説明

変化したビタミンD代謝を同定するための方法

変化したビタミンD代謝を有する個人を同定するための方法であって、当該個人からの生物学的サンプルを、CYP24SNPsおよび/または異常にスプライスされたCYP24mRNAの存在に関して分析することを含む方法が提供される。前記SNPsおよび/または異常にスプライスされたCYP24mRNAの存在は、当該個人が変化したビタミンD代謝を有することを示す。変化したビタミンD代謝を有すると決定される個人のために、生物学的に活性なビタミンD化合物の投与量をカスタマイズするための方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2006年1月31日に出願された米国仮出願第60/763,565号に対する優先権を主張し、その開示内容を本明細書中に出典明示により組み込む。
この仕事は、米国国立癌研究所(the National Cancer Institute)の許可番号RO1-CA-95045-01、RO1-CA-67267-10、RO1-CA-85142-05およびRO1-CA-112914-01からの基金により支持される。当該機関が本発明の所定の権利を有する。
本発明は、概して、ビタミンDに関連する疾患の分野に関するものであり、より詳細には、個人におけるビタミンD代謝における変化を決定することに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの疫学データにより、ビタミンD曝露(exposure)が、癌(前立腺癌、乳癌、結腸直腸癌およびリンパ腫、メラノーマおよび肺癌の各々)による死亡率、骨粗鬆症および自己免疫疾患、多発性硬化症等に影響することが示唆されている。疾患の発症に関連付けられているビタミンD曝露のマーカーには、居住地の緯度、循環しているビタミンD結合蛋白質、血液ビタミンDレベルおよびビタミンDレセプター多型が含まれる。しかし、これらの要素の注意深い研究は、いずれかの一定の個人が異常なビタミンD曝露を経験するかどうかを予測するその能力に関しては、矛盾するデータを提供する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
骨関連疾患の治療に関しては、カルシウムおよびビタミンDサプリメントが、年輩者における骨喪失を減らすための効果的な治療である。殆どの個人は、その食餌において適当なカルシウムを摂取し得るが、サプリメントは、これが困難と認められる人のための代替手段である。カルシウムのみでは、骨粗鬆症のための治療としては限定された効果しかないが、ビタミンDと組み合わせることで、それは年輩者や、自然の日光を受けることができず、かつ乏しい食餌しか摂れない虞のある引き込もりの人にとって、特に役に立つ。カルシトリオールは、骨粗鬆症を有する月経閉止期後の女性に与えられるビタミンDの活性化形態である。カルシウムはビタミンDなしでは吸収され得ないので、カルシトリオールにより、消化器官からのカルシウムの吸収が改善される。しかし、カルシトリオールの吸収および代謝に個人差が存在し、その結果、カルシトリオールへの曝露が冒されるのかどうかは分かっていない。そのような情報は、他の理由の中でも、ビタミンD並びにその類似体、代謝物の投与量をカスタマイズするために重要である。それゆえ、特定の個人が変化したビタミンD代謝を有する可能性があるかどうかを同定する方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明により、個人を、変化したビタミンD代謝を有する可能性があると同定するための方法が提供される。この方法は、当該個人から生物学的サンプルを得、次いで、所定のCYP24単一ヌクレオチド多型(SNPs)および/または異常にスプライスされたCYP24mRNA、および/または、カルシトリオールの不在下で正確にスプライスされたCYP24mRNAの存在を決定することを含むものであり、ここで、SNPsおよび/または異常にスプライスされたCYP24および/またはカルシトリオールの不在下で正確にスプライスされたCYP24mRNAの存在が、当該個人が変化したビタミンD代謝を有する可能性があることを示唆する。
【0005】
カルシトリオールまたはカルシトリオールプレカーサ、またはカルシトリオールほどにはカルシウム血症性(Calcemic)応答を生じないビタミンD類似体化合物の投与をカスタマイズするための方法も提供される。この方法は、前記個人から生物学的サンプルを得、CYP24SNPsおよび/または異常にスプライスされたCYP24mRNAおよび/またはカルシトリオールの不在下で正確にスプライスされたCYP24mRNAの存在を同定すること、およびそのような同定に基づき、カルシトリオールまたはカルシトリオールプレカーサのより低いまたはより高い投与量を処方することを含む。
【0006】
発明の詳細な記載
ビタミンD代謝の段階の概略を図1に示す。酵素1αヒドロキシラーゼおよび24ヒドロキシラーゼ(CPY24)は各々腎臓および肝臓に存在し、ビタミンDの代謝および、それおよびその代謝物、カルシトリオール等に対する全身曝露に関与する。加えて、体内の幾つかのタイプの細胞がこれらの酵素を発現し(例えば前立腺)、およびそれゆえ、カルシトリオールの細胞内合成および異化は、酵素活性に関連する様式で、器官における細胞のビタミンD曝露に影響する可能性もある。
CYP24は、カルシトリオールを不活性化するミトコンドリア酵素である。CYP24は、体の異なる細胞において、様々な酵素活性を有する形態で発現され、このことは、多様なカルシトリオール曝露が、細胞または器官特異的レベルで疾患の発生を生じ、および疾患の発生に影響する可能性があることを示唆する。
【0007】
「カルシトリオール曝露」および「ビタミンD曝露」なる文言は、徐々に、特にカルシトリオール処理後に、循環するカルシトリオールレベルに関する。本発明では、CYP24遺伝子中の所定の単一ヌクレオチド多型(SNPs)が、CYP24mRNAの発現のスプライス変種の形態での変化のマーカーであることが発見された。SNPsはまた、前記CYP24蛋白質の発現および機能と関連していることも立証される。
【0008】
かかる発見に基づき、本発明により、変化したビタミンD代謝を有する可能性のある個人を同定するための方法が提供される。この方法は、個人から生物学的サンプルを得ること、次いで、所定のCYP24遺伝子SNPsおよび/または異常にスプライスされたCYP24mRNAおよび/またはカルシトリオール非感受性スプライシングの存在を決定することを含み、前記SNPsおよび/または異常にスプライスされたCYP24mRNAおよび/またはカルシトリオール非感受性スプライシングの存在が、当該個人が変化したカルシトリオール異化を有する可能性があることを示すものである。「変化したカルシトリオール異化」により、前記個人が、CYP24SNPs、異常にスプライスされたCYP24mRNAおよびカルシトリオール非感受性スプライシングを示さない個人からのカルシトリオールクリアランス率に比して、高いまたは低い、体からのカルシトリオールのクリアランス率を示すことを意味する。変化したカルシトリオールクリアランスに加えて、「変化したカルシトリオール異化」は、個人からのCYP24蛋白質が、正しくスプライスされたCYP24mRNAから翻訳されるCYP24蛋白質に比して低下した酵素活性を示すことによっても証明され得る。
【0009】
「カルシトリオール非感受性スプライシング」により、CYP24mRNAがスプライスされる前にカルシトリオールが存在するかしないかに関わらず、生物学的サンプル中のRNAの主形態が、正確にスプライスされたCYP24mRNAであることを意味する。
「正確にスプライスされたCYP24mRNA」により、CYP24mRNAが、CYP24mRNAのエキソン9〜12をコードするDNA配列間のイントロンから転写されたポリヌクレオチド配列を全く含まないことを意味する。
【0010】
「異常にスプライスされたCYP24mRNA」により、CYP24mRNAが、CYP24mRNAのエキソン9〜12をコードするDNA配列間のイントロンから転写される少なくともいくつかのポリヌクレオチド配列を含むことを意味する。これに関して、ヒトCYP24遺伝子の遺伝子配列を配列番号1に示す。正確にスプライスされたCYP24mRNAから作成されたCYP24cDNAの配列を配列番号2に示す。(CYP24ヘテロ核RNAに転写されるような)CYP24エキソンおよびイントロンの境界を示すヌクレオチド位置を表1に示す。従って、表1の比較およびCYP24遺伝子の遺伝子配列(配列番号1)から(並びに、配列番号1の、配列番号2に示すcDNA配列に対する比較から)、エキソンおよびイントロンからのヌクレオチド配列を容易に区別でき、これにより、いずれの特定のmRNAが、本明細書中に規定されるように正確にまたは異常にスプライスされたかどうかを決定することができる。本明細書に示す配列番号に関連する配列に対して相補的なヌクレオチド配列が、所望により、容易に決定できることも、理解されるであろう。
【0011】
【表1】

【0012】
CYP24mRNAが異常にスプライスされているかどうかを決定することは、mRNAの配列を決定することにより行われ得るが、そのような配列決定は必要でないことが当業者には認識されるであろう。例えば、プライマーを設計してCYP24mRNAを増幅し、異常にスプライスされたmRNAを、当該mRNA中のイントロン配列の挿入によるcDNAサイズの変化により容易に同定することができる。例えば、一態様では、フォーワードおよびリバースプライマーを、異常にスプライスされたCYP24mRNAを、エキソン9と11の間のイントロンがスプライスされなかったmRNAの形態で増幅するためのRT-PCRに、および、当該増幅されたRT-PCR産物の電気泳動移動度の次なる分析に、用いることができる。この目的のための適当なプライマーの一例には、配列ggactcttgacaaggcaacagttc (配列番号3)のフォーワードプライマーおよび配列ttgtctgtggcctggatgtcgtat(配列番号4)のリバースプライマーが含まれる。プライマーのこの組合せを、所定の癌細胞からのCYP24mRNAをcDNAに増幅するためのRT-PCR反応にて用いることにより、880塩基対(bp)の異常にスプライスされたmRNA配列が明らかになるが、正確にスプライスされたCYP24mRNA配列は、正確にスプライスされたCYP24mRNA配列におけるイントロン配列の欠乏により、280bpである。
【0013】
前記CYP24遺伝子における所定のSNPsを用いて、個人が変化したビタミンD代謝を有する可能性があるかどうかを決定することができることも発見された。例えば、RT-PCRにより、配列番号5の配列を有するcDNAを生じる異常にスプライスされたmRNAを生じると考えられるSNPを、前記CYP24遺伝子のエキソン12の始めから位置-1で同定することができる(配列番号1のヌクレオチド番号19011;表2をご参照)。これに関して、本明細書中に同定される所定のSNPsが、CYP24mRNAの異常なスプライシングおよびカルトリオール非感受性スプライシングと関連づけられることに加えて、変化したCYP24酵素活性と関連づけられることを示す。
変化したビタミンD代謝を有する個人の見込みについて有益なSNPsは、エキソン9および10の間の、およびエキソン11と12の間のCYP24イントロンにも存在する。これらのSNPsをまた、表2に示す。正常な配列は、1〜4に番号付けられるSNPsに関してTTGGである。
【0014】
【表2】

【0015】
表2における細胞系統に関して、LNCaPは、カルシトリオール増殖阻害に感受性のある、アンドロゲン依存性ヒト前立腺癌細胞系統であり、他方、PC3およびDU145は、アンドロゲン非依存性ヒト前立腺癌細胞系統であり、カルシトリオール増殖阻害に相対的に耐性がある。これらの細胞系統は、ビタミンD代謝を変化させるSNPsおよびCYP24mRNAスプライシングパターンの特定に有用である。
【0016】
変化したビタミンD代謝により、カルシトリオールの、循環における生物学的半減期が延長され得、それにより、曝露が増し、または、カルシトリオールに耐性のある個人を生じ得る。そのような変化は、ヒトの人生を通じて、ビタミンD曝露および、骨疾患、癌および自己免疫疾患のリスクを実質的に助長すると考えられる。それゆえ、カルシトリオールおよび関連化合物のカスタマイズ投与を促進するために、ビタミンD治療を必要とする個人におけるSNPsの存在および/またはCYP24mRNAのスプライシングパターンを確認することが有用である。限定するものではなく化学的治療剤の抗癌活性を増強することを含むいずれかの目的や骨粗鬆症治療のためにカルシトリオールが投与される場合に、投与量の最適化が有利であることが期待される。特に、カルシトリオールのより少ない投与量を、本発明の方法により、低下したカルシトリオール異化を有すると同定された個人において有効なカルシトリオール治療のために提供することができ、より高い投与量を、より高いカルシトリオール異化(即ち、恒常的に活性なCYP24蛋白質)を有する個人のために用いることができると期待される。例えば、より低い投与量により、カルシトリオールの治療的投与にしばしば伴う高カルシウム血症中毒(hypercalcemic toxicity)毒性を回避でき、または少なくとも最小に抑えることができる。つまり、一態様では、本発明により、異常なCYP24mRNAスプライシングを示すSNPsを同定することにより、および/または異常にスプライスされているCYP24mRNAsを同定することにより、個々の患者のカルシトリオール投与を最適化するための方法であって、そのような同定により、当該個人が低下したカルシトリオール異化を有する可能性のあることが示される方法が提供される。特に、表2におけるSNP番号4または、図2DにおけるLNCaPに関して示す異常にスプライスされたmRNAの存在の同定は、当該個人が低下したカルシトリオール異化を有することを示すと考えられる。表2におけるSNP番号2でのシトシンの同定もまた、図3に示す患者サンプルの分析から得られる変化したカルシトリオールクリアランス率により立証されるように、個人が低下したカルシトリオール異化を有することを示す。
【0017】
他の態様では、高カルシトリオール異化を有する個人が、カルシトリオールの高投与量を必要とするまたはカルシトリオールの高投与量に耐性がある可能性がある。「高カルシトリオール異化」は、恒常的に発現されたCYP24mRNAおよび蛋白質から生じるカルシトリオールの異化を意味すると考えられる。これに関して、および、いかなる特定の理論により拘束されることを意図せずに、正常なカルシトリオール異化を有する個人に関して、CYP24mRNAは、カルシトリオールの不在下で、スプライスされていないまたは部分的にスプライスされたヘテロ核RNAとして存在すると考えられる。カルシトリオールの存在により、しかし、カルシトリオールmRNAの適当なスプライシングが誘導され、その結果、適当にスプライスされたmRNAから、機能性のCYP24蛋白質が翻訳されると考えられる。しかし、いくつかの遺伝子型は、カルシトリオールが存在するか否かに関わらず、正確にスプライスされたCYP24mRNAを生じ、こうして、カルシトリオール非感受性スプライシングを示すと考えられる。つまり、個人におけるカルシトリオール非感受性スプライシングにより圧倒的に正確にスプライスされたCYP24mRNAの存在により、当該個人が、正常な個人よりも高いカルシトリオール投与量から利益を得ると考えられる。
【0018】
個人を、変化したカルシトリオール異化を有する可能性があると同定することは、カルシトリオールプレカーサ−これは、体内でカルシトリオールへ代謝される化合物を意味する−のための投与法を決定するのにも有用であることが、当該分野の専門家には理解されるであろう。例えば、個人が低下したカルシトリオール異化を有する可能性があるとの決定から、ビタミンDまたはいずれかの他のカルシトリオールプレカーサのより低い投与量が、所望の治療効果を得るために用いられ得ると予測される。逆に、個人がカルシトリオールに対して非感受性である可能性があるとの決定から、ビタミンDまたはいずれかの他のカルシトリオールプレカーサのより高い投与量を、所望の治療効果を達成するのに用い得ることが予測される。
【0019】
他の態様では、個人が低下したカルシトリオール異化を有する可能性があると同定することにより、当該個人に投与した場合に、カルシトリオールと比較して、さほどカルシウム血症性応答を生じない(即ち、より低い程度のカルシウム血症応答を生じる)ビタミンD類似体化合物を用いる投与法の設計が容易になる。「カルシウム血症性応答」なる句により、生物学的に活性なビタミンD化合物を対象に投与した時に、これにより引き起こされるカルシウム代謝の変化を意味する。カルシウム血症性応答には、限定するものではないが、血清における高められたカルシウム濃度、食物カルシウムの増加した腸吸収、増加した泌尿器でのカルシウム排泄、および増加した骨カルシウム代謝が含まれる。カルシトリオールよりも少ないカルシウム血症性応答を生じるビタミンD類似体化合物の例には、限定するものではないが、1α,25-(OH)2-24-エピ-D2、1α,25-(OH)2-24a-ホモ-D3、1α,25-(OH)2-24a-ジホモ-o-D3、1α,25-(OH)2-19-ノル-D3および20-エピ-24-ホモ-1α,25-(OH)2-D3が含まれる。
【0020】
他の態様では、個人を、高いカルシトリオール異化を有する可能性があると同定することにより、CYP24酵素インヒビターをカルシトリオールと組み合わせて用いる投与法の設計が容易になる。
常套のカルシトリオール投与パラメータは、当該分野で公知であり、個人の年齢やサイズ、並びにカルシトリオール治療のための理由、治療されるべき疾患のタイプおよびその段階による。例えば、成人透析患者の場合に、推奨されるカルシトリオール投与は、全米腎臓財団の腎臓疾患成果品質イニシアチブ(the National Kidney Foundation's Kidney Disease Outcome Quality Initiative)(「K/DOQI」)ガイドラインにより提供される。一例では、ステージ4の慢性腎臓疾患を有する個人のために、適当な投与量は、経口で投与される0.25mcg/日である。しかし、癌治療のためには、投与量は典型的にはより有意に高い。例えば、アンドロゲン非依存性前立腺癌の治療では、適当なカルシトリオール投与量の一例は、経口投与される60mcg/日である(Tiffany等、J Urol. (2005) Vol. 174(3): 888-92)。カルシトリオール治療を、化学的治療剤等の追加剤またはカルシウムと組み合わせることができること、および、組合せ治療と関連してのカルシトリオール投与の最適化が本発明の範囲内にあることは、当該分野の専門家により理解されるであろう。
【0021】
カスタマイズされた(customized)カルシトリオール投与から利益を受け得る疾患には、限定するものではないが、癌、甲状腺機能亢進ないし低下症、糖尿病、乾癬、創傷治癒、自己免疫疾患、サルコイドーシスおよび結核、慢性腎疾患、ビタミンD依存性くる病、繊維形成骨不全症(fibrogenisis imperfecta ossium)、嚢胞性繊維性骨炎、骨軟化症、骨粗鬆症、骨減少症、骨硬化症、腎性骨ジストロフィ、グルココルチコイド拮抗、突発性高カルシウム血症、呼吸不良症候群、脂肪便、熱帯性スプルー、炎症性骨疾患、潰瘍性大腸炎およびクローン病が含まれる。
【0022】
本明細書に同定されるSNPsの1つまたはそれ以上が一個人に存在するかどうかを決定するために、生物学的サンプルを当該個人から回収し、DNAの源を提供することができる。例えば、分析は、血液サンプル中の細胞から単離されたDNAに関して行うことができる。しかし、あらゆる生物学的サンプルを使用できる。さらに、全身ビタミンDまたはカルシトリオール曝露に関する情報に加えて、局所曝露に関する個人の能力も評価することができる。例えば、骨髄サンプルの分析により、骨におけるビタミンD蓄積/吸収についての情報を得ることができ、これにより、骨粗鬆症等の疾患に関連する予測情報を導くことができた。
【0023】
DNAにおける多型の存在を検出することは、制限するものではないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、固定化されたオリゴヌクレオチド(Saiki等、PNAS USA 86: 6230-6234 (1989))またはオリゴヌクレオチドアレイ(Maskos and Southern Nucl Acids Res 21: 2269-2270 (1993))を含む対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブを用いるハイブリダイゼーション(Wallance等、Nucl Acids Res 6: 3543-3557(1978))、対立遺伝子特異的PCR(Newton等、Nucl Acids Res 17: 2503-2516 (1989))、ミスマッチ-修復検出(MRD)(Faham and Cox Genome Res 5: 474-482 (1995))、変性-勾配ゲル電気泳動(DGGE)(Fisher and Lerman等、PNAS USA 80: 1579-1583 (1983))、一本鎖DNA高次構造多型検出(Orita等、Genomics 5: 874-879(1983))、ヘテロ二本鎖DNAの化学的(Cottom等、PNAS USA 85: 4397-4401 (1988))または酵素的切断(Youil等、PNAS USA 92: 87-91 (1995))、対立遺伝子特異的プライマー伸長に基づく方法(Syvanen等、Genomics 8: 684-692 (1990))、遺伝子ビット分析(GBA)(Nikiforov等、Nucl Acids Res 22: 4167-4175 (1994))、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(OLA)(Landegren等、Science 241: 1077 (1988))、対立遺伝子特異的ライゲーション連鎖反応(LCR)(Barrany PNAS USA 88: 189-193 (1991))、ギャップ-LCR(Abravaga等、Nucl Acids Res 23: 675-682 (1995))および、当該分野で周知の標準的な方法を用いる放射活性および/または蛍光DNA配列決定を含む種々の方法により達成することができる。
【0024】
CYP24mRNAが異常にスプライスされているかどうかを決定するために、mRNAを単離するための、および当該mRNAのサイズおよび/または配列を分析するためのあらゆる適当な方法を用いることができる。そのような分析方法には、限定するものではなく、ノーザンブロッティング、cDNAのRT-PCR増幅、およびcDNAのサイズまたは配列分析、制限フラグメント長多型マッピング、核酸アレイ分析および、CYP24mRNAがイントロン配列を含むか否かを決定するために使用または採用し得るあらゆる他の核酸特定法が含まれる。
【0025】
一態様では、CYP24mRNAのスプライシングを、カルシトリオールまたはカルシトリオールプレカーサを投与する前と後の両時点で個人から得られた細胞において、およびCYP24mRNAスプライシングパターンを比較することにおいて測定でき、カルシトリオールまたはカルシトリオールプレカーサの、培養物中への投与が、CYP24mRNAの異常な、または正確なスプライシングを誘導するかどうかを決定することができる。別法として、細胞を個人から採取し、培養し、次いで試験して、カルシトリオールまたはカルシトリオールプレカーサへの曝露が異常なまたは正確なスプライシングを誘導するか否かを決定することができ、ここで、異常なスプライシングは、当該個人が変化したビタミンD代謝を有することを示す。同様に、CYP24mRNAスプライシングがカルシトリオール非感受性であるかどうかを決定するために、カルシトリオールの投与前と後に個人から得られたmRNAを分析することができる。別法として、細胞を個人から得、培養し、次いでカルシトリオールを用いておよび用いずに試験して、CYP24mRNAのスプライシングがカルシトリオールに非感受性であるか否かを決定することができる。
【0026】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、実施例は単に、本発明の特定の態様を示すものであり、決して限定を意図するものではない。
[実施例1]
本実施例では、非処理の、およびカルシトリオールで処理されたヒトの(前立腺、乳房、肺および結腸直腸)癌細胞系統におけるCYP24酵素活性の、カルシトリオールを異化するその能力を特定するための分析が提供される。3つの異なるCYP24酵素活性特性を同定し、3つの前立腺癌細胞系統(LNCaP、PC3およびDU145)の各々は、異なるCYP24酵素活性特性を示した(図2)。
【0027】
我々は、3つのヒト癌細胞系統におけるCYP24の構造を注意深く調査し、エキソン9と10の間でのCYP24mRNAのスプライシングにおける、および、エキソン11-12サイズにおける、カルシトリオール処理の効果を決定した(図3Aおよび3B)。PCR分析は、異なるCYP24酵素活性特性を示している癌細胞系統における、エキソン9と10の間での恒常的かつカルシトリオール誘導性のスプライシングの異なるパターンおよび、エキソン11-12フラグメントサイズを示す(図2を図3Cおよび3Dと比較されたい)。エキソン9と11の間のスプライシングを検出するために用いられるフォーワードおよびリバースプライマーは、各々配列番号3および4から成る。これらのデータにより、CYP24蛋白質の別個のイソ型が存在することが立証され、これらのような変種が異常なmRNAスプライシングにより作成されることが示される。
【0028】
[実施例2]
本実施例により、CYP24mRNAスプライシングにおけるカルシトリオールの処理の効果のいくつかを立証する。本実施例に示す結果を得るために、我々は、半定量RP-PCR分析を実行し、これは、図3Cに示すように、サイズに基づく2つの異なるCYP24エキソン11-12転写産物を明らかにし、低分子量転写産物(135bp)および高分子量転写産物(307bp)を認めることができる。カルシトリオール処理(T)は、3つの前立腺癌細胞系統において、当該2つの転写産物の相対的発現を別様に変調した。CYP24酵素活性は、表3−これは、前立腺癌細胞系統におけるカルシトリオール処理の前(図3における「C」)および後(図3における「T」)のCYP24蛋白質活性の表現系と、エキソン11-12転写産物サイズの間の関連性を記載する−に示すように(D3=カルシトリオール)、3つの前立腺癌細胞系統において、低い方の分子量の転写産物の発現と関連づけられる。配列決定研究により、転写産物サイズの差が、CYP24エキソン11およびエキソン12の間のイントロン配列の挿入を引き起こすスプライスソーム認識部位におけるG/T SNPによることが立証された(図3B)。
【0029】
【表3】

【0030】
[実施例3]
本実施例では、所定のCYP24多型の臨床効果の分析を提供する。本実施例に示すデータを得るために、我々は、カルシトリオールの高投与量を経口投与処理された30人の癌患者から得られたDNAサンプル中の、エキソン9と10の間のイントロン中のCYP24多型を分析した。結果(図4)は、CYP24多型が、血清カルシトリオール排泄半減期(T1/2)−これは、全身カルシトリオールクリアランス、およびつまり、カルシトリオール処理後の全身曝露の薬物動態測定である−と関連したことを示す。(Smith DC等、Clin Cancer Res. 1999; 5: 1339-1345)
【0031】
図4に示すデータは、複数の患者間でのカルシトリオール曝露の変異性の一部がCYP24多型と関連することを示す。カルシトリオールは、進行した前立腺癌を有する男性における無作為の試験におけるドセタキセルの抗癌活性を強化することが、近年示されている。かなりの臨床前データにより、カルシトリオールの強化が投与量に関連することが示され、よって、本明細書に提示される結果により、臨床試験でのカルシトリオールに対する曝露がCYP24多型に関連し得、それゆえ、カルシトリオール治療の有効性は、この容易に測定される患者特性により確認され得ると考えられる。
前記特定の態様の記載は、説明の目的のためのものであり、限定を意図するものではない。本発明の教示から、当業者は、種々の修正および変更が、本発明の精神から離れることなる為され得ることを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、ビタミンDの代謝における段階を示すフローチャートである。
【図2】図2は、非処理およびカルシトリオール処理されたヒト癌細胞系統において測定されたCYP24酵素活性を図示したものである。結果は、ヒト癌細胞系統が、そのベースラインとカルシトリオール誘導性のCYP24酵素特性に基づき3つのカテゴリに分類され得ることを示す。カテゴリI:無視出来る程度のベースラインとカルシトリオール誘導性CYP24活性を有する前立腺(LNCaP)および肺(H520)癌細胞系統。カテゴリII:カルシトリオールで誘導される僅かに検出可能な程度のベースラインCYP24活性を有する前立腺癌(PC3)、乳癌(MCF7)、および結腸直腸癌(HT29)細胞系統。カテゴリIII:高いベースラインおよびカルシトリオール誘導性CYP24活性を有する前立腺癌(DU145)、乳癌(MDA231)、肺癌(A549)および結腸直腸癌(HCT116)細胞系統。
【図3】図3A〜3Dは、CYP24mRNAスプライシングパターンおよびcDNA増幅特性を図示したものである。図3Aは、エキソン9からエキソン11までのCYP24遺伝子、RT-PCRを用いてcDNAを得るためのプライマー配置の例および、正確なスプライシングの場合(280bp)および異常なスプライシングの場合(880bp)に生じる産物を図示したマップである。図3Bは、エキソン11からエキソン12までのCYP24遺伝子、および、予測的SNPを欠くCYP24遺伝子から正確にスプライスされたCYP24mRNAのRT-PCRcDNA産物サイズ(150bp)並びに、予測的SNPが存在する場合に、異常にスプライスされたCYP24mRNAにおけるイントロン12配列の挿入(302bp転写産物)を図示したマップである。図3Cは、CYP24mRNAのエキソン9-11を横切ってスプライスされなかったまたはスプライスされたCYP24mRNAのcDNA増幅産物を図示したものである。図3Dは、種々の癌細胞系統からの、正確にスプライスされた(150bp)または異常にスプライスされた(302bp)CYP24mRNAのエキソン11-12を横切るcDNA増幅産物を図示したものである。
【図4】図4は、血清カルシトリオールクリアランス率(排泄半減期、(T1/2時間))およびカルシトリオールの高投与量の経口投与後の30人の患者におけるCYP24遺伝子のエキソン9および10の間のイントロン配列における配列番号1の15752位および15774位での多型の間の関連を示す図である。TT/TT(配列番号1の15752位および15774位各々における)遺伝子型は、TC/TC遺伝子型、p-値=0.0377よりも有意に低いT1/2を有する傾向がある(片側、フィッシャー正確確率検定)。T1/2がより低いほど、所定投与量のカルシトリオールに関する全身曝露は高くなる。正常な発現は、同型接合性TTである個人から発現される。排泄半減期は、式:T1/2=0.693/β(βは、ターミナルログ(terminal log)血清カルシトリオール濃度対時間の回帰直線の勾配である)を用いて算出した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人が変化したカルシトリオール異化を有する可能性があるかどうかを決定するための方法であって、
a)個人から生物学的サンプルを得ること;次いで、
b) i)表2に列挙される少なくとも一つの単一ヌクレオチド多型(SNPs);
ii)異常にスプライスされたCYP24mRNA;
iii)カルシトリオール非感受性スプライシング;または、
iv)i)〜iii)の組合せ;
の存在または不在を決定すること;
を含み、i)、ii)またはこれらの組合せを決定することで、当該個人が、i)またはii)を有しない個人と比較して低いカルシトリオール異化を有する可能性があることが示され、かつ、iii)の存在が、当該個人が、iii)を有さない個人と比較して高いカルシトリオール異化を有する可能性があることを示す方法。
【請求項2】
前記CYP24mRNAの異常なスプライシングが、前記個人から前記生物学的サンプルを得る前に、前記個人にカルシトリオールを投与することにより誘導されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記異常にスプライスされたCYP24mRNAが、CYP24遺伝子のエキソン11と12の間のイントロンから転写されたポリヌクレオチド配列を含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのSNPが、表2からのSNP番号4であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記異常にスプライスされたCYP24mRNAの存在を、CYP24cDNAを得るためのCYP24mRNAのRT-PCR増幅と、異常にスプライスされたCYP24cDNAを同定するための公知のサイズマーカーに対して当該cDNAのサイズを分析することと、により決定することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記RT-PCRを、配列番号3の配列を有する第一のプライマーと、配列番号4の配列を有する第二のプライマーを用いて行い、前記RT-PCRにより、CYP24遺伝子のエキソン9と10の間のイントロンからのヌクレオチド配列および/または、CYP24遺伝子のエキソン10と11の間のイントロンからのヌクレオチド配列を含むcDNAが増幅されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つのSNPの存在または不在を、前記CYP24遺伝子のエキソン9と前記CYP24遺伝子のエキソン10の間の前記イントロンからの配列を含む前記CYP24遺伝子の領域の、PCR増幅産物を得るためのPCR増幅と、当該少なくとも1つのSNPの存在または不在を決定するために当該PCR増幅産物の配列を分析することと、により決定することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つのSNPの存在または不在を、前記CYP24遺伝子のエキソン11と前記CYP24遺伝子のエキソン12の間の前記イントロンからの配列を含む前記CYP24遺伝子の領域の、PCR増幅産物を得るためのPCR増幅と、当該少なくとも1つのSNPの存在または不在を決定するために当該PCR増幅産物の配列を分析することと、により決定することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ビタミンD治療を必要とする個人のための、カルシトリオール、カルシトリオールプレカーサ、またはビタミンD類似体化合物の投与法を決定するための方法であって、前記ビタミンD類似体化合物が、カルシトリオールよりも少ないカルシウム血症性応答を生じ、かつ、当該方法が、
a)個人から生物学的サンプルを得ること;次いで、
b)前記生物学的サンプルにおける、
i)表2に列挙される少なくとも1つのSNP;
ii)異常にスプライスされたCYP24mRNA;または
iii)カルシトリオール非感受性スプライシング;または
iv)i)〜iii)の組合せ;
の存在または不在を決定すること;
を含み、i)またはii)またはこれらの組合せの存在が、当該個人が、ビタミンD治療を必要としているi)またはii)を有しない個人に比して、カルシトリオール、カルシトリオールプレカーサまたはビタミンD類似体のより低い投与量の候補者であることを示し、かつ、iii)の存在が、当該個人が、ビタミンD治療を必要としているiii)を有しない個人に比して、カルシトリオールまたはカルシトリオールプレカーサのより高い投与量の候補者であることを示す方法。
【請求項10】
前記CYP24mRNAの異常なスプライシングが、カルシトリオール、カルシトリオールプレカーサまたはビタミンD類似体の、前記個人から前記生物学的サンプルを得る前の当該個人への投与により誘導されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記カルシトリオールプレカーサが、ビタミンDおよびコレカルシフェロールから成る群から選択されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ビタミンD類似体化合物が、1α,25-(OH)2-24-エピ-D2、1α,25-(OH)2-24a-ホモ-D3、1α,25-(OH)2-24a-ジホモ-o-D3、1α,25-(OH)2-19-ノル-D3および20-エピ-24-ホモ-1α,25-(OH)2-D3から成る群から選択されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記異常にスプライスされたCYP24mRNAが、前記CYP24遺伝子のエキソン9と10の間のイントロンから、または前記CYP24遺伝子のエキソン11と12の間のイントロンから転写されたポリヌクレオチド配列を含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記カルシトリオール非感受性スプライシングの存在が、カルシトリオール、カルシトリオールプレカーサ、またはビタミンD類似体の前記個人への投与に次いで行われることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つのSNPが、表2からのSNP番号4であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記カルシトリオール非感受性スプライシングの存在が、当該個人が、カルシトリオールまたはカルシトリオールプレカーサとの組合せでのCYP24酵素インヒビターを用いる治療のための候補者であることを示すことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記異常にスプライスされたCYP24mRNAの存在を、CYP24cDNAを得るための前記CYP24mRNAのRT-PCR増幅と、異常にスプライスされたCYP24cDNAを同定するために公知のサイズマーカーに対して当該cDNAのサイズを分析することと、により決定することを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項18】
前記RT-PCRを、配列番号3の配列を有する第一プライマーと、配列番号4の配列を有する第二プライマーを用いて行い、前記RT-PCRが、前記CYP24遺伝子のエキソン9と10の間のイントロンからのヌクレオチド配列および/または、前記CYP24遺伝子のエキソン10と11の間のイントロンからのヌクレオチド配列を含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−525030(P2009−525030A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552503(P2008−552503)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【国際出願番号】PCT/US2007/002613
【国際公開番号】WO2007/092221
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(504206056)ヘルス リサーチ インコーポレイテッド (8)
【氏名又は名称原語表記】HEALTH RESEARCH, INC.
【Fターム(参考)】