説明

増幅素子アレーの排熱装置及びそれを用いたマイクロ波送信装置

【課題】 本発明は、マイクロ波増幅素子の発熱分布に応じたヒートパイプを選定でき効率的な熱輸送が可能となり、冷却部の設置が容易となる増幅素子アレーの排熱装置及びそれを用いたマイクロ波送信装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 マイクロ波増幅素子20を2次元配置した増幅素子アレー22で発生した熱を複数のヒートパイプ24a〜24fにより排熱する増幅素子アレーの排熱装置において、複数のヒートパイプは、マイクロ波増幅素子を2次元配置した平面上で増幅素子アレーの外側から中心位置まで延在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅素子アレーの排熱装置及びそれを用いたマイクロ波送信装置に関し、特に、複数のマイクロ波増幅素子を束ねて構成される増幅素子アレーの排熱装置及びそれを用いたマイクロ波送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放送衛星に送信用フェーズドアレーアンテナを搭載して放射パターンを変化させることにより、降雨減衰を補償するシステムの研究が行われている(例えば、非特許文献1参照。)。このような送信用フェーズドアレーアンテナでは、所望の放射パターンつまり放射電力分布を実現するために、マイクロ波増幅素子を2次元配置した増幅素子アレーが用いられる。
【0003】
増幅素子アレーは送信システムの給電部として用いられ、放射パターンは各増幅素子の空間合成で決定される。加えて各増幅素子の入力電力および位相を制御するBFN(Beam Forming Network:ビーム形成回路)、増幅素子毎の濾波器および電磁ホーンを伴って一体のシステムとして利用される。また、電磁ホーンに相対する1枚以上の反射鏡を伴うこともある。
【0004】
所望の放射パターンを得るには、給電部を構成する増幅素子アレー素子数が多いほうが望ましく、素子間隔が狭いほうが望ましい(非特許文献1参照)。このため、増幅素子アレーは2次元的に密集配置され、中心部の素子ほど熱がこもりやすくなるため、排熱処理は必須である。
【0005】
図1、図2を用いて、従来の排熱方法を説明する。図1は、従来の増幅素子単体を冷却する排熱方法の一例の斜視図を示す。同図中、マイクロ波増幅素子1の長軸方向と平行にベースプレート3を設け、マイクロ波増幅素子1の発熱部分2a,2bをベースプレート3上に接触させて、ベースプレート3を冷却部として排熱処理を行う。
【0006】
図2は、従来の増幅素子アレーを冷却する排熱方法の一例の斜視図を示す。同図中、マイクロ波増幅素子5の長軸方向と平行に設けたヒートパイプ7,8でマイクロ波増幅素子5を挟み、ヒートパイプ7,8の熱輸送によってマイクロ波増幅素子5の発熱部分6a,6bから冷却部9への排熱処理を行う(非特許文献2参照)。なお、この図ではマイクロ波増幅素子1本分のヒートパイプ7,8のみを示している。
【非特許文献1】田中祥次、他2名、「フェーズドアレー給電反射鏡アンテナにおける一次給電アレー構成の検討」、2002年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会、B−1−61
【非特許文献2】亀井雅、他5名、2003年「21GHz帯放送衛星搭載フェーズドアレー用ヒートパイプ付小型・細径TWT」、電子情報通信学会通信ソサイエティ大会、B−3−13
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図1に示す従来の排熱方法は、マイクロ波増幅素子を2次元配置した増幅素子アレーに適用することはできない。
【0008】
マイクロ波増幅素子を2次元配置した増幅素子アレーに図2に示す従来の排熱方法を適用した場合には次のような問題が生じる。第1に、マイクロ波増幅素子5は例えば発熱部分6aが100°Cで発熱部分6bが50°Cというように長軸方向に発熱分布・温度分布をもつため、ヒートパイプ7,8の動作温度、熱輸送力の設定が難しく効率的に排熱ができないという問題があった。
【0009】
マイクロ波増幅素子5の動作温度は−数10°C〜+100°Cと非常に幅が広く発熱によって高温になるため、ヒートパイプ7,8の熱輸送力は大きいほうが望ましく、潜熱の大きい水は都合のよい作動液である。しかし、水の動作点は50°C以上であり、それより温度の低い発熱部分6aは冷却されない。一方、エタノールは50°C以下の低温でも動作するが熱輸送力が小さい。このように、ヒートパイプ設置方向に温度分布があるとヒートパイプで用いる作動液の選定が非常に難しい。また、マイクロ波増幅素子5の長軸方向に排熱することでヒートパイプ7,8が長くなるため、熱コンダクタンスが増加し、効率的な排熱を妨げる要因となる。
【0010】
第2に、ヒートパイプの冷却部9の設置が困難であるという問題があった。マイクロ波増幅素子5の長軸方向の延長上前方には、図3に示すように、濾波器10、電磁ホーン11を設置し、後方には導波管12を介して図示しないBFNを設置してマイクロ波送信装置を構成するが、これらもマイクロ波増幅素子5と同様に密集配置される。ヒートパイプ7,8の排熱方向もマイクロ波増幅素子5の長軸方向であるから、ヒートパイプの冷却部9の設置空間が非常に限られてしまう。
【0011】
本発明は、上記の点に鑑みなされたもので、マイクロ波増幅素子の発熱分布に応じたヒートパイプを選定でき効率的な熱輸送が可能となり、冷却部の設置が容易となる増幅素子アレーの排熱装置及びそれを用いたマイクロ波送信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、マイクロ波増幅素子を2次元配置した増幅素子アレーで発生した熱を複数のヒートパイプにより排熱する増幅素子アレーの排熱装置において、
前記複数のヒートパイプは、前記マイクロ波増幅素子を2次元配置した平面上で前記増幅素子アレーの外側から中心位置まで延在することにより、
マイクロ波増幅素子の長軸方向の発熱分布に応じ最適な動作温度及び熱輸送力を持つヒートパイプを選定でき、冷却部を増幅素子アレーの外側に配置することができ、効率的な熱輸送が可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の増幅素子アレーの排熱装置において、
前記複数のヒートパイプそれぞれは、前記マイクロ波増幅素子を挟んで平行に延在することにより、
ヒートパイプは複数のマイクロ波増幅素子から効率的に熱を収集することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1記載の増幅素子アレーの排熱装置において、
前記複数のヒートパイプそれぞれは、可撓性を有し前記マイクロ波増幅素子の外周に密着するよう屈曲されたことにより、
断面が矩形以外のマイクロ波増幅素子で構成される増幅素子アレーの排熱を効率よく行うことができる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか記載の増幅素子アレーの排熱装置において、
前記複数のヒートパイプそれぞれは、前記マイクロ波増幅素子の長軸方向の複数位置に配設され、更に、請求項7に記載の発明は、請求項6記載の増幅素子アレーの排熱装置において、
前記マイクロ波増幅素子の長軸方向の複数位置に配設された複数のヒートパイプそれぞれで、異なる作動液を使用することにより、
マイクロ波増幅素子の長軸方向の複数位置それぞれで最適な動作温度及び熱輸送力を持つヒートパイプを選定できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、マイクロ波増幅素子の長軸方向の発熱分布に応じ最適な動作温度及び熱輸送力を持つヒートパイプを選定でき、冷却部を増幅素子アレーの外側に配置してすることができ、効率的な熱輸送が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0018】
図4は本発明の増幅素子アレーの排熱装置の第1実施形態の斜視図を示し、図5は図4のA−A線に沿う断面図、図6は図5の一部拡大図を示す。
【0019】
図4において、複数のマイクロ波増幅素子20はTWT(Traveling Wave Tube:進行波管)で構成されている。隣接するマイクロ波増幅素子20の離間間隔は1〜2波長程度であり、図6に示すように、隣接するマイクロ波増幅素子20の中心が正三角形となるように、複数のマイクロ波増幅素子20をX−Y平面に2次元配置して増幅素子アレー22を構成している。
【0020】
なお、増幅素子アレー22には、一般的にマイクロ波増幅素子20の長軸方向(Z方向)の前方に濾波器アレー、電磁ホーンアレーが接続され、後方にBFNアレーが接続されてマイクロ波送信装置が構成される(図3参照)。
【0021】
また、各マイクロ波増幅素子20はTWTのコレクタに対応する高温の発熱部分21aと、カソードに対応する低温の発熱部分21bを有している。発熱部分21aには中空棒状(四角柱)のヒートパイプ24a〜24f(及び26a〜26f)がZ方向に複数(図4では4本)隣接して密着されている。発熱部分21bには単一のヒートパイプ28a〜28fが密着されている。
【0022】
図5に示すように、発熱部分21aに対応するヒートパイプ24a〜24f,26a〜26fそれぞれは各マイクロ波増幅素子20をX方向の両側から挟んだ状態で配設され、X−Y平面上でY方向に平行して延在している。ヒートパイプ24a〜24fは一端を冷却部30に接続され、他端を増幅素子アレー22の中心位置までY方向に延在させている。
【0023】
同様に、ヒートパイプ26a〜26fは一端を冷却部32に接続され、他端を増幅素子アレー22の中心位置までY方向に延在させている。なお、図4においては、上側のヒートパイプ24a〜24f,28a〜28fのみを図示し、ヒートパイプ26a〜26f等は図示していない。
【0024】
各ヒートパイプ24a〜24f,26a〜26f,28a〜28fは、発熱部とヒートパイプを密着させ効率的に排熱するため、各ヒートパイプの断面形状は矩形とされている。
【0025】
21G帯のマイクロ波の波長は約14mmであり、マイクロ波増幅素子20間隔を1.5波長とすると約20mmとなる。図6に示すように、X方向に隣接するマイクロ波増幅素子20の離間間隔は17mmである。また、マイクロ波増幅素子20の導波管のカットオフ周波数より、EIAJ規格WRI−220(内径約11mm)相当の導波管34を用い、管の肉厚、フランジおよびケース厚を2mmとすると、マイクロ波増幅素子20間のスペースは約2mmとなる。このため、各ヒートパイプ24a〜24f,26a〜26f,28a〜28fの厚みは2mm以下にする。
【0026】
マイクロ波増幅素子20は長軸方向(Z方向)で発熱に分布を生じており、カソードから放出された電子が衝突するコレクタに対応する高温の発熱部分21aと、電子放出のために加熱している低温のカソードに対応する発熱部分21bを有する。
【0027】
このため、発熱量が大きいコレクタ周辺の発熱部分21aはヒートパイプ24a〜24f,26a〜26fの作動液に熱輸送力の高い水を採用し、発熱量の少ないカソード周辺の発熱部分21bのヒートパイプ28a〜28fの作動液には低温動作が可能なエタノールを採用する。このように、発熱部位に応じた動作温度、熱輸送力のヒートパイプを選択できるため、効率的な排熱が可能となる。また、発熱量が大きい発熱部分21aにはヒートパイプ24a〜24f,26a〜26fそれぞれをZ方向に複数設けることにより更に効率的な排熱が可能となる。
【0028】
また、発熱部分21a,21bの長さが図5に示すマイクロ波増幅素子20の配置面の半径に比べて長くなる場合、各ヒートパイプ24a〜24f,26a〜26f,28a〜28fの熱輸送長を短くすることができ、効率的な排熱が可能となる。また、冷却部30,32は増幅素子アレー22の外側に配置することができるので、冷却部30,32の設置は従来のベースプレートと同様に簡単である。
【0029】
ここで、非特許文献1から送信用フェーズドアレーアンテナにおける増幅素子アレーの素子数は約160素子程度が必要となる。これに非特許文献2からマイクロ波増幅素子のZ方向長さ30cm、素子間隔2cm、周波数21GHzのTWTを適用すると、増幅素子アレーの直径は約30cmとなる。このため、最大の熱輸送長は増幅素子アレーの半径である約15cmとなる。
【0030】
図7は本発明の増幅素子アレーの排熱装置の第1実施形態の変形例の斜視図を示す。同図中、図4と同一部分には同一符号を付す。図7に示すように、先端がL字形に折れ曲がったヒートパイプ36を用いて発熱部分21aの熱をヒートパイプ36のZ方向に延在する部分36aで熱を収集し、ヒートパイプ36のY方向に延在する部分36bによって増幅素子アレー22の外に配置された冷却部38まで導き排熱することも可能である。
【0031】
図8は、本発明の増幅素子アレーの排熱装置の第2実施形態の断面図を示す。ここでは、マイクロ波増幅素子の発熱部分の断面(X−Y面)を示している。同図中、マイクロ波増幅素子40は断面が円形とされており、隣接するマイクロ波増幅素子40の中心が正三角形となるように、複数のマイクロ波増幅素子40をX−Y平面に2次元配置して増幅素子アレー42を構成している。
【0032】
増幅素子アレー42の外周には冷却部44〜44が配設され、各冷却部44〜44それぞれから中空棒状または中空帯状のヒートパイプ46a,46bが増幅素子アレー42に向けて延在している。各ヒートパイプ46a,46bは可撓性を有する材料で形成されており、断面が円形のマイクロ波増幅素子40の外周に密着するよう屈曲されている。ヒートパイプ46aは増幅素子アレー42の外周近傍のマイクロ波増幅素子40の外周に密着するよう屈曲されており、ヒートパイプ46aは隣接するマイクロ波増幅素子40の外周に密着しつつ増幅素子アレー42の中心部のマイクロ波増幅素子40に至るよう屈曲されている。
【0033】
このように、フレキシブルなヒートパイプ46a,46bを用いることで、断面が矩形以外のマイクロ波増幅素子で構成される増幅素子アレー42の排熱を効率よく行うことが可能となる。また、冷却部44〜44を増幅素子アレー42の外周に配置することでヒートパイプの熱輸送長を短くして冷却効率を上げると共に、Z方向の機器スペースを節約することができる。
【0034】
なお、図4ではヒートパイプを中空棒状としているが、Z方向の幅が大きい中空帯状としても良い。上記中空帯状のヒートパイプを用いれば図7のヒートパイプ36のように先端を折り曲げる必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】従来の増幅素子単体を冷却する排熱方法の一例の斜視図である。
【図2】従来の増幅素子アレーを冷却する排熱方法の一例の斜視図である。
【図3】マイクロ波送信装置におけるマイクロ波増幅素子の前後の接続構造を示す図である。
【図4】本発明の増幅素子アレーの排熱装置の第1実施形態の斜視図である。
【図5】図4のA−A線に沿う断面図である。
【図6】図5の一部拡大図である。
【図7】本発明の増幅素子アレーの排熱装置の第1実施形態の変形例の斜視図である。
【図8】本発明の増幅素子アレーの排熱装置の第2実施形態の断面図である。
【符号の説明】
【0036】
20,40 マイクロ波増幅素子
22,42 増幅素子アレー
21a,21b 発熱部分
24a〜24f,26a〜26f,28a〜28f,36,46a,46b ヒートパイプ
30,38,44〜44 冷却部
34 導波管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波増幅素子を2次元配置した増幅素子アレーで発生した熱を複数のヒートパイプにより排熱する増幅素子アレーの排熱装置において、
前記複数のヒートパイプは、前記マイクロ波増幅素子を2次元配置した平面上で前記増幅素子アレーの外側から中心位置まで延在することを特徴とする増幅素子アレーの排熱装置。
【請求項2】
請求項1記載の増幅素子アレーの排熱装置において、
前記複数のヒートパイプそれぞれは、前記マイクロ波増幅素子を挟んで平行に延在することを特徴とする増幅素子アレーの排熱装置。
【請求項3】
請求項2記載の増幅素子アレーの排熱装置において、
前記複数のヒートパイプそれぞれは、前記増幅素子アレーの中心位置にて先端が前記マイクロ波増幅素子の長軸方向に折れ曲がったことを特徴とする増幅素子アレーの排熱装置。
【請求項4】
請求項1記載の増幅素子アレーの排熱装置において、
前記複数のヒートパイプそれぞれは、可撓性を有し前記マイクロ波増幅素子の外周に密着するよう屈曲されたことを特徴とする増幅素子アレーの排熱装置。
【請求項5】
請求項2または4記載の増幅素子アレーの排熱装置において、
前記複数のヒートパイプそれぞれは、前記マイクロ波増幅素子の長軸方向の幅が大きい帯状であることを特徴とする増幅素子アレーの排熱装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか記載の増幅素子アレーの排熱装置において、
前記複数のヒートパイプそれぞれは、前記マイクロ波増幅素子の長軸方向の複数位置に配設されたことを特徴とする増幅素子アレーの排熱装置。
【請求項7】
請求項6記載の増幅素子アレーの排熱装置において、
前記マイクロ波増幅素子の長軸方向の複数位置に配設された複数のヒートパイプそれぞれで、異なる作動液を使用することを特徴とする増幅素子アレーの排熱装置。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか記載の増幅素子アレーの排熱装置を用いて構成したことを特徴とするマイクロ波送信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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