説明

塩酸パロキセチン含有製剤およびその製造方法

【課題】変色を抑え、煩雑な工程を用いることなく含量均一性に優れた塩酸パロキセチン含有製剤及びその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】塩酸パロキセチンを含有する製剤を湿式造粒法にて製造する際に、使用する溶媒がエタノール、または、エタノールと水の混合溶媒であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変色を抑えるとともに含量均一性に優れた塩酸パロキセチン含有製剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩酸パロキセチンはうつ病・うつ状態、パニック障害に効能、効果を有する薬物として世界中の多くの国で販売されている。
塩酸パロキセチンを含有する製剤は、しばしばピンク色に発色することが認められ、これを防止する方法として特許第3037757号公報に水の存在しない処方・製法を用いて錠剤化することが開示されている。
これは、塩酸パロキセチンの乾燥直接打錠または塩酸パロキセチンの乾燥造粒後、錠剤に圧縮するものである。
しかしながら、乾燥直接打錠法は、一般的に、薬理活性成分とその他の賦形剤などとの偏析を起こしやすく、錠剤中の薬理活性成分の含量がばらつきやすい欠点を有する。
塩酸パロキセチンは水に溶けにくい性質を有し、適切な溶解性を確保するには粒子径を小さくするなど工夫が必要であり、賦形剤は、打錠工程で適度な流動性を確保するため粒子径の大きいものを選択する必要が生じる。
従って塩酸パロキセチン粒子と賦形剤粒子との粒子径の違いやみかけ比重の違いが要因となり打錠工程で塩酸パロキセチン粒子と賦形剤との偏析が生じやすくなる。
一方、塩酸パロキセチンを乾燥造粒後、錠剤に圧縮する方法は、上記含量均一性を考慮した製法であると思われるが、一般的には、乾燥造粒後は粉砕機を用いた解砕工程、篩を用いた整粒工程が必要となり、工程が煩雑になる。また、打錠工程で錠剤硬度が低くなるなどの欠点を有する。
【0003】
【特許文献1】特許第3037757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、変色を抑え、煩雑な工程を用いることなく含量均一性に優れた塩酸パロキセチン含有製剤及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、従来技術に内在する課題を解決するため鋭意検討したところ、湿式造粒法の際、使用する溶媒をエタノール、またはエタノールと水の混合溶媒を用いることで製造中の変色防止、製剤後の変色防止及び製剤中の塩酸パロキセチン含量均一性が良好な製剤を得ることができることを見出した。
なお、エタノールと水との混合溶媒の場合には、変色を抑える観点から水の量が少ない方がよく理想的には、水の混合割合を50%以下にするのがよい。
本発明における湿式造粒法とは、溶媒としてエタノール、またはエタノールと水の混合液を用い、塩酸パロキセチンとその他医薬用添加剤を混合した粉体に対して、一括添加やスプレー等の操作で粒状物にするものであり、練合造粒法、押出造粒法、攪拌造粒法、流動層造粒法と称される方法が挙げられる。
塩酸パロキセチンと混合される医薬用添加剤は特に限定されることはなく、目的に応じて配合することができ、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、着色剤、甘味剤、界面活性剤などが挙げられる。
賦形剤としては乳糖、D−マンニトール、トウモロコシデンプンなどのデンプン類、結晶セルロースなどのセルロース類、リン酸水素カルシウムなどが挙げられる。
崩壊剤としてはカルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドンなどが挙げられる。
結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、などが挙げられる。
これら結合剤は塩酸パロキセチンと混合し造粒機内に入れることもできるし、エタノール、またはエタノールと水の混合液中に溶解させ加えることもできる。
湿式造粒法で得られた造粒末は、滑沢剤と混合し散剤や細粒剤の形態にできるし、硬カプセルに充填することでカプセル剤とすることもできる。
また、打錠機を用いて錠剤の形態とすることもできる。
錠剤はそのまま素錠の形態でもよいし、適当なフィルム層を錠剤表面にコーティングすることでフィルムコーティング錠とすることもできる。
望ましい形態はフィルムコーティング錠剤である。フィルムコーティングは通常、錠剤のコーティングに使用されるコーティングパンを用い、具体的にはハイコーター(商品名)、ドリアコーター(商品名)などによりコーティング錠を製造することができる。
コーティング層に用いる成分は特に限定されることはないが、フィルム形成可能な水溶性高分子化合物を含む組成物からなることが好ましい。
水溶性高分子化合物としてはヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、などが挙げられる。
その他、必要に応じてポリソルベート80(商品名)、マクロゴール類などのフィルム可塑剤、タルク、酸化チタン、各種着色剤などを配合することも可能である。
湿式造粒法で得られた造粒末は、塩酸パロキセチンと各医薬品添加剤とが、ほぼ均一な状態で存在することから、最終製剤に仕上げた際には、塩酸パロキセチン含有量にばらつきが少ない製剤が得られる。
塩酸パロキセチンは無水物あるいは1/2水和物の形態が知られているが、本発明の塩酸パロキセチンはこれらいずれの形態にも用いることができる。
本発明の方法で製造した塩酸パロキセチン含有製剤、とりわけ錠剤は、40℃及び75%相対湿度下に開放状態で保存したとき従来の技術である乾燥直接打錠法で製した錠剤と比較して、錠剤の変色具合に差はなく、同等な保存安定性を保持している。
【発明の効果】
【0006】
錠剤の変色の少ない塩酸パロキセチン錠を製造する方法としては乾燥直接打錠法あるいは乾燥造粒後、錠剤に圧縮する方法が公知であったが、湿式造粒法でも造粒溶媒としてエタノール、またはエタノール・水混合溶媒を用いることで公知の方法と同等の変色の少ない錠剤が得られる。
また、本発明の方法で製剤化した錠剤は塩酸パロキセチンの含量バラツキが少なく、品質的に優れた製剤を容易に製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に実施例、比較例を示し本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0008】
(素錠の製造)
塩酸パロキセチン無水物44.4g、リン酸水素カルシウム(商品名リカミットU100)615.2g、カルボキシメチルスターチナトリウム30.0gを秤量し、ビニル袋内で混合後流動層造粒機(マルチプレックスMP−01、株式会社パウレック製)に入れる。
エタノール140gにヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L)7.0gを溶解させ、これを噴霧しながら流動層造粒を行う。
造粒品を乾燥したのち22M篩で篩過整粒する。
篩過整粒品626.9g及びステアリン酸マグネシウム3.06gを秤量しビニル袋内で混合したのち、ロータリー打錠機にて1錠350mgの素錠を得た。
(フィルムコーティング錠の製造)
精製水100gにヒドロキシプロピルメチルセルロース2910(商品名TC−5RW)5g、マクロゴール6000を0.7g溶解させたのち、さらにタルク0.5g、酸化チタン0.8gを添加し、フィルムコーティング溶液を調製した。
素錠1000錠相当(350g)をハイコーターラボ(フロイント産業製)に投入し、フィルムコーティング液を噴霧しフィルムコーティング錠を得た。
【実施例2】
【0009】
(素錠の製造)
塩酸パロキセチン無水物44.4g、リン酸水素カルシウム(商品名リカミットU100)555.2g、カルボキシメチルスターチナトリウム30.0gを秤量しビニル袋内で混合後流動層造粒機(マルチプレックスMP−01、株式会社パウレック製)に入れる。
エタノール70g、水70gの混合溶媒にヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L)7.0gを溶解させ、これを噴霧しながら流動層造粒を行う。
造粒品を乾燥したのち22M篩で篩過整粒する。
篩過整粒品572.9g及びステアリン酸マグネシウム3.06gを秤量しビニル袋内で混合したのち、ロータリー打錠機にて1錠320mgの素錠を得た。
(フィルムコーティング錠の製造)
精製水100gにヒドロキシプロピルメチルセルロース2910(商品名TC−5RW)5g、マクロゴール6000を0.7g溶解させたのち、さらにタルク0.5g、酸化チタン0.8gを添加し、フィルムコーティング溶液を調製した。
素錠1000錠相当(320g)をハイコーターラボに投入し、フィルムコーティング液を噴霧しフィルムコーティング錠を得た。
【実施例3】
【0010】
(素錠の製造)
塩酸パロキセチン無水物44.4g、無水リン酸水素カルシウム555.2g、カルボキシメチルスターチナトリウム30.0g、ヒドロキシプロピルセルロース7.0gを攪拌造粒機(バーチカルグラニュレーターVG−01、株式会社パウレック製)に入れ、攪拌混合する。
エタノール100gを攪拌造粒機内に添加し高速攪拌しながら造粒した。
造粒物は流動層乾燥機で乾燥後、22M篩過した。
篩過整粒品572.9g及びステアリン酸マグネシウム3.06gを秤量しビニル袋内で混合したのち、ロータリー打錠機にて1錠320mgの素錠を得た。
【実施例4】
【0011】
(素錠の製造)
塩酸パロキセチン1/2水和物45.5g、無水リン酸水素カルシウム554.1g、カルボキシメチルスターチナトリウム30.0gを秤量しビニル袋内で混合後流動層造粒機(マルチプレックスMP−01、株式会社パウレック製)に入れる。
エタノール140gにヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L)7.0gを溶解させ、これを噴霧しながら流動層造粒を行う。
造粒品を乾燥したのち22M篩で篩過整粒する。
篩過整粒品572.9g及びステアリン酸マグネシウム3.06gを秤量しビニル袋内で混合したのち、ロータリー打錠機にて1錠350mgの素錠を得た。
(フィルムコーティング錠の製造)
精製水100gにヒドロキシプロピルメチルセルロース2910(商品名TC−5RW)5g、マクロゴール6000を0.7g溶解させたのち、さらにタルク0.5g、酸化チタン0.8gを添加し、フィルムコーティング溶液を調製した。
素錠1000錠相当(350g)をハイコーターラボ(フロイント産業製)に投入し、フィルムコーティング液を噴霧しフィルムコーティング錠を得た。
【0012】
(比較例1)
(素錠の製造)
塩酸パロキセチン無水物44.4g、リン酸水素カルシウム(商品名リカミットU100)562.2g、カルボキシメチルスターチナトリウム30.0g、を秤量しビニル袋内で混合する。
さらにステアリン酸マグネシウム3.4gを秤量し、上記混合物と混合した後、ロータリー打錠機にて1錠320mgの素錠を製造した。
(フィルムコーティング錠の製造)
精製水100gにヒドロキシプロピルメチルセルロース2910(商品名TC−5RW)5g、マクロゴール6000を0.7g溶解させたのち、さらにタルク0.5g、酸化チタン0.8gを添加し、フィルムコーティング溶液を調製した。
素錠1000錠相当(320g)をハイコーターラボ(フロイント産業製)に投入し、フィルムコーティング液を噴霧しフィルムコーティング錠を得た。
【0013】
(試験例1)
実施例1〜4及び比較例1で製造した錠剤を無包装状態で40℃及び75%相対湿度のインキュベータに保存し、週毎の経時的な錠剤表面の色調変化を色差計(機種名CM−3500d:ミノルタ製)にて測定した。
結果を図1の表に示し、表中保存期間(W)は週単位の保存期間を示す。
実施例1〜4及び比較例1で製造した錠剤はいずれもΔE値が小さく、色調変化は開始時と比較して大きな変化は認められず白色を保っていた。
実施例2は、エタノール:水=1:1の混合溶媒を用いたものであるが変色が少なく、実施例3は、コーティングのない素錠であるが造粒時の変色もなく、3週間の色差変化も少なく白色のままであった。
このことから、実施例1〜4の各錠剤は、比較例1に示した従来技術である乾燥直接打錠法と同等な錠剤変色防止効果を有していることが確認された。
【0014】
(試験例2)
(錠剤含量均一性試験)
錠剤をサンプリングし、水4mLを加えて超音波処理し、錠剤を完全に崩壊した後、メタノールを加えて正確に20mLとする。
この液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過する。
初めのろ液5mLを除き、次のろ液5mLを正確に量り、内標準溶液5mLを正確に加え、メタノールを加えて50mLとし、試料溶液とする。
別に塩酸パロキセチン水和物標準品約0.056g(パロキセチンとして約0.05g)を精密に量り、メタノールを加えて溶かし、正確に50mLとする。この液5mLを正確に量り、内標準溶液5mLを正確に加え、メタノールを加えて50mLとし、標準溶液とする。
試料溶液及び標準溶液10μLにつき、下記の条件で液体クロマトグラフ法により試験を行い、内標準物質のピーク面積(Q)に対するパロキセチンのピーク面積(Q)を求める。
(試験条件)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:295nm)
カラム:内径4.6mm、長さ25cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフ用トリメチルシリル化シリカゲルを充てんする。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:pH5.5の酢酸・酢酸アンモニウム緩衝液/アセトニトリル/トリエチルアミン混液(60:40:1)
流量:パロキセチンの保持時間が約5分になるように調整する。
このようにして求めたQ/Qの値から図2に示した計算式に基づいてパロキチセン(C1920FNO)の量を測定した結果、標準偏差は0.6と非常に小さく、錠剤としての含量バラツキが少ないことが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】各錠剤の変色調査結果を示す。
【図2】パロキチセンの量を求める計算式を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノール、または、エタノールと水の混合溶媒を用いて湿式造粒法にて製造されたものであることを特徴とする塩酸パロキセチン含有製剤。
【請求項2】
塩酸パロキセチンが無水物であることを特徴とする請求項1記載の塩酸パロキセチン含有製剤。
【請求項3】
塩酸パロキセチンが1/2水和物であることを特徴とする請求項1記載の塩酸パロキセチン含有製剤。
【請求項4】
製剤は錠剤であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の塩酸パロキセチン含有製剤。
【請求項5】
造粒溶媒にエタノール、又はエタノールと水の混合溶媒を用いて湿式造粒することを特徴とする塩酸パロキセチン含有製剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−186450(P2007−186450A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5565(P2006−5565)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(592073695)日医工株式会社 (21)
【Fターム(参考)】