液中のグルコース濃度及び乳酸濃度を測定し、上記グルコース及び乳酸の濃度変化を指標として生細胞数を推定することを特徴とする請求項18記載の培養方法。
【請求項20】
測定した培養液に含まれる成分から培養細胞のアポトーシスを上記培養細胞の状態として分析することを特徴とする請求項14記載の培養方法。
【請求項21】
アポトーシス分析の結果、死滅細胞の割合が10%以上である場合に培養液中の栄養濃度を高めるように添加培地を選択することを特徴とする請求項20記載の培養方法。
【請求項22】
上記培養液に含まれる成分としてカスパーゼ分解物及び/又はカスパーゼを測定し、培養細胞のアポトーシスを上記培養細胞の状態として分析することを特徴とする請求項20記載の培養方法。
【請求項23】
上記カスパーゼ分解物を免疫酵素反応法により検出することを特徴とする請求項22記載の培養方法。
【請求項24】
上記2種類以上の添加培地は、炭素源及び窒素源の組成比が互いに異なることを特徴とする請求項14記載の培養方法。
【請求項25】
上記培養液の成分として、グルコース、グルタミン酸、乳酸及びアンモニアから選ばれる少なくとも1種を測定することを特徴とする請求項14記載の培養方法。
【請求項26】
マイクロ反応場で上記培養細胞又は上記成分を測定することを特徴とする請求項14記載の培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−81809(P2010−81809A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251406(P2008−251406)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】