説明

塗装不良品の表面処理方法

【課題】塗装不良品の塗装欠陥部の補修作業を、従来のような環境問題や高コスト化を引き起こすことなく、作業者によらず均一に、かつ短時間で、バラツキやムラを生ずることなく行うことができる塗装不良品の表面処理方法を提供する。
【解決手段】表面に、塗装欠陥部を有する塗膜が形成されてなる塗装不良品の表面処理方法であって、塗膜に投射材を吹き付けることにより塗膜の少なくとも一部を剥離する表面処理方法である。投射材として、粒径300μm以下であって、アスペクト比の平均値が1.5未満のものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装不良品の表面処理方法(以下、単に「表面処理方法」とも称する)に関し、詳しくは、自動車部品等の工業用部品や電気機器、建設、化学等の一般産業用部品など、広範な製造業の製品塗装工程において生ずる塗装不良品の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、電気機器、建設、化学等の各種製造業においては、通常、製造工程の一プロセスとして、製品表面の塗装が行われる。この塗装工程においては、気泡や微粉の混入に起因して、塗装表面にぶつぶつ状の塗装欠陥部が発生する場合がある。このような塗装欠陥部を有する塗装不良品については、多くの場合、サンドペーパー等を用いて手作業により塗装欠陥部を剥離することで、補修を行っているのが実状である。
【0003】
塗装を剥離して塗装品の補修を行う技術としては、例えば、特許文献1に、塗膜として少なくとも、着色層であるベースコート層とその上層のクリア層とを有するクリア塗装品の、クリア層に生じる塗装不良箇所を補修するにあたり、樹脂粒子を主成分とする投射材をクリア層表面に投射し、少なくともクリア層の表層部を剥離し、次いで、剥離した部分にクリア層用塗料を再塗装するクリア塗装品の補修方法が開示されている。
【特許文献1】特開2005−000872号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の人の手による作業では、塗装欠陥部の剥離にバラツキやムラが発生しやすく、場合によっては再塗装時の不良の原因となることがあった。また、手作業であるために時間がかかり、ベテラン作業者などのノウハウが必要であって容易に他の作業者への移管ができないなどの問題もあった。
【0005】
さらに、このような塗装欠陥部の剥離および再塗装の処理を何度か行った場合、塗膜が所定以上に厚くなってしまい、その場合には再度塗装はできないため、下地が金属のものについては溶解処理や溶剤処理が必要となり、また、下地がプラスチック製品のものについては廃棄処理となっていた。この場合、溶剤による剥離処理を行うと、使用した溶剤の廃棄による環境問題を引き起こすだけでなく、作業者の健康を害する可能性があり、特に揮発性溶剤の場合には、作業環境を整えるための設備に費用がかかるという問題もあった。一方、廃棄処理の場合も、産業廃棄物として埋め立てるか焼却することとなるため、環境の観点からは好ましい方法ではなかった。
【0006】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、塗装不良品の塗装欠陥部の補修作業を、従来のような環境問題や高コスト化を引き起こすことなく、作業者によらず均一に、かつ短時間で、バラツキやムラを生ずることなく行うことができる塗装不良品の表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、従来の手作業による表面バフ処理をブラスト処理により行うものとし、さらに、ブラスト処理に用いる投射材として、特定の粒径および形状を有するものを用いることで、塗膜表層部における一定厚さの塗膜につき剥離を行うことが可能となり、従来のような問題を生ずることなく、所定の表面粗さを得ることができ、再塗装時の密着性を向上させることが可能となることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の塗装不良品の表面処理方法は、表面に、塗装欠陥部を有する塗膜が形成されてなる塗装不良品の表面処理方法であって、前記塗膜に投射材を吹き付けることにより該塗膜の少なくとも一部を剥離する表面処理方法において、
前記投射材として、粒径300μm以下であって、かつ、アスペクト比の平均値が1.5未満のものを用いることを特徴とするものである。
【0009】
本発明においては、前記投射材として、熱硬化性樹脂を主成分とするプラスチック投射材を用いることが好ましく、前記投射材の吹き付け圧は、好適には0.7MPa以下とする。本発明によれば、前記塗膜を、表層から50μm以内の範囲で剥離することができ、前記塗膜の、表面粗さRaを3μm以下、かつ、Ryを15μm以下とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗装不良品の表面処理方法によれば、上記構成としたことにより、従来技術におけるような環境問題等を生ずることなく所定の表面粗さを得ることができ、再塗装時の密着性を向上させることが可能となる。また、従来のような手作業によるサンドペーパー処理とは異なり、表面を均一に処理することが可能となるため、手作業による処理時に発生しやすい剥離ムラやバラツキを低減することができ、再塗装時における塗装不良の低減にも効果がある。また、自動化を図ることができるために、短時間での処理が可能となり、作業の効率化が達成できる。
【0011】
なお、前述したように、従来よりブラスト処理を用いて塗膜の剥離を行う技術は知られているが(特許文献1参照)、従来技術では、塗膜の剥離性を向上する目的で鋭利多角形状の投射材が用いられており、このような投射材を本発明におけるような塗膜表面における塗装欠陥部の補修目的で用いた場合、塗膜内部まで剥離してしまう、表面が荒れすぎてしまうなどの不具合を生ずる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、表面に、塗装欠陥部を有する塗膜が形成されてなる塗装不良品の表面処理方法であって、塗膜に投射材を吹き付けることにより、その少なくとも一部を剥離するにあたり、投射材として、所定の粒径およびアスペクト比の平均値を有するものを用いる点に特徴を有する。
【0013】
具体的には、本発明においては、粒径300μm以下、好適には150μm以下であって、かつ、アスペクト比の平均値が1.5未満である投射材を用いる。かかる微細な投射材を用いて、塗膜表面に短時間のブラスト処理を行うことで、表面に均一な凹凸を形成して、所望の表面粗さを得ることができ、再塗装時において良好な塗膜の密着性を確保することができる。ここで、投射材粒子のアスペクト比は、図1(イ)に示すように、粒子1の最も長い部分の長さをXとし、このXに直交する方向に測った最も長い部分の長さをYとしたとき、X/Yにて示される。このアスペクト比が1に近づくほど粒子は球体に近づくため、本発明においては、より球体に近い投射材1Aを用いることが好ましいことになる(同図(ロ)参照)。
【0014】
また、本発明の表面処理方法における好適吹き付け圧は、0.7MPa以下、特には0.5MPa以下である。吹き付け圧が高すぎると、表面の均一性をコントロールすることが難しいため、好ましくない。
【0015】
本発明においては、上記所定の粒径および形状を有する投射材を使用することで、塗膜を、表層から50μm以内の範囲で剥離することができ、即ち、剥離量を抑えつつ、かつ、塗膜の表面粗さが、Raで3μm以下、好ましくは2μm以下、かつ、Ry(max)で15μm以下と、極めて平滑となるよう処理を行うことができる。
【0016】
また、本発明においては、塗膜表面を薄くかつ均一に剥離処理することで、塗装欠陥部が塗膜表面上で際立って現れるため、塗装欠陥部の目視による確認がしやすくなり、本発明に係るブラストによる表面処理のみにでは除去できない塗装欠陥部を有する塗装不良品を、目視検査により確実に選別できるメリットも得られる。
【0017】
本発明においては、投射材の粒径および形状のみが重要であり、投射材の材質については特に制限はなく、公知の材料、即ち、無機材料からなる無機投射材や、熱硬化性樹脂を主成分とする投射材を用いることができる。
【0018】
無機投射材としては、例えば、アルミナ、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、SiC、ガラス粉等を好適に用いることができる。
【0019】
投射材に用いられる熱硬化性樹脂としては、特に制限されるものではないが、例えば、メラミン樹脂(メラミン−フォルムアルデヒド樹脂)、ユリア樹脂(尿素−フォルムアルデヒド樹脂)、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、グアナミン樹脂、ポリウレタン樹脂等を挙げることができ、その他、これら樹脂に匹敵する硬度を有する樹脂も使用することが可能である。かかる投射材は、吹き付け後、回収して、30〜40回程度繰り返し循環させて使用することができる。
【0020】
本発明の表面処理方法におけるブラスト方法としては、ノズルを用いるドライブラストおよびウェットブラストが適用可能である。また、ブラスト装置としては、直圧式や吸引式、遠心式、バレル式の他、これらに相応する手法なども使用可能であり、特に制限されるものではない。用途や使用環境に応じて適宜選定して用いることができる。
【0021】
また、本発明の表面処理方法を、例えば、アルミホイール等の円形物に適用する場合には、円形の中心を軸として回転させながら処理を行うことができ、これにより面全体を均一に処理することができる。本発明によれば、例えば、面積約2000cm2の塗膜に対して、吹き付け圧0.5MPa、吹き付け距離20〜150mm、投射量約0.6kg/分にて吹き付け処理を行うことで、5分以内、特には2分以内程度で、Raで2μm以下、Ryで15μm以下程度の表面粗さを実現することができる。また、例えば、ホイールのスポーク部が垂直に立っている場合など、塗膜面に投射材が吹き付けにくい場合には、2本以上のノズルを適宜用いて、ノズルの角度を調整して、例えば、両サイドからブラストを行うことが有効である。
【0022】
本発明の表面処理方法は、前述したように、自動車部品等の工業用部品や電気機器、建設、化学等の一般産業用部品などの各種製品塗装工程において生ずる塗装不良品全般に適用することができ、塗装不良品のリサイクルの用途に好適に利用される。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
(実施例1)
サンプルとしては、直径φ470mm、高さ205mm(サイズ17×7JJ)のアルミホイールを用いた。このアルミホイールは、表面に塗装欠陥部を有する塗膜が形成された塗装不良品であった。ブラスト処理の条件としては、装置として直圧式ブラスト装置を用い、投射材として粒径150μm以下、アスペクト比の平均値1.49の樹脂投射材(材質:メラミン樹脂)を用いて、吹き付け圧0.5MPa、吹き付け距離約50〜100mmにて行った。ノズルとしては、先端口径φ6.0mmの標準型ノズルを2本用い、塗膜表面に対し約±45°の2方向から、同時に処理を行った。
【0024】
具体的には、アルミホイールを一定速度で回転させながら、ノズルを約1.8mm/sでホイールの半径方向に沿って動かすことで、ホイール円形面の全面をブラスト処理した。結果として、約35秒の処理時間で、表面粗さRa:2.9μm、Ry:14μmの良好な表面を得ることができた。塗膜厚は、処理前332.3μm,処理後328.7μmであり、剥離された塗膜厚みは3.6μmであった。また、処理前後の重量差は2g程度であり、ごく少量の剥離量で良好な表面粗さが得られたことが確認できた。この塗装面に再塗装した結果、外観、品質ともに良好な塗装アルミホイールが得られた。
【0025】
(実施例2)
投射材として粒径150μm以下、アスペクト比の平均値1.3の樹脂投射材(材質:メラミン樹脂)を用いた以外は実施例1と同様にして表面処理を行ったところ、表面粗さRa:1.0μm、Ry:10μmの良好な表面を得ることができた。この塗装面に再塗装した結果、外観、品質ともに良好な塗装アルミホイールが得られた。
【0026】
(比較例1)
投射材として粒径150μm以下、アスペクト比の平均値1.7の樹脂投射材(材質:メラミン樹脂)を用いた以外は実施例1と同様にして表面処理を行ったところ、表面粗さRaにはあまり変化がないものの、Ry:16.5μmとなり、粗さのバラツキが増えてしまった。この塗装面に再塗装して得られた塗装アルミホイールは、外観上に塗装欠陥部が見られ、品質的にも良好なものではなかった。
【0027】
(比較例2)
投射材として粒径150μm以下、アスペクト比の平均値1.8の樹脂投射材(材質:メラミン樹脂)を用いた以外は実施例1と同様にして表面処理を行ったところ、表面粗さRaにはあまり変化がないものの、Ry:17.7μmとなり、粗さのバラツキが増えてしまった。この塗装面に再塗装して得られた塗装アルミホイールは、外観上に塗装欠陥部が見られ、品質的にも良好なものではなかった。
【0028】
上記実施例1,2および比較例1,2の結果を、図2のグラフに示す。図示するように、アスペクト比の平均値が1.5未満の投射材を用いた実施例1,2では、アスペクト比の平均値が1.5以上の投射材を用いた比較例1,2に比し良好な表面粗さRyが得られており、再塗装性も良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(イ)は、投射材粒子のアスペクト比に関する説明図であり、(ロ)は、アスペクト比が1の場合の粒子を示す参考図である。
【図2】実施例における投射材のアスペクト比の平均値と処理後の塗膜の表面粗さRyとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1,1A 投射材粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に、塗装欠陥部を有する塗膜が形成されてなる塗装不良品の表面処理方法であって、前記塗膜に投射材を吹き付けることにより該塗膜の少なくとも一部を剥離する表面処理方法において、
前記投射材として、粒径300μm以下であって、かつ、アスペクト比の平均値が1.5未満のものを用いることを特徴とする塗装不良品の表面処理方法。
【請求項2】
前記投射材として、熱硬化性樹脂を主成分とするプラスチック投射材を用いる請求項1記載の塗装不良品の表面処理方法。
【請求項3】
前記投射材の吹き付け圧を0.7MPa以下とする請求項1または2記載の塗装不良品の表面処理方法。
【請求項4】
前記塗膜を、表層から50μm以内の範囲で剥離する請求項1〜3のうちいずれか一項記載の塗装不良品の表面処理方法。
【請求項5】
前記塗膜の、表面粗さRaを3μm以下、かつ、Ryを15μm以下とする請求項1〜4のうちいずれか一項記載の塗装不良品の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−144345(P2007−144345A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344497(P2005−344497)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】