説明

基礎杭用の既成杭及びこれを用いた連続壁

【課題】従来のH形鋼からなる基礎杭用の既成杭に対して、杭の支持力を増大することのできる基礎杭用の既成杭を提供する。
【解決手段】ウェブとなる板材Bと、その両端に存在しフランジとなる2つの板材Aからなる断面が略H状の基礎杭用の既成杭であって、前記2つの板材Aが、前記板材Bとの接点において、板材Bの幅よりも広がるように断面がくの字状に屈曲し、2つの屈曲した板材Aそれぞれと板材Bとの成す角度が、90°超180°未満であることを特徴とする基礎杭用の既成杭。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物を支持する基礎杭のうち、現場施工前に工場等で予め製造される既成杭に関するものであり、更には、当該既成杭を使用した連続壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物を支持する基礎の一つとして杭基礎がある。杭基礎は更に工場などで製造される既成杭を用いたものと、現場にて掘削過程においてセメントなどを利用し築造する場所打ち杭に大別される。
【0003】
既成杭としては、通常のコンクリートパイル、鋼管パイル、鋼コンクリート複合パイル等、円筒状を基本とした既成杭のほか、建築材料として梁、柱部材に一般的に利用されるH形鋼を利用したH杭がある。
【0004】
既成杭としての断面形状において円筒が用いられている理由としては、曲げ荷重における無方向性などもあるが、その製造方法の制約によるところが大きい。鋼管パイルでは多くは熱延コイルを成型装置によって連続的にスパイラル状に成形することから、円筒形状以外の形状は製造しがたい。また、コンクリートパイルの一例であるRC杭(Reinforced spun Concrete Piles)やPHC(Pretensioned spun High strength Concrete Piles)杭は、遠心力を利用した製造方法を採用しているため、同様に円筒状以外の形状は製造しがたい。
【0005】
一方、H形鋼を利用したH形鋼ぐい(Steel H Piles)は、鋼管パイルやコンクリートパイルで必要となる杭を埋設するための専用重機などを必要とせず、簡易に埋設工事を行えることが特徴とする施工面から見ると非常に利用価値の高い既成杭材料である。このH形鋼を利用したH形鋼杭は、非特許文献1および非特許文献2に記載されているように、土留め壁および中間杭として支持力が期待され、鉛直荷重を受けて構造物を支持するものとして用いられている。
【0006】
図14は、杭として用いる一般的なH形鋼を示す図であり、2つのフランジである板材1と、これを連結するウェブである板材2によって構成され、板材1と板材2のなす角度は90°である。これは、H形鋼が例えば建築用の梁柱として主に利用されることから、曲げ抵抗性を高くすること、床や他の梁柱との取り合いの関係上、90°が最適角度とされてきたためである。
【非特許文献1】トンネル標準示方書[開削工法編]・同解説,土木学会 pp.152〜156
【非特許文献2】道路土工仮設構造物工指針,社団法人日本道路協会 pp.67〜73
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
H形鋼は、現状では曲げ抵抗性を重視した上で決定された形状であり、例えば支持力を始めとした杭としての機能は、形状決定においては全く考慮されていない。
【0008】
H形鋼は、スラブを孔形ロールやユニバーサルロールによる圧延により成形する形鋼製品であるため、製造面における形状制約は低く、各種用途に応じて最良の形状を製造することは可能であるが、現状は検討すら行われていない。
【0009】
H形鋼において支持力を増加するためには、例えば型式の大きいものを利用するのも一手段ではあるが、この場合、使用する鋼材量が多くなり材料コストが増加してしまう。即ち、大きな型式を利用することにより支持力増加を図ろうとすれば却って施工全体のコストが増加してしまう場合が多かった。
【0010】
本発明は、従来技術の有する上記問題点を鑑みて成されたものであり、円筒状やH形状など既存の断面形状に限定されることなく、特に、従来のH形鋼からなる既成杭に対して、杭の支持力を増大することのできる基礎杭用の既成杭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
杭の支持力は、一般に杭軸部における周面支持力と杭先端部における先端支持力に分けて評価され、周面支持力においては、杭材と周辺地盤の摩擦応力に杭周長と杭長さを乗じて算出される。一方先端支持力においては杭先端部における地盤強度に先端面積を乗じて算出され、杭全体の支持力はその合計に対し安全率を適切に考慮して決定される。
【0012】
一般的にH形鋼を杭として利用する場合はH杭とも呼ばれるが、その支持力評価に際しては、H形鋼に外接する長方形を決定し、その辺長の合計を周長として評価し、その長方形面積を先端面積として評価する方法が採用されている。
【0013】
これは既往の現場試験などにおいて支持力を評価した知見の蓄積から、H形鋼においては,土との相互作用により、H形鋼の表面周長や先端の純断面積のみにて評価する方法では,過少評価であり、土との相互作用を前提として、上記で示す方法が実態に即した評価方法として認められてきた経緯があるためである.
【0014】
本発明者等は、断面が略H形状における基礎杭用の既成杭において、支持力を評価する際の周長および先端面積を最大化する部材の組み合わせ形状を鋭意検討した結果、断面略H形状のフランジに相当する部材の角度を変更することで、鋼材量をほとんど変えずに、角度が90°あるH形鋼杭に比較して、周長および先端面積を大きくとることができ、支持力を増加することが可能な基礎杭用の既成杭を見出した。以下にその特徴を述べる。
【0015】
尚、本発明で言う「既成杭」とは、工場にて製作した杭のことである。
【0016】
(1) ウェブとなる板材Bと、その両端に存在しフランジとなる2つの板材Aからなる断面が略H状の基礎杭用の既成杭であって、前記2つの板材Aが、前記板材Bとの接点において、板材Bの幅よりも広がるように断面がくの字状に屈曲し、2つの屈曲した板材Aそれぞれと板材Bとの成す角度が、90°超180°未満であることを特徴とする。
【0017】
(2) (1)記載の基礎杭用の既成杭において、前記2つの板材Aそれぞれは、前記板材Bとの接点から途中までは断面がくの字状に屈曲する代わりに直線状を保持し、その先において板材Bの幅よりも広がる方向に断面がくの字状に屈曲しており、当該屈曲部の延長線と前記板材Bとのなす角度が、90°超180°未満であることを特徴とする。
【0018】
(3) (2)記載の基礎杭用の既成杭において、前記2つの板材Aそれぞれは、前記直線状を保持した先において断面がくの字状に屈曲し、当該屈曲部の延長線と前記板材Bとのなす角度が、90°超180°未満であることに加えて、更に、その先において断面がくの字状に屈曲していることを特徴とする。
【0019】
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の基礎杭用の既成杭において、前記板材Bがウェブの途中で継手によって連結されていることを特徴とする。
【0020】
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の基礎杭用の既成杭において、前記2つの板材Aの少なくともいずれかの両端部に、継手を有することを特徴とする。
【0021】
(6) (5)記載の基礎杭用の既成杭を用いた連続壁であって、前記基礎杭用の既成杭を複数隣接させて配置し、当該既成杭における板材Aの両端部の継手により、当該隣接した既成杭同士を連結してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
以上、説明したように、本発明の断面が略H状の既成杭を基礎杭として使用することで、従来の基礎杭用の既成杭であるH形鋼杭を使用した場合に比べて、少ない鋼材使用量で必要な支持力を発揮することができ、また、鋼材量がこれらの従来の基礎杭と同量の場合には、より支持力を増大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を適用した基礎杭用の既成杭を実施するための最良の形態について図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0024】
(1)第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態である基礎杭用の既成杭51の断面構成図である。ウェブとなる板材B4とその両端に存在しフランジとなる2つの板材A3からなる断面が略H状の杭であって、2つの板材Aが、板材Bとの接点において、板材Bの幅よりも広がるように断面がくの字状に屈曲している。2つの屈曲した板材A3それぞれと板材B4のなす角度5は図1に示すH形鋼とは異なり90°より大きく180°未満となっている。
【0025】
この結果、周面支持力の算定に際して前提とされる周長7は、H形鋼の場合では図2(a)に示すようにH形鋼の幅8(フランジの幅に相当)とH形鋼の高さ9(ウェブの幅+両端のフランジの厚みに相当)で構成される長方形の辺長合計で算出される。
【0026】
本発明の第1実施形態における周長12は図3(a)で示すように幅13と高さ14で構成される長方形の辺長合計で算出され、板材Aと板材Bとの成す角が90°超180°未満である本発明の第1実施形態の杭は、ウェブとフランジとの成す角度が90°である従来のH形鋼の杭に比較して、その周長は1.0倍超1.3倍以下程度の値を有することが可能となる。
【0027】
更に先端支持力の算定に際して前提とされる先端面積については、一般にH形鋼の杭の場合では図2(b)に示すようにH形鋼の幅8とH形鋼の高さ9を乗じることで得られる長方形面積が先端面積10として採用されるが、本発明の第1実施形態の杭における先端面積においては、図3(a)で示すように幅13と高さ14を乗じて得られる長方形面積が先端面積16として評価され、ウエブとフランジとのなす角度が90°であるH形鋼の杭に比較して、その面積は1.0倍超1.2倍以下程度の値を有することができる。
【0028】
図4(a)は杭の支持力の考え方を示す模式図である。本発明での基礎杭用の既成杭51の支持力は前記で算定された周長12と先端面積16を前提に、杭軸部18においては周辺地盤との摩擦応力および杭長を考慮したうえで、周長と摩擦応力、杭長を乗じることで周面支持力を決定し、杭先端部19においては杭先端部における地盤強度を考慮した上で、先端面積と地盤強度を乗じることで先端支持力を決定する。
【0029】
前記にて決定した本発明の基礎杭用の既成杭の支持力は、従来のH形鋼の杭と比較するため、ウェブとなる板材Bの幅Yおよび板厚、フランジとなる板材Aの延長幅X(くの字状に屈曲している板材Aの断面の延長長さ:X/2+X/2)および板厚、並びに杭の全長を同一とすると、所要鋼材量が略等しくなるが、角度が90°であるH形鋼に比較して、先端支持力と周面支持力の和となる全体支持力において1.0倍超1.5倍以下程度の高い支持力性能を発揮することができる。
【0030】
尚、高い支持力性能とは、たとえば荷重沈下曲線において同荷重作用時において沈下しがたい性能を示す。図4(b)は、杭の荷重−沈下曲線を表す概念図で、横軸Pは載荷荷重、縦軸δは変形量を示す。これを見て判るように、H形鋼の杭の荷重〜沈下曲線20に対して本発明の杭での荷重〜沈下曲線21はこの図4(b)のような位置関係を示し、同荷重載荷時においての変形量が小さく、ゆえに高い支持力性能を発揮することが可能となる。
【0031】
杭を摩擦杭として利用する場合,つまり杭先端を支持する堅固な地層が非常に深く、コスト・施工・設計上の観点から、杭先端を堅固な地層まで到達させずに中間の軟弱な地層付近で止めて利用する場合には、周面支持力依存型の支持機構となるため、可能な限り周面支持力を増大させることが目標となる。この場合、周長増大を重視した断面形状決定がなされるべきであり、板材Aと板材Bのなす角度としては135°前後の角度を採用することが望ましい。
【0032】
港湾部のような埋め立て地盤で、支持層よりも上部の地盤が弱く杭と地盤の摩擦力が低い場所において杭を支持杭として利用する場合には、先端支持力依存型の支持機構となるため、可能な限り先端支持力を増大させることが目標となる。この場合には先端面積増大を重視した断面形状決定がなされるべきであり、板材Aと板材Bのなす角度としては120°前後の角度を採用することが望ましい。
【0033】
本発明における実施形態における基礎杭を地中へ埋設する際には、設置場所へクレーンなどで吊りこみ地表面へ立て込んだのち、別途クレーンで吊り上げている特定の周波数を与えることが出来る加振重機の部材把持装置により、部材長手方向における上端部の板材Bを把持し、把持部分へ振動を伝達するとともに基礎杭重量と振動重機の自重により施工する方法が最も簡易な施工手段となる。一般的に地盤へ振動を与えると基礎杭と地盤の摩擦が低減されるため、施工においては非常に簡易な施工を行うことが出来る。
【0034】
尚、第1実施形態における基礎杭用の既成杭の製造方法としては、例えば、熱間圧延や、平鋼の溶接によるビルドアップ等により製造可能である。
【0035】
(2)第2実施形態
第1実施形態においては、板材A3は断面くの字状の直線部材であるが、第2実施形態においては、板材A3は断面くの字状に限定されない。図5には本発明の第2実施形態の断面形状を示す。
【0036】
第2実施形態における板材A22は、板材B23との接点24から端部へ向かう途中の点25までは直線状を保持し、その先から端部までにおいてくの字状に屈曲する。即ち、2つの板材A22は、少なくとも板材B23との接点24から屈曲部25に至るまで板材B23に対して略垂直に配設され、また屈曲部25から先端61に至るまで板材B23に対して90°超180°未満の角度θ26で傾斜している。
【0037】
屈曲部25は、フランジ端部に近くても、ウェブとの接続位置に近くても良いが、支持力向上に関してはウェブ近くに位置するほうが望ましい。
【0038】
尚、第2実施形態における基礎杭用の既成杭の製造方法も、第1実施形態における製造方法と同様に製造することができる。
【0039】
(3)第3実施形態
図13(a)に、第3実施形態に係る基礎杭用の既成杭の1例の形状を示す。
【0040】
本実施形態では、第2実施形態の基礎杭用の既成杭において、2つの板材Aそれぞれは、板材Bとの接点から直線状を保持した先において断面がくの字状に屈曲することに加えて、更に、その先において断面がくの字状に屈曲していることを特徴とする。即ち、本実施形態においては、板材B23の両端に2つの板材A22が形成された断面が略H状の杭である。2つの板材A22は、少なくとも板材B23との接合部24から第1の屈曲部62に至るまで板材B23に対して略垂直に配設され、また第1の屈曲部62から第2の屈曲部63に至るまで板材B23に対して90°超180°未満の角度θ26で傾斜している。さらに、この第2の屈曲部63から先端61に至るまで板材B23に対して略垂直に延長されている。ちなみに、この第2の屈曲部63から先端61に至るまでにおいては、ウェブ23に対して略垂直に延長される場合のみならず、従来のH形鋼よりも周長及び先端面積を増大する形状であればいかなる形状で構成されていてもよい。
【0041】
尚、第3実施形態における基礎杭用の既成杭の製造方法も、第1、第2実施形態における製造方法と同様に製造することができる。
【0042】
(4)第4実施形態
図6には本願発明における第4実施形態を示す。
【0043】
第1実施形態〜第3実施形態においては、基礎杭は圧延やビルドアップ加工における製作段階完了時において最終形状を成しているが、特に圧延における製造工程においては、設備能力などの制約により最終製品のサイズに影響を受ける場合がある。第4実施形態では、この課題を解決するため板材Bのウェブの途中に継手27を形成している。
【0044】
この結果、図6の実施例においては最終製品の半分のサイズでの製造となり、製造におけるサイズ制約を緩和することが可能となる。地中には、最終製品の約半分の部材28を最初に地中へ埋設し、その後継手27を互いに嵌合させた上で、残りの部材29を埋設し、埋設完了後には地中内において最終製品形状を構成する。
【0045】
継手は少ないほうが埋設段階における作業手間を削減できることから、少ないほうが望ましく1組の継手がウェブに位置することが望ましい。しかし、製造制約緩和が重要となる場合においては、1組以上の複数組の継手が配置されていても良い。
【0046】
継手形状は、圧延製造においては鋼矢板のような鍵爪形状であることが望ましいが、互いに嵌合することが可能であり、離脱しがたいものであれば鍵爪形状に限定されるものではない。又、全て圧延で製造される必要もなく、必要に応じてスリットのついた鋼管などを加工して継手とし、溶接等によりウェブの端部に固着して製作してもよい。
【0047】
(5)第5実施形態
第1実施形態〜第4実施形態においては、単体部材を杭として利用する場合を想定しているが、これらを複数連結させて連続壁として利用してもよい。
【0048】
図7には第5実施形態を示す。2つの板材A30の少なくとも一方の両端部31に、継手32を有することを特徴とする。継手は、片方の板材Aの両端部に有してもよく、又、両方の板材Aの両端部に有してもよい。
【0049】
継手形状は、圧延製造においては鋼矢板のような鍵爪形状であることが望ましいが、互いに嵌合することが可能であり、離脱しがたいものであれば鍵爪形状に限定されるものではない。特に本実施形態における形状は、非常に複雑な形状であり圧延のみで製造するのは非常に困難であるため、別途、製造した継手を、溶接等によりフランジとなる板材Aの両端部に固着して製作してもよい。
【0050】
(6)第6実施形態
本願発明における第6実施形態を図8(a)、(b)に示す。これは、第5実施形態である本願発明の基礎杭を複数隣接して配置し、継手を互いに嵌合させることで連結してなることを特徴とする連続壁である。図8(a)は、2つの板材Aの一方における両端部に継手を有する場合で、図8(b)は2つの板材Aの両方における両端部34に継手36を有する場合である。
【0051】
図8では、複数の基礎杭55を、ウェブとなる板材B同士が略平行になるように配置しているが、これに限られるものではなく、ウェブとなる板材B同士がハの字状に配置される等、他の配置も可能である。
【0052】
連続壁の構成においては、第5実施形態である継手を有した既成杭54と同一形状からなる基礎杭55をまず地中へ埋設し、基礎杭55の一方の継手32と、隣接する基礎杭55の一方の継手32を嵌合させ、地中へ埋設する。これらの継手嵌合と地中への埋設工程を順じ、繰り返し複数の基礎杭を隣接させる方法を用いる。
【0053】
この際、隣接する基礎杭のウェブとなる板材B同士は、略平行になるように配置し、一枚壁の連続壁を構成するようにすることが好ましい。尚、連続壁に緩やかな曲率をつける場合は、図8(a)のように単体の基礎杭における2つある板材Aの一方の両端部にのみ継手を有する杭を用いて、隣接する板材B同士を曲率に応じたハの字状とすることで、つくることができる。
【0054】
第1実施形態〜第4実施形態は、構造物を支持する基礎杭として利用されるが、第6実施形態では地中における壁を構成することができることから、壁面の一方を掘削し他方の壁面に作用する土圧や水圧を支持する地中壁や、地中内における地盤の変動を抑制し地盤強度を向上する地中壁、地中における地下水などの流体の流れを止める止水壁などとしての利用も可能である。
【実施例1】
【0055】
図9(a)に示す、従来の広幅系列H形鋼(H-300×300×10×15)を比較例として、本発明に係る実施例を示す。このH形鋼の寸法は、幅a300mm、高さb300mmであり、フランジ板厚tfが15mm、ウェブ板厚twが10mmであり、鋼材断面積は118.4cm2で鋼重は杭長1mあたり93kgとなる。
【0056】
図9には、第1実施形態における実施例1を示し、さらにその発明の効果を試算したのでその結果を示す。
【0057】
本発明の第1実施形態の実施例としては、ウェブとなる板材Bの幅を比較例のH形鋼のウェブの幅と同じ300mmとし、フランジとなる板材Aの延長幅を比較例のH形鋼のフランジの幅と同じ300mmとして、板材Aと板材Bのなす角度θをパラメータとして90°から180°まで変化させ、支持力評価の前提となる周長および先端面積を算出した。
【0058】
角度以外の条件、板厚、ウェブ長さ、フランジ延長は変更しておらず、結果的に杭長1mあたりの鋼重は変化せず93kgとなっている。
【0059】
検討結果を図9(c)に示すが、本検討例においては,周長は角度が90°より大きく147°未満で本発明の実施形態の周長が比較対象であるH形鋼の周長を上回る結果となり、角度120°において最も大きくなり、H形鋼の1.18倍となった。
【0060】
一方、先端面積においては、角度が90°より大きく180°未満において、本発明の実施形態の先端面積が比較対象であるH形鋼の先端面積を上回る結果となり、角度135°において最も大きくなり、H形鋼の1.30倍となった。
【0061】
杭の支持力における増大効果は地盤の影響や、摩擦杭や支持杭などの杭の利用形態によって異なる。例えば周面支持力が1.18倍となり先端支持力が1.30倍となれば、全体での支持力はその総和によって算定されることから、H形鋼を利用したH杭に比較して、本発明の実施形態における支持力は1.0倍超1.5倍以下の支持力を有することとなる。
【実施例2】
【0062】
図10に実施例2として、第2実施形態においての発明の効果を試算した結果を示す。比較対象は前記と同じ広幅系列H形鋼のうち、H-300×300×10×15とした。本発明の第2実施形態の実施例においては、板材Aのうち自由端側からフランジ延長幅aの1/4の部分で屈曲部を有するものとし、ウェブとなる板材Bの幅を比較するH形鋼のウェブの幅と同じとし、フランジとなる板材Aの延長幅を比較するH形鋼のフランジの幅と同じとして、その自由端に近い部分とウェブと呼ばれる板材のなす角度をパラメータとして検討を実施した。杭長1m当たりの鋼重は、第1実施形態の実施例と同様に、93kgである。
【0063】
検討の結果は、第1実施例とほぼ同様であり周長と先端面積での増大効果は異なるものの、支持力評価の前提となる周長、先端面積について本発明の実施形態が優れていることが確認された。
【実施例3】
【0064】
加えて屈曲部の位置が異なる場合でも発明の効果があることを検証する目的から、屈曲部の位置を2種類変えて効果を算定した実施例3の結果を図11、12に示す。図11は板材Aのうち自由端側からフランジ延長幅aの1/8の部分で屈曲部を有する場合で、図12は板材Aのうち自由端側からフランジ延長幅aの3/8の部分で屈曲部を有する場合である。検討の結果は、第1〜2実施例とほぼ同様であり周長と先端面積での増大効果は異なるものの、支持力評価の前提となる周長、先端面積について本発明の実施形態が優れていることが確認された。
【実施例4】
【0065】
さらに屈曲部のその先に屈曲部を有する第3実施形態の場合でも発明の効果があることを検証する目的から、屈曲部の角度を変えて効果を算定した結果を実施例4として図13に示す。図13は板材Aのうち自由端側からフランジ延長幅aの1/6および2/6の部分で屈曲部を有する場合で、且つ、その間にある部材が板材Bと90°から180°の角度を有する場合である。検討の結果は、第1〜3実施例とほぼ同様である。周長と先端面積での増大効果は異なり、その改善効果も実施例1〜3に比べると比較的小さいが、支持力評価の前提となる周長、先端面積について本発明の実施形態が優れていることが確認された。
【0066】
尚、前記4種類の検討は角度のみをパラメータとしていることから、鋼材の純断面積および鋼重においては変更がなく、本発明の実施形態においても断面積は118.4cm2で鋼重は杭長1mあたり93kgとなるため、同材料費用において支持力の増大のみを図ることが可能であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る基礎杭用の既成杭の断面形状を示す図である。
【図2】H形鋼を基礎杭として用いる場合において、評価するべき杭周長と杭先端面積を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る基礎杭用の既成杭において、評価するべき杭周長と杭先端面積を示す図である。
【図4】(a)は、基礎杭の支持力の考え方を説明するための概略図であり、(b)は、杭の荷重−沈下曲線を現す概念図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る基礎杭用の既成杭の断面形状を示す図である。
【図6】本発明の第4の実施形態に係る基礎杭用の既成杭の断面形状を示す図である。
【図7】本発明の第5の実施形態に係る基礎杭用の既成杭の断面形状を示す図である。
【図8】本発明の第6の実施形態に係る連続壁の断面形状を示す図であり、(a)は、単位基礎杭が2つのフランジの一方における両端部に継手を有する場合であり、(b)は、単位基礎杭が2つの板材Aの両方における両端部に継手を有する場合である。
【図9】(a)は、比較例1の従来のH形鋼を用いた杭の形状を示す図であり、(b)は、本発明の第1実施形態に係る実施例1の杭の形状を示す図であり、(c)は、実施例1の効果を示す図である。
【図10】(a)は、本発明の実施例2の杭の形状を示す図であり、(b)は、実施例2において、発明の効果を示す図である。
【図11】(a)は、本発明の実施例2の杭の形状を示す他の図であり、(b)は、実施例2において、発明の効果を示す図である。
【図12】(a)は、実施例3の杭の形状を示す図であり、(b)は、実施例4において、発明の効果を示す図である。
【図13】(a)は、実施例4の杭の形状を示す図であり、(b)は、実施例4において、発明の効果を示す図である。
【図14】従来の基礎杭用の既成杭として一般的に用いられるH形鋼を示す断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 フランジである板材
2 ウェブである板材
3 板材A
4 板材B
5 角度
6 H形鋼
7 周長
8 幅
9 高さ
10 先端面積
11 本発明における基礎杭
12 周長
13 幅
14 高さ
15 角度
16 先端面積
18 杭軸部
19 杭先端部
20 H形鋼での荷重〜沈下曲線
21 本発明における基礎杭での荷重〜沈下曲線
22 フランジ
23 ウエブ
24 フランジとウエブとの接点
25 屈曲点
26 角度
27 継手
28 片方の部材
29 他方の部材
30 フランジ
31 両端部
32 継手
34 両端部
36 継手
39 ウエブ
51、52、53、54、55 既成杭
61 先端
62 第1の屈曲部
63 第2の屈曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブとなる板材Bと、その両端に存在しフランジとなる2つの板材Aからなる断面が略H状の基礎杭用の既成杭であって、前記2つの板材Aが、前記板材Bとの接点において、板材Bの幅よりも広がるように断面がくの字状に屈曲し、2つの屈曲した板材Aそれぞれと板材Bとの成す角度が、90°超180°未満であることを特徴とする基礎杭用の既成杭。
【請求項2】
前記2つの板材Aそれぞれは、前記板材Bとの接点から途中までは断面がくの字状に屈曲する代わりに直線状を保持し、その先において板材Bの幅よりも広がる方向に断面がくの字状に屈曲しており、当該屈曲部の延長線と前記板材Bとのなす角度が、90°超180°未満であることを特徴とする請求項1記載の基礎杭用の既成杭。
【請求項3】
前記2つの板材Aそれぞれは、前記直線状を保持した先において断面がくの字状に屈曲し、当該屈曲部の延長線と前記板材Bとのなす角度が、90°超180°未満であることに加えて、更に、その先において断面がくの字状に屈曲していることを特徴とする請求項2記載の基礎杭用の既成杭。
【請求項4】
前記板材Bがウェブの途中で継手によって連結されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の基礎杭用の既成杭。
【請求項5】
前記2つの板材Aの少なくともいずれかの両端部に、継手を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の基礎杭用の既成杭。
【請求項6】
請求項5記載の基礎杭用の既成杭を用いた連続壁であって、前記基礎杭用の既成杭を複数隣接させて配置し、当該既成杭における板材Aの両端部の継手により、当該隣接した既成杭同士を連結してなることを特徴とする基礎杭用の既成杭を用いた連続壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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