説明

基材上に金属を電着する方法

シリカ粒子を内部に分散させた金属層を電気めっきするために、
a)第1の電位を有する第1のニッケル層を析出させる工程と、
b)前記第1のニッケル層上に前記第1の電位より負である第2の電位を有する第2のニッケル層を析出させる工程と、
c)基材上に金属を電着させるための溶液を用いて前記第2のニッケル層上に第3のニッケル層を析出させる工程と
を含む、基材上に金属を電着する方法、より詳しくは、基材上に耐腐食性ニッケル多層を形成する方法であって、
前記溶液が、析出させるべき金属のイオンおよびシリカ粒子を含有し、少なくとも1個のケイ素含有有機成分が前記シリカ粒子に提供され、前記ケイ素含有有機成分が、前記溶液に接触しつつ正電荷を前記シリカ粒子に付与する、アミノ、第四化アンモニウム、第四化ホスホニウムおよび第四化アルソニウムを含む群から選択される少なくとも1個の官能基を含む方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に耐腐食性ニッケル多層を形成する方法に関する。こうした耐腐食性ニッケル多層系は、例えば、自動車産業、衛生産業、備品装着産業、眼鏡産業において、および装身具に用いられる。
【背景技術】
【0002】
一方では、基材上に多層ニッケル系、続いてクロム薄層をめっきすることによって主として自動車産業のためのめっき物品の耐腐食性を達成することは最新技術である。こうした系における最後のニッケル層は、クロム層の中に裸眼に対して見えないが、腐食侵蝕を分散できる微小(ミクロ)な孔を作る。
【0003】
ニッケル多層は、通常、2層または3層のニッケル層からなる。すなわち、ややノーブルな(正)電位を有する任意の第1の層、ブライトなニッケル層であるとともに第1のニッケル層よりノーブルでない第2のニッケル層および第2の(ブライト)ニッケル層の上にめっきされている第3のニッケル層である。第2のニッケル層も2層のニッケル層に分割され得る。すなわち、非常に活性であるとともに第1のニッケル層上に析出される高硫黄ニッケル層と、更に活性であるとともに高度に平坦且つブライトなニッケル層である。最上(第3の)ニッケル層のめっきは、この第3のニッケル層上に導入される粒子を共析出させつつ行われる。最後に、クロム層は第3のニッケル層の上にめっきされる。クロム層は、第3のニッケル層に導入される粒子に起因するホール(孔)を含む。いかなる腐食侵蝕もこれらの孔を通して起き、よりノーブルでない第2の(ブライト)ニッケル層の溶解を最初に引き起こす。(最上の)第3のニッケル層およびクロム層が崩壊しない限り、腐食は目に見えないままである。腐食は、いかなる腐食に対しても基礎材料を保護する第1のよりノーブルなニッケル層で止まり、第2の(ブライト)ニッケル層中のよりノーブルでないすべてのニッケルが溶解するまで側方に進行する。
【0004】
前述した系は、スチール部品のみでなく、最初に通常にめっきされた金属層が銅であるめっきプラスチック物品に有効である。その性能は、CASS試験(ASTM B368:銅-促進酢酸-塩噴霧試験)によって確認される。この試験の結果は、1〜10の間のランクとして与えられる。「10」は、腐食侵蝕が全くない表面と比べて目視できる変化がないことを意味し、「1」は破壊された表面を表す。その試験は、長期の腐食後の表面の外観と基礎材料腐食との間を更に区別する。従って、その試験は、数値の対、例えば、表面の外観のいくらかの微小変化を除き基礎材料の侵蝕はないことを意味する10/9を与える。48時間のCASS試験のみの後、適切に調節されたニッケル・クロム多層系は、10/10の結果につながる表面を完全に保護できるのがよい。CASS試験は、結果として第3のニッケル層に不活性粒子を導入することに起因するクロム層中に作られる孔の数と関連している(非特許文献1)。
【0005】
作られた孔がより大きく成長するとき、または支持されたブライトなニッケルがもう存在しない場合に第3のニッケル・クロム層の保護作用が急激に落ちるとき、腐食は目視できるようになる。
【0006】
幾つかのパラメータは多層ニッケル系に影響を及ぼす。これらは、主として、金属層の厚さ、金属層の個々の相対電位およびクロム最上層中に作られる孔である。第2の(ブライト)ニッケル層が自身を犠牲にするので、より厚い層は、より長い侵蝕に耐えるのを助ける場合がある。第3のニッケル層またはクロム層の非常に薄い厚さは、保護層をより速く崩壊させる。主たる1つの影響はニッケル層の異なる電位である。二重結合を含むか、または塩化物を含有する有機添加剤は、電着ニッケルをよりノーブルにする場合がある。この目的のために適する公知の添加剤は、例えば、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸および抱水クロラールである。ニッケル層中に閉じ込められた硫黄分を増やす他の有機添加剤は、ニッケル層をよりノーブルでなくする。この群の1つのメンバーはサッカリンである。通常、適する添加剤を用いることにより、第1の(セミブライトな)ニッケル層と第2の(ブライトな)ニッケル層との間で確立される電位差は、90mV〜140mVの範囲内であるように調節される。電位および結果としての電位差は、STEP試験(ASTM B764:「多層ニッケル析出物中の個々の層の厚さと電位の同時決定」を用いて決定される)。第1のニッケル層と同様に、第3のニッケル層は、小さい孔を有する第3のニッケル層が一旦腐食が起きると溶解に全く遭遇せずに第2の(ブライトな)ニッケル層を覆わなければならないので、第2のニッケル層よりノーブルでなければならない。これを達成するために、20mV〜60mVの範囲内の第3のニッケル層と第2のニッケル層との間の電位差は通常調節される。
【0007】
最後の2層の金属層中の小さい孔が均一に分布していることを確実にしなければ、腐食はより不均一に起き、すぐにセミブライトなニッケル層を破壊し基礎材料を侵蝕さえできる裸眼で容易に目視できる僅かのみだが大きい孔をやや速く作る。従って、腐食侵蝕は、均一に分布しているのがよい(非特許文献2)。これは、第3のニッケル層のためのめっき溶液中に含まれる非導電材料の使用によって達成される。非導電性材料は前記小さい孔(「微孔質」表面)をもたらす。従って、第3の(不連続)ニッケル層は、「微孔質ニッケル」と呼ばれる。酸化アルミニウム、酸化チタン、濾過用土、酸化鉄、酸化クロムおよび酸化モリブデンの粒子は、この目的に適することが特許文献1において示されている。
【0008】
孔の均一な分布および信頼できる孔数を達成しようとする多くの試みがなされてきた。孔の数は、10,000cm−2より多いのがよいと考えられる(非特許文献1)。孔の数は、クロムの上に銅を析出させずにニッケル上にのみ銅を析出させる酸性銅電解質中の銅で試験片にめっき後に数えられる(Dubpernell試験、ASTM B604、B456)。通常は、無機材料を第3のニッケル電解質溶液に添加して孔を作る。こうした材料はシリカ((特許文献2)、Al+++イオンと組み合わせて[実施例I])、酸化チタン((特許文献3)、Ca++と組み合わせて)、AlまたはSiOで被覆された酸化チタン(特許文献4)または不溶性反応生成物、例えば、浴溶液に不溶性であるニッケル化合物(特許文献5)であり得る。ニッケル層に導入するために非導電性有機繊維も用いられた(特許文献6)。
【0009】
第3のニッケル層に導入されるべく用いられる無機粒子の実質的な不都合が存在する。すなわち、微細無機粒子材料からの粒子は、水またはニッケル電解質より大きい比重を有し、従って、めっき槽の底で沈殿する強い傾向を有する。沈殿を避けるために強い空気攪拌が用いられ、それは、その結果として、めっきされるべき部品の表面に接触することになるすべての粒子が、ニッケル層に導入されるためにそこに残るべきであるけれども直ちに吹き飛ばされるので不都合である。アノードバッグを目詰まりさせる危険を有するSiO粒子の不都合は確立された。これは、ニッケル電着浴中にあるとき、負の正味電荷をおそらく有するSiO粒子のゆえであると考えられる。非特許文献3は、金属イオンとAlおよびSiOの分散粒子との共析出について報告している。G.Vidrichらは、SiO-ニッケルマトリックス材料のめっきに関する優れた研究の欠如の1つの理由が、3または4より大きいpH範囲内の水溶液中の低いイオン濃度でさえSiOのしばしば観察された負の正味電荷のせいであろうと論じている。
【0010】
シリカの表面電荷を逆転させるために、非特許文献4は、シリカの表面上に正帯電材料を吸収することを、しかしニッケル電気めっきに言及せずに報告している。シリカの電荷を正に逆転させるために適する帯電材料は、例えば、Al、Cr、Ga、TiおよびZrなどの3価および4価の材料であることが示されている。多価有機カチオンもこれらの金属の代わりにシリカに吸収される場合がある。代案において、特許文献7は、テキスタイル用の仕上げ剤として用いるための水性分散液であって、発熱的に製造された凝集した二酸化物粉末および前記分散液に可溶であるカチオンポリマーを含有する水性分散液を開示している。更に、特許文献8は、カチオン的に安定化されている水性シリカ分散液を開示している。こうした分散液は、紙、フォイルおよび他の印刷媒体上に被着させるべきペイントとして、基材の機械的特性および光学的特性を改善するための木材、プラスチック、金属、テキスタイルおよびフォイルのような基材上の塗料として、2つのフォイルの互いからの分離を改善するためのフォイル上の塗料として、ならびに研削剤および艶出剤において、用いられるべく述べられている。
【0011】
更に、特許文献9は、析出ニッケル層の中で粒子を形成するためのアルカリ金属ケイ酸塩とカオリンとを含むニッケル析出溶液に言及している。アルカリ金属ケイ酸塩はカオリン粒子の電荷を変えて、ニッケル析出物にカオリン粒子を導入することを可能にすることが報告されている。
【0012】
特許文献10は、亜鉛-シリカ複合材めっき鋼を製造する方法を開示している。亜鉛めっき浴は、亜鉛のイオン、例えば、ZnSOおよびシリカ粒子を含有する。亜鉛-シリカ複合材めっき鋼の電着後に、アルコキシシランでシランカップリング処理を行う。
【0013】
特許文献11は、亜鉛の層と亜鉛の層に分散された酸化物粒子とを含む複合材により鋼材製の生産物を電着する方法を開示している。こうした酸化物粒子は二酸化ケイ素粒子であってよい。一旦複合材を電気めっきしてしまうと、シラン層を好ましくは含むカップリング層をその上に析出させる。
【0014】
特許文献12は、金属被膜の表面上に析出させる方法を開示している。析出は、より特に電気めっきによって水浴から行われる。溶液は、金属のイオン、例えばNiSOおよび微細な固体、例えば、炭化ケイ素または他の金属、例えば酸化物を含有する。水浴は、少なくとも1個のHN基を含むアミノ-オルガノシリコン化合物を含有する。アミノ-オルガノシリコン化合物は、好ましくは固体と反応する。
【0015】
特許文献13は、金属、例えばニッケルと固体無機粒子の電解共析出のための方法を開示している。無機粒子は、カチオンフルオロカーボン界面活性剤により浴液に懸濁して保たれる。固体無機粒子は、例えば、二酸化ケイ素粒子であってよい。耐摩耗性被膜を形成するのが好ましい場合、炭化ケイ素粒子が好ましく用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第3,449,223号明細書
【特許文献2】米国特許第3,825,478号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0,431,228A1号明細書
【特許文献4】JP第04371597A号公報
【特許文献5】米国特許第3,736,108号明細書
【特許文献6】英国特許第1,118,167号明細書
【特許文献7】国際公開第2005/106106A1号パンフレット
【特許文献8】欧州特許出願公開第1,894,888A1号明細書
【特許文献9】独国特許出願公開第2432724A1号明細書
【特許文献10】米国特許第4,655,882A号明細書
【特許文献11】BE第1002885A7号明細書
【特許文献12】英国第1421975A号明細書
【特許文献13】米国特許第4,222,828号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】E.P.Harbulakら「Chromium Microporosity and Active Sites」、Plating and Surface Finishing,(1989年)58−61
【非特許文献2】M.Haepら:「DUR-NI4000-Verbesserter Korrosionsschutz mit Groesserer Prozesssicherheit」,Galvanotech-nik,(2004年)894−897
【非特許文献3】G.Vidrichら「Dispersion Behavior of AL2O3 and SiO2 Nanopartocles in Nickel Surfamate Plating Baths of Different Composition」,J.Electrochem.Soc.152(5)、C294−C297(2005年)
【非特許文献4】C.J.Brinker、G.W.Scherrer「Sol-Gel Science:The Physics and Chemistry of Sol-Gel Processing」,第一版、Academic Press,1990,410−415頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
前述の事情を考慮して、本発明の目的は、基材上に金属を電着するための溶液を提供することである。本発明の別の目的は、基材上に金属を電着する方法を提供することである。本発明のなお更なる目的は、基材上に耐腐食性ニッケル多層を形成する方法を提供することである。本発明のなお更なる目的は、金属被膜、特にニッケル被膜、なおより特にクロム被膜と共に被覆されたニッケル被膜の表面への耐腐食侵蝕性の均一性を改善する手段を提供することである。より詳しくは、本発明の更なる目的は、クロム被膜中に形成された孔の均一性を改善する手段を提供し、特に、クロム被膜の下に直接析出されるニッケル層に導入される非導電性粒子の分布の均一性を改善する手段を提供することである。最も詳しくは、本発明の目的は、ニッケルと共に共析出されるシリカ粒子を含有する基材上に、金属、より詳しくはニッケルを電着させるための溶液および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
定義
本開示の目的のために、以下の定義を適用する。
【0020】
「アルキル」は、炭化水素鎖を表す飽和または不飽和の1価または2価のあらゆる基を意味する。従って、アルキルは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、t-ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、へプチルおよびオクチルなど、最も好ましくはメチルのような、置換されていないとき、一般化学式C2n+1(式中、nは零より大きい整数である)有する1価飽和炭化水素鎖、またはメチレン(−CH−)、エチレン(−CH−CH−)、n-プロピレン(−CH−CH−CH−)、イソプロピレン(−CH(CH)−CH−)などのような、置換されていないとき、一般化学式C2n(式中、nは零より大きい整数である)有する2価飽和アルキル鎖であってよい。更なるアルキルは、1価不飽和炭化水素鎖、すなわち、少なくとも1個の二重結合または少なくとも1個の三重結合もしくはその両方、少なくとも1個の二重結合および少なくとも1個の三重結合を有する炭化水素鎖であってよい。少なくとも1個の二重結合を有する1価炭化水素鎖は、エテニル(−CH=CH)およびプロペニル(−CH=CH−CH、−CH−CH=CH)のような、置換されていないとき、一般化学式C2n−1(式中、nは零より大きい整数である)有する。少なくとも1個の二重結合を有する2価炭化水素鎖は、エテニレン(−CH−CH−)のような、置換されていないとき、一般化学式C2n−2を有する。少なくとも1個の三重結合を有する1価炭化水素鎖は、エチニル(−CH≡CH)のような、置換されていないとき、一般化学式C2n−3(式中、nは零より大きい整数である)有する。少なくとも1個の三重結合を有する2価炭化水素鎖は、エチニレン(−C≡C−)のような、置換されていないとき、一般化学式C2n−4を有する。上の定義において、nは1〜16、より好ましくは1〜12、なおより好ましくは1〜10、なおより好ましくは1〜6、なおより好ましくは1〜5、最も好ましくは1〜4の整数であってよい。これらの定義を参照すると、nは、代案実施形態において少なくとも2または少なくとも3であってよい。従って、アルキルは、C〜CアルキルまたはC〜CアルキルもしくはC〜Cアルキルであってよい。
【0021】
アルキルは置換されていてよい。この場合、アルキルの少なくとも1個の水素原子は、アリール、ヘテロアリール、OR、NR’R”、COOR、CONR’R”(式中、R、R’およびR”は独立して水素、アルキル、アリールおよびヘテロアリールから選択される)のような、いずれかのラジカル基によって置換されている。
【0022】
「アリール」は置換されていても、または置換されていなくてもよい芳香族C〜C12炭化水素部分を意味する。置換アリールにおいて、その少なくとも1個の水素原子は、アルキル、アリール、ヘテロアリール、OR、NR’R”、COOR、CONR’R”(式中、R、R’、R”は独立して水素、アルキル、アリールおよびヘテロアリールから選択される)のような、いずれかのラジカル基によって置換されている。最も好ましくは、アリールはフェニルである。
【0023】
「ヘテロアリール」は、5〜12環員を有するとともに、炭素原子に加えて、N原子、S原子およびO原子の少なくとも1個を環員として有する芳香族部分を意味する。ヘテロアリール部分は、置換されていても、または置換されていなくてもよい。置換ヘテロアリールにおいて、少なくとも1個の水素原子は、アルキル、アリール、ヘテロアリール、OR、NR’R”、COOR、CONR’R”(式中、R、R’、R”は独立して水素、アルキル、アリールおよびヘテロアリールから選択される)のような、いずれかの官能基によって置換されている。最も好ましくは、ヘテロアリールは、ピリジル、ピリル、チオフェニル、フラニルおよびピラゾイルなどである。
【0024】
「アミノ」は、部分−NR’R”(式中、R’およびR”は独立して水素、アルキル、アリールおよびヘテロアリールを含む群からから選択されるか、あるいは、環部分とN原子と共にあるべき1個の単一の二価基を形成してよい)を意味する。
【0025】
「イミノ」は、部分−NR−または=NR(式中、Rは、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールである)を意味し、2個の他の原子への2個の結合(−NR−)または1個の他の原子への二重結合(=NR)を形成してよい。
【0026】
「シリカ」は大雑把に言うと二酸化ケイ素である。シリカ粒子は、粒度、凝集度、結晶化度、比表面積および有孔度などの点で、その製造方法に応じて異なる場合がある。本発明による「シリカ」は、アルミナのような他のあらゆる材料の粒子からなる材料として理解されてもよい。この場合、他の材料のこれらの粒子はシリカ材料で完全に覆われており、粒子の表面は主としてシリカ表面のように挙動する。シリカは、Aerosil(登録商標)(Evonik Degussa)、HDK(登録商標)(Wacker Chemie)およびCab-O-Sil(登録商標)(Cabot)のような商品名で市販されている。シリカは、結晶質または非晶質であってよい。シリカはコロイドとして提供される場合もある。
【発明を実施するための形態】
【0027】
前述した目的は、請求項1に記載の基材上に耐腐食性ニッケル多層を形成する方法によって達成される。本発明の好ましい実施形態は従属請求項において表されている。原則として、前述した目的は、基材上に金属を電着する溶液および基材上に金属を電着する方法によっても達成される。
【0028】
ニッケル層が、共析出されるシリカ粒子と共に析出される場合に外側クロム層中の孔の均一分布が容易に達成されることがここで見出された。この場合、シリカ粒子が製作品表面に効果的に移行されることを確実にするためにシリカ粒子には十分に大きい正電荷を与える。従って、本発明は、金属電解質中、好ましくはニッケル電解質中および電場中の粒子の挙動に関して改善された性能を有する粒子を用いる。粒子は、多い孔数および孔サイズの広い範囲の作成を可能にする。シリカ粒子上の正電荷は、溶液に接触しつつこの正電荷をシリカ粒子に与える少なくとも1個のケイ素含有有機成分をシリカ粒子に提供することによりシリカ粒子に付与される。
【0029】
従って、本発明の一態様は、基材上に金属、好ましくはニッケルを電着させる溶液を提供することであり、前記溶液が、析出させるべき金属イオン、好ましくはニッケルイオンおよびシリカ粒子を含有し、ここで、溶液に接触しつつ正電荷をシリカ粒子に付与する少なくとも1個のケイ素含有有機成分が提供される。前記少なくとも1個のケイ素含有有機成分は、アミノ、第四化アンモニウム(quaternized ammonium)、第四化ホスホニウム(quaternized phosphonium)および第四化アルソニウム(quaternized arsonium)を含む群から選択される少なくとも1個の官能基を含み、好ましくはシリカ粒子に結合する。少なくとも1個の官能基は、前記溶液に接触しつつ必要に応じて正電荷をシリカ粒子に付与する。
【0030】
本発明の別の態様は、基材上に金属を電着する方法を提供することである。前記方法は以下の工程を含む。
(a)本発明による金属を電着するための溶液に基材および少なくとも1個のアノードを接触させる工程および(b)電流を加えて、基材および少なくとも1個のアノードを通して流し、金属を基材上に析出させるようにする工程。
【0031】
本発明の方法によりおよび本発明の溶液を用いることにより製造されたニッケル層は、好ましくはクロム層が上に重ねられるニッケル多層構造、例えば、2層、3層または4層のニッケル多層構造の一部として析出される。
【0032】
従って、本発明の更なる態様は、基材上に耐腐食性ニッケル多層を形成する方法であって、以下の方法工程、a)第1の電位を有する第1のニッケル層を析出させる工程と、b)前記第1のニッケル層上に前記第1の電位より負である第2の電位を有する第2のニッケル層(すなわち、第2のニッケル層は、第1のニッケル層よりノーブルでない)を析出させる工程と、c)本発明の金属を電着するための溶液を用いて前記第2のニッケル層上に第3のニッケル層を析出させる工程とを含む方法が提供される。
【0033】
水中でシリカは、通常、負の正味電荷を発現し、従って、孔を作ることが意図されているカソードに移されない。そうでなく、シリカはアノードに移され、高濃度でアノードバッグを遮断さえする場合がある。溶液に接触しているときに、正電荷をシリカ粒子に付与する少なくとも1個の有機成分を提供することにより、クロム層中の均一な多い孔数が達成される。こうした利点は、第3のニッケル層に導入されるべき他の材料粒子上で他の利点を有するシリカと組み合わされ、これらの他の利点は、シリカが非常に多孔質であることと、シリカが親水性表面を示すことである。多孔質親水性シリカ(またはガラス粒子)(あらゆるサイズおよび多孔度において市販されている)は、粉砕アルミナまたはタルクのような鉱物の代わりに選択される。シリカが長時間にわたり水または電解質に容易に分散できるからである。シリカ粒子の高い多孔度は、粒子を低比重に帰する追加の利益を提供し、低比重は、その結果として、より低い沈降傾向のゆえにめっき溶液中で粒子のより均一な分布をもたらす。これは、次に、粒子を懸濁させておくために別段に必要とされる浴溶液への複雑化し面倒な空気注入を不要にする。
【0034】
シリカ粒子は水中で沈殿する傾向がない。この理由で、補充を非常に単純で信頼できるようにする懸濁液としてシリカ粒子を電解質溶液に利用することが可能である。若干高い孔濃度(例えば、>20,000cm−2)での他の無機材料、特にタルクは、曇ったクロム析出物を生じさせる一方で、新規発明粉末は、100,000cm−2より遙かに高い孔数でさえも一切の可視ヘーズをもたらさない。
【0035】
本発明の更なる大きな利点は、莫大な数の様々なタイプのシリカが市販されていることである。広範囲の多孔度およびサイズを有するシリカ粒子は入手可能であり、必要に応じてケイ素含有有機成分を容易に提供することが可能である。
【0036】
有機成分により改質後の粒子は規定された正電荷を有するので、電流密度を設定することにより、そして金属電解質、特にニッケル電解質中の改質されたシリカ粒子の濃度を調節することにより、孔数を単純に調節してよい。予測できない結果につながるであろう複雑化し面倒な構成の空気攪拌を提供する必要はない。
【0037】
例えば、アルミナ被覆シリカ粒子は、これらの粒子を製作品に移すことを確実なものにするためにニッケル電解質が作用するpH(pH=3.5〜5.5)で正の正味電荷を示す。更に、こうした被覆粒子は、固体アルミナより親水性であり、固体アルミナ粒子より容易に湿るようになり、電解質溶液に容易に分散されることになる。しかし、これらの粒子は、本発明による有機成分をシリカ粒子に与えることにより得られるシリカ粒子と同じ表面電荷量を示さない。
【0038】
有機成分はケイ素含有有機成分である。ケイ素含有有機化合物としてのシランおよびシロキサンなどは容易に反応して、シリカ粒子の表面に結合された、好ましくは共有結合されたケイ素含有有機成分を生成する。
【0039】
本発明の好ましい実施形態によると、少なくとも1個の有機成分はシリカ粒子に結合される。これは、一方で有機成分上、他方でシリカ表面上の対応する反応中心間で化学(共有)結合が形成されることを意味する。化学結合は、シリカ粒子に正電荷を付与する部分がシリカ粒子から脱離も、別段に剥離もされないことを確実にする。従って、有機成分によってシリカ粒子に引き渡された正電荷は一定であり、電解質析出溶液中で生じる平衡のような一切の表面効果に依存しない。
【0040】
正電荷をシリカ粒子に付与するために、有機成分は、その原子の少なくとも1つ、すなわち、窒素原子またはリン原子もしくはヒ素原子上に正電荷を有する。正電荷は、正電荷を形成するか、または有する有機成分の一部である化学基によって提供されてよい。化学基の後者の実施形態は、永久正電荷、すなわち、アンモニウム基、ホスホニウム基およびアルソニウム基を有する。化学基は、金属めっきの条件下でのみ、すなわち、金属めっき溶液中に存在するpH条件のゆえに、こうした正電荷を形成する。
【0041】
こうした正電荷を形成する化学基は、例えばアミン基である。従って、こうした正電荷は、アミノ、第四化アンモニウム、第四化ホスホニウムおよび第四化アルソニウムを含む群から選択される少なくとも1個の官能基によって形成または提供される。第四化アンモニウム、第四化ホスホニウムおよび第四化アルソニウムが永久正電荷を特徴にしているのに対して、アミノは、金属析出溶液のpHが、pH約7、より好ましくはpH約6、なおより好ましくはpH約5.5、なおより好ましくはpH約5、最も好ましくはpH約4.5であると規定してよい特定の域値より下である場合のみ正電荷を特徴にしている。従って、pHが本明細書において上で与えられた上限のいずれか1つより下である場合、アミノはプロトン化されてアンモニウムイオンを生成し、従って正電荷をシリカ粒子に付与する。金属析出溶液のpHの下限は、金属析出溶液のタイプに応じて異なり、pH約0、より好ましくはpH約1、なおより好ましくはpH約2、なおより好ましくはpH約3、なおより好ましくはpH約3.5、最も好ましくはpH約4である。
【0042】
本発明のより好ましい実施形態において、正電荷は、例えば、シラン、アミノシランをシリカ粒子表面に結合することによりシリカ粒子に導入される。代案として、シランは、アンモニウム基、ホスホニウム基およびアルソニウム基の少なくとも1つを有するか、またはシランをシリカ粒子表面に結合させる時にこうした基を持たないシリカ粒子表面に結合されてよいが、こうしたオニウム基は、その後、すなわち、シランがシリカ粒子表面に既に結合されていたときに形成される。
【0043】
なおより好ましくは、少なくとも1個の有機成分は、一般化学式I、II、IIIまたはIVを有する試薬とシリカ粒子の反応によって形成される。
(RO)Si-R-QR
(RO)Si-R-Q II
(RO)Si-R-(QR III
(RO)Si-R-(Q IV
(式中、QはN(窒素)、P(リン)またはAs(ヒ素)であり、Qは好ましくはNである。RおよびRは、互いに独立して、非置換アルキルまたは置換アルキルもしくは非置換アリールまたは置換アリールであり、好ましくは、非置換アルキルまたは置換アルキルであり、Rは、より好ましくはC〜Cアルキルであり、Rは、より好ましくはC〜Cアルキルであり、Rは水素であってもよい。R、RおよびRは、水素、非置換アルキルまたは置換アルキルもしくは非置換アリールまたは置換アリールであり、ここで、R、RおよびRは、互いに独立して、アミノ部分とイミノ部分とを含む少なくとも1個の官能基を更に含んでよい)。
【0044】
有機成分を与えられたシリカ粒子は圧倒的な効果を示す。この材料で改質されたシリカ50mg/lのみが、ニッケル層に共析出されるときに平方センチメートル当たり100,000孔超を製造し得る。他の材料粒子が300mg/l超の濃度および電解質中で注意深い空気分布を必要とする一方で、有機成分を提供された多孔質シリカは、空気攪拌または空気分布のために注意を全く必要としない。
【0045】
より詳しくは、少なくとも1個の有機成分は、シリカ粒子と(3-アミノプロピル)トリエトキシシランの反応によって形成される。こうした反応は、シリカ粒子表面で露出されるSi-OH基を加水分解のゆえに通常有するシリカ粒子表面での縮合反応であると考えられる。一般化学式Iを有する化合物とシリカ粒子表面のSi-OH基とのこうした縮合反応は次の通りであってよい。
Si-OH+(RO)Si-R-NR→Si-O-Si(OR-R-NR+R-OH
【0046】
更なる反応工程が次の通り更なる表面Si-OH基で起きる場合があることが考えられる。
【数1】

および
【数2】

【0047】
有機成分を提供されたシリカ粒子は、アセトンまたはクロロホルムのような非水溶媒中でシリカ粒子およびシラン化合物を混合することによってシリカ粒子とシラン化合物を反応させることにより製造してよく、短時間、例えば、1時間にわたり反応混合物を反応させたままにしておいてよい。その後、反応混合物中で形成された沈殿物を例えば濾過によって分離することが可能である。代案として、シランを水性媒体中で酸と混合する。その後、シリカは、好ましくは反応混合物を攪拌しつつ、この反応混合物に分散させる。シリカ粒子の表面に1種のまたは複数種の異なるアミノシランを結合することにより改質されたシリカ粒子を調製するより綿密で多岐にわたる実施形態および実施例は欧州特許出願公開第1,894,888A1号明細書において開示されている。欧州特許出願公開第1,894,888A1号明細書からの、多岐にわたるシリカ源のタイプおよびシリカタイプ、シリカ粒子とアミノシランとを反応させるために用いられる溶媒、反応混合物中で用いられる酸ならびに反応工程中の主たるpH、アミノシラン化合物(RSiX(4−a))のタイプ(ここで1種または複数種のこうしたアミノシランは、シリカ粒子表面に結合されるべく用いられる)、シリカとアミノシランの濃度と濃度比、シリカ粒子とアミノシランを反応させるための操作(混合、攪拌)、反応混合物に懸濁されるシリカ粒子の濃度、得られる生成物に添加される添加剤のタイプなどは、本願の記載に援用されるべく言及される。
【0048】
本発明により用いられるシリカ粒子は、好ましくは300m/gまでの比表面積を有する。比表面積の下限は、好ましくは40m/gである。より好ましくは、上限は250m/gであり、下限は140m/gである。本明細書において上で示された範囲の上限および下限を組み合わせて、いかなる範囲も与えてよい。比表面積に関する上の値は、一旦シリカ粒子を反応させて、有機成分をシリカ粒子の表面に結合させると、最適な正表面電荷を与えるように選択される。比表面積はBET法を用いて決定される。
【0049】
更に、シリカ粒子は、好ましくは、0.3μm〜15μm、より好ましくは0.6μm〜12μm、最も好ましくは0.6μm〜5μmの範囲内の平均径を有する。「平均径」という表現は、例えば、動的レーザー散乱測定によって得られた粒度分布のd50値としてここで定義される。粒度分布の決定のためのこうした方法は当業者に知られている。従って、平均径の下限は、好ましくは0.3μm、より好ましくは0.6μmである。上限は、好ましくは15μm、より好ましくは12μm、最も好ましくは5μmである。平均径の上限と下限を組み合わせて、これらの限界を有するいかなる範囲も与えてよい。平均径に関する上の平均値は、分散剤(金属析出浴)における最適分散性(均一分布)を与えるように選択される。
【0050】
シリカは、2mg/l〜10mg/l、より好ましくは10mg/l〜1mg/l、なおより好ましくは20mg/l〜500mg/l、最も好ましくは35mg/l〜100mg/lの濃度で本発明の電解質溶液中に含まれてよい。従って、この濃度の下限は、2mg/l、より好ましくは10mg/l、なおより好ましくは20mg/l、最も好ましくは35mg/lであってよく、この濃度の上限は、10g/l、より好ましくは1g/l、なおより好ましくは500mg/l、最も好ましくは100mg/lであってよい。下限値と上限値をいかなる方法においても組み合わせて、好ましい濃度範囲を与えてよい。電解質溶液中のシリカの濃度は約50mg/lであってよい。
【0051】
金属は、直流、もしくは単極パルス電流または二極パルス電流を含むパルス電流を用いて基材上に析出させてよい。代案として、金属は、直流時間とパルス電流時間を交互に行う時間のシーケンスを用いて析出させてよい。めっきは、更に、浸漬タンクおよびめっきされるべき物品を入れるラックを用い、アノードをめっきされるべき物品に向けつつ、こうしたタンクに含まれた本発明の電解質溶液にめっきされるべき物品を浸漬させて従来のプラントで行ってよい。物品は、めっき溶液に浸漬されているドラムにも含まれてよい。代案として、めっきされるべき物品は、物品を収容するためにトレーを用いるコンベア設置めっきプラントの中に置き、処理してよい。アノードは、めっきされるべき物品の片側または好ましくは両側に置いてよく、可溶性電極、すなわち、析出される金属と同じ金属から実質的に作られているので電着操作のゆえに溶解するアノードであってよい。もしくは、アノードは電着操作中に溶解しない材料から作られる、すなわち、溶液に対して不活性およびめっき条件下で不活性である材料から作られる。めっきは、溶液を程度の差はあれ攪拌させて行われ、空気注入を含む。
【0052】
基材は、金属層をめっきするために適するあらゆる製作品、例えば、金属製の製作品またはプラスチック材料製の製作品もしくは他のあらゆる非導電性材料製の製作品であってよい。非導電性基材は、電流を加えてまたは加えずに、いずれかの研削金属めっき法、すなわち、浸漬めっき法または無電解めっき法により最初にめっきしてよい。その後、金属層は、本発明による溶液を用いてめっきされる。そして最後に、他の金属層は、本発明の溶液でめっきされた金属層の上にめっきしてよい。
【0053】
更に、析出されるべき金属のイオンおよびケイ素含有有機成分で改質されたシリカ粒子に加えて、めっき溶液は、好ましくは酸または緩衝剤のようなpH調節剤を含有する。
【0054】
本発明のより好ましい実施形態において、析出されるべき金属はニッケルである。ニッケルは、ニッケルイオン源として、より詳しくは、ニッケル塩として、最も好ましくは硫酸ニッケル、塩化ニッケル、炭酸ニッケル、酢酸ニッケル、ホウ酸ニッケル、スルファミド酸ニッケル、メタンスルホン酸ニッケルとして金属析出溶液に供給してよい。
【0055】
金属析出溶液、好ましくは、ニッケル析出溶液は、少なくとも1種の酸、好ましくは無機酸、最も好ましくはニッケル塩の対アニオンには普通である対アニオンを有する酸、例えば、硫酸、スルファミン酸、メタンスルホン酸、ホウ酸および酢酸を更に含有してよい。最も好ましくは、本発明の金属析出溶液、好ましくは、ニッケル析出溶液は、酸またはpH調節剤としてホウ酸を含有する。
【0056】
酸は、更にpH調節剤またはpH調節剤の一部と同じであると理解することが可能であり、ここで後者は緩衝剤混合物であってよい。
【0057】
更に、金属析出溶液、好ましくは、ニッケル析出溶液は、輝度、均染性および腐食挙動(腐食の電位)などのような金属析出特性に影響を及ぼす有機化合物のような、金属析出浴の制御に役立つ添加剤を含有する。こうした化合物は、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸のような不飽和化合物、更に抱水クロラール、およびサッカリンのような低い酸化状態において硫黄原子を有する有機化合物であってよい。
【0058】
ニッケル多層は基材表面上に析出させてよい。場合により、クロム層はニッケル多層の上に析出させてよい。こうしたニッケル多層およびクロム層は一般に耐腐食性であることが当該技術分野において公知である。ニッケル多層は、一般に、2層または3層のニッケル層、すなわち、ややノーブル(正)な電位を有する任意の第1のニッケル層、ブライトなニッケル層であるとともに第1のニッケル層よりノーブルでない第2のニッケル層および第2の(ブライトな)ニッケル層の上にめっきされる第3のニッケル層からなる。共析出シリカ粒子がその中に含まれた第3のニッケル層の上にクロム層を析出させてよい。腐食侵蝕は、クロム層および第3のニッケル層の中に作られた複数の孔を通して起き、よりノーブルでない第2の(ブライトな)ニッケル層の中で最初に進行する。従って、金属被膜の目視できる変化は起きない。第1のニッケル層は、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、およびホウ酸、例えば、リットルのめっき溶液当たり約60gのNiCl・6HO、270gのNiSO・6HOおよび45gのホウ酸を含有するいわゆるWatts電解質を用いて析出させてよい。この浴は、典型的には、他に、ヘキシンジオール誘導体またはブチンジオール誘導体もしくはプロパルギルアルコール誘導体のようなサリチル酸エチン誘導体を添加剤または複数の添加剤の混合物として含有する。第2のニッケル層は、トルエンスルホン酸またはプロパルギルスルホン酸塩のような典型的には硫黄含有化合物、さらに添加剤または複数の添加剤の混合物としてサリチル酸の代わりにサッカリンを用いることにより第1のニッケル層を析出させるために用いられる電解質とは異なるWatts電解質を用いて析出させてよい。第3のニッケル層は、第1のニッケル層および第2のニッケル層を析出させる場合のようにWattsニッケル電解質を用いて析出させてよいが、添加剤の混合物としてサッカリンまたはその塩および抱水クロラールならびに更に孔を形成するために記載されたシリカを更に含有する。前述したすべての電解質溶液は、ブライトナーまたはエチルヘキシルスルフェートのような湿潤剤のような更なる添加剤を更に含有してよい。電解質溶液のpHは、2.5〜6、より好ましくは3〜4.5、最も好ましくは4.0であってよい。ニッケル電気めっき操作中の電解質の温度は、40〜70℃、より特に50〜60℃、最も好ましくは55℃のように高めてもよい。
【0059】
以後、本発明を以下の実施例を参照してより明確に記載する。図および実施例において示した実施形態は本発明の範囲を制限するべく意図されていない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明による電解質溶液(P305b)に関する電流密度に対する孔数およびアルミナ粒子と有機成分で改質されていないシリカ粒子を含有する先行技術の電解質溶液(GZZ)に関する電流密度に対する孔数の得られた関係を示している。
【図2】改質されたシリカ粒子を用いる粉末の粒子濃度に対する孔数の比を示している。
【図3】孔分布を研究するために用いられた曲がったパネルの概略図を示している。
【図4】孔分布を研究するために用いられた曲がった鋼板の概略図を示している。
【図5】本発明によりめっきされた部品を示している。
【実施例】
【0061】
実施例1(その表面にアミノシランを結合することにより改質されたシリカ粒子の調製およびニッケル電気めっき浴中でのその使用)
(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン3.0mlを乾燥アセトン200mlに溶解させた。溶液をSD-530粉末(Hang Tian Sai De/Beijing,P.R.Chinaの多孔質シリカ、5μm粒度で26.2%のピーク体積)15g上に注いだ。混合物を放置して室温で1時間にわたり反応させた。その後、粉末をアセトンで洗浄し、放置して一定重量に達するまで室温で乾燥させた。
【0062】
対向側に2個のニッケルアノードを備えた矩形PVCタンクを2lのWattsニッケル電解質(60g/lのNiCl・6HO、270g/lのNiSO・6HO、45g/lのホウ酸)で満たした。電解質を55℃に加熱した。その後、エチルヘキシルスルフェートに基づく湿潤剤の溶液0.2ml/l、サッカリン酸ナトリウム0.7g/l、抱水クロラール50mg/lおよびブライトナーの添加によって電解質を調節した。すべての添加後の電解質のpHはpH=4.0であると判明した。電解質2lに改質シリカ100mgを添加した。溶液は顕著な濁りが全くなく透明なままであった。溶液の攪拌を軽く適度な空気攪拌のみによって達成した。
【0063】
矩形スチールパネルを適切に前処理し、セミブライトなニッケル約10μmおよびブライトなニッケル約10μmでめっきした。その後、こうした調製されたパネルを電流密度3A/dmで3分にわたり上述した電解質中で、その後、従来から入手できるクロム電解質(AtotechのUnichrome(登録商標)843)中で3分にわたりめっきした。
【0064】
クロム層の平均厚さは、パネルの端で0.23μm、パネルの中間で0.16μmであることが判明した。すべてのニッケル層の全厚さは、17μm/25μmであった。セミブライトなニッケル層とブライトなニッケル層との間の電位は、121mV〜135mVの範囲内であり、最後の2つのニッケル層の間(第2のニッケル層と第3のニッケル層との間)の電位は28mV〜35mVの範囲内であった。平均孔数は55,000cm−2であった。198時間のCASS試験後、格付け(5名の独立検査員の平均)は、外観に関して9.33および保護に関して9.72であった。
【0065】
実施例2(その表面にアミノシランを結合することにより改質されたシリカ粒子の調製)
Syloid244FP(Grace、3.3μmでピーク体積15.2%)をオーブン中で2時間にわたり110℃で乾燥させた。シリカ粉末は4.2重量%を失った。(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン5.0mlをクロロホルム(HPLCグレード、水<0.001%)100mlに溶解させ、PPボトル中のシリカ粉末15g上に注ぎ、後でPPボトルをしっかり閉じた。不透明ゲルは短時間の反応後にスラリーに変わった。1時間後、懸濁液をブフナー漏斗中の濾紙上に注ぎ、クロロホルムを真空によって吸引し、残りの材料をクロロホルムで注意深く洗浄した。得られた材料を重量がもう変化しなくなるまで110℃で再び乾燥させた。反応後の重量増加は9.5%であった。
【0066】
実施例2.1:
実施例2の実験をSD-530で繰り返した。
【0067】
【表1】

【0068】
アルミノシランの異なる濃度で、得られた重量増加は僅かのみ異なった。
【0069】
【表2】

【0070】
実施例3(その表面にアミノシランを結合することにより改質されたシリカ粒子の調製およびニッケル電気めっき浴中でのその使用)
2種の粒子を比較した。すなわち、実施例1において記載された改質SD530、ただし15gの粉末に対してアミノシラン5mlで改質されたものと商業的に用いられたアルミナ改質シリカを比較した。Wattsニッケル電解質5lのストックから、1リットルを実施例1において既に記載されているサッカリン、界面活性剤およびブライトナーで調節した。250mlのハルセル中で調節された電解質をセル電流2Aで3分以内に微孔質ニッケルをめっきするために用いた。その後、孔の量対電流を計算した。図1は、本発明による電解質溶液(A)に関する電流密度およびアルミナ粒子と本発明により有機成分により改質されていないシリカ粒子を含有する先行技術の電解質溶液に関する電流密度に対する孔数の得られた関係を示している。アルミナ含有材料によって作られた孔数が増加する電流密度に追随できなかった一方で、アミノ基改質材料の孔数/電流密度の挙動は直線である。従って、電流密度を増やす場合、希望と同じ高い孔数値を達成するように孔数に影響を及ぼすことが可能である。例えば、ニッケル電着浴中の従来のシリカ粒子に関する孔数が5A/dmの電流密度で約27,000cm−2であるのに対して、本発明によるケイ素含有有機成分により改質されたシリカ粒子により得られた孔は、同じ電流密度で約50,000cm−2である。
【0071】
実施例4(ニッケル電気めっき浴中での改質シリカの使用)
実施例1に記載された2リットルのニッケル電解質で満たされた矩形タンクを用いて、実施例1に記載されたアミノシランにより改質された粉末SD-530の異なる濃度でブライトニッケル約10μmにより前にめっきされたパネル上にミクロ−不連続ニッケル層をめっきした。図2に示したように孔数対粉末の濃度の比を得た。この比は、それぞれ粉末濃度および孔数の高い値まで直線である。孔数は、100mg/lの粉末濃度を用いるなら約200,000cm−2に増えることが判明し、濃度が増加するなら更に増加さえすることが予想される。
【0072】
比較例5(ニッケル電気めっき浴中での非改質シリカの使用)
ニッケル電解質を実施例1に記載したように調製した。めっきを同じめっきタンク中で繰り返した。今回は、SD-530粉末をシラン改質なしで用いた。電解質は粉末2g/lを含有していた。孔数は2,300−2にすぎないことが判明した。
【0073】
実施例6(ニッケル電気めっき浴中での改質シリカの使用)
250lのタンクをWattsニッケル溶液(実施例1のような主成分NiCl、NiSO、ホウ酸の濃度)で満たした。溶液を55℃に加熱し、界面活性剤、サッカリンおよびブライトナーのような有機添加剤で実施例1に記載されたように調節した。pHを4.2に調節後、また改質シリカ粉末50mg/lの添加後、曲がったパネル(図3)をアノードに平行のタンクの中央に固定し、めっきを5A/dmの電流密度で開始した。めっきは3分にわたり行った。その後、パネルをリンスし、クロムをめっきした。その後、パネルを数片に切断し、銅めっき後クロム表面中の孔を数えた(Dubpernell試験)。表3による孔数を得た。
【0074】
実施例7(ニッケル電気めっき浴中での改質シリカの使用)
ニッケル多層およびニッケル多層の上のクロム多層を曲がった鋼板上に析出させた(図4に示したように)。実験を100lのタンク内で行った。
【0075】
第1のニッケルめっき工程において、約16μm厚さのセミブライトなニッケル層を市販のセミブライトなニッケルめっき浴(Duplalux(登録商標)Step、Atotech)から鋼板上に析出させた(4A/dmで20分)。その後、約8μm厚さのブライトなニッケル層を市販のブライトなニッケルめっき浴(Makrolux(登録商標)NF、Atotech)から第1のニッケル層の上に析出させた(4A/dmで10分)。この第2のニッケル層の電位を第1のニッケル層を基準にして140mVであると決定した。その後、約2μm厚さのニッケル層をブライトなニッケル層の上に析出(3A/dmで4分)させる一方で、シリカをこの第3のニッケル層に導入した。このニッケル層を析出させるための溶液は、実施例1の溶液と同じであったが、しかし、エチルヘキシルスルフェート、サッカリン酸ナトリウムおよび抱水クロラールの代わりに、添加剤として不飽和カルボン酸(アリルカルボン酸、ビニルカルボン酸)、サッカリンおよびブライトナー(Makrolux(登録商標)、Atotech)をめっき溶液中に含んでいた。異なるシリカタイプを表4に示したようにこの場合に用いた。この第3のニッケル層の電位を第2のニッケル層を基準として30mVであると決定した。すべてのニッケルめっき工程において用いたアノードは、バスケットに入れられた硫黄を含有するニッケル片であった。最後に、約0.4μm厚さのクロム層を市販のクロムめっき浴(Glanzchrombad Cr843、Atotech)から第3のニッケル層の上に析出させた(10A/dmで4分)。
【0076】
孔数を決定するために、Fuhrmann-Tester自動プログラムを用いた(プログラム:1.0Vで30秒;0Vで30秒;−0.4Vで30秒;孔>4μm、50x;Markus Haepら、同上)。クロム層中で見られた孔数の結果は表5に示している。
【0077】
表5から、孔数の数値が、先行技術の溶液の場合より本発明の溶液の場合に遙かに大きいことが明らかであろう。更に、孔数の変動は、本発明の溶液の場合より先行技術の溶液の場合に遙かに大きい。従って、曲がった鋼板上の孔数分布の点でよりいっそう一貫した結果が先行技術組成物でより本発明の溶液で得られる。
【0078】
実施例8(ニッケル電気めっき浴中での改質シリカの使用)
1400lのタンクを有するより大きな製造プラントにおいて更なる実験を行った。めっきされた部品を図5に示している。第1の(セミブライトな)ニッケル層、第2の(ブライトな)ニッケル層、第3のニッケル層およびクロム層を析出させる手順は実施例7に記載された通りであった。粒子を含有する第3のニッケル層を析出させるために、組成も実施例7に記載された通りであった。この場合に用いられた粒子は表6に示された通りであった。
【0079】
孔数を決定するために、Fuhrmann-Tester自動プログラムを用いた(プログラム:1.0Vで30秒;0Vで30秒;−0.4Vで30秒;孔>4μm、50x;Markus Haepら,同上)。クロム層中で見られた孔数の結果は表7に示している。
【0080】
表7の結果から、孔数の数値が、先行技術の溶液の場合より本発明の溶液の場合に遙かに大きいことが明らかであろう。更に、孔数の変動は、本発明の溶液の場合より先行技術の溶液の場合に遙かに大きい。従って、めっきされた物品に関する孔数分布の点でよりいっそう一貫した結果が先行技術組成物でより本発明の溶液で得られる。
【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
【表5】

【0084】
【表6】

【0085】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に耐腐食性ニッケル多層を形成する方法にして、
a)第1の電位を有する第1のニッケル層を析出させる工程と、
b)前記第1のニッケル層上に前記第1の電位より負である第2の電位を有する第2のニッケル層を析出させる工程と、
c)基材上に金属を電着させるための溶液を用いて前記第2のニッケル層上に第3のニッケル層を析出させる工程と、
を有する方法であって、
前記溶液が、析出させるべき金属のイオンおよびシリカ粒子を含有するものであり、少なくとも1個のケイ素含有有機成分が前記シリカ粒子に提供され、前記ケイ素含有有機成分が、前記溶液に接触しつつ正電荷を前記シリカ粒子に付与する、アミノ、第四化アンモニウム、第四化ホスホニウムおよび第四化アルソニウムを含む群から選択される少なくとも1個の官能基を含む、方法。
【請求項2】
前記シリカ粒子と以下の一般化学式I、II、IIIまたはIV
(RO)Si-R-QR
(RO)Si-R-Q II
(RO)Si-R-(QR III
(RO)Si-R-(Q IV
(式中、QはN(窒素)、P(リン)またはAs(ヒ素)であり、RおよびRは、互いに独立して、非置換アルキルまたは置換アルキルであり、R、RおよびRは、水素、非置換アルキルまたは置換アルキルもしくは非置換アリールまたは置換アリールであり、ここで、R、RおよびRは、互いに独立して、アミノ部分とイミノ部分とを含む少なくとも1個の官能基を更に含んでいてよい)
を有する試薬との反応によって前記少なくとも1個の有機成分を形成することを特徴とする、請求項1に記載の基材上に耐腐食性ニッケル多層を形成する方法。
【請求項3】
前記シリカ粒子と(3-アミノプロピル)トリエトキシシランの反応によって前記少なくとも1個の有機成分が形成されることを特徴とする、請求項1または2に記載の基材上に耐腐食性ニッケル多層を形成する方法。
【請求項4】
前記シリカ粒子が300m/gまでの比表面積を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の基材上に耐腐食性ニッケル多層を形成する方法。
【請求項5】
前記シリカ粒子が0.3μm〜15μmの範囲内の平均径を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の基材上に耐腐食性ニッケル多層を形成する方法。
【請求項6】
前記金属がニッケルであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の基材上に耐腐食性ニッケル多層を形成する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−528063(P2011−528063A)
【公表日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517816(P2011−517816)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【国際出願番号】PCT/EP2009/005192
【国際公開番号】WO2010/006800
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(597075328)アトーテヒ ドイッチュラント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (33)
【Fターム(参考)】