変位計測装置
【課題】本発明の課題は、計測点の変位を精度良く算出できる変位計測装置を得ることである。
【解決手段】撮像素子に撮影した複数の計測対象物10の変位前後の画像から任意の計測点3aの変位量を算出する変位計測装置1において、撮像素子に撮影した画像を処理する画像処理部13を備え、画像処理部13は画像の複数の計測点3aから任意の一の計測点を基準点12として選択する基準点選択手段24と、基準点12に基づいて各計測点3aの変位量を算出する変位量算出手段25とを備え、基準点選択手段24は先に撮影した画像の計測点3aの座標値と後から撮影した画像の計測点3aの座標値の変化量から基準点12を選択しており、任意の計測点3aの座標値の変化量が所定量より小さいと判断した場合、かかる計測点3aを基準点12としている。
【解決手段】撮像素子に撮影した複数の計測対象物10の変位前後の画像から任意の計測点3aの変位量を算出する変位計測装置1において、撮像素子に撮影した画像を処理する画像処理部13を備え、画像処理部13は画像の複数の計測点3aから任意の一の計測点を基準点12として選択する基準点選択手段24と、基準点12に基づいて各計測点3aの変位量を算出する変位量算出手段25とを備え、基準点選択手段24は先に撮影した画像の計測点3aの座標値と後から撮影した画像の計測点3aの座標値の変化量から基準点12を選択しており、任意の計測点3aの座標値の変化量が所定量より小さいと判断した場合、かかる計測点3aを基準点12としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、計測対象物の変位を計測する変位計測装置において、変位前後で変位しない複数の固定点を含むように写真画像を撮影し、固定点を基準点として計測対象物の変位を求める技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−77377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の従来技術では、計測対象物に固定の基準点を設置する必要があるので、計測対象物自身が変位するような場合には、基準点を設置することが難しく、計測点の変位を精度良く算出できないという問題があった。
【0005】
本発明は、計測点の変位を精度良く算出できる変位計測装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、撮像素子に撮影した複数の計測対象物の変位前後の画像から任意の計測点の変位量を算出する変位計測装置において、撮像素子に撮影した画像を処理する画像処理部を備え、画像処理部は画像の複数の計測点から任意の一の計測点を基準点として選択する基準点選択手段と、基準点に基づいて各計測点の変位量を算出する変位量算出手段とを備え、基準点選択手段は先に撮影した画像の計測点の座標値と後から撮影した画像の計測点の座標値の変化量から基準点を選択しており、任意の計測点の座標値の変化量が所定量より小さいと判断した場合、係る計測点を基準点とすることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載の発明において、撮影部は計測対象物に対して撮影方向の異なる2つ以上の地点に設置しており、一方の撮影部で撮影した画像と、他方の撮影部で撮影した画像とを合成して3次元画像を得ることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載された発明は、請求項1又は2に記載の発明において、計測対象物には予め設置した標的を設けており、標的を計測点としていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載された発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の発明において、標的は反射部を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載された発明は、請求項4に記載の発明において、反射部は撮影部と標的との間の距離に応じて面積を変更することを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載された発明は、請求項1に記載の発明において、画像処理部は反射部の重心位置を算出する重心位置算出部を備え、画像処理部は重心位置算出部で得た重心位置から計測点の座標を特定することを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載された発明は、請求項6に記載の発明において、画像処理部は撮像素子の1ピクセル以下のサブピクセル単位で計測点の座標を算出するサブピクセル算出部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、基準点選択手段により任意の計測点の変化前後の座標値の変化量が所定量より小さいと判断した場合は、係る計測点を基準点とし、係る基準点に基づいて各計測点の変位量を算出するので、固定の基準点を設置しなくて済む。従って、固定の基準点を設置し難い計測対象物であっても、容易に計測点の変位量を算出できる。
【0014】
撮影部で撮影した画像の処理により計測点の変位量を算出しているので、標尺等の測定器具を要さず、現場での測定時間を短縮化できる。
【0015】
請求項2に記載された発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の効果を奏すると共に、撮影方向の異なる2以上の地点から測定対象物を撮影した画像を合成して3次元画像を得るので、計測点の3次元における変位量を容易に算出することができる。
【0016】
請求項3に記載された発明によれば、請求項1又は2に記載の発明と同様の効果を奏すると共に、計測対象物に設けた標的を計測点としているので、画像上で計測点を容易に把握することができ、計測点の変位量を精度良く算出することができる。
【0017】
請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜3の何れか一項に記載の発明と同様の効果を奏すると共に、標的は反射部を備えているので、画像における反射板の領域が他の領域よりも高い輝度値を示すことで、計測点の位置を精度良く特定することができる。
【0018】
請求項5に記載された発明によれば、請求項4に記載の発明と同様の効果を奏すると共に、撮影部と計測点との距離に応じて反射部の面積を変更しているので、例えば撮影部と計測点との距離が長い場合に反射板の面積を大きくすることで、表示部に表示される反射部の画素数が多くなり、計測点の座標を精度良く計測できる。
【0019】
請求項6に記載された発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の効果を奏すると共に、重心位置算出部により反射部の重心位置を算出して計測点の座標を特定しているので、計測点の変位量を精度良く算出できる。
【0020】
請求項7に記載された発明によれば、請求項6に記載の発明と同様の効果を奏すると共に、サブピクセル算出部によりサブピクセル単位で計測点の座標を算出するので、計測点の座標を更に精度良く算出でき、計測点の変位量を更に精度良く算出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の実施形態に係る変位計測装置の全体を示す制御ブロック図、図2は計測対象物を撮影しているようすを示す斜視図、図3は図2に示す計測対象物を撮影部の位置を変えて撮影した画像をそれぞれ示す図、図4は1回目の撮影画像と2回目の撮影画像とを重ね合わせを説明する図であり、2点鎖線で抜き出して示す(a)は変位前後の基準点の位置を説明する図、(b)は変位前後の計測点位置を説明する図、図5は図2に示す標的を拡大して示す正面図、図6はデジタルカメラの外部標定方法を説明する概略図、図7は複数の撮影画像から3次元座標を算出する方法を説明する図、図8は反射シールの重心点座標を算出する方法を説明する図、図9は計測対象物の画像認識を説明する図であり、(a)は通常のピクセルでの画像認識を説明する図、(b)はサブピクセルでの画像認識を説明する図、図10は誤差楕円を用いた基準点の選定を示す図、図11は本発明に係る変位計測装置の計測の流れを説明するフローチャート、図12は本発明に係る変位計測装置の計測結果を示し、奥行き方向の移動量の実測値と計測値との相関関係を示すグラフ、図13は本発明に係る変位計測装置の計測結果を示し、水平垂直方向の移動量の実測値と計測値との相関関係を示すグラフである。
【0022】
本実施の形態に係る変位計測装置1は、擁壁等の計測対象物10の変位を計測するものであり、図1に示すように計測対象物10を撮像素子に撮影するデジタルカメラ(撮影部)7と、デジタルカメラ7で撮影したが画像を処理するコンピュータ9とを備える。図2に示すように、デジタルカメラ(撮影部)7を用いて計測対象物10を複数回撮影し、変位前後の同じ点に設けられた計測点の3次元座標を算出し、座標値の移動量から変位量を算出する。
【0023】
標的3は計測対象物10に複数設置しており、図5に示すように、黒色の標的基板3c(縦210mm×横210mm)に反射シール(反射部)3bを貼り付けている。反射シール3bは円形状であり、円の中心が変位を計測する計測点3aとなっている。
【0024】
反射シール3bの直径はデジタルカメラ7で撮影した画像において5ピクセル以上になるようにデジタルカメラ7と標的3との間の距離に応じて面積を変更している。反射シール3bの直径Dが5ピクセル以上になる基準を下記の表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
デジタルカメラ7はUSBケーブル等を通じてコンピュータ9に接続できるようにしており、デジタルカメラ7で撮影した画像データはコンピュータ9に取り込んで、記憶部17に保存する。
【0027】
コンピュータ9は、デジタルカメラ7で取り込んだ画像を解析処理する画像処理部13と、取り込んだ画像を画面上に表示する表示部15と、デジタルカメラ7から取り込んだ画像や画像処理部13で処理された各データを記憶する記憶部17とを備えている。
【0028】
画像処理部13は、デジタルカメラ7で撮影した変位前後の画像を合成する画像合成部21と、デジタルカメラ7で撮影した複数枚の画像を合成して計測点3aの3次元座標を算出する3次元座標算出部23と、画像の複数の計測点3aから任意の一の計測点3aを基準点4として選択する基準点選択部(基準点選択手段)24と、測定点3aの変位量を算出する変位量算出部25と、反射シール3bの重心位置を算出する重心位置算出部27と、1ピクセル以下のサブピクセル単位で測定点3aの座標を算出するサブピクセル算出部29を備えている。
【0029】
画像合成部19ではデジタルカメラ7で撮影した1回目の撮影画像と、同じデジタルカメラ7で撮影した2回目の撮影画像とをアフィン変換によって重ね合わせる。アフィン変換によって1回目の撮影画像と2回目の撮影画像とを重ね合わせることによって、図4(a)に示す基準点4に基づいて、図4(b)に抜き出して示す変位前後の測定点3aの座標値を算出する。
【0030】
デジタルカメラ7の撮影位置(O1、O2)は、図6に示すように、計測対象物10以外の位置に設けた基準点を基準として算出する。デジタルカメラ7の撮影方向(デジタルカメラ7の3軸(X、Y、Z)に対する傾き)は、3軸(X、Y、Z)の基準線を任意に設置して、角度計測器を用いて算出している。尚、デジタルカメラ7の撮影位置はGPSを用いて算出しても良い。
【0031】
図3に示すように、3次元座標算出部23は、計測対象物10を左側から撮影した第1画像31と、計測対象物10を右側から撮影した第2画像33と、デジタルカメラ7の撮影位置(レンズ中心位置(O1、O2))及び撮影方向の情報から計測点3aの3次元座標P(X,Y,Z)を算出する。
【0032】
即ち、図7に示すように計測対象物10を左側から撮影した第1画像31には計測点3aの2次元座標値p1(x1、y1)が写り、計測対象物10を右側から撮影した第2画像33には計測点3aの2次元座標値p2(x2、y2)が写る。そして、第1画像31の2次元座標値p1(x1、y1)、第2画像33の2次元座標値p2(x2、y2)、左側から撮影した第1画像31のデジタルカメラ7のレンズ中心位置O1及び撮影方向、右側から撮影した第2画像33のデジタルカメラ7のレンズ中心位置O2及び撮影方向からフリーネットワーク(自由網)調整法を用いて計測点3aの3次元座標P(X,Y,Z)を算出している。
【0033】
尚、フリーネットワーク調整法では、2次元画像iに計測点jに写っている場合、下記式(1)の条件式を解くことで計測点jの3次元座標Pを求める。下記式(1)中、(x0、y0、z0)はカメラの座標値を示すパラメータ、(ω、φ、κ)は撮影時の角度を示すパラメータである。また、Δxi及びΔyiは系統誤差を表し、中心投影の条件を妨げる要因となるもので、レンズ収差を表す係数と主点位置のズレを表す補正値からなる。
【0034】
【数1】
・・・(1)
上記式(1)は非線形であるため、各未知数をテーラー展開することで方程式を線形化する。線形化した方程式を下記式(2)に示す。
【0035】
【数2】
・・・(2)
【0036】
図4に示すように、変位量算出部25では1回目の撮影画像と2回目の撮影画像とを重ね合わせたときに表示される、変位前の計測点3aの3次元座標P1(X1、Y1、Z1)と、変位後の計測点3aの3次元座標P2(X2、Y2、Z2)との差を求めることで計測点3aの変位量を算出している。
【0037】
重心位置算出部27では計測点3aの重心位置を算出する。図8に示すように重心位置の算出は、先ず反射シール3bの周囲を枠3dで取り囲んで計算領域を指定する。そして計算領域内の輝度値をヒストグラムとして生成し、ヒストグラムにおいて高輝度の輝度値を有する画素を特定する。その後、公知の大津モデル式を使用して閾値を設定し、閾値以上の輝度値を示す画素にグレースケール値を掛け算して重心点を算出する。尚、計算領域内の任意点(x、y)のグレースケール値をW、画素数をnとした場合、重心点(x0、y0)は、x0=Σ(x×W)/n、y0=Σ(y×W)/nでそれぞれ算出する。
【0038】
サブピクセル算出部29は1ピクセル以下のサブピクセル単位で測定対象の座標を算出する。例えば、画像中に図9(a)に示すような測定対象Sが映っていた場合、測定対象Sは4つのピクセルT1、T2、T3、T4全体で認識される。即ち、測定対象Sが存在する4つのピクセルT1、T2、T3、T4全部のピクセルが「1」と認識される。
【0039】
サブピクセル算出部29では、ピクセルを複数のサブピクセルに分割(4分割)でき、図9(b)に示すように、測定対象Sは4つのサブピクセルT13、T24、T31、T42で認識される。即ち、4つのサブピクセルT13、T24、T31、T42は「1」と認識され、その他のサブピクセル(T11、T12、T14、T21、T22、T23、T32、T33、T34、T41、T43、T44)は「0」と認識される。
【0040】
基準点選択部24では、変位前の計測点3aの3次元座標P1(X1、Y1、Z1)と、変位後の測定点3aの3次元座標P2(X2、Y2、Z2)の移動量を算出し、移動量が所定量より小さい場合に、係る計測点を変位量算出のための基準点としている。
【0041】
尚、基準点選択部24では図10に示すように変位誤差楕球を用いた統計手法により、計測点を基準点として選択するか否か判断している。即ち、図10中、40a、41a、42a、43a、44aは変位前の計測点の座標位置を示しており、40b、41b、42b、43b、44bは変位後の計測点の座標位置を示している。そして各計測点において変位誤差楕球W1〜W5を生成している。変位誤差楕球は所定の確率で計測点3aが所定の領域内に存在するか否かを示している。まず、基準点を検知し、検知した基準点に対する計測点が変位誤差楕球の領域外にある場合(図10中40b)、基準点選択部24により、その基準点は選択しない。一方、基準点に対する変位後の計測点が変位誤差楕球の領域内にある場合(図10中、41b、42b、43b、44b)は基準点選択部24により、その基準点を採用して選択する。
【0042】
次に、上記した構成に基づき、本実施の形態の作用を図11に示すフローチャートに基づいて説明する。現場では先ず、測定対象物10の複数箇所に標的3を設置する。次いで、測定対象物10から所定距離だけ離れた位置であって、測定対象物10に対して撮影方向が異なる2つの撮影位置からデジタルカメラ7で撮影する。撮影した各画像はコンピュータ9の記憶部17に保存する。尚、デジタルカメラ7のキャリブレーションの精度を高めるため、各撮影位置においてカメラの向きをレンズの周方向に約90度ずつずらして合計4枚の画像を撮影している(ステップS1)。
【0043】
記憶部17に保存された左側から撮影した第1画像31と、計測対象物10を右側から撮影した第2画像33から、フリーネットワーク調整法を用いて各計測点3aの3次元座標を求める(ステップS2)。尚、計測点3aの座標はコンピュータ9の表示部15に表示された画像を用いて、重心位置算出部27が標的3の反射シール3bの重心位置を算出することで求める。以上のステップで1回目の撮影が終了する。
【0044】
次に2回目の撮影を行う。2回目の撮影は上述の1回目のステップで説明した方法と同様の方法で左右の画像を撮影し、撮影した各画像は記憶部17に保存する。そして左右の画像からフリーネットワーク調整法を用いて各計測点3aの3次元座標を求める。
【0045】
次のステップS3では、撮影した画像が1回目(エポックI)であるか否か判断され、1回目でない場合は次のステップS4に進み、2回目に撮影した画像の計測精度が1回目に撮影した画像の計測精度と同じであるか否か判断される。計測精度が同じであるか否かは、例えば1回目の撮影と2回目の撮影においてデジタルカメラ7のキャリブレーションの精度が同じであったか否かで判断する。
【0046】
次のステップS5では1回目に撮影した画像と2回目に撮影した画像とを比較して、計測対象物10が全体的に変位したか否か判断する。計測対象物10が全体的に変位したか否かは、計測点全点の座標をベクトル形式で表し、2回の計測での座標ベクトルの値に有意差があったか否かで判断する。計測対象物10に全体的な変位があると判断された場合、次のステップS6に進み、計測対象物10に全体的な変位がないと判断された場合、ステップS11に進む。
【0047】
ステップS6では、エポック1で求めた計測点の全点の重心座標と、エポック2で求めた計測点の全点の重心座標と重ね合わせて、重心座標が同じ値であるか(等確率変位)否か判断する。計測点の全点の重心座標が同じ値でない場合は、次のステップS7に進む。ステップS7では、基準点選択部24において計測点3aを基準点として選択するか否か判断し、計測点3aを基準点とする場合、次のステップS8に進み、ステップS2において全体重心座標系で計算した座標値を基準点に基づく相対基準点座標系に変換する。ステップS9ではエポック1で求めた各計測点の3次元座標値と、エポック2で求めた各計測点の3次元座標値とから変位差を算出し、ステップS10において各計測点が移動したか否か判断し、ステップS11において算出結果を出力する。そして次のステップS12において計測を継続する場合はステップS1に戻る。計測を継続しない場合はステップを終了する。
【0048】
本実施の形態では、基準点選択手段24が任意の計測点3aの座標値の移動量が所定量より小さいと判断した場合は、係る計測点3aを基準点とし、係る基準点に基づいて各計測点の変位量を算出するので、固定の基準点を設置し難い計測対象物10であっても、容易に計測点3aの変位量を算出できる。
【0049】
デジタルカメラ7で撮影した画像の処理により計測点3aの変位量を算出しているので、標尺等の測定器具を要さず、現場での測定時間を短縮化できる。
【0050】
計測対象物10を撮影方向から異なる2つの地点で撮影した画像を合成して3次元画像を得るので、計測点3aの3次元における変位量を容易に算出することができる。
【0051】
計測対象物10に設けた標的3を計測点3aとしているので、画像上で計測点3aを容易に把握することができ、計測点3aの変位量を精度良く算出することができる。
【0052】
標的3には反射シール3bを備えているので、コンピュータ9の表示部15に表示される画像において、反射シール3bの領域が他の領域よりも高い輝度値を示すことで、測定点3aの位置を精度良く特定することができる。
【0053】
デジタルカメラ7の位置と測定点3aとの距離に応じて反射シール3bの面積を変更しているので、例えばデジタルカメラ7の位置と測定点3aとの距離が長い場合に反射シール3bの面積を大きくすることで、表示部15に表示される反射シール3bの画素数が多くなり、測定点3aの座標を精度良く測定できる。
【0054】
重心位置算出部27により反射シール3bの重心位置を算出して測定点3aの座標を特定しているので、測定点3aの変位量を精度良く算出できる。
【0055】
サブピクセル算出部29によりサブピクセル単位で測定点3aの座標を算出するので、測定点3aの座標を更に精度良く算出でき、測定点3aの変位量を更に精度良く算出できる。
【0056】
次に、本実施の形態に係る変位計測装置の変位量の精度について実験を行ったのでその結果について説明する。
【0057】
(実験例)
本実験例では、測定対象物10に設置した標的2を実際に移動させ、実測値と本発明の変位計測装置1で算出した変位の計測値との相関関係について実験した。その結果を図14の表に示す。図14は移動量の実測値と変位計測装置で求めた計測値とを表に示したものである。図12は図14の表に基づいて奥行き(Z)方向の移動量の実測値と計測値との相関関係を示すグラフ、図13は図14の表に基づいて水平垂直方向の移動量の実測値と計測値との相関関係を示すグラフである。
【0058】
図12に示すように、奥行き(Z)方向の移動量の計測値(図12に示す□印、○印、×印、◇印、△印、●印、■印)は、実測値(図12に示す実線)のほぼ線上に位置し、本発明の変位計測装置1で算出した変位の計測値と実測値との間に高い相関関係が見られた。
【0059】
図13に示すように、水平垂直(XY)方向の移動量の計測値(図13に示す□印、○印、×印、◇印、△印、●印、■印)は、実測値(図13に示す実線)のほぼ線上に位置し、本発明の変位計測装置1で算出した変位の計測値と実測値との間に高い相関関係が見られた。
【0060】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば本実施の形態では、測定対象物10を2つの方向から撮影したが、これに限定されず、3以上の方向から測定対象物10を撮影しても良い。
【0061】
本実施の形態では、計測点3aを標的3内に設けたが、これに限定されず、標的を設けずに測定対象物10の特徴点を計測点としても良い。
【0062】
また、標的3には反射シール3bを設けることに限らず、周囲との関係で、その部分の濃淡が明確になっているものでも良い。また、測定点は突起等の特徴的な部分としても良い。
【0063】
測定対象物10は、ダム、橋梁、トンネル、高架橋であっても良いし、山の斜面を観測して地滑りを計測するものであっても良い。
【0064】
撮影部7はデジタルカメラに限らず、一眼レフカメラであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係る変位計測装置の全体を示す制御ブロック図である。
【図2】計測対象物を撮影しているようすを示す斜視図である。
【図3】図2に示す計測対象物を撮影部の位置を変えて撮影した画像をそれぞれ示す図である。
【図4】1回目の撮影画像と2回目の撮影画像とを重ね合わせを説明する図であり、2点鎖線で抜き出して示す(a)は変位前後の基準点の位置を説明する図、(b)は変位前後の計測点位置を説明する図である。
【図5】図2に示す標的を拡大して示す正面図である。
【図6】デジタルカメラの外部標定方法を説明する概略図である。
【図7】複数枚の撮影画像から3次元座標を算出する方法を説明する図である。
【図8】反射シールの重心点座標を算出する方法を説明する図である。
【図9】計測対象物の画像認識を説明する図であり、(a)は通常のピクセルでの画像認識を説明する図、(b)はサブピクセルでの画像認識を説明する図である。
【図10】誤差楕円を用いた基準点の選定を示す図である。
【図11】本発明に係る変位計測装置の計測の流れを説明するフローチャートである。
【図12】本発明に係る変位計測装置の計測結果を示し、奥行き(Z)方向の移動量の実測値と計測値との相関関係を示すグラフである。
【図13】本発明に係る変位計測装置の計測結果を示し、水平垂直(XY)方向の移動量の実測値と計測値との相関関係を示すグラフである。
【図14】本発明に係る変位計測装置の計測値と移動量の実測値とを表に示した図である。
【符号の説明】
【0066】
1 変位測定装置
3 標的
3a 計測点
3b 反射シール
7 デジタルカメラ(撮影部)
10 計測対象物
12 基準点
13 画像処理部
21 画像合成部
23 3次元座標算出部
24 基準点選択部
25 変位量算出部
27 重心位置算出部
29 サブピクセル算出部
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、計測対象物の変位を計測する変位計測装置において、変位前後で変位しない複数の固定点を含むように写真画像を撮影し、固定点を基準点として計測対象物の変位を求める技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−77377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の従来技術では、計測対象物に固定の基準点を設置する必要があるので、計測対象物自身が変位するような場合には、基準点を設置することが難しく、計測点の変位を精度良く算出できないという問題があった。
【0005】
本発明は、計測点の変位を精度良く算出できる変位計測装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、撮像素子に撮影した複数の計測対象物の変位前後の画像から任意の計測点の変位量を算出する変位計測装置において、撮像素子に撮影した画像を処理する画像処理部を備え、画像処理部は画像の複数の計測点から任意の一の計測点を基準点として選択する基準点選択手段と、基準点に基づいて各計測点の変位量を算出する変位量算出手段とを備え、基準点選択手段は先に撮影した画像の計測点の座標値と後から撮影した画像の計測点の座標値の変化量から基準点を選択しており、任意の計測点の座標値の変化量が所定量より小さいと判断した場合、係る計測点を基準点とすることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載の発明において、撮影部は計測対象物に対して撮影方向の異なる2つ以上の地点に設置しており、一方の撮影部で撮影した画像と、他方の撮影部で撮影した画像とを合成して3次元画像を得ることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載された発明は、請求項1又は2に記載の発明において、計測対象物には予め設置した標的を設けており、標的を計測点としていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載された発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の発明において、標的は反射部を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載された発明は、請求項4に記載の発明において、反射部は撮影部と標的との間の距離に応じて面積を変更することを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載された発明は、請求項1に記載の発明において、画像処理部は反射部の重心位置を算出する重心位置算出部を備え、画像処理部は重心位置算出部で得た重心位置から計測点の座標を特定することを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載された発明は、請求項6に記載の発明において、画像処理部は撮像素子の1ピクセル以下のサブピクセル単位で計測点の座標を算出するサブピクセル算出部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、基準点選択手段により任意の計測点の変化前後の座標値の変化量が所定量より小さいと判断した場合は、係る計測点を基準点とし、係る基準点に基づいて各計測点の変位量を算出するので、固定の基準点を設置しなくて済む。従って、固定の基準点を設置し難い計測対象物であっても、容易に計測点の変位量を算出できる。
【0014】
撮影部で撮影した画像の処理により計測点の変位量を算出しているので、標尺等の測定器具を要さず、現場での測定時間を短縮化できる。
【0015】
請求項2に記載された発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の効果を奏すると共に、撮影方向の異なる2以上の地点から測定対象物を撮影した画像を合成して3次元画像を得るので、計測点の3次元における変位量を容易に算出することができる。
【0016】
請求項3に記載された発明によれば、請求項1又は2に記載の発明と同様の効果を奏すると共に、計測対象物に設けた標的を計測点としているので、画像上で計測点を容易に把握することができ、計測点の変位量を精度良く算出することができる。
【0017】
請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜3の何れか一項に記載の発明と同様の効果を奏すると共に、標的は反射部を備えているので、画像における反射板の領域が他の領域よりも高い輝度値を示すことで、計測点の位置を精度良く特定することができる。
【0018】
請求項5に記載された発明によれば、請求項4に記載の発明と同様の効果を奏すると共に、撮影部と計測点との距離に応じて反射部の面積を変更しているので、例えば撮影部と計測点との距離が長い場合に反射板の面積を大きくすることで、表示部に表示される反射部の画素数が多くなり、計測点の座標を精度良く計測できる。
【0019】
請求項6に記載された発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の効果を奏すると共に、重心位置算出部により反射部の重心位置を算出して計測点の座標を特定しているので、計測点の変位量を精度良く算出できる。
【0020】
請求項7に記載された発明によれば、請求項6に記載の発明と同様の効果を奏すると共に、サブピクセル算出部によりサブピクセル単位で計測点の座標を算出するので、計測点の座標を更に精度良く算出でき、計測点の変位量を更に精度良く算出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の実施形態に係る変位計測装置の全体を示す制御ブロック図、図2は計測対象物を撮影しているようすを示す斜視図、図3は図2に示す計測対象物を撮影部の位置を変えて撮影した画像をそれぞれ示す図、図4は1回目の撮影画像と2回目の撮影画像とを重ね合わせを説明する図であり、2点鎖線で抜き出して示す(a)は変位前後の基準点の位置を説明する図、(b)は変位前後の計測点位置を説明する図、図5は図2に示す標的を拡大して示す正面図、図6はデジタルカメラの外部標定方法を説明する概略図、図7は複数の撮影画像から3次元座標を算出する方法を説明する図、図8は反射シールの重心点座標を算出する方法を説明する図、図9は計測対象物の画像認識を説明する図であり、(a)は通常のピクセルでの画像認識を説明する図、(b)はサブピクセルでの画像認識を説明する図、図10は誤差楕円を用いた基準点の選定を示す図、図11は本発明に係る変位計測装置の計測の流れを説明するフローチャート、図12は本発明に係る変位計測装置の計測結果を示し、奥行き方向の移動量の実測値と計測値との相関関係を示すグラフ、図13は本発明に係る変位計測装置の計測結果を示し、水平垂直方向の移動量の実測値と計測値との相関関係を示すグラフである。
【0022】
本実施の形態に係る変位計測装置1は、擁壁等の計測対象物10の変位を計測するものであり、図1に示すように計測対象物10を撮像素子に撮影するデジタルカメラ(撮影部)7と、デジタルカメラ7で撮影したが画像を処理するコンピュータ9とを備える。図2に示すように、デジタルカメラ(撮影部)7を用いて計測対象物10を複数回撮影し、変位前後の同じ点に設けられた計測点の3次元座標を算出し、座標値の移動量から変位量を算出する。
【0023】
標的3は計測対象物10に複数設置しており、図5に示すように、黒色の標的基板3c(縦210mm×横210mm)に反射シール(反射部)3bを貼り付けている。反射シール3bは円形状であり、円の中心が変位を計測する計測点3aとなっている。
【0024】
反射シール3bの直径はデジタルカメラ7で撮影した画像において5ピクセル以上になるようにデジタルカメラ7と標的3との間の距離に応じて面積を変更している。反射シール3bの直径Dが5ピクセル以上になる基準を下記の表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
デジタルカメラ7はUSBケーブル等を通じてコンピュータ9に接続できるようにしており、デジタルカメラ7で撮影した画像データはコンピュータ9に取り込んで、記憶部17に保存する。
【0027】
コンピュータ9は、デジタルカメラ7で取り込んだ画像を解析処理する画像処理部13と、取り込んだ画像を画面上に表示する表示部15と、デジタルカメラ7から取り込んだ画像や画像処理部13で処理された各データを記憶する記憶部17とを備えている。
【0028】
画像処理部13は、デジタルカメラ7で撮影した変位前後の画像を合成する画像合成部21と、デジタルカメラ7で撮影した複数枚の画像を合成して計測点3aの3次元座標を算出する3次元座標算出部23と、画像の複数の計測点3aから任意の一の計測点3aを基準点4として選択する基準点選択部(基準点選択手段)24と、測定点3aの変位量を算出する変位量算出部25と、反射シール3bの重心位置を算出する重心位置算出部27と、1ピクセル以下のサブピクセル単位で測定点3aの座標を算出するサブピクセル算出部29を備えている。
【0029】
画像合成部19ではデジタルカメラ7で撮影した1回目の撮影画像と、同じデジタルカメラ7で撮影した2回目の撮影画像とをアフィン変換によって重ね合わせる。アフィン変換によって1回目の撮影画像と2回目の撮影画像とを重ね合わせることによって、図4(a)に示す基準点4に基づいて、図4(b)に抜き出して示す変位前後の測定点3aの座標値を算出する。
【0030】
デジタルカメラ7の撮影位置(O1、O2)は、図6に示すように、計測対象物10以外の位置に設けた基準点を基準として算出する。デジタルカメラ7の撮影方向(デジタルカメラ7の3軸(X、Y、Z)に対する傾き)は、3軸(X、Y、Z)の基準線を任意に設置して、角度計測器を用いて算出している。尚、デジタルカメラ7の撮影位置はGPSを用いて算出しても良い。
【0031】
図3に示すように、3次元座標算出部23は、計測対象物10を左側から撮影した第1画像31と、計測対象物10を右側から撮影した第2画像33と、デジタルカメラ7の撮影位置(レンズ中心位置(O1、O2))及び撮影方向の情報から計測点3aの3次元座標P(X,Y,Z)を算出する。
【0032】
即ち、図7に示すように計測対象物10を左側から撮影した第1画像31には計測点3aの2次元座標値p1(x1、y1)が写り、計測対象物10を右側から撮影した第2画像33には計測点3aの2次元座標値p2(x2、y2)が写る。そして、第1画像31の2次元座標値p1(x1、y1)、第2画像33の2次元座標値p2(x2、y2)、左側から撮影した第1画像31のデジタルカメラ7のレンズ中心位置O1及び撮影方向、右側から撮影した第2画像33のデジタルカメラ7のレンズ中心位置O2及び撮影方向からフリーネットワーク(自由網)調整法を用いて計測点3aの3次元座標P(X,Y,Z)を算出している。
【0033】
尚、フリーネットワーク調整法では、2次元画像iに計測点jに写っている場合、下記式(1)の条件式を解くことで計測点jの3次元座標Pを求める。下記式(1)中、(x0、y0、z0)はカメラの座標値を示すパラメータ、(ω、φ、κ)は撮影時の角度を示すパラメータである。また、Δxi及びΔyiは系統誤差を表し、中心投影の条件を妨げる要因となるもので、レンズ収差を表す係数と主点位置のズレを表す補正値からなる。
【0034】
【数1】
・・・(1)
上記式(1)は非線形であるため、各未知数をテーラー展開することで方程式を線形化する。線形化した方程式を下記式(2)に示す。
【0035】
【数2】
・・・(2)
【0036】
図4に示すように、変位量算出部25では1回目の撮影画像と2回目の撮影画像とを重ね合わせたときに表示される、変位前の計測点3aの3次元座標P1(X1、Y1、Z1)と、変位後の計測点3aの3次元座標P2(X2、Y2、Z2)との差を求めることで計測点3aの変位量を算出している。
【0037】
重心位置算出部27では計測点3aの重心位置を算出する。図8に示すように重心位置の算出は、先ず反射シール3bの周囲を枠3dで取り囲んで計算領域を指定する。そして計算領域内の輝度値をヒストグラムとして生成し、ヒストグラムにおいて高輝度の輝度値を有する画素を特定する。その後、公知の大津モデル式を使用して閾値を設定し、閾値以上の輝度値を示す画素にグレースケール値を掛け算して重心点を算出する。尚、計算領域内の任意点(x、y)のグレースケール値をW、画素数をnとした場合、重心点(x0、y0)は、x0=Σ(x×W)/n、y0=Σ(y×W)/nでそれぞれ算出する。
【0038】
サブピクセル算出部29は1ピクセル以下のサブピクセル単位で測定対象の座標を算出する。例えば、画像中に図9(a)に示すような測定対象Sが映っていた場合、測定対象Sは4つのピクセルT1、T2、T3、T4全体で認識される。即ち、測定対象Sが存在する4つのピクセルT1、T2、T3、T4全部のピクセルが「1」と認識される。
【0039】
サブピクセル算出部29では、ピクセルを複数のサブピクセルに分割(4分割)でき、図9(b)に示すように、測定対象Sは4つのサブピクセルT13、T24、T31、T42で認識される。即ち、4つのサブピクセルT13、T24、T31、T42は「1」と認識され、その他のサブピクセル(T11、T12、T14、T21、T22、T23、T32、T33、T34、T41、T43、T44)は「0」と認識される。
【0040】
基準点選択部24では、変位前の計測点3aの3次元座標P1(X1、Y1、Z1)と、変位後の測定点3aの3次元座標P2(X2、Y2、Z2)の移動量を算出し、移動量が所定量より小さい場合に、係る計測点を変位量算出のための基準点としている。
【0041】
尚、基準点選択部24では図10に示すように変位誤差楕球を用いた統計手法により、計測点を基準点として選択するか否か判断している。即ち、図10中、40a、41a、42a、43a、44aは変位前の計測点の座標位置を示しており、40b、41b、42b、43b、44bは変位後の計測点の座標位置を示している。そして各計測点において変位誤差楕球W1〜W5を生成している。変位誤差楕球は所定の確率で計測点3aが所定の領域内に存在するか否かを示している。まず、基準点を検知し、検知した基準点に対する計測点が変位誤差楕球の領域外にある場合(図10中40b)、基準点選択部24により、その基準点は選択しない。一方、基準点に対する変位後の計測点が変位誤差楕球の領域内にある場合(図10中、41b、42b、43b、44b)は基準点選択部24により、その基準点を採用して選択する。
【0042】
次に、上記した構成に基づき、本実施の形態の作用を図11に示すフローチャートに基づいて説明する。現場では先ず、測定対象物10の複数箇所に標的3を設置する。次いで、測定対象物10から所定距離だけ離れた位置であって、測定対象物10に対して撮影方向が異なる2つの撮影位置からデジタルカメラ7で撮影する。撮影した各画像はコンピュータ9の記憶部17に保存する。尚、デジタルカメラ7のキャリブレーションの精度を高めるため、各撮影位置においてカメラの向きをレンズの周方向に約90度ずつずらして合計4枚の画像を撮影している(ステップS1)。
【0043】
記憶部17に保存された左側から撮影した第1画像31と、計測対象物10を右側から撮影した第2画像33から、フリーネットワーク調整法を用いて各計測点3aの3次元座標を求める(ステップS2)。尚、計測点3aの座標はコンピュータ9の表示部15に表示された画像を用いて、重心位置算出部27が標的3の反射シール3bの重心位置を算出することで求める。以上のステップで1回目の撮影が終了する。
【0044】
次に2回目の撮影を行う。2回目の撮影は上述の1回目のステップで説明した方法と同様の方法で左右の画像を撮影し、撮影した各画像は記憶部17に保存する。そして左右の画像からフリーネットワーク調整法を用いて各計測点3aの3次元座標を求める。
【0045】
次のステップS3では、撮影した画像が1回目(エポックI)であるか否か判断され、1回目でない場合は次のステップS4に進み、2回目に撮影した画像の計測精度が1回目に撮影した画像の計測精度と同じであるか否か判断される。計測精度が同じであるか否かは、例えば1回目の撮影と2回目の撮影においてデジタルカメラ7のキャリブレーションの精度が同じであったか否かで判断する。
【0046】
次のステップS5では1回目に撮影した画像と2回目に撮影した画像とを比較して、計測対象物10が全体的に変位したか否か判断する。計測対象物10が全体的に変位したか否かは、計測点全点の座標をベクトル形式で表し、2回の計測での座標ベクトルの値に有意差があったか否かで判断する。計測対象物10に全体的な変位があると判断された場合、次のステップS6に進み、計測対象物10に全体的な変位がないと判断された場合、ステップS11に進む。
【0047】
ステップS6では、エポック1で求めた計測点の全点の重心座標と、エポック2で求めた計測点の全点の重心座標と重ね合わせて、重心座標が同じ値であるか(等確率変位)否か判断する。計測点の全点の重心座標が同じ値でない場合は、次のステップS7に進む。ステップS7では、基準点選択部24において計測点3aを基準点として選択するか否か判断し、計測点3aを基準点とする場合、次のステップS8に進み、ステップS2において全体重心座標系で計算した座標値を基準点に基づく相対基準点座標系に変換する。ステップS9ではエポック1で求めた各計測点の3次元座標値と、エポック2で求めた各計測点の3次元座標値とから変位差を算出し、ステップS10において各計測点が移動したか否か判断し、ステップS11において算出結果を出力する。そして次のステップS12において計測を継続する場合はステップS1に戻る。計測を継続しない場合はステップを終了する。
【0048】
本実施の形態では、基準点選択手段24が任意の計測点3aの座標値の移動量が所定量より小さいと判断した場合は、係る計測点3aを基準点とし、係る基準点に基づいて各計測点の変位量を算出するので、固定の基準点を設置し難い計測対象物10であっても、容易に計測点3aの変位量を算出できる。
【0049】
デジタルカメラ7で撮影した画像の処理により計測点3aの変位量を算出しているので、標尺等の測定器具を要さず、現場での測定時間を短縮化できる。
【0050】
計測対象物10を撮影方向から異なる2つの地点で撮影した画像を合成して3次元画像を得るので、計測点3aの3次元における変位量を容易に算出することができる。
【0051】
計測対象物10に設けた標的3を計測点3aとしているので、画像上で計測点3aを容易に把握することができ、計測点3aの変位量を精度良く算出することができる。
【0052】
標的3には反射シール3bを備えているので、コンピュータ9の表示部15に表示される画像において、反射シール3bの領域が他の領域よりも高い輝度値を示すことで、測定点3aの位置を精度良く特定することができる。
【0053】
デジタルカメラ7の位置と測定点3aとの距離に応じて反射シール3bの面積を変更しているので、例えばデジタルカメラ7の位置と測定点3aとの距離が長い場合に反射シール3bの面積を大きくすることで、表示部15に表示される反射シール3bの画素数が多くなり、測定点3aの座標を精度良く測定できる。
【0054】
重心位置算出部27により反射シール3bの重心位置を算出して測定点3aの座標を特定しているので、測定点3aの変位量を精度良く算出できる。
【0055】
サブピクセル算出部29によりサブピクセル単位で測定点3aの座標を算出するので、測定点3aの座標を更に精度良く算出でき、測定点3aの変位量を更に精度良く算出できる。
【0056】
次に、本実施の形態に係る変位計測装置の変位量の精度について実験を行ったのでその結果について説明する。
【0057】
(実験例)
本実験例では、測定対象物10に設置した標的2を実際に移動させ、実測値と本発明の変位計測装置1で算出した変位の計測値との相関関係について実験した。その結果を図14の表に示す。図14は移動量の実測値と変位計測装置で求めた計測値とを表に示したものである。図12は図14の表に基づいて奥行き(Z)方向の移動量の実測値と計測値との相関関係を示すグラフ、図13は図14の表に基づいて水平垂直方向の移動量の実測値と計測値との相関関係を示すグラフである。
【0058】
図12に示すように、奥行き(Z)方向の移動量の計測値(図12に示す□印、○印、×印、◇印、△印、●印、■印)は、実測値(図12に示す実線)のほぼ線上に位置し、本発明の変位計測装置1で算出した変位の計測値と実測値との間に高い相関関係が見られた。
【0059】
図13に示すように、水平垂直(XY)方向の移動量の計測値(図13に示す□印、○印、×印、◇印、△印、●印、■印)は、実測値(図13に示す実線)のほぼ線上に位置し、本発明の変位計測装置1で算出した変位の計測値と実測値との間に高い相関関係が見られた。
【0060】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば本実施の形態では、測定対象物10を2つの方向から撮影したが、これに限定されず、3以上の方向から測定対象物10を撮影しても良い。
【0061】
本実施の形態では、計測点3aを標的3内に設けたが、これに限定されず、標的を設けずに測定対象物10の特徴点を計測点としても良い。
【0062】
また、標的3には反射シール3bを設けることに限らず、周囲との関係で、その部分の濃淡が明確になっているものでも良い。また、測定点は突起等の特徴的な部分としても良い。
【0063】
測定対象物10は、ダム、橋梁、トンネル、高架橋であっても良いし、山の斜面を観測して地滑りを計測するものであっても良い。
【0064】
撮影部7はデジタルカメラに限らず、一眼レフカメラであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係る変位計測装置の全体を示す制御ブロック図である。
【図2】計測対象物を撮影しているようすを示す斜視図である。
【図3】図2に示す計測対象物を撮影部の位置を変えて撮影した画像をそれぞれ示す図である。
【図4】1回目の撮影画像と2回目の撮影画像とを重ね合わせを説明する図であり、2点鎖線で抜き出して示す(a)は変位前後の基準点の位置を説明する図、(b)は変位前後の計測点位置を説明する図である。
【図5】図2に示す標的を拡大して示す正面図である。
【図6】デジタルカメラの外部標定方法を説明する概略図である。
【図7】複数枚の撮影画像から3次元座標を算出する方法を説明する図である。
【図8】反射シールの重心点座標を算出する方法を説明する図である。
【図9】計測対象物の画像認識を説明する図であり、(a)は通常のピクセルでの画像認識を説明する図、(b)はサブピクセルでの画像認識を説明する図である。
【図10】誤差楕円を用いた基準点の選定を示す図である。
【図11】本発明に係る変位計測装置の計測の流れを説明するフローチャートである。
【図12】本発明に係る変位計測装置の計測結果を示し、奥行き(Z)方向の移動量の実測値と計測値との相関関係を示すグラフである。
【図13】本発明に係る変位計測装置の計測結果を示し、水平垂直(XY)方向の移動量の実測値と計測値との相関関係を示すグラフである。
【図14】本発明に係る変位計測装置の計測値と移動量の実測値とを表に示した図である。
【符号の説明】
【0066】
1 変位測定装置
3 標的
3a 計測点
3b 反射シール
7 デジタルカメラ(撮影部)
10 計測対象物
12 基準点
13 画像処理部
21 画像合成部
23 3次元座標算出部
24 基準点選択部
25 変位量算出部
27 重心位置算出部
29 サブピクセル算出部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像素子に撮影した複数の計測対象物の変位前後の画像から任意の計測点の変位量を算出する変位計測装置において、撮像素子に撮影した画像を処理する画像処理部を備え、画像処理部は画像の複数の計測点から任意の一の計測点を基準点として選択する基準点選択手段と、基準点に基づいて各計測点の変位量を算出する変位量算出手段とを備え、基準点選択手段は先に撮影した画像の計測点の座標値と後から撮影した画像の計測点の座標値の変化量から基準点を選択しており、任意の計測点の座標値の変化量が所定量より小さいと判断した場合、かかる計測点を基準点とすることを特徴とする変位計測装置。
【請求項2】
撮影部は計測対象物に対して撮影方向の異なる2つ以上の地点に設置しており、一方の撮影部で撮影した画像と、他方の撮影部で撮影した画像とを合成して3次元画像を得ることを特徴とする請求項1に記載の変位計測装置。
【請求項3】
計測対象物には予め設置した標的を設けており、標的を計測点としていることを特徴とする請求項1又は2に記載の変位計測装置。
【請求項4】
標的は反射部を備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の変位計測装置。
【請求項5】
反射部は撮影部と標的との間の距離に応じて面積を変更することを特徴とする請求項4に記載の変位計測装置。
【請求項6】
画像処理部は反射部の重心位置を算出する重心位置算出部を備え、画像処理部は重心位置算出部で得た重心位置から計測点の座標を特定することを特徴とする請求項1に記載の変位計測装置。
【請求項7】
画像処理部は撮像素子の1ピクセル以下のサブピクセル単位で計測点の座標を算出するサブピクセル算出部を備えることを特徴とする請求項6に記載の変位計測装置。
【請求項1】
撮像素子に撮影した複数の計測対象物の変位前後の画像から任意の計測点の変位量を算出する変位計測装置において、撮像素子に撮影した画像を処理する画像処理部を備え、画像処理部は画像の複数の計測点から任意の一の計測点を基準点として選択する基準点選択手段と、基準点に基づいて各計測点の変位量を算出する変位量算出手段とを備え、基準点選択手段は先に撮影した画像の計測点の座標値と後から撮影した画像の計測点の座標値の変化量から基準点を選択しており、任意の計測点の座標値の変化量が所定量より小さいと判断した場合、かかる計測点を基準点とすることを特徴とする変位計測装置。
【請求項2】
撮影部は計測対象物に対して撮影方向の異なる2つ以上の地点に設置しており、一方の撮影部で撮影した画像と、他方の撮影部で撮影した画像とを合成して3次元画像を得ることを特徴とする請求項1に記載の変位計測装置。
【請求項3】
計測対象物には予め設置した標的を設けており、標的を計測点としていることを特徴とする請求項1又は2に記載の変位計測装置。
【請求項4】
標的は反射部を備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の変位計測装置。
【請求項5】
反射部は撮影部と標的との間の距離に応じて面積を変更することを特徴とする請求項4に記載の変位計測装置。
【請求項6】
画像処理部は反射部の重心位置を算出する重心位置算出部を備え、画像処理部は重心位置算出部で得た重心位置から計測点の座標を特定することを特徴とする請求項1に記載の変位計測装置。
【請求項7】
画像処理部は撮像素子の1ピクセル以下のサブピクセル単位で計測点の座標を算出するサブピクセル算出部を備えることを特徴とする請求項6に記載の変位計測装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−216158(P2008−216158A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56535(P2007−56535)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(599143438)株式会社ベーシックエンジニアリング (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(599143438)株式会社ベーシックエンジニアリング (4)
【Fターム(参考)】
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