説明

変速機のシフトフォーク

【課題】 スリーブ溝に摺動する爪部が耐摩耗性の高い変速機のシフトフォークを提供することである。
【解決手段】 本発明の変速機のシフトフォークは、フォークシャフト6の軸線方向一体移動可能にフォークシャフト6に固定するボス部11と、ボス部11から2つに分かれて延長形成される腕部12と、腕部12の端部にスリーブ3のスリーブ溝32に係合する爪部13とを有し、爪部13は、ボス部11から遠い位置で折り返しており、折り返し部分131を支点に軸線方向Xに弾性変形可能であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シフトフォークに関し、特にスリーブに係合する爪部を有するシフトフォークに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、常時噛合歯車式の変速機において、変速段を変えるためにシフトフォークが用いられる。変速段の変更は、シフトフォークに形成された爪部がシフトフォーク内周側に位置するスリーブの外周に形成されたスリーブ溝に係合しつつ、スリーブを軸線方向に移動させることで行われる。スリーブが移動して、スリーブと変速ギヤとが係合することで、変速段が変わる。
【0003】
スリーブが変速ギヤと係合する際、スリーブの回転に同期していない変速ギヤ(ギヤピース)にスリーブを押しつけるため、スリーブを押圧するシフトフォークとの係合部分、スリーブ溝と爪部との間は激しく摩擦される。そのため、爪部は耐摩耗性や焼き付き防止を考慮した素材が選択されている。しかし、シフトフォークは、軸線方向に移動するフォークシャフトに固定されたボス部からスリーブの外形に沿うように二叉に分かれた腕部を有する形状をしており、シフト荷重が加えられると、ボス部から腕部がたわむ。そのため、シフトフォークは、スリーブに対して傾き、腕部の先端部分に位置する爪部がスリーブ溝に接触する面積は実際は小さい。つまり、爪部に耐摩耗性や焼き付き防止を考慮した素材を選択し用いるだけでは十分ではない場合がある。
【0004】
特許文献1には、爪部にクラウニングを設け、エッジ応力を回避しながら接触長さを稼ぐ発明が開示されている。特許文献2には、シフトフォークのたわみを考慮し、爪部の形状をあらかじめテーパー形状とする発明が開示されている。特許文献3及び特許文献4には、爪部を回転可動な別部材とし、シフトフォークの先端部分に係合する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−173415号公報
【特許文献2】特開2002−310298号公報
【特許文献3】特開昭59−169623号公報
【特許文献4】特開2010−133485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1の発明では、爪部がスリーブ溝と摺動する面の弾性変形によるところが大きく、実施の摺動面の面積が向上する率は低いと考えられる。そして、特許文献2の発明では、常に一定のシフト荷重とは限らないため、限定された傾きのテーパー形状では想定以外の荷重に対しては、面で接触することが出来ないかあるいは爪部の弾性変形に頼ることとなる。更に、特許文献3及び4では、別部材を取り付ける部分のがたにより首振りを起こし、他の課題が発生する可能性がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、スリーブ溝に摺動する爪部が耐摩耗性の高い変速機のシフトフォークを提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための請求項1に係る発明の構成上の特徴は、フォークシャフトの軸線方向一体移動可能に前記フォークシャフトに固定するボス部と、前記ボス部から2つに分かれて延長形成される腕部と、前記腕部の端部にスリーブのスリーブ溝に係合する爪部とを有する変速機のシフトフォークにおいて、
前記爪部は、前記ボス部から遠い位置で折り返しており、折り返し部分を支点に前記軸線方向に弾性変形可能であることである。
【0009】
また請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記爪部は、前記折り返し部分から折り返した先端部分と前記腕部との間に所定間隔を有することである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明においては、爪部がシフトフォークが固定されるボス部から遠い位置で折り返しており、折り返し部分を支点として軸線方向に弾性変形することができるため、シフト荷重によるたわみは折り返し部分で相殺される。そして、爪部はスリーブのスリーブ溝の側面に対して平行を保つように弾性変形することができるため、スリーブ溝の側面との接触する面積を確保でき、耐摩耗性が向上する。
【0011】
請求項2に係る発明においては、爪部が折り返し部分を支点として軸線方向に弾性変形する際、先端部分と腕部との間に所定間隔を有することで、爪部が腕部に接触しにくく、十分に弾性変形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態1のシフトフォークを含む変速機構の一例を示す説明図である。
【図2】本実施形態1のシフトフォーク1の構成を示す説明図である。
【図3】スリーブ3及び図2のA−A断面図である。
【図4】スリーブ3及び図2のA−A断面図である。
【図5】図4を模式的に表した説明図である。
【図6】本変形形態1のシフトフォーク1の構成を示す説明図である。
【図7】本実施形態2のシフトフォーク8の構成を示す説明図である。
【図8】スリーブ3及び図7のB−B断面図である。
【図9】本変形形態2のシフトフォーク8の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の代表的な実施形態を図1〜図9を参照して説明する。
【0014】
(実施形態1)
本実施形態1に係る変速機のシフトフォーク(以下、単に「シフトフォーク」と称する。)1は、図1に示されるように、車両に搭載される変速機の変速機構に用いられる。変速機構は、クラッチハブ2、スリーブ3、変速ギヤ4、シンクロナイザリング5、シフトフォーク1、及びフォークシャフト6を有する。
【0015】
クラッチハブ2は、回転軸(図示略)と一体回転し、外周に外歯21が形成されている。スリーブ3は、円筒状の部材でクラッチハブ2の外周に回転軸の軸線方向Xに摺動可能に位置し、内周にクラッチハブ2の外歯21とスプライン嵌合する内歯31が形成されている。スリーブ3の外周には、後述するシフトフォーク1の爪部13が係合するスリーブ溝32が全周に形成されている。
【0016】
変速ギヤ4は、ベアリング(図示略)を介して回転軸に遊転自在に軸支されており、回転軸の軸線方向Xにクラッチハブ2を挟んで2つ配置されている。それぞれの変速ギヤ4の外周には外歯41が形成されており、回転軸に平行に配置される別の回転軸(図示略)に一体回転可能に軸支されるギヤ(図示略)と常時噛合する。そして、それぞれの変速ギヤ4とクラッチハブ2との間には、ギヤピース7とシンクロナイザリング5とが配置されている。ギヤピース7は、変速ギヤ4と一体回転し、外周にスリーブ3の内歯31にスプライン嵌合できる外歯71と、クラッチハブ2側へテーパー状に突出する外周コーン面72とが形成されている。シンクロナイザリング5は、ギヤピース7とクラッチハブ2との間に位置し、スリーブ3の内歯31にスプライン嵌合する外歯51が外周に形成されており、ギヤピース7の外周コーン面72に摩擦係合可能な内周コーン面52が内周に形成されている。
【0017】
スリーブ3は、軸線方向Xでクラッチハブ2のどちらか一方の変速ギヤ4側に摺動移動し、シンクロナイザリング5、ギヤピース7と順にスプライン嵌合する。結果、回転軸に対して遊転していた変速ギヤ4が回転軸と一体回転し、変速機構は変速ギヤの切り替えが完了する。変速機は、エンジンやモータから出力された回転動力を、スリーブ3によって回転軸と一体回転する変速ギヤ4及び常時噛合ギヤによって決まる変速比で変換し、駆動輪へと伝達する。
【0018】
スリーブ3の軸線方向Xへの摺動移動は、スリーブ3と係合しているシフトフォーク1がスリーブ3を軸線方向Xに押圧することで行われる。シフトフォーク1は、図2に示されるように、フォークシャフト6に外嵌するボス部11と、ボス部11から二つに分かれて延長形成される腕部12とを有する。シフトフォーク1には、分離形成されている腕部12の先端に、スリーブ3のスリーブ溝32と係合する爪部13が形成されている。
【0019】
爪部13は、ボス部11から遠い腕部12の先端で腕部12と接合しており、腕部12より内周側に折り返して形成されている。爪部13は、折り返し部分131を支点に、フォークシャフト6の軸線方向Xに弾性変形可能である。爪部13は、周方向において、腕部12と折り返し部分131以外は接合しておらず、折り返し部分131とは逆の先端に向かって、腕部12との間に隙間d1がある。この隙間d1は必ずしも必要ではない。また、爪部13は、折り返し部分131が腕部12と一体形成されており、スリーブ溝32と摩擦係合する側面132を中心に、折り返し部分131以外が摩擦に強い別部材で構成されている。
【0020】
(作用効果)
本実施形態1のシフトフォーク1は、スリーブ3の両側に位置する変速ギヤ4のどちらにも係合していない場合、図3に示されるように、軸線方向Xに対して全体が垂直である。シフトフォーク1の爪部13の側面132は、スリーブ溝32の内側面321に対して、略平行に位置する。そこで、例えば、フォークシャフト6が、図4に示すように、軸線方向Xの一方(図4において左側)に移動した場合、フォークシャフト6にボス部11が外嵌しているシフトフォーク1も同じ方向に移動する。このとき、腕部12は図4及び図5に示されるように、軸線方向Xに対して垂直ではなく、傾斜し、たわんでいる。そして、爪部13は、側面132が軸線方向Xに対して垂直であり、スリーブ溝32の内側面321を面全体で押圧する。つまり、爪部13は、折り返し部分131を支点に、腕部12に対して軸線方向Xで弾性変形する。スリーブ3を軸線方向Xに摺動移動させるためのシフト荷重は、図2の伝達線Tに示されるように、フォークシャフト6からシフトフォーク1のボス部11、腕部12と伝達し、腕部12から爪部13の折り返し部131を経由して、爪部13全体に伝達される。なお、折り返し部分131の剛性は、腕部12の剛性と爪部13の剛性との比を変えることで、シフトフォーク1に加えられるシフト荷重を考慮して調節することができる。
【0021】
本実施形態1のシフトフォーク1によれば、爪部13がボス部11から遠い位置で折り返しており、折り返し部分131を支点として軸線方向Xに弾性変形することができるため、シフト荷重によるたわみは折り返し部分131で相殺される。そして、爪部13の側面132は、スリーブ3のスリーブ溝32の内側面321と平行を保ち、内側面321を側面132の面全体で押圧することができるため、摩耗しにくい。よって、本実施形態1のシフトフォーク1は耐摩耗性が高い。
【0022】
(変形形態1)
本変形形態1のシフトフォーク1は、実施形態1のシフトフォーク1と基本的に同様の構成及び作用効果を有する。以下、異なる構成及び作用効果を中心に説明する。
【0023】
本変形形態1のシフトフォーク1は、図5に示されるように、折り返し部分131を含め、爪部13全体が腕部12とは別部材であり、腕部12の先端とは一体形成されていない。爪部13は、腕部12の先端が径方向に窪んでおり、折り返し部分131を嵌合させたり、折り返し部分131を腕部12の先端に溶接したり、などにより取り付けることができる。
【0024】
(実施形態2)
本実施形態2のシフトフォーク8は、実施形態1のシフトフォーク1と基本的に同様の構成及び作用効果を有する。以下、異なる構成及び作用効果を中心に説明する。
【0025】
本実施形態2のシフトフォーク8は、図7及び8に示されるように、フォークシャフト6に外嵌するボス部81と、腕部82と、爪部83とを有する。爪部83は、ボス部81から遠い腕部82の先端で腕部82と接合しており、腕部82から軸線方向Xで外側に折り返して形成されている。爪部83は、腕部82の一方において、軸線方向Xに対して、別々に分離して折り返している。爪部83は、折り返し部分831から先端に向かって、軸線方向Xで腕部82との間に隙間d2がある。そして、爪部83は、折り返し部分831が腕部82と一体形成されており、スリーブ溝32と摩擦係合する側面832を中心に、折り返し部分831以外が摩擦に強い別部材で構成されている。
【0026】
(作用効果)
本実施形態2のシフトフォーク8は、軸線方向Xの一方に移動し、爪部83の側面832がスリーブ3のスリーブ溝32の一方の内側面321を押圧する際、腕部82は軸線方向Xに対して、傾斜し、たわむ。そして、爪部83は折り返し部分831を支点に、腕部12に対して軸線方向Xに弾性変形し、側面832がスリーブ溝32の内側面321と平行になる。つまり、側面832全体でスリーブ溝32の内側面321を押圧することができる。
【0027】
本実施形態2のシフトフォーク8によれば、爪部83がボス部81から遠い位置で折り返しており、折り返し部分831を支点として軸線方向Xに弾性変形することができるため、シフト荷重によるたわみが折り返し部分831で相殺される。そして、爪部83の側面832は、スリーブ溝32の内側面321と平行になるため、内側面321を側面832の面全体で押圧でき、摩耗しにくい。よって、本実施形態2のシフトフォーク8は耐摩耗性が高い。
【0028】
本実施形態2のシフトフォーク8は、実施形態1のシフトフォーク1に対して、爪部83の折り返す方向が異なる。実施形態1のシフトフォーク1は径方向に折り返しており、実施形態2のシフトフォーク8は軸線方向Xに折り返している。実施形態2のシフトフォーク8の場合、腕部82との間の隙間d2が重要であり、隙間d2の間隔分、爪部83が軸線方向Xに弾性変形できる。一方、実施形態1のシフトフォーク1は、径方向に折り返しているため、軸線方向Xに対して爪部13は腕部12との隙間はなく、径方向における隙間d1は必ずしも設ける必要はない。シフトフォーク1は、シフトフォーク2に比べて、爪部13が軸線方向Xで弾性変形できる幅を大きく取りやすい。一方、実施形態2のシフトフォーク8は、想定されるシフト荷重を超える荷重が加えられた際は、爪部83が隙間d2がなくなるほど弾性変形すると、爪部83の側面832がスリーブ溝32の内側面321と平行を保てなくなる場合がある。しかし、腕部82も含めて、スリーブ3を押圧することができるため、実施形態1のシフトフォーク1に比べて破損に強いと考えられる。
【0029】
(変形形態2)
本変形形態2のシフトフォーク8は、実施形態2のシフトフォーク8と基本的に同様の構成及び作用効果を有する。以下、異なる構成及び作用効果を中心に説明する。
【0030】
本変形形態2のシフトフォーク8は、図9に示されるように、折り返し部分831を含めて、爪部83全体が腕部82とは別部材であり、腕部82の先端と一体形成されていない。
【符号の説明】
【0031】
1,8:シフトフォーク、
11,81:ボス部、 12,82:腕部、
13,83:爪部、 131,831:折り返し部分 132,832:側面、
2:クラッチハブ、 21:外歯、
3:スリーブ、 31:内歯、 32:スリーブ溝、
321:内側面、
4:変速ギヤ、 41:外歯、
5:シンクロナイザリング、 51:外歯、 52:内周コーン面、
6:フォークシャフト、
7:ギヤピース、 71:外歯、 72:外周コーン面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォークシャフトの軸線方向一体移動可能に前記フォークシャフトに固定するボス部と、前記ボス部から2つに分かれて延長形成される腕部と、前記腕部の端部にスリーブのスリーブ溝に係合する爪部とを有する変速機のシフトフォークにおいて、
前記爪部は、前記ボス部から遠い位置で折り返しており、折り返し部分を支点に前記軸線方向に弾性変形可能であることを特徴とする変速機のシフトフォーク。
【請求項2】
前記爪部は、前記折り返し部分から折り返した先端部分と前記腕部との間に所定間隔を有する請求項1に記載の変速機のシフトフォーク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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