説明

塗布装置

【課題】 塗布針を上下動させる速度を高めても、容器内への気泡の巻き込みが無く、正確な修復が可能であり、また、塗布針に歪みが生じ難く、輪郭が連続して滑らかな修復線を描くことができる塗布装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 内部にペースト状の塗布物を収容する空間部を有し、下面に前記空間部と外部とを連通させる開口を有する塗布物収容器と;前記開口の中心をとおる垂直線上で上下動自在に支持された水平断面形状が円形の塗布針と;塗布針を、その先端が前記開口よりも下方に突出した塗布位置と、先端が塗布物収容器内に引き込まれた収容位置との間で上下動させる駆動源と;対象物を載置するテーブルと;当該テーブルを水平面内で移動させる移動装置とを備え、塗布針の先端の直径dと、前記開口の直径Dとが、d/D≦0.2の範囲にある塗布装置を提供することによって解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布装置に関し、詳細には、液晶ディスプレイパネルやプラズマディスプレイパネルなどの配線基板における配線の短絡等の欠陥を、ペースト状の塗布物により修復する際に用いられる塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイパネルやプラズマディスプレイパネルなどの基板上の欠陥を修復する装置としては種々のものが提案されているが、大きく分けて、ノズルから塗布物を修復部に吐出するタイプのものと、塗布針の先端に付着させた塗布物を修復部に転写、塗布するタイプのものがある。後者のタイプの塗布装置としては、例えば、特許文献1、2に示されるように、塗布物が注入された容器の底部開口から、その開口と略同じ径を有する塗布針を突出させ、塗布針の先端に付着した塗布物を、修復すべき欠陥部に転写、塗布する装置が提案されている。
【0003】
しかし、この従来の塗布装置においては、塗布針を容器内部に引き込む動作に伴って、容器内への気泡の巻き込みが発生することがあり、その結果、塗布物を継続的に安定して塗布針に付着させることができず、塗布物を正確に修復箇所に転写、塗布することが困難になるという欠点がある。容器内への気泡の巻き込みは、修復速度を上げるべく、塗布針を上下動させる速度を高めると特に顕著となるので、上記従来の塗布装置では欠陥の修復速度を高めることができないという問題点がある。
【0004】
また、上記従来の塗布装置においては、塗布針はその先端を塗布面に接触させることによって、塗布針先端部に付着した塗布物を修復箇所に転写、塗布するようにしているが、修復対象となる基板上の電極の幅は微細であるため、一般に塗布針の線径も非常に小さく、僅かな接触圧でも、塗布針に歪みが生ずる可能性がある。塗布針が歪むと、塗布針の円滑な上下動に支障をきたし、正確な位置に塗布物を塗布できないという問題点がある。さらに、上記従来の塗布装置においては、塗布、転写された塗布物によって描かれる修復線が団子状になり、輪郭が滑らかでないという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−276188号公報
【特許文献2】特開2006−310266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の塗布装置が有する上記の問題点を解決するために為されたもので、修復速度を上げるべく、塗布針を上下動させる速度を高めても、容器内への気泡の巻き込みが無く、正確な修復が可能であり、また、塗布針に歪みが生じ難く、輪郭が連続して滑らかな修復線を描くことができる塗布装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、塗布針の上下動による容器内への気泡の巻き込みには、塗布物を収容する容器の開口の大きさと、塗布針の径とが関係しており、塗布針の先端径を容器の開口径の0.2以下とすることによって、気泡の巻き込みを有効に防止できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、上記の課題を、内部にペースト状の塗布物を収容する空間部を有し、下面に前記空間部と外部とを連通させる開口を有する塗布物収容器と;前記開口の中心をとおる垂直線上で上下動自在に支持された水平断面形状が円形の塗布針と;塗布針を、その先端が前記開口よりも下方に突出した塗布位置と、先端が塗布物収容器内に引き込まれた収容位置との間で上下動させる駆動源と;対象物を載置するテーブルと;当該テーブルを水平面内で移動させる移動装置とを備え、塗布針の先端の直径dと、前記開口の直径Dとが、d/D≦0.2の範囲にある塗布装置を提供することによって解決するものである。
【0009】
また、本発明の好ましい形態においては、上記に加えて、塗布物収容器の下面開口から、塗布位置における塗布針先端までの垂直方向の距離Lが、開口の直径Dに対して、L/D≦1.5の範囲にあるのが良く、これにより、気泡の巻き込みを、一層有効に防止することが可能となる。
【0010】
また、本発明者らは、塗布針の先端自体を塗布面と接触させなくても、塗布針の先端下面に付着する塗布物を塗布面と接触させれば、転写、塗布ができること、また、塗布針の先端下面に付着する塗布物の厚さは、塗布針の先端径の大きさと関係していることを見出し、塗布位置における塗布針先端から対象物までの垂直方向の距離をsとして、sが、塗布針の先端の直径dに対し、(1/2)d≦s≦dの関係にあるときには、塗布針を塗布面に接触させずに、塗布物の転写、塗布が可能であることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、塗布位置における塗布針先端から対象物までの垂直方向の距離sが、塗布針の先端の直径dに対し、(1/2)d≦s≦dの関係にある塗布装置を提供することによって、上記の課題を解決するものである。
【0012】
なお、塗布針は、先端部に下すぼまりのテーパ面を有しているのが好ましく、塗布針を上下動させる駆動源は圧電素子であるのが好ましい。駆動源として圧電素子を用いる場合には、微小な振幅で、しかも高い周波数で塗布針を上下に駆動することができるので、有利である。
【0013】
さらに、本発明者らは、従来の塗布装置においては、塗布針の1回の上下動ごとに、塗布針の先端部に付着している塗布物が、それぞれ別個の塊となって塗布面上に転写、塗布されるために、転写された塗布物によって形成される修復線が団子状になるのではないかと推測し、塗布針の1回の上下動ごとに移動させる対象物の送りのピッチを種々変更して試行錯誤を重ねた結果、塗布位置における塗布針先端から対象物までの垂直方向の距離sが、塗布針の先端の直径dに対し、(1/2)d≦s≦dの関係にある塗布装置の場合には、対象物の送りのピッチを塗布針の先端の直径dの1/3〜1/2の範囲とすることによって、転写、塗布された塗布物によって描かれる修復線はその輪郭が滑らかな連続したものとなることを見出した。
【0014】
よって、本発明は、塗布針が塗布位置から上昇し、次に塗布位置まで下降する間に、対象物を載置するテーブルを、塗布針の先端の直径dの1/3〜1/2の距離だけ水平方向に移動させる制御装置を備えている塗布装置を提供することによって、上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の塗布装置によれば、塗布針を高速で上下動させても塗布物収容器内への気泡の巻き込みは発生し難いので、より高速で効率の良い修復が可能となる。また、塗布針が対象物と接触しないので、塗布針に歪みが生じ難く、塗布針の長寿命化とメンテナンスの容易化が計れるという利点がある。さらに、塗布物の転写、塗布によって描かれる修復線は、輪郭が滑らかで連続しており、より原形に近い、美しい修復が可能になるという利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の塗布装置の一例を示す概略図である。
【図2】塗布物収容器と塗布針の拡大図である。
【図3】L/D≦1.5の範囲内にあるときの、塗布針と塗布物との関係を示す模式図である。
【図4】L/D>1.5の範囲内にあるときの、塗布針と塗布物との関係を示す模式図である。
【図5】塗布針先端と対象物(塗布面)との関係を示す模式図である。
【図6】転写、塗布された塗布物によって修復線が描かれていく状態を示す模式図である。
【図7】塗布針と対象物の拡大図である。
【図8】塗布針が塗布位置に達したときの状態を示す図である。
【図9】描かれる修復線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明が図示のものに限られないことは勿論である。
【0018】
図1は、本発明の塗布装置の一例を示す概略図である。図1において、1は本発明の塗布装置を示し、2は塗布物収容器、3は塗布物収容器2の内部の空間に収容されているペースト状の塗布物である。塗布物3としては、金、銀、白金、銅などの導電性金属の微粒子を、有機溶剤中に安定に分散させた導電性ペーストが用いられる。4は塗布物収容器の下面に設けられている開口であり、開口4は、塗布物収容器の内部空間と外部とを連通させている。塗布物収容器2の水平断面形状は、通常、円形であり、その下面に設けられる開口4の形状も円形である。
【0019】
5は塗布物収容器2を固定保持する保持体であり、支持腕6に結合され、支持腕6は、支持腕台7に、垂直方向に移動可能に取り付けられている。8は、支持腕6を支持腕台7に対して垂直方向に移動させる、手動又は電動の駆動部である。
【0020】
9は塗布針であり、その根元部分で塗布針固定板10に固定されている。11は、塗布針固定板10を垂直方向に移動自在に支持するリニアガイドであり、塗布針固定板10及びリニアガイド11によって、塗布針9は、開口4の中心をとおる垂直線上で上下動自在に支持されている。塗布針9は、通常、タングステンなどの金属の細線で形成され、その水平断面形状は円形である。また、その下方、先端部には、後述するとおり、下すぼまりのテーパ面が設けられている。
【0021】
13は垂直方向の往復動を発生する駆動源であり、作動体14及び塗布針固定板10を介して、塗布針9を上下動させる。駆動源13としては、塗布針9を上下動させることができる限り、どのようなものを使用しても良いが、振動数の高い、微小な往復動を発生させるという観点からは、圧電素子を用いるのが望ましい。そのような圧電素子としては、例えば、特開2008−99399号公報に開示されている変位拡大機構付きの圧電素子が挙げられる。15は変位センサであり、この変位センサ15によって、上下動する作動体14の上下方向の変位を接触若しくは非接触式に測定することにより、塗布針9の垂直方向の位置と、上下動のストローク長とを知ることができる。変位センサ15は、作動体14の変位ではなく、塗布針9自体の垂直方向の変位を測定するようにしても良い。
【0022】
支持腕台7、駆動部8、リニアガイド11の支持腕12、及び駆動源13は、塗布装置1の本体16に対して垂直方向に移動可能に取り付けられている昇降台17に固定されている。18は、昇降台17を昇降させる手動又は電動の駆動部である。
【0023】
19は、本体16に対して、少なくともX軸及びY軸で水平方向に移動可能に取り付けられているテーブル、20は、テーブル19を水平方向に移動させる駆動部、21はテーブル19に載置されている対象物である。
【0024】
22は、保持体5の下面に取り付けられた非接触式の距離センサであり、対象物21まで、つまり塗布面までの距離を測定する。距離センサ22と塗布物収容器2の開口4との垂直方向の距離を予め求めておくことにより、距離センサ22による測定値に基づいて、開口4から対象物21の塗布面までの距離を知ることができる。
【0025】
23は制御装置であり、図示しない信号線を介して、変位センサ15や距離センサ22からの信号を受信し、駆動部8、18、20の動作や、駆動源13の動作を制御するものである。24は入出力装置であり、この入出力装置24を介して、塗布装置1及びその動作についての種々の設定やその変更を行うとともに、塗布装置1の設定状況や動作状態を確認することができる。
【0026】
図2は、塗布物収容器2と塗布針9だけを取り出して拡大して示した図である。図において、実線で示す塗布針9が、塗布物を対象物(塗布面)に転写、塗布する塗布位置にある塗布針を示し、破線で示す塗布針9が、塗布物収容器2内に引き込まれた収容位置にある塗布針を示している。Dは開口4の直径を示し、dは塗布針9の先端の直径を示している。また、Vは塗布針9の上下動のストローク長であり、破線で示す収容位置と実線で示す塗布位置との間の垂直方向の距離に相当する。また、Lは、開口4から、塗布位置における塗布針9の先端までの垂直方向の距離であり、塗布針9の先端の開口4からの突出長さに相当する。図に示すとおり、塗布針9の先端部には、下すぼまりのテーパ面25が設けられている。
【0027】
本発明の塗布装置1においては、開口4の直径Dと、塗布針9の先端の直径dとの関係を、d/D≦0.2の範囲に規制することによって、塗布針9が収容位置へと上昇するときに、塗布物収容器2内に外部から空気の気泡を巻き込むのを防止している。以下、上記の知見を得た実験について説明する。
【0028】
〈気泡巻き込みの観察実験〉
すなわち、図2に示す塗布物収容器2と塗布針9との組合せを用い、開口4の直径Dと、塗布針9の先端径dとを種々変化させて、塗布針の上下動を繰り返し、そのときの気泡の巻き込みの有無を観察した。塗布針の上下動開始後、直ちに気泡の巻き込みが発生したものを「×」、数秒後に気泡の巻き込みが発生したものを「△」、10秒以上継続しても気泡の巻き込みが発生しないものを「○」として、結果を表1に示す。なお、実験条件は以下のとおりである。
【0029】
塗布物:「銀ナノペースト NPS−HTB」(ハリマ化成株式会社製)(粘度:100Pa・s)
ストローク長V:200μm
開口からの突出長さL:100μm
駆動源:圧電素子
塗布針の上下動速度:20回/秒
観察機器:高速カメラ(「FASTCAM SA1.1」(株式会社フォトロン製)
【0030】
【表1】

【0031】
表1に示すとおり、開口4の直径Dと、塗布針9の先端径dとを種々変化させて行った実験によれば、開口4の直径Dと、塗布針9の先端の直径dとを、d/D≦0.2の範囲としたときには、塗布針を20回/秒という高速で上下動させても、塗布物収容器内への気泡の巻き込みは観察されなかった。この結果に基づいて、塗布針9の上下動の毎秒あたりの回数を増やして、修復速度を高めるには、開口4の直径Dと、塗布針9の先端の直径dとの関係を、d/D≦0.2の範囲に規制するのが有効であることが分かった。なお、実験した限りにおいて、d/Dの下限は見出すことができなかったが、余りにdを小さくすると、塗布針9の強度が粘性流体中の上下動に耐えられなくなるので、d/Dの下限は、上記実験で確認した0.01程度であると推測される。
【0032】
次に、開口4の直径Dと、塗布針9の先端径dを、上記の実験で良い結果が得られたd=2μm、D=200μmに固定し、また、塗布針9の収容位置を上記実験におけると同じ位置に固定し、ストローク長Vを変化させることにより、突出長さLを変化させて、他の条件は上記実験と同じにし、その時の気泡の巻き込みの発生の有無を観察した。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2の結果に示されるとおり、d/Dが0.2の場合には、Lを50μm〜300μmの間で変化させても、気泡の巻き込みは観察されなかったが、Lが350μmとなり、L/Dが1.5を超える場合には、数秒後に気泡の巻き込みが発生する「△」の評価となった。以上の結果から、塗布物収容器内への気泡の巻き込みを一層有効に防止するためには、L/Dの上限は1.5以下が好ましいと判断された。なお、Lが50μm未満で、L/Dが0.4未満の場合については実験を行っていないが、L/Dが余りに小さく0.4未満となると、塗布位置において、塗布針9の先端部に付着する塗布物の量が多くなり過ぎ、所望の線幅で塗布物を転写、塗布することが困難になると考えられる。したがって、L/Dの下限は0.4が好ましい。
【0035】
以上の結果は、例えば、図3、図4を用いて以下のように解釈される。すなわち、図3は、L/D≦1.5の範囲内にあるときの、塗布針9と塗布物3との関係を示す模式図であるが、図に示すとおり、塗布針9の突出長さLが、開口4の直径Dに対して適正である場合には、塗布位置において塗布針9の側面は、先端部も含めて塗布物3で覆われている。このため、塗布物3を塗布面に転写、塗布した後に塗布針9を収容位置への引き上げても、塗布針9の側面は塗布物3に覆われているので、外部から気泡が混入することはない。
【0036】
ところが、図4に示すように、塗布針9の突出長さLが、開口4の直径Dに比べて長すぎて、L/Dが1.5を超える場合には、塗布物3の流動が塗布針9の下降についていけず、塗布物9は途中で切れ、塗布針9には、側面が塗布物3で覆われていない露出部26が生じることになる。この状態で塗布針9が収容位置へと引き込まれると、側面が塗布物3で覆われていない露出部26とともに、外部から空気が塗布物収容器2内に引き込まれ、僅かではあるが、気泡が発生するものと考えられる。また、図4に示すように、Lが長すぎて、塗布物3が途中で途切れてしまうと、対象物に転写、塗布される塗布物は、塗布針9の先端付近に付着しているものだけとなり、修復線が団子状になったり、部分的に細くなったりする不都合が発生する。
【0037】
なお、本発明の塗布装置1において、L/Dを1.5以下に調整するには、Dの値は予め計測すれば求められるので、駆動源13によって発生される上下動の振幅を変位センサ15の計測値を参照しながら調整するか、駆動部8を手動若しくは制御装置23を介して操作して、保持体5を適宜上下させ、塗布物収容器2と塗布針9との相対的な位置関係を調節して、Lの長さを変化させれば良い。
【0038】
図5は、塗布針9の先端と対象物(塗布面)との関係を示す模式図である。図5において、sは、塗布針9の先端と対象物21との間の垂直方向の距離を表している。先に図3を用いて説明したとおり、本発明の塗布装置1においては、塗布針9の先端及び側面は、塗布位置においても、塗布物3で覆われている。本発明者らが確認したところによれば、塗布針9の先端を覆う塗布物3の厚さは、先端の直径dとほぼ同じである。したがって、塗布針9の先端を、塗布針先端の直径dと同じかそれ以下の距離まで対象物21に接近させれば、先端に付着している塗布物3は対象物21と接触し、対象物21に転写、塗布されることになる。つまり、s≦dとなるまで、塗布針9を対象物21に接近させれば、塗布針9の先端を対象物21と接触させなくても、塗布物3を対象物21に転写、塗布することが可能である。
【0039】
しかし、塗布針9の先端を対象物21に接近させすぎると、外乱を受けた場合等において、塗布針9の先端が対象物21と接触し、塗布針9はもとより、対象物21にも損傷を与える恐れがあるので、塗布針9の先端と対象物21との距離sは、少なくとも、塗布針先端の直径dの1/2以上に保つのが好ましい。つまり、塗布針9の先端径dと、塗布針9の先端と対象物21との距離sとは、両者が、(1/2)d≦s≦dの関係を満たすように規制するのが良いということになる。
【0040】
このように、本例で示す塗布装置1においては、塗布針9は、対象物21と接触せずに、対象物21(塗布面)に塗布物を転写、塗布するように構成されている。このため、塗布針9は歪むことがなく、塗布針の長寿命化とメンテナンスの容易化が計れるという利点が得られる。
【0041】
なお、本発明の塗布装置1において、(1/2)d≦s≦dの関係を満たすようにするには、dの値は予め計測すれば求められるので、距離センサ22によって、保持体5の下面から対象物21までの距離を計測し、その距離と、別途求めた保持体5の下面から開口4までの距離、及び、塗布針9の塗布位置における突出長さLとに基づいて、駆動部18を手動若しくは制御装置23を介して操作して、塗布針9の先端と対象物21との距離sを調整すれば良い。
【0042】
図6は、転写、塗布された塗布物3によって、対象物21上に、修復線が描かれていく状態を示す模式図である。図6において、27は塗布物3によって形成された修復線を示している。すなわち、塗布針9を、塗布位置と収容位置との間で垂直方向に上下動させながら、塗布針9の動きと同期させてテーブル19を順次矢印方向に移動させると、対象物21上には、1回ごとに転写、塗布された塗布物3a、3b、・・・で構成される修復線27が描かれることになる。
【0043】
図7に塗布針9と対象物21のみを拡大して示す。塗布針9は収容位置から塗布位置へと下降途中にあり、対象物21上には、既に塗布針9の上下動によって、塗布物3a、3b・・・が転写、塗布され、修復線27が一部描かれた状態にある。この図の場合、塗布針9の1回の上下動ごとに、対象物21はテーブル19によって、塗布針9の先端径dの1/2の距離ずつ、図中左方向に移動させられている。すなわち、塗布針9が塗布位置から上昇し、次に塗布位置まで下降するまでの間に、対象物21を載置するテーブル19は、塗布針9の先端の直径dの1/2の距離だけ水平方向に移動している。テーブル19のこのような動作は、制御装置23によって、塗布針9の上下動と同期して、テーブル19を所定ピッチで移動させることによって実現される。
【0044】
先に述べたとおり、塗布針9の先端を覆う塗布物3の厚さは先端の直径dとほぼ同じであり、また、塗布物3自体も若干の流動性を備えているので、転写、塗布される塗布物3a、3b・・・は、対象物21上では、直径が先端径dのほぼ2倍の大きさの半球状に広がる。したがって、塗布針9の1回の上下動に伴う対象物21の移動距離が(1/2)dであれば、転写、塗布される塗布物3a、3b・・・は、ほぼ3/4ずつ重なり合って対象物21上に存在することになる。塗布針9の1回の上下動に伴う対象物21の移動距離が(1/2)dを超えると、転写、塗布される塗布物3a、3b・・・同士の重なりが不足し、描かれる修復線27は、その輪郭が団子状になる傾向がある。
【0045】
図8は、図7の位置から下降して、塗布針9が塗布位置に達したときの状態を示している。塗布針9が塗布位置に達すると、図8に示すように、塗布針9の先端に付着している塗布物だけでなく、塗布針9の先端側部のテーパ面25に付着している塗布物3までもが、既に対象物21上に存在する塗布物3a、3b・・・と接触し、互いに引かれ合うことによって、対象物21上に転写、塗布されることになる。この塗布針9の側部のテーパ面25から供給される塗布物3は、塗布針9の先端に付着している塗布物3の不足分を補い、修復線を滑らかにするのに寄与していると考えられる。図9に、形成される修復線27の一例を示す。図9に示すとおり、修復線27は、塗布物3a、3b・・・を一回ごとに転写、塗布して形成されるにもかかわらず、その輪郭は、あたかも連続して描かれた線のように滑らかである。
【0046】
なお、塗布針9が塗布位置から上昇し、次に塗布位置まで下降するまでの間に、対象物21を載置するテーブル19を移動させる距離は、塗布針9の先端の直径dの1/2よりも小さくても良い。ただし、テーブル19の移動ピッチが余りに小さく、(1/3)d未満になると、同じ箇所に塗布物が繰り返し転写、塗布されることになり、修復線の線幅が不必要に広がる不都合があるとともに、単位時間当たりに描くことができる修復線の長さが短くなり、修復速度が遅くなるという不都合がある。したがって、塗布針9が塗布位置から上昇し、次に塗布位置まで下降するまでの間に、テーブル19を移動させる距離は、塗布針9の先端の直径dの1/2以下であり、1/3以上であるのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上の述べたとおり、本発明の塗布装置によれば、駆動源として圧電素子を用い、1秒間に10回以上の速度で塗布針を上下させて導電性ペースト等の塗布物を転写、塗布しても、塗布物収容器内に気泡の巻き込みは発生せず、常に、一定した量の塗布物を対象物上に転写、塗布することができる。また、本発明の塗布装置によれば、塗布針の先端は、対象物と直接接触しないので、塗布針が衝撃によって歪むことがなく、塗布針の長寿命化とメンテナンスの容易化を図ることができる。さらに、本発明の塗布装置によれば、輪郭が滑らかな修復線を描くことができるので、必要とされる修復箇所を、より確実かつ綺麗に修復することが可能になる。本発明の塗布装置は、液晶ディスプレイパネルやプラズマディスプレイパネルなどの製造に係わる産業分野において、多大の有用性を有するものである。
【符号の説明】
【0048】
1 塗布装置
2 塗布物収容器
3 塗布物
4 開口
5 保持体
6、12 支持腕
7 支持腕台
8、18、20 駆動部
9 塗布針
10 塗布針固定板
11 リニアガイド
13 駆動源
14 動作体
15 変位センサ
16 本体
17 昇降台
19 テーブル
21 対象物
22 距離センサ
23 制御装置
24 入出力装置
25 テーパ面
26 露出部
27 修復線
D 開口直径
d 塗布針先端直径
V ストローク長
L 塗布位置における塗布針先端と開口との距離
s 塗布針先端と対象物との距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にペースト状の塗布物を収容する空間部を有し、下面に前記空間部と外部とを連通させる開口を有する塗布物収容器と;前記開口の中心をとおる垂直線上で上下動自在に支持された水平断面形状が円形の塗布針と;塗布針を、その先端が前記開口よりも下方に突出した塗布位置と、先端が塗布物収容器内に引き込まれた収容位置との間で上下動させる駆動源と;対象物を載置するテーブルと;当該テーブルを水平面内で移動させる移動装置とを備え、塗布針の先端の直径dと、前記開口の直径Dとが、d/D≦0.2の範囲にある塗布装置。
【請求項2】
塗布物収容器の下面開口から、塗布位置における塗布針先端までの垂直方向の距離Lが、開口の直径Dに対して、L/D≦1.5の範囲にある請求項1記載の塗布装置。
【請求項3】
塗布物収容器の下面開口から対象物を載置するテーブルまでの垂直方向の距離、及び/又は、塗布物収容器の下面開口から塗布位置における塗布針先端までの垂直方向の距離Lを調整する手段と、塗布物収容器の下面からテーブルに載置された対象物までの距離を測定する手段とを備え、塗布位置における塗布針先端から対象物までの垂直方向の距離sが、塗布針の先端の直径dに対し、(1/2)d≦s≦dの関係にある請求項1又は2記載の塗布装置。
【請求項4】
塗布針が先端部に下すぼまりのテーパ面を有している請求項1〜3のいずれかに記載の塗布装置。
【請求項5】
塗布針を上下動させる駆動源が圧電素子である請求項1〜4のいずれかに記載の塗布装置。
【請求項6】
塗布針が塗布位置から上昇し、次に塗布位置まで下降する間に、対象物を載置するテーブルを、塗布針の先端の直径dの1/3〜1/2の距離だけ水平方向に移動させる制御装置を備えている請求項1〜5のいずれかに記載の塗布装置。
【請求項7】
塗布物が導電性の金属ペーストである請求項1〜6のいずれかに記載の塗布装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−194490(P2010−194490A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44576(P2009−44576)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000153018)株式会社日本マイクロニクス (349)
【Fターム(参考)】