説明

塗料用フッ素樹脂組成物およびこれを用いた物品

【課題】現場施工が可能であり、透明性、耐薬品性および耐候性に優れた熱線遮蔽膜を形成できる塗料用フッ素樹脂組成物を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂(A)および熱線遮蔽無機微粒子(B)を含み、前記フッ素樹脂(A)の水酸基価が30〜200mgKOH/gであり、かつ前記熱線遮蔽無機微粒子(B)の平均粒子径が1〜200nmである塗料用フッ素樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料用フッ素樹脂組成物、およびこれを用いて形成された熱線遮蔽膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光線から有害な紫外線や不要な近赤外線をできるだけ除去し、目に見える可視光のみを通過させるために、透明なプラスチックやガラス表面に熱線遮蔽性や紫外線遮蔽性を付与する需要が増大している。
例えば建築用ガラスや車両用ガラスにあっては、該ガラスを通して建物内や車内に流入する赤外線を遮蔽することにより、建物内や車内の温度上昇、冷房負荷を軽減することができる。
【0003】
従来、ガラス上にこのような機能を有する透明な膜を成膜する方法として、スパッタ法または蒸着法などの乾式法が多く用いられるが、大掛かりな装置および複雑な工程が必要とされ、製品としてのコストも非常に高価となる。また、このような乾式法は、既存の窓ガラスに現場で施工して熱線遮蔽性を付与したい場合には適用が難しい。
【0004】
既存の窓ガラスに現場で施工できる方法としては、例えば、熱線遮蔽性を有するフィルムを作製して貼り付ける方法や、熱線遮蔽性を付与できる成分を含む塗料を調製して塗布する塗布法がある。
しかしながらフィルムを貼り付ける方法では、ガラスとフィルムとの接着面で気泡が発生したり、フィルム自体が紫外線の影響で変色や色褪せを生じやすいなど、耐久性に問題がある。また大面積のガラスの場合はフィルムの継ぎ目が生じてしまう。
【0005】
塗布法については、例えば下記特許文献1に、透明なガラス板上に、アンチモンをドープした酸化スズ微粒子からなる皮膜を形成し、該微粒子の間隙を充填するように有機シリコン化合物を含有する処理液を含浸させた後、焼成して無機高分子マトリックスを形成することによって、熱線遮蔽性皮膜を形成する方法が記載されている。
また下記特許文献2には、錫ドープ酸化インジウム粉末と、有機樹脂と、非アルコール系有機溶媒とを含む膜形成材料から、赤外線カットオフ機能を有する透明な膜を形成する方法が記載されている。有機樹脂の例としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル、エポキシ樹脂が挙げられている(段落0027)。
【特許文献1】特許第3408578号公報
【特許文献2】特許第2715859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法で得られる熱線遮蔽性皮膜は、耐薬品性、特に耐アルカリ性が低く、一般ガラス洗浄剤による清掃などで膜が溶解してしまうおそれがあり、耐久性が不十分である。
特許文献2に記載されている方法で得られる膜は、得られる膜の耐候性が乏しく、例えば建築物窓ガラスなど耐候性を要求される部位に使用すると、数年で劣化して性能が低下するおそれがあるため実用的ではない。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、分散安定性に優れ、現場施工が可能であり、透明性、耐薬品性および耐候性に優れた熱線遮蔽膜を形成することができる塗料用フッ素樹脂組成物、およびこれを用いた物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の塗料用フッ素樹脂組成物は、フッ素樹脂(A)および熱線遮蔽無機微粒子(B)を含み、前記フッ素樹脂(A)の水酸基価が30〜200mgKOH/gであり、かつ前記熱線遮蔽無機微粒子(B)の平均凝集粒子径が1〜200nmであることを特徴とする。
前記フッ素樹脂(A)の数平均分子量が20000以下1000以上であることが好ましい。
前記熱線遮蔽無機微粒子(B)が、錫とインジウムの複合酸化物微粒子、錫とアンチモンの複合酸化物微粒子、六ホウ化ランタン微粒子、および酸化亜鉛微粒子からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
塗料用フッ素樹脂組成物が、さらに紫外線吸収剤(C)を含むことが好ましい。
前記紫外線吸収剤(C)が、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、およびトリアジン系紫外線吸収剤からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
前記フッ素樹脂(A)が硬化反応性部位を有し、該硬化反応性部位をと反応する反応性基を有するアルコキシシラン(D)を含むことが好ましい。
【0009】
本発明の物品は、基材上に、本発明の塗料用フッ素樹脂組成物を用いて形成された熱線遮蔽膜を有する。
前記基材上にプライマー層が設けられており、該プライマー層上に前記熱線遮蔽膜が形成されていることが好ましい。
前記プライマー層が、シランカップリング剤を用いて形成された層であることが好ましい。
特に前記基材がガラスである場合、前記プライマー層を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗料用フッ素樹脂組成物によれば、分散安定性に優れ、現場施工が可能であり、透明性、耐薬品性および耐候性に優れた熱線遮蔽膜を形成することができる。
本発明の物品は、基材上に現場施工により形成された、透明性、耐薬品性および耐候性が良好な熱線遮蔽膜を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の塗料用フッ素樹脂組成物(以下、単に塗料組成物ということもある。)は、フッ素樹脂(A)および熱線遮蔽無機微粒子(B)を含有する。さらに紫外線吸収剤(C)を含むことが好ましい。
<フッ素樹脂(A)>
フッ素樹脂(A)(以下、(A)成分ということもある。)は、フルオロオレフィンに基づく重合単位を有する重合体である。(A)成分は溶剤に可溶であるものが好ましく、塗料用として公知の各種フッ素樹脂を用いることができる。
フッ素樹脂(A)はフルオロオレフィンの単独重合体でもよいが、フルオロオレフィンに基づく重合単位の他に、フルオロオレフィンと共重合可能な単量体に基づく重合単位を含む共重合体が好ましい。
フッ素樹脂(A)中のフッ素含有率は10質量%以上が好ましい。該フッ素含有率が10質量%未満であると、塗膜(熱線遮蔽膜)の耐候性が不十分となるおそれがある。また塗膜の耐候性および塗装作業性を加味すると、該フッ素含有率は15〜50質量%であることがより好ましい。より好ましくは40質量%以下であり、30質量%以下がさらに好ましい。
【0012】
フッ素樹脂(A)は硬化剤と反応して架橋結合を形成する硬化反応性部位を有することが好ましい。該硬化反応性部位としては、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基などの活性水素を有する基や、エポキシ基、イソシアネート基、アリル基などが例示される。中でも入手の容易性、硬化反応性の面から、活性水素を有する基、特に水酸基が好ましい。
【0013】
フッ素樹脂(A)は、水酸基価が30〜200mgKOH/gであるものが用いられる。本発明における水酸基価の値は、JIS K 0070に準処する方法で測定した値である。フッ素樹脂(A)の水酸基価が30mgKOH/g以上であることにより、熱線遮蔽無機微粒子(B)の平均粒子径が200nm以下と小さい場合にも良好な分散安定性が得られ、塗料組成物のポットライフの点で好ましい。また紫外線吸収剤(C)を含有させる場合にはその良好な分散安定性が得られるので好ましい。フッ素樹脂(A)の水酸基価は、より好ましくは40mgKOH/g以上であり、50mgKOH/g以上がさらに好ましく、80mgKOH/g以上が最も好ましい。
一方、該水酸基価が200mgKOH/g以下であることにより、フッ素樹脂(A)の溶剤への良好な溶解性が得られ、また、得られる塗料組成物の粘度が大きくなりすぎないため好ましい。より好ましくは150mgKOH/g以下であり、130mgKOH/g以下がさらに好ましい。
【0014】
フッ素樹脂(A)の数平均分子量は20000以下1000以上が好ましい。本発明における数平均分子量は、ポリスチレンを標準物質としてGPCにより測定される値である。
該数平均分子量が20000以下であると、熱線遮蔽無機微粒子(B)および紫外線吸収剤(C)の良好な分散安定性が得られやすく、塗料組成物のポットライフの点で好ましい。より好ましくは15,000以下であり、12,000以下がさらに好ましい。一方、該数平均分子量が1000以上であると本来フッ素樹脂に求められる高い耐候性や耐久性が十分に発現しやすいため好ましい。数平均分子量は、より好ましくは3000以上であり、5,000以上がさらに好ましい。
【0015】
フッ素樹脂(A)の酸価は0(ゼロ)でもよいが、0より大きく10mgKOH/g以下であることが好ましい。本発明における酸価の値は、JIS K 5601−2−1に準処する方法で測定した値である。
酸価が高い方が、熱線遮蔽無機微粒子(B)および紫外線吸収剤(C)の良好な分散安定性が得られやすい。一方、該酸価が10mgKOH/g以下であると着色しにくく貯蔵安定性も発現しやすいため好ましい。
酸価が0の場合は、フッ素樹脂(A)の水酸基価および/または数平均分子量を調整することにより、熱線遮蔽無機微粒子(B)および紫外線吸収剤(C)の良好な分散安定性を得ることができる。
【0016】
フッ素樹脂(A)として、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、パーフルオロプロピルビニルエーテルなどのフルオロオレフィン類と、ビニルエーテル類、カルボン酸ビニル類、アリルエーテル類、カルボン酸アリル類、イソプロペニルエーテル類などの炭化水素系単量体と、ヒドロキシブチルビニルエーテル、グリシジルビニルエーテルなどの硬化反応性部位を有する単量体の共重合体が好適である。
このような共重合体からなるフッ素樹脂は、例えば特開昭57−34107号、特開昭57−34108号、特開昭58−189108号、特開昭61−57609号、特開昭61−113607号などに記載されており、市販品から入手できる。
特に、ルミフロンシリーズ(商品名、旭硝子社製)などの、フルオロオレフィン類とビニルエーテル類の共重合体(フルオロオレフィン・ビニルエーテル共重合体)は、良好な透明性および耐候性が得られる点で好ましい。
フッ素樹脂(A)は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。フッ素樹脂(A)が2種以上の混合物である場合、該混合物を構成している各フッ素樹脂の水酸基価、数平均分子量、および酸価が上記範囲内であることが好ましい。
【0017】
<熱線遮蔽無機微粒子(B)>
熱線遮蔽無機微粒子(B)(以下、(B)成分ということもある。)は、熱線遮蔽機能をもつ無機微粒子であって、可視光線の反射および吸収が少ないものが好ましく用いられる。
熱線遮蔽無機微粒子(B)は、具体的には、錫とインジウムの複合酸化物微粒子(ITO)、錫とアンチモンの複合酸化物微粒子(ATO)、六ホウ化ランタン微粒子(LaB)、および酸化亜鉛微粒子からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。酸化亜鉛は、紫外線吸収能も有するので好ましい。また酸化亜鉛は、アルミニウム、ガリウム、インジウム、イットリウム、ホウ素、スカンジウムおよびタリウムなどのドーパントを含有してもよい。
上記に挙げたうちで、ITO、ATO、または六ホウ化ランタン(LaB)が熱線遮蔽性に寄与する800〜1800nmの波長の近赤外線を効果的に遮蔽できる点で好ましい。
特に、ITOは、これを含む膜における可視光透過率が高く、透明性の高い膜が得られやすいため、透明基材の外観を損ねない点で好ましい。塗布ムラも出にくい。またITOは光触媒性能がないため屋外使用においても塗膜の耐候劣化が促進されるおそれがない点でも好適である。
【0018】
本発明の塗料組成物に含まれている熱線遮蔽無機微粒子(B)の平均粒子径は1〜200nmである。該熱線遮蔽無機微粒子(B)の平均粒子径が200nm超であると、得られる塗膜の透明性が低下するおそれがあるため好ましくない。一方、該平均粒子径が1nm未満であると、熱線遮蔽性能が発現されにくくなるおそれがあるため好ましくない。熱線遮蔽無機微粒子(B)は、塗料組成物中において、一次粒子の状態でも、凝集粒子の状態でもよい。塗膜中における熱線遮蔽無機微粒子(B)の状態は、塗料組成物中での状態が反映される。このため、得られる塗膜の透明性および電波透過性の点で、熱線遮蔽無機微粒子(B)は塗料組成物中に高度に分散されていることが好ましい。そのために、塗料組成物を調製する際には、予め分散媒中に熱線遮蔽無機微粒子(B)を分散して用いることが好ましい。上記熱線遮蔽無機微粒子(B)の平均粒子径は10〜150nmがより好ましく、30〜100nmがさらに好ましい。なお、本明細書における平均粒子径は、体積基準による平均粒子径をいう。該平均粒子径は、熱線遮蔽無機微粒子(B)が塗料組成物中に分散している状態で測定した値である。塗料組成物中または分散媒中に分散している粒子の粒子径は、レーザー光散乱法により計測することが好ましい。レーザー光散乱法の装置としては、具体的には、動的光散乱法粒度分析計(日機装社製、商品名マイクロトラックUPA)が好ましい。また、本明細書における、平均粒子径の具体的な測定方法としては、塗料組成物を、本発明で使用できる、トルエン、キシレン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の有機溶媒で希釈し、固形分濃度を0.01〜1.0質量%程度とした後、動的光散乱法粒度分析計等のレーザー光散乱法により測定することが好ましい。
熱線遮蔽無機微粒子(B)の分散媒としては、水、アルコールなどの極性溶媒や、トルエン、キシレンといった非極性溶媒など、種々の溶媒が適宜利用できる。また塗料組成物に含まれる溶剤と同じ分散媒に分散させてもよい。分散方法としては、公知の方法を利用でき、超音波照射、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ペイントシェーカーなどのメディアミルや、ジェットミルやナノマイザーなどの高圧衝撃ミルなどを利用できる。また、熱線遮蔽無機微粒子(B)を分散液中で安定化させるために、各種分散剤を使用してもよい。分散媒中に熱線遮蔽無機微粒子(B)が分散した材料は、市販品からも入手できる。
【0019】
<紫外線吸収剤(C)>
紫外線吸収剤(C)(以下、(C)成分ということもある。)は、波長380nm以下の紫外線を吸収する材料であって、塗料組成物中で均一に溶解または分散しやすく、可視光線の反射および吸収が少ないものが好ましく用いられる。
本発明において、紫外線吸収剤(C)は必須ではないが、これを含有させることにより、熱線遮蔽効果に加えて紫外線遮蔽効果も得られるため実用上好ましい。
【0020】
有機系の紫外線吸収剤としては、長波長側に吸収域を有するベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物;短波長側に吸収域を有するトリアジン系化合物、シアノアクリレート系化合物、シュウ酸アニリド系化合物などが挙げられる。これらは市販品から入手できる。
また紫外線吸収剤(C)として、紫外線遮蔽性無機微粒子を用いてもよい。具体例としては、酸化セリウム(CeO)、酸化チタン(TiO)が挙げられる。これらは市販品から入手できる。紫外線遮蔽性無機微粒子の平均粒子径は1〜200nmが好ましい。該平均粒子径が200nm超であると、得られる塗料組成物の分散安定性が低下するおそれがあるほか、得られる塗膜の透明性が低下するおそれがあるため好ましくない。一方、該平均粒子径が小さすぎると紫外線遮蔽性能が発現されにくくなるため好ましくない。
【0021】
紫外線や空気中の酸素による紫外線吸収剤(C)自体の劣化が少ない点、紫外線遮蔽性無機微粒子の方が好ましい。なお、紫外線遮蔽性無機微粒子のうちで、TiOは微粒子表面の触媒作用が比較的強く、CeOはかかる不都合が無い点でより好ましい。
塗料組成物中での安定性が良好であり、塗膜の透明性および密着性に悪影響が生じ難い点では有機系の紫外線吸収剤が好ましい。有機系の紫外線吸収剤を用いる場合、紫外線や空気中の酸素による劣化を防止するために、塗料組成物中に光安定化剤(HALS)、過酸化物分解剤、消光剤などを適宜添加してもよい。
【0022】
紫外線吸収剤(C)は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
紫外線吸収剤(C)として、特に、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、およびトリアジン系紫外線吸収剤からなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の例としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシベンゾフェノン等が挙げられる。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の例としては、ベンゼンプロパン酸3−(2H−ベンゾトリアゾールー2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシC7−9側鎖および直鎖アルキルエステル(チヌビン384−2:商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、3−[3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]プロピオン酸イソオクチル(チヌビン384:商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(チヌビン328:商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(1,1−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール(チヌビン900:商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、2−[2−ヒドロキシ−3−(1,1−ジメチルベンジル)−5−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール(チヌビン928:商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル]プロピオン酸メチル/ポリエチレングリコール300の縮合物(チヌビン1130:商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0024】
トリアジン系紫外線吸収剤の例としては、2−(4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(チヌビン400:商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、2−(4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。
【0025】
上記ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、またはトリアジン系紫外線吸収剤としては、上記の具体例に限定されず、塗料組成物中に含まれる樹脂成分との相溶性、融点等を勘案して、公知又は周知のベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系又はトリアジン系紫外線吸収剤から適宜選定して採用できる。
【0026】
紫外線吸収剤(C)としてベンゾフェノン系紫外線吸収剤またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の少なくとも一方(i)と、トリアジン系紫外線吸収剤(ii)を混合して使用することが、充分な紫外線遮蔽性を得るうえで好ましい。
これらの混合比率は特に限定されないが、(i)を多めに使用するのが好ましい。例えば(i)/(ii)の使用比率が質量基準で100/90〜100/20が好ましく、100/70〜100/30がより好ましい。
【0027】
<(A)、(B)、(C)成分の含有量>
塗料組成物が(A)成分と(B)成分を含み、紫外線吸収剤(C)を含まない場合、(A)成分と(B)成分の合計の固形分量を100質量%とすると、(A)成分(固形分)が20〜95質量%、(B)成分(固形分)が5〜80質量%の範囲が好ましく、(A)成分が30〜90質量%、(B)成分が10〜70質量%の範囲がより好ましい。
(A)成分が20質量%以上であると良好な現場施工性および耐久性が得られやすく、95質量%以下であると(B)成分の含有量を充分に確保して、良好な熱線紫外線遮蔽性が得られやすい。
(B)成分が5質量%以上であると充分な熱線遮蔽性能が得られやすく、80質量%以下であるとバインダーとなるフッ素樹脂(A)の含有量を充分に確保して、良好な耐久性が得られやすい。
【0028】
塗料組成物がフッ素樹脂(A)、熱線遮蔽無機微粒子(B)、および紫外線吸収剤(C)を含む場合、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計の固形分量を100質量%とするとき、(A)成分(固形分)が20〜90質量%、(B)成分(固形分)が5〜70質量%、(C)成分(固形分)が1〜15質量%であることが好ましい。
(A)成分が20質量%以上であると良好な現場施工性および耐久性が得られやすく、90質量%以下であると(B)成分および(C)成分の含有量を充分に確保して、良好な熱線紫外線遮蔽性が得られやすい。
(B)成分が5質量%以上であると充分な熱線遮蔽性能が得られやすく、70質量%以下であるとバインダーとなるフッ素樹脂(A)の含有量を充分に確保して、良好な耐久性が得られやすい。
(C)成分が1質量%以上であると充分な紫外線遮蔽性が得られやすく、15質量%以下であるとフッ素樹脂(A)との良好な相溶性が得られやすく、また基材と塗膜との良好な密着性も得られやすい。(A)成分との相溶性が不充分であると、(C)成分が塗膜からブリードアウトしやすい。
特に、高い熱線遮蔽性、紫外線遮蔽性、耐薬品性、および耐候性を同時に達成するためには、(A)成分が30〜60質量%、(B)成分が10〜50質量%、(C)成分が5〜15質量%であることがより好ましい。
【0029】
塗料組成物の固形分濃度は、0.1〜40質量%の範囲が好ましい。本発明における塗料組成物の固形分濃度とは、塗料組成物の全量(100質量%)のうち、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計の固形分量が占める割合(単位:質量%)をいう。
該固形分濃度が0.1質量%以上であると、塗料組成物を基材上に塗布した際、ムラの発生を抑えやすい。また、充分な熱線遮蔽効果が得られる膜厚を確保しやすい。該固形分濃度が40質量%以下であると、塗布する際の作業性が良いほか、塗膜の良好な外観および透明性が得られやすい。また塗料組成物としての良好な安定性が得られやすく、充分な保存安定性が得られやすい。該固形分濃度は10〜40質量%がより好ましく、20〜35質量%がさらに好ましい。
【0030】
<アルコキシシラン(D)>
塗料組成物に、硬化反応性部位を有するフッ素樹脂(A)を含有させる場合に、該硬化反応性部位と反応する反応性基を有するアルコキシシラン(D)(以下、(D)成分ということもある。)を含有させてもよい。(D)成分を用いることにより、塗膜の耐久性を向上させることができる。また、熱線遮蔽無機微粒子(B)と(D)成分とが反応して、シランカップリング剤による微粒子の表面改質と同様の効果が得られ、(B)成分と(A)成分とのなじみが良くなる効果も期待できる。
【0031】
フッ素樹脂(A)の硬化反応性部位と反応する反応基としては、イソシアネート基、アリル基、エポキシ基、アクリロイルオキシ基、アミノ基、ケチミン基、アミド基、チオール基、水酸基などが例示される。ただし、後述の(E)成分の範疇に含まれるものは(D)成分には含まれないものとする。
特に、活性水素を有さないアルコキシシラン(D)が安定性の点から好ましい。
好適な反応性基として、アクリロイルオキシ基、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、ケチミン基が挙げられる。
好適なアルコキシシラン(D)としては、トリエトキシシリル−N−(1、3ジメチルブチリデン)プロピルアミン、イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、イソシアネートプロピルジメトキシメチルシラン、イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、イソシアネートプロピルジエトキシメチルシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなどが例示される。
【0032】
アルコキシシラン(D)としてケチミン基を有するものを使用すると、塗膜の耐久性をより向上できるため好ましい。このメカニズムは以下のように考えられる。塗料組成物中ではケチミン基は安定に存在し、塗料組成物を塗布した段階で空気中の水分などによりケチミン基が加水分解されてケトン化合物が離脱し、活性な1級アミンが再生する。このアミンによって塗膜の硬化反応が急速に進行し、結果として耐久性、特に耐候性、耐薬品性、および密着性の高い塗膜を得ることができる。
【0033】
塗料組成物に(D)成分を含有させる場合、フッ素樹脂(A)の100質量部に対して、(D)成分の添加量が0.1〜50質量部が好ましく、1〜30質量部がより好ましい。(D)成分の添加量が0.1質量部以上であると、(D)成分の添加効果が充分に得られやすい。一方50質量部以下であると塗料組成物の高粘度化が抑えられやすい。
【0034】
<多官能性有機ケイ素化合物(E)>
塗料組成物に、硬化反応性部位を有するフッ素樹脂(A)を含有させる場合に、ケイ素に直接結合したイソシアネート基を有する多官能性有機ケイ素化合物(E)(以下、(E)成分ということもある。)を含有させてもよい。(E)成分を用いることにより、塗膜の耐久性を向上させることができる。また、(E)成分が加水分解性基を有する場合は熱線遮蔽無機微粒子(B)と(E)成分とが反応して、シランカップリング剤による微粒子の表面改質と同様の効果が得られ、(B)成分と(A)成分とのなじみが良くなる効果も期待できる。
(E)成分は、一般式R4−pSi(−N=C=O)で表わされる化合物が好ましい。pは1〜4の整数であり、Rが複数存在する場合(pが1あるいは2の場合)、複数のRは互いに異っていてもよい。Rは加水分解可能な基、またはそれ以外の有機基であり、pが1の場合、3個のRのうちの少なくともとも1つは加水分解可能な基である。該加水分解可能な基は特に限定されず、例えばアルコキシ基、アシルオキシ基等が挙げられる。好ましくはアルコキシ基であり、炭素数4以下のアルコキシ基がより好ましく、特にメトキシ基またはエトキシ基が好ましい。
Rが加水分解可能な基以外の有機基を有する場合、該有機基はケイ素原子に結合する炭素原子を有する有機基、たとえばアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基などが好ましい。好ましくは、炭素数18以下のアルキル基またはアルケニル基、もしくは置換基を有していてもよいフェニル基またはベンジル基が挙げられる。最も好ましくは炭素数4以下のアルキル基である。
【0035】
(E)成分の具体例としては、
シリルテトライソシアネート:Si(N=C=O)
メチルシリルトリイソシアネート:CHSi(N=C=O)
ブチルシリルトリイソシアネート:CSi(N=C=O)
オクチルシリルトリイソシアネート:C17Si(N=C=O)
メトキシシリルトリイソシアネート:CHOSi(N=C=O)
エトキシシリルトリイソシアネート:COSi(N=C=O)
ビニルシリルトリイソシアネート:CH=CHSi(N=C=O)
ジメチルシリルジイソシアネート:(CHSi(N=C=O)
メチルフェニルシリルジイソシアネート:(CH)(C)Si(N=C=O)
ジメトキシシリルジイソシアネート:(CHO)Si(N=C=O)
ジブトキシシリルジイソシアネート:(CO)Si(N=C=O)などが例示される。
また、これら有機ケイ素化合物のイソシアネート基が適当な有機基によりブロックされた化合物も使用でき、これを使用すると塗膜の耐久性および基材との密着性を向上させることができる。該ブロックされたイソシアネート基を有する(E)成分を用いる場合は塗膜形成時に焼付作業を行う。
【0036】
塗料組成物に(E)成分を含有させる場合、フッ素樹脂(A)の100質量部に対して、(E)成分の添加量が0.01〜50質量部が好ましく、0.1〜30質量部がより好ましい。(E)成分の添加量が0.01質量部以上であると(E)成分の添加効果が充分に得られやすく、50質量部以下であると塗料組成物の高粘度化が抑えられやすい。
また後述の硬化剤を用いる場合は、(A)成分の硬化反応性部位と、(D)成分の反応基または(E)成分のイソシアネート基とが反応しても、(A)成分の硬化反応性部位が残存していることが必要であり、そのように(D)成分および(E)成分の添加量を調整する。具体的には、フッ素樹脂(A)中に存在する硬化反応性部位のモル数を1とするとき、添加される(D)成分中の反応基および(E)成分中のイソシアネート基の合計のモル数が0.5以下であることが好ましい。
【0037】
<硬化剤>
塗料組成物に、硬化反応性部位を有するフッ素樹脂(A)を含有させる場合、硬化剤を用いることが好ましい。
硬化剤としては、イソシアネート系硬化剤、ブロックイソシアネート系硬化剤、アミノプラスト系硬化剤、多価カルボン酸系硬化剤、多価アミン系硬化剤など、塗料用硬化剤として公知のものから適宜選択して使用できる。硬化剤の選択は、フッ素樹脂(A)が有する硬化反応性部位の種類、硬化特性などを考慮して行うことが好ましい。
特に、フッ素樹脂(A)が硬化反応性部位として水酸基を有するとともに、硬化剤として水酸基と反応性を有する多官能性化合物を用いることが好ましい。
なお上記(E)成分の範疇に含まれるものは硬化剤には含まれないものとする。
【0038】
常温で硬化反応を生じる硬化剤を用いる場合、(A)成分を含有する主剤と、硬化剤とを別個に調製しておき、塗膜形成時にこれらを混合する二液硬化型の塗料組成物とすることが好ましい。(A)成分と反応しない他の成分は主剤に含有させることが好ましい。二液硬化型の塗料組成物は、主剤と硬化剤を混合した塗料組成物を基材上に塗布し、常温で乾燥させることにより、該基材上に熱線遮蔽膜を形成できる。
また、加熱により硬化反応を生じる硬化剤を用いる場合は、塗料組成物中において硬化剤と(A)成分とを共存させることができ、一液化型の焼付け塗料組成物とすることができる。この場合、塗料組成物を基材上に塗布し、焼付けを行うことにより該基材上に熱線遮蔽膜を形成できる。
常温で硬化反応を生じる硬化剤としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの無黄変ジイソシアネート類ならびにその付加物やその多量体などの多価イソシアネート系硬化剤が挙げられる。
加熱により硬化反応を生じる硬化剤としては、ブロックイソシアネート系硬化剤やアミノプラスト系硬化剤等が挙げられる。
特に、イソシアネート基を含有するポリイソシアネート系硬化剤が有用である。この場合には、ジブチルチンジラウレート等の硬化触媒の添加によって硬化を促進させることが好ましい。
【0039】
硬化剤の使用量は、少なすぎると充分な硬化性が得られず、多すぎると硬化剤の未反応部位が多く残存して塗膜の耐久性の点で好ましくない。硬化剤の使用量は、これらの不都合が生じないように適宜設定できるが、例えばフッ素樹脂(A)の100質量部に対して、0.1〜200質量部が好ましく、1〜100質量部がより好ましい。
特に硬化反応性部位として水酸基を有するフッ素樹脂(A)を用いるとともに、イソシアネート基を含む硬化剤を用いる場合は、塗料組成物中におけるフッ素樹脂(A)から供与されるOHと硬化剤中に存在するNCOのモル比率[NCO]/[OH]は、0.5以上、3.0以下が好ましい。該[NCO]/[OH]が0.5以上であると、充分な硬化性が得られやすく、3.0以下であると未反応のNCO基に起因する塗膜の耐久性低下を防止しやすい。
【0040】
<有機溶剤>
塗料組成物は有機溶剤を含むことが好ましい。
有機溶剤は(A)成分、(D)成分、(E)成分、および硬化剤と反応しないものであればよく公知のものから適宜選択できる。具体例としてはトルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類;脂肪族系溶剤;エーテル系溶剤;石油系溶剤等が例示される。また、これらに加えて、市販の各種シンナーも採用可能であり、これらを種々の割合で混合して使用することも可能である。かかる有機溶剤は被塗物の状態、蒸発速度、作業環境などを勘案して適宜選定することが望ましい。
有機溶剤の含有量は、塗料組成物における固形分濃度が上述の好ましい範囲となるように設定することが好ましい。
【0041】
<その他の成分>
塗料組成物には、塗料用として公知の各種添加剤を適宜含有させることができる。例えば、熱安定剤、粘度調整剤、レベリング剤、消泡剤などを添加してもよい。また、フッ素樹脂(A)以外の他の合成樹脂を含有させてもよい。該他の合成樹脂の具体例としてはアクリル樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、シリコーン樹脂、アルキッド樹脂、ポリアミド、エポキシ樹脂などが挙げられる。該他の合成樹脂を含有させる場合、その使用量は、フッ素樹脂(A)の100質量部に対して0.1〜50質量部の範囲が好ましく、1〜30質量部がより好ましい。
【0042】
<塗料組成物>
塗料組成物は、必須成分である(A)成分と(B)成分、さらに必要に応じて含有させる成分を均一に混合することにより得られる。
硬化剤を用いない場合は、一液ラッカータイプの塗料組成物として使用できる。
好ましくは、常温で硬化反応を生じる硬化剤を用いて二液硬化型の塗料組成物とする。例えば、(A)および(B)、さらに必要に応じて(C)および/または(D)を含有する主剤と、硬化剤とを別個に調製して塗布工程の直前にこれらを混合することが好ましい。さらに、イソシアネート基を2個以上有する(E)成分を用いる場合は、(A)成分と(E)成分とが共存すると硬化反応が進むため、該(E)成分は硬化剤と同時に添加することが好ましい。
(D)成分および/または(E)成分を主剤に含有させる場合、主剤の調製工程において、あるいは塗料を塗布した膜中において(空気中の水分と反応し)、(D)成分および/または(E)成分と(A)成分とが反応して、これらの間に化学結合が生じることが好ましい。また、この混合時に(D)成分および/または(E)成分と(B)成分も反応して化学的結合を生じることが好ましい。
必要に応じて、加熱等を行ってもよい。この混合工程において、液中での凝集やゲル化が生じない範囲で、主剤に含有させる全成分を同時に添加して混合してもよく、2段または3段に分けて添加、混合してもよい。例えば予め(D)成分および/または(E)成分と(A)成分とを混合してもよく、あるいは(D)成分および/または(E)成分と(B)成分とを予め混合してもよい。
混合は有機溶剤中で行うことが、均一な混合反応が達成されやすいため好ましい。
【0043】
<物品>
本発明によれば、基材上に、本発明の塗料組成物を用いて形成された熱線遮蔽膜を有する物品が得られる。すなわち、基材上に塗料組成物を塗布することにより熱線遮蔽膜を形成できる。塗料組成物が溶剤を含む場合は、塗布後、乾燥させて溶剤を除去する。必要に応じて加熱乾燥してもよい。また必要に応じて焼付け硬化を行ってもよい。熱線遮蔽膜は基材の片面にのみ形成してもよく、両面に形成してもよい。
基材は特に限定されない。特に透明基材が好ましい。透明基材の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、ポリカーボネート、フッ素樹脂等の有機基材、およびガラス等の無機基材が挙げられる。
なかでも、本発明の塗料組成物は、常温での自然乾燥により硬化可能で現場施工性が高いため、ガラス基材、特に既建造物の窓ガラス等への適用に優れている。
【0044】
基材の膜形成面には、必要に応じて、表面処理を適宜行うことができる。これにより、膜形成面の濡れ性がよくなり、塗膜(熱線遮蔽膜)の基材への密着性を向上させることができる。表面処理法としては、特に限定されないが、公知のプラズマ処理、コロナ放電処理、UV処理、オゾン処理等の放電処理;酸又はアルカリ等を用いた化学的処理;研磨材を用いた物理的処理等が挙げられる。
【0045】
また、基材と熱線遮蔽膜との間にプライマー層を介在させてもよい。すなわち基材の膜形成面上にプライマー層を設け、該プライマー層上に熱線遮蔽膜を形成してもよい。該プライマー層を設けることにより、熱線遮蔽膜の密着性が向上し、熱線遮蔽膜との密着性が不充分である基材を用いる場合にも良好な密着性が得られる。特に基材がガラスからなる場合にはプライマー層を設けることが好ましい。
プライマー層は市販の塗料用プライマーを用いて形成できる。また、特に基材がガラス等の無機材料からなる場合は、例えばアミノ基を有するシラン化合物等のシランカップリング剤を用いてプライマー層を形成することが好ましい。
プライマー層の膜厚は、適宜選択することができる。非常に薄い単分子層レベルでもよいし、ミクロンオーダーの膜厚を有する層でもよい。
【0046】
塗料組成物の塗布は公知の方法で行うことができる。例えば、はけ塗り、ローラー塗布、ワイプやスキージによる手塗り、回転塗布、浸漬塗布、各種印刷方式による塗布、バーコート、カーテンフロー、ダイコート、フローコート、スプレーコート、スポンジコート等が挙げられる。特に現場施工の場合は、塗膜のムラが発生しにくく、基材の大きさに適宜対応しやすい点でスポンジコートが好ましい。
また、膜の機械的強度を高める目的で、塗料組成物を塗布した後、工程上許容される範囲において、加熱、紫外線照射、および/または電子線照射等を適宜行ってもよい。加熱温度は基材の耐熱性を加味して設定する。例えば基材がフッ素樹脂フィルムの場合は、40〜100℃が好ましい。
【0047】
本発明の塗料組成物を基材上に塗布し、必要に応じて乾燥、硬化させて得られる膜は、熱線遮蔽無機微粒子(B)を含有しており、熱線遮蔽効果を有する熱線遮蔽膜である。また塗料組成物に熱線遮蔽無機微粒子(B)の他に紫外線吸収剤(C)を含有させた場合は、熱線遮蔽効果と紫外線遮蔽効果の両方を有する熱線紫外線遮蔽膜が得られる。
こうして得られる熱線遮蔽膜または熱線紫外線遮蔽膜は透明性に優れているため、特に基材が透明である場合に好適である。膜の透明性については、ヘイズ値(単位:%)で評価することができる。具体的には、膜を設ける前の基材のヘイズ値と、基材上に形成された膜について測定したヘイズ値との差が1.0%以下であることが好ましく、0.5%以下がより好ましい。該ヘイズ値の差が1.0%以下であると塗膜の透明性が良好である。
また後述の実施例に示されるように、本発明にかかる熱線遮蔽膜または熱線紫外線遮蔽膜は、耐溶剤性、耐酸性、耐アルカリ性が良好であり耐薬品性に優れる。また促進耐候性も良好であるほか、密着性、膜硬度および耐沸騰水性も良好であり耐久性に優れている。
【0048】
該熱線遮蔽膜または熱線紫外線遮蔽膜の膜厚は0.5〜100μmであることが好ましい。該膜厚が0.5μm以上であると、良好な熱線遮蔽性または熱線紫外線遮蔽性、およびその効果持続性が充分に得られやすい。該膜厚が100μm以下であると、クラックの発生、干渉縞の発生、および透明性の低下が抑制されやすい。また傷が入った場合にもその傷が目立ちにくい。該膜厚は1〜50μmがより好ましく、1〜30μmがさらに好ましく、2〜10μmが最も好ましい。
【0049】
本発明の塗料組成物を用いることにより、既建造物の窓ガラス等に現場で塗布し常温で自然乾燥させる方法で、耐久性に優れた熱線遮蔽膜または熱線紫外線遮蔽膜を形成することができる。本発明により得られる熱線遮蔽膜または熱線紫外線遮蔽膜は、特に透明性に優れるとともに、耐候性が良好であるため、窓ガラスの屋内側、屋外側いずれにも適用できる。両方に適用してもよい。
また、本発明によかかる熱線遮蔽膜または熱線紫外線遮蔽膜を窓ガラスの一方の面上に形成するとともに、他方の面上に防汚性膜、親水性膜、帯電防止膜、断熱性膜、紫外線カット性膜等を設けることもできる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。下記例1〜7、9〜12および14〜18は実施例であり、例8、13、および19は比較例である。以下において「%」は特に明記しない限り「質量%」である。
【0051】
表1は、塗料用フッ素樹脂組成物を調製した例における配合を示したものである。配合量の単位は「質量部」である。
表1には、各例で得られた塗料組成物の固形分濃度(単位:質量%)、全固形分を100質量%とするときの、(A)、(B)、(C)の各成分に含まれている固形分の割合(質量%)、および「NCO」/[OH]のモル比率を示す。ここでの全固形分量とは(A)成分と(B)成分と(C)成分に含まれる固形分の合計を意味する。
【0052】
表1に記載した各成分は以下の通りである。
熱線遮蔽無機微粒子(B)の平均粒子径は、動的光散乱法粒度分析計(日機装社製、商品名マイクロトラックUPA)により測定した。
[溶剤]
・PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート。
・MEK:メチルエチルケトン。
[硬化触媒]
・DBTDL:ジブチルチンジラウレートの1.0%PGMEA溶液。
【0053】
[フッ素樹脂(A)]
以下のフッ素樹脂(A)はいずれも水酸基を有するフルオロオレフィン・ビニルエーテル共重合体である。
・LF916F:旭硝子社製、商品名ルミフロンLF916F、100%フレーク体、数平均分子量7,000、水酸基価98mgKOH/g、酸価0mgKOH/g、フッ素含有率25.6質量%。
・LF200:旭硝子社製、商品名ルミフロンLF200、60%キシレン溶液、数平均分子量12,000、水酸基価52mgKOH/g、酸価0mgKOH/g、フッ素含有率26.7質量%。
・LF400:旭硝子社製、商品名ルミフロンLF400、50%キシレン溶液、数平均分子量12,000、水酸基価47mgKOH/g、酸価5mgKOH/g、フッ素含有率26.5質量%。
・LF710F:旭硝子社製、商品名ルミフロンLF710F、100%フレーク体、数平均分子量10,000、水酸基価50mgKOH/g、酸価0mgKOH/g、フッ素含有率23.7質量%。
・LF810:旭硝子社製、商品名ルミフロンLF810、45%ミネラルターペン溶液、数平均分子量30,000、水酸基価9mgKOH/g、酸価1mgKOH/g、フッ素含有率24.0質量%。
[比較成分]
・アクリル樹脂:日本触媒社製、商品名ユーダブルSシリーズUWS−2816、46.8%キシレン溶液、数平均分子量不明、水酸基価42.2mgKOH/g、酸価2.0mgKOH/g。
【0054】
[熱線遮蔽無機微粒子(B)]
・ITO(70):ITO微粒子分散ゾル、三菱マテリアル社製、ITO固形分濃度20%、PGMEA分散体、平均粒子径70nm。
・ATO(220):ATO微粒子分散ゾル、触媒化成工業社製、ATO固形分濃度21.3%、MEKとトルエンの混合物に分散させた分散体、平均粒子径220nm。
・ATO(105):ATO微粒子分散ゾル、石原産業社製、ATO固形分濃度30%、MEK分散体、平均粒子径105nm。
・ATO(50):ATO微粒子分散ゾル、住友金属鉱山社製、ATO固形分濃度25%、トルエン分散体、平均粒子径50nm。
・LaB(50):LaB微粒子分散ゾル、住友金属鉱山社製KHF−7AH、LaB6固形分濃度3.3%、トルエン分散体、平均粒子径50nm。
・酸化亜鉛(100):酸化亜鉛微粒子(堺化学工業社製、熱線遮蔽酸化亜鉛EZ−1をPGMEA中にボールミルにて分散したゾル(固形分濃度20%、PGMEA分散体、平均粒子径100nm。)
【0055】
[紫外線吸収剤(C)]
・ベンゾトリアゾール系:ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名TINUVIN384−2、固形分濃度95%。
・トリアジン系:トリアジン系紫外線吸収剤、チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名TINUVIN400、固形分濃度85%。
・ベンゾフェノン系:ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ケミプロ化成社製、商品名KEMISORB111、固形分濃度100%。
・酸化セリウム系:紫外線吸収性酸化セリウム分散ゾル、多木化学社製、商品名W−100、トルエン溶液、固形分濃度10%。
【0056】
[アルコキシシラン(D)]
・アクリル系:アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、信越シリコーン社製、商品名KBM5103。
・イソシアネート系:イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、信越シリコーン社製、商品名KBE9007。
・ケチミン系:トリエトキシシリル−N−(1,3ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、信越シリコーン社製、商品名KBE9103。
[多官能性有機ケイ素化合物(E)]
・メチルシリルトリイソシアネート:松本製薬工業社製、商品名オルガチックスSI−310。
[硬化剤]
・硬化剤a:商品名スミジュールN3300、住化バイエルウレタン社製、ポリイソシアネート系硬化剤。
・硬化剤b:商品名コロネートHX、日本ポリウレタン社製、ポリイソシアネート系硬化剤。
【0057】
[例1]
(1)溶剤に、硬化触媒、(A)成分、および(B)成分を加え、室温で5時間ペイントシェーカーにて撹拌した。次いで、(C)成分を加え、さらに2時間撹拌し、塗料組成物の主剤を得た。
(2)得られた主剤に硬化剤を加え、0.5時間撹拌して塗料組成物を得た。
【0058】
[例2]
溶剤に、硬化触媒、(A)成分、(B)成分、および(D)成分を加え、室温で5時間ペイントシェーカーにて撹拌した。次いで、(C)成分を加え、さらに2時間撹拌し、塗料組成物の主剤を得た。その後、例1の(2)と同様にして塗料組成物を得た。
[例3〜5]
例1と同じ手順で塗料組成物を得た。
【0059】
[例6]
例1の(1)と同じ手順で塗料組成物の主剤を得た。得られた主剤に硬化剤および(E)成分を加え、0.5時間撹拌して塗料組成物を得た。
[例7]
例2と同じ手順で塗料組成物を得た。
[例8]
本例では、(A)成分に代えて、比較成分であるアクリル樹脂を用いて塗料組成物を調製した。
すなわち、溶剤に、硬化触媒、アクリル樹脂、および(B)成分を加え、室温で5時間ペイントシェーカーにて撹拌した。次いで、(C)成分を加え、さらに2時間撹拌して塗料組成物の主剤を得た。その後、例1の(2)と同様にして塗料組成物を得た。
【0060】
[例9]
溶剤、硬化触媒、(A)成分の30質量部、(B)成分、および(D)成分を加え、50℃で2時間ウォーターバス中にて撹拌した。次いで、(A)成分の120質量部、および(C)成分を加え、さらに室温で2時間撹拌して塗料組成物の主剤を得た。その後、例1の(2)と同様にして塗料組成物を得た。
[例10]
例1と同じ手順で塗料組成物を得た。
【0061】
[例11]
例2と同じ手順で塗料組成物を得た。
[例12]
本例では、(C)成分を含有しない塗料組成物を調製した。
すなわち、溶剤に、硬化触媒、(A)成分、および(B)成分を加え、室温で5時間ペイントシェーカーにて撹拌して主剤を得た。その後、例1の(2)と同様にして塗料組成物を得た。
[例13〜19]
例1と同じ手順で塗料組成物を得た。
【0062】
【表1】

【0063】
<評価>
[分散性]
各例において、得られた主剤を室温で1ヶ月保管して沈降安定性を観察した。例13、19以外の例では、いずれも沈降は少なく、沈降した固形物は軽く振ることで容易に再分散された。
なお、例13、19以外の例において、得られた塗料組成物中の熱線遮蔽無機微粒子(B)の平均粒子径を、動的光散乱法粒度分析計(日機装社製、商品名マイクロトラックUPA)により測定し、原料の熱線遮蔽無機微粒子分散ゾル中での粒子径と同じであることを確認した。具体的には、得られた塗料組成物を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)で希釈し、固形分濃度を0.01〜1.0質量%程度とした後、動的光散乱法粒度分析計により測定した。
例13、19では、いずれも塗料化した液中で凝集が見られ液は濁っており、容器を振っても流動性のない状態であった。
【0064】
[現場施工性]
各例で得られた塗料組成物を、建築物窓ガラス上に、スポンジバーを用いたスポンジコート法で塗布した後、常温で7日間自然乾燥させて塗膜を形成した。塗布する際、ガラス上の一部は1回コートとし、他の一部は重ねて2回コートした。2回コートする場合は、1回目の塗膜を乾燥させずに重ね塗りした後、上記乾燥工程を行った。
乾燥後の塗膜の外観を観察し、レベリング性および重ね塗り性について以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
○:塗膜の外観が、重ねて2回コートした部分も1回コートした部分もムラがない。
△:塗膜の外観が、重ねて2回コートした部分のみムラがある。
×:塗膜の外観が、重ねて2回コートした部分も1回コートした部分もムラがある。
【0065】
[塗膜(熱線紫外線遮蔽膜または熱線遮蔽膜)の作製]
透明基材として、ソーダライムガラス板(100mm×100mm、厚さ3.5mm)を用意し、その表面を酸化セリウムで研磨し、蒸留水で洗浄した後に乾燥させ、洗浄済ガラスとした。
アミノ基を有するシランカップリング剤(信越シリコーンKBP−90水溶液、有効成分32%を、エタノールで有効成分0.1%に希釈したもの)2mLを、前記洗浄済ガラス板の表面に滴下し、スピンコート法により塗布した後、25℃で2分乾燥させてプライマー層を形成した。こうして前処理済ガラス板を得た。
各例で得られた塗料組成物を、上記で得た前処理済ガラス板のプライマー層上に塗布し、25℃で7日間乾燥硬化させ、膜厚4μmの塗膜(熱線紫外線遮蔽膜または熱線遮蔽膜)を形成した。膜厚は、塗膜サンプルをカッターで削り取り、塗膜と基板との段差から触針法(Sloan Technology社製DEKTAK3030)により測定した。こうして得られたサンプルについて評価を行った。
例1、4〜10、12〜13、17〜19では、前処理済ガラス板のプライマー層上に塗料組成物を塗布する方法として、塗料組成物の2mLを滴下し、スピンコート法により塗布する方法を用いた。
例2、14〜16では、塗料組成物の2mLをバーコート法により塗布する方法を用いた。
例3では、塗料組成物の2mLをフローコート法により塗布する方法を用いた。
例11では、例11で得られた塗料組成物を用い、例1と同様にして第1のサンプル(以下、例11−1という。)を作製するとともに、同じ塗料組成物を用い下記のスポンジコート法で第2のサンプル(以下、例11−2という。)を作製した。
すなわち、上記プライマー層を形成する際に、洗浄済ガラス板の表面に上記シランカップリング剤をスポンジバーを用いて塗布した。その他は例1と同様にして前処理済ガラス板を得た。また、前処理済ガラス板のプライマー層上に塗料組成物を塗布する方法として、塗料組成物の100mLをスポンジバーで塗布する方法を用いた。その他は例1と同様にして第2のサンプル(例11−2)を得た。
【0066】
[塗膜外観]
サンプルの塗膜の外観を目視で評価し、異物欠点、スジムラのないものを○、これらの欠点があるものを×とした。結果を表2に示す。
【0067】
[ヘイズ値]
透明性の指標としてサンプルのヘイズ値を測定した。測定はJIS−K7105(1981年)に準処する方法で、ヘーズコンピューター(スガ試験機社製、型式:HGM−3DP)を用いて行った。膜のヘイズ値が1.0%以下であれば、実用上問題のないものとした。結果を表2に示す。
なお、透明基板として用いた洗浄済ソーダライムガラス板のヘイズ値は0.1%であった。
【0068】
[光透過率]
サンプルの可視光線透過率および日射透過率をJIS−R3106(1998年)に準処する方法で測定した。可視光透過率が高いほど透明性が高いことを示し、50%以上を実用上問題のないものとした。可視光透過率よりも日射透過率が低く、その差が大きいほど熱線遮蔽性が高いことを示す。可視光透過率(Tv、単位:%)と日射透過率(Te、単位:%)との差(Tv−Te)が5%以上を実用上問題のないものとした。
また紫外線透過率をISO9050の規定に準処する方法で測定した。測定は分光光度計(日立計測社製、商品名:U−4100)を使用して行った。これらの結果を表2に示す。
【0069】
[密着性]
JIS−K5600−5−6(1999年)に規定されているクロスカット法による付着性試験および試験結果の分類に準処して、塗膜の密着性を評価した。塗膜の剥離が全くない分類0のものを○、部分的に剥離があるが実用上問題の無い分類1〜2のものを△、剥離部が多い分類3〜5のものを×とした。結果を表3に示す。
結果を表3に示す。
【0070】
[鉛筆硬度]
JIS−K5600−5−4(1999年)に規定されている鉛筆法により、塗膜の引っかき硬度を測定した。2B以上であれば、実用上問題のないものとした。結果を表3に示す。
【0071】
[耐溶剤性]
不織布ワイピングクロス(旭化成社製、商品名BEMCOT、M−1、150mm)にエタノールを浸み込ませ、100gの加重で塗膜を10往復摩耗する条件で拭き取りを行った。拭き取り後、キズのないもを○、部分的にわずかにキズがあるが実用上問題の無い程度のものを△、全面にキズ、あるいは膜溶解があるものを×とした。結果を表3に示す。
【0072】
[耐酸性]
0.1NのHSO水溶液中にサンプル全体を24時間浸漬した。塗膜の変色、剥離など塗膜に変化が生じなったものを○、端部など部分的に変色や剥離があるが実用上問題の無い程度のものを△、変化が見られたものを×とした。結果を表3に示す。
【0073】
[耐アルカリ性]
0.1NのNaOH水溶液中にサンプル全体を24時間浸漬した。塗膜の変色、剥離など塗膜に変化が生じなったものを○、端部など部分的に変色や剥離があるが実用上問題の無い程度のものを△、変化が見られたものを×とした。結果を表3に示す。
【0074】
[耐沸騰水性]
沸騰水中にサンプル全体を2時間浸漬した後、JIS−K5600−5−6(1999年)に規定されているクロスカット法による付着性試験を実施した。塗膜の剥離が全くない分類0のものを○、部分的に剥離があるが実用上問題の無い分類1〜2のものを△、剥離部が多い分類3〜5のものを×とした。結果を表3に示す。
【0075】
[促進耐候性]
サンプルについてメタルウェザー試験機(ダイプラウィンテス社製、商品名:メタルウェザー)で促進耐候性曝露試験を行った。以下の条件の曝露サイクルを17回で100時間相当とし、合計500時間曝露試験を行った後、塗膜外観、日射透過率、密着性を上記の方法で評価した。曝露試験を行わない場合の評価結果と、曝露試験後の評価結果とで変化がないものを○、塗膜外観、日射透過率、密着性のいずれかに変化があるものを△、塗膜外観、日射透過率、密着性のうち2項目以上に変化があるものを×とした。結果を表3に示す。
(曝露サイクル)
モード:L+D(L:照射、D:暗黒結露)。
L:温度63℃、湿度50%、時間5hr。
D:温度30℃、湿度98%、時間1hr。
RESTモード:結露なし。
光量:50.0mW/cm(365nm)。
シャワー有りでDの前後(10sec)。
【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
表の結果より、(A)成分に代えてアクリル樹脂を用いた例8で得られた膜は耐溶剤性、耐酸性、耐アルカリ性、耐候性が劣っており、実用的なものではなかった。
フッ素樹脂(A)の水酸基価が小さい例13では、熱線遮蔽無機微粒子(B)および紫外線吸収剤(C)の分散安定性が劣っていた。また、ヘイズ値が高く透明性が劣っていた。
熱線遮蔽無機微粒子(B)の平均粒子径が大きい例19ではヘイズ値が高く透明性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の塗料組成物を用いることにより、ビル、事務所、住宅などの一般建築物や車両の窓やショーウィンドー、ショーケースなどのガラス、プラスチック、その他の各種透明基材に高耐久性の透明な熱線遮蔽膜を形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂(A)および熱線遮蔽無機微粒子(B)を含み、前記フッ素樹脂(A)の水酸基価が30〜200mgKOH/gであり、かつ前記熱線遮蔽無機微粒子(B)の平均粒子径が1〜200nmであることを特徴とする塗料用フッ素樹脂組成物。
【請求項2】
前記フッ素樹脂(A)の数平均分子量が20000以下1000以上である、請求項1に記載の塗料用フッ素樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱線遮蔽無機微粒子(B)が、錫とインジウムの複合酸化物微粒子、錫とアンチモンの複合酸化物微粒子、六ホウ化ランタン微粒子、および酸化亜鉛微粒子からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1または2に記載の塗料用フッ素樹脂組成物。
【請求項4】
紫外線吸収剤(C)を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗料用フッ素樹脂組成物。
【請求項5】
前記紫外線吸収剤(C)が、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、およびトリアジン系紫外線吸収剤からなる群から選ばれる1種以上である、請求項4記載の塗料用フッ素樹脂組成物。
【請求項6】
前記フッ素樹脂(A)が硬化反応性部位を有し、該硬化反応性部位と反応する反応性基を有するアルコキシシラン(D)を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の塗料用フッ素樹脂組成物。
【請求項7】
基材上に、請求項1〜6のいずれか一項に記載の塗料用フッ素樹脂組成物を用いて形成された熱線遮蔽膜を有する物品。
【請求項8】
前記基材上にプライマー層が設けられており、該プライマー層上に前記熱線遮蔽膜が形成されている、請求項7記載の物品。
【請求項9】
前記プライマー層が、シランカップリング剤を用いて形成された層である、請求項8に記載の物品。
【請求項10】
前記基材がガラスである、請求項8または9に記載の物品。

【公開番号】特開2009−24145(P2009−24145A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191771(P2007−191771)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】