説明

塗料濾過用ストレーナー

【課題】混合、調色した複数の色成分をもつ塗料を濾過した際に、色成分の一部がストレーナー内に滞留して調色時の色とは異なる色となることを防ぐことができるとともに、濾過速度に優れている塗料濾過用ストレーナーを提供すること。
【解決手段】逆円錐台形状をなす筒状体からなる紙製の本体と、本体の下方開口部を覆うように取り付けられた網体とからなり、網体は、周縁部が本体の外周面に取り付けられているとともに濾過面が全面に亘って平面であり、本体が、塗料が供給される主部材と、該主部材の外周面に取り付けられたリング状部材とから構成されており、網体は、主部材の下方開口部を外側から覆うように且つその周縁部が主部材の外周面に沿うように折り曲げられており、リング状部材は、網体の折り曲げられた周縁部を押さえるように、主部材の外周面に沿って固定されていることを特徴とする塗料濾過用ストレーナーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料濾過用ストレーナーに関し、より詳しくは混合、調色した複数の色成分をもつ塗料をその成分比を変えることなく濾過することができる塗料濾過用ストレーナーに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の補修作業等においてスプレーガンを使用して塗装する作業現場では、塗料かすやゴミ等によるスプレーガンの目詰まりや塗装面の仕上がり低下を防ぐために、通常、塗料をスプレーガンに入れる際にストレーナーを用いて塗料を濾過している。
従来、塗料濾過用のストレーナーは、図14に示されるように、円錐筒形状に形成され、側面の一部及び先端部が濾過用ネット(N)とされているのが一般的であった。
【0003】
しかしながら、このような従来の塗料濾過用ストレーナーでは、塗料が濾過される部分は主に大きな面積をもった側面のネットであって、先端部のネットでは実際には殆ど濾過できない。
従って、先端部に濾過しきれない塗料が滞留してしまい、特にパール、メタリック等の鉱物や金属の粉粒や、一部の塗料(特に比重の重い塗料成分)が多く滞留してしまう。
そのため、混合、調色した複数の色成分をもつ塗料を濾過すると、色成分の一部がストレーナーに残留し、濾過後の塗料は調色時の色成分の比率を維持していないものとなり、これをスプレーガンに移して塗装を行うと、色が合わない(調色した色と異なる色になる)という現象が起こる。
【0004】
一方、本願出願人は下記特許文献1に開示されたストレーナーを考案している。
特許文献1に開示されたストレーナーは、円錐台形状をなす筒状体からなる紙製の本体と、該本体の下方開口部を覆うように取り付けられた網体からなり、前記本体の下方開口部の周縁部には内方に向けて延出する延出部が形成され、該延出部に前記下方開口部の全面を覆うように前記網体が固着されてなる構造を有している。
【0005】
つまり、特許文献1に開示されたストレーナーは、上述した従来技術の先端部を無くすことにより塗料の滞留という問題を解決しようとするものである。
しかしながら、特許文献1に開示されたストレーナーでは、下方開口部の周縁部から内方に向けて延出する延出部が塗料の流れを阻害するため、塗料を入れると中央部から先に流れていき、最終的に延出部近くに塗料が滞留してしまう。
そのため、上記従来技術と同様に、濾過後の塗料は調色時の色成分の比率を維持していないものとなり、塗装を行うと色が合わないという現象が起こる。
加えて、延出部が塗料の流れを阻害するため、濾過に長時間を要するという問題もあり、この問題は特に高粘度の塗料、例えば一部のメタリック塗料や、下地塗装に使用するサフェーサと呼ばれる塗料において顕著に現れる。
【0006】
また、下記特許文献2には、上述した先端部が無い別の構造の塗料濾過用のストレーナー(濾過器)が開示されている。
この特許文献2に開示された濾過器は、円錐形の胴部、胴部の下端に連接した円筒形の袴、袴の下端から内向きに張り出した鍔、鍔の内周を放射状に連結する連結片、胴部の外周に円周方向に間隔を保って縦方向に設けられたリブを一体に備えたプラスチック製の盃形外筒と、円筒形の袴の内周に嵌まる円筒リングと、円筒リングの外周と盃形外筒の袴の内周との間に挟まれて固定される濾布とからなるものである。
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示された濾過器は、袴の下端から内向きに張り出した鍔、鍔の内周を放射状に連結する連結片、円筒形の袴の内周に嵌まる円筒リングにより、塗料の流れが阻害される。また、円筒形の袴の内側壁面と円筒リング上部の境界部に直角の空間ができてしまうため、この部分に塗料が滞留してしまう。この問題は、特に円筒リング上部が、円錐形の胴部の下端部と円筒形の袴との連接部と一致した場合に顕著に現れる。
従って、特許文献2に開示された濾過器も、上記した従来技術と同様に、濾過後の塗料は調色時の色成分の比率を維持していないものとなり、塗装を行うと色が合わないという現象が起こる。
【0008】
更に、下記特許文献3には上述した先端部が無い構造をもつ油濾しが開示されている。
この特許文献3の開示技術は、塗料濾過用ストレーナーではなく本発明とは技術分野が全く相違しているが、漏斗型本体の内部に濾過部材を貼り付けた構造を有している。
しかしながら、特許文献3に開示された油濾しは、漏斗型本体の下方開口端から濾過部材までの部分の長さが非常に長いため、仮に塗料の濾過に使用した場合、当該部分の内面に濾過部材を通過した塗料が多く付着してしまう。そのため、上述した色が合わないという現象が生じることは避けられない。
また、特許文献3の開示技術では、濾過部材を水平にピンと張った状態で漏斗型本体の内部に貼り付けることが困難であり、濾過部材が下方に向けて若干弛んだ状態となる。そのため、濾過部材と漏斗型本体とがなす角(境界)の部分が丸みを帯び、この部分に塗料が滞留してしまう。このことも上述した色が合わないという現象の原因となる。
【0009】
下記特許文献4には、更に別の構造の塗料濾過用のストレーナーが開示されている。
この特許文献4に開示されたストレーナーは、使用時において網体の下端部の円錐状部分を上方に引き上げることにより、上述した先端部が無い構造となるが、引き上げられた部分の網体は山形状となり、その周囲が谷状となるため、谷状となった部分に多くの塗料が滞留してしまう。
そのため、やはり濾過後の塗料は調色時の色成分の比率を維持していないものとなり、塗装を行うと色が合わないという現象が起こる。
【0010】
上述した従来技術で生じる色が合わないという現象は、車両の補修塗装において非常に大きな問題となる。
車両(自動車)の補修塗装においては、全塗装を行うことは稀であって部分塗装を行うことが殆どである。これは、仮に全塗装が必要とされるような事故が生じたとした場合、車両自体が全損状態となって補修塗装では対応できないことが多いためである。つまり、補修塗装が行われるのは、車体の一部を擦った場合のように部分塗装で対応できる場合が殆どである。
部分塗装を行う場合、塗装を施す部分の色をその周囲の色と合わせなければならない。そのため、作業者は周囲の色と合うように部分塗装用の塗料を厳密に配合して調色するのであるが、上述した従来技術では調色時の色成分と濾過された塗料の色成分が異なることになるため、濾過された塗料を用いて部分塗装を行うと周囲の色と合わないことになる。そのため、塗装した部分を再度研磨して塗り直す作業が必要となり、また塗り直しのための塗料を配合を微妙に変えて調色して準備する必要があり、補修作業の効率が著しく低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−224709号公報
【特許文献2】特開2003−126614号公報
【特許文献3】実開昭62−155744号公報
【特許文献4】特開昭63−264109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、混合、調色した複数の色成分をもつ塗料を濾過した際に、色成分の一部がストレーナー内に滞留して調色時の色とは異なる色となることを防ぐことができるとともに、濾過速度に優れている塗料濾過用ストレーナーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、逆円錐台形状をなす筒状体からなる紙製の本体と、前記本体の下方開口部を覆うように取り付けられた網体とからなり、前記網体は、周縁部が前記本体の外周面に取り付けられているとともに濾過面が全面に亘って平面であり、前記本体が、塗料が供給される主部材と、該主部材の外周面に取り付けられたリング状部材とから構成されており、前記網体は、前記主部材の下方開口部を外側から覆うように且つその周縁部が前記主部材の外周面に沿うように折り曲げられており、前記リング状部材は、前記網体の折り曲げられた周縁部を押さえるように、前記主部材の外周面に沿って固定されていることを特徴とする塗料濾過用ストレーナーに関する。
【0014】
請求項2に係る発明は、逆円錐台形状をなす筒状体からなる紙製の本体と、前記本体の下方開口部を覆うように取り付けられた網体とからなり、前記網体は、周縁部が前記本体の内周面に取り付けられているとともに濾過面が全面に亘って平面であり、前記本体が、塗料が供給される主部材と、該主部材の内周面に取り付けられたリング状部材とから構成されており、前記網体は、前記主部材の下方開口部を内側から覆うように且つその周縁部が前記主部材の内周面に沿うように折り曲げられており、前記リング状部材は、前記網体の折り曲げられた周縁部を押さえるように、前記主部材の内周面に沿って固定されていることを特徴とする塗料濾過用ストレーナーに関する。
【0015】
請求項3に係る発明は、前記網体の濾過面の高さが、前記主部材の下端部及び前記リング状部材の下端部と一致していることを特徴とする請求項1又は2記載の塗料濾過用ストレーナーに関する。
【0016】
請求項4に係る発明は、前記本体の下端部が、前記網体の濾過面より下方に突出していることを特徴とする請求項1又は2記載の塗料濾過用ストレーナーに関する。
【0017】
請求項5に係る発明は、前記網体が二重糸から形成されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の塗料濾過用ストレーナーに関する。
【0018】
請求項6に係る発明は、前記主部材が、略扇形状部材の一方の半径部と他方の半径部を所定幅で重ねて接合することにより形成されており、前記略扇形状部材の円弧部の両端の前記所定幅の部分に、接合時の位置合わせ用の凹部又は凸部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の塗料濾過用ストレーナーに関する。
【0019】
請求項7に係る発明は、前記リング状部材が、略円弧状部材の一方の端部と他方の端部を所定幅で重ねて接合することにより形成されており、前記略円弧状部材の円弧部の両端の前記所定幅の部分に、接合時の位置合わせ用の凹部又は凸部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の塗料濾過用ストレーナーに関する。
【0020】
請求項8に係る発明は、前記本体の側面に開口部が形成されており、前記開口部を覆うように網体が取り付けられていることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の塗料濾過用ストレーナーに関する。
【0021】
請求項9に係る発明は、前記主部材が、略扇形状部材の一方の半径部と他方の半径部を所定幅で重ねて接合することにより形成されるとともに、前記開口部を備えており、前記略円弧状部材の一方の半径部から前記開口部の端部までの距離が前記所定幅に設定されていることを特徴とする請求項8記載の塗料濾過用ストレーナーに関する。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に係る発明によれば、逆円錐台形状をなす筒状体からなる紙製の本体と、前記本体の下方開口部を覆うように取り付けられた網体とからなり、前記網体は周縁部が前記本体の外周面に取り付けられているとともに濾過面が全面に亘って平面であることから、網体の全面を平らな濾過面とすることができ、塗料が網体を通過する際に塗料の流れが阻害されることがなく、塗料のストレーナー内への滞留を防ぐことができる。
また、網体が、主部材の下方開口部を外側から覆うように且つその周縁部が主部材の外周面に沿うように折り曲げられており、リング状部材が、網体の折り曲げられた周縁部を押さえるように主部材の外周面に沿って固定されていることから、網体を下方開口部の全面に亘ってピンと張った状態に取り付けることが可能であり、網体の弛みにより生じる塗料の滞留を防ぐことができる。
従って、塗料のストレーナー内への滞留を防ぐことができるため、混合、調色した複数の色成分をもつ塗料を濾過した際に、色成分の一部がストレーナー内に滞留して調色時の色とは異なる色となることを防ぐことが可能となる。加えて、濾過速度が速くなり、濾過に要する時間を短縮することが可能となる。また、リング状部材により、網体を本体に対してしっかりと取り付けることができる。
【0023】
請求項2に係る発明によれば、逆円錐台形状をなす筒状体からなる紙製の本体と、前記本体の下方開口部を覆うように取り付けられた網体とからなり、前記網体は周縁部が前記本体の内周面に取り付けられているとともに濾過面が全面に亘って平面であることから、網体の全面を平らな濾過面とすることができ、塗料が網体を通過する際に塗料の流れが阻害されることがなく、塗料のストレーナー内への滞留を防ぐことができる。
また、網体が、主部材の下方開口部を内側から覆うように且つその周縁部が主部材の内周面に沿うように折り曲げられており、リング状部材が、網体の折り曲げられた周縁部を押さえるように主部材の内周面に沿って固定されていることから、網体を下方開口部の全面に亘ってピンと張った状態に取り付けることが可能であり、網体の弛みにより生じる塗料の滞留を防ぐことができる。
従って、塗料のストレーナー内への滞留を防ぐことができるため、混合、調色した複数の色成分をもつ塗料を濾過した際に、色成分の一部がストレーナー内に滞留して調色時の色とは異なる色となることを防ぐことが可能となる。加えて、濾過速度が速くなり、濾過に要する時間を短縮することが可能となる。また、リング状部材により、網体を本体に対してしっかりと取り付けることができる。
【0024】
請求項3に係る発明によれば、網体の濾過面の高さが主部材の下端部及びリング状部材の下端部と一致していることから、網体の下方側面が露出し、露出部分に塗料が付着して滞留することが防がれる。
【0025】
請求項4に係る発明によれば、本体の下端部が網体の濾過面より下方に突出していることから、網体を通過した後に表面張力により留まろうとする塗料を突出部により下方に導いて落下させることができて塗料の切れが良くなり、塗料が表面張力によって滞留することを防ぐことができる。
【0026】
請求項5に係る発明によれば、網体が二重糸から形成されていることから、単位面積当たりの開口面積を糸の密度を上げることなく狭くすることが可能となる。そのため普通の糸(一重糸)を使用した場合に比べて少ない本数の糸により高い濾過能力を得ることができ、製造コストを低減することも可能となる。
【0027】
請求項6に係る発明によれば、主部材が、略扇形状部材の一方の半径部と他方の半径部を所定幅で重ねて接合することにより形成されており、略扇形状部材の円弧部の両端の所定幅の部分に、接合時の位置合わせ用の凹部又は凸部が設けられていることから、製作時において略扇形状部材の一方の半径部と他方の半径部を所定幅で重ねて接合する際に、凹部又は凸部を目印として重ねることにより、重なり幅(所定幅)を常に一定とすることができる。これにより、逆円錐台状の筒状体の先端角(仮想先端角)及び先端開口径を正確に作製することができる。
【0028】
請求項7に係る発明によれば、リング状部材が、略円弧状部材の一方の端部と他方の端部を所定幅で重ねて接合することにより形成されており、略円弧状部材の円弧部の両端の前記所定幅の部分に、接合時の位置合わせ用の凹部又は凸部が設けられていることから、製作時において略円弧状部材の一方の端部と他方の端部を所定幅で重ねて接合する際に、凹部又は凸部を目印として重ねることにより、重なり幅(所定幅)を常に一定とすることができる。これにより、リング状部材を主部材の外周面に確実に沿わせて固定することが可能となり、網体の弛みを確実に防ぐことができる。
【0029】
請求項8に係る発明によれば、本体の側面に開口部が形成されており、前記開口部を覆うように網体が取り付けられていることから、塗料を本体の側面に形成された開口部に取り付けられた網体によっても濾過することができ、濾過速度を速くすることが可能となる。
【0030】
請求項9に係る発明によれば、主部材が、略扇形状部材の一方の半径部と他方の半径部を所定幅で重ねて接合することにより形成されるとともに開口部を備えており、略円弧状部材の一方の半径部から開口部の端部までの距離が前記所定幅に設定されていることから、製作時において略扇形状部材の一方の半径部と他方の半径部を所定幅で重ねて接合する際に、略円弧状部材の半径部から開口部の端部までの距離の部分を重ね代として重ねることにより、重なり幅(所定幅)を常に一定とすることができる。これにより、逆円錐台状の筒状体の先端角(仮想先端角)及び先端開口径を正確に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る塗料濾過用ストレーナーの第一実施形態を示す外観斜視図であって、(a)は上下を正しく示す図、(b)は上下を逆にして示す図である。
【図2】(a)は本発明に係る塗料濾過用ストレーナーの第一実施形態を示す分解斜視図、(b)はその縦断面図である。
【図3】網体が弛んでいる状態を示す断面図である。
【図4】(a)は本発明の第二実施形態のストレーナーの分解斜視図、(b)はその縦断面図である。
【図5】第一実施形態のストレーナーの変更例を示す図であって、(a)乃至(g)は夫々第一乃至第七変更例である。
【図6】第二実施形態のストレーナーの変更例を示す図であって、(a)乃至(g)は夫々第一乃至第七変更例である。
【図7】(a)は第一実施形態のストレーナーの更なる変更例を示す図であって、(b)は第二実施形態のストレーナーの更なる変更例を示す図である。
【図8】第一実施形態のストレーナーにおいて、本体の主部材の側面に開口部を設け、この開口部を網体で覆うように構成した例を示している。
【図9】(a)は主部材の接合前の状態(展開状態)の一例を示す図である。(b)はリング状部材の接合前の状態(展開状態)の一例を示す図であり、(c)は、図9(a)に示す主部材(1a)と、図9(b)に示すリング状部材(1b)を用いて製作したストレーナーを示す斜視図である。
【図10】サンプル3及びサンプルAの本体(主部材及びリング状部材)の展開図である。
【図11】分光試験の測定結果を示すグラフである。
【図12】分光試験の測定結果を示すグラフである。
【図13】隙間(L1)、突出量(L2)、撓み量(L3)、境界角(α)を示す図である。
【図14】従来の塗料濾過用ストレーナーの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る塗料濾過用ストレーナー(以下、単にストレーナーという場合がある)の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明に係る塗料濾過用ストレーナーの第一実施形態を示す外観斜視図であって、(a)は上下を正しく示す図、(b)は上下を逆にして示す図である。
図2(a)は本発明に係る塗料濾過用ストレーナーの第一実施形態を示す分解斜視図、図2(b)はその縦断面図である。
【0033】
先ず、本発明に係る塗料濾過用ストレーナーの第一及び第二実施形態に共通する構成について説明する。
本発明に係る塗料濾過用ストレーナーは、上方から下方に向けて縮径する逆円錐台形状をなす筒状体からなる本体(1)と、この本体(1)の下方開口部を覆うように取り付けられた網体(2)とから構成されている。
網体(2)は、濾過に供される面(濾過面)が本体(1)の中心軸に対して直角をなす(使用時に水平となる)ように且つ全面に亘って平面となるように、本体(1)に取り付けられている。また、本体(1)の下端部は、水平直線状(網体(2)の濾過面と平行な直線状)となっている。
【0034】
本体(1)は、全体が紙から形成されている。
紙の種類としては、比較的強度があり、透水性が低く、折り曲げが容易なものであれば特に限定されないが、例えば、上級紙や中級紙等の非塗工紙や、アート紙やコート紙等の塗工紙などの印刷用紙、画用紙やケント紙等の筆記用紙、クラフト紙やロール紙等の包装用紙、撥水紙、耐水紙、湿潤強度紙等を好適な例として挙げることができる。
【0035】
網体(2)は適度な大きさのメッシュを有するネットからなり、例えばポリエステル、ナイロン、ポリエチレン等の合成樹脂製の糸から形成されている。
ネットの目の大きさは、40メッシュ、60メッシュ、80メッシュ、100メッシュ、120メッシュ、135メッシュ、150メッシュ、200メッシュ、250メッシュ、300メッシュなど、使用される塗料の種類等に応じて適当な大きさのものを適宜選択して使用することができ、特に限定されないが、通常は80〜200メッシュ程度のものが好適に用いられる。
【0036】
網体(2)を形成する糸は、普通の一重糸であってもよいが、二重糸であることが好ましい。
二重糸とは、二本の糸が同方向に延びるように平行に隣接して一本の糸を形成しているものである。
本発明では、網体(2)が経糸及び緯糸の両方が二重糸であるメッシュからなることが好ましい。
二重糸は、一重糸に比べて糸1本当たりの幅が広い(約2倍)ため、同一のメッシュであっても通過面積当たりの濾過能力が高く(約2倍)なるというメリットがある。
【0037】
本発明に係るストレーナーの容量(ストレーナー内に1回で供給可能な塗料の量)は、100〜300ccに設定される。
これは、上述したように、車両の補修塗装作業時においては部分塗装を行うことが一般的であり、部分塗装に必要とされる塗料の量は100〜300cc程度であることに基づく。
【0038】
本発明に係るストレーナーは、網体(2)の水平部分(濾過面)に、濾過される塗料の通過を妨げる阻害物(例えば、特許文献1記載の内方に向けて延出する延出部、特許文献2記載の連結片や円筒リングのようなもの)が全く存在しない。つまり、本発明に係るストレーナーでは、網体(2)の水平部分の全面が塗料の濾過に供される濾過面となる。
そのため、本体(1)内に供給された塗料は、阻害物により通過を妨げられてストレーナー内部に滞留することがない。これにより、混合、調色した複数の色成分をもつ塗料を濾過した場合でも、色成分の一部がストレーナーに残留することがなく、濾過後の塗料は調色時の色成分の比率をそのまま維持したものとなり、これをスプレーガンに移して塗装を行ったときに色が合わない(調色した色と異なる色になる)という現象が起こらない。
また、塗料の流れが阻害されないため、濾過速度が速く、濾過を短時間で行うことができる。特に高粘度の塗料(例えば一部のメタリック塗料や、下地塗装に使用するサフェーサと呼ばれる塗料)の場合には、濾過時間の短縮効果が大きい。
【0039】
網体(2)の濾過に供される部分(濾過面)の直径は10〜50mmに設定される。
これは、ストレーナーの容量を100〜300ccに設定したときに、直径が10mm未満であると容量に対する濾過面積が小さすぎて濾過速度が非常に遅くなり、50mmを超えると下方開口部が大きくなって濾過後の塗料をスプレーガン容器へと移すことが困難となり、いずれの場合も好ましくないためである。
【0040】
次に、本発明の第一実施形態に係る塗料濾過用ストレーナーの構成について説明する。
図1及び図2に示すように、第一実施形態のストレーナーは、本体(1)が、塗料が供給される主部材(1a)と、この主部材(1a)の下端に取り付けられたリング状部材(1b)の2つの部材から形成されている。
主部材(1a)とリング状部材(1b)は側面(周面)が同じテーパ傾きを有する逆円錐台形状であるが、主部材(1a)の高さはリング状部材(1b)の高さに比べて充分に高い(例えば5〜6倍)。
【0041】
網体(2)は主部材(1a)の下端部を外側から覆うように取り付けられる。
網体(2)の全体の直径は主部材(1a)の下端部の直径よりも一回り大きく設定されている。これにより、網体(2)の周縁部は主部材(1a)の下端部の直径からはみ出すので、このはみ出した周縁部をリング状部材(1b)により押さえて主部材(1a)の側面(外周面)に接着剤や熱プレス等の固定手段により固定する。
このように、リング状部材(1b)により網体(2)の周縁部を押さえて固定することによって、網体(2)がピンと張った状態(中心から周縁部の方向に張力が作用した状態)で主部材(1a)の下端部を外側から覆うように固定される。
そのため、網体(2)が弛む(主部材(1a)の外面に沿うように網体(2)の周縁部が折れ曲がる角(α)が丸くなる)(図3(a)参照)ことが防止される。網体(2)が弛むと、丸くなった角に塗料が滞留するために、塗料がストレーナー内に多く残量することとなり、濾過前後で塗料の色成分の比率の変化が生じやすくなり、濾過速度も大幅に低下する。
網体(2)の撓みを無くすることにより、後述する実施例に示すように、塗料の残量を減らすことができ、濾過前後の塗料の色成分の比率の変化をより確実に防止できるとともに、濾過速度を向上させることができる。
また、リング状部材(1b)を主部材(1a)の下端部に固定することにより、主部材(1a)の下端部の強度が補強されて変形しにくくなる。
【0042】
主部材(1a)の下端部にリング状部材(1b)を取り付けた状態(図1,図2(b)参照)においては、網体(2)の濾過面の高さが、主部材(1a)の下端部及びリング状部材(1b)の下端部と一致している。(尚、図2(b)では網体(2)の厚みを誇張して描いているため、若干ずれている。)
これにより、網体(2)の濾過面とリング状部材(1b)の下端部との間に隙間が生じない。そのため、網体(2)の下方側面が露出することがなく、露出部分に塗料が付着して滞留することが防がれる。
【0043】
次に、本発明の第二実施形態に係る塗料濾過用ストレーナーの構成について説明する。
図4(a)は第二実施形態のストレーナーの分解斜視図、図4(b)はその縦断面図である。
第二実施形態のストレーナーは、本体(1)が、塗料が供給される主部材(1a)と、この主部材(1a)の本体の内周面に取り付けられたリング状部材(1c)の2つの部材から形成されている。
主部材(1a)とリング状部材(1c)は側面(周面)が同じテーパ傾きを有する逆円錐台形状であるが、主部材(1a)の高さはリング状部材(1c)の高さに比べて充分に高い(例えば5〜6倍)。
【0044】
網体(2)は主部材(1a)の下端部を内側から覆うように、当該下端部と略同じ高さに取り付けられる。
網体(2)の全体の直径は主部材(1a)の下端部の直径よりも一回り大きく設定されている。これにより、網体(2)の周縁部は主部材(1a)の内周面に沿うように折り曲げられるので、この折り曲げられた周縁部をリング状部材(1c)により押さえて主部材(1a)の側面(内周面)に接着剤や熱プレス等の固定手段により固定する。
このように、リング状部材(1c)により網体(2)の周縁部を押さえて固定することによって、網体(2)がピンと張った状態(中心から周縁部の方向に張力が作用した状態)で主部材(1a)の下端部を内側から覆うように固定される。
そのため、網体(2)が弛む(主部材(1a)の内面に沿うように網体(2)の周縁部が折れ曲がる角(α)が丸くなる)(図3(b)参照)ことが防止される。網体(2)が弛むと、丸くなった角に塗料が滞留するために、塗料がストレーナー内に多く残量することとなり、濾過前後で塗料の色成分の比率の変化が生じやすくなり、濾過速度も大幅に低下する。
網体(2)の撓みを無くすることにより、後述する実施例に示すように、塗料の残量を減らすことができ、濾過前後の塗料の色成分の比率の変化をより確実に防止できるとともに、濾過速度を向上させることができる。
また、リング状部材(1c)を主部材(1a)の内面に固定することにより、主部材(1a)の強度が内側から補強されて変形しにくくなる。
【0045】
主部材(1a)の内面にリング状部材(1c)を取り付けた状態(図4(b)参照)においては、網体(2)の濾過面の高さが、主部材(1a)の下端部及びリング状部材(1b)の下端部と一致している。(尚、図では網体(2)の厚みを誇張して描いている。)
これにより、網体(2)の濾過面とリング状部材(1c)の下端部との間に隙間が生じない。そのため、網体(2)の下方側面が露出することがなく、露出部分に塗料が付着して滞留することが防がれる。
【0046】
図5は第一実施形態のストレーナーの変更例を示す図であって、(a)乃至(g)は夫々第一乃至第七変更例である。
図5(a)に示す第一変更例のストレーナーは、主部材(1a)及びリング状部材(1b)の下端部が水平直線状(網体(2)の濾過面と平行な直線状)であって、網体(2)の濾過面がリング状部材(1b)の下端部より下方に突出している。そのため、網体(2)の濾過面とリング状部材(1b)の下端部との間に隙間がある。
図5(b)乃至(g)に示す第二乃至第七変更例のストレーナーは、本体(1)及び/又はリング状部材(1b)の下端部が、傾斜直線状(水平面に対して傾斜した直線状)となっている。
図5(b)に示す第二変更例のストレーナーは、網体(2)の濾過面の高さが主部材(1a)の下端部及びリング状部材(1b)の下端部と一致しており、網体(2)の濾過面とリング状部材(1b)の下端部との間に隙間がない。
図5(c)乃至(g)に示す第三乃至第七変更例のストレーナーは、網体(2)の濾過面の高さがリング状部材(1b)の下端部と一致していない。そのため、網体(2)の濾過面とリング状部材(1b)の下端部との間に隙間がある。
【0047】
第一乃至第七変更例の中では、第二変更例のものが好ましく採用される。
これは、網体(2)の濾過面とリング状部材(1b)の下端部との間に隙間が生じないため、網体(2)の下方側面が露出することがなく、露出部分に塗料が付着して滞留することが防がれるためである。
【0048】
図6は第二実施形態のストレーナーの変更例を示す図であって、(a)乃至(g)は夫々第一乃至第七変更例である。
図6(a)に示す第一変更例のストレーナーは、主部材(1a)及びリング状部材(1c)の下端部が水平直線状(網体(2)の濾過面と平行な直線状)であって、網体(2)の濾過面が主部材(1a)の下端部より下方に突出している。そのため、網体(2)の濾過面と主部材(1a)の下端部との間に隙間がある。
図6(b)乃至(g)に示す第二乃至第七変更例のストレーナーは、主部材(1a)及び/又はリング状部材(1c)の下端部が、傾斜直線状(水平面に対して傾斜した直線状)となっている。
図6(b)に示す第二変更例のストレーナーは、網体(2)の濾過面の高さが主部材(1a)の下端部及びリング状部材(1c)の下端部と一致しており、網体(2)の濾過面と主部材(1a)の下端部との間に隙間がない。
図6(c)乃至(g)に示す第三乃至第七変更例のストレーナーは、網体(2)の濾過面の高さがリング状部材(1c)の下端部と一致していない。そのため、網体(2)の濾過面と主部材(1a)の下端部との間に隙間がある。
【0049】
第一乃至第七変更例の中では、第二変更例のものが好ましく採用される。
これは、網体(2)の濾過面と主部材(1a)の下端部との間に隙間が生じないため、網体(2)の下方側面が露出することがなく、露出部分に塗料が付着して滞留することが防がれるためである。
【0050】
図7(a)は第一実施形態のストレーナーの更なる変更例を示す図であって、図7(b)は第二実施形態のストレーナーの更なる変更例を示す図である。
これら変更例のストレーナーは、本体(1)の下端部が網体(2)の濾過面より下方に突出する突出部(3)を有している。
図7(a)に示すストレーナーは、リング状部材(1b)の下端部が網体(2)の濾過面より下方に突出する突出部(3)を有している。
図7(b)に示すストレーナーは、主部材(1a)の下端部が網体(2)の濾過面より下方に突出する突出部(3)を有している。
【0051】
突出部(3)は、濾過時における塗料のきれを良くしてストレーナー内への塗料の滞留を防ぐ(残留量を少なくする)機能を発揮する。
塗料を本体(1)内に供給すると、塗料は網体(2)を通過することにより濾過され、本体(1)の下端部からストレーナー外部(例えばスプレーガン容器内)へと落下する。ここで、突出部(3)を有する場合、表面張力により網体(2)と本体(1)との境界部分に残留しようとした塗料が突出部(3)に沿って下方へと導かれて落下するため、最後まで塗料の落下速度が殆ど低下しない。つまり、塗料のきれが良くなる。これにより、ストレーナー内への塗料の残留が殆ど無くなることから、色成分の割合の変化が濾過前後で生じることがより確実に防止できる。また、濾過に要する時間を短縮できる。
突出部(3)の最長部分の長さ(以下、最大長さという)は10mm以下(図7に示す形態の場合は0.1mm以上7mm以下が好ましい)に設定される。尚、突出部(3)の長さとは、網体(2)の濾過面と突出部(3)の下端部との垂直方向の距離を意味する。
突出部(3)の最大長さを10mm以下に設定する理由は、突出部(3)が10mmを超えて長くなると、塗料が突出部(3)の内面に表面張力により付着することとなり、塗料の残留量が多くなって、濾過前後で塗料の色成分比率の変化が生じる虞があるためである。
【0052】
本発明に係るストレーナーの先端角(下端部を延長して円錐形としたときの円錐の先端角)は60〜70°とすることが好ましい。
先端角が小さすぎると、網体(2)を通過した後の塗料が突出部(3)の内面と網体(2)との間に表面張力により滞留し易くなり、大きすぎると濾過速度が低下するため、いずれの場合も好ましくない。
【0053】
本発明に係るストレーナーにより濾過される塗料の種類は特に限定されないが、例えば、複数の色成分をもつメタリック塗料、下地塗装に使用するサフェーサ等を例示することができる。本発明に係るストレーナーは、特に表面張力が高い高粘度(例えば粘度10mPas以上)の塗料を使用した場合に有効性が高い。
【0054】
本発明に係るストレーナーにおいて、本体(1)の側面に開口部を設け、この開口部を網体で覆うように構成することが好ましい。
図8は、第一実施形態のストレーナーにおいて、本体(1)の主部材(1a)の側面に開口部(4)を設け、この開口部(4)を網体(5)で覆うように構成した例を示している。
図示例では、開口部(4)は、リング状部材(1b)の上方位置に、ストレーナーの中心軸を挟んで対向する2箇所にリング状部材(1b)に沿うように周方向に延びて設けられている。但し、開口部(4)の数、形状、位置はこれに限定されない。
網体(5)は、通常、網体(2)と同じ素材、同じメッシュのものが使用される。
また、図示しないが、第二実施形態のストレーナーについても同様に、本体(1)の側面に開口部(4)及び網体(5)を設けることができる。
【0055】
図9(a)は、主部材(1a)の接合前の状態(展開状態)の一例を示す図である。
本発明に係るストレーナーの主部材(1a)は、略扇形状部材の一方の半径部(11)と他方の半径部(12)を所定幅(W)で重ねて、接着剤や熱プレス等により接合することにより形成される。
主部材(1a)となる略扇形状部材の円弧部(13)の両端の前記所定幅の部分(接合代となる部分)に、接合時の位置合わせ用の円弧状の凸部(14)が設けられている。2つの凸部(14)は同形状であって、その幅は前記所定幅(W)と一致している。
これにより、主部材(1a)の製作時において、略扇形状部材の一方の半径部(11)と他方の半径部(12)を所定幅(W)で重ねて接合する際に、凸部(14)を目印として重ねることにより、重なり幅(所定幅)を常に一定とすることができる。これにより、筒状体の逆円錐台の先端角(仮想先端角)及び先端開口径を正確に作製することができる。
尚、凸部(14)に代えて凹部を設けても同様の効果を得ることができる。
【0056】
主部材(1a)は、側面に網体で覆われる2つの円弧状の開口部(4)を有している。
主部材(1a)となる略扇形状部材の一方の半径部(11)から一方の開口部(4)の端部までの距離は、前記所定幅(W)に設定されている。
これにより、主部材(1a)の製作時において、略扇形状部材の一方の半径部(11)と他方の半径部(12)を所定幅(W)で重ねて接合する際に、一方の開口部(4)の端部を目印として重ねることにより、重なり幅(所定幅)を常に一定とすることができる。これにより、筒状体の逆円錐台の先端角(仮想先端角)及び先端開口径を正確に作製することができる。
【0057】
図9(b)は、リング状部材(1b)の接合前の状態(展開状態)の一例を示す図である。
本発明に係るストレーナーのリング状部材(1b)は、略円弧状部材の一方の端部(15)と他方の端部(16)を所定幅で重ねて、接着剤や熱プレス等により接合することにより形成される。
リング状部材(1b)となる略円弧状部材の円弧部(17)の両端の前記所定幅の部分(接合代となる部分)に、接合時の位置合わせ用の円弧状の凹部(18)が設けられている。2つの凹部(18)は同形状であって、その幅は前記所定幅と一致している。
これにより、リング状部材(1b)の製作時において、略円弧状部材の一方の端部(15)と他方の端部(16)を所定幅で重ねて接合する際に、凹部(18)を目印として重ねることにより、重なり幅(所定幅)を常に一定とすることができる。これにより、リング状部材(1b)を主部材(1a)の外周面に確実に沿わせて固定することが可能となり、網体の弛みを確実に防ぐことができる。
尚、凹部(18)に代えて凸部を設けても同様の効果を得ることができる。また、リング状部材(1c)についても同様の構成を採用することができる。
【0058】
図9(c)は、図9(a)に示す主部材(1a)と、図9(b)に示すリング状部材(1b)を用いて製作したストレーナーを示す斜視図である。
図9(c)に示すように、主部材(1a)の凸部(14)同士が重ねられ、リング状部材(1b)の凹部(18)同士が重ねられている。また、一方の開口部(4)の端部が接合の境界線(L)と一致している。
【実施例】
【0059】
以下、本発明に係る塗料濾過用ストレーナーの実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例には限定されない。
【0060】
<1.色分光試験>
1−1.ストレーナーサンプルの作成
表1に示す3種類のストレーナーをサンプルとして作成した。サンプル1,2,3は従来例(比較例)、サンプル4は本発明の実施例である。
サンプル4の本体(主部材及びリング状部材)の展開図を図10に示す。網体(2)の濾過面の高さは、主部材(1a)の下端部及びリング状部材(1b)の下端部と一致させた。
サンプル3はサンプル4をリング状部材を用いずに作製したもの、サンプル2はサンプル4に内方延出部(延出長さ8mm)を設けたもの、サンプル1はサンプル4に円錐状の先端部を設けたものである。
【0061】
【表1】


【0062】
1−2.塗料の調製
実際の塗装対象車の車体色に合うように、表2に示す配合に基づいて1000gの塗料を配合した。
【0063】
【表2】


【0064】
1−3.塗装
鉄板(大きさ100×60mm、厚さ1.0mm)からなるテストピースを4枚用意した。
表2に示す塗料をサンプル1〜4のストレーナーを使用して50gずつ濾過し、濾過後の塗料をスプレーガンにより4枚のテストピースに夫々吹き付けて塗装した。また比較基準として、ストレーナーで濾過していない塗料をスプレーガンにより1枚のテストピースに吹き付けて塗装した。
塗装は、同じスプレーガンを使用し、空気圧・塗料の吐出量を一定にした。また、塗膜を均一にするために、溶接ロボット(商品名PanaRobo、パナソニック社製)にスプレーガンを取り付け、上下方向を不動として前後左右方向に一定速度で移動させることにより塗装を行った。
各テストピースには、使用したストレーナーのサンプル番号に合わせて1〜4の番号を付けた。また、ストレーナーで濾過していない塗料を使用したもの(比較基準)はテストピース5とした。
【0065】
1−4.分光試験
塗装した5枚のテストピースについて、分光測色計(商品名CM-2600d、ミノルタ株式会社製)を使用し、可視光域(380〜780nm)に対する反射率(%)を夫々測定した。
【0066】
1−5.試験結果
測定結果を図11及び図12に示す。
<図11について>
図11において、横軸は波長(nm)、縦軸は反射率(%)であり、実線はテストピース5(比較基準:濾過紙なし)、一点鎖線はテストピース4(本発明:新型)、短破線はテストピース2(従来品:フラット型)、長破線はテストピース1(従来品:円錐型)の測定結果を示している。
図11に示すように、実線(テストピース5)を基準として比較すると、一点鎖線(テストピース3)は実線と殆ど一致しているのに対して、短破線(テストピース2)と長破線(テストピース1)は実線に対して明らかにずれていることが分かる。
【0067】
<図12について>
図12において、横軸は波長(nm)、縦軸は反射率(%)であり、実線はテストピース5(比較基準:濾過紙なし)、一点鎖線はテストピース4(本発明:新型)、短破線はテストピース3(従来品:リング状部材なし)の測定結果を示している。
図12に示すように、実線(テストピース5)を基準として比較すると、一点鎖線(テストピース4)は実線と殆ど一致しているのに対して、短破線(テストピース3)は実線に対して明らかにずれていることが分かる。
【0068】
1−6.考察
濾過していない塗料を塗布した基準のテストピース5のグラフと比較して、テストピース1,2,3のグラフがずれたという結果は、サンプル1,2,3のストレーナーを使用した場合は濾過前後で各色の成分の配合率が濾過前後で変化したことを示している。
一方、基準のテストピース5のグラフと比較して、テストピース4のグラフがほぼ一致したという結果は、サンプル4のストレーナーを使用した場合、各色の成分の配合率が濾過前後で変化しなかったことを示している。
従って、本発明に係るストレーナー(サンプル4)は、従来のストレーナー(サンプル1,2,3)の問題点(混合、調色した複数の色成分をもつ塗料を濾過した際に、調色時の色とは異なる色となること)を解消できることが、分光試験によって確認された。
【0069】
<2.残量測定試験+濾過時間測定試験(その1)>
2−1.ストレーナーサンプルの作成
サンプルA(実施例)として、本体の主部材の側面に開口部を設け、この開口部を網体で覆うように構成したもの(図8参照)を使用した。サンプルAの本体(主部材及びリング状部材)の展開図を図10に示す。網体(2)の濾過面の高さは、主部材(1a)の下端部及びリング状部材(1b)の下端部と一致させた。
サンプルB(比較例)として、サンプルA(実施例)において、本体をリング状部材を用いずに主部材のみで構成したものを使用した。
サンプルC(比較例)として、表1のサンプル1(円錐形)を使用した。
サンプルA,Bの網体としては、二重糸から形成された100メッシュ(開口部130μm角)のものを使用した。
【0070】
2−2.濾過
濾過する塗料として以下の4種類のものを使用した。尚、塗料4の「ダイハツT22」の成分を表3に示す
・塗料1・・・クリアー+シンナー20%
・塗料2・・・クリアー+シンナー40%
・塗料3・・・サフェーサ+シンナー20%
・塗料4・・・混合色(ダイハツT22)+シンナー20%
上記4種類の塗料を50gずつサンプルA,B,Cのストレーナーに供給して濾過した。ストレーナーからの塗料の滴りが無くなった時点で濾過終了と判断し、濾過開始から濾過終了までの時間(濾過時間)と、濾過前と濾過後のストレーナーの重量を測定し、重量差(濾過後重量−濾過前重量)を塗料の残量として算出した。
【0071】
【表3】


【0072】
2−3.試験結果
残量の測定結果を表4〜表7に示し、濾過時間の測定結果を表8〜表11に示す。
【0073】
【表4】


【0074】
【表5】


【0075】
【表6】


【0076】
【表7】


【0077】
【表8】


【0078】
【表9】


【0079】
【表10】


【0080】
【表11】


【0081】
2−4.考察
上記試験結果より、以下のことが確認された。
(1)塗料の残量について
サンプルA(網体をリング状部材で押さえたもの)は、サンプルB(リング状部材が無いもの)に比べて、塗料の残量が大幅に減少した。
(2)濾過速度について
サンプルA(網体をリング状部材で押さえたもの)は、サンプルB(リング状部材が無いもの)及びサンプルC(円錐形のもの)に比べて、濾過時間が大幅に短縮した。
(3)結論
従って、本発明に係るストレーナー(サンプルA)は、従来のストレーナー(サンプルB,C)の問題点(塗料を濾過した際に調色時の色とは異なる色となる原因である塗料の残留、及び濾過速度が遅いこと)を解消できることが確認された。
【0082】
<3.残量測定試験+濾過時間測定試験(その2)>
3−1.ストレーナーサンプルの作成
上記サンプルAにおいて本体の主部材の側面に開口部を設けなかったものを第一実施例サンプルとし、上記サンプルBにおいて本体の主部材の側面に開口部を設けなかったものを比較例サンプル(サンプル9)とした。
第一実施例サンプルとしては、リング状部材(1b)の下端部から網体(2)の濾過面までの距離(隙間)(L1)が0mmのもの(網体の濾過面と、主部材の下端部及びリング状部材の下端部とを一致させたもの)をサンプル1(図2(b)参照)とし、1mmのものをサンプル2とし、2mmのものをサンプル3とし、3mmのものをサンプル4とし、5mmのものをサンプル5とした。また、リング状部材の下端部が網体の濾過面から突出しているもの(図7(a)参照)を突出量(L2)が小さい順にサンプル6(突出量0.1mm)、サンプル7(突出量1mm)、サンプル8(突出量2mm)とした。
また、各サンプルについて、網体(2)の撓み量(主部材の下端面から網体の濾過面下端部までの距離)(L3)及び、網体(2)の外縁部の接線と主部材(1a)の外周面のなす境界角(α)を測定した。
図13に隙間(L1)、突出量(L2)、撓み量(L3)、境界角(α)を示す。
また、表12に各サンプルについてまとめた。尚、表中の隙間、突出量、撓み量の単位はmm、境界角の単位は度である。
【0083】
【表12】


【0084】
3−2.濾過
濾過する塗料として以下の2種類のものを使用した。
・塗料1・・・クリアー+シンナー20%
・塗料2・・・クリアー+シンナー40%
上記2種類の塗料を50gずつサンプル1〜9のストレーナーに供給して濾過した。ストレーナーからの塗料の滴りが無くなった時点で濾過終了と判断し、濾過開始から濾過終了までの時間(濾過時間)と、濾過前と濾過後のストレーナーの重量を測定し、重量差(濾過後重量−濾過前重量)を塗料の残量として算出した。
【0085】
3−3.試験結果
測定結果を表13〜表14に示す。
【0086】
【表13】


【0087】
【表14】


【0088】
3−4.考察
上記試験結果より、以下のことが確認された。
(1)主部材の外周面にリング状部材を有する第一実施例サンプル(1〜8)は、リング状部材を有さない比較例サンプル(9)と比較して、撓み量が小さく(境界角が大きく)、塗料の残量が格段に少なく、濾過時間も大幅に短縮される。
(2)リング状部材の下端部から網体の濾過面までの距離(隙間)が小さい方が、撓み量が小さく(境界角が大きく)、塗料の残量が少なく、濾過時間も短縮される。隙間が0mmのもの(サンプル1)が、最も塗料残量が少なく、濾過時間も短い。
(3)突出部を有する第一実施例サンプル(6〜8)は、突出部を有さない第一実施例サンプル(1〜7)と比較して、塗料の残量が少なく、濾過時間も短縮される。
【0089】
<4.残量測定試験+濾過時間測定試験(その3)>
4−1.ストレーナーサンプルの作成
上記サンプルAにおいて本体の主部材の側面に開口部を設けず且つ網体及びリング状部材を主部材の内周面に取り付けたものを第二実施例サンプルとした。第一実施例と第二実施例との違いは、網体及びリング状部材の取り付け位置が、第一実施例では主部材の外周面であるのに対して、第二実施例では主部材の内周面である点である。
第二実施例サンプルとしては、リング状部材(1c)の下端部から網体(2)の濾過面までの距離(隙間)(L1)が0mmのもの(網体の濾過面と、主部材の下端部及びリング状部材の下端部とを一致させたもの)をサンプル10(図4(b)参照)とし、1mmのものをサンプル11とし、2mmのものをサンプル12とし、3mmのものをサンプル13とした。
また、表15に各サンプルについてまとめた。尚、表中の隙間の単位はmmである。尚、サンプル9は<3.残量測定試験+濾過時間測定試験(その2)>の場合と同じであるが、比較のために再掲した。
【0090】
【表15】


【0091】
4−2.濾過
濾過する塗料及び測定方法は、<3.残量測定試験+濾過時間測定試験(その2)>の場合と同じとした。
【0092】
4−3.試験結果
測定結果を表16〜表17に示す。
【0093】
【表16】


【0094】
【表17】


【0095】
4−4.考察
上記試験結果より、以下のことが確認された。
(1)主部材の内周面にリング状部材を有する実施例サンプル(10〜13)は、リング状部材を有さない比較例サンプル(9)と比較して、塗料の残量が格段に少なく、濾過時間も大幅に短縮される。
(2)主部材の下端部から網体の濾過面までの距離(隙間)が小さい方が、塗料の残量が少なく、濾過時間も短縮される。隙間が0mmのもの(サンプル10)が、最も塗料残量が少なく、濾過時間も短い。
【0096】
色分光試験と残量測定試験の結果より、ストレーナー内の塗料の残量が少ないと濾過前と濾過後の塗料の色成分の比率は殆ど変化しないが、多くなると濾過前と濾過後の塗料の色成分の比率に顕著な変化が生じていることが分かる。残量が多くなるということはストレーナー内に残る色成分が多くなるということを意味するから、他のサンプルでも同様の現象が生じることが類推できる。
従って、濾過前後における塗料の色成分の比率の顕著な変化を防止するためには、ストレーナー内の塗料の残量を少なくすることが重要であると言える。
【0097】
上記した3種類の試験(色分光試験、残量測定試験、濾過速度測定試験)により、本発明に係る塗料濾過用ストレーナーによれば、主部材の外周面又は内周面に取り付けられたリング状部材を有することによって、混合、調色した複数の色成分をもつ塗料を濾過した際に、色成分の一部がストレーナー内に滞留することによって調色時の色とは異なる色となるという現象が起こることを防止できるとともに、濾過時間を大幅に短縮できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明に係る塗料濾過用ストレーナーは、特に自動車の車体の補修塗装作業時においてスプレーガンに供給するための塗料を濾過するために好適に利用されるとともに、携帯電話など多種多様な色合わせを必要とする工業製品の塗装等に利用される。
【符号の説明】
【0099】
1 本体
1a 主部材
1b リング状部材(外周面側)
1c リング状部材(内周面側)
2 網体
3 突出部
4 開口部
5 網体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆円錐台形状をなす筒状体からなる紙製の本体と、
前記本体の下方開口部を覆うように取り付けられた網体とからなり、
前記網体は、周縁部が前記本体の外周面に取り付けられているとともに、濾過面が全面に亘って平面であり、
前記本体が、塗料が供給される主部材と、該主部材の外周面に取り付けられたリング状部材とから構成されており、
前記網体は、前記主部材の下方開口部を外側から覆うように且つその周縁部が前記主部材の外周面に沿うように折り曲げられており、
前記リング状部材は、前記網体の折り曲げられた周縁部を押さえるように、前記主部材の外周面に沿って固定されていることを特徴とする塗料濾過用ストレーナー。
【請求項2】
逆円錐台形状をなす筒状体からなる紙製の本体と、
前記本体の下方開口部を覆うように取り付けられた網体とからなり、
前記網体は、周縁部が前記本体の内周面に取り付けられているとともに、濾過面が全面に亘って平面であり、
前記本体が、塗料が供給される主部材と、該主部材の内周面に取り付けられたリング状部材とから構成されており、
前記網体は、前記主部材の下方開口部を内側から覆うように且つその周縁部が前記主部材の内周面に沿うように折り曲げられており、
前記リング状部材は、前記網体の折り曲げられた周縁部を押さえるように、前記主部材の内周面に沿って固定されていることを特徴とする塗料濾過用ストレーナー。
【請求項3】
前記網体の濾過面の高さが、前記主部材の下端部及び前記リング状部材の下端部と一致していることを特徴とする請求項1又は2記載の塗料濾過用ストレーナー。
【請求項4】
前記本体の下端部が、前記網体の濾過面より下方に突出していることを特徴とする請求項1又は2記載の塗料濾過用ストレーナー。
【請求項5】
前記網体が二重糸から形成されていることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の塗料濾過用ストレーナー。
【請求項6】
前記主部材が、略扇形状部材の一方の半径部と他方の半径部を所定幅で重ねて接合することにより形成されており、
前記略扇形状部材の円弧部の両端の前記所定幅の部分に、接合時の位置合わせ用の凹部又は凸部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の塗料濾過用ストレーナー。
【請求項7】
前記リング状部材が、略円弧状部材の一方の端部と他方の端部を所定幅で重ねて接合することにより形成されており、
前記略円弧状部材の円弧部の両端の前記所定幅の部分に、接合時の位置合わせ用の凹部又は凸部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の塗料濾過用ストレーナー。
【請求項8】
前記本体の側面に開口部が形成されており、
前記開口部を覆うように網体が取り付けられていることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の塗料濾過用ストレーナー。
【請求項9】
前記主部材が、略扇形状部材の一方の半径部と他方の半径部を所定幅で重ねて接合することにより形成されるとともに、前記開口部を備えており、
前記略円弧状部材の一方の半径部から前記開口部の端部までの距離が前記所定幅に設定されていることを特徴とする請求項8記載の塗料濾過用ストレーナー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−224518(P2011−224518A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99223(P2010−99223)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(591128305)株式会社ビック・ツール (13)
【Fターム(参考)】