説明

塩化ビニル樹脂顆粒

【課題】 主にバッテリーセパレーター用途に用いられる、粉体コーティング性、焼結性が優れる塩化ビニル樹脂顆粒を提供する。
【解決手段】 微細懸濁重合又は乳化重合で得られた塩化ビニル樹脂の水性分散液を、噴霧乾燥して得られた塩化ビニル樹脂顆粒であって、粒子径が23〜50μm、比表面積が1m/g以下である塩化ビニル樹脂顆粒により達成される。更に、前記噴霧乾燥機を用いて塩化ビニル樹脂顆粒を製造するに際し、乾燥用空気入口温度が170〜250℃で乾燥用空気出口温度が75〜100℃であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリーセパレーター用途の焼結板に成型され得る塩化ビニル樹脂顆粒に関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリー(蓄電池)は、正極板、負極板、電解液などから構成されており、その持っている化学的エネルギーを、電気エネルギーとして取り出すことができ、また逆に外部から電気的エネルギーを与えると、元の形の化学的エネルギーとして蓄えることができる装置である。一般に、バッテリーは正極板と負極板の間に隔離板を挿入することで、両極板のショート(短絡)を防止しており、この隔離板はバッテリーセパレーターと呼ばれている。
バッテリーセパレーターへ要求される性能としては、(1)陽極と陰極の短絡防止、(2)電解液の透過性(低電気抵抗)、(3)機械的強度(高強度)、等が挙げられる。
【0003】
バッテリーセパレーターには、主に強化繊維が用いられており、ナイロン繊維、ポリスルフォンやポリエーテルスルフォンとポリ塩化ビニル混合重合体の繊維(特許文献1)、等が使用されている。しかし、樹脂の単価が高いことや、樹脂を有機溶剤で溶解分散し、得られた紡糸原液を湿式紡糸等で繊維賦形する為には多量の有機溶剤を必要とする問題がある。
【0004】
一方、汎用の塩化ビニル樹脂顆粒を熱で焼結させることによりバッテリーセパレーターを作成する方法がある。塩化ビニル樹脂顆粒を所望の厚みにコーティングし、加熱するだけでセパレーターを得ることが可能であり、塩化ビニル樹脂顆粒以外の配合剤や有機溶剤を全く必要としない為、経済上、環境上で大きなメリットがある。
【0005】
一般に、バッテリーセパレーター用途の塩化ビニル樹脂顆粒は、コーティングローター等を用いて所望の厚みにコーティングし、オーブン等で加熱する事により樹脂顆粒を焼結・融着させ、バッテリーセパレーターへと加工される。コーティングローター等には、ローターの回転方向に沿ってリブ溝が刻んであるのが一般であり、コーティングすることにより表面にリブ山が形成される。このバッテリーセパレーターのリブ山の存在により、正極板と負極板の間に電解液を保持する空間が形成され、陽極と陰極の短絡防止、電解液の透過性(低電気抵抗)を良好にすることができる。以上のことから、バッテリーセパレーター用途の塩化ビニル樹脂顆粒は、バッテリーセパレーターの外観や性能(短絡防止、電気抵抗)を良好にする目的で、欠損の少ないリブ山がコーティングされる性質(以下、粉体コーティング性)が一般に求められている。
【0006】
また、バッテリーセパレーター用途の塩化ビニル樹脂顆粒は、焼結性が優れることも求められている。焼結性が優れると、少ない熱量でも顆粒の焼結が進行し、高い機械的強度のバッテリーセパレーターが得られる傾向になる。
【0007】
バッテリーセパレーター用途の塩化ビニル樹脂顆粒としては、CHEMPLAST社のCP172SG、USOLIEKHIMPROM社のE−6642、等が使用されているが、これらよりも更に粉体コーティング性、焼結性が優れる塩化ビニル樹脂顆粒の開発が望まれている。
【0008】
塩化ビニル樹脂顆粒の製造方法としては、塩化ビニル樹脂の水性分散液を噴霧乾燥する際の乾燥用空気入口温度を100〜150℃、乾燥用空気出口温度を45〜55℃とする特許文献2、乾燥用空気入口温度を100〜175℃、乾燥用空気出口温度を45〜55℃とする特許文献3等が報告されている。しかし、これらは加工時に顆粒が解れて一次粒子となる塩ビペースト加工用途の製法であり、バッテリーセパレーター用途としては適さないものであった。
【特許文献1】特開平3−233856
【特許文献2】特開2004−339349
【特許文献3】特開平11−246724
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前述したような課題を解決し、主にバッテリーセパレーター用途に用いられる、粉体コーティング性、焼結性が優れる塩化ビニル樹脂顆粒を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、このような背景に鑑み鋭意研究を重ねた結果、微細懸濁重合又は乳化重合で得られた塩化ビニル樹脂の水性分散液を噴霧乾燥して、塩化ビニル樹脂顆粒の、粒子径、安息角、比表面積を特定の範囲に調整することにより、前述の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明は、微細懸濁重合又は乳化重合で得られた塩化ビニル樹脂の水性分散液を、噴霧乾燥して得られた塩化ビニル樹脂顆粒であって、粒子径が23〜50μm、比表面積が1m/g以下である、塩化ビニル樹脂顆粒である。
前記粒子径が27〜34μm、前記比表面積が0.8m/g以下であるのがより好ましく、安息角が25〜48度であるのが好ましい。
【0012】
本発明の製造方法は、微細懸濁重合又は乳化重合で得られた塩化ビニル樹脂の水性分散液を、噴霧乾燥機を用いて塩化ビニル樹脂顆粒を製造する方法であって乾燥用空気入口温度が170〜250℃、乾燥用空気出口温度が75〜100℃であり、得られた塩化ビニル樹脂顆粒の粒子径が23〜50μmであることを特徴とする塩化ビニル樹脂顆粒の製造方法である。前記乾燥用空気入口温度は175〜200℃で、前記乾燥用空気出口温度は80〜95℃であるのがより好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来品よりも、粉体コーティング性、焼結性が優れるバッテリーセパレーター用途の塩化ビニル樹脂顆粒を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の塩化ビニル樹脂顆粒は、微細懸濁重合又は乳化重合で得られた塩化ビニル樹脂の水性分散液を噴霧乾燥し、粒子径23〜50μm程度の塩化ビニル樹脂顆粒(造粒体)としたものである。この噴霧乾燥において、乾燥温度を特定の範囲、すなわち、乾燥用空気入口温度が170〜250℃、乾燥用空気出口温度が75〜100℃にすると、得られた塩化ビニル樹脂顆粒の焼結性が向上することを見出した。
【0015】
本発明の、微細懸濁重合又は乳化重合で得られた塩化ビニル樹脂の水性分散液は、塩化ビニル単量体、又は塩化ビニル単量体とこれと共重合可能な単量体の混合物を水性媒体中で、乳化剤、必要に応じて、高級アルコール、高級脂肪酸等の分散助剤、更に油溶性重合開始剤を加えて均質化した後、微細懸濁重合するか、あるいは水溶性開始剤を加えて乳化重合する等により得られる。微細懸濁重合又は乳化重合で得られた塩化ビニル樹脂の粒子径は、一般に0.05〜10μm程度であり、本発明では特に限定は無いが、焼結性の優れる塩化ビニル樹脂顆粒が得られる傾向にある観点から、微細懸濁重合又は乳化重合で得られた塩化ビニル樹脂の粒子径(一次粒子径)は、0.05〜2μmであることが好ましく、0.05〜0.5μmであることが特に好ましい。
【0016】
微細懸濁重合においては、均質化条件によって単量体液滴の粒子径が制御され、通常均質化装置の吸入側と吐出側の圧力差が小さいほど、大きな粒子径をもつ粒子が得られる。通常用いられる均質化装置としては、1段または多段の高圧ホモジナイザー、コロイドミル、1段または多段の遠心ポンプ及びパイプラインミキサー等の機械的分散装置が挙げられ、これらは単独または組み合わせて用いられる。
【0017】
微細懸濁重合に用いる油溶性開始剤としては、ジラウロイルパーオキサイド、ジ−3,5,5,トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート等のパーオキシエステル類等の有機過酸化物開始剤、及び2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤を用いることができる。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0018】
乳化重合に用いる水溶性開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素等を用い、必要に応じて、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート2水塩、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム等の還元剤を併用することができる。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0019】
塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体の例としては、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィン類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニリデン等のビニリデン類、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸及びその酸無水物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ブチルベンジル等の不飽和カルボン酸エステル類、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、更にはジアリルフタレート等の架橋性モノマー等が挙げられる。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0020】
乳化剤としては、アニオン性乳化剤が通常単量体100重量部当たり0.1〜3重量部程度用いられる。アニオン性乳化剤としては、脂肪酸、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸メチル、α−オレフィンスルホン酸、アルキルエーテルリン酸エステル等のカリウム、ナトリウム、アンモニウム塩等が挙げられる。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。分散助剤として、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸類を用いることもできる。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0021】
本発明では、所望の塩化ビニル樹脂顆粒を得るために、塩化ビニル樹脂の水性分散液の噴霧乾燥を行うが、用いる噴霧乾燥機には特に限定はなく、一般に使用されている、たとえば「スプレイ・ドライイング・ハンドブック(SPRAY DRYING HANDBOOK) 」(ケイ・マスタース(K.Masters)著、3版、1979年、ジョージ・ゴッドウィン社(George Godwin Limited) より出版)121 頁の第4.10図に記載のごとき各種の噴霧乾燥機があげられる。噴霧乾燥機で塩化ビニル樹脂の水性分散液を乾燥・造粒する際、まず水性分散液が噴霧乾燥機内のアトマイザーで微細に噴霧され、ついで乾燥せしめられて球状の塩化ビニル樹脂顆粒(造粒体)が製造され、系外に取出される。
【0022】
前記水性分散液を噴霧乾燥機で乾燥・造粒させる際に、該乾燥用空気入口温度が170〜250℃、乾燥用空気出口温度が75〜100℃になるようにすると主にバッテリーセパレーター用途に適した塩化ビニル樹脂顆粒がえられる。入口温度とは、乾燥機入口における乾燥用空気の温度のことであり、出口温度とは、乾燥機出口における空気の温度のことであり、通常の温度計で測定された温度である。
乾燥温度が高過ぎると、乾燥により得られる塩化ビニル樹脂顆粒が焼けてしまう恐れがあり、得られるバッテリーセパレーターの外観・品質を悪化させる要因となり得る。
【0023】
該乾燥用空気入入口温度が170〜250℃、出口温度が75〜100℃であると、得られる塩化ビニル樹脂顆粒の焼結性が良好になり、バッテリーセパレーターへ加工する際に、少ない熱量でも顆粒の焼結・融着が進行し、高い機械的強度が得られる点で好ましい。樹脂焼けの抑制と焼結性向上の観点から、入口温度が170〜210℃、出口温度が80〜100℃であることが特に好ましく、入口温度が175〜200℃、出口温度が80〜95℃であることが更に好ましい。本発明の請求の範囲から外れる乾燥条件、例えば、入口温度を100〜150℃、出口温度を45〜55℃とする特開2004−339349、入口温度を100〜175℃、出口温度を45〜55℃とする特開平11−246724は、乾燥温度が低い為に、バッテリーセパレーターとして加工する際は、本発明の請求の範囲内の乾燥条件で製造した樹脂顆粒に比べて焼結性が悪くなり、同一の加熱加工条件ではバッテリーセパレーターとしての機械的強度が低下する傾向になる。また、乾燥温度が低いと、一次粒子同士の融着が弱くなり、顆粒の空気による輸送やローリー輸送時に顆粒が崩壊して一次粒子にまで解れる場合があり、バッテリーセパレーターとしての外観や性能(短絡防止、電気抵抗)を悪化させる恐れがある。
【0024】
本発明の塩化ビニル樹脂顆粒の粒子径は23〜50μmであることが好ましい。粒子径が23μm以上になると、顆粒の流動性が良好となり、リブ山の成型後、コーティングローターのリブ溝に顆粒が残留し難く、リブ山がきれいに形成される傾向になる点で好ましい。粒子径が51μm以上になると、顆粒の流動性が良くなり過ぎて形成したリブ山が崩れ、リブ山の欠損が多くなる不具合が生じる場合がある。また、粒子径が51μm以上になると、得られるバッテリーセパレーターの機械的強度が低下する傾向になる。粉体コーティング性と焼結性の観点から、粒子径は25〜46μmであることが更に好ましく、27〜34μmであることが特に好ましい。
【0025】
本発明の塩化ビニル樹脂顆粒の安息角は25〜48度であることが好ましい。安息角が48度以下では顆粒の流動性が良好であるので、リブ山の成型後、コーティングローターのリブ溝に顆粒が残留し難く、リブ山がきれいに形成される傾向になる点で好ましい。安息角が低いと、顆粒の空気による輸送やローリー輸送が容易に行なえる、使用時に自動計量供給がなんの問題もなく容易に行なえる、等のメリットも生じる。しかし、安息角が25度以下では顆粒の流動性が良過ぎて、形成したリブ山が崩れ、リブ山の欠損が多くなる不具合が生じる場合がある。一般に、顆粒の安息角は粒子径と相関があり、粒子径が大きくなると、顆粒の流動性が良くなるので安息角は小さくなり、逆に、粒子径が小さくなると安息角は大きくなる。粒子径を20〜50μmの範囲内に調整すると、安息角は25〜48度になる傾向がある。
【0026】
本発明の塩化ビニル樹脂顆粒の嵩比重とは、嵩比重(ゆるめ)を意味する。嵩比重(ゆるめ)は0.40〜0.65g/ccであることが好ましい。嵩比重(ゆるめ)が0.40g/cc以上になると、焼結する際の厚みの収縮が小さくなり、バッテリーセパレーターの厚みのコントロールが容易になる。また、単位容積当りの重量が増加するため輸送コストが低くなるメリットも生じる。嵩比重(ゆるめ)が0.65g/cc以下になると、粉体コーティング性と焼結性のバランスの観点から、良好となる。
【0027】
本発明の塩化ビニル樹脂顆粒の比表面積は1m/g以下であることが好ましい。比表面積が1m/g以下になると、焼結性が良好になり、少ない熱量でも焼結が進行し、高い機械的強度が得られる傾向になる。一般に、比表面積は噴霧乾燥する際の乾燥条件と相関があり、乾燥温度が高いと一次粒子同士の融着が進み、造粒した顆粒の比表面積が小さくなる傾向になる。乾燥用空気の入口温度と出口温度を高くすると、得られた塩化ビニル樹脂顆粒の比表面積は1m/g以下になる傾向になる。焼結性の観点から、比表面積は0.8m/g以下であることが特に好ましい。乾燥温度が高過ぎると、乾燥により得られる塩化ビニル樹脂顆粒が焼けてしまう恐れがあり、得られるバッテリーセパレーターの外観・品質を悪化させる要因となり得る。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<微細懸濁重合又は乳化重合で得られた、塩化ビニル樹脂の水性分散液の粒子径の測定>
レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置 MICROTRAC HRA X−100(日機装株式会社製)を用いて測定し、中位径の値を粒子径とした。
【0029】
<塩化ビニル樹脂顆粒の粉体特性の測定>
粉体特性である1)粒子径、2)安息角、3)嵩比重(ゆるめ)、4)比表面積、は下記の方法で測定した。
1)粒子径
レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置 MICROTRAC HRA X−100(日機装株式会社製)を用いて測定し、中位径の値を粒子径とした。
2)安息角
パウダーテスター PT−R型(ホソカワミクロン株式会社製)を用いて測定した。測定方式は排出法であり、容器に満たした試験粉体が流出するときに形成されるすべり面と水平面のなす角を測定する方式である。
3)嵩比重(ゆるめ)
本発明の嵩比重は、嵩比重(ゆるめ)を意味する。嵩比重(ゆるめ)は、パウダーテスター PT−R型(ホソカワミクロン株式会社製)を用いて測定した。測定方式は、タッピングを行わずに容器に試験粉体を充填し、その重量と容積から比重を求める方式である。
4)比表面積
吸着法(BET法)に基づき、フローソーブII2300(マイクロメリティックス製)を用いて測定した。吸着法とは、試験粉体の表面に吸着占有面積の分かった分子を吸着させ、その量から試料の比表面積を求める方法であり、その中で最もよく利用されているのが不活性気体の低温物理吸着によるBET法である。本発明では、不活性気体に窒素を用いた。
【0030】
<バッテリーセパレーター・焼結板の作成手順>
以下に本発明で実施した実験室における焼結板の作成手順を記した。
縦30cm×横30cm×厚み3mmのガラス板上の、上端中央から5cmの箇所に、試験粉体12ccを置く。金属ヘラを用いて試験粉体を平滑に伸ばし、横5cm×縦8cmの逆三角形のサイズに試験粉体を整える。嵩比重が低い試験粉体は、流動性が良いので正確な逆三角形にはならないが、可能な限り近いサイズに整える。
【0031】
縦21cm×横11cmの長方形サイズの穴を空けた縦27cm×横17cmのプラスチック製の枠を、試験粉体の周りに置き、その上に平滑なコーティングローター、または、リブ溝(リブ幅2mm、底角度60度の溝、リブ間隔16mm)の入ったコーティングローターを、5cm/秒の速さで転がして、粉体をコーティングする。平滑なコーティングローターは、長さ37cm×直径1.9cm。リブ溝の入ったコーティングローターも、長さ37cm×直径1.9cm。
【0032】
作成した焼結板の厚みが450μm(下限430μm、上限470μm)になるように、コーティングする際のプラスチック製の枠は、厚みが370μm、420μm、470μm、500μm、550μm、600μm、650μm、700μm、750μm、800μm、850μm、のものを適宜用いた。
【0033】
コーティングする時は、試験粉体がプラスチック製の枠にかからないように、枠を置く位置を調整する。粉体が枠にかかると得られる焼結板の厚みが変わってしまう不具合が生じる。
加熱条件は、粉体をのせたガラス板を熱風式ギアオーブン(YASUDA SEIKI製:No.102−SHF−77 GEER AGING OVEN)240℃で220秒間加熱。このとき、風量:HIGH、ダンパー:閉、回転:あり、とした。
試験粉体は、温度25℃、湿度30%の恒温恒湿室で24時間以上保管したものを用いた。いずれの評価も恒温恒湿室で実施した。
【0034】
<粉体コーティング性、焼結性の測定>
5)リブ山の欠損率、6)焼結板の比重、7)機械的強度、8)電気抵抗値、は下記の方法で測定した。
【0035】
5)リブ山の欠損率(粉体コーティング性)
リブ溝(リブ幅2mm、底角度60度の溝、リブ間隔16mm)の入ったコーティングローターを用いて、試験粉体をコーティングし、熱風式ギアオーブン240℃で220秒間加熱して焼結板を作成し、リブ山の形成具合を精査に観察し、欠損しているリブの長さの合計を算出する。
リブ山の欠損率=(欠損しているリブの長さの合計/全リブ山の長さの合計)×100[%]で算出。
リブ山の欠損率が5%以下を○、6〜9%を○−、10〜19%を△、20%以上を×、と判定した。
【0036】
6)焼結板の比重
平滑なコーティングローターを用いて焼結板を作成する。得られた焼結板の中央部分を、縦9cm×横7cmのサイズに切断する。焼結板の厚みを10箇所計測し平均値から厚みを算出する。縦9cm×横7cm×厚みcmから焼結板の容積を算出する。
焼結板の比重(g/cc)=焼結板の重量(g)/焼結板の容積(cc)で算出した。
【0037】
バッテリーセパレーターの用途を考慮すると、焼結板の比重は0.5〜0.9g/cc程度が好ましい。焼結板の比重が0.9g/cc以上になると、電解液の透過性が悪化し、電気抵抗値が高くなる場合がある。焼結板の比重が0.5g/cc以下であると、機械的強度が不足している場合がある。
【0038】
7)機械的強度(焼結板の亀裂発生間隔)
上記、平滑なコーティングローターを用いて作成した焼結板を縦方向に切断し、縦9cm×横1cmの短冊状の焼結板を作成する。両端を曲げて万力に挟み、1mm/秒の速度で幅を狭めて折り曲げたとき、焼結板に亀裂が発生し始める間隔を計測する。
【0039】
亀裂発生間隔が2.2mm以下を◎、2.3〜2.5mmを○、2.6〜4.0mmを△、4.1mm以上を×、と判定した。
【0040】
8)電気抵抗値
社団法人電池工業会発行「鉛蓄電池用隔離板(1998年5月13日制定)」の試験手順に従い測定した。
【0041】
(製造例1)
予め脱気したステンレス製攪拌機付き耐圧容器に、塩化ビニル単量体150kg、脱イオン水150kg、ラウリル硫酸ナトリウム600g、35%濃度の塩酸水溶液0.5g、硫酸第一鉄七水和物0.05g、水溶性開始剤として30%濃度の過酸化水素水80g、を仕込み、内温を50℃に昇温して、重合反応が8時間で終了し、且つ、重合発熱が重合初期〜末期の全区間においてほぼ均一になるように、還元剤としてホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート2水塩を連続的に追加しながら重合反応を進めた。この時、追加乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム2.3kgを、重合開始〜7時間目までの間に連続的に追加した。重合圧力が降下した時点で未反応の単量体を除去して重合を終了させた。ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート2水塩の総追加量は8gであり、重合反応時間は8時間であった。こうして、乳化重合で得られた粒子径0.2μmの塩化ビニル樹脂の水性分散液(固形分濃度46%)を得た。
【0042】
(実施例1)
製造例1で得た、粒子径0.2μmの塩化ビニル樹脂の水性分散液(固形分濃度46%)を、回転円盤式のアトマイザー(直径8.4cm)を有するスプレー乾燥機を用いて噴霧乾燥した。このとき、アトマイザイー回転数を25000rpm、乾燥用空気入口温度を180℃、乾燥用空気出口温度を90℃とした。得られた塩化ビニル樹脂顆粒の評価結果を表1に示す。
【0043】
(実施例2)
実施例1のアトマイザイー回転数を22500rpmに変更した以外は実施例1と同様の手法で噴霧乾燥した。得られた塩化ビニル樹脂顆粒の評価結果を表1に示す。
【0044】
(実施例3)
実施例1のアトマイザイー回転数を17500rpmに変更した以外は実施例1と同様の手法で噴霧乾燥した。得られた塩化ビニル樹脂顆粒の評価結果を表1に示す。
【0045】
(実施例4)
実施例1のアトマイザイー回転数を22500rpm、乾燥用空気入口温度を190℃に変更した以外は実施例1と同様の手法で噴霧乾燥した。得られた塩化ビニル樹脂顆粒の評価結果を表1に示す。
【0046】
(比較例1)
実施例1の回転円盤式のアトマイザー(直径8.4cm)を有するスプレー乾燥機を二流体ノズルに変更した以外は実施例1と同様の手法で噴霧乾燥した。得られた塩化ビニル樹脂顆粒の評価結果を表1に示す。
【0047】
(比較例2)
実施例1のアトマイザイー回転数を35000rpmに変更した以外は実施例1と同様の手法で噴霧乾燥した。得られた塩化ビニル樹脂顆粒の評価結果を表1に示す。
【0048】
(比較例3)
実施例1のアトマイザイー回転数を12500rpmに変更した以外は実施例1と同様の手法で噴霧乾燥した。得られた塩化ビニル樹脂顆粒の評価結果を表1に示す。
【0049】
(比較例4)
実施例1のアトマイザイー回転数を10000rpmに変更した以外は実施例1と同様の手法で噴霧乾燥した。得られた塩化ビニル樹脂顆粒の評価結果を表1に示す。
【0050】
(比較例5)
実施例1のアトマイザイー回転数を22500rpm、乾燥用空気入口温度を135℃、乾燥用空気出口温度を75℃に変更した以外は実施例1と同様の手法で噴霧乾燥した。得られた塩化ビニル樹脂顆粒の評価結果を表1に示す。
【0051】
(比較例6)
CHEMPLAST社のCP172SGの評価結果を表1に示す。
【0052】
(比較例7)
USOLIEKHIMPROM社のE−6642の評価結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
比較例1は、粒子径が13μmと小さい為に、リブ山の成型後、コーティングローターのリブ溝に樹脂顆粒が残留し易く、好ましくない。リブ山の欠損率20%(判定:×)。
【0055】
比較例2は、比較例1よりは粒子径は大きいが、22μmと小さい為に、コーティングローターのリブ溝に樹脂顆粒が残留し易く、好ましくない。リブ山の欠損率12%(判定:△)。
【0056】
比較例3は、粒子径が53μmと大きい為に、粉体の流動性が良くなり過ぎて形成したリブ山が崩れ、好ましくない。リブ山の欠損率14%(判定:△)。また、粒子径が大きいので、加熱加工時の焼結の進行が遅く、好ましくない。焼結板の機械的強度(亀裂発生間隔)4.1mm(判定:×)。
【0057】
比較例4は、粒子径が62μmと比較例3より更に大きい為に、粉体の流動性が良くなり過ぎて形成したリブ山が崩れ、好ましくない。リブ山の欠損率22%(判定:×)。また、粒子径が大きいので、焼結の進行が遅く、好ましくない。焼結板の機械的強度4.8mm(判定:×)。
【0058】
比較例5は、乾燥用空気入口温度が135℃、乾燥用空気出口温度が75℃と低い為に、一次粒子同士の融着が弱くなり、樹脂顆粒の比表面積が13.86m/gと大きく、焼結の進行が遅く、好ましくない。焼結板の機械的強度4.2mm(判定:×)。
【0059】
比較例6は、樹脂顆粒の比表面積が6.51m/gと大きい為に、焼結の進行が遅く、好ましくない。焼結板の機械的強度3.1mm(判定:△)。
【0060】
比較例7は、粒子径が22μmと小さい為に、リブ山の成型後、コーティングローターのリブ溝に樹脂顆粒が残留し易く、好ましくない。リブ山の欠損率22%(判定:×) また、樹脂顆粒の比表面積が6.66m/gと大きい為に、焼結の進行が遅く、好ましくない。焼結板の機械的強度2.9mm(判定:△)。
【0061】
実施例1〜4は、粒子径が27〜34μm、比表面積が0.8m/g以下である、の両方の条件を満足するため、主にバッテリーセパレーター用途に用いられる、塩化ビニル樹脂顆粒としての品質が特に好ましい。リブ山の欠損率2〜5%(判定:○)、焼結板の機械的強度2.1〜2.2mm(判定:◎)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細懸濁重合又は乳化重合で得られた塩化ビニル樹脂の水性分散液を、噴霧乾燥して得られた塩化ビニル樹脂顆粒であって、粒子径が23〜50μm、比表面積が1m/g以下である塩化ビニル樹脂顆粒。
【請求項2】
粒子径が27〜34μm、比表面積が0.8m/g以下、安息角が25〜48度である請求項1記載の塩化ビニル樹脂顆粒。
【請求項3】
微細懸濁重合又は乳化重合で得られた塩化ビニル樹脂の水性分散液を、噴霧乾燥機を用いて塩化ビニル樹脂顆粒を製造する方法であって、乾燥用空気入口温度が170〜250℃、乾燥用空気出口温度が75〜100℃であり、得られた塩化ビニル樹脂顆粒の粒子径が23〜50μmであることを特徴とする塩化ビニル樹脂顆粒の製造方法。
【請求項4】
乾燥用空気入口温度が175〜200℃、乾燥用空気出口温度が80〜95℃であることを特徴とする請求項3記載の塩化ビニル樹脂顆粒の製造方法。

【公開番号】特開2008−184602(P2008−184602A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21902(P2007−21902)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】