説明

塩基配列決定方法

【課題】転写シークエンス法を利用する方法であって、鋳型の増幅を簡便に行える新たな方法とし、従来の方法に比べて、より簡便かつ迅速に塩基配列の決定が可能な方法を提供すること。
【解決手段】鎖置換型DNAポリメラーゼを用いる遺伝子増幅方法により目的遺伝子を増幅し、得られた増幅反応物に含まれるDNAを鋳型とし、RNAポリメラーゼを用い、かつ3'-デオキシヌクレオチドまたは標識された3'-デオキシヌクレオチドを含む基質を用いてイン・ビトロ転写反応を行ない、生成したRNAを用いて目的遺伝子の配列を決定する方法。前記遺伝子増幅方法に用いるいずれか一方の内部プライマーは、ループ部分に前記RNAポリメラーゼに対応したプロモーター配列を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基配列決定方法に関する。さらに詳細には、本発明は、鎖置換型DNAポリメラーゼを用いる遺伝子増幅方法とイン・ビトロ転写反応を組み合わせて用いる塩基配列決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物の遺伝子配列を決定する技術の発展は、耐熱性DNAポリメラーゼを用いたPCR法とともに生物ゲノムをすべて解析することを可能にした。この技術的発展によって、2004年10月に、ヒトの全ゲノム配列が解読された[Stein,L.D. Nature, 431:915(2004)(非特許文献1)]。しかし、実際に解読された塩基配列には、機能のわからない遺伝子が多数あることが判明し、現在ではその遺伝子の機能解析を目的とした研究が盛んになっている。この未知遺伝子の機能解析方法のひとつとして、ゲノム配列を他の生物のものと比較するという比較ゲノム学が盛んになっている。そのひとつの例としてチンパンジーゲノム解析を例に挙げることができる [The international Chimpanzee Chromosome 22 Consortium. Nature, 429(6990):382(2004)(非特許文献2)]。これは、ヒトに近いチンパンジーのゲノムとヒトのそれを比較することによって、遺伝子の機能を類推しようとするものである。この方法は、様々な生物由来の遺伝子の比較をすることによって、その生物の持っている特徴的な性質に関わる遺伝子の機能を類推可能とし、非常に有効な方法である。しかし、比較したい生物のゲノム解析が前提であり、非常に多くの塩基配列を決定する必要がある。従って、まだまだ塩基配列を決定しようとする需要は今後も減ることはないであろう。
【0003】
ゲノムプロジェクト推進の恩恵として、自動塩基配列決定装置が一般の研究室にも普及し、利用しやすくなってきたこと(例えば、アプライド・バイオシステム株式会社製のABI Prism 3100 Genetic Analyzer など代表的な装置である)、それに付随して、データ生産あたりの単価が下がっていること、さらに塩基配列データを高速に処理するコンピューター、あるいはソフトが次々に開発されて、塩基配列データを使った大量の遺伝子解析も身近になってきている。
【0004】
上記自動塩基配列決定装置で用いられている塩基配列決定方法は、DNAポリメラーゼを用いるダイデオキシ法であるが、塩基配列決定作業に先立って、PCR産物の精製を必要とする、という欠点がある。それに対して、塩基配列決定作業に先立って、PCR産物の精製なしに直接使用して、質のよいシークエンス結果を得るための方法として転写シークエンス法(transcriptional sequencing)が開発された[Sasaki,N., et al. Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 95(7):3455(1998)(非特許文献3、WO96/14434(特許文献1)、特開平11−75898号公報(特許文献2)、WO99/02544(特許文献3)、特開2003-61684号公報(特許文献4)]。
【非特許文献1】Stein,L.D. Nature, 431:915(2004)
【非特許文献2】The international Chimpanzee Chromosome 22 Consortium. Nature, 429(6990):382(2004)
【非特許文献3】Sasaki,N., et al. Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 95(7):3455(1998)
【特許文献1】WO96/14434
【特許文献2】特開平11−75898号公報
【特許文献3】WO99/02544
【特許文献4】特開2003-61684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記ダイデオキシ法も転写シークエンス法も、塩基配列決定に用いる鋳型は、PCRによって増幅するか、あるいはプラスミドDNAとして宿主を用いて増幅する必要があった。PCRによる増幅は、サーマルサイクラーを必要とし、簡便に鋳型を増幅するには不適である。
【0006】
そこで本発明は、転写シークエンス法を利用する方法であって、鋳型の増幅を簡便に行える新たな方法とし、従来の方法に比べて、より簡便かつ迅速に塩基配列の決定が可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、転写反応開始に必要なプロモーター配列を導入するDNA増幅法として、Bst DNAポリメラーゼ(「DNAP」と以下略記する)等を用いたLAMP法が、増幅対象領域の配列を単位としてタンデムに繋がった様々な長さのDNA断片として増幅するため、転写反応の鋳型としても充分使用できること、およびそのための技術を見いだして本発明を完成した。本発明の方法は、LAMP法の高い特異性と高い増幅度という特徴とRNAポリメラーゼを用いる転写シークエンス法の特徴である、増幅産物の精製を必要としない点と併せて、迅速な塩基配列ベースの遺伝子解析法を提供し、新たな応用分野の開拓に繋がるものと思われる。
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、以下の通りである。
[請求項1]鎖置換型DNAポリメラーゼを用いる遺伝子増幅方法により目的遺伝子を増幅し、得られた増幅反応物に含まれるDNAを鋳型とし、RNAポリメラーゼを用い、かつ3'-デオキシヌクレオチドまたは標識された3'-デオキシヌクレオチドを含む基質を用いてイン・ビトロ転写反応を行ない、生成したRNAを用いて目的遺伝子の配列を決定する方法であって、前記遺伝子増幅方法に用いるいずれか一方の内部プライマーは、ループ部分に前記RNAポリメラーゼに対応したプロモーター配列を含む、方法。
[請求項2]プロモーター配列を含むプライマーがフォワードプライマーであり、プロモーター配列以外の塩基数が40〜50の範囲であり、前記プロモーター配列の5’末端は、プライマーの塩基配列の5’末端から20〜25番目の範囲にある請求項1に記載の方法。
[請求項3]プロモーター配列を含むプライマーがフォワードプライマーであり、プロモーター配列以外の塩基数が45であり、前記プロモーター配列の5’末端は、プライマーの塩基配列の5’末端から21番目の塩基である請求項1に記載の方法。
[請求項4]プロモーター配列を含むプライマーがバックワードプライマーであり、プロモーター配列以外の塩基数が40〜50の範囲であり、前記プロモーター配列の5’末端は、プライマーの塩基配列の5’末端から20〜25番目の範囲にある請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
[請求項5]プロモーター配列を含むプライマーがバックワードプライマーであり、プロモーター配列以外の塩基数が45であり、前記プロモーター配列の5’末端は、プライマーの塩基配列の5’末端から23番目の塩基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
[請求項6]前記鎖置換型DNAポリメラーゼがバチルス・ステアロテルモフィラス(Bacillus stearothermophilus)由来のDNAポリメラーゼである請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
[請求項7]前記増幅反応物は、精製することなくイン・ビトロ転写反応に用いられる請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、RNAポリメラーゼに対応した特異的に認識するプロモーターを持った、LAMP反応で増幅された鋳型を用いて、転写シークエンス反応が可能となった。
従って、解析したい試料のDNAが少ないときには有用であり、遺伝子の塩基配列決定を行なう研究分野、あるいは遺伝子解析を行なう研究分野でも有用である。
特に臨床材料や細菌検査を目的とした、塩基配列に基づいた遺伝子解析を行なう場合に特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の方法は、目的遺伝子の増幅を、鎖置換型DNAポリメラーゼを用いる遺伝子増幅方法により行い、得られた増幅反応物に含まれるDNAを鋳型としてイン・ビトロ転写反応を行ない、生成したRNAを用いて目的遺伝子の配列を決定する方法である。
【0011】
従来の転写シークエンス法では主に、目的遺伝子の増幅法として、PCR法[Sambrook,J., et al. Molecular Cloning -A Laboratory Manual, 3rd Ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 2001]を用いていた。それに対して、本発明では、鎖置換型DNAポリメラーゼを用いる遺伝子増幅方法[LAMP(Loop-mediated Isothermal Amplification)法]を用いる。この方法は、PCRと異なり、遺伝子DNA配列上で、目的遺伝子配列部分を挟んで対峙するように、独自の4つのオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、例えば、65℃という一定の温度で反応することを特徴とした遺伝子増幅法である。
【0012】
さらに詳細にこの遺伝子増幅法(LAMP法)を説明する。PCRは、その遺伝子増幅のためプライマー反応の開始に必ず、反応ごとにDNAの変性、再会合ステップが必要であった。それに対して、LAMP法は、使用する酵素に存在する鎖置換型活性(Strand Displacement Activity;以下、SDA)とイン・ビトロ反応時に遺伝子増幅反応の開始を可能とするループ構造を形成するように工夫されたプライマー(内部プライマーと呼ばれる)とその外側の遺伝子領域の特異的な配列に会合するプライマー(外部プライマーと呼ばれる)を含めて4本のオリゴヌクレオチドを用いる。そして、この反応を継続するための温度の昇降は必要ない。
【0013】
以上のようにプライマーを用いて行なうLAMP法は、PCRと較べると、1)増幅度が高い、2)特異性の高い増幅を行なうことが出来る[Notomi,T., et al. Nucleic Acids Res., 28(12):e63(2000);特開2002-330796]。また、同じようにSDAを持ったDNAポリメラーゼを利用した温度を一定で遺伝子増幅が可能な反応として、ICAN法[特許登録番号3433929]も開発されているが、この場合、LAMP法とは異なり、PCRと同様に2本のオリゴヌクレオチドを利用するものである。
【0014】
いずれにしても、このように等温反応の遺伝子増幅反応は、酵素に内在する鎖置換型活性を利用しているため、鋳型DNAの変性作業を必要としないため、2本鎖DNAとして遺伝子が増幅する。
【0015】
ところで、LAMP法の応用技術として、LAMP法で増幅されたDNAをRNAポリメラーゼの鋳型として用いることが知られている[特開2002-233367号公報]。しかし、この方法はLAMP法を用いて、増幅用鋳型としてプロモーターを含むヌクレオチド鎖を用いて核酸増幅反応を行うことによって、プロモーターを含むRNA発現用鋳型DNAを調製し、このプロモーターを利用して鋳型DNAからRNAを発現させることを特徴とする方法であり、プライマー内に転写反応を開始させることを可能とするためのプロモーター配列を配置することに関しては述べられていない。
【0016】
本発明の方法においては、迅速に遺伝子の配列を決定することを目的としており、目的遺伝子を増幅した後に、得られたDNAにさらに、RNAポリメラーゼに対応したプロモーター配列を付加することは現実的ではない。そこで本発明では、目的遺伝子を増幅すると同時に、その上流にRNAポリメラーゼに対応したプロモーター配列を、目的遺伝子に細工を施すことなく付加することを企画した。
【0017】
考えられる最も簡便な方法は、目的遺伝子の増幅法に用いるプライマーにRNAポリメラーゼに対応したプロモーター配列の相補的な配列を組み込むことである。しかるに、LAMP法で用いるプライマーは、PCR法におけるプライマーと異なり、プライマー配列の選択の幅が非常に狭く、余計な配列を含まないプライマーであっても、その設計は、PCR法におけるプライマーに比べれば容易ではない。LAMP法で用いるプライマー設計用のソフトが開発されている程である。
【0018】
したがって、前述のように、目的遺伝子の増幅法としてLAMP法を用いることで、PCR法によって目的遺伝子を増幅した場合に比べて、種々の利点があることは予想されたが、RNAポリメラーゼに対応したプロモーター配列の相補的な配列を組み込んだプライマーを用いて、LAMP法による目的遺伝子の増幅が可能であるかは、未知であり、そのようなプライマーの設計についても、公表されていなかった。
【0019】
それに対して、本発明者らは、種々の検討をした結果、LAMP法に用いるいずれか一方の内部プライマーのループ部分にRNAポリメラーゼに対応したプロモーター配列を含めることで、上流にRNAポリメラーゼに対応したプロモーター配列を含む目的遺伝子の配列を有するDNA断片をLAMP法によって調製できることを見いだした。
【0020】
以下、この点について、さらに詳細に説明する。
先ず転写開始に必要なプロモーター配列を付加したDNA断片をえるためのLAMP法の開発を行った。この目的のためには、増幅対象ターゲット遺伝子はせいぜい〜500塩基配列までと言われているLAMP法の増幅DNAを用いて定量的に評価する必要がある。その為に、大腸菌クローニングベクターであるpUC19に、大腸菌ファージであるλゲノム由来の異なる大きさの断片をクローン化して、数種のプラスミドを作製した。pUC19は、遺伝子クローニングベクターとして、頻繁に利用されるベクターとして知られており、1) pUC19のクローニング部位近傍の配列を利用してLAMPプライマーを設計可能で、ターゲットサイズによるLAMP反応の評価が出来ること、2) pUC19ベクターは、プロモーター配列を持たないため、プロモーター配列を付加したLAMPプライマーを用いた増幅反応の評価が出来ること、3)クローン化した配列は、既知配列であるため、転写シークエンス法による精度の評価が出来る事、等の利点がある。
【0021】
今回作製したプラスミドpULamの構造を、図1に示した。クローン化した断片は、全て塩基配列の決定を行い、λファージゲノム中の塩基配列は確認した。今回、得られたプラスミド中の断片の長さは、140、344、468、579及び636塩基対で、図中のクローン化された遺伝子は、λファージゲノム配列の番号を示した。
【0022】
そして、pULamプラスミドを鋳型とした共通LAMPプライマーを設計した。今回、設計したプライマーの詳細を図2及び図3に示している。図2には、今回設計したLAMPプライマーのpULamプラスミド上で配列特異的に水素結合する場所を示した。鋳型の配列は配列番号12に示す。図中の内部プライマーとプラスミド配列中、網掛けした配列は、反応時のループ形成を促す相補的な配列を示しており、各々、大文字と小文字で対応する配列が相補的配列であることを示している。図3には、T7RNAポリメラーゼに特異的なプロモーター配列を持った内部プライマーを含め、今回使用したLAMPプライマーの全ての配列を示した。
【0023】
LAMP反応物に17塩基からなるT7プロモーター配列を付加できれば、その増幅物をイン・ビトロ転写反応の基質として、理論的には、当然利用出来るはずである。そこで本発明では、T7プロモーターを、内部プライマーのループ部分に付加したプライマーを作成し、LAMP反応が進行するか否か、さらには、増幅したターゲット領域の一方の末端に確実にプロモーターが導入されるか否かを検討した。
【0024】
まず、図3に示すプライマーから2つの内部プライマーと2つの外部プライマーを選択し、表1に示す4種類のプライマーミックス#1〜4を作成し、LAMP反応を行った。その結果、プライマーミックス#4のみでLAMP反応が確認された。そこで、プライマーミックス#4で使用した内部プライマーのループ部分にT7プロモーターを導入したフォワードプライマーF12a−T7とバックプライマーR12a−T7を作成した。そして、表1に示す#5および#6のプライマーミックスを調製し、LAMP反応を行った。
【0025】
【表1】

【0026】
フォワード及びリバースサイドにT7プロモーターを付加した内部プライマーを用いたプライマーミックス#5および#6では、LAMPプライマーへのT7プロモーター配列の影響を見るために、様々な条件を変化させてLAMP反応について検討した。しかし、どの条件でもLAMP反応は検出されなかった。プライマーミックス#5および#6では、T7プロモーター配列の付加は、LAMP反応効率を著しく阻害したと考えられた。
【0027】
しかし、実際にシークエンス反応に用いる場合、プロモーターの付加は、ターゲット領域のいずれか一方でよいので、それぞれ、フォワード及びリバースサイドに付加するためのプライマーミックス#7及び#8を構成した(表1参照)。その結果、プライマーミックス#7及び#8については、LAMP反応が起こる条件があった。
【0028】
表1に示すLAMPプライマーの組合せを示したが、その各々について、LAMP反応を様々な条件(鋳型量、プライマー量等)で検討した結果、LAMP反応が確認できたのは、#4以外に、#7及び#8の組合せであった。
【0029】
上記結果に基づいて、プライマーミックス#7または#8を用いて得られたLAMP産物を鋳型として、イン・ビトロ転写反応を行った(図4)。この図に示した例は、LAMP反応後、特段の精製操作もしない反応産物を用い、イン・ビトロ転写反応で特異的に得られたRNAであるかどうか確認するために、転写反応物をDNaseおよびRNase処理を行い確認し、アガロース電気泳動で検出した例を示している。この結果、#7及び#8のプライマーミックスを使用して得られたLAMP産物を鋳型としたイン・ビトロ転写物は、DNase処理では、ほとんど泳動像に変化は見られないが、RNaseで処理すると、低分子核酸に分解された。従って、確かにLAMP反応物にT7RNAポリメラーゼの認識するプロモーターが導入され、イン・ビトロ転写反応の基質として充分機能することが確認された。
【0030】
次に、このプロモーター配列を含んだLAMP産物を鋳型として、転写シークエンス法を用いて配列解析を行った。転写シークエンス法試薬は、CUGA7 Sequencing Kit (ニッポンジーンテク社製)を使用し、ABI 310 Genetic Analyzerを用いて、反応産物を解析した。その結果、図5に示すように、シークエンス可能であることが示された。
【0031】
鎖置換型DNAポリメラーゼには、以下のようなものが知られている。また、これらの酵素の各種変異体についても、それが配列依存型の相補鎖合成活性と鎖置換活性を有する限り、本発明に利用することができる。ここで言う変異体とは、酵素の必要とする触媒活性をもたらす構造のみを取り出したもの、あるいはアミノ酸の変異等によって触媒活性、安定性、あるいは耐熱性を改変したもの等を示すことができる。Bst DNAポリメラーゼ、Bst DNAポリメラーゼラージフラグメント(LAMP法に使用されている酵素であり、5’−3’エキソヌクレアーゼ活性がない)、Bca(exo-)DNAポリメラーゼ、E.coli DNA ポリメラーゼIのクレノウ・フラグメント、Vent DNAポリメラーゼ、Vent(Exo-)DNAポリメラーゼ(Vent DNAポリメラーゼから5'-3'エクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)、DeepVent DNAポリメラーゼ、DeepVent(Exo-)DNAポリメラーゼ、(DeepVent DNAポリメラーゼから5'-3'エクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)、Φ29ファージDNAポリメラーゼ、MS-2ファージDNAポリメラーゼ、Z-Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造)、KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡績)。
【0032】
これらの酵素の中でもBst DNAポリメラーゼ・ラージフラグメントやBca(exo-)DNAポリメラーゼは、ある程度の耐熱性を持ち、触媒活性も高いことから特に望ましい酵素である。本発明の反応は、望ましい態様においては等温で実施することができるが、融解温度(Tm)の調整などのために必ずしも酵素の安定性にふさわしい温度条件を利用できるとは限らない。したがって、酵素が耐熱性であることは望ましい条件の一つである。また、等温反応が可能とは言え、最初の鋳型となる核酸の提供のためにも加熱変性は行われる可能性があり、その点においても耐熱性酵素の利用はアッセイプロトコールの選択の幅を広げる。
【0033】
Vent(Exo-)DNAポリメラーゼは、鎖置換活性と共に高度な耐熱性を備えた酵素である。ところでDNAポリメラーゼによる鎖置換を伴う相補鎖合成反応は、1本鎖結合タンパク質(single strand binding protein)の添加によって促進されることが知られている(Paul M.Lizardi et al, Nature Genetics 19, 225-232, July,1998)。この作用を本発明に応用し、1本鎖結合タンパク質を添加することによって相補鎖合成の促進効果を期待することができる。たとえばVent(Exo-)DNAポリメラーゼに対しては、1本鎖結合タンパク質としてT4 gene 32が有効である。
【0034】
なお3'-5'エクソヌクレアーゼ活性を持たないDNAポリメラーゼには、相補鎖合成が鋳型の5'末端に達した部分で停止せず、1塩基突出させた状態まで合成を進める現象が知られている。本発明では、相補鎖合成が末端に至ったときの3'末端の配列が次の相補鎖合成の開始につながるため、このような現象は望ましくない。しかし、DNAポリメラーゼによる3'末端への塩基の付加は、高い確率でAとなる。したがって、dATPが誤って1塩基付加しても問題とならないように、3'末端からの合成がAで開始するように配列を選択すれば良い。また、相補鎖合成時に3'末端がたとえ突出してしまっても、これを消化してblunt endとする3'→5'エクソヌクレアーゼ活性を利用することもできる。たとえば、天然型のVent DNAポリメラーゼはこの活性を持つことから、Vent(Exo-)DNAポリメラーゼと混合して利用することにより、この問題を回避することができる。
【0035】
一連の反応は、酵素反応に好適なpHを与える緩衝剤、酵素の触媒活性の維持やアニールのために必要な塩類、酵素の保護剤、更には必要に応じて融解温度(Tm)の調整剤等の共存下で行うことが適当である。緩衝剤としては、Tris-HCl等の中性から弱アルカリ性に緩衝作用を持つものが適宜用いられる。pHは使用するDNAポリメラーゼに応じて適宜調整する。塩類としてはKCl、NaCl、あるいは(NH4)2SO4等が、酵素の活性維持と核酸の融解温度(Tm)調整のために適宜添加される。酵素の保護剤としては、例えば、ウシ血清アルブミンや糖類が利用される。
【0036】
更にDNAポリメラーゼ反応時のプライマーと鋳型DNAとの融解温度(Tm)の調整剤には、ベタイン(N,N,N,-trimethylglycine)、プロリン、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと省略する)、あるいはホルムアミドが一般に利用される。融解温度(Tm)の調整剤を利用することによって、前記オリゴヌクレオチドのアニールを限られた温度条件の下で調整することができる。更にベタインやテトラアルキルアンモニウム塩は、そのisostabilize作用によって鎖置換効率の向上にも有効である。ベタインは、反応液中0.2〜3.0 M、好ましくは0.5〜1.5 M程度の添加により、本発明の核酸増幅反応の促進作用を期待できる。これらの融解温度の調整剤は、融解温度を下げる方向に作用するので、塩濃度や反応温度等のその他の反応条件を考慮して、適切なストリンジェンシーと反応性を与える条件を適宜設定することができる。
【0037】
Tm調整剤を利用することにより、酵素反応に好適な温度条件を容易に設定することができる。Tmはプライマーと標的塩基配列の関係によって変動する。したがって、酵素活性を維持できる条件と、本発明の条件を満たすインキュベーションの条件とが一致するように、Tm調整剤の使用量を調整することが望ましい。本発明の開示に基づいて、プライマーの塩基配列に応じて適切なTm調整剤の使用量を設定することは、当業者にとって自明である。たとえば、アニールする塩基配列の長さとそのGC含量、塩濃度、およびTm調整剤の濃度に基づいて、Tmを算出することができる。
【0038】
このような条件下における2本鎖の核酸に対するプライマーのアニールは、おそらく不安定であると推測される。しかし鎖置換型のポリメラーゼとともにインキュベートすることにより、不安定ながらアニールしたプライマーを複製起点として相補鎖が合成される。相補鎖が合成されれば、プライマーのアニールは次第に安定化されることになる。
【0039】
反応時間、融解温度との関係
LAMP法における反応は、鋳型となる1本鎖の核酸に対して、以下の成分を加え、各プライマーを構成する塩基配列が相補的な塩基配列に対して安定な塩基対結合を形成することができ、かつ酵素活性を維持しうる温度でインキュベートすることにより進行する。インキュベート温度は50〜75℃、好ましくは55〜70℃であり、インキュベート時間は1分〜10時間、好ましくは5分〜4時間である。
【0040】
内部プライマーに含められるRNAポリメラーゼに対応したプロモーター配列は、RNAポリメラーゼの種類に応じて適宜決定できる。転写シークエンス方法に用いるRNAポリメラーゼは、野生型および変異型のRNAポリメラーゼであることができ、例えば、特開平11−75867号公報、特開2003-61683号公報等に記載されている。そして、プロモーター配列としては、例えば、T7ポリメラーゼプロモーター、hsp16-2プロモーター、sv40プロモーター、CMVプロモーターが挙げられる。
【0041】
本発明においては、内部プライマーは、ループ部分に前記RNAポリメラーゼに対応したプロモーター配列を含むものである。具体的には、プロモーター配列を含むプライマーがフォワードプライマーであり、プロモーター配列以外の塩基数が40〜50の範囲であり、前記プロモーター配列の5’末端は、プライマーの塩基配列の5’末端から20〜25番目の範囲にあることができる。特に、プロモーター配列を含むプライマーがフォワードプライマーであり、プロモーター配列以外の塩基数が45であり、前記プロモーター配列の5’末端は、プライマーの塩基配列の5’末端から21番目の塩基であることができる。
【0042】
また、ループ部分に前記RNAポリメラーゼに対応したプロモーター配列を含む内部プライマーは、プロモーター配列を含むプライマーがバックワードプライマーであり、プロモーター配列以外の塩基数が40〜50の範囲であり、前記プロモーター配列の5’末端は、プライマーの塩基配列の5’末端から20〜25番目の範囲にあることができる。特に、プロモーター配列を含むプライマーがバックワードプライマーであり、プロモーター配列以外の塩基数が45であり、前記プロモーター配列の5’末端は、プライマーの塩基配列の5’末端から23番目の塩基であることができる。
【0043】
尚、内部プライマーにおけるプロモーター配列以外の配列(本来のプライマー配列)および外部プライマーの配列は、鋳型の配列を考慮して、適宜、決定することができる。
【0044】
本発明の方法において、転写シークエンス方法(転写反応、電気泳動、及びDNA領域の読み取り)、転写シークエンス方法に用いるRNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼの基質やターミネーターである3'-デオキシヌクレオチドや標識された3'-デオキシヌクレオチドは、公知のものをそのまま利用でき、例えば、転写シークエンス方法についてはWO96/14434、特開平11−75898号公報、WO99/02544、特開2003-61684号公報、RNAポリメラーゼについては特開平11−75867号公報、特開2003-61683号公報、ターミネーターについては特開平11−80189号公報に記載の物を利用することができる。
【0045】
本発明のDNAの塩基配列決定方法は、(1)RNAポリメラーゼ、このRNAポリメラーゼのためのプロモーター配列を有する鋳型DNA及び前記RNAポリメラーゼの基質を用いて核酸転写反応物を得る工程、(2)得られた核酸転写反応物を分離する工程、及び(3)得られた分離分画から核酸の配列を読み取る工程を含む。
RNAポリメラーゼのためのプロモーター配列を含むDNA断片を鋳型として、RNAポリメラーゼを用いて核酸転写生成物を酵素的に合成する方法、核酸転写生成物の分離方法、さらには分離された分画から核酸の配列を読み取る方法は、RNAポリメラーゼのためのプロモーター配列を含むDNA断片を含む鋳型の調製方法以外は、原理的には何れも公知の方法である。従って、これらの点に関して、基本的には、いずれの公知の方法及び条件、装置等も適宜利用することができる。
【0046】
(1)核酸転写反応物を得る工程
鋳型となるDNA断片には、RNAポリメラーゼのためのプロモーター配列を含むこと以外、特に制限はない。例えば、プロモーター配列を含むDNA断片は、ポリメラーゼ連鎖反応により増幅したDNA生成物であることができる。さらに、増幅したDNA生成物から、ポリメラーゼ連鎖反応に用いたプライマー及び/又は2'デオキシリボヌクレオシド5'トリフォスフェート及び/又はその誘導体を除去することなしに、本発明の方法における核酸転写生成反応を行うことができる。上記DNA増幅のための反応は、PCR法として広く用いられている方法をそのまま用いることができる。また、プロモーター配列を含むDNA断片は、プロモーター配列と増幅対象のDNA断片とをライゲーションした後、適当な宿主を用いてクローニングされたDNA断片であることもできる。即ち、本発明において、増幅の対象であるDNA配列、プライマー、増幅のための条件等には特に制限はない。
【0047】
例えば、プロモーター配列を含むDNA断片の増幅のためのポリメラーゼ連鎖反応の反応系として、10〜50ngのゲノミックDNA又は1pgのクローンされたDNA、10μMの各プライマー、200μMの各2’デオキシリボヌクレオシド5’トリフォスフェート(dATP、dGTP、dCTP、dTTP)を含む20μl容量中でDNAポリメラーゼとして、例えばTaqポリメラーゼ等を用いて行うことができる。
【0048】
但し、ポリメラーゼ連鎖反応のためのプライマーのいずれか一方又は増幅された挿入(insert)DNAが、後述するRNAポリメラーゼのためのプロモーター配列を含む必要がある。ダイレクト転写シーケンス法では、PCR法において、2種類のプライマーのいずれか一方にファージプロモーター配列を持っているプライマーを用いるか、又は増幅された挿入DNA内にファージプロモーター配列を持たせることで、得られるPCR生成物はそのプロモーターにより働くRNAポリメラーゼを用いるin vitro転写に付すことができる。
【0049】
RNAポリメラーゼのためのプロモーター配列は、用いるRNAポリメラーゼの種類に応じて適宜選択することができる。但し、2つのファージ由来のプロモーター、例えば、T7及びT3ファージがそれぞれ特異的に認識する2つのプロモーターを鋳型の各鎖に導入することで、転写シークエンス反応時にいずれかのRNAポリメラーゼを選択するだけで、このターゲットDNAの両末端の配列データを解析することが可能である。
【0050】
本発明の方法ではプロモーター配列を含むDNA断片からRNA転写物等の核酸転写物をLAMP法で合成する。DNA断片は、RNAポリメラーゼのためのプロモーター配列を含むので、このプロモーター配列が変異型RNAポリメラーゼを起動させてRNA転写物等の核酸転写物を合成する。
【0051】
RNA転写物等の核酸転写物の合成は、後述する変異型RNAポリメラーゼの基質として、少なくとも3'−デオキシヌクレオチドまたは蛍光標識3'−デオキシヌクレオチド(3’dNTP誘導体)が含まれる基質を用いる。より具体的には、基質は、ATP、GTP、CTP及びUTP又はこれらの誘導体からなるリボヌクレオシド5’トリフォスフェート(NTP)類、並びに1種又は2種以上の3’dNTP誘導体を用いる。尚、3’dNTP誘導体は、本明細書においては、3’dATP、3’dGTP、3’dCTP、3’dUTP及びこれらの誘導体の総称として用いる。リボヌクレオシド5’トリフォスフェート(NTP)類としては、その一部がATP等の誘導体である場合も含めて、塩基が異なる少なくとも4種類の化合物が転写物の合成に必要である。但し、同じ塩基を含む2種以上の化合物を用いることはできる。
【0052】
転写生成物であるRNA又は核酸の3’末端には、3’dNTP誘導体が取り込まれることにより、3’ヒドロキシ基が欠落し、RNA又は核酸の合成が阻害される。その結果、3’末端が3’dNTP誘導体である種々の長さのRNA又は核酸断片が得られる。塩基の異なる4種類の3’dNTP誘導体について、それぞれ、このようなリボヌクレオシド・アナログ体を得る。このリボヌクレオシド・アナログ体を4通り用意することで、RNA又は核酸配列の決定に用いることができる〔Vladimir D. Axelred er al. (1985) Biochemistry Vol. 24, 5716-5723 〕。
【0053】
尚、3’dNTP誘導体は、1つの核酸転写反応に1種類又は2種以上を用いることができる。1種のみの3’dNTP誘導体を用いて1つの核酸転写反応を行う場合、核酸転写反応を4回行うことで、3’末端の3’dNTP誘導体の塩基の異なる4通りの転写生成物を得る。1回の核酸転写反応で、3’末端の3’dNTP誘導体は同一で、分子量の異なる種々のRNA又は核酸断片の混合物である転写生成物が得られる。得られた4通りの転写生成物について、独立に、後述する分離及び配列の読み取りに供することができる。また、4通りの転写生成物の2種以上を混合し、この混合物を分離及び配列の読み取りに供することもできる。
【0054】
1回の核酸転写反応に2種以上の3’dNTP誘導体を同時に用いると、1つの反応生成物中に、3’末端の3’dNTP誘導体の塩基の異なる2通り以上の転写生成物が含まれることになる。これを後述する分離及び配列の読み取りに供することができる。核酸転写反応に2種以上の3’dNTP誘導体を同時に用いると、核酸転写反応操作の回数を減らすことができるので好ましい。
【0055】
本発明では、特に、RNA等の核酸転写が、塩基の異なる4種類の3’dNTP誘導体によりターミネートされ、これを分離して、4種類の塩基の配列を一度に(同時に)読み取ることが好ましい。
【0056】
(2)核酸転写反応物を分離する工程
本発明の方法では、RNA又は核酸転写生成物を分離する。この分離は、転写生成物に含まれる分子量の異なる複数の生成物分子を、分子量に応じて分離することができる方法で適宜行うことができる。このような分離方法としては、例えば電気泳動法を挙げることができる。その他にHPLC等も用いることができる。
【0057】
電気泳動法の条件等には特に制限はなく、常法により行うことができる。転写生成物を電気泳動法に付することにより得られるバンド(RNA又は核酸ラダー)からRNA又は核酸の配列を読み取ることができる。
【0058】
(3)核酸の配列を読み取る工程
RNA又は核酸ラダーの読み取りは、3’dNTP誘導体を標識することにより行うことができる。また、RNA又は核酸ラダーの読み取りは、リボヌクレオシド5’トリフォスフェート(NTP)類を標識することにより行うこともできる。標識としては、例えば、放射性若しくは安定同位元素又は蛍光標識等を挙げることができる。
【0059】
具体的には、例えば、標識された3’dNTP誘導体、より具体的には、標識された3’dATP、3’dGTP、3’dCTP及び3’dUTPを用い、転写生成物を電気泳動に付して得られるバンドの放射性若しくは安定同位元素又は蛍光を検出することで、転写生成物の配列を読み取ることができる。このように3’dNTP誘導体を標識することで、いずれのバンド間の放射性強度又は蛍光強度にばらつきがなく、測定が容易になる。さらに放射性若しくは安定同位元素又は蛍光を発生するラダーの検出は、例えば、DNAの塩基配列決定に用いている装置(このような装置は、一般にDNAシーケンサーと呼ばれる)を適宜用いて行うことができる。
【0060】
放射性若しくは安定同位元素又は蛍光標識されたATP、GTP、CTP及びUTPを用い、電気泳動に付して得られるバンドの放射性若しくは安定同位元素又は蛍光を検出することでも転写生成物の配列を読み取ることができる。
【0061】
さらに、異なる蛍光で標識された3’dATP、3’dGTP、3’dCTP及び3’dUTPを用い、末端が3’dATP、3’dGTP、3’dCTP又は3’dUTPであり、異なる標識がなされた種々の転写生成物断片の混合物を電気泳動に付して得られるバンドの4種類の蛍光を検出することでRNA又は核酸の配列を読み取ることもできる。
【0062】
この方法では、4種類の3’dNTPをそれぞれ異なる蛍光で標識する。このようにすることで、3’末端の異なる4種類の転写生成物の混合物を電気泳動に付することで、3’末端の4種類の異なる3’dNTPに応じた蛍光を発するバンドが得られ、この蛍光の違いを識別しながら、1度に4種類のRNA又は核酸の配列を読み取ることができる。蛍光標識した3’dNTPとしては、例えば、特開平11−80189号公報及びWO99/02544に記載された3'デオキシリボヌクレオチド誘導体を用いることが好ましい。
【実施例】
【0063】
[実施例1]pULANの構築
LAMP法で増幅した鋳型がサイクルシークエンス法や転写シークエンス法の鋳型として使用できるかどうか評価するためには、増幅対象配列のサイズはせいぜい500塩基対程度と言われており、定量的な評価が必要である。従って、大腸菌クローニングベクターpUC19に既知配列DNAとして、大腸菌ファージであるλファージDNA由来の長さの異なる断片をクローン化して、数種のプラスミドを以下のように作製した。ここで特に記載のない場合、実験方法及び使用した緩衝液等は、[Sambrook,J., et al. Molecular Cloning -A Laboratory Manual, 3rd Ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 2001]を参照し、あるいは作製した。
【0064】
既知配列のクローン化したいDNA断片は、λファージゲノムDNAを制限酵素PvuII(ニッポンジーン社製)で切断し、1%アガロースL(ニッポンジーン社製)で電気泳動を行い、100〜1000塩基対のDNA断片を含むアガロース断片を切り出し、ジーンピュア(ニッポンジーン社製)を用いて精製、最終的に20μlのTE緩衝液に溶解した。 このように調製されたDNA断片は、予め制限酵素HincII(ニッポンジーン社製)で切断し、脱リン酸化されたpUC19 DNAと混合し、タカラ・バイオ社製のライゲーションキットを用い、キットに添付されているプロトコールに従い、ライゲーション反応を行った。反応体積8μlとして、16℃、30分間行い、そのうちの1μlを大腸菌DH5aにエレクトロポレーション法にて導入、IPTG、X-gal、アンピシリンを含んだ寒天平板培地に塗布し、37℃で一晩保温し、白色コロニーの形質転換体を多数得た。この形質転換体を楊枝で少量を取り、プライマーとしてFPuc1 (5'-CTGCAAGGCGATTAAGTTGG-3')(配列番号13)とRPuc1 (5'-GCTATGACCATGATTACGCC-3')(配列番号14)を用いてPCR反応を行った (この方法は、コロニーから分取した菌体を直接使用することから、コロニーPCRと呼ばれる)。このPCR産物は1%アガロース電気泳動を行い、青色コロニーから得られたPCR産物よりもサイズの大きな形質転換体を多数得ることができた。これらはいずれもλファージDNA由来のDNAを含んでいるクローンと予想されるが、形質転換コロニーからプラスミドDNAを抽出し、クローン化されているDNA断片の塩基配列を決定した所、すべてがλファージDNA由来の配列であることを確認した。得られたプラスミドは、pULamと命名し、そのクローン化されたDNA断片の大きさの順に、pULam4, 3, 2, 12及び14であり、それぞれインサートの大きさは、140、344、468、579及び636塩基対である(図1)。
【0065】
[実施例2]pLam DNAを鋳型としたLAMP法に使用するプライマーの設計
pULam DNAは、それぞれインサートサイズの異なるだけでその他の配列は共通であり、このインサートDNAを挟む形のLAMPプライマーを設計した。この設計には、最終的にプロモーター配列を導入したLAMPプライマーを設計することが目的である。ここで、このプロモーター配列を導入するプライマーは、原理的に、内部プライマーのループ部分とした。
【0066】
図2には、今回設計したLAMPプライマーのpULamプラスミドDNA上で配列特異的に水素結合する場所を示した。図中の内部プライマーとプラスミド配列中、網掛けした配列は、反応時のループ形成を促す相補的な配列を示しており、各々、大文字と小文字で対応する配列が相補的配列であることを示している(たとえば、R1aとr1a)。図3には、T7RNAポリメラーゼに特異的な内部プライマーを含め、今回使用したLAMPプライマーの全ての配列を示した。
【0067】
実際の設計は、先ずプロモーター配列を含まないLAMPプライマーを用いて、LAMP反応物が得られた組み合わせを選び、次にその内部プライマーのループ部分に17塩基対から成るT7RNAポリメラーゼが特異的に認識するプロモーター配列を挿入した。
【0068】
具体的には以下の通りである。pULam4 DNAを鋳型として、pULam4DNA 1ng, 20mM Tris-HCl, pH 8.0, 10mM KCl, 10mM (NH4)SO4, 2mM MgSO4, 0.1% Triton-X, 1.6μM Forward inner primer(内部プライマーのうち、最初にFと表記), 1.6μM Backward inner primer(内部プライマーのうち、最初の文字をRと表記), 0.4μM Forward outer primer (F3), 0.4μM Backward outer primer(R3)の反応系(25μL)で、DNAポリメラーゼの添加前に95℃ 5分間処理し、4℃まで急冷したのち、Bst DNA ポリメラーゼ・ラージフラグメント(NEB)を8単位添加、直ちに60℃で一時間反応した。反応終了後、1%アガロースゲル電気泳動を行い、泳動後、エチジウムブロミド(最終濃度100μg/ml)で染色し、その泳導像により、LAMPがうまく進行しているかどうかを確認した。その結果、LAMPプライマーミックス#4のみに増幅が認められた。従って、この組合せに使用した内部プライマーのF12a及びR12aのループ部分に17塩基からなるT7プロモーター配列を導入し、それぞれ付加したF12a-T7及びR12a-T7を設計した。この検討の後、、T7RNAポリメラーゼ配列を含む内部プライマーを含むLAMPプライマーミックス#7および#8を用いたときに増幅することがわかった。この場合、先に示した反応時の濃度でプロモーター配列を持ったプライマーを使用したとき、増幅が見られず、終濃度3.6μMで増幅することが判った。表1に今回、検討したすべてのLAMPプライマーの組合せを示した。また、この表にはその組合せとその組合せを用いたときのLAMP反応の成績を記した。その結果は、#4、#7及び#8でLAMP反応が観察され、プロモーター配列を挿入したLAMP反応が行えることが判明した。
【0069】
また、pULam4, 3, 2, 12及び14 DNAは、それぞれインサートの大きさは、140、344、468、579及び636塩基対であるが、何れもLAMP反応が行えることを確認した。
【0070】
[実施例3]pULamを用いたイン・ビトロ転写反応
pULam4 DNAを鋳型として、LAMPプライマーミックス#7と#8で反応体積20μl でLAMP反応を行った。この反応に使用するプロモーター配列を含む内部プライマーの終濃度は3.6μM である。反応は、60℃、一時間行い、反応液から1μlを1%アガロース電気泳動で増幅しているかどうか確認した。増幅を確認後、同じ反応液から4μlを取り、T7RNAポリメラーゼ20単位(インビトロゲン)、反応体積 40μl、 37℃、一時間反応した。反応終了後、10μlづつ3本の新しいプラスチックチューブに分割し、DNaseあるいはRNaseAをおのおの1μl加えて、さらに37℃、30分間保温する。反応終了後、反応物すべてを1%アガロース電気泳動して、LAMP法増幅物を鋳型にしてイン・ビトロ転写が可能かどうか確認した。その結果、RNaseA処理したとき、顕著に低分子化する核酸が検出され、従ってこれはRNAであることがわかる。しかし、T7RNAPを添加しないときには、この分子は見られないので、プロモーター配列を導入したLAMPプライマーを用いたLAMP増幅物は、確かにイン・ビトロ転写の基質になることが確認された。
【0071】
[実施例4]pULamを鋳型としたLAMP増幅物による転写シークエンス反応
LAMP反応で得られたプロモーター配列が導入されたLAMP増幅物をサイクルシークエンス法の鋳型として、先ず、塩基配列決定ができるかどうか調べた。LAMP反応は、実施例3で示した条件と同条件で行い、反応液の半分量(10μl)をモノファスDNA精製キットI(ジーエル・サイエンス社製)を用いて精製し、最終的にキットに添付されている10μlの溶出液で溶出し、精製DNA溶液とした。この溶出液のうち、1μlを用い、サイクルシークエンスキット(BigDye Kit)を用いて、サイクルシークエンス反応を行った。反応後、反応物はQiagen Kitを用いて、精製し、ABI 3100 genetic analyzerを用いて、塩基配列の決定を行った。その結果、pULam4のインサートDNAである、λファージゲノムの一部の配列であることを確認した。従って、LAMP法で増幅した鋳型は、サイクルシークエンスの鋳型として利用できることがわかった。
【0072】
また、残りの反応液のうち、2μlを用いて、転写シークエンス反応を行った。反応は、転写シークエンス法の試薬キットであるCUGA7 Sequencing Kit for ABI PRISM 310 Genetic Analyzer(ニッポンジーン)を用いて、マニュアルのプロトコルどおりに反応した。本キットは、T7プロモーターを認識するT7RNAポリメラーゼが含まれているキットである。転写シークエンス反応後、サンプルはマニュアルで推奨しているエタノール沈殿法で精製し、ABI 310 Genetic Analyzerを用いて解析した。その結果を図5に示す。この結果から、LAMP法で増幅した鋳型を用いた転写シークエンスが可能であることを示した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、遺伝子の塩基配列決定を行なう研究分野、あるいは遺伝子解析を行なう研究分野で有用である。特に臨床材料や細菌検査を目的とした、塩基配列に基づいた遺伝子解析を行なう場合に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】作製したプラスミドpULamの構造を示す。
【図2】設計したLAMPプライマーのpULamプラスミド上で配列特異的に水素結合する場所を示す。
【図3】T7RNAポリメラーゼに特異的なプロモーター配列を持った内部プライマーを含め、今回使用したLAMPプライマーの全ての配列を示した。
【図4】プライマーミックス#7または#8を用いて得られたLAMP産物を鋳型として、イン・ビトロ転写反応を行った結果(電気泳動写真)。
【図5】実施例4における、転写シークエンス反応物のABI 310 Genetic Analyzerを用いての解析結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎖置換型DNAポリメラーゼを用いる遺伝子増幅方法により目的遺伝子を増幅し、
得られた増幅反応物に含まれるDNAを鋳型とし、RNAポリメラーゼを用い、かつ3'-デオキシヌクレオチドまたは標識された3'-デオキシヌクレオチドを含む基質を用いてイン・ビトロ転写反応を行ない、
生成したRNAを用いて目的遺伝子の配列を決定する方法であって、
前記遺伝子増幅方法に用いるいずれか一方の内部プライマーは、ループ部分に前記RNAポリメラーゼに対応したプロモーター配列を含む、方法。
【請求項2】
プロモーター配列を含むプライマーがフォワードプライマーであり、プロモーター配列以外の塩基数が40〜50の範囲であり、前記プロモーター配列の5’末端は、プライマーの塩基配列の5’末端から20〜25番目の範囲にある請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プロモーター配列を含むプライマーがフォワードプライマーであり、プロモーター配列以外の塩基数が45であり、前記プロモーター配列の5’末端は、プライマーの塩基配列の5’末端から21番目の塩基である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
プロモーター配列を含むプライマーがバックワードプライマーであり、プロモーター配列以外の塩基数が40〜50の範囲であり、前記プロモーター配列の5’末端は、プライマーの塩基配列の5’末端から20〜25番目の範囲にある請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
プロモーター配列を含むプライマーがバックワードプライマーであり、プロモーター配列以外の塩基数が45であり、前記プロモーター配列の5’末端は、プライマーの塩基配列の5’末端から23番目の塩基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記鎖置換型DNAポリメラーゼがバチルス・ステアロテルモフィラス(Bacillus stearothermophilus)由来のDNAポリメラーゼである請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記増幅反応物は、精製することなくイン・ビトロ転写反応に用いられる請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−271250(P2006−271250A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94321(P2005−94321)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年12月10日 第27回日本分子生物学会年会組織委員会主催の「第27回 日本分子生物学会年会」において文書をもって発表
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】