説明

塗布装置の制御方法および塗布システム

【課題】 皮膜の付着量が異常になることを可及的に防ぐことができる塗布装置の制御方法および塗布システムを提供する。
【解決手段】 塗布システム101では、ロール塗布装置1によって、処理液19が走行中の金属板18に順次に塗布される。記憶装置102には、金属板18に設定される金属板条件とロール塗布装置1の塗布条件とが関連付けられて記憶される。付着量検出装置103では、熱処理後の金属板18の表面に形成される皮膜の付着量が検出される。制御装置10は、ロール塗布装置1を制御するにあたって、(a)金属板18に設定される金属板条件が変化する条件変化点が塗布位置を通過するときに、条件変化点よりも走行方向X上流側の金属板に設定される金属板条件に基づいて、記憶装置102から塗布条件を求め、求めた塗布条件を設定し、(b)付着量検出装置103による検出結果に基づいて、塗布条件を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗布物に液体を塗布する塗布装置の制御方法および前記塗布装置を含む塗布システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属板を後処理する後処理設備では、走行中の金属板に処理液を順次に塗布し、処理液が塗布された走行中の金属板を順次に熱処理する。このようにして金属板に皮膜を形成させる。走行中の金属板には、塗布装置によって処理液が塗布される。
【0003】
従来の塗布装置では、熱処理後の金属板に形成される皮膜の付着量を調整するにあたって、前記皮膜の付着量を検出し、その検出結果に基づいて塗布装置をフィードバック制御する。このようにして塗布装置の塗布条件を補正し、これによって前記皮膜の付着量を精度よく調整することができる。このような技術に類似する技術は、特許文献1に開示される。
【0004】
【特許文献1】特開平6−102034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の塗布装置では、皮膜の形成部分が付着量検出位置に到達するまでは、皮膜の付着量を検出することができず、塗布条件を補正することができない。したがって皮膜の形成部分が付着量検出位置に到達するまでに処理液が塗布された部分については、皮膜の付着量を調整することができず、付着異常になってしまうことがあるという問題がある。
【0006】
付着量検出位置は、塗布位置から大きく離れている。一例では、付着量検出位置は、塗布位置から約130m離れている。この場合、皮膜の付着量が調整不能となる部分が大きくなってしまう。
【0007】
本発明の目的は、皮膜の付着量が異常になることを可及的に防ぐことができる塗布装置の制御方法および塗布システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、処理液を走行中の金属板に順次に塗布した後、処理液が塗布された走行中の金属板を順次に熱処理することによって、金属板の表面に皮膜を形成させる後処理設備に備えられ、処理液を金属板に塗布する塗布装置を制御する方法であって、
金属板に設定される金属板条件が変化する条件変化点が塗布位置を通過するときに、条件変化点よりも走行方向上流側の金属板に設定される金属板条件に基づいて塗布条件を設定して、塗布装置を制御し、
熱処理後の金属板の表面に形成される皮膜の付着量を検出し、その検出結果に基づいて塗布条件を補正して、塗布装置を制御することを特徴とする塗布装置の制御方法である。
【0009】
また本発明は、金属板条件は、金属板の走行速度を含み、
塗布条件は、単位時間あたりの塗布量を含むことを特徴とする。
【0010】
また本発明は、塗布装置は、互いに近接して平行に設けられる複数のロールを介して、処理液を金属板に塗布するように構成され、
金属板条件は、金属板の走行速度を含み、
塗布条件は、各ロールの間隔または各ロールの周速度を含むことを特徴とする。
【0011】
また本発明は、塗布装置は、金属板を介して互いに対向して設けられ、処理液を金属板の両面にそれぞれ塗布する一対の塗布ユニットを有し、
各塗布ユニットは、金属板に近接して設けられる近接ロールを有し、近接ロールを介して、処理液を金属板に塗布するように構成され、
金属板条件は、金属板の厚み寸法を含み、
塗布条件は、各塗布ユニットの近接ロールの間隔を含むことを特徴とする。
【0012】
また本発明は、条件変化点が塗布位置を通過するたびに、条件変化点よりも走行方向上流側の金属板に設定される金属板条件に基づいて塗布条件を設定し直すことを特徴とする。
【0013】
また本発明は、処理液を走行中の金属板に順次に塗布した後、処理液が塗布された走行中の金属板を順次に熱処理することによって、金属板の表面に皮膜を形成させる後処理設備に備えられる塗布システムであって、
塗布条件を変更可能に構成され、処理液を走行中の金属板に順次に塗布する塗布装置と、
金属板に設定される金属板条件と塗布装置の塗布条件とを関連付けて記憶する記憶装置と、
熱処理後の金属板の表面に形成される皮膜の付着量を検出する付着量検出装置と、
塗布装置を制御する制御装置であって、(a)金属板に設定される金属板条件が変化する条件変化点が塗布位置を通過するときに、条件変化点よりも走行方向上流側の金属板に設定される金属板条件に基づいて、記憶装置から塗布条件を求め、求めた塗布条件を設定し、(b)付着量検出装置による検出結果に基づいて、塗布条件を補正する制御装置とを含むことを特徴とする塗布システムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、後処理設備では、処理液を走行中の金属板に順次に塗布した後、処理液が塗布された走行中の金属板を順次に熱処理することによって、金属板の表面に皮膜を形成させる。塗布装置は、このような後処理設備に備えられ、処理液を金属板に塗布する。
【0015】
塗布装置を制御するにあたっては、金属板に設定される金属板条件が変化する条件変化点が塗布位置を通過するときに、条件変化点よりも走行方向上流側の金属板に設定される金属板条件に基づいて塗布条件を設定する。したがって条件変化点が塗布位置を通過した直後から、処理液を好適に塗布することができ、これによって熱処理後の金属板の表面に形成される皮膜の付着量が異常になることを可及的に防ぐことができる。
【0016】
また塗布装置を制御するにあたっては、熱処理後の金属板の表面に形成される皮膜の付着量を検出し、その検出結果に基づいて塗布条件を補正する。皮膜の形成部分が付着量検出位置を通過した後に、このようにして塗布条件を補正することによって、熱処理後の金属板の表面に形成される皮膜の付着量を精度よく調整することができる。
【0017】
金属板条件に基づいて塗布条件を設定することによって、皮膜の付着量を粗調整することができる。また皮膜の付着量の検出結果に基づいて塗布条件を補正することによって、皮膜の付着量を微調整することができる。このように粗調整および微調整の両者を行うことができる。したがって粗調整だけの場合および微調整だけの場合に比べて、皮膜の付着量を精度よく調整することができる。
【0018】
また本発明によれば、金属板の走行速度を含む金属板条件に基づいて、単位時間あたりの塗布量を含む塗布条件を設定することによって、熱処理後の金属板に形成される皮膜の付着量が異常になることを確実に防ぐことができる。
【0019】
また本発明によれば、塗布装置は、互いに近接して平行に設けられる複数のロールを介して、処理液を金属板に塗布するように構成される。このような塗布装置を制御するにあたって、金属板の走行速度を含む金属板条件に基づいて、各ロールの間隔または各ロールの周速度を含む塗布条件を設定する。これによって熱処理後の金属板に形成される皮膜の付着量が異常になることを確実に防ぐことができる。
【0020】
また本発明によれば、塗布装置は、金属板を介して互いに対向して設けられ、処理液を金属板の両面にそれぞれ塗布する一対の塗布ユニットを有する。各塗布ユニットは、金属板に近接して設けられる近接ロールを有し、近接ロールを介して、処理液を金属板に塗布するように構成される。このような塗布装置を制御するにあたって、金属板の厚み寸法を含む金属板条件に基づいて、各塗布ユニットの近接ロールの間隔を含む塗布条件を設定する。したがって厚み寸法の異なる金属板に対しても、処理液を塗布することができる。
【0021】
また本発明によれば、条件変化点が塗布位置を通過するたびに、条件変化点よりも走行方向上流側の金属板に設定される金属板条件に基づいて塗布条件を設定し直す。したがって金属板条件が何度も変化する場合であっても、熱処理後の金属板の表面に形成される皮膜の付着量が異常になることを防ぐことができる。
【0022】
また本発明によれば、後処理設備では、処理液を走行中の金属板に順次に塗布した後、処理液が塗布された走行中の金属板を順次に熱処理することによって、金属板の表面に皮膜を形成させる。塗布システムは、このような後処理設備に備えられる。
【0023】
塗布システムでは、塗布装置によって、処理液が走行中の金属板に順次に塗布される。塗布装置は、塗布条件を変更可能に構成され、制御装置によって制御される。記憶装置には、金属板に設定される金属板条件と塗布装置の塗布条件とが関連付けられて記憶される。付着量検出装置では、熱処理後の金属板の表面に形成される皮膜の付着量が検出される。
【0024】
制御装置は、金属板に設定される金属板条件が変化する条件変化点が塗布位置を通過するときに、条件変化点よりも走行方向上流側の金属板に設定される金属板条件に基づいて、記憶装置から塗布条件を求め、求めた塗布条件を設定する。したがって条件変化点が塗布位置を通過した直後から、処理液を好適に塗布することができ、これによって熱処理後の金属板の表面に形成される皮膜の付着量が異常になることを可及的に防ぐことができる。
【0025】
また制御装置は、付着量検出装置による検出結果に基づいて、塗布条件を補正する。皮膜の形成部分が付着量検出位置を通過した後に、このようにして塗布条件を補正することによって、熱処理後の金属板の表面に形成される皮膜の付着量を精度よく調整することができる。
【0026】
金属板条件に基づいて塗布条件を設定することによって、皮膜の付着量を粗調整することができる。また皮膜の付着量の検出結果に基づいて塗布条件を補正することによって、皮膜の付着量を微調整することができる。このように粗調整および微調整の両者を行うことができる。したがって粗調整だけの場合および微調整だけの場合に比べて、皮膜の付着量を精度よく調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、本発明の実施の一形態である塗布システム101の構成を簡略化して示す図である。塗布システム101は、金属板18を後処理する後処理設備11に備えられる。金属板18は、たとえば鋼板である。後処理設備11による後処理にあたっては、複数の金属板18を溶接によって互いに接合して金属帯を形成し、この金属帯を走行経路2に沿って走行させる。本実施の形態では、各金属板18の厚み寸法が同一である場合を想定する。
【0028】
後処理設備11は、処理液19を走行中の金属板18に順次に塗布した後、処理液19が塗布された走行中の金属板18を順次に熱処理することによって、金属板18の表面に皮膜を形成させる。処理液19は、金属板18に形成させるべき皮膜の成分を含有する液体である。本実施の形態では、前記皮膜の成分はクロム(Cr)である。
【0029】
塗布システム101は、塗布条件を変更可能に構成され、処理液19を走行中の金属板18に順次に塗布する塗布装置であるロール塗布装置1と、金属板18に設定される金属板条件とロール塗布装置1の塗布条件とを関連付けて記憶する記憶装置102と、熱処理後の金属板18の表面に形成される皮膜の付着量を検出する付着量検出装置103と、ロール塗布装置1を制御する制御装置10であって、金属板18に設定される金属板条件に基づいて記憶装置102から塗布条件を求め、求めた塗布条件を設定し、付着量検出装置103による検出結果である付着量実績値に基づいて塗布条件を補正する制御装置10とを含む。
【0030】
図2は、後処理設備11の構成を簡略化して示す図である。後処理設備11は、塗布システム101と、乾燥炉12と、加熱炉13と、複数の冷却装置14とを備える。乾燥炉12は、塗布システム101のロール塗布装置1よりも走行方向X下流側に設けられ、ロール塗布装置1によって金属板18に形成される塗膜を乾燥させる。加熱炉13は、乾燥炉12よりも走行方向X下流側に設けられ、走行中の金属板18を加熱する。複数の冷却装置14は、加熱炉13よりも走行方向X下流側に設けられ、走行中の金属板18を冷却する。塗布システム101の付着量検出装置103は、複数の冷却装置14よりも走行方向X下流側に設けられる。
【0031】
図1を再び参照して、ロール塗布装置1は、走行中の金属板18を介して互いに対向して設けられ、処理液19を金属板18の両面にそれぞれ塗布する一対の塗布ユニットを有する。具体的には、ロール塗布装置1は、走行経路2の上方に配置され、走行中の金属板18の上面に処理液19を塗布する塗布ユニットである上ユニット3aと、走行経路2の下方に配置され、走行中の金属板18の下面に処理液19を塗布する塗布ユニットである下ユニット3bとを有する。上ユニット3aと下ユニット3bとは、金属板18の走行方向Xに関して、ほぼ同一の位置に配置される。
【0032】
本実施の形態では、上ユニット3aの構成と下ユニット3bの構成とは類似するので、上ユニット3aについて説明し、下ユニット3bについては上ユニット3aと異なる点だけ説明する。上ユニット3aと下ユニット3bとの間で対応する部分には、同一の符号を付す。
【0033】
上ユニット3aは、互いに近接して平行に設けられる複数のロール21〜23を有する。前記複数のロール21〜23は、処理液19が貯留されるパン20から処理液19を引き上げるピックアップロール(以下「Pロール」という)21と、Pロール21によって引き上げられる処理液19を走行中の金属板18に塗布するアプリケータロール(以下「Aロール」という)22と、Pロール21とAロール22との間に介在し、Pロール21からAロール22に処理液19を移動させるトランスファーロール(以下「Tロール」という)23とを有する。Aロール22は、金属板18に近接して設けられる近接ロールである。以下、Pロール21、Aロール22およびTロール23を総称して、ロール4という場合がある。
【0034】
各ロール21〜23の軸線L1,L2,L3は、水平であり、かつ、走行方向Xに対して垂直である。Aロール22は、Pロール21よりも走行方向X下流側に配置される。Tロール23は、走行方向Xに関してPロール21とAロール22との間に配置される。Pロール21およびAロール22の各ロール胴部の外周部は、弾性材料、たとえばウレタンから成る。Tロール23のロール胴部の外周部は、剛性材料、たとえば鉄から成る。
【0035】
各ロール21〜23は、各軸線L1〜L3まわりにそれぞれ個別に回転駆動される。各ロール21〜23の回転方向は、時計まわりおよび反時計まわりのいずれであってもよい。本実施の形態では、Aロール22は走行中の金属板18の走行に逆らうように回転駆動され、Tロール23はAロール22の回転方向と同一の方向に回転駆動され、Pロール21はAロール22の回転方向と反対の方向に回転駆動される。
【0036】
Pロール21は、パン20内に貯留される処理液19中に部分的に浸漬される。このようなPロール21が回転駆動されることによって、パン20内の処理液19が引き上げられる。Pロール21によって引き上げられた処理液19は、Pロール21からTロール23に供給される。Pロール21からTロール23に供給された処理液19は、Tロール23が回転駆動されることによって、Tロール23からAロール22に供給される。Tロール23からAロール22に供給された処理液19は、Aロール22が回転駆動されることによって、走行中の金属板18に塗布される。このように処理液19を、各ロール21〜23を介して移動させ、走行中の金属板18に塗布することができる。
【0037】
各ロール21〜23の周速度は、制御装置10によってそれぞれ個別に設定される。各ロール21〜23の周速度を変化させることによって、熱処理後の金属板18に形成される皮膜の付着量を変化させることができる。
【0038】
各ロール21〜23の各ロール間隔は、制御装置10によってそれぞれ個別に設定される。各ロール21〜23の各ロール間隔は、Pロール21とTロール23との間隔(以下「PTギャップ」という)と、Tロール23とAロール22との間隔(以下「TAギャップ」という)とを含む。各ロール21〜23の各ロール間隔を変化させることによって、熱処理後の金属板18に形成される皮膜の付着量を変化させることができる。
【0039】
図3は、Tロール周速比とCr付着量との関係を示すグラフである。図3において、横軸は、Tロール23の周速比を示し、縦軸は、熱処理後の金属板18におけるCrの付着量を示す。周速比とは、金属板18の走行速度に対する周速の比である。図3では、走行速度LSを77mpmにして金属板18を走行させた場合について、Pロール21の周速比およびAロール22の周速比ならびに各ロール21〜23の各ロール間隔を一定にして、Tロール21の周速比を変化させたときのCrの付着量を示す。Pロール21の周速比は50%であり、Aロール22の周速比は220%である。PTギャップは−1.00mmであり、TAギャップは−0.25mmである。図3に示す結果から、Crの付着量は、Tロール21の周速比を大きくするにつれて増大することが判る。
【0040】
図4は、PTギャップとCr付着量との関係を示すグラフである。図4において、横軸は、PTギャップを示し、縦軸は、熱処理後の金属板18におけるCrの付着量を示す。図4では、走行速度LSを173mpmにして金属板18を走行させた場合および走行速度LSを200mpmにして金属板18を走行させた場合について、各ロール21〜23の周速比およびTAギャップを一定にして、PTギャップを変化させたときのCrの付着量を示す。Pロール21の周速比は50%であり、Aロール22の周速比は220%であり、Tロール23の周速比は270%である。TAギャップは−0.25mmである。図4に示す結果から、Crの付着量は、PTギャップを0mmよりも小さな範囲内で大きくするにつれて増大することが判る。
【0041】
図5は、走行速度LSとCr付着量との関係を示すグラフである。図5において、横軸は、金属板18の走行速度LSを示し、縦軸は、熱処理後の金属板18におけるCrの付着量を示す。図5では、金属板18の、塗布位置で上面となる表面および下面となる表面について、各ロール21〜23の周速比および各ロール21〜23の各ロール間隔を一定にして、金属板18の走行速度LSを変化させたときのCrの付着量を示す。Pロール21の周速比は50%であり、Aロール22の周速比は220%であり、Tロール23の周速比は270%である。PTギャップは−1.00mmであり、TAギャップは−0.25mmである。図5に示す結果から、Crの付着量は、走行速度LSがある値のときに最大となり、この値よりも走行速度LSが小さくなるにつれて減少し、またこの値よりも走行速度LSが大きくなるにつれて減少することが判る。
【0042】
図6は、制御装置10による塗布条件調整動作を説明するためのフローチャートである。塗布条件調整動作の説明は、塗布装置の制御方法の説明をも兼ねる。制御装置10は、上ユニット3aおよび下ユニット3bに対してそれぞれ個別に、塗布条件調整動作を実行する。上ユニット3aおよび下ユニット3bに対する各塗布条件調整動作は、並行して実行する。各塗布条件調整動作は同様である。
【0043】
塗布条件調整動作は、塗布条件調整動作の開始指令が与えられると、開始される。塗布条件調整動作を開始すると、まずステップa1で、条件変化点が調整開始位置に到達したことを表す到達情報を与えられたか否かを判定する。条件変化点は、金属板18に設定される金属板条件が変化する点である。本実施の形態では、金属板条件は金属板18ごとに設定され、したがって条件変化点は金属板18の溶接点である。調整開始位置は、走行経路2に対して予め設定される。この調整開始位置は、たとえば塗布位置である。到達情報は、統括制御装置96から与えられる。
【0044】
統括制御装置96からは、到達情報とともに、条件変化点よりも走行方向X上流側の金属板18に設定される金属板条件が与えられる。本実施の形態では、金属板条件は、塗布位置を通過した後の金属板18に対する処理の態様と、金属板18の走行速度とを含む。塗布位置を通過した後の金属板18に対する処理は、乾燥、加熱および冷却を含む。統括制御装置96は、条件変化点が調整開始位置に到達するたびに、到達情報および金属板条件を制御装置10に与える。
【0045】
次にステップa2で、統括制御装置96からの金属板条件に基づいて、記憶装置102から塗布条件を求め、求めた塗布条件を設定する。記憶装置102には、塗布位置を通過した後の金属板18に対する処理の態様ごとに、金属板18の走行速度とロール塗布装置1の塗布条件とが関連付けられて記憶されている。ここで設定される塗布条件は、単位時間あたりの塗布量を含み、具体的には各ロール21〜23の各ロール間隔および各ロール21〜23の周速度を含む。
【0046】
次にステップa3で、条件変化点の追跡を開始する。条件変化点の追跡は、条件変化点よりも走行方向X上流側の金属板18に設定される走行速度を時間で積分して、走行経路2における条件変化点の位置を求めることによって行う。
【0047】
次にステップa4で、条件変化点の追跡結果に基づいて、条件変化点が付着量検出位置を通過したか否かを判定する。条件変化点が付着量検出位置を通過するまでステップa4の動作を繰り返し実行し、条件変化点が付着量検出位置を通過したと判定すると、ステップa5に進む。ステップa5では、付着量検出装置103から付着量実績値を取得する。
【0048】
次にステップa6では、前記ステップa5で取得した付着量実績値に基づいて、変化率を演算する。変化率は、付着量実績値から付着量目標値を減算した値を、付着量目標値で除算して100を乗算することによって、得られる。
【0049】
次にステップa7では、前記ステップa6で演算した変化率に基づいて、塗布条件を補正する。ここで補正する塗布条件は、Tロール23の周速度である。変化率が正のときはTロール23の周速度を低くし、変化率が負のときはTロール23の周速度を高くする。また変化率の絶対値が大きいほど、Tロール23の周速度を大きく変更させる。このようにして皮膜の付着量を調整することができる。
【0050】
次にステップa8では、新たな到達情報を与えられたか否かを判定する。これによって次の条件変化点が調整開始位置に到達したか否かを判定することができる。新たな到達情報を与えられていないと判定すると、ステップa5に戻り、このようにして、新たな到達情報を与えられるまでステップa5〜a8を繰り返し実行する。新たな到達情報を与えられたと判定すると、ステップa2に戻る。これによって条件変化点が塗布位置を通過するたびに、条件変化点よりも走行方向X上流側の金属板18に設定される金属板条件に基づいて塗布条件を設定し直すことができる。
【0051】
以上のような本実施の形態によれば、制御装置10は、条件変化点が塗布位置を通過するときに、条件変化点よりも走行方向X上流側の金属板18に設定される金属板条件に基づいて、記憶装置102から塗布条件を求め、求めた塗布条件を設定する。したがって条件変化点が塗布位置を通過した直後から、処理液19を好適に塗布することができ、これによって熱処理後の金属板18の表面に形成される皮膜の付着量が異常になることを可及的に防ぐことができる。
【0052】
また制御装置10は、付着量検出装置103による付着量実績値に基づいて、塗布条件を補正する。皮膜の形成部分が付着量検出位置を通過した後に、このようにして塗布条件を補正することによって、熱処理後の金属板18の表面に形成される皮膜の付着量を精度よく調整することができる。
【0053】
金属板条件に基づいて塗布条件を設定することによって、皮膜の付着量を粗調整することができる。また付着量実績値に基づいて塗布条件を補正することによって、皮膜の付着量を微調整することができる。このように粗調整および微調整の両者を行うことができる。したがって粗調整だけの場合および微調整だけの場合に比べて、皮膜の付着量を精度よく調整することができる。
【0054】
また本実施の形態によれば、制御装置10は、金属板18の走行速度を含む金属板条件に基づいて、単位時間あたりの塗布量を含む塗布条件を設定する。具体的には、制御装置10は、金属板18の走行速度を含む金属板条件に基づいて、各ロール21〜23の各ロール間隔および各ロール21〜23の周速度を含む塗布条件を設定する。これによって熱処理後の金属板18に形成される皮膜の付着量が異常になることを確実に防ぐことができる。
【0055】
また本実施の形態によれば、制御装置10は、条件変化点が塗布位置を通過するたびに、条件変化点よりも走行方向X上流側の金属板18に設定される金属板条件に基づいて塗布条件を設定し直す。したがって金属板条件が何度も変化する場合であっても、熱処理後の金属板18の表面に形成される皮膜の付着量が異常になることを防ぐことができる。
【0056】
また本実施の形態によれば、補正される塗布条件は、Tロール23の周速度である。換言すれば、Pロール21およびAロール22の各周速度については補正しない。Pロール21の周速度を補正すると、処理液19の飛散が生じることがある。Aロール22の周速度を補正すると、塗布量の調整不良が生じることがある。Tロール23の周速度を補正する場合、これらの不具合を防ぐことができ、欠陥の発生を防ぐことができる。またTロール23の周速度を補正する場合は、各ロール21〜23の各ロール間隔を補正する場合に比べて、単位時間あたりの塗布量を容易に微調整することができる。
【0057】
図7は、ロール塗布装置1の構成を示す図である。上ユニット3aは、各ロール4を各軸線まわりに回転可能にそれぞれ支持し、隣り合うロール4の間隔を変更可能に構成される支持手段5と、各ロール4を各軸線まわりに回転駆動する回転駆動手段6と、隣り合うロール4の間隔を変更する変更手段7と、隣り合うロール4について各ロール4間の押圧力を検出する押圧力検出手段8と、隣り合うロール4について各ロール4の相対的な変位を検出する変位検出手段9とをさらに含む。
【0058】
前記支持手段5は、基台に固定され、Aロール22をその軸線L2まわりに回転可能に支持するAロール支持体26と、Aロール支持体26に対して走行方向Xおよびその反対方向にスライド変位可能に設けられ、Tロール23をその軸線L3まわりに回転可能に支持するTロール支持体27と、Tロール支持体27に対して走行方向Xおよびその反対方向にスライド変位可能に設けられ、Pロール21をその軸線L1まわりに回転可能に支持するPロール支持体28とを有する。
【0059】
Tロール支持体27がAロール支持体26に対して走行方向Xおよびその反対方向にスライド変位可能に設けられるので、Tロール23をAロール22に対して近接および離間させることができる。Tロール23をAロール22に対して近接させることによって、Tロール23からAロール22に処理液19を移動させることが可能となる。Tロール23をAロール22に対して離間させることによって、Aロール支持体26に対するAロール22の着脱作業およびTロール支持体27に対するTロール23の着脱作業を容易化することができる。さらには近接状態において、TAギャップを調整することができ、これによってTロール23からAロール22に移動する処理液19の量を調整することができる。
【0060】
Pロール支持体28がTロール支持体27に対して走行方向Xおよびその反対方向にスライド変位可能に設けられるので、Pロール21をTロール23に対して近接および離間させることができる。Pロール21をTロール23に対して近接させることによって、Pロール21からTロール23に処理液19を移動させることが可能となる。Pロール21をTロール23に対して離間させることによって、Tロール支持体27に対するTロール23の着脱作業およびPロール支持体28に対するPロール21の着脱作業を容易化することができる。さらには近接状態において、PTギャップを調整することができ、これによってPロール21からTロール23に移動する処理液19の量を調整することができる。
【0061】
上ユニット3aでは、Aロール支持体26は、前述のように基台に固定されるけれども、下ユニット3bでは、Aロール支持体26は、基台に対して走行方向Xおよびその反対方向にスライド変位可能に設けられる。Aロール支持体26が基台に対して走行方向Xおよびその反対方向にスライド変位可能に設けられるので、上ユニット3aのAロール22と下ユニット3bのAロール22との間の、走行方向Xに関するずれ量であるオフセット量dを変更することができる。上ユニット3aのAロール22と下ユニット3bのAロール22との間にオフセットを設けることによって、各Aロール22の金属板18の幅方向両側に突出した部分が互いに接触することを防ぐことができる。
【0062】
Aロール支持体26は、Aロール22の軸線方向両端部をそれぞれ支持する一対のAロール支持部分30を有する。各Aロール支持部分30は、基台に固定される。各Aロール支持部分30は、基部31と、基部31から走行方向Xに間隔をあけて設けられ、Aロール22の軸線方向の端部を支持する支持部32と、基部31と支持部32とを連結する連結部33とを有する。上ユニット3aでは、各Aロール支持部分30は、前述のように基台に固定されるけれども、下ユニット3bでは、各Aロール支持部分30は、基台に対して走行方向Xおよびその反対方向にそれぞれ個別にスライド変位可能に設けられる。
【0063】
Tロール支持体27は、Tロール23の軸線方向両端部をそれぞれ支持する一対のTロール支持部分35を有する。各Tロール支持部分35は、各Aロール支持部分30の基部31と支持部32との間に介在する。各Tロール支持部分35は、各Aロール支持部分30に対して走行方向Xおよびその反対方向にそれぞれ個別にスライド変位可能に設けられる。各Tロール支持部分35は、基部36と、基部36から走行方向Xに間隔をあけて設けられ、Tロール23の軸線方向の端部を支持する支持部37と、基部36と支持部37とを連結する連結部38とを有する。
【0064】
Pロール支持体28は、Pロール21の軸線方向両端部をそれぞれ支持する一対のPロール支持部分40を有する。各Pロール支持部分40は、各Tロール支持部分35の基部36と支持部37との間に介在する。各Pロール支持部分40は、各Tロール支持部分35に対して走行方向Xおよびその反対方向にそれぞれ個別にスライド変位可能に設けられる。各Pロール支持部分40は、基部41と、基部41の走行方向X下流側の部分に連なり、Pロール21の軸線方向の端部を支持する支持部42とを有する。
【0065】
前記回転駆動手段6は、ロール毎に設けられる複数の回転駆動部を有する。各回転駆動部は、回転駆動源44と、回転駆動源44の回転動力をロールに伝達する動力伝達部と、回転駆動源44と動力伝達部との間に介在し、回転駆動源44の回転動力を減速して動力伝達部に伝達する減速機とを有する。各回転駆動源44は、電磁モータ、たとえばベクトルモータによって実現される。各動力伝達部は、回転軸と、回転駆動源44の出力軸および回転軸を連結する第1継手と、回転軸およびロールを連結する第2継手とを有する。各第1継手および各第2継手は、等速ボールジョイントによって実現される。
【0066】
前記変更手段7は、Pロール支持体28をTロール支持体27に対して走行方向Xおよびその反対方向にスライド変位駆動して、PTギャップを変更する第1変更手段46と、Tロール支持体27をAロール支持体26に対して走行方向Xおよびその反対方向にスライド変位駆動して、TAギャップを変更する第2変更手段45とを有する。
【0067】
第1変更手段46は、各Pロール支持部分40を、各Tロール支持部分35に対してそれぞれ個別にスライド変位駆動させる一対の第1変更部分55を有する。各第1変更部分55は、Tロール支持部分35の基部36に固定されるスライド変位駆動源56と、スライド変位駆動源56によって回転駆動されるねじ軸57と、Tロール支持部分35の基部36に固定され、スライド変位駆動源56とねじ軸57との間に介在し、スライド変位駆動源56の回転動力を減速してねじ軸57に伝達する減速機58と、Pロール支持部分40の基部41に固定され、ねじ軸57が挿通して螺合するボールねじ用ナット59とを有する。各スライド変位駆動源56は、サーボモータによって実現される。各減速機58は、ウォーム減速機によって実現される。このような各第1変更部分55は、機械的な隙間が生じないように構成される。
【0068】
第2変更手段45は、各Tロール支持部分35を、各Aロール支持部分30に対してそれぞれ個別にスライド変位駆動させる一対の第2変更部分50を有する。各第2変更部分50は、Aロール支持部分30の基部31に固定されるスライド変位駆動源51と、スライド変位駆動源51によって回転駆動されるねじ軸52と、Aロール支持部分30の基部31に固定され、スライド変位駆動源51とねじ軸52との間に介在し、スライド変位駆動源51の回転動力を減速してねじ軸52に伝達する減速機53と、Tロール支持部分35の基部36に固定され、ねじ軸52が挿通して螺合するボールねじ用ナット54とを有する。各スライド変位駆動源51は、サーボモータによって実現される。各減速機53は、ウォーム減速機によって実現される。このような各第2変更部分50は、機械的な隙間が生じないように構成される。
【0069】
下ユニット3bは、第1および第2変更手段46,45に加えて、第3変更手段47を有する。第3変更手段47は、Aロール支持体26を基台に対して走行方向Xおよびその反対方向にスライド変位駆動して、走行方向Xに関する上ユニット3aのAロール22と下ユニット3bのAロール22とのずれ量であるオフセット量dを変更する。このオフセット量dは、予め設定しておき、固定である。
【0070】
第3変更手段47は、各Aロール支持部分30を、基台に対してそれぞれ個別にスライド変位駆動させる一対の第3変更部分60を有する。各第3変更部分60は、Aロール支持部分30の基部31に固定されるスライド変位駆動源61と、スライド変位駆動源61によって回転駆動されるねじ軸62と、Aロール支持部分30の基部31に固定され、スライド変位駆動手段61とねじ軸62との間に介在し、スライド変位駆動源61の回転動力を減速してねじ軸62に伝達する減速機63と、基台に固定され、ねじ軸62が挿通して螺合するボールねじ用ナット64とを有する。各スライド変位駆動源61は、サーボモータによって実現される。各減速機63は、ウォーム減速機によって実現される。このような各第3変更部分60は、機械的な隙間が生じないように構成される。
【0071】
図8は、押圧力検出手段8の配置を示す図である。前記押圧力検出手段8は、Tロール23およびPロール21について各ロール23,21間の押圧力を検出する第1押圧力検出手段67と、Aロール22およびTロール23について各ロール22,23間の押圧力を検出する第2押圧力検出手段66とを有する。
【0072】
第1押圧力検出手段67は、ロールの軸線方向両端部寄りの押圧力をそれぞれ検出する一対の第1押圧力検出部69を有する。各第1押圧力検出部69は、各Pロール支持部分40の支持部42にそれぞれ設けられる。このような各第1押圧力検出部69は、荷重を電気信号に変換する荷重変換器であるロードセルによって実現される。
【0073】
第2押圧力検出手段66は、ロールの軸線方向両端部寄りの押圧力をそれぞれ検出する一対の第2押圧力検出部68を有する。各第2押圧力検出部68は、各Tロール支持部分35の支持部37にそれぞれ設けられる。このような各第2押圧力検出部68は、荷重を電気信号に変換する荷重変換器であるロードセルによって実現される。
【0074】
図9は、上ユニット3aの一部を拡大して示す図である。各Aロール支持部分30の支持部32は、Aロール22のロール軸部を回転可能に支持する軸受部71と、この軸受部71を収容して固定するチョックであるARチョック72と、ARチョック72を固定するチョック固定部であるARチョック固定部73とを有する。
【0075】
各Tロール支持部分35の支持部37は、Tロール23のロール軸部を回転可能に支持する軸受部76と、この軸受部76を収容して固定するチョックであるTRチョック77と、TRチョック77を固定するチョック固定部であるTRチョック固定部78とを有する。TRチョック固定部78は、大略的にC字状に形成され、Aロール支持部分30の支持部32に臨んで開放される。
【0076】
TRチョック固定部78には、第2押圧力検出部68が設けられる。第2押圧力検出部68は、TRチョック77に関してARチョック72とは反対側に配置される。TRチョック77には、第2押圧力検出部68を押圧する第2押圧片79が設けられる。第2押圧片79は、第2押圧力検出部68に対向するように配置される。第2押圧力検出部68および第2押圧片79は、Aロール22とTロール23とが接触していない状態において、第2押圧力検出部68によって検出される押圧力が初期押圧力設定値になるように、互いに接触する。初期押圧力設定値は、0Nを超える値に選ばれる。初期押圧力設定値は、たとえば500Nに設定される。
【0077】
各Pロール支持部分40の支持部42は、Pロール21のロール軸部を回転可能に支持する軸受部81と、この軸受部81を収容して固定するチョックであるPRチョック82と、PRチョック82を固定するチョック固定部であるPRチョック固定部83とを有する。PRチョック固定部83は、大略的にC字状に形成され、Tロール支持部分35の支持部37に臨んで開放される。
【0078】
PRチョック固定部83には、第1押圧力検出部69が設けられる。第1押圧力検出部69は、PRチョック82に関してTRチョック77とは反対側に配置される。PRチョック82には、第1押圧力検出部69を押圧する第1押圧片84が設けられる。第1押圧片84は、第1押圧力検出部69に対向するように配置される。第1押圧力検出部69および第1押圧片84は、Tロール23とPロール21とが接触していない状態において、第1押圧力検出部69によって検出される押圧力が初期押圧力設定値になるように、互いに接触する。初期押圧力設定値は、0Nを超える値に選ばれる。初期押圧力設定値は、たとえば500Nに設定される。
【0079】
図7を再び参照して、前記変位検出手段9は、Tロール23およびPロール21について各ロール23,21の相対的な変位を検出する第1変位検出手段87と、Aロール22およびTロール23について各ロール22,23の相対的な変位を検出する第2変位検出手段86とを有する。
【0080】
第1変位検出手段87は、各第1変更部分55のスライド変位駆動源56に設けられ、各スライド変位駆動源56の出力軸の回転角度を検出する一対の第1変位検出部89を有する。各第1変位検出部89は、各スライド変位駆動源56の出力軸の回転角度を検出することによって、各Tロール支持体27に対する各Pロール支持体28の変位を検出することができる。このような各第1変位検出部89は、エンコーダによって実現される。
【0081】
第2変位検出手段86は、各第2変更部分50のスライド変位駆動源51に設けられ、各スライド変位駆動源51の出力軸の回転角度を検出する一対の第2変位検出部88を有する。各第2変位検出部88は、各スライド変位駆動源51の出力軸の回転角度を検出することによって、各Aロール支持体26に対する各Tロール支持体27の変位を検出することができる。このような各第2変位検出部88は、エンコーダによって実現される。
【0082】
下ユニット3bは、第1および第2変位検出手段87,86に加えて、第3変位検出手段90を有する。第3変位検出手段90は、上ユニット3aのAロール22および下ユニット3bのAロール22について各ロール22の相対的な変位を検出する。第3変位検出手段90は、各第3変更部分60のスライド変位駆動源61に設けられ、各スライド変位駆動源61の出力軸の回転角度を検出する一対の第3変位検出部91を有する。各第3変位検出部91は、各スライド変位駆動源61の出力軸の回転角度を検出することによって、基台に対する各Aロール支持体26の変位を検出することができる。このような各第3変位検出部91は、エンコーダによって実現される。
【0083】
図10は、上ユニット3aに関連する部分の電気的構成を詳細に示すブロック図である。前記制御装置10は、上ユニット3aおよび下ユニット3bに共通である。制御装置10は、後処理設備11の全体を統括的に制御する統括制御装置96によって制御される。
【0084】
制御装置10には、各第1押圧力検出部69によって検出される各押圧力および各第1変位検出部89によって検出される各変位が与えられる。制御装置10は、各第1押圧力検出部69によって検出される各押圧力および各第1変位検出部89によって検出される各変位に基づいて、各第1変更部分55のスライド変位駆動源56をそれぞれ個別に制御する。このようにしてPTギャップを調整することができる。
【0085】
また制御装置10には、各第2押圧力検出部68によって検出される各押圧力および各第2変位検出部88によって検出される各変位が与えられる。制御装置10は、各第2押圧力検出部68によって検出される各押圧力および各第2変位検出部88によって検出される各変位に基づいて、各第1変更部分50のスライド変位駆動源51をそれぞれ個別に制御する。このようにしてTAギャップを調整することができる。
【0086】
さらに制御装置10は、各回転駆動部の回転駆動源44をそれぞれ個別に制御する。このようにして各ロール21〜23の周速度をそれぞれ個別に調整することができる。
【0087】
下ユニット3bについては、図示しないけれども、制御装置10には、各第3変位検出部91によって検出される各変位がさらに与えられる。制御装置10は、各第3変位検出部91によって検出される各変位に基づいて、各第3変更部分60のスライド変位駆動源61をそれぞれ個別に制御する。このようにして走行方向Xに関する上ユニット3aのAロール22と下ユニット3bのAロール22とのずれ量であるオフセット量dを調整することができる。
【0088】
図11は、付着量検出装置103の正面図である。図12は、付着量検出装置103の平面図である。付着量検出装置103は、金属板18を走行方向Xに移動可能に支持する金属板支持手段111と、金属板支持手段111によって支持される金属板18に形成される皮膜の付着量を検出する付着量検出手段112とを含む。
【0089】
金属板支持手段111は、第1金属板支持部111aと、第1金属板支持部111aよりも走行方向X下流側で金属板18を支持する第2金属板支持部111bと、第2金属板支持部111bよりも走行方向X下流側で金属板18を支持する第3金属板支持部111cとを有する。
【0090】
第1〜第3金属板支持部111a〜111cは、金属板18をその厚み方向両側から一定の圧力で押圧する一対のピンチロール113,114と、設置面110に固定され、各ピンチロール113,114を各軸線まわりに回転可能に支持するロール支持体115とを有する。各ピンチロール113,114の軸線は、水平であり、かつ、走行方向Xに対して垂直である。各ピンチロール113,114は、走行方向Xに関してずれて配置される。
【0091】
第1金属板支持部111aにおいて、走行方向X上流側のピンチロール113は、金属板18の上方に配置され、走行方向X下流側のピンチロール114は、金属板18の下方に配置される。第2金属板支持部111bにおいて、走行方向X上流側のピンチロール113は、金属板18の下方に配置され、走行方向X下流側のピンチロール114は、金属板18の上方に配置される。第3金属板支持部111cにおいて、走行方向X上流側のピンチロール113は、金属板18の上方に配置され、走行方向X下流側のピンチロール114は、金属板18の下方に配置される。
【0092】
付着量検出手段112は、金属板18の下面に形成される皮膜の付着量を検出する下付着量検出部112aと、下付着量検出部112aよりも走行方向X下流側で、金属板18の上面に形成される皮膜の付着量を検出する上付着量検出部112bとを有する。本実施の形態では、下付着量検出部112aによる付着量検出位置は、第1金属板支持部111aによる支持位置と第2金属板支持部111bによる支持位置との間に介在し、上付着量検出部112bによる付着量検出位置は、第2金属板支持部111bによる支持位置と第3金属板支持部111cによる支持位置との間に介在する。
【0093】
本実施の形態では、下付着量検出部112aの構成と上付着量検出部112bの構成とは類似するので、上付着量検出部112bについて説明し、下付着量検出部112aについては説明を省略する。
【0094】
図13は、上付着量検出部112bの正面図である。上付着量検出部112bは、金属板18の上面に臨む付着量計センサヘッド116と、設置面110に固定され、付着量計センサヘッド116を走行中の金属板18の幅方向に変位可能に支持するヘッド支持体117と、付着量計センサヘッド116を前記幅方向に変位駆動させるヘッド変位駆動手段118とを有する。ヘッド変位駆動手段118は、ヘッド変位駆動源であるサーボモータ119を有する。
【0095】
図14は、上付着量検出部112bに関連する部分の電気的構成を詳細に示すブロック図である。上付着量検出部112bは、サーボモータ119を制御するサーボ制御部120と、付着量計センサヘッド116による検出結果を処理する付着量計データ処理部121と、付着量計センサヘッド116と付着量計データ処理部121との間に介在する付着量計中継ユニット122とをさらに有する。上付着量検出部121bでは、付着量計センサヘッド116、付着量計中継ユニット122およびサーボモータ119を含んで、機構部123が構成される。
【0096】
このような上付着量検出部121bでは、サーボ制御部120によってサーボモータ119が制御され、これによって付着量計センサヘッド116が前記幅方向に変位される。付着量計センサヘッド116は、前記幅方向に繰り返し往復する。付着量計センサヘッド116の変位は、前記幅方向に関して複数の位置で、予め定める時間、停止される。付着量計センサヘッド116の変位が停止されているときに、付着量計センサヘッド116によって皮膜の付着量が検出される。付着量計センサヘッド116による検出結果は、付着量計中継ユニット122を介して、付着量計データ処理部121に与えられる。付着量計データ処理部121は、付着量計センサヘッド116による検出結果を処理して付着量実績値を算出する。付着量実績値は、たとえば前記幅方向に関する各位置での検出結果の平均値である。付着量計データ処理部121によって算出された付着量実績値は、制御装置10に与えられる。
【0097】
前述の実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲内において構成を変更することができる。設定される塗布条件は、必ずしも各ロール21〜23の各ロール間隔および各ロール21〜23の周速度の両者を含む必要はなく、この両者のうちの一方だけを含んでいてもよい。また設定される塗布条件として、各ロール21〜23の各ロール間隔は、必ずしもPTギャップおよびTAギャップの両者を含む必要はなく、この両者のうちの一方だけを含んでいてもよい。さらに設定される塗布条件として、各ロール21〜23の周速度は、Pロール21の周速度とAロール22の周速度とTロール23の周速度との3者を含む必要はなく、この3者のうち1つだけまたは2つだけを含んでいてもよい。
【0098】
金属帯を形成する各金属板18の厚み寸法は互いに異なっていてもよい。この場合、金属板条件は、金属板18の厚み寸法を含む。ロール塗布装置1は、上ユニット3aのAロール22および下ユニット3bのAロール22について走行中の金属板18の厚み方向に関する間隔H、換言すれば上下方向の間隔Hを調整可能に構成される。調整開始位置は、塗布位置ではなく、この塗布位置よりも予め定める距離、たとえば2m、走行方向X上流側に設定される。条件変化点がこのような調整開始位置に到達すると、制御装置10は、上ユニット3aのAロール22および下ユニット3bのAロール22について、走行中の金属板18の厚み方向に関する間隔を走行中の金属板18の厚み寸法よりも十分に大きくし、この後、各ロール21〜23の各ロール間隔および各ロール21〜23の周速度を設定する。制御装置10は、条件変化点が塗布位置を通過した後、金属板18の厚み寸法に基づいて、上ユニット3aのAロール22および下ユニット3bのAロール22について走行中の金属板18の厚み方向に関する間隔を設定する。このようにして厚み寸法の異なる金属板18に対しても、処理液19を塗布することができる。
【0099】
条件変化点は、溶接点である必要はなく、たとえば金属板18の長手方向両端部間の中間に設定されてもよい。
【0100】
ロールの個数は、3に限定されない。たとえば、ロールの個数は、2でもよい。この場合、Tロール23が省略され、Pロール21からAロール22に処理液19が直接に供給される。このような場合にも、本発明を適用することができる。またロールの個数は、4以上であってもよく、この場合にも、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の実施の一形態である塗布システム101の構成を簡略化して示す図である。
【図2】後処理設備11の構成を簡略化して示す図である。
【図3】Tロール周速比とCr付着量との関係を示すグラフである。
【図4】PTギャップとCr付着量との関係を示すグラフである。
【図5】走行速度LSとCr付着量との関係を示すグラフである。
【図6】制御装置10による塗布条件調整動作を説明するためのフローチャートである。
【図7】ロール塗布装置1の構成を示す図である。
【図8】押圧力検出手段8の配置を示す図である。
【図9】上ユニット3aの一部を拡大して示す図である。
【図10】上ユニット3aに関連する部分の電気的構成を詳細に示すブロック図である。
【図11】付着量検出装置103の正面図である。
【図12】付着量検出装置103の平面図である。
【図13】上付着量検出部112bの正面図である。
【図14】上付着量検出部112bに関連する部分の電気的構成を詳細に示すブロック図である。
【符号の説明】
【0102】
1 ロール塗布装置
10 制御装置
11 後処理設備
21 ピックアップロール
22 アプリケータロール
23 トランスファーロール
101 塗布システム
102 記憶装置
103 付着量検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理液を走行中の金属板に順次に塗布した後、処理液が塗布された走行中の金属板を順次に熱処理することによって、金属板の表面に皮膜を形成させる後処理設備に備えられ、処理液を金属板に塗布する塗布装置を制御する方法であって、
金属板に設定される金属板条件が変化する条件変化点が塗布位置を通過するときに、条件変化点よりも走行方向上流側の金属板に設定される金属板条件に基づいて塗布条件を設定して、塗布装置を制御し、
熱処理後の金属板の表面に形成される皮膜の付着量を検出し、その検出結果に基づいて塗布条件を補正して、塗布装置を制御することを特徴とする塗布装置の制御方法。
【請求項2】
金属板条件は、金属板の走行速度を含み、
塗布条件は、単位時間あたりの塗布量を含むことを特徴とする請求項1に記載の塗布装置の制御方法。
【請求項3】
塗布装置は、互いに近接して平行に設けられる複数のロールを介して、処理液を金属板に塗布するように構成され、
金属板条件は、金属板の走行速度を含み、
塗布条件は、各ロールの間隔または各ロールの周速度を含むことを特徴とする請求項1に記載の塗布装置の制御方法。
【請求項4】
塗布装置は、金属板を介して互いに対向して設けられ、処理液を金属板の両面にそれぞれ塗布する一対の塗布ユニットを有し、
各塗布ユニットは、金属板に近接して設けられる近接ロールを有し、近接ロールを介して、処理液を金属板に塗布するように構成され、
金属板条件は、金属板の厚み寸法を含み、
塗布条件は、各塗布ユニットの近接ロールの間隔を含むことを特徴とする請求項1に記載の塗布装置の制御方法。
【請求項5】
条件変化点が塗布位置を通過するたびに、条件変化点よりも走行方向上流側の金属板に設定される金属板条件に基づいて塗布条件を設定し直すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の塗布装置の制御方法。
【請求項6】
処理液を走行中の金属板に順次に塗布した後、処理液が塗布された走行中の金属板を順次に熱処理することによって、金属板の表面に皮膜を形成させる後処理設備に備えられる塗布システムであって、
塗布条件を変更可能に構成され、処理液を走行中の金属板に順次に塗布する塗布装置と、
金属板に設定される金属板条件と塗布装置の塗布条件とを関連付けて記憶する記憶装置と、
熱処理後の金属板の表面に形成される皮膜の付着量を検出する付着量検出装置と、
塗布装置を制御する制御装置であって、(a)金属板に設定される金属板条件が変化する条件変化点が塗布位置を通過するときに、条件変化点よりも走行方向上流側の金属板に設定される金属板条件に基づいて、記憶装置から塗布条件を求め、求めた塗布条件を設定し、(b)付着量検出装置による検出結果に基づいて、塗布条件を補正する制御装置とを含むことを特徴とする塗布システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−233616(P2009−233616A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85052(P2008−85052)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】