説明

塗装用治具構造

【課題】押し付け荷重を上げずに磁石等への塗料の付着を抑えることができる塗装用治具構造を提供する。
【解決手段】塗装用治具10は、被塗装品100裏側に配置される治具本体部21と磁石(11)との間に弾性部材(31)が介在し、この弾性部材(31)には、磁石(11)の外縁よりも外側を囲うように磁石(11)の表面よりも被塗装品100側に突出する突起部であって、被塗装品100の裏面に接触することでシールするシール部35が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体粉末を含む塗料の塗装に使用される塗装用治具構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車用カウル等の外装部品の塗装法として、被塗装品の裏面に磁石を配置し、被塗装品の表面に磁性体のフレーク(磁性体粉末)を混入させた塗料(磁性体塗料)を塗布することにより、塗料中の磁性体粉末を配向させて模様を発現させる塗装法が知られている。この塗装を行う際に、磁石を弾性部材を介して被塗装品の裏面に押し付ける治具を用いる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−154034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の構造では、弾性部材の表面と被塗装品の裏面とが完全に密着しなければ、弾性部材の表面と被塗装品の裏面との間の隙間から塗料が入ってしまい、磁石や弾性部材等の洗浄に手間がかかってしまう課題があった。
一方、この洗浄の手間を軽減すべく、弾性部材を被塗装品の裏面に押し付ける荷重を上げて該隙間を完全に閉塞しようとすると、押し付け荷重が過大となって被塗装品の変形等を招いてしまうおそれが生じる。
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、押し付け荷重を上げずに磁石等への塗料の付着を抑えることができる塗装用治具構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明は、被塗装品の裏側に磁石を配置して被塗装品の表面に磁界を形成し、磁界が形成された表面に磁性体粉末を含む塗料を塗装するための塗装用治具であって、この塗装用治具の被塗装品裏側に配置される磁石と前記磁石を支持する治具本体部との間に弾性部材が介在し、この弾性部材の外縁が磁石の外縁より外側に配置される塗装用治具構造において、前記弾性部材には、前記磁石の外縁よりも外側を囲うように前記磁石の表面よりも前記被塗装品側に突出する突起部であって、前記被塗装品の裏面に接触することでシールするシール部が設けられることを特徴とする。
この構成によれば、弾性部材には、磁石の外縁よりも外側を囲うように磁石の表面よりも被塗装品側に突出する突起部であって、被塗装品の裏面に接触することでシールするシール部が設けられるので、被塗装品への押し付け荷重を上げずに磁石等への塗料の付着を抑えることができ、磁石等の洗浄の頻度を下げることができる。
【0006】
上記構成において、前記シール部は、前記弾性部材の外縁に沿って配置されるようにしてもよい。この構成によれば、弾性部材の広い範囲をシールすることができる。
また、上記構成において、前記磁石の表面は、前記弾性部材の表面よりも前記被塗装品から離間する位置に配置されるようにしてもよい。この構成によれば、磁石の表面や縁部に傷を付きにくくすることができる。
【0007】
また、上記構成において、前記弾性部材の表面は、前記磁石の表面よりも前記被塗装品から離間する位置に配置されるようにしてもよい。この構成によれば、磁石を安定して被塗装品に押し付けることができる。
また、上記構成において、前記弾性部材には、前記磁石を収容する磁石収容凹部が形成されるようにしてもよい。この構成によれば、磁石を安定して弾性部材に保持でき、かつ、比較的厚みのある磁石を使用することができる。
【0008】
また、上記構成において、前記弾性部材は、シリコンゴムで形成されるようにしてもよい。この構成によれば、塗料が付着しても塗料を落としやすくなる。
また、上記構成において、前記被塗装品は、前記治具本体部から延びる金属板、若しくは金属棒により形成される治具本体支持部に保持されるようにしてもよい。この構成によれば、治具本体支持部の弾性変形を利用して安定して被塗装品と塗装用治具とを押し付けることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、被塗装品裏側に配置される治具本体部と磁石との間に介在する弾性部材には、磁石の外縁よりも外側を囲うように磁石の表面よりも被塗装品側に突出する突起部であって、被塗装品の裏面に接触することでシールするシール部が設けられるので、被塗装品への押し付け荷重を上げずに磁石等への塗料の付着を抑えることができ、磁石等の洗浄の頻度を下げることができる。
また、シール部は、弾性部材の外縁に沿って配置されるようにすれば、弾性部材の広い範囲をシールすることができる。
また、磁石の表面は、弾性部材の表面よりも被塗装品から離間する位置に配置されるようにすれば、磁石の表面や縁部に傷を付きにくくすることができる。
【0010】
また、弾性部材の表面は、磁石の表面よりも被塗装品から離間する位置に配置されるようにすれば、磁石を安定して被塗装品に押し付けることができる。
また、弾性部材には、磁石を収容する磁石収容凹部が形成されるようにすれば、磁石を安定して弾性部材に保持でき、かつ、比較的厚みのある磁石を使用することができる。
また、弾性部材は、シリコンゴムで形成されるようにすれば、塗料が付着しても塗料を落としやすくなる。
また、被塗装品は、治具本体部から延びる金属板、若しくは金属棒により形成される治具本体支持部に保持されるようにすれば、治具本体支持部の弾性変形を利用して安定して被塗装品と塗装用治具とを押し付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態に係る塗装用治具を示す図である。
【図2】被塗装品の表面側を示す図である。
【図3】塗装用治具の斜視図である。
【図4】弾性体シートを拡げた状態を示す図である。
【図5】塗装用治具の係止部を被塗装品に係止させた状態を模式的に示す側断面図である。
【図6】(A)は塗装用治具の断面構造を模式的に示す図であり、(B)は塗装用治具の製作方法を説明する図である。
【図7】(A)は塗装用治具をセットする直前の状態を示す図であり、(B)はセット途中の状態を示す図であり、(C)はセット後の状態を示す図である。
【図8】(A)は第2実施形態に係る塗装用治具をセットする直前の状態を示す図であり、(B)はセット後の状態を示す図である。
【図9】(A)は第3実施形態に係る塗装用治具をセットする直前の状態を示す図であり、(B)はセット後の状態を示す図である。
【図10】(A)はリップ部の変形例を示す図であり、(B)はリップ部の他の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る塗装用治具10を示す図である。なお、図1には、塗装用治具10が取り付けられる被塗装品100の外形線を二点鎖線で示している。
この塗装用治具10は、自動二輪車の外装部品である被塗装品100の表面に、磁性体のフレークである磁性体粉末を混入させた塗料(以下、磁性体塗料という)を塗装する際に、被塗装品100の裏面にマグネットシート(磁石)11A,11B,11Cを押し当てるための治具である。
図2は、被塗装品100の表面側を示している。この被塗装品100は、自動二輪車の車体カバー部品であり、全体が平面や曲面で形成された3次元形状を有する板状部品であり、塗装面は予め平滑に仕上げられている。この被塗装品100には、マグネットシート11A〜11Cの磁力線が意図せぬ変化をしないように非磁性体材料で形成され、本実施形態では、FRPやABSやポリカーボネート等の樹脂材料で形成されている。
【0013】
この被塗装品100は、車両前後方向に延出すると共に、前後及び上下の略中央に通気用開口部101Aを有するカバー本体101と、カバー本体101の前下部から下方に延出し、前後一対のボルト穴102A,102Bに挿通された一対のボルト(不図示)を介して車両側に取り付けられる車両取付部102とを一体に備えている。この被塗装品100において、カバー本体101は、車両の外観に現れる外観部品であり、車両取付部102は、別の車体カバー等の他の部品110で覆われて外観されない部分である。
図2には、表面に磁性体塗料を塗装した場合に、マグネットシート11A〜11Cにより被塗装品100の表面に形成される磁界の強さに応じて磁性体塗料中の磁性体粉末の密度が大小に変化し、或いは、磁力線に沿って磁性体粉末が配列することによって、表面に発現される模様(以下、磁性体模様部)111A,111B,111Cを示している。このように、磁性体粉末が磁力の影響を受けた状態で磁性体塗料が乾燥固化されて塗装面を形成すると、塗装膜には磁性体粉末による塗装色の濃淡変化が生じ、マグネットシート11A〜11Cの形状に倣った磁性体模様部111A〜111Cを出現させることができる。
【0014】
図2に示すように、この被塗装品100は、凹凸形状の通気用開口部101Aを境にして、前後方向に延びる平滑面に形成された上側カバー部(第1カバー部)100Aと、下側カバー部(第2カバー部)100Bとを備えている。
上側カバー部100Aの裏面には、マグネットシート11Aが押し付けられ、下側カバー部100Bの裏面には、マグネットシート11B,11Cが前後に間隔を空けて押し付けられる。このため、塗装を施した場合に、上側カバー部100Aには、マグネットシート11A形状の磁性体模様部111Aが形成され、下側カバー部100Bには、マグネットシート11B,11C形状の磁性体模様部111B,111Cが形成される。
以下の説明において、マグネットシート11A〜11Cを特に区別して説明する必要が無い場合は、マグネットシート11と表記し、磁性体模様部111A〜111Cを特に区別して説明する必要が無い場合は、磁性体模様部111と表記する。
【0015】
マグネットシート11は、ゴム等の柔軟性を有する材料中に多数の微細な磁性体粒子を練り込んでから、カレンダー加工等によりシート状に押し出し、さらに磁性体粒子を着磁させて得られるものであり、磁性体粒子の磁化容易軸の配向により等方性と異方性がある。このうち、異方性マグネットシートは、磁性体粒子の磁化容易軸を一定方向へ揃えて配向したものであり、その後の着磁により強い磁力が得られる。等方性マグネットシートは、磁性体粒子の磁化容易軸をランダムに配向させたものであり、着磁後の磁力は異方性マグネットシートに比べて相対的に弱くなる。本願発明ではいずれも使用可能である。
【0016】
図3は、塗装用治具10の斜視図である。
この塗装用治具10は、被塗装品100の形状に沿って延出する治具本体部21と、治具本体部21に配置される略板状の弾性体シート(弾性部材)31と、治具本体部21を支持する支持フレーム(治具本体支持部)41とを備えている。
治具本体部21は、剛性を有し、被塗装品100の裏面(塗装面と反対側の面)へ重ね合わせられるように被塗装品100に近似した形状に形成され、非磁性体材料であるFRP(繊維強化プラスチック)で形成される。
この治具本体部21は、図1に示すように、被塗装品100の上側カバー部100Aの裏面に沿って延在する上側カバー覆い部21Aと、下側カバー部100Bの裏面に沿って延出する下側カバー覆い部21Bとを備え、通気用開口部101Aの凹凸を避けて被塗装品100の裏側に重ねることができるように、通気用開口部101Aを避けるように二股に分岐し、全体としてV字形状に形成されている。
【0017】
図3に示すように、この治具本体部21の外周縁部には、上方(被塗装品100側)に突出する周囲壁21Dが一体に設けられている。この周囲壁21Dの内周形状は、弾性体シート31の外周形状と一致し、周囲壁21Dに囲まれる凹部21E(後述する図4参照)が弾性体シート31を収容する凹部(弾性部材収容凹部)として機能する。また、この周囲壁21Dは、治具本体部21自体の剛性を向上させる補強リブとしても機能する。
同図3に示すように、この周囲壁21Dには、上面から下方に凹む側面視でV字形状の切り欠き21Fが設けられている。この切り欠き21Fは、弾性体シート31を治具本体部21の凹部21Eに入れるときに、弾性体シート31と治具本体部21との間の空気を抜くためのエア抜きとして機能し、弾性体シート31の取付作業を容易にすることができる。
なお、治具本体部21の材料は、FRPに限定されないが、成形の容易さ等を考慮すれば樹脂製が好ましい。但し、石膏、木製、金属等の種々の材料を用いてもよい。
【0018】
図4は弾性体シート31を拡げた状態を示す図である。なお、図4は弾性体シート31を略平らに拡げた状態であり、図1は弾性体シート31を治具本体部21の湾曲形状に沿わせて湾曲配置させた状態であるため、図1と図4では弾性体シート31の形状が異なって見えている。
弾性体シート31は、塗装用治具20を被塗装品100の裏側へ重ねたとき、弾性体シート31に配置されたマグネットシート11の表面を被塗装品100の裏面へ密接させるように弾力を有するものであり、シリコンゴム(ケイ素ゴムとも言う)で形成されている。
シリコンゴムは、弾性を有し、かつ、マグネットシート11の磁界に影響を与えない非磁性体材料であるだけでなく、撥水性や耐油性等の特性を有する。このシリコンゴムの撥水性等の特性により、弾性体シート31に塗料が付着した場合でも塗料を容易に落とすことができる。
【0019】
弾性体シート31は、治具本体部21の外形よりも小さい形状で通気用開口部101Aを避けるように二股に分岐して全体としてV字形状に形成される板状シートである。
すなわち、弾性体シート31は、治具本体部21の上側カバー覆い部21Aの外形よりも一回り小さい第1弾性体シート部31Aと、下側カバー覆い部21Bの外形よりも一回り小さい第2弾性体シート部31Bとを一体に備え、治具本体部21の略全体に効率よく敷設される。
第1弾性体シート部31Aの表面には、この第1弾性体シート部31Aの外縁よりも内側にマグネットシート11Aを収容する凹部(磁石収容凹部)32Aが設けられ、第2弾性体シート部31Bの表面には、この第2弾性体シート部31Bの外縁よりも内側にマグネットシート11B,11Cを収容する凹部(磁石収容凹部)32B,32Cが設けられる。このため、これら凹部32A〜32Cによってマグネットシート11A〜11Cが位置決めされる。また、これら第1及び第2弾性体シート部31A,31Bの裏面は、段差無く連続する面に形成され、弾性体シート31を治具本体部21の表面に沿わせて容易に配置することができる。
なお、以下の説明において、上記凹部32A〜32Cを特に区別する必要が無い場合には、凹部32と表記する。
【0020】
図1及び図3に示すように、支持フレーム41は、アルミニウム合金等の金属製のパイプ部材を屈曲して形成された金属フレーム部(治具本体支持部)42と、金属フレーム部42に取り付けられて被塗装品100に係止する一対の係止具43とを備えている。
金属フレーム部42は、治具本体部21の長手方向に沿って延びると共に治具本体部21の湾曲形状に沿って湾曲する輪っか形状を有し、治具本体部21の裏側に固定される。すなわち、この金属フレーム部42は、左右一対のボルト締結部材25A(図3参照)を長手方向の一端側に備え、これらボルト締結部材25Aを介して治具本体部21の裏面にボルト固定されると共に、長手方向の他端側部位が、治具本体部21の裏側に設けられた左右一対のフレーム挟持部25B(図3参照)に挟持される。
【0021】
一対の係止具43は、金属フレーム部42の長手方向の両端部に設けられる。一対の係止具43のうち、一方の係止具43Aは、金属フレーム部42の一端部(前端部)に溶接等で接合され、被塗装品100の一端部(前端部)に固定係止される固定側係止部に形成され、他方の係止具43Bは、金属フレーム部42の他端部(後端部)に回動自在に設けられ、被塗装品100の他端部(後端部)に係止される回動側係止部に形成される。
図5は、係止部43を被塗装品100に係止させた状態を模式的に示している。この図に示すように、被塗装品100の両端部には、被塗装品100の裏面(以下、符号100Rを付して示す)から突出する前後一対の被係止部103A,103Bが一体に設けられている。そして、一対の係止具43A,43Bは、金属フレーム部42を弾性変形させた状態で、一対の被係止部103A,103Bに係止し、この金属フレーム部42の弾性変形による反発力によりマグネットシート11を被塗装品100の裏側に押し当て、この押し当て状態に保持させる。
【0022】
このように、金属フレーム部42の曲がり(しなり)を利用して、治具本体部21を被塗装品100側に押し付けるばねを兼用させるので、被塗装品100への塗装用治具10の押し付け荷重の安定化を図ることができる。
また、本治具10では、治具本体部21と金属フレーム部42との固定を、長手方向一端側をボルト締結構造とし、他端側をボルトを使わない挟持構造(係止構造)としているので、金属フレーム部42の曲がり(しなり)を治具本体部21で妨げることがなく、治具本体部21の変形を防ぐことができる。これによって、塗装用治具10を精度良く安定して被塗装品100に押し付けることができる。
なお、挟持構造以外に、ボルト締結以外の他の係止構造を適用してもよい。要は、少なくとも一方側の固定を締結ではなく、締結以外の係止構造にすることによって、金属フレーム部42を利用して塗装用治具10を精度良く安定して被塗装品100に押し付けることが可能になる。
【0023】
図6(A)は、塗装用治具10の断面構造を模式的に示す図である。また、図6(B)は塗装用治具10の製作方法を説明する図である。
図6(A)に示すように、マグネットシート11は、弾性体シート31に形成された凹部32に収容され、弾性体シート31は、治具本体部21に設けられた凹部21Eに収容される。
このマグネットシート11と弾性体シート31との固定は、図6(B)に示すように、マグネットシート11を入れる凹部32内に、液体状にしたシリコンゴムSAを少量だけ流し込み、その凹部32内にマグネットシート11を入れた状態で液体状のシリコンゴムを硬化させることによって行われる。
すなわち、弾性体シート31は成形型を用いて予め製作され、この弾性体シート31の表面はシリコンゴムであるため、滑りやすい面となっており、この面にそのままマグネットシート11を置いただけではマグネットシート11がずれやすい。
本実施形態では、上記のように弾性体シート31とマグネットシート11との間に液体状のシリコンゴムSAを介在させて硬化させるので、シリコンゴムSAが、マグネットシート11と凹部32との間の隙間や、マグネットシート11表面や弾性体シート31の凹部32表面の微少な凹凸の間に入り込んだ状態で硬化し、弾性体シート31とマグネットシート11を確実に固定することが可能である。
【0024】
また、弾性体シート31と治具本体部21との固定についても、図6(B)に示すように、弾性体シート31を入れる凹部21E内に、液体状にしたシリコンゴムSAを流し込んでおき、その凹部21E内にマグネットシート11を入れた状態で液体状のシリコンゴムSAを硬化させることによって行われる。この場合、シリコンゴムSAが、弾性体シート31と凹部21Eとの間の隙間や、弾性体シート31表面や治具本体部21の凹部21E表面の微少な凹凸の間に入り込んだ状態で硬化するので、弾性体シート31と治具本体部21とを確実に固定することができる。
【0025】
この弾性体シート31には、マグネットシート11の外縁よりも外側を囲うようにマグネットシート11の表面(上面)11Tよりも上側(被塗装品100側)に突出するシール部35が一体に設けられ、かつ、弾性体シート31の表面(上面)31Tがマグネットシート11の表面(上面)11Tよりも上側(被塗装品100側)に出っ張るように形成されている。
詳述すると、シール部35は、弾性体シート31の外縁角部から上方斜めに延出する薄板状のリップ部(突出部)36を有し、このリップ部36が被塗装品100の裏面に接触することで、被塗装品100と弾性体シート31との間の隙間を閉塞してシールする。
【0026】
リップ部36は、弾性体シート31の外縁全体に渡って無端状に形成され(図4参照)、被塗装品100と弾性体シート31との間の隙間を確実に閉塞すべく、弾性体シート31の表面31Tよりも上方(被塗装品100側)に出っ張る形状に形成されている。
より具体的には、このリップ部36は、被塗装品100の裏面に向けて傾斜角度θ(本実施形態ではθ=25度程度)で持ち上がる形状に形成され、弾性体シート31を被塗装品100の裏側に押し当てる場合に最先に被塗装品100の裏面に接触し、被塗装品100との間の隙間を塞ぐ。
なお、弾性体シート31の表面31Tは、被塗装品100の裏面に沿って形成されるため、上記傾斜角度θは、弾性体シート31の表面31Tに対する傾斜角度とも一致している。また、リップ部36の厚さDは、例えば1mm、幅Hは、例えば2mmに形成され、被塗装品100の裏側に収まる小型リップ形状に形成される。
【0027】
ここで、図1に示すように、リップ部36は、弾性体シート31における第1弾性体シート部31Aと第2弾性体シート部31Bとが分岐する分岐部から前端側(通気用開口部101Aから離れる側)に延長するリップ延長部36Aを有している。
このリップ延長部36Aは、被塗装品100の裏面から突出するリブ101Bを避けてリブ101Bの周囲に沿って延在する。すなわち、リップ部36は、被塗装品100の裏面に開口する開口部(通気用開口部101A等)や裏面に設けられた凹凸部材(リブ101B等)を横断することなく、全てのマグネットシート11の外側を無端で覆う。
【0028】
図6(A)に示すように、弾性体シート31は、このシート31に形成された凹部32の深さがマグネットシート11の厚さよりも長く形成されることによって、凹部32の周囲に、マグネットシート11よりも上側(被塗装品100側)に出っ張る周囲壁33を形成する。この周囲壁33は、マグネットシート11の表面11T並びにその縁部の周囲をガードするガード部材として機能し、マグネットシート11の表面11T並びにその縁部に傷を付きにくくすることができる。
この周囲壁33の表面31Tとマグネットシート11の表面11Tとの間の段差L1、つまり、弾性体シート31の表面31の出っ張り量L1は、マグネットシート11を被塗装品100の裏面に押圧させるとき、この値L1による押圧力の増大が問題とならない程度の小さい値とされ、例えば、数ミリ程度に設定される。
【0029】
図7(A)〜(C)は、塗装用治具10を被塗装品100にセットする際の断面を模式的に示す図である。図7(A)は、塗装用治具10をセットする直前の状態であり、図7(B)は、セット途中の状態であり、図7(C)はセット後の状態である。
これらの図に示すように、塗装用治具10を被塗装品100にセットする場合、被塗装品100の裏面(以下、符号100Rを付して示す)には、弾性体シート31に設けられたリップ部36であるシール部35が最先に接触し、続いて、弾性体シート31の表面31Tが接触し、その後にマグネットシート11の表面11Tが接触する。
【0030】
このため、セット後においては、シール部35が最も変形した状態(撓んだ状態)となり、シール部35を被塗装品100に確実に接触させて被塗装品100との間の隙間を閉塞することができる。また、マグネットシート11を被塗装品100に押し付けた状態では(図7(C)参照)、弾性体シート31が少なくとも出っ張り量L1の分だけ圧縮するので、この圧縮による反発力によっても弾性体シート31と被塗装品100との間の隙間を閉塞することができる。
従って、塗装用治具10の押し付け荷重を上げて被塗装品100との間の隙間を閉塞する従来方法よりも、小さい押し付け荷重で被塗装品100との間の隙間を閉塞することが可能になる。これにより、比較的柔軟性を有するように形成される車体カバー部品である被塗装品100を変形させるほどの押し付け荷重を必要とせずに、塗装用治具10と被塗装品100との間の隙間を閉塞でき、吹きつけ塗装等で周囲に塗料が舞う塗装環境においても、マグネットシート11等に塗料を付着し難くすることができる。
【0031】
また、セット直前までは、弾性体シート31の表面31Tがマグネットシート11の表面11Tよりも出っ張った状態であるため、セット直前までマグネットシート11の表面11T及び縁部を保護でき、かつ、弾性体シート31が被塗装品100の姿勢を案内し、被塗装品100とマグネットシート11とを適切に当接させることができる。
本塗装法では、マグネットシート11の形状に倣った磁性体模様部111を発現させるため、マグネットシート11の外縁を被塗装品100の裏面100Rに密着させることが極めて重要であるが、上記したように、マグネットシート11の外縁を保護しつつ被塗装品100に接触させることができるので、マグネットシート11の外縁に沿った磁性体模様部111を精度良く発現させることが可能である。
【0032】
以上説明したように、本実施の形態によれば、弾性体シート31には、マグネットシート11の外縁よりも外側を囲うようにマグネットシート11の表面11Tよりも被塗装品100側に突出するリップ部36であって、被塗装品100の裏面100Rに接触することでシールするシール部35が設けられるので、被塗装品100への押し付け荷重を上げずにマグネットシート11等への塗料の付着を抑えることができ、マグネットシート11や弾性体シート31等の洗浄の頻度を下げることができる。
これによれば、量産ラインにこの塗装用治具10を使用した場合に、同一の塗装用治具10を連続使用することができ、量産効率が向上する。さらに、量産の場合に洗浄行程を設けたとしても、洗浄行程を簡略化(短時間化や洗浄の頻度低減等が)でき、量産やコストダウンに有利である。
【0033】
さらに、シール部35は、弾性体シート31の外縁に沿って配置されるので、弾性体シート31の広い範囲をシールすることができる。この場合、被塗装品100の裏面100Rへ押し当てる面全体をシールできるので、押し当て面全体への塗料の付着を抑えることができる。
また、マグネットシート11の表面11Tは、弾性体シート31の表面31Tよりも被塗装品100から離間する位置に配置されるので、マグネットシート11の表面11Tや縁部に傷を付きにくくすることができる。
【0034】
また、弾性体シート31には、マグネットシート11を収容する凹部(磁石収容凹部)32が形成されるので、マグネットシート11を安定して弾性体シート31に保持できる、この構成の場合、マグネットシート11の厚さ変更に容易に対応でき、比較的厚みのある磁石を使用することができる。
また、弾性体シート31をシリコンゴムで形成したため、磁性体シート31に塗料が付着しても塗料を落としやすくなる。
さらに、被塗装品100は、治具本体部21から延びる金属パイプ(金属棒)により形成される支持フレーム41に保持されるので、金属パイプの弾性変形を利用して安定して被塗装品100と塗装用治具10とを押し付けることができる。
【0035】
<第2実施形態>
図8(A)(B)は第2実施形態を示す。
第2実施形態では、図8(A)に示すように、弾性体シート31の表面(上面)31Tがマグネットシート11の表面(上面)11Tよりも被塗装品100から離間する位置(下側)に形成される。
すなわち、弾性体シート31の凹部32の深さは、マグネットシート11の厚さよりも小さく形成され、塗装用治具10を被塗装品100にセットした場合に、図8(B)に示すように、弾性体シート31の表面31Tをマグネットシート11の表面11Tよりも被塗装品100から離間させる。
また、弾性体シート31に設けられるシール部35のリップ部36は、上方に向けて略垂直に突出する突出形状に形成され(図8(A)参照)、リップ部36を側方斜めに突出させる場合よりも短い長さで、マグネットシート11の表面11Tよりも上方へ突出するリップ部36を形成することができる。
なお、このリップ部36は、上方(被塗装品100側)に行くに従って薄くなる先細形状に形成され、被塗装品100の裏面100Rに接触した際に撓みやすい形状とされている。
【0036】
本構成では、図8(B)に示すように、塗装用治具10を被塗装品100にセットした場合に、弾性体シート31の表面31Tと被塗装品100の裏面100Rとの間に空間(隙間)SPが形成される。
この空間SPが形成されるため、マグネットシート11を被塗装品100に押し付ける場合に、弾性体シート31におけるマグネットシート11周囲部分が、マグネットシート11の押し付けを何ら阻害せず、マグネットシート11を安定して押し付けることができる。
また、弾性体シート31におけるマグネットシート11周囲部分が被塗装品100に押し付けられないので、その分、塗装用治具10を被塗装品100に押し付ける押し付け荷重を、マグネットシート11を被塗装品100に押し付ける荷重に割り振ることができ、マグネットシート11の押し付け荷重を効率よく確保できる。従って、マグネットシート11を安定して被塗装品100に押し付けることができる。
【0037】
さらに、シール部35とマグネットシート11との間に空間(隙間)SPを形成すれば、シール部35と被塗装品100との間から塗料が染み込んだとしても、表面張力等による染み込む範囲の拡大を、空間SPの隙間により抑えることができ、マグネットシート11への塗料の付着を抑え、洗浄の頻度を下げることができる。
また、弾性体シート31のシール部35を被塗装品100に押し付けた場合に、空間SP内の空気が外に抜け、シール部35の弾性復元力により空間SPが拡がろうとして空間SP内の気圧が大気圧未満に下がり、弾性体シート31を被塗装品100に張り付ける。すなわち、シール部35が、弾性体シート31を被塗装品100に張り付ける吸盤として機能し、塗装用治具10を被塗装品100に安定して保持させることができる。
【0038】
<第3実施形態>
図9(A)(B)は第3実施形態を示す。
第3実施形態では、図9(A)に示すように、弾性体シート31の表面(上面)31Tとマグネットシート11の表面(上面)11Tとが同位置に形成される。
すなわち、弾性体シート31の凹部32の深さは、マグネットシート11の厚さと同一又は同程度とされ、塗装用治具10を被塗装品100にセットした場合に、図9(B)に示すように、弾性体シート31の表面31Tとマグネットシート11の表面11Tとを塗装用治具10に押し付けることができる。
この場合、シール部35のリップ部36により被塗装品100との間の隙間をシールするので、弾性体シート31と被塗装品100との間に塗料が浸入するのを効果的に遮断でき、弾性体シート31及びマグネットシート11とを被塗装品100に押し付ける態様で塗装用治具10を被塗装品100にセットすることができる。
【0039】
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形及び応用が可能である。例えば、上記実施形態において、リップ部36の形状を変更してもよい。例えば、リップ部36を、図10(A)に示すように、略半球形状の断面形状にしてもよく、図10(B)に示すように、斜め上方に湾曲して延びる湾曲断面形状にする等、様々な形状にしてもよい。また、上記実施形態では、リップ部36を弾性体シート31の外縁角部に設ける場合を説明したが、これに限らず、弾性体シート31の外縁よりも内周側に設けてもよく、マグネットシート11の外側を囲う範囲でリップ部36の位置を変更してもよい。さらに、上記実施形態では、支持フレーム(治具本体支持部)41に金属パイプを用いる場合を説明したが、これに限らず、金属板を用いてもよい。金属板を用いる場合も、金属板の弾性変形を利用して安定して被塗装品100と塗装用治具10とを押し付けることが可能である。
【符号の説明】
【0040】
10 塗装用治具
11,11A,11B,11C マグネットシート(磁石)
21 治具本体部
31 弾性体シート(弾性部材)
32,32A,32B,32C 凹部(磁石収容凹部)
35 シール部
36 リップ部
41 支持フレーム(治具本体支持部)
42 金属フレーム部(治具本体支持部)
100 被塗装品(車体カバー部品)
111,111A,111B,111C 磁性体模様部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装品の裏側に磁石を配置して被塗装品の表面に磁界を形成し、磁界が形成された表面に磁性体粉末を含む塗料を塗装するための塗装用治具であって、この塗装用治具の被塗装品裏側に配置される磁石と前記磁石を支持する治具本体部との間に弾性部材が介在し、この弾性部材の外縁が磁石の外縁より外側に配置される塗装用治具構造において、
前記弾性部材には、前記磁石の外縁よりも外側を囲うように前記磁石の表面よりも前記被塗装品側に突出する突起部であって、前記被塗装品の裏面に接触することでシールするシール部が設けられることを特徴とする塗装用治具構造。
【請求項2】
前記シール部は、前記弾性部材の外縁に沿って配置されることを特徴とする請求項1に記載の塗装用治具構造。
【請求項3】
前記磁石の表面は、前記弾性部材の表面よりも前記被塗装品から離間する位置に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装用治具構造。
【請求項4】
前記弾性部材の表面は、前記磁石の表面よりも前記被塗装品から離間する位置に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装用治具構造。
【請求項5】
前記弾性部材には、前記磁石を収容する磁石収容凹部が形成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の塗装用治具構造。
【請求項6】
前記弾性部材は、シリコンゴムで形成されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の塗装用治具構造。
【請求項7】
前記被塗装品は、前記治具本体部から延びる金属板、若しくは金属棒により形成される治具本体支持部に保持されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の塗装用治具構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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