説明

塗布装置

【課題】塗布条件や被塗布物のサイズを変更した際に減圧用のファンの回転数を変える必要のない塗布装置を提供する。
【解決手段】スライドビードコータ84に隣接して減圧チャンバ100が形成される。減圧チャンバ100には配管110が接続され、配管110はバッファタンク112を介して吸引用のファン114が接続される。バッファタンク112には開口部116が形成されており、バッファタンク112の内外が開口部116を介して連通される。開口部116は、その開口面積が、減圧チャンバ100とバックアップローラ82との隙間の総面積に対して5倍以上になるように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布装置に係り、特に平版印刷版用支持体のように長尺状であり、且つ可撓性である被塗布物に塗布液を塗布する塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷原版の感光層の表面にポリビニルアルコールなどの酸素非透過性樹脂の薄膜からなる酸化保護層を形成し、感光層を空気中の酸素から保護することが現在広く行なわれている。
【0003】
酸化保護層の形成にはスライドビード型塗布装置が使用される。スライドビード型塗布装置は一般的に、酸素非透過性樹脂の溶液などの塗布液を吐出する吐出スリットとこの吐出スリットから吐出された塗布液が流下するスライド面とが形成されたスライドビードコータと、スライドビードコータのスライド面の先端近傍に設けられ、平版印刷原版を巻き掛けて一定方向に搬送するバックアップローラとを備える。このようなスライドビード型塗布装置においては、バックアップローラによって平版印刷原版を感光層が外側を向くように搬送しつつ、吐出スリットから溶液を吐出してスライド面に沿って流下させ、スライド面の先端部と平版印刷原版の感光層表面との間に塗布液架橋(ビード)を形成し、溶液を塗布している。
【0004】
ところで、ビードの形成を維持するために、スライドビードコータに隣接して減圧チャンバを設けることがある(特許文献1参照)。減圧チャンバ内の負圧値は、被塗布物の厚み等のサイズや、スライドビードコータとバックアップローラのクリアランス値などの塗布条件に応じて変更する必要がある。そこで、従来は、被塗布物のサイズや塗布条件を変更するたびに、減圧チャンバに接続したファンの回転数を変化させ、減圧チャンバ内を所定の減圧度に設定していた。
【特許文献1】特開2002−233804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ファンの回転数を変化させると、減圧チャンバ内の負圧値が安定するまでに時間がかかるため、準備作業時間が長くなり、結果として生産効率が低下するという問題があった。特に、多品種を同じラインで製造する場合には、設定変更に伴う準備時間が長くなり、生産効率が大きく低下するという問題があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、塗布条件や被塗布物のサイズを変更した際に減圧用のファンの回転数を変える必要のない塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、バックアップローラに巻きがけ支持されて連続走行する被塗布物の表面に、塗布ヘッドのリップ先端から塗布液を架橋させ、前記被塗布物との間にビードを形成するとともに、該ビードに対して前記被塗布物の走行方向の上流側に設けた減圧チャンバで減圧しながら前記被塗布物の表面に塗布液を塗布する塗布装置において、前記減圧チャンバと、該減圧チャンバを減圧する負圧発生源とを連通する通路に、開口部が形成されることを特徴とする。
【0008】
請求項1の発明によれば、減圧チャンバと負圧発生源を連通する通路に開口部を形成するようにしたので、減圧チャンバ内の負圧変動を抑制することができる。したがって、塗布条件や被塗布物のサイズ等を変更した場合であっても、吸引手段の吸引力の設定を変更する必要がない。これにより、準備作業の時間を短縮することができ、生産効率を向上させることができる。
【0009】
なお、本発明は、ビードを形成するとともにビードに対して上流側に減圧をかける塗布装置であれば適用することができる。したがって、塗布ヘッドとしては、スライドホッパー(スライドビードコータともいう)や、ダイコータ(スロットダイともいう)が用いられる。
【0010】
請求項2に記載の発明は請求項1の発明において、前記開口部の面積は、前記被塗布物を巻きかけ支持したバックアップローラと前記減圧チャンバとが成す隙間の総面積に対して、5倍以上500倍以下であることを特徴とする。このように前記隙間の総面積に対して開口部の面積を規定することによって、減圧チャンバ内の負圧変動を効果的に抑制することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は請求項1又は2の発明において、前記通路にはバッファタンクが設けられ、該バッファタンクに前記開口部が形成されることを特徴とする。このようにバッファタンクに開口部が形成されると、減圧チャンバ内の負圧値が安定し、負圧変動を抑制することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は請求項1〜3のいずれか1の発明において、前記開口部には、該開口部の面積を調節する面積調節手段が設けられることを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明によれば、開口部の面積を調節することができるので、被塗布物が巻きかけられたバックアップローラと減圧チャンバとの隙間量が変わった場合にも対応することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る塗布装置によれば、減圧チャンバと吸引手段を連通する通路に開口部が形成されるので、減圧チャンバ内の負圧変動を抑制することができる。よって、準備作業の時間を短縮することができ、生産効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下添付図面に従って本発明に係る塗布装置の好ましい実施の形態について説明する。図1には本発明に係る塗布装置としてスライドビード型塗布装置を用いた、フォトポリマ型平版印刷版の素材としてのウエブの製造ライン10を示す構成図である。
【0016】
図1に示すように、製造ライン10の最も上流側(図1の左側)には送出装置16が配置されており、この送出装置16には、例えば厚さ0.1〜0.5mmのアルミウエブ12がロール状に巻き取られたアルミコイル14が装填されている。送出装置16は製造ライン10全体での製造速度に対応する速さでアルミウエブ12を下流側へ送り出している。ここで、平版印刷版用支持体の素材としてのアルミニウム板は、例えば、JIS1050材、JIS1100材、JIS1070材、Al−Mg系合金、Al−Mn系合金、Al−Mn−Mg系合金、Al−Zr系合金、Al−Mg−Si系合金等を適用し得る。メーカにおけるアルミニウム板の製造過程では、上記規格に適合するアルミニウムの鋳塊を製造し、このアルミニウム鋳塊を熱間圧延した後、必要に応じて焼鈍と呼ぶ熱処理を施し、冷間圧延により所定の厚さとされた帯状のアルミニウム板に仕上げる。このアルミニウム板はロール状に巻き取られてアルミコイルとされる。
【0017】
製造ライン10では、まず、送出装置16により下流側へ送り出されたアルミウエブ12を、平坦性を改善するためにローラレベラ、テンションレベラ等の矯正装置(図示省略)によって形状を矯正して必要な平坦性を得る。
【0018】
矯正装置の下流側には、アルミウエブ12の搬送経路に沿って上面研磨装置18及び下面研磨装置20が順次配置されている。
【0019】
上面研磨装置18には、アルミウエブ12の上面に接するように支持された研磨ローラ22が設けられると共に、アルミウエブ12の下面に接するように一対のテンションローラ24が設けられている。研磨ローラ22は、そのローラ面が例えば不織布により構成されており、研磨時にはローラ面の線速度がアルミウエブ12の搬送速度に対して十分大きくなるように高速回転される。このとき、研磨ローラ22の回転方向は、アルミウエブ12との接触部でのローラ面の移動方向がアルミウエブ12の搬送方向と同一となる順回転方向でも、またローラ面の移動方向がアルミウエブ12の搬送方向と反対となる逆回転方向の何れでもよい。また一対のテンションローラ24は、アルミウエブ12の搬送方向に沿って研磨ローラ22を挟むように配置され、アルミウエブ12を上方へ付勢し、アルミウエブ12の上面を所定の接触圧で研磨ローラ22のローラ面へ圧接させている。
【0020】
上面研磨装置18には、セラミック粒子等を含む研磨剤を水に分散させたスラリーを研磨ローラ22とアルミウエブ12との接触部へ供給するスラリー供給部(図示省略)が設けられており、このスラリー供給部はアルミウエブ12の研磨時に単位時間当たりに所定量のスラリーを供給する。このスラリー中の研磨材が研磨ローラ22によりアルミウエブ12の上面へ擦り付けられることにより、アルミウエブ12上面のミクロ的な凹凸が平均化されるように研磨されて表面粗さが小さくなっていく。
【0021】
なお、上面研磨装置18による研磨の研磨条件は、メーカから供給されるアルミウエブ12の初期表面粗さ、製造ライン10によるアルミウエブ12の搬送速度等により変化する。したがって、アルミウエブ12の初期表面粗さ、搬送速度等に応じて研磨ローラ22の回転速度、研磨材の種類及び粒径等を設定すればよい。また、本実施形態では、1台の上面研磨装置18によってアルミウエブ12の上面を研磨しているが、複数台の上面研磨装置18をアルミウエブ12の搬送経路に沿って配置し、それぞれの上面研磨装置18により段階的にアルミウエブ12の上面を表面粗さが所定値以下となるまで研磨するようにしてもよい。
【0022】
上面が研磨されたアルミウエブ12は、上面研磨装置18の下流側に配置された下面研磨装置20により下面の表面粗さ(JIS中心線平均粗さ)が一定値以下となるように研磨される。ここで、下面研磨装置20の構造は、研磨ローラ22と一対のテンションローラ24がアルミウエブ12を介して上下逆に配置されている点を除いて、上面研磨装置18と同一であるので説明を省略する。なお、アルミウエブ12の下面の表面粗さは、0.25〜0.75μm以下とすることが好ましく、このための研磨条件(研磨ローラ22の回転速度、研磨材の種類及び粒径等)も上面の場合と同様、アルミウエブ12の初期表面粗さ、搬送速度等に応じて設定すればよい。
【0023】
研磨装置18、20により研磨されたアルミウエブ12は、研磨装置18、20の下流側で機械的又は電気化学的にその表面が粗面化される。このような粗面化方法としては、機械的な砂目立て法,電気化学的な砂目立て法などがあり、それらを単独で、あるいは適宜組合わせて粗面化を行うことができる。機械的な砂目立て法としては、例えば、ボールグレイン、ワイヤーグレイン、ブラシグレイン、液体ホーニング法などがある。また電気化学的砂目立て方法としては、交流電解エッチング法が一般的に採用されており、電解電流としては、普通の正弦波交流電流あるいは矩形波や、特殊交番電流などが用いられている。またこの電気化学的砂目立ての前処理として、アルミニウム板を苛性ソーダなどでエッチング処理をしても良い。
【0024】
製造ライン10には、粗面化処理が完了したアルミウエブ12に対して公知の陽極酸化処理を行う陽極酸化装置(図示省略)が設けられている。この陽極酸化装置は、アルミウエブ12の表面を公知の液中給電方式により陽極酸化してアルミウエブ12の表面に高い硬度を有する陽極酸化皮膜を形成する。このとき、アルミウエブ12の表面には、0.1〜10g/m2 の陽極酸化皮膜、より好ましくは0.3〜5g/m2 の陽極酸化皮膜が形成される。また陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって設定を変更する必要があるので一概には決定されないが、一般的には、電解液の濃度は1〜80wt%、液温は5〜70℃、電流密度は0.5〜60A/dm2 、電圧は1〜100V、電解時間は1sec〜5minの範囲内でそれぞれ設定される。
【0025】
陽極酸化装置の下流側には、図1に示すように、アルミウエブ12に対する感光性材料(フォトポリマー)の塗布装置26及び乾燥装置28がそれぞれ設置されている。図2に示すように、塗布装置26は、軸受部材62に回転可能に、且つアルミウエブ12に接触するように支持されたロッド64を有している。軸受部材62に隣接して堰部材66が設けられており、これらの間には塗布液供給路68が構成されている。この塗布液供給路68から供給された塗布液70(フォトポリマー)が、アルミウエブ12に接触して液溜まり72を形成する。そして、ロッド64が回転することにより、液溜まり72の塗布液70が掻き上げられてアルミウエブ12に転移される。このような構成とされた塗布装置26は、いわゆるバー塗布(あるいはロッド塗布)を行う塗布装置である。
【0026】
塗布装置26の下流側に配置された乾燥装置28には、防爆及び断熱構造とされた乾燥槽46が設けられると共に、この乾燥槽46内に複数本の案内ローラ48が配置されている。フォトポリマーが転移されたアルミウエブ12は、案内ローラ48により上面側から案内されつつ乾燥槽46内を移動する。このとき、乾燥槽46内へ熱風50が供給されることにより、アルミウエブ12上のフォトポリマーが乾燥されて感光層が形成される。
【0027】
フォトポリマーの乾燥装置28の下流側には、本発明が適用されたポリビニルアルコール(PVA)の塗布装置30、及び乾燥装置32がそれぞれ設置されている。
【0028】
図3に示すように、塗布装置30は、アルミウエブ12が巻きかけられるバックアップローラ82と、このバックアップローラ82に隣接配置されたスライドビードコータ(塗布ヘッドに相当)84と、で構成されている。スライドビードコータ84の上面は、バックアップローラ82に向かって下降し、下端がアルミウエブ12との間にわずかな隙間を構成するように形成された傾斜面(スライド面)86とされている。また、スライドビードコータ84の内部には、塗布液88(PVA)を貯留する貯留部90が設けられており、吐出スリット92に連通されている。貯留部90内の塗布液88は不図示の吐出装置によって吐出スリット92に供給され、スライド面86に吐出される。そして、塗布液がスライド面86を流れ(スライドし)、リップ94とアルミウエブ12との間に塗布液のビードを形成し、アルミウエブ12に塗布液が転移される。このような構成とされた塗布装置30は、いわゆるスライド塗布を行う塗布装置である。なお、本実施形態では、塗布液88が1種類のみ(PVA)であるため、貯留部90は図3に実線で示すように1つのみ設けられていれば十分であるが、複数の塗布液を多層に塗布する場合には、これに対応して、図3に二点鎖線で示すように貯留部90が複数設けられたものが使用される。
【0029】
塗布装置30の下流側に配置された乾燥装置32は、基本的にフォトポリマーの乾燥装置28と同一構造とされており、その加熱槽56内を移動するアルミウエブ12を複数本の案内ローラ58により案内しつつ、アルミウエブ12上のPVAを熱風50によって乾燥する。これにより、アルミウエブ12上には、感光層を覆うように酸素遮断層としてのオーバーコート層が形成される。ただし、感光層とオーバーコート層とではそれぞれ適正な乾燥条件が異なるため、それぞれの乾燥条件に応じて乾燥槽46、56へ供給される熱風温度や乾燥槽46、56の搬送方向に沿った長さ等が設定されている。
【0030】
このようにして、本実施形態の製造ライン10では、感光層上にオーバーコート層が形成されることにより、フォトポリマ型平版印刷版の素材としてのウエブの製造が完了する。製造されたウエブはウエブ巻取装置38によりロール状に巻き取られてウエブロール36とされる。このウエブロール36は、フォトポリマ型平版印刷版の加工ライン(図示省略)のウエブ供給装置へ供給され、このウエブ供給装置により巻き出されて加工ラインの加工速度に対応する速度でラインの下流側へ供給される。
【0031】
ところで、本発明に係る塗布装置30は、図3に示すように、減圧チャンバ100を備えている。減圧チャンバ100は、アルミウエブ12の走行方向に対してスライドビードコータ84のリップ94の上流側の空間を囲むようにして形成されている。具体的には、図4に示すように、スライドビードコータ84の両側面に取り付けられたサイド板102と、バックアップローラ82の下方に立設された前板104と、底板(図3参照)106とが設けられ、これらのサイド板102、前板104、底板106とスライドビードコータ84によって囲まれて減圧チャンバ100が形成されている。
【0032】
減圧チャンバ100のサイド板102や前板104は、アルミウエブ12やバックアップローラ82に接触しないように形成されているため、減圧チャンバ100とバックアップローラ82との間には、若干の隙間が形成されている。具体的には、前板104の上端は、バックアップローラ82に対してクリアランスwを持って配設される。また、サイド板102の上部にはバックアップローラ82に合わせて円弧状に形成されており、バックアップローラ82に対して一定のクリアランスsで形成されている。ここで、バックアップローラ82の半径をR、バックアップ82に対して減圧チャンバ100が配置された範囲をθ、アルミウエブ12の巾をl、アルミウエブ12の厚みをt、スライドビードコータの巾をLとする。
【0033】
前述したバックアップローラ82と減圧チャンバ100との隙間の総面積をSとすると、Sは下式(1)によって求められる。
S=(L・T+L・w−2・l・t)−π(s2 +2・s・R)・θ/180…式(1) この式(1)で求められた総面積Sによって、後述する開口部の面積が決定される。
【0034】
図3に示すように減圧チャンバ100には配管110が接続されており、この配管110はバッファタンク112を介してファン(負圧発生源に相当)114に接続されている。減圧チャンバ100はファン114を駆動することによって吸引力が伝達され、負圧に維持される。
【0035】
バッファタンク112は、減圧チャンバ100とファン114とを接続する配管110の途中に配設されており、このバッファタンク112とファン114は、減圧チャンバ100やスライドビードコータ84が設置された部屋とは別の部屋に設置されている。また、バッファタンク112には、バッファタンク112の内部と外部とを連通する開口部116が設けられている。開口部116の開口面積は、前述したバックアップローラ82と減圧チャンバ100との隙間の総面積Sに対して、5倍以上500倍以下、好ましくは 7倍100倍以下になるように設定される。
【0036】
なお、開口部116は、図5或いは図6に示すように、開口面積を調節可能に構成することが好ましい。図5に示す開口部116は、バッファタンク112に取り付けられた支持部材120と、この支持部材120にスライド自在に支持されたスライド部材122で構成される。支持部材120には、円形の開口124が形成されており、この開口124を介してバッファタンク112の内外が連通される。スライド部材122は、支持部材120に形成されたスリット126から差し込まれ、摺動自在に支持される。また、スライド部材122には、円弧状の溝128が形成されており、スライド部材122を支持部材120に摺動させることによって、支持部材120の開口124の一部を閉塞できるようになっている。したがって、図5に示す開口部116は、スライド部材122をスライドさせることによって、実際の開口面積を調節することができる。
【0037】
図6に示す開口部116は、バッファタンク112に中空円筒状に突出形成された突起部130と、この突起部130に被せられる回動体132とから構成される。突起部130の側面には開口134が形成されており、この開口134を介してバッファタンク112の内外が連通されている。回動体132は、有底の円筒状に形成されており、突起部130に被せられて周方向に摺動するようになっている。回動体132の側面には、突起部130の開口134と重なる位置に開口136が形成されている。したがって、回動体132を回転させて開口134と開口136の重なる面積を変えることによって、実際の開口面積を調節することができる。
【0038】
このように開口部116の開口面積を調節できるように構成すると、図3の減圧チャンバ100とバックアップローラ82との隙間の総面積Sを変更した場合にも、開口部116の開口面積を適切な範囲に調節することができる。
【0039】
次に上記の如く構成された塗布装置30の作用について説明する。
【0040】
減圧チャンバ100がファン114に直接、接続された従来装置の場合、アルミウエブ12の巾や厚みを変更すると、減圧チャンバ100内の負圧値が大きく変化する。このため、ファン114の回転数を変化させて吸引力を調節し、減圧チャンバ100内を所定の負圧値にする必要がある。しかしながら、減圧チャンバ100内の負圧値が一旦大きく変化すると、所定の負圧値で安定するまでに時間がかかるという問題がある。また、従来装置の場合には、バックアップローラ82の偏心等の原因によって減圧チャンバ100内の負圧値が変動しており、所定の負圧値に制御することが難しいという問題がある。
【0041】
これに対して、本実施の形態の塗布装置30は、減圧チャンバ100がバッファタンク112を介してファン114に接続されており、このバッファタンク112に開口部116が形成されている。このように減圧チャンバ100とファン114とを連通する通路に開口部116を形成すると、減圧チャンバ100の負圧値が安定しやすくなる。特に、開口部116の開口面積を、バックアップローラ82と減圧チャンバ100の隙間の総面積の5倍以上(好ましくは7倍以上)に設定した場合には、減圧チャンバ100の負圧値が安定しやすくなり、アルミウエブ12の巾や厚みを変更した場合であっても減圧チャンバ100内の負圧値は殆ど変化しない。したがって、ファン114の回転数を変更する必要がなく、また、減圧チャンバ100内が所定の負圧値で安定するまで待つ必要がない。よって、アルミウエブ12のサイズ変更に伴う準備作業の時間が短くなり、結果として生産効率を向上させることができる。
【0042】
また、本実施の形態では開口部116を設けたことによって減圧チャンバ100の負圧値が安定するので、減圧チャンバ100の負圧値の変動を抑制することができる。よって、塗布液架橋(ビード)を安定して形成することができ、塗布面にムラやスジが発生することを抑制することができる。
【0043】
なお、上述した実施の形態は開口部116をバッファタンク112に設けたが、開口部116の形成位置は、減圧チャンバ100とファン(吸引手段)114とを連通する通路であればよい。したがって、配管110に開口部116を直接形成してもよい。
【0044】
また、本発明は、ビードを形成して塗布を行う塗布装置であれば適用することができる。したがって、上述したようにスライドビード型の塗布装置に限定されるものではなく、エクストルージョン型の塗布装置にも適用することができる。
【実施例】
【0045】
アルミウエブのサイズ変更時、塗布条件変更時における減圧チャンバの負圧値の変動を測定した。その際、バックアップローラと減圧チャンバの隙間の総面積S=10.0cm2 の塗布条件で各試験を行った。各試験での条件、及び結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

表1から分かるように、開口面積を形成しない場合(すなわち、開口面積=0の場合)や開口面積が小さい場合には、条件の変更に伴って減圧チャンバの負圧値が大きく変動していた。これに対し、開口面積が隙間の総面積の5倍以上の場合には、減圧チャンバの負圧値の変動が小さくなった。減圧チャンバの負圧値の変動は、開口面積を大きくするほど抑制することができるが、開口面積の増加に伴ってファンの容量を大きくする必要があるため、開口面積は隙間の総面積の500倍以下とすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る塗布装置としてスライドビード型塗布装置を用いたウエブの製造ラインを示す構成図
【図2】ロッド塗布装置を示す構成図
【図3】スライドビード塗布装置を示す構成図
【図4】図3に示した塗布装置の斜視図
【図5】開口部の一例を示す斜視図
【図6】開口部の一例を示す斜視図
【符号の説明】
【0048】
10…製造ライン、12…アルミウエブ、30…塗布装置、82…バックアップローラ、84…スライドビードコータ、86…スライド面、88…塗布液、92…吐出スリット、94…リップ、100…減圧チャンバ、112…バッファタンク、114…ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックアップローラに巻きがけ支持されて連続走行する被塗布物の表面に、塗布ヘッドのリップ先端から塗布液を架橋させ、前記被塗布物との間にビードを形成するとともに、該ビードに対して前記被塗布物の走行方向の上流側に設けた減圧チャンバで減圧しながら前記被塗布物の表面に塗布液を塗布する塗布装置において、
前記減圧チャンバと、該減圧チャンバを減圧する負圧発生源とを連通する通路に、開口部が形成されることを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記開口部の面積は、前記被塗布物を巻きかけ支持したバックアップローラと前記減圧チャンバとが成す隙間の総面積に対して、5倍以上500倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記通路にはバッファタンクが設けられ、該バッファタンクに前記開口部が形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記開口部には、該開口部の面積を調節する面積調節手段が設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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