説明

塗膜乾燥方法

【課題】連続搬送される支持体上に塗布液を塗布して形成した塗膜中の溶媒を蒸発除去する際、より高品質で、より高生産率の機能性膜を作製する塗膜乾燥方法を提供
【解決手段】連続搬送される帯状プラスチックフィルム支持体上に、溶媒中に固形分を溶解又は分散した塗布液を塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜を有する前記帯状プラスチックフィルム支持体を搬送しながら前記塗膜中の溶媒を蒸発させて機能性膜を得る塗膜乾燥方法において、前記塗膜中の固形分濃度が80体積%以下の間は、前記帯状プラスチックフィルム支持体の表面の幅手平滑度を前記機能性膜の塗膜の厚さの100%以下とすることを特徴とする塗膜乾燥方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続走行する帯状プラスチックフィルム支持体上に塗布液を塗布して形成された塗膜中の溶媒を蒸発させ機能性膜を得る塗膜乾燥方法に関する。更に詳しくは、帯状プラスチックフィルム支持体上に塗布液を塗布して形成された塗膜中の溶媒を蒸発させる時、塗膜の流動することにより生じる膜厚の不均一を抑制した塗膜乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より連続走行している帯状支持体に塗布液を塗布する方法としては、各種提案されており、例えばこれらの各種塗布方式については、Edward Cohen、Edgar Gutoff著「Modern Coating and Drying Technology」に述べられている。又、単層塗布のみならず、スライドコータやエクストルージョンコータやカーテンコータなど複数のスリットを有するコーティングダイを用いることにより、同時に重層塗布することも知られている。
一般用及び産業用ハロゲン化銀感光材料、感熱材料、熱現像感光材料、フォトレジスト、LCDや有機EL等に代表される電機光学パネルのデバイス等はコータから有機溶剤系又は水系の塗布液を連続搬送する帯状支持体の上に塗布して塗膜面を形成し、その後、塗膜を有する帯状支持体を乾燥装置で乾燥することで製造されている。
【0003】
又、連続走行している支持体に塗布液を塗布した後乾燥する方法としては、先述のEdward Cohen、Edgar Gutoff著「Modern Coating and Drying Technology」に述べられている各種の方法が提案されてきた。最も一般的には乾燥ボックスに温風を供給し、その温風によって塗膜を乾燥させ、気化した溶媒を気流とともに系外へ排出する方法である。又、可燃性有機溶剤を用いる場合にはエアの代わりに不活性ガスを供給し、実質的に爆発のない安全な仕組みにする装置も知られている。本発明の適用は、温風によって乾燥させる方式、装置であれば、エアであっても、不活性ガスであっても特に限定されない。
【0004】
乾燥工程は、塗布直後の塗膜面を加熱した雰囲気、気体が当たる雰囲気にさらすために、塗膜面の性状に影響を与える重要な工程となっている。一般的に乾燥工程における塗膜面に与える問題として気体が当たることにより塗膜表面が乱され、表面の平滑度を失い、所謂まだらムラが生じたり、乾燥工程内の温度、気体の風量等のバラツキにより乾燥ムラが生じたりすることが知られている。特に、塗布液の溶媒に有機溶剤を使用している場合は、この様な傾向が強いことが知られている。
【0005】
乾燥が正常に行われなかった場合には、得られる塗膜の外観にムラや欠陥を生じたり、塗膜中の残留溶媒が適正量でなかったり、残留溶媒量にバラツキを生じたりして、最終的な塗膜品質に影響を与えることが知られている。
【0006】
これまでに、塗膜面の乾燥に関して多くの検討がなされて来た。例えば、塗膜面に乾燥風を供給する複数の乾燥風供給装置の幅を塗膜面の幅よりも顕著に長くならないようにし、塗膜の幅方向の両端を越える乾燥風の量を最小限に抑え、塗膜の幅方向の両端近傍に発生するまだらムラを防止することが知られている(例えば特許文献1を参照。)。
支持体上に塗布した塗膜を乾燥する乾燥工程で、塗布後10秒以内はマイクロウェーブによる加熱により乾燥を行い、10秒から20秒までは温度を制御した乾燥風を風速が0.1〜10m/秒で塗布面へ吹き付けることにより吹かれムラを防止した乾燥を行う方法が知られている(例えば、特許文献2を参照。)。
例えば供給風の温度制御による方法が知られている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0007】
特許文献1、特許文献2、非特許文献1に記載の乾燥方法は、塗膜面の故障対策には有効な技術であるが、より高品質を求められる最近のLCDや有機EL等に代表される電機光学パネルのデバイスに必要とする機能性膜の作製に対しては未だ十分な対策となっておらず、仕上がり品の品質検査を行い、生産率を下げて対応しているのが現状である。この様な状況から、品質検査に頼ることなく、より高品質で、より高生産率の機能性膜を作製する塗膜乾燥方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2001−506178
【特許文献2】特開2000−329463号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】最新コーティング技術(増補版)総合技術センター発行 p.449−458
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記状況に鑑みなされたものであり、その目的は、連続搬送される帯状プラスチックフィルム支持体(以下、支持体とも言う)上に塗布液を塗布して形成した塗膜中の溶媒を蒸発除去する際、より高品質で、より高生産率の機能性膜を作製する塗膜乾燥方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成された。
【0012】
(請求項1)
連続搬送される帯状プラスチックフィルム支持体上に、溶媒中に固形分を溶解又は分散した塗布液を塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜を有する前記帯状プラスチックフィルム支持体を搬送しながら前記塗膜中の溶媒を蒸発させて機能性膜を得る塗膜乾燥方法において、
前記塗膜中の固形分濃度が80体積%以下の間は、
前記帯状プラスチックフィルム支持体の表面の幅手平滑度を、乾燥後の前記機能性膜の塗膜の厚さの100%以下とし、
前記塗膜中の溶媒を蒸発させる時、帯状プラスチックフィルム支持体の温度を30℃以上、該帯状プラスチックフィルム支持体のガラス転移点より20℃低い温度以下とし、該帯状プラスチックフィルム支持体の搬送方向と直交する方向の該帯状プラスチックフィルム支持体の単位断面積あたりの張力を0.2〜10MPaとすることを特徴とする塗膜乾燥方法。
【0013】
(請求項2)
前記帯状プラスチックフィルム支持体の搬送方向と直交する方向への張力を付加する手段がテンターであることを特徴とする請求項1に記載の塗膜乾燥方法。
【0014】
(請求項3)
前記帯状プラスチックフィルム支持体の搬送方向と直交する方向への張力を付加する手段がスパイラルロールであることを特徴とする請求項1に記載の塗膜乾燥方法。
【0015】
(請求項4)
前記帯状プラスチックフィルム支持体の搬送方向と直交する方向への張力を付加する手段がクラウンロールであることを特徴とする請求項1に記載の塗膜乾燥方法。
【0016】
発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を加えた結果、連続搬送される支持体上に塗布液を塗布し、塗膜中の溶媒を除去することで機能性膜を形成する場合、機能性膜の平滑性劣化、膜厚のバラツキ等が発生する原因として、流動性のある状態の塗膜に対して吹き付ける乾燥風の影響の他に、塗膜中の溶媒を除去する時の支持体の温度と外力とによる支持体の変形に伴い発生することが判明した。
【0017】
支持体は一般的に、加熱した状態で張力を掛けると容易に伸ばされ、冷やすと収縮する性質を有している。この支持体の変形に対して、発明者らは鋭意検討を加えた結果、次のことを見出した。
【0018】
1)塗膜中の溶媒を除去する際、支持体には搬送するための張力と、溶媒を除去するために温度が掛けられることで搬送方向に伸ばされ変形が発生する。
【0019】
2)支持体上に塗布された塗膜は塗布時に均一に支持体上に形成しても塗膜中の溶媒を蒸発除去するまでに支持体表面に凹凸が発生すると重力や表面張力によるレベルングにより液表面が平滑となりこのまま乾燥固化すると塗膜の厚みが支持体内で異なってしまう。
【0020】
これらの結果より、支持体上の塗膜中の溶媒の蒸発除去する際、加熱中の支持体の変形量を幅方向と搬送方向で出来るだけ少なく、均一にすることで、膜厚安定性、膜平滑性がが改良されることが判明し、本発明に至った次第である。
【発明の効果】
【0021】
連続搬送される帯状プラスチックフィルム支持体(以下、支持体とも言う)上に塗布液を塗布して形成した塗膜中の溶媒を蒸発除去する際、より高品質で、より高生産率の機能性膜を作製する塗膜乾燥方法を提供することが出来、高品位で生産性の高い製品の安定生産が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】連続搬送される支持体上に塗布液を塗布して形成した塗膜中の溶媒を蒸発除去する塗布・乾燥装置の模式図である。
【図2】図1に示す塗布・乾燥装置の乾燥ボックスに支持体の支持手段を配設した場合の模式図である。
【図3】図1に示す塗布・乾燥装置の乾燥ボックスに支持体の他の支持手段を配設した場合の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態を図1〜図3を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
図1は連続搬送される支持体上に塗布液を塗布して形成した塗膜中の溶媒を蒸発除去する塗布・乾燥装置の模式図である。
【0025】
図中、1は塗布・乾燥装置を示す。101はバックアップロール102に支持され、連続搬送される支持体103上に塗布液を塗布するダイコータを示す。105は支持体上に塗布された塗膜104a中の溶媒を除去する乾燥ボックスを示す。105aは乾燥ボックス105の入り口を示し、105bは出口を示す。104bは溶媒が除去され支持体103上に形成された機能性膜を示す。106は塗布液調製タンクを示し、送液ポンプ107によりダイコータ101に送る様になっている。108は塗布を安定に行うための減圧室を示す。ダイコータ101としては特に限定はなく、例えばスライド型ダイコータ、エクストルージョン型ダイコータ、カーテン型ダイコータ、カーテンスプレー型ダイコータ等が挙げられ必要に応じて適宜選択が可能となっている。本図はエクストルージョン型ダイコータを使用した場合を示している。尚、塗布方式によっては減圧室108は必要なく、単に未塗布時の液受けとして使用することも可能である。
【0026】
支持体103上に塗布された塗膜104aは、乾燥ボックス105内で温風を吹き付けることで塗膜104a中の溶媒が蒸発除去され、乾燥ボックス105を出る時点で塗膜104a中の溶媒は実質上除去された状態となっている。乾燥ボックス105で、塗膜104a中の溶媒を蒸発除去する際、塗膜104aが流動性を有している間が塗膜故障が発生し易い区間である。この区間で、支持体103に変形が生じた場合、支持体上に塗布された塗膜104aが塗布時には均一に支持体上に形成しても、重力や表面張力によるレベルングにより塗膜表面が平滑となりこのまま乾燥固化すると機能性膜の厚みが支持体内で異なり、塗膜厚のバラツキが発生してしまう。
【0027】
発明者らは、鋭意検討を加えた結果、塗膜厚のバラツキが最も発生し易い区間は、塗膜中の固形分濃度が80体積%以下の区間であり、この区間Tで支持体の平滑度を維持することで塗膜厚のバラツキを防止することを見出した。尚、80体積%以下の区間とは、例えば塗布液調製時固形分濃度が50体積%であったものが、塗布後塗膜中の溶媒が蒸発除去されることで体積中に占める固形分濃度が上昇し80体積%となるまでの区間ことを言う。Tは、ある塗布液条件、ある乾燥条件での乾燥ボックス105の入り口105aから入り、乾燥風により加温されることにより、支持体の温度が30℃を越えてから塗膜中の固形分濃度が80体積%以下となるまでの区間を模式的に示したものである。
【0028】
区間Tでの支持体の平面性は次の3通りで規定されている。1)区間Tでの支持体表面の幅手平滑度は、機能性膜の塗膜厚の100%以下であり、より好ましくは50%以下、更に好ましくは10%以下である。区間Tでの支持体表面の幅手平滑度が、機能性膜の塗膜厚の100%を越える場合、支持体上に塗布された塗膜は塗布時に均一に支持体上に形成しても塗膜中の溶媒を蒸発除去するまでに支持体表面に凹凸が発生すると重力や表面張力によるレベルングにより液表面が平滑となりこのまま乾燥固化すると塗膜の厚みが支持体内で異なってしまい、仕上がり機能性膜の塗膜厚のバラツキが発生し、機能性膜の均一性を得ることが出来ないため好ましくない。区間Tでの支持体表面の幅手平滑度を、塗膜厚の100%以下とすることで、塗膜中の溶媒を蒸発除去するまでに支持体表面の凹凸の発生を防止し、仕上がり機能性膜の塗膜厚のバラツキを防止し、機能性膜の均一性を得ることが可能となる。
2)区間Tでの支持体表面の凹凸の隣接する極大点と極小点の距離は、塗膜厚方向の変位量の50〜1×106倍である。50倍未満の場合は、支持体上に塗布された塗膜は塗布時に均一に支持体上に形成しても塗膜中の溶媒を蒸発除去するまでに支持体表面に凹凸が発生すると重力や表面張力によるレベルングにより液表面が平滑となりこのまま乾燥固化すると塗膜の厚みが支持体内で異なってしまい、仕上がり機能性膜の塗膜厚のバラツキが発生し、機能性膜の均一性を得ることが出来ないため好ましくない。1×106倍を越える場合は、プラスチックフィルム支持体の温度を30℃未満に維持する必要があり、塗膜の乾燥時間が長くかかり生産効率が著しく低下するため好ましくない。
3)区間Tでの支持体表面の幅手平滑度は、機能性膜の塗膜厚の100%以下であり、且つ区間Tでの支持体表面の凹凸の隣接する極大点と極小点の距離は、塗膜厚方向の変位量の50〜1×106倍である。
【0029】
区間Tでの支持体の上記1)〜3)に示される平面性を得るための方法は、次の2通りの方法が挙げられる。1)区間Tでの支持体の温度は、搬送張力に伴う変形、乾燥時間等を考慮し、30℃以上、支持体のガラス転移点より20℃低い温度以下とし、支持体の搬送方向の支持体単位断面積あたりの張力を、2〜50MPaとすることが好ましい。搬送方向の張力が2MPa未満の場合は、支持体の搬送性が安定しないため、支持体の幅方向に横段ムラが発生する場合がある。張力が50MPaを越える場合は、新たに支持体に変形が生じる場合がある。2)区間Tでの支持体の温度は、搬送張力に伴う変形、乾燥時間等を考慮し、30℃以上、支持体のガラス転移点より20℃低い温度以下とし、支持体搬送方向と直行する方向の支持体単位断面積あたりの張力を、0.2〜10MPaとすることが好ましい。搬送方向と直行する方向の張力が0.2MPa未満の場合は、支持体の搬送方向の変形を矯正することが不十分となり、塗膜の膜厚バラツキが発生する場合もある。搬送方向と直行する方向の張力が10MPaを越える場合は、新たに支持体に変形が生じる場合がある。
【0030】
図2は図1に示す塗布・乾燥装置の乾燥ボックスに支持体の支持手段を配設した場合の模式図である。図2の(a)は支持体の支持手段として、バックアップロールを配設した場合の模式図である。図2の(b)は支持体の支持手段として、コンベアベルトを配設した場合の模式図である。図2の(c)は支持体の支持手段として、プレートを配設した場合の模式図である。図2の(d)は支持体の支持手段として、エアの吹き付け装置を配設した場合の模式図である。
【0031】
支持体が乾燥ボックス105の入り口105aから入り、乾燥風により加温されることにより、支持体の温度が30℃を越えてから塗膜中の固形分濃度が80体積%以下の区間Tに、搬送方向に張力を付与した状態で、フィルムの平滑性を更に向上させる支持体の支持手段として、変形の起こる位置で裏面から支持体を支持するバックアップロール107、コンベアベルト108、プレート109、空気の吹き付け装置110を配設することが好ましい。勿論、乾燥ボックス105の入り口105aから出口105bの区間に配設してもかまわない。他の符号は図1と同義である。
【0032】
コンベアベルト108は2つ以上の支持ロールに支持されたエンドレスベルトであれば金属やゴムなどどのようなものでも使用出来るが、支持体への傷付きを防止するためにはゴムであることが好ましい。プレート109の場合、動作機構を持たないため最も精密に支持体の位置を規定することが出来る。プレートを使用した場合支持体裏面はプレートと接触しながら移動することになるので擦り傷が生じないように処理する必要がある。例えば、表面の摩擦係数を下げることでフッ素コートなどの樹脂素材を表面にライニング又はプレート自体を樹脂材料とすることである。又、別の方法としてはプレート表面の平面性を平滑とすることである。又別の方法は、プレートと支持体が接触、又は離間する位置でプレートが面取りされていることである。面取りは平面による面取りでもよいが曲率を持つ面取りの方が擦り傷防止には効果が高い。これら3つの方法は随時組み合わせて使用することで擦り傷を防止する効果が高くなることは言うまでもない。
【0033】
又被塗布体である支持体を支持する他の手段として支持体の裏面からエアを吹き付ける方法が挙げられる。空気の吹き付けは離散型のノズルでもよいし、面保持型の複数の噴出し穴を有するパンチ板や幅手に一様な間隙を有するスリットから支持体裏面へ空気を吹き付けることにより行うことが出来る。又、井上金属(株)製 エアーキャンを使用することも可能である。
【0034】
図3は図1に示す塗布・乾燥装置の乾燥ボックスに支持体の他の支持手段を配設した場合の模式図である。
【0035】
図中、111は支持体が乾燥ボックス105の入り口105aから入り、乾燥風により加温されることにより、支持体の温度が30℃を越えてから塗膜中の固形分濃度が80体積%以下の区間Tに配設したテンターを示す。テンター111はクリップ状の把持治具により支持体端部を幅手両端で保持し、幅手方向に広げる機構を有しており、これにより区間Tで支持体は幅手方向に張力を付与することが出来、平滑面に保つことが可能となる。
【0036】
幅手方向に張力を付与する他の手段として、搬送ロールの一部としてスパイラスロール、クラウンロールを用いることも可能である。スパイラルロールは搬送支持ロール表面に回転に伴い支持体を幅手方向に広げるようロール表面に回転軸と傾斜して溝を設けたロールで、ロール全面に溝を設けてもよいし、一部分だけに設けてもよい。これにより乾燥工程で支持体は平滑面に保つことが出来る。クラウンロールは幅手中央部の径が端部の径に比べて太いものである。これにより乾燥工程で支持体は平滑面に保つことが出来る。
【0037】
図1〜図3を参照しながら説明した如く、支持体が乾燥ボックスの入り口から入り、乾燥風により加温されることにより、支持体の温度が30℃を越えてから塗膜中の固形分濃度が80体積%以下の区間Tで、本発明の乾燥条件により乾燥することで次の効果が得られる。
【0038】
1)支持体の平滑度を維持することが可能となり、仕上がり塗膜の膜厚バラツキを防止することが可能となった。
【0039】
2)高品質の塗膜を有する製品の生産が可能になり、LCDや有機EL等に代表される電機光学パネルのデバイス用の塗膜の生産も可能となり適用範囲の拡大が可能となった。
【0040】
3)高品質化に伴い生産効率の向上が可能となった。
【0041】
本発明に係る支持体は、熱により軟化するプラスチックフィルムであれば特に限定はなく、ポリオレフィンフィルム(例えばポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなど)、ポリエステルフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレン2,6−ナフタレートフィルムなど)、ポリアミドフィルム(例えば、ポリエーテルケトンフィルムなど)、セルロースアセテートフィルム(例えば、セルローストリアセテートフィルムなど)などが挙げられる。又、使用する支持体の厚さ、幅、物性等に付いても特に制限はなく、製造する製品に合わせ適宜選択することが可能である。
【0042】
本発明に係る塗布液はとしては、高分子成分を0.5〜20質量%含んでいることが好ましい。高分子成分としては、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、天然ゴム等が挙げられる。
【0043】
これらの高分子成分を含んだ塗布液としては特に制限はなく、例えば、一般用及び産業用ハロゲン化銀感光材料、感熱材料、熱現像感光材料、フォトレジスト、LCDや有機EL等に代表される電機光学パネルのデバイス用の塗布液が挙げられる。電気光学パネル用のデバイスとしてはCRTや液晶表示装置の視認性を改善するために、表示装置前面に張り付ける反射防止層が形成された光学フィルム挙げられる。ところで、テレビのような大画面の表示装置では、直接、物が接触することがあり傷が付き易い。そこで、通常は傷つき防止のためにハードコート層を支持体上に形成し、その上に反射防止層が形成されたハードコート層付き反射防止フィルムが用いられる。
【0044】
反射防止フィルムの基本的な構成を説明する。例えば、好ましい反射防止フィルムは、透明支持体、ハードコート層、中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層の順序の層構成を有する。透明支持体、中屈折率層、高屈折率層及び低屈折率層は、以下の関係を満足する屈折率を有する。低屈折率層の屈折率< 透明支持体の屈折率< 中屈折率層の屈折率< 高屈折率層の屈折率。ハードコート層は、紫外線により硬化する紫外線硬化化合物(樹脂)を含有する層であることが好ましく、耐擦り傷性に優れた反射防止フィルムを得ることが出来る。これら各層の具体的な構成に関しては特開2005−77795に記載されているようなものを使用することが出来る。ただし屈折率層の組み合わせはこれらに限定されるものではなく、他の好ましい反射防止フィルムは、透明支持体、ハードコート層、中屈折率層、低屈折率層の順序の層構成を有する。
【実施例】
【0045】
以下に本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらの例に限定されるものではない。
【0046】
実施例1
(支持体の準備)
厚さ75μm、幅600mm、長さ1000mのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを準備した。このPETフィルムのガラス転移点は140℃であった。
【0047】
(塗布液の調製)
純水にポリビニルアルコールを固形分濃度として、1質量%となるように溶解して塗布液を調製した。この塗布液を、B型粘度計で25℃における粘度を測定したところ5.2mPa・sであった。
【0048】
(塗布)
図1に示す塗布装置を使用した。バックアップロール上に支持された支持体上にエクストルージョンコータを用い、準備した塗布液を減圧押出し塗布により塗布した。支持体の搬送速度は10m/minとし、ウェット膜厚が10μmとなるようにプランジャーポンプによりエクストルージョンコータへ塗布液を供給した。その後塗膜を設けた支持体を連続的に搬送し、塗布工程の下流側に設けられた乾燥工程で表1に示すように、PETフィルムの平滑度を維持する区間の塗膜中の固形分濃度と、PETフィルムの平滑度を変化させ試料を作製しNo.101〜103とした。尚、平滑度の変化は塗膜中の溶媒を蒸発させる時のPETフィルムの温度とPETフィルムの搬送方向の支持体単位断面積あたりの張力を変化することで行った。
【0049】
平滑度はキーエンス(株)製 CCDレーザー変位計 LK−G を用い、5cm間隔で支持体幅手に測定した支持体の垂直方向の変形量の最大値と最小値との差とした。乾燥進行に伴う塗膜中の固形分濃度の変化は、オフラインで事前にシート状のフィルムに同液を塗布し、本特許の乾燥条件を再現し溶媒の乾燥過程を再現した時の時間経過と塗膜を含むフィルムの重量の変化から算出した。
【0050】
(評価)
作製した試料No.101〜103に付き、以下に示す方法で塗膜厚のバラツキを測定し、以下に示す評価ランクに従って評価した結果を表1に示す。尚、表中のDはPETフィルムの表面の幅手平滑度を維持する区間終点での塗膜中の固形分濃度を示す。PETフィルムの表面の幅手平滑度は塗膜の厚さに対する%を示す。
【0051】
塗膜厚のバラツキ測定方法
塗布開始から100mの十分に安定して加工された試料より、幅方向に20cm角の試料を3枚切り取り、2mm間隔で大塚電子(株)製 光干渉膜厚計 FE−3000を用い、膜厚を測定し、次式により計算で求めた。
【0052】
塗膜厚のバラツキA=(最大膜厚−最小膜厚)/平均膜厚
塗膜厚のバラツキの評価ランク
◎:A≦0.05
○:0.05<A≦0.1
×:0.1<A
【0053】
【表1】

【0054】
本発明の有効性が確認された。
【0055】
実施例2
(支持体の準備)
実施例1と同じPETフィルムを準備した。
【0056】
(塗布液の調製)
実施例1と同じ塗布液を調製した。
【0057】
(塗布)
図1に示す塗布装置を使用した。バックアップロール上に支持された支持体上にエクストルージョンコータを用い、準備した塗布液を減圧押出し塗布により塗布した。支持体の搬送速度は10m/minとし、ウェット膜厚が10μmとなるようにプランジャーポンプによりエクストルージョンコータコータへ塗布液を供給した。その後塗膜を設けた支持体を連続的に搬送し、塗布工程の下流側に設けられた乾燥工程で表2に示すように、PETフィルムの平面性を維持する区間の塗膜中の固形分濃度と、PETフィルムの平面性を変化させ試料を作製しNo.201〜203とした。尚、平面性の変化は塗膜中の溶媒を蒸発させる時のPETフィルムの温度とPETフィルムの搬送方向の支持体単位断面積あたりの張力を変化することで行った。
【0058】
具体的にはPETフィルムの表面の凹凸の隣接する極大点と極小点の距離の割合を言う。PETフィルムの表面凹凸の変位量測定は、キーエンス(株)製 CCDレーザー変位計 LK−Gを用い、支持体幅手中央の20cmの間隔を幅手方向に連続的に測定することにより行い、これにより得られたプロフィールから決定された隣接する極大点と極小点との垂直方向距離に対する水平方向距離の比を平面性とした時、測定範囲内で最も小さい値となるものを評価値(表中のFを示す)とした。尚、平滑度及び塗膜中の固形分濃度は実施例1と同じ方法で測定した。
【0059】
(評価)
作製した試料No.201〜203に付き、塗膜厚のバラツキを実施例1と同じ方法で測定し、実施例1と同じ評価ランクに従って評価した結果を表2に示す。尚、表中のEはPETフィルムの表面の平面性を維持する区間の塗膜中の固形分濃度(体積%)を示す。表中のFは、PETフィルムの表面の隣接する凹凸の極大点と極小点の垂直方向の距離に対する水平方向の距離を示す。
【0060】
【表2】

【0061】
本発明の有効性が確認された。
【0062】
実施例3
実施例1で作製した試料No.101を作製する時、塗膜中の溶媒を蒸発する時のPETフィルムの温度と、PETフィルム搬送方向のPETフィルムの単位断面積あたりの張力を表3に示すように変化した他は同じ条件で試料を作製しNo.301〜310とした。
【0063】
評価
作製した試料No.301〜311に付き、塗膜厚のバラツキ、横段ムラに付き以下の方法により測定し、以下に示す評価ランクに従って評価した結果を表3に示す。塗膜厚のバラツキは実施例1と同じ方法で測定し、実施例1と同じ評価ランクに従って評価した。横段ムラは、塗布先頭から100mの十分に安定して加工された試料を、目視により幅方向の段状のムラの有無を観察した。
【0064】
横段ムラの評価ランク
○:横段ムラの発生がない
△:実技上問題とならない僅かな横段ムラの発生が認められる
×:横段ムラが多発している
【0065】
【表3】

【0066】
試料No.308は乾燥不良となり、試料の作製が出来なかった。乾燥を終了させるには乾燥ボックスを長くする必要があり設備の改造を必要とする。本発明の有効性が確認された。
【0067】
実施例4
実施例1で作製した試料No.101を作製する時、図2の(a)に示す様に乾燥ボックス中にPETフィルムの平滑度を維持する区間にPETフィルムの支持手段として、直径150mmのバックアップロールを160mm間隔で5本配設し、送方向のPETフィルムの単位断面積あたりの張力を表4に示すように変化した他は同じ条件で試料を作製しNo.401〜407とした。
【0068】
評価
作製した試料No.401〜407に付き、塗膜厚のバラツキ、横段ムラに付き評価をした結果を表4に示す。尚、塗膜厚のバラツキは実施例1と同じ方法で測定し、実施例1と同じ評価ランクに従って評価し、横段ムラは実施例3と同じ方法で測定し、実施例3と同じ評価ランクに従って評価した。
【0069】
【表4】

【0070】
本発明の有効性が確認された。
【0071】
実施例5
実施例1で作製した試料No.101を作製する時、図2の(b)に示す様に乾燥ボックス中にPETフィルムの平滑度を維持する区間にPETフィルムの支持手段として、ブチルゴム製のコンベアベルトを配設し、搬送方向のPETフィルムの単位断面積あたりの張力を表5に示すように変化した他は同じ条件で試料を作製しNo.501〜507とした。
【0072】
評価
作製した試料No.501〜507に付き、塗膜厚のバラツキ、横段ムラに付き評価をした結果を表5に示す。尚、塗膜厚のバラツキは実施例1と同じ方法で測定し、実施例1と同じ評価ランクに従って評価し、横段ムラは実施例3と同じ方法で測定し、実施例3と同じ評価ランクに従って評価した。
【0073】
【表5】

【0074】
本発明の有効性が確認された。
【0075】
実施例6
実施例1で作製した試料No.101を作製する時、
図2の(c)に示す様に乾燥ボックス中にPETフィルムの平滑度を維持する区間にPETフィルムの支持手段として、表面をフッ素樹脂で加工したプレートを配設し、搬送方向のPETフィルムの単位断面積あたりの張力を表6に示すように変化した他は同じ条件で試料を作製しNo.601〜607とした。
【0076】
評価
作製した試料No.601〜607に付き、塗膜厚のバラツキ、横段ムラに付き評価をした結果を表6に示す。尚、塗膜厚のバラツキは実施例1と同じ方法で測定し、実施例1と同じ評価ランクに従って評価し、横段ムラは実施例3と同じ方法で測定し、実施例3と同じ評価ランクに従って評価した。
【0077】
【表6】

【0078】
本発明の有効性が確認された。
【0079】
実施例7
実施例1で作製した試料No.101を作製する時、図2の(d)に示す様に乾燥ボックス中にPETフィルムの平滑度を維持する区間にPETフィルムの支持手段として、3mm幅のスリットを3cm間隔で空気の吹き付装置を配設し、搬送方向のPETフィルムの単位断面積あたりの張力を表7に示すように変化した他は同じ条件で試料を作製しNo.801〜807とした。尚、空気の吹き付けは、吹き出し口位置での風速が5m/sとなるようにした。
【0080】
評価
作製した試料No.701〜707に付き、塗膜厚のバラツキ、横段ムラに付き評価をした結果を表7に示す。尚、塗膜厚のバラツキは実施例1と同じ方法で測定し、実施例1と同じ評価ランクに従って評価し、横段ムラは実施例3と同じ方法で測定し、実施例3と同じ評価ランクに従って評価した。
【0081】
【表7】

【0082】
本発明の有効性が確認された。
【0083】
実施例8
実施例1で作製した試料No.101を作製する時、塗膜中の溶媒を蒸発する時のPETフィルムの温度と、PETフィルムの搬送方向と直行する方向のPETフィルムの単位断面積あたりの張力を表8に示すように変化した他は同じ条件で試料を作製しNo.801〜814とした。尚、張力の変化は図3に示す様なテンターを使用して行った。
【0084】
評価
作製した試料No.801〜814に付き、塗膜厚のバラツキを実施例1と同じ方法で測定し、実施例1と同じ評価ランクに従って評価した結果を表8に示す。
【0085】
【表8】

試料No.808は乾燥不良となり、試料の作製が出来なかった。乾燥を終了させるには乾燥ボックスを長くする必要があり設備の改造を必要とする。本発明の有効性が確認された。
【0086】
実施例9
実施例8において、テンターの代わりに直径150mmのスパイラルロールを使用し、溝の本数と角度を変え搬送方向と直行する方向の張力を実施例8と同じに変えて試料を作製し、塗膜厚のバラツキを評価した結果、表8に示す結果と同じ結果を得た。
【0087】
実施例10
実施例8において、テンターに代わり、中央径170mm、両端径150mm、長さ1100mmのクラウンロール使用し、中央の径と端部の径を変え搬送方向と直行する方向の張力を実施例8と同じに変えて試料を作製し、塗膜厚のバラツキを評価した結果、表8に示す結果と同じ結果を得た。
【符号の説明】
【0088】
1 塗布・乾燥装置
101 ダイコータ
102、107 バックアップロール
103 支持体
104a 塗膜
104b 機能性膜
105 乾燥ボックス
108 コンベアベルト
109 プレート
110 吹き付け装置
111 テンター
T 区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続搬送される帯状プラスチックフィルム支持体上に、溶媒中に固形分を溶解又は分散した塗布液を塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜を有する前記帯状プラスチックフィルム支持体を搬送しながら前記塗膜中の溶媒を蒸発させて機能性膜を得る塗膜乾燥方法において、
前記塗膜中の固形分濃度が80体積%以下の間は、
前記帯状プラスチックフィルム支持体の表面の幅手平滑度を、乾燥後の前記機能性膜の塗膜の厚さの100%以下とし、
前記塗膜中の溶媒を蒸発させる時、帯状プラスチックフィルム支持体の温度を30℃以上、該帯状プラスチックフィルム支持体のガラス転移点より20℃低い温度以下とし、該帯状プラスチックフィルム支持体の搬送方向と直交する方向の該帯状プラスチックフィルム支持体の単位断面積あたりの張力を0.2〜10MPaとすることを特徴とする塗膜乾燥方法。
【請求項2】
前記帯状プラスチックフィルム支持体の搬送方向と直交する方向への張力を付加する手段がテンターであることを特徴とする請求項1に記載の塗膜乾燥方法。
【請求項3】
前記帯状プラスチックフィルム支持体の搬送方向と直交する方向への張力を付加する手段がスパイラルロールであることを特徴とする請求項1に記載の塗膜乾燥方法。
【請求項4】
前記帯状プラスチックフィルム支持体の搬送方向と直交する方向への張力を付加する手段がクラウンロールであることを特徴とする請求項1に記載の塗膜乾燥方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−157861(P2012−157861A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−84320(P2012−84320)
【出願日】平成24年4月2日(2012.4.2)
【分割の表示】特願2005−124834(P2005−124834)の分割
【原出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】