説明

堆積物製造方法及び液体吐出装置

【課題】キラキラとした輝きを有する堆積物を製造する。
【解決手段】本発明は、堆積物製造方法であって、基板上に散乱粒子を供給する工程と、基板上に供給された散乱粒子の上で、金属イオンを含有する第1の液体と、金属イオンを還元させることができる還元剤を含有する第2の液体とを接触させることによって、散乱粒子の上に金属を析出させる工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堆積物製造方法及び液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷技術の発達によって、印刷画像の解像度が向上したばかりでなく、発色度合いや質感までも幅広く表現できる印刷方法が開発されてきた。しかし、キラキラとした金属のような輝きを有する印刷物を印刷する方法は、これまでにほとんど報告されていない。
数少ない例として、金属化合物を含む第1の液体と、この金属化合物を還元できる物質を含む第2の液体とを基板に供給することによって、基板上で還元反応を行い、金属パターンを形成する方法(特許文献1を参照)や、可溶性金属塩と、還元触媒と、還元触媒の存在下で可溶性金属を還元することができる還元剤とを基板上に供給することによって、基板上で還元反応を行い、金属パターンを形成する方法(特許文献2を参照)が報告されているが、これらの方法ではいずれも金属は基板上に平面的に形成されるため、製造される印刷物は、いわゆる箔押し印刷のようなフラットな金属光沢を有し、印刷物の印刷面のどの角度から見ても視覚的にキラキラと輝く印刷物を提供することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−108242号公報
【特許文献2】特表2008−510881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、キラキラとした輝きを有する堆積物の製造方法、及び、キラキラとした輝きを有する堆積物を製造することができる液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための主たる発明は、堆積物製造方法であって、基板上に散乱粒子を供給する工程と、基板上に供給された散乱粒子の上で、金属イオンを含有する第1の液体と、金属イオンを還元させることができる還元剤を含有する第2の液体とを接触させることによって、散乱粒子の上に金属を析出させる工程とを含むことを特徴とする堆積物製造方法である。
本発明の他の特徴については、本明細書の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1A】本発明の一実施形態における、プリンタの側面図である。
【図1B】本発明の一実施形態における、プリンタの上面図である。
【図2】本発明の一実施形態における、散乱粒子を含有する液体を吐出するためのヘッドの模式図である。
【図3A】本発明の一実施形態における、印刷物全体図である。
【図3B】本発明の一実施形態における、印刷物断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、および、そのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0008】
本発明は、堆積物製造方法であって、基板上に散乱粒子を供給する工程と、基板上に供給された散乱粒子の上で、金属イオンを含有する第1の液体と、金属イオンを還元させることができる還元剤を含有する第2の液体とを接触させることによって、散乱粒子の上に金属を析出させる工程とを含むことを特徴とする堆積物製造方法である。このような堆積物製造方法とすることによって、キラキラとした輝きを有する堆積物を製造することができる。
堆積物製造方法は、析出させた金属の上にインクを供給する工程をさらに含むことが好ましい。このような構成を備えることによって、製造される堆積物が有する輝きの色を、金属そのものの色から、金属の色と吐出したインクの色とを足し合わせた色に変化させることができる。
散乱粒子は、樹脂で形成されていることが好ましい。樹脂で形成されることによって、散乱粒子同士が会合するのを防ぐことができる。
散乱粒子の大きさは、1〜10μmであることが好ましい。このような大きさであることによって、散乱粒子の供給を容易にし、さらに、製造される堆積物がよりキラキラとした輝きを有することができる。
金属イオンは、銀、銅、金、白金、アルミニウム、コバルト、ニッケル、パラジウム、または、スズの陽イオンであることが好ましい。これらの金属イオンを用いることによって、視覚的に美しい色を有する金属を析出させることができる。
【0009】
本発明は、液体吐出装置であって、散乱粒子を含有する液体を吐出する第1のヘッドと、吐出された散乱粒子の上に、金属イオンを含有する第1の液体を吐出する第2のヘッドと、吐出された散乱粒子の上に、金属イオンを還元することができる還元剤を含有する第2の液体を吐出する第3のヘッドとを備え、散乱粒子の上に第1の液体と第2の液体とを吐出することによって、散乱粒子の上に金属を析出させることを特徴とする液体吐出装置を含む。このような液体吐出装置とすることによって、キラキラとした輝きを有する堆積物を製造することができる。
液体吐出装置は、前記金属の上にインクを吐出する第4のヘッドをさらに備えることが好ましい。このような構成を備えることによって、製造される堆積物が有する輝きの色を、析出させた金属そのものの色から、金属の色と吐出したインクの色とを足し合わせた色に変化させることができる。
液体吐出装置は、第1のヘッドが散乱粒子を含有する液体を貯蔵するタンクを備えていても良く、この場合に、液体吐出装置が、散乱粒子を含有する液体に超音波を発生させる超音波発生装置をさらに備えることが好ましい。このような構成を備えることによって、散乱粒子を含有する液体を均質にすることができ、同時に、散乱粒子がヘッド先端の液体吐出部に詰まるのを防ぐことができる。
【0010】
==堆積物製造方法==
以下、本発明に係る堆積物製造方法について説明する。
【0011】
堆積物製造方法は、基板上に散乱粒子を供給する工程と、基板上に供給された散乱粒子の上で、金属イオンを含有する第1の液体と、前記金属イオンを還元させることができる還元剤を含有する第2の液体とを接触させることによって、前記散乱粒子の上に金属を析出させる工程とを含むことを特徴とする。この結果、散乱粒子上に金属が析出する。
【0012】
このように、散乱粒子の上に金属を析出させることによって、析出した金属は、散乱粒子の表面に沿って金属膜を形成するので、正反射光だけではなく、様々な角度に拡散して乱反射する拡散反射光を発し、この結果、散乱粒子の凹凸を生かして、金属側の広い角度に対してキラキラと輝く堆積物を製造することができる。さらに、散乱粒子上に固体である金属を供給するのではなく、金属イオンを含有する第1の液体とその金属イオンを還元することができる還元剤を含有する第2の液体とを散乱粒子上で接触させて、散乱粒子上で金属を直接析出させることによって、散乱粒子の表面に沿って金属膜を作ることができるので、散乱粒子が形成する凹凸を生かした、よりキラキラと輝く堆積物を製造することができる。
なお、本明細書において、「金属」とは、金属単体を意味する。
【0013】
基板の種類は、特に限定されず、例えば、紙、布、または、フィルムであっても良い。
散乱粒子の材質は、散乱粒子上で金属イオンの還元反応を行うことができれば特に限定されず、例えば、樹脂、金属、または、これらの混合物で形成されていても良いが、散乱粒子同士が会合するのを防ぐ観点から、樹脂で形成されていることが好ましい。樹脂の種類は特に限定されないが、例えば、シリコーンパウダー、PEEK(Poly Ether Ether Ketone)球、ナイロンパウダー、アクリルパウダー、フェノールパウダー、ペンゾグアナミン・メラミンパウダー、ポリエチレンパウダー、セルロースパウダー、超高分子量ポリエチレンパウダー、フッ素樹脂パウダー、PAN(ポリアクリロニトリル)系パウダー、スチレンパウダー、アクリル・スチレン系パウダー、または、これらの混合物であることができる。
散乱粒子の形は特に限定されず、例えば、球状、楕円体状、または、これらの表面に凹凸がある状態であっても良いが、散乱粒子のどのような供給方法にも対応しやすいという観点から、球状であることが好ましい。
また、散乱粒子の大きさは、小さいほど、散乱粒子のどのような供給方法にも対応しやすく、逆に、大きいほど、製造される堆積物がキラキラとした輝きを有する傾向があることを見出した。よって、散乱粒子の大きさは、散乱粒子の供給を容易にし、かつ、製造される堆積物がキラキラとした輝きを有するような大きさであれば特に限定されないが、例えば、散乱粒子の大きさが1〜10μmであることが好ましく、1〜5μmであることが特に好ましい。ここで、散乱粒子の大きさとは、散乱粒子の一番大きい径をいい、例えば、散乱粒子が球状である場合には直径をいい、楕円体状である場合には長軸をいう。
このような散乱粒子の例として、例えば、積水化学工業株式会社製のミクロパール(登録商標)EXやミクロパールSPが挙げられ、ミクロパールEXであることがより好ましい。
【0014】
散乱粒子を基板上に供給する方法は、特に限定されず、例えば、散乱粒子そのものを基板上に塗布もしくは噴射などの方法によって供給しても良いし、または、散乱粒子を含有する液体を、基板上に流す、もしくは、液体吐出装置から吐出するなどの方法によって供給しても良い。
散乱粒子を含有する液体を用いる場合には、この液体は、散乱粒子を分散させることができる溶媒を含む。この溶媒は、散乱粒子と反応せず、かつ、散乱粒子を分散させることができれば特に限定されないが、例えば、溶媒が水を含む場合には、疎水性の散乱粒子を分散させるために、親水性の有機溶媒も併せて用いること、即ち、水と親水性有機溶媒との混合溶媒とすることが好ましい。親水性有機溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、アセトン、ジエチレングリコール、グリセリン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアルデヒド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、または、これらの混合であっても良く、エタノールとイソプロピルアルコールとの混合であることが好ましい。当業者であれば、用いる散乱粒子の材質に合わせて、親水性有機溶媒を適切に選択することができる。
また、散乱粒子を含有する液体は、散乱粒子を分散させやすくするために、さらに界面活性剤を含んでいても良い。界面活性剤の種類は特に限定されないが、析出及び反応が起こりにくい、非イオン系(ノニオン系)の界面活性剤であることが好ましい。非イオン系界面活性剤は、シランカップリング剤、例えばしょ糖脂肪酸エステルソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及び、脂肪酸アルカノールアミドである脂肪酸系界面活性剤、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテルである高級アルコール系界面活性剤、例えばポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルであるアルキルフェノール系、または、これらの混合物であっても良く、シランカップリング剤であることがより好ましい。シランカップリング剤の種類は、当業者は、例えばシランカップリング剤の製造メーカが提供する適合表を参照しながら、用いる散乱粒子の材質に合わせて適切に選択することができるが、例えば、ビニル基を有するシランカップリング剤やフェニル基を有するシランカップリング剤であっても良く、このようなシランカップリング剤として、例えば、信越化学工業株式会社製の信越シリコーン(登録商標)KBE−1003や、KBM−573が挙げられる。
なお、散乱粒子を含有する液体の溶媒及び界面活性剤の組成比は、散乱粒子が分散するように、当業者であれば適宜調整することができる。
【0015】
散乱粒子を含有する液体の散乱粒子の濃度は、散乱粒子の供給を容易に行える良い度に低く、かつ、製造される堆積物がキラキラとした輝きを有する程度に高いことが好ましい。例えば、散乱粒子を含有する液体全量に対して、0.1〜10重量%であることが好ましく、1〜5重量%であることがより好ましく、2〜4重量%であることが特に好ましい。
なお、散乱粒子の基板上への供給を、散乱粒子を含有する液体を供給するかたちで行った場合には、第1の液体および第2の液体を基板上で接触させる前に、散乱粒子を含有する液体中の溶媒を乾燥することにより、除去してもよい。乾燥方法として、例えば、自然乾燥、温風または冷風による風乾、および、加熱乾燥が挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
第1の液体が含有する金属イオンは、還元することによって析出した金属が光沢を有するような金属陽イオンであれば特に限定されないが、例えば、銀、銅、金、白金、アルミニウム、コバルト、ニッケル、パラジウム、または、スズの陽イオンであることが好ましい。金属イオンは、例えば錯体を含む、どのような形で第1の液体中に存在していても良い。金属イオンの種類は、1種類であっても良く、2種類以上であっても良い。この金属イオンの種類によって、製造される堆積物が有する輝きの色が決まる。例えば、金属イオンが銀イオンである場合には、銀が析出することによって、製造される堆積物は銀白色のキラキラとした輝きを有し、また、金属イオンが銅イオンである場合には、銅が析出することによって、製造される堆積物は赤褐色キラキラとした輝きを有する。複数の金属イオンを混合することによって、輝きの色を様々に変化させることも可能である。
金属イオンのカウンターイオンは、散乱粒子と反応しなければ特に限定されないが、例えば、金属イオンが銀イオンであって、ジアンミン銀(I)イオン[Ag(NHを形成しているときに、カウンターイオンは水酸化物イオンであってもよい。
第1の液体の溶媒は、金属イオンおよびそのカウンターイオンが安定して存在できるように、水を含有することが好ましい。
このような第1の液体として、例えば、アンモニア性硝酸銀水溶液が挙げられるが、これに限定されない。
【0017】
第2の液体が含有する還元剤は、第1の液体が含有する金属イオンを還元することによって金属を析出させることができ、かつ、散乱粒子と反応しなければ特に限定されないが、例えば、第1の液体がアンモニア性硝酸銀水溶液である場合に、グルコース水溶液であってもよく、これらの組み合わせにすることによって、散乱粒子上でいわゆる銀鏡反応を行って、銀膜を析出させることができる。
散乱粒子上で金属を析出させるために行う反応は、銀鏡反応に限定されず、当業者であれば、公知技術に従って、適切な第1の液体と第2の液体の組み合わせを設定し、これらの液体を調製することができる。
【0018】
第1の液体と第2の液体とを散乱粒子上で接触させる方法は、特に限定されず、例えば、基板上に散乱粒子を供給した後に、第1の液体と第2の液体とを散乱粒子上に供給することによって行うことができる。この場合、第1の液体と第2の液体とを供給する順番は、第1の液体が先であっても良く、第2の液体が先であっても良く、または、同時であっても良いが、目的とする位置により正確に金属を析出させるという観点から、同時に供給することが好ましい。
上述したように、第1の液体と第2の液体とが散乱粒子上で接触することによって、第1の液体に含まれる金属イオンが、第2の液体に含まれる還元剤によって還元され、この結果、散乱粒子上に金属が析出する。析出した金属は、散乱粒子の表面に沿って金属膜を形成するので、散乱粒子の凹凸を生かした、キラキラと輝く堆積物を製造することができる。
【0019】
第1の液体と第2の液体とを吐出することによって金属を析出させた後、酸および/またはアルカリを用いて基板上に残留している未反応物を中和したり、水および/または有機溶媒を用いて基板上の未反応物や溶媒を洗浄除去したり、および/または、基板上に残留している溶媒を乾燥によって除去しても良い。乾燥する方法として、例えば、自然乾燥、温風または冷風による風乾、および、加熱乾燥が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
堆積物製造方法は、析出させた金属の上にインクを供給する工程をさらに備えていても良い。散乱粒子と金属膜との堆積物の上にインクをさらに供給することによって、堆積物が有する輝きの色を、金属膜を形成する金属そのものの色から、金属の色と吐出したインクの色とを足し合わせた色に変化させることができる。例えば、銀膜の上にマゼンダのインクを吐出することによって、赤みを帯びた銀白色の堆積物を製造することができる。
このようにして、析出させた金属の色と、その上に吐出するインクの色との組み合わせにより、無数の色の輝きを有する堆積物を製造することができる。
【0021】
インクを供給した後、必要に応じてインクを乾燥させて、他の物へのインクの付着を防止してもよい。インクを乾燥させる方法は、特に限定されないが、例えば、自然乾燥、温風または冷風による風乾、および、加熱乾燥が挙げられる。
【0022】
このようにして堆積物を製造する際、紙などの基板上で、線状の堆積物を製造することによって、キラキラとした輝きを有する文字を書くことができ、また、特定の範囲内に堆積物を製造することによって、キラキラとした輝きを有するベタ塗りをすることもできる。
【0023】
==液体吐出装置==
上述した本発明に係る堆積物製造方法は、例えば、以下に記載する液体吐出装置によって実施することができる。
本発明に係る液体吐出装置は、散乱粒子を含有する液体を吐出する第1のヘッドと、吐出された散乱粒子の上に、金属イオンを含有する第1の液体を吐出する第2のヘッドと、吐出された散乱粒子の上に、金属イオンを還元することができる還元剤を含有する第2の液体を吐出する第3のヘッドとを備え、散乱粒子の上に第1の液体と第2の液体とを吐出することによって、散乱粒子の上で第1の液体と第2の液体とを接触させ、金属イオンを還元して金属とし、この結果、散乱粒子上に金属を析出させることを特徴とする。
このように、散乱粒子の上に金属を析出させることによって、正反射光だけではなく、様々な角度に拡散して乱反射する拡散反射光を発し、この結果、金属側の広い角度に対してキラキラと輝く堆積物を製造することができる。また、液体吐出装置から、固体である金属を直接吐出するのではなく、金属イオンを含有する第1の液体とその金属イオンを還元することができる第2の液体とを吐出することによって、ヘッド先端の液体吐出部に金属が詰まるのを防ぐことができる。さらに、散乱粒子上に固体である金属を供給するのではなく、散乱粒子上で第1の液体と第2の液体とを混合することで散乱粒子上に金属を直接析出させることによって、散乱粒子の表面に沿って金属膜を作ることができるので、散乱粒子が形成する凹凸を生かした、よりキラキラと輝く堆積物を製造することができる。
【0024】
液体吐出装置は、液体を吐出することができれば特に限定されず、例えば、プリンタ、カラーフィルタ製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次元造形機、液体気化装置、有機EL製造装置、ディスプレイ製造装置、成膜装置、および、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の装置であっても良いが、製造される堆積物が視覚的にキラキラと輝くことから、プリンタであることが好ましい。
【0025】
散乱粒子の材質は、散乱粒子上で金属イオンの還元反応を行うことができれば特に限定されず、例えば、樹脂、金属、または、これらの混合物で形成されていても良いが、散乱粒子を含有する液体の中で散乱粒子同士が会合するのを防ぐことによって、ヘッド先端の液体吐出部に散乱粒子が詰まるのを防ぐ観点から、樹脂で形成されていることが好ましい。
散乱粒子の形は特に限定されず、例えば、球状、楕円体状、または、これらの表面に凹凸がある状態であっても良いが、散乱粒子を含有する液体を均質に保ちやすくすることによって、ヘッド先端の液体吐出部に散乱粒子が詰まるのを防ぐ観点から、球状であることが好ましい。
また、散乱粒子の大きさは、小さいほど、液体吐出装置内に散乱粒子が詰まりにくい傾向があり、さらに、大きいほど、製造される堆積物がキラキラとした輝きを有する傾向があることを見出した。よって、散乱粒子の大きさは、液体吐出装置内に散乱粒子が詰まりにくく、かつ、製造される堆積物がキラキラとした輝きを有するような大きさであれば特に限定されないが、例えば、散乱粒子の大きさが1〜10μmであることが好ましく、1〜5μmであることが特に好ましい。
【0026】
散乱粒子を含有する液体は、散乱粒子を分散させることができる溶媒を含む。この溶媒は、散乱粒子と反応せず、かつ、散乱粒子を分散させることができれば特に限定されないが、例えば、溶媒が水を含む場合には、疎水性の散乱粒子を分散させるために、親水性の有機溶媒も併せて用いること、即ち、水と親水性有機溶媒との混合溶媒とすることが好ましい。また、散乱粒子を含有する液体は、散乱粒子を分散させやすくするために、さらに界面活性剤を含んでいても良い。
【0027】
散乱粒子を含有する液体が含有する散乱粒子の濃度は、液体吐出装置内に散乱粒子が詰まりにくい程度に低く、かつ、製造される堆積物がキラキラとした輝きを有する程度に高いことが好ましい。例えば、散乱粒子を含有する液体全量に対して、0.1〜10重量%であることが好ましく、1〜5重量%であることがより好ましく、2〜4重量%であることが特に好ましい。
【0028】
散乱粒子を含有する液体は、第1のヘッドが備えるタンクに貯蔵されていても良く、この場合、液体吐出装置が、散乱粒子を含有する液体に超音波を発生させる超音波発生装置をさらに備えることが好ましい。貯蔵されている散乱粒子を含有する液体に超音波を発生させることによって、散乱粒子を含有する液体中で散乱粒子が会合したり沈殿したりするのを抑制することができ、さらに、散乱粒子を含有する液体中で散乱粒子が会合したり沈殿したりしている場合には、これらを解消することができる。この結果、散乱粒子を含有する液体を均質にすることができるので、散乱粒子がヘッド先端の液体吐出部に詰まるのを防ぐことができる。
【0029】
液体吐出装置は、散乱粒子を含有する液体を吐出した後、第1の液体および/または第2の液体を吐出する前に、吐出された散乱粒子を含有する液体を乾燥する乾燥機を備えてもよい。それによって、散乱粒子を含有する液体から溶媒を除去できる。
【0030】
その後、金属イオンの還元は、金属イオンを含有する第1の液体を第2のヘッドから、そして、金属イオンを還元することができる還元剤を含有する第2の液体を第3のヘッドから、散乱粒子上に吐出することによって行うことができる。上述したように、金属イオンを含有する液体と還元剤を含有する液体とが散乱粒子上で接触することによって、金属イオンが還元剤によって還元され、金属が散乱粒子上に析出して金属膜を形成する。
なお、第1の液体と第2の液体とが散乱粒子上に吐出する順番は、第1の液体が先であっても良く、第2の液体が先であっても良く、または、同時であっても良いが、目的とする位置により正確に金属を析出させるという観点から、同時に吐出することが好ましい。
【0031】
液体吐出装置は、第1の液体と第2の液体とを吐出することによって金属を析出させた後、酸および/またはアルカリを用いて、第1の液体および/または第2の液体由来の未反応物を中和したり、水および/または有機溶媒を用いて、上記未反応物や、散乱粒子を含有する液体、第1の液体および/または第2の液体由来の溶媒を洗浄除去したり、および/または、乾燥機を備えてもよく、それによって上記溶媒を除去しても良い。
【0032】
液体吐出装置は、散乱粒子上に析出させた金属のさらに上にインクを吐出する、第4のヘッドをさらに備えていても良い。散乱粒子と金属膜との堆積物の上にインクを吐出することによって、堆積物が有する輝きの色を、金属膜を形成する金属そのものの色から、金属の色と吐出したインクの色とを足し合わせた色に変化させることができる。
さらに、液体吐出装置は、インクを吐出した後、必要に応じてインクを乾燥させる乾燥機を備えることが好ましい。
【0033】
このようにして、本発明の堆積物製造方法を、例えばプリンタなどの液体吐出装置に適用することによって、キラキラと輝く文字や絵を作製することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
本実施例では、液体吐出装置として、ピエゾと液体吐出機構とを有し、基板として用いたフィルム面の幅にあわせて360dpi間隔で吐出口が形成された、プリンタ100を使用した。フィルムには、PET50APLシンまたはPET50(K2411)PAT1E(リンテック株式会社製)を用いた。
図1は、プリンタ100の構成を説明するための模式図であって、図1Aはプリンタ100の側面図であり、図1Bはプリンタ100の上面図である。図1が示すように、プリンタ100において、ベルトコンベアー式の基板搬送台1の、基板投入側にローダー2を配置し、基板取り出し側にアンローダー3を配置することによって、基板搬送経路とした。
【0035】
散乱粒子を含有する液体を吐出するヘッド10として、1列タイプの印刷ヘッドを使用した。散乱粒子には、ミクロパールEX(積水化学工業株式会社製)を使用した。また、散乱粒子を分散させるための溶媒には、水、エタノール及びイソプロピルアルコールの混合溶媒を使用し、界面活性剤には、シランカップリング剤である信越シリコーンKBE−1003またはKBM−573(信越化学工業株式会社製)を使用した。
この液体の組成比は、下記の通りである。

ミクロパールEX 3重量%
水 77重量%
エタノール 10重量%
イソプロピルアルコール 5重量%
信越シリコーンKBE−1003またはKBM−573 5重量%
【0036】
図2は、ヘッド10の構成を説明するための模式図である。散乱粒子を含有する液体を、メインタンク11に投入した。この液体は懸濁液であったため、液体を、マグネティックスターラー12と攪拌子13とを用いて常時攪拌することによって沈殿の生成を抑制しながら、供給管14を通じてサブタンク15に供給した。サブタンク15においても沈殿の生成を抑制するため、サブタンク15に供給された液体を、吐出ヘッド16との間で、循環路17及び18を通じて常時循環させた。さらに、液体の中で散乱粒子が会合するのを防ぐために、超音波発生装置19を用いて、サブタンク15に超音波を発生させ続けた。
このような状態で、吐出ヘッド16から、散乱粒子を含有する液体を基板に吐出した。また、この吐出によって、散乱粒子を含有する液体を、車の車体を描くように基板上に配置した。
散乱粒子を含有する液体が吐出された基板に対して、温風乾燥機20を用いて温風を送風することによって溶媒を除去した。
【0037】
金属膜を形成するための液体を散乱粒子上に吐出するヘッド30として、2列タイプの印刷ヘッドを使用した。2列の内、基板投入側からグルコース水溶液を吐出し、基板取り出し側からアンモニア性硝酸銀水溶液を吐出した。これら2つの水溶液の吐出は、2つの水溶液が基板上の同じ位置に同時に付着するように、吐出の速度とタイミングとを調整しながら行った。
このように、散乱粒子上で0.1mol/Lのアンモニア性硝酸銀水溶液と5重量%のグルコース水溶液とを接触させることによって、銀イオンの還元反応を行って、散乱粒子上に直接銀膜を形成した。この段階で、基板上には車の車体が描かれており、さらに、その車体は、印刷面の広い角度に対してキラキラとした銀白色の輝きを有していた。
銀膜が形成された基板に対して、温風乾燥機40を用いて温風を送風することによって溶媒を除去した。
【0038】
インクを銀膜上に吐出するヘッド50として、4列タイプの印刷ヘッドを使用した。4列には、CMYKのインクをセットした。セットしたインクを、これまでに製造した散乱粒子と銀膜との積層部分の上も含めて、基板上に吐出することによって、基板上に車と木と家とを描いた。車の車体部分には、紫色を生成するようにインクを吐出した。
【0039】
図3は、このようにして印刷した印刷物60の模式図である。図3Aは、印刷物の全体図であり、図3Bは断面図である。図3Aが示すように、印刷物60には、車と木と家とが描かれており、これらの内、車の車体部分70は、印刷面側の広い角度に対して、紫色を帯びた銀白色のキラキラとした輝きを有していた。図3Bが示すように、印刷物60において、車の車体部分70のみに散乱粒子71と銀膜72とインク73とが積層されており、その他の印刷部分にはインク73のみが配置されていた。
このように、本発明によれば、印刷の目的とする部分のみまたは全面が、印刷面側の広い角度に対してキラキラとした輝きを有する印刷物を製造することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 基板搬送台、
2 ローダー、
3 アンローダー、
10,30,50 ヘッド、
11 メインタンク、
12 マグネティックスターラー、
13 攪拌子、
14 供給管、
15 サブタンク、
16 吐出ヘッド
17,18 循環路、
20,40 温風乾燥機、
60 印刷物、
70 車体部分、
71 散乱粒子、
72 銀膜、
73 インク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆積物製造方法であって、
基板上に散乱粒子を供給する工程と、
前記基板上に供給された散乱粒子の上で、金属イオンを含有する第1の液体と、前記金属イオンを還元させることができる還元剤を含有する第2の液体とを接触させることによって、前記散乱粒子の上に金属を析出させる工程とを含むことを特徴とする堆積物製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の堆積物製造方法であって、
前記金属の上に、インクを供給する工程をさらに含むことを特徴とする堆積物製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の堆積物製造方法であって、前記散乱粒子が樹脂で形成されていることを特徴とする堆積物製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の堆積物製造方法であって、前記散乱粒子の大きさが1〜10μmであることを特徴とする堆積物製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の堆積物製造方法であって、
前記金属イオンが、銀、銅、金、白金、アルミニウム、コバルト、ニッケル、パラジウム、または、スズの陽イオンであることを特徴とする堆積物製造方法。
【請求項6】
液体吐出装置であって、
散乱粒子を含有する液体を吐出する第1のヘッドと、
前記吐出された散乱粒子の上に、金属イオンを含有する第1の液体を吐出する第2のヘッドと、
前記吐出された散乱粒子の上に、前記金属イオンを還元することができる還元剤を含有する第2の液体を吐出する第3のヘッドとを備え、
前記散乱粒子の上に第1の液体と第2の液体とを吐出することによって、前記散乱粒子の上に金属を析出させることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項7】
請求項6に記載の液体吐出装置であって、前記金属の上にインクを吐出する第4のヘッドをさらに備えることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の液体吐出装置であって、
第1のヘッドが前記散乱粒子を含有する液体を貯蔵するタンクを備え、
前記液体吐出装置が、前記散乱粒子を含有する液体に超音波を発生させる超音波発生装置をさらに備えることを特徴とする液体吐出装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2013−99724(P2013−99724A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245222(P2011−245222)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】