説明

塞栓材

【課題】患部内の充填性,及びその持続性に富み、塞栓効果の高い塞栓材を提供すること。
【解決手段】血管,血管瘤,又は血管奇形を含む、血流を伴う組織又は器官に用いる塞栓材であって、下記の(1)及び(2)の性質を有する多孔体を構成成分として含むことを特徴とする、塞栓材である。
(1)主たる構成成分が、水溶性高分子である。
(2)生理食塩水による膨潤率が、質量ベースで2500%以上。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管に生成した瘤や奇形などの病変血管、あるいは腫瘍などの病変部に通じる栄養血管を治療するための塞栓材であって、患部内の充填性,及びその持続性に富む、優れた塞栓材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血管瘤(動脈瘤,静脈瘤)は、血管壁の弱くなっている部分が、血流によって血管の外側に向かって圧力を加えられることによって、膨隆(拡張)したものであり、破裂によって、重大な疾患を引き起こす原因となり得るものである。
特に、脳動脈瘤や大動脈瘤の破裂は、くも膜下出血や、脳血栓,即死の原因ともなるため、それを除去又は消滅することが好ましい。
【0003】
従来、脳動脈瘤を治療するための方法として、
1)外科的に患部を切り開き、瘤の根本を金属製のクリップで閉塞し、瘤を壊死・脱離させる、いわゆるクリッピングと呼ばれる方法
2)血管の内側から、ステント(管腔内移植片)や金属コイルを詰めることによって、瘤内を器質化する、いわゆる血管内治療
等が、主に行われている。
【0004】
器質化とは、瘤内に血液を滞留させることにより、血液の凝固を促進し、生じた血塊に周囲組織が浸潤してくることによって、瘤内が、結合組織化することを言う。
【0005】
1)については、治療の歴史が長く、その長期的な効果も確認されている反面、外科的な手術を要する点で、患者の負担が重いという問題の他、体内に残留した金属製のクリップが、MR検査の際に移動してしまう等の危険もある。
【0006】
これに対して2)は、患部の切開等を行わなくて良い点で、低侵襲治療法として非常に注目されており、ここ十年で急速に医療用具の進歩にともなって広まってきている方法である。
【0007】
しかしながら、2)は、1)に比べて治療の歴史が浅く、長期的な効果がまだ確認されていないため、慎重な予後観察が必要であることに加えて、クリッピングと比較した場合に、閉塞が不十分となり易く、瘤が再発する等の事例が報告されている。
2)の場合に、閉塞が不十分になる原因としては、瘤内部に詰めるいわゆる塞栓材として、コイルを用いるため、瘤内へのコイルの充填率を上げるには、高価なコイルを大量に必要とする他、コイルの構造上、瘤内の充填率には限界があること等が挙げられる。
【0008】
この問題を解決する方法として、コイルに、血液の凝固を促進する薬剤を塗布する方法や、血液と接触すると膨潤するコイルを用いる方法等が開発されているが、いずれにしても基本構造がコイルである以上、充填率に限界があることに変わりは無く、コイルに変わる、血管内治療用の塞栓材が求められていた。
【0009】
また、2)の血管内治療の場合、カテーテルによって、コイルを患部に運ぶため、コイルに変わる塞栓材には、カテーテル内に挿入可能な微少性と、瘤内を十分に充填する、ある程度の容量という、一見相反する性質が要求される。
【0010】
このようなコイル以外の動脈の塞栓材として、微結晶性セルローススポンジ(特許文献1)や、ゼラチン粒子(特許文献2)等が提案されているが、本発明者等の検証によれば、従来良く用いられているゼラチン製の塞栓材では、微小性が劣ったり、また塞栓が不十分である等のため、瘤の再発の可能性が高いことが明らかとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平2−31762号公報
【特許文献2】特開昭60−222045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者は、上記の問題を解決するために鋭意検討した結果、水溶性高分子を主体とする多孔体の中でも、特定の膨潤率を有するものであれば、瘤の再発が防止できる可能性が非常に高いこと,及び当該多孔体は、血管瘤のみならず、血管,血管奇形を含む、血流を伴う組織又は器官に広く用いることができることを見出し、本発明に到達したものであって、その目的とするところは、微小性に優れ、患部内部の充填性・及びその持続性に富む塞栓材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的は、下記第一の発明から第六の発明によって、達成される。
【0014】
<第一の発明>
血管,血管瘤,又は血管奇形を含む、血流を伴う組織又は器官に用いる塞栓材であって、下記の(1)及び(2)の性質を有する多孔体を構成成分として含むことを特徴とする、塞栓材。
(1)主たる構成成分が、水溶性高分子である。
(2)生理食塩水による膨潤率が、質量ベースで2500%以上である。
【0015】
<第二の発明>
圧縮法によるヤング率が、5kPa以下であることを特徴とする、第一の発明に記載の塞栓材。
【0016】
<第三の発明>
押しつけ法による圧縮率が、30%以下であることを特徴とする、第一の発明又は第二の発明に記載の塞栓材。
【0017】
<第四の発明>
下記(A)の条件下で測定した吸水時間が、5秒以下であることを特徴とする、第一の発明乃至第三の発明のいずれかに記載の塞栓材。
(A)1cm3の多孔体を、100mlの生理食塩水上に落とした時間をスタートとし、吸水して完全に多孔体が膨らむまでの時間
【0018】
<第五の発明>
(1)の水溶性高分子が、コラーゲン,ゼラチン,ヒアルロン酸からなる群から選択される、少なくとも1以上の水溶性高分子であることを特徴とする、第一の発明乃至第四の発明のいずれかに記載の塞栓材。
【0019】
<第六の発明>
血管瘤が動脈瘤であることを特徴とする、第一の発明乃至第五の発明のいずれかに記載の塞栓材。
【発明の効果】
【0020】
本発明の塞栓材は、血管,血管瘤,又は血管奇形を含む、血流を伴う組織又は器官内部の充填性,及びその持続性に富み、瘤の再発等の血流の再通による弊害の可能性が極めて低いという利点を有し、生体組織との適合性にも優れた塞栓材である。
尚、本発明の塞栓材は、カテーテルにより血管,血管瘤,又は血管奇形を含む、血流を伴う組織又は器官等の患部に移送するため、動脈瘤等の、逆流防止弁の無い組織,器官の治療において、特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1の塞栓材を、血液に浸した際の、血液凝固の様子を示す図である。
【図2】実施例2の塞栓材を、血液に浸した際の、血液凝固の様子を示す図である。
【図3】実施例3の塞栓材を、血液に浸した際の、血液凝固の様子を示す図である。
【図4】実施例4の塞栓材を、血液に浸した際の、血液凝固の様子を示す図である。
【図5】実施例5の塞栓材を、血液に浸した際の、血液凝固の様子を示す図である。
【図6】実施例6の塞栓材を、血液に浸した際の、血液凝固の様子を示す図である。
【図7】実施例7の塞栓材を、血液に浸した際の、血液凝固の様子を示す図である。
【図8】実施例8の塞栓材を、血液に浸した際の、血液凝固の様子を示す図である。
【図9】実施例9の塞栓材を、血液に浸した際の、血液凝固の様子を示す図である。
【図10】実施例10の塞栓材を、血液に浸した際の、血液凝固の様子を示す図である。
【図11】実施11の塞栓材を、血液に浸した際の、血液凝固の様子を示す図である。
【図12】比較例1の塞栓材を、血液に浸した際の、血液凝固の様子を示す図である。
【図13】比較例2の塞栓材を、血液に浸した際の、血液凝固の様子を示す図である。
【図14】比較例3の塞栓材を、血液に浸した際の、血液凝固の様子を示す図である。
【図15】比較例4の塞栓材を、血液に浸した際の、血液凝固の様子を示す図である。
【図16】比較例5の塞栓材を、血液に浸した際の、血液凝固の様子を示す図である。
【図17】実施例3の塞栓材の注入前,注入後,及び注入5分後の血管造影像である。(左)塞栓材注入前(中)塞栓材注入直後(右)塞栓材注入5分後
【図18】注入1ヶ月後の腎動脈の腎臓流入部の組織切片の顕微鏡写真(左)とその拡大像(右)である。
【図19】ヤング率算出のための実験方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[本発明の塞栓材]
本発明の塞栓材は、下記の(1)及び(2)の性質を有する多孔体を構成成分として含むことを特徴とするものである。
【0023】
(1)主たる構成成分が、水溶性高分子である。
(2)生理食塩水による膨潤率が、質量ベースで2500%以上である。
【0024】
以下、各要件について、詳述する。
【0025】
《多孔体》
(多孔体の構造)
本発明の塞栓材である多孔体とは、血液を吸収することのできる連通孔を有する構造物であり、その孔の形状に制限は無く、例えば、長繊維及び/又は短繊維からなる繊維塊等の綿状物、スポンジのようなものが挙げられるが、繊維塊が、毛細管現象等によって、血液を吸収する速度が速い点で好ましい。
【0026】
(多孔体の構成成分)
本発明の多孔体の、主たる構成成分は、水溶性高分子である。
「主たる構成成分」とは、質量ベースで、全構成成分中の、おおよそ60%以上,好ましくは80%以上,更に好ましくは90%以上,特に好ましくは95%以上を占める構成成分を意味する。
【0027】
水溶性高分子としては、公知の水溶性高分子が使用できるが、中でも、コラーゲン,ゼラチン,ヒアルロン酸が好ましく、特にコラーゲンが、高い膨潤率の多孔体が容易に得られるという点で、好ましい。
【0028】
コラーゲンとしては、より具体的には、ヒト由来コラーゲン,ブタ由来コラーゲン,牛由来コラーゲン,等の、哺乳類由来コラーゲン,ニワトリ由来コラーゲン等の鳥類由来コラーゲン,サケ(鮭)由来コラーゲン等の魚類由来コラーゲン等が挙げられるが、近年問題となっている人獣共通感染症の感染リスクが低いという点では、魚類由来コラーゲンが好ましい。
【0029】
これらのコラーゲンは、公知の方法で、抽出・精製して用いることができる他、魚類のコラーゲンは、特許第2931814号等の方法によって、製造することができる。
尚、鮭皮コラーゲン(SC)は、井原水産(株)製のアテロ化マリンコラーゲン(水溶液),牛皮コラーゲン(BC)は、KOKEN(株)製のAteloCell(水溶液,スポンジ(多孔体(繊維塊))),ブタコラーゲンは、新田ゼラチン製のCellmatrix(水溶液,スポンジ(多孔体(繊維塊)))等として、水溶液,パウダー等種々の形態で購入することができる。
【0030】
ゼラチンはコラーゲンに熱を加えて抽出したものであるが、例えばマリンコラーゲンペプチド(井原水産),コラーゲンペプチド(新田ゼラチン)等として、市場から入手することができる。
【0031】
(多孔体の物性)
(1)膨潤率
本発明の塞栓材に用いられる多孔体は、生理食塩水による膨潤率が、質量ベースで2500%以上であることが必要であり、好ましくは、3000%以上,より好ましくは4000%以上である。
2500%以上の膨潤率を達成することで、患部に送り届けた多孔体の内部に、空洞が残る恐れが無く、より完全な塞栓を達成することができ、瘤の再発等の血流の再通による弊害を防止することができるからである。
尚、この膨潤率は、短時間で達成できる程好ましく、後述の(4)の吸水時間内に完全に膨潤することが好ましい。
塞栓材が、血液が凝固し始めるスピードより速く膨潤する程、実際の使用に於いて十分な膨潤率が達成できるからである。
具体的には、膨潤前の重量を基準に、膨潤率を算出する。
{(膨潤後の重量−膨潤前の重量)/膨潤前の重量}×100=膨潤率(%)
このような膨潤率を有する多孔体は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)等の架橋剤を用い、水溶性高分子の種類,濃度(例えば0.1〜10質量%程度,好ましくは0.5〜5質量%),架橋時の溶媒(70%エタノールや、4MのNaCl水溶液等)等を、適宜調整することによって、製造することができる。
【0032】
(2)ヤング率
本発明の塞栓材に用いられる多孔体は、下記の測定方法によるヤング率が、5kPa以下であることが好ましく、より好ましくは、3kPa以下である。
(測定方法)
Development of a photocurable gelatin-based gelation material for application to periodontal regeneration (Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry Volume 199, Issues 2-3, 25 September 2008, Pages 255-260)
尚、この測定は、(株)アクシム社の精密計測システムで実施することができる。
【0033】
(3)圧縮率
本発明の塞栓材に用いられる多孔体は、押しつけ法による圧縮率が、30%以下であることが好ましく、より好ましくは、15%以下である。
圧縮率が高い(圧縮され難い)と、本発明の塞栓材を、患部(血管,血管瘤,又は血管奇形等)に届けるのに用いるカテーテル内に挿入することが困難となるからである。
本発明において、圧縮率とは、1cm3の試料片に対して、1cm2あたり1kgの重りを1分間乗せて圧縮した後の試料の厚さを、荷重前の試料の厚さで除した値を100倍したもの,つまり圧縮後の高さの比率(%)を意味する。
厚さで評価するのは、本発明の多孔体に適した多孔体は、圧縮率が低く、あまり面積が変化しないため、体積変化と厚さ変化が、それほど変わらないと考えられるからである。
【0034】
(4)吸水時間(形状回復時間)
本発明の塞栓材に用いられる多孔体は、下記(A)の条件下で測定した吸水時間が、5秒以下であることが好ましく、更に好ましくは3秒以下である。
(A)1cm3の多孔体を、上記の方法で一旦圧縮させ、それを100mlの生理食塩水上に落とした時間をスタートとし、吸水して完全に元の多孔体の大きさにまで膨らむまでの時間
【0035】
吸水時間が速いほど、素早く瘤等の患部内の血液を吸収し、患部内をより確実に器質化することができるからである。
【0036】
(多孔体の製造方法)
本発明の塞栓材を主に構成する多孔体は、一般的な多孔体の製造方法によって製造することができるが、例えば、繊維塊の場合、以下のようにして製造することができる。
【0037】
容器に流し込んだコラーゲン水溶液を凍結乾燥した後、架橋剤を含む溶液を添加し、しばらく置いた後に、水洗し、再度凍結乾燥を行う。
【0038】
[本発明の塞栓材の適用対象]
本発明の多孔体を用いて塞栓する対象は、血管,血管瘤,又は血管奇形を含む、血流を伴う組織又は器官である。
ここで言う血管には、動脈,静脈の他、癌等の腫瘍の栄養血管等が含まれる。
これらの組織又は器官のいずれに対しても、本発明の塞栓材は有効であるが、実際の治療においては、塞栓材は、カテーテルで患部に届けられることが多いため、途中の血管等に弁が無く、多孔体を患部に届ける際に、カテーテルで、弁を傷つける恐れが無く、またカテーテルが通り易いという点で、本発明の塞栓材の使用は、動脈部の塞栓等に特に有用である。
【0039】
[本発明の塞栓材の適用方法]
本発明の塞栓材は、圧縮して、カテーテル内に挿入し、その後、ガイドワイヤーによる押し出し等によって患部内に送り込む等の、公知の方法で行うことができる。
【0040】
以下、実施例によって、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものでは無い。
【実施例】
【0041】
尚、実施例に先立ち、本発明に用いられる多孔体の物性,及び本発明の塞栓材の性能を確認するための測定方法,試験方法等を以下に記載する。
【0042】
(1)膨潤率測定方法
1)凍結乾燥したコラーゲン繊維塊の重量(10±1mgの範囲内の細片とする)を測定する。
2)コラーゲンスポンジを100mlの生理食塩水に1時間入れる。
3)膨潤後の繊維塊重量を測定する。
4)膨潤前の重量を基準に、膨潤率を算出する。
{(膨潤後の重量−膨潤前の重量)/膨潤前の重量}×100=膨潤率(%)
【0043】
(2)ヤング率測定方法
Development of a photocurable gelatin-based gelation material for application to periodontal regeneration (Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry Volume 199, Issues 2-3, 25 September 2008, Pages 255-260)に記載の方法で測定した。
具体的には、(株)アクシム社の精密計測システムで実施した。
【0044】
図19にあるような方法で、下記式(i)〜(iv)によって、ヤング率を算出した。
尚、下記数式中の記号は、次のものを表す。
【0045】
ν:ポアソン比
0:接触子半径(m)
P:荷重(g)
δ:進入量(m)
κ:バネ定数
G:ずれ弾性率
E:ヤング率(kPa)
【0046】
【数1】

【0047】
【数2】

【0048】
【数3】

【0049】
【数4】

【0050】
尚、測定は、大気中、室温下(約25℃)、生理食塩水で試料(塞栓材)を完全に膨潤させ、先端径0.001m(r0)のセンサーを用い、1秒毎に0.0001m(進入量(δ))ずつ5回(計0.0005m)押しつけて行った。
また、νは0.5とした。
【0051】
(3)圧縮率測定方法
1cm3の試料片に対して、1cm2あたり1kgの重りを1分間乗せて圧縮した後の試料の厚さを測定した。
そして、その厚さを、荷重前の試料の厚さで除した値を100倍したもの,つまり圧縮後の厚さの比率(%)で評価した。
【0052】
(4)吸水時間測定方法
1cm3の多孔体を、一旦上記に記載の方法で圧縮させ、100mlの生理食塩水上に落とした時間をスタートとし、吸水して完全に多孔体が膨らむまでの時間を測定し、吸水時間とした。
【0053】
(5)血液凝固性確認試験方法
指で圧縮した1cm3の各多孔体を、5mlの血液中に加え5分経過後に取り出してホルマリン固定した後、病理組織標本を作成する常法に従ってパラフィン包埋し、薄切り切片を作成し、その切片を顕微鏡で観察し、血液凝固状態を確認した。
【0054】
(6)血管塞栓効果確認試験方法
被験物である多孔体を、指で丸く圧縮し、5Fr血管造影用のカテーテルを用い、ビーグル犬の正常腎臓動脈内に注入した。
注入前,注入直後,及び注入5分後の血管造影像と、注入1ヶ月後の腎動脈の腎臓流入部の組織切片の顕微鏡写真によって、血流の閉塞性を評価した。
【0055】
[実施例1〜11,比較例1〜5]
本発明の塞栓材を、下記の方法で、製造した。
尚、架橋剤として、EDCを用い、水溶性高分子の種類,濃度,架橋時の溶媒(70%エタノール又は4MのNaCl水溶液)等を変更することによって、膨潤率の異なる多孔体(繊維塊)からなる塞栓材を製造した。
【0056】
(コラーゲン多孔体の場合)
1)原料となるコラーゲン水溶液の各々1mlずつを、48ウェルプレート(IWAKI製,tissue culture用)に添加し、−70℃で凍結を行った。
2)2日間、凍結乾燥を行った。
3)架橋剤として、1%のEDC(和光純薬製)及び表1に記載の各溶媒を含む、架橋剤溶液を準備した。
4)上記の架橋剤溶液を、1)で凍結乾燥した各繊維塊に1mlずつ添加し、4℃で24時間静置した。
5)超純水で5回以上洗浄し、再度、凍結乾燥を行った。
【0057】
(ゼラチン多孔体の場合)
上記のコラーゲン多孔体の場合に倣って行った。
但し、3)、4)の工程として、1)の時点で、各濃度のゼラチン含有水溶液に1%濃度となるようにEDCを加え、24時間放置した。
【0058】
尚、比較例5の多孔体(繊維塊)については、日本ハム製の「NMRコラーゲンスポンジ」を購入した。
【0059】
[(1)〜(4)の物性試験]
上記のようにして製造した多孔体(繊維塊)からなる、実施例及び比較例の塞栓材の各々について、上述の(1)〜(4)の物性試験を行った結果を、併せて表1に記載する。
【0060】
【表1】

【0061】
尚、上記で用いた原料は、下記のようにして入手した。
0.1,0.5,又は1%ゼラチン水溶液:GELATIN TYPE A、MP Biomedicals, LLC
0.5,1.0,1.5,2.0,又は3.0%ブタコラーゲン水溶液:コラーゲンBM,新田ゼラチン
0.5,1,1.5%鮭皮コラーゲン(SC)水溶液(pH3):井原水産(株)
【0062】
[(5)の血液凝固性確認試験]
次に、実施例及び比較例の各塞栓材(多孔体(繊維塊))を用い、上述の(5)の血液凝固性確認試験を行った。結果を、図1〜図16に示す。
【0063】
実施例及び比較例ともに、いずれも約5分で血液が凝固したが、図1〜16から分かる通り、多孔体の内部の状況が異なっていた。
【0064】
図1〜11で示される通り、膨潤率の高い、実施例の多孔体の場合、多孔体の内部まで、完全に血液が凝固していた。
【0065】
一方、図12〜16で示される通り、膨潤率の低い、比較例の多孔体の場合、表面では血液凝固が起こっているものの、内部は空洞のままであった。
この空洞は、塞栓したい部位の器質化の遅延を引き起こす原因ともなる。
このような不完全な塞栓は、血流の再通を引き起こし、患部が血管瘤であった場合には、再瘤化,患部が腫瘍の栄養血管であった場合には、腫瘍の成長再開等の引き金になる可能性がある。
【0066】
上記の結果は、実施例のように、質量ベースで2500%以上の高い膨潤率を有する塞栓材(多孔体)を用いることで、血流の再通による再瘤化や腫瘍の成長再開等を、より確実に防止できることを示唆している。
【0067】
[(6)の血管塞栓効果確認試験]
実施例3の塞栓材(サケコラーゲン多孔体(繊維塊))を用い、上記(6)の血管塞栓効果確認試験を行った。
【0068】
その結果、多孔体注入前,注入直後,及び注入5分後の血管造影像によって、流入直後に血流が閉塞していることを確認できた(図17)。
【0069】
更に、注入1ヶ月後の腎動脈の腎臓流入部の病理組織切片の顕微鏡写真によって、組織学的にも、この多孔体が、血管内を塞栓していることが確認できた(図18)。
【0070】
[試験結果の総括]
これらの各実施例及び比較例の結果から、本発明の塞栓材であれば、患部を確実に器質化せしめ、瘤の再発や腫瘍の再成長等が殆ど起こらないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の塞栓材は、患部内の充填性,及びその持続性に富み、再発防止能に優れたものとして、医療・研究分野における利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管,血管瘤,又は血管奇形を含む、血流を伴う組織又は器官に用いる塞栓材であって、下記の(1)及び(2)の性質を有する多孔体を構成成分として含むことを特徴とする、塞栓材。
(1)主たる構成成分が、水溶性高分子である。
(2)生理食塩水による膨潤率が、質量ベースで2500%以上である。
【請求項2】
圧縮法によるヤング率が、5kPa以下であることを特徴とする、請求項1記載の塞栓材。
【請求項3】
押しつけ法による圧縮率が、30%以下であることを特徴とする、請求項1又は2記載の塞栓材。
【請求項4】
下記(A)の条件下で測定した吸水時間が、5秒以下であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の塞栓材。
(A)1cm3の多孔体を、100mlの生理食塩水上に落とした時間をスタートとし、吸水して完全に多孔体が膨らむまでの時間
【請求項5】
(1)の水溶性高分子が、コラーゲン,ゼラチン,ヒアルロン酸からなる群から選択される、少なくとも1以上の水溶性高分子であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の塞栓材。
【請求項6】
血管瘤が動脈瘤であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の塞栓材。

【図19】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2010−162063(P2010−162063A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4545(P2009−4545)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】