説明

変異セルラーゼ

【課題】プロテアーゼ耐性が向上し、液体洗剤中で安定に存在できるセルラーゼ変異体。
【解決手段】1位〜369位で示される特定のアミノ酸配列、又はこれと80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列において、特定のアミノ酸配列の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基が欠失しているアミノ酸配列で示されるポリペプチドを含み、且つアルカリセルラーゼ活性を有する、ポリペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規セルラーゼ変異体に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ等の複数の酵素を洗浄補助剤として洗剤に配合することは以前から実施されている。セルラーゼは、木綿単繊維の非晶質領域に作用し、単繊維内の皮脂汚れを効果的に除去するため、衣料用洗剤に配合するのに適している。プロテアーゼは、衣料に付着したタンパク質を主成分とする汚れを分解して低分子化し、界面活性剤による可溶化を促進する。
【0003】
洗剤は、その形態により、粉末洗剤と液体洗剤に分類することが出来る。液体洗剤は、粉末洗剤に比べて、溶解性に優れ、また、汚れ部分に原液を直接塗布出来るという利点があるが、反面、配合された酵素の安定性は一般的に粉末洗剤に劣る。タンパク質である酵素は、元来、液体中で常温保存すること自体が難しい。また、液体洗剤は、界面活性剤、脂肪酸、溶剤等を含有し、またpHも弱アルカリ性であるため、酵素にとって極めて厳しい環境になっている。その上、洗剤に通常配合される酵素プロテアーゼは、タンパク質分解酵素であるため、液中で自己及び他の酵素を消化する。これらの理由から、液体洗剤中での酵素の安定的保存は非常に困難である。
【0004】
液体洗剤中での酵素の安定化のため、カルシウムイオン、ホウ砂、ホウ酸、ホウ素化合物、ギ酸などのカルボン酸、ポリオール等の酵素安定化剤を液体洗剤に加えることは公知である。また、4−置換フェニルボロン酸や、ペプチドアルデヒド、及びホウ素組成物糖によってプロテアーゼを可逆的阻害することによる、液体洗剤中の酵素の安定化法が知られている。しかし、カルシウムイオン、ホウ酸などの酵素安定化剤のプロテアーゼ耐性向上効果は十分ではなく、プロテアーゼ阻害剤も、阻害効率や製造コストを考慮すると、その効果は満足できるものではない。
【0005】
特許文献1には、アルカリセルラーゼEgl−237のループ構造を構成するアミノ酸残基を新たなペプチド残基と置換することにより、当該セルラーゼの最適反応pHが上昇することが記載されている。特許文献2には、アルカリセルラーゼEgl−237に由来する、比活性が向上した変異アルカリセルラーゼが記載されている。特許文献3には、バチルス エスピー AA349(DSM 19648)株由来のエンド−β−1,4−グルカナーゼ活性を有する新規酵素(EC3.2.1.4)が、界面活性剤及び/又は漂白剤を含むアルカリ水溶液での使用に適した安定性及び活性を有することが記載されている。
しかしながら、プロテアーゼによる分解を防ぎ、液体洗剤中でセルラーゼ等の酵素をより安定に存在させるための方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−310270号公報
【特許文献2】特開2004−000140号公報
【特許文献3】特表2004−536593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、プロテアーゼ耐性が向上し、液体洗剤中で安定に存在できるセルラーゼ変異体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、セルラーゼの立体構造上の特定領域を変異させることにより、当該変異セルラーゼのプロテアーゼ耐性が向上するとともに、液体洗剤中での安定が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下を提供する。
(1)配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列、又はこれと80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基が欠失しているアミノ酸配列で示されるポリペプチドを含み、且つアルカリセルラーゼ活性を有する、ポリペプチド。
(2)配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列、又はこれと80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基が欠失しているアミノ酸配列で示されるポリペプチドからなる、(1)記載のポリペプチド。
(3)(2)記載のポリペプチドと、酵素の炭水化物結合モジュールを構成するポリペプチドとを含む、(1)記載のポリペプチド。
(4)配列番号2の323位若しくは331位、又はこれらに相当する位置のアミノ酸残基が別のアミノ酸残基で置換されている、(1)〜(3)のいずれか1に記載のポリペプチド。
(5)323位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基がセリンで置換されているか、あるいは331位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基がフェニルアラニン又はバリンで置換されている、(4)記載のポリペプチド。
(6)(1)〜(5)のいずれか1に記載のポリペプチドをコードする遺伝子。
(7)(6)記載の遺伝子を含む組換えベクター。
(8)(6)記載の遺伝子を含む微生物。
(9)(8)記載の微生物を培養することを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項記載のポリペプチドの製造方法。
(10)(1)〜(5)のいずれか1項に記載のポリペプチドを含有する洗剤組成物。
(11)配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列、又はこれと80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列で示されるポリペプチドを含み、且つアルカリセルラーゼ活性を有するセルラーゼにおいて、配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基を欠失させる工程を含む、変異セルラーゼの製造方法。
(12)配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列、又はこれと80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列で示されるポリペプチドを含み、且つアルカリセルラーゼ活性を有するセルラーゼにおいて、配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基を欠失させる工程を含む、セルラーゼの安定性向上方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プロテアーゼ耐性が向上し、液体洗剤中においてプロテアーゼによる分解を受けることなく安定的に存在できる変異アルカリセルラーゼが提供される。また本発明の変異アルカリセルラーゼを配合した液体洗剤は、高いセルラーゼ活性を長期に亘って維持することができるので、長期保存後にも高い洗浄力を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】S237セルラーゼ触媒ドメインのホモロジーモデリングに基づく空間充填モデル(A)、及びリボンモデル(B)。B中の矢印はループ領域を示す。
【図2】S237セルラーゼ触媒ドメインのリボンモデル(A)、及びループ領域の模式図(B)。
【図3】ループ領域欠失変異体の保存安定性。
【図4】ループ領域欠失全長セルラーゼ変異体の長期保存安定性。
【図5】ループ領域欠失セルラーゼ触媒ドメイン変異体の長期保存安定性。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、塩基配列及びアミノ酸配列の配列同一性は、リップマン−パーソン法(Lipman-Pearson法;Science, 227, 1435, (1985))によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Win(Ver.5.1.1;ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行なうことにより算出される。
【0013】
また本明細書において、1〜数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列としては、1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が挙げられ、また、1〜数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列としては、1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列が挙げられる。上記付加には、配列の両末端への1〜数個のアミノ酸又は塩基の付加が含まれる。
【0014】
本発明のポリペプチドは、配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列において、配列番号2の324位〜330位のアミノ酸残基が欠失しているアミノ酸配列で示されるポリペプチドを含み、且つアルカリセルラーゼ活性を有する変異アルカリセルラーゼである。あるいは、本発明のポリペプチドは、配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2の324位〜330位に相当する位置のアミノ酸残基が欠失しているアミノ酸配列で示されるポリペプチドを含み、且つアルカリセルラーゼ活性を有する変異アルカリセルラーゼである。
【0015】
一態様において、本発明のポリペプチドは、配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列において、配列番号2の324位〜330位のアミノ酸残基が欠失しているアミノ酸配列で示されるポリペプチドからなり、且つアルカリセルラーゼ活性を有する変異アルカリセルラーゼである。別の態様において、本発明のポリペプチドは、配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2の324位〜330位に相当する位置のアミノ酸残基が欠失しているアミノ酸配列で示されるポリペプチドからなり、且つアルカリセルラーゼ活性を有する変異アルカリセルラーゼである。
【0016】
配列番号2で示されるアミノ酸配列とは、バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM−S237株(FERM BP−7875)由来のアルカリセルラーゼ(特開2000-210081号公報)である。後記に記載のホモロジーモデリングにより、配列番号2の14位〜369位は、配列番号2で示されるアルカリセルラーゼの触媒ドメイン(catalytic domain: CD)と推定され、当該アルカリセルラーゼは、さらにリンカー(370位〜375位)を介して炭化水素結合モジュール(carbohydrate binding module: CBM)を有しており、配列番号2の376位〜540位及び550位〜733位がCBMであると推察される。配列番号2の1位〜369位からなるポリペプチドを以後CD領域と称する。
【0017】
本発明のポリペプチドは、上記CD領域から所定のアミノ酸残基が欠失した変異CD領域を構成するポリペプチドであってもよいが、当該変異CD領域に加えて、任意の酵素のCBMを構成するポリペプチドを含んでいてもよい。したがって、別の態様において、本発明のポリペプチドは、配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列、又はこれと80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基が欠失しているアミノ酸配列で示されるポリペプチドと、任意の酵素のCBMを構成するポリペプチドとを含み、且つアルカリセルラーゼ活性を有する変異アルカリセルラーゼである。
【0018】
本発明による変異アルカリセルラーゼは、上記CBMを1つ又は複数含有していてもよい。また本明細書において、上記「CBMを構成するポリペプチド」とは、その炭水化物結合能が損なわれない限り、当該CBMの全長ポリペプチドであっても部分ポリペプチドであってもよい。
【0019】
上記任意の酵素のCBMとしては、枯草菌等のバチルス属細菌及び他の菌に由来する、セルラーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼ、キチナーゼ等のポリサッカライド分解酵素の有するセルロース結合ドメイン;ムタナーゼのムタン結合ドメイン;アミラーゼファミリーの澱粉結合ドメイン;β−グルコシダーゼのグルカン結合領域;グルコシルトランスフェラーゼのグルカン結合領域;グルカン結合タンパク質;β−1,3−グルカン結合蛋白質;セルロース結合蛋白質;キチン結合蛋白質;レクチン類等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。また、CBMとしては、Boraston et al, Biochem, 2004, 382: 769-781に記載されるCBMファミリー1〜36に属するCBMが挙げられるが、このうち、セルラーゼ由来であるCBMファミリー1,3,4,5,6,17,28のCBMが好ましい。より好ましくは、このうちCBMファミリー17又は28に属するものが挙げられる。
【0020】
あるいは、上記CBMの好ましい例としては、Trichoderma reesei由来のCBM(Biochemistry, 1989, 28: 7241-7257)、Bacillus halodurans由来のCBM(J Biol Chem, 2006, 280: 530-537)、バチルス属由来のセルロース結合ドメイン等が挙げられる。上記CBMのさらに好ましい例としては、KSM−S237株(FERM BP−7875)由来の配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるアルカリセルラーゼのCBMが挙げられる。
【0021】
従って、一実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列、又はこれと80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基が欠失しているアミノ酸配列で示されるポリペプチドと、配列番号2の376位〜540位及び/又は550位〜733位で示されるアミノ酸配列で示されるポリペプチドとを含む、変異アルカリセルラーゼである。別の実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号2で示されるアミノ酸配列において、配列番号2の324位〜330位のアミノ酸残基が欠失しているアミノ酸配列で示されるポリペプチドからなる変異アルカリセルラーゼである。
【0022】
本発明のポリペプチドは、配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列、又はこれと80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列で示されるポリペプチドを含み、且つアルカリセルラーゼ活性を有するセルラーゼ(「親セルラーゼ」)において、配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基を欠失させることによって取得することができる。または、上記本発明のポリペプチドは、上記親セルラーゼから配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基が欠失したアミノ酸配列からなる天然の又は遺伝工学的に改変された変異体セルラーゼを探索、単離することによって取得することができる。
【0023】
上記親セルラーゼとしては、配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列(以下、CD配列と称する)、当該CD配列を含む配列番号2のアミノ酸配列の部分配列、配列番号2の全長アミノ酸配列、及び当該CD配列と上記に挙げたCBMのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列が挙げられる。上記CD配列を含む配列番号2のアミノ酸配列の部分配列としては、当該CD配列とその上流及び/又は下流に位置する任意長さのアミノ酸配列とから構成される配列番号2の部分アミノ酸配列、例えば、配列番号2の−30位〜369位からなるアミノ酸配列、配列番号2の−30位〜540位からなるアミノ酸配列、配列番号2の−30位〜733位からなるアミノ酸配列、配列番号2の1位〜540位からなるアミノ酸配列、配列番号2の1位〜733位からなるアミノ酸配列、配列番号2の1位〜794位からなるアミノ酸配列、配列番号2の−30位〜369位と376位〜540位とからなるアミノ酸配列、配列番号2の1位〜369位と376位〜540位とからなるアミノ酸配列、配列番号2の−30位〜369位と550位〜733位とからなるアミノ酸配列、配列番号2の1位〜369位と550位〜733位とからなるアミノ酸配列、配列番号2の−30位〜540位と550位〜733位とからなるアミノ酸配列、配列番号2の1位〜540位と550位〜733位とからなるアミノ酸配列、配列番号2の−30位〜369位と550位〜794位とからなるアミノ酸配列、配列番号2の1位〜369位と550位〜794位とからなるアミノ酸配列、配列番号2の−30位〜540位と550位〜794位とからなるアミノ酸配列、配列番号2の1位〜540位と550位〜794位とからなるアミノ酸配列、配列番号2の−30位〜369位と376位〜733位とからなるアミノ酸配列、配列番号2の1位〜369位と376位〜733位とからなるアミノ酸配列、配列番号2の−30位〜369位と376位〜794位とからなるアミノ酸配列、配列番号2の1位〜369位と376位〜794位とからなるアミノ酸配列等、ならびに上述のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列が挙げられる。
【0024】
また上記親セルラーゼに関し、上記CD配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列としては、CD配列のアミノ酸配列から1〜数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列であって、且つCD配列と同等の触媒機能を保持するアミノ酸配列からなるポリペプチド、及びCD配列のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、且つCD配列と同等の触媒機能を保持するアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
【0025】
あるいは上記親セルラーゼとしては、上記に挙げたCD配列を含む配列番号2のアミノ酸配列の部分アミノ酸配列又は配列番号2の全長アミノ酸配列から1〜数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列であって、且つ配列番号2の1位〜369位からなるアミノ酸配列を保持するか、これと同等の触媒機能を有する触媒ドメインのアミノ酸配列を保持するアミノ酸配列、及び上記配列番号2の部分アミノ酸配列又は全長アミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、且つ配列番号2の1位〜369位からなるアミノ酸配列を保持するか、これと同等の触媒機能を有するドメインを保持するアミノ酸配列が挙げられる。
【0026】
本発明のポリペプチドの親セルラーゼの例としては、バチルス エスピーKSM−S237株(FERM BP−7875)由来のアルカリセルラーゼ(Egl−237)(Hakamadaら、Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 2281-2289, 2000)、バチルス エスピー1139株由来のアルカリセルラーゼ(Egl−1139)(Fukumoriら、J. Gen. Microbiol., 132, 2329-2335)(配列番号2との配列同一性91.4%)、バチルス エスピーKSM−64株由来のアルカリセルラーゼ(Egl−64)(Sumitomoら、Biosci. Biotechnol. Biochem., 56, 872-877, 1992)(同91.9%)、バチルス エスピーKSM−N131株由来のセルラーゼ(Egl−N131b)(特願2000−47237号)(同95.0%)等、これらの触媒ドメイン、及びこれらの触媒ドメインを含む部分ポリペプチドが挙げられる。
【0027】
または、配列番号2のアミノ酸配列から1〜数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなる親セルラーゼとしては、例えば、特開2004−000140号公報に記載される変異アルカリセルラーゼが挙げられる。すなわち、配列番号2で示されるアミノ酸配列において:−21位をグルタミン、アラニン、プロリン又はメチオニンに;−15位をアスパラギン又はアルギニンに;−9位をプロリンに;3位をヒスチジンに;9位をアラニン、スレオニン又はチロシンに;46位をヒスチジン、メチオニン、バリン、スレオニン又はアラニンに;79位をイソロイシン、ロイシン、セリン又はバリンに;212位をアラニン、フェニルアラニン、バリン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、チロシン、スレオニン、メチオニン又はグリシンに;233位をイソロイシン、ロイシン、プロリン又はバリンに;278位をアラニン、セリン、グリシン又はバリンに;432位をスレオニン、ロイシン、フェニルアラニン又はアルギニンに;436位をロイシン、アラニン又はセリンに;438位をアラニン、アスパラギン酸、グリシン又はリジンに;522位をメチオニンに;534位をバリン、スレオニン又はロイシンに;あるいは、578位をイソロイシン又はアルギニンに置換した変異アルカリセルラーゼが挙げられる。
【0028】
あるいは、本発明のポリペプチドは、上記CD配列、又はこれと80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列で示されるポリペプチドからなるセルラーゼにおいて、配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基を欠失させ、これを任意の酵素のCBMと連結させてキメラセルラーゼを作製することによって得ることができる。あるいは、本発明のポリペプチドは、キメラセルラーゼを作製した後に、そこから配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基を欠失させることによって得ることができる。
【0029】
したがって、上記CD配列又はその80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドと、上述した任意の酵素のCBMのポリペプチド又はその部分ポリペプチドとを含むキメラポリペプチドもまた、本発明のポリペプチドの親セルラーゼに包含される。さらに、親セルラーゼとしては、当該キメラポリペプチドから1〜数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列であって、且つ配列番号2の1位〜369位からなるアミノ酸配列を保持するか、これと同等の触媒機能を有する触媒ドメインのアミノ酸配列を保持するアミノ酸配列からなるポリペプチド、及び当該キメラポリペプチドのアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、なお好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、且つ配列番号2の1位〜369位からなるアミノ酸配列を保持するか、これと同等の触媒機能を有するドメインを保持するアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
【0030】
異なる酵素種のCDとCBMとを組み合わせたキメラ酵素は、例えば、特開2002-51768号公報、Kim et al, Applied Biochemistry and Biotechnology, 1998, 75: 193-204、Arai et al, J of Bacteriology, 2003, 185(2): 504-512等に記載されているように、当業者に公知であり、その作製方法も当業者に知られている。
【0031】
例えば、異なる酵素のCDとCBMとを組み合わせたキメラ酵素は、遺伝子工学的な手法又は化学的な架橋方法等によってCDとCBMとを連結することによって得ることができる。連結する場合、CDとCBMとを直接連結してもよいし、リンカーを介して連結してもよい。リンカーは、ポリサッカライドを分解する各種の酵素に良く見られるような、触媒活性領域と基質結合ドメインとの間をつなぐ領域として存在するペプチドである(P. Tomme et al, Adv Microbiol Physiol, 1995, 37: 1-81)。
【0032】
リンカーとしては、酵素や蛋白質に由来する各種リンカーやその誘導体、人工的に設計したポリペプチドなどを使用することができる。リンカーの長さは、好ましくは1〜400アミノ酸であり、より好ましくは1〜100アミノ酸であり、さらに好ましくは1〜50アミノ酸である。プロテアーゼによるリンカーの分解を防いで本発明変異セルラーゼのプロテアーゼ安定性をさらに向上させるために、リンカー配列にプロテアーゼに感受性の低いアミノ酸配列を選択したり、リンカー配列のアミノ酸残基を糖鎖により修飾したりすることができる。
【0033】
遺伝子工学的手法による連結の場合、目的のCDをコードする遺伝子と目的のCBMをコードする遺伝子とを直接連結させるか、又はリンカー配列をコードする遺伝子を介して連結させてキメラ遺伝子を構築し、これを発現させることによって、目的のキメラ酵素を得ることができる。例えば、CDをコードする遺伝子とCBMをコードする遺伝子とが連結されたポリヌクレオチド、又はさらにその間にリンカー配列をコードする遺伝子が挿入されたポリヌクレオチドをPCR等の方法により作製し、これを適当な発現ベクターに組み込む。あるいは、CDをコードする遺伝子とCBMをコードする遺伝子、又はさらにその間にリンカー配列をコードする遺伝子が隣接して配置するように発現ベクターを構築する。得られた発現ベクターを適切な宿主微生物に組み込んでこれを培養すれば、目的のキメラ酵素タンパク質を得ることができる。
【0034】
キメラ酵素のポリペプチド上におけるCDとCBMとの配置は、それらが由来する酵素上での本来の存在位置に依存せず、CBMはCDに対して、N末端側、C末端側、内側等、任意の位置に存在してよい。また、1つのCDに対して1つ又は複数のCBMを組み合わせてもよく、それらのCBMはCDに対して各々任意の位置に存在してよい。例えば、全てのCBMをCDの上流、下流又は内側に配置してもよく、又は1つのCBMを上流、下流又は内側に配置し、他のCBMを別の位置に配置してもよい。
【0035】
化学的架橋法の場合、化学的な結合、例えば、イオン結合、ジスルフィド結合、疎水結合、水素結合、pH感受性の結合、又は金属イオンを媒介とした結合などを利用して、CDとCBMとを連結させる。この場合にも、CDとCBMとの間にリンカー領域を介在させてもよい。
【0036】
本発明のポリペプチドにおいては、配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基が欠失している。配列番号2の324位〜330位のアミノ酸残基は、配列番号2で示されるアルカリセルラーゼの触媒ドメインに存在するループ領域と称する特定の立体構造を構成する領域(321位〜333位)に含まれるアミノ酸残基である。従って、本発明のポリペプチドにおいて欠失されるべきアミノ酸残基は、親セルラーゼの触媒ドメインのループ領域の一部分を構成する連続するアミノ酸残基である。
【0037】
親セルラーゼのループ領域は、Cellulase-K触媒ドメインのX線結晶構造解析(PDB ID 1G01 Shirai T. et al., J. Mol. Biol. (2001) 310, 1079-1087)に基づくホモロジーモデリングにより当該親セルラーゼの立体構造を得ることによって、同定することができる。ホモロジーモデリングは、Cellulase-K触媒ドメインのX線結晶構造解析データから、Sali, A., Mol Med Today, 1995 Sep; 1(6):270-277や、Bioinformatics, 2006 Jan 15; 22(2):195-201に記載の方法に従って、当業者が行うことができる。上記方法はまた、市販のソフトウェア(例えば、Discovery Studio 2.0; Accelrys)を用いることによって、又はSwiss-Modelのウェブページ(http://swissmodel.expasy.org/)において、実行することができる。
【0038】
図1に示すとおり、X線結晶構造解析による立体構造解析によれば、Cellulase-Kの触媒ドメインは基本的に球状構造を有しているが、F534〜D540で、ドメインの球状構造から明瞭に突出し、ループ構造を形成している(図1の矢印で示した領域)。上記領域と相同な親セルラーゼ領域又はその周辺領域は、ループ領域を呈することが予測される。例えば、配列番号2のセルラーゼの場合、Cellulase-KのF534〜D540と相同な領域はF324〜N330である。さらにホモロジーモデリングの結果、図2Aに模式的に示すように、配列番号2のセルラーゼのF321からN333までの領域がドメインの球状構造から突出しており、ループ構造を有していることが示された(図2B)。
【0039】
従って、本発明のポリペプチドにおいて欠失されているべきアミノ酸残基は、ホモロジーモデリングによって親セルラーゼの触媒ドメインのループ領域を同定するか、又は親セルラーゼにおける配列番号2のF321からN333に相当する領域を同定し、次いで当該領域における配列番号2の324位〜330位に相当する位置のアミノ酸残基を同定することによって、決定することができる。
【0040】
本明細書において、「相当する位置のアミノ酸残基」及び「相当する領域のアミノ酸残基」を特定する方法としては、例えばリップマン−パーソン法等の公知のアルゴリズムを用いてアミノ酸配列を比較し、各アミノ酸配列中に存在する保存アミノ酸残基に最大の相同性を与えることにより行なうことができる。このような方法でアミノ酸配列を整列させることにより、アミノ酸配列中にある挿入、欠失にかかわらず、各アミノ酸配列間で任意のアミノ酸残基又は配列に「相当する位置/領域」を決めることが可能である。各タンパク質の相当する位置/領域同士は、そのタンパク質の三次元構造中で互いに対応する位置/領域に存在すると考えられるので、各相当する位置/領域における特定の変異は、各タンパク質の機能に対して同等の効果を及ぼすと推定される。
【0041】
上記に従って、配列番号2のセルラーゼ以外の本発明のポリペプチドの親セルラーゼにおける、配列番号2の324位〜330位に相当する領域を計算すると、例えば、以下のとおりになる:
Egl−1139のアミノ酸配列の354〜360番アミノ酸;
Egl−64のアミノ酸配列の354〜360番アミノ酸;
Egl−N131bのアミノ酸配列の340〜346番アミノ酸。
【0042】
本発明のポリペプチドは、さらに、上記欠失させるアミノ酸残基が切り出された後の切り口の一方又は両方のアミノ酸残基が、別のアミノ酸残基で置換されていてもよい。置換されるアミノ酸残基としては、323位若しくは331位、又はこれらに相当する位置のアミノ酸残基が好ましい。より好ましくは、323位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基をセリンで置換するか、又は331位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基をフェニルアラニン又はバリンで置換する。
【0043】
本発明のポリペプチドは、アルカリセルラーゼ活性を有する変異アルカリセルラーゼである。本発明のポリペプチドが有するアルカリセルラーゼ活性としては、アルカリ領域でセルラーゼを分解し得る限り、特に限定されない。
【0044】
本発明によれば、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子もまた提供される。本発明の遺伝子としては、例えば、配列番号1の塩基番号663〜1769番で示される塩基配列又はこれと80%以上の配列同一性を有する塩基酸配列のうち、配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基をコードする塩基配列を含まない塩基配列からなる遺伝子及び当該塩基配列を含む遺伝子が挙げられる。さらに上記欠失に加え、323位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基をセリンで置換するか、又は331位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基をフェニルアラニン又はバリンで置換したアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる遺伝子及び当該塩基配列を含む遺伝子が挙げられる。
【0045】
当該遺伝子は、本発明のポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて化学的に合成してもよく、あるいは、本発明のポリペプチドの親セルラーゼをコードする遺伝子をクローニングし、それに突然変異処理を施すことによって作製することができる。親セルラーゼをコードする遺伝子のクローニングは、一般的な遺伝子組換え技術を用いればよく、例えば、国際公開第99/18218号パンフレット、国際公開第98/56927号パンフレット記載の方法に従って行なえばよい。
【0046】
親アルカリセルラーゼをコードする遺伝子の突然変異処理の方法としては、当該分野で一般的に行われている任意の方法を用いることができる。方法としては、例えば、Site-Directed Mutagenesis System Mutan(登録商標)-Super Express Kmキット(TAKARA BIO Inc.)等を用いて行なう部位特異的変異、リコンビナントPCR(polymerase chain reaction)法(PCR protocols, Academic Press, New York, 1990)、SOE(splicing by overlap extension)−PCR法(Gene,77,61,1989)等が挙げられる。これらの方法を用いることによって、遺伝子に対して任意の塩基又は塩基配列を欠失させるか、又は別の塩基又は塩基配列を置換、挿入若しくは付加することが可能である。
【0047】
作製した本発明の遺伝子を適当な微生物宿主に導入して当該微生物を形質転換し、当該微生物を培養し、その培養物から当該微生物が産生した本発明のポリペプチドを回収することによって、本発明のポリペプチドを製造することができる。例えば、本発明の遺伝子を発現ベクター等の安定に増幅できるDNAベクターに連結させ、当該ベクターを微生物宿主に導入して、当該微生物を形質転換することができる。あるいは、本発明の遺伝子を微生物宿主の染色体DNA上に導入して、当該微生物を形質転換することができる。遺伝子のベクターへの連結、ベクターの微生物への導入、及び染色体DNAへの遺伝子の導入の手順は、当業者に周知である。
【0048】
宿主となる微生物としては、特に限定されないが、枯草菌等のバチルス属細菌、大腸菌、カビ、酵母、放線菌等が挙げられる。形質転換した微生物は、資化性の炭素源、窒素源その他必須栄養素を含む培地に接種し、常法に従って培養する。その後、培養物から、当該微生物が産生した本発明のポリペプチドを回収する。回収物を必要に応じてさらに精製してもよい。培養に使用される培地の組成及び培養条件、ポリペプチドの回収及び精製の手順等については、使用する微生物の種類や必要とするポリペプチドの純度等に依存して、当業者が適宜選択することができる。
【0049】
上記の遺伝工学的又は化学的な方法によって親セルラーゼからそのループ領域の少なくとも一部を欠失させることにより、本発明の変異アルカリセルラーゼポリペプチドを製造することができる。したがって、本発明はまた、少なくとも配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列を含む配列番号2のアミノ酸配列若しくはその部分アミノ酸配列、又はこれらと80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるセルラーゼにおいて、配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基を欠失させる工程を含む、変異セルラーゼの製造方法を提供する。また当該方法は、上記アミノ酸残基を欠失させる工程の後に、欠失されるアミノ酸残基が切り出された後の切り口のアミノ酸残基を別のアミノ酸残基で置換する工程をさらに含んでもよい。本方法で使用される親セルラーゼの種類、欠失させるべきアミノ酸残基、置換されるアミノ酸残基の位置及び置換するアミノ酸の種類は、上述のとおりである。
【0050】
上記の工程に従って得られる変異セルラーゼは、プロテアーゼ耐性が向上し、液体洗剤中で安定に存在することができる。したがって、本発明はまた、少なくとも配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列を含む配列番号2のアミノ酸配列若しくはその部分アミノ酸配列、又はこれらと80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるセルラーゼにおいて、配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基を欠失させる工程を含む、セルラーゼの安定性向上方法を提供する。また当該方法は、上記アミノ酸残基を欠失させる工程の後に、欠失されるアミノ酸残基が切り出された後の切り口のアミノ酸残基を別のアミノ酸残基で置換する工程をさらに含んでもよい。本方法で使用される親セルラーゼの種類、欠失させるべきアミノ酸残基、置換されるアミノ酸残基の位置及び置換するアミノ酸の種類は、上述のとおりである。
【0051】
本発明はまた、上記本発明のポリペプチドを含有する洗剤組成物を提供する。本発明のポリペプチドは、洗剤組成物用、特に液体洗剤用の酵素として好適である。本発明のポリペプチドは、プロテアーゼ耐性が向上した変異アルカリセルラーゼであり、液体洗剤中でプロテアーゼとともに長期保存しても、プロテアーゼによる分解を受けることなく、長期に亘って高いセルラーゼ活性維持することができる。したがって、本発明の洗剤組成物は、長期保存後にも高い洗浄力を発揮することができる。
【0052】
洗剤組成物中への本発明の変異アルカリセルラーゼポリペプチドの配合量は、当該ポリペプチドがアルカリセルラーゼ活性を示すことができる量であれば特に制限されない。本発明のポリペプチドの洗剤組成物への配合量は、特開平10−313859号公報に記載の酵素活性測定方法より決定される単位(U)に基づき、洗剤組成物1kg当たり50〜40000Uの量であればよく、好ましくは100〜20000Uである。
【0053】
本発明の洗剤組成物においては、本発明の変異アルカリセルラーゼポリペプチドとともに別の酵素を併用することもできる。例えば、当該別の酵素としては、加水分解酵素、酸化酵素、還元酵素、トランスフェラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、リガーゼ、シンテターゼ等が挙げられる。このうち、プロテアーゼ、本発明のポリペプチド以外のセルラーゼ、ケラチナーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、プルラナーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、グルコシダーゼ、グルカナーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ等が好ましく、プロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、リパーゼがより好ましい。プロテアーゼとしては市販のアルカラーゼ、エスペラーゼ、サビナーゼ、エバラーゼ、カンナーゼ(登録商標)(ノボザイムズ社)、プロペラーゼ、プラフェクト(登録商標)(ジェネンコア社)、またKAP(花王)、等が挙げられる。セルラーゼとしてはセルザイム、ケアザイム(登録商標)(ノボザイムズ社)、KAC(花王)、特開平10−313859号公報記載のバチルス エスピーKSM−S237株が生産するアルカリセルラーゼ、特開2003-313592の号公報記載の変異アルカリセルラーゼ等が挙げられる。アミラーゼとしてはターマミル、デュラミル、ステインザイム(登録商標)(ノボザイムズ社)、プラスター(登録商標)(ジェネンコア社)、またKAM(花王)、等が挙げられる。リパーゼとしてはリポラーゼ、リポラーゼウルトラ、ライペックス(登録商標)(ノボザイムズ社)が挙げられる。
【0054】
本発明の洗剤組成物中において、本発明のポリペプチド以外のセルラーゼの配合量は、洗剤組成物1kg当たりの本発明のポリペプチドを含むセルラーゼの総量として50〜40000Uが好ましい。プロテアーゼの配合量は、特開2000−265194号公報記載のプロテアーゼ活性測定方法より決定される単位(P.U)に基づき、洗剤組成物1kg当たり1〜5000P.Uが好ましい。
【0055】
本発明の洗剤組成物中におけるアミラーゼの配合量は、特開平11−43690号公報記載のアミラーゼ活性測定方法より決定される単位(IU)に基づき、洗剤組成物1kg当たり50〜500000IUが好ましい。
【0056】
本発明の洗剤組成物中におけるリパーゼの配合量は、特開2000−87096号公報記載のリパーゼ活性測定方法より決定される単位(LU)づき、洗剤組成物1kg当たり5〜175000LUが好ましい。
【0057】
本発明の洗剤組成物には公知の洗浄剤成分を配合することができる。当該公知の洗剤成分としては、例えば次のものが挙げられる。
【0058】
(1)界面活性剤
界面活性剤は洗剤組成物中0.5〜60質量%配合され、特に粉末状洗剤については、10〜45質量%、液体洗剤については20〜50質量%配合することが好ましい。また本発明洗剤組成物が漂白剤、または自動食器洗浄機用洗剤である場合、界面活性剤は一般に1〜10質量%、好ましくは1〜5質量%配合される。
【0059】
本発明洗剤組成物に用いられる界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤の1種または組み合わせを挙げることが出来るが、好ましくは陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤である。
【0060】
陰イオン性界面活性剤としては、炭素数10〜18のアルコールの硫酸エステル塩、炭素数8〜20のアルコールのアルコキシル化物の硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸塩、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩又は脂肪酸塩が好ましい。アルキル鎖の炭素数が10〜14の、さらに好ましくは12〜14の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩がより好ましい。対イオンとしては、アルカリ金属塩やアミン類が好ましく、ナトリウム及び/又はカリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンがより好ましい。
【0061】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8〜20)エーテル、アルキルポリグリコシド、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8〜20)フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸(炭素数8〜22)エステル、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸(炭素数8〜22)エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーが好ましい。非イオン性界面活性剤としては、炭素数10〜18のアルコールにエチレンオキシドやプロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを4〜20モル付加した〔HLB値(グリフィン法で算出)が10.5〜15.0、好ましくは11.0〜14.5であるような〕ポリオキシアルキレンアルキルエーテルがより好ましい。
【0062】
(2)二価金属イオン捕捉剤
二価金属イオン捕捉剤は0.01〜50質量%、好ましくは5〜40質量%配合される。本発明洗剤組成物に用いられる二価金属イオン捕捉剤としては、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、オルソリン酸塩などの縮合リン酸塩、ゼオライトなどのアルミノケイ酸塩、合成層状結晶性ケイ酸塩、ニトリロ三酢酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、クエン酸塩、イソクエン酸塩、ポリアセタールカルボン酸塩などが挙げられる。このうち結晶性アルミノケイ酸塩(合成ゼオライト)が好ましく、A型、X型、P型ゼオライトのうち、A型がより好ましい。合成ゼオライトは、平均一次粒径0.1〜10μm、より好ましくは0.1〜5μmのものが好適に使用される。
【0063】
(3)アルカリ剤
アルカリ剤は0.01〜80質量%、好ましくは1〜40質量%配合される。粉末洗剤の場合、デンス灰や軽灰と総称される炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、並びにJIS1号、2号、3号などの非晶質のアルカリ金属珪酸塩が挙げられる。これら無機性のアルカリ剤は洗剤乾燥時に、粒子の骨格形成において効果的であり、比較的硬く、流動性に優れた洗剤を得ることができる。これら以外のアルカリとしてはセスキ炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられ、またトリポリリン酸塩などのリン酸塩もアルカリ剤としての作用を有する。また、液体洗剤に使用されるアルカリ剤としては、上記アルカリ剤の他に水酸化ナトリウム、並びにモノ、ジ又はトリエタノールアミンを使用することができ、活性剤の対イオンとしても使用できる。
【0064】
(4)再汚染防止剤
再汚染防止剤は0.001〜10質量%、好ましくは1〜5質量%配合される。本発明洗剤組成物に用いられる再汚染防止剤としてはポリエチレングリコール、カルボン酸系ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。このうちカルボン酸系ポリマーは再汚染防止能の他、金属イオンを捕捉する機能、固体粒子汚れを衣料から洗濯浴中へ分散させる作用がある。カルボン酸系ポリマーはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸などのホモポリマーないしコポリマーであり、コポリマーとしては上記モノマーとマレイン酸の共重合したものが好適であり、分子量が数千〜10万のものが好ましい。上記カルボン酸系ポリマー以外に、ポリグリシジル酸塩などのポリマー、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、並びにポリアスパラギン酸などのアミノカルボン酸系のポリマーも金属イオン捕捉剤、分散剤及び再汚染防止能を有するので好ましい。
【0065】
(5)漂白剤
例えば過酸化水素、過炭酸塩などの漂白剤は1〜10質量%配合するのが好ましい。漂白剤を使用するときは、テトラアセチルエチレンジアミン(TAED)や特開平6−316700号公報記載などの漂白活性化剤(アクチベーター)を0.01〜10質量%配合することができる。
【0066】
(6)蛍光剤
本発明洗剤組成物に用いられる蛍光剤としてはビフェニル型蛍光剤(例えばチノパールCBS−Xなど)やスチルベン型蛍光剤(例えばDM型蛍光染料など)が挙げられる。
蛍光剤は0.001〜2質量%配合するのが好ましい。
【0067】
(7)その他の成分
本発明品洗剤組成物には、衣料用洗剤の分野で公知のビルダー、柔軟化剤、還元剤(亜硫酸塩など)、抑泡剤(シリコーンなど)、香料、その他の添加剤を含有させることができる。
【0068】
本発明の洗剤組成物は、上記方法で得られた本発明のアルカリプロテアーゼ変異体を用いて、必要に応じて上記別の酵素及び/又は上記公知の洗浄剤成分と組み合わせて、常法に従い製造することができる。組成物の形態は用途に応じて選択することができ、例えば液体、粉体、顆粒、ペースト、固形などにすることができる。
【0069】
斯くして得られる本発明の洗剤組成物は、衣料用洗浄剤、漂白剤、硬質表面洗浄用洗浄剤、排水管洗浄剤、義歯洗浄剤、医療器具用の殺菌洗浄剤などとして使用することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0071】
実施例1 欠失対象領域の同定
KSM−S237株(FERM BP−7875)由来セルラーゼ(S237セルラーゼ)の触媒ドメイン(CD)の立体構造を、Cellulase-K触媒ドメインのX線結晶構造解析(PDB ID 1G01 Shirai T. et al., J. Mol. Biol. (2001) 310, 1079-1087)からホモロジーモデリングによって得た(図1)。ホモロジーモデリングにはDiscovery Studio 2.0(Accelrys)を用いた。Cellulase-K触媒ドメインの立体構造の模式図を図1Bに示した。F534〜D540(矢印で示した領域)は、ドメインの球状構造から明瞭に突出したループ領域を構成している。この領域と相同なS237セルラーゼの領域は、F324〜N330(Cellulase-KではFELGRDT、S237セルラーゼではFELGKSNのアミノ酸配列)であり、周辺配列の相同性から考えてもほぼ同様の突出した構造をとるものと考えられた。ホモロジーモデリングの結果得られたS237セルラーゼの立体構造を図2Aに模式的に示す。F321からN333までの領域がはしご状に突出しており、ループ領域を構成していることが示された(図2B)。
【0072】
実施例2 変異セルラーゼの作製
セルラーゼのCDループ領域のN末側に位置するアミノ酸残基、F321、T322又はP323のいずれかと、C末側に位置するアミノ酸残基、N330、A331、T332又はN333のいずれかとの間を欠失させ、上記N末及びC末側のアミノ酸残基を新たなペプチド結合でつなげる変異体を9パターン作成した。図2Bの模式図の黒の実線が、新たに形成されるペプチド結合を示す。その際、欠失変異の親セルラーゼとして、セルラーゼにおいてCDの下流に位置するセルロース結合モジュール(CBM)を有さないCD単独からなるセルラーゼ、およびCBMを含む全長セルラーゼのそれぞれを用いて、計18変異体を構築した。また、各欠失変異に対して縮重コドンを利用し、それぞれ1残基または2残基のランダムなアミノ酸を挿入した変異体を取得した。
【0073】
(1)全長セルラーゼ発現プラスミドの作製
プラスミド精製にはHigh Pure Plasmid isolation kit(Roche)またはQiafilter Plasmid Midi kit(Qiagen)を用いた。制限酵素はRoche社製品を使用した。DNAのライゲーション反応にはLigation High(TOYOBO)を用いた。オリゴDNAプライマーの合成はオペロンバイオテクノロジー社に依頼した。変異プラスミド作製に至るPCR反応にはpyrobest(登録商標)DNA polymerase(タカラバイオ)またはPrimeSTAR(登録商標)Mutagenesis Basal kit(タカラバイオ)を用いた。コロニーPCRにはEX taq DNA polymerase(タカラバイオ)を用いた。PCR産物の精製にはHigh Pure PCR product purification kit(Roche)またはMultiscreen PCRμ96 Cleanup kit(Millipore)を用いた。DNAシーケンス反応試薬にはBig Dye DNA sequencing kit Ver. 3.1(Applied Biosystems)を用いた。DNAシーケンス反応後のDNA精製にはMontage Seq 96 Sequencing Reaction Cleanup Kit(Millipore)を用いた。PCR反応、DNAシーケンス反応用サーマルサイクラーにはGeneAmp(登録商標)9700(Applied Biosystems)を用いた。DNAシーケンス解析にはABI Prism(登録商標)3100(Applied Biosystems)を用いた。プラスミド調製、セルラーゼ発現の宿主菌には枯草菌(Bacillus subtilis Marburg No.168株(Nature, 390, (1997) p.249))を用いた。枯草菌の形質転換法はプロトプラスト法(Chang & Cohen, Molec .Gen. Genet., 168 ,111-115, 1979)に従った。
【0074】
市販のシャトルベクターpHY300PLK(ヤクルト本社)を鋳型に、プライマーpHY+1(HindIII)F(配列番号3)およびプライマーpHY+3040(HindIII)R(配列番号4)とpyrobest(登録商標)DNA polymeraseを用いてPCR反応を行った。得られた増幅産物を精製後、制限酵素HindIIIにて消化し、ライゲーションにより自己環化させ、宿主菌である枯草菌を形質転換し、50μg/mLテトラサイクリン塩酸塩(シグマ)を含むDM3再生培地に塗沫した。数日後に寒天培地に出現した形質転換体を取得し、抽出したプラスミドの制限酵素消化断片の電気泳動像を確認することで、アンピシリン耐性遺伝子とori-177(大腸菌における複製基点)が欠失したプラスミドpHA3040を得た。
【0075】
S237セルラーゼ遺伝子(Bacillus SP. KSM−S237株(FERM BP−7875)由来、GenBank AB18420、Hakamada et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 64(11), (2000) p.2281-2289、特開2000−210081号公報)を一部改変したDNA(配列番号37:Q212S変異(特開2004−140号公報記載のQ242Sに相当)を含み、セルラーゼORF中のEcoRIサイト、XbaIサイトを破壊し、かつプロモーター上流の5’末端にEcoRIサイト、ORF下流の3’末端にXbaIサイトを有する)を制限酵素EcoRIおよびXbaIにて同時消化した。他方プラスミドpHA3040を制限酵素EcoRIおよびXbaIにて同時消化し、S237セルラーゼ遺伝子を含むDNA断片と混合し、ライゲーション反応を行った。ライゲーション産物で枯草菌を形質転換し、50μg/mLテトラサイクリン塩酸塩を含むDM3再生培地に塗沫した。数日後に寒天培地に出現したコロニーについて、溶解斑の有無からセルラーゼ遺伝子が導入された形質転換体を選抜した。形質転換体からプラスミドDNAを抽出し、先の配列番号37に示されるDNA配列が正しく挿入されていることを確認し、結果得られたプラスミドをpHA237QSAとした。以下、本プラスミドにコードされる遺伝子を基に産生される、S237セルラーゼのQ212S変異体をS237QSAと称する。
【0076】
(2)セルラーゼ触媒ドメイン発現プラスミドの作製
S237セルラーゼの触媒ドメインのみ(分泌シグナル配列を含むM−30からT369まで)を発現するプラスミドを構築した。すなわち先に構築した、S237セルラーゼ全長を発現するプラスミドpHAS237QSAを鋳型に、プライマーT369/_R(配列番号5)およびプライマーT369/stop_F(配列番号6)と、PrimeSTAR(登録商標)Mutagenesis Basal Kit(タカラバイオ)を用いてPCR反応を行い、得られた増幅産物を用いて枯草菌を形質転換し、50μg/mLテトラサイクリン塩酸塩を含むDM3再生培地に塗沫した。数日後に寒天培地に出現したコロニーについて、溶解斑の有無からセルラーゼ遺伝子が導入された形質転換体を選抜した。形質転換体からプラスミドDNAを抽出し、配列番号38に示されるDNA配列が挿入されていることを確認し、結果得られたS237セルラーゼ触媒ドメインのみを発現する本プラスミドをpHAP237QSBとした。以下、本プラスミドにコードされる遺伝子を基に産生される、S237セルラーゼ触媒ドメインのQ212S変異体をS237QSBと称する。
【0077】
(3)ループ欠失変異体の作製
ループ欠失変異体作成について、322位から330位を欠失した変異体の作製を例に示す。すなわち、鋳型としてS237セルラーゼの全長を発現するプラスミドpHA237QSAを用い、オリゴDNAプライマーとしてそれぞれF321/_R(配列番号7、F321までを増幅するリバースプライマー;5’末端の15残基がF321/A331_Fの5’末端の15残基と相補する、表1)とF321/A331_F(配列番号10、F321とA331を連結する欠失変異のフォワードプライマー、表1)を用いた。PrimeSTAR(登録商標)Mutagenesis Basal Kit(タカラバイオ)を用いてPCR反応を行い、得られた増幅産物を用いて枯草菌を形質転換し、50μg/mLテトラサイクリン塩酸塩を含むDM3再生培地に塗沫した。数日後に寒天培地に出現したコロニーについて、溶解斑の有無からセルラーゼ遺伝子が導入された形質転換体4個を得た。同様の操作を、鋳型プラスミドのみpHAP237QSBに換えて行うことで、セルラーゼ触媒ドメインのみ発現し、且つ322位から330位のループ領域を欠失した形質転換体4個を得た。
【0078】
【表1】

【0079】
以下同様に、鋳型としてpHA237QSAおよびpHAP237QSBを用い、変異プライマーとして各欠失領域に相当する表2の組み合わせに基づいて用い、欠失変異体を取得した。縮重コドンを含まない、単純なループ欠失変異体は形質転換体コロニー4個を取得した。一方、欠失変異に加えて縮重コドンを挿入した変異体では、縮重コドンにおける変異アミノ酸を網羅できるよう、可能な限り多くの形質転換体コロニーを取得した。実施例3に記載の小スケール培養法で培養し、変異セルラーゼを含む培養上清を得た。鋳型、プライマー、形質転換体取得数、欠失変異パターンについて、表2にまとめた。得られた変異セルラーゼを含む培養上清をもちいて、液体洗剤中での保存安定性評価を行った。
【0080】
【表2】

【0081】
実施例3 セルラーゼ生産培養
セルラーゼ生産培養は以下のとおり行った。すなわち、プラスミドpHAS237QSA、またはpHAP237QSB、あるいはそれらプラスミドに由来する変異プラスミドを保持する枯草菌形質転換体を、大型試験管中の10mL種母培地(LB培地:1%トリプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl)に植菌し、30℃で16時間振盪培養を行った。次いで坂口フラスコ中の50mL主培地(2xL−マルトース培地:2%トリプトン、1%酵母エキス、1%NaCl、7.5%マルトース、7.5ppm硫酸マンガン4−5水和物、15ppmテトラサイクリン)に種母培養液を1%(v/v)植菌し、30℃で3日間振盪培養を行った。培養によって得られたS237QSA又はS237QSBを含む培養液を遠心分離し、上清を得て、液体洗剤中での安定性評価に供した。多数の変異体の小スケール培養には、96穴ディープウェルプレート(サーモフィッシャー)を用い、種母培地および主培地の液量を300μLとして、同様に培養上清を得た。
【0082】
実施例4 液体洗剤中でのセルラーゼ変異体の保存安定性評価
(1)セルラーゼ活性の測定
セルラーゼ変異体の液体洗剤組成物中での残存活性を測定し、保存安定性を評価した。
2mM p-nitrophenyl-D-cellotrioside(pNPG3、生化学工業)水溶液を133mMリン酸緩衝液(pH7.4)で10倍に希釈し、基質溶液とした。96穴マイクロプレートの各ウェルに150μLの液体洗剤組成物A(花王株式会社製プロテアーゼ含有液体洗剤「アタックバイオジェル」、2008年10月に宇都宮市内ドラッグストアにて購入)を添加し、そこにS237QSA、S237QSBまたはそれらの変異体を含む培養上清5μLを加え攪拌した。攪拌直後に混合液20μLを分取し、あらかじめ各ウェル250μLのイオン交換水を加えた96穴マイクロプレートに対して希釈、攪拌した。13.5倍希釈液となった同液50μLを、あらかじめ各ウェル50μLの基質溶液を加えた96穴マイクロプレートに添加し、反応を開始させた。30℃に温度設定したマイクロプレートリーダーVersaMax(Molecular Device)のチャンバー内にプレートを挿入し、420nmにおける吸光度変化をカイネティックモードで10分間測定して、セルラーゼ活性の初期活性値を得た。マイクロプレートリーダーでの計測値は、解析ソフトSoftmaxPro(Molecular Device)により測定結果として出力される吸光度変化速度(mOD/min)の値を暫定活性値(mOD/min)として使用した。液体洗剤組成物と培養上清が混合された96穴マイクロプレートは、PCR用シールで密封の上、40℃で保温した。保温開始から所定日数後、プレートを取り出し、初期活性値の測定と同様の方法で残存活性値を得た。残存暫定活性値(mOD/min)の初期暫定活性値(mOD/min)に対する割合を残存活性(%)とした。
【0083】
(2)変異体の保存安定性評価
縮重コドンを含まないループ欠失変異体の、液体洗剤組成物A中での40℃、2日後の残存活性について図3に示した。なお図中の横軸の項目は変異体を示し、これらは配列番号2における新たなペプチド結合で連結されたアミノ酸残基の番号で表されている。例えば、「F321/A331」で示される変異体は、配列番号2のF321とA331が連結された形の変異であることを表す。コントロールには変異の鋳型として用いたプラスミドpHA237QSAまたはpHAP237QSBをそれぞれ用いた。その結果、図中で「P323/A331」で示されるF324からN330までを欠失した変異体は、鋳型としてpHA237QSA、pHAP237QSBのいずれを用いた場合にも、コントロールに対して大幅な残存活性の向上すなわち保存安定性の向上が認められた。
【0084】
縮重コドンを含むプライマーを用いて取得された変異体、1761株(pHA237QSA由来株は631株、pHAP237QSB由来株は1130株)について、液体洗剤組成物A中での40℃、2日後の残存活性(%)を調べた。その結果、鋳型として用いたpHA237QSAまたはpHAP237QSBを保持する形質転換体より高い残存活性を示す保存安定性向上株が多数見出された。そこでセルラーゼの初発活性と保存安定性がともに高かった複数の変異体について、縮重コドンのDNA配列を決定した。その結果、鋳型プラスミドがpHA237QSA、pHAP237QSBいずれの場合でも、F324からN330までを欠失しているか、またはさたにP323S変異またはA331F若しくはA331V変異を含む変異体であった(表3)。
【0085】
【表3】

【0086】
上記で得られたpHA237QSA由来またはpHAP237QSB由来の保存安定性向上変異体について、(1)の手順で40℃における長期保存安定性を評価した(図4、図5)。その結果、324位〜330位を欠失した変異体(図中、+欠失)はS237セルラーゼ全長を発現させたS237QSAおよび触媒ドメインのみを発現させたS237QSBのいずれに導入した場合でも、高い保存安定性を間発揮した。また324位〜330位欠失に加えてP323S変異またはA331Fを加えた変異(図中、+欠失+P323S及び+欠失+P331F)は、欠失のみの場合よりさらに高い保存安定性を発揮した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列、又はこれと80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基が欠失しているアミノ酸配列で示されるポリペプチドを含み、且つアルカリセルラーゼ活性を有する、ポリペプチド。
【請求項2】
配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列、又はこれと80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基が欠失しているアミノ酸配列で示されるポリペプチドからなる、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
請求項2記載のポリペプチドと、酵素の炭水化物結合モジュールを構成するポリペプチドとを含む、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項4】
配列番号2の323位若しくは331位、又はこれらに相当する位置のアミノ酸残基が別のアミノ酸残基で置換されている、請求項1〜3のいずれか1項記載のポリペプチド。
【請求項5】
323位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基がセリンで置換されているか、あるいは331位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基がフェニルアラニン又はバリンで置換されている、請求項4記載のポリペプチド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のポリペプチドをコードする遺伝子。
【請求項7】
請求項6記載の遺伝子を含む組換えベクター。
【請求項8】
請求項6記載の遺伝子を含む微生物。
【請求項9】
請求項8記載の微生物を培養することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のポリペプチドの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチドを含有する洗剤組成物。
【請求項11】
配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列、又はこれと80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列で示されるポリペプチドを含み、且つアルカリセルラーゼ活性を有するセルラーゼにおいて、配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基を欠失させる工程を含む、変異セルラーゼの製造方法。
【請求項12】
配列番号2の1位〜369位で示されるアミノ酸配列、又はこれと80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列で示されるポリペプチドを含み、且つアルカリセルラーゼ活性を有するセルラーゼにおいて、配列番号2の324位〜330位又はこれに相当する位置のアミノ酸残基を欠失させる工程を含む、セルラーゼの安定性向上方法。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−29614(P2012−29614A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171475(P2010−171475)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】