説明

塗布組成物、該塗布組成物の製造方法、透光性光散乱性膜、有機エレクトロルミネッセンス表示素子及び面状光源体

【課題】高い光取り出し効率を得ることのできる光散乱層を簡易な方法で形成することが可能な塗布組成物とその製造方法を提供すること。
【解決手段】有機酸により表面修飾されている金属酸化物超微粒子と光散乱粒子と2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーとを含み、かつ有機溶剤の含有量が組成物全体量に対し1質量%以下である塗布組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布組成物、該塗布組成物の製造方法、透光性光散乱性膜、有機エレクトロルミネッセンス表示素子及び面状光源体に関する。より具体的には、発光効率を高める透光性光散乱性膜を形成し得る塗布組成物と該塗布組成物の製造方法、該塗布組成物を用いて形成された透光性光散乱膜、有機エレクトロルミネッセンス表示素子、及び高効率の面状光源体に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス表示装置(有機EL表示装置)は自発光型の表示装置であり、ディスプレイや照明の用途に用いられる。有機ELディスプレイは、従来のCRTやLCDと比較して視認性が高い、視野角依存性が無いといった表示性能上の利点を有し、さらにはディスプレイを軽量化、薄層化できるといった利点もある。有機EL表示装置を用いた有機EL照明は、軽量化、薄層化といった利点に加え、フレキシブルな基板を用いることでこれまで実現できなかった形状の照明を実現できる可能性を持っている。
【0003】
有機EL表示装置はこれらの優れた特徴を有しているが、一般に、発光層を含め表示装置を構成する各層の屈折率が空気より高いため、発光した光の界面での全反射や干渉が起こり易く、その光取り出し効率は20%に満たず、大部分の光を損失してしまうという問題がある。このため、この問題を簡易な方法で解決でき、かつ表示性能を損なわない技術が望まれている。
【0004】
まず、光取り出し効率を向上させるには、(a)透明基板/空気界面で全反射し「有機層+透明電極+透明基板」を導波する光を取り出す(例えば、特許文献1参照)、(b)透明電極/透明基板界面で全反射し「有機層+透明電極」を導波する光を取り出す(例えば、特許文献2〜4参照)等の施策がなされている。しかし、これらの方法は通電時に絶縁破壊を起こし易い等の素子自身に影響を与えることや、凹凸の加工が難しく簡易な方法でないこと等により、更なる有用な方法が望まれている。
【0005】
光取り出し効率を向上させ、かつ簡易な手法の1つとして、有機EL面発光体の表面に光散乱層を付与して、取り出し効率を改善する手段が提案されている(例えば、特許文献5および6参照)。しかし、発光体の表面で光散乱を起こすと、光の滲みが大きくなり、解像度が劣化して有機EL本来の特徴が損なわれてしまう。
【0006】
また、これらの問題を解決する一つの手段として、素子内部に光散乱層を設置する方法も提案されている(例えば、特許文献7参照)。しかし、この方法では有機溶剤含有塗布液を使用しており、素子を傷めるため素子上に直接塗布できず簡易とは言えない。
【0007】
【特許文献1】米国特許第4774435明細書
【特許文献2】特開平11−283751号公報
【特許文献3】特開2002−313554号公報
【特許文献4】特開2002−313567号公報
【特許文献5】特開2003−109747号公報
【特許文献6】特開2003−173877号公報
【特許文献7】特開2004−296429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の課題は、高い光取り出し効率を得ることのできる光散乱層を簡易な方法で形成することが可能な塗布組成物とその製造方法を提供することにある。また、この塗布組成物を用いて形成した高い光取り出し効率を達成できる透光性光散乱膜、該膜を具備した有機EL表示素子及び面状光源体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の前記課題は、下記に記載した塗布組成物及びその製造方法、これを用いた透光性光散乱膜、有機EL表示素子及び面状光源体により達成された。
【0010】
1. 有機酸により表面修飾されている金属酸化物超微粒子と光散乱粒子と2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーとを含み、かつ有機溶剤の含有量が組成物全体量に対し1質量%以下である塗布組成物。
2. 前記金属酸化物超微粒子が芳香族カルボン酸により表面修飾されている上記1に記載の塗布組成物。
3. 前記金属酸化物超微粒子がSi、Al、Zr、Zn、Ti、In、SbおよびSnから選ばれる少なくとも1種の金属を含む上記1または2に記載の塗布組成物。
4. 前記金属酸化物超微粒子の粒子径が1nm〜100nmである上記1〜3のいずれかに記載の塗布組成物。
5. 前記光散乱粒子の屈折率が1.55以下または2.0以上である上記1〜4のいずれかに記載の塗布組成物。
6. 前記光散乱粒子の粒子径が、0.1μm〜2.0μmである上記1〜5のいずれかに記載の塗布組成物。
7. 有機酸により表面修飾されている金属酸化物超微粒子と光散乱粒子と2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーとを有機溶剤中で分散して塗布組成物の有機溶剤分散物を調製する第1の工程、塗布組成物の有機溶剤分散物を減圧下で濃縮し、有機溶剤の含有量を組成物全体量に対し1質量%以下とする第2の工程を含む塗布組成物の製造方法。
8. 有機酸により表面被覆された金属酸化物超微粒子を減圧下で脱溶媒して易分散性金属酸化物超微粒子を作製する第1の工程、2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーに該易分散性金属酸化物超微粒子と光散乱粒子とを直接分散する第2の工程を含む塗布組成物の製造方法。
9. 上記1〜6のいずれかに記載の塗布組成物を用いて形成された透光性光散乱性膜。
10.前記透光性光散乱性膜の屈折率が1.6以上である上記9に記載の透光性光散乱性膜。
11.前記透光性光散乱性膜の膜厚が0.1μm〜20μmである上記9または10に記載の透光性光散乱性膜。
12.正極と負極との間に少なくとも発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス表示素子の電極上に、上記9〜11のいずれかに記載の透光性光散乱性膜が設けられた有機エレクトロルミネッセンス表示素子。
13.上記12に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子を備えた面状光源体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い光取り出し効率を得ることのできる光散乱層を簡易な方法で形成することが可能な塗布組成物とその製造方法を提供することができる。また、この塗布組成物を用いて形成した高い光取り出し効率を達成できる透光性光散乱膜、該膜を具備した有機EL表示装置及び面状光源体を提供することができる。
また、本発明の塗布組成物は、有機EL表示装置における素子を痛めることなく透光性光散乱性膜を形成することができるため、発光特性が良好な有機EL表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、「A〜B」という記載は、「A以上B以下」の意味を表す。また、有機ELとは、有機エレクトロルミネッセンスを意味する。
【0013】
<塗布組成物>
本発明の塗布組成物は、有機酸により表面被覆された金属酸化物超微粒子と、光散乱粒子と2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーと、組成物の全体量に対し1質量%以下の有機溶剤が含有されている。有機溶剤が全く含有されないことが好ましい。
【0014】
本発明の塗布組成物は、特に用途は限定されないが、塗布組成物から形成される光散乱層から揮発する有機溶剤の量が少ないことが好ましい分野に好適に利用することができる。塗布組成物の応用例として、有機EL素子が挙げられ、とりわけ、素子の電極上に光散乱層を形成するための塗布液として好適に用いることができる。
【0015】
有機EL素子は、構成する各層の残留水分、残留溶剤、外部から供給される水分または溶剤からの影響を受け易く、それらにより素子の一部分が発光不良(ダークスポット)を起こしたり、発光面内で輝度ムラが生じることがある。また、有機EL素子は発光層等の蒸着膜が非常に薄いことが多く、高温下に置かれることで蒸着膜が劣化したりし、発光特性や耐久性等に影響を与えてしまう。
【0016】
従って、有機EL素子用の塗布組成物としては、組成物に水分や溶剤がなるべく少なくなるようにする必要があり、かつ製造プロセスで高温下に晒されないように工夫する必要がある。
【0017】
本発明の塗布組成物は、揮発する有機溶剤の量が少ないため、素子を痛めることなく素子上に光散乱層を形成でき、それにより光取り出し効率の高い有機EL素子が得られる。更に、塗布組成物からの持ち込み溶剤がほとんど無いため、塗布組成物を塗布した後に溶剤を飛ばすための高温乾燥をする必要がなく、更に好ましくは電離放射線硬化型モノマーを用いることで硬化時も高温長時間加熱する必要がないため、素子を痛めることなく、発光効率を高めることができる。本発明では、これらの要件を満たす塗布組成物の有機溶剤含有量が、組成物全体量に対し1質量%以下であることを見い出した。
【0018】
本発明の塗布組成物を製造する方法としては、溶剤中で有機酸により表面修飾された金属酸化物超微粒子と光散乱粒子と2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーとを分散し、その後濃縮する方法が挙げられ、例えば溶剤分散物を減圧下でエバポレーションする方法や、一定温度下で乾燥する方法等を用いることができる。このような方法で濃縮が進むと粒子同士の凝集が問題となる場合があるが、本発明の有機酸により表面修飾された金属酸化物超微粒子を用いると、粒子同士の凝集が起こらないようにすることができ、製膜した場合に透過率が高い膜を得ることができる塗布組成物とすることができる。
【0019】
本発明の塗布組成物を製造する際に用いることができる有機溶剤としては、エーテル類:具体的には、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,3,5−トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトール等、ケトン類:具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等、メチルイソブチルケトン、2−オクタノン、2−ペンタノン、2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、3−ペンタノン、3−ヘプタノンおよび4−ヘプタノン、エステル類:具体的には、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n−ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン醸エチル、酢酸n−ペンチル、およびγ−プチロラクトン等、2種類以上の官能基を有する有機溶媒:具体的には、2−メトキシ酢酸メチル、2−エトキシ酢酸メチル、2−エトキシ酢酸エチル、2−エトキシプロピオン酸エチル、2−メトキシエタノール、2−プロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1,2−ジアセトキシアセトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、アセト酢酸メチル、およびアセト酢酸エチル等、アルコール類:具体的にはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール及びトルエンが挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
塗布組成物を製造する方法としては、他には、有機酸により表面被覆された金属酸化物超微粒子分散物を減圧下で脱溶媒して易分散性粒子を調製し、その後2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマー中に易分散性金属酸化物超微粒子と光散乱粒子とを直接分散する方法も用いることができる。直接分散するためには、2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの粘度が低い方が好ましい。
【0021】
塗布組成物を製造する際の分散方法としては、公知の分散法を用いることができ、例えば、サンドグラインダーミル、高速インペラーミル、ローラーミル、アトライターミル、コロイドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザー等の分散機を用いることも好適である。これらの塗布組成物の製造方法は、組み合わせて用いても良く、例えば公知の分散機で分散した後に、濃縮またはドライアップする等しても良い。
【0022】
本発明の塗布組成物を塗布する方法としては、特に制限されないが、スピンコート法、スリットコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法(ダイコート法)(米国特許2681294号明細書参照)等の公知の方法が用いられる。その中でも薄膜塗布可能で、薄膜の膜厚均一性が高いという点でスピンコート法、スリットコート法が好適に用いられる。
【0023】
<2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマー>
本発明では透光性バインダーを形成するために、2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーが用いられる。2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーは好ましくは紫外線・電子線によって硬化する樹脂、即ち、電離放射線硬化型である。透光性バインダーは、飽和炭化水素またはポリエーテルを主鎖として有するポリマーであることが好ましく、飽和炭化水素を主鎖として有するポリマーであることがさらに好ましい。さらに、透光性バインダーは架橋していることが好ましい。飽和炭化水素を主鎖として有するポリマーは、エチレン性不飽和モノマーの重合反応により得ることが好ましい。架橋しているバインダーを得るためには、2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーを用いることが好ましい。
【0024】
2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの例には、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(例、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,3,5−シクロヘキサントリオールトリメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート)、ビニルベンゼンの誘導体(例、1,4−ジビニルベンゼン、4−ビニル安息香酸−2−アクリロイルエチルエステル、1,4−ジビニルシクロヘキサノン)、ビニルスルホン(例、ジビニルスルホン)、アクリルアミド(例、メチレンビスアクリルアミド)およびメタクリルアミドが含まれる。以上のモノマーは単独で用いても良いが、2種以上を混合して用いても良い。
【0025】
上記エチレン性不飽和基を有するモノマーの粘度は50mPa・s以下が好ましく、25mPa・s以下がより好ましく、エチレン性不飽和基を有するモノマー中では、2個または3個の官能基を有するアクリレートもしくはメタアクリレートモノマーを単独もしくは混合して用いると、塗布組成物の粘度が比較的低くなり、薄膜塗布可能で、薄膜の膜厚均一性が高くなるため好ましい。また、これらのモノマーに、別のモノマーを少量混合する事で、膜硬度等の膜物性を調整しても良いし、屈折率調整のための高屈折率を有するモノマーを加えることもできる。
【0026】
これらのエチレン性不飽和基を有するモノマーは、各種の重合開始剤その他添加剤と共に塗布後、電離放射線による重合反応により硬化することができる。電離放射線による硬化方法としては、前記電離放射線硬化型樹脂組成物の通常の硬化方法、即ち、電子線又は紫外線の照射によって硬化することができる。
【0027】
例えば、電子線硬化の場合には、コックロフワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器から放出される50〜1000keV、好ましくは100〜300keVのエネルギーを有する電子線等が使用され、紫外線硬化の場合には超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光線から発する紫外線等が利用できる。
【0028】
<金属酸化物超微粒子>
本発明の金属酸化物超微粒子としてはSi、Al、Zr、Zn、Ti、In、SbおよびSnから選ばれる、少なくとも1種の金属を含む金属酸化物超微粒子であることが好ましい。粒子の具体例としては、SiO、ZrO、TiO、Al3、In3、ZnO、SnO、Sb3、ITO等が挙げられ、これらの中でも、特にZrOが好ましく用いられる。
【0029】
金属酸化物超微粒子の粒子径(平均粒子径)は、可視光の波長よりも十分小さく、かつ可視光の波長領域で光散乱をしない粒子径であることが好ましい。金属酸化物超微粒子の好ましい粒子径としては1nm〜100nmであり、より好ましくは1nm〜50nmであり、特に好ましくは2nm〜30nmである。
平均粒子径の測定方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば透過型電子顕微鏡(TEM)により金属酸化物超微粒子の粒子観察を行い、そこから粒子径分布の数平均粒子径として求める方法、動的光散乱法により金属酸化物超微粒子の粒子径分布を測定し、その数平均粒子径として求める方法等が好適に用いられる。
【0030】
金属酸化物超微粒子の添加量は、エチレン性不飽和基を有するモノマー100質量部に対して10〜90質量%であることが好ましく、20〜80質量%であるとより好ましい。
【0031】
本発明の金属酸化物超微粒子は有機酸により表面修飾されており、それによって超微粒子の分散安定性と被膜形成時の透明性を保つことができる。有機酸としてはカルボン酸類、スルホン酸類、リン酸類、ホスホン酸類等が好適に用いられ、これらの中でも芳香族カルボン酸により表面修飾されているとエチレン性不飽和基を有するモノマー中での分散安定性が良好であり好ましい。芳香族カルボン酸としては、4−n−プロピル安息香酸、ジフェニル酢酸、4−フェニル安息香酸等が好ましい。金属酸化物超微粒子を表面修飾する好ましい有機酸の量としては、金属酸化物超微粒子100質量%に対して0.1〜20質量%である。
【0032】
金属酸化物超微粒子の表面修飾法としては、例えば金属酸化物超微粒子の合成時に有機酸を共存させて修飾する方法、溶媒中で金属酸化物超微粒子と有機酸を一定時間撹拌する方法、溶媒中で金属酸化物超微粒子と有機酸を共存させ、超音波分散機等の市販の分散機を用いて分散修飾する方法等を用いることができる。これら表面修飾した金属酸化物超微粒子への有機酸の吸着量については、熱重量示差熱分析(TG−TDA)の重量減少分と、脱離成分のガスクロマト分析(GC−MS)から確認できる。
【0033】
<光散乱粒子>
光散乱粒子は、有機微粒子であっても、無機微粒子であっても良いが、屈折率が1.55以下、または2.0以上のものが好ましい。有機微粒子としては、ポリメチルメタクリレートビーズ(屈折率1.49)、アクリルビーズ(屈折率1.50)、アクリル−スチレン共重合体ビーズ(屈折率1.54)、シリコンビーズ(屈折率1.50)等が用いられる。無機微粒子としては、シリカビーズ(屈折率1.44)、酸化チタンビーズ(屈折率 アナタース型2.50、ルチル型2.70)、酸化ジルコニアビーズ(屈折率2.05)、酸化亜鉛ビーズ(屈折率2.0)等が用いられる。
【0034】
本発明では光取り出し効率を向上させるため、界面で全反射する光を拡散させることが必要であり、拡散効果を大きくする粒子径を選択することが必要である。本発明の光散乱粒子の粒子径は、散乱効果、光取り出し効率の観点から、0.1μm〜2.0μmであることが好ましく、0.15μm〜1.0μmがより好ましく、0.2μm〜0.7μmが最も好ましい。
【0035】
光散乱粒子は一種類だけを用いても良く、また複数の種類の粒子を組み合わせて用いても良い。例えば、前記粒子を2種類用いても良いし、上記粒子を1種類とより大きな他の粒子で表面凹凸を形成することもできる。
【0036】
光散乱粒子の添加量は透光性バインダー100質量%に対して5〜50質量%含有させるのが好ましく、10〜45質量%含有させるのがより好ましく、20〜40質量%含有させるのが特に好ましい。散乱効果の観点から5質量%以上が好ましく、膜強度の観点から50質量%以下が好ましい。
【0037】
上記のような光散乱粒子の場合には、エチレン性不飽和基を有するモノマー中で光散乱粒子が沈降し易いことがあるが、本発明の塗布組成物中で金属酸化物超微粒子との共存下ではこのような現象が起こり難い特徴がある。もちろん更なる光散乱粒子の沈降防止目的でシリカ等の無機フィラーを添加しても良い。なお、無機フィラーは添加量が増す程、光散乱粒子の沈降防止に有効であるが、塗膜の透明性に悪影響を与えるため注意が必要である。
【0038】
<透光性光散乱性膜>
本発明の塗布組成物を用いて形成される透光性光散乱性膜は、屈折率が1.6以上であることが好ましい。これは、有機EL表示装置の有機薄膜層の屈折率が1.6〜2.1であるためで、透光性光散乱性膜の屈折率を有機薄膜層の屈折率と同等以上にすることで、有機薄膜層内で導波する光をより取り出すことが可能となるためである。
【0039】
透光性光散乱性膜の膜厚は0.1μm〜20μm程度とするのが好ましく、0.5〜10μm程度とするのがより好ましく、1.0〜7.5μmとするのが最も好ましい。透光性光散乱性膜の膜厚がこの範囲にあれば、発光点と散乱位置の距離を近づけることができ、光散乱による画像の解像度の低下を抑制することができる。
透光性光散乱性膜は光散乱層として有機EL素子において使用することができる。
【0040】
<有機EL表示装置>
本発明の有機EL表示装置は陽極、陰極の一対の電極間に発光層または発光層を含む複数の有機化合物薄膜を形成した表示装置であり、電極上に前記塗布組成物を用いて光散乱層を形成したものである。また、発光層のほか正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、バリア層などを有しても良く、またこれらの各層はそれぞれ他の機能を備えたものであっても良い。各層の形成にはそれぞれ種々の材料を用いることができる。
【0041】
陽極は正孔注入層、正孔輸送層、発光層などに正孔を供給するものであり、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、またはこれらの混合物などを用いることができ、好ましくは仕事関数が4eV以上の材料である。具体例としては酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性金属酸化物、あるいは金、銀、クロム、ニッケル等の金属、さらにこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物または積層物、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの有機導電性材料、およびこれらとITOとの積層物などが挙げられ、好ましくは、導電性金属酸化物であり、特に、生産性、高導電性、透明性等の点からITOが好ましい。陽極の膜厚は材料により適宜選択可能であるが、通常10nm〜5μmの範囲のものが好ましく、より好ましくは50nm〜1μmであり、更に好ましくは100nm〜500nmである。
【0042】
陽極は通常、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、透明樹脂基板などの上に層形成したものが用いられる。ガラスを用いる場合、その材質については、ガラスからの溶出イオンを少なくするため、無アルカリガラスを用いることが好ましい。また、ソーダライムガラスを用いる場合、シリカなどのバリアコートを施したものを使用することが好ましい。基板の厚みは、機械的強度を保つのに十分であれば特に制限はないが、ガラスを用いる場合には、通常0.2mm以上、好ましくは0.7mm以上のものを用いる。
【0043】
前記透明樹脂基板としてバリアフィルムを用いることもできる。バリアフィルムとはプラスチック支持体上にガス不透過性のバリア層を設置したフィルムである。バリアフィルムの例としては酸化ケイ素や酸化アルミニウムを蒸着したもの(特公昭53−12953号公報、特開昭58−217344号公報)、有機無機ハイブリッドコーティング層を有するもの(特開2000−323273号公報、特開2004−25732号公報)、無機層状化合物を有するもの(特開2001−205743号公報)、無機材料を積層したもの(特開2003−206361号公報、特開2006−263989号公報)、有機層と無機層を交互に積層したもの(特開2007−30387号公報、米国特許6413645号明細書、Affinitoら著 Thin Solid Films 1996年 290−291頁)、有機層と無機層を連続的に積層したもの(米国特許出願公開2004−46497号公報)などが挙げられる。
【0044】
陽極の作製には材料によって種々の方法が用いられるが、例えばITOの場合、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、化学反応法(ゾル−ゲル法など)、酸化インジウムスズの分散物の塗布などの方法で膜形成される。陽極は洗浄その他の処理により、表示装置の駆動電圧を下げたり、発光効率を高めることも可能である。例えばITOの場合、UV−オゾン処理などが効果的である。
【0045】
陰極は電子注入層、電子輸送層、発光層などに電子を供給するものであり、電子注入層、電子輸送層、発光層などの負極と隣接する層との密着性やイオン化ポテンシャル、安定性等を考慮して選ばれる。陰極の材料としては金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、またはこれらの混合物を用いることができ、具体例としてはアルカリ金属(例えばLi、Na、K等)またはそのフッ化物、アルカリ土類金属(例えばMg、Ca等)またはそのフッ化物、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金またはそれらの混合金属、リチウム−アルミニウム合金またはそれらの混合金属、マグネシウム−銀合金またはそれらの混合金属、インジウム、イッテルビウム等の希土類金属等が挙げられ、好ましくは仕事関数が4eV以下の材料であり、より好ましくはアルミニウム、リチウム−アルミニウム合金またはそれらの混合金属、マグネシウム−銀合金またはそれらの混合金属等である。陰極の膜厚は材料により適宜選択可能であるが、通常10nm〜5μmの範囲のものが好ましく、より好ましくは50nm〜1μmであり、更に好ましくは100nm〜1μmである。陰極の作製には電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、コーティング法などの方法が用いられ、金属を単体で蒸着することも、二成分以上を同時に蒸着することもできる。さらに、複数の金属を同時に蒸着して合金電極を形成することも可能であり、またあらかじめ調整した合金を蒸着させても良い。
陽極及び陰極のシート抵抗は低い方が好ましく、数百Ω/□以下が好ましい。
【0046】
陰極上に前記バリアフィルムを貼り合せて、ガスの浸入を防ぐともに、ディスプレイ表面に保護層を形成しても良い。
【0047】
発光層の材料は、電界印加時に陽極または正孔注入層、正孔輸送層から正孔を注入することができると共に陰極または電子注入層、電子輸送層から電子を注入することができる機能や、注入された電荷を移動させる機能、正孔と電子の再結合の場を提供して発光させる機能を有する層を形成することができるものであれば何でもよい。発光層材料の例としては、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、スチリルベンゼン誘導体、ポリフェニル誘導体、ジフェニルブタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、ナフタルイミド誘導体、クマリン誘導体、ペリレン誘導体、ペリノン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アルダジン誘導体、ピラリジン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ビススチリルアントラセン誘導体、キナクリドン誘導体、ピロロピリジン誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、スチリルアミン誘導体、芳香族ジメチリディン化合物、8−キノリノール誘導体の金属錯体や希土類錯体に代表される各種金属錯体等、ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン等のポリマー化合物等が挙げられる。発光層の膜厚は特に限定されるものではないが、通常1nm〜5μmの範囲のものが好ましく、より好ましくは5nm〜1μmであり、更に好ましくは10nm〜500nmである。
発光層の形成方法は、特に限定されるものではないが、抵抗加熱蒸着、電子ビーム、スパッタリング、分子積層法、コーティング法(スピンコート法、キャスト法、ディップコート法など)、LB法などの方法が用いられ、好ましくは抵抗加熱蒸着、コーティング法である。
【0048】
正孔注入層、正孔輸送層の材料は、陽極から正孔を注入する機能、正孔を輸送する機能、陰極から注入された電子を障壁する機能のいずれかを有しているものであればよい。その具体例としては、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)誘導体、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマー等が挙げられる。正孔注入層、正孔輸送層の膜厚は特に限定されるものではないが、通常1nm〜5μmの範囲のものが好ましく、より好ましくは5nm〜1μmであり、更に好ましくは10nm〜500nmである。正孔注入層、正孔輸送層は上述した材料の1種または2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成または異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
正孔注入層、正孔輸送層の形成方法としては、真空蒸着法やLB法、前記正孔注入輸送剤を溶媒に溶解または分散させてコーティングする方法(スピンコート法、キャスト法、ディップコート法など)が用いられる。コーティング法の場合、樹脂成分と共に溶解または分散することができ、樹脂成分としては例えば、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂などが挙げられる。
【0049】
電子注入層、電子輸送層の材料は、陰極から電子を注入する機能、電子を輸送する機能、陽極から注入された正孔を障壁する機能のいずれか有しているものであればよい。その具体例としては、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体等が挙げられる。電子注入層、電子輸送層の膜厚は特に限定されるものではないが、通常1nm〜5μmの範囲のものが好ましく、より好ましくは5nm〜1μmであり、更に好ましくは10nm〜500nmである。電子注入層、電子輸送層は上述した材料の1種または2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成または異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
電子注入層、電子輸送層の形成方法としては、真空蒸着法やLB法、前記電子注入輸送剤を溶媒に溶解または分散させてコーティングする方法(スピンコート法、キャスト法、ディップコート法など)などが用いられる。コーティング法の場合、樹脂成分と共に溶解または分散することができ、樹脂成分としては例えば、正孔注入輸送層の場合に例示したものが適用できる。
【0050】
バリア層の材料としては水分や酸素等の素子劣化を促進するものが素子内に入ることを抑止する機能を有しているものであればよい。その具体例としては、In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Al、Ti、Ni等の金属、MgO、SiO、SiO、Al、GeO、NiO、CaO、BaO、Fe、Y、TiO等の金属酸化物、SiN等の金属窒化物、SiON等の金属酸窒化物、MgF、LiF、AlF、CaF等の金属フッ化物、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、ポリウレア、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリジクロロジフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンとジクロロジフルオロエチレンとの共重合体、テトラフルオロエチレンと少なくとも1種のコモノマーとを含むモノマー混合物を共重合させて得られる共重合体、共重合主鎖に環状構造を有する含フッ素共重合体、吸水率1%以上の吸水性物質、吸水率0.1%以下の防湿性物質等が挙げられる。
バリア層の形成方法についても特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、MBE(分子線エピタキシ)法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法(高周波励起イオンプレーティング法)、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、ガスソースCVD法、コーティング法を適用できる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0052】
(塗布液T−1の調製)
(1)酸化ジルコニウム超微粒子分散物A−1の調製
50g/l濃度のオキシ塩化ジルコニウム水溶液を48%水酸化ナトリウム水溶液中で中和し、水和ジルコニウム分散液を得た。この分散液をろ過後、イオン交換水で洗浄したものを15質量%に調整し、圧力150気圧150℃で24時間オートクレーブ処理して酸化ジルコニウム分散液を得た。得られた酸化ジルコニウム分散液をろ過し、予め合成ゼオライト系高性能吸水剤(ユニオン昭和(株)製 商品名 モレキュラーシーブ3A)を用いて脱水処理を行ったメタノールを溶媒として再分散し、10質量%の酸化ジルコニウム分散液を得た。得られた酸化ジルコニウム粒子は粒子サイズが3.2nm、標準偏差0.5nmの超微粒子であった。
次に、脱水処理をしたメチルエチルケトン50g中に4-n-プロピル安息香酸を0.9g溶解し、予め準備していた45gの酸化ジルコニウム超微粒子分散液にゆっくりと添加し、十分撹拌した。その後、メタノールをエバポレーションにより固形分が9.0質量%になるまで除去して、酸化ジルコニウム超微粒子分散物A−1を調製した。
【0053】
(2)塗布組成物T−1の調製
脱水処理をしたメチルエチルケトン50gに1,4−ブタンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業(株)製 商品名 ビスコート#195)10gを溶解し、そこへ酸化ジルコニウム超微粒子分散物A−1を60g添加し混合撹拌した。その分散液へ、酸化亜鉛ビーズ(屈折率2.0)を2.0g(堺化学工業(株)製 商品名 微細酸化亜鉛 粒径0.29μm)添加し、更に重合開始剤を0.5g(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製 商品名イルガキュア907)を添加して撹拌し分散液B−1を調製した。この分散液を乾燥窒素下でエバボレーションにて溶剤を除去して乾燥し、有機溶剤の含有量が0.5質量%の塗布組成物T−1を調製した。
【0054】
(塗布液T−2の調製)
金属酸化物超微粒子分散物調製時の有機酸として、4-n-プロピル安息香酸の代わりに4−フェニル安息香酸を1.08g添加した以外は塗布液T−1と同様にして金属酸化物超微粒子分散物及び塗布組成物T−2を調製した。得られた塗布組成物は有機溶剤の含有量が0.4質量%であった。
【0055】
(塗布液T−3の調製)
金属酸化物超微粒子分散物調製時の有機酸として、4-n-プロピル安息香酸の代わりにリン酸系分散剤(日本化薬(株)製 KAYAMER PM−21)を1.0g添加した以外は塗布液T−1と同様にして金属酸化物超微粒子分散物及び塗布組成物T−3を調製した。得られた塗布組成物は有機溶剤の含有量が0.7質量%であった。
【0056】
(塗布液T−4の調製)
酸化亜鉛ビーズの代わりに、シリカビーズ(屈折率1.44)を3.0g(日本触媒(株)製 商品名 KE−P50、粒径0.5μm)添加した以外は塗布液T−1と同様にして塗布組成物T−4を調製した。得られた塗布組成物は有機溶剤の含有量が0.6質量%であった。
【0057】
(塗布液T−5の調製)
シリカビーズ(粒径0.5μm)の代わりに、粒径1.0μmのシリカビーズ(屈折率1.44)を2.0g(日本触媒(株)製 商品名 KE−P100、粒径1.0μm)添加した以外は塗布液T−4と同様にして塗布組成物T−5を調製した。得られた塗布組成物は有機溶剤の含有量が0.6質量%であった。
【0058】
(塗布液T−6の調製)
1,4−ブタンジオールジアクリレートの代わりに1,4ブタンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業(株)製 商品名 ビスコート#195)8gとトリメチロールプロパントリアクリレート2gを用いた以外は塗布液T−1と同様にして塗布組成物T−6を調製した。得られた塗布組成物は有機溶剤の含有量が0.3質量%であった。
【0059】
(塗布液T−7の調製)
塗布液T−1において調製した酸化ジルコニウム超微粒子分散物A−1をエバポレーションにて溶剤を除去し、酸化ジルコニウム超微粒子の易分散性超微粒子粉体を調製した。この易分散性超微粒子粉体を5.4gを1,4−ブタンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業(株)製 商品名 ビスコート#195)10gと共にサンドグラインダーミルにて分散し、そこへ酸化亜鉛系ビーズを2.0g(堺化学工業(株)製 商品名 微細酸化亜鉛 粒径0.29μm)と重合開始剤を0.5g添加して撹拌し、有機溶剤を含まない塗布組成物T−7を調製した。
【0060】
次に本発明に用いた有機EL表示素子を説明する。
支持体として厚さ700μmのガラスシートを用意した。この支持体上にスパッタリングによりITO電極(厚さ:200nm)を形成した。次いで、銅フタロシアニンからなるホール注入層(厚さ:20nm)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(1−ナフチル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(NPD)からなるホール輸送層(厚さ:40nm)、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq)からなる発光層(厚さ:60nm)、銅フタロシアニンからなる電子注入層(厚さ:10nm)を真空蒸着により順次積層した。この積層体上に更にスパッタリングによりITO電極(厚さ:200nm)を形成し有機EL素子を製造した。
【0061】
〔実施例1〕
上述した有機EL素子の最上層のITO電極上に、スピンコート法により塗布組成物T−1を塗布し、窒素パージ下で160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度400mW/cm、照射量300mJ/cmの紫外線を照射して塗布層を硬化させ、光散乱層が積層された有機EL素子を形成した。この時形成された光散乱層の膜厚は5μmであった。その後光散乱層上にエポキシ樹脂を塗布してガラスシートを被せて素子を封止し、本発明の有機EL素子を作製した。
【0062】
実施例1において使用した塗布組成物T−1の代わりに、塗布組成物T−2〜T−7を用いて塗布、硬化を行って有機EL素子を作製した。使用した塗布組成物と実施例との対応を表1にまとめた。
【0063】
〔比較例1〕
本発明の塗布組成物を用いず、透光性光散乱性膜を設けていない有機EL素子を作製し、比較例1とした。
【0064】
〔比較例2〕
塗布組成物T−1において調製した中間分散物B−1を、エバポレーションにて有機溶剤の含有量が3質量%に濃縮し、塗布組成物H−1を調製した。上述の有機EL素子のITO電極上に、スピンコート法により塗布組成物H−1を塗布し、100℃で1分間乾燥の後、窒素パージ下で160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度400mW/cm、照射量300mJ/cmの紫外線を照射して塗布層を硬化させ、光散乱層が積層された有機EL素子を形成した。形成された光散乱層の膜厚は5μmであった。その後光散乱層上にエポキシ樹脂を塗布してガラスシートを被せて素子を封止し、比較例2の有機EL素子を作製した。
【0065】
〔比較例3〕
塗布組成物T−1において調製した中間分散物B−1を、エバポレーションにて有機溶剤の含有量が1.2質量%に濃縮し、塗布組成物H−2を調製した。有機EL素子上にこの塗布組成物H−2を実施例1と同様に塗布、硬化し、比較例3の有機EL素子を作製した。
【0066】
〔比較例4〕
脱水処理をしたメチルエチルケトン50gに変性イソシアネート系バインダー(日本ポリウレタン工業(株)製 コロネート L)10gを溶解し、そこへ酸化ジルコニウム超微粒子分散物A−1を60g添加し混合撹拌した。その分散液へ、酸化亜鉛系ビーズを2.0g(堺化学工業(株)製 商品名 微細酸化亜鉛 粒径0.29μm)添加し、塗布組成物H−3を調製した。有機EL素子上にこの塗布組成物H−3を5μm厚みとなるように塗布し、窒素パージ下で150℃1時間硬化させ、光散乱層が積層された有機EL素子を形成した。その後光散乱層上にエポキシ樹脂を塗布してガラスシートを被せて素子を封止し、比較例4の有機EL素子を作製した。
【0067】
〔有機EL素子の性能評価〕
上記の有機EL素子について、以下の方法により評価を行った。
東洋テクニカ社製ソースメジャーユニット2400型を用い、有機EL素子に直流電圧15Vを印加して発光させた。発光輝度は、ELDIM社製 EZ Contrast160Dを用いて輝度を測定し、透光性光散乱性膜を設けない有機EL素子(比較例1)の発光輝度を1とした相対輝度として比較した。
発光不良部位があるかについては光学顕微鏡ME600(ニコン(株)製)を用いて観察し、本来発光するはずの発光領域内での発光不良による欠陥箇所を計測した。それぞれ欠陥がなく発光が良好なものをA、発光領域内での発光不良面積が5%以内のものをB、発光不良面積が20%以内のものをC、発光不良面積が20%を超えるものをDとして評価した。得られた結果を下記表1にまとめた。
【0068】
【表1】

【0069】
上記結果から本発明の塗布組成物を用いた有機EL素子は、高い光取り出し効率が達成されており、かつ素子に発光不良がなく良好な有機EL素子であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸により表面修飾されている金属酸化物超微粒子と光散乱粒子と2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーとを含み、かつ有機溶剤の含有量が組成物全体量に対し1質量%以下である塗布組成物。
【請求項2】
前記金属酸化物超微粒子が芳香族カルボン酸により表面修飾されている請求項1に記載の塗布組成物。
【請求項3】
前記金属酸化物超微粒子がSi、Al、Zr、Zn、Ti、In、SbおよびSnから選ばれる少なくとも1種の金属を含む請求項1または2に記載の塗布組成物。
【請求項4】
前記金属酸化物超微粒子の粒子径が1nm〜100nmである請求項1〜3のいずれかに記載の塗布組成物。
【請求項5】
前記光散乱粒子の屈折率が1.55以下または2.0以上である請求項1〜4のいずれかに記載の塗布組成物。
【請求項6】
前記光散乱粒子の粒子径が、0.1μm〜2.0μmである請求項1〜5のいずれかに記載の塗布組成物。
【請求項7】
有機酸により表面修飾されている金属酸化物超微粒子と光散乱粒子と2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーとを有機溶剤中で分散して塗布組成物の有機溶剤分散物を調製する第1の工程、塗布組成物の有機溶剤分散物を減圧下で濃縮し、有機溶剤の含有量を組成物全体量に対し1質量%以下とする第2の工程を含む塗布組成物の製造方法。
【請求項8】
有機酸により表面被覆された金属酸化物超微粒子を減圧下で脱溶媒して易分散性金属酸化物超微粒子を作製する第1の工程、2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーに該易分散性金属酸化物超微粒子と光散乱粒子とを直接分散する第2の工程を含む塗布組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の塗布組成物を用いて形成された透光性光散乱性膜。
【請求項10】
前記透光性光散乱性膜の屈折率が1.6以上である請求項9に記載の透光性光散乱性膜。
【請求項11】
前記透光性光散乱性膜の膜厚が0.1μm〜20μmである請求項9または10に記載の透光性光散乱性膜。
【請求項12】
正極と負極との間に少なくとも発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス表示素子の電極上に、請求項9〜11のいずれかに記載の透光性光散乱性膜が設けられた有機エレクトロルミネッセンス表示素子。
【請求項13】
請求項12に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子を備えた面状光源体。

【公開番号】特開2010−49210(P2010−49210A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215985(P2008−215985)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】