説明

塗装不良検査方法

【課題】基材に塗装を施す場合、この基材の表面に凹凸が形成されている場合であっても塗装不良の有無を正確に検知することができる塗装不良検査方法を提供する。
【解決手段】塗装前の基材1における塗料2が塗布されるべき面の温度を測定する。塗装後の基材1における塗料2が塗布された面の温度を測定する。この各測定結果に基づいて基材1表面の塗装前後の温度差を導出する。この導出された基材1表面の温度差に基づいて塗装不良の有無を判定する。これにより、基材1に塗料2を塗布した後、塗料2中の溶剤が揮発する際に奪われる気化熱に起因する基材1表面の温度低下に基づいて基材1の塗装不良の有無を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適宜の基材の表面に塗料を塗布した場合における塗装不良を検出する塗装不良検査方法に関し、特に表面に凹凸を有する基材における塗装不良の検知に好適な塗装不良検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外壁製品等の種々の製品に対して塗装を施す場合、この塗装後の製品における塗装不良の有無の検査を行う必要がある。
【0003】
このような塗装不良の検査方法としては、目視により観察する方法もあるが、特にクリアー塗料を塗布する場合には目視による塗装不良の判別が困難な場合がある。
【0004】
そこで、従来、塗装不良の検査方法として、例えば図6(a)に示すように塗料2を塗布した後の基材1に対して光源8から光を照射してその反射光をCCDカメラ9等にて測定することで塗装ムラにより生じる光沢の変化を検出する方法や、図6(b)に示すように塗装後の基材1における塗料2の膜厚をレーザ変位計10で検出する方法等が行われている。
【0005】
しかし、表面に凹凸を有する基材1における塗装不良の検査を行う場合には、図6(a)に示す方法では基材1に照射した光が凹凸部分で乱反射してしまって正確な検査を行うことができず、また上記図6(b)に示す方法でもレーザ変位計10から照射される光が基材1の凹凸部分で散乱することで正確な膜厚測定を行うことができなくなるという問題がある。
【0006】
また、特許文献1では、塗装後の基材1の表面において塗料2中の溶剤の揮発によって気化熱が奪われることに起因する温度低下に着目して、塗装後の基材1の表面温度を測定し、この測定結果から得られる基材1の表面の平均温度に対して一定値以上高い温度の部位に塗装不良が生じているものと判定する手法が提案されている。
【0007】
しかし、この特許文献1に開示されている方法によっても、基材1の表面にもともと温度ムラが生じている場合には塗装不良を正確に検知することができないという問題があった。特に基材1の表面に凹凸が形成されている場合には基材1の熱容量が部分的に異なるものとなるため、基材1の全体に亘る熱履歴が等しい場合であっても表面温度のムラが生じてしまい、正確な塗装不良の検出は困難なものであった。
【特許文献1】特開平8−304036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、基材に塗装を施す場合、この基材の表面に凹凸が形成されている場合であっても塗装不良の有無を正確に検知することができる塗装不良検査方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る塗装不良検査方法は、塗装後の基材1における塗装不良を検査する塗装不良検査方法であって、塗装前の基材1における塗料2が塗布されるべき面の温度を測定し、塗装後の基材1における塗料2が塗布された面の温度を測定し、この各測定結果に基づいて基材1表面の塗装前後の温度差を導出し、この導出された基材1表面の温度差に基づいて塗装不良の有無を判定することを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1において、複数のスプレーガン3を用いたスプレー方式で塗装された基材1を検査対象とし、基材1表面の塗装前後の温度差を導出する際には、塗装前後における基材1表面の温度差の分布を導出し、塗装不良の有無を判定する際には、前記温度差の分布に基材1表面における各スプレーガン3の軌跡5a,5b,5c,5dを重ね合わせ、前記温度差の分布において異常な値の温度差が生じている領域を塗装不良が生じている領域と判定すると共に前記各軌跡5a,5b,5c,5dのうち前記塗装不良が生じている領域と重なる軌跡5cに対応するスプレーガン3を塗装不良の原因となったスプレーガン3であると判定することを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2において、複数のスプレーガン3を用いたスプレー方式で塗装された基材1を検査対象とし、基材1表面の塗装前後の温度差を導出する際には、塗装前後における前記基材1表面の所定のライン7上の温度差の分布を導出し、塗装不良の有無を判定する際には、前記導出された温度差の分布における温度差の値の変化パターンに基づいて塗装不良の有無を判定することを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る塗装不良検査方法は、請求項3において、塗装不良の有無を判定する際には、上記温度差の値の変化パターンにおける部分的な乱れの有無を判定し、この乱れが生じた部位に対応する位置で基材1上に塗装不良が生じていると共に、この乱れが生じた部位に対応するスプレーガン3が塗装不良の原因となったスプレーガン3であると判定することを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る塗装不良検査装置は、請求項3又は4において、塗装不良の有無を判定する際には、上記温度差の値の変化パターンにおける前記値の変化の振幅と、この値の変化の周期とのうち、少なくとも一方が所定の許容範囲を逸脱した場合に、塗装不良が発生していると共に、スプレーガン3による塗装動作に異常が発生しているものと判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、基材1に塗料2を塗布した後、塗料2中の溶剤が揮発する際に奪われる気化熱に起因する基材1表面の温度低下に基づいて基材1の塗装不良の有無を検出することができ、このときの温度低下を、塗料2が塗布される前の基材1の温度と塗料2が塗布された後の基材1の温度との差に基づいて導出することで、塗装前の基材1に元々存在する温度ムラ等とは無関係に基材1の塗装不良の有無を正確に判定することができ、特に表面に凹凸を有する基材1などのような部分的に熱容量の異なる部位がある基材1における塗装不良の有無の判定に好適なものである。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、塗装不良の発生を検出すると共に、複数のスプレーガン3のうち塗装不良の原因となるような異常な動作を行ったスプレーガン3を特定することができるものである。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、基材1上の所定のライン7上における温度差の値の変化パターンに基づき、この変化パターンに正常なパターンと比較した乱れが生じた場合に、塗装不良を検出することができるものである。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、温度差の値の変化パターンにおける部分的な乱れに基づいて塗装不良の発生を検出すると共に、複数のスプレーガン3のうち塗装不良の原因となるような異常な動作を行ったスプレーガン3を特定することができるものである。
【0018】
請求項5に係る発明によれば、温度差の値の変化パターンにおける前記値の変化の振幅と、この値の変化の周期に基づいて、塗装不良の発生を検出すると共に、この塗装不良の原因となったスプレーガン3の移動速度や基材1の搬送速度の異常を検出することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0020】
本発明における塗装の対象である基材1としては適宜のものを用いることができるが、例えばセメント系の無機質板を挙げることができる。
【0021】
基材1に塗装を行うための塗料2としては適宜のものが挙げられるが、本発明における塗装不良検査の対象となる塗料2としては、水や有機溶剤等の溶媒を含有し、この塗料2を基材1に塗布した場合に溶媒の揮発が生じるものが挙げられる。
【0022】
このような塗料2としては、例えばアクリルエマルション系塗料等の有機塗料を挙げることができる。この有機塗料は無色透明のクリア塗料であるほか、適宜の顔料や染料等を配合した着色塗料であっても良い。この場合、例えば基材1に対して有機塗料をスプレー等にて塗布した後、有機塗料の組成に応じた適宜の条件、例えば100〜150℃で30秒以上加熱乾燥することにより成膜して、有機塗膜を形成することができる。有機塗膜の厚みは特に制限されないが、5〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0023】
また、この基材1に有機塗膜を形成した後、更に紫外線吸収剤を含有する無機塗料を塗布成膜することができる。これにより形成されるクリア塗膜は、例えば基材1の表面保護や耐候性の向上のために設けられる。
【0024】
無機質塗料としては適宜のものを用いることができるが、例えばオルガノシランのシリカ分散オリゴマー溶液に、ポリオルガノシロキサンや、アルキルチタン酸塩等の縮合反応触媒を加え、或いは更にシリカを加えたケイ素アルコキシド系塗料等を用いることができる。
【0025】
このような無機質塗料を塗布した後、例えば60〜120℃で焼き付け乾燥等することにより成膜することで、クリア塗膜を形成することができる。このクリア塗膜の厚みは特に制限されないが、通常は1〜10μmの範囲の薄膜に形成される。
【0026】
また、このクリア塗膜に積層して形成される、クリア塗膜より紫外線吸収性が低い外層クリア塗膜としては、光触媒を含有する無機塗膜を挙げることができる。この外層クリア塗膜は、クリア塗膜の表面に光触媒を含有する無機質塗料を塗布成膜することで形成することができ、例えば基材1の防汚性を向上する目的で形成される。
【0027】
光触媒を含有する無機質塗料としては適宜のものを用いることができるが、例えば上記クリア塗膜を形成するために使用されるケイ素アルコキシド系塗料に酸化チタン等の光触媒を加えたもの等を用いることができる。
【0028】
このような無機質塗料を塗布した後、例えば60〜120℃で焼き付け乾燥等することにより成膜して、外層クリア塗膜を形成することができる。この外層クリア塗膜の厚みは特に制限されないが、例えば0.2〜1.0μmの範囲に形成される。
【0029】
図1は、基材1に塗装を施す際に塗装不良検査を行うための工程の一例を概略的に示したものである。
【0030】
図示の例では、板状の基材1がベルトコンベア等の搬送機構にて搬送されながら、塗装前の基材1における塗料2が塗布されるべき面の温度を測定する工程(第一工程)と、この基材1に塗料2を塗布する工程(第二工程)と、塗料2が塗布された後の基材1におけるその塗料2が塗布された面の温度を測定する工程(第三工程)とを順次通過するようになっている。
【0031】
上記第一工程では、サーモグラフィセンサや放射温度計4等の温度測定器を用い、基材1の表面の温度を測定して、この基材1の表面の温度分布を導出する。このとき好ましくは基材1表面における塗料2が塗布される面の全面における温度分布を導出する。
【0032】
この基材1の表面温度の測定にあたっては、例えば基材1の上方に複数の放射温度計4を、前記基材1の搬送方向と直交する方向に並べて配設し、各放射温度計4により基材1の移動と同期して周期的に各放射温度計4の下方における基材1の表面温度を測定することができる。このとき、基材1の搬送速度をエンコーダ等の適宜の計測装置にて計測し、この計測結果に基づいて、各放射温度計4による周期的な温度測定を行うようにすることができる。このような放射温度計4を用いると、サーモグラフィセンサを設ける場合に比べて低コストで基材1の広い範囲における表面の温度分布を測定することができる。
【0033】
第二工程では、スプレー方式、カーテンコータ、ロールコータ等の適宜の方法で基材1に塗料2を塗布する。本実施形態ではスプレーガン3を用いたスプレー方式にて塗料2を塗布している。スプレー方式による塗料2の塗布にあたっては固定式、レシプロ式、ロータリ式等の適宜の方式を採用することができるが、本実施形態では複数のスプレーガン3を基材1の搬送方向に沿って配列すると共にこのスプレーガン3を搬送機構による基材1の移動と同期して適宜の機構により搬送方向と直交する方向に往復駆動させるレシプロ式を採用している。
【0034】
第三工程では、上記第一工程と同様にして塗料2が塗布された基材1の表面の温度を測定してその温度分布を導出することができる。
【0035】
そして、上記第一工程で得られた塗料2の塗布前の基材1の表面の温度分布と、第三工程で得られた塗料2の塗布後の基材1の表面の温度分布から、塗料2の塗布の前後に亘る基材1の表面の温度差の分布を導出する。
【0036】
このとき、例えば上記第三工程において、上記第一工程と同一の配列で放射温度計4を配設すると共に第一工程と同一周期で基材1上の同一位置の温度を測定することができる。この場合、第一工程における基材1上の各測定位置での測定結果と、第三工程における基材1上の各測定位置での測定結果に基づいて、基材1の上の同一位置における第一工程で測定される温度と第三工程で測定される温度との差を、基材1上の各測定位置ごとに導出することができる。これにより基材1の表面の温度差の分布を導出することができる。
【0037】
このようにして得られる、基材1表面の塗装前後の温度差の分布の例を、図2に示す。このような温度差の分布は、例えば第一工程と第三工程における測定結果をパーソナルコンピュータ等で構成されている適宜の制御装置で演算処理することで導出することができ、またこのように得られた温度差の分布をディスプレイ等の表示装置に表示することができる。図示の例では、温度差の分布は、放射温度計4等で測定された基材1上の各測定位置ごとに、温度差の大きさに応じた色分けを行うことで表示されている。
【0038】
このようにして得られた温度差の分布に基づき、温度差の値が他の領域よりも小さくなっている領域の存在が観察された場合には、その領域で塗装不良が発生しているものと判定することができる。この判定は、例えばディスプレイ等に表示された温度差の分布を作業者が逐次確認して行うこともできるが、例えば予め温度差の閾値を制御装置に記憶させておき、温度差の分布中で温度差が前記閾値を下回ったものが発生した場合に制御装置により塗装不良の発生を判定するようにしても良く、またこのとき同時に制御装置による自動制御により警報を発するようにしても良い。
【0039】
ここで、基材1に塗料2を塗布した場合には、この塗料2中の溶剤が揮発することにより基材1から気化熱が奪われ、このため基材1の表面温度が低下する。このとき、基材1の表面において塗料2の塗布量にムラが生じている場合には、塗料2の塗布量が少ない部分や塗料2が塗布されていない部分では溶剤の揮発が少なくなり、塗料2の塗布前後での温度差が小さくなる。本発明ではこのような温度差が小さくなった領域を検出することにより、塗装不良を検出することができるものである。
【0040】
また、塗料2を塗布した後の基材1の表面温度を基準にするのではなく、塗料2の塗布前後における基材1の表面の温度差を基準にして塗装不良を検出するため、塗料2を塗布する前に存在する基材1の表面温度のムラとは無関係に塗装不良の有無を正確に検出することができる。このため、特に基材1の表面に凹凸が形成されている場合などといった、基材1の表面に温度のムラが生じやすい場合であっても、塗装不良を正確に検出することができるものである。
【0041】
また、このようにして検査不良の検知を行う場合には、上記のようにして得られる基材1上の温度差の分布に、第二工程における塗料2の塗布に用いられる各スプレーガン3の軌跡5a,5b,5c,5dを重ね合わせても良い。図示の例では、四個のスプレーガン3を用いてレシプロ式で塗装を行った場合の、各スプレーガン3の軌跡5a,5b,5c,5dを、温度差の分布と重ね合わせている。この温度差の分布とスプレーガン3の軌跡5a,5b,5c,5dとの重ね合わせも、上記制御装置により行い、その結果をディスプレイ等の適宜の表示手段で表示することができる。
【0042】
このようにすると、温度差の分布により塗装不良と判定された領域と重なる軌跡5cに対応するスプレーガン3を、塗装不良の原因となったスプレーガン3であると判定して、故障やノズル詰まり等により動作異常が生じているスプレーガン3を特定することができる。この場合、特定されたスプレーガン3を修理し、或いは交換することにより、以後の塗装不良の発生を防止することができる。
【0043】
また、基材1表面の塗装前後の温度差の分布を導出する際には、上記のように基材1表面の全面に亘る温度差の分布を導出するほか、基材1表面における基材1の搬送方向に沿った所定のライン7上の温度差の分布を導出しても良い。
【0044】
このような所定のライン7上の温度差の分布を測定するにあたっては、例えば上記第一工程と第三工程において、放射温度計4を前記所定のライン7に対応する位置にそれぞれ一つだけ設けて、このライン7上における温度をそれぞれ測定する。或いは、図1に示すものと同様に第一工程と第三工程にそれぞれ複数の放射温度計4を設けると共に、各工程ごとに、前記所定のライン7に対応する放射温度計4による測定結果のみを利用してこのライン7上における温度差の導出を行っても良い。そして、前記所定ライン7上の同一位置における第一工程で測定される温度と第三工程で測定される温度との差を、基材1上の各測定位置ごとに導出することができる。これにより基材1の表面の所定のライン7上の温度差の分布を導出することができる。
【0045】
このようにして得られる所定ライン7上の温度差の分布における、温度差の値の変化パターンに基づいて、塗装不良の有無を判定することができる。
【0046】
図3(a)は基材1を搬送しながら四個のスプレーガン3によりレシプロ式で塗装を施した場合の、基材1上の各スプレーガン3ごとの塗料2の塗布領域6a,6b,6c,6dを示したものである。このような基材1における、図中のライン7上の温度差の分布を導出した例を、図3(b)に示す。このとき、各スプレーガン3の動作が正常であって、各スプレーガン3ごとの塗料2の噴霧量が均一であり、各スプレーガン3が所定の速度で往復運動し、且つ基材1が所定の速度で搬送されている場合には、前記ライン7上における塗料2の塗布量は一定の範囲で一定のパターンで変化するものとなる。このため、このライン7上における基材1表面の温度差の分布は、図3(b)に示すように一定の周期及び振幅で変化することになる。
【0047】
一方、複数のスプレーガン3のうち、ノズルの詰まり等により塗料2の噴霧量が他のスプレーガン3よりも少なくなっているものがある場合には、塗装領域6a,6b,6c,6dは図4(a)に示すようなものとなり、噴霧量が少ないスプレーガン3による塗料2の塗布領域6bが狭くなって、基材1上に塗料2の塗布量が少ない領域、或いは塗料2が塗布されない領域が発生する。この場合、前記ライン7上における基材1表面の温度差の分布には、図4(b)に示すように一定周期で温度差の値が小さくなる領域が現れる。このような温度差の値の変化パターンの乱れが生じた場合には、塗装不良が発生しているものと判定すると共に、この変化パターンの乱れに対応するスプレーガン3に動作異常が発生しているものと判定することができる。尚、ここでは特定のスプレーガン3の噴霧量が少なくなった場合の例を示しているが、逆に噴霧量が多くなった場合には一定周期で温度差の値が大きくなる領域が現れることとなり、この場合も塗装不良の発生を判定すると共に、この変化パターンの乱れに対応するスプレーガン3に動作異常が発生しているものと判定することができる。
【0048】
このような塗装不良の判定及びスプレーガン3の動作異常の判定は、制御装置によってディスプレイ等に表示された前記所定ライン7上における温度差の分布のパターンを作業者が逐次確認して行うこともできるが、例えば予め正常動作時における温度差の分布のパターンに基づいて温度差の値の振幅の許容範囲を制御装置に設定しておき、温度差の値の振幅が前記許容範囲を超えた場合に制御装置により塗装不良の発生を判定し、或いは更にこの振幅の異常が発生している箇所に対応するスプレーガン3が動作異常を起こしているものと判定するようにしても良い。また、このとき同時に制御装置による自動制御により警報を発するようにしても良い。
【0049】
このとき作業者は塗装ラインを停止し、塗装不良が発生している基材1を取り除くと共に、異常動作を起こしているスプレーガン3の修理や交換等を行うことができる。
【0050】
また、基材1の搬送速度に異常をきたした場合、或いはスプレーガン3の往復速度に異常をきたした場合には、前記所定ライン7上における温度差の分布のパターンの周期及び振幅に変化をきたすこととなる。例えばスプレーガン3の往復速度が所定の速度よりも遅くなった場合には、塗装領域6a,6b,6c,6dは図5(a)に示すようなものとなり、スプレーガン3が往復するまでの間に基材1が進む長さが長くなる。この場合、前記ライン7上における基材1表面の温度差の分布のパターンは、図5(b)に示すように温度差の値の振幅が大きくなると共にこの値の変化の周期も長くなる。このような温度差の値の変化パターンの乱れが生じた場合には、塗装不良が発生しているものと判定することができる。尚、ここではスプレーガン3の往復速度が遅くなった場合の例を示しているが、逆にスプレーガン3の往復速度が速くなった場合や、基材1の搬送速度が遅くなったり速くなったりした場合にも、それに応じて前記ライン7上における基材1表面の温度差の分布のパターンに、周期や振幅の変化が生じる。このような温度差の値の変化パターンの乱れに基づいて、スプレーガン3の往復速度或いは基材1の搬送速度の異常に起因する塗装不良の発生を判定することができる。
【0051】
このような塗装不良の判定、並びにスプレーガン3の往復速度或いは基材1の搬送速度の異常の判定は、ディスプレイ等に表示された前記所定ライン7上における温度差の分布のパターンを作業者が逐次確認して行うこともできるが、例えば予め正常動作時における温度差の分布のパターンに基づいて温度差の値の振幅の許容範囲並びに周期の許容範囲を制御装置に設定しておき、この振幅或いは周期が前記許容範囲を超えた場合に制御装置により塗装不良の発生を判定し、或いは更にスプレーガン3の往復速度或いは基材1の搬送速度に異常が発生していることを判定するようにしても良い。また、このとき同時に制御装置による自動制御により警報を発するようにしても良い。
【0052】
このとき作業者は塗装ラインを停止し、塗装不良が発生している基材1を取り除くと共に、コンベアベルト等の基材1の搬送機構やスプレーガン3を往復駆動する機構のチェックを行い、必要に応じて修理等を行うことができる。
【0053】
以上に示した塗装不良検査方法は、複数の検査方法を適宜組み合わせて行うことができる。
【0054】
このような塗装検査を行った後、塗装不良が検出されなかった基材1には、必要に応じて成膜のために加熱処理が施され、或いは種々の後処理が施される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す概略の斜視図である。
【図2】本発明において導出される基材表面の塗装前後の温度差の分布の例を示す説明図である。
【図3】(a)は基材上における各スプレーガンごとの塗料の塗布領域の一例を示す概略の平面図、(b)はこの基材上における所定のライン上での温度差の分布を導出した例を示すグラフである。
【図4】(a)は基材上における各スプレーガンごとの塗料の塗布領域の他例を示す概略の平面図、(b)はこの基材上における所定のライン上での温度差の分布を導出した例を示すグラフである。
【図5】(a)は基材上における各スプレーガンごとの塗料の塗布領域の更に他例を示す概略の平面図、(b)はこの基材上における所定のライン上での温度差の分布を導出した例を示すグラフである。
【図6】(a)及び(b)は従来技術の例を示す概略の断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 基材
2 塗料
3 スプレーガン
5a,5b,5c,5d 軌跡
7 ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装後の基材における塗装不良を検査する塗装不良検査方法であって、
塗装前の基材における塗料が塗布されるべき面の温度を測定し、
塗装後の基材における塗料が塗布された面の温度を測定し、
この各測定結果に基づいて基材表面の塗装前後の温度差を導出し、
この導出された基材表面の温度差に基づいて塗装不良の有無を判定することを特徴とする塗装不良検査方法。
【請求項2】
複数のスプレーガンを用いたスプレー方式で塗装された基材を検査対象とし、
基材表面の塗装前後の温度差を導出する際には、塗装前後における基材表面の温度差の分布を導出し、
塗装不良の有無を判定する際には、前記温度差の分布に基材表面における各スプレーガンの軌跡を重ね合わせ、前記温度差の分布において異常な値の温度差が生じている領域を塗装不良が生じている領域と判定すると共に前記各軌跡のうち前記塗装不良が生じている領域と重なる軌跡に対応するスプレーガンを塗装不良の原因となったスプレーガンであると判定することを特徴とする請求項1に記載の塗装不良検査方法。
【請求項3】
複数のスプレーガンを用いたスプレー方式で塗装された基材を検査対象とし、
基材表面の塗装前後の温度差を導出する際には、塗装前後における前記基材表面の所定のライン上の温度差の分布を導出し、
塗装不良の有無を判定する際には、前記導出された温度差の分布における温度差の値の変化パターンに基づいて塗装不良の有無を判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装不良検査方法。
【請求項4】
塗装不良の有無を判定する際には、上記温度差の値の変化パターンにおける部分的な乱れの有無を判定し、この乱れが生じた部位に対応する位置で基材上に塗装不良が生じていると共に、この乱れが生じた部位に対応するスプレーガンが塗装不良の原因となったスプレーガンであると判定することを特徴とする請求項3に記載の塗装不良検査方法。
【請求項5】
塗装不良の有無を判定する際には、上記温度差の値の変化パターンにおける前記値の変化の振幅と、この値の変化の周期とのうち、少なくとも一方が所定の許容範囲を逸脱した場合に、塗装不良が発生していると共に、スプレーガンによる塗装動作に異常が発生しているものと判定することを特徴とする請求項3又は4に記載の塗装不良検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−103514(P2009−103514A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274069(P2007−274069)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】