説明

塗膜除去方法並びに装置

【課題】騒音や粉塵の発生が少なく、塗膜の除去によって露出した被塗装物表面における錆の発生を大幅に抑制できる塗膜除去方法と塗膜除去装置を提供する。
【解決手段】pH10以上のアルカリ電解水を1700気圧以上に昇圧し、これを被塗装体に吹き付けることにより塗膜の除去を行う塗膜除去方法、並びに塗膜除去装置1には、pH10以上のアルカリ電解水を収容する容器3と、この容器3と管路7で結ばれた高圧ポンプ4であって、アルカリ電解水を1700気圧以上に昇圧する高圧ポンプ4と、昇圧されたアルカリ電解水を噴射する噴射ノズル6とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜除去方法並びに装置に関するものであり、詳細には、建築物や橋梁等の主として鉄で構成された構造物における塗装塗り替え時に行われる既存の塗装の除去の際に用いられる、塗膜除去方法と塗膜除去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物、立体駐車場、船舶、橋梁等の主として鉄で構成された構造物には、通常、防錆等の目的で塗装が施されているが、塗装塗膜の径年劣化は避けられず、通常、5〜10年に一度の割合で、塗装の塗り替えが行われている。塗装の塗り替え時には、まずもって既存塗装の塗膜を除去する必要があり、従来から、砂や鋼片、亜鉛片などのショットを噴射するブラスト工法が一般的に行われている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、従来から行われているブラスト工法は、硬質の砂や鋼片を被塗装物に向かって噴射するものであるので、騒音が発生するとともに、衝撃で剥離した塗膜が粉塵となって飛散し、作業環境的に問題がある上に、噴射した砂や鋼片等の処理にも労力を要するという欠点がある。
【0003】
ブラスト工法以外の塗膜除去方法としては、回転工具を被塗装物に押し当てて塗膜の除去を行うことも従来から行われているが(例えば、特許文献2参照)、塗膜を回転工具の刃先によって物理的に削り取るものであるので、ブラスト工法と同様に、騒音並びに粉塵の発生は避けられず、さらには工具と被塗装物との接触により火花が発生し、火災の危険性を伴うという欠点がある。
【0004】
これらの欠点を避けるため、ショットを噴射する代わりに、被塗装物を予め加熱した後に高圧水を噴射して塗膜を除去する方法も提案されている(特許文献3参照)。しかし、水を噴射するこの方法においては、被塗装物が鉄等の錆び易い材料である場合には、塗膜の除去によって露出した表面に、再塗装までの間に錆が発生し易いという大きな問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−90414号公報
【特許文献2】特開2007−90517号公報
【特許文献3】特開平11−226873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来の塗膜除去方法の欠点を解決するために為されたもので、騒音や粉塵の発生が少なく、塗膜の除去によって露出した被塗装物表面における錆の発生を大幅に抑制できる塗膜除去方法と装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、pH10以上のアルカリ電解水を1700気圧以上に昇圧し、これを被塗装体に吹き付けると、塗装塗膜の除去が容易に行われ、かつ、塗膜の除去によって露出した被塗装物表面に錆が発生し難いことを見出して、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、pH10以上のアルカリ電解水を1700気圧以上に昇圧し、これを被塗装体に吹き付けることにより塗膜の除去を行う塗膜除去方法、並びにpH10以上のアルカリ電解水を収容する容器と、この容器と管路で結ばれた高圧ポンプであって、アルカリ電解水を1700気圧以上に昇圧する高圧ポンプと、昇圧されたアルカリ電解水を噴射する噴射ノズルとを有する塗膜除去装置を提供することによって上記の課題を解決するものである。
【0009】
本発明で用いるアルカリ電解水とは、水を電気分解することによって水中の水酸イオン「OH」の量を増やすことによって生成されるアルカリ電解水であって、pHはアルカリ性を示すものの、水溶液中に水酸イオンを放出する対イオンが存在しないため、いわゆる「アルカリ」ではなく、例えば、二酸化炭素などの自然界に存在する物質との反応によって容易に中和されるものである。
【0010】
本発明においては、アルカリ電解水としてはpHが10以上の強アルカリ電解水を使用する。pHが10未満では、塗膜の除去によって露出した表面における錆の発生防止効果が十分ではない。これに対して、pHが10以上、好ましくはpH11以上、より好ましくはpH12以上のアルカリ電解水を用いる場合には、後述するとおり、十分な塗膜の除去効果が得られるばかりでなく、塗膜の除去された露出面における錆の発生が大幅に抑制される。なお、本発明で用いるアルカリ電解水のpHには特段上限はないけれども、あまりにpHを高くしても効果にそれほどの差異はないので、通常、pH10〜13.5の範囲、好ましくはpH11〜13.5、より好ましくはpH12〜13.5の範囲が好ましい。
【0011】
本発明で用いるアルカリ電解水としては、pHが10以上のアルカリ電解水であればどのような製法で製造されたものであっても良く、市販のものがあればそれを使用しても良いが、例えば、特許第3922639号に開示された電解水生成装置によって生成されるpH10以上の強アルカリ電解水を用いることができる。特許第3922639号に開示された電解水生成装置によって生成されるアルカリ電解水を用いる場合には、アルカリ電解水に塩化ナトリウムや炭酸カリウム等の電解質の混入がないので、環境保護の観点からも好ましい。また、特許第3922639号に開示された電解水生成装置によって生成されるアルカリ電解水を用いる場合には、アルカリ電解水生成装置を移動可能なコンパクトなものとし、施工現場に持ち込んで、その場でpH10以上、好ましくはpH11以上、より好ましくはpH12以上のアルカリ電解水を発生させて使用することができるので、極めて便利である。
【0012】
また、本発明においては、pH10以上のアルカリ電解水は1700気圧以上に昇圧され、被塗装体に噴射される。アルカリ電解水の圧力が1700気圧未満であると塗膜の除去効果が十分ではない。圧力の上限には特段の制限はないけれども、高圧を発生させるための設備の点や、安全性の点などからは、2000気圧まで、好ましくは1900気圧までとするのが良い。
【0013】
本発明の塗膜除去方法並びに塗膜除去装置が対象とする被塗装物は、典型的には、オフィスビル、住居、駅、スタジアム、劇場などの建築物、立体駐車場、橋梁などの構造物、ガードレール、船舶など、その表面に塗装塗膜を有するもの全般であり、樹脂やプラスチック製品の表面塗装の除去などにも使用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の塗膜除去方法及び塗膜除去装置によれば、騒音や粉塵の発生が少なく、環境に与える影響を大幅に低減させた塗膜除去方法が実現できるという利点が得られる。また、発明の塗膜除去方法及び塗膜除去装置によれば、火花の発生がないので、火災等の危険性のない塗膜除去方法が実現できるという利点が得られる。さらに、本発明の塗膜除去方法及び塗膜除去装置によれば、露出面における錆の発生が大幅に抑制された塗膜除去方法が実現できるという利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の塗膜除去装置の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明が図示のものに限られないことは勿論である。
【0017】
図1は、本発明の塗膜除去装置の一例を示す概念図である。図1において、1は本発明の塗膜除去装置であり、塗膜除去装置1は、アルカリ電解水生成装置2、容器3、噴射ガン5、ノズル6を備えており、アルカリ電解水生成装置2、容器3、高圧ポンプ4、及び噴射ガン5との間は、いずれも、管路7a〜7cで結ばれている。8は旧塗装塗膜を有する被塗装体である。
【0018】
アルカリ電解水生成装置2は、通常の水から電気分解によってアルカリ電解水を生成する装置であり、例えば、前述した特許第3922639号公報に開示された電解水生成装置を用いることができる。この場合、アルカリ電解水生成装置2には、原料水として水道水が図示しない管路を経由して供給される。
【0019】
アルカリ電解水生成装置2で生成されたpH10以上、好ましくはpH11以上、より好ましくはpH12以上のアルカリ電解水は、管路7aをとおって容器3へと供給され、容器3内に一時貯蔵される。容器3には図示しないレベル計が取り付けられており、容器3内のアルカリ電解水の量が一定量以上になると、その信号がアルカリ電解水生成装置2へと送られ、アルカリ電解水の生成が一時停止される。逆に、容器3内のアルカリ電解水の量が一定量以下になると、その信号がアルカリ電解水生成装置2へと送られ、アルカリ電解水生成装置2はアルカリ電解水の生成を開始する。
【0020】
本発明の塗膜除去方法を実施するに際しては、高圧ポンプ4が作動し、容器3内に一時貯蔵されているpH10以上のアルカリ電解水を取り込んで、これを1700気圧以上に昇圧し、噴射ガン5へと送出する。噴射ガン5に送出された高圧のアルカリ電解水は、ノズル6から被塗装体8に向けて噴射され、被塗装体8と衝突し、表面の塗膜を剥離、除去する。噴射ガン5を操作して、被塗装体8の表面に高圧のアルカリ電解水をくまなく噴射することで、被塗装体8の旧塗装塗膜は除去されることになる。
【0021】
このように本発明の塗膜除去方法及び塗膜除去装置によれば、硬質のショットを被塗装体8の表面に噴射するのではなく、高圧のアルカリ電解水を噴射するだけであるので、騒音の発生が少なく、また、噴射によって剥離した塗膜片も、噴射され霧状となっているアルカリ電解水に包まれ落下するので、粉塵となって飛散することがなく、作業環境を悪化させることがない。また、本発明の塗膜除去方法及び塗膜除去装置によれば、回転工具で被塗装体8の表面を削り取るのではないので、火花が発生することがなく、火災の危険性も少ない。
【0022】
さらに、本発明の塗膜除去方法及び塗膜除去装置によれば、塗膜の除去によって露出した被塗装体8の表面に錆が発生するのを大幅に遅らせることができ、本発明の塗膜除去方法によって建築物を構成する鉄骨部の旧塗膜を除去したところ、新たな露出面は塗膜除去後一週間後でも、錆の発生は認められなかった。本発明の塗膜除去方法によって、錆の発生を大幅に抑制することができる理由は、推測するに、単なる水ではなく、pH10以上のアルカリ電解水を用いているので、アルカリ電解水が付着した露出面には防食性の高い不動態皮膜が形成され、これが防食機能を果たしているのではないかと考えられる。いずれにせよ、本発明の塗膜除去方法及び塗膜除去装置によれば、塗膜が除去された露出面における錆の発生を大幅に遅らせることができるので、塗膜除去作業から再塗装作業までの期間を他の作業工程等に合わせて適宜定めることができるので、再塗装の日程決定に自由度が増すという利点が得られる。
【0023】
なお、以上の説明では、本発明の塗膜除去装置1は、アルカリ電解水生成装置2を備えているが、容器3内に十分な量のアルカリ電解水が貯蔵されているか、適宜補給できる場合には、アルカリ電解水生成装置2は必ずしも必要ではなく、アルカリ電解水生成装置2を備えていなくても良い。また、図に示すとおり、アルカリ電解水生成装置2と容器3とは、同じ架台9上に設置されており、架台9には移動のための車輪9a、9aが備えられている。また、高圧ポンプ4にも移動用の車輪4a、4aが備えられているので、本発明の塗膜除去装置1は、施工現場への搬送、搬出が極めて容易に行え、機動力に富む塗膜除去作業を可能とするものである。
【0024】
なお、以上の説明では、本発明の塗膜除去方法及び塗膜除去装置を専ら塗膜の除去に用いる場合について説明をしたが、構造物や構築物表面に付着した汚れの洗浄、除去に使用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上説明したように、本発明の塗膜除去方法及び塗膜除去装置によれば、騒音、粉塵の発生を大幅に減少させ、かつ、火花の発生がなく火災の危険性のない塗膜除去作業が可能となる。また、本発明の塗膜除去方法及び塗膜除去装置によれば、塗膜が除去された露出面における錆の発生を大幅に遅らせることができるので、再塗装の日程決定に自由度が増すという利点が得られ、その産業界にもたらす利便性には格別のものがある。
【符号の説明】
【0026】
1 塗膜除去装置
2 アルカリ電解水生成装置
3 容器
4 高圧ポンプ
5 噴射ガン
6 ノズル
7a、7b、7c 管路
8 被塗装体
9 架台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH10以上のアルカリ電解水を1700気圧以上に昇圧し、これを被塗装体に吹き付けることにより塗膜の除去を行う塗膜除去方法。
【請求項2】
pH10以上のアルカリ電解水を収容する容器と、この容器と管路で結ばれた高圧ポンプであって、アルカリ電解水を1700気圧以上に昇圧する高圧ポンプと、昇圧されたアルカリ電解水を噴射する噴射ノズルとを有する塗膜除去装置。
【請求項3】
pH10以上のアルカリ電解水を生成するアルカリ電解水生成装置を備え、当該アルカリ電解水生成装置とアルカリ電解水を収容する容器とが管路で結ばれている請求項2記載の塗膜除去装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−524(P2011−524A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144425(P2009−144425)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(509171450)両備商事株式会社 (2)
【Fターム(参考)】