説明

塗装用熱可塑性樹脂組成物及び、塗装を施した成形品

【課題】 塗装を施すことを目的として成形される成形品に対し、必要な塗膜の密着性を維持ししながら、塗装を施すことに起因する耐衝撃性の低下を抑制し、破壊強度を高めた塗装用熱可塑性樹脂組成物、および該塗装用熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品に塗装を施した成形品、さらには外装部品を提供する。
【解決手段】 (A)ポリアミド樹脂、(B)スチレン系樹脂および(C)オレフィン系樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物とすることによって、上記特性を有する塗装用熱可塑性樹脂組成物、成形品および外装部品を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装を施すことを目的とする成形品を得るための熱可塑性樹脂組成物、および該成形品を塗装してなる成形品、さらに外装部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、耐熱性、耐薬品性、耐候性、機械的特性、電気的特性等に優れる為、射出成形材料、繊維、フィルムとして多くの工業的用途に使用されている。樹脂の持つ比重の低さ、造形の自由度の高さ、製造の容易さなどから、車両用外装部品や家庭電化製品の意匠部品などに使用され、表面外観の重視される部品については、多くの場合、塗装が施される。そのため、ポリアミド樹脂組成物としては、塗装に耐え得る耐熱性と、塗装後の表面平滑性や塗膜の密着性などが要求される。
【0003】
このような要求に対して、一般には、耐熱性を向上させるために、種々の繊維状無機物や非繊維状無機物の添加による改質が試みられている。しかしながら、繊維状無機物を添加する場合、その配向により異方性が生じ、成形体に変形や捩れが発生したり、繊維状無機物が表面に現われることにより、表面性が損われるといった問題があった。また、非繊維状無機物を添加する場合では、耐熱性を確保する為には、多量の無機粒子の添加が必要となり、耐衝撃性が低下したり、成形品の鮮鋭性が損われる問題があった。一方、耐衝撃性や塗膜の密着性を向上させるために、他樹脂とのアロイ化が試みられてきたが、耐熱性が低下するなどの問題があった。
【0004】
このような課題に対して、焼付け塗装に必要な耐熱性と塗装後の表面外観、塗膜密着性および剛性、耐衝撃性を有するポリアミド樹脂組成物として、ポリアミド樹脂、非繊維状充填物および耐衝撃改良剤を特定量の割合に配合した樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1)。また、ウレタン塗装、メラミン塗装における塗装耐熱性と剛性を有した車両用外装部品を提供することを目的としたポリアミド樹脂として、ポリアミド樹脂または微分散した層状ケイ酸塩を含有するポリアミドと、特定のスチレン系樹脂およびタルクを組み合わせた樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献2)。
【0005】
しかしながら、一般に、塗装を施した成形品では、衝撃が加えられた時に成形品の裏表において成形品の厚み中心部に対し、伸びが生じる面に塗装が施された場合は、塗膜との密着性が良いほど、塗膜の割れと共に、成形品自体も塗膜の割れを起点として割れが発生する傾向が認められる。
【0006】
特許文献1または2での樹脂組成物では、成形品自体の耐衝撃性は向上するに関しては開示があるものの、塗装を施した成形品における耐衝撃性の向上についての開示はなく、塗装を施した成形品における耐衝撃性の向上が要求されている。
【特許文献1】特開2002−338886号公報
【特許文献2】特開2000−212431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、塗装を施すことを目的として成形される成形品に対し、必要な塗膜の密着性を維持ししながら、塗装を施すことに起因する耐衝撃性の低下を抑制し、破壊強度を高めた塗装用熱可塑性樹脂組成物、および該塗装用熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品に塗装を施した成形体および外装部品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成する為に鋭意検討した結果、ポリアミド樹脂、スチレン系樹脂およびオレフィン系樹脂からなる樹脂組成物とすることにより、得られた成形品が必要な塗膜の密着性を維持ししながら、塗装を施しても耐衝撃性の低下を抑制されることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1は、
(A)ポリアミド樹脂、(B)スチレン系樹脂および(C)オレフィン系樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物であって、該樹脂組成物から得られる成形品が下記の条件(a)および(b)を満たす塗装用熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
(a)成形品の塗膜密着性が、1mm×1mmの升100升による碁盤目試験において、塗膜の剥離数が10升以下である。
(b)塗装を施した成形品の破壊強度が、350J/m以上である。
【0010】
好ましい形態としては、スチレン系樹脂が不飽和カルボン酸変性ABSであることを特徴とする、上記に記載の塗装用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0011】
より好ましい形態としては、不飽和カルボン酸変性ABS樹脂が、芳香族ビニル化合物40〜80重量%、シアン化ビニル化合物15〜50重量%、不飽和カルボン酸化合物0.1〜20重量%および他の共重合可能なビニル系化合物0〜30重量%からなる不飽和カルボン酸含有共重合体(b−1)および、平均粒子径0.01〜5.0μmであるジエン系ゴム30〜95重量%の存在下にビニル系化合物70〜5重量%をグラフト重合して得られるジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−2)からなる不飽和カルボン酸変性ABS樹脂であることを特徴とする、塗装用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0012】
好ましい形態としては、オレフィン系樹脂が直鎖ポリエチレンであることを特徴とする、上記に記載の塗装用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0013】
好ましい形態としては、オレフィン系樹脂が酸化ポリエチレンワックスあることを特徴とする、上記に記載の塗装用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0014】
さらに好ましい実施形態としては、無機化合物を配合してなることを特徴とする、上記に記載の塗装用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0015】
本発明の第2は、
上記記載の塗装用熱可塑性樹脂組成物を成形して得られた成形品に塗装を施してなる成形品に関する。
【0016】
本発明の第3は、
上記塗装を施してなる成形品が射出成形をして得られることを特徴とする、成形品に関する。
好ましい実施形態としては、上記塗装を施してなる成形品が外装部品であることを特徴とする成形品に関する。さらに好ましい実施形態としては、外装部品が自動車用外装部品であることを特徴とする外装部品に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、塗装を施すことを目的として成形される成形品に対し、必要な塗膜の密着性を維持ししながら、塗装を施すことに起因する耐衝撃性の低下を抑制し、破壊強度を高めた塗装用熱可塑性樹脂組成物、および該塗装用熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品に塗装を施した成形品、さらには外装部品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明で用いられる(A)ポリアミド樹脂とは、主鎖中にアミド結合[−NHCO−]を含み、加熱溶融できる重合体である。ポリアミド樹脂の具体例としては、例えば、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMHT)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタル/イソフタルアミド(ナイロン6T/6I)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン11T(H))およびこれらの共重合ポリアミド、混合ポリアミドなどがあげられる。
【0019】
上記のポリアミド樹脂は、単独で使用してもよいし、組成あるいは成分の異なるものまたは相対粘度の異なるものを2種以上組み合わせて使用してもよい。
前記ポリアミド樹脂の中では、強度、弾性率、コスト等の点から、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、MXDナイロンが好ましい。 本発明においては、スチレン系樹脂を用いることにより、塗膜の密着性を高めると共に、塗装後の衝撃強度を高めることができる。
【0020】
本発明で用いられる(B)スチレン系樹脂としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限されるものではなく、例えば、ポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン(HIPS樹脂)、スチレン‐アクリロニトリル共重合体、スチレン‐ゴム質重合体‐アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂)、MBS樹脂などがあげられる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
さらに、本発明で用いられるスチレン系樹脂としては、上記のスチレン成分の一部、および/またはアクリロニトリルの一部または全部が、α‐メチルスチレン、p‐メチルスチレン、p‐t‐ブチルスチレン、(メタ)アクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n‐ブチルなどのエステル化合物、マレイミド、N‐メチルマレイミド、N‐シクロヘキシルマレイミド、N‐フェニルマレイミド等のマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等不飽和カルボン酸単量体、等のスチレンと共重合可能なビニル系単量体で置換されているものも含まれる。
これらのうちでは、好ましくは、コストの観点から、ABS樹脂、ポリスチレン、HIPS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂などが用いられ、特に好ましくは、ポリアミドに対する相溶性の観点から、スチレンの一部を不飽和カルボン酸単量体で置換したABS樹脂およびポリスチレンが用いられる。
【0021】
本発明で用いられるスチレン系樹脂の製造法に制限はなく、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、塊状‐懸濁重合法などの通常の方法を用いることができる。
【0022】
本発明で用いられる(B)スチレン系樹脂としては、得られる熱可塑性樹脂組成物の物性バランス、ポリアミドとの相溶性および経済的観点から、不飽和カルボン酸変性ABS樹脂が好ましい。
【0023】
本発明で用いられる不飽和カルボン酸変性ABS樹脂としては、例えば、芳香族ビニル化合物40〜80重量%、シアン化ビニル化合物15〜50重量%、不飽和カルボン酸化合物0.1〜20重量%および他の共重合可能なビニル系化合物0〜30重量%からなる不飽和カルボン酸含有共重合体(b−1)と、平均粒子径0.01〜5.0μmであるジエン系ゴム30〜95重量%の存在下にビニル系化合物70〜5重量%をグラフト重合して得られるジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−2)とからなる不飽和カルボン酸変性ABS樹脂が挙げられる。
【0024】
不飽和カルボン酸変性ABS樹脂に用いられる不飽和カルボン酸含有共重合体(b−1)中の芳香族ビニル化合物が80重量%を越えると、耐薬品性、耐衝撃性が低下する場合があり、40重量%未満では成形加工性が低下する場合がある。不飽和カルボン酸含有共重合体(b−1)中のシアン化ビニル化合物が50重量%を越えると、成形加工時の熱安定性が低下、あるいは加熱による着色が激しくなる場合があり、15重量%未満では耐薬品性、耐衝撃性が低下する場合がある。不飽和カルボン酸含有共重合体(b−1)中の不飽和カルボン酸化合物が20重量%を越えると、成形加工時の熱安定性が低下、あるいは加熱による着色が激しくなる場合があり、0.1重量%未満ではポリアミドとの相溶性が得られず、成形品表面に層状剥離等を生ずる場合がある。不飽和カルボン酸含有共重合体(b−1)中の他の共重合可能なビニル系化合物が30重量%を越えると、耐熱性と耐衝撃性とのバランスが不十分となる場合がある。
【0025】
不飽和カルボン酸含有共重合体(b−1)で使用される芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、メチルスチレンなどが例示される。これらのうちでは、特に耐熱性を向上させる観点から、α−メチルスチレンの使用が好ましい。不飽和カルボン酸含有共重合体(b−1)で使用されるシアン化ビニル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等が例示される。不飽和カルボン酸含有共重合体(b−1)で使用される不飽和カルボン酸化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸含有共重合体(b−1)で使用される他の共重合可能なビニル系化合物としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート等の不飽和カルボン酸アルキルエステル化合物、マレイミドやフェニルマレイミドのようなマレイミド系化合物等が例示される。上記芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、不飽和カルボン酸化合物およびその他共重合可能なビニル系化合物は、それぞれ、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせ使用してもよい。
【0026】
本発明で用いられる不飽和カルボン酸含有共重合体(b−1)は、例えば、次のようにして製造することができる。
すなわち、α−メチルスチレンを水、乳化剤と共に先に仕込み、十分に乳化状態にした後、アクリロニトリル、不飽和カルボン酸化合物および他の単量体を極少量ずつ連続的に滴下するが、重合系内での単量体組成としてはα−メチルスチレンを常に80重量%以上、好ましくは90重量%以上の大過剰量にしておくことにより、目的とする共重合体を得ることができる。この場合、不飽和カルボン酸化合物は、α−メチルスチレンと共に先に仕込んでもよいし、アクリロニトリルと混合して追加してもよいし、また、先仕込みと追加に分割して仕込むことも可能である。また、α−メチルスチレンの一部を追加することもできる。この場合、先に仕込むα−メチルスチレン量は、α−メチルスチレン仕込み全量のうち50重量%以上、90重量%以下が好ましい。該共重合体を製造する際、先に仕込むα−メチルスチレン量が90重量%を越えると、耐薬品性、耐衝撃性が低下する場合があり、50重量%未満では耐熱変形性が低下する場合がある。
【0027】
本発明で用いられるジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−2)としては、平均粒子径0.01〜5.0μmであるジエン系ゴム30〜95重量%の存在下に、共重合可能なビニル系化合物70〜5重量%をグラフト共重合させてなるグラフト共重合体が、好ましく用いられる。ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−2)中のジエン系ゴムが95重量%を越えると、耐衝撃性、耐油性が低下する場合があり、30重量%未満では耐衝撃性が低下する場合がある。ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−2)においてグラフト共重合可能なビニル系化合物としては、例えば、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、不飽和カルボン酸アルキルエステル化合物、不飽和カルボン酸化合物及びその他のビニル系化合物を用いることができる。芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、不飽和カルボン酸アルキルエステルおよび不飽和カルボン酸化合物は、不飽和カルボン酸含有共重合体で用いられるものと同じものが使用できる。他共重合可能なビニル系化合物としては、マレイミドやフェニルマレイミド等のマレイミド系化合物等が例示される。これらは、いずれも単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせ使用してもよい。
【0028】
本発明で用いられるジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−2)中のジエン系ゴムの平均粒子径は、0.01〜5.0μmが好ましく、0.02〜2.0μmがより好ましい。グラフト共重合体(b−1)中のジエン系ゴムの平均粒子径が0.01μm未満では、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が十分でない場合があり、5.0μmを越える場合には、熱可塑性樹脂組成物の成形体外観が劣る場合がある。
【0029】
本発明で用いられるジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−2)中のジエン系ゴムとしては、さらに衝撃強度を向上する目的で、小粒子ジエン系ゴムラテックスを凝集肥大化させたジエン系ゴムラテックスを使用することができる。小粒子ジエン系ゴムラテックスを凝集肥大化する方法としては、従来公知の方法、例えば酸性物質を添加する方法(特公昭42−3112号公報、特公昭55−19246号公報、特公平2−9601号公報、特開昭63−117005号公報、特開昭63−132903号公報、特開平7−157501号公報、特開平8−259777号公報、など)、酸基含有ラテックスを添加する方法(特開昭56−166201号公報、特開昭59−93701号公報、特開平1−126301号公報、特開平8−59704号公報、特開9−217005号公報、など)等を採用することができ、特に制限はない。
【0030】
本発明において、不飽和カルボン酸含有共重合体(b−1)およびジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−2)は、好ましくは乳化重合法によって得られるが、必ずしも乳化重合法に限定されない。例えば、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法およびそれらの組合せ、すなわち、乳化−懸濁重合法、乳化−塊状重合法が挙げられる。
乳化重合法としては、通常の方法が適用可能である。すなわち、前記化合物を水性媒体中、ラジカル開始剤の存在下に反応させればよい。その際、前記化合物を混合物として使用しても、また、必要に応じ、分割して使用してもよい。さらに、前記化合物の添加方法としては、一度に全量仕込んでもよく、逐次添加してもよく、特に制限されるものではない。ラジカル開始剤としては、例えば、過硫酸カリ、過硫酸アンモニウム、キュメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等の水溶性または油溶性の過酸化物を例示することができ、これらは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。その他、重合促進剤、重合度調節剤、乳化剤も、公知の乳化重合法で使用されているものを適宜選択して使用してもよい。
【0031】
得られたラテックスから乾燥樹脂を得る方法は、公知の方法でよい。その際、不飽和カルボン酸含有共重合体(b−1)およびグラフト共重合体(b−2)のラテックスを混合した後、乾燥樹脂を得てもよく、別々に樹脂を得て粉末状態で混合してもよい。ラテックスから樹脂を得る方法としては、例えば、ラテックスに塩酸、硫酸、酢酸等の酸、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウム等の金属塩を加え、ラテックスを凝固した後、脱水、乾燥する方法が用いられる。
【0032】
以上のようにして製造された不飽和カルボン酸含有共重合体(b−1)およびグラフト共重合体(b−2)の混合樹脂である不飽和カルボン酸変性ABS樹脂は、ABS樹脂の特性を保持しながら、なおかつポリアミド樹脂との高い相溶性を発現できるものである。
【0033】
本発明で用いられるポリアミド樹脂(A)とスチレン系樹脂(B)の構成割合は、特に制限されるものではないが、耐熱性と耐衝撃性などの特性バランスの観点から、重量比として、好ましくは95:5〜5:95であり、より好ましくは90:10〜30:70であり、さらに好ましくは85:15〜45:55である。
【0034】
本発明においては、(C)オレフィン系樹脂を用いることにより、塗装後の衝撃強度を高めることができる。
【0035】
本発明で用いられる(C)オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等があげられる。ポリエチレンの具体例としては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、酸化ポリエチレンワックス等があげられる。また、ポリエチレンやポリプロピレンは、ホモポリマーの他、コポリマーを用いることができる。
【0036】
これらのうちでは、ポリアミド樹脂およびスチレン系樹脂に添加した際の耐熱性、せん断剥離性などの特性バランスの観点から、直鎖ポリエチレン、酸化ポリエチレンワックスが好ましい。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるオレフィン系樹脂の配合量は、ポリアミド樹脂およびスチレン系樹脂の合計量を100重量部とした場合、好ましくは1〜10重量部であり、より好ましくは2〜8重量部である。オレフィン系樹脂の配合量が1重量部未満では、塗装後の衝撃改質効果が発現しない場合があり、10重量部を超えると、表層剥離を起こす場合がある。
【0038】
本発明においては、(A)ポリアミド樹脂、(B)スチレン系樹脂および(C)オレフィン系樹脂を上記比率にて配合することにより、塗装を施すことを目的として成形される成形品に対し、必要な塗膜密着性を維持ししながら、塗装を施すことに起因する耐衝撃性の低下を抑制し、破壊強度を高めた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0039】
本発明における成形品の塗膜密着性とは、樹脂成形品素地と塗膜の付着性を意図し、その評価方法は特に限定するものではないが、評価方法の具体例としては、例えば、碁盤目試験、描画試験、落錘型衝撃試験、アドヘロメーター、超遠心法、引張試験、せん断試験、超音波剥離試験、等があげられるが、利便性の観点から、碁盤目試験が好ましい。
【0040】
本発明における塗膜密着性は、本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品にメラミン塗装を実施して得られた塗膜面に対する碁盤目試験を行うことにより評価した。すなわち、メラミン塗装後の成形品(平板)を23℃×50%RHも条件で72時間放置した後、塗膜面に対してカッターナイフを用いて1mm間隔で縦横に切り込みを入れ、100個の升目を作り、セロファン粘着テープを貼付けた後、セロファン粘着テープを剥がした際の塗膜の剥離状態を観察した。
【0041】
本発明における熱可塑性樹脂から得られた成形品の塗膜密着性としては、碁盤目試験において、剥離数が10升以下であることが好ましく、5升以下であることがより好ましく、剥離が全くないことが特に好ましい。碁盤目試験における剥離数が10升を超えると、塗装の密着性が不安定であり、通常の塗装面において剥離を起こす場合がある。
【0042】
本発明における成形品の耐衝撃性とは、衝撃に対する抵抗強さ、もろさ、ねばり強さを意図し、その評価方法は特に限定するものではないが、評価方法の具体例としては、例えば、アイゾット試験、シャルピー試験、落錘型面衝撃試験、高速面衝撃試験などがあるが、利便性の観点から、アイゾット試験が好ましい。アイゾット試験のうちでも、塗装を施した成形品に対する耐衝撃性の評価の観点から、塗装面を打撃することにより塗膜が引張モードとなる、フラットワイズ方法によるアイゾット試験方法がさらに好ましい。
【0043】
本発明における塗装を施した成形品の耐衝撃性は、フラットワイズ方法によるアイゾット試験での破壊強度として評価した。すなわち、アイゾット試験方法において、塗装を施した面を打撃面とするようにフラットワイズ形式により塗装を施した成形品をセットし、破壊強度を測定した。
【0044】
前述したように、一般に、塗装を施した成形品では、塗膜との密着性が良いほど、塗膜面側から衝撃が加えられた場合、塗膜の割れと共に、成形品自体も塗膜の割れを起点として割れが発生する傾向が認められる。これに対して、本発明のように、(A)ポリアミド樹脂、(B)スチレン系樹脂および(C)オレフィン系樹脂を上記比率にて配合することにより、塗装を施した成形品の耐衝撃性を改善することができる。
【0045】
本発明における塗装を施した成形品の破壊強度としては、250J/m以上が好ましく、350J/m以上がより好ましく、1000J/m以上がさらに好ましい。塗装を施した成形品の破壊強度が250J/m未満では、衝撃強度が低く実使用上課題が生じる場合がある。
【0046】
本発明においては、熱化成樹脂組成物にさらに無機化合物を配合することにより、
剛性(曲げ弾性率)、耐熱性などを高めることができる。
【0047】
本発明で用いられる無機化合物は特に限定されないが、例えば、膨潤性雲母、非膨潤性雲母、スメクタイト、タルク、カオリン等のケイ酸塩、リン酸ジルコニウム等のリン酸塩、チタン酸カリウム等のチタン酸塩、タングステン酸ナトリウム等のタングステン酸塩、ウラン酸ナトリウム等のウラン酸塩、バナジン酸カリウム等のバナジン酸塩、モリブデン酸マグネシウム等のモリブデン酸塩、ニオブ酸カリウム等のニオブ酸塩、黒鉛層状化合物、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、酸化ケイ素や酸化チタン、アルミナ等の酸化物、炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩化合物、硫酸カルシウムや硫酸バリウム等の硫酸塩化合物の他、硫化亜鉛、リン酸カルシウムがあげられるが、これらに限定されない。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0048】
本発明で用いられる無機化合物の好ましい構造は、表面平滑性が損なわずに、耐熱性、剛性を高める観点から、アスペクト比が大きく、また、樹脂中に均一に微分散するものである。上記の観点から、膨潤性雲母、非膨潤性雲母、タルク、カオリン、スメクタイトなどの層状ケイ酸塩が好ましく用いられる。
【0049】
上記無機化合物は、樹脂中に均一に微分散させるために、表面処理することができる。表面処理の方法としては特に限定されないが、シラン系化合物、チタン系化合物、アルミナ系化合物、ポリエーテル系化合物、アミン系化合物などが用いられ得る。入手の容易さ、取り扱い性、ポリアミド樹脂への熱劣化の影響の観点から、シラン系化合物またはポリエーテル系化合物が好ましい。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中に薄板状に分散した表面処理を施した無機化合物の分散性の指標として、最大層厚を、本発明の熱可塑性樹脂組成物中に薄板状に分散した表面処理を施した無機化合物の層厚みの最大値であると定義すれば、最大層厚の上限値は、好ましくは0.2μm以下であり、より好ましくは0.18μm以下であり、さらに好ましくは0.15μm以下である。最大層厚が0.2μmより大きいと、本発明の熱可塑性樹脂組成物の機械的特性、表面外観のバランスが損なわれる場合がある。最大層厚の下限値は特に限定されないが、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.015μm以上であり、更に好ましくは0.002μm以上である。
表面処理を施した無機化合物の添加量は、ポリアミド樹脂およびスチレン系樹脂の合計量を100重量部とした場合、好ましくは4〜30重量部であり、より好ましくは6.5〜25重量部である。表面処理を施した無機化合物の添加量が4重量部未満では、剛性、耐熱性の改善が充分ではない傾向があり、30重量部より多くなると、衝撃性が低下する傾向がある。
【0051】
本発明で用いられる無機化合物は、必要に応じて、表面性を害しない範囲で、上記表面処理を施した無機化合物の他に、タルク、カオリン等の表面処理を施していない無機化合物を併用することができる。
【0052】
タルク、カオリンなどの表面処理を施していない無機化合物の好ましい粒子径は、レーダー解析法にて求めた平均粒子径として、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。
【0053】
タルク、カオリンなどの表面処理を施していない無機化合物の添加量は、表面処理を施した無機化合物100重量部に対して、好ましくは10〜100重量部であり、より好ましくは20〜80重量部であり、さらに好ましくは30〜70重量部である。タルク、カオリンなどの表面処理を施していない無機化合物の粒子径が大きいと表面性が悪くなり、ポリエーテルを用いて処理した膨潤性雲母に対するタルク、カオリンなどの表面処理を施していない無機化合物の添加量が多くなると、耐熱性や剛性が低下する。
【0054】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、ポリブタジエン、アクリルゴム、アイオノマー、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、天然ゴム、塩素化ブチルゴム、α−オレフィンの単独重合体、2種以上のα−オレフィンの共重合体(ランダム、ブロック、グラフトなど、いずれの共重合体も含み、これらの混合物であっても良い)、またはオレフィン系エラストマーなどの耐衝撃性改良剤を添加することができる。これらは、無水マレイン酸等の酸化合物、またはグリシジルメタクリレート等のエポキシ化合物で変性されていても良い。
【0055】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、機械的特性などの特性を損なわない範囲で、他の任意の熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリサルフォン樹脂、及びポリアリレート樹脂等を、単独または2種以上組み合わせて使用し得る。
【0056】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、更に、目的に応じて、顔料や染料、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤などの添加剤を添加することができる。
【0057】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形することにより、成形品が得られる。成形方法としては、従来より用いられる成形方法、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、射出圧縮成形、プレス成形などを用いることができる。生産性の観点から射出成形、射出圧縮成形が好ましい。
【0058】
本発明における成形品に対する塗装方法としては、特に限定するものではなく、吹き付け塗装、静電塗装など公知の塗装方法を用いることができる。塗料としてはラッカー系塗料、ウレタン系塗料、アクリル系塗料、メラミン系塗料などを用いられ、自動車外装樹脂部品に一般的に使用される塗料、例えば、アクリルメラミン塗料、アルキドウレタン塗料またはアクリルウレタン塗料を主成分とした塗料を用いることができる。
【0059】
本発明の塗装用熱可塑性樹脂組成物は、上述したように、塗装を施すことを目的として成形される成形品に対し、必要な塗膜の密着性を維持ししながら、塗装を施すことに起因する耐衝撃性の低下を抑制し、破壊強度を高めた熱可塑性樹脂組成物である。そのため、該塗装用熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品に塗装を施した成形品、さらには、外装部品は、上記特性を有しているため、各種化粧板はもとより、自動車や二輪車などの外装部品に好適に使用できる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって、何ら限定されるものではない。なお、特に言明しない限り、「部」は「重量部」を示し、「%」は「重量%」を示す。
【0061】
ポリアミド樹脂Aとしては、ユニチカ株式会社製6ナイロン(ユニチカナイロン6 A1020BRL)を使用した。
【0062】
スチレン系樹脂Bとしては、参考例1に記載の方法で得られた樹脂を使用した。
【0063】
オレフィン系樹脂としては、(C−1)酸化ポリエチレンワックス(ヤスハラケミカル株式会社製、ネオワックスLA05)、または、(C−2)直鎖ポリエチレン(出光石油化学株式会社製、モアテック0168N)を使用した。
【0064】
無機化合物としては、参考例2に記載の方法で得られたポリエーテル化合物で処理された膨潤性雲母またはタルク(日本タルク株式会社製、SG−200)を使用した。
【0065】
(参考例1)
攪拌機及び還流冷却器の設置された反応缶に、窒素気流下で、水250部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部、硫酸第一鉄0.0025部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.01部およびジオクチルスルホコハク酸ナトリウム2.0部を仕込んだ。
反応缶の内温を60℃に加熱攪拌後、表1に示す割合の単量体混合物を、開始剤であるキュメンハイドロパーオキサイド、重合度調節剤であるt−ドデシルメルカプタンと共に、6時間かけて連続的に滴下添加した。滴下終了後、更に60℃で1時間攪拌を続け、重合を終了させ、不飽和カルボン酸含有共重合体(b−1)のラテックス(固形分濃度:27重量%)を得た。
【0066】
【表1】

【0067】
(表中の略号は、α−MeSt:α−メチルスチレン、AN :アクリロニトリル、MAA :メタクリル酸、CHP :キュメンハイドロパーオキサイド、t−DM :t−ドデシルメルカプタンを示す。)
【0068】
次に、攪拌機及び還流冷却器の設置された耐圧容器に、窒素気流下で、水250部、過硫酸カリウム0.5部、ブタジエン100部、t−ドデシルメルカプタン0.3部、不均化ロジン酸ナトリウム3.0部を仕込んだ。重合温度60℃で重合し、ブタジエンの重合率が80%になった時点で重合を停止して未反応ブタジエンを除去し、ゴム状重合体であるポリブタジエンのラテックス(X)(固形分濃度:23重量%)を得た。この時、マイクロトラック法(日機装(株)製、マイクロトラック UPA)を用いて測定したポリブタジエンゴムの平均粒子径は0.30μmであった。
さらに、攪拌機及び還流冷却器の設置された反応缶に、窒素気流下で、水250部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホンキシレート0.4部、硫酸第一鉄0.0025部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.01部および上記で得られたポリブタジエンラテックス(X)70部を仕込んだ。反応缶の内温を60℃に加熱攪拌後、表2に示す割合の単量体混合物を、開始剤であるキュメンハイドロパーオキサイド、重合度調節剤であるt−ドデシルメルカプタンと共に5時間かけて連続的に滴下添加した。滴下終了後、更に60℃で1時間攪拌を続け、重合を終了させ、ジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−2)のラテックス(固形分濃度:25重量%)を得た。
【0069】
【表2】

【0070】
(表中の略号は、St :スチレン MMA:メチルメタクリレートを示す。)
上記で得られた不飽和カルボン酸含有共重合体(b−1)ラテックス64重量部およびグラフト共重合体(b−2)ラテックス36重量部を、均一に混合し、フェノール系抗酸化剤(旭電化工業(株)製、AO−50)0.5部を加え、塩化マグネシウム水溶液で凝固させた後、水洗、脱水、乾燥して、不飽和カルボン酸変性ABS樹脂(以降、「(B)スチレン系樹脂」と呼称する場合がある)を得た。
【0071】
(参考例2)
攪拌機の設置された反応缶中にて、イオン交換水100重量部、膨潤性雲母(E)(コープケミカル株式会社製、ソマシフME100)8重量部およびポリエーテル化合物(G)(東邦化学株式会社製、ビスオール)1.2重量部を、15〜30分間撹拌混合した。その後、乾燥・粉体化して、ポリエーテル化合物で処理された膨潤性雲母(以降、「(J)処理粘土」と呼称する)を得た。
【0072】
実施例および比較例にて実施した評価方法は、以下のとおりである。
【0073】
[灰分率]
JIS K 7052に準じ、膨潤性雲母に由来する熱可塑性樹脂組成物の灰分率を測定した。
【0074】
[剛性と耐熱性の評価:曲げ特性および荷重たわみ温度]
実施例および比較例にて得られた熱可塑性樹脂組成物を、110℃にて4時間乾燥した。乾燥後の熱可塑性樹脂組成物を、型締力150tonの射出成形機を用い、金型温度60℃、ノズル先端温度280℃の条件にて、幅約10mm×長さ約100mm×厚み約6mmの試験片を射出成形により得た。
剛性の評価としての曲げ特性については、ASTM D−790に従い、得られた試験片の曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。
耐熱性の評価としての荷重たわみ温度は、ASTM D−648に従い、得られた試験片に0.45MPaの荷重たわみ温度を測定した。
【0075】
[流動性の評価:B法フロー]
実施例および比較例にて得られた熱可塑性樹脂組成物を、110℃にて4時間乾燥した。乾燥後の熱可塑性樹脂組成物を、フローテスター(島津製作所(株)製、CFT−500C)を用い、温度280℃および荷重100kgの条件にて、加熱5分後のB法フロー値を測定した。
【0076】
[耐衝撃性の評価:塗装を施した成形品の衝撃強度]
実施例および比較例にて得られた熱可塑性樹脂組成物を、110℃にて4時間乾燥した。乾燥後の熱可塑性樹脂組成物を、型締め力150tの射出成形機を用い、金型温度60℃およびノズル先端温度280℃の条件にて、120mm角×厚み3mmの平板を射出成形により得た。
得られた平板成形品に、下記方法にてメラミン塗装を施した約120mm×120mm×厚み3mmの平板を、切削して、120×10×3mmの試験片を製作した。
衝撃強度は、Izod試験方法において、塗装を施した面を打撃面とするようにフラットワイズ形式により試験片をセットして、破壊強度を測定した。また、未塗装の成形品に関しても、フラットワイズ形式のIzod試験法により、破壊強度を測定した。
【0077】
[メラミン塗装方法]
得られた平板成形体に対して、プライマー(ポリアミド対応一液タイプ、日本ビーケミカル社製)、ベース(アクリルメラミン塗料(白)、日本ビーケミカル社製)、クリアー(日本ビーケミカル製、クリアー)の順に、ウェット・オン・ウェットにて、エアースプレーガンを用いて吹き付け塗装を行なった(焼き付け後の塗布厚みは、それぞれ5〜15μm、7〜11μm、30〜35μm)後、棚型熱風乾燥機を用い、140℃の温度環境下にて20分間放置し、焼付け乾燥を実施した。
【0078】
[塗装平滑性の評価:目視]
塗装を施した平板成形品(120mm×120mm×3mm)の表面を目視観察にて、塗装平滑性を評価した。その評価基準は、表面に凹凸が目立つものを×、問題のないものを○とした。
【0079】
[塗膜密着性の評価:碁盤目試験]
塗装表面性の評価に用いた塗装後の平板を、23℃×50%RHの条件にて72時間放置した後、下記に示す碁盤目試験を行い、剥離しないものを○、剥離が見られるものを×とした。
碁盤目試験は、平板の塗装面上にカッターナイフ(刃の厚み:0.1mm)を用いて、1mm間隔で縦横に切り込みを入れ、100個の升目を作り、セロファン粘着テープを貼付けた後、セロファン粘着テープを剥がした際の塗膜の剥離状態を観察した。
【0080】
(実施例1)
(A)ポリアミド60重量部、参考例1で得られた(B)スチレン系樹脂40重量部、参考例2で得られた(J)処理粘土11.8重量部および(C−1)オレフィン系樹脂2重量部を、二軸押出機(日本製鋼(株)製、TEX44)を用いて、混練初期からダイスまでの温度を220〜250℃に設定し、溶融混練することにより熱可塑性樹脂組成物を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、各種評価を行い、その結果を表3に示す。
【0081】
(実施例2)
樹脂組成を、(A)ポリアミド60重量部、参考例1で得られた(B)スチレン系樹脂40重量部、参考例1で得られた(J)処理粘土11.8重量部および(C−2)オレフィン系樹脂2重量部とした以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、各種評価を行い、その結果を表3に示す。
【0082】
(比較例1)
樹脂組成を、(A)ポリアミドを60重量部、参考例1で得られた(B)スチレン系樹脂40重量部および参考例2で得られた(J)処理粘土11.8重量部とした以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、各種評価を行い、その結果を表3に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
(実施例3)
樹脂組成を、(A)ポリアミド60重量部、参考例1で得られた(B)スチレン系樹脂40重量部、参考例2で得られた(J)処理粘土9.3重量部、タルク4.6重量部、(C−1)オレフィン系樹脂2重量部とした以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、各種評価を行い、その結果を表4に示す。
【0085】
(実施例4)
樹脂組成を、(A)ポリアミド60重量部、参考例1で得られた(B)スチレン系樹脂40重量部、参考例2で得られた(J)処理粘土9.3重量部、タルク4.6重量部、(C−1)オレフィン系樹脂4重量部とした以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、各種評価を行い、その結果を表4に示す。
【0086】
(実施例5)
樹脂組成を、(A)ポリアミド60重量部、参考例1で得られた(B)スチレン系樹脂40重量部、参考例2で得られた(J)処理粘土9.3重量部、タルク4.6重量部、(C−2)オレフィン系樹脂2重量部とした以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、各種評価を行い、その結果を表4に示す。
【0087】
(実施例5)
樹脂組成を、(A)ポリアミド60重量部、参考例1で得られた(B)スチレン系樹脂40重量部、参考例2で得られた(J)処理粘土9.3重量部、タルク4.6重量部および(C−2)オレフィン系樹脂4重量部とした以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、各種評価を行い、その結果を表4に示す。
【0088】
(比較例2)
樹脂組成を、(A)ポリアミド60重量部、参考例1で得られた(B)スチレン系樹脂40重量部、参考例2で得られた(J)処理粘土9.3重量部およびタルク4.6重量部とした以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、各種評価を行い、その結果を表4に示す。
【0089】
(比較例3)
樹脂組成を、(A)ポリアミド60重量部、参考例1で得られた(B)スチレン系樹脂40重量部、タルク18重量部とした以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、各種評価を行い、その結果を表4に示す。
【0090】
(比較例4)
樹脂組成を、(A)ポリアミド60重量部、参考例1で得られた(B)スチレン系樹脂40重量部、参考例2で得られた(J)処理粘土5.5重量部およびタルク8.1重量部とした以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて、各種評価を行い、その結果を表4に示す。
【0091】
【表4】

【0092】
以上の結果より、(A)ポリアミド樹脂、(B)スチレン系樹脂および(C)オレフィン系樹脂からなる塗装用熱可塑性樹脂組成物であって、スチレン系樹脂が、好ましくは、不飽和カルボン酸変性ABS樹脂であり、オレフィン系樹脂が、好ましくは、酸化ポリエチレンワックスまたは直鎖ポリエチレンである塗装用熱可塑性樹脂組成物成形して得られた成形品は、塗装を施した場合、塗膜の密着性は良好(碁盤目試験における剥離がなく)で、衝撃強度が従来に比べ高まる(衝撃強度が350J/m以上)ことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の塗装用熱可塑性樹脂組成物は、塗装を施すことを目的として成形される成形品に対し、必要な塗膜の密着性を維持ししながら、塗装を施すことに起因する耐衝撃性の低下を抑制し、破壊強度を高めた熱可塑性樹脂組成物である。そのため、該塗装用熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品に塗装を施した外装部品は、上記特性を有しているため、各種化粧板はもとより、自動車や二輪車などの外装部品に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド樹脂、(B)スチレン系樹脂および(C)オレフィン系樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物であって、該樹脂組成物から得られる成形品が下記の条件(a)および(b)を満たす塗装用熱可塑性樹脂組成物。
(a)成形品の塗膜密着性が、1mm×1mmの升100升による碁盤目試験において、塗膜の剥離数が10升以下である。
(b)塗装を施した成形品の破壊強度が、350J/m以上である。
【請求項2】
スチレン系樹脂が不飽和カルボン酸変性ABS樹脂である、請求項1記載の塗装用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
不飽和カルボン酸変性ABS樹脂が、芳香族ビニル化合物40〜80重量%、シアン化ビニル化合物15〜50重量%、不飽和カルボン酸化合物0.1〜20重量%および他の共重合可能なビニル系化合物0〜30重量%からなる不飽和カルボン酸含有共重合体(b−1)および、平均粒子径0.01〜5.0μmであるジエン系ゴム30〜95重量%の存在下にビニル系化合物70〜5重量%をグラフト重合して得られるジエン系ゴム含有グラフト共重合体(b−2)からなる不飽和カルボン酸変性ABS樹脂である、請求項1または2に記載の塗装用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
オレフィン系樹脂が直鎖ポリエチレンである、請求項1〜3のいずれかに記載の塗装用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
オレフィン系樹脂が酸化ポリエチレンワックスある、請求項1〜3のいずれかに記載の塗装用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、無機化合物を配合してなる、請求項1〜5のいずれかに記載の塗装用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の塗装用熱可塑性樹脂組成物を、成形して得られた成形品に塗装を施してなる、成形品。
【請求項8】
成形品が射出成形により得られる、請求項7のいずれかに記載の成形品。
【請求項9】
請求項7または8に記載の塗装されてなる成形品からなる、外装部品。
【請求項10】
外装部品が自動車外装部品である、請求項9に記載の外装部品。

【公開番号】特開2007−327011(P2007−327011A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161478(P2006−161478)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】