説明

壁掛けプリンタ

【課題】 用紙束から1枚の用紙を容易に供給可能としつつ、紙面が鉛直方向に沿うように用紙束の姿勢を維持することもできる壁掛けプリンタを提供する。
【解決手段】 壁掛けプリンタ1は、用紙束Pが上側支持部31によって吊り下げ支持されているときに、下側支持部32が解放状態から支持状態へ切り換えを完了するのに連動して、上側支持部31が用紙束Pへの吊り下げ支持を解放するよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚の用紙が積層された用紙束をその紙面が鉛直方向に沿うように保持して収容するトレイを備え、該トレイから供給された用紙に画像を記録する壁掛けプリンタに関し、例えば、壁面や棚又はデスクの側面などに掛けて用いられる壁掛けプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の壁掛けプリンタとしては、例えば特許文献1に示すようなものが開示されている。この特許文献1に係る壁掛けプリンタでは、複数枚の用紙が積層された用紙束をその紙面を鉛直方向に沿うように保持して収容するトレイが備えられている。トレイ内には、用紙と略同面積の支持板が設けられており、該支持板は、その一方の面が用紙束の最外面に対向するように位置している。また、支持板は、その他方の面がスプリングバネにより用紙束の方向へ付勢されており、その結果、用紙束は支持板により押圧されて、紙面が鉛直方向に沿うように姿勢が維持されている。
【特許文献1】特開2002−60117号公報(特に、図2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1のような支持板により用紙束が押圧された状態では、その押圧力によって各用紙同士が強く密着してしまうので、印刷時に用紙束から1枚の用紙を供給するのが困難となってしまう。一方で、用紙束に付与する押圧力を低減すると、用紙束の姿勢が崩れてしまい、各用紙が湾曲した形状に癖が付いてしまうという問題がある。
【0004】
そこで本発明は、用紙束から1枚の用紙を容易に供給可能としつつ、紙面が鉛直方向に沿うように用紙束の姿勢を維持することもできる壁掛けプリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る壁掛けプリンタは、複数枚の用紙が積層された用紙束をその紙面が鉛直方向に沿うように保持して収容するトレイを備え、該トレイから供給された用紙に画像を記録する壁掛けプリンタであって、前記トレイ内の用紙束上端を吊り下げ支持した状態とこの支持を解放した状態とで切り換え可能な上側支持部、及び、前記トレイ内の用紙束の下端に当接して該用紙束を下方から支持した状態とこの支持を解放した状態とで切り換え可能な下側支持部を更に備え、前記用紙束が前記上側支持部によって吊り下げ支持されているときに、前記下側支持部が解放状態から支持状態へ切り換えを完了するのに連動して、前記上側支持部が前記用紙束への吊り下げ支持を解放するよう構成されている。
【0006】
このような構成とすることにより、用紙束を吊り下げ支持している状態では、各用紙は紙面が鉛直方向に沿うような姿勢となっており、各用紙に湾曲した形状の癖が付くのを防止することができる一方、吊り下げ支持を解放して用紙束の下端を支持している状態では、用紙束に対して紙面を押圧する外力が付与されていないので、1枚の用紙を容易に供給することが可能となる。更に、用紙束の下端を支持した状態で吊り下げ支持を解放するため、吊り下げ支持を解放したときに用紙束が落下するのを防止することができる。
【0007】
また、前記用紙へ画像を記録する記録モードと、前記用紙へ画像を記録しない待機モードとを備え、該待機モードでは、前記下側支持部は解放状態であって前記用紙束は前記上側支持部によって前記トレイ内で吊り下げ支持されており、前記待機モードから前記記録モードへ移行したときに、前記下側支持部が解放状態から支持状態へ切り換わり、且つ該切り換えの完了に連動して前記上側支持部が前記用紙束への吊り下げ支持を解放するよう構成されていてもよい。このような構成とすることにより、待機モードでは、用紙束を吊り下げ支持された状態として各用紙への癖付きを防止することができ、記録モードにおいてだけ、吊り下げ支持を解放すると共に用紙束の下端を支持して、容易に給紙可能とすることができる。
【0008】
また、前記トレイ内から1枚の用紙を前記トレイ外へ供給する給紙ローラを備え、該給紙ローラは、前記記録モードにおいて、前記用紙束が前記下側支持部によって支持され且つ前記上側支持部による吊り下げ支持が解放された状態で駆動するよう構成されていてもよい。このような構成とすることにより、用紙束の紙面に押圧力が付与されていない状態で給紙ローラを駆動させるため、用紙束から1枚の用紙を容易に供給することができる。
【0009】
また、前記トレイを収容可能な筐体と、前記トレイを該筐体の内外へ移動させる駆動部とを備え、前記待機モードでは、前記トレイは前記筐体の外方へ露出して位置していてもよい。このような構成とすることにより、待機モードにおいて筐体の外部に露出したトレイに対し、容易に用紙を補給することができる。
【0010】
また、前記待機モードから前記記録モードへ移行したときに、前記トレイは、前記駆動部によって前記筐体の外方から内方へ移動するよう構成されていてもよい。このような構成とすることにより、待機モード中に筐体の外方に位置するトレイを、記録モードでは筐体内へ移動させ、トレイ内から給紙することができる。
【0011】
また、前記上側支持部は、前記用紙束の上部に当接する上側当接部を具備して前記トレイの上部に枢支される上側回動部材と、該上側回動部材に回転可能に設けられるローラとを有し、更に、前記筐体内には、前記トレイが該筐体の内方へ移動する過程で前記ローラを案内する案内壁を備え、該案内壁は、前記トレイが前記筐体の内方へ移動する過程で前記ローラが転動することにより、前記上側回動部材を回動させて前記上側当接部を前記用紙束から離隔させ、前記上側支持部による前記用紙束の吊り下げ支持が解放させるよう構成されていてもよい。このような構成とすることにより、トレイが筐体内へ移動するのに連動させて、上側支持部が用紙束を吊り下げ支持する状態からこれを解放する状態へと、自動的に切り換えさせることができる。
【0012】
また、前記下側支持部は、前記用紙束の下端に当接する下側当接部を具備して、前記筐体の内方に位置する前記トレイに対して前記下側当接部を接近及び離隔する方向へ、枢軸を中心にして回動自在に枢支される下側回動部材と、前記枢軸に対する前記下側回動部材の枢支位置を、前記トレイへ接近及び離隔する方向へ変更可能な枢支部と、該下側回動部材を前記用紙束から離隔させる方向へ付勢する付勢部材とを有し、前記下側回動部材は、前記トレイが前記筐体内へ移動する過程で前記用紙束から離隔する前記上側当接部により押動されて前記枢軸を中心に回動し、前記トレイ内の用紙束の下端に前記下側当接部が当接する下支え状態となり、前記上側当接部による前記用紙束の吊り下げ支持が解放されるまで該上側当接部により更に押動されることにより、前記下支え状態を維持しつつ、前記枢軸に対する枢支位置が前記トレイから離隔する方向へ変更されるよう構成されていてもよい。このような構成とすることにより、トレイが筐体内へ移動するのに連動させて、上記のように上側支持部による用紙束の支持状態が切り換え可能であると共に、下側支持部が用紙束の下端を解放する状態から支持する状態へと自動的に切り換えさせることも可能である。
【0013】
また、上部に設けられた開口および該開口を開閉可能なカバーを有して前記トレイを収容可能な筐体と、該筐体内で前記トレイを昇降動させる駆動部とを備え、前記開口を通じて前記トレイを前記筐体内へ挿脱可能に構成されていてもよい。このような構成とすることにより、例えば机の側面に壁掛けプリンタを設置する場合など、壁掛けプリンタの下方にあまりスペースを確保できない場合であっても、上方からトレイを挿脱することができるため、利便性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、用紙束から1枚の用紙を容易に供給可能としつつ、紙面が鉛直方向に沿うように用紙束の姿勢を維持することもできる壁掛けプリンタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る壁掛けプリンタについて、インクジェット方式によって画像を記録するプリンタを、図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施の形態に係る壁掛けプリンタの外観を示す模式的斜視図、図2は、図1に示す壁掛けプリンタの内部を示す模式的斜視図、図3は、図1に示す壁掛けプリンタの機能的な構成を示すブロック図である。なお、後に詳述するが、本実施の形態に係る壁掛けプリンタは待機モードと記録モードとを有しており、図1では待機モードでの状態を示し、図2では記録モードでの状態を示している。なお、以下の説明で用いる方向の概念は、図1における壁掛けプリンタの上下方向、左右方向、及び前後方向と同じ概念を用いるものとする。
【0016】
[壁掛けプリンタの全体構成]
図1に示すように、壁掛けプリンタ1は、ボックス形状を成す筐体2を備え、その前面にはオペレータが操作するための操作パネル3が設けられている。筐体2の後面には図示しないフックや取り付け板等が取り付けられており、部屋の壁面、書棚又は机の側壁面等の適宜位置に掛けることができるようになっている。また、筐体2の下部には、排紙トレイ4と、待機モードにおいて下方に位置する給紙トレイ5とが設けられており、給紙トレイ5には、例えばA4サイズの用紙Pを紙面が鉛直方向に沿うようにして複数枚重ねた用紙束Pを収容できるようになっている(図4参照)。
【0017】
図3に示すように、壁掛けプリンタ1は制御部10を備えており、該制御部10には、上述した操作パネル3の他、筐体2内に備えられた記録ヘッド11(図2も参照)、ヘッド駆動部12、及びトレイ駆動部13等が接続されている。記録ヘッド11は、図示しないインクカートリッジから供給された、例えば5色のカラーインク、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、フォトブラック(PBk)の各インクと、ブラック(Bk)のインクとを、制御部10からの指示に従って、ノズル孔から水平方向へ吐出可能になっている。
【0018】
ヘッド駆動部12は、図示しないモータ、プーリ、及び記録ヘッド11に接続されたベルト等から構成され、制御部10からの指示に従ってモータを回転させることにより、記録ヘッド11を走査方向(即ち、水平方向且つ紙面に平行な方向)へ移動可能になっている(図2の矢印参照)。また、トレイ駆動部13は、図示しないモータ及びギヤ等から構成されており、制御部10からの指示に従って給紙トレイ5を昇降動させることができるようになっている。
【0019】
また、制御部10は、オペレータによる操作パネル3の操作により、又はパーソナルコンピュータ等の外部機器からの指示信号の受信により、用紙Pにインクを吐出して画像を形成すべく壁掛けプリンタ1の動作を制御する記録モードと、用紙Pに画像を形成せずに次の記録モードへの移行のために待機する待機モードとを有している。そして、壁掛けプリンタ1は、待機モードにおいては給紙トレイ5が下方に位置し、内部の用紙束Pの上端を吊り下げ支持する一方、記録モードにおいては給紙トレイ5が上方に位置し、用紙束Pの上端の吊り下げ支持を解放して用紙束Pの下端を支持するようになっている。以下、このような用紙束Pの支持形態を実現する構成について説明する。
【0020】
[壁掛けプリンタの内部構造]
図4は、給紙トレイ5が上方に位置する記録モードでの壁掛けプリンタ1を側方から見たときの断面図、図5は、給紙トレイ5が下方に位置する待機モードでの壁掛けプリンタ1を側方から見たときの断面図、図6は、給紙トレイ5のみを側方から見たときの断面図である。
【0021】
図4及び図5に示すように、壁掛けプリンタ1は、筐体2内の下部に横長板状のプラテン20を備えている。該プラテン20は、用紙Pの裏面(記録面とは反対側の面)を支持する支持面20aを前方へ向けて配設されており、また、この支持面20aに対向するようにして記録ヘッド11が配設されている。記録ヘッド11は、プラテン20の支持面20aの方向へ向けて水平方向にインクを吐出可能になっている。
【0022】
プラテン20の上方には、2つの給紙ローラ対21,22が配設され、更に上方には、より径の大きい給紙ローラ23が配設されている。また、プラテン20の下方には1つの排紙ローラ対24が配設され、該排紙ローラ対24の下方に排紙トレイ4が設けられている。図4のように、記録モードにおいて給紙トレイ5が上方に位置するときに、これらの給紙ローラ23,給紙ローラ対21,22によって用紙Pの下端が、プラテン20の支持面20aへ搬送され、記録ヘッド11から吐出されるインクにより画像が形成される。また、画像が形成された用紙Pは、排紙ローラ対24によって排紙トレイ4へと排出される。
【0023】
そして、プラテン20の後方には、トレイ駆動部13によって昇降動する給紙トレイ5の軌道5aが設定されており、この軌道5a上に給紙トレイ5が配設されている。給紙トレイ5は、用紙束Pを収容するトレイ本体30と、用紙束Pをトレイ本体30内にて吊り下げ支持するための上側支持部31とを有しており、また、筐体2には、トレイ本体30内にて用紙束Pの下端を支持する下側支持部32が設けられている。なお、給紙トレイ5は、用紙束Pを収容したトレイ5が筐体2の下方より着脱可能になっていてもよいし、予め筐体2の下方にセットした給紙トレイ5に対して、給紙トレイ5の下方より用紙束Pを挿入してもよい。但し、用紙束Pの上端は、上側支持部31によって吊り下げ支持される。
【0024】
[上側支持部]
図6に示すように、給紙トレイ5が有するトレイ本体30は、用紙Pを支持する支持面30aを前方へ向けて略垂直に立てられた板状を成し、正面視したときに支持面30aの上下寸法及び左右寸法の何れもが用紙Pより大きく形成されている。トレイ本体30の上部には前方へ延設されたフランジ35が形成されており、該フランジ35から所定の間隔を空けた下方位置には、トレイ本体30の支持面30aから前方へ突出して左右方向(図1の左右方向)へ延びる棒状のストッパ36が設けられている。このストッパ36は、給紙トレイ5へ用紙束Pを補充する際に、下側から補充される各用紙Pの上端を揃えて位置決めするためのものである。
【0025】
トレイ本体30のフランジ35には上側支持部31が取り付けられている。より詳しく説明すると、上側支持部31は、フランジ35において回動自在に支持された上側回動部材37と、この上側回動部材37に回転自在に支持されたローラ38とを有している。このうち上側回動部材37は、フランジ35にて枢支される軸受部37aと、該軸受部37aから略上下方向へ延びる延設部37bと、該延設部37bの下端に設けられた上側当接部37cとから構成され、延設部37bの上端には上記ローラ38が左右方向に延びる軸を中心に回転自在に取り付けられている。また、上側当接部37cは、延設部37bの下端からトレイ本体30側へ延設されており、その先端はゴムブッシュ等から成りトレイ本体30に接近及び離隔する方向へ伸縮可能に構成されている。
【0026】
このような上側回動部材37は、軸受部37aと上側当接部37cとの間の位置に付勢手段を成すコイルスプリング39の一端が接続され、該コイルスプリング39の他端は、トレイ本体30におけるフランジ35とストッパ36との間の位置に接続されている。このコイルスプリング39は伸長した状態で配設されており、上側当接部37cをトレイ本体30に接近させる方向へ、上側回動部材37を付勢している。このように、上側当接部37cがトレイ本体30に近接(又は当接)している状態を、以下では、上側支持部31の「支持状態」と称する。
【0027】
また、図4に示すように、トレイ本体30の後部には、その上下方向の略全長に亘るラック40が取り付けられており、このラック40には、筐体2側に設置されている左右方向に軸芯を有する2つのピニオン41,42が噛合可能になっている。2つのピニオン41,42は筐体2内において軌道5aに沿って上下に配設されており、トレイ駆動部13(図3参照)が制御部10からの指示に従って駆動したときに回転し、トレイ本体30を筐体2の内方位置(図4参照)と筐体2の外部に露出される外方位置(図5参照)との間で昇降動させるようになっている。
【0028】
図4に示すように、筐体2内側の上壁部からはローラ案内壁45が下方に垂設されている。このローラ案内壁45は、最も上方に位置しているときの給紙トレイ5の上部前方に対向配置されており、後面には側面視で所定の形状を有する案内壁面45aが形成されている。より詳しくは、この案内壁面45aは、側面視したときに、上方へ向かうに従って給紙トレイ5に接近するように(後方へ向かうように)湾曲した形状となっている。そして、給紙トレイ5が上昇して最も上方の位置に接近していくと、上側支持部31のローラ38が案内壁面45に当接し、該案内壁面45aに沿って転動して、上方へ向かいつつ後方(トレイ本体30に接近する方向)へ移動され、その結果、上側回動部材37に接続するコイルスプリング39の付勢力に抗って上側回動部材37は前方へ回動し、上側当接部37cはトレイ本体30から離隔する方向へ移動するようになっている。このように、上側当接部37cがトレイ本体30から離隔している状態を、以下では、上側支持部31の「解放状態」と称する。
【0029】
[下側支持部]
一方、図4に示すように、下側支持部32は、筐体2に設けられた左右方向に延びる枢軸50により回動自在に支持された下側回動部材51と、枢軸50に対する下側回動部材51の枢支位置を変更可能とする枢支部52とを有している。このうち下側回動部材51は、最も上方に位置しているときの給紙トレイ5の前方に配設されており、略上下方向へ延びる延設部51aと、該延設部51aの下端に設けられて給紙トレイ5に接近する方向へ延びる下側当接部51bと、該延設部51aの上端の上側当接部51cとから構成されている。
【0030】
枢支部52は、下側回動部材51における上下方向の途中の位置(図5では、上端から約1/3の位置)に設けられており、左右方向へ貫通する枢支孔52aを有している。この枢支孔52aは、前後方向(即ち、給紙トレイ5に対して接近及び離隔する方向)へ長寸の長孔形状を成し、この枢支孔52aに上記枢軸50が挿通されている。従って、下側回動部材51は、枢支孔52aの前側に枢軸50が位置している状態(前側枢支状態:図5参照)、及び枢支孔52aの後側に枢軸50が位置している状態(後側枢支状態:図4参照)の夫々の状態で、枢軸50を中心として前後方向へ回動可能になっている。
【0031】
また、下側回動部材51の上側当接部51cには、付勢手段を成すコイルスプリング53の一端が接続され、該コイルスプリング53の他端は、上述したローラ案内壁45の下部に接続されている。上側当接部51cは、最も上方に位置する給紙トレイ5が位置するときに、上側支持部31の上側回動部材37の延設部37bの下端の前方に対向配置されている。そして、給紙トレイ5が下方に位置しているとき(図5参照)、このコイルスプリング53によって、下側当接部51bは給紙トレイ5が有するトレイ本体30の支持面30aから前方へ離隔して位置している。以下では、このように下側当接部51bがトレイ本体30から離隔している状態を、下側支持部32の「解放状態」と称し、逆に、下側当接部51bがトレイ本体30に近接(又は当接)している状態を、下側支持部32の「支持状態」と称する。なお、図5に示すように、下側支持部32が解放状態のとき、下側回動部材51は前側枢支状態で枢軸50により支持されている。
【0032】
なお、下側当接部51bには、スリット51dとスリット51eが設けられていて、スリット51dを通じて給紙ローラ23と用紙Pとが接触可能となっている。記録モードにおいて、用紙束Pが下側支持部32によってその下端が支持され、その上端が上側支持部31により解放状態となっているときに、給紙ローラ23の回動により、用紙束Pから用紙Pを1枚ずつ運び出され、スリット51eから給紙トレイ5外の給紙ローラ21,22に運び出されるようになっている。
【0033】
[動作説明]
次に、壁掛けプリンタ1が待機モードであって、給紙トレイ5が筐体2の下方に一部を露出させて位置している状態から、記録モードに切り換わって給紙トレイ5が上昇するときの動作について説明する。図7は、給紙トレイ5が上方に位置する状態を示す側面断面図であり、図8は、給紙トレイ5が最も上方に位置する状態を示す側面断面図である。
【0034】
まず、図5に示すように、待機モードにて給紙トレイ5が下方に位置しているときは、上側支持部31が支持状態となっており、トレイ本体30に収容された用紙束Pは、その上端が上側当接部37cとトレイ本体30の支持面30aとの間に挟まれて、吊り下げ支持された状態となっている。従って、待機モードの間、各用紙Pは、紙面が鉛直方向に沿う姿勢に維持されており、湾曲した形状に癖が付くのが防止されている。
【0035】
この待機モードから記録モードに切り換わると、トレイ駆動部13の駆動によって給紙トレイ5が軌道5aに沿って上昇する。図7に示すように、給紙トレイ5が所定の高さに到達すると、上側支持部31のローラ38が案内壁面45aに接触し、更に給紙トレイ5が上昇するに従って、ローラ38が該案内壁面45aに沿って転動しつつ、上方且つ後方へと移動する。このようなローラ38の移動に伴って上側回動部材37は回動するが、所定の回動角度範囲Aでは、伸縮する上側当接部37cにより、用紙束Pは吊り下げ支持された状態(即ち、上側支持部31の支持状態)が維持される。
【0036】
一方、図5に示すように、下側支持部32は待機モードにおいて解放状態となっており、下側回動部材51は前側枢支状態で枢軸50により支持されている。そして、給紙トレイ5が上昇して上側回動部材37が回動すると、給紙トレイ5から離隔する前方へ回動する上側回動部材37の延設部37bの下部により、下側回動部材51の上側当接部51cが前方へ押動される。その結果、下側回動部材51が回動して下側当接部51bがトレイ本体30へ接近し、上側回動部材37が角度範囲A内で回動する間に、下側当接部51bはトレイ本体30の支持面30aに当接して支持状態となる。
【0037】
このように、上側回動部材37が角度範囲A内で回動する間に、上側支持部31と下側支持部32とが共に支持状態となる。
【0038】
次に、図8に示すように給紙トレイ5が更に上昇し、上側回動部材37が角度範囲Aを超えて回動していくと、上側当接部37cが用紙束Pから前方へ離隔し、上側支持部31は支持状態から解放状態へと切り換わる。これに対して下側支持部32は、上側回動部材37の延設部37bの下部によって下側回動部材51の上側当接部51cが更に前方へ移動されるが、枢軸50との相対位置が前側枢支位置から後側枢支位置へと変更されるだけで、支持状態自体は維持される。その結果、用紙束Pは、上側支持部31による吊り下げ支持状態から解放され、下側支持部32によって下端が支持された状態となる。
【0039】
なお、詳細な図示は省略しているが、給紙ローラ23及び下側支持部32と上側支持部31とは左右方向の位置がずらされており、給紙トレイ5が上昇する過程で両者が互いに干渉しあうことがないようになっている。
【0040】
本実施の形態に係る壁掛けプリンタ1は、この状態で給紙ローラ23及び給紙ローラ対21,22が回転し、給紙トレイ5内の用紙束Pから用紙Pが1枚ずつプラテン20の支持面20a側に供給される(図4参照)。そして、記録ヘッド11から吐出されたインクによって画像が記録されると、回転する排紙ローラ対25によって排紙トレイ4へ排出される。このように、記録モードにおいては、吊り下げ支持が解放されて用紙束Pの下端が支持された状態になるため、給紙ローラ23によって、用紙束Pから1枚の用紙Pを容易に引き抜いて供給することができる。また、下側支持部32によって用紙束Pの下端が支持されてから、上側支持部31による支持状態が解放されるため、途中で用紙束Pが全てから解放された状態となって落下することがない。
【0041】
なお、壁掛けプリンタ1が記録モードから待機モードへと切り換わると、給紙トレイ5は、図4に示すような筐体2内の上方位置から下降し、図5に示すように一部が露出する下方位置まで移動する。そして、この間の上側支持部31及び下側支持部32の動作は、図7,8を用いて説明した動作とは逆のステップで実現される。即ち、はじめに上側支持部31が解放状態で下側支持部32が支持状態となっており、給紙トレイ5の下降に伴って上側支持部31が支持状態へと切り換わる。そして、給紙トレイ5が更に下降することにより、上側支持部31の支持状態は維持されたまま、下側支持部32は解放状態へと切り換わる。
【0042】
従って、上側支持部31によって用紙束Pの上部が支持されてから、下側支持部32による支持状態が解放されるため、給紙トレイ5が下降する途中で用紙束Pが全てから解放された状態となって落下することがない。
【0043】
図9は、他の実施形態に係る壁掛けプリンタを側方から見たときの構成を示す断面図であり、図1〜図8を用いて既に説明したものと同様の構成については、同じ符号を付している。この実施形態に係る壁掛けプリンタ1では、筐体2の上部が前後割りに構成されていて、前側カバー2aと後側カバー2bとを有し、前側カバー21aが後側カバー2bに対して前傾して筐体2の上部が開くように構成されている。
【0044】
筐体2の後側カバー2bには、給紙トレイ4が収容されていて、軌道5aに沿って上下に昇降可能となっている。前側カバー2aには、給紙ローラ21、23と下側支持部32とローラ案内壁45とが設けられている。給紙トレイ4は、筐体2の前側カバー2aが開放されているときに、上方から挿入可能となっており、上方から挿入された給紙トレイ4は、図1〜図8に示した壁掛けプリンタ1と同様に用紙束Pの上端を、上側支持部31が支持する状態となっている。そして、給紙トレイ4が上方から挿入されて筐体2内の上部に収められたのち、前側カバー2aが閉じられる。前側カバー2a内に収容されているローラ案内壁45は、筐体2内で最も上方に位置しているときの給紙トレイ5の上部前方に対向配置されるようになっていて、前側カバー2aを閉じた状態では、ローラ案内壁45とローラ38とは接触しない位置に給紙トレイ4はセットされる。そして、待機モードから記録モードに切り替わると、トレイ駆動部13の駆動によって給紙トレイ5が軌道5aに沿って上昇し、給紙トレイ5が所定の高さに到達することで、上側支持部31のローラ38が案内壁面45aに接触するようになっている。以降の動作は図1〜図8に示した壁掛けプリンタ1と同様であるため、説明を省略する。
【0045】
このような図9に示した壁掛けプリンタ1は、例えば、机の側壁面等に掛ける場合などに適当な形態であり、このような場合においては、待機モードにおいて下方に位置する給紙トレイ5へ用紙束Pをセットするよりも、給紙トレイ5が上方に位置する状態で用紙束Pをセットした方が使用者にとって、操作性がよく、使い勝手が良い。
【0046】
なお、上述した説明では、上側支持部31及び下側支持部32を機構的に構成し、給紙トレイ5の昇降動に連動して支持状態と解放状態との間で夫々が自動的に切り換わる構成について説明したが、これに限定されるものではない。本発明に係る壁掛けプリンタは、このような構成の他、上側支持部31及び下側支持部32として電気的に動作する構成を採用することも可能である。
【0047】
また、下側支持部32が筐体2側に設けられている構成に限定されず、給紙トレイ5に下側支持部32が設けられていてもよい。
【0048】
更に、給紙トレイ5が昇降動する構成について説明したが、この他、給紙トレイ5が筐体2の内方から、外部に露出する位置まで筐体2の側方へと移動する構成であってもよい。この場合であっても、例えば、給紙トレイ5が外部に位置する待機モードのときには、上側支持部31によって用紙束Pを吊り下げ支持した状態とし、記録モードになって筐体2の内方へ移動することによって、下側支持部32により用紙束Pの下端を支持してから、上側支持部31による支持を解放させればよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、用紙束から1枚の用紙を容易に供給可能としつつ、紙面が鉛直方向に沿うように用紙束の姿勢を維持することもできる壁掛けプリンタに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施の形態に係る壁掛けプリンタの外観を示す模式的斜視図である。
【図2】図1に示す壁掛けプリンタの内部を示す模式的斜視図である。
【図3】図1に示す壁掛けプリンタの機能的な構成を示すブロック図である。
【図4】給紙トレイが上方に位置する記録モードでの壁掛けプリンタを側方から見たときの断面図である。
【図5】給紙トレイが下方に位置する待機モードでの壁掛けプリンタを側方から見たときの断面図である。
【図6】給紙トレイのみを側方から見たときの断面図である。
【図7】給紙トレイが上方に位置する状態を示す側面断面図である。
【図8】給紙トレイが最も上方に位置する状態を示す側面断面図である。
【図9】他の実施の形態に係る壁掛けプリンタを側方から見たときの断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 壁掛けプリンタ
2 筐体
5 給紙トレイ
13 トレイ駆動部
23 給紙ローラ
31 上側支持部
32 下側支持部
37 上側回動部材
37c 上側当接部
38 ローラ
51 下側回動部材
51b 下側当接部
52 枢支部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の用紙が積層された用紙束をその紙面が鉛直方向に沿うように保持して収容するトレイを備え、該トレイから供給された用紙に画像を記録する壁掛けプリンタであって、
前記トレイ内の用紙束上端を吊り下げ支持した状態とこの支持を解放した状態とで切り換え可能な上側支持部、及び、
前記トレイ内の用紙束の下端に当接して該用紙束を下方から支持した状態とこの支持を解放した状態とで切り換え可能な下側支持部を更に備え、
前記用紙束が前記上側支持部によって吊り下げ支持されているときに、前記下側支持部が解放状態から支持状態へ切り換えを完了するのに連動して、前記上側支持部が前記用紙束への吊り下げ支持を解放するよう構成されていることを特徴とする壁掛けプリンタ。
【請求項2】
前記用紙へ画像を記録する記録モードと、前記用紙へ画像を記録しない待機モードとを備え、
該待機モードでは、前記下側支持部は解放状態であって前記用紙束は前記上側支持部によって前記トレイ内で吊り下げ支持されており、
前記待機モードから前記記録モードへ移行したときに、前記下側支持部が解放状態から支持状態へ切り換わり、且つ該切り換えの完了に連動して前記上側支持部が前記用紙束への吊り下げ支持を解放するよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の壁掛けプリンタ。
【請求項3】
前記トレイ内から1枚の用紙を前記トレイ外へ供給する給紙ローラを備え、該給紙ローラは、前記記録モードにおいて、前記用紙束が前記下側支持部によって支持され且つ前記上側支持部による吊り下げ支持が解放された状態で駆動するよう構成されていることを特徴とする請求項2に記載の壁掛けプリンタ。
【請求項4】
前記トレイを収容可能な筐体と、前記トレイを該筐体の内外へ移動させる駆動部とを備え、前記待機モードでは、前記トレイは前記筐体の外方へ露出して位置していることを特徴とする請求項2又は3に記載の壁掛けプリンタ。
【請求項5】
前記待機モードから前記記録モードへ移行したときに、前記トレイは、前記駆動部によって前記筐体の外方から内方へ移動するよう構成されていることを特徴とする請求項4に記載の壁掛けプリンタ。
【請求項6】
前記上側支持部は、前記用紙束の上部に当接する上側当接部を具備して前記トレイの上部に枢支される上側回動部材と、該上側回動部材に回転可能に設けられるローラとを有し、
更に、前記筐体内には、前記トレイが該筐体の内方へ移動する過程で前記ローラを案内する案内壁を備え、
該案内壁は、前記トレイが前記筐体の内方へ移動する過程で前記ローラと接触して該ローラが転動することにより、前記上側回動部材を回動させて前記上側当接部を前記用紙束から離隔させ、前記上側支持部による前記用紙束の吊り下げ支持が解放させるよう構成されていることを特徴とする請求項4又は5に記載の壁掛けプリンタ。
【請求項7】
前記下側支持部は、
前記用紙束の下端に当接する下側当接部を具備して、前記筐体の内方に位置する前記トレイに対して前記下側当接部を接近及び離隔する方向へ、枢軸を中心にして回動自在に枢支される下側回動部材と、
前記枢軸に対する前記下側回動部材の枢支位置を、前記トレイへ接近及び離隔する方向へ変更可能な枢支部と、
該下側回動部材を前記用紙束から離隔させる方向へ付勢する付勢部材とを有し、
前記下側回動部材は、
前記トレイが前記筐体内へ移動する過程で前記用紙束から離隔する前記上側当接部により押動されて前記枢軸を中心に回動し、前記トレイ内の用紙束の下端に前記下側当接部が当接する下支え状態となり、前記上側当接部による前記用紙束の吊り下げ支持が解放されるまで該上側当接部により更に押動されることにより、前記下支え状態を維持しつつ、前記枢軸に対する枢支位置が前記トレイから離隔する方向へ変更されるよう構成されていることを特徴とする請求項6に記載の壁掛けプリンタ。
【請求項8】
上部に設けられた開口および該開口を開閉可能なカバーを有して前記トレイを収容可能な筐体と、該筐体内で前記トレイを昇降動させる駆動部とを備え、前記開口を通じて前記トレイを前記筐体内へ挿脱可能に構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の壁掛けプリンタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−242032(P2009−242032A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88935(P2008−88935)
【出願日】平成20年3月29日(2008.3.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】