説明

基板カセット

【課題】発塵、発熱を伴うことなく基板を高速で出し入れ可能なワイヤ式の基板カセットを提案すること。
【解決手段】同一平面上に平行に架け渡した複数本のワイヤ9によって基板収納棚10が形成され、当該基板収納棚10が多段に配列されている基板カセット1において、ワイヤ9には、当該ワイヤ9の軸線方向に沿って一定の間隔で、転がり軸受11が取り付けられている。転がり軸受11の内輪22はワイヤ9に固定され、外輪21によってガラス基板Wを載せる基板載置面が規定されている。ガラス基板Wの出し入れの際には、ガラス基板Wの移動に伴って外輪21が回転する。搬送に伴うガラス基板支持部分からの発塵、発熱が起きないので、ガラス基板Wを高速搬送でき作業効率を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、液晶基板などの基板の収納および搬送のために用いる基板カセットに関し、特に、多数本の線材を同一平面上において一定の間隔で平行に架け渡すことにより形成した基板収納棚が上下方向に多段に配列されている基板カセットの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体、LCDなどの基板製造工程においては、ストックされている基板を、複数の異なる工程を経て搬送する必要がある。基板のストックおよび搬送のために用いられている基板カセットとしては、多段に形成された基板収納棚が、同一平面上において一定の間隔で平行に架け渡したワイヤによって規定された構成のものが知られている。この構成の基板カセットは一般にワイヤカセットと呼ばれており、一定厚さの棚板を用いて多段の基板収納棚を構成する場合に比べて、小さな寸法で、より多くの棚を形成できる。
【0003】
特許文献1には、ワイヤカセットにおいて、各ワイヤを、遊び(隙間)のある状態で円筒体に通し、この状態でワイヤを架け渡して基板収納棚を形成することが提案されている。ワイヤカセットの各基板収納棚に収納した基板は、ワイヤに取り付けた円筒体に載っており、円筒体はワイヤに対して滑り接触状態で回転可能である。したがって、基板をワイヤカセットに対して出し入れする際には円筒体がワイヤを中心として回転する。よって、ワイヤの上に基板が直接載っている場合に比べて基板の出し入れを円滑に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】台湾特許公告第594189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、生産効率を高めるためには基板の出し入れをロボットハンド等を用いて高速で行うことが必要である。例えば、基板の引き出し速度をV(mm/秒)、ワイヤに取り付けた円筒体の外径をDとすると、基板引き出し時における円筒体の回転速度N(回転/分)は次式により与えられる。
N=V/(D×π)=V×60/(D×π)
仮に、引き出し速度V=500mm/秒、外径D=6mmとすると、円筒体の回転速度Nは次のように高速となる。
N=500×60/(6×3.14)=1592(回転/分)
【0006】
基板の出し入れ時には、円筒体はワイヤを中心として、その内周面がワイヤ外周面に滑り接触状態で高速回転する。このため、ワイヤと円筒体の間の滑り接触部分に発塵、発熱が引き起される。特に、円筒体の回転速度が上記のように高速であり、円筒体の穴開け加工時における穴開け加工具の回転速度よりも高速の場合には、円筒体からの発塵、発熱が多くなり、実用に適さない。また、ワイヤおよび円筒体の製造誤差などに起因して、双方の滑り接触部分に偏摩耗が生ずる場合などにおいては、円筒体の回転速度が低い場合であっても発塵、発熱が多くなることがある。このような発塵、発熱は基板に大きなダメージを与えるので極力避ける必要がある。
【0007】
発塵、発熱を抑制するために基板搬送速度を遅くすることが考えられる。しかし、これでは、タクトタイムの観点から搬送時間が問題になる。例えば、G8世代クラスの基板の場合には基板搬送長さが2500mm程度である。搬送速度を50mm/秒に設定した場合には、ワイヤカセットから1枚の基板を取り出すのに、50秒(2500/50)もの時間を要するので、実用的ではない。
【0008】
さらに、特許文献1のワイヤカセットでは、ワイヤを細長い円筒体で覆っており、基板を載せた状態ではワイヤが基板の重量によって撓むのに対して、剛性の高い円筒体は殆ど撓まない。この結果、基板の出し入れ時における円筒体の円滑な回転が阻止され、大きな摩擦抵抗が発生する。これによっても、発塵、発熱が引き起され、基板にダメージを与えるおそれがある。
【0009】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、発塵、発熱を伴うことなく基板を高速で出し入れ可能な基板カセットを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、同一平面上に平行に架け渡した複数本の線状部材によって基板収納棚が形成され、当該基板収納棚が多段に配列されている基板カセットにおいて、線状部材には、当該線状部材の軸線方向に沿って所定の間隔で、軸受が配置されており、軸受は、線状部材に同軸状態に固定された内輪と、当該内輪の外周面によって回転自在の状態で支持されている外輪とを備えており、軸受の外輪によって基板収納棚における基板載置面が規定されていることを特徴としている。
【0011】
本発明の基板カセットでは、各線状部材に軸受が取り付けられており、各軸受の回転自在な外輪によって基板が支持される。基板の出し入れの際には、基板の移動に伴って外輪が回転する。外輪は内輪に対して回転自在であるが、内輪は線状部材に固定されている。よって、一般的に使用されているボールベアリングなどの転がり軸受を用いることにより、基板搬送に伴う外輪の回転に起因する発塵、発熱を確実に抑制できる。また、発塵、発熱を抑制できるので、基板を高速搬送することができ、作業効率を高めることができる。
【0012】
ここで、軸受の内輪を線状部材に固定するために、内輪が装着された外周面、および、線状部材を通す貫通穴を備えた筒状部材と、筒状部材を線状部材にチャックするチャッキング部材とを備えた構成を採用することができる。
【0013】
チャッキング部材として、筒状部材の一方の端部の外周に嵌め込むことにより、当該端部を窄めることの可能なリング部材を用いることができる。筒状部材が撓みにくい金属製部品の場合には、チャッキング部材を嵌める筒状部材の端部にすり割りを入れて窄み易くし、当該端部がワイヤと確実に噛み合うようにしておけばよい。
【0014】
また、チャッキング部材として、線状部材を通す貫通穴が中心に形成された筒状の部材を用いることができる。この場合には、内輪本体が装着されている筒状部材の貫通穴を、チャッキング部材を嵌め込み可能な内径の穴としておき、チャッキング部材を、筒状部材の一方の開口端から、当該筒状部材の内周面と線状部材の外周面の間の環状隙間に嵌め込むことにより、筒状部材を線状部材にチャッキングすればよい。
【0015】
本発明において、線状部材および軸受は導電性を備えていることが望ましい。このようにすれば、基板搬送時における基板の静電帯電を防止でき、塵などが基板表面に付着してしまうことを防止できる。
【0016】
また、軸受の外輪を樹脂製の外輪とし、あるいは、外輪における少なくとも外周面を樹脂層で覆うことにより、基板表面にダメージを与えることが無いようにすることが望ましい。
【0017】
次に、本発明の基板カセットは、基板収納棚のそれぞれにおいて、線状部材に取り付けた少なくとも1個の基板移動規制部材を有し、基板が軸受の外輪および基板移動規制部材に載った状態で収納されるようになっており、基板移動規制部材は、線状部材を中心として回転しない状態、または、軸受よりも回転負荷が大きい状態で線状部材に取り付けられていることを特徴としている。
【0018】
回転自在な軸受に基板が載っている場合は、僅かな力によって基板収納棚から勢い良く基板が飛び出すおそれがある。また、基板が収納された状態の基板カセットの搬送中等において、基板が基板出し入れ方向にずれやすいという問題がある。本発明によれば、各基板収納棚において、基板は、回転負荷の大きい少なくとも1個の基板移動規制部材の上に載っている。よって、当該基板移動規制部材との間の摩擦力によって基板の飛び出し、ずれなどを防止あるいは抑制できる。
【0019】
ここで、基板収納棚のそれぞれにおいて、線状部材の架け渡し方向に直交する方向における一方の端が、基板の挿入および取り出しを行うための基板出し入れ口とすると、基板収納棚のそれぞれにおける基板出し入れ口から最も離れた位置の線状部材に、少なくとも1個の基板移動規制部材を取り付けておくことが望ましい。
【0020】
このようにすれば、基板収納時には、基板の収納が終了する手前の時点で基板が基板移動規制部材に載るので、基板収納動作を全体として高速で行うことができる。また、基板引き出し時には、その最初において基板が基板移動規制部材から外れるので、基板引き出し動作を全体として高速で行うことができる。
【0021】
次に、線状部材として、1本の金属製あるいはプラスチック製の糸からなる線材、または、複数本の金属製あるいはプラスチック製の糸を束ねて形成された線材を用いることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の基板カセットにおいては、各線状部材に軸受が取り付けられており、各軸受の外輪によって基板が支持される。基板の出し入れの際には、基板の移動に伴って外輪が回転する。外輪は内輪に対して回転自在であるが、内輪は線状部材に固定されている。よって、一般的に使用されているボールベアリングなどの転がり軸受を用いることにより、基板搬送に伴う外輪の回転に起因する発塵、発熱を確実に抑制できる。また、発塵、発熱を抑制できるので、基板を高速搬送することができ、作業効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る基板カセットを示す斜視図である。
【図2】図1の基板カセットにおける一つの基板収納棚を示す斜視図である。
【図3】図1の基板カセットのワイヤに取り付けた軸受を示す分解斜視図である。
【図4】図3の軸受の縦断面図である。
【図5】基板カセットに用いる基板移動規制部材の一例を示す縦断面図である。
【図6】図3の軸受の変形例を示す縦断面図である。
【図7】基板カセットに用いる軸受の別の例を示す縦断面図である。
【図8】基板カセットに用いる軸受の更に別の例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る基板カセットを説明する。
【0025】
(全体構成)
図1は本実施の形態に係る基板カセットを示す斜視図である。基板カセット1は、全体として横長の直方体形状をしているカセット枠体2を備えている。カセット枠体2は、矩形の底板3および天板4と、これらの両側の端の間を繋ぐ垂直側板5、6とを備えており、その前側端面は基板出し入れ口7となっており、その後側端面も後側開口部8となっている。左右の垂直側板5、6は、一定の間隔で同一本数n(n:2以上の整数)の垂直枠5a、6aが形成された構造のものである。
【0026】
対応する左右の一対の垂直枠5a、6aの間に、例えば、基板出し入れ口7の側に位置する一対の垂直枠5a、6aの間には、上下方向に一定の間隔で複数本のワイヤ9(1,1)〜9(m,1)(m:正の整数)が水平に架け渡されている(以下の説明においては、ワイヤの位置に関係の無い場合には、各ワイヤを「ワイヤ9」として説明する。)。したがって、全体としてm×n本のワイヤ9が垂直側板5、6の間に架け渡されている。これらのワイヤ9のうち、最も上の段に架け渡されている複数本のワイヤ9(1,1)〜9(1,n)は同一高さ(同一平面上)に位置しており、第1段の基板収納棚10(1)を規定している。同様に、各高さ位置にあるワイヤ9(m)によって各段の基板収納棚10(m)が規定されている。ワイヤ9はSUS、鋼製のものとすることができる。樹脂製ワイヤとすることもでき、多数本の細い糸を束ねてワイヤを構成することも可能である。
【0027】
図2は第1段の基板収納棚10(1)を規定している複数本のワイヤ9(1,1)〜9(1,n)を取り出して示す部分斜視図である。この図に示すように、基板収納棚10(1)には、これよりも一回り小さな寸法の矩形の基板、例えばガラス基板Wが収納される。各ワイヤ9(1,1)〜9(1,n)には、その軸線方向に沿って一定の間隔で、転がり軸受11が取り付けられている。基板収納棚10(1)における最も奥に位置しているワイヤ9(1,n)においては、その軸線方向における中央には、転がり軸受11の代わりに、基板移動規制部材として、2個の固定ローラ12が取り付けられている。転がり軸受11および固定ローラ12の外径は同一であり、これらによって、ガラス基板Wを載せる基板載置面が規定されている。
【0028】
なお、転がり軸受11の配置間隔、配置個数は、ガラス基板Wの大きさ、重量、基板出し入れ速度等に応じて適宜設定されるべき性質のものである。また、固定ローラ12の個数は2個に限定されるものではなく、1個でもよいし、場合によっては3個以上にすることも可能である。さらに、第2段以下の各段の基板収納棚10(2)〜10(m)も同様に構成されているので、それらの説明は省略する。
【0029】
(転がり軸受)
図3は転がり軸受11を示す分解斜視図であり、図4はその縦断面図である。転がり軸受11は、円環状の外輪21および内輪22と、これらの間の円環状軌道内に転動自在の状態で挿入されている複数個のボール23とを備えている。また、内輪22が装着される円形外周面を備えた円筒部材24と、この円筒部材24をワイヤ9に固定するためのチャッキング用のリング部材25とを備えている。
【0030】
円筒部材24の中心には、その軸線方向に貫通して延びているワイヤ通し穴24a(貫通穴)が形成されている。本例のワイヤ9は円形断面のものであり、ワイヤ通し穴24aの内径はワイヤ外径と同一寸法とされ、ここにワイヤ9が通されている。円筒部材24の一方の端部にはそれ以外の部分よりも大径の円環状の内輪受け24bが形成されている。この内輪受け24bに隣接する円筒部材24の外周面部分24cは一定の外径の円形外周面であり、ここに内輪22が装着される。この外周面部分24cに連続する部分は先細り状態のテーパ状外周面部分24dとなっている。このテーパ状外周面部分24dの途中には山形断面の円環状突起24eが形成されている。
【0031】
チャッキング用のリング部材25は、その中心穴の内周面が、テーパ状外周面部分24dよりも僅かに小径のテーパ状内周面25aとなっており、その途中には円環状V溝25bが形成されている。円筒部材24のワイヤ通し穴24aにワイヤ9を通した状態において、リング部材25を円筒部材24の端からテーパ状外周面部分24dに装着すると、リング部材25によってテーパ状外周面部分24dが窄められて、そのワイヤ通し穴24aの内周面部分がワイヤ9の外周面に締め付けられる。また、装着したリング部材25の円環状V溝25bには円筒部材24の側の円環状突起24eが嵌り込み、リング部材25の抜けが防止される。この結果、内輪22がワイヤ9に対して回転しないようにチャッキングされた状態が形成される。
【0032】
さらに、装着したリング部材25の円環状端面25cは内輪22の端面に押し付けられ、内輪受けとして機能する。すなわち、当該端面25cと、円筒部材24の側の内輪受け24bとの間に、内輪22がガタツキなく固定された状態が形成される。
【0033】
ここで、転がり軸受11は無潤滑軸受とし、グリースなどによってガラス基板Wが汚染されないようにすることが望ましい。外輪21、内輪22およびボール23は一般的なボールベアリングと同様に金属製の部品とすることができるが、ガラス基板Wに接触する外輪21をPOM、UPEなどの樹脂素材から形成すれば、ガラス基板Wへのダメージを低減できるので好ましい。また、円筒部材24、リング部材25は金属製部品あるいは樹脂製部品とすることができる。円筒部材24におけるテーパ状外周面部分24dが形成されている端部にすり割りを形成して、当該端部をリング部材25によって確実に窄めることができるようにしてもよい。
【0034】
さらに、これらの部品を樹脂製とする場合には、導電性のフィラー、粒子などを混合させるなどの処理を施すことにより、導電性を持たせることが望ましい。このようにすれば、ガラス基板Wに静電気が帯電して表面に塵が吸着保持されてしまうことを防止あるいは抑制できる。
【0035】
(固定ローラ)
図5は、最も奥に架け渡されているワイヤ9(1,n)〜9(m,n)に取り付けられている基板移動規制部材としての固定ローラ12を示す縦断面図である。固定ローラ12は、円環状のローラ本体31と、このローラ本体31が所定の回転負荷のもとで回転可能な状態で装着されている円筒状のローラ台座32と、ローラ台座32をワイヤ9にチャッキングするためのリング部材33とを備えている。
【0036】
ローラ台座32の中心には、その軸線方向に貫通して延びているワイヤ通し穴32a(貫通穴)が形成されている。ワイヤ通し穴32aの内径はワイヤ外径と同一寸法とされ、ここにワイヤ9が通されている。ローラ台座32の一方の端部にはそれ以外の部分よりも大径の円環状のローラ受け32bが形成されている。このローラ受け32bに隣接するローラ台座32の外周面部分32cは一定の外径の円形外周面であり、ここにローラ本体31が装着される。この外周面部分32cに連続する部分は先細り状態のテーパ状外周面部分32dとなっている。このテーパ状外周面部分32dの途中には山形断面の円環状突起32eが形成されている。
【0037】
チャッキング用のリング部材33は、その中心穴の内周面が、テーパ状外周面部分32dよりも僅かに小径のテーパ状内周面33aとなっており、その途中には円環状V溝33bが形成されている。ローラ台座32のワイヤ通し穴32aにワイヤ9を通した状態において、リング部材33をローラ台座32の端からテーパ状外周面部分32dに装着すると、リング部材33によってテーパ状外周面部分32dが窄められて、そのワイヤ通し穴32aの内周面部分がワイヤ9の外周面に締め付けられる。また、装着したリング部材33の円環状V溝33bにはローラ台座32の側の円環状突起32eが嵌り込み、リング部材33の抜けが防止される。この結果、ローラ台座32がワイヤ9に対して回転しないようにチャッキングされた状態が形成される。
【0038】
ここで、ローラ本体31の内周面は滑り接触状態でローラ台座32の外周面部分32cに取り付けられており、ローラ本体31は所定の回転負荷を伴って回転可能となっている。
【0039】
なお、基板移動規制部材としては、ローラ本体31とローラ台座32が単一部品として一体形成された構造の固定ローラを用いることもできる。この場合には、ローラ本体31は回転せず、ワイヤ9に固定された状態になる。
【0040】
(基板出し入れ動作)
このように構成した基板カセット1における基板の出し入れ動作を説明する。不図示のロボットハンドなどの基板搬送機構を用いてガラス基板Wの端を掴み、例えば、基板カセット1の基板出し入れ口7の手前において、その最上段の基板収納棚10(1)の高さ位置に水平に位置決めする。そして、ガラス基板Wを基板収納棚10(1)の基板出し入れ口7から水平に押し込む。ガラス基板Wは、基板収納棚10(1)の基板載置面を規定している転がり軸受11に載り、後方に案内される。転がり軸受11の外輪21はガラス基板Wの移動に伴って転動するので、ガラス基板押し込み時の押し込み負荷は殆ど発生しない。また、転がり軸受における各摺動部分からの発塵、発熱は殆ど無い。さらに、内輪22はワイヤ9に固定され、これらの間に摩擦が起きないので、これらの間において発塵、発熱が起きることはない。よって、発塵、発熱を伴うことなく高速でガラス基板Wを基板収納棚10(1)に収納することができる。
【0041】
基板収納棚10(1)にガラス基板Wが収納された状態では、ガラス基板Wの後端部の中央部分は、奥に位置するワイヤ9(1,n)に取り付けた2個の固定ローラ12に載った状態になる。固定ローラ12のローラ本体31は所定の回転負荷の下で回転可能である。したがって、ガラス基板Wの自由な移動が、これら2個の固定ローラ12の回転負荷によって拘束される。よって、収納状態において、基板出し入れ口7あるいは後側開口部8からガラス基板Wが不用意に飛び出してしまうことがない。また、収納状態においてガラス基板Wが前後にずれることも防止される。固定ローラ12によるガラス基板Wの拘束力を適切な値に設定しておくことにより、ガラス基板Wの飛び出し、ずれを確実に防止できる。
【0042】
ガラス基板Wを基板収納棚10(1)から取り出す場合には、基板カセット1の基板出し入れ口7の側からガラス基板Wの先端を掴み、前方に水平に引き出せばよい。この場合、引き出しの最初の時点において、ガラス基板Wの後端部分が固定ローラ12から外れるので、ガラス基板Wは転がり軸受11に沿って速やかに前方に引き出される。また、ガラス基板Wの引き出し動作においても、転がり軸受11、転がり軸受11とワイヤ9の間の部分からの発塵、発熱は無いので、ガラス基板Wを高速で引き出すことができる。
【0043】
(転がり軸受の別の例)
図6は転がり軸受11の別の例を示す縦断面図である。この図に示す転がり軸受11Aの基本構成は転がり軸受11と同様であるので、対応する部位には同一の符号を付し、異なる部分のみを以下に説明する。
【0044】
転がり軸受11Aでは、その金属製の外輪21の円形外周面が樹脂層26で覆われている。したがって、金属面が直接にガラス基板Wの表面に接する場合とは異なり、ガラス基板Wの表面に対するダメージを軽減あるいは無くすことができる。
【0045】
また、転がり軸受11Aの円筒部材24におけるテーパ状外周面部分24dの内側のワイヤ通し穴24aの内周面部分に、その軸線方向に沿って一定の間隔で山形断面の円環状凹凸部27が繰り返し形成されている。このような部分を形成しておくことにより、円筒部材24をワイヤ9の外周面に対してより確実にチャッキングすることができる。
【0046】
図7は転がり軸受11の更に別の例を示す縦断面図である。転がり軸受11Bは、円環状の外輪41および内輪42と、これらの間の円環状軌道内に転動自在の状態で挿入されている複数個のボール43とを備えている。また、内輪42が装着される円形外周面を備えた円筒部材44と、この円筒部材44をワイヤ9に固定するためのチャッキングねじ45とを備えている。
【0047】
円筒部材44の中心には、その軸線方向に貫通して延びているワイヤ通し穴44a(貫通穴)が形成されている。円筒部材44の両端部にはそれ以外の部分よりも大径の円環状の内輪受け44b、44cが形成されている。これらの内輪受け44b、44cの間が一定の外径の円形外周面44dとなっており、ここに内輪42が装着固定されている。一方の内輪受け44bの部位には、その外周面からワイヤ通し穴44aまで半径方向に貫通して延びるねじ穴44eが形成されている。本例では、180度の角度間隔で2個のねじ穴44eが形成されている。ねじ穴の個数は1個、あるいは3個以上とすることも可能である。ねじ穴44eにはチャッキングねじ45がねじ込み固定され、各チャッキングねじ45の先端がワイヤ9の外周面に押し付けられ、これによって、円筒部材44がワイヤ9にチャッキングされている。すなわち、内輪42がワイヤ9に固定されている。
【0048】
図8は転がり軸受11の更に別の例を示す縦断面図である。本例の転がり軸受11Cは、円環状の外輪51および内輪52と、これらの間の円環状軌道内に転動自在の状態で挿入されている複数個のボール53とを備えている。また、内輪52が装着固定されている円形外周面を備えた円筒部材54と、この円筒部材54をワイヤ9に固定するための2個のチャッキング用のリング部材55とを備えている。
【0049】
円筒部材54の中心には、その軸線方向に貫通して延びている貫通穴54aが形成されている。貫通穴54aはリング部材55を挿入可能な大きさの穴であり、その両端部分には内側に向かって内径が漸減しているテーパ状内周面部分54bが形成されており、これらの内側の端の間には、円環状の段差面54cを介して、同一内径の円形内周面部分54dが形成されている。
【0050】
チャッキング用のリング部材55は、円筒部材54の貫通穴54aに差し込み固定される差し込み部55aと、この差し込み部55aの後端に形成されている大径の端部フランジ55bと、これらを貫通して延びるワイヤ通し穴55cとを備えている。ワイヤ通し穴55cはワイヤ9に対応する内径の穴である。
【0051】
ここで、リング部材55の差し込み部55aの外周面形状は円筒部材54の貫通穴54aの両端部分の内周面形状と相補的な形状となっており、当該内周面形状よりも僅かに大きい。すなわち、差し込み部55aの外周面には、その先端側に同一外径の円形外周面部分55dが形成されている。この円形外周面部分55dの後端には円環状段差面55eを介して、後端側に向けて外径が漸増しているテーパ状外周面部分55fが形成されている。テーパ状外周面部分55fの後端から端部フランジ55bまでに間は円形外周面部分55gとなっている。
【0052】
左右のリング部材55を相互に向き合う状態で、円筒部材54の両端から貫通穴54aに差し込む。これにより、リング部材55の差し込み部55aは、貫通穴54aの内周面とワイヤ9の外周面の間の円環状の隙間に差し込み固定され、当該差し込み部55aが内側に窄み、ワイヤ9にチャッキングされる。また、リング部材55の円環状の段差面55eが、円筒部材54の段差面54cに係合して、リング部材5の円筒部材54からの抜けが防止される。
【0053】
なお、転がり軸受11としてボールベアリングを用いた例を説明したが、ボールベアリング以外の転がり軸受を用いることもできる。また、内輪のチャッキング機構としては上記以外の構成の機構を用いることができる。場合によっては、接着剤を用いて内輪が装着固定されている円筒部材をワイヤに固定することも可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 基板カセット
2 カセット枠体
3 底板
4 天板
5、6 垂直側板
5a、6a 垂直枠
7 基板出し入れ口
8 後側開口部
9、9(m,n) ワイヤ
10(1)〜10(m) 基板収納棚
11 転がり軸受
12 固定ローラ
21 外輪
22 内輪
23 ボール
24 円筒部材
24a ワイヤ通し穴
24b 内輪受け
24c 外周面部分
24d テーパ状外周面部分
24e 円環状突起
25 リング部材
25a テーパ状内周面
25b 円環状V溝
25c 円環状端面
31 ローラ本体
32 ローラ台座
32a ワイヤ通し穴
32b ローラ受け
32c 外周面部分
32d テーパ状外周面部分
32e 円環状突起
33 リング部材
33a テーパ状内周面
33b 円環状V溝
W ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一平面上に平行に架け渡した複数本の線状部材によって基板収納棚が形成され、当該基板収納棚が多段に配列されている基板カセットにおいて、
線状部材には、当該線状部材の軸線方向に沿って所定の間隔で、軸受が配置されており、
軸受は、線状部材に同軸状態に固定された内輪と、当該内輪の外周面によって回転自在の状態で支持されている外輪とを備えており、
軸受の外輪によって基板収納棚における基板載置面が規定されていることを特徴とする基板カセット。
【請求項2】
請求項1において、
軸受は、外輪と内輪の間に形成される円環状軌道に複数個の転動体が転動自在の状態で挿入されている転がり軸受であることを特徴とする基板カセット。
【請求項3】
請求項1または2において、
軸受の内輪が装着されている外周面および線状部材を通す貫通穴を備えた筒状部材と、
当該筒状部材を線状部材にチャッキングするためのチャッキング部材とを有していることを特徴とする基板カセット。
【請求項4】
請求項3において、
チャッキング部材は、筒状部材の一方の端部の外周に嵌め込むことにより、当該端部を窄めて線状部材にチャッキングするリング部材であることを特徴とする基板カセット。
【請求項5】
請求項3において、
チャッキング部材は、線状部材を通す貫通穴を備えた筒状の部材であり、
当該チャッキング部材を、筒状部材の少なくとも一方の開口端から、当該筒状部材の内周面と線状部材の外周面の間の環状隙間に嵌め込むと、筒状部材が線状部材にチャッキングされた状態になることを特徴とする基板カセット。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちのいずれかの項において、
線状部材および軸受は導電性を備えていることを特徴とする基板カセット。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちのいずれかの項において、
軸受の外輪は、樹脂製の外輪、または、少なくとも、その外周面が樹脂層で覆われている外輪であることを特徴とする基板カセット。
【請求項8】
請求項1ないし7のうちのいずれかの項において、
基板収納棚のそれぞれにおいて、線状部材に取り付けた少なくとも1個の基板移動規制部材を有し、軸受の外輪および当該基板規制部材によって基板載置面が規定されており、
当該基板移動規制部材は、線状部材を中心として回転しない状態、または、軸受よりも回転負荷が大きい状態で、線状部材に取り付けられていることを特徴とする基板カセット。
【請求項9】
請求項8において、
基板収納棚のそれぞれは、線状部材の架け渡し方向に直交する方向における一方の端が基板の挿入および取り出しを行うための基板出し入れ口となっており、
基板収納棚のそれぞれにおける基板出し入れ口から最も離れた位置の線状部材に、少なくとも1個の基板移動規制部材が取り付けられていることを特徴とする基板カセット。
【請求項10】
請求項1ないし9のうちのいずれかの項において、
線状部材は、1本の金属製あるいはプラスチック製の糸からなる線材、または、複数本の金属製あるいはプラスチック製の糸を束ねて形成された線材であることを特徴とする基板カセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−56613(P2012−56613A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203483(P2010−203483)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(510231640)株式会社Siti (3)
【Fターム(参考)】