説明

基礎下免震構造

【課題】地震による横揺れによって建物のコンクリート基礎と地盤の間に滑りを生じて建物が免震されるようになされた基礎下免震構造において、地震の横揺れによる、滑りによる摩擦熱が発生した場合でも、免震性能を発揮することができる基礎下免震構造を提供する。
【解決手段】建物のコンクリート基礎1が2層の発泡樹脂板4を介して地盤2上に支承されると共に、2層の発泡樹脂板4の間であって、2層の発泡樹脂板4のいずれか一方又は双方に、滑り板5が発泡樹脂板4と一体化して設けられ、地震による横揺れによって、発泡樹脂板4と滑り板5間又は滑り板5間に滑りを生じて建物が免震されるようになされており、滑り板5は、免震時の発泡樹脂板4と滑り板5間又は滑り板5間の滑りによって発生する摩擦熱による滑り面の温度上昇を抑制するのに十分な熱容量を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎下免震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤にコンクリートやモルタルからなる地盤基礎が形成されると共に、該地盤基礎の上に滑りシートを介してコンクリート基礎が支承され、地震による横揺れによって滑りシートと地盤基礎の間に滑りを生じて建物が免震されるようになされた基礎下免震構造は、従来より提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−141183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、滑りシートでは、シワが発生し、安定的な滑り面を確保できないといった問題があった。また、地震による横揺れに対し、滑りシートに滑りによる摩擦熱が発生し、そのため滑りシートの摩擦係数が変化し、設計どおりの免震性能が発揮できない場合があった。
【0005】
さらに、建物のコンクリート基礎と地盤との間に、面圧の均一化や縦揺れ振動の抑制などを目的として発泡樹脂板を介設した場合には、滑りシートのすべりによる摩擦熱が、発泡樹脂板の融点に達すると、滑りシートと発泡樹脂板との溶着や発泡樹脂板自身の溶解を引き起こし、免震性能が発揮できないといった問題があった。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑み、地震による横揺れによって建物のコンクリート基礎と地盤の間に滑りを生じて建物が免震されるようになされた基礎下免震構造において、地震の横揺れにより、滑り面に摩擦熱が発生した場合でも、免震性能を発揮することができる基礎下免震構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は、建物のコンクリート基礎が2層の発泡樹脂板を介して地盤上に支承されると共に、該2層の発泡樹脂板の間であって、2層の発泡樹脂板のいずれか一方又は双方に、滑り板が発泡樹脂板と一体化して設けられ、地震による横揺れによって、発泡樹脂板と滑り板間又は滑り板間に滑りを生じて建物が免震されるようになされていることを特徴とする基礎下免震構造により解決される。
【0008】
この基礎下免震構造では、滑り板により滑り面を形成しているので、シワができることなく、安定した滑り面を確保することができる。
【0009】
また、この基礎下免震構造において、前記滑り板は、免震時の発泡樹脂板と滑り板間又は滑り板間の滑りによって発生する摩擦熱による滑り面の温度上昇を抑制するのに十分な熱容量を有しているとよい。
【0010】
滑り板が、摩擦熱による滑り面の温度上昇を抑制するのに十分な熱容量を有しているので、摩擦熱による滑り面の温度上昇を抑制することができ、温度変化による滑り面の摩擦係数の変化を抑制することができ、設計どおりの免震性能を発揮することができる。
【0011】
さらに、滑り板が、発泡樹脂板の融点に達することなく、滑り板と発泡樹脂板との溶着や発泡樹脂板自身の溶解を引き起こすことを防止することができ、設計どおりの免震性能を発揮することができる。
【0012】
また、この基礎下免震構造において、前記滑り板の滑り面には、滑りを潤滑にするためのコーティング材が塗布されているとよい。
【0013】
滑り板の滑り面に、滑りを潤滑にするためのコーティング材が塗布されているので、地震時にスムーズに滑る滑り面を確保することができる。
【0014】
さらに、この基礎下免震構造において、前記発泡樹脂板及び滑り板がピース状のものからなり、隣り合う発泡樹脂板及び滑り板どうしが間隔をあけてコンクリート基礎と地盤間に配置されているとよい。
【0015】
免震時による滑り面に発生する摩擦熱との関係で、滑り面の温度上昇を適切に管理した上で滑り板の厚みを選定し、発泡樹脂板及び滑り板をピース上にすることで、摩擦面の接触面積を適切に管理することができる。
【0016】
また、この基礎下免震構造では、コンクリート基礎と地盤との間に発泡樹脂板を介した構造としているので、地震による横揺れによって建物の耐力壁が水平力を受けると、力の伝達過程において、2層の発泡樹脂板の鉛直方向におけるバネ作用によって、2層の発泡樹脂板の間の面圧のバラツキが緩和され、滑り面における抵抗力が一定化されて、免震時に建物が回転運動してしまうのを効果的に抑制することができる。
【0017】
加えて、上記のような発泡樹脂板を採用することにより、該発泡樹脂版の鉛直方向におけるバネ作用によって、地震や日常の環境振動による縦揺れも緩和することができる。
【0018】
また、建物のコンクリート基礎と地盤との間に発泡樹脂板の間に介設されており、滑り面の平滑性は確保されているので、コンクリート基礎や地盤の表面の不陸を吸収でき、効率的に施工を実施することができる。
【0019】
また、滑り板が2層の発泡樹脂板の間に介設されているので、滑り板は、外気や床下、地中の温度の影響を受けにくく、よって滑り板自身の温度が変動しにくいため、温度変化による滑り板の摩擦係数の変動の影響を低減することができる。特に滑り板がプラスチック材料系からなる場合には、環境変化による摩擦係数の変動の低減による効果が高い。
【発明の効果】
【0020】
本発明は以上のとおりであるから、地震による横揺れによって建物のコンクリート基礎と地盤の間に滑りを生じて建物が免震されるようになされた基礎下免震構造において、地震の横揺れによる、滑りによる摩擦熱が発生した場合でも、免震性能を発揮することができる基礎下免震構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態の基礎下免震構造を示すもので、図(イ)は断面側面図、図(ロ)は図(イ)の一部拡大分解側面図である。
【図2】発泡樹脂板及び滑り板の配置状況を示す斜視図である。
【図3】本発明の他の実施形態の基礎下免震構造を示すもので、図(イ)は断面側面図、図(ロ)は図(イ)の一部拡大分解側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1に示す実施形態の基礎下免震構造において、1は建物のコンクリート基礎、2は地盤であり、地盤2の上には、地盤基礎3が設けられ、地盤基礎3の上に、発泡ポリプロピレンや発泡ポリスチレンなどからなる2層の発泡樹脂板4,4を介して、コンクリート基礎1が支承されており、2層の発泡樹脂板4,4の間には、一層の滑り板5が下側の発泡樹脂板4と一体化して介設されて、地震による横揺れによって発泡樹脂板4と滑り板5との間に滑りを生じて建物が免震されるようになされている。
【0024】
図2に示すように、発泡樹脂板4,4、滑り板5の平面形状は、それぞれの幅寸法が建物のコンクリート基礎1及び地盤基礎3の幅寸法と略同じ寸法の正方形をしており、発泡樹脂板4,4と滑り板5がセットになったユニットが免震時の横揺れ寸法を確保したうえで、間隔をあけてコンクリート基礎1下に配置されている。
【0025】
発泡樹脂板4の厚さ寸法は、例えば20mmであり、滑り板の厚さ寸法は、例えば、1.6mmであり、発泡樹脂板4,4と滑り板5の合計厚さ寸法は、例えば41.6mm程度であり、コンクリート基礎1のフーチング部の厚さ寸法は、例えば155mmであり、地盤基礎の厚さ寸法は、例えば400mmである。
【0026】
発泡樹脂板4,4は、発泡成型された樹脂材からなり、例えば、物理的物性値として、単位体積重量が0.35±0.03kN/m3、圧縮強さが400kN/m2以上のポリスチレンフォームなどが用いられ、滑り板5は、例えば、建築構造用溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板などのめっき鋼板やステンレス鋼板などが用いられる。また、滑り板5は、例えば、変性シリコーンエポキシ系接着剤などの接着剤により下側の発泡樹脂板4に接着され、一体化されている。
【0027】
また、発泡樹脂板4及び滑り板5の滑り面には、地震時の横揺れを円滑に行うため、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)コーティングなどのフッ素コーティングがなされている。
【0028】
上記の基礎下免震構造では、滑り板により滑り面を形成しているので、滑り面にシワができることなく、安定した滑り面を確保することができる。
【0029】
また、滑り板が、摩擦熱による滑り面の温度上昇を抑制するのに十分な熱容量を有しているので、摩擦熱による滑り面の温度上昇を抑制することができ、温度変化による滑り面の摩擦係数の変化を抑制することができ、設計どおりの免震性能を発揮することができる。さらに、滑り板が、発泡樹脂板の融点に達することがなく、滑り板と発泡樹脂板との溶着や発泡樹脂板自身の溶解を引き起こすことを防止することができ、設計どおりの免震性能を発揮することができる。
【0030】
ここで、例えば、大地震において、免震により地震の揺れを吸収する場合には、片振幅95mmで40回の滑りが発生すると仮定すると、合計で15.2mの滑りによる摩擦熱の発生に対応しうる熱容量が求められる。支承にかかる荷重が60kN、滑り支承の摩擦係数が0.15、滑り板の断面の大きさが700mm×700mmとすると、滑り板の摩擦による発生する熱量は137kJとなる。発泡樹脂材の溶融温度、摩擦面の摩擦係数の変化を考慮して、滑り温度上昇を50℃以下にする場合には、滑り板にめっき鋼板を用いた場合では、1.6mmの板厚が必要となる。
【0031】
また、滑り板の滑り面に、滑りを潤滑にするためのコーティング材が塗布されているので、地震時にスムーズに滑る滑り面を確保することができる。
【0032】
また、免震時による滑り面に発生する摩擦熱との関係で、滑り面の温度上昇を適切に管理した上で滑り板の厚みを選定し、発泡樹脂板及び滑り板をピース上にすることで、摩擦面の接触面積を適切に管理することができる。
【0033】
地震による横揺れによって建物の耐力壁が水平力を受けると、力の伝達過程において、2層の発泡樹脂板4,4の鉛直方向におけるバネ作用によって、2層の発泡樹脂板4,4の間の面圧のバラツキが緩和され、滑り面における抵抗力が一定化されて、免震時に建物が回転運動してしまうのを効果的に抑制することができる。
【0034】
しかも、2層の発泡樹脂板4,4の間に、下側の発泡樹脂板4と接着一体化された滑り板5が介設され、発泡樹脂板4と滑り板5との間に滑りを生じさせて建物を免震するようになされているので、スムーズな滑りを実現することができて、発泡樹脂板4,4がコンクリート基礎1によって傷付けられてしまうのを防ぐことができる。
【0035】
加えて、上記のような発泡樹脂板4,4を採用することにより、該発泡樹脂板4,4の鉛直方向におけるバネ作用によって、地震や、交通振動などの環境振動による縦揺れも緩和することができる。
【0036】
また、上下の滑り板5が2層の発泡樹脂板4,4の間に介設されており、上下の滑り板5の平滑性は確保されているので、地盤3やコンクリート基礎1の表面の不陸を吸収でき、効率的に施工を実施することができる。
【0037】
また、上下の滑り板5が2層の発泡樹脂板4,4の間に介設されているので、滑り板5は、外気や床下、地中の温度の影響を受けにくく、よって滑り板5自身の温度が変動しにくいため、温度変化による滑り板5の摩擦係数の変動の影響を低減することができる。特に滑り板5がプラスチック材料系からなる場合には、環境変化による摩擦係数の変動の低減による効果が高い。
【0038】
さらに、本構造では、地盤基礎の上に発泡樹脂板4,4を設け、その上に建物のコンクリート基礎1が設けられているので、建物の荷重により上側の発泡樹脂板4が変形したとしても、発泡樹脂板4の上面部が変形するだけで、滑り面となる発泡樹脂板4の下面部が部分的に変形しないため、免震時に滑り面において影響を与えることがない。
【0039】
以上に、本発明の実施形態を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、発明思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。例えば、本実施形態では、地盤の上に、地盤基礎が設けられ、地盤基礎の上に、2層の発泡樹脂板を介して、コンクリート基礎が支承されており、2層の発泡樹脂板の間には、一層の滑り板が下側の発泡樹脂板と一体化して介設されて、地震による横揺れによって発泡樹脂板と滑り板との間に滑りを生じて建物が免震されるようになされている場合について示したが、一層の滑り板が上側の発泡樹脂板と一体化して介設されて、地震による横揺れによって発泡樹脂板と滑り板との間に滑りを生じて建物が免震されるようになされていてもよく、また、図3に示すように、地盤の上には、地盤基礎が設けられ、地盤基礎の上に、2層の発泡樹脂板を介して、コンクリート基礎が支承されており、2層の発泡樹脂板の間には、重ね合わせ状態にした上下の滑り板がそれぞれ上下の発泡樹脂板と一体化して介設されて、地震による横揺れによって上下の滑り板間に滑りを生じて建物が免震されるようになされていてもよい。
【0040】
また、上記の実施形態では、地盤の上部に地盤基礎を介して発泡樹脂板を設けた場合について示したが、地盤基礎は必ずしも必要でなく、なくてもよいし、砂利や砕石からなるならし層であってもよい。
【0041】
また、滑り板の材質にも制限はなく、本実施例のようにめっき鋼板であってもよいし、プラスチック板、コンクリート板など、滑り板にかかる荷重と、摩擦熱による滑り面の温度上昇を抑制するのに十分な熱容量を考慮して任意の材質が選択されればよい。
【0042】
また、発泡樹脂板、滑り板の形状にも制限はなく、本実施形態のように平面正方形だけでなく、平面長方形であってもよいし、その他の形状であってもよい。さらに、発泡樹脂板、滑り板がセットになったユニットである必要はなく、コンクリート基礎の底面に合わせて一面に延びる形状であってもよい。
【符号の説明】
【0043】
1・・・コンクリート基礎
2・・・地盤
3・・・地盤基礎
4・・・発泡樹脂板
5・・・滑り板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物のコンクリート基礎が2層の発泡樹脂板を介して地盤上に支承されると共に、該2層の発泡樹脂板の間であって、2層の発泡樹脂板のいずれか一方又は双方に、滑り板が発泡樹脂板と一体化して設けられ、地震による横揺れによって、発泡樹脂板と滑り板間又は滑り板間に滑りを生じて建物が免震されるようになされていることを特徴とする基礎下免震構造。
【請求項2】
前記滑り板は、免震時の発泡樹脂板と滑り板間又は滑り板間の滑りによって発生する摩擦熱による滑り面の温度上昇を抑制するのに十分な熱容量を有している請求項1に記載の基礎下免震構造。
【請求項3】
前記滑り板の滑り面には、滑りを潤滑にするためのコーティング材が塗布されている請求項1に記載の基礎下免震構造。
【請求項4】
前記発泡樹脂板及び滑り板がピース状のものからなり、隣り合う発泡樹脂板及び滑り板どうしが間隔をあけてコンクリート基礎と地盤間に配置されている請求項1乃至3に記載の基礎下免震構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−177270(P2012−177270A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41272(P2011−41272)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【特許番号】特許第4929406号(P4929406)
【特許公報発行日】平成24年5月9日(2012.5.9)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】