説明

変性ポリビニルアセタール樹脂

【課題】分散質の分散性及び塗工性に優れる塗工溶液を得ることができる変性ポリビニルアセタール樹脂及び変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】ビニルアルコール単位を17〜49.4モル%、アセチル単位を0.1〜25モル%、アセトアセチル単位を0.5〜15モル%、及び、アセタール単位を50〜80モル%有し、かつ、平均重合度が300〜2500である変性ポリビニルアセタール樹脂、及びにビニルアルコール単位を60〜99.4モル%、アセチル単位を0.1〜25モル%、アセトアセチル単位を0.5〜15モル%有する変性ポリビニルアルコールをアセタール化することを特徴とする変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散質の分散性及び塗工性に優れる塗工溶液を得ることができる変性ポリビニルアセタール樹脂及び変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアセタール樹脂は、顔料、セラミック粉末、金属粉末等、分散質の分散性や、金属、ガラス等への接着性に優れており、強靱で可とう性のある塗膜が得られることから、古くから種々な用途に用いられており、商業的に重要な位置を占めている。
【0003】
特に、ポリビニルブチラール樹脂やポリビニルアセトアセタール樹脂は、自動車、建築物等に用いられる合わせガラス用中間膜をはじめ、セラミック成形体、熱現像性感光材料、塗料、インキ、反射シート等、種々の工業分野において広く使用されている。
なかでもセラミック成形体、熱現像性感光材料、塗料、インキ、反射シート等の用途に用いられる場合には、ポリビニルアセタール樹脂は、優れた分散性及び塗工性を有することが強く求められる。
【0004】
ポリビニルアセタール樹脂は、セラミック成形体のバインダー樹脂として使用した場合、セラミック成形体は、一般に、次のような工程を経て製造される。
まず、セラミック粉末を分散した溶媒中に、バインダー樹脂と可塑剤とを加えて、ボールミル等の混合装置により均一に混合し、脱泡してスラリーを調製する。次いで、このスラリーをドクターブレード、3本ロールリバースコータ−等を用いて、剥離性の支持体に塗布し、これを加熱して乾燥した後、支持体から剥離することによりセラミック成形体が得られる。例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3及び特許文献4には、ハンドリングを良くする為にポリビニルアセタール、とりわけポリビニルブチラールを用いる方法が記載されている。
【0005】
このようにして得られるセラミック成形体は、例えば、セラミックグリーンシートとして、積層セラミックコンデンサの製造に使用される。
近年では、電子機器の小型化に伴い、小型大容量の積層セラミックコンデンサが求められているため、従来のものに比べより微細な粒子径のセラミック粉末を用いた薄層のセラミックグリーンシートが必要とされている。しかしながら、分散させるセラミック粉末の粒子径が小さくなると、セラミック成形体を得るためのスラリーにおいてセラミック粉末の分散不良が懸念されることから、微細な粒子径のセラミック粉末の分散性を向上させる必要が生じていた。
【0006】
ポリビニルアセタール樹脂は、熱現像性感光材料のバインダー樹脂として使用した場合、熱現像性感光材料は、一般に、脂肪酸の銀塩、有機還元剤、場合により少量の感光性ハロゲン化銀をバインダー中に分散して得られる組成物を支持体に塗工することによって製造することができる。例えば、特許文献5には、紙、プラスチックフィルム、金属箔といった支持体に、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸メチルといった造膜性結合材を塗布して用いられる熱現像性感光材料が記載されている。
【0007】
しかしながら、このような熱現像性感光材料は、従来から使用されてきた湿式のゼラチンを使用したX線感光フィルムに比べて画像特性、特に画像濃度、画像/階調部の鮮明度がやや劣るため、その向上が望まれている。そのためには加熱時の銀塩の核成長を厳しくコントロールする必要があり、かつ、バインダー中に分散させる銀塩の分散性を向上させる必要が生じていた。
【0008】
また、ポリビニルアセタール樹脂をセラミック成形体、熱現像性感光材料等のバインダー樹脂として用いる場合、塗工溶液を塗工する際、生産性を向上させるために塗工速度を上げると、液だれ、ムラ等の不具合が発生するという問題があった。これに対して、単純にポリビニルアセタール樹脂の濃度を高くしたり、ポリビニルアセタール樹脂の重合度を高くしたりすることで、予め粘度を上昇させた溶液を用いることが検討されている。
しかしながら、このような溶液を用いる場合には、バインダー樹脂の溶解に要する時間が長くなったり、溶液のポンプ輸送性が低下したりして、生産性が低下するという問題が生じていた。
【0009】
したがって、セラミック成形体、熱現像性感光材料等の用途に使用するポリビニルアセタール樹脂として、分散質の分散性を向上させることができ、塗工性に優れる塗工溶液を得ることができる変性ポリビニルアセタール樹脂が必要とされていた。
【特許文献1】特開平3−197511号公報
【特許文献2】特開平3−200805号公報
【特許文献3】特開平4−175261号公報
【特許文献4】特開平4−178404号公報
【特許文献5】特公昭43−4924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記に鑑み、分散質の分散性及び塗工性に優れる塗工溶液を得ることができる変性ポリビニルアセタール樹脂及び変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記一般式(1)で表されるビニル単位を17〜49.4モル%、下記一般式(2)で表されるアセチル単位を0.5〜15モル%、下記一般式(3)で表されるアセトアセチル単位を0.1〜25モル%、及び、下記一般式(4)で表されるアセタール単位を50〜80モル%有し、かつ、平均重合度が300〜2500である変性ポリビニルアセタール樹脂である。
【0012】
【化1】

式中、Rは水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明者らは、鋭意検討の結果、塗工溶液のバインダー樹脂としてポリビニルアセタール樹脂を用いた場合に、分散質の分散性が低下する原因は、分散質を分散させる工程において生じる機械的な剪断によって、塗工溶液の粘度が低下し、塗工溶液中の凝集分散質に剪断が充分に伝わらないことによるものであることを見出した。
また、塗工溶液のバインダー樹脂としてポリビニルアセタール樹脂を用いる場合に、塗工速度を上げると、液だれ、ムラ等が発生する原因は、高い剪断速度の下で塗工溶液の弾性率が低下するため、形成される塗膜の形状が維持されなくなることを見出した。
【0014】
本発明者らは、更に鋭意検討の結果、塗工溶液のバインダー樹脂として特定の構造単位及び重合度を有するポリビニルアセタール樹脂を用いることによって、分散質の分散工程において分散質の分散性を向上することができ、かつ、塗工溶液の弾性率が低下することなく、液だれ、ムラ等の不具合の発生を防止することが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂を適当な溶媒に溶解して塗工溶液とした場合、分散質の分散工程において分散質の分散性を向上させることができ、塗工速度を上げた際の高剪断時においても、溶液の弾性が低下することなく、液だれ、ムラ等の不具合の発生を防止することができる。
【0016】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(1)で表されるビニルアルコール単位の含有量の下限は17モル%、上限は40.4モル%である。17モル%未満であると、有機溶剤に対する溶解性が低下したり、溶液の粘度安定性が低下したりする。40.4モル%を超えると、変性ポリビニルアセタール樹脂の親水性が高くなりすぎて、変性ポリビニルアセタール樹脂の吸湿性が高くなって安定性が低下したり、有機溶剤に対する溶解性が低下したりする。好ましい下限は20モル%、好ましい上限は36モル%である。
【0017】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(2)で表されるアセチル単位の含有量の下限は0.1モル%、上限は25モル%である。上記範囲を超えると、原料のポリビニルアルコールの溶解性が低下し、アセタール化反応が困難となる。好ましい上限は15モル%である。
【0018】
上記一般式(3)で表されるアセトアセチル単位を有する分子は、分子間で金属等と錯体を形成する。このため、本発明のポリビニルアセタール樹脂は、顔料、セラミック、金属等を効果的に分散することができる。
また、上記アセトアセチル基は、自己架橋性を有しており、加熱又は酸触媒下での加熱によって、他の分子中のアセトアセチル基や水酸基と架橋構造を形成し、部分的に高分子量成分をつくる。このため、塗工速度を上げた際の高剪断時においても、塗工溶液の弾性が低下することなく、液だれ、ムラ等の発生を防止することができる。
更に、上記架橋構造が形成されることによって、塗工溶液を塗工して得られる塗膜の強度を向上させることができる。
【0019】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(3)で表されるアセトアセチル単位の含有量は、下限が0.5モル%、上限が15モル%である。0.5モル%未満であると、架橋構造が形成されることによる効果が充分に得られず、分散質の分散性が低下したり、高剪断時に弾性率が低下してしまうため、塗工時に液だれ、ムラ等が発生したりする。15モル%を超えると、架橋性が高くなりすぎて、アセタール化反応が困難となったり、塗工溶液とした際の粘度安定性が低下したりする。好ましい上限は12モル%である。
【0020】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(4)で表されるアセタール単位の含有量は、下限が50モル%、上限が80モル%である。50モル%未満であると、変性ポリビニルアセタール樹脂が水溶性となり、有機溶剤への溶解性が低下する。80モル%を超えると、変性ポリビニルアセタール樹脂の製造が困難になったり、有機溶剤への溶解性が低下したりする。好ましい下限は60モル%、好ましい上限は78モル%である。
【0021】
上記一般式(4)で表されるアセタール単位において、Rは、水素原子、メチル基及び/又はブチル基からなることが好ましい。このような変性ポリビニルアセタール樹脂を用いることによって、得られる塗工溶液の粘度、チキソトロピー性、塗工性等の諸性質に優れた塗工溶液を得ることができる。
【0022】
上記一般式(4)で表されるアセタール単位において、Rは、ブチル基又はメチル基のみからなるものであってもよく、メチル基及びブチル基からなり、かつ、前記メチル基と前記ブチル基とのモル比が0.1:99.9〜99.9:0.1であるものであってもよい。
【0023】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂の重合度は、下限が300、上限が2500である。重合度を上記範囲内とすることにより、分散質の分散性、塗工性、得られる塗膜の強度等に優れる塗工溶液を得ることができる。更に、分散性、塗工性、得られる塗膜の強度等のバランスを考えると、好ましい上限は2000である。
【0024】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂を製造する方法としては、例えば、上記一般式(1)で表されるビニルアルコール単位を60〜99.4モル%、上記一般式(2)で表されるアセチル単位を0.1〜25モル%、及び、上記一般式(3)で表されるアセトアセチル単位を0.5〜15モル%含有する変性ポリビニルアルコールをアセタール化する方法が挙げられる。
このような変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法もまた、本発明の一つである。
【0025】
上記変性ポリビニルアルコールにおいて、上記一般式(1)で表されるビニルアルコール単位の含有量の好ましい下限は60モル%、好ましい上限は99.4モル%である。上記範囲を超えると、原料のポリビニルアルコールの溶解性が低下し、アセタール化反応が困難となることがある。
【0026】
上記変性ポリビニルアルコールにおいて、上記一般式(2)で表されるアセチル単位の含有量の好ましい下限は0.1モル%、好ましい上限は25モル%である。上記範囲を超えると、原料のポリビニルアルコールの溶解性が低下し、アセタール化反応が困難となることがある。
【0027】
上記変性ポリビニルアルコールにおいて、上記一般式(3)で表されるアセトアセチル単位の含有量の好ましい下限は0.5モル%、好ましい上限は15モル%である。0.5モル%未満であると、得られるポリビニルアセタール樹脂において、架橋構造が形成されることによる効果が充分に得られず、分散質の分散性が低下したり、高剪断時に弾性率が低下してしまうため、塗工時に液だれ、ムラ等が発生したりすることがある。15モル%を超えると、架橋性が高くなりすぎて、アセタール化反応が困難となったり、塗工溶液とした際の粘度安定性が低下したりすることがある。
【0028】
上記アセタール化の方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、酸触媒の存在下でポリビニルアルコールの水溶液、アルコール溶液、水/アルコール混合溶液、ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液中に各種アルデヒドを添加する方法等が挙げられる。
【0029】
上記アセタール化に用いるアルデヒドとしては特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。なかでも、アセトアルデヒド又はブチルアルデヒドを単独で用いることや、アセトアルデヒドとブチルアルデヒドとを併用することが好ましい。
【0030】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化度の好ましい下限が50モル%、好ましい上限が80モル%である。50モル%未満であると、有機溶剤に不溶となりセラミックペーストのバインダー樹脂として用いることができないことがある。80モル%を超えると、残存水酸基量が少なくなって得られる変性ポリビニルアセタール樹脂の強靱性が損なわれ塗膜の強度が低下することがある。
なお、本明細書において、アセタール化度の計算方法としては、変性ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基が2個の水酸基からアセタール化されて形成されていることから、アセタール化された2個の水酸基を数える方法を採用してアセタール化度のモル%を計算する。
【0031】
上記酸触媒としては特に限定されず、有機酸、無機酸のどちらでも使用可能であり、例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。なかでも、非ハロゲン性の酸触媒が好適である。
【0032】
上記アセタール化の反応を停止するために、アルカリによる中和を行うことが好ましい。上記アルカリとしては特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。
また、上記中和工程の前後に、水等を用いて得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を洗浄することが好ましい。なお、洗浄水中に含まれる不純物の混入を防ぐため、洗浄は純水で行うことがより好ましい。
【0033】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、通常のポリビニルアセタール樹脂が使用されている用途に好適に用いることができ、例えば、セラミック成形体、金属ペースト、熱現像性感光材料、塗料、インキ、反射シート等を製造するための塗工溶液を得ることができる。
これらの用途に用いる場合、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、チタン酸バリウム、アルミナ等のセラミック粉末、ガラス粉末、ニッケル、銀、銅、パラジウム等の金属粉末、パルミチン酸銀、ステアリン酸銀、ベヘン酸銀等の有機銀化合物、顔料等の分散質の分散性を向上させることができる。また、得られた塗工溶液は、塗工時に溶液の弾性が低下することなく、液だれ、ムラ等の不具合の発生を防止することができ、塗工性に優れる。更に、得られた塗工溶液を用いて得られる塗膜は、強度に優れる。
【0034】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、単独でバインダー樹脂として用いられてもよく、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂とアクリル系樹脂、セルロース系樹脂等との混合樹脂がバインダー樹脂として用いられてもよい。
【0035】
上記混合樹脂がバインダー樹脂として用いられる場合、バインダー樹脂において、変性ポリビニルアセタール樹脂の含有量の好ましい下限は20重量%である。20重量%未満であると、分散質の充分な分散性、塗工性等が得られないことがある。
【0036】
上記塗工溶液において、上記バインダー樹脂の配合量は、上記分散質100重量部に対して、好ましい下限が1重量部、好ましい上限が50重量部である。1重量部未満であると、成膜性能が劣ることがあり、50重量部を超えると、脱脂・焼成後にカーボン成分が残留しやすくなることがある。より好ましい下限は3重量部、より好ましい上限は30重量部である。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、塗工溶液のバインダー樹脂として用いた場合に、分散質の分散工程において分散質の分散性を向上することができ、かつ、塗工溶液の弾性率が低下することなく、液だれ、ムラ等の不具合の発生を防止することが可能となる変性ポリビニルアセタール樹脂及び変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
重合度500、ケン化度98%、アセトアセチル単位含有量が5モル%の変性ポリビニルアルコール100gを700gの蒸留水に加温溶解した後、20℃に保ち、これに70%硝酸26gを加え、更にブチルアルデヒド16gを添加した。次に、10℃まで冷却し、ブチルアルデヒド70gを加えた。樹脂が析出した後、30分間保持し、その後、硝酸93gを加え35℃に昇温して6時間保った。反応終了後、蒸留水にて10時間流水洗浄し、水洗後のポリビニルブチラール樹脂を脱水した後、60メッシュの篩にかけて通過した粒子のみを蒸留水に分散し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。溶液を50℃で6時間保持した後、冷却した。
次に、蒸留水により溶液を2時間流水洗浄した後、脱水し、40℃で12時間乾燥した後、60メッシュの篩にかけ、通過した粒子のみを蒸留水で10時間流水洗浄した。洗浄後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存アセチル基量は1.7モル%、残存水酸基量は28モル%、アセトアセチル基量は5モル%であった。
【0040】
(比較例1)
重合度850、ビニルアルコール単位を31モル%、アセチル単位を1モル%、ブチラール単位を68モル%含有し、アセトアセチル単位を含有しない変性ポリビニルアルコール(エスレックB BM−2、積水化学工業社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
【0041】
(評価)
実施例1及び比較例1で得られたポリビニルアセタール樹脂について、以下の方法により評価を行った。結果を図1及び図2に示した。
【0042】
(IRスペクトル評価)
得られたポリビニルアセタール樹脂について、赤外分光光度計(FT−IR、堀場製作所社製)を用いてIRスペクトルを測定した。結果を図1及び図2に示した。
実施例1で得られたポリビニルアセタール樹脂のIRスペクトルにおいては、3500cm−1付近に水酸基に基づくピーク、2800〜3000cm−1付近に主鎖であるアルキル基及びアセタール基に基づくピーク、1738cm−1付近にアセチル基のピーク、及び、1715cm−1付近にアセトアセチル基に基づくピークが確認された。
比較例1で得られたポリビニルアセタール樹脂のIRスペクトルにおいては、3500cm−1付近に水酸基に基づくピーク、2800〜3000cm−1付近に主鎖であるアルキル基及びアセタール基に基づくピーク、及び、1738cm−1付近にアセチル基のピークが確認され、アセトアセチル基に基づくピークは確認されなかった。
これらの結果から、実施例1で得られたポリビニルアセタール樹脂は、アセトアセチル基を含有するポリビニルアセタール樹脂であること、及び、比較例1で得られたポリビニルアセタール樹脂は、アセトアセチル基を含有しないポリビニルアセタール樹脂であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、分散質の分散性及び塗工性に優れる塗工溶液を得ることができる変性ポリビニルアセタール樹脂及び変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例で得られたポリビニルアセタール樹脂について、赤外分光光度計を用いて測定したIRスペクトルである。
【図2】比較例で得られたポリビニルアセタール樹脂について、赤外分光光度計を用いて測定したIRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるビニルアルコール単位を17〜49.4モル%、下記一般式(2)で表されるアセチル単位を0.1〜25モル%、下記一般式(3)で表されるアセトアセチル単位を0.5〜15モル%、及び、下記一般式(4)で表されるアセタール単位を50〜80モル%有し、かつ、平均重合度が300〜2500であることを特徴とする変性ポリビニルアセタール樹脂。
【化1】

式中、Rは水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。
【請求項2】
一般式(4)で表されるアセタール単位のRは、水素原子、メチル基及び/又はブチル基からなることを特徴とする請求項1記載の変性ポリビニルアセタール樹脂。
【請求項3】
一般式(4)で表されるアセタール単位のRは、ブチル基又はメチル基のみからなることを特徴とする請求項1又は2記載の変性ポリビニルアセタール樹脂。
【請求項4】
一般式(4)で表されるアセタール単位のRは、メチル基及びブチル基からなり、前記メチル基と前記ブチル基とのモル比が0.1:99.9〜99.9:0.1であることを特徴とする請求項1又は2記載の変性ポリビニルアセタール樹脂。
【請求項5】
一般式(1)で表されるビニルアルコール単位を60〜99.4モル%、一般式(2)で表されるアセチル単位を0.1〜25モル%、及び、一般式(3)で表されるアセトアセチル単位を0.5〜15モル%有する変性ポリビニルアルコールをアセタール化することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の変性ポリビニルアセタール樹脂の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−138114(P2007−138114A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337657(P2005−337657)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】