説明

境界層遷移1を検出するための発振素子センサ

本発明は、フロー(12)が当たり得るボディ(16)におけるフロー状態を検出するための、フロー状態センサ(10)に関する。構造簡単であり、評価しやすいフロー状態センサ(10)は、本発明によれば、そのフロー状態の少なくとも1つの所定周波数特性を検出する、少なくとも1個の周波数検出デバイス(20)を特徴とする。周波数検出デバイス(20)は、フロー(12)による共鳴発振運動(30)で励起し、所定周波数特性適合する、特に所定周波数特性に対応する共鳴周波数または固有周波数を有する、少なくとも1個の発振素子(22;22a,22b,22c)を備える。フロー測定デバイス(62)、およびフロー測定方法に、フロー状態センサ(10)を使用すること、およびフロー状態センサ(10)のための有利な製造方法を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロー(流れ)が当たるボディにおける、フローの状態を検出するフロー状態センサに関する。さらに、本発明は、複数個のこのようなフロー状態センサを有するフロー測定デバイスと、フロー状態センサおよびフロー測定デバイスの製造方法と、ならびに、このようなフロー状態センサで行うフロー測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フロー状態の研究は、航空機、特に、翼(ウィング)特性の計画および設計のために、重要である。M. Gad-el-Hak氏による、非特許文献1(「Flow Control: Passive, Active and Reactive Flow Management」, Cambridge University Press, 2002)内で詳細に説明されているように、特に、層流制御およびハイブリット層流制御の技術においては、巡航飛行中の、オペレーション中の翼におけるフロー状態の研究が望ましい。この場合の目的は、層流状態から乱流状態へのフローの遷移を決定し、また突きとめることである。
【0003】
航空機の翼(または、一般的に、空気が周囲を流れるボディ)上において、表面と外側フローの間に、速度境界層を生じ、この層が、とりわけボディの摩擦抵抗を上昇させる。境界層は、初め、層状であり、低抵抗である。波動特性(Tollmien-Schlichting wave)を有する極めて小さい擾乱は、増大する境界層に伝播することにより増大される。それにより、乱流境界層への、したがって、より大きな抵抗への遷移を引き起こす。それらの妨害波の周波数は、流体および流速に依存する。風洞試験において、それらは、一般的に、10Hz〜30kHzの間である。集中的な取り組みが、翼および尾翼における層流から乱流への変化(遷移)を、翼におけるより奥方位置に移動させて、摩擦抵抗を低減することに対して、世界中で行われている。
【0004】
特に、このような取り組みまたは類似の研究開発プロジェクトにおいて、摩擦抵抗を低減する新しい技術および航空機形状の有効性を決定するよう、風洞試験および飛行試験で遷移を正確に決定することが重要である。
【0005】
従来技術においては、異なるセンサタイプのアレイを使用して、風洞試験および飛行試験における遷移を測定する。例えば、非特許文献2(F. Hausmann:「Entwicklung einer Multisensor- Heiβfilmtechnik zur Transitionserkennung im Reiseflug」, Dissertation RWTH Aachen, 2004)は、熱フィルムセンサの使用を記載し、非特許文献3(W. Nitsche, A. Brunn: 「Stromungsmesstechnik」, 2nd edition, Springer Verlag, 2006)では、熱ワイヤ流速計、ポリフッ化ビリニデン膜センサおよびマイクロホンの使用が、この目的で提案されている。
【0006】
これら従来技術のフロー状態センサは、すべて共通して、比較的複雑な構造を有するという欠点がある。他の欠点としては、これらセンサは、すべてアナログによるセンサ信号を発生し、このことにより、各センサ素子の幾何学的な構成配置において、「層流(laminar)」か、または「非層流(non-laminar)」か、を決定するために、信号の面倒な増幅、高いサンプリングレートおよび、それ故、詳細なデータ収集およびデータ評価が必要となる点ある。このことは、非特許文献4(I. Peltzer: 「Flug- und Windkanalexperimente zur raumlichen Entwicklung von Tollmien-Schlichting-lnstabilitaten in einer Flvgelgrenzschicht」, Dissertation TU Berlin, 2004)に、より詳細に記載されている。
【0007】
さらに、熱ワイヤセンサおよび熱フィルムセンサは、高いエネルギー消費を有し、複雑な電子およびデータ評価を必要とする。特に、熱的な動作原理を有するセンサは、多くの場合、閉じた制御ループ内で、動作する。例えば、一定温度に固定され、例えば、一定温度を保持するために必要な電圧を測定し、この電圧がセンサ信号として作用する。比較的多量の電力が、このようなセンサを動作させるのに必要である。
【0008】
特許文献1(米国特許第5272915号)は、気流感知システムを開示しており、このシステムにおいて、熱フィルムセンサは、センサに加わる電圧を所定レベルに維持する低電圧フィードバック回路により駆動する。遷移気流は、50〜80Hzの低周波数通過帯域における、大きなエネルギーを有する信号によって、乱気流と区別される。信号処理回路は、3色LEDディスプレイを駆動し、検出している気流タイプの可視表示を行う。特許文献1の第1の問題点は、50〜80Hzの通過帯域におけるエネルギーの存在を検出するために、帯域通過フィルタを必要とすることである。特許文献1の第2の問題点は、一般的に、1kHz以上の周波数を有する大きなエネルギー量である、完全な乱気流状態を、信頼性高く検出できないということである。
【0009】
圧力センサも、原理的には、フローが当たるボディにおけるフロー状態を決定する能力があるが、この圧力センサ、振動および構体に由来する音響、ならびに温度の影響を受け易い。さらに、圧力センサは、高度な動的測定に対して、例えば、飛来するフローの高い流速における遷移を確定することに対して、十分な感度を有していない。フロー測定の分野で既に使用されている、ロバスト動的圧力センサは、多くの場合、遷移測定に使用するのに必要な感度を有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5272915号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】M. Gad-el-Hak: 「Flow Control: Passive, Active and Reactive Flow Management」, Cambridge University Press, 2002
【非特許文献2】F. Hausmann:「Entwicklung einer Multisensor- Heiβfilmtechnik zur Transitionserkennung im Reiseflug」, Dissertation RWTH Aachen, 2004
【非特許文献3】W. Nitsche, A. Brunn: 「Stromungsmesstechnik」, 2nd edition, Springer Verlag, 2006
【非特許文献4】I. Peltzer: 「Flug- und Windkanalexperimente zur raumlichen Entwicklung von Tollmien-Schlichting-lnstabilitaten in einer Flvgelgrenzschicht」, Dissertation TU Berlin, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、簡単な構造のフロー状態センサ、および、フローが当たるボディにおいてフロー状態を検出するための簡単なフロー測定法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、添付の特許請求の範囲における請求項1に記載の特徴を有するフロー状態センサと、このフロー状態センサにより構成し、添付の特許請求の範囲における請求項18に記載の特徴を有するフロー測定デバイスと、および添付の特許請求の範囲における請求項23に記載のステップを備え、フロー測定デバイスで実施できるフロー測定方法により実現される。
【0014】
従属請求項は、本発明の好適な実施形態に関する。さらなる独立請求項は、フロー状態センサおよび/またはフロー測定デバイスを作製する、好適な製造方法と、このようなフロー状態センサまたはこのようなフロー測定デバイスを設けた、フローが当たり得るコンポーネントに関する。
【0015】
本発明によるフロー状態センサは、そのフロー状態の特性である、少なくとも1つの所定周波数を検出する少なくとも1個の周波数検出デバイスを特徴とし、周波数検出デバイスは、フローにより共鳴発振運動を励起することができ、また所定周波数特性に適合した、特に所定周波数特性に対応する、共鳴周波数または固有周波数を有する、少なくとも1個の発振素子を有する。
【0016】
本発明による構成により得ることができる利点を、以下に、詳細に説明する。
【0017】
フローにおける、層流から乱流状態への変化の初期兆候は、特性周波数における不安定性の発生である。フローの方向における初期の不安定性は、上述したTollmien-Schlichting波の形式で生じる。これら特性波は、フロー境界層で伝播する。それらは、飛来するフローの流速に依存する典型的な周波数を有する。
【0018】
遷移において、他の/さらなるコヒーレント構造、例えばラムダボルテックスまたはクロスフロー構造(Knornschild:「Untersuchungen zum laminar-turbulenten Transitionsprozess bei Anregung und Dampfung schraglaufender Tollmien-Schlichting- Wellen」, Dissertation TU Dresden, 2001を参照)も、フローにおいて対応する特性周波数を生じる。
【0019】
本発明の第1様態は、その知見を使用し、このような典型的な周波数の発生を感知する、フロー状態センサを提供する。このような方法により、特に(ただし排他的ではない)層流の存在または非層流状態への遷移を、特別に簡単に検出することができる。
【0020】
本発明によるフロー状態センサは、フロー状態の典型的な特性を、直接的に検出する。
【0021】
本発明の他の様態によれば、遷移を検出するために、例えば、単に、フローが層流であるか、乱流状態への遷移の初期兆候、すなわち典型的な不安定性が生じているかどうかの区別を行うだけである。そのような場合、生じている2つの状態間の区別だけであるので、面倒なデータ処理は不要である。
【0022】
概して、本発明またはその好適な実施形態によれば、フロー状態に関する情報を、迅速かつ簡単に得ることができる。データ評価にかかる手間を、小さく抑えることができる。
【0023】
一般的に、エネルギー必要量が極めて低いフロー状態センサを構成することができる。測定すべきフローに対してまったく影響を与えない、または極めて小さな影響しか与えない、フロー状態センサの構造も、可能である。
【0024】
フローが周囲を通過するボディにおけるフロー状態は、本発明による測定方法および本発明によるフロー状態センサにより、極めて簡単に、特徴付けることができる。典型的な(固有の)周波数を有するフローにおけるコヒーレント構造は、極めて簡単に、すなわちそれら周波数を直接検出することにより検出可能である。したがって、特に、異なるフロー状態間の遷移の検出も可能である。例えば、遷移は、その時生じている不安定性、たとえば、Tollmien-Schlichting波を、それらの典型的な周波数に基づいて検出することにより簡単に検出できる。
【0025】
本発明によるフロー状態センサの好適な実施形態を使用することにより、フローが周囲を通過するボディ、とくに航空機または航空機モデルのコンポーネントの表面に配置するのに適切な、フロー測定デバイスを簡単に構成し、このフロー測定デバイスは、フロー状態を空間的に解明する。このことに関連して、少なくとも1つの所定周波数を感知する、または2つの異なるフロー状態のみに反応する、フロー状態センサのアレイを設けるのが好適である。このようなフロー測定デバイスは、特に、飛行試験における使用に適切である。
【0026】
飛行試験で使用するために、できる限り簡単なセンサのアレイが有利であり、各センサは、原理的に(例えば、遷移を検出するために)、2つの状態(すなわち、センサ位置における層流状態(すなわち、フローは層流であり、状態「0」)、および、センサ位置における非層流状態(フローは非層流であり、状態「1」))しか必要としない。このような簡単なセンサ出力に基因して、多数のセンサであっても、所定フロー状態を見つけ出すための簡単なデータ評価を得ることができる。このことは、特に、予め定義できる特性周波数に関係する全てのフロー状態に対して、有用である。
【0027】
例えば、「層流(laminar)」に対して1、「遷移(transition)」に対して0、および「完全乱流(completely turbulent)」に対して1とするような、少ない数の、離散的な数の状態も可能である。したがって、好適には、フロー状態センサは、2つのフロー状態または少数の離散状態(例えば、完全な3つの状態、完全な4つの状態)の検出およびデジタル出力のために構成することができる。
【0028】
フロー状態センサは、所定の周波数で振動が励起する、少なくとも1個の共鳴センサ素子または発振素子を有する。発振素子の固有周波数または共鳴周波数は、決定すべきフロー状態の典型的な特性周波数に適合させる。例えば、固有周波数は、Tollmien-Schlichting波の周波数に適合させる、すなわち例えば、その周波数(または、その高調波)と同一またはその周波数(または、その高調波)に近似するものにする。
【0029】
異なる固有周波数を有する複数個の発振素子を設ける場合、一方では、異なる特性周波数を示す、異なるフロー状態を検出することができる。他方では、典型的な周波数が、所定パラメータの結果として変化する、フロー状態を検出することも可能である。例えば、発振素子は、異なる典型的な飛来フローの流速での、典型的なTollmien-Schlichting波に調整することができる。さらに、起こり得る状態は、生じる典型的な周波数に基づいて、より精密に特徴付けることができる。
【0030】
本発明の1つの好適な発展形によれば、少なくとも1個の発振素子は、検出すべき所定周波数を有するフローにより、機械的振動が励起する。発振素子の振動は、(例えば、容量的、または誘導的に)様々な既知の方法により検出することができる。特に好適な方法において、機械的振動エネルギーは、電気エネルギーを発生させるのに使用される。例えば、小さな発振素子の機械的振動エネルギーは、例えば、磁気素子と結合することで、1ビットのメモリ素子をセットすることができる、僅かな電気的および/または磁気的な交互場を十分生成する。そのビットは、次いで、簡単に、好適には無線で、読み出すことができる。
【0031】
したがって、フロー状態センサは、独立的に動作し、またその状態を、好適には、無線で問い合わせることができる。そのような場合、フロー状態センサは、供給および通信のための、いかなる電気的ラインをも必要としない。
【0032】
センサを作製するために、特に、微細加工技術(マイクロエンジニアリング)、より具体的には、マイクロシステムエンジニアリングまたはマイクロプロダクションエンジニアリングが、適している。微細加工技術により製造したフロー状態センサの小さい寸法に基因して、特に、複数個のフロー状態センサで構成したアレイを備える、フロー測定デバイスを製造することが可能であり、これにより、フローが周囲を通過する、ボディの表面上で、正確な空間的測定が可能となる。微細加工技術による製造は、さらに、フロー状態センサを、低い高さで作製できるという利点を示す。このことは、フロー状態センサ、またはこのようなフロー状態センサの複数個から形成したフロー測定デバイスを、例えば、航空機または航空機モデルの翼のような、コンポーネントの表面一体化すると、有利である。
【0033】
さらに、周波数検出デバイスの振動特性、特に、少なくとも1個の発振素子における共鳴周波数は、マイクロテクノロジー処理工程により、適合させることができる。一方では、共鳴は、周波数検出デバイスの構成配置、特に、発振素子の構成配置により、適応させることができる。さらに、振動に影響を与えるために、マイクロテクノロジーにより、特定の方法で、材料を適用できる。例えば、薄い層を適用することにより、フロー状態センサの発振素子における機械的応力、したがって、その振動特性に、影響を与えることができる。
【0034】
フロー状態センサを、周波数検出に干渉する外部振動および構造的振動から分断する特別な目的のために、減衰デバイスを設けると好適である。減衰デバイスを適切にレイアウトすることにより、フロー信号のみを検出する。
【0035】
上述のように、本発明の1つの好適な実施形態によれば、共鳴振動のために構成した振動する構造素子により生成したエネルギーを利用できる可能性がある。特に、共鳴振動の場合、そのエネルギーを使用して、フローが、もはや層流でないということを示す信号を生成する。そのときにのみ、共鳴を生じる特性周波数が存在するので、そのときにのみ共鳴構造が反応する。反応により生成したエネルギーは、例えばメモリにおいて、単独ビットをセットするのに十分である。
本発明の実施例を、以下添付図面につき、詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】共鳴フロー状態センサにおける第1実施形態の概略的な基本斜視図である。
【図2】共鳴フロー状態センサにおける第2実施形態の概略的な基本斜視図である。
【図3】フローが周囲を通過するコンポーネントに使用した、図2に示す第2実施形態によるフロー状態センサの概略的な断面図である。
【図4】フローが周囲を通過するコンポーネント内に組み込んだ、複数個の図3に示すフロー状態センサで構成したフロー測定デバイスの概略的な基本説明図である。
【図5】図4に示したフロー測定デバイスの縦断面図である。
【図6】共鳴フロー状態センサにおける第3実施形態の概略的な基本斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は、フロー12が当たるボディ16の表面14におけるフロー状態センサ10の第1実施形態を示す。ボディ16は、例えばフローが周囲を通過する、航空機のコンポーネント、特に飛行試験を行う、翼のコンポーネント(または、尾翼のコンポーネントまたは胴体のコンポーネント)または、例えば風洞試験に使用される航空機モデルの、コンポーネント18である。
【0038】
フロー状態センサ10は、フロー12における所定の周波数を検出するための周波数検出デバイス20を有する。周波数検出デバイス20は、検出すべき周波数に適合する固有周波数で振動することができる共振素子または発振素子22を有する。この目的で、図示の実施形態において、発振素子22は、細長い形状で、代表的には、2mm以下の長さを有する。図示の実施例において、発振素子22は、一方の端部26で固定し、自由な遊端28で上下に振動する、湾曲した薄い細条24、バーまたはカンチ(片持ち)レバーである。検出すべき周波数が生じた場合、自由な端部である遊端28は、共鳴振動運動30として、振動する。一般的に、発振素子は、1kHz以上の共鳴周波数または固有周波数を有する。発振素子を飛行試験に使用する場合、共鳴周波数は、好適には1kHz〜10kHzの間である。発振素子を風洞試験に使用する場合、共鳴周波数は、30kHzにも達するより高いものとすることができる。
【0039】
発振素子は、気流(エアフロー)方向に整列する、または気流に向かって指向するものとすることができる。代替的に、気流に対して角度をなる方向に整列する、または表面14から離れる方向に延在させるか、表面14に平行に延在させることができる。全ての場合において、発振素子の振動運動は、その長さに交差する方向の曲げ運動である。
【0040】
振動運動30は、エネルギー発生デバイス32により検出することができる。このエネルギー発生デバイスは、図1における実施形態では、遊端28における、この場合磁気層34の形式とした磁気材料、および表面14における導電体36を有する。導電体36は、振動運動30、および結果として生ずる磁気材料の相対的な運動が、電圧を誘発するよう構成し、この電圧により、取り付けたメモリ素子38のビットを設定することができる。次いで、このビットを、無線で評価デバイス40が問い合わせる。
【0041】
エネルギーは、電磁的にだけでなく、他の既知の方法、例えば薄い圧電層で圧電的にも、検出することができる。他の実施形態のエネルギー発生デバイス32(図示せず)は、したがって、圧電素子を有し、この圧電素子は振動運動を、ビット設定に適したエネルギーの形式に変換する。
【0042】
図1に示すフロー状態センサ10の第1実施形態の場合、発振素子22は、フローが周囲を通過するボディ16におけるフローが当たる表面14に取り付ける。したがって、発振素子22は、フロー12と最適に調和する。
【0043】
しかし、このような場合、発振素子22が、発振素子22の下流側でフロー12に影響を与える可能性もある。
【0044】
このような影響を回避する、または低減するために、操作可能な減衰ユニット42を設け、この減衰ユニット42によって発振素子の振動運動を減衰させる、または外部操作により完全に抑止する。本明細書に記載する一実施形態において、減衰ユニット42は、エネルギー発生デバイス32における上述した素子34,36を利用する。例えば、導電体36に電圧を印加することにより、減衰または抑止目的で磁気層に作用する磁界を発生する。減衰ユニット42により、発振素子22が応答した後の、発振素子22のさらなる振動による、フローにおける起こりうる影響を回避できる。
【0045】
代替的に、または付加的に、制限素子44を設け、この制限素子44により、共振の場合における振動の増幅を、フロー12への影響が無視できる程度に制限する。制限素子44は、例えば、遊端28における止め部によって、形成する。図示の実施例において、止め部は、表面14によって簡単に形成され、細条24は、フロー12に大きな影響を与えるにはまだ不十分な、所定振動振幅でスタートし、遊端28が表面14に衝合して止まる形式とする。
【0046】
図2において、フロー状態センサ10における第2実施形態を示す。同一参照符号を、対応する部分に使用する。フロー状態センサ10を、外部環境条件から、より良く保護するために、共鳴センサ素子、特に少なくとも1個の発振素子22を、ダイアフラム48のフローから背反する側面46に配置する。発振素子22は、この場合、製造中に固有周波数を設定するよう適切に構成した、複数層よりなる多層の細条24として、構成する。
【0047】
図3はコンポーネント18内に内蔵した、第2実施形態によるフロー状態センサ10を示す。フロー状態センサ10は、減衰デバイス52により、振動に関して、コンポーネント18から分断する、ハウジング50を有する。減衰デバイス52は、ハウジング50と共に、コンポーネント18における、キャビティ54内に内蔵し、構造上の振動およびコンポーネント18の振動を効率よく減衰する、減衰層56および減衰材料60を有する。
【0048】
ダイアフラム48により、フロー12から遮蔽されるようカバーされる、ハウジング50内の中空空間58に、発振素子22を配置し、したがって、発振素子22は環境の影響から極めてよく保護される。この場合も、発振素子22は、複数層の細条24dの形式とする。細条24dの振動特性は、複数層の細条24dの構成により、影響される。
【0049】
動作にあたり、ダイアフラム48はフロー12により振動し、この振動がキャビティ54内の空気圧変動により発振素子22に伝達される。所定周波数が生ずるとき、共鳴振動を生じ、この共鳴振動は、第1実施形態につき説明したのと同様に、検出し、また評価デバイス40に伝送する。
【0050】
図2および3に示したフロー状態センサ10をカプセル化する変更をした実施形態は、フロー12が、振動している発振素子22によってそれ以上に励起されない、または、フロー状態が変化しないという、付加的な利点をもたらす。
【0051】
特に好適な実施形態において、ダイアフラム48の共鳴周波数は、この場合、細条24dの形式とした、発振素子22の共鳴周波数に適合させる。
【0052】
いずれにしても、ダイアフラム48は、その動きが、フロー12にできるだけ小さい影響しか与えない、または全く影響を与えないが、取り付けられた発振素子22は励起するよう構成する。
【0053】
発振素子22を設ける位置は、測定すべき振動、または測定すべき周波数の最大伝達を保証する必要性から、できるだけ正確に、事前に決定する。配置決めは、測定すべき特定の周波数に依存する。有利には、製造に先だち、ダイアフラム48における振動モデルのシミュレーション計算を、このために行い、特定の所望の所定周波数に対する最大伝達位置を決定する。
【0054】
センサ素子(この場合、細条24,24d)が、内部に配置されている、中空空間58は、その寸法を、所望の共鳴周波数に適合するものとする。特別なハウジング50が、適切な振動または音響特性となるよう、所望の中空空間58をもたらすよう作用する。
【0055】
減衰デバイス52は、ハウジング50と可撓性のダイアフラム48の間に、減衰材料60を有し、この減衰材料60により、構造上の振動が、ダイアフラム48および共鳴発振素子22に伝達することを回避し、測定結果を誤らせること回避する。同様に、ハウジング50自体は、適切な構築または上述した減衰層56により、できる限りハウジングの振動がセンサ素子22に伝達しないよう、構成することができる。
【0056】
図4および5において、複数個のフロー状態センサ10で構成したフロー測定デバイス62を示す。フロー測定デバイス62は、各フロー状態センサ10の位置で、層流状態または非層流状態を検出するよう、所定空間的分布に配列した、フロー状態センサ10のアレイを有する。フロー測定デバイスは、コンポーネント18の表面14に一体化する。
【0057】
フロー測定デバイス62のフロー状態センサ10は、好適には、微細製造技術により、ともに製造される。このため、フロー測定デバイス62は、互いに結合した、2個の基板64および66から形成する。
【0058】
第1基板64は、特に、シリコンのような半導体材料、またはポリマーフィルムから形成する。読み出し機構68および関連する端子74を含む、共鳴発振素子22を設ける可撓性のダイアフラム48を、第1基板64に設ける。
【0059】
例えば、ポリマー膜のような、好適には、薄く可撓性の基板の内に、または基板上に共鳴センサを作製できる可能性は、例えば、翼への適用にとって、とても有利であり、これはなぜなら、センサを、例えば航空機のようなコンポーネントに後付けすることができ、また風洞試験においては、モデルに適用させる必要性なく、モデルに装着できるからである。
【0060】
読み出し機構68は、図示の実施形態において、容量的に読み出しを行うよう構成する。この目的で、細条24,24dは、少なくとも1層の導電性材料70を有する、または、このような導電性材料で形成する。遊端28は、固定した導電体ブレード72にオーバーラップさせる。このようにして、キャパシタを形成し、そのキャパシタンスは、導電体ブレード72と、遊端28における導電性材料との間の距離により変化する。したがって、キャパシタンス変動を測定する、または決定することにより、振動運動30を検出することができる。
【0061】
キャビティ54または中空空間58、およびめっきした貫通孔76を、第2基板68に形成し、電気的端子74およびラインを接続する。
【0062】
つぎに、2個の基板64,66を接着ボンドにより、ぴったりと正確に結合する。
【0063】
製造中、発振素子22に、所定固有振動数を付与する。固有振動数に対する変更は、材料の付加または除去によって、および/または発振素子22の形状および/または寸法を変化させることにより行うことができる。固有振動数は、フロー状態センサ10が、コンポーネント18に対して行う、各測定において予期される、Tollmien-Schlichting波の周波数に適合させ、これにより、これら周波数が性共鳴振動を励起するようにする。
【0064】
図6において、フロー状態センサ10の第3実施形態も示す。第3実施形態において、周波数検出デバイス20は、細条24a,24b,24cの形式に類似の、複数個の発振素子22a,22b,22cを有するが、これら発振素子22a,22b,22cは互いに異なる固有振動数を有するという点において、第2実施形態と異なる。したがって、周波数検出デバイス20は、複数の異なる共鳴周波数に対して感受性がある。このようにして、典型的な周波数のさらに正確な特性評価を行うことができる。
【0065】
一般的に、フロー状態の所定タイプの周波数特性発生は、図面に示したフロー状態センサ10により検出することができる。フロー状態センサの出力はデジタル式、すなわち周波数の存在、したがって検出すべきフロー状態の存在に対して「1」であり、存在しないことに対して「0」である。このセンサタイプの場合、2つの状態のみを評価するだけで済むので、評価デバイス40の装置は、極めて簡単である。この場合、転送すべきデータ量は、極めて少なく、したがって、無線通信は、簡単な手段を用いて行うことができる。したがって、本明細書で説明したセンサタイプは、遷移決定にこれまで使用されてきた、従来のフロー状態センサよりも明白な利点を示す。
【0066】
本明細書で説明したフロー状態センサ10は、あらゆる流体のフローの検出に適用できる。好適な用途は、特に、航空機に関して、空気におけるフロー(流れ)の検出である。しかし、フロー状態センサ10を、例えば水等、例えば、水中を移動するボディ(船舶等)に対しても使用することができる。
【0067】
本発明を、上述したように、1つ以上の好適な実施形態につき説明してきたが、当然のことながら、様々な改変または変更を、添付の特許請求の範囲において定義した本発明の範囲を逸脱することなく、行うことができる。
【符号の説明】
【0068】
10 フロー状態センサ
12 フロー(流れ)
14 表面
16 ボディ
18 コンポーネント
20 周波数検出デバイス
22 発振素子
22a 第1発振素子
22b 第2発振素子
22c 第3発振素子
24 細条
24a 第1細条
24b 第2細条
24c 第3細条
24d 多層の細条
26 固定端部
28 遊端
30 振動運動
32 エネルギー発生デバイス
34 磁気層
36 導電体
38 メモリ素子
40 評価デバイス
42 制御可能な減衰ユニット
44 制限デバイス
46 フローから背反する側の側面
48 可撓性のダイアフラム
50 ハウジング
52 減衰デバイス
54 キャビティ
56 減衰層
58 中空空間
60 減衰材料
62 フロー測定デバイス
64 第1基板(可撓性のダイアフラム)
66 第2基板(支持材料)
68 読み出し機構
70 導電性材料
72 導電体ブレード
74 端子
76 めっきした貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロー(12)が当たり得るボディ(16)における、フロー状態を検出するため、フロー状態センサ(10)において、前記フロー状態の少なくとも1つの所定周波数特性を検出する、少なくとも1個の周波数検出デバイス(20)を備え、前記周波数検出デバイス(20)は、フロー(12)により共鳴発振運動(30)を励起することができ、また前記所定周波数特性に適合し、特に前記所定周波数特性に対応する、共鳴周波数または固有周波数を有する、少なくとも1個の発振素子(22;22a,22b,22c)を有する構成とした、フロー状態センサ。
【請求項2】
請求項1に記載のフロー状態センサにおいて、複数の離散的な特性周波数を検出するため、互いに異なる共鳴または固有振動数を有する、複数個の発振素子(22a,22b,22c)を設けたことを特徴とするフロー状態センサ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフロー状態センサにおいて、前記少なくとも1個の発振素子(22a,22b,22c)を、可撓性のフィルム、またはシートの形式とした基板(64)に設けたことを特徴とするフロー状態センサ。
【請求項4】
請求項1および2に記載のフロー状態センサにおいて、前記少なくとも1個の発振素子(22,22a,22b,22c)は、前記フロー(12)に露出して前記フローが当たり得る、前記ボディ(16)の表面(14)に取り付けるよう構成したことを特徴とするフロー状態センサ。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1つに記載のフロー状態センサにおいて、前記フロー(12)が当たり得るダイアフラム(48)を設け、前記ダイアフラム(48)を、前記フロー(12)により励起された振動を検出する前記周波数検出デバイス(20)に、または前記周波数検出デバイス(20)の一部に接続したことを特徴とするフロー状態センサ。
【請求項6】
請求項5、または請求項1〜3のいずれか一項に記載のフロー状態センサにおいて、前記少なくとも1個の発振素子(22,22a,22b,22c)を、前記ダイアフラム(48)の前記フロー(12)に背反する側の側面(46)に接続および/または配置したことを特徴とするフロー状態センサ。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか一項に記載のフロー状態センサにおいて、前記少なくとも1個の発振素子(22,22a,22b,22c)は、制御可能な減衰ユニット(42)によって振動を制御した減衰および/または抑止する、および/または制限デバイス(44)によって前記少なくとも1個の発振素子(22,22a,22b,22c)の振動振幅を制限することを特徴とするフロー状態センサ。
【請求項8】
請求項1〜7のうちいずれか一項に記載のフロー状態センサにおいて、前記周波数検出デバイス(20)は、前記所定周波数で励起される機械的振動エネルギーを、電気的に利用可能なエネルギーに変換する、エネルギー発生デバイス(32)を有する構成としたことを特徴とするフロー状態センサ。
【請求項9】
請求項8に記載のフロー状態センサにおいて、前記振動エネルギーは、非層流状態を示す電気信号を発生する構成としたことを特徴とするフロー状態センサ。
【請求項10】
請求項8または9に記載のフロー状態センサにおいて、前記エネルギー発生デバイスにより状態が変化できる、少なくとも1ビットを有する、メモリ素子(38)を設けたことを特徴とするフロー状態センサ。
【請求項11】
請求項1〜10のうちいずれか一項に記載のフロー状態センサにおいて、読み出し目的のための評価デバイス(40)に無線で接続することを可能としたことを特徴とするフロー状態センサ。
【請求項12】
請求項1〜11のうちいずれか一項に記載のフロー状態センサにおいて、前記ボディ(16)から前記周波数検出デバイス(20)への振動の伝達を低減または回避する、減衰デバイス(52)を有する構成とした特徴とするフロー状態センサ。
【請求項13】
請求項1〜12のうちいずれか一項に記載のフロー状態センサにおいて、前記発振素子は、1kHz以上の、好適には30kHz以下の、より好適には10kHz以下の共鳴周波数または固有周波数を有する構成としたフロー状態センサ。
【請求項14】
請求項1〜13のうちいずれか一項に記載のフロー状態センサにおいて、前記発振素子は、細長い形状であり、一方の端を固定し、また共鳴振動運動で振動することができる、自由な遊端を有する構成としたフロー状態センサ。
【請求項15】
請求項14に記載のフロー状態センサにおいて、前記発振素子は、2mm以下の長さを有するフロー状態センサ。
【請求項16】
請求項1〜15のうちいずれか一項に記載のフロー状態センサにおいて、さらに、前記発振素子の前記共鳴振動運動を検出し、また前記共鳴振動運動の検出の際、前記ボディにおける、前記フロー状態の存在を表す出力を生成する手段を備えたフロー状態センサ。
【請求項17】
フロー(12)が当たり得るボディ(16)におけるフロー状態を検出するフロー測定デバイス(62)であって、前記フローが当たる前記ボディ(16)に順次間隔を空けて配置した複数個の測定ポイントで、フロー状態を空間的に解明するよう検出するため、請求項1〜16のうちいずれか一項に記載のフロー状態センサ(10)の複数個から構成されたアレイを備えたこと特徴とするフロー測定デバイス。
【請求項18】
フローが当たり得るコンポーネント(18)、特に風洞試験のための航空機または航空機モデルにおいて、請求項1〜16のうちいずれか一項に記載のフロー状態センサ(10)、または請求項17に記載のフロー測定デバイス(62)を、前記コンポーネント(18)における前記フロー(12)が当たり得る表面(14)の上または表面内部に設けたことを特徴とするコンポーネント(18)。
【請求項19】
請求項1〜16のいずれか一項に記載のフロー状態センサ(10)、または、請求項17に記載の前記フロー測定デバイス(62)を製造する方法において、少なくとも前記周波数検出デバイス(20)を微細製造技術によって製造することを特徴とする製造方法。
【請求項20】
請求項19に記載の製造方法において、前記周波数検出デバイス(20)を、可撓性シートの形式とした基板(64)上に製造することを特徴とする製造方法。
【請求項21】
請求項19または20に記載の製造方法において、前記周波数検出デバイス(20)における機械的発振素子(22,22a,22b,22c)の振動特性および/または固有周波数は、
・前記発振素子(22,22a,22b,22c)の形状を適合させること、および/または
・少なくとも1層の材料を、前記発振素子(22,22a,22b,22c)に塗布すること
により、設定することを特徴とする製造方法。
【請求項22】
フロー(12)が当たり得るボディ(16)におけるフロー状態を検出するための、測定方法において、2つのフロー状態、すなわち前記フローが層状である層流状態、および前記フローが非層状である非層流状態を検出するため、請求項1〜16のうちいずれか一項に記載のフロー状態センサ(10)を少なくとも1個使用することを特徴とする測定方法。
【請求項23】
請求項22に記載の測定方法において、前記周波数検出デバイス(20)は、非層流状態に前記典型的な周波数を検出するために、設定し、また典型的な周波数を検出する場合、前記非層流状態を決定し、前記典型的な周波数が検出されない場合、前記層流状態を決定することを特徴とする測定方法。
【請求項24】
請求項22または23に記載の測定方法において、前記非層流状態は、完全に乱流状態である測定方法。
【請求項25】
請求項22,23または24に記載の測定方法において、さらに、前記発振素子における前記共鳴振動運動を検出するステップと、および、前記共鳴振動運動の検出の際、前記ボディにおける、前記非層流状態の存在を示す出力を生成するステップとを備えた、測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−529574(P2011−529574A)
【公表日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−520596(P2011−520596)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050930
【国際公開番号】WO2010/013040
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(510286488)エアバス オペレーションズ リミテッド (30)
【氏名又は名称原語表記】AIRBUS OPERATIONS LIMITED
【出願人】(503025786)エーアーデーエス・ドイッチェランド・ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (8)
【Fターム(参考)】