説明

基板処理装置とその方法、および薄膜太陽電池

【課題】薄膜太陽電池を構成するガラス基板表面に低コストで光閉じ込め効果の大きい凹凸形状を形成することができる基板処理方法を得ること。
【解決手段】ガラス基板の表面にテクスチャ構造を形成する基板処理方法において、ガラス基板の表面に、HFガスと、アルコールガスまたは水蒸気との混合ガスを供給してエッチングする際に、HFガスとアルコールガスまたは水蒸気の流量比を時間的に変化させてエッチングを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板処理装置とその方法、および薄膜太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薄膜シリコン(Si)太陽電池は、100℃〜200℃程度の比較的低温で形成できるため、薄膜Si太陽電池を形成するための基板としては様々な材質の基板を用いることが可能である。通常よく用いられるものは、ガラス基板である。この薄膜Si太陽電池は、変換効率の向上が課題となっており、それにはガラス基板上に成膜された発電層となる薄膜Si層の光吸収量を増加させることが重要なポイントとなっている。そのため、ガラス基板上に、表面に凹凸のあるテクスチャ形状の透明導電膜を形成することによって、光吸収層中での光の光路長を増加させる、いわゆる光の閉じ込め効果を上げることが従来から行われてきた。
【0003】
ガラス基板の表面上に凹凸のテクスチャ構造を形成するには幾つかの方法があるが、その一つとしてブラスト法が提案されている。たとえば、ガラス基板に研磨剤としてアルミナ粉末(最大粒子径19μm)を混合した水を吹き付けるウォーターブラスト法によって粗面化した後、この基板をフッ酸水溶液中で処理して凹凸を形成する方法(たとえば、特許文献1参照)や、#200の番手の砥粒を用いて、サンドブラスト法によって太陽電池用基板であるガラス基板の表面を処理して、平均段差3μmの凹凸を形成する方法(たとえば、特許文献2参照)が提案されている。これらの方法によって凹凸が形成されたガラス基板表面に透明導電膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000―223724号公報
【特許文献2】特開平7−122764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、以上説明したガラス基板上の透明導電膜に凹凸のテクスチャ形状を形成する方法では、凹凸の大きさが数μm〜数十μmとなるため十分な光閉じ込め効果が得られないという問題点があった。また、ガラス基板にブラスト処理によって凹凸を形成してから透明導電膜を形成する方法では、ブラスト処理によるガラス基板へのダメージが残ってしまい、さらにブラスト処理後に薬液によるウエットエッチング処理を施すため、用途の異なる2台の製造装置を用いて2つの工程を行うことになり、コストがかかってしまう反面高いスループットが得られないという問題があった。
【0006】
この発明は、上記に鑑みてなされたもので、薄膜太陽電池を構成するガラス基板表面に低コストで光閉じ込め効果の大きい凹凸形状を形成することができる基板処理装置とその方法を得ることを目的とする。また、このような基板処理方法を用いた薄膜太陽電池を得ることも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この発明にかかる基板処理方法は、ガラス基板の表面にテクスチャ構造を形成する基板処理方法において、前記ガラス基板の表面に、HFガスと、アルコールガスまたは水蒸気との混合ガスを供給してエッチングする際に、HFガスとアルコールガスまたは水蒸気の流量比を時間的に変化させてエッチングを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、数μm〜十数μmの大きさの凹凸と、1μm以下の大きさの凹凸とが混在したテクスチャ構造を形成することができるので、従来に比して光閉じ込め効果の大きなガラス基板を制御性よく、低コストで形成することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、この発明の実施の形態1による基板処理装置の概略構成を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、HFガスとCH3OHガスの流量を一定としてエッチング処理した後のガラス基板の表面の状態を示すSEM像である。
【図3】図3は、実施の形態1による基板処理方法によって処理されたガラス基板のヘイズ率を示す図である。
【図4】図4は、HFとアルコールの混合ガスによるエッチングのメカニズムを模式的に示す図である。
【図5】図5は、HF水溶液を用いた場合のガラス基板のエッチングのメカニズムを模式的に示す図である。
【図6】図6は、HFガスを用いた場合のガラス基板のエッチングのメカニズムを模式的に示す図である。
【図7】図7は、実施の形態1によるガスの供給方法を模式的に示すタイムチャートである。
【図8】図8は、CH3OH/HF流量比を時間的に変化させながらエッチング処理した後のガラス基板の表面の状態を示すSEM像である。
【図9】図9は、CH3OH/HF流量比を1に一定にしてエッチング処理した後のガラス基板の表面の状態を示すSEM像である。
【図10】図10は、実施の形態3による薄膜太陽電池の構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、この発明の実施の形態にかかる基板処理装置とその方法、および薄膜太陽電池を詳細に説明する。なお、これらの実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、以下の実施の形態で用いられる薄膜太陽電池の断面図は模式的なものであり、層の厚みと幅との関係や各層の厚みの比率などは現実のものとは異なる場合がある。
【0011】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による基板処理装置の概略構成を模式的に示す断面図である。基板処理装置10は、処理室15である真空チェンバ11内に、処理対象であるガラス基板51などの基板が載置される基板ステージ12と、基板ステージ12の基板載置面に対向して配置されるガス吐出部13と、を備える。この例では、基板ステージ12は、真空チェンバ11内の下部に設けられ、ガス吐出部13は、真空チェンバ11内の上部に設けられている。ガス吐出部13の基板ステージ12側の面には、ガラス基板51に向けてガスをシャワー状に供給するシャワープレート14が設けられている。また、基板ステージ12は、保持するガラス基板51の温度を所定の温度に調整することができるように、加熱機構や水冷式などの冷却機構を有している。
【0012】
また、真空チェンバ11の下部には排気口17が設けられており、処理室15と排気口17とを結ぶ配管上には、処理室15内の圧力を調整するゲートバルブなどの圧力調整部16が設けられ、また排気口17には図示しない真空ポンプが接続される。圧力調整部16と真空ポンプによって、処理室15内の圧力を所望の圧力に調整可能な構成となっている。
【0013】
ガス吐出部13には、処理室15内に処理ガスを供給する処理ガス供給機構20が接続されている。処理ガス供給機構20は、第1のガスを供給する第1のガス供給配管21と、第2のガスを供給する第2のガス供給配管24と、を有する。第1のガス供給配管21には、第1のガス供給配管21を流れる第1のガスの流量を調整するマスフローコントローラ22と、流量調整された第1のガスをガス吐出部13に連続的にまたは間欠的に供給することができるパルスバルブ23と、が設けられる。第2のガス供給配管24には、第2のガス供給配管24を流れる第2のガスの流量を調整するマスフローコントローラ25と、流量調整された第2のガスをガス吐出部13に連続的にまたは間欠的に供給することができるパルスバルブ26と、が設けられる。ここで第1のガスとしては、ガラス基板51をエッチングするHFガスを用いることができ、第2のガスとしては、メタノール(CH3OH)、エタノール(C25OH)、イソプロピルアルコールなどのアルコールガスや水蒸気(H2O)を用いることができる。なお、マスフローコントローラ22,25とパルスバルブ23,26は、後述する方法によって、図示しない制御装置によって制御される。
【0014】
第1のガス供給配管21からの第1のガスと第2のガス供給配管24からの第2のガスは、それぞれ流量調整されてガス吐出部13に入る前に合流して混合され、ガス吐出部13へと混合ガス(ベーパ)が供給される。そして、ガス吐出部13のシャワープレート14から、基板ステージ12上のガラス基板51上へと吐出される。なお、パルスバルブ23,26で間欠的にガスを供給してエッチングする方法については後述する。
【0015】
つぎに、この基板処理装置10における基板処理方法について、(1)ガス流量を一定にしてエッチングする場合と(2)ガス流量比を変化させてエッチングする場合に分けて説明する。
【0016】
(1)ガス流量を一定にしてエッチングする場合
図1に示される構成を有する基板処理装置10の基板ステージ12上にアルカリ成分28%を含むガラス基板51を載置する。ここでガラス基板51の温度は、ガラス中のSiO2のエッチング速度と相関があり、80℃以上では十分なエッチング速度が得られないため、基板ステージ12の温度を80℃未満の所定の温度(たとえば40℃)に設定する。そして、図示しない真空ポンプによって、処理室15内を所定の真空度となるまで排気する。
【0017】
第1のガスにはHFガスを用い、マスフローコントローラ22で流量を100sccmに設定し、第2のガスにはCH3OHを用いてマスフローコントローラ25で流量を200sccmに設定する。また、この例では、それぞれのパルスバルブ23,26は常時オープンさせる連続動作としており、CH3OH/HFの流量比が2となるように時間的に一定にしている。
【0018】
また、HFとCH3OHの混合ガスを噴出するシャワープレート14と基板ステージ12との間隔は、ガラス基板の大きさやエッチング速度の均一性を考慮して適宜設定される。エッチング中の処理室15の圧力は、エッチング速度や表面凹凸サイズなどによって、10〜10,000Paに設定されるが、ここでは圧力調整部16によって2,000Paに設定する。なお、処理室15内の圧力が10Pa未満または10,000Paよりも大きいと、エッチング速度が低くなり、必要以上に時間を要してしまう場合があるので好ましくなく、上記した10〜10,000Paの範囲に設定するのが望ましい。以上の条件の下で、20分間エッチングを行う。
【0019】
その結果、ガラス基板51の表面がエッチングされていることが認められる。このエッチングされたガラス基板51について、SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)で表面観察を行い、さらにヘイズ率を測定する。図2は、HFガスとCH3OHガスの流量を一定としてエッチング処理した後のガラス基板の表面の状態を示すSEM像であり、図3は、実施の形態1による基板処理方法によって処理されたガラス基板のヘイズ率を示す図である。図3において、横軸は、波長(Wavelength,nm)を示し、縦軸はヘイズ率(Haze,%)を示している。また、図中の曲線(A)は、HFガスとCH3OHガスの流量を時間的に一定としてエッチング処理したガラス基板のヘイズ率を示しており、曲線(B)は、後に示すHFガスとCH3OHガスの流量比を時間的に変化させてエッチング処理したガラス基板のヘイズ率を示している。
【0020】
図2に示されるように、ガラス基板51の表面には、数μm〜十数μmの凹凸が形成されている。また、図3の曲線(A)に示されるように、短波長から長波長の領域において、高いヘイズ率が得られている。特に、波長500nmにおいては、63%のヘイズ率が得られている。このように、ガラス基板51の表面に形成される凹凸によって、良好な光閉じ込め効果が得られることが分かる。
【0021】
ここでHFとアルコールの混合ガスによるガラス基板のエッチングメカニズムについて説明する。図4は、HFとアルコールの混合ガスによるエッチングのメカニズムを模式的に示す図である。上記したように、太陽電池パネルに用いられるガラス基板51は、二酸化珪素(SiO2)を主成分とし、アルカリ成分となるNa2O,CaO,MgOなどが10〜30%添加されたいわゆるソーダガラスとして製造される。したがって、ガラス基板51中には、図4に示される主成分のSiO2の中にアルカリ成分の粒塊が分散して混在する形態となる。
【0022】
HFガスをガラス基板51の表面に噴出(吐出)させると、HFとSiO2との間の反応によってガラス基板51の表面からエッチングが進展する。ここでHFがガラスをエッチングするのは、HFがガラスの主成分であるSiO2と、次式(1)、(2)のように反応するからである。
SiO2+6HF→H2SiF6+2H2O ・・・(1)
2SiF6→SiF4↑+2HF ・・・(2)
【0023】
そして、これらの(1)、(2)式から次の(3)式が導かれる。
SiO2+4HF→SiF4↑+2H2O ・・・(3)
【0024】
具体的には、図4(a)に示されるように、HFガスは、鎖状の6量体構造で存在しており、SiO2と反応する。これによって、(1)式のようにH2SiF6とH2Oが形成される。また、(2)式のようにH2SiF6は、SiF4とHFとに分解する。その結果、(3)式のようにSiO2とHFガスとを反応させることで、SiF4とH2Oとが生成され、揮発していく。このように、HFガスに触れたガラス基板51の表面はエッチングされることになる。
【0025】
一方、図4(b)に示されるように、ガラス基板51中に存在するNa,Ca,Mgは、フッ素と反応して、水に不溶かつ不揮発性のフッ化物を形成して、上記(1)〜(3)式で示されるSiO2のエッチングの際のマスクとして機能する。これによって、HFガスがSiO2と接触しないところはエッチングされず、SiO2と接触したところのみがエッチングされ、結果的にガラス基板51の表面に凹凸が形成されることになる。
【0026】
つまり、ガラス基板51の表面は揮発したSiO2と、Na,Ca,Mgのフッ化物からなるマスクと、によって凹凸形状となり、エッチングが進展するにしたがって数μm〜数十μmの凹凸を有するテクスチャ構造が形成される。
【0027】
ガラス基板51のエッチングでは、HFガスすなわち無水フッ化水素の単体ではガラス基板51のSiO2との反応性が低いため、H2Oまたはアルコールを添加している。これによって、HFはイオン解離してフッ化物イオンF-を生成し、このF-イオンがシリコン酸化膜に作用してSiO2のエッチング反応が進行することになる。
【0028】
なお、HF水溶液を用いてもガラス基板51の表面に凹凸のテクスチャを形成できることが知られている。そこで、HF水溶液を用いた場合と実施の形態1によるHFガスを用いた場合とのガラス基板51へのテクスチャの形成の相違について説明する。図5は、HF水溶液を用いた場合のガラス基板のエッチングのメカニズムを模式的に示す図であり、図6は、HFガスを用いた場合のガラス基板のエッチングのメカニズムを模式的に示す図である。
【0029】
HF水溶液を用いる場合には、HFガスの場合と同様に、F-イオンがSiO2に作用してエッチングが行われるが、同時にガラス基板51中のアルカリ成分であるNa,Ca,Mgもフッ素と反応して、水に不溶かつ不揮発性のフッ化物が形成される。しかし、HF水溶液を用いたエッチングでは、図5(a)に示されるように、エッチング液の流れによってアルカリ成分のフッ化物がリフトオフされてしまう。そのため、ガラス基板51中に残存することなく等方的なエッチングが支配的となる。その結果、エッチング処理を行い水洗処理した後には、図5(b)に示されるように、凹凸のテクスチャサイズが十μm以上の大きさになってしまう。
【0030】
これに対して、HFガスを用いる場合には、図6(a)に示されるように、エッチングの際に生成されるアルカリ成分のフッ化物は、リフトオフされずにそのままガラス基板51中に残存する。このアルカリ成分のフッ化物は、不揮発性であるので、上記したようにエッチングの際のマスクとなり、SiO2のエッチングが進行する。その後、水洗処理を行うと、図6(b)に示されるように、アルカリ成分のフッ化物は除去され、HF水溶液を用いた場合に比して小さい周期の凹凸を形成することができる。
【0031】
つまり、この実施の形態1のテクスチャ形成方法は、ガラスとHFガスとの反応が分子レベルのミクロな領域での反応の積み重ねとなるので、細かなピッチの凹凸から大きなピッチの凹凸までコントロールが可能となる。特に細かなピッチの凹凸は、従来のブラスト処理とウエットエッチング法では不可能な領域の加工となる。
【0032】
以上述べたHFとアルコールの混合ガスによってガラス基板の表面に凹凸を形成する方法は、本発明者らが見出したものであり、これを用いることによって、太陽電池パネルの製造において、簡便な方法で光閉じ込め効果の大きなテクスチャ構造の形成が可能になる。
【0033】
(2)ガス流量比を変化させてエッチングする場合
上記(1)のガス流量を一定にしてエッチングする場合においても、太陽電池パネルの製造において、光閉じ込め効果の大きなテクスチャ構造を形成することが可能であるが、(1)の方法に比してさらにテクスチャ構造による光閉じ込め効果を向上することができるガラス基板の表面に凹凸を形成する方法について説明する。
【0034】
ここでも、(1)の場合と同様に、図1に示される構成を有する基板処理装置10の基板ステージ12上にアルカリ成分28%を含むガラス基板51を載置する。そして、基板ステージ12の温度を80℃未満の所定の温度(たとえば40℃)に設定し、処理室15内を所定の真空度となるまで排気する。
【0035】
その後、第1のガス供給配管21と第2のガス供給配管24から第1のガス(HFガス)と第2のガス(CH3OH)を供給するが、ここでは、(1)の場合と異なり、ガスの供給をパルス的に行うようにしている。図7は、実施の形態1によるガスの供給方法を模式的に示すタイムチャートである。この図において、横軸は時間を示している。
【0036】
上段は、パルスバルブ23,26の開閉動作(オン/オフタイミング)を示している。この例では、第1のガス(HFガス)供給配管21に設けられるパルスバルブ23を間欠的にパルス動作させ、第2のガス(CH3OH)供給配管24に設けられるパルスバルブ26を定常的に連続動作させる。
【0037】
中段は、その場合のガス流量の時間変化を示しており、第1のガスであるHFガス流量は、オン/オフ供給によって時間的に大きく変化することになる。つまり、パルスバルブ23がオンにされると、第1のガス供給配管21からガス吐出部13に供給されるHFガスの量は急激に増加し、パルスバルブ23がオフにされると、ガス吐出部13へのHFガスの供給量は減少していく。そして、パルスバルブ23の所定の周期でのオン/オフの切換えで、このHFガスの供給量の増減のパターンが繰り返される。一方、第2のガスであるCH3OHガス流量は、時間に依らず一定となっている。
【0038】
下段は、第1のガスに対する第2のガスの流量比、すなわちCH3OH/HF流量比の時間変化を示している。CH3OH/HF流量比は、第1のガスが時間的に大きく変化し、第2のガスが時間に依らず一定となっていることから、時間的に大きな変化となっている。そのため、ガス吐出部13からシャワープレート14を介して処理室15内に供給される混合ガスのCH3OH/HF流量比は時間的に大きな変化を有するものとなる。
【0039】
なお、この例では、第1のガスをパルス的に供給し、第2のガスを定常的に供給したが、第1のガスを定常的に供給し、第2のガスをパルス的に供給しても同様にCH3OH/HF流量比を時間的に大きく変化させることができる。
【0040】
このように、時間的にCH3OH/HF流量比を変化させながら、ガラス基板51をエッチングする。具体的な処理条件は、上記(1)の場合と同様に、第1のガスにはHFガスを用い、HFの平均ガス流量を100sccmに設定し、第2のガスにはCH3OHを用い、CH3OHの平均流量を200sccmに設定する。また、第1のガスのパルスバルブ23はオン時間を2秒とし、オフ時間を4秒として動作させてHFガスをパルス的に供給し、第2のガスのパルスバルブ26はオープン動作として定常的に供給する。これによって、CH3OH/HF流量比が時間的に0.5〜5.0程度に大きく変化しながら、ガス吐出部13のシャワープレート14からHFガスとCH3OHガスとが処理室15内に吐出される。また、処理室15の圧力は、パルス的なガス供給により時間的に変動することになるが、ここでは圧力調整部16を所定の位置に固定して平均的なガス圧力を設定する。その他の処理方法は(1)の場合の条件と同様とする。また、このようなパルスバルブ23,26のオン/オフの切換え動作は、図示しない制御部によって行われる。以上の条件の下で20分間エッチングを行う。
【0041】
その結果、ガラス基板51の表面がエッチングされていることが認められる。このエッチングされたガラス基板51について、SEMで表面状態を観察し、さらにヘイズ率を測定する。図8は、CH3OH/HF流量比を時間的に変化させながらエッチング処理した後のガラス基板の表面の状態を示すSEM像である。
【0042】
図8に示されるように、ガラス基板51の表面には、数μm〜十数μmの大きな凹凸と、1μm以下の小さな凹凸が混在しながら形成されている。また、図3の曲線(B)に示されるように、短波長から長波長において曲線(A)の場合に比してさらに高いヘイズ率が得られている。特に、波長500nmにおいては、77%のヘイズ率が得られている。このように、ガラス基板51の表面に形成される凹凸によって、(1)の場合に比してさらに良好な光閉じ込め効果が得られることが分かる。
【0043】
ここで、HFガスとCH3OHガスの流量比を時間的に変化させながらガラス基板51の表面をエッチングすると、ヘイズ率の高い光閉じ込め効果の大きいテクスチャ構造が形成される理由を検討するため、以下の評価をさらに行う。
【0044】
第1のガス(HF)と第2のガス(CH3OH)の流量を定常的に供給して、第1のガスのHF流量を100sccmとし、第2のガスのCH3OH流量を100sccmとする。つまり、CH3OH/HF流量比を1として20分間、ガラス基板51のエッチングを行い、SEMによって表面状態を観察する。
【0045】
図9は、CH3OH/HF流量比を1に一定にしてエッチング処理した後のガラス基板の表面の状態を示すSEM像である。この図9に示されるように、エッチングされたガラス基板51の表面には1μm以下の小さな凹凸が形成され、ガラス基板51のエッチング量も少なかった。一方、図2に示されるように、CH3OH/HF流量比を2に一定にしてエッチングした場合には、上記したように数μm〜十数μmの凹凸が形成される。
【0046】
このように、CH3OH/HF流量比が1程度と小さい場合には小さな(1μm以下の)凹凸が形成され、CH3OH/HF流量比が2以上(たとえば、5程度)と大きい場合には比較的大きな(数μm〜十数μmの)凹凸が形成されると考えられる。そのため、CH3OH/HF流量比を時間的に大きく変化させると、凹凸のサイズがガラス基板51の厚さ方向に変化しながらエッチングが進展すると考えられる。
【0047】
すなわち、HFガスとCH3OHガスの流量比を時間的に変化させると、ガラス基板51中のアルカリ成分とSiO2とのエッチング選択比が時間的に変化することによって凹凸の形状が変化すると考えられる。凹凸のサイズ、凹凸の大小の割合は、第1のガスまたは第2のガスを間欠的に供給する際のパルス条件によって所望のテクスチャ構造に制御可能となる。
【0048】
なお、HFガスとCH3OHガスによるガラスのエッチング速度は、HFガスとCH3OHガスの流量比によって変化すると共に、真空チェンバ11内のガス圧力にも依存する。そのため、両ガスの流量比を時間的に変化させる実施の形態1の方法においては、場合によっては流量比が大きい場合でも凹凸が小さく、流量比が小さい場合でも凹凸が大きくなることもある。しかし、このような場合でも、流量比を時間的に変化させてガラス基板51のエッチングを行うことによって、テクスチャ形状の制御が可能であることに変わりはない。
【0049】
実施の形態1では、HFガスとアルコールガスの流量比を時間的に変化させた混合ガスをガラス基板51に吐出してエッチングを行うようにしたので、ガラス基板51の表面には、数μm〜十数μmの大きな凹凸と、1μm以下の小さな凹凸が混在したテクスチャ構造を制御性よく形成することができる。同様に、HFガスと水蒸気との流量比を時間的に変化させてエッチングを行ってもよい。その結果、従来に比して光閉じ込め効果の大きなガラス基板を形成することができる。また、従来のように、ブラスト処理後に薬液によるウエットエッチング処理を施して凹凸を形成する方法に比して、凹凸の形成に使用する装置が1つとなり(凹凸を形成するのに1工程のみとなり)、低コストを実現すると共に高いスループットを得ることができるという効果も有する。
【0050】
実施の形態2.
実施の形態1では、真空チェンバ内にガラス基板を搬入した後、真空チェンバ内が所定の真空度になるまで排気した後、エッチングガスを導入してエッチングを行っていた。この実施の形態2では、実施の形態1に比して高精度にテクスチャを形成することができるエッチング方法について説明する。
【0051】
まず、図1に示される構成を有する基板処理装置10の基板ステージ12上にアルカリ成分28%を含むガラス基板51を載置する。そして、基板ステージ12の温度を80℃未満の所定の温度(たとえば40℃)に設定し、処理室15内を所定の真空度となるまで排気する。
【0052】
処理室15内が所定の真空度になると、圧力調整部16を調整するとともに、第2のガスのCH3OHのみを定常的に200sccm供給し、処理室15内の圧力を上昇させて1,000〜10,000Paの範囲の所定の圧力(たとえば、2,000Pa)になるようにする。この状態では、処理室15内はCH3OHガスのみとなっているのでガラス基板51の表面のエッチングは行われない。
【0053】
処理室15内が所定の圧力になると、第2のガスに加えて第1のガスのHFを、実施の形態1の(2)の場合のように平均流量100sccmでパルス的に供給して、処理室15内をCH3OHガスとHFガスの混合ガスとする。このとき、ガス吐出部13のシャワープレート14からは、CH3OH/HF流量比が時間的に大きく変化するCH3OHガスとHFガスの混合ガスが供給される。そして、2,000Paの高い圧力状態からHFによるSiO2のエッチングが開始される。ガラス基板51中のSiO2は、上述したようにHFとの反応によってエッチングされるが、エッチング速度はガス圧力に対して相関を持ち、1,000〜10,000Pa程度の圧力で比較的高いエッチング速度が得られるので、HFガスの供給を開始した時点から比較的高いエッチング速度でのエッチングが行われることになる。
【0054】
実施の形態1のように処理室15内に第1のガスと第2のガスを同時に供給した場合には、処理室15が高真空状態から所定の圧力に到達するまでは、低いエッチング速度しか得られないため、所望の凹凸形状を形成することが難しい。
【0055】
一方、この実施の形態2では、高真空状態の処理室15内に第2のガスを供給して、1,000〜10,000Pa程度の所定の圧力に到達した後に、HFガスを間欠的に供給し、CH3OH/HF流量比が時間的に大きく変化する条件で、ガラス基板51上にCH3OHとHFの混合ガスを供給するようにした。これによって、HFガスを処理室15内に供給した時点から、比較的高い速度でエッチングが開始され、凹凸形状、構造の制御性が向上し、光閉じ込め効果の大きい高精度なテクスチャを歩留まりよく形成することができるという効果を有する。
【0056】
実施の形態3.
図10は、実施の形態3による薄膜太陽電池の構造を模式的に示す断面図である。この薄膜太陽電池50は、実施の形態1または実施の形態2で形成されたテクスチャ構造を表面に有するガラス基板51上に、アンダーコート層52と、透明導電膜からなる第1電極層53と、p型半導体膜、発電層であるi型半導体膜およびn型半導体膜からなるpin接合を有する半導体層からなる光電変換層54と、透明導電膜551および金属電極膜552からなる第2電極層55と、が積層された構造を有する。
【0057】
ここで、アンダーコート層52は、ガラス基板51からのアルカリ成分の拡散を防止する機能を有し、たとえばSiO2膜などを用いることができる。第1電極層53として、ZnOやSnO2、ITOなどの透明導電性酸化膜や、導電率向上のためにこれらの透明導電性酸化膜にAlなどの金属を添加した膜などを用いることができる。光電変換層54として、p型の水素化微結晶シリコン(μc−Si:H)層、i型の水素化微結晶シリコン(μc−Si:H)層およびn型の水素化微結晶シリコン(μc−Si:H)層を順次積層したものを用いることができる。第2電極層55の透明導電膜551としては、ZnOやSnO2、ITOなどの透明導電性酸化膜や、これらの透明導電性酸化膜にAlなどの金属を添加した膜などを用いることができ、金属電極膜552としては、Agなどを用いることができる。なお、ここでは図示していないが、上記積層構造がセルごとに形成され、各セル間を直列にまたは並列に接続することで、太陽電池モジュールを得ることができる。
【0058】
つぎに、このような構造の薄膜太陽電池の製造方法について説明する。なお、実際の製造では、レーザスクライブ法などによって、複数のセルに分離して太陽電池モジュールを製作するが、ここでは省略して膜構造のみを示している。
【0059】
まず、所定の洗浄を経たガラス基板51を、実施の形態1または実施の形態2に記載の方法を用いてエッチングし、ガラス基板51の表面にテクスチャ構造51aを形成する。ついで、必要に応じて、テクスチャ構造51aが形成されたガラス基板51上にスパッタリング法によってアンダーコート層52としてSiO2膜を成膜する。その後、該アンダーコート層52上に第1電極層53としてZnO膜をスパッタリング法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法などの成膜法によって形成する。
【0060】
ついで、第1電極層53上に光電変換層54となるシリコン薄膜をプラズマCVD法によって形成する。ここでは、光電変換層54として、第1電極層53側からp型μc−Si:H層、i型μc−Si:H層、およびn型μc−Si:H層を順次積層形成する。その後、光電変換層54上に透明導電膜551としてのSnO2をスパッタリング法などの成膜法によって成膜し、さらに、透明導電膜551上に金属電極膜552としてのAg膜をスパッタリング法などの成膜法によって形成し、第2電極層55を形成する。以上によって、薄膜太陽電池が形成される。
【0061】
なお、この薄膜太陽電池50の構造は、例示であり、光電変換層54がバンドギャップの異なる複数の半導体層が積層されたタンデム構造を有するものであってもよい。また、上記した各層の材料は例示であり、これに限定されるものではない。
【0062】
この実施の形態3によれば、実施の形態1または実施の形態2の基板処理方法で表面に凹凸を形成したガラス基板51を用いて薄膜太陽電池50を形成したので、光電変換層54中での光路長が長くなり、ガラス基板51側から入射する光を光電変換層54で効率よく発電に用いることができるという効果を有する。
【0063】
なお、上記した実施の形態では、ガス流量や圧力などのパラメータを具体的な数値で説明したが、これらの値に限定されるものではない。また、ガラス基板51中のアルカリ成分の割合も一例であり、これに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0064】
10 基板処理装置
11 真空チェンバ
12 基板ステージ
13 ガス吐出部
14 シャワープレート
15 処理室
16 圧力調整部
17 排気口
20 処理ガス供給機構
21 第1のガス供給配管
22,25 マスフローコントローラ
23,26 パルスバルブ
24 第2のガス供給配管
50 薄膜太陽電池
51 ガラス基板
51a テクスチャ構造
52 アンダーコート層
53 第1電極層
54 光電変換層
55 第2電極層
551 透明導電膜
552 金属電極膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の表面にテクスチャ構造を形成する基板処理方法において、
前記ガラス基板の表面に、HFガスと、アルコールガスまたは水蒸気との混合ガスを供給してエッチングする際に、HFガスとアルコールガスまたは水蒸気の流量比を時間的に変化させてエッチングを行うことを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】
前記アルコールガスまたは前記水蒸気の流量を一定とし、前記HFガスの流量を時間的に変化させることを特徴とする請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記HFガスの流量を一定とし、前記アルコールガスまたは前記水蒸気の流量を時間的に変化させることを特徴とする請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記エッチングする際の前記ガラス基板が載置される領域の圧力は、10〜10,000Paであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記エッチングする際の前記ガラス基板が載置される領域の圧力が1,000〜10,000Paとなるように、前記アルコールガスまたは前記水蒸気を一定の量で供給し、前記ガラス基板が載置される領域の圧力が1,000〜10,000Paになった後に、前記アルコールガスまたは前記水蒸気を一定の量で供給しながら前記HFガスの流量を時間的に変化させて、前記ガラス基板が載置される領域に前記混合ガスを供給することを特徴とする請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項6】
真空チェンバと、
前記真空チェンバ内でガラス基板を載置する基板保持手段と、
前記真空チェンバ内で前記基板保持手段の前記ガラス基板載置面上にガスを吐出するガス吐出手段と、
前記ガス吐出手段にHFガスを供給する第1ガス供給手段と、
前記ガス吐出手段にアルコールガスまたは水蒸気を供給する第2ガス供給手段と、
前記真空チェンバ内のガスを排気する排気手段と、
前記第1ガス供給手段から前記ガス吐出手段に供給されるHFガスのオン/オフを切り替える第1ガスバルブと、
前記第2ガス供給手段から前記ガス吐出手段に供給されるアルコールガスまたは水蒸気のオン/オフを切り替える第2ガスバルブと、
前記HFガスと、前記アルコールガスまたは前記水蒸気との流量比が時間的に変化するように、前記第1ガスバルブと前記第2ガスバルブのオン/オフを切り替える制御手段と、
を備えることを特徴とする基板処理装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記第1ガスバルブを間欠的にオンにし、前記第2ガスバルブをオンにしたままの状態となるように制御を行うことを特徴とする請求項6に記載の基板処理装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記第1ガスバルブをオンにしたままの状態とし、前記第2ガスバルブを間欠的にオンになるように制御を行うことを特徴とする請求項6に記載の基板処理装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記排気手段によって前記真空チェンバ内を真空にした後、前記第2ガスバルブをオンにして、前記真空チェンバ内が1,000〜10,000Paの圧力になると、前記第2ガスバルブをそのままの状態として、前記第1ガスバルブを間欠的にオンにすることを特徴とする請求項6に記載の基板処理装置。
【請求項10】
前記ガラス基板は、アルカリ成分を含むソーダガラスであることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1つに記載の基板処理装置。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の基板処理方法で処理された前記ガラス基板の前記テクスチャ構造を形成した面上に、透明導電性材料からなる第1電極層と、pin接合を有する半導体層を1層以上含む光電変換層と、金属膜を含む第2電極層と、が積層されるセルを備えることを特徴とする薄膜太陽電池。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図2】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−87043(P2013−87043A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232102(P2011−232102)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】