説明

塗装用治具類の剥離洗浄剤、それを用いた塗装用治具類の前処理方法及び洗浄方法

【課題】 従来の有機溶剤系の剥離洗浄剤の有する課題を解決できる水系の剥離洗浄剤であって、べたつきがない均一且つ緻密な水不溶性無機化合物の付着層を形成することができ、高水準の剥離洗浄性を達成することが可能な塗装用治具類の剥離洗浄剤、並びに、その剥離洗浄剤を用いた塗装用治具類の前処理方法及び洗浄方法を提供すること。
【解決手段】 被塗装品を塗装またはマスク塗装する際に用いた塗装用治具類に付着した塗料を剥離させて洗浄する洗浄方法に用いるための塗装用治具類の剥離洗浄剤において、水不溶性無機化合物と水とを含有することを特徴とする塗装用治具類の剥離洗浄剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装用治具類の剥離洗浄剤、並びに塗装用治具類の前処理方法及び洗浄方法に関し、より詳しくは、塗装工程において使用される固定治具、マスク治具等の塗装用治具類に付着した塗料を剥離させて洗浄する洗浄方法に用いるための塗装用治具類の剥離洗浄剤、並びに、その剥離洗浄剤を用いた塗装用治具類の前処理方法及び洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装工程において使用される固定治具は、被塗装品を固定するために用いられる治具であり、金属等の材料を使用して形作られた治具である。また、塗装工程において使用されるマスク治具は、被塗装品の所望する領域だけに塗料を付着させるために塗装部位の形状に対応させて形作られた治具であり、塗装部位以外の部分を被覆するようにし、塗料が不必要な部位に付着しないようにするために用いられるものである。そのため、このような塗装用治具類は塗装工程において被塗装品と共に塗料が付着してしまうことが避けられないものであり、かかる塗装用治具類を繰り返し使用するために、従来より剥離洗浄剤を用いて塗装用治具類に付着した塗料の除去と洗浄が行われてきている。
【0003】
このような塗装治具類の洗浄方法としては、有機塩素系溶剤であるジクロロメタン(塩化メチレン)やトリクレン等の有機溶剤中に塗装用治具類を浸漬させて付着した塗料を溶解し除去する方法、または、これらの溶剤に水酸化ナトリウム等のアルカリを添加して併用することで付着した塗料を溶解し除去する方法等が挙げられる。
【0004】
しかしながら、前述のような有機溶剤を使用する方法においては、ジクロロメタンが発ガン性物質であることが指摘されていること、有機塩素系溶剤による作業者への健康面への影響、更には、土壌汚染、オゾン層破壊、地球温暖化等の環境問題という点で問題があった。また、前述のような有機溶剤を使用する方法においては、塗装用治具類から剥離された塗料が溶剤中に溶解し、その溶解した塗料が塗装用治具類に再付着して洗浄力が低下することから、洗浄液の交換を比較的頻繁に、且つ定期的に行わなければならなかった。このため、作業効率が低下すること、有機溶剤の新液を大量に追加しなければならないこと、塗料が溶解した溶剤を処理するために必要なコストが生じること等からトータルランニングコストが高くなるという問題もあった。更に、非ハロゲン系の引火し易い溶剤を使用する場合には、火災にも留意する必要があり、防爆設備等の導入も必要となるという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、特開平6−262106号公報(特許文献1)においては、マスク治具の表面にフッ素樹脂をコーティングして塗料の密着性を低下させることによって、付着した塗料の剥離を容易にし、溶剤を用いて完全に除去する方法が開示されている。しかしながら、このような特許文献1に記載の方法においては、塗料を剥離させる際に溶剤を使用するため、上記の廃溶剤の処理や作業環境の問題点が懸念されていた。
【0006】
また、特開2001−104895号公報(特許文献2)においては、グルコン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、リン酸ナトリウムから構成された界面活性剤を溶解した水系の洗浄液をマスク治具に吹き付けて、前記マスク治具の表面に前記界面活性剤膜を形成する剥離膜形成工程と、塗装工程の後に、前記洗浄液を塗料が付着したマスク治具に吹き付けて、付着した塗料を前記界面活性剤膜とともに洗い落とす洗浄工程とを含むマスク治具の洗浄方法が開示されている。更に、特開2002−159923号公報(特許文献3)においては、マスキング塗装により塗膜が付着された塗装用マスクに、ポリアクリル酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、リン酸ナトリウムおよびホウ酸ナトリウムを含む加温された水性洗浄液を噴射して前記マスク表面の塗膜を剥離除去するマスクの塗装用洗浄方法が開示されている。しかしながら、このような特許文献2及び3に記載の水系の洗浄剤を用いるマスク治具の洗浄方法においては、マスク治具に付着した塗料の剥離洗浄性の向上に限界があり、未だ十分なものではなかった。
【特許文献1】特開平6−262106号公報
【特許文献2】特開2001−104895号公報
【特許文献3】特開2002−159923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、前記従来の有機溶剤系の剥離洗浄剤の有する課題を解決できる水系の剥離洗浄剤であって、べたつきがない均一且つ緻密な水不溶性無機化合物の付着層を形成することができ、高水準の剥離洗浄性を達成することが可能な塗装用治具類の剥離洗浄剤、並びに、その剥離洗浄剤を用いた塗装用治具類の前処理方法及び洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、剥離洗浄剤の成分として水不溶性無機化合物を用いることにより、べたつきがない均一且つ緻密な水不溶性無機化合物の付着層を形成することができ、高水準の剥離洗浄性を達成することが可能な剥離洗浄剤が得られることを見出し、この知見に基づき本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の塗装用治具類の剥離洗浄剤は、被塗装品を塗装またはマスク塗装する際に用いた塗装用治具類に付着した塗料を剥離させて洗浄する洗浄方法に用いるための塗装用治具類の剥離洗浄剤において、水不溶性無機化合物と水とを含有することを特徴とするものである。
【0010】
上記本発明にかかる前記水不溶性無機化合物としては、珪酸化合物、金属酸化物またはカルシウム化合物であることが好ましく、また、前記珪酸化合物が鉱産物であることがより好ましい。
【0011】
上記本発明の塗装用治具類の剥離洗浄剤としては、高分子系分散剤を更に含有することが好ましく、また、前記高分子系分散剤の含有量が0.001〜10質量%であることがより好ましい。
【0012】
上記本発明の塗装用治具類の剥離洗浄剤としては、非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤を更に含有することが好ましく、また、前記界面活性剤の含有量が0.005〜10質量%であることがより好ましい。
【0013】
上記本発明の塗装用治具類の剥離洗浄剤としては、水溶性高分子を更に含有することが好ましく、また、前記水溶性高分子がポリビニルアルコールであることがより好ましい。
【0014】
本発明の塗装治具類の前処理方法は、被塗装品を塗装またはマスク塗装する際に用いる塗装用治具類の表面に前記剥離洗浄剤を供給し、水不溶性無機化合物の付着層を形成させることを特徴とする方法である。
【0015】
また、本発明の塗装用治具類の洗浄方法は、被塗装品を塗装またはマスク塗装する際に用いた塗装用治具類に付着した塗料を剥離させて洗浄する洗浄方法であって、前記塗装治具類が、前記剥離洗浄剤により形成された水不溶性無機化合物の付着層を有するものであることを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、前記従来の有機溶剤系の剥離洗浄剤の有する課題を解決できる水系の剥離洗浄剤であって、べたつきがない均一且つ緻密な水不溶性無機化合物の付着層を形成することができ、高水準の剥離洗浄性を達成することが可能な塗装用治具類の剥離洗浄剤、並びに、その剥離洗浄剤を用いた塗装用治具類の前処理方法及び洗浄方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
先ず、本発明の塗装用治具類の剥離洗浄剤について説明する。すなわち、本発明の塗装用治具類の剥離洗浄剤は、被塗装品を塗装またはマスク塗装する際に用いた塗装用治具類に付着した塗料を剥離させて洗浄する洗浄方法に用いるための塗装用治具類の剥離洗浄剤において、水不溶性無機化合物と水とを含有することを特徴とするものである。
【0019】
本発明にかかる水不溶性無機化合物は、25℃以下の温度条件下において水に対する溶解度が1質量%以下の無機化合物である。このような水不溶性無機化合物としては、剥離洗浄性の向上という観点から、珪酸化合物、金属酸化物又はカルシウム化合物を用いることが好ましい。また、前記珪酸化合物としては、例えば、カオリン、活性白土、ケイ砂、ケイソウ土、タルク、パーライト、ベントナイト等の鉱産物を用いることが好ましく、前記金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム等を用いることが好ましく、前記カルシウム化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムを用いることが好ましい。また、このような水不溶性無機化合物は、1種を単独で用いることができ、または2種以上を混合して用いることもできる。
【0020】
本発明の剥離洗浄剤は、前述のように水不溶性無機化合物と水とを含有するものである。このような剥離洗浄剤における前記水不溶性無機化合物の含有量としては、1〜80質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。前記含有量が前記下限未満では、含有量が不十分で得られる剥離洗浄剤の剥離洗浄性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、水不溶性無機化合物が水に安定的に分散し難くなるとともに、高濃度となって乾燥時の付着層の形成性が低下する傾向にある。
【0021】
また、このような剥離洗浄剤は前記水不溶性無機化合物を水に分散させた分散液として剤型化されたものである。このような剤型化に際しては、剥離洗浄剤中における前記水不溶性無機化合物の水への分散性の向上及び分散状態の安定性を図る観点から、前記水不溶性無機化合物は微粒子化されていることが好ましい。このような微粒子化における前記水不溶性無機化合物の平均粒子径としては特に制限されないが、0.01〜100μmであることが好ましく、0.1〜50μmであることがより好ましい。
【0022】
このような剥離洗浄剤の製造方法としては特に制限されず、水不溶性無機化合物を水に分散させることで製造することができ、例えば、予め微粒子化された水不溶性無機化合物を水に分散させて製造する方法や、水不溶性無機化合物を水に分散させた後にサンドグラインドミル等の微粒子化機用いて微粒子化して製造する方法等が挙げられる。
【0023】
また、このような本発明の剥離洗浄剤においては、前記水不溶性無機化合物を水により均一に分散させるとともに、分散液の粘性をより適度に保つという観点から、高分子系分散剤を更に含有することが好ましい。
【0024】
このような高分子系分散剤としては特に制限はないが、例えば、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、スチレンマレイン酸共重合物の塩、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸と他の不飽和モノマーとの共重合物の塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸と不飽和モノマーとの共重合物の塩等が挙げられる。このような高分子系分散剤は、1種を単独で用いることも2種以上を混合して用いることも可能である。
【0025】
このような高分子系分散剤の含有量としては、剥離洗浄剤中に0.001〜10質量%であることが好ましく、0.01〜5質量%であることがより好ましい。前記含有量が、前記下限未満では、水不溶性無機化合物の水への分散性の向上が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると粘度が増大する傾向にある。
【0026】
また、このような高分子系分散剤の平均分子量としては、水不溶性無機化合物の水への分散性の向上と分散液の粘性を適度に保つという観点から、500〜3000であることが好ましい。
【0027】
さらに、本発明の剥離洗浄剤においては、前記水不溶性無機化合物に対する水の浸透性の向上、得られる剥離洗浄剤の濡れ性の向上、及び洗浄時における剥離洗浄剤の浸透性の向上という観点から、非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤を更に含有することが好ましい。
【0028】
このような非イオン界面活性剤としては、例えば、高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸のアルキレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドのアルキレンオキサイド付加物、油脂のアルキレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールのエチレンオキサイド付加物等の非イオン界面活性剤が挙げられる。また、アニオン界面活性剤としては脂肪酸セッケン等のカルボン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩(アルキル硫酸エステル塩)、高級アルキルポリアルキレングリコールエーテル硫酸エステル塩、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化オレフィン等の硫酸エステル塩、硫酸化油、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、イゲポンT型(商品名)、スルホコハク酸ジエステル塩等のスルホン酸塩、高級アルコールのリン酸エステル塩(アルキルリン酸エステル塩)、高級アルキルポリアルキレングリコールのリン酸エステル塩等のリン酸エステル塩等のアニオン界面活性剤が挙げられる。前記高級アルコールとしては、炭素数が6〜20の高級アルコールが好ましく、前記アルキルとしては、炭素数が6〜20のアルキル基であることが好ましく、前記アルキレンオキサイドとしては、炭素数が2〜4のアルキレン基であり、付加モル数が1〜20モルであることが好ましい。
【0029】
このような非イオン界面活性剤またはアニオン界面活性剤の中でも、高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、高級アルコール硫酸エステル塩又は高級アルコールリン酸エステル塩を用いることがより好ましい。また、このようなアニオン界面活性剤の中でも、得られる剥離洗浄剤の濡れ性及び密着強度をより向上するという観点からは、アルキル硫酸エステルナトリウムまたはアルキルリン酸エステルナトリウムを用いることが特に好ましい。このような非イオン界面活性剤またはアニオン界面活性剤は、1種を単独で用いることができ、または2種以上を混合して用いることもできる。
【0030】
このような非イオン界面活性剤またはアニオン界面活性剤の含有量としては、剥離洗浄剤中に0.005〜10質量%であることが好ましく、0.01〜2質量%であることがより好ましい。前記配合量が、前記下限未満では得られる剥離洗浄剤の塗装用治具に対する濡れ性及び密着強度の向上が不十分な傾向にあり、前記上限を超えると、剥離洗浄剤への溶解性の低下や剥離洗浄剤の乾燥性の低下といった問題、洗浄時の泡立ちが多くなるといった問題等が生じる傾向にある。
【0031】
また、本発明の剥離洗浄剤においては、水溶性高分子を含有させることが好ましい。このような水溶性高分子を本発明の塗装用治具類の剥離洗浄剤に含有させることで、前記水不溶性無機化合物が塗装用治具類により均一に付着させることが可能となるとともに、形成される付着層の塗装用治具類への密着強度が向上する効果が得られるためである。なお、このような水溶性高分子は、得られる剥離洗浄剤がより高い濡れ性、均一付着性及び密着強度を示すという観点から、前述の界面活性剤と共に含有させることがより好ましい。
【0032】
このような水溶性高分子としては特に制限されず、例えば、ポリビニルアルコール、水溶性ポリウレタン、水溶性アクリルポリマー、メチルセルロース等のセルロース誘導体、水溶性ポリエステル、水溶性ナイロン、水溶性ポリアミド、エチレン酢酸ビニル、ポリアクリルアミド、カゼイン、水溶性タンパク質、天然多糖類等の水溶性高分子が挙げられる。このような水溶性高分子の中でも、ポリビニルアルコールを用いることがより好ましい。
【0033】
ここで、ポリビニルアルコールは、水溶性合成高分子としては特異な性質を持ち、ケン化度の違いによって、75℃以上の温水には可溶であるが冷水には膨潤するだけで難溶性のものもある。また、ポリビニルアルコールの被膜は、引き裂き強度、伸張度、耐磨耗性に優れており、更に、生成した被膜は水蒸気を良く通す性質がある。このような性質を有することから、ポリビニルアルコールは、本発明の剥離洗浄剤に対する造膜助剤として好適に用いることができる。
【0034】
このようなポリビニルアルコールの剥離洗浄剤への添加量としては、あまり過剰に添加すると造膜し難く、しかも取扱いが困難になるという観点から、本発明の剥離洗浄剤に含有される水不溶性無機化合物に対して0.01〜10質量%であることが好ましい。また、ポリビニルアルコールのケン化度の大きさについては水への溶解性と造膜性とを評価して選定しなければならないが、ケン化度が70〜95%程度であるものが好ましく、例えば、部分ケン化でケン化度88%のものとして、クラレポバールPVA−203(商品名[株式会社クラレ製])が水に対する溶解性が良く、造膜性も優れている点で有効的に使用できる。
【0035】
なお、本発明の塗装用治具類の剥離洗浄剤には、本発明の効果を損なわない範囲において、他の成分を添加することが可能である。このような他の成分としては、特に制限されるものではないが、例えば、洗浄時の発泡を抑える消泡剤、治具又は槽の発錆を抑える防錆剤、水溶性高分子の腐敗を抑える防腐剤、消臭剤、香料等が挙げられる。また、このような他の成分の含有量としては、剥離洗浄剤中に0.001〜1質量%程度であることが好ましい。
【0036】
次に、本発明の塗装用治具類の前処理方法及び洗浄方法について説明する。
【0037】
本発明の塗装用治具類の前処理方法は、被塗装品を塗装またはマスク塗装する際に用いる塗装用治具類の表面に、前記剥離洗浄剤を供給し、水不溶性無機化合物の付着層を形成させることを特徴とする方法である。
【0038】
このような剥離洗浄剤を塗装用治具類の表面に供給する方法としては特に制限されず、適宜公知の方法を用いることができ、例えば、予め塗装用治具類に前記剥離洗浄剤を塗布する方法、塗装用治具類を前記剥離洗浄剤の分散液に浸漬させる方法等が挙げられる。また、このような剥離洗浄剤を塗装用治具類の表面に供給する際における前記剥離洗浄剤の供給量としては、特に制限はされないが100〜500g/m程度であることが好ましい。そして、塗装用治具類の表面に前記剥離洗浄剤を供給した後に、乾燥させることで塗装用治具類の表面に水不溶性無機化合物が層状に付着した付着層を形成させることができる。
【0039】
本発明の塗装用治具類の洗浄方法は、被塗装品を塗装またはマスク塗装する際に用いた塗装用治具類に付着した塗料を剥離させて洗浄する洗浄方法であって、前記塗装治具類が、前記剥離洗浄剤により形成された水不溶性無機化合物の付着層を有するものであることを特徴とする方法である。
【0040】
このような本発明の塗装用治具類の洗浄方法は、塗装用治具類の表面に形成された水不溶性無機化合物の付着層に洗浄液の水が浸透していくことにより、前記水不溶性無機化合物とともに塗装用治具類に付着した塗料が剥離するというものである。そして、塗装用治具類から剥離した塗料(塗膜)は水に不溶であるため容易に分離できるものである。従って、前記洗浄液が前記剥離洗浄剤を希釈した液である場合には、かかる剥離洗浄剤を塗装用治具類の表面に予め付着層を形成させるためにも使用できるため、塗装用治具類の表面に付着した塗料の剥離洗浄と、塗装用治具類の表面における前記水不溶性無機化合物の付着層の形成とが同時に行えるという利点がある。
【0041】
前記剥離洗浄剤により形成された水不溶性無機化合物の付着層を有する塗装治具類を洗浄する方法としては特に制限されず、適宜公知の洗浄方法、例えば、浸漬法、超音波洗浄法、浸漬揺動法、スプレー法等の各種の洗浄方法が挙げられる。
【0042】
塗装工程において使用される固定治具の具体的な洗浄方法としては、例えば、用いる固定治具に予め前記剥離洗浄剤を塗布し、乾燥させて前記水不溶性無機化合物の付着層を形成させた後、前記固定治具を使用して塗装を繰り返し、塗料の付着した固定治具を、水または前記剥離洗浄剤を含む洗浄液に浸漬することで前記固定治具から容易に塗料を剥離させて洗浄する方法が挙げられ、これによって洗浄液中の剥離させた塗料は容易に水と分離させることが可能となる。また、塗装工程において使用されるマスク治具の具体的な洗浄方法としては、例えば、前記剥離洗浄剤の希釈液にマスク治具を浸漬した後、乾燥することによって前記水不溶性無機化合物の付着層を前記マスク治具に形成させて、このマスク治具で被塗装品の非塗装部分を覆いマスキンング塗装を行い、マスキング塗装が1〜数十回繰り返されることで塗料が付着したマスク治具を、水または前記剥離洗浄剤を含む洗浄液に浸漬することで前記マスク治具から容易に塗料を剥離させて洗浄する方法が挙げられ、これによって剥離させた塗料は容易に水と分離させることが可能となる。このように、本発明の洗浄方法においては、水または前記剥離洗浄剤を含む洗浄液に前記塗装用冶具類を浸漬させることにより、前記塗装用冶具類から容易に塗料を剥離させて洗浄することが可能となる。
【0043】
なお、本発明の剥離洗浄剤を用いて表面に前記水不溶性無機化合物の付着層を形成させた塗装用治具類を用いた塗装方法としては特に制限はなく、一般的なスプレー塗装であるエアースプレー方式、ホットエアースプレー方式、エアーレススプレー方式、ホットエアーレススプレー方式等の塗装方法が挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
工業用填料として市販されているタルク(珪酸マグネシウム)200gを水797gにナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物(高分子系分散剤)3gを加えて分散させて剥離洗浄剤を得た。
【0046】
(実施例2)
炭酸カルシウム200gを水800gに分散させて剥離洗浄剤を得た。
【0047】
(実施例3)
硫酸カルシウム200gを水800gに分散させて剥離洗浄剤を得た。
【0048】
(実施例4)
工業用無機顔料として市販されている酸化チタン200gを水795gにスチレンマレイン酸共重合物の塩(日華化学株式会社製の商品名「ディスパテックスSMA」)5gを加えて分散させて剥離洗浄剤を得た。
【0049】
(実施例5)
工業用填料として市販されているタルク(珪酸マグネシウム)200gを水796gにナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物(高分子系分散剤)3gを加えて分散させた後、更に(C12)アルキル硫酸エステルナトリウム1gを加えて剥離洗浄剤を得た。
【0050】
(実施例6)
工業用填料として市販されているタルク(珪酸マグネシウム)200gを水795gにナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物(高分子系分散剤)3gを加えて分散させた後、更に(C12)アルキル硫酸エステルナトリウム1g、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製の商品名「PVA−203」)10g及びポリオキシエチレン(6モル)(C12)アルキルエーテル1gを加えて剥離洗浄剤を得た。
【0051】
(比較例1)
ポリアクリル酸ナトリウム(分子量=10000)200gを水800gに溶解させて剥離洗浄剤を得た。
【0052】
(比較例2)
(C12)アルキルスルホン酸ナトリウム300gを水700gに溶解させて剥離洗浄剤を得た。
【0053】
1.試験片の濡れ性、べたつき性の評価
50mm×80mmの冷間圧延鋼鈑(SPCC)を、容量比50/50で混合したトルエン/アセトンの混合溶剤中に浸漬し、その後乾燥して脱脂処理を行った試験片を得た。
【0054】
次に、実施例1〜6及び比較例1〜2で得られた剥離洗浄剤中に前記試験片を10秒間浸漬した後、引き上げて、試験片の濡れ性を下記の基準で評価した。その後、80℃で10分間乾燥した試験片のべたつき性を下記の基準で評価した。得られた結果を表1に示す。
【0055】
[濡れ性]
◎:斑がなく全面均一に剥離洗浄剤が付着している
○:一部に斑があるが、ほぼ均一に剥離洗浄剤が付着している
×:剥離洗浄剤が斑付きしている。
【0056】
[べたつき性]
◎:べたつきがなく、全面均一に緻密な付着層を形成している
○:少しべたつきがあるが、ほぼ均一に付着層を形成している
×:べたつきがあり、一部に不均一な付着層を形成している。
【0057】
2.塗料の剥離洗浄性
(i)水による洗浄
前述のようにして得られた試験片にアクリル系塗料を塗工し、80℃で1時間乾燥させた。その後、アクリル系塗料を塗工した試験片を水に浸漬し、塗装膜の剥離洗浄性を下記に示す評価基準で評価した。得られた結果を表1に示す。
【0058】
(ii)実施例1〜6及び比較例1〜2の剥離洗浄剤による洗浄
前述のようにして得られたアクリル系塗料を塗工した試験片を実施例1〜6及び比較例1〜2の剥離洗浄剤中に浸漬し、塗装膜の剥離洗浄性を下記に示す評価基準で評価した。得られた結果を表1に示す。
【0059】
[剥離洗浄性]
◎:剥離性が良好で、塗料が全く残らない
○:剥離性は良いが、一部に塗料が残る
△:剥離性が弱く、塗料が斑点状に残る。
【0060】
【表1】

【0061】
本発明の実施例1〜6の剥離洗浄剤によれば、塗料の剥離性及びべたつき性に優れることが分かる。特に高分子系分散剤を併用した実施例4で得られた剥離洗浄剤、高分子系分散剤と界面活性剤とを併用した実施例5で得られた剥離洗浄剤、及び高分子系分散剤と界面活性剤と水溶性高分子とを併用した実施例6で得られた剥離洗浄剤においては、塗装用治具類の表面に均一な付着層を形成させて、塗装用治具類に直接塗料が付着するのを有効に防止することができたため、塗料の剥離性に特に優れることが確認された。また、剥離させた塗料(塗膜)も水に溶解することが無く、塗料(塗膜)を容易に分離することが可能であったため、従来行われていた有機溶剤を用いて塗料を溶解させる洗浄方法とは異なり、排水(廃液)処理の負荷も少ないものとなることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したように、本発明によれば、前記従来の有機溶剤系の剥離洗浄剤の有する課題を解決できる水系の剥離洗浄剤であって、べたつきがない均一且つ緻密な水不溶性無機化合物の付着層を形成することができ、高水準の剥離洗浄性を達成することが可能な塗装用治具類の剥離洗浄剤、並びに、その剥離洗浄剤を用いた塗装用治具類の前処理方法及び洗浄方法を提供することが可能となる。
【0063】
すなわち、本発明の塗装用治具類の剥離洗浄剤を用いれば、固定治具やマスク治具等の塗装用治具類に付着した塗装を容易に、且つ確実に落とすことができる剥離洗浄方法を提供することが可能となる。また、本発明の塗装用治具類の剥離洗浄剤及びそれを用いた洗浄方法は、ジクロロメタン(塩化メチレン)や有機溶剤を使用しないため作業環境及び地球環境に優しく、更には、剥離された塗料の分離が容易であるため、剥離洗浄液を繰り返し使用することが可能となる。このように、本発明の塗装用治具類の剥離洗浄剤は、工業製品の塗装技術の向上、環境問題、コスト面等で有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装品を塗装またはマスク塗装する際に用いた塗装用治具類に付着した塗料を剥離させて洗浄する洗浄方法に用いるための塗装用治具類の剥離洗浄剤において、水不溶性無機化合物と水とを含有することを特徴とする塗装用治具類の剥離洗浄剤。
【請求項2】
前記水不溶性無機化合物が、珪酸化合物、金属酸化物またはカルシウム化合物であることを特徴とする請求項1に記載の塗装用治具類の剥離洗浄剤。
【請求項3】
前記珪酸化合物が鉱産物であることを特徴とする請求項2に記載の塗装用治具類の剥離洗浄剤。
【請求項4】
高分子系分散剤を更に含有することを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の塗装用治具類の剥離洗浄剤。
【請求項5】
前記高分子系分散剤の含有量が0.001〜10質量%であることを特徴とする請求項4に記載の塗装用治具類の剥離洗浄剤。
【請求項6】
非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤を更に含有することを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の塗装用治具類の剥離洗浄剤。
【請求項7】
前記界面活性剤の含有量が0.005〜10質量%であることを特徴とする請求項6に記載の塗装用治具類の剥離洗浄剤。
【請求項8】
水溶性高分子を更に含有することを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の塗装用治具類の剥離洗浄剤。
【請求項9】
前記水溶性高分子がポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項8に記載の塗装用治具類の剥離洗浄剤。
【請求項10】
被塗装品を塗装またはマスク塗装する際に用いる塗装用治具類の表面に請求項1〜9のうちのいずれか一項に記載の剥離洗浄剤を供給し、水不溶性無機化合物の付着層を形成させることを特徴とする塗装治具類の前処理方法。
【請求項11】
被塗装品を塗装またはマスク塗装する際に用いた塗装用治具類に付着した塗料を剥離させて洗浄する洗浄方法であって、前記塗装治具類が、請求項1〜9のうちのいずれか一項に記載の剥離洗浄剤により形成された水不溶性無機化合物の付着層を有するものであることを特徴とする塗装用治具類の洗浄方法。

【公開番号】特開2006−206791(P2006−206791A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22624(P2005−22624)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】