説明

増幅器

【課題】J級増幅器の効率を向上させる。
【解決手段】入力端となるゲートG、出力端となるドレインD、及びソースSを有する電界効果トランジスタ部Trと、前記ドレインDと前記ソースSとの間に接続された容量性インピーダンス部Cdsと、を有してJ級動作を行う増幅器1であって、前記容量性インピーダンス部Cdsよりも後段に位置するように、前記ドレインDに接続されたインダクタLsと、前記インダクタLsを介して前記容量性インピーダンス部Csに並列接続されたキャパシタCsと、を有し、前記インダクタLsは、増幅器1の基本波周波数f0でのインピーダンス2πf0Lsが、前記容量性インピーダンス部Cdsのインピーダンス1/2πf0Cds以上の値に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅器に関するものであり、より具体的にはJ級動作を行う増幅器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
増幅器は、その動作によって区別され、A級、AB級、B級などといわれる。非特許文献1には、A級(Class A)、AB級(Class AB)、B級(Class B)のほか、C級(Class C)、D級(Class D)、E級(Class E)、F級(Class F)FD級(Class FD)が開示され、さらに、J級(Class J)が開示されている。
【0003】
非特許文献1におけるJ級の増幅器の基本回路は、図5に示すとおりである(非特許文献1 p71,figure4.2)。なお、図5では、電界効果トランジスタTrは、半波整流電流源として表されている。また、図5に示すRLは、基本波(ω0=2πf0)の実効負荷とし、その値は、RL=Vdc/(Imax*0.5)と表すものとする。
また、図中のId,IF,Idc,Icについては、下記式のように表される。
【数1】

【0004】
図5に示すJ級増幅器の特徴は、電界効果トランジスタTrのドレイン−ソース間にCdsが接続されているとともに、Xds=1/ω0Cdsとした場合に、Xds/RLが1を超えるように、Cdsの値が設定されていることである(非特許文献p.68)。
【0005】
また、図6は、従来のJ級増幅器の電圧電流波形(ドレイン−ソース電圧Vdsとドレイン電流Idの波形)を示している。
【非特許文献1】Steve C. Cripps,"RF Power Amplifiers for Wireless Communications",Second Edition,(米国),ARTECH House Inc,2006,p.68-77
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のJ級増幅器では、図6に示すように電圧波形Vdsと電流波形Idが対称的では無かった。つまり、ドレイン−ソース電圧Vdsとドレイン電流Idとの位相差が180°ではなかった。この結果、電圧波形Vdsと電流波形Idとの重なりが生じ、増幅器の効率に関し、改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、J級動作をする増幅器において、電圧波形と電流波形の重なりを小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、入力端となるゲート、出力端となるドレイン、及びソースを有する電界効果トランジスタ部と、前記ドレインと前記ソースとの間に接続された容量性インピーダンス部と、を有してJ級動作を行う増幅器であって、前記容量性インピーダンス部よりも後段に位置するように、前記ドレインに接続されたインダクタと、前記インダクタを介して前記容量性インピーダンス部に並列接続されたキャパシタと、を有し、前記インダクタは、増幅器の基本波周波数でのインピーダンスが、前記容量性インピーダンス部のインピーダンス以上の値に設定されていることを特徴とする増幅器である。
【0009】
上記本発明によれば、前記インダクタは、増幅器の基本波周波数でのインピーダンスが、前記容量性インピーダンス部のインピーダンス以上の値に設定されているため、電圧波形と電流波形の位相差をずらして、電圧波形と電流波形の重なりを小さくすることができる。
【0010】
また、J級動作を確保するためには、増幅器の基本波周波数をf0とし、前記容量性インピーダンス部の前記基本波周波数f0におけるインピーダンスを、Xdsとし、容量性インピーダンス部から出力側にみた前記基本波周波数f0におけるインピーダンスの実部をZ1(Re)としたときに、下記式を満たすようにすればよい。
1 < Xds/Z1(Re)
【0011】
さらに下記式も満たすようにすれば、高効率が得られる。
Xds/Z1(Re) < 2.5
【0012】
また、前記電界効果トランジスタ部は、複数の前記電界効果トランジスタを直列接続して構成され、前記容量性インピーダンス部は、各電界効果トランジスタのドレイン−ソース間に、それぞれキャパシタを接続して構成されているのが好ましい。
【0013】
さらに、前述の増幅器を複数並列接続した増幅器とすることもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、J級増幅器において電圧波形と電流波形の重なりを小さくして、効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、従来のJ級増幅器を改良した本発明の第1実施形態に係る増幅器1を示している。なお、以下では、実施形態に係る増幅器1の動作級を、「EJ級(Class EJ)」というものとする。
【0016】
図1に示すEJ級増幅器1は、例えば、無線通信用の電力増幅器として使用されるものであり、特に、GHz帯(例えば、2GHz程度)の通信に適したものである。このEJ級増幅器1は、電界効果トランジスタ部として一つの電界効果トランジスタTrを有している。この電界効果トランジスタTrのゲートGが増幅器1の入力端子Pinに接続され、ドレインDが出力端となっている。電界効果トランジスタTrのドレインD−ソースS間には、容量性インピーダンス部となる第1キャパシタCdsが接続されている。
【0017】
さらに、EJ級増幅器1は、前記第1キャパシタCdsよりも後段側に位置するように、ドレインDと出力端子Poutとの間に接続されたインダクタLsを有している。また、EJ級増幅器1は、前記インダクタLsを介して、第1キャパシタCdsに並列接続された第2キャパシタCsを有している。
【0018】
つまりEJ級増幅回路1では、電界効果トランジスタTrの出力側には、第1キャパシタCds、インダクタLs、及び第2キャパシタCsからなるC−L−Cのπ型回路が接続されている。このEJ級増幅回路1が、従来のJ級増幅回路と異なる点は、インダクタLs及び第2キャパシタCsからなるLC回路3が追加されている点にある。
なお、図1では、EJ級増幅回路1に接続される出力負荷(整合回路)をRL1として示した。
【0019】
さて、図6に示すように従来のJ級増幅器において生じていた電圧波形Vdsと電圧波形Idの重なりを小さくするため、本実施形態のEJ級増幅器1では、インダクタLsの値を適切に設定することにより、図1のインピーダンスZ0(電界効果トランジスタのドレインD・ソースSから出力側にみたインピーダンス)が容量性になるようにしている。
つまり、本実施形態では、インダクタLsの基本波周波数でのインピーダンス(2πf0Ls=ω0Ls)が、容量性インピーダンス部Cdsのインピーダンス(Xds=1/2πf0Cds=1/(ω0Cds))以上の値になるように設定されている。
つまり、本実施形態では、ω0Ls≧1/(ω0Cds)に設定されている。
【0020】
以下、従来のJ級増幅器において生じていた電圧波形Vdsと電圧波形Idsの重なりを小さくするために、ω0Ls≧1/(ω0Cds)とすればよいことについて、詳しく説明する。
【0021】
まず、図6に示す電圧波形Vdsと電流波形Idとでは、ピーク同士の位相差Δθが133degであり、これらの波形の位相差Δθを180degにして、電圧波形Vdsと電流波形Idの重なりを無くすには、電流波形Idの位相を、約45degずらせばよい。つまり、電流波形Idを図6の右へ45degシフトすればよい。
【0022】
電流波形Idの位相を、約45degずらせばよい理由は下記のとおりである。
すなわち、J級増幅器の電圧波形Vds(図6参照)を式で表すと、下記式(1)次のとおりである。
【数2】

【0023】
上記式(1)から、電圧波形Vds(θ)がピークとなる位相θvpを求める。ピーク位相θvpを求めるには、下記式(2)(3)を解けばよい。
【数3】

【数4】

【0024】
つまり、式(2)より、
【数5】

であり、式(3)より、
【数6】

である。
【0025】
一方、図6に示す従来のJ級動作時のパラメータは、それぞれ下記のとおりである。
【数7】

【0026】
上記パラメータを、式(4)及び(5)に代入すると、θvp=317[deg]が得られる。したがって、電圧波形Vdsのピーク位相θvpと電流波形Idのピーク位相θipの差Δθは、図6に示すように133degとなる。したがって、電圧波形Vdsと電流波形Idを反転させてΔθ=180degとするためには、電圧波形Vdsと電流波形Idとの位相関係を、従来のJ級動作の場合よりも、約45deg(≒47deg=(180deg−133deg))ずらせばよい。
【0027】
そして、本実施形態では、電圧波形Vdsと電流波形Idとの位相関係を45degずらすため、図1のインピーダンスZ0に関し、2倍波(2×ω0)でのインピーダンスZ0(2×ω0)を容量性(2倍波位相がほぼ−90deg)にしている。2倍波インピーダンスZ0(2×ω0)を容量性にすると、電流波形Id(基本波ω0)は、45degのシフト(図6での右シフト)が生じる。
増幅回路1にJ級動作をさせつつ、2倍波インピーダンスZ0(2×ω0)を十分な容量性にするには、本発明者の検討の結果、ω0Ls≧1/ω0Cds(EJ級条件1)とすればよいことが判明した。ω0Ls≧1/ω0Cdsとすることで、第1キャパシタCdsから出力側にみたインピーダンスZ1に関し、|Z1(2ω0)|が、1/(2ω0Cds)に比べ、十分大きな値になる。
【0028】
また、EJ級は、J級動作を前提とするため、従来のJ級増幅器にインダクタLs及び第2キャパシタCsを追加してもJ級動作条件の成立が必要である。ここで、図5に示す従来のJ級増幅器では、J級の動作条件は、Xds=1/ω0Cdsとおいた場合に、Xds/RL>1であった。
本実施形態のEJ級増幅器1では、従来のJ級増幅器のRLに相当するのは、第1キャパシタCdsから出力側にみたインピーダンスZ1の実部Z1(Re)である。
したがって、EJ級増幅器1が、J級動作条件を維持するためには、Xds/Z1(Re)>1(EJ級条件2=J級動作条件)であり、この条件を満たせば、インダクタLs及び第2キャパシタCsが追加されても、最大の電力を供給できる。
【0029】
Z1(Re)は、図1の回路の場合、具体的には、Z1(Re)=RL1・Xcs2/(RL12+Xcs2)によって求まる。なお、Xcs=1/ω0Csである。
【0030】
また、Xds/Z1(Re)が2.5を超えると、効率の劣化が始まるので、Xds/Z1(Re)<2.5であるのが好ましい。つまり、1<Xds/Z1(Re)<2.5とすることで、EJ級増幅器をJ級動作条件で動作させつつ、効率劣化を防止できる。
なお、Xds/Z1(Re)を1以下とした場合、B級増幅器となる。
【0031】
図1のEJ級増幅器では、例えば、基本波周波数2.0[GHz]、第1キャパシタCds=10pF、出力負荷RL1=50Ωとした場合、インダクタLsは0.7[nH]以上とし、第2キャパシタCsは4[pF]以上とすることで、J級動作においてEJ級条件1であるω0Ls≧1/ω0Cdsを満たすことができる。そして、上記条件では、2倍波位相(φ2)として、−80deg程度以上を確保でき、電圧波形Vdsと電流波形Idの重なりを小さくできる。
また、Cds=10pF、RL1=50Ωの条件では、Csを4〜6[pF]とすることで、Xds/Z1(Re)<2.5の条件も満たし、高効率を得ることができる。
【0032】
なお、インダクタLsは、できるだけ大きい方が、2倍波位相が−90degにより近くなるため、第1キャパシタCds=10pF、出力負荷RL1=50Ωとした例では、Lsは0.8[nH]以上であるのが好ましい。この場合、2倍波位相(φ2)として−85deg以上が確保され、電圧波形と電流波形の重なりを非常に小さくできる。
【0033】
つまり、2倍波位相(φ2)として−80deg以上好ましくは−85deg以上を確保できるようにインダクタLsの値を設定するとともに、Xds/Z1(Re)<2.5の条件も満たすように第2キャパシタCsの値を設定することで、電圧波形と電流波形の重なりを小さくしつつ、高効率なEJ級増幅器が実現できる。
なお、インダクタLsの上限としては例えば、1[nH]を採用できるが、特に限定されるものではない。
【0034】
図2は、2倍波位相を−90degとしたEJ級増幅回路1の電圧電流波形を示している。図2から明らかなように、電圧波形Vdsと電流波形Idとの重なりが、図6に比べて小さくなっている。この結果、EJ級増幅回路1では、従来のJ級増幅回路に比べて、9%程度最大効率を上昇させることができた。
【0035】
図3は、第2実施形態に係る増幅器10を示している。この増幅器10においては、電界効果トランジスタ部は、複数(2個)の電界効果トランジスタTr1,Tr2を直列接続して構成され、容量性インピーダンス部は、各電界効果トランジスタTr1,Tr2のドレイン−ソース間に、それぞれキャパシタCds1,Cds2を接続して構成されている。
【0036】
この第2実施形態によれば、キャパシタCds1,Cd2のキャパシタンスを、例えば、Cds1=Cds2=図1のCds、とすると、第2実施形態における容量性インピーダンス部のキャパシタンスCdsは、図1のCdsのキャパシタンスに比べて、半分になる。したがって、第2実施形態における容量性インピーダンス部のドレインソース間容量性インピーダンス(1/2πf0Cds)を大きくすることができる。
なお、第2実施形態において、Cds1=Cds2である必要はない。また、第2実施形態において説明を省略した点については、第1実施形態と同様である。
【0037】
図4は、第3実施形態に係る増幅器20を示している。この増幅器20は、図1に示す増幅器1と同様の増幅器1a,1bを複数個(2個)並列接続して構成して、並列動作するように構成したものである。この増幅器20において、各増幅器1a,1bには、共通の入力端子Pinから入力が与えられる。また、各増幅器1a,1bの出力P1out,P2outは、合成されて共通の出力Poutとなる。
この増幅器20のように複数の増幅器1a,1bを並列動作させることで高出力が得られる。
なお、各増幅器1a,1bについて説明を省略した点については、記述の実施形態と同様である。
【0038】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1実施形態に係るEJ級増幅器の回路図である。
【図2】EJ級増幅器の電圧電流波形図である。
【図3】第2実施形態に係るEJ級増幅器の回路図である。
【図4】第3実施形態に係るEJ級増幅器の回路図である。
【図5】従来のJ級増幅器の回路図である。
【図6】従来のJ級増幅器の電圧電流波形図である。
【符号の説明】
【0040】
1:EJ級増幅器、3:LC回路、Tr:電界効果トランジスタ部、Cds:容量性インピーダンス部、Ls:インダクタ、Cs:キャパシタ、RL1:出力負荷、基本周波数:f0

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端となるゲート、出力端となるドレイン、及びソースを有する電界効果トランジスタ部と、
前記ドレインと前記ソースとの間に接続された容量性インピーダンス部と、
を有してJ級動作を行う増幅器であって、
前記容量性インピーダンス部よりも後段に位置するように、前記ドレインに接続されたインダクタと、
前記インダクタを介して前記容量性インピーダンス部に並列接続されたキャパシタと、
を有し、
前記インダクタは、増幅器の基本波周波数でのインピーダンスが、前記容量性インピーダンス部のインピーダンス以上の値に設定されている
ことを特徴とする増幅器。
【請求項2】
増幅器の基本波周波数をf0とし、
前記容量性インピーダンス部の前記基本波周波数f0におけるインピーダンスを、Xdsとし、
容量性インピーダンス部から出力側にみた前記基本波周波数f0におけるインピーダンスの実部をZ1(Re)としたときに、
下記式を満たす請求項1記載の増幅器。
1 < Xds/Z1(Re)
【請求項3】
さらに下記式も満たす請求項2記載の増幅器。
Xds/Z1(Re) < 2.5
【請求項4】
前記電界効果トランジスタ部は、複数の前記電界効果トランジスタを直列接続して構成され、
前記容量性インピーダンス部は、各電界効果トランジスタのドレイン−ソース間に、それぞれキャパシタを接続して構成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の増幅器。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の第1の増幅器と、請求項1〜3のいずれか1項に記載の第2の増幅器と、を並列接続したことを特徴とする増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−94805(P2009−94805A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263539(P2007−263539)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】