説明

基板上へ生物流体を付着させるための方法及び装置

基板(10)の表面(12)上へ少なくとも1つの生物流体を付着させるための方法が説明され、本方法は、(i)少なくとも1つの生物流体を充填した少なくとも1つのサーマルバブルジェットプリントヘッド(T1、T2、T3)を提供するステップと、(ii)基板(10)に隣接させてプリントヘッドを位置決めするステップと、(iii)エネルギーをプリントヘッド(T1、T2、T3)へ供給し、それによって表面(12)上へ生物流体を付着させるステップとを備える。プリントヘッド(T1、T2、T3)には、E>1.6*EthとなるようにエネルギーEが供給され、ここで、Ethは、プリントヘッド(T1、T2、T3)のしきい値エネルギーである。基板(10)の表面(12)上へ少なくとも1つの生物流体を付着させるための装置(DA)及び付着方法を実行することによって得られるマイクロアレイ(MA)がやはり説明される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、基板の表面上へ生物流体を付着させるための方法及び装置に関する。特に、本願発明は、マイクロアレイを製造するための方法及び装置に関する。本願発明は、また、上記の方法及び装置を用いて得られるマイクロアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
臨床分析及び生化学分析の分野では、マイクロアレイの使用についての関心が高まっている。
【0003】
マイクロアレイは、適切な材料、例えば、ガラス、ポリマーコーティングしたガラス、プラスチック、ニトロセルロース等から作られる基板を含み、その基板上に1つ又は複数の生物流体、例えば、タンパク質類、細胞類、DNA断片類及び類似のものの複数のスポットが固定される。基板のサイズは、典型的には、約数十ミリメートル(数インチ)、例えば、25.4mm(1インチ)掛ける76.2mm(3インチ)であり、その基板上に固定されるスポットは、直径で通常約50μmから約300μmまでの範囲である。
【0004】
マイクロアレイは、生物学的な調査、特にゲノミックス、プロテオミクス及び細胞分析にとって重要なツールであり、マイクロアレイは、多数の疾病の診断及び予防のために使用されている。例えば、「バイオチップマイクロアレイ」とも呼ばれる、デオキシリボ核酸(DNA)マイクロアレイ及びタンパク質マイクロアレイは、生物中の遺伝子及びタンパク質機能を理解するプロセスを加速してきた。
【0005】
マイクロアレイ製造は、本質的に、基板上への生物流体の付着プロセスである。1つ又は複数の生物流体のごく微量(ナノリットル又はピコリットル)が、スポットの形で基板上へと付着する。
【0006】
スポットを付着させるために、2つのタイプのデバイス、ピンプリンティングデバイスやマイクロスタンピングデバイス等の「接触プリンティング」デバイスと、インクジェットのようなプリンティングデバイス等の「非接触プリンティング」デバイスとが知られており、両者は熱方式及び圧電方式のものである。
【0007】
知られているように、サーマルインクジェットプリンティングデバイスは、画像がその上にプリントされる一枚の紙を供給するためのシステムと、紙供給方向に垂直な方向にモータによって駆動されるキャリッジと、プリンティング手段と、キャリッジによって運ばれそれぞれのインクリザーバと流体連結する典型的には1つ又は複数のプリントヘッドと、電力供給手段とを備える。特に、各プリントヘッドは、少なくとも1つのノズルと、典型的にはノズルのアレイと、射出用チャンバと、加熱素子とを備える。
【0008】
使用の際には、電力供給手段は、エネルギーをパルス電気信号としてプリントヘッドへ供給する。各パルスの期間中に、加熱素子は、数マイクロ秒内に数百度に熱くなる。少量のインクが、インクリザーバのうちの1つから、インクが加熱素子と接触する射出用チャンバへと進む。加熱素子との接触の後で、インクはすぐに熱くなり、それによって射出用チャンバの内部に蒸気泡を発生する。得られた蒸気泡の膨張及びその後の蒸気泡の崩壊が、プリントヘッドの少なくとも1つのノズルを介してインク液滴を吐出させる。
【0009】
典型的には、サーマルインクジェットプリンディングデバイスは、200plから2plまでの範囲の又はより少ない体積を有するインク液滴を吐出することを可能にする。
【0010】
液滴の体積及び吐出速度は、プリントヘッドに供給されるエネルギーEによって変わることがある。しきい値エネルギーEthは、プリントヘッドの幾何学的特徴並びに使用するインクの熱力学的特性及び流体力学的特性(例えば、沸点、表面張力、密度、粘性)に依存する。
【0011】
しきい値エネルギーEthよりも低いエネルギーEの値に対して、プリントヘッドの1つ又は複数のノズルは何も液滴を吐出しないことが経験的に知られており、例えば、米国特許第5,767,872号を参照せよ。これは、加熱素子が蒸気泡を発生させるために十分に高い温度に達しないためである。しきい値エネルギーEthを超えると、いわゆる「遷移」ゾーン又は「液滴不安定」ゾーンであり、そこでは、プリントヘッドへ供給されるエネルギーEの増加とともに、液滴体積が増加する。遷移ゾーン又は液滴不安定ゾーンを超えると、いわゆる「液滴安定」ゾーンであり、そこでは、プリントヘッドへ供給されるエネルギーEが増加しても、液滴体積は実質的に一定のままである。
【0012】
プリントした画像の一様性を保証するために、ノズルを通って吐出される液滴は、好ましくは一定の体積を有するべきである。従って、プリントヘッドを液滴安定ゾーンで動作させることが賢明である。
【0013】
それゆえ、サーマルプリントヘッドの少なくとも1つのノズルを通って液滴吐出を生じさせるために適した最小エネルギーが、「しきい値エネルギー」Ethとして定義される。
【0014】
その上、下記の説明では、「安定な液滴」という表現は、プリントヘッドに供給されるエネルギーEに対して一定体積を有する液滴を指すが、「不安定な液滴」という表現は、プリントヘッドに供給されるエネルギーEに対して変化する体積を有する液滴を指す。
【0015】
しかしながら、エネルギーEがしきい値エネルギーEthに対して大きくなり過ぎる場合には、液滴が安定なままであるとはいえ、プリントヘッドが早期の経年劣化を受け、その結果プリントヘッドの寿命が短くなることが経験的に観察されている。これは、加熱素子の過剰な温度上昇によって及びプリントヘッドの表面上へのインク残留物のその後の形成によって引き起こされると考えられる。この現象は、「コゲーション」という用語で知られている。
【0016】
実際に、加熱素子により達する高温(約350℃)が、インク中に存在する添加剤、典型的には染料の劣化を引き起こす。添加剤はインク中には非可溶性であり、そのために、加熱素子の表面上へと付着し、従って、特有の断熱層を形成する。この断熱層は、加熱素子の熱効率を低下させ、最悪の場合には、プリントヘッドの破損を引き起こす。
【0017】
コゲーションの現象を未然に防ぎ、従ってプリントヘッドの寿命を増加させるために、しきい値エネルギーよりも大きなエネルギーをプリントヘッドへ供給し、それによって安定な液滴の吐出を可能にすることが知られている。しかしながら、プリントヘッドへ供給するエネルギーは、加熱素子の表面上への断熱層の形成を生じさせるほど大きくすべきではない。これは、例えば、サーマルインクジェットプリントヘッドアセンブリに与えるエネルギーを制御するためのシステム及び方法を記載した、米国特許第6,302,507号及び第6,315,381号に開示されている。
【0018】
米国特許第6,575,548号は、インクジェットプリントヘッドのエネルギー特性の効率的な制御を提供するためのプリンディングシステム及びプロトコルを記載している。このプリンディングシステムは、コントローラと、電源と、メモリデバイス及びインク
ドライバとともに統合された分散型プロセッサを有するプリントヘッドアセンブリとを含む。分散型プロセッサは、事前にプログラムされた許容可能な境界内にプリントヘッドアセンブリのエネルギー特性を維持する。より具体的には、プリントヘッドに供給されるエネルギーは、上に定義したしきい値エネルギーをほぼ20%超える。
【0019】
米国特許第7,281,783号は、レジスタと、チャンバと、各々がチャンバとつながった第1の流路及び第2の流路とを備えた流体吐出デバイスを記載している。安定な動作を確実にするために、レジスタは、最小エネルギー又はしきい値エネルギーをほぼ25%から50%超えるエネルギーを供給される。
【0020】
サーマルインクジェットプリントヘッドの単位面積当たりに散布する少量の液体及び低製造コストのおかげで、サーマルインクジェットプリンディング技術が臨床分析及び生物医学分析の分野において採用される場合がある。このケースでは、インクが、1つ又は複数の適切な生物流体によって置き換えられるはずである。
【0021】
米国特許第6,935,727号は、パルスジェットプリントヘッドアセンブリを使用することによって基板表面上へと流体、典型的には、バイオポリマー又はその前駆物質を含有する流体を付着させるための方法を記載している。使用の際には、プリントヘッドアセンブリの射出用チャンバには、バイオポリマー又はその前駆物質を含むある量の流体が充填される。充填済のプリントヘッドアセンブリは、次に、基板の表面に対して反対側に設置され、基板上にある量の流体を付着させるために作動される。
【0022】
米国特許第2003/0027219号は、サーマルインクジェットプリンディング装置を使用することによって基板の表面上へ少量のタンパク質含有流体を効率的に付着させるための方法を記載している。開示された付着プロセスは、付着した流体のタンパク質活性/機能を実質的に変更しない。この方法を実行する際には、少量の関心のある(1つ又は複数の)タンパク質を含有する流体が、サーマルインクジェットデバイス中へと先行充填される。次に、先行充填した流体のうちの少量が、基板の表面上へと吐き出される。
【0023】
しかしながら、上記の米国特許第6,935,727号及び第2003/0027219号は、サーマルインクジェットプリントヘッドの劣化の問題を正視していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
驚いたことに、生物流体(即ち、DNA、タンパク質類、ウイルス性物質、細胞類、細胞組織類、等を含む水溶液)を充填し且つマイクロアレイを製作するために使用するサーマルインクジェットプリントヘッドが、紙支持体上へと画像をプリントするために従来から利用されるインクを充填されたときに示す挙動とは実質的に異なる挙動を示すことに、出願人は気付いた。
【0025】
特に、生物流体を充填され且つ先行技術を参照して上に定義したものよりも大きなエネルギー値を供給される従来のプリントヘッドが急速に損傷を受けることを、出願人は観察した。
【0026】
実際に、基板の表面上への生物流体の付着プロセスの後でプリントヘッドを検査することによって、残留する生物学的生成物の層が加熱素子の表面上に存在することに、出願人は気付いた。上に説明したように、これがプリントヘッドの急速な損傷をもたらす。
【0027】
生物流体の生物活性を変化させないで維持することが困難であるので、生物流体は、一旦プリントヘッド中へと充填されると、それ以上使用できないことに、気付かなければな
らない。それゆえ、プリントヘッドが急速に損傷を受ける場合には、プリントヘッド中に収容され、基板の表面上へまだ付着されていない生物流体は、必然的に無駄にされる。
【0028】
マイクロアレイを製作するために使用する生物流体、例えば、DNA及びタンパク質含有流体類は、非常に高価であり、そのためにそれらを無駄にすることは望ましくない。
【0029】
更に、マイクロアレイは、診断ツールとして適正に動作させるためには、規則的に配置されなければならないことが、知られている。生物流体のスポットが行及び列に沿って寸分たがわずに正確な様式で基板上に配列されているときに、マイクロアレイが規則的に配置されていると呼ばれる。汚点が隣接するスポットの読み取りに悪影響を及ぼすことがあるので、スポットのいかなる汚点も、最小量であるとしても、許容されない。
【0030】
その上、生物流体のスポットは、均一でなければならない。複数のスポットが同じ数の分子の生物流体を含有している場合であっても、異なる形状又は密度を有するスポットは、異なる強度を有する信号を生成するはずであり、従って、マイクロアレイを用いて実行する生物学的分析の再現性を危うくする。それゆえ、プリントヘッドは、その全ての動作中に生物流体の安定な液滴を吐出しなければならない。
【0031】
それゆえ、サーマルバブルジェットプリントヘッドを使用することによって基板の表面上へ生物流体を付着させるための方法及び装置であって、上記の欠点のうちの少なくとも1つを克服することが可能である方法及び装置を提供するという問題に、出願人は直面した。
【0032】
特に、サーマルバブルジェットプリントヘッドを使用することによって基板の表面上へ生物流体を付着させるための方法及び装置であって、プリントヘッドの寿命を長くし、プリントヘッド中へと充填した全部の生物流体を使い切るために十分な時間にわたって安定な液滴を吐出し引き続き付着させることが可能である方法及び装置を提供するという問題に、出願人は直面した。
【0033】
驚いたことに、生物流体が充填され、基板の表面上へ生物流体を付着させ、それによってマイクロアレイを製作するために使用するサーマルプリントヘッドが、サーマルインクジェットプリンディング技術の分野において従来使用するものよりも大きなエネルギーEをそのプリントヘッドが供給されるときに、寿命の増加を示すことに、出願人は気付いた。
【0034】
その上、驚いたことに、サーマルインクジェットプリンディング技術の分野において従来使用するものよりも大きなエネルギーEを供給されたプリントヘッドが、プリントヘッド中へと充填した生物流体の量を使い切るために必要な全ての時間中に安定な液滴を吐出することが可能であることを、出願人は観察した。
【0035】
都合の良いことに、これが、機能的に動作するマイクロアレイ、即ち、マイクロアレイを介して行った生物学的分析の高い再現性レベルを保証し、同時に高価な生物流体の無駄を回避することが可能なマイクロアレイを得ることを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0036】
第1の態様によれば、本願発明は、基板(10)の表面(12)上へ少なくとも1つの生物流体を付着させるための方法に関し、本方法は、
少なくとも1つの生物流体を充填した少なくとも1つのサーマルバブルジェットプリントヘッド(T1、T2、T3)を提供するステップと、
上記基板(10)に隣接させて上記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T
3)を位置決めするステップと、
上記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)へエネルギーを供給し、それによって上記表面(12)上へ上記少なくとも1つの生物流体を付着させるステップとを含み、上記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)には、
E>1.6*Eth
となるようにエネルギーEが供給され、ここで、Ethは、上記生物流体用のプリントヘッドのしきい値エネルギーであることを特徴とする。
【0037】
好ましくは、上記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)には、1.6*Eth<E≦3.0*EthとなるようにエネルギーEが、より好ましくは、1.8*Eth≦E≦2.2*EthとなるようにエネルギーEが供給される。
【0038】
有利には、上記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)は、0.5×10個から2×10個までの範囲の総数の液滴を吐出する。
【0039】
好ましくは、上記表面(12)上への上記少なくとも1つの生物流体の付着は、少なくとも2回、より好ましくは、2回から100回までの範囲である複数回、最も好ましくは、2回から30回までの範囲で繰り返される。より詳しくは、2つの続く付着間の間隔は、5秒から600秒まで、好ましくは、5秒から60秒までの範囲である。
【0040】
好ましくは、上記生物流体は、該生物流体の全重量に対して、重量で50%よりも多くの、好ましくは重量で70%よりも多くの、最も好ましくは重量で80%よりも多くの水を含む水性溶媒中に溶解した少なくとも1つの生物学的物質を含む。
【0041】
有利には、上記生物流体は、有機流体、タンパク質溶液、組織及び細胞溶解物、核酸溶液、核酸類似体溶液等を含む。
【0042】
第2の態様では、本願発明は、基板(10)の表面(12)上へ少なくとも1つの生物流体を付着させるための装置(DA)に関し、本装置(DA)は、
処理デバイス(PD)と、
少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)を含むサーマルバブルジェットプリントヘッドアセンブリ(PA)であって、上記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)には、上記少なくとも1つの生物流体が少なくとも部分的に充填される、上記サーマルバブルジェットプリントヘッドアセンブリ(PA)と、
上記処理デバイス(PD)に接続されたコントローラ(CTRL)と、
上記少なくとも1つの生物流体が上記表面(12)上へ付着するように、上記サーマルバブルジェットプリントヘッドアセンブリ(PA)へエネルギーを供給するために上記コントローラ(CTRL)に応答する電源(PS)と
を備え、上記電源(PS)は、
>1.6*Ethi
となるようにエネルギーE(E、E、E)を上記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)へ供給し、ここで、Ethiは、少なくとも1つの生物流体用の上記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)のしきい値エネルギーであることを特徴とする。
【0043】
第3の態様では、本願発明は、基板表面(12)を有する基板(10)と、複数の生物流体スポット(S1、S2、...Sn)とを備えたマイクロアレイ(MA)に関し、該マイクロアレイ(MA)は、上述した付着方法を実行することによって得られたものである。
【0044】
本願発明は、添付した図面を参照することによって読まれ、非限定的な例として与えられた下記の詳細な説明を読むことによってより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1a】Polyclonical Rabbit Anti−Human Alpha−1−Fetoprotein(多クローン性ラビット抗ヒトα−1−胎児性タンパク質)を使用することによるノズル寿命のグラフである。
【図1b】Polyclonical Rabbit Anti−Human Alpha−1−Fetoprotein(多クローン性ラビット抗ヒトα−1−胎児性タンパク質)を使用することによるノズル寿命のグラフである。
【図2a】Polyclonical Rabbit Anti−Human IgM(多クローン性ラビット抗ヒトIgM)を使用することによるノズル寿命のグラフである。
【図2b】Polyclonical Rabbit Anti−Human IgM(多クローン性ラビット抗ヒトIgM)を使用することによるノズル寿命のグラフである。
【図3a】Human Serum(ヒト血清)からのIgMを使用することによるノズル寿命のグラフである。
【図3b】Human Serum(ヒト血清)からのIgMを使用することによるノズル寿命のグラフである。
【図4】プリントヘッドに関する、吐出された生物流体の液滴の体積としきい値エネルギーに対する供給エネルギーの比E/Ethとの間の関係のグラフである。
【図5】本願発明の一実施形態による、基板の表面上へと生物流体を付着させるための装置の概略図である。
【図6】本願発明の一実施形態によるマイクロアレイの概略的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
それゆえ、第1の態様によれば、本願発明は、基板の表面上へ少なくとも1つの生物流体を付着させるための方法を提供し、本方法は、(i)それぞれの生物流体を充填した少なくとも1つのサーマルバブルジェットプリントヘッドを用意するステップと、(ii)基板に隣接させてプリントヘッドを位置決めするステップと、(iii)プリントヘッドへエネルギーを供給し、それによって基板上へ生物流体を付着させるステップとを含む。
【0047】
プリントヘッドには、
E>1.6*Eth
となるようにエネルギーEが供給され、ここで、Ethは、プリントヘッドのしきい値エネルギーである。記号*は、乗算を示すために本願の明細書中及び特許請求の範囲中では使用される。それゆえ、供給したエネルギーEがしきい値エネルギーEthの1.6倍より大きいことを、上記の式は意味する。
【0048】
好ましくは、供給エネルギーEは、1.6*Ethと3*Ethの間の範囲である。より好ましくは、供給エネルギーEは、1.8*Ethと2.2*Ethの間の範囲である。
【0049】
図1a及び図1bは、2つの異なる液滴体積、即ち、80pl(図1a)及び150pl(図1b)についての、生物流体を充填したサーマルバブルジェットプリントヘッドの寿命に対して、しきい値エネルギーEthに対する供給エネルギーEの比E/Ethのグラフを示す。プリントヘッドは、260個のノズルを有するOlivettiサーマルプリントヘッドであり、そのプリントヘッドは、0.01Mリン酸塩バッファや、0.0027M塩化リンや、0.137M塩化ナトリウム、pH7.4@25℃(リン酸塩バッフ
ァ溶液−Sigma Aldrich P4417)中に希釈した市販の多クローン性抗体、即ち、Polyclonical Rabbit Anti−Human Alpha−1−Fetoprotein(多クローン性ラビット抗ヒトα−1−胎児性タンパク質)(DAKO A0008−0.25mg/ml)で充填されている。好ましくは、多クローン性抗体は、スライドガラス(25.4mm(1インチ)掛ける76.2mm(3インチ))上へと付着し、その表面上で処理され、それによって正電荷(Superfrost Plus Menzel−217658Clinilab)に曝される。
【0050】
同様に、図2a及び図2bは、2つの異なる液滴体積、即ち、80pl(図2a)及び150pl(図2b)についての、生物流体を充填したサーマルバブルジェットプリントヘッドの寿命に対して、しきい値エネルギーEthに対する供給エネルギーEの比E/Ethのグラフを示す。プリントヘッドは、260個のノズルを有するOlivettiサーマルプリントヘッドであり、そのプリントヘッドは、0.01Mリン酸塩バッファや、0.0027M塩化リンや、0.137M塩化ナトリウム、pH7.4@25℃(リン酸塩バッファ溶液−Sigma Aldrich P4417)中に希釈した市販の多クローン性抗体、即ち、Polyclonical Rabbit Anti−Human IgM(多クローン性ラビット抗ヒトIgM)(DAKO A0425−0.25mg/ml)で充填されている。
【0051】
更に、図3a及び図3bは、2つの異なる液滴体積、即ち、80pl(図3a)及び150pl(図3b)についての、生物流体を充填したサーマルバブルジェットプリントヘッドの寿命に対して、しきい値エネルギーEthに対する供給エネルギーEの比E/Ethのグラフを示す。プリントヘッドは、260個のノズルを有するOlivettiサーマルプリントヘッドであり、そのプリントヘッドは、0.01Mリン酸塩バッファや、0.0027M塩化リンや、0.137M塩化ナトリウム、pH7.4@25℃(リン酸塩バッファ溶液−Sigma Aldrich P4417)中に希釈した市販の多クローン性抗体、即ち、Human Serum(ヒト血清)からのIgM(SIGMA ALDRICH I8260)で充填されている。
【0052】
プリントヘッドは、次に、パルスエネルギー
E=(V*t)/R
を供給され、ここで、Vはプリントヘッドに印加した電圧即ち駆動電圧であり、tはパルスの長さであり、Rはプリントヘッドの加熱素子の抵抗である。特に、図1a、図1b、図2a、図2b、図3a、図3bでは、曲線(1)が、3マイクロ秒の長さを有するパルスを供給したプリントヘッドに関するのに対して、曲線(2)は、5マイクロ秒の長さを有するパルスを供給したプリントヘッドに関する。一定のパルス長(5、3又は2μs)及び液滴体積(80又は150pl)において、下記の表1に明確に示されるように、しきい値電圧(V)は異なる生物流体を使用することによっても変化しなかったことに、出願人は注目した。
【0053】
【表1】

【0054】
図から知ることができるように、1.1*Ethから1.6*Ethまでの範囲内の供給エネルギーEの値に対して、プリントヘッドの寿命は、実質的にゼロである。供給エネルギーE>1.6*Ethの値に対して、プリントヘッド寿命は、急速に増加し、1.8*Eth≦E≦2.0*Ethの間のそのピーク値に達する。その後、寿命は、徐々に減少する。
【0055】
その結果、驚いたことに、インクの代わりに生物流体を充填したプリントヘッドは、サーマルインクジェットプリンディング技術の分野において従来使用するものよりも大きなエネルギーEを供給したときに寿命の増加を示す。
【0056】
異なるタンパク質について上に記載したような同じエネルギー値を使用することによって、オリゴヌクレチドの水溶液は、260個のノズルを有する同じOlivettiサーマルプリントヘッドを用いてプリントされた。同様に、短いプリントヘッド寿命という問題がない。この特定のケースでは、(しきい値エネルギーを20%〜60%超える)標準プリンディング条件がオリゴヌクレチド溶液に対して有効に利用できることに、出願人は注目した。例えば、シアン修飾有及び無のアミノ修飾した25−merオリゴ類の10mMol溶液の1200万個の液滴が、しきい値エネルギーを20%及び120%超える駆動エネルギー値を使用することによって良好にプリントされた。利用したオリゴ類は、下記の化学式を有し、Sigma Genosysによって製造されたものである。
1 HPLC精製したCy5−TGC CAA CGT GTC AGT GGT GGA CCT G−Ammine C7
2 HPLC精製したCy3−TGC CAA CGT GTC AGT GGT GGA CCT G−Ammine C7
3 HPLC精製したTGC CAA CGT GTC AGT GGT GGA CCT G−Ammine C7
ノズルを通って吐出された液滴の総数をここで参照すると、1.1*Ethから1.6*Ethまでの範囲内の供給エネルギーEの値に対して、生物流体を充填したプリントヘッドが2×10〜6×10の液滴の総数を吐出するのに対して、本願発明によって有利であると判断された1.8*Ethから2.2*Ethまでのエネルギー範囲内では、吐出された液滴の総数が0.5×10〜2×10に増加することを、出願人は見出した。
【0057】
有利なことに、本願発明の方法及び装置は、試験及び検査目的のために、例えば、有機流体類、タンパク質溶液(繊維質及び球形タンパク質類、免疫グロブリン類、ホルモン類、酵素類、抗体類、抗原類、アレルゲン類、ウイルスカプシド物質)、細胞組織及び細胞溶解物類、核酸類(DNA、cDNA、RNA、tRNA、mRNA、プラスミド類、オリゴヌクレチド類)、核酸類似体等の広範囲の生物流体を付着させることを可能にする。
【0058】
図4は、プリントヘッドを通って吐出された生物流体の液滴の体積と、プリントヘッドに供給されたエネルギーとプリントヘッドのしきい値エネルギーの間の比E/Ethとの間の関係を示す。
【0059】
プリントヘッドが生物流体を充填されたときに、液滴体積が、従来のサーマルインクジェットプリントヘッドを参照して以前に説明したものと同様のプロットを有することに気付いた。
【0060】
より具体的には、しきい値エネルギーEthよりも低いエネルギーEの値に対して(図1の曲線の部分(1);E/Eth<1)、液滴はプリントヘッドのノズルを通って何も吐出されない。しきい値エネルギーEthを超えるときには、不安定な液滴が吐出され(図2の曲線の部分(2)、E/Eth>1)、これはそれ以降安定になる(図2の曲線の
部分(3))。それゆえ、図4のグラフは、供給エネルギーE>1.6*Ethの値に対して、生物流体を充填したプリントヘッドを通って吐出される液滴は、安定なままである。
【0061】
特に、曲線の部分(2)が、液滴不安定ゾーン、即ち、液滴体積がエネルギーEの小さな変動で著しく変わることがあるゾーンと呼ばれるのに対して、曲線の部分(3)は、液滴安定ゾーン、即ち、液滴体積がエネルギーEの小さな変動で及び大きな変動であっても実質的に一定のままであるゾーンと呼ばれる。
【0062】
上に説明した驚くべき現象の可能性のある解釈が、サーマルプリントヘッドの加熱素子の優れたクリーニング中に見出されることがあると、出願人は考えている。
【0063】
より具体的には、プリントヘッドに供給されるエネルギーが大きいほど、加熱素子によって到達する温度が高くなり、その結果として、動作中に、基板上へと付着させるべき生物流体と接触する加熱素子表面の温度が高くなる。その結果、加熱素子の表面上に成長する残留生物学的生成物の層が、それ自体の化学的−物理的特性を変え、層それ自体を部分的に除去する極めて速い気泡崩壊のために、加熱素子表面の連続的な剥離を容易にする。
【0064】
好ましくは、生物流体、即ち多クローン性抗体の液滴が、いわゆるマルチ付着技術を使用することによってスライドガラスへと付着された。このマルチ付着技術は、基板の同じ領域上に所定のプリンディングパターンを複数回繰り返すこと、即ち、同じ基板上に同じ付着パターンを重ねることから構成される。好ましくは、付着パターンが、同じ領域上に2回から100回まで、より好ましくは、2回から30回まで繰り返される。
【0065】
都合の良いことに、マルチ付着技術は、少ない液滴体積を使用することによって所定の量の生物流体を基板上へ付着させることを可能にし、この液滴体積は、別のやり方では1回の付着で十分な生物流体を付着させるためには不十分であるはずである。好ましくは、連続する付着間に、典型的には5秒から600秒の範囲であり、好ましくは5秒から60秒の一時休止が行われる。一時休止は、前に付着した生物学的物質が部分的であっても乾燥することを可能にし、それによって、連続する付着を改善する。
【0066】
多くの場合、生物流体の付着中に、プリントヘッドの1つ又は複数のノズルが詰まることがある。これは、ノズルに近い生物流体の急速な蒸発のために、生物流体内に典型的に存在する塩の結晶化によって引き起こされる。
【0067】
他方で、マイクロアレイを製作するプロセス中に、スポットが一定量の生物流体を含有し、はっきりとした幾何学的形状を示さなければならないので、ノズルの連続的な正常な動作を保証することが、特に重要である。
【0068】
その結果、ノズル閉塞が、マイクロアレイ性能に障害を引き起こすことがある。これは、ノズルが部分的に閉塞する場合に、吐出される液滴のサイズが変わること及び液滴が基板上へと間違った方向に向けられることのうちの一方又は双方がある。最悪のケースでは、ノズルが完全に閉塞することがあり、従って液滴がノズルから吐出されない。
【0069】
この望ましくない現象を減少させ遅くするために、生物流体は、グリセロール、ポリエチレングリコール、鉱油等の適切な物質を好ましくは添加される。
【0070】
都合の良いことに、添加剤は、生物流体の蒸気圧を低下させ、それによって蒸発を制限する。これが、オリフィス−空気界面のところでの液体の蒸発を減少させ、そのため目詰まり現象を最小にする。
【0071】
ノズル閉塞は、それ以外には、生物流体中に含まれる粒子又はノズル直径と同等のサイズを有する生体分子のクラスタに起因する。
【0072】
この欠点を克服するために、生物流体は、プリントヘッド中へと充填される前に都合良くフィルタ処理される。
【0073】
図5は、本願発明による基板の表面上へ生物流体を付着させるための装置の実施形態を概略に示す。
【0074】
DAとして全体を示される付着装置は、コントローラCTRLに接続された処理デバイスPDを備える。好ましくは、処理デバイスPDは、グラフィカルユーザインターフェースGUIを設けたコンピュータである。
【0075】
コントローラCTRLは、複数のプリントヘッドT1、T2、T3を備えたサーマルバブルジェットプリントヘッドアセンブリPAを基板に対して機械的及び電気的に駆動するための、移動デバイスMD、電源PS、及びマルチプレクサMUXに接続される。各プリントヘッドは、それぞれの加熱素子R1、R2、R3を設けられる。
【0076】
単純化するために、付着装置DAのプリントヘッドアセンブリPAは、3個だけのプリントヘッドT1、T2、T3を備えるように表されている。明らかに、プリントヘッドアセンブリPAが任意の数のプリントヘッドを備えることができるので、これは単に例示である。
【0077】
好ましくは、各プリントヘッドT1、T2及びT3は、異なる生物流体を少なくとも部分的に充填される。例えば、各プリントヘッドT1、T2、T3が異なる市販の多クローン性抗体を充填されると仮定する。これは、都合の良いことに、同じ基板上へ異なる生物流体のスポットを付着させることを可能にする。
【0078】
使用の際には、付着装置DAの操作員は、コンピュータのグラフィカルユーザインターフェースGUIによって複数の動作パラメータを入力する。
【0079】
これらの動作パラメータは、基板上の1つ又は複数の生物流体の付着パターンを表す入力画像ファイルを含むことができる。その上、動作パラメータは、基板のサイズに一般に対応する所定の付着範囲の始点及び終点の座標x、y、zを含むことができる。
【0080】
その上、各プリントヘッドT1、T2、T3に対して、動作パラメータは、吐出すべき生物流体の全体積に関する情報及びプリントヘッド中に収容された生物流体の熱力学的特性及び流体力学的特性、例えば、沸点、表面張力、密度、粘性等に関する情報を含むことができる。更に、動作パラメータは、駆動電圧、パルス長及び動作周波数等の、どのようにしてプリントヘッドが駆動されるかに関するパラメータを含むことができる。
【0081】
処理デバイスPDは、好ましくは、入力画像ファイルをビットのシーケンスへ変換し、例えば、イーサネット接続ECによってコントローラCTRLへ少なくとも1つの上に列挙した動作パラメータとともに変換したビットのシーケンスを送る。
【0082】
コントローラCTRLは、プリントヘッドT1、T2、T3を基板に対して移動させるために、移動デバイスMD及びマルチプレクサMUXと協働することに適している。より好ましくは、基板が固定されたままで、プリントヘッドが移動する。移動が、互いに直交する1つの軸か、2つの軸か、又は3つの軸に沿って行われる場合がある。典型的には、
移動が、2つの軸又は3つの軸に沿って行われる。
【0083】
より具体的には、コントローラCTRLは、処理デバイスPDが受けたプリンディング範囲の始点及び終点の座標x、y、zを移動デバイスMDへ送る。好ましくは、移動デバイスMDは、機械的駆動信号、好ましくは移動信号を生成し、この信号をコントローラCTRLへ送る。コントローラCTRLは、マルチプレクサMUXを介してプリントヘッドT1、T2、T3へ機械的駆動信号を送る。このようにして、各プリントヘッドT1、T2、T3は、基板に対して移動する。
【0084】
好ましくは、付着装置PAは、コントローラCTRLに接続され、各プリントヘッドT1、T2、T3の瞬間的な位置を検査し且つ液滴吐出をプリントヘッド移動動作と同期させることに適合したエンコーダ、例えば、リニア光エンコーダLEを含む。
【0085】
更に、コントローラCTRLは、それぞれのエネルギーE、E及びEをプリントヘッドT1、T2、T3に供給するために電源PSと協働し、それによって、生物流体の液滴を吐出させることに適している。具体的には、エネルギーE、E及びEは、
>1.6Eth1
>1.6Eth2
>1.6Eth3
ここで、Eth1、Eth2、Eth3はプリントヘッドT1、T2、T3のしきい値エネルギーであり、これは、上に説明したように、各プリントヘッドT1、T2、T3中に収容された生物流体の流体力学的特性、例えば、沸点、表面張力、密度、及び粘性に依存する。
【0086】
より具体的には、処理デバイスPDが受け取った動作パラメータ(例えば、吐出される生物流体の全体積及び各プリントヘッドの駆動電圧)に基づいて、コントローラCTRLは、電源PSを動かし、それによってエネルギーE、E及びEの上に規定した値を生成する。電源PSは、順に、マルチプレクサMUXを介してそれぞれのエネルギーE、E、E3を各プリントヘッドT1、T2、T3へ供給する。
【0087】
都合の良いことに、エネルギーE、E、Eは、プリントヘッドの最大寿命をもたらすように、及びプリントヘッドの内部に収容された全ての生物流体の完全な吐出を可能にし、それによって生物流体の費用のかかる無駄を回避するように選択される。
【0088】
水性媒体に実質的に基づく生物流体のしきい値エネルギーが実質的に変化しないことに、出願人は気付いた。更に特に、(前記生物流体の全重量に対して)重量で50%よりも多くの水を含む水性溶媒中に溶解した少なくとも1つの生物学的物質を含む生物流体は、しきい値エネルギーの値がその生物流体中に含有される生物学的物質とは実質的に無関係であるしきい値エネルギーを示す。好ましくは、生物流体は、前記生物流体の全重量に対して、重量で70%よりも多くの、より好ましくは、重量で80%よりも多くの水を含む。
【0089】
上記の知見が、各プリントヘッドをそれぞれのエネルギーに適合させることを必要とせずに、スポットを形成しようとする全ての生物流体に対して1つの所定のしきい値エネルギーを採用することを可能にすることを、出願人は見出した。
【0090】
他方で、プリントヘッドT1、T2、T3のうちの1つ又は複数が、例えば、特定のプローブに関する情報データ又は基板の表面の一部についての分析結果をプリントするためのインク等の生物流体以外の流体を収容するときには、それぞれのエネルギーE、E及びEをプリントヘッドT1、T2、T3へ供給するために電源PSと協働するコント
ローラCTRLの能力が、有用である場合がある。
【0091】
本願発明の好ましい一実施形態では、プリントヘッドT1、T2及びT3の各加熱素子R1、R2、R3のところの駆動電圧を検査するための配置を提供する。かかる配置は、プリントヘッド検査デバイスPCDを含むことができる。プリントヘッド検査デバイスPCDは、プリントヘッドT1、T2、T3両端の実際の電圧を入力で受け取り、各プリントヘッドT1、T2、T3に対して、それぞれのプリントヘッドT1、T2、T3の電圧を指示するアナログ電気信号を出力する。各アナログ電気信号は、アナログ/ディジタル変換器A/Dにそのように送られ、変換器がそれぞれのディジタル出力を生成し、出力がコントローラCTRLへ順に送られる。コントローラCTRLは、受け取った情報を比較し、電源PSへ比較結果を提供する。順に、電源PSは、正確なエネルギーE、E、Eを各プリントヘッドへマルチプレクサMUXによって的確に供給する。それゆえ、言い換えると、プリントヘッドへ的確に供給するために、各加熱素子の実際の抵抗特性に基づいてフィードバックを提供する。
【0092】
プリントヘッド検査デバイスPCDから出力するアナログ信号が専用リンク上でコントローラCTRLへ送られるが、アナログ信号が、マルチプレクサMUXをコントローラCTRLへ接続する同じリンク上で送られることもあるために、これは単に例示である。この後者のケースでは、リンクは双方向リンクであろう。
【0093】
図6は、本願発明の付着方法を実行することによって得られるマイクロアレイの実施形態を概略的に示す。MAとして全体を示されたマイクロアレイは、1つ又は複数の生物流体の複数のスポットS1、S2、...Snがその上に付着される表面10を有する基板10を備える。
【0094】
都合の良いことに、本願発明の付着装置DAは、プリントヘッドの最大寿命を与えるために適したエネルギーを各プリントヘッドへ供給し、プリントヘッド内部に収容された全ての生物流体の完全な吐出を可能にし、それによって生物流体の費用のかかる無駄を回避することを可能にする。
【0095】
更に都合の良いことに、付着装置DAは、複数の生物流体の安定な液滴を吐出し付着させ、従って、規則的に並べられ均一なスポットが設けられているマイクロアレイを得ることを可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(10)の表面(12)上へ少なくとも1つの生物流体を付着させるための方法であって、該方法は、
a)少なくとも1つの生物流体を充填した少なくとも1つのサーマルバブルジェットプリントヘッド(T1、T2、T3)を提供するステップと、
b)前記基板(10)に隣接させて前記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)を位置決めするステップと、
c)前記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)へエネルギーを供給し、それによって前記表面(12)上へ前記少なくとも1つの生物流体を付着させるステップと
を含み、前記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)には、
E>1.6*Eth
となるようにエネルギーEが供給され、ここで、Ethは、前記生物流体用の前記プリントヘッドのしきい値エネルギーである
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)には、1.6*Eth<E≦3.0*EthとなるようにエネルギーEが供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)には、1.8*Eth≦E≦2.2*EthとなるようにエネルギーEが供給される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)は、0.5×10個から2×10個までの範囲の総数の液滴を吐出する、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記表面(12)上への前記少なくとも1つの生物流体の付着は、少なくとも2回繰り返される、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記付着は、2回から100回までの範囲である複数回繰り返される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記付着は、2回から30回までの範囲である複数回繰り返される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
2つの続く付着間の間隔は、5秒から600秒までの範囲である、請求項5から7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
2つの続く付着間の前記間隔は、5秒から60秒までの範囲である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記充填するステップ(a)の前に、前記少なくとも1つの生物流体をフィルタ処理するステップを更に含む、請求項1から9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記生物流体は、該生物流体の全重量に対して、重量で50%よりも多くの、好ましくは重量で70%よりも多くの、最も好ましくは重量で80%よりも多くの水を含む水性溶媒中に溶解した少なくとも1つの生物学的物質を含む、請求項1から10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記生物流体は、有機流体、タンパク質溶液、組織及び細胞溶解物、核酸溶液、核酸類似体溶液等を含む、請求項1から11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
基板(10)の表面(12)上へ少なくとも1つの生物流体を付着させるための装置(DA)であって、前記装置(DA)は、
−処理デバイス(PD)と、
−少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)を含むサーマルバブルジェットプリントヘッドアセンブリ(PA)であって、前記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)には、前記少なくとも1つの生物流体が少なくとも部分的に充填される、前記サーマルバブルジェットプリントヘッドアセンブリ(PA)と、
−前記処理デバイス(PD)へ接続されたコントローラ(CTRL)と、
−前記少なくとも1つの生物流体が前記表面(12)上へ付着するように、前記サーマルバブルジェットプリントヘッドアセンブリ(PA)へエネルギーを供給するために前記コントローラ(CTRL)に応答する電源(PS)と
を備え、前記電源(PS)は、
>1.6*Ethi
となるようにエネルギーEi(E、E、E)を前記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)へ供給し、ここで、Ethiは、前記少なくとも1つの生物流体用の前記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)のしきい値エネルギーである
ことを特徴とする、装置(DA)。
【請求項14】
前記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)には、
1.6*Ethi<E≦3.0*Ethi
となるようにエネルギーEi(E、E、E)が供給される、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記少なくとも1つのプリントヘッド(T1、T2、T3)には、
1.8*Ethi<E≦2.2*Ethi
となるようにエネルギーEi(E、E、E)が供給される、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
基板表面(12)を有する基板(10)と、複数の生物流体スポット(S1、S2、...Sn)とを備えたマイクロアレイ(MA)であって、前記マイクロアレイ(MA)は、請求項1から12の何れか一項に記載の付着方法を実行することによって得られた、マイクロアレイ(MA)。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−525566(P2012−525566A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507609(P2012−507609)
【出願日】平成21年4月29日(2009.4.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055227
【国際公開番号】WO2010/124734
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
2.イーサネット
【出願人】(503148270)テレコム・イタリア・エッセ・ピー・アー (87)
【Fターム(参考)】