説明

基地局及び基地局の自律設定方法

【課題】アンテナのチルト角や送信電力を一元的に自律設定することが可能な基地局及び基地局の自律設定方法を提供する。
【解決手段】チルト角設定部22により、GPS受信部25からの受信データに基づき当該基地局1の位置座標及びアンテナ高を取得し、これら取得した情報に基づき、当該基地局1のアンテナ31のチルト角を算出し、算出したチルト角を設定チルト角として、チルト角可変機構26を用いてアンテナ31のチルト角を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナのチルト角を一元的に自律設定可能な基地局及び基地局の自律設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代高速通信規格として、LTE(Long Term Evolution)を採用した無線通信システム(以下、LTEシステムと称す)が注目されている。このLTEシステム用の基地局では、設置や保守の際にフィールドでの測定や設定を自律生成するSON(Self Organized Network)の導入が不可欠である。
【0003】
このような基地局における自律設定手法としては、例えば特開2008−236730号公報に開示の「セルラー移動無線通信システム」がある。これは、周辺セル情報の自律生成手法に関するもので、第1の基地局装置が電波強度測定用の無線チャネルを通して測定用無線信号を送信するとき、複数の他の第2の基地局装置のそれぞれが、順次第1の基地局装置から受信した測定用無線信号の電波強度を測定し、該測定結果に応じて第1の基地局装置が周辺セルか否かを判定するもので、第1の基地局装置を周辺セルと判定した場合には、自己保有する周辺セルの第2局データに該第1の基地局装置の識別情報を登録し、識別情報に基づき第1の基地局装置が保有する第1局データを取得し、第1基地局装置から取得した第1局データを周辺セル情報として、自己保有する第2局データに反映させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−236730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、実際にフィールドに基地局を設置する場合、地形を最大限に有効利用するために、サービスエリアが基地局毎に異なるのが一般的であり、そのため、基地局のアンテナが等間隔で且つ一定の高さに設置されることはない。例えば、高所に設置された基地局のアンテナや沿岸部の対岸に設置された基地局のアンテナからの伝搬により、隣接基地局以外の遠方から電波が到来して干渉を引き起こし、混信の発生するケースも希にあり、基地局のアンテナのチルト角を一元的に自律設定することが困難であるという事情があった。
【0006】
本発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたものであって、アンテナのチルト角を一元的に自律設定することが可能な基地局及び基地局の自律設定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る基地局は、チルト角可変機構を備えたアンテナと、GPS受信手段と、前記アンテナを介して送受信を行う送受信手段と、前記GPS受信手段からの情報に基づき当該基地局の位置座標及びアンテナ高を取得し、これら取得した情報に基づき、当該基地局のアンテナのチルト角を算出し、算出したチルト角を設定チルト角として、前記チルト角可変機構を用いて前記アンテナのチルト角を設定するチルト角設定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る基地局において、記憶手段をさらに備え、前記チルト各設定手段は、前記記憶手段に記憶され、前記位置座標に対応する地表面の海抜を示す値と取得し、前記アンテナ高と、当該海抜を示す値と、から前記アンテナの設置地上高を算出し、当該設置地上高と、前記記憶手段に記憶されるセル半径を示す値と、に基づいて、前記アンテナのチルト角を算出する、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る基地局において、前記チルト角設定手段は、当該基地局の位置座標におけるジオイド高および回転楕円体高に基づき、当該基地局のアンテナ高を取得することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る基地局の自律設定方法は、チルト角可変機構を備えたアンテナと、GPS受信手段と、前記アンテナを介して送受信を行う送受信手段と、を備えた基地局の自律設定方法であって、前記GPS受信手段からの情報に基づき当該基地局の位置座標及びアンテナ高を取得する第1ステップと、第1ステップで取得した情報に基づき、当該基地局のアンテナのチルト角を算出し、算出したチルト角を設定チルト角とする第2ステップと、前記チルト角可変機構を用いて前記アンテナのチルト角を前記設定チルト角に設定する第3ステップと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る基地局及び基地局の自律設定方法によれば、アンテナのチルト角を一元的に自律設定することが可能な基地局及び基地局の自律設定方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る基地局の構成図である。
【図2】本実施形態に係る基地局におけるアンテナ部の頭部の斜視図である。
【図3】本実施形態に係る基地局におけるチルト角及び送信電力設定の処理手順を説明するフローチャートである。
【図4】本実施形態に係る基地局におけるチルト角の算出を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、基地局1の概略的な構成を示したブロック図である。基地局1は、アンテナ部11と、送受信部12と、制御部13と、記憶部14と、インタフェース部15と、を備える。
【0015】
ここで、アンテナ部11のアンテナ31は、無指向性のオムニアンテナである。また、チルト角可変機構26は、チルト角設定部22からの指示に基づき、例えば給電位相調整等によってアンテナ31のチルト角を設定する。また、アンテナ部11のGPS受信部25及びGPSアンテナ32は、GPS衛星からの電波を受信して、受信データを制御部13に送る。ここで、GPS受信部25及びGPSアンテナ32は、GPS衛星から発信されている測位用の電波のうちL1帯のみを受信する1周波数型、或いはL1帯及びL1帯を受信する2周波数型の何れであっても良い。
【0016】
また、GPSアンテナ32は、図2のアンテナ部11の頂上部42近傍の外観図に示すように、円筒形状のアンテナレドーム41の頂上部分に設置される。なお、GPSアンテナ32の設置位置は、図2の態様に限定されることなく、アンテナレドーム41内部の頂上付近に設置しても良い。また、アンテナレドーム41の底面付近に設置することも可能であるが、この場合、後述のアンテナ高の計算において、アンテナレドーム41の高さを考慮した計算が必要となる。
【0017】
また、送受信部12は、アンテナ31を介した送受信を行うものであり、内部に可変利得増幅器を備えて、送信電力設定部21からの指示に基づき、該可変利得増幅器の利得を可変設定することにより、送信電力を設定する。また、インタフェース部15は、コアネットワークとの間に設定される論理コネクションであるS1インタフェースを用いて、コアネットワークとの通信を行う。また、インタフェース部15は、隣接基地局との間に設定される論理コネクションであるX2インタフェースを用いて、隣接基地局との基地局間通信を行う。
【0018】
また、記憶部14は、制御部13が自律設定や通信制御等に用いる各種データ及びプログラムを保持する。ここで、本実施形態の基地局1において特徴的なデータとして、当該基地局1のセル半径データと、地理データとがある。セル半径データには、当該基地局1が、他の基地局と重複するセル範囲を最小限に抑えたときのセル半径の長さを示す値が登録されている。また、地理データには、緯度と、経度と、に対応付けられた海抜を示す値が登録されている。なお、この地理データは、当該基地局1が自律設定を行う際には、前もって他の基地局またはLTEシステムを統括する遠隔制御装置から、送信されて記憶部14内に構成されているものとする。
【0019】
また、制御部13は、当該基地局1が無線端末に移動通信サービスを提供するサービスエリアに対応したセルについて、アンテナ31を介して無線端末との通信を確保する。また、本実施形態においては、特徴的に送信電力設定部21及びチルト角設定部22を備えて、当該基地局1の自律設定を行う。
【0020】
チルト角設定部22は、記憶部14に保持されるセル半径データ、地理データを取得し、また、GPS受信部25からの受信データに基づき当該基地局1の位置座標及びアンテナ高を取得し、これら取得した情報に基づき、当該基地局1のアンテナ31のチルト角を算出し、算出したチルト角を設定チルト角として、チルト角可変機構26を用いてアンテナ31のチルト角を設定する。
【0021】
また、送信電力設定部21は、複数の隣接基地局から送信される信号強度を取得して、取得した信号強度に応じた送信電力を設定送信電力として、送受信部12の可変利得増幅器の利得を調整することにより送信電力を設定する。このように調整すれば、自局が、各隣接基地局に対する干渉の影響を抑えることができる。
【0022】
次に、以上のような構成要素を備えた基地局1の自律設定方法について、図3及び図4を参照して説明する。ここで、図3は本発明の実施形態に係る基地局1の自律設定方法を説明するフローチャートであり、図4はチルト角の算出を説明する説明図である。なお、以下では、基地局1を新設局として新たにセル(サービスエリア)を構成する場合の基地局1の自律設定方法について説明する。
【0023】
まず、基地局1は、セル半径データと、地理データと、を取得する(ステップS101)。すなわち、自律設定の前段階として、他の基地局またはLTEシステムを統括する遠隔制御装置から当該基地局1のセル半径データと、地理データと、を受信して記憶部14内に構成しておく。
【0024】
次に、GPS受信部25からの受信データに基づき、当該基地局1の位置座標(緯度,経度)及びアンテナ高を取得する(ステップS102)。なお、GPSでは幾何学的な位置(即ち、緯度,経度及び回転楕円体高)を求めることはできるが、標高(即ち、アンテナ高)を直接求めることができないので、回転楕円体高及びジオイド高に基づいてアンテナ高を求める。ここで、ジオイド高は、地球の形を最も良く近似している回転楕円体(準拠楕円体)からジオイド(海面の平均位置に最も近い重力の等ポテンシャル面)までの高さであるから、次式を用いて求めることができる。
【0025】
(数1)
アンテナ高(標高)=回転楕円体高−ジオイド高 …(1)
【0026】
次に、ステップS102で取得した各種情報、即ち、当該基地局1の位置座標及びアンテナ高を記憶部14に記憶する(ステップS103)。
【0027】
次に、各種情報、即ち、セル半径データ、地理データ、当該基地局1の位置座標及びアンテナ高に基づき、自局(基地局1)のチルト角を算出する(ステップS104)。
【0028】
このチルト角の算出方法を、図4の説明図を参照しながら説明する。まず、自局(基地局1)の位置座標と、地理データとから自局が設置される箇所の地表面の海抜h2を求める(ステップS105)。次に、記憶部14に保持されるアンテナ高h1と、海抜h2とから、地表面からのアンテナの高さを示す設置地上高さh3を求める(ステップS106)。そして、図4に示すように、新設局(基地局1)の設置地上高h3と、セル半径データが示す新設局(基地局1)に設定されるセル半径データαとから、新設局(基地局1)のアンテナ31のチルト角θを求めることができる(ステップS107)。これらを数式で表せば、次式となる。
【0029】
(数2)
h3=h1−h2 …(2)
θ=arctan(h3/α) …(3)
【0030】
具体的数値を例示すれば、図4に示す如く、新設局(基地局1)のアンテナ高h1=135[m]、自局(基地局1)の位置座標から求められた設置箇所の海抜h2=100[m]とすれば、設置地上高h3=35[m]が得られる。さらに、記憶部14に記憶されるセル半径データα=854.55[m]だとすれば、地上設置高h3と、セル半径データαから、新設局(基地局1)のアンテナ31のチルト角θ=2.3[度]として求められる。
【0031】
そして、算出したチルト角を設定チルト角とし、チルト角可変機構26を用いてアンテナ31のチルト角を設定する(ステップS108)。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の基地局及び基地局の自律設定方法では、チルト角設定部22(チルト角設定手段)により、GPS受信部25からの受信データに基づき当該基地局1の位置座標及びアンテナ高を取得し(第1ステップ)、これら取得した情報(即ち、当該基地局1の位置座標及びアンテナ高)に基づき、当該基地局1のアンテナ31のチルト角を算出し、算出したチルト角を設定チルト角として(第2ステップ)、チルト角可変機構26を用いてアンテナ31のチルト角を設定する(第3ステップ)。
【0033】
これにより、アンテナのチルト角を一元的に自律設定することが可能な基地局及び基地局の自律設定方法を実現することができ、SONの導入が不可欠なLTEシステム用の基地局に適用することができる。
【0034】
また、従来、アンテナのチルト角の設定は、担当者が、伝搬シミュレータ等を用いて、基地局の位置座標、標高及び地形等の情報に基づき伝搬ロスを求め、そして該伝搬ロス及び送信電力等から所定値点の受信電力及び受信品質(SN(信号対雑音)比、SIR(信号電力対干渉比))を求めて、経験的または試行錯誤的に設定していたが、本実施形態の基地局及び基地局の自律設定方法によれば、一元的な自律設定が可能となるので、担当者の設定作業を無くすことができる。
【0035】
さらに、本実施形態の基地局及び基地局の自律設定方法では、チルト角設定部22(チルト角設定手段)において、当該基地局1の位置座標におけるジオイド高および回転楕円体高に基づき当該基地局1のアンテナ高を取得し、アンテナのチルト角の設定に供するようにしたので、より精度良く一元的な自律設定が可能となる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。例えば、実施形態では、GPS衛星からの電波を受信して測位する衛星測位システム:GNSS(Global Navigation Satellite Systems)について例示したが、これに限定されることなく、準天頂衛星QZSS(Quasi-Zenith Satellite System)を用いるものであって良い。
【0037】
さらに、実施形態では、基地局1を新設局として新たにセル(サービスエリア)を構成する場合について説明したが、本発明による基地局の自律設定は、新設時に限定されることなく、再設定時に行うようにしても良い。ここで、再設定は、例えば、他の基地局から送信される干渉や負荷バランスに関する情報、或いは自局における他局のモニタリングによる情報等に基づき、当該基地局の周辺環境が変わったと判断したときなどに行われるものである。
【符号の説明】
【0038】
1…基地局、11…アンテナ部、12…送受信部、13…制御部、14…記憶部、15…インタフェース部、21…送信電力設定部、22…チルト角設定部、25…GPS受信部、26…チルト角可変機構、31…アンテナ、32…GPSアンテナ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チルト角可変機構を備えたアンテナと、
GPS受信手段と、
前記アンテナを介して送受信を行う送受信手段と、
前記GPS受信手段からの情報に基づき当該基地局の位置座標及びアンテナ高を取得し、これら取得した情報に基づき、当該基地局のアンテナのチルト角を算出し、算出したチルト角を設定チルト角として、前記チルト角可変機構を用いて前記アンテナのチルト角を設定するチルト角設定手段と、
を備えたことを特徴とする基地局。
【請求項2】
記憶手段をさらに備え、
前記チルト各設定手段は、
前記記憶手段に記憶され、前記位置座標に対応する地表面の海抜を示す値と取得し、
前記アンテナ高と、当該海抜を示す値と、から前記アンテナの設置地上高を算出し、
当該設置地上高と、前記記憶手段に記憶されるセル半径を示す値と、に基づいて、前記アンテナのチルト角を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の基地局。
【請求項3】
前記チルト角設定手段は、当該基地局の位置座標におけるジオイド高および回転楕円体高に基づき、当該基地局のアンテナ高を取得することを特徴とする請求項1または2に記載の基地局。
【請求項4】
チルト角可変機構を備えたアンテナと、GPS受信手段と、前記アンテナを介して送受信を行う送受信手段と、を備えた基地局の自律設定方法であって、
前記GPS受信手段からの情報に基づき当該基地局の位置座標及びアンテナ高を取得する第1ステップと、
第1ステップで取得した情報に基づき、当該基地局のアンテナのチルト角を算出し、算出したチルト角を設定チルト角とする第2ステップと、
前記チルト角可変機構を用いて前記アンテナのチルト角を前記設定チルト角に設定する第3ステップと、
を備えたことを特徴とする基地局の自律設定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−175540(P2012−175540A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37286(P2011−37286)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】