説明

塗膜乾燥装置

【課題】本発明の課題は、有機溶媒などの揮発性の液体を含む塗膜を形成したフィルムや基板の乾燥装置において、乾燥装置周囲の環境の変化や乾燥装置の出力変化に追従して乾燥装置の動作状態を逐次設定し、装置内の塗膜の乾燥速度を最適となるように制御する機能を持った塗膜乾燥装置を提供することである。
【解決手段】塗膜が形成された基材を搬送するための搬送装置と、搬送中の基材表面の塗膜を乾燥させるための乾燥装置と、搬送される基材表面に形成された塗膜の乾燥速度を測定する塗膜乾燥速度測定装置と、前記塗膜乾燥速度測定装置から得られる乾燥速度をもとに、塗膜の乾燥速度が常に最適な乾燥速度となるように、前記乾燥装置を制御する制御装置で構成される塗膜乾燥装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムや紙および板材に塗布した有機溶媒などの揮発成分を含む塗膜を乾燥させる送風乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウェットコーティング技術を利用して製造される光学フィルム製品には、膜厚精度として誤差1%以下を要求されるような製品が増えてきている。そのような光学フィルムの製造では、一般的に塗布液の溶媒として有機溶剤を使用することが多いが、有機溶剤は水に比べると蒸発速度が速く、塗布後の乾燥過程において精密に乾燥しないと、乾燥した塗膜に風紋のようなムラを生じせしめることが知られている。
【0003】
ムラを生じさせない精密な塗膜の乾燥には乾燥速度を制御することが必要である。そのため光学フィルムの製造装置の一部には乾燥炉が設けられる。乾燥炉内の乾燥速度制御方法としては特許文献1に記載の乾燥炉の領域を分けることで、それぞれの領域での条件を別々に設定して所望の乾燥状態を得られるものがある。
【0004】
また、ムラの無い、所望の膜構造を得るのに適した塗膜の乾燥速度を知るためには、あらかじめ塗膜の乾燥速度を測定する必要がある。測定方法としては特許文献2に記載の乾燥中の重量変化を測定する方法や、非特許文献1に記載の溶媒が蒸発するときの熱の移動量を測定し、乾燥速度を算出する方法がある。
【0005】
しかしながら、前記先行技術文献記載の乾燥装置は、製品の製造工程中において刻々と変化し得る、室温や湿度の変化、乾燥炉内の温度変化や乾燥装置出力の変化など、塗膜の乾燥速度に影響を及ぼす環境の変化に対し、乾燥速度を一定に保つ最適な乾燥条件を設定することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4092593号公報
【特許文献2】特開2008−267858号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Measuring the Drying Rate of Liquid Film Coatings Using Heat Flux Method,Drying Technology, Volume 27, Issue 6 June 2009, pages 817−820
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、有機溶媒などの揮発性の液体を含む塗膜を形成したフィルムや基板の乾燥装置において、乾燥装置周囲の環境の変化や乾燥装置の出力変化に追従して乾燥装置の動作状態を逐次設定し、装置内の塗膜の乾燥速度を最適となるように制御する機能を持った塗膜乾燥装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に記載の発明は、塗膜が形成された基材を搬送するための搬送装置と、搬送中の基材表面の塗膜を乾燥させるための乾燥装置と、搬送される基材表面に形成された塗膜の乾燥速度を測定する塗膜乾燥速度測定装置と、前記塗膜乾燥速度測定装置から得られる乾燥速度をもとに、塗膜の乾燥速度が常に最適な乾燥速度となるように、前記乾燥装置を制御する制御装置で構成される塗膜乾燥装置である。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記塗膜乾燥速度測定装置において、複数の駆動装置によって駆動され、搬送される基材と接して同速度で動作する塗膜乾燥速度測定装置基材と、該塗膜乾燥速度測定装置基材の外周に貼り付けられた温度コントロール機能をもつ加熱フィルムと、該加熱フィルムの上に貼り付けられた熱流束センサと、乾燥炉内の温度を測定する温度センサと、前記熱流束センサから出力される熱流束値と基材温度、および前記温度センサから出力される温度値より、塗膜の乾燥速度を導出する計算機とを備えることを特徴とする塗膜乾燥装置である。

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有機溶媒などの揮発成分を含む塗膜がフィルムや板状の部材に塗布されたものを、ムラなく高精度に乾燥させる乾燥装置において、環境の変化による乾燥速度の変化に応じて、最適な乾燥速度で塗膜を乾燥するための乾燥条件を逐次設定し、乾燥に伴う塗膜の欠陥を発生させることなく、塗膜の乾燥が行える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態の塗膜乾燥装置の全体を示した概略図である。
【図2】本発明の一実施形態の塗膜乾燥速度測定装置の構成を示した概略図である。
【図3】本発明の一実施形態の塗膜乾燥速度の制御プロセスを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0014】
以下に、図1を用いて本発明の実施形態を説明する。
【0015】
本発明は、図1に示すように、塗布装置11により表面に塗膜を形成した基材15を搬送する搬送装置9と、乾燥炉1の内部に搬送される基材15の表面の塗膜を乾燥させる乾燥装置7と、乾燥炉内の温度を測定する温度センサ25と、前記基材15の表面の塗膜の乾燥速度を測定するベルト状の塗膜乾燥速度測定装置17と、該塗膜乾燥速度測定装置17を基材15の搬送速度と同速度で駆動するための駆動装置3と、塗膜乾燥速度測定装置17より出力される乾燥速度を最適な乾燥速度にするために乾燥装置7の制御を行う制御装置13とから構成される。
【0016】
塗布装置11はスロットコーターやバーコーターなど、基材15表面に対して塗液を均一に塗布できるものを用いる。基材15はフィルムや紙といったロールトゥーロールで連続して流れるものでも、間欠で搬送されるガラスや鋼板などの板材でもよい。搬送装置9は前記基材を塗膜乾燥速度測定装置17の上を搬送できる構成にする必要がある。
【0017】
乾燥炉1は前記基材15表面の塗膜を均一に乾燥させるための乾燥装置7を設置する場となる。該基材15は表面に塗膜を形成後、該乾燥装置7により乾燥される。該乾燥装置7の乾燥方式としては熱風や湿潤風の送風、赤外線加熱が挙げられる。
【0018】
塗膜乾燥速度測定装置17は駆動装置3によって基材15と同速度で走行するベルト状の装置である。該塗膜乾燥速度測定装置で測定された基材15表面の塗膜乾燥速度をもとに、この塗膜乾燥速度が塗膜の乾燥に最適な値となるように、制御装置13が乾燥装置7を駆動する。
【0019】
塗膜乾燥速度測定装置17のベルト状の乾燥速度検出部の層構成は、図2に示すように、ベルト状の塗膜乾燥速度測定装置基材35と、接着層33を介して前記基材に貼り合わせられた加熱フィルム31と、接着層29を介して前記加熱フィルム31に貼り合わせられた熱流束センサ27とで構成されている。塗膜が形成された基材15は熱流束センサ27と接し、該熱流束センサと同速度で搬送される。該塗膜乾燥速度測定装置は、該熱流束センサの熱流束値と、該熱流束センサの温度値と、乾燥炉1内の温度センサ25から読み取られる温度値を制御装置13にて取り込んで、塗膜乾燥速度を導出する。
【0020】
ベルト状の塗膜乾燥速度測定装置基材35は平坦性のあるステンレス製のベルトなどが望ましい。加熱フィルム31はカーボン製などのシート状で曲げることが可能なヒーターなどが適している。熱流束センサ27はシート状で、熱流束の検出パターンが領域分割可能なものが適している。特に、搬送方向に対して基材の幅方向に均一に乾燥させる場合は該熱流束センサのパターンは搬送方向に垂直な短冊状であることが望ましい。
【0021】
次に、塗膜乾燥速度測定装置17において、塗膜乾燥速度を導出する方法について説明する。
【0022】
本発明の塗膜乾燥速度測定装置の測定方式は、溶媒が蒸発する際に、蒸発潜熱により発生する熱の移動を、熱流束センサにより検出して塗膜乾燥速度に換算するものである。
【0023】
塗膜乾燥速度r[g/(m・s)]は次の(1)式で求められる。
【0024】
【数1】

【0025】
ここで、溶媒の蒸発潜熱ΔH[J/g]、基材と空気層との界面の熱伝達率hair[W/(m・K)]、全熱流束q[W/m]基材の熱伝導率λ[W/(m・K)]、基材の厚さH[m]、塗膜の熱伝導率λ[W/(m・K)]、塗膜の厚さH[m]、基材の温度T[K]、空気層の温度Tair[K]である。
【0026】
前記塗膜乾燥速度の導出式(1)において、塗膜の熱伝導の効果はほぼ無視できる。したがって、次の(2)式に簡略化できる。
【0027】
【数2】

【0028】
前記数式内で使用される変数のうち、qおよびTは熱流束センサ27、Tairは温度センサ25で測定される値である。
【0029】
基材15の表面41から空気層への熱伝達係数hair[W/(m・K)]を導出する。前記熱伝達係数は基材15に塗膜を形成せずに乾燥炉1内を搬送させ、乾燥速度測定装置17の加熱フィルム31で適当な熱を加えながら熱流束センサ27で塗布前の熱流束q[W/m]と温度TS0を測定し、温度センサ25で風温度Tair0[K]を測定し、次の(3)式で導出する。
【0030】
【数3】

【0031】
上記方法で炉内の風速と風温度と前記基材15の搬送速度と炉内の位置をパラメータとした、乾燥装置の各乾燥条件における熱伝達係数hairが求められる。
【0032】
基材15に塗液を塗布し、塗膜を形成した状態で乾燥炉1内を搬送する。この時測定されるqとTとTairおよび(3)式で求めたhairの値を(2)式に挿入し、乾燥工程における塗膜乾燥速度rを逐次導出する。
【0033】
次に、塗膜乾燥速度の制御プロセスについて図3を用いて説明する。塗膜の最適な乾燥速度は予め求められ、この乾燥速度をrとする。この塗膜を乾燥装置7で乾燥させると、そのときの塗膜乾燥速度rが塗膜乾燥速度測定装置17より逐次出力される。乾燥速度rは装置周囲の環境変化や乾燥装置の出力の変化によって変動し、制御装置13へと取り込まれる。制御装置13は最適乾燥速度rと現在の塗膜乾燥速度rの差の絶対値|r−r|が最小となるように乾燥装置7の出力を制御する。このようにして、塗膜乾燥速度rが常に最適乾燥速度rに近づくように乾燥速度の制御が行われ、環境変化による塗膜の欠陥を発生させることなく塗膜を乾燥することができる。
【0034】
以下に、本発明の具体的実施例について説明する。
【0035】
<実施例>
乾燥装置全体は図1の構成のものを使用した。乾燥炉は幅50cm、高さ50cm、長さ2mの方形型の筒を使用し、その内部に幅15cm、長さ1.5mの乾燥速度測定装置を設けた。前記筒の出口には送風用のファンを設け、送風式の乾燥装置とした。基材は幅13cmのものを使用し、搬送は入り口側のロールから送り出し、出口側のロールで巻き取る構成とした。入り口側の塗布装置には塗出幅10cmのスロットコーターを使用した。乾燥速度の導出用計算機、制御装置としては汎用のパソコンを使用した。
【0036】
次に、乾燥速度測定装置は図2の構成のものを使用した。厚さ1mmのステンレスのベルトを使用し、フィルムシートヒーターと、熱流束センサを、熱伝導シートを介して貼り付けた。風温の測定には風速センサを使用し、センサ部分が乾燥炉の中央部分に位置するように固定した。
【0037】
熱流束センサはCAPTEC製のフィルム状センサを用い、検出パターンは幅10cm×搬送方向のピッチ5mmの短冊形状を搬送方向に隙間無く並べるパターンとした。
【0038】
風速・風温計はKANOMAX 6531 風速計、熱流束センサの出力読み取りにはHIOKI8400データロガーを用い、それぞれの出力データはパソコンに取り込み、乾燥速度を導出した。導出した乾燥速度と最適な乾燥速度を比較し、その値に応じて風速を調節するように制御装置を設定した。
【0039】
塗液にはトルエンにポリスチレン樹脂を1wt.%加えたものを使用し、10μmの厚さに塗布した。予め求めた最適乾燥速度は8g/(m・s)であり、室温を22℃〜26℃の間で増減させ、24m/minの搬送速度で基材を搬送させて乾燥を行い、乾燥後の塗膜の膜厚変化を観察した結果、所望の膜厚に対して±1%の変動に収まった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の塗膜乾燥装置は、光学フィルムや液晶ディスプレイのカラーフィルタ部材といった、有機溶媒を含む溶液を塗布して形成した塗膜を、精密に乾燥させる装置において、周囲環境の変化に応じて逐次乾燥条件を設定して塗膜乾燥速度を最適な状態に保ち、乾燥に伴う塗膜の欠陥を発生させずに塗膜を乾燥することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 ・・・乾燥炉
3 ・・・塗膜乾燥速度測定装置駆動装置
7 ・・・乾燥装置
9 ・・・基材搬送装置
11 ・・・塗布装置
13 ・・・制御装置
15 ・・・基材
17 ・・・塗膜乾燥速度測定装置
25 ・・・温度センサ
27 ・・・熱流束センサ
29 ・・・接着層
31 ・・・加熱シート
33 ・・・接着層
35 ・・・塗膜乾燥速度測定装置基材
41 ・・・基材と気相の界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜が形成された基材を搬送するための搬送装置と、搬送中の基材表面の塗膜を乾燥させるための乾燥装置と、搬送される基材表面に形成された塗膜の乾燥速度を測定する塗膜乾燥速度測定装置と、前記塗膜乾燥速度測定装置から得られる乾燥速度をもとに、塗膜の乾燥速度が常に最適な乾燥速度となるように、前記乾燥装置を制御する制御装置で構成される塗膜乾燥装置。
【請求項2】
前記塗膜乾燥速度測定装置において、複数の駆動装置によって駆動され、搬送される基材と接して同速度で動作する塗膜乾燥速度測定装置基材と、該塗膜乾燥速度測定装置基材の外周に貼り付けられた温度コントロール機能をもつ加熱フィルムと、該加熱フィルムの上に貼り付けられた熱流束センサと、乾燥炉内の温度を測定する温度センサと、前記熱流束センサから出力される熱流束値と基材温度、および前記温度センサから出力される温度値より、塗膜の乾燥速度を導出する計算機とを備えることを特徴とする塗膜乾燥装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−72636(P2013−72636A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214582(P2011−214582)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】