説明

塗装装置用エジェクタおよび塗装装置

【課題】エジェクタ内部における塗料の付着、堆積を低減することが可能な塗装装置用エジェクタを提供する。
【解決手段】エジェクタ1は、吸引室10と、吸引室10内に第1流体としてのエアを噴射し負圧を発生させるノズル11と、カートリッジ方式の塗装装置5から吸引した第2流体としてのエアを吸引室10内に導く吸引流路12と、吸引室10内に流入した第1流体および第2流体を排気するディフューザ13とを有する。吸引流路12は、第1吸引流路121と第2吸引流路122とを有する。吸引室10の壁面には、第1吸引流路121に連通する第1吸引出口129a、第2吸引流路122に連通する第2吸引出口129b対向して配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装装置用エジェクタおよび塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のボディ等の被塗装物を色替えしつつ塗装する場合に、カートリッジ方式の塗装装置が使用されている。塗装装置は、通常、塗装ロボットのアーム先端に塗装機を有している。塗装機は、塗装機本体と、塗料タンクおよび塗料ノズルを有するカートリッジと、塗料を噴霧するためのベルカップなどを備えたヘッド部とを有している。カートリッジ方式の塗装装置では、カートリッジやヘッド部を塗装機本体に固定するため、エアホース等の吸引経路を介してエジェクタによる吸引が行われることがある。
【0003】
図7に、従来の塗装装置に広く使用されてきたエジェクタを示す。図7に示すように、エジェクタ9において、ノズル91からディフューザ93の入口部931に向けて一次エア(矢印A)を噴射すると、吸引室90内に負圧が発生する。発生した負圧により、吸引流路92に連通されたエアホース(不図示)内のエア(矢印B)が吸引室90内に吸引される。これにより、カートリッジは、塗装機本体に吸引固定される。一方、吸引されたエアは、一次エアと混合されてディフューザ93を通じて外部に排気される(矢印C)。
【0004】
この種のエジェクタとしては、例えば、特許文献1に、エジェクタ本体の混合部の吸引部側に、円環形状に複数個のノズル本体を設置してなる冷凍サイクル用のエジェクタが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、吸引室やディフューザの内壁面に付着する付着物を除去するため、ディフューザの流路の入口部をテーパー状に形成するとともに、ディフューザ内壁に、液体による濡れ壁を形成する濡れ壁形成手段を設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−148733号公報
【特許文献2】特許第3908447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来、塗装装置に広く用いられてきたエジェクタは、以下の点で問題がある。従来の塗装装置において色替えを行う場合、先ずエジェクタによる吸引を停止する。その後、カートリッジの塗料ノズル先端を溶剤で洗浄し、カートリッジを取り外す。このカートリッジ交換時に、カートリッジから塗装機本体内に、洗浄に使用した溶剤や新品の溶剤がたれ落ちることがある。洗浄に使用した溶剤には塗料が含まれている。また、塗装機本体上にたれ落ちた溶剤に、塗装ブース内の塗料ダストが溶け込むこともある。さらに、塗装機本体にカートリッジを装着する際に、塗装ブース内の塗装ダストが塗装機本体内に封入されることもある。
【0008】
このような状態で新たなカートリッジを吸引固定すると、エジェクタ内部に塗料が吸引されてしまう。図8に示すように、吸引された塗料94は、エジェクタ9の吸引室90の壁面に付着・堆積する。とりわけ、吸引出口95反対側の壁面は、直接塗料94がぶつかるので塗料94の付着・堆積が著しい。また、過度に堆積した塗料94は、壁面から剥離し、ディフューザ93の入口部931付近に詰まることもある。このようにエジェクタ内に堆積した塗料に起因して、吸引圧が低下し、カートリッジの固定力が低下してしまう。カートリッジの固定力が低下すると、塗装時にカートリッジが脱落するなどの支障が生じるおそれがある。それ故、エジェクタのメンテナンス頻度を上げるなどして対応する必要がある。
【0009】
この種の問題は、カートリッジ側ばかりでなく、ヘッド部側でも起こりうる。例えば、塗装ブース内で待機していた交換用のヘッド部上に塗装ブース内の塗装ダストが付着し、ヘッド部装着時に、塗装ダストが塗装機本体内に封入されることがある。この場合も、エジェクタによるヘッド部の吸引固定を行うと、エジェクタ内部に塗料が吸引され、上記と同様の問題が生じることになる。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、エジェクタ内部における塗料の付着、堆積を低減することが可能な塗装装置用エジェクタを提供することにある。また、メンテナンス頻度や吸引異常発生頻度を低減することが可能な塗装装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、吸引室と、該吸引室内に第1流体を噴射し負圧を発生させるノズルと、カートリッジ方式の塗装装置から吸引した第2流体を上記吸引室内に導く吸引流路と、上記吸引室内に流入した上記第1流体および上記第2流体を排気するディフューザとを有し、上記吸引室の壁面には、上記吸引流路に連通する吸引出口が複数形成されていることを特徴とする塗装装置用エジェクタにある(請求項1)。
【発明の効果】
【0012】
本発明の塗装装置用エジェクタは、上記のように、カートリッジ方式の塗装装置から吸引した第2流体を吸引室内に導く吸引流路を有しており、吸引室の壁面には、吸引流路に連通する吸引出口が複数形成されている。そのため、各吸引出口から吸引室内に吸引された各第2流体同士が吸引室内で衝突する。それ故、吸引した第2流体中に塗料が含まれていても、吸引室の壁面に塗料が直接ぶつかることがなくなり、塗料の壁面への付着、堆積を低減することができる。また、塗料の壁面への付着、堆積が低減されるため、エジェクタのメンテナンス頻度や異常発生頻度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1における、塗装装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】実施例1における、エジェクタの縦断面の形状を示す説明図である。
【図3】実施例1における、エジェクタのA−A断面の形状を示す説明図である。
【図4】実施例2における、エジェクタのA−A断面の形状を示す説明図である。
【図5】実施例3における、エジェクタの縦断面の形状を示す説明図である。
【図6】実施例4における、エジェクタのA−A断面の形状を示す説明図である。
【図7】従来のエジェクタの縦断面の形状を示す説明図である。
【図8】従来のエジェクタにおいて、吸引室内に塗料が付着、堆積した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の塗装装置用エジェクタ(以下、「エジェクタ」と略称する。)において、上記第2流体を吸引室内に導く吸引流路は、主にエジェクタ本体の内部に設けられていてもよいし、主にエジェクタ本体の外部に設けられていてもよい。流路配設スペース、負圧回路バラツキ、流路径、エジェクタの製造性、コストなどを考慮して選択することができる。なお、第1流体、第2流体としては、例えば、空気(エア)等の気体を好適に用いることができる。
【0015】
また、本発明において、吸引出口は、偶数個形成されていてもよいし、奇数個(3個以上)形成されていてもよい。好ましくは、吸引出口は、偶数個形成されているとよい。この場合、複数の吸引出口を余りなく対向配置させることができ、吸引室内に吸引された第2流体同士を効率よく衝突させることが可能となる。そのため、塗料の壁面への付着、堆積を低減しやすくなって、吸引機能の安定性向上に寄与することができる。なお、吸引出口を奇数個とする場合には、エジェクタの軸方向から見たときに、例えば、等間隔に配置することが可能である。
【0016】
また、各吸引出口の口径は、全て同じであってもよいし、異なっていてもよい。各吸引出口から吸引室内に吸引される各第2流体の流量や流速がほぼ同じになるように、吸引出口の配置などを考慮しつつ適宜調節することができる。なお、複数の吸引出口、吸引流路は、いずれもほぼ同一平面上に配置されているとよい。エジェクタの構成を比較的簡易にすることができ、製造性が向上するからである。
【0017】
また、本発明のエジェクタは、複数の吸引出口のうちに、互いに対向して配置されている吸引出口が存在していることが好ましい(請求項2)。この場合には、吸引室内に吸引される各第2流体のなかに、対角方向から吸引される第2流体が含まれることになる。そのため、吸引された第2流体同士が吸引室内で正面から衝突しやすくなる。それ故、塗料の壁面への付着、堆積を低減しやすくなる。ここでは、複数の吸引出口のうち、全ての吸引出口が互いに対となって対向配置されていてもよいし、一部の吸引出口が互いに対となって対向配置されていてもよい。好ましくは、前者である。この場合には、吸引された第2流体同士が吸引室内でバランスよく正面から衝突しやすくなり、塗料の壁面への付着、堆積を低減しやすくなるからである。
【0018】
また、本発明のエジェクタは、第2流体をエジェクタ内部に取り込む吸引入口を1箇所有し、吸引流路は、エジェクタ本体の内部にて複数に分岐しており、その上流側端部が吸引入口に連通するとともに下流側端部が複数の吸引出口にそれぞれ連通していることが好ましい(請求項3)。上記の通り、吸引入口が1箇所である場合には、この吸引入口に接続する塗装装置側の吸引経路を分岐させる必要がなくなる。そのため、塗装装置側の吸引経路に負圧バラツキが発生し難くなり、均一な吸引を行いやすくなる。それ故、吸引室の壁面への塗料の付着、堆積を低減しやすくなる。
【0019】
また、吸引流路は、吸引入口の中心を通るエジェクタの縦断面を挟んで対称に分岐形成されているとよい。吸引室への均一な吸引に寄与しやすくなるからである。
【0020】
この際、吸引流路が2つ、吸引出口が2つであり、2つの吸引出口が互いに対向して配置されている場合には(請求項4)、比較的簡易な構成により、対角2方向から吸引させた第2流体同士を吸引室内で衝突させて、塗料の壁面への付着、堆積を低減することができる。より好ましくは、吸引流路は、吸引入口の中心を通るエジェクタの縦断面を挟んで対称となるように2つに分岐形成されているとよい。
【0021】
また、本発明の塗装装置は、上述したエジェクタを用いて、少なくともカートリッジの吸引固定を行う(請求項5)。そのため、カートリッジ交換に起因して吸引経路内に塗料が吸引され、最終的にエジェクタの吸引室まで塗料が吸引されても、吸引室の壁面に塗料が付着・堆積し難いので、安定的に吸引機能を維持することができる。それ故、カートリッジの固定力を従来より長期間維持することが可能となる。また、エジェクタのメンテナンス頻度も低減させることができるので、塗装ラインの保全メンテナンス工数を削減できる。また、吸引異常発生の頻度も低減させることができるので、異常時のライン停止に伴う損失も削減することができる。このように本発明の塗装装置によれば、塗装製品の生産性を向上させることができる。
【0022】
なお、本発明の塗装装置は、エジェクタ内に塗料が吸引されやすいカートリッジの吸引に本発明のエジェクタを用いるが、それ以外にも、本発明のエジェクタを用いて、ヘッド部の吸引固定を行うようにしてもよい。この場合にも、ヘッド部交換に起因して吸引経路内に塗料が吸引され、最終的にエジェクタの吸引室まで塗料が吸引されても、吸引室の壁面に塗料が付着・堆積し難いので、安定的に吸引機能を維持することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。なお、各実施例において同一名称の部材については同一の符号を付した。
(実施例1)
本発明の実施例に係るエジェクタ1、塗装装置5について、図1〜3を用いて説明する。
本例の塗装装置5は、本例のエジェクタ1を用いて、少なくともカートリッジ512の吸引固定を行うものである。塗装装置5は、塗装機51と、塗装ロボット52と、エジェクタ1とを少なくとも有する。塗装機51は、被塗装物に塗料を噴霧する。塗装ロボット52は、被塗装物に対する塗装動作や塗装色を変更するための動作などを行う。塗装ロボット52の内部には、吸引経路としてのエアホース521が設けられている(図1では可視化して記載)。エアホース521の上流側端部は、塗装機本体511の内部に通じている。エアホース521の下流側端部は、エジェクタ1(図1では簡略化して記載)に接続されている。エジェクタ1は、オン、オフ動作によりエアホース521内のエアの吸引および吸引停止ができるように構成されている。
【0024】
塗装ロボット52は、概略、基台522と、第1アーム523と、第2アーム524と、手首525とを有する。第1アーム523は、基台522上に回転可能かつ揺動可能に設けられている。第2アーム524は、第1アーム523の先端に揺動可能に設けられている。手首525は、第2アーム524の先端に設けられており、ここに塗装機51が装着される。第1アーム523のアーム中央付近には、吐出制御装置526が設けられている。吐出制御装置526は、塗装機51の塗料を定量吐出させるための制御を行う。
【0025】
塗装機51は、塗装機本体511と、一つのカートリッジ512と、一つのヘッド部513とを有する。カートリッジ512は、塗装機本体511の上部に取り付けられ、ヘッド部513は、塗装機本体511の下部に取り付けられる。塗装機本体511の内部には、エアホース521の上流側端部が配設されている。エジェクタ1による吸引を行うと、カートリッジ512と塗装機本体511との間に形成された閉空間内(不図示)のエアがエアホース521を介して吸引され、塗装機本体511にカートリッジ512が吸引固定される。つまり、この閉空間に封入された塗料は、エアホース521を通じてエジェクタ1に吸引されることになる。一方、エジェクタ1による吸引を停止すると、カートリッジ512の吸引固定が解除され、塗装機本体511からカートリッジ512を取り外すことが可能となる。また、塗装機本体511の内部には、エアモータ(不図示)が内蔵されている。エアモータは、ヘッド部513に設けられたベルカップ513a(後述)を回転させる。
【0026】
カートリッジ512は、一つの塗料ノズル512aと、一つの塗料タンク512bとを有する。塗装色毎にカートリッジ512が準備され、色替え時にはカートリッジ512毎交換する。塗料タンク512b内の塗料は、塗料ノズル512aを通って吐出される。塗料の吐出量は、塗装ロボット52の吐出制御装置526により制御される。
【0027】
ヘッド部513は、噴霧手段としてのベルカップ513aと、シェーピングエアリング(不図示)とを有する。ベルカップ513aは、エアモータにより回転し、塗料ノズル512aより吐出された塗料を霧化する。シェーピングエアリングは、エアモータの前方かつベルカップ513aの後部に固定されている。シェーピングエアリングは、シェーピングエア噴出孔からシェーピングエアを噴出し、ベルカップから放出された霧化塗料の形状を整える。
【0028】
6は、カートリッジ搬送装置である。カートリッジ搬送装置6は、塗装装置5に隣接して配置され、カートリッジ512の搬送、交換を行う。カートリッジ搬送装置6は、概略、ストック部61と、ハンド部62と、ベルカップ洗浄装置63とを有する。ストック部61には、塗装色毎にカートリッジ512が複数準備されている。カートリッジ512の塗料ノズル512aは、カートリッジ512に塗料/洗浄シンナを充填する洗浄塗料充填装置611内に収容されている。ハンド部62は、カートリッジ交換位置とストック部61との間を往復動可能に構成されている。ハンド部62は、カートリッジ512を把持するハンド621を2つ有している。ベルカップ洗浄装置63は、色替え時にベルカップ513aの洗浄を行う。
【0029】
上述の塗装装置5の色替えは、次のようにして行われる。すなわち、塗装ロボット52の移動動作により、カートリッジ交換位置に塗装機51が戻ってくる。戻り動作中に、エジェクタ1による吸引が停止され、カートリッジ交換位置に戻ってきたときには、カートリッジ512の吸引固定が解除され、塗装機本体511からカートリッジ512を抜き取り可能となる。
【0030】
その後、ハンド部62の一方のハンド621により使用済みのカートリッジ512を塗装機本体511から抜き取る。このとき、カートリッジ512から塗装機本体511内に、洗浄に使用した塗料を含む溶剤や新品の溶剤がたれ落ちることがある。また、塗装ブース内の塗料ダストがたれ落ちた溶剤に溶け込むこともある。その後、他方のハンド621にて新たなカートリッジ512を塗装機本体511に載置すると、カートリッジ512と塗装機本体511との間に形成された閉空間内に塗料が封入される。そして、エジェクタ1により吸引を行うと、閉空間内のエアが吸引され、塗装機本体511にカートリッジ512が吸引固定される。
【0031】
このとき、上記の閉空間内に封入されていた塗料は、エアホース521を通じてエジェクタ1内に吸引されることになる。しかしながら、本例の塗装装置5は、以下に説明する構造を有する本例のエジェクタ1を用いている。それ故、エジェクタ1内における塗料の付着、堆積を低減することができる。
【0032】
本例のエジェクタ1は、図2、図3に示すように、全体外形が略円筒状に形成されている。エジェクタ1の材質はアルミニウムである。なお、エジェクタ1の材質は、アルミニウムに限定されるものではなく、他の金属材料や各種のプラスチック材料を適用してもよい。製造性、耐溶剤性などを考慮して選択することができる。
【0033】
エジェクタ1は、吸引室10と、ノズル11と、吸引流路12と、ディフューザ13とを有する。吸引室10の上方にノズル、吸引室10の下方にディフューザ13が配置される。ノズル11とディフューザ13とは同軸に配置されている。
【0034】
吸引室10は、エジェクタ1本体の内部に略筒状の空間に形成されている。吸引室10の上方に、ノズル11の先端が臨んでいる。一方、吸引室10の下方に、ディフューザ13の入口側端部が臨んでいる。ノズル11は、上流側端部が一次エア供給源(不図示)に接続されており、一次エア供給源から供給される第1流体としての一次エアを噴出口111から噴射し、吸引室10内に負圧を発生させる。
【0035】
吸引流路12は、エジェクタ1本体の内部、かつ、吸引室10の外周に主に形成されている。吸引流路12は、塗装装置5のエアホース521と連通し、カートリッジ方式の塗装装置5から吸引した第2流体としてのエアを吸引室10内に導く。具体的には、本例のエジェクタ1は、吸引管126が1箇所形成されている。この吸引管126の上流側端部が吸引入口128となり、内部が吸引流路12の一部を構成する。つまり、本例のエジェクタ1は、第2流体としての上記エアをエジェクタ1内部に取り込む吸引入口128を一箇所有している。吸引管126の上流側端部にエアホース521の下流側端部を接続すると、エアホース521内のエアを吸引入口128からエジェクタ1内に流入させることができる。なお、吸引管126は、エアホース521の一部部材とすることも可能である。この場合は、エジェクタ本体14の周面に吸引入口128を形成し、この吸引入口128にエアホース521の下流側端部を螺合するなどして接続すればよい。
【0036】
また、吸引流路12は、エジェクタ本体14の内部にて2つに分岐している。具体的には、吸引流路12は、エジェクタ本体14の内部に第1吸引流路121と第2吸引流路122とを有する。第1吸引流路121、第2吸引流路122は、それぞれの上流側端部で吸引入口128に連通する。また、第1吸引流路121、第2吸引流路122は、吸引入口128の中心を通るエジェクタ1の縦断面を挟んで対称に2つに分岐されている。より具体的には、第1吸引流路121、第2吸引流路122は、吸引室10の外周を上記の縦断面を挟んで両側に、それぞれ1/4周分だけ周回した後、吸引室10の中心方向に向かってそれぞれ屈曲し、下流側端部が吸引室10に連通する。なお、本例では、各吸引流路121、122を屈曲形成したが、屈曲形成することなく各吸引流路121、122を湾曲させて形成することもできる。この場合には、各吸引流路121、122内において、吸引したエアの流れが妨げられ難いので、各吸引流路121、122内に塗料が付着・堆積し難くなることが期待される。
【0037】
そして、第1吸引流路121の下流側端部が吸引室10に連通する部位が第1吸引出口129aとされる。一方、第2吸引流路122の下流側端部が吸引室10に連通する部位が第2吸引出口129bとされる。つまり、本例では、吸引室10の壁面に、第1吸引流路121に連通する第1吸引出口129a、第2吸引流路122に連通する第2吸引出口129bの2つが形成されている。第1吸引出口129a、第2吸引出口129bは、互いに直線上で対向して配置されている。
【0038】
本例では、各吸引出口129a、129bから吸引室10内へ吸引されるエアの流量、流速等を同程度にし、均一な吸引を実現する観点から、吸引入口128の中心を通るエジェクタ1の縦断面を挟んで対称に設計している。そのため、各吸引流路121、122の長さおよび流路径、各吸引出口129a、129bの口径は全て同じになっている。また、エジェクタ1の構成を比較的簡易にし、製造性を向上させる観点から、吸引入口128、各吸引流路121、122、各吸引出口129a、129bは、いずれもほぼ同一平面状に配置されている。なお、本例では、ノズル11先端とディフューザ13の入口側端部との間の空間に上記同一平面を主に存在させている。各吸引入口129a、129bから吸引されたエア同士の衝突がノズル11先端等によって妨げられ難くなり、エア同士を効率よく衝突させることが可能になるためである。
【0039】
ディフューザ13は、略円筒状に形成されている。その内部には排気流路131を有する。排気流路131は、吸引室10内に流入した第1流体としての一次エア、第2流体としての吸引エアを排気するための流路である。
【0040】
本例のエジェクタ1は、次のように作動させることができる。すなわち、塗装装置5のカートリッジ512を吸引固定する際には、ノズル11先端の噴出口111から吸引室10内に一次エアを噴射し、吸引室10内に負圧を発生させる。発生した負圧により、塗装装置5のエアホース521を介して塗装機本体511とカートリッジ512との間にある閉空間内のエアが吸引され、塗装機本体511にカートリッジ512が吸引固定される。
【0041】
一方、図3に示すように、吸引管126に達した塗料を含むエア(図中の矢印)は、吸引入口128から吸引流路12に流入する。吸引流路12に流入したエアは、エジェクタ1内部の流路分岐点125において2つに分岐し、第1吸引流路121、第2吸引流路122にそれぞれ分かれて流入する。第1吸引流路121、第2吸引流路122に流入したエアは、第1吸引流路121、第2吸引流路122に沿って吸引室10を取り巻くようにして流れ、第1吸引出口129a、第2吸引出口129bに達する。各吸引出口129a、129bに達した各エアは、対角2方向から直線上に吸引室10内に吸引され、互いに衝突する。そして、吸引室10内に吸引された各エアと一次エアとが混合され、ディフューザ13の排気流路131から一緒に排気される。
【0042】
本例によれば、各吸引出口129a、129bに達した各エアは、対角2方向からバランスよく吸引室10内に吸引されて互いに衝突する。そのため、吸引室10内に吸引された各エアがそれぞれの対角にある吸引室10の壁面に直接衝突することがない。それ故、塗料の壁面への付着、堆積が低減され、安定的に吸引機能を維持することができる。
【0043】
(実施例2)
本例は、図4に示すように、実施例1におけるエジェクタ1の吸引流路の構造を主に変更した例である。
本例のエジェクタ2は、実施例1のエジェクタ1と同様に、第2流体として吸引エアをエジェクタ内部に取り込む吸引入口128が一箇所形成されている。また、吸引流路12は、エジェクタ本体14の内部にて第1吸引流路121および第2吸引流路122の2つに分岐されている。しかし、本例のエジェクタ2は、第1吸引流路121、第2吸引流路122がさらに分岐されており、その結果、吸引室10に吸引出口が4つ形成されている点で実施例1のエジェクタと大きく異なっている。
【0044】
すなわち、第1吸引流路121、第2吸引流路122は、図4に示すように、吸引入口128の中心を通るエジェクタ2の縦断面を挟んで吸引室10の外周を両側に、それぞれ1/4周を超えて1/2周を超えない範囲で周回した後、吸引室10の中心方向に向かってそれぞれ湾曲し、下流側端部が吸引室10に連通する。本例では、さらに、上記1/4周を超えない範囲における第1吸引流路121、第2吸引流路122の吸引室10側の側壁に、それぞれ第3吸引流路123、第4吸引流路124が分岐形成されている。第3吸引流路123、第4吸引流路124の下流側端部は、それぞれ吸引室10に連通する。
【0045】
第1吸引流路121の下流側端部が吸引室10に連通する部位が第1吸引出口129aとされる。第2吸引流路122の下流側端部が吸引室10に連通する部位が第2吸引出口129bとされる。第3吸引流路123の下流側端部が吸引室10に連通する部位が第3吸引出口129cとされる。第4吸引流路124の下流側端部が吸引室10に連通する部位が第4吸引出口129dとされる。本例では、第1吸引出口129aと第4吸引出口129dとが互いに対となって直線上に対向配置される。また、第2吸引出口129bと第3吸引出口129cとが互いに対となって直線上に対向配置される。なお、本例では、各吸引出口129a、129b、129c、129dから吸引室10内に吸引されるエアの流量、流速等が均一になるように、各吸引流路121、122、123、124の流路径、各吸引出口129a、129b、129c、129dの口径などが調整されている。
【0046】
本例によれば、各吸引出口129a、129b、129c、129dに達した各エアは、対角4方向からバランスよく吸引室10内に吸引されて互いに衝突する。そのため、吸引室10内に吸引された各エアが対角にある吸引室10の壁面に直接衝突することはない。それ故、塗料の壁面への付着、堆積が低減され、安定的に吸引機能を維持することができる。
【0047】
(実施例3)
本例は、図5に示すように、実施例1におけるエジェクタ1の吸引流路の構造を主に変更した例である。
本例のエジェクタ3は、実施例1のエジェクタ1と同様に、吸引室10の壁面に吸引出口が二箇所形成されており(129a、129b)、第1吸引出口129a、第2吸引出口129bは、直線上で互いに対向して配置されている。。しかし、本例のエジェクタ3は、エジェクタ3に吸引入口が二箇所形成されており(128a、128b)、各吸引入口128a、128bと各吸引出口129a、129bとがそれぞれ別個に連通している点で実施例1のエジェクタと大きく異なっている。
【0048】
すなわち、本例のエジェクタ3は、エジェクタ本体14の周面から、第1吸引管126aと第2吸引管126bとが同軸で突設されている。この場合、第1吸引管126aの上流側端部が第1吸引入口128aとなり、第2吸引管126bの上流側端部が第2吸引入口128bとなる。また、第1吸引管126aの内部が第1吸引流路121となり、第2吸引管126bの内部が第2吸引流路122となる。つまり、図5に示されるように、本例のエジェクタ3は、主にエジェクタ本体14の外部に吸引流路12が形成されており、エジェクタ本体14の内部において、吸引流路12は分岐していない。第1吸引流路121、第2吸引流路122の下流側端部はほぼエジェクタ本体14の肉厚分だけエジェクタ本体14内部に延設されている。この延設部分の流路内壁面は、吸引室10に向かって先細り、かつ、テーパー状に形成されている。そのため、流路内壁面に段差がある場合に比べると、塗料が付着・堆積し難くなっている。
【0049】
本例によれば、各吸引出口129a、129bに達した各エアは、対角2方向からバランスよく吸引室10内に吸引されて互いに衝突する。そのため、吸引室10内に吸引された各エアが対角にある吸引室10の壁面に直接衝突することはない。それ故、塗料の壁面への付着、堆積が低減され、安定的に吸引機能を維持することができる。また、エジェクタ本体14の外部に吸引流路12があるので、エジェクタ3の構成が簡素になり、製造性にも優れる。
【0050】
(実施例4)
本例は、図6に示すように、実施例3におけるエジェクタ3の吸引流路の構造を主に変更した例である。
本例のエジェクタ4は、実施例3のエジェクタ3と同様に、主にエジェクタ本体14の外部に吸引流路12が設けられている。しかし、本例のエジェクタ4は、第1吸引管126aの上流側端部と第2吸引管126bの上流側端部とがエジェクタ本体14の外部にて連通し、この部分に主管127が接続されている点で実施例3のエジェクタ3と大きく異なっている。つまり、本例では、エジェクタ本体14の外部にて、主管127内の吸引流路12が、第1吸引管126a内の第1吸引流路121と、第2吸引管126b内の第2吸引流路122の2つに分岐されている。
【0051】
本例によれば、主管127の上流側端部に1本のエアホース521の下流側端部を接続するだけで済む。そのため、実施例3のエジェクタ3と比較して、塗装装置5側のエアホース521を分岐させる必要がなくなる。そのため、吸引経路に負圧バラツキが発生し難く、均一な吸引を行いやすくなり、吸引室10の壁面への塗料の付着、堆積を低減しやすくなる。
【符号の説明】
【0052】
1 エジェクタ
2 エジェクタ
3 エジェクタ
4 エジェクタ
10 吸引室
11 ノズル
12 吸引流路
121 第1吸引流路
122 第2吸引流路
123 第3吸引流路
124 第4吸引流路
128 吸引入口
128a 第1吸引入口
128b 第2吸引入口
129a 第1吸引出口
129b 第2吸引出口
129c 第3吸引出口
129d 第4吸引出口
13 ディフューザ
14 エジェクタ本体
5 塗装装置
51 塗装機
511 塗装機本体
512 カートリッジ
513 ヘッド部
52 塗装ロボット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引室と、該吸引室内に第1流体を噴射し負圧を発生させるノズルと、カートリッジ方式の塗装装置から吸引した第2流体を上記吸引室内に導く吸引流路と、上記吸引室内に流入した上記第1流体および上記第2流体を排気するディフューザとを有し、
上記吸引室の壁面には、上記吸引流路に連通する吸引出口が複数形成されていることを特徴とする塗装装置用エジェクタ。
【請求項2】
請求項1に記載の塗装装置用エジェクタにおいて、上記複数の吸引出口のうちに、互いに対向して配置されている吸引出口が存在していることを特徴とする塗装装置用エジェクタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塗装装置用エジェクタにおいて、上記第2流体をエジェクタ内部に取り込む吸引入口を1箇所有し、上記吸引流路は、エジェクタ本体の内部にて複数に分岐しており、その上流側端部が上記吸引入口に連通するとともに下流側端部が上記複数の吸引出口にそれぞれ連通していることを特徴とする塗装装置用エジェクタ。
【請求項4】
請求項3に記載の塗装装置用エジェクタにおいて、上記吸引流路は2つ、上記吸引出口は2つであり、上記2つの吸引出口が互いに対向して配置されていることを特徴とする塗装装置用エジェクタ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗装装置用エジェクタを用いて、少なくともカートリッジの吸引固定を行うことを特徴とする塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−132373(P2012−132373A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285664(P2010−285664)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】