説明

変異型ホタルルシフェラーゼ

【課題】パイロシークエンスにおいて、DNAポリメラーゼの基質としてdATPが使用できるようにするために、ATPに対する活性を維持しつつ、dATPに対する活性のみ低下するよう基質特異性を変化させた変異型ホタルルシフェラーゼを開発すること。
【解決手段】ATPに対する活性とdATPに対する活性の比率(dATP/ATP)が野生型ホタルルシフェラーゼに比べて低下していることを特徴とする変異型ホタルルシフェラーゼであって、ホモロジー解析により野生型北米ホタル(Photinus pyralis)ルシフェラーゼのアミノ酸配列の421位のグリシンに相当する位置のアミノ酸が極性アミノ酸に置換されていることを特徴とする変異型ホタルルシフェラーゼ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ATPに対する活性とdATPに対する活性の比(dATP/ATP)が野生型よりも低下していることを特徴とする変異型ホタルルシフェラーゼとその遺伝子、前記遺伝子を含む組換えベクター、及び前記変異型ホタルルシフェラーゼの活性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAの塩基配列を決定するシークエンス法には、広くサンガー法に基づいたシークエンス法が利用されている。この方法では、DNAテンプレートにプライマーを結合させ、そのプライマーの3’末端を始点として、DNAポリメラーゼによりデオキシリボヌクレオチド(dNTP: dATP、 dGTP、dCTP、 dTTP)を取り込みながら、新たなDNAの合成反応行う。この時、反応系にはあらかじめ各々4種類の異なる蛍光体でラベルしたジデオキシリボヌクレオチド(ddNTP: ddATP、 ddGTP、 ddCTP、 ddTTP)を少量加えておく。反応時にddNTPが取り込まれると、合成反応はそこで停止し、様々なサイズのDNA断片が生じることになる。この産物は取り込まれたddNTPの種類に応じて、異なる蛍光体が取り込まれているため、一本鎖に変性させた後、電気泳動を行い、サイズ分画を行うことにより、テンプレートDNAの塩基配列を決定することができる。
【0003】
ヒトの全DNA塩基配列を解析するゲノムプロジェクトではこのサンガー法に基づいた方法によりシークエンス解析が行われた。このプロジェクトでは新たにキャピラリー電気泳動を用いたシークエンス解析装置が使用され、それにより解析の自動化、高速化が可能になり、大量のDNA塩基配列の解析が可能になった。
【0004】
近年ではさらに大量のDNA塩基配列を低コストで迅速に行うことを目標に様々な原理に基づくシークエンス解析法の開発が繰り広げられている。例えば454ライフサイエンシーズ社ではシークエンス反応をフローセル上に配置したビーズ上でおこない、同時に多数の塩基配列を解析するシステムである大規模並列高速シークエンス技術の開発を行い、すでに製品としての販売も開始している。
【0005】
これらの大規模並列高速シークエンス技術で使用されているシークエンス法の原理の一つにパイロシークエンス法とも呼ばれる生物発光を利用したDNA塩基配列解析法がある。この方法ではDNAテンプレートにプライマーを結合させた後、4種類のdNTPを順次加えてDNAポリメラーゼによる伸長反応を行う。この時テンプレートにマッチしたdNTPが加えられた時には伸長反応が起こり、それに伴い、ピロリン酸(PPi)が生成される。ここで生成されたPPiはATPスルフリラーゼ等によりATPに変換される。さらにこのATPを基質としてルシフェラーゼが発光反応を起こす。発光がおこれば、マッチしたdNTPが組込まれたことを示しており、テンプレートの塩基配列がわかる仕組みになっている。
【0006】
一方、この反応系で使用されている酵素の一つであるルシフェラーゼは発光反応を触媒するというユニークな性質から、シークエンス解析以外にもATPの定量に基づく細菌数検査や、細胞増殖アッセイ、遺伝子転写活性を測定するレポーターアッセイ、細胞内マーカー・酵素の高感度アッセイなどさまざまな測定系に利用されている。またその発光反応の利用も、細胞、培養組織、固体レベルで可能であり、発光イメージングの分野に欠かせない、産業上重要な酵素の一つになっている。
【0007】
そこで更なる産業上の応用を目指して、様々な改変型ルシフェラーゼの開発が行われている。例えばアミノ酸配列の置換により発光強度を増したルシフェラーゼの報告があり(特許文献1)、そこには419から428番目のアミノ酸の少なくとも1つを、当該アミノ酸の分子量以上の分子量を有する非極性アミノ酸(アラニン、プロリン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン)に置換した場合に発光強度が増すことが記載されている。
【0008】
その他にも熱安定性を向上させたもの(特許文献2〜5)界面活性剤に対する耐性を獲得したもの(特許文献6)、基質親和性を向上させたもの(特許文献7〜9)、発光波長を変化させたもの(特許文献10〜11)、発光の持続性を高めたもの(特許文献12)などの変異型ルシフェラーゼが報告されている。
【0009】
【特許文献1】特開2007-97577号
【特許文献2】特許第3048466号
【特許文献3】特開2000-197487号
【特許文献4】特表平9-510610号
【特許文献5】特表2003-518912号
【特許文献6】特開平11-239493号
【特許文献7】国際公開第99/02697号
【特許文献8】特表平10-512750号
【特許文献9】特表2001-518799号
【特許文献10】特許第2666561号
【特許文献11】特表2003-512071号
【特許文献12】特開2000-197484号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
生物発光を利用したシークエンス解析を行う際に問題になるのは、本来ポリメラーゼの基質として利用されるdATPの使用が制限される点である。dATPは弱いながら、ルシフェラーゼの基質として働くため、ポリメラーゼによる伸長反応時に取り込まれることがなくても発光シグナルとして検出されてしまい、正しいシークエンス解析を妨げてしまう。
【0011】
この問題を解決するために、ポリメラーゼの基質としては働くが、ルシフェラーゼの基質としては働かないdATPαSがdATPの代わりとなるアナログとして利用されている(特許第3510272号)。しかし、dATPαSはdATPと比べて、ポリメラーゼの基質としての取りこみ効率が悪いため、シークエンス解析全体の反応効率を低下させる原因となってしまう。従って、この問題を避けるためには、dATPには反応せず、ATPのみを基質として反応するようにルシフェラーゼの基質特異性を改変する戦略が有効であると考えられる。
【0012】
ルシフェラーゼの発光反応様式は、大きく分けて2段階で進行することが判明している。1段階目では発光基質のルシフェリンがATPと反応してルシフェリルAMP中間体を形成し、ピロリン酸を放出する。次の2段階目では、酸素がこの中間体と反応して、AMPと二酸化炭素を生成すると同時に励起状態のオキシルルシフェリンを生成し、この生成物が基底状態に移る時に可視光を放出する。
【0013】
通常この発光反応はATPを基質として進行するが、dATPはATPと非常に構造が似ており、dATPもルシフェラーゼの基質として認識され、発光反応が進んでしまう。
【0014】
ルシフェラーゼの構造と活性の関係を調べるために、今までに、いくつかのグループで、ルシフェラーゼ蛋白質のX線構造解析が行われている。北米ホタルルシフェラーゼの立体構造(Structure 1996, Vol4, 287-298)やゲンジボタルルシフェラーゼとルシフェリルAMP中間体アナログとの複合体の立体構造などが明らかになっている(Nature 2006, Vol440,372-376)。その立体構造の解析結果から、変異型のゲンジボタルルシフェラーゼに見られる黄緑色発光から赤色発光への変化に関しては286番目のセリンにおけるアスパラギンへの変異が発光色変化の直接の原因であることも判明している。
【0015】
これら公知のルシフェラーゼ立体構造のデーターをもとに判断すると、基質となるATPの糖部分の2’位及び3’位の水酸基は北米ホタルルシフェラーゼの422番目のアスパラギン酸(Asp)と水素結合を形成している可能性が推測できる。
【0016】
一方でATPとdATPの構造的違いは2’位の水酸基(2’-OH基)がdATPでは水素基(2’-H)に変換しただけの違いである。従ってこの422番目のAsp (Asp422)を他のアミノ酸に置換することにより、dATPへのルシフェラーゼの反応性を変えることができる可能性が考えられた。
【0017】
そこで発明者らは、Asp422を他のアミノ酸に置換した変異体を作製しATP活性を測定した。しかし、これらの変異型ルシフェラーゼはATPに対する活性が完全に消失していることが判明した。従ってAsp422はルシフェラーゼの活性に必要不可欠な配列であることが判明し、Asp422のアミノ酸の置換ではATPに対する活性を維持しつつ、dATPに対する活性を低下させることは不可能であることが判明した。
【0018】
すなわち、本発明の課題は、ATPに対する活性を維持しつつ、dATPに対する活性のみ低下した変異型ルシフェラーゼを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するため、本発明では422番目のアスパラギン酸(Asp422)はそのままにして、隣接する421番目のグリシン(Gly421)のアミノ酸置換を行い、Asp422付近の構造にゆがみを与えて、dATPに対する活性を低下させる戦略を考えた。
【0020】
グリシン(Gly)は側鎖の部分に水素基しか持たないため、構造の自由度が大きく、主鎖の構造への影響力が高いアミノ酸である。従ってGly421を変化させることにより、Asp422を含む付近の構造が変わり、基質の反応性が変化する可能性が考えられる。そこで、Gly421をコードする塩基配列を改変して、19種類の各アミノ酸に置換した変異型ルシフェラーゼを作製し、dATPあるいはATPを基質として活性を測定した。その結果、ATP活性に対するdATP活性の比率(dATP/ATP)が野生型ルシフェラーゼに比べて低下した変異型のルシフェラーゼを取得することに成功した。
【0021】
すなわち、本発明は、ATPに対する活性とdATPに対する活性の比率(dATP/ATP)が野生型ホタルルシフェラーゼに比べて低下していることを特徴とする変異型ホタルルシフェラーゼであって、ホモロジー解析に基づき、野生型北米ホタル(Photinus pyralis)ルシフェラーゼのアミノ酸配列の421位のグリシンに相当すると特定される位置のアミノ酸が極性アミノ酸に置換されていることを特徴とする変異型ホタルルシフェラーゼに関する。
【0022】
本発明の変異型ホタルルシフェラーゼの1つの実施形態として、例えば、野生型北米ホタル(Photinus pyralis)ルシフェラーゼのアミノ酸配列の421位のグリシンが極性アミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する変異型ホタルルシフェラーゼが挙げられる。
【0023】
また、別な実施形態として、野生型ゲンジボタル(Luciola cruciata)ルシフェラーゼ又は野生型ヘイケホタル(Luciola lateralis)ルシフェラーゼのアミノ酸配列の423位のグリシンが極性アミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する変異型ホタルルシフェラーゼが挙げられる。
【0024】
なお、置換される極性アミノ酸は、以下の(a)(b)2種類のカテゴリーに分類される。
(a) 「dATP活性比率低下(1/2以下)かつATP活性維持(1/2以上)」群
セリン(Ser)、リジン(Lys)、アスパラギン酸(Asp)、ヒスチジン(His)への置換
(b) 「dATP活性比率低下(1/3以下)かつATP活性維持(1/2未満、1/3以上)」群
アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)への置換
【0025】
本発明はまた、本発明の変異型ホタルルシフェラーゼをコードする遺伝子、前記遺伝子を含む組換えベクターも提供する。
さらに本発明は、本発明の変異型ホタルルシフェラーゼの活性評価方法も提供する。この方法は、ATPに対する活性とdATPに対する活性の比率(dATP/ATP)が野生型ホタルルシフェラーゼに比べて低下している変異型ホタルルシフェラーゼを合成するステップと、合成された変異型ホタルルシフェラーゼから内在性ATPを除去し、精製するステップと、精製された変異型ホタルルシフェラーゼのATPとdATPに対する活性をそれぞれ測定するステップを含む。
【0026】
前記方法において、ATPに対する活性とdATPに対する活性の比率(dATP/ATP)が野生型ホタルルシフェラーゼに比べて低下している変異型ホタルルシフェラーゼとしては、上述した変異型ホタルルシフェラーゼが挙げられ、好ましくは無細胞蛋白質合成系で合成される。
【発明の効果】
【0027】
本発明の変異型ホタルルシフェラーゼは、野生型ルシフェラーゼと比べてATP活性に対するdATP活性の比率(dATP/ATP)が低下しているため、これを利用したパイロシークエンスにおいて、DNAポリメラーゼの基質としてdATPを使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.変異型ホタルルシフェラーゼ
本発明の変異型ホタルルシフェラーゼは、野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列の421位のグリシン(Gly421)に相当する位置のアミノ酸が極性アミノ酸に置換したアミノ酸配列を有し、その野生型に比べてATP活性に対するdATP活性の比 (dATP/ATP)が低下した変異型ホタルルシフェラーゼである。
本発明にかかる「北米ホタル」は学名Photinus pyralisと称し、その野生型ルシフェラーゼの遺伝子配列及びアミノ酸配列は公共のデータベースであるGenBankにAccession No.M15077(配列番号29:cDNA)及びAAA29795(配列番号30)として登録されている。
【0029】
本発明において「野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列の421位のグリシンに相当する位置のアミノ酸」は、ホモロジー解析に基づいて特定される。当該部位ではGlyに隣接してAspが存在し、前記Glyの極性アミノ酸への置換は、北米ホタルルシフェラーゼと同様、隣接するAsp付近の構造を変化させ、ATPに対する活性を維持しつつ、dATPに対する活性のみ低下するように基質反応性を改変させることができると考えられる。なお、ホモロジー解析としては、例えばLimpan-Pearson法のような任意の公知のホモロジー解析法を利用することができる。
【0030】
例えば、ゲンジボタル(Luciola cruciata)、ヘイケホタル(Luciola lateralis)由来のホタルルシフェラーゼ(それぞれ、GenBank Accession No. M26194及びX66919)の場合、北米ホタルルシフェラーゼの421番目のグリシンは、各ホタルルシフェラーゼにおいてそのアミノ酸配列の423番目のグリシンに相当する。
【0031】
本発明にかかる「極性アミノ酸」とは、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、アルギニン(Arg)、リジン(Lys)、システイン(Cys)、ヒスチジン(His)、チロシン(Tyr)の11種類を意味する。
【0032】
変異型ホタルルシフェラーゼではdATPに対する活性は低下しても、本来のATP活性は維持されている必要があり、両方の値のバランスが重要となる。上記の極性アミノ酸置換は、dATP活性比率低下とATP活性維持に応じて、以下の(a)(b)2種類のカテゴリーに分類できる。
(a) 「dATP活性比率低下(1/2以下)かつATP活性維持(1/2以上)」群
セリン(Ser)、リジン(Lys)、アスパラギン酸(Asp)、ヒスチジン(His)への置換
(b) 「dATP活性比率低下(1/3以下)かつATP活性維持(1/2未満、1/3以上)」群
アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)への置換
【0033】
ここで「活性」とは、ATPもしくはdATPをマグネシウムイオン、ルシフェリン存在下で、ルシフェラーゼと反応させて、発光を測定した時の、発光強度の最大値を意味する。
「dATP活性比率低下」とはルシフェラーゼのdATPに対する活性とATPに対する活性の比(dATP/ATP)を測定し、百分率(%)で表した値が、野生型ルシフェラーゼに比べて変異型ルシフェラーゼで低下していることを意味する。
【0034】
したがって、「dATP活性比率低下(1/2以下)」とは野生型ルシフェラーゼと比べてdATP活性比率が1/2以下に低下したことを意味し、「dATP活性比率低下(1/3以下)」とは野生型ルシフェラーゼと比べてdATP活性比率が1/3以下に低下したことを意味する。
【0035】
「ATP活性維持」とは野生型ルシフェラーゼのATP活性が変異型ルシフェラーゼにおいてどれだけ維持されているかを意味し、変異型ルシフェラーゼを合成した後、その粗合成液に含まれるルシフェラーゼのATP活性を測定し、野生型ルシフェラーゼを合成した場合と比較して評価する。
【0036】
したがって、「ATP活性維持(1/2以上)」とは本ATP活性が野生型の1/2以上維持されていることを意味し、「ATP活性維持(1/2未満、1/3以上)」とは本ATP活性が野生型の1/2未満、1/3以上維持されていることを意味する。
【0037】
(a)群は「dATP活性比率」より「ATP活性維持」に重点を置いて分類した群であり、421番目のアミノ酸に相当するGlyをSerに置換した変異型(Gly421Ser)が最も望ましい形態である。(b)群は「ATP活性維持」より「dATP活性比率」に重点を置いて分類した群であり、421番目のアミノ酸に相当するGlyをAsnに置換した変異型(Gly421Asn)が最も望ましい形態である。
【0038】
なお「dATP活性比率」の測定では、合成したルシフェラーゼを精製して合成反応溶液中に含まれる内在性のATP等のルシフェラーゼの基質となりうる成分を完全に取り除いて測定することが必要である。
【0039】
一方「ATP活性維持」の判定では、ルシフェラーゼ精製前の粗合成液の一部(5μL程度)を使用する。この場合、ATP活性はルシフェラーゼの合成量当たりの値で補正した活性値ではなく、合成したルシフェラーゼのもつ活性と合成のされやすさ(合成能)の2つの要因を含んだ値となる。一般的にアミノ酸に変異が導入された蛋白質を合成すると野生型のものに比べてその合成量は変動する。変異型蛋白質では熱安定性やフォールディング効率が低下し、合成量が低下する場合が多く、将来的な組換え生産が目的の場合には合成能の低下が少ない変異型蛋白質が望ましい。つまり、このATP活性評価法は熱安定性が低く、フォールディングの効率も悪いルシフェラーゼの評価に合致したものといえる。
【0040】
図1に本発明に係るアミノ酸置換をまとめた。上記の極性アミノ酸には下線が引かれている。(a)群に属するアミノ酸には右肩に(a)の印、(b)群に属するアミノ酸には右肩に(b)の印が示されている。
【0041】
2.変異型ホタルルシフェラーゼ遺伝子
本発明は、本発明の変異型ホタルルシフェラーゼをコードする遺伝子を提供する。この遺伝子の塩基配列では、変異型北米型ホタルルシフェラーゼの421番目のGlyに対応するアミノ酸をコードする塩基配列が極性アミノ酸をコードする塩基配列に置換されている。例えば、ゲンジボタル、ヘイケボタルでは423番目のGlyをコードするアミノ酸が極性アミノ酸に置換された塩基配列となる。
塩基配列の置換は、野生型のルシフェラーゼ遺伝子に部位特異的に変異を導入することにより、行なうことが出来る。部位特異的な変異導入は既知のどのような方法を用いてもよく、例えばインピトロジェン社のGeneTailor Site-Directed Mutagenesis Systemのような市販のキットを用いて実施することが出来る。
【0042】
3.変異型ホタルルシフェラーゼ組換えDNAベクター
本発明は、前記変異型ホタルルシフェラーゼ遺伝子をベクターDNAに挿入した組換えベクターも提供する。
前記プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えば pBR322, pBR325, pUC18, pUC119等)、枯草菌由来のプラスミド(例えば pUB110, pTP5 等)、酵母由来のプラスミド(例えば YEp13, YEp24, YCp50, pYE52 等)などが、ファージ DNAとしてはM13ファージ、λファージ等が挙げられる。
前記ベクターへの本発明の遺伝子の挿入は、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、ベクターDNAの適当な制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法が採用される。
【0043】
宿主内で外来遺伝子を発現させるためには、構造遺伝子の前に、適当なプロモーターを配置させる必要がある。前記プロモーターは特に限定されず、宿主内で機能することが知られている任意のものを用いることができる。なおプロモーターについては、後述する形質転換体において、宿主ごとに詳述する。また、必要であればエンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、ターミネーター配列等を配置させてもよい。また、市販の発現ベクターシステム、例えばノバジェン社のpETベクターシステムやポストゲノム研究所のpUREベクターシステムなども利用できる。
【0044】
4.変異型ホタルルシフェラーゼの合成
次いで、前記ベクターを目的遺伝子が発現しうるように宿主中に導入し、変異型ホタルルシフェラーゼ蛋白質発現系を作製する。ここで宿主としては、本発明のDNAを発現できるものであれば特に限定されず、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞など既知の宿主のいずれでも発現ベクターのシステムを適合させることにより利用できる。
【0045】
例えば、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロテイ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌、またサッカロミセス・セルビシエ(Saccharomyces cervisiae)、チゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces. pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)等の酵母、その他COS細胞、CHO細胞等の動物細胞、あるいはSf19、Sf21等の昆虫細胞を挙げることができる。
【0046】
大腸菌等の細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明の遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。大腸菌としては、例えば、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli) K12株、B株等が挙げられ、枯草菌としては、例えば、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)MI 114、207-21等が挙げられる。プロモーターとしては、大腸菌等の上記宿主中で発現できるものであれば特に限定されず、例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等の、大腸菌やファージに由来するプロモーターが挙げられる。また、tacプロモーター等のように、人為的に設計改変されたプロモーターを用いてもよい。細菌への組換えベクターの導入方法は、特に限定されず、例えば、カルシウムイオンを用いる方法[Cohen, S.N. et al.:Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69:2110-2114 (1972)]や、エレクトロポレーション法等を挙げることができる。
【0047】
酵母を宿主とする場合は、例えば、サッカロミセス・セレビシエ、シゾサッカロミセス・ポンベ、ピキア・パストリス等が用いられる。プロモーターとしては、酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えば、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショック蛋白質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーター等を挙げることができる。酵母へのベクターの導入方法は、特に限定されず、例えば、エレクトロポレーション法[Becker, D.M. et al.:Methods. Enzymol., 194: 182-187 (1990)]、スフェロプラスト法[Hinnen, A.et al.:Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 75: 1929-1933 (1978)]、酢酸リチウム法[Itoh, H.:J. Bacteriol., 153:163-168 (1983)]等を挙げることができる。
【0048】
またT7プロモーター等を利用して試験管内で蛋白質を合成する無細胞蛋白質合成系も利用できる。無細胞蛋白質合成系としては、例えばPURE SYSTEM (ポストゲノム研究所)などが使用できる。細胞系での蛋白質合成は、細胞培養が必要であるため、操作が煩雑でバイオハザードの問題があることに加えて、合成蛋白質による培養細胞系の生育阻害の問題もある。これに対して無細胞蛋白質合成系には、(1)生細胞取扱い時に生じる全ての問題(細胞の培養の煩雑さ等)から開放される、(2)細胞にとって毒となる蛋白質も生産できる、(3)操作が比較的簡単で、短時間で目的蛋白質を得ることが出来るため、ハイスループット化が可能である、(4)簡単に非天然型アミノ酸の導入ができるので目的蛋白質の標識も容易である、という利点がある。
【0049】
5.合成ルシフェラーゼの精製
合成した変異型ホタルルシフェラーゼのdATP活性を測定する場合、その合成系からルシフェラーゼ蛋白質を精製する必要がある。特にその場合、各合成系に含まれているATP等のルシフェラーゼの基質となりうる成分を完全に取り除く必要がある。これらの成分を取り除き、ルシフェラーゼを回収するためには透析、限外ろ過、各種のカラムクロマトグラフィーなど既存の精製システムが利用できる。
合成したルシフェラーゼの量が少量(500ng程度)の場合、ルシフェラーゼ蛋白質にタグ配列を導入し、このタグ配列に対するアフィニティーを利用してルシフェラーゼを回収する方法が望ましい。例えば、無細胞蛋白質合成系であるPURE SYSTEMでルシフェラーゼを合成した場合、タグ配列としてStrep-tag配列(Trp-Ser-His-Pro-Gln-Phe-Glu-Lys:配列番号27)やFlag-tag配列(Asp-Tyr-Lys-Asp-Asp-Asp-Asp-Lys:配列番号28)などを導入すればルシフェラーゼを回収することが出来る。
【0050】
6.合成ルシフェラーゼの活性測定(活性評価方法)
合成蛋白質の活性測定には発光が検出できる既存のルミノメーターが利用できるが、試薬の自動分注機能が内蔵されている装置が望ましい。
変異型ホタルルシフェラーゼの活性測定における全体の流れ:
本発明における変異型ホタルルシフェラーゼの活性測定法を図2にまとめた。本方法は大きく分けて3つのステップからなり、ステップ1では変異型ホタルルシフェラーゼを(好ましくは無細胞蛋白質合成系で)合成する。ステップ2ではStrep-tagカラムを用いて合成ルシフェラーゼの精製を行い、合成反応溶液中に含まれる内在性のATPを完全に取り除く。ステップ3ではdATPとATPに対する合成ルシフェラーゼ活性を測定する。各ステップは連続しておこなうことができ、全工程をおよそ2時間半で行うことが可能である。従って安定性に乏しいルシフェラーゼの評価に非常に有効な方法である。本活性測定法については、以下の実施例でより具体的に記載する。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1:422アミノ酸変異型ルシフェラーゼの作製と活性測定
(1)ルシフェラーゼ遺伝子へのTag配列の導入
pURE2ベクター(ポストゲノム研究所)に野生型北米ホタルルシフェラーゼ遺伝子を挿入したpURE2 Lucベクターのルシフェラーゼ遺伝子のC末端にStrep-tag配列を導入した。
導入方法としてはinverse PCR法を用いた。環状テンプレートDNA(pURE2Lucベクター)上のタグ配列を導入したい部位(ルシフェラーゼのC末端部位)を基準に背中合わせになるように1組のプライマーを設計した。この時プライマーの5’末端には導入しようとするタグ配列をアンカー配列として付加した。この条件でPCR反応を行い、末端にアンカー配列を付加した直鎖状の2本鎖DNAを増幅した。この産物をセルフライゲーション反応で結合させる事により、望みの部位にアンカー配列(タグ配列)が導入された環状2本鎖DNAを獲得した。
【0052】
具体的には今回プライマーとしては下記のものを使用した。以下すべてのプライマーはSIGMA GENOSYS 社で合成したものを使用した。
Luc-cStrep IF: 5’-TCGAAAAATAAAAGCTTTAGCATAACCCCT-3’ (配列番号1)
Luc-cStrep IR: 5’-ACTGCGGGTGGCTCCACAATTTGGACTTTCCGCCC-3’(配列番号2)
下線部は導入したいStrep-tag配列をコードする塩基配列である。また、この塩基配列はSelf ligation反応が正確に行われると新たに制限酵素のBstBI配列(TTCGAA)が形成される。
【0053】
Inverse PCRの反応液にはテンプレートpURE2 Luc ベクターを20fmol、 Luc-cStrep IF primerとLuc-cStrep IR primerを各々15pmol、KOD-Plus Ver.2 polymerase(東洋紡)を2.5U、10xKOD bufferを5μL、25mM MgSO4を3μL、2.0mM 各dNTPsを5μL加え、全量が50μLになるように調製した。増幅反応は94℃で2 分間の反応後、98℃ 10秒、60℃ 30秒、68℃ 4分のサイクル反応を40回繰り返した後、68℃ で3分間反応させて行った。
【0054】
反応後の増幅産物の確認にはマイクロチップ電気泳動装置(日立化成)を用いた。目的DNA以外に余分なDNA鎖が増幅されていないことを確認して、残りのサンプル49μLにDpnI (20U/μL: NEB社) 1μLを加えて37℃で1時間反応させ、テンプレートのプラスミドを分解した。さらにその反応物はQIAquick PCR Purification Kit(キアゲン社)を用いて精製した。
【0055】
精製反応物5μLをT4 kinase (TaKaRa)1μLとLigation high液(東洋紡) 14μLと混合し、37℃で1 時間反応させた。さらにLigation high液15μLを加えた後、16℃で30分間反応させてSelf ligation反応を行った。
【0056】
Self ligation反応液5μLをコンピテントセルMAX Efficiency DH5α(Invitrogen)40μLと混合し、42℃ 40秒間のヒートショック反応を行い、大腸菌にトランスフォーメンションした。さらに反応液をLB-amp(LB BROTH BASE:Invitrogen、 agar:和光純薬、 ampicilin:SIGMA社)プレートに播種し、37℃で1晩インキュベーションし、大腸菌のコロニーを形成させた。幾つかのコロニーをピックアップし1.5mLのLB−amp mediumで1晩培養した。
【0057】
培養した大腸菌からPlasmid Mini Kit (キアゲン)を使用してプラスミドを精製した。精製したプラスミドの一部を制限酵素BstBIで処理してStrep-tagをコードするDNA配列が導入されていることを確認した。さらにプラスミドのルシフェラーゼ部分の全長シークエンス解析を行い、正確なStrep-tag DNA配列の導入とPCRエラーの有無を確認した。
【0058】
(2)変異型ルシフェラーゼ遺伝子を含む組換えベクターの作製
C末端にStrep-tag配列が結合した野生型北米ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むpURE2 Luc C-Strepベクターを鋳型にして、422番目のAspをコードする遺伝子がアラニン(Ala)、アスパラギン(Asn)、 セリン(Ser)に変化するように部位特異的にDNAの塩基配列を置換した。この置換にはインビトロジェン社のGeneTailor Site-Directed Mutagenesis Systemを用いてプロトコールに従い行った。変異導入用のプライマーには以下のものを使用した。また、変異導入後の各ベクターはシークエンス解析を行い、変異の導入とPCRエラーの有無を確認した。
Asp422-R: 5’-TCCAGAATGTAGCCATCCATCCTTGTCAATCA-3’(配列番号3)
Asp422Ala-F: 5’-ATGGATGGCTACATTCTGGAgcgATAGCTTACTGG-3’(配列番号4)
Asp422Asn-F: 5’-ATGGATGGCTACATTCTGGAaacATAGCTTACTGG-3’(配列番号5)
Asp422Ser-F: 5’-ATGGATGGCTACATTCTGGAagcATAGCTTACTGG-3’(配列番号6)
【0059】
(3)無細胞蛋白質合成系での変異型ルシフェラーゼの合成
各ベクターは無細胞蛋白質合成系であるPURE SYSTEM (ポストゲノム研究所)の鋳型として使用した。プロトコールに従い1pmolの各ベクターを鋳型にして32℃で1時間合成反応を行った。またこの合成反応には分子シャペロンであるDnaK、DnaJ、GrpE(ポストゲノム研究所)をそれぞれ終濃度が4、2、2μMになるように加えて行った。ルシフェラーゼの合成反応が正常に行われた事はウエスタンブロッティングで確認した。
【0060】
(4)合成ルシフェラーゼの活性測定
合成したルシフェラーゼのATP活性を測定した。測定には当研究室で開発した検出部にフォトダイオードを使用している小型遺伝子解析装置を使用した。
PURESYSTEM反応後の溶液5μLと1OmM ATP液 0.5μLおよび2xC buffer液(120mM Tricine、 4mM EDTA、 40mM Mg-acetate、 pH7.5)50μLを混合し、DWで全量を99μLに調製した後、小型遺伝子解析装置の反応漕に分注した。また、50mM Luciferin(SIGMA)溶液を装置のディスペンサーにセットし、1回の測定当たり1μLを反応漕に分注させることにより酵素反応を開始させ、各変異型ルシフェラーゼの発光を測定した。各測定でのルシフェラーゼ活性を比較する場合、発光強度(V)の最大値を用いた。
その結果、Asp422をAla、Asn、Serに置換したルシフェラーゼは全て発光強度が0.01(V)以下の検出ノイズレベルに低下し、ATPに対する活性を失っていた。従ってこの422番目のAspはルシフェラーゼの活性に必要不可欠なアミノ酸であることが判明した。
【0061】
実施例2:421アミノ酸変異型ルシフェラーゼの作製と活性測定
(1)変異型ルシフェラーゼ遺伝子を含む組換えベクターの作製
C末端にStrep-tag配列が結合した野生型北米ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むpURE2 Luc C-Strepベクターを鋳型にして、421番目のGlyをコードする遺伝子が他の19種類のアミノ酸に変化するように部位特異的にDNAの塩基配列を置換した。この置換にはインビトロジェン社のGeneTailor Site-Directed Mutagenesis Systemを用いてプロトコールに従い行った。使用した変異導入用のプライマー配列はそれぞれ以下の通りであった。また、変異導入後の各ベクターはシークエンス解析を行い変異の導入とPCRエラーの有無を確認した。
Gly421-R: 5’-AGAATGTAGCCATCCATCCTTGTCAATCAAGG-3’ (配列番号7)
Gly421Ala-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTgcgGACATAGCTTAC-3’ (配列番号8)
Gly421Arg-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTcgcGACATAGCTTAC-3’ (配列番号9)
Gly421Asn-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTaacGACATAGCTTAC-3’ (配列番号10)
Gly421Asp-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTgatGACATAGCTTAC-3’ (配列番号11)
Gly421Cys-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTtgcGACATAGCTTAC-3’ (配列番号12)
Gly421Gln-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTcagGACATAGCTTAC-3’ (配列番号13)
Gly421Glu-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTgagGACATAGCTTAC-3’ (配列番号14)
Gly421His-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTcatGACATAGCTTAC-3’ (配列番号15)
Gly421Ile-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTattGACATAGCTTAC-3’ (配列番号16)
Gly421Leu-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTctgGACATAGCTTAC-3’ (配列番号17)
Gly421Lys-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTaaaGACATAGCTTAC-3’ (配列番号18)
Gly421Met-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTatgGACATAGCTTAC-3’ (配列番号19)
Gly421Phe-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTtttGACATAGCTTAC-3’ (配列番号20)
Gly421Pro-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTccgGACATAGCTTAC-3’ (配列番号21)
Gly421Ser-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTagcGACATAGCTTAC-3’ (配列番号22)
Gly421Thr-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTaccGACATAGCTTAC-3’ (配列番号23)
Gly421Trp-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTtggGACATAGCTTAC-3’ (配列番号24)
Gly421Tyr-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTtatGACATAGCTTAC-3’ (配列番号25)
Gly421Val-F: 5’-AGGATGGATGGCTACATTCTgtgGACATAGCTTAC-3’ (配列番号26)
【0062】
(2)無細胞蛋白質合成系での変異型ルシフェラーゼの合成
各ベクターは無細胞蛋白質合成系であるPURE SYSTEM (ポストゲノム研究所)の鋳型として使用した。プロトコールに従い1pmolの各ベクターを鋳型にして32℃で1時間合成反応を行った。またこの合成反応には分子シャペロンであるDnaK、DnaJ、GrpE(ポストゲノム研究所)をそれぞれ終濃度が4、2、2μMになるように加えて行った。実施例1と同様に反応後の溶液5μL分のATP活性を測定した。
【0063】
(3)合成ルシフェラーゼの精製
PURESYSTEMで合成したStrep-tag配列付きの各ルシフェラーゼをStrep-tagアフィニティースピンカラムを用いて精製した。スピンカラムにはStrep-Tactin Spin Column (IBA社)を使用した。
はじめに、スピンカラムに付属のBufferW (100mM Tris/HCl pH8、 150mM NaCl、 1mM EDTA) 500μLをスピンカラムに加え、1800rmpで30秒間遠心してカラムを洗浄した。この操作はもう一度繰り返した。次にルシフェラーゼをカラムに結合させるために、合成したルシフェラーゼを含む容液(約45μL)をスピンカラムに加えて1800rpmで30秒間遠心した。さらに、結合量を上げるために、ろ液をもう1度同じスピンカラムに加えて、同様に遠心した。ろ液を捨てた後、カラムに付着している目的以外の産物を洗い落とすために、スピンカラムにBuffer Wを100μL加えて13000rpmで30秒間遠心した。この操作はさらに3回繰り返した。スピンカラムを別の新しいチューブの上に移し変えた後、カラムに結合したルシフェラーゼを溶出するために付属のBufferBE (100mM Tris-HCl pH8、 150mM NaCl、1mM EDTA、 2mM D-biotin)150μLを加えて1800rpmで30秒、13000rpmで15秒間遠心し、溶出したルシフェラーゼが含まれるろ液を回収した。同様にBufferBEを50μL加えて、もう一度この操作を行い、合計で約200μLのろ液を手に入れた。
【0064】
(4)合成ルシフェラーゼの活性測定
精製したろ液のルシフェラーゼ活性を測定するために測定溶液を調製した。ろ液80μLを2本のチューブに分取し,それぞれに10xC buffer液(600mM Tricine, 20mM EDTA, 200mM Mg-acetate, pH7.5)10μLと基質として100mMのATP 1μL(終濃度1mM)あるいは100mMのdATP 1μL(終濃度1mM) を加えて、DWで99μLに調製した後、小型遺伝子解析装置の反応漕に分注した。また、50mM Luciferin(SIGMA)溶液を装置のディスペンサーにセットし、1回の測定当たり1μLを反応漕に分注させることにより酵素反応を開始させ、各変異型ルシフェラーゼの発光を測定した。各測定でのルシフェラーゼ活性を比較する場合、発光強度の最大値を用いて比較した。
【0065】
図3はルシフェラーゼを合成後、精製し、ATPとdATPを基質にしてそれぞれ発光を測定した結果をグラフにしたものである。横軸は反応時間(秒)、縦軸は発光強度(V)を表している。例として(A)には野生型北米ホタルルシフェラーゼを(B)には変異型ルシフェラーゼ(Gly421Ser)を測定した結果を示している。野生型ルシフェラーゼに比べて変異型ルシフェラーゼ(Gly421Ser)では、明らかにdATP/ATP(%)の値が低下していることが見出された。この測定は421番目のアミノ酸の全ての変異型に関して行った。
【0066】
421番目のアミノ酸を置換した全ての変異型ルシフェラーゼの活性を表1にまとめた。番号1のGlyは野生型のホタルルシフェラーゼの値である。
【0067】
【表1】

【0068】
表1の「dATP/ATP(%)」はATP活性に対するdATP活性の比率であり、番号6 (Cys)から番号10 (Asp)のアミノ酸はdATP/ATP(%)の値が野生型の1/2以下で、1/3よりは高い値の変異アミノ酸であり、番号11(Ser)から番号16(Thr)はdATP/ATP(%)の値が野生型の1/3以下の変異アミノ酸である。番号17 (Trp)から番号20 (Pro)まではdATP/ATPの値が検出できなかったことを示している。
【0069】
表1の「ATP活性」はルシフェラーゼを合成した後、その粗合成液に含まれるルシフェラーゼのATP活性の値であり、野生型のGly421の活性を100とした時の比の値で示している。
【0070】
表1の「カテゴリー」とは上記「発明を実施するための最良の形態」に示した2種類の群を示し、ATPに対する活性の維持を重視した(a)のカテゴリーではGly421Serが最も望ましい形態であり、dATP/ATPの比率を重視した(b)のカテゴリーではGly421Asnが最も望ましい形態であった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の変異型ホタルルシフェラーゼを利用すれば、パイロシークエンス時にDNAポリメラーゼの基質として、dATPを使用することが可能となる。したがって、本発明は塩基配列の解析を必要とする医学、バイオライフサイエンス分野等において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】アミノ酸をその性質により分類した図である。
【図2】本発明のホタルルシフェラーゼの活性測定法の全体の流れを示した図である。
【図3】合成したホタルルシフェラーゼのATPとdATPに対する活性を測定したグラフである。(A)野生型ホタルルシフェラーゼ (B)変異型ホタルルシフェラーゼ(Gly421Ser)
【配列表フリーテキスト】
【0073】
配列番号1:プライマー(Luc-cStrep IF)
配列番号2:プライマー(Luc-cStrep IR)
配列番号3:プライマー(Asp422-R)
配列番号4:プライマー(Asp422Ala-F)
配列番号5:プライマー(Asp422Asn-F)
配列番号6:プライマー(Asp422Ser-F)
配列番号7:プライマー(Gly421-R)
配列番号8:プライマー(Gly421Ala-F)
配列番号9:プライマー(Gly421Arg-F)
配列番号10:プライマー(Gly421Asn-F)
配列番号11:プライマー(Gly421Asp-F)
配列番号12:プライマー(Gly421Cys-F)
配列番号13:プライマー(Gly421Gln-F)
配列番号14:プライマー(Gly421Glu-F)
配列番号15:プライマー(Gly421His-F)
配列番号16:プライマー(Gly421Ile-F)
配列番号17:プライマー(Gly421Leu-F)
配列番号18:プライマー(Gly421Lys-F)
配列番号19:プライマー(Gly421Met-F)
配列番号20:プライマー(Gly421Phe-F)
配列番号21:プライマー(Gly421Pro-F)
配列番号22:プライマー(Gly421Ser-F)
配列番号23:プライマー(Gly421Thr-F)
配列番号24:プライマー(Gly421Trp-F)
配列番号25:プライマー(Gly421Tyr-F)
配列番号26:プライマー(Gly421Val-F)
配列番号27:Strep-tag sequence
配列番号28:Flag-tag sequcne

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ATPに対する活性とdATPに対する活性の比率(dATP/ATP)が野生型ホタルルシフェラーゼに比べて低下していることを特徴とする変異型ホタルルシフェラーゼであって、ホモロジー解析により野生型北米ホタル(Photinus pyralis)ルシフェラーゼのアミノ酸配列の421位のグリシンに相当すると特定されるアミノ酸が極性アミノ酸に置換されていることを特徴とする変異型ホタルルシフェラーゼ。
【請求項2】
野生型北米ホタル(Photinus pyralis)ルシフェラーゼのアミノ酸配列の421位のグリシンが極性アミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の変異型ホタルルシフェラーゼ。
【請求項3】
野生型ゲンジボタル(Luciola cruciata)ルシフェラーゼ又は野生型ヘイケホタル(Luciola lateralis)ルシフェラーゼのアミノ酸配列の423位のグリシンが極性アミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の変異型ホタルルシフェラーゼ。
【請求項4】
野生型に比較して、ATPに対する活性とdATPに対する活性の比率(dATP/ATP)が1/2以下であり、かつATP活性が1/2以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の変異型ホタルルシフェラーゼ。
【請求項5】
前記極性アミノ酸がセリン、リジン、アスパラギン酸、及びヒスチジンから選ばれるいずれかである、請求項4に記載の変異型ホタルルシフェラーゼ。
【請求項6】
野生型に比較して、ATPに対する活性とdATPに対する活性の比率(dATP/ATP)が1/3以下であり、かつATP活性が1/2未満1/3以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の変異型ホタルルシフェラーゼ。
【請求項7】
前記極性アミノ酸がアルギニン又はアスパラギンである、請求項6に記載の変異型ホタルルシフェラーゼ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の変異型ホタルルシフェラーゼをコードする遺伝子。
【請求項9】
請求項8に記載の変異型ホタルルシフェラーゼをコードする遺伝子を含む組換えベクター。
【請求項10】
変異型ホタルルシフェラーゼの活性評価方法であって、
ATPに対する活性とdATPに対する活性の比率(dATP/ATP)が野生型ホタルルシフェラーゼに比べて低下している変異型ホタルルシフェラーゼを合成するステップと、
合成された変異型ホタルルシフェラーゼから内在性ATPを除去し、精製するステップと、
精製された変異型ホタルルシフェラーゼのATPとdATPに対する活性をそれぞれ測定するステップ、を含む方法。
【請求項11】
変異型ホタルルシフェラーゼを無細胞蛋白質合成系で合成する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
変異型ホタルルシフェラーゼが請求項1〜7のいずれか1項に記載の変異型ホタルルシフェラーゼである、請求項10または11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−77660(P2009−77660A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249669(P2007−249669)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】