説明

基材に塗布するためのインクまたはコーティング調合物

【課題】透明度の高い基材に塗布するためのインクまたはコーティング調合物を提供する。
【解決手段】インクまたはコーティング調合物は、液体と、CO2とアミンとを含む蒸発可能な両性イオン付加物と、からなる混合物を含み、前記両性イオン付加物は、基材にインクまたはコーティング調合物が塗布された後に蒸発し、前記液体は、第1の粘度を有し、前記インクまたはコーティング調合物は塗布される前の液体状体では第2の粘度を有し、第2の粘度は第1の粘度より大きいインクまたはコーティング調合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2004年5月19日に出願された特許仮出願番号第60/572,333号に対し優先権を主張する。
【0002】
1.発明の分野
本発明は一般的には、コーティング、印刷パターンなどとして、基材に塗布するように設計された液体調合物に関し、特に、液体と揮発性の粘度変更成分との混合物を含む調合物に関し、後者の揮発性の粘度変更成分は、混合物が基材に塗布され、処理されて機能的乾燥状態(functionally dried state)とされると、実質的に完全に蒸発する。
【背景技術】
【0003】
2.従来技術の説明
例えば、水および非水性媒質中で非常に希薄な状態から塗布するのが最も良いコーティングまたは印刷インクとして使用される溶液および分散物が存在する。しかしながら、多くの場合、これらのコーティングまたはインクのレオロジーのため、自由に流動しすぎて、塗布量の正確な制御ができなくなる場合がある。さらに、離散的に塗布する場合、自由に流動しすぎて、標的の位置に維持することができない場合がある。
【0004】
一般に「増粘剤」と呼ばれる、多くのレオロジー制御剤が存在し、これらは系の連続液体相中に組み入れられ、粘度を適当なレベル(塗布法の要求にあったレベル)に変更することができる。不都合なことに、後で乾燥させる系で使用した場合、後に残った増粘剤の濃度はしばしば高く、コーティングまたはプリントの性能に悪影響を与えてしまう。
【0005】
導電性インクの印刷および光学コーティング(optical coating)の塗布は、塗布目的のための高い粘度要求と機能的乾燥状態での純度との間にこの相違が存在する2つの非制限的な例である。残留増粘剤の誘電性は、導電性インク堆積物の導電率を不都合なほど低下させることがあり、そのような残留増粘剤の不透明度は、光学コーティングの所望の透明度に悪影響を与えるかすみ(ヘイズ)を誘因することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−166838号公報
【特許文献2】米国特許第5726251号明細書
【特許文献3】国際公開第99/021927号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため、対象となる塗布モードに適した粘度を達成するために増粘剤を組み入れることにより調整されたレオロジーを有し、基材に塗布された、機能的乾燥状態の結果的に得られたコーティングまたはインク堆積物から増粘剤が実質的に完全に除去された、コーティングおよびインク調合物が必要である。
【0008】
本明細書で使用されるように、「機能的乾燥状態」は、液体混合物の揮発成分が、目的とする用途に対する状態で混合物を配置するのに十分な程度まで蒸発させてあることを意味する。
【0009】
また、本明細書で使用されるように、液体混合物の成分は、機能的乾燥状態では、成分のいずれの残留物も混合物がその目的とする用途を実施することを妨害しない場合、「実質的に完全に除去された」と考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
本発明によれば、コーティングまたは印刷堆積物として基材に塗布するための調合物は、第1の粘度を有する液体と、液体および混合物の使用目的に対して適当な、好ましくは混合物の10質量%を超える量のアミン−酸付加物との混合物を含む。混合物は第1の粘度より高い第2の粘度を有する。アミン−酸付加物は、混合物を基材に塗布し、それを処理して機能的乾燥状態にする過程で、蒸発により実質的に完全に除去される。アミン−酸付加物の残留物は、このように塗布し、処理した混合物の0.2質量%と低く、典型的には、約0.1質量%未満、好ましくは0.01質量%未満、最も好ましくは0.001質量%未満とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
本発明は、炭化水素類〜アルコール類〜水の一定の範囲の溶液/分散物のための粘度制御剤としてアミンカルバメートを使用する。1級および2級アミン類が候補であり、3級アミン類は有益ではない。
【0012】
アミン類は、CO2で処理すると、アミンカルバメート(水が存在すると、アミンカーボネートを形成することができる)を形成する。この形成された両性イオン塩は、脂肪酸エステル類および塩類の場合と同様に、使用すると、そのような塩が相溶性を有する液体のレオロジーを変更させることができる。
【0013】
アミン類、とりわけ、液体混合物の溶媒または連続相の沸点温度付近の沸点を有するアミン類を使用すると、カルバメート(カーボネート)は分解して(CO2を放出し)、アミンは混合物の別の揮発成分と共に蒸発して無くなる。混合物を基材に塗布し、それを処理して機能的乾燥状態にする過程で、カルバメート(カーボネート)は実質的に完全に除去され、いずれの残留物も、このように塗布され、処理された混合物の0.2質量%と低く、典型的には0.1質量%未満、好ましくは0.01質量%未満、最も好ましくは0.001質量%未満である。
【0014】
この型のレオロジー制御が好都合な塗布としては、例えば下記が挙げられる:
(a)ナノテクノロジー、この場合、コートされる要素はしばしば非常に希薄な濃度であるが、コーティングは均一な配置を可能とするためにより高い粘度を必要とする。これは、カーボンナノチューブを取り扱う時に特に興味深い。この場合、粘度制御により塗布が容易になるだけでなく、コーティング、離散コーティング、または印刷前に、ナノチューブがキャリヤ液体中で絡まないようにする、このように凝集してキャリヤ液体から落ちないようにする際に安定化効果を有する、
(b)例えば、フィルムに基づく視覚駆動ユーザーインターフェース(film based vision driven user interfaces)(ディスプレイ、タッチスクリーン)のための光学コーティング、グラフィックのための透明な保護コーティング、などの塗布、この場合、機能的乾燥状態とした堆積物の透明度が何よりも必要とされる、
(c)電子製品製造において使用される他の汚染感応性コーティング、例えば、レジストコーティングの配置において使用される「インクジェット」型のコーティング(印刷)の使用、または回路中の導電素子の離散的配置のための接着処理。
【0015】
下記の実施例では、下記成分の1つまたは複数を用いて液体混合物を調製した:
マサチューセッツ州フランクリン所在のエイコス(Eikos)から入手したCNTインク濃縮物(3000ppm CNT)
マサチューセッツ州ウィルミントン所在のラフィ&スワンソン(Raffi&Swanson)から入手した油性インク(solvent ink)濃縮物#7633−41P
ジョージア州スミルナ所在のサーフェススペシャルティズ(Surface Specialties)UCBから入手した希釈アクリレートIBOA(イソボルニルアクリレート)
ペンシルベニア州アンブラー所在のコグニスコーポレーション(Cognis Corporation)から入手したUVコーティングECX4019。
【0016】
〈実施例1〉
導電性インク
WBカルバメート:
sec−ブチルアミン 90グラム
水 10グラム
CO2 粘度が11,500−12,500cPとなるまでバブリング
CNTインク処方:
CNTインク濃縮物(3000ppm CNT) 1%
水 21%
溶媒(IPA) 50%
カルバメート 28%
−−−−−−
100%
インク濃縮物の最初の粘度 30−100cP
混合物の最終粘度 1500−2000cP
【0017】
〈実施例2〉
光学コーティング
カルバメート:
n−ブチルアミン 50グラム
溶媒 50グラム
CO2 粘度が10,000cPとなるまでバブリング
油性インク処方:
油性インク濃縮物 10%
溶媒 70%
カルバメート 20%
−−−−−
100%
濃縮物の最初の粘度 100−200cP
混合物の最終粘度 1000−1200cP
【0018】
〈実施例3〉
光学コーティング
カルバメート:
n−プロピルアミン 20グラム
希釈アクリレート 80グラム
CO2 粘度が10,000cPとなるまでバブリング
UVコーティング処方:
UVコーティング 79%
カルバメート 21%
−−−−−
100%
UVコーティングの最初の粘度 200−250cP
混合物の最終粘度 1500−1800cP
【0019】
実施例1〜3の混合物を、マイヤー(Meyer)ドローダウンロッドを用いて透明なポリエステルフィルムに塗布し、70℃の実験室オーブンで1分間、処理してその機能的乾燥状態とした。得られた乾燥堆積物に対し、ヒドリオンインスタ−チェック表面pHペンシル(pHydrion Insta−Check Surface pH Pencil)(米国、ペンシルベニア州ウエストチェスターのVWRインターナショナル(International)から入手可能)を用いて残留カルバメート成分について試験した。各々の場合において、pHの読み取り値は5〜6の間であった。
【0020】
pHの定義(ホルツクロー(Holtzclaw)ら、一般化学(General Chemistry)、p.459、1984、D.C.、ヒース社(Heath and Co.)、マサチューセッツ州レキシントンによる、pHは、pH=−log[H+]の式で書かれる、水素イオン濃度の負の対数関数であるという化学的事実)に基づき、水素イオン濃度が高くなるほど、pHは低くなる。カルバメート類の残留アミン成分はいずれも水素イオン濃度を減少させ、このため、この試験で測定されるようにpHが増加する。
【0021】
この計算方法を使用し、上記pH読み取り値を基に、実施例1〜3の機能的に乾燥させた残留物中の残留カルバメート濃度を決定すると、7.3×10-6%の範囲内であった。そのような低下レベルでは、残留カルバメートは実施例1のインクの導電性、または実施例2および3のコーティングの透明度に有意の悪影響を与えないことが観察された。
【0022】
アミン類の両性イオン付加物は、CO2以外の材料を用いて形成させることができる。二硫化炭素(CS2)もまた、塩化水素(HCl)および低沸点有機酸類(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸)と同様に安定なアミン塩類を形成する。しかしながら、CO2は毒性が最小であるという利点を有し、かつかなり弱い酸であり、これは、処理されるコーティングのいくつかにとっては好都合である可能性がある。
【0023】
別の利点は、100℃を大きく上回った温度で安定なアミンカルバメート類/カーボネート類はほとんどないということである。このように、CO2−系付加物は、容易に分解され、優れた全体逃散性(overall fugitive property)を有する。
【0024】
アミン付加物を生成させ、その後、該付加物をコーティング(または印刷)系に添加することに代わる方法として、アミンを直接コーティングに添加し、その後、CO2、CS2などを添加し、その場(in−situ)でアミン付加物を形成させてもよい。全ての場合において、乾燥させると、アミンカルバメートは脱カルボキシル化され、その後、アミンが除去される。必要な温度はアミンおよび乾燥プロセス中にコーティングを「ウェットアウト(wet out)」で維持する際に再生アミンが重要な役割を果たす必要があったかどうかに依存する。
【0025】
本発明の印刷またはコート混合物は、様々な方法、例えば、加熱乾燥、空気乾燥、赤外線乾燥、マイクロ波乾燥および真空乾燥により乾燥させ、機能的乾燥状態としてもよい。
【0026】
本発明において有益なアミン類は下記表1において列挙した群より選択してもよい。
表1
アミン B.P.℃
モルホリン 129
N−エチル−n−ブチルアミン 91
n−ブチルアミン 78
sec−ブチルアミン 63
t−ブチルアミン 46
n−プロピルアミン 48
n−ペンチルアミン 104
ジ−n−ブチルアミン 129
N−メチル−n−ブチルアミン 91
エチレンジアミン 117
AMP(2アミノ−2−メチルアミン) 166
DMEA(ジメチル、エタノールアミン) 135

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体と、CO2とアミンとを含む蒸発可能な両性イオン付加物と、からなる混合物を含む、基材に塗布するためのインクまたはコーティング調合物であって、
前記両性イオン付加物は、基材にインクまたはコーティング調合物が塗布された後に、蒸発し、
前記液体は、第1の粘度を有し、前記インクまたはコーティング調合物は塗布される前の液体状態では第2の粘度を有し、第2の粘度は第1の粘度より大きい、ことを特徴とするインクまたはコーティング調合物。
【請求項2】
前記アミンが、n−プロピルアミンであることを特徴とする請求項1に記載のインクまたはコーティング調合物。
【請求項3】
前記アミンが、ブチルアミンであることを特徴とする請求項1に記載のインクまたはコーティング調合物。
【請求項4】
前記アミンは、モルホリン、N−エチル−n−ブチルアミン、n−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、t−ブチルアミン、n−プロピルアミン、n−ペンチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、N−メチル−n−ブチルアミン、エチレンジアミン、AMP、およびDMEAからなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載のインクまたはコーティング調合物。
【請求項5】
前記両性イオン付加物は、さらに希釈アクリレートを有することを特徴とする請求項1に記載のインクまたはコーティング調合物。
【請求項6】
前記両性イオン付加物は、塗布後の残留量が0.1質量%未満であることを特徴とする請求項1に記載のインクまたはコーティング調合物。
【請求項7】
前記両性イオン付加物は、塗布後の残留量が0.01質量%未満であることを特徴とする請求項1に記載のインクまたはコーティング調合物。
【請求項8】
前記両性イオン付加物は、塗布後の残留量が0.001質量%未満であることを特徴とする請求項1に記載のインクまたはコーティング調合物。
【請求項9】
前記液体は、ナノ粒子分散物を含むことを特徴とする請求項1に記載のインクまたはコーティング調合物。
【請求項10】
前記ナノ粒子はカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項9に記載のインクまたはコーティング調合物。
【請求項11】
前記両性イオン付加物は、前記混合物の10質量%を超えて含有されることを特徴とする請求項1に記載のインクまたはコーティング調合物。
【請求項12】
前記両性イオン付加物は、塗布後の堆積物の質量に対して0.2質量%未満まで除去されることを特徴とする請求項1に記載のインクまたはコーティング調合物。

【公開番号】特開2011−256396(P2011−256396A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181538(P2011−181538)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【分割の表示】特願2007−527464(P2007−527464)の分割
【原出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(595030516)フレクスコン カンパニー インク (3)
【Fターム(参考)】