説明

変性ブチルゴム組成物

【課題】ブチルゴムを有機過酸化物で架橋できるようにすると共に、ブチルゴムの防振性を高める。
【解決手段】ブチルゴムに、(a)酸素の存在下、常温で安定なニトロキシドフリーラジカルを分子中に有する化合物、(b)ラジカル開始剤及び(c)二官能性以上のラジカル重合性モノマーを反応させることにより得られる変性ブチルゴムを含む変性ブチルゴム組成物又は酸素の存在下、常温で安定なニトロキシドフリーラジカルを分子中に有する化合物(a)及びラジカル開始剤(b)を反応させることにより得られる変性ブチルゴムに、二官能性以上のラジカル重合性モノマー(c)を配合してなる変性ブチルゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変性ブチルゴム組成物に関し、更に詳しくは有機過酸化物による架橋を可能にした変性ブチルゴム組成物及びブチルゴムのtanδを向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブチルゴムは不飽和度が極めて低いために、耐候性、耐熱性、耐オゾン性などに優れており、また気体透過性が低いことからシール剤や接着剤などに好適に用いられている。しかるに、ブチルゴムを架橋する方法として、硫黄架橋、キノイド架橋、樹脂架橋などが知られているが、いずれの方法も実用上満足し得るものとはいい難いのが現状である。即ち、硫黄架橋は高温での長時間の架橋が必要である。またキノイド架橋はキノイドの活性化のために、酸化剤として有害な鉛丹を通常用いるので、環境衛生上問題がある。更に樹脂架橋は反応速度が著しく遅く、高温長時間の加熱が必要であり、完全に架橋されていない状態で製品化されるおそれがあるため、使用中に架橋反応が進行して、物性が大きく変化するおそれがあるなどの問題がある。また、ジエン系ゴム等の架橋方法の中で耐熱性が非常に優れている有機過酸化物による架橋は、ブチルゴムの架橋方法としてはほとんど用いられていない。これは、ブチルゴムに当該架橋を適用すると主鎖の分解反応が優先し、架橋よりもむしろ軟化してしまうおそれがあるからである。一方、過酸化物架橋が可能なブチルゴムとして部分架橋ブチルゴムが市販されているが、これには加工性が十分でないという問題がある。また、特許文献1には、有機過酸化物と電子吸引性基を含有する多官能性モノマーとの存在下で、未架橋ブチルゴムを架橋させる方法が開示されているが、この方法では激しいリバージョンが起こるおそれがある。
【0003】
【特許文献1】特開平6−172547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、耐候性、耐熱性、耐オゾン性などに優れ、気体透過性が低い通常のブチルゴムを有機過酸化物で架橋できるようにすることにある。
【0005】
本発明の目的は、また、種々の優れた性質を有するブチルゴムのtanδを高め、その防振性を向上させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従えば、ブチルゴムに、酸素の存在下、常温で安定なニトロキシドフリーラジカルを分子中に有する化合物(a)、ラジカル開始剤(b)及び二官能性以上のラジカル重合性モノマー(c)を反応させて変性することにより得られる変性ブチルゴムを含む変性ブチルゴム組成物が提供される。
【0007】
本発明に従えば、また、酸素の存在下、常温で安定なニトロキシドフリーラジカルを分子中に有する化合物(a)及びラジカル開始剤(b)を反応させることにより得られる変性ブチルゴムに、二官能性以上のラジカル重合性モノマー(c)を配合してなる変性ブチルゴム組成物が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、TEMPO誘導体のような、酸素の存在下においても常温で安定なニトロキシドフリーラジカルを分子中に有する化合物(a)、ラジカル開始剤(b)及び(c)二官能性以上のラジカル重合性モノマーを、ブチルゴムと反応させて変性することにより得られる変性ブチルゴムを含む変性ブチルゴム組成物が有機過酸化物で効果的に架橋することができ、しかもブチルゴムのtanδを高め、防振性を向上させることができる。
【0009】
本発明によれば、またTEMPO誘導体のような、酸素の存在下においても常温で安定なニトロキシドフリーラジカルを分子中に有する化合物と、ラジカル開始剤を通常のブチルゴムに添加して反応させた後、二官能以上のラジカル重合性モノマーを反応させるだけでなく、前記ニトロキシドフリーラジカルを分子中に有する化合物がグラフトした変性ブチルゴムにラジカル重合性モノマー(c)と有機過酸化物を加え反応させることにより、同じような架橋反応が進行する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者らは通常のブチルゴムを有機過酸化物で架橋できるようにすべく鋭意検討を重ねた結果、TEMPO誘導体のような、酸素の存在下においても常温で安定なニトロキシドフリーラジカルを分子中に有する化合物(a)及びラジカル開始剤(b)を通常のブチルゴムに添加して反応させた後、二官能性以上のラジカル重合性モノマー(c)を添加し反応させることにより得られる変性ブチルゴムを含む変性ブチルゴム組成物、更には上記化合物(a)、ラジカル開始剤(b)及び二官能性以上のラジカル重合性モノマー(c)を、ブチルゴムに反応させて得られる変性ブチルゴムを含む変性ブチルゴム組成物を用いることにより上記目的が達成できることを見出した。
【0011】
本発明の第一及び第二の態様によって変性するブチルゴムは、いわゆるブチルゴム(IIR)と呼ばれるイソブチレンと少量(ゴム全体の例えば0.6〜2.5モル%)のイソプレンとの共重合体ゴム又は塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴムなどのその誘導体で、これらは業界においてよく知られており、多数の市販品もある。
【0012】
本発明の第一及び第二の態様において使用する酸素の存在下に常温で安定なニトロキシドラジカルを分子中に有する化合物(a)としては、これらに限定するわけではないが、以下の化合物を例示することができる。
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

【0015】
(上記式(1)〜(6)において、Rは炭素数1〜30のアルキル基、アリル基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシル基、チオール基、ビニル基、エポキシ基、チイラン基、カルボキシル基、カルボニル基含有基(例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタン酸、無水フタル酸などの環状酸無水物)、アミド基、エステル基、イミド基、ニトリル基、チオシアン基、炭素数1〜20のアルコキシ基、シリル基、アルコキシシリル基、ニトロ基などの官能基を含む有機基を示す。)
【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
その他の例をあげれば以下の通りである。
【0019】
【化5】

【0020】
【化6】

【0021】
【化7】

【0022】
【化8】

【0023】
【化9】

【0024】
【化10】

【0025】
【化11】

【0026】
【化12】

【0027】
【化13】

【0028】
本発明の第一及び第二の態様において使用する化合物(a)の使用量には特に限定はないが、変性しようとするブチルゴム100gに対し0.001〜0.5モルであるのが好ましく、0.005〜0.1モルであるのが更に好ましい。この使用量が少ないとブチルゴムの変性量が低くなるおそれがあり、逆に多いと後の架橋が進行しなくなるおそれがある。
【0029】
本発明の第一及び第二の態様において使用することができるラジカル開始剤(b)としては、上記化合物(a)をブチルゴムの分子鎖に導入することができる任意のラジカル開始剤を用いることができ、具体的にはベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシ−3−ヘキシン、2,4−ジクロロ−ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシ−ジ−イソプロピルベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、ジイソブチルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ヘキシルパーオキシネオデカネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ヘキシルパーオキシピパレート、t−ブチルパーオキシピパレート、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジ−n−オクタノイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジサクシン酸パーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキサイドとベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキサイドとジベンゾイルパーオキサイドの混合物、ジベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレートなどを例示することができる。また、レドックス触媒の作用により低温で分解が可能なもののうち代表的なものとしては、ジベンゾイルパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどを例示することができる。これらを反応系(混合系、接触系)に添加することによってブチルゴムに炭素ラジカルを発生させることができ、安定なフリーラジカルを有する化合物(a)がその炭素ラジカルと反応することにより、変性ブチルゴムが得られる。
【0030】
本発明の第一及び第二の態様において使用するラジカル開始剤(b)の添加量には特に限定はないが、変性しようとするブチルゴム100gに対し、好ましくは0.001〜0.5モル、更に好ましくは0.005〜0.2モルである。この配合量が少な過ぎるとブチルゴム鎖からの水素原子引抜き量が低くなるおそれがあり、逆に多過ぎるとブチルゴムの主鎖が分解し、分子量が大きく低下するおそれがある。
【0031】
本発明の第一及び第二の態様において使用する二官能性以上のラジカル重合性モノマー(c)としては特に限定はないが例えばエチレンジ(メタ)アクリレート(ここでエチレンジ(メタ)アクリレートという表記はエチレンジメタアクリレート及びエチレンジアクリレートの両方を含んでいる。以下、化合物が変わっても同様)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリル(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリシロキサンジ(メタ)アクリレート、各種ウレタン(メタ)アクリレート、各種金属(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N’−フェニレンジマレイミド、ビスマレイミドジフェニルメタン、N,N’−フェニレンジアクリルアミド、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレートなどをあげることができる。これらのうち分子中に電子吸引基(例えばカルボニル基(ケトン、アルデヒド、エステル、カルボン酸、カルボン酸塩、アミド)、ニトロ基、シアノ基など)を含むモノマーが変性率を高めるという観点から好ましい。
【0032】
前記二官能性以上のラジカル重合性モノマー(c)の使用量には特に限定はないが、変性しようとするブチルゴム100gに対して0.001〜0.5モルであるのが好ましく、0.005〜0.2モルであるのが更に好ましい。この使用量が少な過ぎると後の架橋が進行しないおそれがあり、逆に多過ぎると架橋物の物性が悪化するおそれがある。
【0033】
本発明の第一の態様において、ブチルゴムを、前記化合物(a)、開始剤(b)及びモノマー(c)で変性する方法には特に限定はないが、例えば以下のようにして変性することができる。予備混合したブチルゴム、化合物(a)、開始剤(b)の混合物を窒素置換した密閉式混練機中で、150〜220℃の温度で反応させ、一旦温度を下げた後、モノマー(c)を添加した後、再度窒素置換を行い、150〜220℃の温度にて混練、反応させることにより所望の変性ブチルゴム組成物を得ることができる。また、ブチルゴム、化合物(a)、開始剤(b)、モノマー(c)を同時に混練して反応を行うこともできる。なお、上記変性は、二軸押出型混練機、一軸押出型混練機、ロールなどを用いて行なうこともできる。
【0034】
一方、本発明の第二の態様において、ブチルゴムを変性する方法及びそれにラジカル重合性モノマー(c)を混合する方法には特に制限はないが、例えばブチルゴムの変性は、上記第一の態様で化合物(a)と開始剤(b)を反応させる方法と同様に行なうことができる。モノマー(c)の混合は、一般的な方法で混練により行なうことができ、各種添加剤、補強充填剤、架橋剤と同時に混練しても良い。これら、変性及び混合は、密閉式混練機、二軸押出型混練機、一軸押出型混練機、ロール、バンバリー、ニーダーなどを用いて行なうことができる。
【0035】
本発明の第一及び第二の態様に係るゴム組成物には前記変性ブチルゴムを含むゴム成分100重量部に対し、カーボンブラック及び/又はシリカなどの補強充填剤を5〜300重量部、好ましくは30〜200重量部並びに架橋剤(例えばベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシ−3−ヘキシン、2,4−ジクロロ−ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシ−ジ−イソプロピルベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタンなどの有機過酸化物及びアゾジカーボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、ジメチル2,2’−アゾビス(イソブチレート)、アゾビス−シアン吉草酸、1,1’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビスメチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルパレロニトリル)などのアゾ系ラジカル開始剤など)を、好ましくは0.05〜15重量部、更に好ましくは0.1〜10重量部配合するのが好ましい。
【0036】
本発明の第一及び第二の態様に係る変性ブチルゴム組成物には他のゴム成分としてスチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン3元共重合体ゴム、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン3元共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−ブテン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ芳香族ビニル、ポリオレフィン、ポリイソプレン、各種スチレン−ブタジエン共重合体、各種ポリブタジエン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、水素化アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、各種ポリメタクリル酸エステル、各種ポリエーテル、各種ポリスルフィド、各種ポリビニルエーテル、各種ポリエステル、各種ポリアミド、セルロース、デンプン、各種ポリウレタン、各種ポリウレア、各種ポリアミンなどを配合することができるが、変性ブチルゴムの配合量がゴム成分中に10重量%以上であるのが好ましい。
【0037】
本発明の第一及び第二の態様に係るゴム組成物には、前記した成分に加えて、その他の補強剤(フィラー)、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他のゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0039】
以下の例において使用した原料は以下の通りである。
IIR:ブチルゴム〔バイエル製、BUTYL301〕
ジ−t−ブチルパーオキサイド:〔日本油脂(株)製、パーブチルD〕
OH−TEMPO:4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシル〔旭電化工業(株)製、LA7RD〕
エチレンジメタクリレート:〔東京化成(株)製〕
トリメチロールプロパントリメタクリレート:〔東京化成(株)製〕
【0040】
変性IIR組成物の調製例1(IIR−EDM)
IIR350.0g、ジ−t−ブチルパーオキサイド30.4g、OH−TEMPO32.2gを60℃に温度を設定した密閉型バンバリーに入れ10分間混合した。得られた混合物を、100℃に温度設定した密閉型バンバリー中で混練しながら5分間窒素置換した。混練しながら温度を185℃まで上昇させ20分間混練した。得られたポリマーの一部をトルエンに溶解し、再沈殿操作によりポリマーを単離精製した。精製品を用いて1H−NMRにて分析を行うことにより、TEMPO部位の導入(アルコキシアミノ基)を確認した。その導入率はIIRのモノマー単位数に対して0.283mol%であった。一旦反応系を150℃にし、エチレンジメタクリレート37.0gを添加して混練しながら5分間窒素置換した。混練しながら温度を185℃まで上昇させ20分間混練した。得られたポリマーの一部をトルエンに溶解し、再沈殿操作によりポリマーを単離精製した。精製品を用いて赤外吸収スペクトル分析(IR分析)並びに1H−NMR分析を行った。IR分析では1720cm-1付近にエステルのカルボニル由来の吸収が観測され、1H−NMR分析では、4.37ppm付近にエチレンのプロトン由来のシグナル、6.12並びに5.60ppm付近にメタクリレートのオレフィンのプロトン由来のシグナルが観測された。これらの結果から、エチレンジメタクリレートがTEMPO導入部位に導入されていることがわかり、TEMPO導入部位の63%にエチレンジメタクリレートが挿入されていることが確認された。
【0041】
変性IIR組成物の調製例2(IIR−GT)
エチレンジメタクリレートに替えてトリメチロールプロパントリメタクリレート42.1gを加えた以外は、調製例1と同様に調製を行った。TEMPO部位はIIRのモノマー単位に対して、0.259mol%であった。その後の反応により挿入されたトリメチロールプロパントリメタクリレートは、TEMPO導入部位に対して71%であった。
【0042】
実施例1〜2及び比較例1〜3
表1に示す配合(重量部)において150ccのニーダーで6分間混練した。8インチのオープンロールにてさらに混練しゴム組成物を得た。これらのゴム組成物について架橋特性を調べるため、“FLAT DIE RHEOMETER MODEL VR−3110(上島製作所)”を用い、振動角±1°、温度170℃の条件で架橋(加硫)曲線の測定を行った。結果は図1に示す。また、これらゴム組成物を170℃で15分間、プレス加硫し、厚さ2mmのシートに成形した。このシートから3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、JIS K 6251に準拠して引張試験を行った。結果は表Iに示す。
【0043】
一般的にゴム組成物などのポリマー組成物を架橋する場合に硫黄及び硫黄架橋用の加硫促進剤を使用すると架橋可能な温度にしても一定時間架橋反応が進行しない誘導期間を存在させることができる。この誘導期間を有することは、架橋に必要な時間を長くせずにゴムを成形加工するための時間を長くできるため非常に好ましい。ところが、有機過酸化物架橋系においてはこのような誘導期間を持たないのが普通であった。然るに、本発明に従えば、図1に示すように、本来有機過酸化物架橋させようとすると分解してしまうブチルゴムを過酸化物架橋が可能になるばかりか、硫黄架橋、硫黄架橋用加硫促進剤による架橋を行う場合のような誘導期間を有するゴム組成物を製造することが可能となる。
【0044】
【表1】

【0045】
表I脚注
*1:ブチルゴム(バイエル製、BUTYL301)
*2,*3:上記調製例1及び2にて合成
*4:旭#50(旭カーボン(株)製)
*5:ビーズステアリン酸YR(日本油脂(株)製)
*6:ジクミルパーオキサイド(日本油脂(株)製、パークミルD)
*7:エチレンジメタクリレート(東京化成(株)製)
*8:ゴム分が100重量部となるように調製
【0046】
参考例、実施例3及び比較例4〜6
表IIに示す配合(重量部)において600ccの密閉型混合機でゴム成分にカーボンブラックおよびステアリン酸を添加して6分間混練した。さらに8インチのオープンロールにて加硫用薬品(表IIの硫黄以下のもの)を常法により添加、混練しゴム組成物を得た。これらのゴム組成物について架橋特性を調べるため、レオメーター試験を実施した。測定は振動角±1°、試験温度160℃、レンジ2N・m及び試験時間60分の条件で行った。結果を表IIに示す。また、これらゴム組成物を160℃で40分間、プレス加硫し、厚さ1mmのシートに成形した。このシートから3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、JIS K 6251に準拠して速度500mm/minで老化前及び老化後(120℃×48時間)の引張試験を行った。結果を表IIに示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表II脚注
*1:臭素化ブチルゴム(LANXESS RUBBER製BROMOBUTYL X2)
*2:塩素化ブチルゴム(エクソンモービル製Chlorobutyl 1066)
*3:ブチルゴム(バイエル製BUTYL 301)
*4:調製例1においてエチレンジメタクリレートを添加する前に取り出したものを使用した。
*5:調製例2の合成品
*6:ダイアブラック GPF(三菱化学(株)製)
*7:ビーズステアリン酸YR(日本油脂(株)製)
*8:ノクセラーDM(大内新興化学工業(株)製)
*9:ノクセラーTOT−N(大内新興化学工業(株)製)
*10:パークミルD(日本油脂(株)製)
【0049】
変性IIR組成物の調製(OHT−IIR)
IIR350.0g、ジ−t−ブチルパーオキサイド30.4g、OH−TEMPO32.2gを60℃に温度を設定した密閉型バンバリーに入れ10分間混合した。得られた混合物を、100℃に温度設定した密閉型バンバリー中で混練しながら5分間窒素置換した。混練しながら温度を186℃まで上昇させ20分間混練した。得られたポリマーの一部をトルエンに溶解し、再沈殿操作によりポリマーを単離精製した。精製品を用いて1H−NMRにて分析を行うことにより、TEMPO部位の導入(アルコキシアミノ基)を確認した。その導入率は0.348mol%であった。
【0050】
実施例4及び比較例7〜8
表IIIに示す配合(重量部)において150ccのニーダーで6分間混練した。8インチのオープンロールにて更に混練しゴム組成物を得、170℃×40分の条件でプレス加硫し、厚さ2mmのシートに成形した。このシートから3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、JIS K6251に準拠して速度500mm/minで引張試験を行った。結果を表IIIに示す。
架橋曲線の測定
実施例4及び比較例7〜8のゴム組成物について架橋特性を調べるため、“FLAT DIE RHEOMETER MODEL VR−3110(上島製作所)”を用い、振動角±1°、温度170℃の条件で架橋曲線の測定を行った。(図3)。
【0051】
【表3】

【0052】
表III脚注
*1:ブチルゴム:バイエル(株)製、BUTYL301
*2:調製例にて合成
*3:旭#50:旭カーボン(株)製
*4:ビーズステアリン酸YR:日本油脂(株)製
*5:4−ヒドロキシ2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシル:旭電化工業(株)製、LA7RD
*6:ジクミルパーオキサイド:日本油脂(株)製、パークミルD
*7:トリメチロールプロパントリメタクリレート:東京化成(株)製
*8:ゴム分が100phrとなるように調製
【産業上の利用可能性】
【0053】
前述の如く、本発明によれば、通常のブチルゴムに、TEMPO誘導体などの酸素の存在下、常温で安定なニトロキシドフリーラジカルを分子中に有する化合物(a)とラジカル開始剤(b)及び二官能性以上のラジカル重合性モノマー(c)を反応させることにより、又は前記ニトロキシドフリーラジカル化合物(a)及びラジカル開始剤(b)を用いて変性したブチルゴムに前記ラジカル重合性モノマー(c)を配合することにより、有機過酸化物で架橋できる変性ブチルゴム組成物を得ることができ、更にブチルゴムのtanδを広い温度および周波数範囲にわたって高くして防振性を向上させることができるので、耐熱性、低圧縮永久歪に優れたタイヤチューブ、自動車用部品、キュアリングバック類、薬栓、ホース類、防振ゴム、電線、電気部品、電気部品の封止材などとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1〜2及び比較例1〜3で得られたゴム組成物の架橋特性を示す架橋曲線である。
【図2】参考例、実施例3及び比較例4〜6で得られたゴム組成物のtanδ(20℃)と周波数との関係を示したもので、温度範囲0℃〜100℃、周波数範囲1〜300Hgで行った測定結果を温度時間換算則により温度20℃のtanδに換算した値である。
【図3】実施例4並びに比較例7及び8で得られたゴム組成物の架橋特性を示す架橋曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素の存在下、常温で安定なニトロキシドフリーラジカルを分子中に有する化合物(a)、ラジカル開始剤(b)及び二官能性以上のラジカル重合性モノマー(c)を反応させて変性することにより得られる変性ブチルゴムを含む変性ブチルゴム組成物。
【請求項2】
成分(a)及び(b)を先ずブチルゴムに添加して、反応させた後、成分(c)を加えて変性させる請求項1に記載の変性ブチルゴム組成物。
【請求項3】
前記二官能性以上のラジカル重合性モノマー(c)が電子吸引基を含むモノマーである請求項1又は2に記載の変性ブチルゴム組成物。
【請求項4】
変性ブチルゴムを含むゴム成分100重量部に対して、補強充填剤5〜300重量部を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の変性ブチルゴム組成物。
【請求項5】
変性ブチルゴムを含むゴム成分100重量部に対して、架橋剤0.05〜15重量部を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の変性ブチルゴム組成物。
【請求項6】
前記架橋剤が有機過酸化物である請求項5に記載の変性ブチルゴム組成物。
【請求項7】
架橋温度において得られる粘度の時間変化の加硫曲線において、架橋開始初期に一定時間の粘度が増加しない期間を有する請求項6に記載の変性ブチルゴム組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の変性ブチルゴム組成物を用いてブチルゴム架橋物のtanδを高めて防振性を向上させる方法。
【請求項9】
酸素の存在下、常温で安定なニトロキシドフリーラジカルを分子中に有する化合物(a)及びラジカル開始剤(b)を反応させることにより得られる変性ブチルゴムに、二官能性以上のラジカル重合性モノマー(c)を配合してなる変性ブチルゴム組成物。
【請求項10】
前記二官能以上のラジカル重合性モノマー(c)が電子吸引基を含むモノマーである請求項9に記載の変性ブチルゴム組成物。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のゴム組成物に架橋剤を配合した変性ブチルゴム組成物。
【請求項12】
変性ブチルゴムを含むゴム成分100重量部に対して、架橋剤0.05〜15重量部を含む請求項9〜11のいずれか1項に記載の変性ブチルゴム組成物。
【請求項13】
変性ブチルゴムを含むゴム成分100重量部に対して、補強充填剤5〜300重量部を含む請求項9〜12のいずれか1項に記載の変性ブチルゴム組成物。
【請求項14】
前記架橋剤が有機過酸化物である請求項12又は13に記載の変性ブチルゴム組成物。
【請求項15】
架橋温度において得られる粘度の時間変化のレオメータ曲線において、架橋開始初期に一定時間の粘度が増加しない期間を有する請求項14に記載の変性ブチルゴム組成物。
【請求項16】
請求項9〜15のいずれか1項に記載の変性ブチルゴム組成物を用いてその架橋物のtanδを防振性を向上させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−231244(P2007−231244A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131780(P2006−131780)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】