説明

基板接合方法及び半導体装置

【課題】 接合面に空洞が発生しにくい接合方法を提供することである。本発明の他の目的は、この接合方法を用いて接合した半導体装置を提供する。
【解決手段】 (a)第1の基板(1)の主表面上に、AuSn合金からSnを吸収して、該AuSn合金のSnの組成比を低下させる金属からなる第1のSn吸収層(5)を形成する。(b)第2の基板(11)の主表面上に、AuSn合金からSnを吸収して、該AuSn合金のSnの組成比を低下させる金属からなる第2のSn吸収層(17)を形成する。(c)前記第1のSn吸収層及び前記第2のSn吸収層の少なくとも一方のSn吸収層の上に、AuSn合金からなる半田層(7)を形成する。(d)前記第1の基板と第2の基板の主表面同士が対向するように、前記第1の基板と第2の基板とを密着させた状態で、前記半田層を溶融させて、該第1の基板を第2の基板に接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2枚の基板をAuSn半田を用いて接合する基板接合方法、及びAuSn半田による接合箇所を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図7Aに、下記の特許文献1に開示された半導体装置の接合前の概略断面図を示す。支持基板61の主表面上に、Au層62、Ti層63、Ni層64、及びAuSn半田層65がこの順番に積層されている。仮基板70の主表面上に、発光層71、AuZn層72、TaN層73、Al層74、Ta層75、及びAu層76がこの順番に積層されている。Au層76をAuSn半田層65に密着させて加熱することにより、AuSn半田層65を溶融、及び固化させて発光層71を含む仮基板70を、支持基板61に接合する。接合後、仮基板70はエッチング除去される。AuZn層72は、発光層71から放射される光を反射し、光の取り出し効率を高める機能を持つ。
【0003】
Ni層64は、その上のAuSn半田層65の、溶融後の再固化時におけるボールアップを防止する。「ボールアップ」とは、共晶温度以上で一旦液化したAuSnが、再度固化する際に、支持基板61上で偏析することにより部分的に盛り上がる現象をいう。TaN膜73は、AuSn半田の、AuZn層72への侵入を防止する。
【0004】
図7Bに、下記の特許文献2に開示されたレーザチップの接合構造を示す。シリコンからなる支持基板61の上に、Ni層64、Au層66、及びAuSn半田層65がこの順番に積層されている。レーザチップ81の底面にAu層82が形成されている。Au層82をAuSn半田層65に密着させて加熱することにより、レーザチップ81が支持基板61に接合される。Ni層64が、AuSn半田層65の溶融時におけるボールアップを防止する。
【0005】
図7Cに、下記の特許文献3に開示された半導体装置の接合構造を示す。GaAs基板91の底面に、AuGe層92、Ni層93、AuSn半田層94、及びAu層95がこの順番に積層されている。Au層95をパッケージ基板61に密着させて加熱することにより、GaAs基板91がパッケージ基板61に実装される。Ni層93は、AuSn半田層94の密着性を高める。
【0006】
【特許文献1】特開2006−86208号公報
【特許文献2】特開2006−332435号公報
【特許文献3】特開平5−235323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
接合部の熱抵抗の低減や、材料コストの低減のために、AuSn半田層を薄くすることが好ましい。ところが、AuSn半田層を薄くすると、接合面に空洞が発生しやすくなる。接合面に発生した空洞は、接合強度の低下や、熱抵抗の増大をもたらす。このように、半導体装置に、空洞を内包する接合面が存在すると、半導体装置の熱抵抗の増大、駆動電圧の上昇、及び素子寿命特性の低下が発生する。
【0008】
本発明の目的は、接合面に空洞が発生しにくい接合方法を提供することである。本発明の他の目的は、この接合方法を用いて接合した半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によると、
(a)第1の基板の主表面上に、AuSn合金からSnを吸収して、該AuSn合金のSnの組成比を低下させる金属からなる第1のSn吸収層を形成する工程と、
(b)第2の基板の主表面上に、AuSn合金からSnを吸収して、該AuSn合金のSnの組成比を低下させる金属からなる第2のSn吸収層を形成する工程と、
(c)前記第1のSn吸収層及び前記第2のSn吸収層の少なくとも一方のSn吸収層の上に、AuSn合金からなる半田層を形成する工程と、
(d)前記第1の基板と第2の基板の主表面同士が対向するように、前記第1の基板と第2の基板とを密着させた状態で、前記半田層を溶融させて、該第1の基板を第2の基板に接合する工程と
を有する基板接合方法が提供される。
【0010】
本発明の他の観点によると、
第1の基板と、
前記第1の基板に接合された半導体からなる動作層と、
前記動作層を前記第1の基板に接合するAu、Sn、及び他の第3の元素を含む合金からなる接合層と
を有し、前記接合層内に、前記接合層内の厚さ方向に関する中央部分、該中央部分よりも前記第1の基板側の第1の部分、及び前記動作層側の第2の部分を定義したとき、前記中央部分のSnの組成比が、前記第1の部分及び前記第2の部分のいずれのSnの組成比よりも小さく、前記中央部分のAuの組成比が、前記第1の部分及び前記第2の部分のいずれのAuの組成比よりも大きく、前記中央部分の前記第3元素の組成比が、前記第1の部分及び前記第2の部分のいずれの前記第3の元素の組成比よりも小さくなるように各元素の組成比が厚さ方向に関して変化している半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
第1及び第2のSn吸収層が、半田層のSnを吸収することにより、半田層内のSnの組成比が低下する。これにより、固化後の半田層の融点が上昇し、再溶融しにくくなる。半田層の両側にSn吸収層が配置されているため、半田層の両面からSnが吸収される。Snの吸収により、溶融している半田層が徐々に固化するため、接合界面に空洞が残らず、良好な接合を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1A〜図1Fを参照して、第1の実施例による基板接合方法について説明する。
【0013】
図1Aに示すように、n型またはp型不純物を添加したシリコン(Si)からなる第1の基板1の主表面上にPt層3を形成するとともに、主表面とは反対側の底面上にも、Pt層2を形成する。第1の実施例では、B濃度3×10−18cm−3以上(比抵抗0.02Ωcm以下)の(100)面が表出したSi基板を用いた。
【0014】
Pt層は、例えば抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング等により形成される。Pt層2及び3の各々の厚さは、オーミック電極として用いるために、25nm以上とすることが好ましい。Ptの仕事関数がp型Siの仕事関数よりも高いため、Pt層2及び3と、第1の基板1とのオーミック接触を確保することができる。後の熱圧着の工程において加熱処理が施されるため、シリサイド化の進行により、オーミック接触及び低い接触抵抗が維持される。なお、第1の基板1には、Si以外の熱伝導率の高い導電性材料、例えばCu等を用いてもよい。
【0015】
Pt層3の上に、厚さ150nmのTi層4を形成する。Ti層4の上に、Niからなる厚さ100nmの第1のSn吸収層5を形成する。Ti層4及び第1のSn吸収層5は、例えば電子ビーム蒸着またはスパッタリングにより形成される。Ti層4は、その上の第1のSn吸収層5の密着性を高める。
【0016】
第1のSn吸収層5の上に、Au層6を形成し、さらにその上にAuSn合金からなる半田層7を形成する。Au層6及び半田層7は、例えば抵抗加熱蒸着またはスパッタリングにより形成される。Au層6及び半田層7の厚さは、例えばそれぞれ30nm及び600nmとする。半田層7のAuとSnとの組成比は、重量比で約8:2、原子数比で約7:3である。なお、半田層7に、主成分であるAuとSn以外の添加物を加えてもよい。
【0017】
図1Bに示すように、半導体からなる第2の基板11の主表面上に、複数の半導体層を含む動作層12をエピタキシャル成長させる。動作層12は、例えば、電子と正孔を注入することにより、その半導体材料固有の波長の光を放出する発光層である。第2の基板11には、動作層12の半導体材料を高品質にエピタキシャル成長させることが可能な結晶構造及び格子定数を持つ半導体材料が選択される。
【0018】
例えば、動作層12を、AlGaInP系化合物半導体からなる井戸層と障壁層とを持つ多重量子井戸構造とする場合には、第2の基板11としてGaAs基板を用いる。また、動作層12を、ホモpn接合構造、ダブルへテロ構造、またはシングルへテロ構造としてもよい。半導体発光層をn型クラッドとp型クラッドで挟んだ構造としてもよい。
【0019】
動作層12の上に、反射電極層13を形成する。反射電極層13は、電極としての機能の他に、動作層12から放射された光を反射し、光の取り出し効率を高める機能を有する。反射電極層13は、動作層12とオーミック接触する金属で形成される。動作層12の、反射電極層13側の表層部が、p型のAlGaInPで形成されている場合、反射電極層13の材料としてAuZnを用いることができる。この場合、反射電極層13は、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、またはスパッタリングにより形成することができる。その厚さは、例えば300nmとする。
【0020】
反射電極層13の上に、厚さ100nmのTaN層14を、反応性スパッタリングにより形成する。TaN層14の形成後、窒素雰囲気下において、約500℃で熱処理を行う。この熱処理により、AuZnからなる反射電極層13とp型AlGaInPからなる動作層12の表層部とが合金化し、良好なオーミック接触が得られる。TaN層14は、後工程で、溶融したAuSn共晶材料の、反射電極層13への侵入を防止する。
【0021】
TaN層14の上に、厚さ100nmのTiW層15、厚さ100nmのTaN層16を、反応性スパッタリングにより形成する。TaN層16の上に、Niからなる第2のSn吸収層17を、電子ビーム蒸着またはスパッタリングにより形成する。第2のSn吸収層17の厚さは、300nmとする。第2のSn吸収層17の上に、厚さ30nmのAu層18を、抵抗加熱蒸着またはスパッタリングにより形成する。Au層18は、Ni層17の酸化を防止する。
【0022】
図1Cに示すように、第1の基板1と第2の基板11とを、それらの主表面同士が対向するように配置する。図1Dに示すように、第1の基板1側のAuSn半田層7と、第2の基板11側のAu層18とを密着させて、窒素雰囲気下で熱圧着を行う。熱圧着条件は下記の通りである。
【0023】
・圧力 約1MPa
・温度 320〜370℃
・圧着時間 10分間
図1Eに示すように、AuSn半田層7が溶融し、Au層6、18のAu、第1のSn吸収層5及び第2のSn吸収層17のNiが、溶融している半田層7に溶解し、及びAu層6、18、半田層7のAu及びSnが、第1のSn吸収層5及び第2のSn吸収層17内に拡散し、吸収される。溶融した半田層7が固化することにより、AuSnNiからなる接合層20が形成される。接合後、第2の基板11を除去する。第2の基板11がGaAsで形成されている場合には、例えば、アンモニア水と過酸化水素水との混合液を用いたウェットエッチングにより除去することができる。なお、ウェットエッチングの他に、ドライエッチング、化学機械研磨(CMP)、機械的研削等により除去することも可能である。
【0024】
図1Fに示すように、動作層12の表面が露出する。露出した表面の一部の領域上に、表側電極30を形成する。表側電極30が接触する動作層12の表面にn型AlGaInPが露出している場合には、表側電極30に、AuSnNi、AuGeNi、AuSn、またはAuGeを用いることができる。表側電極30は、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング等による成膜と、リフトオフ法により形成することができる。表側電極30を形成した後、窒素雰囲気下において、約400℃で熱処理を行うことにより、オーミック接触を確保する。
【0025】
第1の基板1の底面に形成されたPt層2及び表側電極30から、動作層12にキャリアが供給される。動作層12で発生した光は、表側電極12が形成された面から外部に放出される。
【0026】
上記第1の実施例による基板接合方法により実際に試料を作製するとともに、半田層7、Au層6、18、第2のSn吸収層17の厚さを異ならせた複数の試料を作製し、接合部分の評価を行った。第1のSn吸収層5の厚さは100nmとした。
【0027】
図2に、作製した試料の構成及び評価結果を示す。図2中のT(Au)は、第1のSn吸収層5と第2のSn吸収層17との間に配置されているAu層の合計の厚さを表し、T(AuSn)は、半田層7の厚さを表し、T(Ni)は、第1のSn吸収層5と第2のSn吸収層17との合計の厚さを表す。第1の実施例による方法で作製した試料は、図2の試料1に相当する。
【0028】
図3Aに、試料3の接合層の断面写真を示す。AuSnNiからなる接合層が、厚さ方向に関して外見の異なる4つの領域に区分されていることがわかる。
【0029】
図3Bに、接合層内の厚さ方向に関する位置が異なる4つの領域A〜Dの組成比を、オージェ電子分光法により測定した結果を示す。横軸は、組成比(原子数比)を単位「%」で表す。領域A〜Dは、接合層20内に、第1の基板1側から順番に配列している。
【0030】
ほぼ中央の領域BのSnの組成比が、領域A及び領域CのいずれのSnの組成比よりも小さい。中央の領域BのAuの組成比が、領域A及び領域CのいずれのAuの組成比よりも大きい。また、中央の領域BのNiの組成比が、領域A及び領域BのいずれのNiの組成比よりも小さい。領域A及び領域Cにおいて、Niの組成比が、Auの組成比及びSnの組成比のいずれよりも大きい。中央の領域Bにおいて、Auの組成比がNiの組成比よりも大きく、Niの組成比がSnの組成比よりも大きい。なお、試料3の構成より第2のSn吸収層17を薄くすることにより、領域Dの暑さが薄くなることが確認された。
【0031】
領域BのSnの組成比がその両側の領域A及びCのSnの組成比よりも小さいことから、半田層7内のSnが、第1のSn吸収層5及び第2のSn吸収層17に吸収されていることがわかる。溶融前の半田層7のAuの組成比は原子数で70%であった。これに対し、再固化後の半田層7のAu組成比は90%以上である。この結果から、第1のSn吸収層5及び第2のSn吸収層17は、AuよりもSnを優先的に吸収していることがわかる。領域DのSnの組成比が、領域CのSnの組成比よりも小さいのは、第2のSn吸収層17の厚さが300nmであり、厚さ100nmの第1のSn吸収層5よりも厚いため、Snが第2のSn吸収層17の反対側の表面まで十分拡散していないためと考えられる。
【0032】
領域BのAuの組成比が、溶融前の半田層7のAuの組成比よりも高くなっているため、領域Bの融点は、元の半田層7の融点よりも高い。具体的には、Auの組成比が70%のAuSn合金の融点が約280℃であるのに対し、Auの組成比が90%のAuSn合金の融点は約900℃である。従って、接合後の半導体素子をパッケージ基板等に実装する際の加熱時に、接合層が再溶融しにくい。接合後の熱処理時に再溶融しにくい性質を「再溶融耐性」と呼ぶこととする。上記実施例では、固化後の半田層のAuの組成比を高めることにより、再溶融耐性を高めることができる。
【0033】
図4A及び図4Bに、それぞれ試料6及び10の接合層の断面写真を示す。いずれの試料においても、接合界面に空洞50が観察された。ただし、試料6では、空洞が少なく、十分な密着性を確保することができた。試料10では、空洞が多くなり、十分な密着性を確保することができなかった。
【0034】
図2において、接合界面に空洞が観察されなかった試料の評価を「○」とし、空洞が観察されたが十分な密着性を確保することができた試料の評価を「△」とし、空洞が多いため十分な密着性を確保することができなかった試料の評価を「×」とした。T(Au)/T(AuSn)を0.22以下とすることにより、接合界面における空洞の発生を防止することができる。また、T(Au)/T(AuSn)を0.39以下とすることにより、十分な密着性を確保することができる。
【0035】
以下、半田層7の厚さに対するAu層の合計の厚さの比と、空洞の発生との因果関係について説明する。
【0036】
半田層7に用いられているAuSn半田(原子数組成比でAu:Sn=7:3)の融点は約280℃であり、AuとSnとの組成比がいずれの方向にずれても、融点が上昇する。特に、Auの組成比が大きくなる方向にずれると、融点の上昇傾向が急峻になる。Au層が相対的に厚くなると、AuSn半田層7が溶融したときに、Au層内のAu原子が、溶融している半田層内に溶解し、その部分のAuの組成比が高くなる。このため、固化速度が速くなり、接合界面に発生した気泡が接合界面の外に吐き出される前に固化してしまう。これにより、接合界面に空洞が発生すると考えられる。
【0037】
Au層が薄い場合には、Au層が、溶融している半田層7内に溶解することによるAuの組成比の上昇は支配的ではなく、Snが第1のSn吸収層5及び第2のSn吸収層17に吸収されることによるAuの組成比の上昇が支配的になる。Snが、第1のSn吸収層5及び第2のSn吸収層17に吸収される速度は緩やかであるため、溶融している半田層内のAuの組成比の上昇も緩やかになる。このため、半田層7が固化するまでの時間が長くなる。接合界面に発生した気泡が、接合界面の端部まで移動し、外部に吐き出されるまでの時間が確保されることにより、空洞の発生が防止されると考えられる。
【0038】
次に、第1のSn吸収層5及び第2のSn吸収層17に用いられるNi以外の材料について説明する。
【0039】
第1のSn吸収層5及び第2のSn吸収層17には、溶融したAuSn半田からSnを優先的に吸収し、固化後のAuSn半田のSnの組成比を、溶融前のAuSn半田のSnの組成比よりも小さくする性質を持つことが必要とされる。これにより、AuSn半田の融点が上昇し、再溶融耐性を高めることができる。さらに、AuSn半田の溶融時にボールアップを生じさせないために、AuSn半田に対する濡れ性が高いことが要求される。このような材料として、Niの他に、PtやPdが挙げられる。
【0040】
次に、Niからなる第1のSn吸収層5及び第2のSn吸収層17の好ましい厚さについて説明する。
【0041】
第1のSn吸収層5及び第2のSn吸収層17が、半田層7に比べて薄すぎると、半田層7内のSnを十分吸収することができなくなる。この場合、固化後の半田層7内のAuとSnとの組成比が、溶融前の組成比からほとんど変化しない部分が残る。組成比の変化しなかった部分が残ると、十分な再溶融耐性を確保することができない。図2に示した評価が○であった試料1〜5、12、13のうちT(Ni)/T(AuSn)が最小のものは試料13であり、その値は0.41である。この試料13において、固化後の半田層のSnの組成比が小さくなっており、十分な再溶融耐性が確保されていた。従って、T(Ni)/T(AuSn)を0.41以上にすることにより、十分な再溶融耐性を確保することが可能になると考えられる。T(Ni)/T(AuSn)が0.33の試料11では、接合界面の密着力が弱く、部分的に剥離が生じた。
【0042】
第1のSn吸収層5は、半田層7に対する濡れ性を高めてボールアップを抑制するために、100nm以上の厚さとすることが好ましい。第1のSn吸収層5の厚さが100nmの試料1〜5において、ボールアップを防止できることが確認されている。
【0043】
第2のSn吸収層17は、その表面が接合界面となるために、接合界面に空洞を発生させないという観点から、その膜厚を決定する必要がある。例えば、十分な再溶融耐性を確保するためには、T(Ni)/T(AuSn)を0.41以上にすればよい。T(Ni)は、第1のSn吸収層5と第2のSn吸収層17との合計の膜厚であるため、第1のSn吸収層5を厚くすれば、第2のSn吸収層17を相対的に薄くすることも可能である。
【0044】
接合時の初期段階において、第2のSn吸収層17の一部が半田層7と共に溶融し、気泡を含んだ状態になる。前述の通り、溶融している時間を十分とると、気泡は接合界面の端部まで移動し、外部に吐き出される。ところが、第2のSn吸収層17を薄くしすぎると、第2のSn吸収層17の全域が半田層7と共に溶融し、第2のSn吸収層17に接していたTaN層16が気泡と接することになる。TaN層16は、半田に対する濡れ性が悪いため、気泡と接するとやや安定な状態を形成する。このため、気泡が移動しにくく、気泡を含んだまま固化して接合部に空洞が残留してしまう。
【0045】
このように、第2のSn吸収層17に接する層が、半田に対して濡れ性の悪い材料で形成されている場合、第2のSn吸収層17のうち半田層7とは反対側の一部に溶融しない領域が残る程度に、第2のSn吸収層17を厚くすることが好ましい。例えば、第2のSn吸収層17の膜厚が150nm以上であれば、気泡の残留を防止することができる。なお、第2のSn吸収層17に接する層が、溶融した半田と濡れ性の高い材料で形成されている場合には、第2のSn吸収層17を、150nmより薄くしてもよい。
【0046】
様々な状況に対応して、接合界面における空洞の発生を防止するために、第2のSn吸収層17を150nm以上の厚さにすることが好ましい。第2のSn吸収層17の厚さが150nmの試料13では、空洞のない良好な接合界面が得られている。
【0047】
また、AuSnからなる半田層7を厚くした場合には、図3Bの接合層の領域Bの、厚さ方向に関する中央部近傍に、半田層7のAuSn組成比とほぼ等しい組成比を持つ領域が現れる。この場合にも、接合層は、Niを主成分とする領域A及びC、その間に配置されたAuを主成分とする領域Bを含むことになり、空洞のない良好な接合界面が得られる。
【0048】
図5A〜図5Cに、第2〜第4の実施例による基板接合方法で用いられる各基板の接合前の断面図を示す。すなわち、第1の実施例の図1Cの断面図に対応する。
【0049】
図5Aに示すように、第2の実施例では、AuSn半田層7の表面がAu層8で被覆されている。この場合、第1のSn吸収層5と第2のSn吸収層17との間に配置されたAu層の合計の厚さT(Au)は、Au層6、8、及び18の各々の厚さの合計になる。
【0050】
図5Bに示すように、第3の実施例では、AuSn半田層が、第1の基板1側ではなく、第2の基板11側に形成されている。第1の基板1側においては、第1のSn吸収層5の上に形成されたAu層6が露出している。第2の基板11側のAu層18の表面上に、AuSn半田層7aが形成され、その表面がAu層8aで覆われている。
【0051】
図5Cに示すように、第4の実施例では、AuSn半田層が第1の基板1及び第2の基板11の両方に形成されている。第1の基板1側においては、Au層6の上に、半田層7bが形成され、その表面がAu層8bで覆われている。第2の基板11側においては、Au層18の表面上に半田層7cが形成され、その表面がAu層8cで覆われている。この場合、AuSn半田層の厚さT(AuSn)は、第1の基板1側の半田層7bの厚さと第2の基板11側の半田層7cの厚さの合計になる。
【0052】
図6A〜図6Cに、第5〜第7の実施例による基板接合方法で用いられる各基板の接合前の断面図を示す。すなわち、第1の実施例の図1Cの断面図に対応する。
【0053】
図6Aに示すように、第5の実施例では、図1Cに示した第1の実施例のAu層6及び18が配置されていない。図2に示した試料12が、第5の実施例の構造に対応し、そのT(Au)/T(AuSn)は0である。図6Bに示すように、第6の実施例では、図5Bに示した第3の実施例のAu層6、8a、及び18が配置されていない。図6Cに示すように、第7の実施例では、図5Cに示した第4の実施例のAu層6、8b、8c、及び18が配置されていない。
【0054】
上述のように、第2〜第7の実施例による構造としても、第1の実施例の場合と同様の効果が期待できる。
【0055】
図5Bに示した第3の実施例、及び図6Bに示した第6の実施例においては、第1の基板1側の第1のSn吸収層5の表面、またはその上のAu層6の表面が接合界面となる。従って、接合界面における空洞の発生を防止するために、第1のSn吸収層5の厚さを150nm以上にすることが好ましい。第2のSn吸収層17の厚さは100nm以上でよい。
【0056】
図5Cに示した第4の実施例、及び図6Cに示した第7の実施例においては、第1のSn吸収層5及び第2のSn吸収層17のいずれも接合界面から離れているため、各々の厚さは100nm以上にすればよい。ただし、第2〜第7の実施例においても、十分な再溶融耐性を確保するために、T(Ni)/T(AuSn)は、第1の実施例の場合と同様に、0.41以上とすることが好ましい。
【0057】
図2に示した各試料では、AuSn半田層7の厚さを600nm〜950nmとしたが、その他の厚さとしてもよい。従来は、接合界面に空洞が発生せず、かつ十分な強度の接合を得るために、AuSn半田層の厚さを1μmよりも厚くしていた。上記実施例による方法を採用することにより、AuSn半田層7の厚さを1μm以下にしても、空洞の発生がない良好な接合を得ることができる。
【0058】
図2に示した各試料において、AuSn半田層7を薄くすることにより、従来の厚い半導体層を用いていた場合に生じていた半導体装置の個片化工程におけるダイシング装置の刃の損傷を低減することができた。
【0059】
また、図2に示した各試料において、AuSn半田層7を薄くすると、従来の厚い半田層を用いていた場合と比較して、接合後の接合層のAuSn組成の変化が大きくなる。このため、接合層の再溶融耐性が高くなる。これにより、半導体装置を配線基板等にリフロー半田付けにより実装する際の熱による再溶融、再溶融による位置ずれ、剥離、及び端面からの半田のはみ出し等の問題を低減することができる。
【0060】
上記実施例では、AuSn半田層のAuとSnの組成比を、原子数比で約7:3としたが、他の組成比のAuSn合金を用いてもよい。溶融前の半田層7の融点よりも、接合後のSnの組成比が低下した半田層の融点の方が高くなるような条件を満たす組成比とすることが好ましい。このような組成比とすることにより、接合層の再溶融耐性を高めることができる。
【0061】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1−1】第1の実施例による基板接合方法を説明するための、基板の断面図である。
【図1−2】第1の実施例による基板接合方法を説明するための、基板の断面図である。
【図1−3】第1の実施例による基板接合方法を説明するための、基板の断面図である。
【図1−4】第1の実施例による基板接合方法を説明するための、基板の断面図である。
【図1−5】第1の実施例による基板接合方法により製造された半導体装置の断面図である。
【図2】第1の実施例による方法、その変形例による方法で製造した試料の構成及び評価結果を示す図表である。
【図3】(3A)は、試料3の接合部分の断面写真であり、(3B)は、各領域の組成比の測定結果を示すグラフである。
【図4】(4A)及び(4B)は、それぞれ試料6及び試料10の接合部分の断面写真である。
【図5】(5A)〜(5C)は、それぞれ第2〜第4の実施例による基板接合方法で接合される基板の断面図である。
【図6】(6A)〜(6C)は、それぞれ第5〜第7の実施例による基板接合方法で接合される基板の断面図である。
【図7】(7A)〜(7C)は、従来の基板接合方法で接合される基板の断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 第1の基板
2、3 Pt層
4 Ti層
5 第1のSn吸収層
6、8、18 Au層
7 半田層
11 第2の基板
12 動作層
13 反射電極層
14 TaN層
15 TiW層
16 TaN層
17 第2のSn吸収層
20 接合層
30 表側電極
50 空洞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1の基板の主表面上に、AuSn合金からSnを吸収して、該AuSn合金のSnの組成比を低下させる金属からなる第1のSn吸収層を形成する工程と、
(b)第2の基板の主表面上に、AuSn合金からSnを吸収して、該AuSn合金のSnの組成比を低下させる金属からなる第2のSn吸収層を形成する工程と、
(c)前記第1のSn吸収層及び前記第2のSn吸収層の少なくとも一方のSn吸収層の上に、AuSn合金からなる半田層を形成する工程と、
(d)前記第1の基板と第2の基板の主表面同士が対向するように、前記第1の基板と第2の基板とを密着させた状態で、前記半田層を溶融させて、該第1の基板を第2の基板に接合する工程と
を有する基板接合方法。
【請求項2】
前記第1のSn吸収層及び第2のSn吸収層がNiで形成されている請求項1に記載の基板接合方法。
【請求項3】
前記半田層が、前記第1のSn吸収層及び第2のSn吸収層のうち一方のSn吸収層の上にのみ形成されており、前記半田層が形成されている方のSn吸収層の厚さが100nm以上である請求項2に記載の基板接合方法。
【請求項4】
前記半田層が形成されていない方のSn吸収層の厚さが150nm以上である請求項3に記載の基板接合方法。
【請求項5】
前記第1のSn吸収層の厚さと前記第2のSn吸収層の厚さとの合計が、前記半田層の厚さの0.41倍以上である請求項2乃至4のいずれか1項に記載の基板接合方法。
【請求項6】
さらに、前記工程(a)の後、前記第1のSn吸収層の表面を第1のAu層で被覆する工程を含む請求項2乃至5のいずれか1項に記載の基板接合方法。
【請求項7】
さらに、前記工程(b)の後、前記第2のSn吸収層の表面を第2のAu層で被覆する工程を含む請求項2乃至6のいずれか1項に記載の基板接合方法。
【請求項8】
さらに、前記工程(c)の後、前記半田層の表面を第3のAu層で覆う工程を含む請求項2乃至7のいずれか1項に記載の基板接合方法。
【請求項9】
前記工程(d)において前記第1の基板と第2の基板とを密着させた状態で、前記第1のSn吸収層と第2のSn吸収層との間に配置されているAu層の厚さの合計が、前記半田層の厚さの0.39倍以下である請求項6乃至8のいずれか1項に記載の基板接合方法。
【請求項10】
前記工程(d)において、前記半田層内のSn原子が、前記第1のSn吸収層及び第2のSn吸収層内に拡散することにより、固化後の前記半田層のSnの組成比が、溶融前の前記半田層のSnの組成比より小さくなっている請求項1乃至9のいずれか1項に記載の基板接合方法。
【請求項11】
溶融前の前記半田層の厚さが1μm以下である請求項1乃至10のいずれか1項に記載の基板接合方法。
【請求項12】
第1の基板と、
前記第1の基板に接合された半導体からなる動作層と、
前記動作層を前記第1の基板に接合するAu、Sn、及び他の第3の元素を含む合金からなる接合層と
を有し、前記接合層内に、前記接合層内の厚さ方向に関する中央部分、該中央部分よりも前記第1の基板側の第1の部分、及び前記動作層側の第2の部分を定義したとき、前記中央部分のSnの組成比が、前記第1の部分及び前記第2の部分のいずれのSnの組成比よりも小さく、前記中央部分のAuの組成比が、前記第1の部分及び前記第2の部分のいずれのAuの組成比よりも大きく、前記中央部分の前記第3元素の組成比が、前記第1の部分及び前記第2の部分のいずれの前記第3の元素の組成比よりも小さくなるように各元素の組成比が厚さ方向に関して変化している半導体装置。
【請求項13】
第1の基板と、
前記第1の基板に接合された半導体からなる動作層と、
前記動作層を前記第1の基板に接合するAu、Sn、及び他の第3の元素を含む合金からなる接合層と
を有し、前記接合層が、前記第3の元素を主成分とする2つの層と、該2つの層の間に配置されたAuを主成分とする層とを含む半導体装置。
【請求項14】
前記第3の元素が、Ni、Pt、またはPdである請求項12または13に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記第1の部分及び第2の部分において、第3の元素の組成比が、Auの組成比及びSnの組成比のいずれよりも大きい請求項12乃至14のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記中央部分において、Auの組成比が第3の元素の組成比よりも大きく、第3の元素の組成比がSnの組成比よりも大きい請求項12乃至15のいずれか1項に記載の半導体装置。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図1−5】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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